近年、カーエレクトロニクス分野においては、機器の高精度制御化に伴い、搭載される電子部品に対する高精度化への要求が高まっている。チップ抵抗器に対しても高精度(抵抗値許容差が±0.1%、抵抗温度特性が±10×10−6/℃)で、かつ電流雑音特性に優れた薄膜チップ抵抗器への要求が高まっている。
図14は従来の薄膜チップ抵抗器の断面図、図15は同薄膜チップ抵抗器の製造方法を示すフローチャートである。
従来の薄膜チップ抵抗器は、図14に示すように、アルミナ純度96%程度のアルミナ基板からなる長方形の絶縁基板1の上面の両端部に形成した金からなる一対の上面電極層2と、前記絶縁基板1の裏面の両端部に形成した金からなる一対の裏面電極層3と、前記一対の上面電極層2を覆い、かつ一対の上面電極層2と電気的に接続されるように形成されたニッケルクロム系合金等からなる薄膜抵抗体層4と、この薄膜抵抗体層4を覆い、かつ前記絶縁基板1の上面の両端部に形成した一対の導体樹脂からなる再上面電極層5と、前記薄膜抵抗体層4を覆うとともに、前記一対の再上面電極層5の一部を覆うエポキシ系樹脂からなる保護膜層6と、前記再上面電極層5と裏面電極層3を電気的に接続するように前記絶縁基板1の両端面にそれぞれ形成した一対の端面電極層7と、露出した電極部にめっきにより形成された電極めっき層8とにより構成していた。
次に、従来の薄膜チップ抵抗器の製造方法を図15のフローチャート、図16(a)〜(c)、図17(a)〜(c)、図18(a)〜(c)および図19(a)〜(d)の製造工程図に基づいて説明する。
まず、図16(a)に示すように、1次分割溝1aと2次分割溝1bを有し、かつアルミナ純度96%程度のアルミナ基板からなるシート状の絶縁基板1を用意する。
次に、図16(b)に示すように、絶縁基板1の上面および裏面に金を主成分とする金属有機物からなる電極ペーストを1次分割溝1aを跨ぐようにスクリーン印刷して乾燥させ、その後、金属有機物からなる電極ペーストの有機成分だけを飛ばし、そして金属成分だけを絶縁基板1上に焼き付けるために、ベルト式連続焼成炉によって焼成し、上面電極層2および裏面電極層3(図示せず)を形成する(図15の裏面・上面電極層形成工程)。
次に、図16(c)に示すように、絶縁基板1の上面全体にニッケルクロム系合金等からなる薄膜抵抗体層4をスパッタを用いて形成する(図15の抵抗体着膜工程)。
次に、図17(a)〜(c)に示すように、前記薄膜抵抗体層4を所定の抵抗体パターン4aに形成するフォトリソプロセス工程(フォトレジスト塗布・乾燥、パターン露光、現像、エッチング、レジスト剥離の各工程)を行った後、抵抗体パターン4aを安定な膜にするために、300〜400℃の雰囲気で熱処理を行う(図15の薄膜抵抗体層を形成する工程)。
次に、図18(a)に示すように、上面電極層2上の薄膜抵抗体層4を覆うように導体樹脂からなる再上面電極層5を形成する(図15の再上面電極層形成工程)。
次に、図18(b)に示すように、抵抗体パターン4aの抵抗値を所定の値に修正するためにレーザートリミングにより抵抗値修正を行って、抵抗値修正済みの抵抗体パターン4bとする(図15の抵抗値修正工程)。
次に、図18(c)に示すように、抵抗値修正済みの抵抗体パターン4bを保護するために、熱硬化性のエポキシ系樹脂からなる保護膜層6を形成する(図15の保護膜層形成工程)。
次に、図19(a)に示すように、シート状の絶縁基板1を1次分割溝1aに沿って分割することにより短冊状基板1eを得る(図15の1次分割工程)。
次に、図19(b)に示すように、短冊状基板1eの端面にスパッタまたは樹脂電極塗布を用いて端面電極層7を形成する(図15の端面電極形成工程)。
次に、図19(c)に示すように、短冊状基板1eを2次分割溝1bに沿って分割することにより個片状基板1fを得る(図15の2次分割工程)。
最後に、図19(d)に示すように、はんだ付け時の信頼性を確保するために、露出した電極部にめっきによりニッケルめっき層、錫めっき層からなる電極めっき層8を形成する工程(図15の電極めっき層形成工程)を行うことにより、従来の薄膜チップ抵抗器を製造していた。
上記のようにして製造された従来の薄膜チップ抵抗器は、ニッケルクロム系合金等からなる薄膜抵抗体層4を用いているため、高精度で、かつ低TCR特性を実現できるものである。
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1,2が知られている。
上記した従来の薄膜チップ抵抗器においては、人体や電子機器等から発生する静電気が基板回路に流れ、抵抗器内の抵抗体層を通過したときに、抵抗値変化が大きくなるという課題があり、静電気試験に対する規格の厳しいカーエレクトロニクス分野では、この種の高精度・低TCR特性を有する薄膜チップ抵抗器においても、静電気に強い特性が要望されているものである。
チップ抵抗器で最も汎用的に用いられているスクリーン印刷で抵抗体層を形成する厚膜チップ抵抗器においては、特開2006−41557号公報にも示されているように、印刷形成される抵抗体層を蛇行させることにより、静電気特性を向上させることができるものである。
しかしながら、薄膜チップ抵抗器においては、一定の膜厚で抵抗値を大きくする必要があるため、一般的なフォトリソグラフィー技術を用いて蛇行した抵抗パターンを形成するようにしているが、これだけでは、静電気特性を向上させるには至っていないものである。
すなわち、薄膜チップ抵抗器は厚膜チップ抵抗器に比べて薄膜抵抗体層の膜厚が薄く、そして、絶縁基板表面の凹凸による高低差がある絶縁基板の凹部分はスパッタの影になるという影響から、これに起因する薄膜抵抗体層の膜厚の厚い部分と薄い部分の差の影響は顕著になるものであり、アルミナ純度96%程度のアルミナ基板で構成される絶縁基板においては、表面粗さRaが0.3μm程度であるため、この絶縁基板を用いた従来の薄膜チップ抵抗器においては、図20に示すように、絶縁基板1を構成するアルミナ粒子径が大きくなって、絶縁基板1の表面の凹凸による高低差も大きくなるため、絶縁基板1の凹部での薄膜抵抗体層4の膜厚は絶縁基板1の凸部での薄膜抵抗体層4の膜厚よりも極端に薄くなり、その結果、静電気が印加された際には、前記凹部における薄膜抵抗体層4の膜厚の薄い部分に静電気の負荷集中が発生して抵抗値が変化してしまうものである。
静電気特性を向上させるためには、上記したような絶縁基板の凹凸の影響を無視できるように十分な膜厚で薄膜抵抗体層を形成するとともに、静電気により発生した熱を絶縁基板に逃がすという対策が考えられるが、上記した従来のアルミナ純度96%程度のアルミナ基板で構成される絶縁基板においては、表面粗さRaが0.3μm程度であるため、フォトリソグラフィーで形成することが可能な抵抗体線幅で得られるアスペクトには制限があり、そのため、例えば、2012サイズで1MΩといった高抵抗領域を得ることはできないものであった。
また、従来の表面実装型のチップ電子部品においては、上記した特許文献2における従来の技術に示されているように、薄い平板状の絶縁基板の表面に、蒸着やスパッタ等によりNi−Cr等の金属薄膜を形成し、そして、前記金属薄膜をエッチングまたはフォトリソグラフにより約10μm程度の幅の抵抗体パターンに形成しているものであり、そして、この金属薄膜は約1000Å程度の厚さであるため、前記絶縁基板としては、表面粗さRaが0.05μm以下の極めて平滑な面性状を有した絶縁基板を用いなければならず、したがって、この絶縁基板には、表面が極めて平滑なアルミナ純度99%以上の高純度のセラミック基板を用いなければならないため、使用可能な絶縁基板が制約され、製造コストも高いものとなり、その結果、チップ抵抗器自体も比較的高価なものとなっていた。そこで、この特許文献2における発明は、簡単な構成で、正確に信頼性の高い金属薄膜の電子素子が形成可能で、コストも安価にすることができるチップ電子部品を提供するために、アルミナ純度96%程度のセラミック基板の表面全面に10〜数10μm程度の厚さのガラスコートを形成し、かつこのガラスコートは、表面粗さRaが0.02μm程度の極めて平滑な表面に形成され、そして、このガラスコートの表面全面に、蒸着やスパッタ等によりNi−Crの金属薄膜を約1000Å程度の厚さに形成しているものである。
しかしながら、上記した特許文献2のように、アルミナ純度96%程度のセラミック基板の表面全面に10〜数10μm程度の厚さのガラスコートを形成した場合、このガラスコートは、表面粗さRaが0.02μm程度の極めて平滑な表面に形成されるものの、熱伝導性がアルミナと比べて極めて悪いため、静電気等の負荷により発生した熱を絶縁基板に逃がすということが速やかに行えず、その結果、負荷特性の向上の面で課題を有するとともに、ガラスコートを別個に形成する必要性から製造コストの面でも課題を有するものであった。
また、絶縁基板として、表面が極めて平滑なアルミナ純度99%以上の高純度のセラミック基板を用いた場合、このセラミック基板に、短冊状基板および個片状基板に分割するための分割溝を形成する際、セラミック基板の硬度が非常に高いため、プレス金型による分割溝の形成が効率よく行えず、そのため、短冊状基板および個片状基板に分割する場合には、レーザー切断やダイシング等の高コストの量産プロセスが必要となるものであり、さらに前記分割溝を形成するためにレーザースクライブを用いた場合、チップ形状の製品が小型品の場合は、レーザースクライブにより分割溝を形成する際に生じた飛散物が薄膜抵抗体層の上に飛散して抵抗値変化に影響を及ぼすという課題を有していた。
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたもので、静電気特性を向上させることができるとともに、短冊状基板および個片状基板に分割する場合においても、その分割が効率よく行えて量産性を向上させることができ、さらにはレーザースクライブにより分割溝を形成する際に生じた飛散物の影響も解消することができる薄膜チップ抵抗器の製造方法を提供することを目的とするものである。
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有するものである。
本発明の請求項1に記載の発明は、分割溝が形成されていないシート状の絶縁基板の上面に複数の上面電極層を形成する工程と、前記複数の上面電極層と電気的に接続されるように複数の薄膜抵抗体層を形成する工程と、前記複数の薄膜抵抗体層を覆うように保護膜層を形成する工程とを備え、前記シート状の絶縁基板として、表面粗さRaが0.1μm以下であるアルミナ純度99%以上のアルミナ基板を用いるとともに、前記絶縁基板の上面と裏面に前記薄膜抵抗体層をチップ形状に分割する1次分割溝および2次分割溝をレーザースクライブによりそれぞれ形成し、かつ前記1次分割溝と2次分割溝は、前記絶縁基板の上面側の1次分割溝の深さt1を前記絶縁基板の裏面側の1次分割溝の深さt3より浅く形成するとともに、シート状の絶縁基板1における上面側の2次分割溝1bの深さt2をシート状の絶縁基板1における裏面側の2次分割溝1dの深さt4より浅く形成し、かつ前記絶縁基板の上面側の1次分割溝の深さt1を2次分割溝の深さt2より深く形成するとともに、前記絶縁基板の裏面側の1次分割溝の深さt3を2次分割溝の深さt4より深く形成し、さらに前記薄膜抵抗体層上にフォトレジストを塗布、エッチングして所定の抵抗パターンに従って前記薄膜抵抗体層を抜き取った後、前記所定の抵抗パターンに従って抜き取られた薄膜抵抗体層が前記フォトレジストで被覆された状態でレーザースクライブにより前記絶縁基板の上面側と裏面側の1次分割溝および2次分割溝を形成し、その後、前記フォトレジストを剥離し、さらにその後、前記1次分割溝でシート状の絶縁基板を短冊状に分割して、この短冊状基板の端面に端面電極層を形成し、その後、2次分割溝で短冊状基板を分割することにより個片状基板を得るようにしたものである。
上記製造方法によれば、絶縁基板として、表面粗さRaが0.1μm以下であるアルミナ純度99%以上のアルミナ基板を用いているため、従来の薄膜チップ抵抗器で用いられている表面粗さRaが0.3μm程度であるアルミナ純度96%程度の絶縁基板に比べて熱伝導性に優れたものが得られることになり、その結果、静電気等の負荷により発生した熱も絶縁基板に効果的に逃がすことができるとともに、絶縁基板の表面の凹凸による高低差も小さくなり、これにより、従来の薄膜チップ抵抗器で設計されている薄膜抵抗体層の膜厚のままでも、絶縁基板の表面の凹凸に影響されること無く薄膜抵抗体層はより均一な膜厚を有することになるため、静電気が印加されたときの負荷集中による抵抗値変化は起こりにくくなって静電気特性を著しく向上させることができ、しかも、絶縁基板の表面の凹凸による高低差が小さくなることにより、フォトリソグラフィーで形成することが可能な抵抗体線幅で得られるアスペクト比も大きくすることができるため、抵抗体線幅も狭くすることができるとともに、薄膜抵抗体層の薄膜化が可能となり、その結果、例えば、2012サイズで1MΩといった高抵抗領域を得ることができる。
また、絶縁基板の上面と裏面にレーザースクライブによりそれぞれ形成された1次分割溝と2次分割溝は、前記絶縁基板の上面側の1次分割溝の深さt1を前記絶縁基板の裏面側の1次分割溝の深さt3より浅く形成するとともに、シート状の絶縁基板1における上面側の2次分割溝1bの深さt2をシート状の絶縁基板1における裏面側の2次分割溝1dの深さt4より浅く形成し、さらに前記絶縁基板の上面側の1次分割溝の深さt1を2次分割溝の深さt2より深く形成するとともに、前記絶縁基板の裏面側の1次分割溝の深さt3を2次分割溝の深さt4より深く形成しているため、保護膜層や薄膜抵抗体層等を形成している絶縁基板の上面側において発生するレーザースクライブによる飛散物の発生を抑制することができ、その結果、保護膜層や薄膜抵抗体層等がレーザースクライブにより損傷するという度合も非常に少なくなるため、抵抗値変化の影響を軽減することができる。
そしてまた、シート状の絶縁基板を短冊状基板および個片状基板に分割する場合においても、絶縁基板の上面と裏面にレーザースクライブにより1次分割溝と2次分割溝がそれぞれ形成されているため、短冊状基板および個片状基板への分割も効率よく行えて量産性を向上させることができるとともに、絶縁基板1における上面側の1次分割溝の深さt1を2次分割溝の深さt2より深く形成するとともに、裏面側の1次分割溝の深さt3を2次分割溝の深さt4より深く形成しているため、1次分割時における短冊状基板への不用意な割れも抑制することができる。
さらに、前記絶縁基板の上面側、すなわち薄膜抵抗体層を形成した側および絶縁基板の裏面側にそれぞれ形成される1次分割溝および2次分割溝は、薄膜抵抗体層をフォトレジストパターンに沿ってエッチングすることにより形成した後にレーザースクライブにより形成し、その後、フォトレジストを剥離するようにしているため、絶縁基板の薄膜抵抗体層を形成した側に形成される1次分割溝および2次分割溝は薄膜抵抗体層がフォトレジストで被覆された状態でレーザースクライブにより形成されることになり、その結果、レーザースクライブにより1次分割溝および2次分割溝を形成する際に生じた飛散物はフォトレジストの上に付着することになり、そして、この飛散物が付着したフォトレジストは後で剥離されるため、チップ形状の製品が小型品の場合において、レーザースクライブにより1次分割溝および2次分割溝を形成する際に生じた飛散物が薄膜抵抗体層の上に飛散して抵抗値変化に影響を及ぼすという課題も解消することができるという作用効果を有するものである。
以上のように本発明の薄膜チップ抵抗器の製造方法は、絶縁基板として、表面粗さRaが0.1μm以下であるアルミナ純度99%以上のアルミナ基板を用いているため、従来の薄膜チップ抵抗器で用いられている表面粗さRaが0.3μm程度であるアルミナ純度96%程度の絶縁基板に比べて熱伝導性に優れたものが得られることになり、その結果、静電気等の負荷により発生した熱も絶縁基板に効果的に逃がすことができるとともに、絶縁基板の表面の凹凸による高低差も小さくなり、これにより、従来の薄膜チップ抵抗器で設計されている薄膜抵抗体層の膜厚のままでも、絶縁基板の表面の凹凸に影響されること無く薄膜抵抗体層はより均一な膜厚を有することになるため、静電気が印加されたときの負荷集中による抵抗値変化は起こりにくくなって静電気特性を著しく向上させることができ、しかも、絶縁基板の表面の凹凸による高低差が小さくなることにより、フォトリソグラフィーで形成することが可能な抵抗体線幅で得られるアスペクト比も大きくすることができるため、抵抗体線幅も狭くすることができるとともに、薄膜抵抗体層の薄膜化が可能となり、その結果、例えば、2012サイズで1MΩといった高抵抗領域を得ることができる。
また、絶縁基板の上面と裏面にレーザースクライブによりそれぞれ形成された1次分割溝と2次分割溝は、前記絶縁基板の上面側の1次分割溝の深さt1を前記絶縁基板の裏面側の1次分割溝の深さt3より浅く形成するとともに、シート状の絶縁基板1における上面側の2次分割溝1bの深さt2をシート状の絶縁基板1における裏面側の2次分割溝1dの深さt4より浅く形成し、さらに前記絶縁基板の上面側の1次分割溝の深さt1を2次分割溝の深さt2より深く形成するとともに、前記絶縁基板の裏面側の1次分割溝の深さt3を2次分割溝の深さt4より深く形成しているため、保護膜層や薄膜抵抗体層等を形成している絶縁基板の上面側において発生するレーザースクライブによる飛散物の発生を抑制することができ、その結果、保護膜層や薄膜抵抗体層等がレーザースクライブにより損傷するという度合も非常に少なくなるため、抵抗値変化の影響を軽減することができる。
そしてまた、1次分割および2次分割によって短冊状基板、個片状基板に分割する場合においても、絶縁基板1の両面への1次分割溝1aと2次分割溝1bの形成により分割が効率よく行えて量産性を向上させることができるとともに、絶縁基板1における上面側の1次分割溝の深さt1を2次分割溝の深さt2より深く形成するとともに、裏面側の1次分割溝の深さt3を2次分割溝の深さt4より深く形成しているため、1次分割時における短冊状基板への不用意な割れを抑制することができる。
さらに、前記絶縁基板の上面側、すなわち薄膜抵抗体層を形成した側および絶縁基板の裏面側にそれぞれ形成される1次分割溝および2次分割溝は、薄膜抵抗体層をフォトレジストパターンに沿ってエッチングすることにより形成した後にレーザースクライブにより形成し、その後、フォトレジストを剥離するようにしているため、絶縁基板の薄膜抵抗体層を形成した側に形成される1次分割溝および2次分割溝は薄膜抵抗体層がフォトレジストで被覆された状態でレーザースクライブにより形成されることになり、その結果、レーザースクライブにより1次分割溝および2次分割溝を形成する際に生じた飛散物はフォトレジストの上に付着することになり、そして、この飛散物が付着したフォトレジストは後で剥離されるため、チップ形状の製品が小型品の場合において、レーザースクライブにより1次分割溝および2次分割溝を形成する際に生じた飛散物が薄膜抵抗体層の上に飛散して抵抗値変化に影響を及ぼすという課題も解消することができる等優れた効果を奏するものである。
以下、本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器の断面図、図2は同薄膜チップ抵抗器の製造方法を示すフローチャートである。本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器の製造方法の特徴とするところは、図2のフローチャートに示すように、絶縁基板の上面・裏面にレーザースクライブにより分割溝を形成する工程を薄膜抵抗体層を形成する工程の中で行うようにした点である。なお、図1に示す本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器の断面構造は、図14に示した従来の薄膜チップ抵抗器の断面構造と同一であるため、その構造の説明は省略する。
次に、本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器の製造方法を図2のフローチャート、図3(a)〜(c)、図4(a)〜(c)、図5(a)〜(c)、図6(a)(b)および図7(a)〜(c)の製造工程図にもとづいて説明する。
まず、図3(a)に示すように、アルミナ純度が99%以上で、表面粗さが0.1μmであり、かつ分割溝が形成されていないアルミナ基板からなるシート状の絶縁基板1を用意する。
次に、図3(b)に示すように、絶縁基板1の上面および裏面に金を主成分とする金属有機物からなる電極ペーストをスクリーン印刷・乾燥させ、その後、金属有機物電極ペーストの有機成分だけを飛ばし、そして金属成分だけを絶縁基板1上に焼き付けるために、ベルト式連続焼成炉によって焼成し、上面電極層2および裏面電極層3(図示せず)を形成する(図2の裏面・上面電極層形成工程)。
次に、図3(c)に示すように、絶縁基板1の上面全体にNi−Cr系合金等からなる薄膜抵抗体層4をスパッタにより形成する(図2の抵抗体着膜工程)。
次に、図4(a)に示すように、前記薄膜抵抗体層4を所定の抵抗体パターン4aに形成するフォトリソプロセス工程の前半部分、すなわちフォトレジスト塗布・乾燥、パターン露光、現像の各工程を行う。ここでフォトレジストの塗布にはロールコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フィルムレジスト等を用い、その膜厚は所望の抵抗体パターン4aを忠実に再現するために膜厚ばらつきの少ない数μm程度の均一な膜厚とする。
次に、図4(b)に示すように、フォトレジストに形成した抵抗体パターン4aに従って薄膜抵抗体層4を抜き取るというウェットエッチング工程を行う。このウェットエッチングには、上面電極層2の材料を溶解せずに薄膜抵抗体層4の材料を選択的に溶解する強酸性の水溶液が用いられる。
次に、図4(c)に示すように、シート状の絶縁基板1における上面側と裏面側の両方のそれぞれに、前記薄膜抵抗体層4をチップ形状に分割するための1次分割溝1a,1cおよび2次分割溝1b,1dをレーザースクライブにより形成する。この場合、1次分割溝1a,1cはシート状の絶縁基板1の両端まで達していることが必要であり、一方、1次分割溝1a,1cと直交する関係にある2次分割溝1b,1dは、シート状の絶縁基板1の両端まで達するように形成する必要はないものである(図2の上面・裏面分割溝形成工程)。
次に、図5(a)に示すように、フォトレジストを剥離するレジスト剥離工程を実施し、その後、抵抗体パターン4aを安定な膜にするために、300〜400℃の雰囲気で熱処理を行う(図2の薄膜抵抗体層を形成する工程)。
次に、図5(b)に示すように、上面電極層2上の薄膜抵抗体層4を覆うように導体樹脂からなる再上面電極層5を形成する(図2の再上面電極層形成工程)。
次に、図5(c)に示すように、抵抗体パターン4aの抵抗値を所定の値に修正するためにレーザートリミングにより抵抗値修正工程を行って、抵抗値修正済みの抵抗パターン4bとする(図2の抵抗値修正工程)。
次に、図6(a)に示すように、抵抗値修正済みの抵抗パターン4bを保護するために、複数の薄膜抵抗体層4をそれぞれ覆うように熱硬化性のエポキシ樹脂、あるいはポリイミド樹脂とエポキシ樹脂の二層構成からなる複数の独立した保護膜層6を形成する(図2の保護膜層形成工程)。
次に、図6(b)に示すように、シート状の絶縁基板1を1次分割溝1a,1cに沿って分割することにより短冊状基板1eを得る(図2の1次分割工程)。
次に、図7(a)に示すように、短冊状基板1eの端面に樹脂金属を塗布することにより端面電極層7を形成する。なお、この場合、端面電極層7はCrやNiCr系合金等の材料を用いてスパッタにより形成してもよいものである(図2の端面電極層形成工程)。
次に、図7(b)に示すように、短冊状基板1eを2次分割溝1b,1dに沿って分割することにより個片状基板1fを得る(図2の2次分割工程)。
最後に、図7(c)に示すように、はんだ付け時の信頼性を確保するために、露出した電極部にめっきによりニッケルめっき層、錫めっき層からなる電極めっき層8を形成する工程(図2の電極めっき層形成工程)を行うことにより、本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器を完成させる。
図8は上記したシート状の絶縁基板1における上面側の1次分割溝1aおよび2次分割溝1bの深さと裏面側の1次分割溝1cおよび2次分割溝1dの深さとの関係を示したもので、このシート状の絶縁基板1における上面側の1次分割溝1aの深さt1および2次分割溝1bの深さt2と、裏面側の1次分割溝1cの深さt3および2次分割溝1dの深さt4との関係は、シート状の絶縁基板1における上面側の1次分割溝1aの深さt1をシート状の絶縁基板1における裏面側の1次分割溝1cの深さt3より浅く形成するとともに、シート状の絶縁基板1における上面側の2次分割溝1bの深さt2をシート状の絶縁基板1における裏面側の2次分割溝1dの深さt4より浅く形成し、さらにシート状の絶縁基板1における上面側の1次分割溝1aの深さt1を2次分割溝1bの深さt2より深く形成するとともに、裏面側の1次分割溝1cの深さt3を2次分割溝1dの深さt4より深く形成しているもので、すなわち、t1<t3,t2<t4,t1>t2,t3>t4の関係にしているものである。
このような関係、すなわち、絶縁基板1の裏面側の溝深さを絶縁基板1の上面側の溝深さより深くすることにより、保護膜層6や薄膜抵抗体層4等を形成している絶縁基板1の上面側において発生するレーザースクライブによる飛散物の発生を抑制することができるため、保護膜層6や薄膜抵抗体層4等がレーザースクライブにより損傷するという度合を非常に少なくすることができ、これにより、抵抗値変化の影響を軽減することができ、また、1次分割および2次分割によって短冊状基板、個片状基板に分割する場合においても、絶縁基板1の両面への1次分割溝1aと2次分割溝1bの形成により分割が効率よく行えて量産性を向上させることができるとともに、絶縁基板1における上面側の1次分割溝1aの深さt1を2次分割溝1bの深さt2より深く形成するとともに、裏面側の1次分割溝1cの深さt3を2次分割溝1dの深さt4より深く形成しているため、1次分割時における短冊状基板1eへの不用意な割れを抑制することができるものである。
上記したように本発明の一実施の形態においては、絶縁基板1として、表面粗さRaが0.1μm以下であるアルミナ基板を用いているため、従来の薄膜チップ抵抗器で用いられている表面粗さRaが0.3μm程度である絶縁基板に比べて絶縁基板1の表面の凹凸による高低差は小さくなり、これにより、従来の薄膜チップ抵抗器で設計されている薄膜抵抗体層4の膜厚のままでも、絶縁基板1の表面の凹凸に影響されること無く薄膜抵抗体層4はより均一な膜厚を有することになるため、静電気が印加されたときの負荷集中による抵抗値変化は起こりにくくなって静電気特性を向上させることができるという効果を有するものである。
また、本発明の一実施の形態においては、絶縁基板1を構成するアルミナ基板として、アルミナ純度が99%以上のアルミナ基板を用いているため、アルミナ基板の表面粗さRaを容易に0.1μm以下にすることが可能となり、これにより、従来の薄膜チップ抵抗器で設計されている薄膜抵抗体層の膜厚のままでも、静電気が印加されたときの負荷集中による抵抗値変化は起こりにくくなって静電気特性を向上させることができるという効果を有するものである。
なお、上記本発明の一実施の形態においては、裏面電極層3(図示せず)を形成する場合、金を主成分とするもので形成しているが、この裏面電極層3(図示せず)は、図6(a)で示した抵抗値修正済みの抵抗パターン4bを保護するための熱硬化性のエポキシ樹脂からなる保護膜層6を形成した後、絶縁基板1の裏面に導体樹脂からなる電極をスクリーン印刷して硬化させることにより形成しても良いものである。
(表1)は表面粗さRaが0.3μm、特にアルミナ純度が96%であるアルミナ基板からなる絶縁基板を用いた抵抗値が75kΩの従来の薄膜チップ抵抗器と、表面粗さRaが0.1μm以下、特にアルミナ純度が99%以上であるアルミナ基板からなる絶縁基板を用いた従来と同一形状で、かつ抵抗値が75kΩである本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器について、人体モデルの静電気試験をそれぞれ10個ずつ実施し、静電気印加後の抵抗値変化率が0.1%を超えるものの個数を示したものである。
上記(表1)から明らかなように、従来の薄膜チップ抵抗器においては、静電気印加後の抵抗値変化率が0.1%を超えるものの個数が印加電圧2.4kVで10個になったが、本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器においては、印加電圧が2.4kVを超えてそれ以上になっても、静電気印加後の抵抗値変化率が0.1%を超えるものの個数は0個であった。この試験結果からも明らかなように、本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器は、静電気特性を著しく向上させることができるものである。
また、表面粗さRaが0.1μm以下であるアルミナ基板からなる絶縁基板1を用いた本発明の一実施の形態における薄膜チップ抵抗器は、表面粗さRaが0.1μm以下であるため、図9に示すように、絶縁基板1を構成するアルミナ粒子径は小さくなって、絶縁基板1の表面の凹凸により高低差も小さくなるため、絶縁基板1の表面の薄膜抵抗体層4の膜厚は全体的に均一になり、その結果、静電気が印加された際においても、従来のような膜厚の薄い部分へ静電気の負荷集中が発生するということはなくなるため、抵抗値が変化してしまうということもなくなるものである。
そしてまた、上記本発明の一実施の形態においては、絶縁基板1の上面側、すなわち薄膜抵抗体層4を形成した側と絶縁基板1の裏面側の両方にそれぞれ1次分割溝1a,1cおよび2次分割溝1b,1dを形成する場合、薄膜抵抗体層4をフォトレジストパターンに沿ってエッチングすることにより形成した後にレーザースクライブにより形成し、その後、フォトレジストを剥離するようにしているため、絶縁基板1の薄膜抵抗体層4を形成した側に形成される1次分割溝1aおよび2次分割溝1bは薄膜抵抗体層4がフォトレジストで被覆された状態でレーザースクライブにより形成されることになり、その結果、レーザースクライブにより1次分割溝1aおよび2次分割溝1bを形成する際に生じた飛散物はフォトレジストの上に付着することになり、そして、この飛散物が付着したフォトレジストは後で剥離されるため、チップ形状の製品が小型品の場合において、レーザースクライブにより1次分割溝1aおよび2次分割溝1bを形成する際に生じた飛散物が薄膜抵抗体層4の上に飛散して抵抗値変化に影響を及ぼすという課題も解消することができるものである。
さらに、上記本発明の一実施の形態においては、絶縁基板1の上面側、すなわち薄膜抵抗体層4を形成した側と絶縁基板1の裏面側の両方に1次分割溝1a,1cおよび2次分割溝1b,1dをそれぞれ形成する場合、レーザースクライブによって形成するようにしているが、この場合、1回の走行で1次分割溝1a,1cおよび2次分割溝1b,1dを形成しようとすると、大きなレーザーパワーが必要になるとともに、このレーザーによる基板発熱における抵抗値変化等の悪影響も懸念されるため、レーザースクライブによって1次分割溝1a,1cおよび2次分割溝1b,1dをそれぞれ形成する場合、複数回に分けてレーザーを走行させるようにすれば、上記したような不具合も解消することができるものである。
また、上記本発明の一実施の形態のように、絶縁基板1の上面側、すなわち薄膜抵抗体層4を形成した側と絶縁基板1の裏面側の両方に1次分割溝1a,1cおよび2次分割溝1b,1dをそれぞれ形成するのではなく、例えば、絶縁基板1の上面側、すなわち薄膜抵抗体層4を形成した側と絶縁基板1の裏面側のいずれか一方のみに1次分割溝1aおよび2次分割溝1bを形成するようにした片面スリットの場合は、この絶縁基板1を1次分割および2次分割によって短冊状基板、個片状基板に分割する際、図10に示すように、例えば、絶縁基板1の裏面側のみに分割溝1a,1bを形成したものにおいては、この分割溝1a,1bの部分から絶縁基板1の上面に向けて分割バリ9が生じることになり、その結果、製品寸法(L寸法)が所定寸法より分割バリ9の寸法分だけ大きくなってしまうという課題を有していた。しかしながら、上記本発明の一実施の形態においては、絶縁基板1の上面側、すなわち薄膜抵抗体層4を形成した側と絶縁基板1の裏面側の両方に1次分割溝1a,1cおよび2次分割溝1b,1dをそれぞれ形成するようにした両面スリットを採用しているため、この絶縁基板1を1次分割および2次分割によって短冊状基板、個片状基板に分割した場合、図11に示すように、上記したような分割バリ9が生じることはなく、きれいな状態で分割されることになり、その結果、製品寸法(L寸法)は所定寸法のものを確実に得ることができるものである。
図12は絶縁基板1の上面側の1次分割溝1aの深さと裏面側の1次分割溝1cの深さの両方を合算した深さの絶縁基板1の厚みに対する比率と、分割バリ寸法との関係を示す図で、この図12からも明らかなように、前記比率は45%〜75%の範囲が好ましいものである。すなわち、前記比率が45%以上であれば、分割バリ寸法を20μm以下に抑えることができ、また、前記比率が75%以下であれば、1次分割溝に沿った基板割れも確実に防止することができるものである。
図13は絶縁基板1の上面側の2次分割溝1bの深さと裏面側の2次分割溝1dの深さの両方を合算した深さの絶縁基板1の厚みに対する比率と、分割バリ寸法との関係を示す図で、この図13からも明らかなように、前記比率は20%〜60%の範囲が好ましいものである。すなわち、前記比率が20%以上であれば、分割バリ寸法を20μm以下に抑えることができ、また、前記比率が60%以下であれば、短冊状基板の状態における2次分割溝に沿った折れも確実に防止することができるものである。