図1から図15を参照して、実施の形態における内燃機関について説明する。本実施の形態における内燃機関は、機械圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構と、吸気弁の閉弁時期を変更可能な可変動弁機構とを備え、低負荷の領域において膨張比を大きくする超高膨張比制御を行う。
図1は、本実施の形態における内燃機関の概略全体図である。本実施の形態における内燃機関は、クランクケース1、シリンダブロック2、およびシリンダヘッド3を備える。シリンダブロック2の内部に形成された穴部には、ピストン4が配置されている。ピストン4の頂面とシリンダヘッド3に囲まれる燃焼室5の頂面中央部には、点火栓6が配置されている。シリンダヘッド3には、吸気ポート8および排気ポート10が形成されている。吸気ポート8の端部には吸気弁7が配置されている。排気ポート10の端部には、排気弁9が配置されている。吸気ポート8は、吸気枝管11を介してサージタンク12に連結されている。各吸気枝管11には夫々対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに、各燃焼室5内に直接的に燃料を噴射するように配置されていても構わない。
サージタンク12は、吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結されている。吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17が配置されている。また、吸気ダクト14内には、例えば熱線を用いた吸入空気量検出器18が配置される。一方、排気ポート10は、排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒装置20に連結されている。排気マニホルド19には空燃比センサ21が配置されている。
本実施の形態における内燃機関は、排気ガス再循環(EGR)を行うための排気ガス再循環装置を備える。本実施の形態の排気ガス再循環装置は、再循環通路としてEGRガス導管26を含む。EGRガス導管26は、排気マニホルド19とサージタンク12とを互いに接続している。EGRガス導管26の途中には、EGR制御弁27が配置されている。EGR制御弁27は、機関排気通路から機関吸気通路に循環する排気ガスの流量が調整可能に形成されている。EGR制御弁27の開度を変更することにより、排気ガスの再循環率の調整を行うことができる。
一方、図1に示される実施例では、クランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられている。更に、実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。本実施の形態における実圧縮作用開始時期変更機構Bは、吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変動弁機構としての可変バルブタイミング機構を含む。
クランクケース1とシリンダブロック2にはクランクケース1とシリンダブロック2との間の相対位置関係を検出するための相対位置センサ22が取付けられている。この相対位置センサ22からはクランクケース1とシリンダブロック2との間隔の変化を示す出力信号が出力される。また、可変バルブタイミング機構Bには吸気弁7の閉弁時期を示す出力信号を発生するバルブタイミングセンサ23が取付けられている。スロットル弁駆動用のアクチュエータ16にはスロットル弁開度を示す出力信号を発生するスロットル開度センサ24が取付けられている。
本実施の形態における内燃機関は、制御装置としての電子制御ユニット30を備える。本実施の形態における電子制御ユニット30は、デジタルコンピュータを含み、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を備える。吸入空気量検出器18、空燃比センサ21、相対位置センサ22、バルブタイミングセンサ23およびスロットル開度センサ24の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。負荷センサ41の出力により要求負荷を検出することができる。更に、入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続されている。クランク角センサ42の出力により、機関回転数を検出することができる。
一方、出力ポート36は、対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用のアクチュエータ16、EGR制御弁27、可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bに接続される。これらの装置は、電子制御ユニット30により制御されている。
図2に、図1に示す可変圧縮比機構の分解斜視図を示す。図3に、可変圧縮比機構の作用を説明する内燃機関の概略断面図を示す。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されている。各突出部50内には夫々断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔てて夫々対応する突出部50の間に嵌合される複数個の突出部52が形成されている。これらの各突出部52内にも夫々断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
本実施の形態における可変圧縮比機構は、一対のカムシャフト54,55を含む。各カムシャフト54,55上には、一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には、図3に示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びている。この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるように、これら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。また、カムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ25が取付けられている。カム回転角度センサ25の出力は、電子制御ユニット30に入力される。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55上に固定された円形カム58を図3(A)において矢印で示されるように、互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示される方向に回転させると図3(C)に示されるように偏心軸57は最も低い位置となる。
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)には夫々の状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
図3(A)から図3(C)を比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。即ち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示されるように各カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸には夫々螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61,62が取付けられており、これらウォーム61,62と噛合するウォームホイール63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。この実施例では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。
なお、本実施の形態における可変圧縮比機構は、クランクケースを含む下部構造物に対して、シリンダブロックを相対的に移動させているが、この形態に限られず、可変圧縮比機構は、機械圧縮比を変更可能な任意の機構を採用することができる。
図4は、図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。本実施の形態における可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転されるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを備えており、各ベーン75の両側には夫々進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77に夫々連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは、図4においてスプール弁85が右方に移動させられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転される。
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは、図4においてスプール弁85が左方に移動させられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転される。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転しているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止され、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。従って可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させたり、遅角させたりすることができる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができる。従って吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1および図4に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に、図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A),(B),(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A),(B),(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。即ち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7および図8を参照しつつ本発明において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A),(B),(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。即ち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、即ち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、即ち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えない。即ち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギーが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大する場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少する。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、従って機関運転時における熱効率を向上させるためには、即ち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、従ってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。従って本発明では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
次に、図9を参照して、本実施の形態における比較例の運転制御について説明する。図9は、超高膨張比制御の一般的な運転制御全般について概略的に説明するグラフである。図9には或る機関回転数における機関負荷に応じた点火時期、吸気弁閉弁時期、膨張比(機械圧縮比)、実圧縮比およびスロットル弁の開度の各変化が示されている。なお、図9は、触媒装置20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC,COおよびNOXを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基づいて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
さて、前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。従って図9に示されるように、このときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示されるように早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されているのでポンピング損失は零となっている。
一方、図9において示されるように機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、従って機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、従って燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大される。即ち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少する。従ってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。なお、このとき図9に示される例では燃焼室5内の空燃比は理論空燃比となっているのでピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は燃料量に比例して変化していることになる。
機関負荷が更に低くなると機械圧縮比は更に増大する。図9に示す内燃機関においては、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる限界機械圧縮比(上限機械圧縮比)に達する。機械圧縮比が限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が限界機械圧縮比に保持される。従って低負荷側の機関中負荷運転時および機関低負荷運転時には即ち、機関低負荷運転側では機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
一方、図9に示される実施例では機関負荷がL1まで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示される実施例ではこのとき、即ち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関負荷が低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
本発明による実施例では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動されることになる。
前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。従って本実施例では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
本実施の形態においては、上記のように低負荷側の領域にて一定に維持される機械圧縮比を固定機械圧縮比と称し、低負荷側の領域にて一定に維持される吸気弁の閉弁時期を固定閉弁時期と称する。図9の運転例においては、機関負荷L1以下の領域において、機械圧縮比が固定機械圧縮比に維持され、また、吸気弁の閉弁時期が固定閉弁時期に維持されている。
本実施の形態における内燃機関は、燃焼室における点火時期を変更可能な点火時期調整装置を備える。本実施の形態における点火時期については、機関負荷が小さくなるほどMBTが進角するために、機関負荷が小さくなるほど点火時期を進角することができる。
ところが、超高膨張比制御を行う内燃機関においては、前述の様に低負荷の領域において吸気弁を閉じる時期が遅くなる。すなわち、吸気弁は、圧縮上死点に近い時期において閉じられる。一方で、機関負荷の低下に伴って点火時期が進角される。このために、低負荷の領域においては、吸気弁が閉じた後の混合気の圧縮作用が十分に行われずに点火される場合がある。また、混合気の温度が十分に上昇せずに点火される場合がある。このような状態では、特に初期火炎の成長に関して著しく不利になる。たとえば、燃焼室においては、燃料の燃焼性が低下し、着火遅れがばらつく場合が生じる。この結果、図9に示す比較例においては、低負荷の領域にて燃焼変動が目標値よりも大きくなる領域が発現している。
図10に、本実施の形態の内燃機関における第1の運転制御のグラフを示す。図10のグラフにおいては、最小負荷以上の負荷の領域が示されている。横軸は、機関負荷であり、内燃機関が出力するトルクに対応し、または平均有効圧力に対応する変数である。図10においては、破線にて比較例の運転制御が記載され、実線にて第1の運転制御が記載されている。
本実施の形態の内燃機関においては、点火時期に関する負荷閾値を有し、負荷閾値よりも小さな負荷の領域においては、点火時期を一定の固定点火時期に維持する制御を行う。比較例の運転制御においては機関負荷が小さくなるほど、点火時期を進角させる制御を行なっていたが、第1の運転制御においては、予め定められた負荷閾値Ltaよりも小さな負荷の領域においては、点火時期の進角を停止する制御を行う。
負荷閾値Ltaは、たとえば、膨張比を一定にする領域、すなわち、機械圧縮比を固定機械圧縮比に維持する領域に設定することができる。また、負荷閾値Ltaは、吸気弁の閉弁時期を一定にする領域、すなわち、固定閉弁時期に維持する領域に設定することができる。本実施の形態においては、機械圧縮比が限界機械圧縮比になる機関負荷L1以下の領域において負荷閾値Ltaを設定することができる。
第1の運転制御を行うことにより、燃焼室における燃焼性が不安定になる低負荷の領域において点火時期の進角を停止するために、吸気弁が閉じた後の混合気の圧縮および温度上昇を促進することができる。このために、燃焼性の低下を抑制することができる。本実施の形態における負荷閾値Ltaは、燃焼変動がほぼ目標値に到達する機関負荷に設定されている。このために、燃焼変動が目標値を超えてしまうことを抑制できる。
点火時期に関する負荷閾値は、燃焼性の安定性の目標値を達成できる領域のうち、小さな値を採用することが好ましい。この制御により、負荷の減少に伴って点火時期を進角する領域を大きくすることができて、熱効率の向上を図ることができる。
第1の運転制御を行う場合には、例えば、内燃機関の機関回転数および要求負荷を関数にする機械圧縮比、吸気弁の閉弁時期および点火時期のマップを予め準備し、電子制御ユニット30に記憶させておくことができる。このマップにおいて、負荷閾値Lta以下の負荷の領域では、点火時期を一定に設定することができる。内燃機関は、たとえば、機関回転数および要求負荷を検出し、機械圧縮比および吸気弁の閉弁時期に加えて、点火時期を読み込んで運転制御を行うことができる。
図11に、本実施の形態における第2の運転制御のグラフを示す。第2の運転制御においては、低負荷の所定の領域にて点火時期を一定に維持する第1の運転制御に加えて、吸気弁の固定閉弁時期を進角させる制御を行う。図11においては、破線にて第1の運転制御が記載され、実線にて第2の運転制御が記載されている。低負荷の領域では、ノッキング等の異常燃焼が高負荷の領域に比べて発生しにくくなる。このため、燃焼室における実圧縮比を高負荷よりも上昇させることができる。
第2の運転制御においては、第1の運転制御において吸気弁の閉弁時期を一定にした機関負荷L1よりも大きな機関負荷Lx以下の領域において、吸気弁の閉弁時期を一定に維持する制御を行っている。すなわち、負荷を低下させたときに機械圧縮比が固定機械圧縮比に到達する機関負荷L1よりも大きな機関負荷Lxにて、吸気弁の閉弁時期を固定閉弁時期に維持する制御を行なっている。第2の運転制御における固定閉弁時期は、第1の運転制御における固定閉弁時期よりも進角される。このために、機関負荷Lx未満の領域において、実圧縮比が第1の運転制御よりも高くなる。機関負荷Lx未満の領域において、吸気弁の閉弁時期が第1の運転制御よりも早くなるために、燃焼室における混合気の圧縮および温度上昇を促進することができて、燃焼性の低下を抑制することができる。
また、燃焼性の低下を抑制できるために、固定点火時期を第1の運転制御よりも進角させることができる。第1の運転制御では、負荷閾値Lta以下の領域において点火時期を一定に維持していた。これに対して、第2の運転制御の点火時期に関する負荷閾値は、矢印110に示すように、負荷閾値Ltaよりも小さな負荷閾値Ltbに移動させることができる。機関負荷の減少に伴って点火時期を進角させる領域が第1の運転制御よりも広くなるために、内燃機関の熱効率が向上する。
第2の運転制御の負荷閾値Ltbは、吸気弁の固定閉弁時期の進角量に応じて、定めることができる。たとえば、吸気弁の固定閉弁時期を進角するほど、負荷閾値Ltbを小さくすることができて、機関負荷の減少に伴って点火時期を進角させる領域を大きくすることができる。
図12に、本実施の形態における第3の運転制御のグラフを示す。第3の運転制御においては、燃焼室における燃焼性が低下する制御が行なわれた場合の運転制御である。燃焼室における燃料の燃焼性が低下する制御としては、排気ガスの再循環率が上昇する制御を例示することができる。第3の運転制御では、第1の運転制御に加えて燃料の燃焼性の低下に応じて固定点火時期を遅角する制御を行う。
本実施の形態の内燃機関は、排気ガスの再循環装置を有する。本実施の形態における内燃機関の再循環率(EGR率)は、燃焼室に流入する全てのガスの流量に対する再循環排気ガスの流量の比と定めることができる。図1を参照して、再循環率を変化させる場合には、EGRガス導管26に配置されているEGR制御弁27を駆動することにより再循環の排気ガスの流量を変化させる。たとえば、EGR制御弁27の開度を大きくすることにより、再循環流量が増加して再循環率が増加する。
図12には、本実施の形態における第1の運転制御が破線にて記載されており、第3の運転制御が実線にて記載されている。第3の運転制御においては、排気ガスの再循環率を第1の運転制御よりも大きくしたときの状態を示している。たとえば、排気ガスの再循環率が大きくなるほど、燃焼室における燃焼が緩慢になり、燃焼性が低下する。燃焼室にて安定した燃焼を行うためには、燃焼室にて点火するときの圧力をより高く、また温度をより高くすることが好ましい。
本実施の形態の第3の運転制御においては、燃焼室における燃焼を安定化させるための点火時期に関する負荷閾値を上昇させる制御を行う。図12の運転制御例においては、矢印111に示すように、負荷閾値を、第1の運転制御の負荷閾値Ltaよりも大きな負荷閾値Ltcに移動させる。負荷閾値Ltc以下の領域において、点火時期を一定に維持している。固定点火時期は、第1の運転制御よりも遅角される。
第3の運転制御においては、燃焼室における燃焼性が低下する制御が行なわれた場合に、負荷閾値を大きく設定して、固定点火時期を遅角している。この制御により、機関負荷の減少に伴って点火時期の進角を停止する負荷領域を大きくすることができる。固定点火時期が遅くなるために、より広い負荷の領域において、燃焼室における混合気の圧縮および温度上昇を促進することができる。排気ガスの再循環制御が導入された場合に、燃焼室における燃焼性の低下を抑制することができる。
第3の運転制御においては、排気ガスの再循環率が燃焼室における燃料の燃焼性に対応する変数として機能する。内燃機関の運転期間中に、燃焼性に対応する変数を検出し、燃焼室における燃焼性の低下が大きいと判別されるほど、負荷閾値を大きくする制御を行うことができる。たとえば、排気ガスの再循環率を検出し、排気がスの再循環率が大きくなるほど、負荷閾値Ltcを大きくする制御を行うことができる。排気ガスの再循環率が大きくなるほど、点火時期を一定に維持する機関負荷の領域を大きくし、固定点火時期の遅角量を大きくすることができる。
第3の運転制御を行う場合には、例えば、要求負荷および機関回転数に加えてEGR制御弁の開度を関数にする機械圧縮比、吸気弁の閉時期および点火時期のマップを予め電子制御ユニットに記憶させておくことができる。このマップにおいて、負荷閾値Ltc以下の領域では、点火時期が固定点火時期に維持されるように定めることができる。運転制御においては、要求負荷、機関回転数およびEGR制御弁の開度を検出し、検出した要求負荷等に基づいて点火時期等を定めることができる。
燃焼室における燃焼性が低下する制御は、排気ガスの再循環率を大きくする制御の他に、燃焼室における目標空燃比を高くする制御を例示することができる。例えば、リーンバーン運転を行う内燃機関においては、燃焼時の空燃比(燃焼空燃比)が理論空燃比よりも高くなる。燃料が希薄になることにより、燃焼室における燃焼性が低下する。燃焼室における燃焼時の空燃比が理論空燃比よりも大きいほど、燃焼室における燃焼性が低下する。このために、安定した燃焼を行なうためには、より高い圧力およびより高い温度において点火することが好ましい。
燃焼時の空燃比を大きくする制御についても、排気ガスの再循環率を大きくする制御と同様に、たとえば、燃焼室における燃焼時の空燃比を検出し、燃焼時の空燃比が大きくなるほど(リーンになるほど)、負荷閾値Ltcを大きくし、固定点火時期の遅角量を大きくする制御を行うことができる。燃焼時の空燃比としては、排気ガスの空燃比を検出したり、目標空燃比を検出したりすることができる。
このように、燃焼室における燃焼性が低下するほど、点火時期に関する負荷閾値を大きくして、固定点火時期を遅角する制御を行うことができる。この制御により、燃焼性が低下する制御が導入されても、燃焼室における燃焼性の低下を抑制することができる。
第3の運転制御においては、燃焼室における燃焼性に対応する変数に基づいて、徐々に負荷閾値を変化させる制御に限られず、燃焼室における燃焼性に関する判定値を有し、燃焼性に対応する変数が判定値を超えて燃焼性が低下したと判別される場合に、点火時期に関する負荷閾値を大きくしても構わない。
図13に、本実施の形態における内燃機関の第4の運転制御のグラフを示す。第4の運転制御においては、排気ガスの再循環制御等の燃焼室における燃焼性が低下する制御が導入されたときに、第3の運転制御に加えて、固定機械圧縮比を低下させるとともに、固定閉弁時期を進角する制御を行う。図13には、破線にて第3の運転制御が記載され、実線にて第4の運転制御が記載されている。
第4の運転制御においては、燃焼室における燃焼性が低下する制御が導入されたときに、固定機械圧縮比を第3の運転制御よりも低下させている。機関負荷を高負荷から減少させたときに、機関負荷Lyにおいて、機械圧縮比の上昇、すなわち膨張比の上昇を停止している。機関負荷Ly以下の領域においては、機械圧縮比を一定の固定機械圧縮比に維持している。機関負荷Lyは、機関負荷L1よりも大きく、固定機械圧縮比に維持される負荷の領域は、第3の運転制御よりも大きくなっている。吸気弁の閉弁時期においても、機関負荷Ly以下の領域において、吸気弁の閉弁時期を一定の固定閉弁時期に維持している。固定閉弁時期を第3の運転制御よりも進角している。
前述の第3の運転制御においては、低負荷の領域における燃焼の安定化のために固定点火時期を遅角する制御を行っており、熱効率が低下している。本実施の形態の第4の運転制御においては、排気ガスの再循環率が高い場合には、再循環率が低い場合よりも固定機械圧縮比を低下させ、更に固定閉弁時期を進角する。
この制御を行うことにより、燃焼室における実圧縮比をほぼ一定の圧縮比に維持した状態で、吸気弁の固定閉弁時期を進角させることができる。固定閉弁時期を下死点側に移動させることができて、点火時期の進角余裕を大きくすることができる。この結果、第4の運転制御の負荷閾値Ltdは、矢印112に示すように、第3の運転制御の負荷閾値Ltcよりも小さくすることができる。固定点火時期を第3の運転制御よりも進角させることができる。機関負荷の減少に伴って点火時期を進角させる領域を大きくすることができて、第3の運転制御よりも熱効率を向上させることができる。
ところで、一般的に膨張比が低下すると熱効率が低下する。第4の運転制御においては、固定機械圧縮比が低下するために膨張比も低下する。しかし、固定点火時期を進角させることにより、膨張比の低下による熱効率の低下分を考慮しても、第3の運転制御よりも全体の熱効率の向上を図ることができる。
このように、燃焼室における燃料の燃焼性が低下する制御を行う場合に、固定機械圧縮比を低下させると共に固定閉弁時期を進角している。固定機械圧縮比の低下量および固定閉弁時期の進角量に基づいて点火時期に関する負荷閾値を定め、負荷閾値よりも小さな負荷の領域では、点火時期を一定の固定点火時期に維持する制御を行っている。この制御を行うことにより、燃焼室における燃焼性の低下を抑制する制御を行なっても内燃機関の熱効率の低下を抑制できる。
第4の運転制御においては、燃焼室における燃焼性に対応する変数を、排気ガスの再循環率にすることができる。本実施の形態における内燃機関は、排気ガスの再循環率を検出する検出装置を備え、検出した再循環率に基づいて燃焼性の低下の程度を判別することができる。検出した再循環率が大きいほど燃焼性の低下が大きいと判別することができる。検出した再循環率が大きいほど、固定機械圧縮比の低下量を大きくするとともに、固定閉弁時期の進角量を大きくすることができる。また、固定機械圧縮比および固定閉弁時期に基づいて、負荷閾値Ltd以下の領域において点火時期が一定になるように点火時期を定めることができる。
燃焼室における燃焼性が低下する制御として、燃焼時の空燃比を大きくする制御が含まれている場合も同様に、燃焼室における燃焼時の空燃比を検出し、燃焼時の空燃比に基づいて燃焼室における燃焼性を判別することができる。検出した燃焼時の空燃比が大きいほど燃焼性の低下が大きいと判別することができる。検出した燃焼時の空燃比が大きくなるほど、固定機械圧縮比の低下量を大きくするとともに、固定閉弁時期の進角量を大きくする制御を行うことができる。更に、固定機械圧縮比および固定閉弁時期に基づいて、固定点火時期を定めることができる。
本実施の形態の第4の運転制御においては、燃焼性が低下する制御が行なわれたときに、燃焼性が低下する大きさに応じて、固定機械圧縮比の低下量および吸気弁の固定閉弁時期の進角量が定められているが、この形態に限られず、燃焼室における燃焼性を判別する切替え判定値を設け、燃焼室における燃焼性が切替え判定値よりも劣ると判別される場合には、固定機械圧縮比を予め定められた量にて低下させると共に、固定閉弁時期を予め定められた量にて進角させることができる。一方で、燃焼室における燃料の燃焼性が切替え判定値よりも優れると判別される場合には、固定機械圧縮比を低下させると共に固定閉弁時期を進角する制御を禁止することができる。
たとえば、排気ガスの再循環率の切替え判定値を設け、再循環率が切替え判定値以下の場合には第3の運転制御を行って、再循環率が切替え判定値よりも大きくなった場合には第4の運転制御を行なっても構わない。また同様に、燃焼時の空燃比の切替え判定値を設けて、燃焼時の空燃比が切替え判定値よりも大きくなった場合に第4の運転制御を行なっても構わない。
図14に、本実施の形態における第5の運転制御のグラフを示す。第5の運転制御においては、燃焼室における燃焼性が低下する制御が導入されたときに、本実施の形態における第4の運転制御に加えて、さらに、吸気弁の固定閉弁時期を進角する制御を行う。図14には、破線にて第4の運転制御が記載されている。また、実線にて第5の運転制御が記載されている。
第5の運転制御においては、機関負荷Lzが、吸気弁の閉弁時期を固定閉弁時期に維持する上限の負荷である。第5の運転制御においては、機関負荷Lzを機械圧縮比が固定機械圧縮比に到達する機関負荷Lyよりも大きく設定している。機関負荷Lyよりも高い機関負荷Lzにおいて、吸気弁の閉弁時期を一定に維持している。
第5の運転制御の固定閉弁時期は、第4の運転制御の固定閉弁時期よりも進角している。低負荷では異常燃焼が高負荷よりも発生しにくいために、第2の運転制御の場合と同様に実圧縮比を高くすることができる。第4の運転制御では、固定閉弁時期を進角して、機関負荷Lz未満の領域において実圧縮比を高くすることができる。吸気弁の閉弁時期が早くなるために、燃焼室において混合気の圧縮および温度上昇を促進することができる。このために、矢印113に示すように、固定点火時期に関する負荷閾値Lteを、第4の運転制御における負荷閾値Ltdよりも小さくすることができる。機関負荷の減少に伴って点火時期を進角する領域を大きくすることができる。燃焼性の低下を抑制しながら第4の運転制御よりも熱効率の向上を図ることができる。
図15に、本実施の形態における第6の運転制御のグラフを示す。第6の運転制御においては、排気ガスの再循環率の大きさ等に依存して負荷閾値を変化させる第3の運転制御に加えて、吸気弁の閉弁時期を一定に維持する固定閉弁時期を進角する制御を行う。固定機械圧縮比は、第3の運転制御と同様に低下させない制御を行っている。第6の運転制御においては、矢印114に示すように、吸気弁の閉弁時期に関する負荷閾値Ltfを第3の運転制御の負荷閾値Ltcよりも小さくすることができる。機関負荷の減少に伴って点火時期を進角する領域を大きくすることができるために、第3の運転制御よりも熱効率の向上を図ることができる。
本実施の形態においては、排気ガスの再循環を行う排気ガス再循環装置として、再循環通路および再循環弁を備える外部EGR装置について説明を行なったが、この形態に限られず、排気ガス再循環装置は、内部EGR装置を含んでいても構わない。内部EGR装置は、以前の燃焼サイクルにおいて生じた排気ガスが今回の燃焼サイクルにおいて燃焼室に供給される量を変更可能に形成することができる。たとえば、内部EGR装置は、吸気弁と排気弁とが同時に開いているオーバーラップの期間を変更する装置を含むことができる。
また、本実施の形態においては、燃焼性が低下する制御として、排気ガスの再循環を行う制御および燃焼時の空燃比を高くする制御を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、燃焼室における燃焼性が低下する任意の制御を行うときに、本発明を適用することができる。たとえば、燃焼室における燃焼性を向上させるためのスワールコントロールバルブが配置されている内燃機関において、一部のスワールコントロールバルブが故障し、燃焼室においてスワール流の生成を中止する制御を行う場合に、本発明を適用することができる。
上記のそれぞれの実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。