JP5505166B2 - 缶成型体の内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する方法 - Google Patents

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Description

本発明は、食品缶などの分野で缶成型体の内容物に対する耐腐食性を判断するために缶詰メーカーが実施する通常2年間程度に及ぶ長期間の実缶充填試験(以下「パック試験」ともいう。)の結果を、数週間以内の短期間で予測することを可能にする缶成型体の内容物に対する耐腐食性の迅速評価技術に関し、主に、缶成型体用被覆金属板や缶成型体などの開発サイクルの効率を改善する技術に関するものである。
食品缶や飲料缶などの用途に用いられる樹脂フィルムや塗料で被覆された容器用の被覆金属板では、缶として使用され、その保管期間中に缶内部の皮膜に欠陥が発生すると、当該金属板にマクロ腐食が生じて、発生ガスによる缶膨れ、穴あき腐食による内容物の漏洩、内容物の変質に起因する食中毒などの重大トラブルを引き起こす事がある。したがって、国民衛生上からも、金属板製造業者及び缶詰メーカーにとっても、缶内部の皮膜欠陥の評価は重要課題である。
従来、皮膜欠陥の評価には、専らエナメルレートバリュー法(Enamel Rate Value法;以下「ERV法」と称す。)が利用されてきた。ERV法を用いて被覆金属板の皮膜欠陥部での金属露出の程度を評価する方法には、例えば、特許文献1ないし特許文献3などがある。
また、特許文献6には、ぶりき塗装缶で錫の影響を受けることなく素地鋼の露出程度や部位を評価することができるERV法の改良版と言える評価方法が開示されている。
一方、缶内面の皮膜欠陥発生原因の類型には、(1)皮膜形成時あるいは製缶時に発生するもの、(2)缶に内容物を充填した後に落下などの衝撃によって発生するもの、(3)長期保管中に内容物の影響を受けて発生するもの、の3種類が存在する。ERV法と特許文献6の開示方法は、内容物充填前の上記(1)の皮膜欠陥の検出には効果的だが、内容物充填後に生じる(2)や(3)のタイプの評価には利用できないという問題がある。
また、内容物充填後に金属缶内面の皮膜欠陥の発生傾向を評価する技術としては、特許文献4が知られている。これは主に飲料缶用に開発された技術で、衝撃によって生じる缶内面の皮膜欠陥を実缶と同様の条件で測定可能にする評価装置に関するものである。この装置の特徴は、内容物が充填された実缶と同様の環境下で皮膜欠陥を測定するための、密閉機構、脱気機構、内圧加減機構、温度調整機構と、缶に衝撃を負荷するための衝突装置、ならびに、皮膜の電気抵抗を遮蔽環境で測定するための電気化学的測定装置を備えている点にある。
また、測定対象が缶成型体ではないが、被覆金属板の場合の同様の装置が特許文献5に開示されている。
これらの装置では、特に、上記(2)の、衝撃によって生じる缶内面の皮膜欠陥の程度を皮膜の電気抵抗という形で測定している。
特開平6−50926号公報 特開平6−74930号公報 特開平6−74941号公報 特許第2934164号公報 特許第2895411号公報 特許第1332395号公報
しかしながら、同装置を用いて缶詰メーカーが2年程度の時間を費やして行う上記(3)の皮膜欠陥を評価しようとしても、試験環境に内容物を充填した実際の缶を複数個保管して、時間経過と共に一缶ずつ開缶して内容物の状況を評価するのと大差無い結果しか得られない。
このような状況のため、金属板製造業者及び缶詰メーカーでは食品保管環境での耐食性評価に長期間を費やさざるをえず、これが障害となって缶成型体用被覆金属板や缶成型体などの開発サイクルを短縮できないことが永らく課題となっていた。
本発明は、本来2年程度経過しないと判明しない評価結果を短時間で予測可能な促進試験法を提供し、長期保管環境での缶成型体の内容物に対する耐腐食性を短期間で評価し、判断することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため、ユーザーの保管環境で缶内面の欠陥部と内容物が接触した場合に生じる腐食現象について鋭意研究を重ねた。
その結果、(1)ラミネート缶のように、被覆金属板がラミネート鋼板の場合においては、缶成型体の工業的製造過程で、多かれ少なかれ、極微小な皮膜欠陥(ピンホール)が被覆金属板に導入されるため、内容物を充填した状況下で電気化学測定を行うための浸漬電位の検出が可能であること、(2)ユーザーの実際の保管環境では腐食反応(電気化学反応)によってこのような皮膜欠陥部から鉄がアノード溶解を生じること、(3)このような皮膜欠陥部からのアノード溶解は、浸漬電位から適切な量だけアノード側に分極させることによって加速可能であり、このようにして生じたアノード電流が運ぶ電気量の総和が、ユーザーの実際の保管環境での長期パック試験の序列と整合すること、等の知見を得た。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えた末に完成されたもので、その要旨は次の通りである。
(1)缶成型体の内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する方法であって、
前記缶成型体は、金属板からなり、かつ開口部を有しさらに外面および内面のうち少なくとも内面が樹脂フィルムまたは塗料で被覆されており、
前記缶成型体に前記内容物を充填した後、これを試験体とし、
外部雰囲気の該試験体への流入を遮断する装置に設置し、前記内容物を窒素ガスにより飽和させて前記内容物中の溶存酸素を排出した後、
前記内容物の温度を、25〜60℃の範囲内で一定に保持して、前記試験体の缶成型体に浸漬電位から50mV以上、300mV以下のアノード側の定電位を印加し、
前記定電位を印加した直後から任意の期間に生じる積算電気量から、前記缶成型体の前記内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する方法。
ここで、前記任意の期間とは、1日〜4週間の期間の内から任意に選択される期間をいう。
(2)(1)に記載の缶成型体の内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する方法に用いられる測定装置であって、
a)前記開口部に圧着させることによって外部雰囲気の前記試験体への流入を遮断する構造を有し、下記イ)からニ)を備えた電解セル蓋Aと、
イ)窒素ガス注入部
ロ)ガス抜き部
ハ)前記内容物と前記試験体の外部に設けた参照電極Dとをイオン伝導を介して電気的に接触させるための塩橋
ニ)前記内容物を介して前記缶成型体との間に電位差を設定するための電極部
b)前記開口部を前記電解セル蓋Aに圧着させるための固定手段Bと、
c)前記試験体を加熱・保温するための恒温手段Cと、
d)前記参照電極Dと、
e)前記参照電極D、前記電極部および前記缶成型体の金属板とを接続してなるポテンショスタットEと、
を備えることを特徴とする缶成型体の内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する測定装置。
本発明によれば、缶成型体の内容物に対する耐腐食性を、缶詰メーカーが通常実施する2年間に及ぶ長期パック試験を行うことなく、数週間以内の短期間で評価することが可能になるため、金属板製造メーカーや缶詰メーカーでの被覆金属板や缶成型体などの開発サイクルの効率化が図られる。
このように、本発明を用いれば、実際に長期保管しなくても、各内容物に対する缶成型体の耐食性の序列や程度をアノード電流による積算電気量から評価することが可能なため、特に、ラミネート金属板製造条件の最適化やラミネートフィルムの選定などによる被覆金属板の耐食性向上策や耐食性を考慮した缶加工法の検討などを効果的に立案・実施することが可能になる。
本発明方法を実施するための測定装置の模式図 図1の参照電極、試験体、白金電極のポテンショスタット接続を説明するための模式図 NaCl溶液を充填したラミネート缶の浸漬電位の測定例 NaCl溶液を充填したラミネート缶のアノード分極測定例 トマトケチャップを充填したラミネート缶のアノード分極測定例 ホールトマトのジュース漬けを充填した場合の測定例 トマトケチャップを充填した場合の測定例 ホールトマトのジュース漬けとトマトケチャップを充填したPET−PBT缶と共重合PET缶の積算電気量の関係(a)と実測鉄量の関係(b) ホールトマトのジュース漬け充填缶とトマトケチャップ充填缶の積算電気量と内容物中の実測鉄量の関係 積算電気量から計算で求めた鉄含有量と実測鉄量の関係 ホールトマトのジュース漬けとトマトケチャップを充填したPET−PBT缶と共重合PET缶の実測鉄量の関係(12ケ月実缶充填試験後)
以下に、本発明を具体的に説明する。
本発明の一実施形態である測定装置の模式図を、図1及び図2に示す。試験体(10)は、樹脂フィルムや塗料で少なくとも内面を被覆された、缶蓋を付ける前の開口部を有する缶成型体(16)に、内容物(13)を充填したものとする。評価装置は、このような試験体(10)を、パッキン(11)を備えた電解セル蓋(A)との間に挟み込んで試験体(10)の缶成型体(16)開口部をパッキン(11)に圧着させるための底板(14)、電解セル蓋(A)と底板(14)を固定するための固定手段(B)である例えば支柱(ボルトとナット)を備えている。電解セル蓋(A)には、イ)試験体(10)の内容物(13)を介して試験体(10)の缶成型体(16)との間に電位差を設定するための白金電極、ロ)塩橋(3)、ハ)窒素脱気するための窒素導入管(5)と水封型ガス抜き管(12)、ニ)内容物(13)の温度を確認するための温度計(8)、ホ)内容物のサンプリング用配管等を接続可能な密栓(7)、などが固定されている。
試験体(10)、白金電極、塩橋(3)はポテンショスタット(E)に接続して使用する。試験体(10)の缶成型体(16)側とポテンショスタット(E)の電気配線は、試験体(10)の缶成型体(16)外面の塗膜等絶縁膜を除去した上でスポット溶接で行っている。一方、試験体(10)の内容物(13)側では、内容物(13)に白金電極を浸漬し、その白金電極をポテンショスタット(E)に接続する。さらに、KCl飽和Ag/AgCl電極などの参照電極(D)をポテンショスタット(E)に接続し、参照電極(D)と当該内容物(13)とを塩橋(3)を介して電気的に接続する。評価装置全体は、恒温手段(C)である例えばウォーターバスに浸漬して温度管理できる構成になっている。
ここで、固定手段(B)としては、ボルトとナットの例を挙げたが、これに限られない。例えば、万力、クランプのような締め付け工具類を用いてもよい。また、恒温手段(C)としは、ウォーターバスに限られず、電磁式及び電気式ヒーター等その他の恒温手段が含まれる。
本発明にかかる評価方法は、缶成型体(16)に内容物(13)を充填した後、これを試験体とし、外部雰囲気の該試験体への流入を遮断する装置に設置し、前記内容物を窒素ガスにより飽和させて前記内容物中の溶存酸素を排出した後、前記内容物の温度を、25〜60℃の範囲内で一定に保持して、前記試験体の浸漬電位を測定し、この測定された浸漬電位から50mV以上、300mV以下の範囲から選択された電位だけアノード側となる定電位を印加し、この定電位を印加した直後から1日〜4週間の任意の期間に生じる積算電気量から耐腐食性を評価する方法である。
先ず、評価対象とする缶成型体は、金属板からなり、かつ開口部を有しさらに外面及び内面のうち少なくとも内面が樹脂フィルムまたは塗料で被覆されている。
開口部の形状は電解セル蓋(A)にパッキン(11)を介して圧着できるものであればなんでも良いが、パッキンに圧着しやすい、缶胴絞り加工のままで、エッジトリムやエッジ巻き締め加工を施されていないエッジ付きの形状であることが望ましい。また、缶胴にスポット溶接すると内面皮膜が損傷して腐食挙動に影響を与える場合があるため、ポテンショスタットに結線される試験体の缶成型体(16)側の電気配線(15)は、内容物が接触しないこの開口部のエッジの外面側にスポット溶接するのが望ましい。
金属板には、ラミネート鋼板やブリキなどの缶用鋼板を利用できる。一方、この金属板内面を被覆する樹脂フィルムや塗料には、特に制限は無く公知の材料が使用できる。また、その被覆方法も、特に制限は無く公知の方法を利用してよい。さらに、市販されている被覆済みの金属板を使用しても良い。本発明は内面被覆された缶成型体の内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する技術に関するのであるが、内面に加えて外面も適宜被覆して試験に供することができる。
上記缶成型体に充填する内容物は、評価目的に合わせて、適宜選択すればよい。缶詰メーカーが行う長期パック試験での評価結果を予測する目的でなら、実際に充填される食品そのものを使用するのが望ましい。内容物は、導電性のあるものであれば特にその形態に限定は無く、固体、液体、固体と液体の混合、ゲル状、ゾル状いずれも評価可能である。ここで本発明の対象とする固体とは、ゼリーやにこごりなど、水分を含み導電性があって、それ単独で缶体の大半を隙間無く充填できる食品であれば良く、乾パン、米、チョコレートなどの導電性の著しく低い食品固形物は対象としない。
上記缶成型体(16)に上記内容物(13)を充填したら、試験体(10)として上記評価装置に設置する。
上記試験体(10)を上記評価装置のパッキン(11)を備えた電解セル蓋(A)と底板(14)との間に挟み込んで支柱(ボルトとナット)で固定すれば、パッキン(11)により当該試験体へ外部雰囲気の流入を遮断することができる。この状態で、評価装置の電解セル蓋(A)に固定された窒素導入管(5)を内容物(13)に差し込んで、その状態で約30分間、窒素ガスを流して電解セル蓋(A)に固定された水封型ガス抜き管(12)から試験体外に放出させることで、前記内容物を窒素ガスにより飽和させて前記内容物中の溶存酸素を排出することができる
そして、溶存酸素を排出後、窒素導入管(5)を電解セル蓋(A)に対してスライドさせて内容物から引上げ、気相脱気に切り替えた上で評価装置全体を一定の試験温度に保った恒温水槽中に設置する。しかる後、内容物の温度が試験温度に到達したことを確認してから30分間浸漬電位測定をおこなう。30分経過後に測定された浸漬電位から任意の電位だけアノード側の定電位を試験体に印加する。最後に、この定電位を印加した直後から任意の期間に生じる積算電気量を算出し、算出した積算電気量から耐腐食性を評価する。
上記内容物の温度(試験温度)は、一定に保持すると共に、25〜60℃の範囲から選択した任意の温度とする。
従来の長期パック試験は、実際の保管温度で行われることが多い。本発明においても内容物の温度は、従来の長期パック試験の温度を選択するのが望ましいので、下限を25℃とした。しかし、常温での腐食や高温下で腐食反応を加速させたい場合、さらに缶成型体の塗膜やラミネートフィルムのガラス転移温度も考慮した上で、上限を60度℃とした。
また、任意の期間に生じる積算電気量は、アノード電流から算出する。具体的には、試験体の缶成型体に上記定電位を印加した状態で、図2のポテンショスタットで試験体の缶成型体側電気配線(15)に流れる電流を、上記任意の期間の間測定する。得られた電流(=電荷/時間)を測定時間で積算すれば、任意の期間に生じる積算電気量となる。この時、1秒単位で測定した電流量(=電荷)を加算する方法と測定電流の平均値を求めてからこれに秒単位での測定時間を掛け算する方法が考えられるが、どちらの方法を用いても同じ値を示す。この積算電気量は、内容物に溶出した鉄の2価イオンの絶対量に比例する。
上記任意の期間は、1日〜4週間の期間の内から任意に選択される期間を示す。ここで、選択範囲を1日〜4週間とするのは以下の理由による。1日未満では、安定した結果が得られない場合があり、この結果から2年間の長期試験結果を予測すると判断を誤るリスクが高くなる。
また、4週間超えの期間を要するようでは評価結果の被覆金属板や缶成型体の開発へのフィードバックが滞り、効率的ではない。結果の信頼性と評価の効率性の観点から、上記任意の期間が、好ましくは2日以上、2週間以下となるように試験体に印加する定電位を上記の範囲で調整できる。なお、当該任意の期間は、上記定電位を印加した直後を起点として計測する。
そして、試験体に印加する定電位は、浸漬電位から50mV以上、300mV以下の範囲から選択される電位だけアノード側となる電位であるが、その範囲としたのは、以下の検討結果に基づく。
図1及び図2の評価装置を用いて、50℃の2%NaCl溶液を充填したPETラミネート缶の浸漬電位を測定した例を図3に示す。この例では、測定電位が安定し始める測定開始から40分経過時点での安定した電位を浸漬電位としている。
絶縁被膜で被覆されたラミネート板から成型した缶にこのような安定した浸漬電位が現れるのは、缶加工の際、ラミネートフィルムに微量のピンホールが導入されるためだと推測される。2%NaCl溶液を充填してから約30分経過する迄は浸漬電位が不安定だが、これは、上記ピンホール部分が完全に接液して安定化するのに時間を要するためだと推定される。通常、試験体への電位設定は内容物を充填してから30分程度窒素脱気し、その後安定した浸漬電位が得られてから行っている。
上記の装置を2組用意して、それぞれに2%NaCl溶液と市販ケチャップを充填した2個のPETラミネート缶を50℃に保持して、30分程度窒素脱気した後、20mV毎分の電位掃引速度でアノード分極した例を図4、5に示す。この例でわかるように分極試験直前の浸漬電位は二つの缶で異なっているものの、いずれの場合にも浸漬電位から300mV(=0.3V)程度アノード側(プラス側)の電位まではアノード電流が急速に立ち上がる。電位の上昇に伴ってアノード電流も上昇するが、その上昇率は徐々に減少してある電位を過ぎるとアノード電流がほぼ飽和する。この飽和領域ではPETラミネート缶内面の欠陥部分もしくは脆化部分の表面が不動態化(厳密には不動態被膜の形成と破壊が同時に進行)していると考えられる。
また、このアノード電流がほぼ飽和する領域に達する前のある特定の範囲内の電位を印加すると試験体のアノード反応を促進できる。このようなある特定の範囲内の電位は、試験体のアノード分極曲線から求めることができる。その上で、試験体の缶成型体に安定した浸漬電位から50mV以上、300mV以下の範囲内だけアノード側の電位を印加すれば、試験体の缶成型体内面の欠陥部分もしくは脆化部分と内容物が接触して生じる腐食反応(アノード反応)を促進できることを内容物へのFeの溶出量を測定して確かめた。
上記の例でもわかるように、長期パック試験の結果を予測するために試験体の缶成型体に印加する電位(以下、「促進電位」という。)は、安定した浸漬電位からアノード側に50mV以上、300mV以下の範囲内が適当である。促進電位の値と極性は、実際のパック試験の結果を予測する上で大変重要である。促進電位を浸漬電位からカソード側に設定すると実際の腐食反応で起こる鉄のアノード溶解が起こらず、内容物中の電解質の陽イオン(2%NaCl溶液の場合、Naイオン)が試験体の缶成型体内面の欠陥部分または脆化部分に集積して異常反応を引き起こす。
また、アノード側の促進電位でも50mV未満だと腐食反応の加速効果が小さくなり、数週間以内に長期パック試験の結果を予測することが困難になる。逆に、アノード側の促進電位が300mVを超えると、既に述べた試験体の缶成型体内面の欠陥部分もしくは脆化部分の表面の不動態化や、異常ガス発生などの実際の保管環境では考えがたい化学反応が生じる場合がある。例えば、両極間の電位差が1.5V以上になると実際の保管環境では生じない内容物中の水の電気分解反応が生じるようになる。
また、2%NaClを内容物としてERV法で使用する6V程度の電位差を印加すると、水の電気分解反応に伴う水素ガスや酸素ガスの多量発生に加え、欠陥部での塩素ガスの発生や塩酸の生成に伴う欠陥部分の急激な拡大なども生じる。このような異常反応が生じる状況下での評価試験は、信頼できる促進評価方法とは言えない。これまでに、塩分や有機酸を含有する種々の模擬溶液や実際の食品を内容物として行ったアノード分極測定の結果によると、浸漬電位から300mV以下なら上記のような異常反応を避けることができることがわかっている。したがって、試験体の缶成型体に前記の浸漬電位から50mV以上、300mV以下の範囲内のアノード側の定電位を印加することにした。
本発明を実施例に基づいて説明する。
共重合PETフィルムで被覆した板厚0.2mmのラミネート鋼板から製缶した1/2ポンド缶をエタノールで脱脂し、ERV法で予備評価した後、レトルト処理もデント処理も行わずに、再度、水洗、エタノール脱脂し、
(1)HEINZ(登録商標)製トマトケチャップ(以下、単に「トマトケチャップ」または「ケチャップ」と略す場合がある)
(2)イオン(ジャスコ)(登録商標)製ホールトマトジュース漬け(以下、単に「ホールトマトジュース」または「ジュース」と略す場合がある)
の2種類の内容物を約170cc充填し、これらを事前に用意した図1の評価装置二組にセットした。
まず、評価装置の電解セル蓋でそれぞれの内容物を密閉した後、窒素ガスを30分間流して飽和(脱気)させてから周辺温度を調整し、内容物の温度が38℃で安定したことを確認してから、浸漬電位を測定した。トマトケチャップ充填缶の浸漬電位は−560mV、ホールトマトジュース漬け充填缶の浸漬電位は−590mVであった。そこで、トマトケチャップ充填缶とホールトマトジュース漬け充填缶に対して、それぞれの浸漬電位から100mVアノード側の−460mV、−490mVの電位を印加し、その状態で電位の印加直後から48時間の間にアノード電流によって生じた積算電気量を算出した。同様の測定を同じラミネート鋼板から製缶した別の1/2ポンド缶2缶を使って更に2回繰り返した。計3回の積算電気量の平均値を表1に示す。図6及び図7はそれぞれホールトマトジュース漬け充填缶とトマトケチャップ充填缶の経過時間に対する電流値の変化を測定した結果の一例である。
Figure 0005505166
表1には、併せて、本発明例と同じラミネート鋼板から製缶した1/2ポンド缶に同じ内容物を充填して蓋を付けて巻き締めた後、レトルト釜で120℃、30分間のレトルト処理を行ない、38℃で12ヶ月間貯蔵した後、開缶して測定した内容物中のFe濃度も示した。Fe濃度は、各缶の内容物を全量取り出し、硝酸分解した後、フレームレス原子吸光法を用いて測定した。12ヶ月間貯蔵缶にはレトルト処理の影響もあると推定されるため、序列での判定しかできないが、促進試験での電気量の積算値と実際の12ヶ月間の実缶充填試験(パック試験)での鉄溶出量の序列は一致している。
PET−PBTフィルムで被覆した板厚0.2mmのラミネート鋼板から製缶した1/2ポンド缶を実施例1と同じ条件、同じ要領で評価した。尚、トマトケチャップ充填缶とホールトマトジュース漬け充填缶の浸漬電位は実施例1の共重合PET缶の場合と同じ値を示した。また、ERV法による予備評価は実施例1の共重合PET缶が0.1〜0.4mA、PET−PBT缶が0.1〜0.5mAで両者に優位差は認められなかった。
測定したPET−PBT缶の積算電気量を実施例1の共重合PET缶の積算電気量に対してプロットした結果を図8(a)に示す。PET−PBT缶と共重合PET缶ではトマトケチャップを充填した場合に共重合PET缶よりもPET−PBT缶の積算電気量が大きくなっている。
積算電気量の測定を終えた各缶の内容物の容量とそのFe濃度から求めた実測鉄量を図8(b)に、この実測鉄量を積算電気量に対してプロットした結果を図9に示す。トマトジュース漬け充填缶とトマトケチャップ充填缶のいずれの場合も積算電気量と実測鉄量は、フィルムの種類に拘わらず、傾きが等しい直線関係になる。よく知られているようにトマトには固有鉄分が含まれているから、積算電気量を0に外挿した値はそれぞれの固有鉄分と考えてよい。すなわち、両者の相関直線が重ならないのは元々の固有鉄分量に違いがあるためで、溶出鉄量で整理するとその値は積算電気量と比例関係にある。
鉄は2価イオンの形で溶出することが知られているから、積算電気量が全て鉄の溶出に費やされた場合には溶出鉄量を次式により算出可能である。
Q1=A/55.845× 2 × 96500
ここで、Q1は積算電気量(C)、Aは溶出鉄量(g)で、55.845はFeの原子量、2はFeイオンの価数、96500はファラデー定数である。
このようにして算出した溶出鉄量にそれぞれの固有鉄分を加えて実測値と比較した結果を図10に示す。両者は同一直線上にあることがわかる。
このことからわかるように、この例のように内容物を充填した試験体に浸漬電位から100mVアノード側の促進電位を印加した本発明範囲の条件では、試験体内面の欠陥部分または脆化部分と内容物が接触して生じる腐食反応(アノード溶解)だけが促進されている。
上記の通り、積算電気量は溶出鉄量の尺度と考えて構わないから、図8(a)、(b)の結果から、内容物がトマトケチャップの場合、缶保管環境での耐食性では供試したPET−PBT缶よりも供試した共重合PET缶の方が優れていると予測できる。
同種のPET−PBT缶と共重合PET缶にトマトケチャップとホールトマトジュース漬けを充填し、実施例1と同条件でレトルト処理を行った上で、38℃、12ケ月間のパック試験を行って測定した実測鉄量を図11に示す。上記の予測が正しいことは図11から明らかである。
すなわち、本発明を用いれば缶成型体の内容物に対する耐腐食性を、長期パック試験後の内容物中のFe濃度を測定することなく、短期間で評価することができる。
1 白金電極接続用口
2 温度計挿入口
3 塩橋
4 ガス抜き口
5 窒素ガス注入管
6 密封用ゴム管
7 密栓(予備)
8 温度計
9 飽和KCl溶液
10 試験体(16に13を充填したもの)
11 パッキン
12 水封型ガス抜き管
13 内容物
14 底板
15 試験体側電気配線
16 缶成型体
17 水封瓶
A 電解セル蓋
B 固定手段(ボルトとナット)
C 恒温手段(ウォーターバス)
D 参照電極(Ag/AgCl電極)
E ポテンショスタット

Claims (2)

  1. 缶成型体の内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する方法であって、
    前記缶成型体は、金属板からなり、かつ開口部を有しさらに外面および内面のうち少なくとも内面が樹脂フィルムまたは塗料で被覆されており、
    前記缶成型体に前記内容物を充填した後、これを試験体とし、
    外部雰囲気の該試験体への流入を遮断する装置に設置し、前記内容物を窒素ガスにより飽和させて前記内容物中の溶存酸素を排出した後、
    前記内容物の温度を、25〜60℃の範囲内で一定に保持して、前記試験体の缶成型体に浸漬電位から50mV以上、300mV以下のアノード側の定電位を印加し、
    前記定電位を印加した直後から任意の所定期間に生じる積算電気量を測定し、
    前記試験体とは缶成型体又は内容物が異なる第二試験体について、前記試験体と同様に定電位を印加し、前記所定期間と前記電位を印加してからの経過時間が同じで長さが同じ期間における、前記第二試験体の積算電気量を測定し、該積算電気量を前記試験体の積算電気量と対比して、前記缶成型体の前記内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する方法。
    ここで、前記任意の所定期間とは、1日〜4週間の期間の内から任意に選択される所定期間をいう。
  2. 請求項1に記載の缶成型体の内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する方法に用いられる測定装置であって、
    a)前記開口部に圧着させることによって外部雰囲気の前記試験体への流入を遮断する構造を有し、下記イ)からニ)を備えた電解セル蓋Aと、
    イ)窒素ガス注入部
    ロ)ガス抜き部
    ハ)前記内容物と前記試験体の外部に設けた参照電極Dとをイオン伝導を介して電気的に接触させるための塩橋
    ニ)前記内容物を介して前記缶成型体との間に電位差を設定するための電極部
    b)前記開口部を前記電解セル蓋Aに圧着させるための固定手段Bと、
    c)前記試験体を加熱・保温するための恒温手段Cと、
    d)前記参照電極Dと、
    e)前記参照電極D、前記電極部および前記缶成型体の金属板とを接続してなるポテンショスタットEと、
    を備えることを特徴とする缶成型体の内容物に対する耐腐食性を迅速に評価する測定装置。
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