JP5503515B2 - 乾式伸線性に優れた高炭素鋼線材およびその製造方法 - Google Patents
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まず、本発明高炭素鋼線材の化学成分組成の限定理由について説明する。本発明高炭素鋼線材の化学成分組成は、乾式伸線に供される高炭素鋼線材として、後述する鋼線材組織とするための前提となる。また、乾式伸線工程の生産性向上、やコスト低減のための伸線性向上や、本発明の対象とするタイヤ補強用などの極細鋼線として要求される強度などの機械的特性を確保するための前提となる。
Cは高炭素鋼線材の強度を確保するための基本元素であり、C含有量が少なすぎると、本発明の対象とするタイヤ補強用などの極細鋼線として要求される強度を確保できない。また、鋼線材の製造過程でパーライト主体の組織にならず、伸線性に悪影響を及ぼす場合がある。一方、C含有量の増加は、強度増加に直結するが、過度の添加は延性を劣化させるし、初析セメンタイトが生成して、伸線性を阻害するようになる。このため、C含有量は0.68〜0.86%の範囲とする。
Siは脱酸作用とパーライト組織の安定化に寄与する。また、固溶強化により強度を高める作用を有する。本発明の対象とするタイヤ補強用などの極細径に伸線加工された極細鋼線では、Siを脱酸剤として添加し、硬質なアルミナ系介在物の生成を防止することが、強度などの機械的特性を確保するために重要となる。Si含有量が少な過ぎるとこれらの効果が不足するが、一方で過度の添加は、酸化物の粗大化、線材の強度上昇、剥離しがたいスケールを生成、フェライトを固溶強化し過ぎするなど、伸線性を阻害する。このため、Si含有量は0.05〜0.5%の範囲とし、下限値は好ましくは0.07%、より好ましくは0.10%、更に好ましくは0.15%とする。また、上限値は好ましくは0.45%、より好ましくは0.40%、更に好ましくは0.35%とする。
Mnは脱酸、脱硫作用と、固溶強化による強度向上作用があり、パーライト組織の安定化に寄与する。Mn含有量が少な過ぎるとこれらの効果が不足するが、一方で過度の添加は、偏析による組織の均−性の低下(不均一化)や、硫化物の粗大化を生じて伸線性を劣化させる。また、フェライトを固溶強化しすぎて伸線性を低下させるようにもなる。このため、Mn含有量は0.1〜0.8質量%の範囲とし、下限値は好ましくは0.15%、より好ましくは0.20%、更に好ましくは0.25%とする。また、上限値は好ましくは0.75%、より好ましくは0.70%、更に好ましくは0.60%とする。
Alは有効な脱酸元素として知られるが、硬質なアルミナ系介在物は極細径に伸線加工される線材では断線原因になり、伸線性を低下させる。また、極細鋼線の機械的な特性も低下させる。このために、Al含有量は不可避的不純物として少ないほど好ましく、具体的には0.0050%以下に規制する。厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層の低減が必要であり、好ましくは0.0035%以下、更に好ましくは0.0025%以下とする。
Pは不可避的不純物元素であり、特にフェライトを固溶強化するため、伸線性を著しく劣化させるなど影響が大きい。また、過度に含有すると鉄鋼材料の靭延性が劣化するので、含有量は少ないほど好ましい。具体的には、P含有量は0.02%以下とし、厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層低減して、好ましくは0.010%以下、更に好ましくは0.007%以下とする。
Sも不可避的不純物元素であり、過度に含有すると、硫化物のサイズ、量が増加し、延性が劣化する。また、介在物MnSを生成して伸線性を阻害する。このため、含有量は少ないほど好ましく、具体的には、S含有量は0.020%以下とし、厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層低減して、好ましくは0.010%以下、更に好ましくは0.007%以下とする。
Nも不可避的不純物元素であり、フェライトに固溶して、伸線時に発熱による時効硬化やひずみ時効硬化させ、鋼線の強度を上昇させて靭延性を劣化させ、伸線性の低下への影響が大きい。このため、含有量は少ないほど好ましく、具体的には0.0040%以下とする。厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層低減して、好ましくは0.0030%以下、更に好ましくは0.0025%以下とする。
Oも不可避的不純物元素であり、鋼中酸素量の増加は粗大酸化物を招き、断線原因となる。このため、含有量は少ないほど好ましく、具体的には0.0030%以下とする。厳しい伸線条件でも伸線性を確保するためには、一層の低減が必要であり、上限を好ましくは0.0020%以下、更に好ましくは0.0015%以下とする。
次に、本発明の高炭素鋼線材の組織について説明する。先ず、組織と伸線性との関係について説明して、本発明組織の各要件の限定理由について明確化する。
平均ラメラ間隔Lについて、ラメラ間隔はパーライト鋼の強度支配因子であり、微細化するとパーライト線材の強度は上昇する。伸線加工中の引抜抵抗を現ずるためには、まずパーライトラメラ間隔を所定以上に拡大することが前提となる。ラメラ間隔Lとパーライト鋼の強度σは、一般にσ∝L-1/2の関係で整理できることが知られており、ラメラ間隔を微細化するほど強度は顕著に急上昇する。平均ラメラ間隔Lが150nm未満では、強度上昇が大きくなるため、本発明では線材強度を十分低下させるため平均ラメラ間隔Lの下限を150nmとした。
前記ラメラ間隔Lの粗大化にともない、一般的に、パーライトの平均ノジュール径Dが粗大化する傾向にあるが、延性不足による断線という観点からは、従来から指摘されているように、ノジュール径Dを制御し、粗大化を抑制することも重要である。ノジュール径Dの延性に対する影響は、前記ラメラ間隔Lとは異なる。加工時にラメラ内で発生したボイドが連結し、クラックとして成長する際に、ノジュール界面がクラック成長の抵抗となる。このため、線材のノジュール径Dが微細なほど、前記クラックの成長が抑制され、延性に優れる。このため、パーライトの平均ノジュール径Dの上限は40μm 以下、好ましくは35μm以下、更に好ましくは30nm以下、一層好ましくは25μm以下とする。
本発明の要旨は、前記した通り、従来は、連動して変化し、独立しては制御できないと考えられてきた平均ラメラ間隔Lと平均コロニー径Dc(コロニーサイズ)を各々独立に制御し、そのバランスを、前記関係式の通り、適正化することである。
鋼片(ビレット)は、常法により、上記化学成分組成の高炭素鋼溶製後の連続鋳造により作製するか、あるいはその鋳造された鋼塊を更に分塊圧延して作製する。
この鋼片を加熱して熱間圧延する際には、圧延の仕上温度を1050℃以下の低温にすることにより、オーステナイトの粒成長を抑制して、強度上昇を抑制し、ノジュールを微細化することができる。仕上温度の下限は、低温過ぎると圧延機への負荷が過大となるため、900℃以上とする。
この熱間圧延における仕上圧延終了後、この圧延線材を直ちに950〜800℃の範囲内の温度に水冷するが、この場合の平均冷却速度は50℃/s以上であることが好ましい。この水冷による到達温度範囲は、線材に適正な脱スケール性を具備させるための規定である。到達温度が800℃未満では、伸線前のスケール剥離工程でスケールが剥離しにくく、950℃以上では、スケールが剥がれ易すぎるため、圧延後の搬送中にスケールが剥離してしまい、剥離部に薄厚の低温スケールやさびが生成する。そして、これらの低温スケールやさびは伸線前のスケール剥離工程で剥離しないため、伸線された鋼線の疵となったり断線の原因となる。
次に、この温度範囲から、圧延線材を引き続き、衝風冷、ミスト冷却、水冷などの冷却手段を用いて急冷して、核生成(変態開始)させるが、この急冷の際の平均冷却速度が30℃/s未満だと、旧γ粒径が粗大化し、ノジュールサイズの粗大化を招く。この点、この急冷の際の平均冷却速度の下限は、好ましくは40℃/s以上、更に好ましくは50℃/s以上、一層好ましくは70℃/s以上である。
続いて、この急冷によって核生成(変態開始)させた高炭素鋼線材を、直ちに急速に加熱して、低温での変態進行を抑制(軽減)する。このためには、前記640〜580℃の温度範囲に到達後(この急冷後)この温度域での滞在時間を5秒以内とした上で、この温度範囲から650〜720℃の範囲内の温度に50℃/s以上の平均昇温速度で高炭素鋼線材を急速に加熱する必要がある。前記した低温での変態進行を抑制するためには、核生成(変態開始)後、高温域まですばやく昇温する必要がある。
そして、更に、高炭素鋼線材を、この650〜720℃の温度範囲内で0.5〜2℃/sの範囲の緩やかな平均昇温速度で加熱しながら、この温度範囲内で(温度域で)変態完了まで保持する。このような急速加熱と緩やかな加熱とを組み合わせたヒートパターンの熱処理の過程で、圧延線材のパーライト変態を完了させる。ここで、ラメラ間隔とコロニーサイズのバランスを改善するには、0.5℃/s以上の平均昇温速度が必要である。しかしながら、この平均昇温速度が2℃/sを超すと、コロニーサイズが20μmを超えて粗大化する上、昇温速度を高めるとラメラ間隔とコロニーサイズのバランスが悪くなる。
上記線材から供試材を採取して、パーライトの面積率、パーライトの平均ノジュール径D、平均ラメラ間隔L、平均コロニー径Dcを測定した。観察は供試材の任意の10箇所で行い、測定値の平均を各々の値(平均値)とした。
ノジュール径D(μm)=10×2(10-G)/2
Claims (2)
- 乾式伸線に供される高炭素鋼線材であって、質量%で、C:0.68〜0.86%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.1〜0.8%を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなるとともに、組織が95面積%以上のパーライトを有し、このパーライトの平均ノジュール径Dが40μm 以下で、このパーライトの平均ラメラ間隔Lが150〜300nmの範囲であり、更に、このパーライトの平均コロニー径Dcが20μm以下であり、かつ、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとがDc≧0.02×L+3.5の関係を満たすことを特徴とする、乾式伸線性に優れた高炭素鋼線材。
- 乾式伸線に供される高炭素鋼線材の製造方法であって、質量%で、C:0.68〜0.86%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.1〜0.8%を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼片を、加熱して仕上温度1050〜900℃で熱間圧延を行い、この熱間圧延における仕上圧延終了後、直ちに950〜800℃の範囲内の温度に水冷し、引き続き30℃/s以上の平均冷却速度にて640〜580℃の範囲内の温度に急冷した後、この温度域での滞在時間を5秒以内とした上で、650〜720℃の範囲内の温度に50℃/s以上の平均昇温速度で急速に加熱し、更に、この650〜720℃の温度範囲内で0.5〜2℃/sの範囲の緩やかな平均昇温速度で加熱しながらパーライト変態を完了させた線材とし、この線材の組織を、95面積%以上のパーライトを有し、このパーライトの平均ノジュール径Dが40μm 以下で、このパーライトの平均ラメラ間隔Lが150〜300nmの範囲であり、更に、このパーライトの平均コロニー径Dcが20μm以下であり、かつ、この平均コロニー径Dcと前記平均ラメラ間隔LとがDc≧0.02×L+3.5の関係を満たす組織とすることを特徴とする、乾式伸線性に優れた高炭素鋼線材の製造方法。
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