JP5502413B2 - 検査チップ、被検物質検出装置および被検物質の特異的検出方法 - Google Patents
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Description
そこで、増感色素の光励起により生じる電流を、被検物質の検出に利用する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この方法はまず、電極上に半導体層を形成し、この半導体層上に被検物質と結合可能なプローブを固定する。次に、増感色素で修飾された被検物質をプローブ物質で捕捉した後、増感色素を励起させる光を、被検物質を修飾している増感色素に照射する。この結果、被検物質を修飾している増感色素から電子が発生し、発生した電子が半導体層に受容されることに起因して生じる電流を検出する。ここではシランカップリング剤などの架橋剤を用いて、プローブを半導体層上に固定させている。
しかしながら、シランカップリング剤は導電性が低く、電流の検出効率を低下させてしまうため、被検物質の検出感度が低いという問題点がある。
ヨウ素またはヨウ化物は、電解質と金属層を溶解させる物質(エッチャント)とを兼用することができる。このため、エッチャントと電解質とが別々の物質で構成される場合と比較して、電極部との不要な反応が起こりにくくなる。
図1は本発明の一実施形態に係る検出装置を示す斜視図である。この検出装置は、生体細胞から採取され、または人工的に合成された、核酸やタンパク質、ペプチド等の特異的結合性を有する被検物質を検出するものである。この検出装置1は、例えば子宮頸癌の原因ウィルスであるヒトパピローマウィルス(以下、HPVという)のmRNAを検体試料中から検出することができる。
本実施形態の検出装置1は、検査チップ4が挿入されるチップ受入部3と、検出結果を表示するディスプレイ2とを備えている。また、検査チップ4は、試料注入口11を備えている。
この検査チップ4は、使い捨てのHPV検出用のチップであり、検出装置1のチップ受入部3に挿入される。検査チップ4は、試料注入口11から検体試料を注入することで、光励起により電子を生じる修飾物質で修飾されたHPVのmRNAを捕捉する機能を有している。
光源5は、検査チップ4で捕捉されたHPVのmRNAを修飾している修飾物質に光を照射し、修飾物質を励起させる。電流計6は、励起された修飾物質から生じる電子に起因して流れる電流を測定する。電源32は、検査チップ4に設けられた電極に対して所定の電位を印加する。A/D変換部7は、電流計6によって測定された電流値をデジタル変換する。制御部8は、CPU、ROMおよびRAM等から構成され、光源5、電流計6およびディスプレイ2の動作を制御する。また制御部8は、A/D変換部7でデジタル変換された電流値により、予め作成された電流値とHPV量の関係を示す検量線に基づき、検体試料中のHPV量を概算する。ディスプレイ2は、制御部8で概算された検体試料中のHPV量を表示する。
この検出装置1で用いられる検査チップ4の構成について、図3〜図8を用いて説明する。
図3は、検査チップ4の斜視図である。検査チップ4は、下基板16と、下基板16の上方に設けられた上基板13と、下基板16と上基板13とに挟まれたシリコンゴム12とを備えている。また上基板13には、内部に連通する試料注入口11が設けられている。
下基板16は二酸化ケイ素(SiO2)を主体とするガラスで形成され、対極部18、電極リード17、参照電極部31および電極リード30はそれぞれ白金で形成されている。
上基板13に設けられている試料注入口11は、上基板13を貫通する穴である。検体試料および後述する電解液は、この試料注入口11からシリコンゴム12の枠内に注入される。
図7に示すように、半導体電極部15に接続されている電極リード14は、上基板13に沿って空間25の外まで伸びており、対極部18に接続されている電極リード17および参照電極部31に接続されている電極リード30(図示しない)は、下基板16に沿って空間25の外まで伸びている。この電極リード14は電流計6に接続され、電極リード17および電極リード30は電源32に接続される。
半導体電極部15は、上基板13上に形成された導電層21と、導電層21上に形成された半導体層20と、半導体層20上に形成された金属層19とを備えている。対極部18は、下基板16上に形成されている。
半導体電極部15に含まれる金属層19上には、光励起により電子を生じる修飾物質22で修飾されたHPVのmRNA24を捕捉するためのプローブ23が固定されている。この修飾物質22はルテニウム錯体であり、mRNAとペプチド結合することによりmRNAを修飾している。
半導体電極部15に接続された電極リード14は電流計6に接続され、対極部18に接続された電極リード17および参照電極部31に接続された電極リード30は、電源32に接続される。電流計6は電源32と接続されており、この電流計6で半導体電極部15と対極部18との間を流れる電流を測定する。
半導体電極部15に含まれる導電層21は、スパッタリングで形成された酸化インジウムスズ(ITO)の層と、このITO層上にスパッタリングで形成されたアンチモンドープ酸化スズ(ATO)の層との2層からなる。半導体層20は、スパッタリングで形成された酸化チタン(TiO2)の層からなる。金属層19は、蒸着で形成された金(Au)の層からなる。対極部18は、スパッタリングで形成された白金の層からなる。
プローブ23はチオール基を有しており、プローブ23のチオール基と、金属層19の金原子とが結合することによって、プローブ23は金属層19上に固定される。この固定は、プローブ23を分散させた水溶液に、金属層19を浸漬させることによって行われる。
上述の構成を有する検出装置1を用いた検出方法を図9〜図11を参照して説明する。図9はユーザーによる検体を検出チップ4に注入する方法を示すフローチャートである。図10は検出装置1の検出動作手順を示すフローチャートである。図11はハイブリダイゼーション時および電解液添加時における半導体電極部15の模式図である。
この金属層19の溶解について、図11を用いて説明する。図11はハイブリダイゼーション時と電解液添加時における半導体電極部15の模式図である。
プローブ23は、プローブ23の有するチオール基(SH基)と金属層19の金原子とが共有結合することによって、金属層19上に固定されている。共有結合は強固な結合であるため、ステップS1のハイブリダイズさせる工程およびステップS2の洗浄を行う工程の際、プローブ23が金属層19から剥離するのを防ぐことができる。
電解液を添加すると、電解液中に含まれるヨウ素が金(Au)からなる金属層19を溶解させ、プローブ23は半導体層20上に配置される。これにより、光源5の光照射によって励起された修飾物質22から生じる電子は、効率よく半導体層20に供給される。
〔半導体電極部の作製〕
半導体電極部は、基板に導電層と半導体層と金属層とを形成したものである。作製方法としては、まず、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)およびアンチモンドープ酸化スズ(ATO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化チタン(TiO2)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この半導体層上に10nmの厚さの金薄膜からなる金属層を蒸着によって形成した。ここで、半導体層としてチタンやクロムを含む物質を用いることにより、半導体層と金属層との密着力が高まる。このようにして作製された電極を半導体電極部とした。この半導体電極部には、電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板上に、スパッタリングにより白金薄膜を200nmの厚さで導電層を形成したものを、対極部とした。この対極部には電流計と接続するための対極リードが接続されている。
半導体電極部の金属層上に、チオール基を有するDNA(24base)からなるプローブを固定させた。方法としては、まず、核酸を分散させた水溶液(核酸濃度10μM)に半導体電極部を18時間浸漬した。その後、超純水で洗浄し、30分間乾燥させた。これにより、核酸が有するチオール基と金属層の金原子との結合により、核酸が金属層上に固定される。
被検物質として、プローブと相補的な塩基配列を含むDNAに修飾物質を結合させたものを作製した。修飾物質は、増感色素であるPulsar650(バイオサーチテクノロジーズジャパン社)を用いた。この増感色素はルテニウム錯体であり、このルテニウム錯体はDNAとペプチド結合によって結合している。
修飾物質で修飾された被検物質を半導体電極部上のプローブで捕捉した。方法としては、まず、半導体電極部の周囲に、隔壁となるようにシリコンゴム(厚さ0.2mm)を配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、ハイブリダイゼーション用溶液を10μL注入した。ここで、ハイブリダイゼーション用溶液は、修飾物質で修飾されたDNA(濃度10μM)とハイブリダイゼーションバッファー(Affymetrix社)とを混合したものを用いた。
そして、シリコンゴム上にカバーグラスを被せ、溶液が乾燥しない状態にしてハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは45℃、1時間静置して反応させた。ハイブリダイゼーション反応後、洗浄用バッファー(Wash bufferA、Affymetrix社)と超純水で洗浄後、ブロアで乾燥させた。
溶媒としてアセトニトリル(AN)と炭酸エチレン(EC)とを体積比で6:4に混合したものを作製した。ここに、支持電解質塩として、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド(NPr4I)を0.6M溶解させた。さらに電解質として、ヨウ素を0.06M溶解させた。これを電解液とした。
被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で側壁となるように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、電解液を10μL注入した。そして、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から、対極部を有する基板で密封した。これにより、半導体電極部と対極部とが電解液に接触している状態となる。
次に、半導体電極リードと対極リードとを電流計に接続した。そして半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射した。光源は波長473nm、強度13mWのレーザー光源を用いた。これにより、修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が流れる。この電流の電流値を測定した。
半導体層上に金属層を形成する工程を除いた以外は実施例1と同様の操作で測定したものを比較例1とする。
図12は実施例1および比較例1の測定により得られた電流値を示すグラフである。実施例1の方法では、229nAの電流値が得られた。それに対して比較例1の方法では80nAの電流値が得られた。
このことから、半導体層上に金属層を形成することで、約3倍の電流値が取り出せ、電流の検出感度が向上したことがわかる。
実施例2(修飾物質で修飾された被検物質の電流測定による検出)
実施例1と同様の方法で作製した。
実施例1と同様の方法で作製した。
実施例1と同様の方法で行った。
被検物質として、プローブと相補的な塩基配列を含むDNAに修飾物質を結合させたもの(被検物質A)と、プローブと相補的な塩基配列を含まないDNAに修飾物質を結合させたもの(被検物質B)を準備した。
ここで修飾物質は、増感色素であるPulsar650(バイオサーチテクノロジーズジャパン社)を用いた。この増感色素はDNAとペプチド結合によって結合している。
被検物質Aまたは被検物質Bと金属層上のプローブとで、ハイブリダイゼーション反応を行った。まず半導体電極部の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で隔壁となるように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、ハイブリダイゼーション用溶液を10μL注入した。このハイブリダイゼーション用溶液は、修飾物質で修飾されたDNA(濃度10μM)とハイブリダイゼーションバッファー(Affymetrix社)とを混合したものを用いた。
次にシリコンゴム上にカバーグラスを被せ、溶液が乾燥しない状態にしてハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは45℃、1時間静置して反応させた。ハイブリダイゼーション後、洗浄用バッファー(Wash bufferA、Affymetrix社)と超純水で洗浄後、ブロアで乾燥させた。
実施例1と同様の方法で行った。
被検物質Aまたは被検物質Bとプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で側壁となるように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に電解液を10μL注入し、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から対極部を有する基板で密封した。これにより、半導体電極部と対極部とが電解液に接触している状態となる。
次に、半導体電極リードと対極リードとを電流計に接続し、半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射した。光源は波長473nm、強度13mWのレーザー光源を用いた。これにより、被検物質を修飾している修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が流れる。この電流の電流値を測定した。
なお、被検物質と金属層上のプローブとをハイブリダイズさせる工程を行わず、電流を測定したものを、電極由来の電流値として測定を行った。電極由来の電流とは、電極自体が光照射により励起され、発生する電流のことである。
半導体層上に金属層を形成する工程を除いた以外は、実施例2と同様にして被検物質の検出を行った。
図13は、実施例2および比較例2で検出された電流値のグラフである。
実施例2において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNA(被検物質A)を用いてハイブリダイゼーションを行った場合、検出された電流値は36.3nAであった。
またプローブと相補的な塩基配列を持たないDNA(被検物質B)を用いてハイブリダイゼーションを行った場合、電流値は24.7nAとなった。この電流値は、電極由来の電流値24.9nAと同等であった。このことから被検物質Aでハイブリダイゼーションさせた場合に検出された電流値は、被検物質の半導体電極部への非特異的な吸着によるものではなく、配列を認識した特異的な検出によるものであることが確認できる。
図14は、実施例2および比較例2において得られたデータのうち、修飾物質由来の電流値を示したグラフである。修飾物質由来の電流値とは、被検物質の測定で得られた電流値から電極由来の電流値を差し引いた値のことである。
修飾物質由来の電流値は、金属層を含まない半導体電極部(比較例2)を用いた場合に比べ、金属層を含む半導体電極部を用いた場合(実施例2)のほうが約4.5倍大きいことがわかる。
〔半導体電極部の作製〕
半導体電極部は、基板に導電層と半導体層と金属層とを形成したものである。作製方法としては、まず、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化インジウム(In2O3)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この半導体層上に、10nmの厚さの金薄膜からなる金属層を蒸着によって形成した。そして金属層を形成した後に、酸素雰囲気中で焼結(150℃)し、金薄膜と半導体層との密着度を向上させた。この半導体電極部には、電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
実施例1と同様の方法で作製した。
半導体電極部の金属層上に、チオール基を有するDNA(24base)からなるプローブを固定させた。まず、核酸を分散させた水溶液(核酸濃度10μM)に半導体電極部を18時間浸漬した。その後、超純水で洗浄し、10分間乾燥させた。これにより、核酸が有するチオール基と金属層の金原子との結合により、核酸が金属層上に固定される。
被検物質として、プローブと相補的な塩基配列を含むDNAに修飾物質を結合させたものを作製した。修飾物質はAlexaFluor750(インビトロジェン社)を用いた。この修飾物質は有機色素であり、有機色素はDNAとペプチド結合によって結合している。
実施例1と同様の方法で行った。
実施例1と同様の方法で調製した。
被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で囲むように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、電解液を10μL注入した。そして、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から、対極部を有する基板で密封した。これにより半導体電極部、対極部および参照電極部を電解液に接触させた。
次に、半導体電極に参照電極の電位を基準として0Vの電位を印加した。そして半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射した。この光源には波長785nm、強度13mWのレーザー光源(Cube785、コヒレント社)を用いた。これにより修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が生じる。この電流値を測定した。
なお、被検物質と金属層上のプローブとをハイブリダイズさせる工程を行わず電流を測定したものを、電極由来の電流値として測定を行った。電極由来の電流とは、電極自体が光照射によって励起され発生する電流のことである。
半導体層上に金属層を形成する工程を除いた以外は実施例3と同様の操作で測定したものを比較例3とする。
シランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン:APTES)を用いて、プローブDNAを固定したものを比較例4とする。
二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化インジウム(In2O3)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この基板と導電層と半導体層からなる電極を、シランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン:APTES)がトルエン中に1%の濃度で溶解している溶液に浸漬させ、半導体層上にシランカップリング剤の薄膜を形成した。そして110℃で電極を加熱した後、トルエン中で超音波洗浄(5分)を3回繰り返し、脱水エタノールで洗浄することで、半導体電極表面に結合していないシランカップリング剤を取り除いた。このようにして作製された電極を半導体電極部とした。この半導体電極部には電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
実施例3と同様の方法で作製した。
半導体層上に、DNA(24base)からなるプローブを固定させた。方法としては、まず、核酸を分散させた水溶液(核酸濃度100μM)とUVクロスリンク用の試薬(Microarraycrosslinking reaget D, Amersham)を1:9の混合比で混合した溶液を半導体電極上に6μL滴下した。その後、UVクロスリンカー(FS-1500、フナコシ)でUV光(160mJ)を照射し、超純水で洗浄し10分間乾燥させた。これにより、UVクロスリンク用試薬がDNAとシランカップリング剤との架橋剤となり、核酸が半導体層上に固定される。
実施例3と同様の方法で調製した。
実施例3と同様の方法で行った。
実施例3と同様の方法で調製した。
実施例3と同様の方法で行った。
図15は、実施例3、比較例3および比較例4において、検出された光電流値のグラフである。
実施例3において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行なった場合、検出された光電流値は158nAであった。またプローブDNAのみを固定した場合、検出された光電流値は0.082nAとなった。このことから、シグナルノイズ比(S/N比)=158/0.082=1930となる。
比較例3において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行なった場合、検出された光電流値は0.24nAであった。またプローブDNAのみを固定した場合、検出された光電流値は0.028nAとなった。このことから、S/N比=0.24/0.028=8.6となる。前述の実施例3と比較すると、金属層を用いることで修飾物質由来の光電流値が660倍、S/N比が220倍向上していることがわかる。
なお比較例4において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行なった場合、検出された光電流値は19nAであった。またプローブDNAのみを固定した場合、検出された光電流値は0.021nAとなった。このことから、S/N比=19/0.021=900となる。上述の実施例3と比較すると、金属層を用いることで修飾物質由来の光電流値が8倍、S/N比が2倍向上している。比較例4でも同様に、修飾物質由来の光電流値の向上とS/N比の向上が見られる。
以上より、半導体電極部に金属層を形成させると、電流の検出感度が向上する。電流値の検出感度向上の要因としては、金属層を形成させることで(1)DNA固定量の増加(2)導電性の向上(3)金属層でのプラズモン励起による光電変換効率の向上などが考えられる。
〔半導体電極部の作製〕
半導体電極部は、基板に導電層と半導体層と金属層とを形成して作製された。方法としては、まず、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化インジウム(In2O3)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この半導体層上に、2nmの厚さの金薄膜からなる金属層を蒸着によって形成した。この半導体電極部には、電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
実施例1と同様の方法で作製した。
まず、プローブを分散させた水溶液(プローブ濃度10μM)に半導体電極部を16時間浸漬した。このプローブは、チオール基を有するDNA(24base)である。浸漬した後、半導体電極部を超純水で洗浄し、10分間乾燥させた。これにより、プローブが有するチオール基と金属層の金原子との結合により、プローブが金属層上に固定される。
被検物質として、プローブと非相補的な塩基配列(1塩基のみ非相補的)を含むDNAに修飾物質を結合させた被検物質を作製した。修飾物質は有機色素であるAlexaFluor750(インビトロジェン社)を用いた。この有機色素はDNAとペプチド結合している。
実施例1と同様の方法で行った。
実施例1と同様の方法で調製した。
被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で囲むように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、電解液を10μL注入した。そして、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から、対極部を有する基板で密封した。これにより、半導体電極部、対極部および参照電極部が電解液に接触している状態となる。
次に、半導体電極に参照電極の電位を基準として0Vの電位を印加した。そして半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射した。ここで、光源は波長785nm、強度13mWのレーザー光源(Cube785、コヒレント社)を用いた。これにより、修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が流れる。この電流値を測定した。
比較例5は、披検物質として、プローブと相補的な塩基配列を用いた以外は実施例4と同様の操作で測定した。
比較例6は、披検物質をハイブリダイゼーションさせなかった以外は実施例4と同様の操作で測定した。
図16は、実施例4、比較例5および比較例6において、検出された光電流値のグラフである。
実施例4において、プローブと非相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行なった場合、検出された光電流値は1.7nAであった。比較例5において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行った場合、検出された光電流値は195nAであった。比較例6においてプローブDNAのみを固定した場合、検出された光電流値は0.067nAとなった。このことから、金薄膜に非特異的に吸着するDNAは少なく、配列特異的に被検物質を検出できることが確認できる。
〔半導体電極部の作製〕
半導体電極部は、基板に導電層と半導体層と金属層とを形成して作製された。作製方法としては、まず、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化インジウム(In2O3)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この半導体層上に、0.2nmの厚さの金薄膜からなる金属層を蒸着によって形成した。この半導体電極部には、電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
実施例1と同様の方法で作製した。
まず、プローブを分散させた水溶液(プローブ濃度10μM)に半導体電極部を16時間浸漬した。ここで、プローブは、チオール基を有するDNA(24base)を用いた。半導体電極部を浸漬した後、半導体電極部を超純水で洗浄し、10分間乾燥させた。これにより、プローブが有するチオール基と金属層の金原子との結合により、プローブが金属層上に固定される。
被検物質として、プローブと相補的な塩基配列を含むDNAに修飾物質を結合させた被検物質を作製した。修飾物質は有機色素であるAlexa Fluor750(インビトロジェン社)を用いた。この有機色素にDNAをペプチド結合させた。
実施例1と同様の方法で行った。
実施例1と同様の方法で調製した。
被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で囲むように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、電解液を10μL注入した。そして、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から、対極部を有する基板で密封した。これにより半導体電極部、対極部および参照電極部が電解液に接触している状態となる。
次に、半導体電極に参照電極の電位を基準として0Vの電位を印加した。そして半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射する。ここで、光源は波長785nm、強度13mWのレーザー光源(Cube785、コヒレント社)を用いた。これにより修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が流れる。この電流値を測定した。
さらに、半導体電極部の金属層において、金薄膜の厚さが1nm、2nm及び5nmに変えた場合の半導体電極部を用いて測定をしたときの電流値についても上記と同様に行った。
図17は、実施例5において検出された各膜厚におけるシグナルノイズ比(S/N比)のグラフである。ここで、S/N比は、「被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を用いて測定された電流値/電極由来の電流値」である。
図17より、金薄膜が1nmのとき、最も良いS/N比が得られることがわかる。よって、金属層が1nmのとき、被検物質の検出感度が最も高まるといえる。
なお、金薄膜の厚さが5nmのとき、ハイブリダイゼーション後の洗浄工程により金薄膜が半導体層から剥離してしまった。このため、5nm以上の厚さの金薄膜を形成した半導体電極部を用いるとき、チタンやクロムを含む半導体層を用いたり(実施例1及び2)、焼結処理を行った半導体電極部を用いたり(実施例3)することによって、金薄膜と半導体層との密着力を向上させる必要がある。
Claims (12)
- ヨウ素またはヨウ化物を含む電解質媒体の存在下で光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出するための検査チップであって、
半導体層上に形成された、厚みが0.2nm以上2nm以下であり、且つヨウ素またはヨウ化物によって溶解される金属からなる金属層を備える半導体電極部と、
被検物質を捕捉する前記金属層上に固定されたプローブと、
導電層を備える対極部と
を備える検査チップ。 - 前記金属層は前記プローブと化学吸着する金属からなる、請求項1に記載の検査チップ。
- 前記プローブと化学吸着する金属が金である、請求項1又は2に記載の検査チップ。
- 前記プローブは前記金属層と化学吸着する結合基としてチオール基を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の検査チップ。
- 前記金属層は、蒸着またはスパッタリングにより前記半導体層上に形成される、請求項1〜4のいずれかに記載の検査チップ。
- 前記プローブは核酸である、請求項1〜5のいずれかに記載の検査チップ。
- 検査チップは、ヨウ素またはヨウ化物を含む電解質媒体で前記金属層を溶解した後、前記半導体電極部と前記対極部とがヨウ素またはヨウ化物を含む電解質媒体に接触した状態で、光励起により修飾物質から生じる電流を検出することで被検物質を検出する検査チップである、請求項1〜6のいずれかに記載の検査チップ。
- 光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出する検出装置であって、
請求項1〜7のいずれかに記載の検査チップを、受入可能に構成された検査チップ受入部と、
前記検査チップ受入部に挿入された前記検査チップ内の被検物質に修飾している修飾物質を光励起する光源と、
前記光源での光励起により、修飾物質で修飾された被検物質から流れる電流を測定する電流測定部と
を備えた検出装置。 - 前記光源は、被検物質に修飾している修飾物質を励起する波長の光を発生する、請求項8に記載の検出装置。
- 光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出する方法であって、
半導体層上に形成された、厚みが0.2nm以上2nm以下であり、且つヨウ素またはヨウ化物によって溶解される金属からなる金属層を備える半導体電極部と、被検物質を捕捉する前記金属層上に固定されたプローブと、導電層を備える対極部とを備える検査チップに被検物質を含む試料を適用することにより、前記金属層上に固定された前記プローブで被検物質を捕捉する工程と、
被検物質に修飾物質を導入する工程と、
ヨウ素またはヨウ化物を含む電解質媒体を添加し、金属層を溶解する工程と、
修飾物質を励起する光を照射する工程と、
励起された修飾物質から生じる電流を検出する工程と
を含む被検物質の特異的検出方法。 - 前記電解質媒体は、さらに有機溶媒を含む、請求項10に記載の被検物質の特異的検出方法。
- 前記照射工程及び検出工程は、前記半導体電極部と前記対極部とが前記電解質媒体に接触した状態で行われる、請求項10又は11に記載の特異的検出方法。
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