JP5503515B2 - 乾式伸線性に優れた高炭素鋼線材およびその製造方法 - Google Patents

乾式伸線性に優れた高炭素鋼線材およびその製造方法 Download PDF

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本発明は、乾式伸線に供される、伸線性に優れた高炭素鋼線材およびその製造方法に関するものである。
タイヤ補強用のスチールコード、ビードワイヤ、ソーワイヤ、ベルトコードなどに使用される極細鋼線は、素材である高炭素鋼線材を必要な線径に伸線加工することによって製造される。この際、良好な伸線性を得るため、高炭素鋼線材の乾式伸線工程の途中で、1〜2回中間パテンティング処理を施すことが行われている。この中間パテンティング処理を含む乾式伸線工程は、主としてサイズ調整のための工程であり、この伸線時に断線すると、極細鋼線の生産性が著しく阻害されるためである。この乾式伸線後に、最終のパテンティング処理を経て施される湿式伸線が、極細鋼線の要求品質を決定する。
このような極細鋼線の素材である前記高炭素鋼線材にも、当然ながら良好な伸線性が求められる。この素材である高炭素鋼線材は、熱間圧延によって製造されるが、従来から、この熱間圧延後に、熱延線材を水冷し、衝風冷却することによって、線材組織を、良好な伸線性が得られる、微細パーライトにしている。
前記した通り、サイズ調整のための工程である乾式伸線工程は、品質よりも、生産性向上や生産コストの低減などの課題が主である。具体的には、より細い線径への伸線、伸線中の断線抑制、中間パテンティングの省略、伸線ダイスの寿命向上、伸線速度の上昇、伸線機モータの負荷軽減による消費電力の削減などが課題となる。したがって、これらを実現可能にした素材高炭素鋼線材が従来から求められている。
かかる要求に対して、従来から、高炭素鋼線材のパ−ライト組織の制御によって伸線性を向上させる技術が多数紹介されている。
例えば、特許文献1は、高炭素鋼線材のパ−ライトブロックの大きさを鋼のオ−ステナイト結晶粒度番号で6〜8番に、初析セメンタイトの生成量を体積率で0.2%以下に、パ−ライト中のセメンタイト厚さを20μm以下に、そしてこのセメンタイト中に含まれるCrの濃度を1.5%以下に調整することによって、乾式伸線時の中間パテンティング処理を省略する。
特許文献2は、前記特許文献1と同様に、高炭素鋼線材のオーステナイト結晶粒度制御や、パーライトコロニーサイズ制御、初析フェライト、初析セメンタイトの形状制御等により、乾式伸線時の中間パテンティング処理を省略する。
特許文献3は、高炭素鋼線材の線材横断面に存在する粒内変態上部ベイナイトの生成面積を30%以上、その粒内ベイナイトの成長サイズを2μm以上として、熱間圧延線材の生引き性を向上させる。
ここで、前記パーライト組織は周知であって、図1に前記パーライト組織を模式的に示す。なお、この図1は、高橋らの「共析パーライト鋼の延性支配因子」日本金属学会誌、vol42、1978、708頁に開示のパーライト組織図をベースとしている。この図1に示す通り、前記パーライト組織は、オーステナイト粒界から生まれて成長する、硬いセメンタイト相と柔らかいフェライト相との層状組織であり、加工性と強度とを併せ持つ。このフェライト相を間に挟むセメンタイト相同士の幅(間隔)がラメラ間隔Lであり、ラメラ間隔が狭いほど、高強度化が図れる。前記パーライトのコロニーとは、パーライトのラメラの方向が揃った(同じ)領域をいう。このように、互いに隣り合い、前記ラメラの方向が互いに異なるコロニーの複数によって、フェライト結晶方位が一定の領域であるパーライトノジュール(パーライトブロックともいう)が形成される。
近年、特に、前記中間パテンティングの省略、伸線ダイスの寿命向上、伸線速度の上昇などの課題に対する特徴的な対応として、素材高炭素鋼線材が軟質化される傾向にある。これは乾式伸線加工に伴う鋼線の強度上昇によって、鋼線の引抜抵抗が上昇し、伸線機モータの負荷が上昇して消費電力が増加するとともに、加工発熱の増大により、潤滑が不十分となり、鋼線の脆化や伸線ダイスの寿命の低下が起こる傾向が高まったためである。素材高炭素鋼線材の軟質化=鋼線強度の低下によって、鋼線の引抜抵抗が低減して加工発熱が低下し、鋼線の脆化が抑制され、伸線ダイス寿命が向上する。これによって、これまでは制約されていた、前記中間パテンティングの省略や伸線速度の上昇も可能になる。
このような観点で、高炭素鋼線材のパ−ライト組織に更に注目し、パ−ライトの前記ラメラ間隔や前記ノジュール径などを制御して、前記中間パテンティングの省略や更なる伸線速度の上昇を図る技術が提案されている。
例えば、特許文献4は、高炭素鋼線材のパーライトの平均コロニー径を150μm 以下とし、平均ラメラ間隔を0.1〜0.4μm とすることにより、伸線性を向上させる技術が紹介されている。なお、熱間圧延後の高炭素鋼線材は、この特許文献4に記載されているように、水冷により巻き取り温度を調節し、引き続きステルモアコンベアやローラーコンベアなどの調整冷却装置により衝風量を調整することにより製造される。
特許文献5では、組織が95面積%以上のパーライトの平均ラメラ間隔Sを100nm以上に広げるとともに、平均ノジュール径Pを30μm 以下として粗大化を防止することによって、耐断線性を保ちながら、伸線ダイス寿命の向上や更なる伸線速度の上昇を図る技術が提案されている。
特許文献6では、パーライトの面積分率が95%以上であり、ラメラー間隔が0.08〜0.35μmであり、非拡散性水素量が0.5ppm以下であること高強度極細鋼線の製造において、中間パテンティングの省略を可能にし、伸線加工工程及び撚り線工程の断線率の低下を図る技術が提案されている。
特許文献7では、金属組織の80%以上がパーライト組織からなるとともに、高炭素鋼線材の平均引張強さTSと平均ラメラ間隔λとの間に、TS≦8700/√(λ/Ceq)+290の関係を持たせ、ラメラセメンタイトの機械的な性質を軟質化することで、線材を一層軟質化する技術が提案されている。
特開2004−91912号公報 特開2001−181789号公報 特開平8−295930号公報 特開2000−63987号公報 特許第3681712号公報 特開2008−261028号公報 特開2005−206853号公報
しかしながら、近年の環境負荷軽減の動向から、乾式伸線工程の生産性向上、コスト低減のために、高炭素鋼線材の伸線性向上に対する要求は高まるばかりである。これに対して、従来のように、高炭素鋼線材の前記軟質化技術だけでは、伸線性向上効果が不十分となってきている。
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、乾式伸線工程の生産性を著しく向上させた、優れた伸線性を有する高炭素鋼線材およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための、本発明高炭素鋼線材の要旨は、乾式伸線に供される高炭素鋼線材であって、質量%で、C:0.68〜0.86%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.1〜0.8%を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなるとともに、組織が95面積%以上のパーライトを有し、このパーライトの平均ノジュール径が40μm 以下で、このパーライトの平均ラメラ間隔Lが150〜300nmの範囲であり、更に、このパーライトの平均コロニー径Dcが20μm以下であり、かつ、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとがDc≧0.02×L+3.5の関係を満たすこととする。
また、上記目的を達成するための、本発明高炭素鋼線材の製造方法の要旨は、乾式伸線に供される高炭素鋼線材の製造方法であって、質量%で、C:0.68〜0.86%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.1〜0.8%を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼片を、加熱して仕上温度1050〜900℃で熱間圧延を行い、この熱間圧延における仕上圧延終了後、直ちに950〜800℃の範囲内の温度に水冷し、引き続き30℃/s以上の平均冷却速度にて640〜580℃の範囲内の温度に急冷した後、この温度域での滞在時間を5秒以内とした上で、650〜720℃の範囲内の温度に50℃/s以上の平均昇温速度で急速に加熱し、更に、この650〜720℃の温度範囲内で0.5〜2℃/sの範囲の緩やかな平均昇温速度で加熱しながらパーライト変態を完了させた線材とし、この線材の組織を、95面積%以上のパーライトを有し、このパーライトの平均ノジュール径Dが40μm 以下で、このパーライトの平均ラメラ間隔Lが150〜300nmの範囲であり、更に、このパーライトの平均コロニー径Dcが20μm以下であり、かつ、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとがDc≧0.02×L+3.5の関係を満たす組織とすることである。
本発明者は、前記乾式伸線工程におけるダイス寿命向上、伸線速度上昇、モータ負荷軽減など一層の製造性向上、低コスト化のためには、前記高炭素鋼線材のパーライトのラメラ間隔(平均ラメラ間隔L)をある程度広くし、線材の強度を下げ、引抜抵抗を低下させることが必須であるとの認識に立った。そして、このような前提のもとで、前記乾式伸線工程における引抜抵抗を更に低減させる伸線性向上策について研究した。
この結果、パーライトのラメラ間隔とコロニー径のバランスが、乾式伸線時の加工硬化に大きく影響しており、バランス適正化によって加工硬化を低減し、伸線加工時の引抜抵抗を従来以上に低減しうることを知見した。すなわち、パーライトラメラ間隔を適正に制御した上で、パーライトコロニー径を粗大化することで乾式伸線時の加工硬化が低減し、引抜抵抗が低下する。
本発明によれば、前記した乾式伸線時の生産性向上や生産コストの低減など(より細い線径への伸線、伸線中の断線抑制、中間パテンティングの省略、伸線ダイスの寿命向上、伸線速度の上昇、伸線機モータの負荷軽減による消費電力の削減など)を図ることができる。
高炭素鋼線材の組織を示す模式図である。 本発明高炭素鋼線材の組織規定を示す説明図である。 本発明高炭素鋼線材の製造方法を示す説明図である。 本発明高炭素鋼線材の伸線性向上の機構を示す説明図である。
化学成分組成:
まず、本発明高炭素鋼線材の化学成分組成の限定理由について説明する。本発明高炭素鋼線材の化学成分組成は、乾式伸線に供される高炭素鋼線材として、後述する鋼線材組織とするための前提となる。また、乾式伸線工程の生産性向上、やコスト低減のための伸線性向上や、本発明の対象とするタイヤ補強用などの極細鋼線として要求される強度などの機械的特性を確保するための前提となる。
このため、本発明高炭素鋼線材は、質量%で、C:0.68〜0.86%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.1〜0.8%を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学成分組成とする。
なお、以下の元素含有量の単位は全て質量%だが、単に%と表記する場合もある。
これら以外のその他の元素は、基本的には不可避的不純物であり、通常の、高炭素鋼線材の不純物含有量 (許容量) レベルとする。但し、本発明の対象とするタイヤ補強用などの極細鋼線として供するにあたり、延靭性確保のために、P、S、Nや、断線原因となる酸化物制御のために、Al、Oなどの含有量は少ない方が良い。
以下に、各主要元素の含有量と、その限定理由(意義)について説明する。
C:0.68〜0.86質量%
Cは高炭素鋼線材の強度を確保するための基本元素であり、C含有量が少なすぎると、本発明の対象とするタイヤ補強用などの極細鋼線として要求される強度を確保できない。また、鋼線材の製造過程でパーライト主体の組織にならず、伸線性に悪影響を及ぼす場合がある。一方、C含有量の増加は、強度増加に直結するが、過度の添加は延性を劣化させるし、初析セメンタイトが生成して、伸線性を阻害するようになる。このため、C含有量は0.68〜0.86%の範囲とする。
Si:0.05〜0.5質量%
Siは脱酸作用とパーライト組織の安定化に寄与する。また、固溶強化により強度を高める作用を有する。本発明の対象とするタイヤ補強用などの極細径に伸線加工された極細鋼線では、Siを脱酸剤として添加し、硬質なアルミナ系介在物の生成を防止することが、強度などの機械的特性を確保するために重要となる。Si含有量が少な過ぎるとこれらの効果が不足するが、一方で過度の添加は、酸化物の粗大化、線材の強度上昇、剥離しがたいスケールを生成、フェライトを固溶強化し過ぎするなど、伸線性を阻害する。このため、Si含有量は0.05〜0.5%の範囲とし、下限値は好ましくは0.07%、より好ましくは0.10%、更に好ましくは0.15%とする。また、上限値は好ましくは0.45%、より好ましくは0.40%、更に好ましくは0.35%とする。
Mn:0.1〜0.8質量%
Mnは脱酸、脱硫作用と、固溶強化による強度向上作用があり、パーライト組織の安定化に寄与する。Mn含有量が少な過ぎるとこれらの効果が不足するが、一方で過度の添加は、偏析による組織の均−性の低下(不均一化)や、硫化物の粗大化を生じて伸線性を劣化させる。また、フェライトを固溶強化しすぎて伸線性を低下させるようにもなる。このため、Mn含有量は0.1〜0.8質量%の範囲とし、下限値は好ましくは0.15%、より好ましくは0.20%、更に好ましくは0.25%とする。また、上限値は好ましくは0.75%、より好ましくは0.70%、更に好ましくは0.60%とする。
Al:
Alは有効な脱酸元素として知られるが、硬質なアルミナ系介在物は極細径に伸線加工される線材では断線原因になり、伸線性を低下させる。また、極細鋼線の機械的な特性も低下させる。このために、Al含有量は不可避的不純物として少ないほど好ましく、具体的には0.0050%以下に規制する。厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層の低減が必要であり、好ましくは0.0035%以下、更に好ましくは0.0025%以下とする。
P:
Pは不可避的不純物元素であり、特にフェライトを固溶強化するため、伸線性を著しく劣化させるなど影響が大きい。また、過度に含有すると鉄鋼材料の靭延性が劣化するので、含有量は少ないほど好ましい。具体的には、P含有量は0.02%以下とし、厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層低減して、好ましくは0.010%以下、更に好ましくは0.007%以下とする。
S:
Sも不可避的不純物元素であり、過度に含有すると、硫化物のサイズ、量が増加し、延性が劣化する。また、介在物MnSを生成して伸線性を阻害する。このため、含有量は少ないほど好ましく、具体的には、S含有量は0.020%以下とし、厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層低減して、好ましくは0.010%以下、更に好ましくは0.007%以下とする。
N:
Nも不可避的不純物元素であり、フェライトに固溶して、伸線時に発熱による時効硬化やひずみ時効硬化させ、鋼線の強度を上昇させて靭延性を劣化させ、伸線性の低下への影響が大きい。このため、含有量は少ないほど好ましく、具体的には0.0040%以下とする。厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層低減して、好ましくは0.0030%以下、更に好ましくは0.0025%以下とする。
O:
Oも不可避的不純物元素であり、鋼中酸素量の増加は粗大酸化物を招き、断線原因となる。このため、含有量は少ないほど好ましく、具体的には0.0030%以下とする。厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層の低減が必要であり、上限を好ましくは0.0020%以下、更に好ましくは0.0015%以下とする。
組織:
次に、本発明の高炭素鋼線材の組織について説明する。先ず、組織と伸線性との関係について説明して、本発明組織の各要件の限定理由について明確化する。
本発明では、前記した組成の高炭素鋼線材の組織について、前提として、95面積%以上のパーライトを有するパーライト主体の組織とする。95面積%以上のパーライトを有さないと、前記した組成としても、基本特性となる伸線性が低下する。
前記図1に示した通り、前記パーライト組織は、パーライトラメラ(以下、単にラメラとも言う)、パーライトコロニー(以下、単にコロニーとも言う)、パーライトノジュール(またはパーライトブロック、以下、単にノジュールとも言う)という組織単位で構成された、階層的な組織構造を持つ。前記ラメラはセメンタイトとフェライトの層状構造、コロニーは同一方向にラメラが並んだ組織単位、前記ノジュールはフェライトの結晶方位が同一の組織単位として定義される。
本発明は、このような図1の高炭素鋼線材の前記パーライト組織において、前記パーライトの平均ノジュール径Dが40μm 以下で、このパーライトの平均ラメラ間隔Lが150〜300nmの範囲であり、更に、このパーライトの平均コロニー径Dcが20μm以下であり、かつ、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとがDc≧0.02×L+3.5の関係を満たすことと規定している。前記ノジュール径D、前記コロニー径Dcの測定方法については後述する実施例にて説明する。
図2に、この本発明高炭素鋼線材の組織規定を示す。図2において、縦軸がパーライトの平均コロニー径Dc、横軸がパーライトの平均ラメラ間隔Lである。そして、図2の斜線の範囲が、本発明で規定するDc≧0.02×L+3.5の関係を満たす範囲である。この斜線範囲の下限である斜めの線が、前記関係式のうちで、Dc=0.02×L+3.5となるラインである。
この本発明組織規定の技術的な理由(意義)を、鋼線強度(引抜抵抗)の低減と、延性の劣化の防止とを合わせた観点から、以下の通り説明する。
乾式伸線における鋼線の脆化は、伸線加工ひずみによって導入された多量の転位を、伸線時の鋼線の温度上昇によって炭素や窒素が固着する、いわゆるひずみ時効によって生じることが知られている。伸線時の鋼線の温度上昇は、加工発熱や摩擦によって生じるため、鋼線の軟質化(強度低下)は、引抜抵抗を低下させ、前記伸線時の鋼線の温度上昇を軽減でき、鋼線の脆化を抑制できる。
このため、前記した通り、従来技術では伸線加工前の線材を軟質化することで、伸線加工後の鋼線強度を低下させ、引抜抵抗を低減、加工発熱を低減し、ダイス寿命向上や伸線速度上昇、モーター負荷軽減による省電力化を可能にしてきた。ここで乾式伸線工程での伸線性向上のための本質的な技術課題は、引抜抵抗を低減させるために伸線加工後の鋼線強度を低下させることであり、線材の軟質化は手段の一つである。
ただ、線材の強度は、線材の主たる構成組織であるパーライトの強度因子であるラメラ間隔(平均ラメラ間隔L)で決定されるために、前記線材の軟質化の指針は、当然、このラメラ間隔(平均ラメラ間隔L)の拡大もしくは適正化となる。ただ、このラメラ間隔の拡大には限界があるため、前記パーライト組織の軟質化による引抜抵抗低減には自ずと限界があった。
そこで、本発明者らは、更なる伸線性向上のために、鋼線強度を低下(引抜抵抗低下)させる別の手段として、伸線加工による加工硬化に着目した。伸線加工中に必然的に鋼線は加工硬化する。しかし、この鋼線の加工硬化挙動を制御することで鋼線強度を低下させることを検討した。
すなわち、従来の技術思想と本発明の技術思想との違いを、図4に模式的に示す。図4は伸線におけるひずみε(横軸)と、鋼線の強度(TS)との関係、即ち、伸線加工中の鋼線の加工硬化を示している。即ち、図4における各線の傾きの大きさが加工硬化量(ΔTs)の大きさを示している。
前記した通り、従来はパーライトの強度因子であるラメラ間隔(平均ラメラ間隔L)を拡大して線材を軟質化している。このようにラメラ間隔を拡大しても図4の一番上の実線から真ん中の実線で示すように、強度が低下して軟質化されても、伸線加工中の鋼線の加工硬化量(実線の傾きΔTs)は変化しない。このため、ラメラ間隔を拡大しても、図4の真ん中の実線のように、一番上の実線と平行に、加工硬化によって強度が増加してしまう。ラメラ間隔の拡大によっても鋼線の強度低下に自ずと限界があったのは、このような理由による。
これに対して、本発明では、図4の一番したの点線のように、伸線加工中の鋼線の加工硬化量(点線の傾きΔTs)を、図4の一番上の実線に比して小さくする。これによって、伸線加工中の鋼線の加工硬化による強度増加を抑制して、伸線性を向上させる。
したがって、図4の左端で、伸線加工前の従来の真ん中の実線と本発明の点線とが重複しているように、素材である線材のパーライトラメラ間隔が等しい(強度が等しい)場合でも、伸線加工による加工硬化を小さくすることで、鋼線の強度を低下させることができ、引抜抵抗を低下させ、ダイス寿命向上や伸線速度上昇、モーター負荷軽減による省電力化を図ることができる。
伸線加工時の加工硬化、伸線加工性に関しては、素材である線材に固溶Nが存在すると、伸線加工時に、加工ひずみによって導入された多量の転位に固着して鋼線の強度を上昇させ、伸線加工性が劣化することが従来より知られている。特許第3572993号公報や特許第4003450号公報では、B、Ti、Nbを適量添加することによってNを固定し、伸線性を向上する技術が開示されている。しかし、これらに共通するのは、パーライト組織と加工硬化の関係については十分検討されていない点である。
そこでまず、本発明者らは、加工硬化を小さくするためのパーライト組織制御指針について研究を行った。前記図1で説明した通り、ラメラはセメンタイトとフェライトの層状構造、コロニーは同一方向にラメラが並んだ組織単位、前記ノジュールはフェライトの結晶方位が同一の組織単位として定義される。そして、これら組織単位のサイズはパーライト変態条件によって変化し、ラメラやコロニーサイズは変態温度が高いほど粗大化、ノジュールは旧γ粒径が粗大で、変態温度が高いほど粗大化することが知られている。
これら組織因子とパーライト鋼の機械的特性の関係に関しては、ラメラ間隔は強度、ノジュールは延性に影響することが各々知られているが、コロニーに関してはその影響は明らかでない。その理由の一つとして、前記した通り、コロニーサイズ(パーライトの平均コロニー径Dc)は、ラメラ間隔(平均ラメラ間隔L)と同様に変化するため、これらお互いのバランスを変化させる(調整する)ことが困難なためである。
一方で、本発明のようなパーライト鋼を伸線すると、ラメラ組織が伸線方向に配向することが知られており、この組織変化を考慮すると、伸線によるパーライトの加工硬化は、ラメラ組織の配向のしやすさに影響を受けると考えられる。また、配向のしやすさは前記コロニーサイズに影響されると思われる。
このような考えのもと、本発明者らは、強度を支配するラメラ間隔と、加工硬化に影響すると思われる前記コロニーサイズのバランスを改善することで、伸線後の強度(伸線中の引抜抵抗)を低減できるものと考え、鋭意研究を行った。その結果、前記ラメラ間隔(平均ラメラ間隔L)との関係で、前記コロニーサイズ(パーライトの平均コロニー径Dc)を比較的粗大にした方が、加工硬化量の低減に有効であることを見出した。
このため、本発明では、前記ラメラ間隔として平均ラメラ間隔Lを適正な範囲に制御した上で、コロニーサイズとのバランスをより粗大な方へ変化させることにより、鋼線強度(引抜抵抗)を従来以上に低減することを可能にした。即ち、本発明では、具体的に、95面積%以上のパーライト組織において、パーライトの平均ラメラ間隔Lを150nm以上とし、この平均ラメラ間隔Lとの関係で、平均コロニー径Dcを、Dc≧0.02×L+3.5の関係を満たすように、粗大化させる。
但し、このように、前記コロニーサイズなど、単に組織を粗大化させると、周知の通り鋼線の延性劣化を招き、この延性劣化により、伸線中に断線が発生すると伸線工程の生産性を著しく害するので、一方では延性の確保も必要である。この点、本発明においては、各種組織因子と延性との関係について調査し、パーライトの平均ラメラ間隔Lを300nm以下、パーライトの平均コロニー径Dcを20μm以下で、かつ、パーライトの平均ノジュール径Dを40μm 以下とすることで、前記延性の劣化を防止できる。
したがって、本発明では、これら鋼線強度(引抜抵抗)の低減と延性の劣化の防止を合わせて図るために、高炭素鋼線材の組織を、先ず、95面積%以上のパーライトを有し、このパーライトの平均ノジュール径Dが40μm 以下で、このパーライトの平均ラメラ間隔Lが150〜300nmの範囲とする。
平均ラメラ間隔L:
平均ラメラ間隔Lについて、ラメラ間隔はパーライト鋼の強度支配因子であり、微細化するとパーライト線材の強度は上昇する。伸線加工中の引抜抵抗を現ずるためには、まずパーライトラメラ間隔を所定以上に拡大することが前提となる。ラメラ間隔Lとパーライト鋼の強度σは、一般にσ∝L-1/2の関係で整理できることが知られており、ラメラ間隔を微細化するほど強度は顕著に急上昇する。平均ラメラ間隔Lが150nm未満では、強度上昇が大きくなるため、本発明では線材強度を十分低下させるため平均ラメラ間隔Lの下限を150nmとした。
一方、ラメラ間隔が広がるほど、線材強度は低下するが、過度に粗大化すると、延性に悪影響を及ぼす。これは、ラメラ間隔の粗大化に伴ってラメラセメンタイトが厚くなりすぎると、塑性変形能が低下するとともに、加工時のセメンタイトへの応力集中が大きくなるため、粗大なボイド、クラックが容易に生成しやすくなることに起因する。それゆえ、本発明では、伸線加工時の耐断線性を確保するために、平均ラメラ間隔Lの上限を300nmとする。
したがって、本発明では平均ラメラ間隔Lの範囲は150〜300nmとする。ここで、平均ラメラ間隔Lの下限は好ましくは165nm以上、更に好ましくは180nm以上、一層好ましくは200nm以上とする。また、平均ラメラ間隔Lの上限は、好ましくは280nm以下、更に好ましくは260nm以下、一層好ましくは240nm以下とする。
平均ノジュール径D:
前記ラメラ間隔Lの粗大化にともない、一般的に、パーライトの平均ノジュール径Dが粗大化する傾向にあるが、延性不足による断線という観点からは、従来から指摘されているように、ノジュール径Dを制御し、粗大化を抑制することも重要である。ノジュール径Dの延性に対する影響は、前記ラメラ間隔Lとは異なる。加工時にラメラ内で発生したボイドが連結し、クラックとして成長する際に、ノジュール界面がクラック成長の抵抗となる。このため、線材のノジュール径Dが微細なほど、前記クラックの成長が抑制され、延性に優れる。このため、パーライトの平均ノジュール径Dの上限は40μm 以下、好ましくは35μm以下、更に好ましくは30nm以下、一層好ましくは25μm以下とする。
その上で、本発明では、前記した鋼線強度(引抜抵抗)の低減と延性の劣化の防止を合わせて図るために、前記した通り、高炭素鋼線材の組織を、更に、前記パーライトの平均コロニー径Dcが20μm以下であり、かつ、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとがDc≧0.02×L+3.5の関係を満たすこととする。上述のとおり、所定のパーライトラメラ間隔範囲において、コロニー径を粗大化する、すなわち、Dc≧0.02×L+3.5を満たすことで、伸線加工時の加工硬化を低減でき、引抜抵抗を低減できることを見出した。これは、コロニー径の粗大化が伸線時のラメラ組織の配向を抑制する効果であると考えられる。
一方で、コロニー径を過度に粗大化すると、耐断線性が劣化する。これは、粗大なコロニーではラメラフェライト部にひずみが集中し、ボイドが発生しやすくなることが要因と考えられる。このため、本発明では、前記パーライトの平均コロニー径Dcの上限を20μmとした。ここで、上記各組織要件の範囲をより限定することで、特性は更に向上するので、前記平均コロニー径Dcの上限は、好ましくは17μm以下、更に好ましくは15μm以下、一層好ましくは13μm以下とする。また、前記平均コロニー径Dcと平均ラメラ間隔Lとの関係は、好ましくはDc≧0.02×L+4.0の関係を満たす、更に好ましくはDc≧0.02×L+4.5の関係を満たすこととする。
製造方法:
本発明の要旨は、前記した通り、従来は、連動して変化し、独立しては制御できないと考えられてきた平均ラメラ間隔Lと平均コロニー径Dc(コロニーサイズ)を各々独立に制御し、そのバランスを、前記関係式の通り、適正化することである。
ラメラ間隔は鋼線材の変態温度に依存することが知られているが、コロニーサイズについては制御因子は明確でない。ただし、成長中のパーライト先端のパーライト/未変態オーステナイト界面において、変態中のパーライトと大きな方位差を持たない核生成によって、ラメラの方向が屈曲し、コロニーが形成されると考えられる。よって、コロニーサイズの制御は、パーライト変態進行時における核生成制御であると考え、鋼線材の変態途中の温度制御によってコロニーサイズを変化しうるか検討を行った。
その結果、鋼線材の比較的高温での変態中に、緩やかに昇温しながら変態を進行させることで、ラメラ間隔には大きな変化がないまま、コロニーサイズが粗大化する結果が得られ、本発明のような組織制御が可能になった。これは、変態温度を高温域にすることで、核生成頻度を低下させることと、変態中に緩やかに昇温することで、更に核生成頻度が低下し、同一方向のラメラ組織の成長が促されるものと考えられる。
以上の検討を元にした、本発明の具体的な製造方法を以下に説明する。ここで、図3に、本発明高炭素鋼線材の製造方法における、熱間圧延後のヒートパターンを示す。
前記した組成の鋼片を、加熱して仕上温度1050〜900℃で熱間圧延を行い、この熱間圧延における仕上圧延終了後、この圧延線材を直ちに950〜800℃の範囲内の温度に水冷する。その後、この温度範囲から、圧延線材を引き続き、衝風冷、ミスト冷却、水冷などの冷却手段を用いて、30℃/s以上の平均冷却速度にて640〜580℃の範囲内の温度に急冷して、核生成(変態開始)させる。
続いて、この急冷によって核生成(変態開始)させた圧延線材を、前記640〜580℃の温度範囲に到達後(この急冷後)、この温度域での滞在時間を5秒以内とした上で、この温度範囲から650〜720℃の範囲内の温度に50℃/s以上の平均昇温速度で急速に加熱する。そして、更に、この650〜720℃の温度範囲内で0.5〜2℃/sの範囲の緩やかな平均昇温速度で加熱しながら、この温度範囲内で(温度域で)変態完了まで保持する。このような急速加熱と緩やかな加熱とを組み合わせたヒートパターンの熱処理の過程で、圧延線材のパーライト変態を完了させる。
この急速加熱と緩やかな昇温速度での加熱との組み合わせによる、変態完了までの保持が本発明の製造方法の特徴である。常法であれば、前記30℃/s以上の平均冷却速度による640〜580℃の範囲内の温度までの急冷による、核生成(変態開始)までは条件が重複する。しかし、これ以降は、線材の生産効率もあって、この本発明のような急速加熱と緩やかな昇温速度での加熱との組み合わせは行わずに、そのまま常温まで徐冷する。したがって、本発明の組織には必然的にならない。
以上の製造方法のより具体化や製造条件の限定理由について、以下に説明する。
鋼片:
鋼片(ビレット)は、常法により、上記化学成分組成の高炭素鋼溶製後の連続鋳造により作製するか、あるいはその鋳造された鋼塊を更に分塊圧延して作製する。
熱間圧延:
この鋼片を加熱して熱間圧延する際には、圧延の仕上温度を1050℃以下の低温にすることにより、オーステナイトの粒成長を抑制して、強度上昇を抑制し、ノジュールを微細化することができる。仕上温度の下限は、低温過ぎると圧延機への負荷が過大となるため、900℃以上とする。
熱間圧延後の水冷:
この熱間圧延における仕上圧延終了後、この圧延線材を直ちに950〜800℃の範囲内の温度に水冷するが、この場合の平均冷却速度は50℃/s以上であることが好ましい。この水冷による到達温度範囲は、線材に適正な脱スケール性を具備させるための規定である。到達温度が800℃未満では、伸線前のスケール剥離工程でスケールが剥離しにくく、950℃以上では、スケールが剥がれ易すぎるため、圧延後の搬送中にスケールが剥離してしまい、剥離部に薄厚の低温スケールやさびが生成する。そして、これらの低温スケールやさびは伸線前のスケール剥離工程で剥離しないため、伸線された鋼線の疵となったり断線の原因となる。
この点、水冷による前記到達温度の下限は、好ましくは830℃、更に好ましくは850℃、一層好ましくは870℃とする。一方、水冷による前記到達温度の上限は、好ましくは940℃、更に好ましくは930℃、一層好ましくは920℃とする。
急冷による核生成:
次に、この温度範囲から、圧延線材を引き続き、衝風冷、ミスト冷却、水冷などの冷却手段を用いて急冷して、核生成(変態開始)させるが、この急冷の際の平均冷却速度が30℃/s未満だと、旧γ粒径が粗大化し、ノジュールサイズの粗大化を招く。この点、この急冷の際の平均冷却速度の下限は、好ましくは40℃/s以上、更に好ましくは50℃/s以上、一層好ましくは70℃/s以上である。
そして、この急冷による高炭素鋼線材の到達温度は640〜580℃の範囲内の温度にして、高炭素鋼線材の組織を核生成させることで、核生成速度が高くなり、ノジュールサイズは微細化する。この到達温度が580℃未満では、更にノジュールサイズが微細化する。しかし、反面、前記した高炭素鋼線材の場合、580℃未満ではパーライトの成長速度が速いため変態が進行しやすく、かつ、核生成速度が高いため、変態進行中のコロニー微細化を避けることが困難である。この結果、ラメラ間隔とコロニーサイズのバランスを本発明で規定するように改善できず、伸線中の加工硬化量が大きくなる。一方、この到達温度が640℃を超えた場合は、核生成速度が低くなり、ノジュールサイズが粗大化してしまう(微細化できない)ために、やはり本発明で規定する組織とできない。
この点、この急冷による高炭素鋼線材の到達温度の下限は、好ましくは590℃、更に好ましくは600℃、一層好ましくは610℃とする。一方、この急冷による到達温度の上限は、好ましくは625℃、更に好ましくは630℃、一層好ましくは635℃とする。
急速加熱による変態進行の抑制:
続いて、この急冷によって核生成(変態開始)させた高炭素鋼線材を、直ちに急速に加熱して、低温での変態進行を抑制(軽減)する。このためには、前記640〜580℃の温度範囲に到達後(この急冷後)この温度域での滞在時間を5秒以内とした上で、この温度範囲から650〜720℃の範囲内の温度に50℃/s以上の平均昇温速度で高炭素鋼線材を急速に加熱する必要がある。前記した低温での変態進行を抑制するためには、核生成(変態開始)後、高温域まですばやく昇温する必要がある。
前記急冷による変態開始後、5秒を超えて、前記640〜580℃の核生成温度域に保持し続けると、高炭素鋼線材の変態が進行して、前記したラメラ間隔とコロニーサイズのバランスは改善されない。また、平均昇温速度が50℃/s未満の場合も、昇温中に変態が進行して、前記したラメラ間隔とコロニーサイズのバランスは改善されない。また、前記急速加熱による到達温度が650℃未満では、平均ラメラ間隔が150nm以上に粗大化できない。また、この到達温度が720℃を超えると、平均ラメラ間隔が300nmを超えて粗大化してしまうことになる。
この点、前記急速加熱による高炭素鋼線材の到達温度の下限は、好ましくは660℃以上、更に好ましくは670℃以上、一層好ましくは680℃以上とする。一方で、前記急速加熱による到達温度の上限は、好ましくは710℃以下、更に好ましくは700℃以下、一層好ましくは690℃以下とする。
変態完了までの温度保持:
そして、更に、高炭素鋼線材を、この650〜720℃の温度範囲内で0.5〜2℃/sの範囲の緩やかな平均昇温速度で加熱しながら、この温度範囲内で(温度域で)変態完了まで保持する。このような急速加熱と緩やかな加熱とを組み合わせたヒートパターンの熱処理の過程で、圧延線材のパーライト変態を完了させる。ここで、ラメラ間隔とコロニーサイズのバランスを改善するには、0.5℃/s以上の平均昇温速度が必要である。しかしながら、この平均昇温速度が2℃/sを超すと、コロニーサイズが20μmを超えて粗大化する上、昇温速度を高めるとラメラ間隔とコロニーサイズのバランスが悪くなる。
この点、前記緩やかな平均昇温速度の下限は、好ましくは0.7℃/s以上、更に好ましくは1.0℃/s以上、一層好ましくは1.2℃/s以上とする。また、前記緩やかな平均昇温速度の上限は、好ましくは1.8℃/s以下、更に好ましくは1.6℃/s以下、一層好ましくは1.4℃/s以下とする。
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものではない。
表1に示す成分組成の高炭素鋼熱延線材の、熱延後の熱処理条件を表2に示す通り変えることによって、共通してパーライト組織だが、平均ラメラ間隔L、平均コロニー径Dc、平均ノジュール径Dおよび、平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔Lとの関係が種々異なる線材を実験室的に作製した。そして、これらの伸線性を断線の有無や変形抵抗などから評価した。この結果を表2に示す。
これらの高炭素鋼熱延線材の具体的な製造条件を以下に説明する。表1に示す線材の化学成分組成となるように、高炭素鋼をして転炉で溶製し、その鋼塊を分解圧延して155mm角のビレットを作製し、1150℃程度に加熱後、圧延の仕上(終了)温度が1050〜1000℃の範囲で熱間圧延を行い、直径5.5mmの線材を得た。なお、前記表1の線材の化学成分組成において、Mg、Ca、REMの不純物元素は、各例とも、これらの合計の含有量で0.007%未満の検出限界量以下であった。
前記熱間圧延終了後の線材は、圧延ライン上に設けた冷却帯にて、冷却水をノズル噴射して直ちに950〜800℃の範囲に冷却した。この際、水量と水冷時間を変化させて到達温度を制御した。更に、引き続き、線材を衝風冷もしくはミスト冷却(冷却水をミスト状に噴霧)して、640〜580℃の範囲に冷却した。衝風冷では風量を、ミスト冷却では、気水比(エアと水の比率)と噴霧時間を変化させることで、冷却速度、到達温度を制御した。今回は衝風冷、ミスト冷却を用いたが、別の冷却方法でも構わない。その後、本発明製造方法の特徴である前記急速加熱や緩やかな昇温の組み合わせの熱処理を行って、パーライト変態を完了させた線材とした。加熱・昇温工程では、コンベア上での風冷を停止した上で、線材搬送コンベア上に設置したヒーターを用いて線材を加熱し、ヒーター条件によって昇温速度や到達温度を制御した。これによって、パーライト組織だが、平均ラメラ間隔L、平均コロニー径Dc、および、平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔Lとの関係が種々異なる線材を実験室的に作製した。
組織の測定:
上記線材から供試材を採取して、パーライトの面積率、パーライトの平均ノジュール径D、平均ラメラ間隔L、平均コロニー径Dcを測定した。観察は供試材の任意の10箇所で行い、測定値の平均を各々の値(平均値)とした。
パーライト面積率は、線材を切断して横断面を鏡面研磨した試料を硝酸とエタノールの混合溶液でエッチングし、線材横断面の表面と中心との間の中央位置における組織をSEM(走査型電子顕微鏡、倍率1500)によって任意の5視野観察し、点算方によって求めた。この結果、発明例、比較例を含めて、No8(鋼種I)を除いた全ての例の組織で、パーライトの面積率は95面積%以上であり、他の初析フェライト、初析セメンタイト、残留オーステナイト、あるいはベイナイトやマルテンサイトなどのパーライト以外の組織は5面積%未満であった。
平均ノジュール径Dは、上記と同様にして試料を調整し、光学顕微鏡(倍率200)にて組織観察を行い、線材横断面の表面と中心との間の中央位置における前記ノジュールの円相当径を、フェライト粒度の測定方法(JISG0552)に準拠して粒度番号Gを小数点以下第1位まで求め、次の式によってμmの単位に換算することによって求められた。
ノジュール径D(μm)=10×2(10-G)/2
平均コロニー径Dcは、上記と同様にして試料を調整し、線材横断面の表面と中心との間の中央位置における組織をSEM(走査型電子顕微鏡、倍率3000)によって任意の5視野を観察して、線分法によって求めた。
平均ラメラ間隔Lは、上記と同様に鏡面研磨し、上記と同様の方法でエッチングした線材横断面の表面と中心との間の中央位置をSEMで観察し、5視野で3000倍の写真を撮影し、ラメラが観察面に対して垂直に近い箇所で測定するため、各視野の写真を用いて視野内で一番目〜五番目まで微細なコロニー5つにおいて、ラメラに直角に線分を引き、その線分の長さとそれを横切るラメラの数からラメラ間隔(nm)を求め、すべての線分のラメラ間隔を平均することによって求めた。
上記各線材の伸線性を、以下の伸線条件で伸線試験することにより、耐断線性と引抜抵抗の増加の程度によって評価した。伸線試験では、1トンの5.5mmφの圧延材を1.0mmφまで乾式伸線を行った。耐断線性は1トン伸線した際の断線の有無によって評価した。
また、伸線加工中の変形抵抗は、伸線機に取り付けたロードセルによって引抜き時の荷重を測定し、鋼線断面積で除すことで、引抜き応力を測定した。引抜き応力が500MPa以下の場合を◎、500MPaを超し、700MPa以下の場合を○、700MPaを超す場合を×とした。
前記伸線試験は、各線材を塩酸中に浸漬して予めスケールを除去した後に、線材表面に燐酸塩を皮膜形成させる潤滑処理を行い、その後、多段式の乾式伸線機(試験機)で直径1.0mmまで伸線した。伸線は、最終伸線速度が1000m/minの高速伸線によって行った。
なお、各発明例とも、前記伸線試験毎にダイスへの影響を調査したが、ダイスが割れることなく、ダイス表面の摩耗もほとんど生じなかった。これに対して、断線が生じたり、変形抵抗の大きな比較例では、ダイス割れまでは生じなかったものの、ダイス表面の摩耗は著しく生じていた。
各発明例は、表1、2の通り、化学成分組成や、熱延後の冷却やパーライト変態の処理条件が好ましい範囲内で行われている。このため、表2の通り、各発明例1〜5は、線材の組織が95面積%以上のパーライト(分率)を有し、平均ノジュール径Dが40μm 以下、平均ラメラ間隔Lが150〜300nmの範囲内であり、更に、平均コロニー径Dcが20μm以下であり、かつ、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとがDc≧0.02×L+3.5の関係を満たしているパーライト組織を有する。この結果、前記各発明例は、変形抵抗が小さく、断線しないで伸線できるなど、優れた乾式伸線性を有する。
一方、表1、2の通り、各比較例No6〜11は化学成分組成が発明範囲内から外れており、組織要件を満足する如何に関わらず、引抜抵抗が大きい、もしくは、断線が生じている。
比較例No12〜21は化学成分組成が発明範囲内であるものの、製造条件が発明範囲から外れており、パーライト分率、平均ノジュール径D、平均ラメラ間隔L、平均コロニー径Dc、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとのDc≧0.02×L+3.5なる関係の、いずれかが外れるパーライト組織となっている。この結果、前記各比較例は、変形抵抗が大きいか、断線するなどの乾式伸線性が劣っている。
すなわち、比較例No12は熱間圧延の仕上圧延終了後の水冷をした後の急冷の平均冷却速度が30℃/sを下回ってる。比較例No13はこの急冷による到達温度が640℃を超えており、高すぎる。比較例No14はこの急冷による到達温度が580℃未満であり、低すぎる。
比較例No15、16は急冷によって核生成(変態開始)させた圧延線材の前記640〜580℃の温度域での滞在(保持)時間が5秒を超えて長すぎる。比較例No17は前記640〜580℃の温度範囲からの急速加熱における平均昇温速度が50℃/s未満で小さすぎる。比較例No18はこの急速加熱による到達温度が650℃未満であり、低すぎる。比較例No19はこの急速加熱による到達温度が720℃を超えており、高すぎる。比較例No20は、続く650〜720℃の温度範囲内での0.5〜2℃/sの範囲の緩やかな平均昇温速度での加熱において、平均昇温速度が2℃/sを超えており、大きすぎる。比較例No21はこの平均昇温速度が0.5℃/s未満であり、小さすぎる。
Figure 0005503515
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本発明の化学成分組成や熱延後の冷却やパーライト変態の処理条件、そして、これによって得られる前記規定からなる特定のパーライト組織の、優れた乾式伸線性に対する臨界的な意義が裏付けられる。
本発明によれば、乾式伸線工程の生産性を著しく向上させた、優れた伸線性を有する高炭素鋼線材およびその製造方法を提供することができる。このため、本発明は、タイヤ補強用のスチールコード、ビードワイヤ、ソーワイヤ、ベルトコードなどに使用される極細鋼線用の高炭素鋼線材として、好適に用いることができる。

Claims (2)

  1. 乾式伸線に供される高炭素鋼線材であって、質量%で、C:0.68〜0.86%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.1〜0.8%を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなるとともに、組織が95面積%以上のパーライトを有し、このパーライトの平均ノジュール径Dが40μm 以下で、このパーライトの平均ラメラ間隔Lが150〜300nmの範囲であり、更に、このパーライトの平均コロニー径Dcが20μm以下であり、かつ、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとがDc≧0.02×L+3.5の関係を満たすことを特徴とする、乾式伸線性に優れた高炭素鋼線材。
  2. 乾式伸線に供される高炭素鋼線材の製造方法であって、質量%で、C:0.68〜0.86%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.1〜0.8%を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼片を、加熱して仕上温度1050〜900℃で熱間圧延を行い、この熱間圧延における仕上圧延終了後、直ちに950〜800℃の範囲内の温度に水冷し、引き続き30℃/s以上の平均冷却速度にて640〜580℃の範囲内の温度に急冷した後、この温度域での滞在時間を5秒以内とした上で、650〜720℃の範囲内の温度に50℃/s以上の平均昇温速度で急速に加熱し、更に、この650〜720℃の温度範囲内で0.5〜2℃/sの範囲の緩やかな平均昇温速度で加熱しながらパーライト変態を完了させた線材とし、この線材の組織を、95面積%以上のパーライトを有し、このパーライトの平均ノジュール径Dが40μm 以下で、このパーライトの平均ラメラ間隔Lが150〜300nmの範囲であり、更に、このパーライトの平均コロニー径Dcが20μm以下であり、かつ、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとがDc≧0.02×L+3.5の関係を満たす組織とすることを特徴とする、乾式伸線性に優れた高炭素鋼線材の製造方法。
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