JP5513254B2 - 低温用厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、低温環境下における耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板およびその製造方法に関する。なお、低温用とは、−60℃以下の低温領域、とりわけ−165℃以下の低温環境での用途を意味する。換言すれば、LPG(Liquefied Petroleum Gas)やLNG(Liquefied Natural Gas)などの液化ガスを低温域で貯蔵する用途にも十分に耐えられることを意味する。また、厚鋼板とは、板厚3mm以上の厚みを有する鋼板、とりわけ5〜50mmの厚みを有する鋼板を意味する。
LPGやLNGなどの液化ガスを低温域で貯蔵するための貯蔵タンクを主な用途とする低温用厚肉鋼板としては、半世紀に亘り9%Ni鋼が用いられてきた。しかしながら、最近のLNG貯槽に対するコスト意識の高まりから、今後ますます経済的競争力の重要度が増している。
非特許文献1には、使用材料の経済性を考慮して、9%Ni鋼と同等の性能を維持しつつNi量を削減したNi低減型の鋼材が提案されている。
また、特許文献1には、LNG温度(−165℃)での使用を前提とし、9%Ni鋼に対しNi含有量を減少させた鋼が提案されている。これは、アレスト性および溶接部のCTOD特性が優れた低温用鋼であり、Ni含有量を1.5〜9.0%と規定し、広い範囲のNi含有量を許容するものである。しかし、各特性(引張強度TS、延性脆性破面遷移温度vTs、溶接継ぎ手FL部限界CTOD値)の目標値をNi含有量毎に定め、それぞれの目標値を満足させようとしているだけである。したがって、特許文献1には、9%Ni鋼と同等の性能を維持しつつNi量を削減したNi低減型の鋼材が記載されているとは言い難い。
特開2002-129280号公報
川畑,藤原,有持,廣瀬:日本高圧力技術協会秋季講演会概要集(2005),pp.12-13.
あらゆる構造物において、脆性破壊による崩壊は瞬時に構造物全体が崩壊し甚大な被害が想定されることから、絶対に避けるべき破壊形態である。したがって、貯蔵タンク等の建造物は脆性破壊の発生を避ける設計がなされるものの、設計を上回る外力の作用や施工に起因する欠陥など、設計者の想定外の異常事態に起因して脆性破壊が発生してしまう場合も考慮する必要がある。
したがって、世界各国において、脆性破壊発生を防止するための設計基準が規定されている。日本では、日本溶接協会規格(WES)があり、ここでは「溶接継手の脆性破壊発生及び疲労き裂進展に対する欠陥の評価方法」(WES2805)が定められている。
このWES2805は、構造物中の欠陥を小さく制御することにより材料の保有する破壊靭性値を上回る破壊駆動力が発生しないという論旨に基づいている。このときの破壊駆動力はデザインカーブといわれるモノグラフを利用し構造物に作用する歪から求められる。ここで作用する歪は降伏を伴うほどの外力の大きさを前提とすれば、当然材料の降伏点によって大きく変化するものである。つまり、材料の降伏点が高ければ歪は極めて小さく留まり、材料の使用温度下での降伏点は高ければ高いほど破壊が起こりにくいことになる。しかしながら、通常、規格で定められている降伏点には規定値が存在し、鋼材の供給者はその範囲の中で製造を行うものであることから、このような破壊評価を行う場合には、安全側の評価として降伏点を下限値として想定する必要がある。
しかしながら、規格で定められている規定値は常温での引張特性を示すものであり、低温環境下で使用される鋼材についての使用環境で規定しているものではない。よって、ある鋼材がある種の特性を常温下で示したとしても、実際の低温環境下では必ずしも同じ特性を示すとは限らない。
すなわち、低温環境下で脆性破壊を防止することができる鋼板の開発においては、常温で降伏点が規格値(590MPa以上)を満足することに加えて、低温環境下で高靭性を示すことが求められる。換言すれば、常温で降伏点が規格値(590MPa以上)を満足することに加えて、耐破壊安全性に優れることが求められる。
本願発明は、このような要求に応えるものであって、低温環境下でも9%Ni鋼並みの耐破壊安全性に優れたNi低減型の低温用厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは、実際に低温環境下で使用される常温の引張強さが690〜830MPaであるマルテンサイト鋼を意識し、開発に着手した。
この高強度鋼の低温での降伏点を上昇させるための技術ポイントを種々調査したところ、以下に示す(a)〜(d)の知見を得た。
(a) 使用温度である低温環境下での降伏点を確実に高めることができれば、破壊安全性を向上させること、すなわち低温環境下で高い靭性を得ることができると考えられる。
(b) ミクロ的観点からは、金属材料の降伏現象は組織中への転位の増殖過程が深く関わっていることは良く知られている。平たく言うと転位が増殖しやすい組織は降伏点が低く、増殖しにくい組織は降伏点が高い。低温下では、熱的に活性度が低い状態であり、降伏点は一般に高くなる。また、転位の増殖を妨害するものを組織中に導入することができれば、降伏点を上昇させることができる。これは例えば微小な析出物を組織中に分散させることであるとか、粒界の頻度を増やすことで転位の運動を妨げることである。析出物を多数分散させると降伏点は上昇するが、靭性に及ぼす悪影響が顕著であり、不適である。そこで、粒界頻度を増加させる必要がある。
(c) 組織を微細化したとき、降伏点は温度に拠らず上昇する。そして、低温環境下で高い靭性を示すために、すなわち、破壊安全性に優れるために、組織的な観点からは、Ni低減型の厚鋼板の表面から1/4の板厚部分、すなわち板厚(1/4)t位置で残留γが3.0体積%以上存在することと、板厚(1/4)t位置で平均有効結晶粒径が5.5μm以下であることを必要とすることが分かった。
一方、降伏点の観点からは、Ni低減型の厚鋼板の常温での降伏点と低温での降伏点を比較したところ、常温の降伏点に対して低温環境下での降伏点の比が大きいと、低温環境下で高い靭性を示す厚鋼板が得られること、すなわち、破壊安全性に優れる厚鋼板が得られることを見出した。
具体的には、次の(1)式で示される値が1.3以上である場合に、LNG貯槽温度(−165℃)よりもさらに低温である液体窒素温度(−195℃)において、十分な低温靭性が確保できることが分かった。
σy,−165℃/σy,RT ・・・・・・(1)式
ここで、σy,−165℃は−165℃における降伏強度[MPa]を、そして、σy,RTは常温における降伏強度[MPa]を、それぞれ表す。
(d) 次に、このような低温強度の増加が大きい金属組織を有する鋼の製造方法としては、格別に限定されるものではないが、その際、加熱条件〜焼戻条件を適切にコントロールするのが好ましい。
特に、加熱工程では、鋼塊を低温加熱することが好ましく、また加熱時間も短い方が好ましい。これは、温度が低温である場合には、鋼塊の金属組織の粗大化を招くことなく、長時間の加熱を許容することができるからである。
発明者らはこの加熱温度Tr(℃)と加熱時間t(hr)の望ましい範囲を規定するために、種々実験を行った結果、次の(2)式〜(4)式を導くことができた。
t×exp(Tr/270000000)≦580 ・・・・・・・・・・(2)式
Ac点≦Tr ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)式
OS≦[Tr+50] ・・・・・・・・・・・・・(4)式
ここで、Trは鋼塊の加熱温度(℃)を、tは鋼塊の加熱時間(hr)を、Ac点はフェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度を、そしてTOSは鋼塊の最高到達温度(℃)を、それぞれ表す。
これらの(2)式〜(4)式に従えば、加熱温度を低く、または加熱炉の占有時間を短くするような制御が可能であるので、製造コストの低下を見込むことができる。なお、加熱温度の低下、あるいは加熱時間の短時間化は、温室効果ガス排出抑制の観点からも重要である。この(2)式〜(4)式を満足することに加えて、加熱炉での鋼塊の加熱温度は1000℃以下で行うことがより好ましい。
また、焼入工程では、焼入れ熱処理後の冷却速度RH(℃/s)が次の(5)式を満足するように焼入れを行う。
RH≧3 ・・・・・・・・・・(5)式
このような焼入れを行うことで、圧延後の冷却時の結晶粒の粗大化を防ぐことができ、その後の熱処理でも前組織の引継ぎにより微細な有効結晶粒径を持つ組織が期待できる。
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、下記の(1)〜(4)の低温用厚鋼板および(5)〜(6)の低温用厚鋼板の製造方法をその要旨とする。
(1) 質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.01〜0.3%、Mn:0.4〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Ni:5.0%を超え8.0%未満、Al:0.002〜0.08%、N:0.0050%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、常温での降伏強度が590MPa以上であるマルテンサイト組織を主体とする厚鋼板であって、板厚(1/4)t位置での残留γ量が3.0体積%以上であり、かつ平均有効結晶粒径が5.5μm以下であり、次の(1)式で示される値が1.3以上であることを特徴とする耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板。
σy,−165℃/σy,RT ・・・・・・(1)式
ここで、σy,−165℃は−165℃における降伏強度[MPa]を、そして、σy,RTは常温における降伏強度[MPa]を、それぞれ表す。
(2) Feの一部に代えて、質量%で、Cu:2.0%以下、Cr:1.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下およびB:0.005%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)の耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板。
(3) Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.1%以下およびTi:0.1%以下のうちの1種又は2種を含有することを特徴とする、上記(1)または(2)の耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板。
(4) Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.004%以下、Mg:0.002%以下およびREM:0.002%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載された化学組成を有する鋼塊に、下記の工程を施すことを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板の製造方法。
[工程1]鋼塊の加熱温度Tr(℃)と加熱時間t(hr)が、次の(2)式〜(4)式を満足するように鋼塊を加熱する工程。
t×exp(Tr/270000000)≦580 ・・・・・・・・(2)式
Ac点≦Tr ・・・・・・・・・・(3)式
OS≦[Tr+50] ・・・・・・・・・・・・・(4)式
ここで、Trは鋼塊の加熱温度(℃)を、tは鋼塊の加熱時間(hr)を、Ac点はフェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度を、そしてTOSは鋼塊の最高到達温度(℃)を、それぞれ表す。
[工程2]加熱した鋼塊を圧延し、650℃以上かつ850℃以下の仕上温度にて圧延を終了する工程。
[工程3]圧延後の厚鋼板を焼入温度まで冷却する工程。
[工程4]Ac以上かつAc以下の温度から、次の(5)式を満足する冷却速度RH(℃/s)によって焼入する工程。
RH≧3・・・・・・・・・(5)式
[工程5][Ac点+80℃]以下の温度で焼戻す工程。
(6) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載された化学組成を有する鋼塊に、下記の工程を施すことを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板の製造方法。
[工程1]鋼塊の加熱温度Tr(℃)と加熱時間t(hr)が、次の(2)式〜(4)式を満足するように鋼塊を加熱する工程。
t×exp(Tr/270000000)≦580 ・・・・・・・・・・(2)式
Ac点≦Tr ・・・・・・・・・・(3)式
OS≦[Tr+50] ・・・・・・・・・・・・・(4)式
ここで、Trは鋼塊の加熱温度(℃)を、tは鋼塊の加熱時間(hr)を、Ac点はフェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度を、そしてTOSは鋼塊の最高到達温度(℃)を、それぞれ表す。
[工程2]加熱した鋼塊を圧延し、650℃以上かつ850℃以下の仕上温度にて圧延を終了する工程。
[工程3’]圧延後の厚鋼板を焼入温度以下まで冷却し、その後、厚鋼板を焼入温度まで再加熱する工程。
[工程4]Ac以上かつAc以下の温度から、次の(5)式を満足する冷却速度RH(℃/s)によって焼入する工程。
RH≧3・・・・・・・・・(5)式
[工程5][Ac点+80℃]以下の温度で焼戻す工程。
低温環境下でも9%Ni鋼並みの耐破壊安全性に優れたNi低減型の低温用厚鋼板およびその製造方法を提供することができる。Ni含有量を低くすることができるので低コストでの厚鋼板提供が可能になる。
鋼材の供給者は、脆性破壊発生防止の設計基準の規格の関係で降伏点の規定値の範囲内で製造を行うことから、常温での降伏強度が590MPa以上である鋼板を前提とした。
以下に、本発明にかかる低温用厚鋼板とその製造方法に関して、その要件毎に詳細に説明する。なお、含有量に関する「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
A.化学組成に関して
C:0.01〜0.12%
Cは、母材の強度確保のために必要な元素である。その含有量が0.01%未満では必要な強度が確保できないだけでなく、FL(Fusion Line)でのラス形成が不十分になってFL近傍のHAZ(Heat Affected Zone)の靭性も低下するので、Cを0.01%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が0.12%を超えると、HAZ、なかでもFL近傍のHAZの靭性劣化が著しくなる。したがって、Cの含有量は0.01〜0.12%とする。なお、Cの含有量の好ましい範囲は0.03〜0.09%である。
Si:0.01〜0.3%
Siは、脱酸剤として必要な元素である。この効果を得るにはSiを0.01%以上含有させる必要がある。一方、本発明鋼の場合、Siは焼入れままマルテンサイトの焼戻し過程と大いに関連があり、Siの含有量が0.3%を超えると、溶接冷却過程において過飽和に固溶しているマルテンサイト中からのセメンタイトへの分解析出反応を抑制して自己焼戻し(Self-tempering)を遅延させることによって、あるいは島状マルテンサイトを増加させることによって、溶接部の靭性を低下させる。よって、Si含有量は0.01〜0.3%とする。なお、溶接部の靭性向上の観点からは、Si含有量はできるだけ少ない方がよく、好ましい範囲は0.02〜0.15%、より好ましい範囲は0.03〜0.10%である。
Mn:0.4〜2.0%
Mnは、脱酸剤として、また、母材の強度と靭性確保およびHAZの焼入性確保のために必要な元素である。Mnの含有量が0.4%未満ではこれらの効果が得られないだけでなく、HAZにフェライトサイドプレートが生成してラス形成が不十分になり、溶接部の靭性が低下するので、Mnの含有量は0.4%以上とする。一方、Mnの含有量が2.0%を超えると、中心偏析による板厚方向での母材特性の不均一をもたらす。よって、Mnの含有量は0.4〜2.0%とする。なお、好ましい範囲は0.5〜1.5%、より好ましい範囲は0.6〜1.1%である。
P:0.05%以下
Pは、不純物として鋼中に存在し、粒界に偏析して靭性を低下させる原因となる。Pの含有量が0.05%を超えると、溶接時に高温割れを招くため、Pの含有量を0.05%以下とする。なお、Pの含有量はできるだけ小さくするのがよく、Pの好ましい含有量は0.03%以下である。
S:0.008%以下
Sは、不純物として鋼中に存在し、多すぎると中心偏析を助長したり、脆性破壊の原因となる延伸形状のMnSが多量に生成したりする原因となる。Sの含有量が0.008%以下を超えると、母材およびHAZの機械的性質が劣化する。Sの含有量はできるだけ小さくするのがよいため、下限は特に規定しない。なお、Sの好ましい含有量は0.003%以下である。
Ni:5.0%を超え8.0%未満
Niは低温用鋼として靭性を確保するために必要な最も基本的な元素である。低温用鋼として靭性を確保するためには5.0%を超えるNiの含有量が必要である。Niの含有量が多ければ多いほど高い低温靭性が得られるが、その分コストアップの要因となるので、Niの含有量の上限は8.0%未満とする。したがって、Niの含有量のターゲットは5.0%を超え8.0%未満とする。なお、低温靭性の確保およびコスト抑制の観点から、Ni含有量の好ましい範囲は5.5%を超え8.0%未満であり、より好ましい範囲は6.0%を超え8.0%未満である。
Al:0.002〜0.08%
Alは、一般的には脱酸剤として含有させる元素であるが、本発明鋼の場合には、Siと同様に、マルテンサイトの自己焼戻し(Self-tempering)を遅延させる働きを有するため、Alの含有量はできるだけ少ない方が望ましい。しかしながら、Alの含有量が0.002%未満では十分な脱酸効果が得られない。一方、Alの含有量が0.08%を超えて過剰になると、前述したSiと同様に、溶接冷却過程において過飽和にCを固溶したマルテンサイトからのセメンタイトへの分解析出反応を抑制し、溶接部の靭性を低下させる。したがって、Alの含有量は0.002〜0.08%とする。なお、Alの含有量の好ましい範囲は0.005〜0.04%である。
N:0.005%以下
Nは、不純物として鋼中に存在し、固溶Nの増加や析出物の生成を通してHAZ靭性の悪化の原因となるので、HAZ靭性の確保のためにはNの含有量は低い方がよい。Nの含有量が0.005%を超えるとHAZ靭性の悪化が顕著になるため、Nの含有量を0.005%以下とする。なお、Nの好ましい含有量は0.004%以下である。
本発明に係る低温用厚鋼板は、上記の成分のほか、残部がFeと不純物からなるものである。ここで、不純物とは、低温用厚鋼板を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明に係る低温用厚鋼板は、上記の成分の外に、Cu、Cr、Mo、V、B、Nb、Ti、Ca、MgおよびREMうちの1種または2種以上をさらに含有してもよい。
Cu:2.0%以下
Cuは、必要に応じて含有させることができる。Cuを含有させると、母材の強度を向上させることができる。しかしながら、この含有量が2.0%を超えると、Ac点以下の温度に加熱されたHAZの靭性を劣化させるので、Cuの含有量を2.0%以下とする。なお、Cuによる母材の強度向上効果を安定的に発現させるためには、Cuを0.1%以上含有させることが好ましい。より好ましいCuの含有量の範囲は、0.2〜1.3%である。
Cr:1.5%以下
Crは、必要に応じて含有させることができる。Crを含有させると、耐炭酸ガス腐食性と焼入性を向上させることができる。しかしながら、この含有量が1.5%を超えると、HAZの硬化の抑制が難しくなるだけでなく、耐炭酸ガス腐食性向上効果が飽和するので、Crの含有量を1.5%以下とする。なお、Crによる耐炭酸ガス腐食性と焼入性の向上効果を安定的に発現させるためには、Crを0.05%以上含有させることが好ましい。より好ましいCrの含有量の範囲は、0.1〜1.0%である。
Mo:0.5%以下
Moは、必要に応じて含有させることができる。Moを含有させると、母材の強度と靱性を向上させる効果がある。しかしながら、この含有量が0.5%を超えると、HAZの硬度が高まり、靱性と耐SSC性を損なうので、Moの含有量を0.5%以下とする。なお、Moによる母材の強度と靱性を向上させる効果を安定的に発現させるためには、Moを0.02%以上含有させることが好ましい。より好ましいMoの含有量の範囲は、0.05〜0.3%である。
V:0.1%以下
Vは、必要に応じて含有させることができる。Vを含有させると、主に焼戻し時の炭窒化物析出により母材の強度を向上させる効果がある。しかしながら、この含有量が0.1%を超えると、母材強度の性能向上効果が飽和し、靱性劣化を招くので、Vの含有量を0.1%以下とする。なお、Vによる母材の強度を向上させる効果を安定的に発現させるためには、Vを0.015%以上含有させることが好ましい。より好ましいVの含有量の範囲は、0.02〜0.08%である。
B:0.005%以下
Bは、必要に応じて含有させることができる。Bを含有させると母材の強度を向上させる効果がある。しかしながら、この含有量が0.005%を超えると、粗大な硼化合物の析出を招いて靭性を劣化させるので、Bの含有量を0.005%以下とする。なお、Bによる母材の強度を向上させる効果を安定的に発現させるためには、Bを0.0003%以上含有させることが好ましい。より好ましいBの含有量の範囲は、0.001〜0.004%である。
Nb:0.1%以下
Nbは、必要に応じて含有させることができる。Nbを含有させると、組織を微細化して低温靭性を向上させる効果がある。しかしながら、この含有量が0.1%を超えると、粗大な炭化物や窒化物を形成し、靭性を低下させるので、Nbの含有量を0.1%以下とする。なお、Nbによる低温靭性を向上させる効果を安定的に発現させるためには、Nbを0.01%以上含有させることが好ましい。より好ましいNbの含有量の範囲は、0.02〜0.08%である。
Ti:0.1%以下
Tiは、必要に応じて含有させることができる。Tiを含有させると、主に脱酸元素として利用するが、Al,Ti,Mnからなる酸化物相を形成させ組織を微細化する効果がある。しかしながら、この含有量が0.1%を超えると、形成される酸化物がTi酸化物、あるいはTi−Al酸化物となって分散密度が低下し、特に小入熱溶接部熱影響部における組織を微細化する能力が失われるので、Tiの含有量を0.1%以下とする。なお、Tiによる組織を微細化する効果を安定的に発現させるためには、Tiを0.02%以上含有させることが好ましい。より好ましいTiの含有量の範囲は、0.03〜0.07%である。
Ca:0.004%以下
Caは、必要に応じて含有させることができる。Caを含有させると、鋼中のSと反応して溶鋼中で酸硫化物(オキシサルファイド)を形成する。この酸硫化物はMnSなどと異なって、圧延加工で圧延方向に伸びることがないため、圧延後も球状であり、延伸した介在物の先端などを割れの起点とする溶接割れや水素誘起割れを抑制する効果がある。しかしながら、この含有量が0.004%を超えると、靱性の劣化を招くことがあるので、Caの含有量を0.004%以下とする。なお、Caによる溶接割れや水素誘起割れを抑制する効果を安定的に発現させるためには、Caを0.0003%以上含有させることが好ましい。より好ましいCaの含有量の範囲は、0.0005〜0.003%である。
Mg:0.002%以下
Mgは、必要に応じて含有させることができる。Mgを含有させると、微細なMg含有酸化物を生成するので、γ粒径の微細化に効果がある。しかしながら、この含有量が0.002%を超えると、酸化物が多くなりすぎて延性低下をもたらすことがあるので、Mgの含有量を0.002%以下とする。なお、Mgによるγ粒径の微細化効果を安定的に発現させるためには、Mgを0.0002%以上含有させることが好ましい。より好ましいMgの含有量の範囲は、0.0003〜0.0010%である。
REM:0.002%以下
REM(希土類元素)は、必要に応じて含有させることができる。REMを含有させると、溶接熱影響部の組織を微細化し、またSを固定する効果がある。REMを過剰に含有させると、介在物を形成するので清浄度を低下させるが、REMの添加によって形成される介在物は、比較的靱性劣化への影響が小さいため、REMの含有量が0.002%以下であれば含有させても母材の靱性の低下は許容できる。したがって、REMの含有量を0.002%以下とする。なお、REMによる溶接熱影響部の組織の微細化効果とSの固定効果を安定的に発現させるためには、REMを0.0002%以上含有させることが好ましい。より好ましいREMの含有量の範囲は、0.0003〜0.001%である。
ここで、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、これらの元素のうちの1種または2種以上を含有させることができる。なお、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
B.金属組織に関して
B−1.板厚(1/4)t位置の残留γ量が3.0体積%以上であること
厚鋼板中の残留γは厚鋼板の脆性き裂伝ぱ停止特性の向上に寄与する。この結果、低温環境下での靭性の向上効果が期待できる。この効果を得るには鋼中の残留γ量が3.0体積%以上存在することが必要である。残留γ量の上限は特に規定するものではないが、残留γが多く存在しすぎると降伏応力が低下するおそれがあるので、残留γ量は15.0体積%以下とするのが好ましい。より好ましくは10.0体積%以下である。ここで、板厚(1/4)t位置残留γ量を評価するのは、板厚全域の平均的な位置での評価をするためである。
なお、本発明に係る厚鋼板はNi含有量が高いため、焼きが入りやすいので、残留γのほかにはマルテンサイト組織を主体とするものとなる。残留γとマルテンサイト組織のほかに、ベイナイト組織などの金属組織が25体積%以下存在しても、厚鋼板の脆性き裂伝ぱ停止特性に影響を及ぼすことはない。
B−2.板厚(1/4)t位置の平均有効結晶粒径が5.5μm以下であること
結晶粒界は転位の運動を妨げる。したがって、結晶粒径を小さくし結晶粒界を大きくすることは、降伏点の上昇に直接的に寄与する。このため、板厚(1/4)t位置、すなわち、厚鋼板の表面から1/4の板厚部分の位置での平均有効結晶粒径を5.5μm以下とする必要がある。この粒径が小さいほど脆性き裂発生抑止特性はよくなるため、粒径の下限は規定しない。ただし、本願発明に係る低温用厚鋼板の製造方法により得られる粒径の平均有効結晶粒径はせいぜい2.0μmであるから、この場合、平均有効結晶粒径の下限値は2.0μmとなる。ここで、板厚(1/4)t位置でこの粒径を評価するのは、板厚全域の平均的な位置での評価をするためである。
なお、平均有効結晶粒径はEBSP(Electron Backscatter Diffraction Pattern:電子線後方散乱パターン)法により評価することができる。EBSP法により、倍率2000倍で5視野以上の観察を行い、15°以上の方位差を有する組織境界を粒界とみなし、ひとつの結晶内部の面積を求め、その面積を円相当径に換算したものの平均値を算出し、「平均有効結晶粒径」として評価すればよい。
C.降伏強度比に関して
Ni低減型の厚鋼板に関して、降伏強度試験を低温度で行うと、低温での降伏点は常温での降伏点に比べ上昇する。この上昇度が大きいほど、低温環境下で十分高い靭性を得ることができる。すなわち、常温の降伏点に対して低温環境下での降伏点の比が大きいと、低温環境下で破壊安全性に優れる厚鋼板が得られる。
具体的には、後述する実施例の表3に示されるデータに基づいて、次の(1)式で示される値をパラメータとして、液体窒素温度(−196℃)における靭性(Vノッチシャルピー吸収エネルギーvE−196)との相関を調査した。この結果、次の(1)式で示される値が1.3以上である場合に、LNG貯槽温度(−165℃)よりもさらに低温である液体窒素温度(−195℃)において、液体窒素温度(−196℃)における靭性(Vノッチシャルピー吸収エネルギーvE−196)が高い値を示し、耐破壊安全性に優れることが分かった。
σy,−165℃/σy,RT ・・・・・・(1)式
ここで、σy,−165℃は−165℃における降伏強度[MPa]を、そして、σy,RTは常温における降伏強度[MPa]を、それぞれ表す。
また、この事実は、一方で耐破壊安全性に優れるか否かの判断基準ともなりえるので、本発明は常温での降伏強度が590MPa以上のNi低減型の厚鋼板の耐破壊安全性の判別方法としても把握することができる。
すなわち、「質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.01〜0.3%、Mn:0.4〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Ni:5.0%を超え8.0%未満、Al:0.002〜0.08%、N:0.0050%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、常温での降伏強度が590MPa以上である厚鋼板であって、板厚(1/4)t位置での残留γ量が3.0体積%以上であり、かつ平均有効結晶粒径が5.5μm以下である厚鋼板の適合品判定方法であって、次の(1)式で示される値が1.3以上であるときに適合品と判定することを特徴とする耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板の適合品判定方法。
σy,−165℃/σy,RT ・・・・・・(1)式
ここで、σy,−165℃は−165℃における降伏強度[MPa]を、そして、σy,RTは常温における降伏強度[MPa]を、それぞれ表す。」
として、本発明を把握することができる。もちろん、上記の成分の外に、Cu、Cr、Mo、V、B、Nb、Ti、Ca、MgおよびREMうちの1種または2種以上をさらに含有してもよい。
D.製造方法に関して
本発明に係る厚鋼板は、以下に示す工程を経て製造することができる。ただし、以下の製造方法に限定されるものではない。
なお、鋼塊については、格別にその鋳造条件を規定するものではない。造塊−分塊スラブを鋼塊として用いてもよいし、連続鋳造スラブを用いてもよい。製造効率、歩留りおよび省エネルギーの観点からは、連続鋳造スラブを用いることが好ましい。
D−1.加熱工程(工程1)
加熱工程は、鋼塊の加熱温度Tr(℃)と加熱時間t(hr)が、次の(2)式〜(4)式を満足するように鋼塊を加熱するのが好ましい。
t×exp(Tr/270000000)≦580 ・・・・・・・・・・(2)式
Ac点≦Tr ・・・・・・・・・・(3)式
OS≦[Tr+50] ・・・・・・・・・・・・・(4)式
ここで、Trは鋼塊の加熱温度(℃)を、tは鋼塊の加熱時間(hr)を、てAc点はフェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度を、そしてTOSは鋼塊の最高到達温度(℃)を、それぞれ表す。
具体的には、鋼塊の加熱温度Tr(℃)は加熱炉における均熱帯の温度を用いればよく、そして、加熱時間t(hr)は鋼塊が均熱帯に在炉している時間を用いればよい。なお、Ac点は次の(6)式に基づいて計算した値を用いればよい。
Ac点=897.3−271.1×C+43.7×Si−17×Mn+117.8×P+15.95×S−40.8×Cu−22.3×Ni−6.5×Cr+6.5×Mo+65.8×V+145.2×Nb+56.9×Al+88.5×Ti−17968.4×B+121.8×N・・・(6)式
ここで、式中の元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
加熱工程は厚鋼板の組織を大きく左右する。前述のように加熱温度が高温ほど組織の粗大化が進むので、高い加熱温度は好ましくない。通常、加熱工程では、加熱炉に挿入後徐々に鋼塊温度が上昇し、均熱帯の温度を超えた後、鋼塊温度が均熱帯の温度に定常化する、いわゆるオーバーシュートが起こりうる。オーバーシュートの発生で鋼塊温度が均熱帯の温度より50℃超となると、鋼塊の組織の粗大化が進み意図する組織が得られなくなる場合がある。このため、オーバーシュートする温度を50℃以下に制御することが好ましい。すなわち、加熱工程では、鋼塊がTr(℃)で安定する前の鋼塊の最高到達温度TOS(℃)を[Tr+50]以下に抑制することが好ましい。
加熱温度は、組織をオーストナイト変態させるためAc点以上とする必要がある。なお、加熱温度を850℃以上にすることが好ましい。850℃以上の鋼塊は変形抵抗が小さく、次工程である熱間圧延工程で使用するロールへの負荷はそれほど大きくならないからである。一方、加熱温度は1000℃以下にすることが好ましい。1000℃以下での加熱であれば、十分な加熱時間を確保することができ、より均熱化した鋼塊を得ることができるからである。
このように、加熱工程は鋼の組織を最も左右する工程であるため、厳密な制御が必要である。
D−2.圧延工程(工程2)
熱間圧延工程では、加熱した鋼塊の圧延を行う。具体的には、粗圧延と仕上圧延に分けて圧延すればよい。
加熱した鋼塊に対する粗圧延においては、粗圧延終了時の鋼塊厚さが成品厚さ(厚鋼板厚さ)の3〜8倍になるまで圧下するのが好ましい。粗圧延終了後の鋼塊厚さを成品厚さの3倍以上となるように圧下すると、つづく仕上圧延において十分な圧下をすることができるので、成品厚鋼板の靱性を向上させることができる。一方、粗圧延終了後の鋼塊厚さを成品厚さの8倍以下となるように圧下すると、つづく仕上圧延での仕上圧延温度(仕上圧延が終了する温度)を650℃以上に制御しやすくなる。
仕上圧延では、このようにして粗圧延が行われた鋼塊に対し、冷却することなく引き続き、圧下を行って所定の板厚の成品とする。この仕上圧延では、仕上圧延温度が850℃以下となるようにして圧延を行う。仕上圧延温度を850℃以下とするのは、圧延時に変形帯を積極的に組織中に導入することにより最終組織の有効結晶粒径を微細化するためである。また、仕上圧延温度は650℃以上とする。仕上圧延温度が650℃以上であれば、変形抵抗が小さく圧延し易いからである。なお、圧延中の温度は被圧延材である鋼塊または厚鋼板の表面温度を測定すればよい。
D−3.冷却工程(工程3、工程3’)
冷却工程では、仕上圧延をした圧延後の厚鋼板を冷却する。圧延後の冷却速度は速い方が良い。具体的には、厚鋼板の板厚tの中心部、すなわち、板厚(1/2)t位置での冷却速度を3℃/s以上とすることが好ましい。これは圧延後の冷却時の冷却速度が遅くなることにより、最終組織の有効結晶粒径が粗大化することを防ぐためである。
厚鋼板は圧延工程を通してある程度自然冷却されているので、厚鋼板の組織が粗大化することはない。冷却は製造ラインからはずし(オフライン化し)、そのまま放冷すれば十分である。また、製造ライン上で加速冷却しても良い。
冷却は続く焼入工程での焼入温度まで冷却をすればよいが、焼入温度以下まで冷却する場合には、厚鋼板を焼入温度まで再加熱する必要がある。
D−4.焼入工程(工程4)
焼入工程では、再加熱の有無にかかわらず、Ac点〜Ac点の温度に加熱して行う。Ac点以上とすることによって残留γの増加を見込むことができ、Ac点以下とすることによって組織の粗大化を防止できる。
また、焼入れ熱処理後の冷却速度RH(℃/s)が、次の(5)式を満足する必要がある。冷却速度を3℃/sと速くすることで組織の粗大化を防止することができるからである。
RH≧3・・・・・・・・・(5)式 なお、焼入処理の方法はスプレー法など手段を問わない。また、冷却停止温度は200℃以下とすることが好ましい。
D−5.焼戻工程(工程5)
焼戻し工程では、[Ac点+80℃]以下の温度で行う。焼戻しは焼入れによって生じたマルテンサイト中の歪みを除去するためである。焼戻しを[Ac点+80℃]以下の温度で行うのは、焼入れままのマルテンサイト組織を高靭性化することと残留γ量を増加させることができるためである。なお、効果的に歪み除去効果を得るためには、500℃以上とすることが好ましい。
表1に示す化学組成を有する35種類の鋼種からなる厚さ300mmの鋼塊を準備し、表2に示す条件にて、加熱工程から焼戻工程まで一連の工程を鋼塊に施して厚鋼板を製造した。製造後の厚鋼板の板厚は6〜50mmの厚鋼板である。
Figure 0005513254
Figure 0005513254
得られた各厚鋼板から一部試料片を採取し、残留γ量と平均有効結晶粒径を測定した。
残留オーステナイト量(残留γ量)(体積%)は、厚鋼板の板厚(1/4)t位置で残留γ測定用試験片を採取し、X線回折法により測定した。より詳細には、製造した全ての試験片は主としてマルテンサイト組織で構成されていたため、面心立方構造を有する残留γと体心立方構造を有するマルテンサイトの格子構造の違いを利用して、X線ピークの積分強度比から残留γ量を測定した。
平均有効結晶粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)内に載置した供試片に電子線を照射し、スクリーン上に投影されたEBSPをコンピュータで画像解析して、方位差15°以上の組織境界で囲まれる部分を結晶粒界として測定した。すなわち、EBSP(Electron Backscatter Diffraction Pattern:電子線後方散乱パターン)法を用いて、倍率2000倍で5視野以上の観察を行い、15°以上の方位差を有する組織境界を粒界とみなし、ひとつの結晶内部の面積を求め、その面積を円相当径に換算したものを有効結晶粒径として、板厚(1/4)t位置での平均値を評価した。なお、方向は圧延直角方向である。
一方、得られた各厚鋼板からは、JISZ2201に規定される10号引張試験片、5号引張試験片を、あるいは板厚(1/4)t位置より4号試験片を採取した。方向は圧延直角方向である。これらの試験片を用い、常温での引張試験と−165℃における引張試験を行い、引張強さTS(MPa)、降伏強さYS(MPa)および破面の単位面積あたりのシャルピー吸収エネルギーvE−196(J/mm2)(3本の平均値)を調べた。表3に試験結果を示す。
なお、強度の良否の判断基準は以下の通りである。
常温における降伏強度YS:590MPa以上、
常温における引張強度TS:690MPa以上、
単位面積あたりのVノッチシャルピー吸収エネルギーvE−196(J/mm2):2.0J/mm2以上。
Figure 0005513254
表3のうち、Test No.32の厚鋼板はNi含有量が9%を超える9%Ni鋼(参考例)である。9%Ni鋼ではvE−196が−196℃の温度下でも2.51 J/mm2と高い靭性値を示した。これより、9%Ni鋼は低温環境下でも脆性破壊の防止に有効であることが分かる。
本発明は、このような9%Ni鋼に対し、Ni含有量を低減してなるNi低減型の厚鋼板に係るものであり、Ni量を低減させても9%Ni鋼と同等の特性を提供しようとするものである。以下、本発明に係るNi低減型の厚鋼板(本発明例)について説明する。
化学組成が本発明で規定する範囲内である鋼種、すなわち鋼No.1〜30の鋼からなる厚鋼板のうち、Test No.1-a〜No.1-e、No.2〜30については、常温における降伏強度が590MPa以上、引張強度TSが690MPa以上であるともに、残留γ量が3.0体積%以上、平均有効結晶粒径が5.5μm以下となり、(1)式で示される値(σy,−165℃/σy,RT)が1.3以上である特性が得られた。そして、これらは、いずれも、Vノッチシャルピー吸収エネルギーvE−196が2.0J/mm2以上と高い値を示し、耐破壊安全性に優れていた。
これに対して、化学組成が本発明で規定する範囲内である鋼種(鋼No.1)ではあるが、Test No.1-fおよびNo.1-g(比較例)については、Vノッチシャルピー吸収エネルギーvE−196が2.0J/mm2以上と高い値を示したものの、常温における降伏強度が強度の良否の判断基準(590MPa以上)を下回った。また、(1)式で示される値(σy,−165℃/σy,RT)も1.3を下回った。
同じく、化学組成が本発明で規定する範囲内である鋼種(鋼No.1)ではあるが、Test No.1-h(比較例)については、常温での降伏強さYSと引張強さTSは、強度の良否の判断基準(それぞれ、590MPa以上および690MPa以上)を満足するものの、(1)式で示される値(σy,−165℃/σy,RT)が1.3を下回った。そして、Vノッチシャルピー吸収エネルギーvE−196が1.63J/mm2と低い値を示した。
これらの結果から、降伏強度が590MPa以上の厚鋼板において、(1)式で示される値(σy,−165℃/σy,RT)が1.3を下回る場合には、低温環境下での使用に適さないことが分かる。また、この事実は、(1)式で示される値(σy,−165℃/σy,RT)が常温での降伏強度が590MPa以上のNi低減型の厚鋼板の耐破壊安全性の判別に使用できることを意味する。
さらに、化学組成が本発明で規定する範囲内でない鋼種(鋼No.32〜35)についてのTest No.32〜35(比較例)については、耐破壊安全性に劣ることが分かる。すなわち、Test No.32,33および35についてはVノッチシャルピー吸収エネルギーvE−196が1.0J/mm2以下と極めて低い。また、Test No.34については、降伏強度が590MPaを下回っている。
本発明に係るNi低減型の低温用鋼板は、低温環境下でも9%Ni鋼並みの耐破壊安全性に優れている。また、Ni含有量を低くすることができるので低コストでの厚鋼板提供が可能になる。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.01〜0.3%、Mn:0.4〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Ni:5.0%を超え8.0%未満、Al:0.002〜0.08%、N:0.0050%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、常温での降伏強度が590MPa以上であるマルテンサイト組織を主体とする厚鋼板であって、板厚(1/4)t位置での残留γ量が3.0体積%以上であり、かつ平均有効結晶粒径が5.5μm以下であり、次の(1)式で示される値が1.3以上であることを特徴とする耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板。
    σy,−165℃/σy,RT ・・・・・・(1)式
    ここで、σy,−165℃は−165℃における降伏強度[MPa]を、そして、σy,RTは常温における降伏強度[MPa]を、それぞれ表す。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Cu:2.0%以下、Cr:1.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下およびB:0.005%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板。
  3. Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.1%以下およびTi:0.1%以下のうちの1種又は2種を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板。
  4. Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.004%以下、Mg:0.002%以下およびREM:0.002%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板。
  5. 請求項1から4までのいずれかに記載された化学組成を有する鋼塊に、下記の工程を施すことを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板の製造方法。
    [工程1]鋼塊の加熱温度Tr(℃)と加熱時間t(hr)が、次の(2)式〜(4)式を満足するように鋼塊を加熱する工程。
    t×exp(Tr/270000000)≦580 ・・・・・・・・(2)式
    Ac点≦Tr ・・・・・・・・・・(3)式
    OS≦[Tr+50] ・・・・・・・・・・・・・(4)式
    ここで、Trは鋼塊の加熱温度(℃)を、tは鋼塊の加熱時間(hr)を、Ac点はフェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度を、そしてTOSは鋼塊の最高到達温度(℃)を、それぞれ表す。
    [工程2]加熱した鋼塊を圧延し、650℃以上かつ850℃以下の仕上温度にて圧延を終了する工程。
    [工程3]圧延後の厚鋼板を焼入温度まで冷却する工程。
    [工程4]Ac以上かつAc以下の温度から、次の(5)式を満足する冷却速度RH(℃/s)によって焼入する工程。
    RH≧3・・・・・・・・・(5)式
    [工程5][Ac点+80℃]以下の温度で焼戻す工程。
  6. 請求項1から4までのいずれかに記載された化学組成を有する鋼塊に、下記の工程を施すことを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の耐破壊安全性に優れた低温用厚鋼板の製造方法。
    [工程1]鋼塊の加熱温度Tr(℃)と加熱時間t(hr)が、次の(2)式〜(4)式を満足するように鋼塊を加熱する工程。
    t×exp(Tr/270000000)≦580 ・・・・・・・・・・(2)式
    Ac点≦Tr ・・・・・・・・・・(3)式
    OS≦[Tr+50] ・・・・・・・・・・・・・(4)式
    ここで、Trは鋼塊の加熱温度(℃)を、tは鋼塊の加熱時間(hr)を、Ac点はフェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度を、そしてTOSは鋼塊の最高到達温度(℃)を、それぞれ表す。
    [工程2]加熱した鋼塊を圧延し、650℃以上かつ850℃以下の仕上温度にて圧延を終了する工程。
    [工程3’]圧延後の厚鋼板を焼入温度以下まで冷却し、その後、厚鋼板を焼入温度まで再加熱する工程。
    [工程4]Ac以上かつAc以下の温度から、次の(5)式を満足する冷却速度RH(℃/s)によって焼入する工程。
    RH≧3・・・・・・・・・(5)式
    [工程5][Ac点+80℃]以下の温度で焼戻す工程。
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