以下に、本発明にかかる車両制御システムの一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
(第1実施形態)
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、車両制御システムに関する。図1は、本発明の実施形態にかかる車両制御システムの動作を示すフローチャート、図2は、実施形態にかかる車両の概略構成を示す図、図3は、実施形態にかかる車両制御システムの要部を示す図である。
本実施形態の車両制御システム1−1は、単一や共通の電源に対して複数の電力負荷を有するシステムにおいて、電力収支に余裕がない場合には電力負荷に優先順位を付けて電力消費タイミングをずらす。本実施形態では、この優先順位の判断基準において燃費の観点が考慮される。例えば、蓄圧式のアクチュエータなど、作動タイミングを変更しても燃費影響の少ない負荷の優先順位が、作動タイミングの変更による燃費影響の大きい負荷の優先順位よりも下げられる。これにより、燃費影響の大きい負荷の作動タイミングが遅延されることが抑制され、作動遅延による燃費影響が低減される。
図2に示すように、ハイブリッド車両10には、ハイブリッド車両10の動力源として、エンジン(内燃機関)11および第2のモータジェネレータ17bがそれぞれ設けられている。エンジン11は、例えば公知の内燃機関である。ハイブリッド車両10は、エンジン11あるいは第2のモータジェネレータ17bの少なくともいずれか一方の動力で駆動輪13を回転させて走行することができる。
ハイブリッド車両10には、動力伝達装置50が搭載されている。動力伝達装置50は、ハイブリッド車両10の動力の伝達経路に設けられている。動力伝達装置50は、変速機構12および動力分割機構15を備える。
エンジン11で発生する動力は、動力分割機構(動力合成機構)15により二分され、その出力側の一方は第1のモータジェネレータ17aに接続され、他方は第2のモータジェネレータ17bおよび駆動輪13に接続されている。エンジン11の動力および第2のモータジェネレータ17bの動力は、変速機構12およびドライブシャフト(駆動軸)14を介して駆動輪13に伝達される。
変速機構12は、第2のモータジェネレータ17bの回転軸16の回転を変速してドライブシャフト14に伝達するものである。変速機構12は、例えば、変速要素としての図示しない複数の遊星歯車機構と、摩擦係合手段としての図示しない複数のクラッチおよびブレーキとを組み合わせて構成される多段式の変速装置である。変速要素が有するキャリヤやリングギヤ等の回転要素において、停止させる回転要素をブレーキにより切り替え、また、入力されるトルクを伝達する回転要素をクラッチで切り替えることにより、変速機構12の変速段が変更される。
第1のモータジェネレータ17aおよび第2のモータジェネレータ17bは、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。第1のモータジェネレータ17aおよび第2のモータジェネレータ17bとしては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。第1のモータジェネレータ17aおよび第2のモータジェネレータ17bに電力を供給する電力供給装置として、ハイブリッド車両10にはHVバッテリ20が搭載されている。HVバッテリ20は、高圧のバッテリであり、第1のモータジェネレータ17aおよび第2のモータジェネレータ17bなどの高圧系の装置と電力を授受する。また、ハイブリッド車両10には、補機に電力を供給する補機バッテリ(蓄電装置)22が搭載されている。補機バッテリ22は、低圧のバッテリであり、低圧系の補機に電力を供給する電源として機能する。HVバッテリ20および補機バッテリ22は、充放電可能な二次電池である。HVバッテリ20と補機バッテリ22とは、コンバータ21を介して接続されている。コンバータ21は、DC/DCコンバータであり、HVバッテリ20からの入力電圧を降圧して補機バッテリ22に出力することができる。第1のモータジェネレータ17aおよび第2のモータジェネレータ17bは、インバータ19を介してHVバッテリ20と接続されている。
ハイブリッド車両10は、補機バッテリ22からの電力により作動する複数の電力負荷を有する。例えば、補機バッテリ22は、後述するT/Mポンプ(第一電力負荷)40およびECBポンプ(第二電力負荷)31(図3参照)に電力を供給することができる。
ハイブリッド車両10には、エンジン11を含む車両システムを制御する制御手段として、電子制御装置(以下、HV−ECUと記す)100が設けられている。HV−ECU100は、周知のマイクロコンピュータを有しており、ハイブリッド車両10の走行制御を行う。HV−ECU100の図示しない入力ポートには、図示しない車速センサ、アクセル開度センサ等が接続されており、各センサの検出結果を示す信号がそれぞれHV−ECU100に入力される。また、HV−ECU100の図示しない出力ポートには、エンジン11、第1のモータジェネレータ17a、第2のモータジェネレータ17b、およびインバータ19が接続されており、エンジン11、第1のモータジェネレータ17a、第2のモータジェネレータ17b、およびインバータ19はそれぞれHV−ECU100により制御される。HV−ECU100は、HVバッテリ20および補機バッテリ22の状態(充電状態SOC、充放電の電流値、温度など)を監視しており、HVバッテリ20および補機バッテリ22の状態に基づいてHVバッテリ20および補機バッテリ22それぞれの充電および放電を制御する。
ハイブリッド車両10においては、車速およびアクセル開度などの条件に基づいて、駆動輪13に伝達するべき要求トルクが算出され、その算出結果に基づいて、エンジン11、第1のモータジェネレータ17a、および第2のモータジェネレータ17bが制御される。
ハイブリッド車両10は、少なくともエンジン11の動力によって走行するEHV走行(第一走行)が可能であるだけでなく、エンジン11を停止したままで、第2のモータジェネレータ17bの動力によって走行するEV走行(第二走行)が可能に構成されている。HV−ECU100は、HVバッテリ20の充電状態や走行状態等に基づいて、ハイブリッド車両10においてEHV走行あるいはEV走行を選択的に実行する。
EHV走行では、少なくともエンジン11の出力する動力により、ハイブリッド車両10を走行させる。エンジン11のトルクを駆動輪13に伝達する際には、第1のモータジェネレータ17aを発電機として機能させ、発生した電力をHVバッテリ20に充電することができる。さらに、第2のモータジェネレータ17bを電動機として駆動させ、その動力を変速機構12に伝達することができる。第2のモータジェネレータ17bは、ハイブリッド車両10の加速時等にエンジン11のトルクが不足する場合に、これをアシストすることができる。この場合、エンジン11の動力および第2のモータジェネレータ17bの動力は、合成されて変速機構12に入力される。合成された動力が変速機構12を介してドライブシャフト14から駆動輪13に伝達される。
また、第2のモータジェネレータ17bは、単独でもハイブリッド車両10の走行駆動源として機能することができる。HV−ECU100は、エンジン11を停止して第2のモータジェネレータ17bの動力によってハイブリッド車両10を走行させることができる。HV−ECU100は、例えば、ハイブリッド車両10の発進時など、低車速や軽負荷の走行状態において、EV走行を選択することができる。また、HV−ECU100は、EV走行を選択可能な走行状態であっても、HVバッテリ20の充電状態SOC(State of Charge)が低下している場合には、EHV走行でハイブリッド車両10を走行させる。
図3に示すように、ハイブリッド車両10は、制動装置として、ECB(Electronically Controlled Brake)システム30を備える。ECBシステム30は、ECB−ECU110、ECBポンプ31、アキュムレータ32、ブレーキ油圧制御装置33および各車輪のブレーキ装置34を有する。ECB−ECU110は、ECBシステム30の各装置を制御する制御装置である。ブレーキ装置34は、エネルギーとしての油圧が供給されることで作動してハイブリッド車両10に制動力を発生させるものである。また、アキュムレータ32は、油圧が蓄えられるものであり、ブレーキ装置34のエネルギー源である。アキュムレータ32は、蓄積された油圧(エネルギー)をブレーキ装置34に供給する蓄積部として機能する。
ECBポンプ31は、アキュムレータ32と接続されており、補機バッテリ22を含む低圧系の電源からの電力を消費してアキュムレータ32に油圧を蓄積することができる。ECBポンプ31は、アキュムレータ32に蓄積された油圧が減少した場合に作動を開始して、アキュムレータ32に油圧を蓄積する。ECBポンプ31は、例えば、アキュムレータ32の油圧が予め定められた閾値まで低下すると、油圧の蓄積を開始する。この閾値は、ブレーキ装置34がその機能を発揮できる油圧の範囲に基づいて決定される。例えば、油圧の閾値は、ブレーキ装置34がその機能を発揮できる下限の油圧よりも大きな値に設定される。これにより、アキュムレータ32は、ブレーキ装置34が作動するために十分な圧力の油圧を常に供給することができる。ブレーキ油圧制御装置33は、アキュムレータ32とブレーキ装置34とを接続する油路に設けられている。ブレーキ油圧制御装置33は、例えば、電磁弁であり、ECB−ECU110によって制御されてブレーキ装置34に供給する油圧を制御する。
ECB−ECU110は、ブレーキ操作量に応じて目標制動油圧を設定し、アキュムレータ32に蓄えられた油圧をブレーキ油圧制御装置33により調圧してブレーキ装置34のホイールシリンダへ供給することで、制動力を制御する。ECB−ECU110は、アキュムレータ32の油圧に基づいて、ECBポンプ31の作動を制御する。例えば、ECB−ECU110は、アキュムレータ32の油圧が予め定められた所定油圧以下となると、アキュムレータ32に油圧を蓄積するためにECBポンプ31を始動する必要があると判定する。ECBポンプ31は、ECB−ECU110から作動指令の信号を受けると、作動を開始してアキュムレータ32への油圧の供給を開始する。つまり、ECBポンプ31は、補機バッテリ22を含む低圧系の電源からの電力を消費することでブレーキ装置34のエネルギー源であるアキュムレータ32にブレーキ装置34が作動するための油圧を予め蓄積するものである。
ECB−ECU110は、CAN(Controller Area Network)システム70を介してHV−ECU100と接続されており、HV−ECU100とECB−ECU110とはCANシステム70を介して互いに信号を授受することができる。
ハイブリッド車両10には、変速機構12に供給される油圧を発生させるT/Mポンプ40が設けられている。T/Mポンプ40は、補機バッテリ22を含む低圧系の電源からの電力により作動して油圧を発生させる電動式の油圧ポンプ(EOP)である。T/Mポンプ40は、HV−ECU100によって制御される。また、ハイブリッド車両10は、エンジン11で駆動される図示しない機械式のオイルポンプ(エンジンオイルポンプ)を有する。エンジンオイルポンプは、エンジン11の回転と連動して回転することで油圧を発生させるものである。T/Mポンプ40およびエンジンオイルポンプで発生する油圧は、変速機構12に供給される。変速機構12では、T/Mポンプ40およびエンジンオイルポンプから供給される油圧により変速段の切替えがなされる。
EHV走行時には、エンジンオイルポンプが作動しており、エンジンオイルポンプから供給される油圧により変速機構12において変速が実行される。EV走行時には、エンジンオイルポンプが停止した状態となる。このため、ハイブリッド車両10においてEV走行を行うときには、エンジンオイルポンプに代えて、T/Mポンプ40を作動させる必要がある。つまり、T/Mポンプ40は、エンジン11の動力で駆動されてEHV走行において作動する機器であるエンジンオイルポンプに代えて、EV走行において作動するものである。HV−ECU100は、EHV走行からEV走行への移行に伴いエンジン11が停止されるときに、停止状態のT/Mポンプ40の作動を開始させる。なお、T/Mポンプ40は、エンジン11が停止されるときに限らず作動を開始するものであってもよい。例えば、EHV走行時にエンジンオイルポンプをアシストするためにT/Mポンプ40が作動してもよい。
本実施形態の車両制御システム1−1は、エンジン11、第2のモータジェネレータ17b、HV−ECU100、ECB−ECU110、補機バッテリ22、ECBポンプ31およびT/Mポンプ40を備える。
HV−ECU100は、補機バッテリ22における電力の授受を制御する。例えば、HV−ECU100は、補機バッテリ22の充電状態SOCや端子電圧が予め定められた所定範囲内の値となるように、補機バッテリ22における充放電を制御する。また、HV−ECU100は、補機バッテリ22における負荷が過大とならないように、補機バッテリ22に対する電力要求(低圧系の電源に対する電力要求)に制限をかけることができる。車両制御システム1−1では、補機バッテリ22からの電力の供給を受ける電力負荷に対して予め定められた優先順位が付されている。車両制御システム1−1は、優先順位の高い電力負荷への電力の供給を優先し、補機バッテリ22に対する電力要求が過大となる場合には、優先順位の低い電力負荷への電力の供給を遅延させる。相対的な優先順位の高い電力負荷からの電力要求と優先順位の低い電力負荷からの電力要求とが重なる場合、優先順位の高い電力負荷への電力供給が優先して実行され、優先順位の低い電力負荷への電力供給が遅延される。
各電力負荷の優先順位は、例えば、電力負荷の車両における重要度に応じて設定される。従来、例えば、安全に直接かかわる電力負荷になるほど優先順位が高めに設定されることがあった。ここで、優先順位に基づいて電力供給の遅延がなされる場合に、優先順位が低く設定された電力負荷は、作動タイミングが最適ではなくなる場合があり、その結果として燃費が低下する場合がある。また、従来の優先順位の決定方法では、電力負荷の特性に応じた優先順位が付けられていないために、電力消費量(燃費)に対して、電力負荷の作動順位が最適な作動順位とならない場合がある。車両における重要度等に基づく優先順位が同等である電力負荷が複数ある場合の優先順位の決定方法について、従来十分な検討がなされていない。
本実施形態の車両制御システム1−1では、電力負荷の特性に応じて優先順位が決定される。複数の電力負荷に対する補機バッテリ22からの電力の供給において、電力の供給が遅延された場合にハイブリッド車両10の燃費を低下させる度合いが大きい電力負荷(第一電力負荷)に対する電力の供給が、電力の供給が遅延された場合に燃費を低下させる度合いが小さい電力負荷(第二電力負荷)に対する電力の供給よりも優先される。つまり、第二電力負荷は、第一電力負荷よりも電力供給の優先順位が低くされる。これにより、電力の供給を遅延させることによる燃費の低下が抑制される。
図4は、蓄積式の電力負荷における作動閾値と作動時間との関係を示す図である。図4を参照して説明するように、ECBポンプ31のような電力を消費することでエネルギー源にエネルギーを予め蓄積する電力負荷では、作動閾値を変化させても作動時間は変化しない。蓄圧式、蓄電式、蓄温式等の蓄積式の電力負荷では、電力負荷の作動タイミングを遅らせても、ある一定時間で比較した場合の使用電力量は変化しない場合が多い。
図4において、横軸は時間、縦軸は、アキュムレータ32の油圧等のエネルギー源におけるエネルギー蓄積量を示す。例えば、アキュムレータ32の油圧が予め定められた閾値Ptまで低下したときにECBポンプ31を始動する制御を行う場合、ECBポンプ31の作動時間(例えば、単位時間あたりの平均作動時間)は、閾値を変化させたとしても同様の値となる。符号T1は、油圧が閾値Pt1まで低下するごとにECBポンプ31を始動させ、目標圧Peまでアキュムレータ32の油圧を上昇させる動作を繰り返した場合のECBポンプ31の作動時間を示す。また、符号T2は、閾値Pt1よりも大きな閾値Pt2でECBポンプ31を始動させるようにして、目標圧Peまでアキュムレータ32の油圧を上昇させる動作を繰り返した場合のECBポンプ31の作動時間を示す。
電力負荷の作動閾値Ptを変化させたとしても、一定時間における作動回数と作動時間との積は等しい値となる。言い換えると、単位時間Tuあたりの作動時間T1の合計と、作動時間T2の合計とは等しい。つまり、アキュムレータ32の油圧が閾値Pt2まで低下してECBポンプ31の始動判定がなされた場合に、ECBポンプ31への電力の供給が遅延されたとしても、燃費の低下にはつながりにくい。例えば、符号Pt1で示す油圧および符号Pt2で示す油圧の何れの油圧においてもブレーキ装置34がその機能を適切に発揮できるとする。この場合、閾値Pt2でECBポンプ31の始動判定がなされ、その後にアキュムレータ32の油圧が符号Pt1で示す油圧に低下するまでECBポンプ31の作動が遅延されたとしても、電力供給の遅延による燃費の低下は実質的に生じない。つまり、ECBポンプ31の作動を遅延させることを予め決めておき、想定される遅延時間等に基づいて作動閾値Ptを高めの油圧に設定しておけば、燃費の低下を招くことなく、ECBポンプ31の作動を遅延させることが可能である。
一方、ハイブリッド車両10において、T/Mポンプ40など、エンジン11の停止時にエンジン11の代わりとして作動する負荷(電気ヒータ、電動エアコン、電動オイルポンプなど)は、作動タイミングを遅らせると、結果的に燃費が低下する場合がある。例えば、T/Mポンプ40への電力供給が遅延されると、T/Mポンプ40が始動するまでエンジン11を停止させることができずに、エンジン停止のタイミングを遅らせる必要が出てくる。これにより、余分な燃料を消費するなどして、燃費の低下を招くことがある。このように、電力負荷の特性によって電力供給が遅延された場合に燃費を低下させる度合いが異なる。燃費に影響のある電力負荷の作動遅延頻度をなるべく少なくするように優先順位が設定されていないと、燃費を低下させてしまうこととなる。
本実施形態の車両制御システム1−1では、電力供給が遅延された場合の燃費への影響が大きい電力負荷(以下、単に「燃費影響大の電力負荷」と記載する。)への電力の供給が優先される。より具体的には、ECBポンプ31のように電力供給の遅延による燃費への影響が小さい電力負荷(以下、単に「燃費影響小の電力負荷」と記載する。)は、補機バッテリ22への電力要求を行う前に、作動予告フラグを立てる。図3に示すように、燃費影響小の電力負荷であるECBポンプ31の作動が必要と判定されると、ECB−ECU110は、作動予告を発し、作動予告フラグをONとする。作動予告フラグは、CANシステム70を介してHV−ECU100に伝達される。
原則として、燃費影響大の電力負荷であるT/Mポンプ40への電力の供給は、ECBポンプ31への電力供給よりも優先されるが、作動予告フラグがONである場合に限りECBポンプ31への電力供給よりも遅延される。ECB−ECU110は、ECBポンプ31とT/Mポンプ40の始動タイミングを確実にずらすことができるように、予告を発してからHV−ECU100に予告信号が伝わるまでのタイムラグの間は、ECBポンプ31の始動を遅延させる。これは、以下に図5を参照して説明するように、ECBポンプ31の始動時の突入電流と、T/Mポンプ40の始動時の突入電流とを時間的にずらすためである。
図5は、電力負荷に流れる電流を示す図である。図5において、横軸は時間、縦軸は電流をそれぞれ示す。符号I1は、T/Mポンプ40に流れる電流を示し、符号I2は、ECBポンプ31に流れる電流を示す。符号I1aに示すように、T/Mポンプ40への電力供給の開始時には、大きな電流(突入電流)が流れる。同様に、ECBポンプ31への電力供給の開始時には、符号I2aに示すように大きな電流(突入電流)が流れる。よって、ECBポンプ31の始動タイミングとT/Mポンプ40の始動タイミングとを適切にずらさないと、補機バッテリ22の負荷が過大となる可能性がある。
本実施形態では、ECBポンプ31およびT/Mポンプ40の一方の電力負荷の突入電流が収まるまで、他方の電力負荷の始動が行われない。これにより、突入電流が重なって補機バッテリ22の負荷が過大となることが抑制される。
ここで、図1を参照して本実施形態の動作について説明する。図1に示す制御フローは、ハイブリッド車両10の作動時に実行されるものであり、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS1では、HV−ECU100により、電力負荷の作動指令があるか否かが判定される。HV−ECU100は、T/Mポンプ40を作動させる必要があるか否かを判断する。例えば、EHV走行からEV走行に移行するときに、それまで停止していたT/Mポンプ40を作動させると判定される。ステップS1の判定の結果、T/Mポンプ40に対する作動指令があると判定された場合(ステップS1−Y)にはステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)には本制御フローはリターンする。
ステップS2では、HV−ECU100により、予告フラグがONであるか否かが判定される。HV−ECU100は、蓄積式システムであるECBポンプ31の作動予告フラグを参照する。ステップS2の判定の結果、予告フラグがONであると判定された場合(ステップS2−Y)にはステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)には本制御フローはリターンする。
ステップS3では、HV−ECU100により、遅延が必要であるか否かが判定される。HV−ECU100は、T/Mポンプ40に対する電力供給を遅延させる必要があるか否かを判定する。作動予告フラグがONであっても、車両の条件によっては、電源の負荷状況に余裕があるなどして遅延の必要性がない場合もある。HV−ECU100は、補機バッテリ22の充電状態SOCや、補機バッテリ22に対する現在の電力要求の内容などに基づいてステップS3の判定を行う。例えば、補機バッテリ22に対する電力要求の合計が、補機バッテリ22で出力を許容される電力の上限を超過している場合、ステップS3で肯定判定がなされる。なお、ステップS3では、コンバータ21を介してHVバッテリ20から供給される電力なども考慮して、補機バッテリ22を含む低圧系の電源全体の供給能力に基づく判定がなされてもよい。ステップS3の判定の結果、遅延が必要であると判定された場合(ステップS3−Y)にはステップS4に進み、そうでない場合(ステップS3−N)には本制御フローはリターンする。
ステップS4では、HV−ECU100により、作動遅延が実行される。HV−ECU100は、T/Mポンプ40に対する電力の供給を遅延させてT/Mポンプ40の始動タイミングを遅延させる。このときの遅延時間は、予告フラグの伝達時間、HV−ECU100内処理時間、HV−ECU100からT/Mポンプ40までの指令伝達時間、および遅延必要と判断した後のECBポンプ31の突入電流値とその時間特性等が考慮される。HV−ECU100は、ECBポンプ31の作動を優先させ、ECBポンプ31の始動による突入電流が収まったときにT/Mポンプ40が始動するように、T/Mポンプ40の作動遅延時間を決定する。HV−ECU100は、決定された遅延時間だけT/Mポンプ40の作動指令の実行を遅延させる。ステップS4でT/Mポンプ40の作動遅延が実行されると、本制御フローはリターンする。
T/Mポンプ40の作動遅延により、変速機構12への作動油の流量が減少する。このため、HV−ECU100は、作動遅延と同時に、状況に応じて変速遅延や第2のモータジェネレータ17bのトルク制限を実施する。例えば、HV−ECU100は、EHV走行からEV走行へ移行する過渡状態等において、変速機構12に対する変速要求がなされたとしても、T/Mポンプ40が始動するまで変速の実行を遅延させる。あるいは、HV−ECU100は、作動油の流量の減少に応じて、第2のモータジェネレータ17bの出力トルクを制限する。変速機構12のクラッチやブレーキにおいて発生可能な係合圧に基づいて、変速時の第2のモータジェネレータ17bの出力トルクが制限される。例えば、T/M油圧の残圧時間特性を考慮してトルク制限値などが設定される。なお、HV走行時であれば、エンジン11を停止しないように制御することで、T/Mポンプ40の作動遅延時の流量確保が可能である。
なお、T/Mポンプ40の作動遅延がなされても問題がないように、予め作動基準が変更されてもよい。例えば、EHV走行からEV走行への移行時におけるT/Mポンプ40の始動要求を前倒しするようにしてもよい。エンジン回転数に基づいてT/Mポンプ40の始動要求がなされる場合、T/Mポンプ40の作動遅延が発生しても影響がない(変速遅延やトルク制限の必要が生じない)ように、エンジン回転数が高い時点でT/Mポンプ40の作動要求がなされるようにすればよい。このように、T/Mポンプ40による流量アシスト判定を早めるようにすれば、燃費の低下を招くことなくT/Mポンプ40の作動遅延を実行することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態では、蓄圧のためのポンプであるECBポンプ31は、作動タイミングを変更しても燃費への影響がないため、作動予告を発する側とされている。ECBポンプ31とT/Mポンプ40の始動タイミングを確実にずらすためには、T/Mポンプ40側に予告信号が伝わるまでのタイムラグの間はECBポンプ31の始動を待たなければならない。つまり、ECBポンプ31は、毎回始動が遅延されることとなり、電力供給の優先度が低い。これに対して、T/Mポンプ40は、作動が遅延されると燃費が低下するため、ECBポンプ31の作動予告があるときだけ遅延する側とされ、作動予告がない場合にはT/Mポンプ40の作動指令が即時実行される。
従って、例えばECBポンプ31の作動指令とT/Mポンプ40の作動指令とが同時に生成された場合には、T/Mポンプ40の作動指令が優先して実行される。これは、T/Mポンプ40の作動指令が出された時点では、ECBポンプ31の作動予告信号が未だHV−ECU100に届いていないからである。このように、本実施形態の車両制御システム1−1では、T/Mポンプ40に対する電力供給の優先順位は、ECBポンプ31に対する電力供給の優先順位よりも上である。これにより、T/Mポンプ40の作動遅延の頻度が低下することで、補機バッテリ22の負荷が過大とならないように電力負荷への電力供給の作動遅延がなされる場合の燃費の低下を最小限にとどめることが可能となる。
(第1実施形態の変形例)
上記実施形態では、作動予告を発信する(毎回作動遅延する)側が、ECBポンプ31であったが、これには限定されない。エネルギー蓄積式の装置であれば、作動予告を発信する側の電力負荷となることができる。
例えば、蓄熱式の装置として、車室内のエアコン、冷媒循環装置(冷却水ポンプなど)、冷蔵庫、ヒーター、バッテリ冷却ファン、インバータ冷却素子・ポンプ・ファンなどが挙げられる。また、蓄電式の装置として、電源瞬断などに備える、電源電圧低下時のバックアップ用コンデンサなどが挙げられる。また、蓄圧式の装置として、機器の動作に備えて作動流体の圧を高く維持するための電動ポンプ、エアサスペンション用コンプレッサなどが挙げられる。
また、予告を受信する側は、T/Mポンプ40に限らない。T/Mポンプ40に代えて、任意の装置が予告を受信する側の電力負荷となることができる。例えば、エンジン停止時に作動させなければならない電力負荷、HVにおいてエンジン11により駆動される機器の代わりに作動する電力負荷、HVの電動エアコンなどが挙げられる。なお、予告受信側の電力負荷は、予告を受信した場合に作動遅延を許容できることが必要である。
ECBポンプ31の作動の感知は、作動予告フラグに代えて、作動フラグや消費電流をモニタリングして行ってもよい。
作動予告フラグの伝達は、CANシステム70以外の方法(直線、LIN、電波など)で行われてもよい。また、作動予告フラグの伝達について、多重系とすることで信頼性を向上させてもよい。
T/Mポンプ40に対する作動遅延の必要性判断は、電力消費状況をモニタリングして行ってもよく、設計的に見積もった上で予め遅延必要領域をHV−ECU100に記録して行ってもよい。例えば、ハイブリッド車両10の走行条件において、T/Mポンプ40の作動遅延が必要と判断する領域を予め設定しておくようにしてもよい。
T/Mポンプ40の作動を遅延させるときの作動遅延時間は、上記実施形態のものに代えて、一律の設定値とされてもよい。また、上記実施形態において、T/Mポンプ40の作動を遅延させるときの状況(タイミング、油温など)に応じて作動遅延時間が決定されてもよい。
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
上記第1実施形態では、電力負荷同士の相対的な電力供給の優先順位の高低は、変化しなかった。例えば、T/Mポンプ40とECBポンプ31とでは、相対的にT/Mポンプ40に対する電力供給の優先順位が常に高い。本実施形態では、相対的な電力供給の優先順位の高低が、ハイブリッド車両10の走行状態に応じて変化する。これは、各電力負荷において、電力供給が遅延された場合に燃費を低下させる度合いが走行状態によって変化することもあるためである。
例えば、EHV走行時において、エンジンオイルポンプのアシストのためにT/Mポンプ40を作動させる場合、T/Mポンプ40の作動を遅延させたとしても、燃費を低下させる度合いは小さい。一方、EHV走行からEV走行への移行時にT/Mポンプ40を作動させる場合、T/Mポンプ40の作動を遅延させると、燃費を低下させる度合いは大きなものとなる。つまり、T/Mポンプ40において、EHV走行からEV走行へ移行する走行状態(所定の走行状態)では、所定の走行状態以外の走行状態におけるよりも、電力供給が遅延された場合にハイブリッド車両10の燃費を低下させる度合いが大きくなる。
このように、ある所定の電力負荷において、電力供給の遅延がなされた場合に燃費を低下させる度合いが走行状態に応じて変化する場合がある。本実施形態では、こうした所定の電力負荷を有する車両において、燃費を低下させる度合いが大きくなる所定の走行状態では、それ以外の走行状態よりも、所定の電力負荷に対する電力供給の優先順位が高くされる。この場合、予め定められた優先順位にかかわらず、燃費影響大の電力負荷(第一電力負荷)に対する電力供給が燃費影響小の電力負荷(第二電力負荷)に対する電力要求よりも優先される。
例えば、予め定められた優先順位において、ECBポンプ31の優先順位がT/Mポンプ40の優先順位よりも高いとしても、所定の走行状態(EHV走行からEV走行へ移行する走行状態)では、T/Mポンプ40に対する電力供給がECBポンプ31に対する電力供給よりも優先される。つまり、ハイブリッド車両10が所定の走行状態にある場合には、ECBポンプ31が第二電力負荷で、かつT/Mポンプ40が第一電力負荷という関係となり、T/Mポンプ40に対する電力供給がECBポンプ31に対する電力供給よりも優先される。一方、ハイブリッド車両10が所定の走行状態にない場合には、予め定められた優先順位に基づき、ECBポンプ31に対する電力供給がT/Mポンプ40に対する電力供給よりも優先される。このように走行状態によって優先順位の高低が入れ替わる場合、優先順位の低い方の電力負荷が作動予告フラグを発する側となるようにすればよい。
このように、ハイブリッド車両10が所定の走行状態にある場合に限り、そうでない場合よりも所定の電力負荷に対する電力供給の優先順位が高くされることで、電力負荷への電力の供給を遅延させることによる燃費の低下が抑制される。また、ハイブリッド車両10が所定の走行状態にない場合には、予め定められた優先順位に応じて遅延すべき電力負荷が決定されることで、当初の優先順位に対応する効果を奏する。
なお、所定の走行状態とは、所定の走行状態以外の走行状態よりも、T/Mポンプ40(第一電力負荷)に対する電力供給が遅延された場合に燃費を低下させる度合いが大きくなる走行状態には限定されない。例えば、所定の走行状態とは、T/Mポンプ40(第一電力負荷)とECBポンプ31(第二電力負荷)とで電力供給が遅延された場合に燃費を低下させる度合いの差が大きくなる走行状態であってもよい。所定の走行状態では、T/Mポンプ40に対する電力供給を遅延させた場合の燃費の低下度合いがECBポンプ31に対する電力供給を遅延させた場合の燃費の低下度合いよりも大きく、所定の走行状態以外の走行状態では、何れの電力負荷に対する電力供給を遅延させても燃費への影響は大きく異なることがないのであれば、所定の走行状態で電力供給の優先順位を入れ替えることで、燃費の低下を抑制可能となる。
また、所定の走行状態と、所定の走行状態以外の走行状態とで二つの電力負荷の燃費への影響度合いが逆転する場合にも本実施形態の制御は有効である。例えば、所定の走行状態では、T/Mポンプ40に対する電力供給が遅延された場合の燃費の低下度合いが、ECBポンプ31に対する電力供給が遅延された場合の燃費の低下度合いよりも大きく、これとは逆に、所定の走行状態以外の走行状態では、ECBポンプ31に対する電力供給が遅延された場合の燃費の低下度合いが、T/Mポンプ40に対する電力供給が遅延された場合の燃費の低下度合いよりも大きくなることが考えられる。このような場合に、所定の走行状態において、予め定められた電力供給の優先順位にかかわらず電力供給の優先順位を入れ替えるようにすれば、電力供給を遅延させる場合の燃費の低下を抑制することができる。
なお、当初の優先順位の決定基準によっては、ハイブリッド車両10が所定の走行状態にある場合であっても、優先順位の逆転を禁止するようにしてもよい。例えば、安全に直接かかわる度合いによって相対的な優先順位の上下が設定されている電力負荷同士では、燃費に与える影響に応じて優先順位の上下を入れ替えることが禁止されるようにすればよい。