本発明者らは、以前から再剥離用の粘着剤について研究を重ねており、高Tgポリマーと低Tgポリマーとが海島構造となるような粘着剤組成物であれば、ある程度、高速剥離性、低速での粘着力、なじみ性がバランスよく良好となることを見出し、既に出願した(特願2007−178925号)。
しかし、上記出願に記載されている技術では、粘着製品を製造する際に、基材フィルムに直接粘着剤を塗工した場合と、一旦、離型フィルム上に粘着剤を塗工した後、得られた粘着剤層を基材フィルムに転写した場合とでは、粘着特性に差が生じることがあり、実操業上、この現象の解決が望まれている。この現象の原因は明確になっておらず、ポリマーの組成が空気界面から基材へ向けて徐々に異なる傾斜組成となっているのか、何かが粘着剤層表面にブリードアウトしているのか、さらに他の原因があるのか、不明である。また、高Tgポリマーと低Tgポリマーは非相溶のため、これらをブレンドして海島構造を持たせても、粘着剤の塗工まで時間がある場合、塗工液が分離してしまうという問題もあった。
本発明では、前記した課題に加えて上記問題をも解決するため、高Tgポリマーを独立して粘着剤中に存在させるのではなく、粘着剤ポリマーの主鎖の中にブロック構造として導入したブロックポリマーやグラフトポリマーについて検討した。特に、粘着剤ポリマーの側鎖として高Tgポリマー構造を導入したグラフトポリマーについて鋭意検討したところ、主鎖を構成するポリマー組成も適切に制御することによって、良好な粘着特性および操業性を有する粘着剤を見出し、本発明に到達した。以下、このグラフトポリマーを代表として、本発明を詳細に説明するが、ブロックポリマーでも同様の効果が得られる。なお、本発明における「ポリマー」には、ホモポリマーはもとより、コポリマーや三元以上の共重合体も含まれるものとする。本発明の「モノマー」は、いずれも付加重合型モノマーである。
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物に用いられる粘着剤ポリマーの主鎖を得るための第1の必須モノマー成分は、炭素数4〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)であり、これにより粘着力が確保できる。粘着特性の観点からは、アルキル基の炭素数は4〜10が好ましく、より好ましくは4〜9である。上記炭素数が4未満(3以下)であるか、または、12を超える(13以上)と、粘着力が低下するおそれがある。
アルキル(メタ)アクリレート(A)のみから得られるポリマーのTgを考えた場合、側鎖(枝ポリマー)のTg(0℃以上)よりも低いことが粘着特性の点から必要であり、このTgが0℃未満になるように、アルキル(メタ)アクリレート(A)を選択することが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート(A)のみから得られるポリマーのTgは−20℃以下がより好ましく、−35℃以下がさらに好ましい。ただし、Tgが−80℃より低くなると、凝集力が低下して、被着体汚染が起こりやすくなる傾向にあるため好ましくない。ホモポリマーのTgは各種文献(例えばポリマーハンドブック等)に記載されており、コポリマーのTgは、各種ホモポリマーのTgn(K)と、モノマーの質量分率(Wn)とから下記式によって求めることができる。
ここで Wn ;各単量体の質量分率
Tgn;各単量体のホモポリマーのTg(K)
アルキル(メタ)アクリレート(A)の具体例としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでもブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレートおよびイソノニルアクリレートが好ましい。これらは、1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。
アルキル(メタ)アクリレート(A)は、粘着剤ポリマーの原料モノマー成分100質量%中、45〜85質量%の範囲で用いることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート(A)の使用量がこの範囲内であれば、得られる粘着剤は、高速剥離性、低速での粘着力およびなじみ性のバランスが、良好となる。上記範囲外になると、結果として、他の必須モノマー成分が多すぎたり、少なすぎることになるため、低速での粘着力やなじみ性が不足したり、高速粘着力が大きくなり過ぎるおそれがある。アルキル(メタ)アクリレート(A)の使用量は、60〜80質量%がより好ましい。なお、粘着剤ポリマーの原料モノマー成分100質量%の中には、枝ポリマー用の原料モノマーも含まれる。
本発明の粘着剤ポリマーの主鎖を構成する第2の必須モノマー成分は、アルキレンオキサイド鎖および/または長鎖アルキル基を有する長鎖部含有モノマー(B)である。この長鎖部含有モノマー(B)は、なじみ性を高めるために用いられる。この長鎖部含有モノマー(B)としては、アルキレンオキサイド鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、炭素数が16〜22の長鎖アルキル基を有している(メタ)アクリル系モノマーおよび下記式(1)で示されるアルキレンオキサイド鎖を有するモノマーよりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
[式(1)中、R1は炭素数2〜5のアルケニル基であり、RとR’は、いずれかが水素原子でいずれかがメチル基であるか、いずれもが水素原子であり、R2は水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基、nはアルキレンオキサイドの付加モル数であって1〜50である。]
アルキレンオキサイド鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー(以下、モノマー(B−1)ということがあるする)は、エチレンオキサイド(EO)鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、プロピレンオキサイド(PO)鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、およびその両者を有する(メタ)アクリル系モノマー等が挙げられる。モノマー(B−1)におけるエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドの付加モル数は、粘着剤ポリマーの流動による濡れ性を改善する観点からは、1〜30モルが好ましく、2〜10モルがより好ましい。アルキレンオキサイド鎖の末端は、ヒドロキシル基のままであっても、例えばメチル基等の他の官能基に置換されていてもよい。
モノマー(B−1)の好適なものを化学式で表せば、下記構造で表せる。
[RとR’は、いずれかが水素原子でいずれかがメチル基であるか、いずれもが水素原子であり、nは1〜30である。]
モノマー(B−1)の具体例としては、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアリールオキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類;2−エチルヘキシルジグリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
また、炭素数16〜22の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー(以下、モノマー(B−2)ということがある)の好適なものを化学式で表せば、下記構造で表せる。
[nは15〜21のいずれかを表す。]
モノマー(B−2)の具体例としては、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
また、上記式1で表されるモノマー(以下、モノマー(B−3)ということがある。)におけるR1で示される炭素数2〜5のアルケニル基としては、下記の(i)ビニル基、(ii)イソプロペニル基、(iii)アリル基、(iv)メタリル基の他、3−ブテニル基、2−メチル−1−ブテニル基、3−メチル−1−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基等が挙げられる。中でも、(iii)アリル基および(iv)メタリル基が好ましい。
また、モノマー(B−3)における式1中のR2で示される炭素数1〜8の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の脂肪族炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、クレジル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。中でも、取扱い性の点からは、炭素数1〜4の炭化水素基または水素原子が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。水素原子の場合を化学式で示せば、下記の通りである。
[RとR’は、いずれかが水素原子でいずれかがメチル基であるか、いずれもが水素原子であり、nは1〜50である。]
これらのモノマー(B−1)〜(B−3)は混合してモノマー(B)として使用することができる。モノマー(B−1)〜(B−3)の使用量はその合計で、粘着剤ポリマーの原料モノマー成分100質量%中、5〜25質量%程度が好ましい。5質量%より少ないとなじみ性の改良効果が不足するおそれがあり、25質量%を超えると低速時の粘着力が小さくなるおそれがあるため好ましくない。より好ましいモノマー(B)量は、7〜20質量%である。
本発明の粘着剤ポリマーの主鎖を構成するための第3の必須モノマー成分は、架橋点となる官能基含有モノマー(C)である。別添の架橋剤と粘着剤ポリマーを架橋反応させることで、高速剥離性、なじみ性、低速での粘着力の3つをバランスよく高めることができるからである。官能基含有モノマー(C)の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、フタル酸とプロピレングリコールとから得られるポリエステルジオールのモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸、ケイ皮酸およびクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびシトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸;これら不飽和ジカルボン酸のモノエステル等のカルボキシル基含有モノマー;アミノ基、アミド基、エポキシ基等のいずれかを有する(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
上記の中でも、官能基としてヒドロキシル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類が好ましい。特に、ヒドロキシル基が(メタ)アクリロイル基から離間したところにある方が、架橋反応性やなじみ性がよくなるので、架橋剤量を少なくしたい場合や被着体に対するなじみ性が特に重要視される場合は、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートよりも、炭素数の大きなアルキル基(プロピル基以上)にヒドロキシル基が結合している(メタ)アクリレート(例えば、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等)を用いることが好ましい。
これらの官能基含有モノマー(C)は、粘着剤ポリマーの原料モノマー成分100質量%中、0.1〜10質量%とすることが好ましい。官能基含有モノマー(C)の使用量が0.1質量%未満では、粘着剤ポリマー中の官能基量が少なくなって、粘着剤の架橋度や凝集力が不足して、粘着力が大きくなり過ぎたり、糊残りが発生するおそれがある。また、10質量%を超えると、なじみ性が低下したり、低速剥離時の粘着力が小さくなるおそれがあるため好ましくない。官能基含有モノマー(C)の使用量は、0.3〜8質量%がより好ましく、0.5〜6質量%がさらに好ましい。
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物における粘着剤ポリマーの合成に当たっては、その他のモノマー(D)を共重合させても良い。その他のモノマー(D)とは、上記必須モノマー成分(A)〜(C)と共重合することができ、かつこれら以外のモノマーである。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等の前記アルキル(メタ)アクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環含有(メタ)アクリレート;エチレンおよびブタジエン等の脂肪族不飽和炭化水素類ならびに塩化ビニル等の脂肪族不飽和炭化水素類のハロゲン置換体;スチレンおよびα−メチルスチレン等の芳香族不飽和炭化水素類;ビニルエーテル類;アリルアルコールと各種有機酸とのエステル類;アリルアルコールと各種アルコールとのエーテル類;アクリロニトリル等の不飽和シアン化化合物;酢酸ビニル等が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。上記その他のモノマー(D)は、粘着剤ポリマーの原料モノマー成分100質量%中、10質量%以内に抑えることが好ましい。10質量%を超えると、結果的に、必須モノマー成分(A)〜(C)の量が少なくなるため、所望の粘着特性が得られない。
本発明の粘着剤ポリマーは、Tgが0℃以上のポリマー構造を側鎖(枝部)に有するものである。Tgが0℃以上のポリマー構造が側鎖にグラフトされているため、粘着剤層の変形を抑制して、高速剥離時の粘着力の低減を達成している。また、高Tgポリマーと低Tgポリマーをブレンドしたときのような分離の問題は起こさない。さらに、塗工方法によって粘着特性が変化してしまうといった前記問題も解決することができた。
この側鎖になる部分のポリマー(以下、単に、「枝ポリマー」ということがある)のTgは0℃以上でなければならないが、高速剥離性をより一層改善するには、枝ポリマーのTgは10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。ただし、枝ポリマーのTgが高すぎると、低速剥離時の粘着力が不充分となることがあるので、160℃以下が好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
枝ポリマーに用い得るモノマーの具体例としては、酢酸ビニル(Tg=30.0℃)、メチルアクリレート(Tg=10.0℃)、アクリル酸(Tg106.0℃)、メチルメタクリレート(Tg=104.9℃)、シクロヘキシルメタクリレート(Tg=65.9℃)、ベンジルアクリレート(Tg=6.0℃)、イソボルニルアクリレート(Tg=94.0℃)、イソボルニルメタクリレート(Tg=145.0℃)、アクリロニトリル(Tg=95.0℃)、スチレン(Tg=100.0℃)等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。また、前記した計算式で計算されるコポリマーのTgが0℃以上になるのであれば、枝ポリマーを得る際に、モノマー(A)〜(D)として例示した各種モノマーを使用しても構わない。枝ポリマーは、枝ポリマー用の原料モノマーを100質量%したときに、酢酸ビニルおよび/またはメチルアクリレートを50質量%以上含有するモノマー成分からなるものがより好ましい。
枝ポリマーの分子量は、質量平均分子量(Mw)で15000〜10万程度が好ましい。この枝ポリマーは、粘着剤層にミクロドメイン構造(微細な島)を形成する。これにより剥離時の粘着剤層の変形が抑制され、高速剥離時の粘着力を低減することができるが、枝ポリマーのMwが大きすぎると、ミクロドメイン構造を形成しにくくなり、高速剥離時の粘着力低減作用が低下する。従って、Mwは上記の範囲が好ましく、2万〜9万程度がより好ましい。
枝ポリマーの質量は、粘着剤ポリマー全体の3〜30質量%程度が好ましい。従って、粘着剤ポリマーの原料モノマー成分100質量%中、枝ポリマー用のモノマーは3〜30質量%とすることが好ましい。3質量%より少ないと、高速剥離性が不充分となるおそれがある。30質量%より多いと、低速での粘着力が低くなったり、なじみ性が低下するおそれがあるため好ましくない。より好ましい枝ポリマー用のモノマーの使用量は5〜25質量%である。
グラフトポリマーの合成方法としては、マクロモノマー法、イオン重合法、高分子反応により枝ポリマーの導入方法等が知られている。本発明のグラフトポリマーを合成するには、主鎖ポリマーおよび枝ポリマーの分子量制御、ホモポリマー生成の抑制および主鎖ポリマーと枝ポリマーの連結等が容易に行えるマクロモノマー法が好適である。具体的には、Tgが0℃以上のポリマー構造を有するマクロモノマー(E)を用いて、本発明の粘着剤ポリマーを合成する方法が好ましい。
マクロモノマー(E)は、上記枝ポリマーの末端にラジカル重合性二重結合が導入されたモノマーである。マクロモノマーの合成方法には種々の方法があるが、官能基を有する連鎖移動剤を使用して枝ポリマーを重合し、枝ポリマー末端に連鎖移動剤由来の官能基を導入して、この官能基と反応し得る官能基とラジカル重合性二重結合とを有するモノマーを、枝ポリマー末端の上記官能基に化学反応させることにより得る方法が、比較的簡便である。
本発明では、連鎖移動剤として、同一分子内にカルボキシル基および/またはヒドロキシル基と、少なくとも1個のチオール基とを有する化合物を用いることが好ましく、例えば、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、メルカプトステアリン酸、メルカプト酢酸、メルカプト酪酸、メルカプトオクタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、システイン、N−アセチルシステイン、メルカプトチアゾール酢酸等のカルボキシル基含有メルカプト化合物や、メルカプトエタノール等のヒドロキシル基含有メルカプト化合物等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、枝ポリマー用のモノマー100質量部に対し、0.05〜1質量部程度が好適である。
メルカプト化合物がカルボキシル基を有する場合は、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ系モノマー;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等の脂環式エポキシ系モノマー;2−(ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン;N−(メタ)アクリロイルアジリジン;3−(メタ)アクリロキシメチルオキセタン等を反応させることにより、枝ポリマーに連鎖移動剤を介してこれらのモノマーが結合し、マクロモノマー(E)が得られる。また、メルカプト化合物がヒドロキシル基を有する場合は、(メタ)アクリロイルイソシアネート;(メタ)アクリロイルエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルプロピルイソシアネート等の(メタ)アクリロイルアルキルイソシアネート;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネート;3−イソプロペニル−α,α’−ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアネート系モノマーや、2−(ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート等を反応させればよい。以下、枝ポリマーの末端に二重結合を導入するためのこれらのモノマーを、マクロモノマー(E)用モノマー(E’)ということがある。
マクロモノマー(E)用枝ポリマーの重合は公知の方法を用いれば良く、特に、重合熱の除去が容易な溶液重合が好ましい。重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられるが、上記重合反応を阻害しなければ、特に限定されない。これらの溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を適宜混合して用いることもできる。溶媒の使用量は、適宜決定すればよい。
重合反応温度や反応時間等の反応条件は、前記した適正量の連鎖移動剤を用いる限り特に限定されず、例えば、モノマーの組成や量等に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
重合触媒(重合開始剤)も特に限定はされず、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、商品名「ナイパーBMT−K40」(日本油脂社製;m−トルオイルパーオキサイドとベンゾイルパーオキサイドの混合物)等の有機過酸化物や、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(日本ヒドラジン工業社製;「ABN−R」)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(日本ヒドラジン工業社製;「ABN−E」)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(日本ヒドラジン工業社製;「ABN−V」)等のアゾ系化合物等が挙げられる。
上記方法により、枝ポリマーの生成に用いた連鎖移動剤由来のカルボキシル基またはヒドロキシル基を片末端に有する枝ポリマーが得られる。枝ポリマーを得た後は、続けてラジカル重合性二重結合の導入反応を行う。枝ポリマーの片末端のカルボキシル基またはヒドロキシル基との反応性を有する前記マクロモノマー(E)用モノマー(E’)を、例えば、重合後の枝ポリマー溶液に、直接、または溶媒等で希釈して添加すればよい。また、必要に応じて、各反応に適した触媒を適宜選択して使用することができる。
例えば、カルボキシル基を有する連鎖移動剤を使用して枝ポリマーを合成し、グリシジル基を有する前記マクロモノマー(E)用モノマー(E’)を用いてラジカル重合性二重結合を導入する場合は、反応を迅速に進行させるためにエステル化触媒を用いることができる。エステル化触媒としては、トリエチルアミン等のアミン類;テトラエチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩類;トリフェニルホスフィン等のリン化合物等、通常エステル化触媒としてよく用いられるものでよい。反応温度は70〜120℃程度、反応時間は2〜10時間程度が好ましい。反応の終点は酸価測定等で決定することができる。
また、ヒドロキシル基を有する連鎖移動剤を使用して枝ポリマーを合成し、イソシアネート基を有する前記マクロモノマー(E)用モノマー(E’)を用いてラジカル重合性二重結合を導入する場合は、反応促進のため、公知の金属系触媒やアミン系触媒が利用できる。金属系触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、2−エチルヘキサノエート鉛、チタン酸2−エチルヘキシル、2−エチルヘキサノエート鉄、2−エチルヘキサノエートコバルト、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、テトラ−n−ブチル錫等が挙げられる。アミン系触媒としては、テトラメチルブタンジアミン等の3級アミンが挙げられる。反応は、50〜100℃程度で30分〜10時間程度行うのが好ましい。反応の終点は、IR測定によるNCO基由来の2270cm-1付近のピーク消失で確認することができる。
上記のラジカル重合性二重結合導入反応は、必要に応じて重合禁止剤を添加して行ってもよい。重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、p−メトキシフェノール等が挙げられるが、特に限定されない。
反応比率としては、枝ポリマー末端の連鎖移動剤由来の官能基、例えばカルボキシル基またはヒドロキシル基に対して、0.8〜1(モル比)が好ましい。
マクロモノマー(E)は、粘着剤ポリマーを得るための原料モノマー成分100質量%中、3〜30質量%程度が好ましい。3質量%より少ないと、高速剥離性が不充分となるおそれがある。30質量%より多いと、低速での粘着力が低くなったり、なじみ性が低下するおそれがあるため好ましくない。より好ましいマクロモノマー(E)の使用量は5〜25質量%である。
本発明の粘着剤ポリマーの最も好ましい実施態様は、モノマー(A)がブチルアクリレートおよび/または2−エチルヘキシルアクリレートであり、モノマー(B)がメトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートおよび/またはメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートであり、官能基含有モノマー(C)が2−ヒドロキシエチルアクリレートおよび/または4−ヒドロキシブチルアクリレートであり、マクロモノマー(E)のポリマー構造がポリメチルアクリレートであるモノマー成分から得られたポリマーである。
上記粘着剤ポリマーは、公知の重合方法によって得ることができ、溶剤型再剥離用粘着剤組成物を簡単に得ることができる点では、溶液重合法で重合することが好ましい。溶液重合で用いられる溶媒としては、マクロモノマー(E)用の枝ポリマーの重合に際して例示した溶媒がいずれも使用できる。本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物は、溶剤を必須成分とするが、重合溶媒と同じ溶剤を用いることが好ましい。重合終了によって得られたものをそのまま溶剤型再剥離用粘着剤組成物原料として使用することができる。
重合反応温度や反応時間等の反応条件は、例えば、モノマーの組成や量等に応じて、適宜設定すればよく、特に限定されない。また、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。重合触媒(重合開始剤)も、枝ポリマーのグラフトに際して例示した開始剤がいずれも使用できる。粘着剤ポリマーの重合の際は、官能基含有連鎖移動剤を用いる必要はないので、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類に代表される公知の分子量調節剤を用いることができる。
上記粘着剤ポリマーの質量平均分子量(Mw)は、15〜80万が好ましい。この範囲であれば、再剥離工程での粘着力が過大になることがなく、特に被着体に貼付後にオートクレーブ等による加熱処理を行ったときに、光学部材の損傷や液晶セルからの光学部材の剥離等のトラブルを起こすことなく、表面保護フィルムを剥離することができる。Mwが15万よりも小さいと、加熱処理後の粘着力上昇が起こるおそれがあり、好ましくない。また、Mwが80万を超えると、粘着剤の流動性が低下して、防眩(AG)処理等を施した凹凸のある偏光板を被着体とする場合、粘着剤が偏光板表面を充分に濡らすことができなくなるおそれがある。より好ましいMwの範囲は20万〜60万である。
上記粘着剤ポリマーのTgは、主鎖を構成するポリマーのTgが低いため、枝ポリマーのTgが0℃以上でも、低くなる。具体的には、−20℃以下が好ましく、−35℃以下がさらに好ましい。ただし、Tgが−80℃より低くなると、凝集力が低下して、被着体汚染が起こりやすくなる傾向にあるため好ましくない。
本発明の粘着剤組成物には、粘着剤ポリマーに加えて、凝集力や架橋密度を制御するために、架橋剤を配合することが好ましい。架橋剤としては、官能基含有モノマー(C)の有する官能基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する化合物を用いる。例えば、官能基含有モノマー(C)としてヒドロキシル基含有モノマーを用いた結果、粘着剤ポリマーがヒドロキシル基を有しているなら、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物が好ましい。また、粘着剤ポリマーがカルボキシル基を有しているなら、多官能イソシアネート化合物や多官能エポキシ化合物等が好ましい。反応性の点では、ヒドロキシル基と多官能イソシアネート化合物の組合せが最も好ましい。
多官能イソシアネート化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート類;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、前記芳香族ポリイソシアネートの水素添加物等の脂肪族または脂環族ポリイソシアネート類;これらのポリイソシアネートの2量体もしくは3量体;これらのポリイソシアネートとトリメチロールプロパン等のポリオールとからなるアダクト体等が挙げられる。
より具体的には、例えば、「コロネートL−55E」、「コロネートHX」、「コロネートHL−S」、「コロネート2234」、「アクアネート200」、「アクアネート210」(これらはいずれも日本ポリウレタン工業社製;「コロネート」、「アクアネート」は登録商標);「デスモジュールN3400」(住友バイエルウレタン社製(現バイエルA.G.社);「デスモジュール」は登録商標);「デュラネートD−201」、「デュラネートE−405−80T」、「デュラネート24A−100」、「デュラネートTSE−100」(いずれも旭化成社製;「デュラネート」は登録商標);「タケネートD−110N」、「タケネートD−120N」、「タケネートM−631N」、「MT−オレスターNP1200」(三井武田ケミカル(現三井化学ポリウレタン)社製;「タケネート」、「オレスター」は登録商標)等が市販されており、入手可能である。これらは、単独で使用し得るほか、2種以上を併用することもできる。
これらのなかでは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)や、2官能タイプの「デュラネートD−201」が、高速剥離性、なじみ性、低速剥離での粘着力の3つの特性のバランスの点で特に好ましい。また、「デュラネートTSE−100」や、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体である「コロネートL−55E」も、高速剥離性と低速剥離時の粘着力とをバランスよく制御できる点で好適である。
多官能エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン等が挙げられる。
これらの架橋剤は、粘着剤ポリマーが有する官能基の合計を1当量としたときに、0.1〜2当量となるように添加することが好ましい。架橋剤量が0.1当量より少ないと、凝集力が不足して高速剥離粘着力が大きくなり過ぎることがある。また2当量を超えると、なじみ性(濡れ性)が極端に低下するため好ましくない。より好ましい架橋剤量は0.3〜1.5当量である。
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物の不揮発分は、特に限定はされないが、例えば、10〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜70質量%、さらに好ましくは25〜60質量%である。特に、不揮発分を20〜50質量%に調整するのが、塗布作業の点からは好適である。上記不揮発分が10質量%未満であると、塗布した後等の乾燥が長時間となり、生産性が低下するおそれがある。また、80質量%を超えると、組成物全体の粘度が高くなり、ハンドリング性および塗布性に欠け、実用性に乏しくなるおそれがある。粘着剤組成物の溶剤は、前記した重合溶媒がいずれも使用可能であり、前記したように重合溶媒と同じ溶剤が好ましい。
粘着剤組成物において、例えば、高Tgポリマーと低Tgポリマーとを単純にブレンドした場合は、ブレンド後、24時間程度放置すると、両者がきれいに2層に分離してしまう傾向が認められる。しかし、本発明のグラフトポリマーを溶剤と共に含む粘着剤組成物では、24時間以上放置しても、分離等の不具合は全く認められず、保存安定性に優れることが本発明者等によって確認されている。
本発明の粘着剤組成物には、公知の架橋促進剤、粘着付与剤、改質剤、顔料、着色剤、充填剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、帯電防止剤等の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で加えてもよい。
帯電防止剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、1級、2級または3級アミノ基等のカチオン性官能基を有するカチオン型帯電防止剤;スルホン酸塩、硫酸エステル塩、ホスホン酸塩、リン酸エステル塩等のアニオン性官能基を有するアニオン型帯電防止剤;アルキルベタインおよびその誘導体、イミダゾリンおよびその誘導体、アラニンおよびその誘導体等の両性型帯電防止剤;アミノアルコールおよびその誘導体、グリセリンおよびその誘導体、ポリエチレングリコールおよびその誘導体等のノニオン型帯電防止剤;これらのカチオン型、アニオン型、両性イオン型のイオン導電性基を有する単量体を(共)重合してなるイオン導電性重合体等が挙げられる。これらの帯電防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
カチオン型帯電防止剤の具体例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アシロイルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、アルキルベンジルメチルアンモニウム塩、アシル塩化コリン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート等の4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリレート共重合体、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム基を有するスチレン共重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム基を有するジアリルアミン共重合体等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。市販品の例としては、「エリーク(登録商標)SEI−52」(ポリアミン脂肪酸アミド4級エン;吉村油化学社製)、「エソカード(登録商標)C/25」(ポリアルキレンオキシ化アルキルアンモニウム塩;ライオン・アクゾ社製)等が挙げられる。
アニオン型の帯電防止剤の具体例としては、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエトキシ硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、スルホン酸基含有スチレン共重合体等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。市販品の例としては、「プライサーフ(登録商標)A12C」(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル;第一工業製薬社製)、「フォスファノール(登録商標)」シリーズ(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩;東邦化学工業社製)等が挙げられる。
両性イオン型帯電防止剤の具体例としては、アルキルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタイン、カルボベタイングラフト共重合体が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
ノニオン型帯電防止剤の具体例としては、脂肪酸アルキロールアミド、ジ(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸グリセリンエステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンジアミン、ポリエーテルとポリエステルとポリアミドからなる共重合体、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
本発明の粘着剤組成物は、再剥離用粘着製品の製造に用いられる。基材あるいは離型紙の上に粘着剤組成物を塗布し、その乾燥塗膜を形成することによって、基材の片面に粘着剤層が形成されている粘着製品(粘着テープまたはシート)、基材の両面に粘着剤層が形成されている粘着製品、基材を有しない粘着剤層のみの粘着製品を得ることができる。紙基材の粘着製品を製造する場合は、離型紙の上に粘着剤組成物を塗布し、粘着剤層を形成した後、紙基材に転写する方法も、採用できる。粘着剤層の形成にあたっては、溶剤が飛散する条件(例えば50〜120℃で30〜180秒程度)での加熱乾燥を行うことが望ましい。
基材としては、上質紙、クラフト紙、クレープ紙、グラシン紙等の従来公知の紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、セロファン等のプラスチック;織布、不織布等の繊維製品;これらの積層体等が利用できる。光学用フィルムの表面保護に用いる場合には、基材は、ポリエチレンテレフタレート等の透明フィルムが好ましい。基材の厚さは、一般には、200μm以下が好ましく、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μm程度である。これらの基材の片面または両面には、剥離時の帯電防止のため、帯電防止層が設けられていてもよい。また、粘着剤層との密着性を向上させるため、粘着剤層形成面に、コロナ放電処理等の公知の易接着化処理を行ってもよい。
粘着剤組成物を基材に塗布する方法は、特に限定されるものではなく、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法等の公知の方法を採用することができる。この場合、粘着剤組成物を基材に直接塗布する方法、離型紙等に粘着剤組成物を塗布した後、この塗布物を基材上に転写する方法等いずれも採用可能である。粘着剤組成物を塗布した後、乾燥させることにより、基材上に粘着剤層が形成される。
基材上に形成された粘着剤の表面には、例えば、離型紙を貼着してもよい。粘着剤表面を好適に保護・保存することができる。剥離紙は、粘着製品を使用する際に、粘着剤表面から引き剥がされる。なお、シート状やテープ状等の基材の片面に粘着剤面が形成されている場合は、この基材の背面に公知の離型剤を塗布して離型剤層を形成しておけば、粘着剤層を内側にして、粘着シート(テープ)をロール状に巻くことにより、粘着剤層は、基材背面の離型材層と当接することとなるので、粘着剤表面が保護・保存される。
本発明の粘着剤組成物は、この粘着剤組成物から得られた厚み20μmの粘着剤層が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材上に形成されている粘着製品を作製し、この粘着製品の23℃、相対湿度65%におけるアクリル板に対する180゜粘着力を測定したときに、23℃での180゜粘着力が、剥離速度0.3m/分(低速剥離)では0.08N/25mm以上であることが好ましく、0.14N/25mm以上であることがより好ましい。低速剥離時の粘着力が0.08N/25mm未満であると、保護フィルムの端部のめくれやずれが発生し易いので好ましくない。一方、剥離速度30m/分(高速剥離)では、上記180゜粘着力は1.6N/25mm以下が好ましく、1.2N/mm以下がより好ましい。なお、上記単位「N/25mm」において、「/25mm」の部分は、被着体に圧着させた粘着シートの幅を意味する。
また、本発明の粘着剤組成物は、上記と同様に粘着製品を作製し、4cm角の試料を切り出して、凹凸高低差が5〜6μmである表面を有する被着体上に載置したときに、試料の全面が被着体に対して濡れるまでの時間(なじみ時間)が60秒以下であることが好ましく、45秒以内であるとさらに好ましい。なじむまでの時間は短ければ短いほど、なじみ性に優れているからである。なじみ時間の測定に際しては、試料を被着体上に載置する前に、予め、試料の一辺から1〜2mm程度を手で被着体に貼り合わせておいてから、なじみ時間を測定する。なお、「試料の全面が濡れる」とは、粘着製品試料と被着体表面との間に存在していた空気が抜けて、試料が被着体表面の凹凸に密着した状態を指す。具体的には、空気が抜けて、被着体表面に粘着製品試料が密着していくと、試料が透き通って見えるようになるため、目視で密着状態を観察することができる。また、凹凸高低差とは、被着体の表面を、例えばレーザー顕微鏡で解析したときに、最大山の頂点と最大谷の底との距離として表される。
本発明の再剥離用粘着製品は、光学部材用表面保護フィルムに用いることがあるため、上記なじみ時間測定の際に用いる被着体として、光学部材の中でもなじみにくいフィルムの代表例であるアンチグレアフィルムを用いることが好ましい。アンチグレアフィルムとは、液晶ディスプレイ(LCD)や陰極管表示装置(CRT)等の画像表示において、蛍光灯等の外部光源から照射される光線の反射を抑制して、視認性を高めるために設けられるフィルムである。このため、アンチグレアフィルムの表面には細かな凹凸が形成されており、反射光を拡散させ、観者が眩しいと感じることを防いでいる。アンチグレアフィルムは、通常、シリカや樹脂ビーズ等の光透過性拡散剤をバインダー樹脂に分散させた塗工液をPET等の透明基材表面に塗布し、その後、熱やUV等により硬化させることで製造されている。表面粗さ(Ra)は、大体0.05〜0.4μm程度である。
以下実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
合成例1(マクロモノマー(E1)の合成)
まず、枝ポリマーとなるポリメチルアクリレート(PMA)を合成した。メチルアクリレート(MA)280部、連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール0.9部、溶媒として酢酸エチル343部を、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。撹拌下、窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を80℃まで上昇させ、重合開始剤として酢酸エチル13.9部で希釈した「ABN−E」(日本ヒドラジン工業社製;2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル))0.14部をフラスコに投入して、重合を開始させた。
反応開始から10分経過した後、MA420部、2−メルカプトエタノール1.34部、前記「ABN−E」0.14部および酢酸エチル14部からなる混合物を1時間に亘ってフラスコに滴下した。滴下終了後、酢酸エチル112部で滴下ロートを洗浄し、フラスコに添加した。滴下終了後50分経過してから、ブースター(後添加開始剤)として、酢酸エチル7部で希釈した「ABN−R」(日本ヒドラジン工業社製;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)0.07部を添加した。添加後、さらに80℃で4時間熟成し、その後、酢酸エチル210部を添加して反応を終了した。
次に、上記PMAに対するラジカル重合性二重結合の導入反応を行った。上記PMA溶液1400部、「カレンズAOI(登録商標)」(昭和電工社製;2-イソシアナトエチルアクリレート)3.64部、重合禁止剤として「ANTAGE−W400」(川口化学工業社製;2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)0.42部、希釈・洗浄溶剤として酢酸エチル42部を、温度計、撹拌機、ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。撹拌下、窒素ガスと酸素ガスのミックスガスを流通させながら、フラスコの内温を70℃まで上昇させ、反応触媒としてジブチル錫ジラウレート0.28部を添加し、付加反応を始めた。フラスコの内温を70℃に保ったまま3時間付加反応を行い、反応を終了した。得られたマクロモノマー(E1)溶液の不揮発分濃度は48.3%、Mwは4.5万であった。Mwの測定方法は後述する。
実施例1
温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに、マクロモノマー(E1)を不揮発分で80部、モノマー(A)として2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)268部とn−ブチルアクリレート(BA)40部、モノマー(B)として「MTG−A」(共栄社化学社製;メトキシトリエチレングリコールアクリレート)80部、モノマー(C)として2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)12部を用い、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン(nDM)0.32部と共に酢酸エチル328部とよく混合して、添加した。撹拌下、窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を89℃まで上昇させ、重合開始剤として酢酸エチル4部で希釈した「ABN−E」0.08部をフラスコに投入して、重合を開始させた。
反応開始から1時間後、重合開始剤として酢酸エチル4部で希釈した「ABN−E」0.04部を添加した。反応開始から1.5時間後、酢酸エチル80部を添加した。反応開始後、3時間目から4時間目にかけて、ブースター(後添加開始剤)として、酢酸エチル40.8部で希釈した「ABN−R」1.2部を3度に分割して添加した。その後、さらに78℃で2時間熟成した。得られた粘着剤ポリマー1の溶液の不揮発分濃度は46.7%、Mwは26.3万であった。
実施例2
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、マクロモノマー(E1)の添加量を不揮発分で20部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粘着剤ポリマー2を合成した。得られた粘着剤ポリマー2の溶液の不揮発分は45.8%、Mwは17.8万であった。
実施例3
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、「MTG−A」を40部に、BAを80部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粘着剤ポリマー3を合成した。得られた粘着剤ポリマー3の溶液の不揮発分は46.6%、Mwは24.9万であった。
実施例4
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、「MTG−A」を120部に、2EHAを228部に、nDMを0.4部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粘着剤ポリマー4を合成した。得られた粘着剤ポリマー4の溶液の不揮発分は46.6%、Mwは30.4万であった。
実施例5
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、モノマー(C)であるHEAに変えて4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)を14.8部用いたことと、2EHAを305.1部に、BAを0部に、nDMを0.2部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして粘着剤ポリマー5を合成した。得られた粘着剤ポリマー5の溶液の不揮発分は46.6%、Mwは23.7万であった。
合成例2(マクロモノマー(E2)の合成)
フラスコへの初期仕込みする2−メルカプトエタノールを0.45部に、また、滴下モノマー中の2−メルカプトエタノールを0.67部に変更したこと以外は、合成例1と同様にして、枝ポリマーであるPMAを合成した。
次に、「カレンズAOI(登録商標)」を82部に変更したこと以外は、合成例1と同様にして、マクロモノマー(E2)を合成した。このマクロモノマー(E2)の溶液の不揮発分濃度は49.5%、Mwは8.5万であった。
実施例6
マクロモノマー(E1)に変えてマクロモノマー(E2)を用いたことと、フラスコへ初期仕込みするnDMを0.4部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、粘着剤ポリマー6を合成した。得られた粘着剤ポリマー6の溶液の不揮発分は47.3%、Mwは24.8万であった。
比較例1
フラスコへ初期仕込みするモノマーのうち、「MTG−A」を0部に、BAを120部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較用の粘着剤ポリマー7を合成した。得られた粘着剤ポリマー7の溶液の不揮発分は46.5%、Mwは31.1万であった。
比較例2
温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに、「MTG−A」16部、HEA4.8部、2EHA107.2部、BA32部およびnDM0.13部を酢酸エチル192部とよく混合して、添加した。撹拌下、窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を88℃まで上昇させ、酢酸エチル0.9部で希釈した「ABN−E」0.1部をフラスコに投入して、重合を開始させた。
反応開始から15分経過した後、「MTG−A」24部、HEA7.2部、2EHA160.8部、BA48部および酢酸エチル120部からなる混合物を1時間に亘ってフラスコに滴下した。滴下終了後、酢酸エチル80部で滴下ロートを洗浄し、フラスコに添加した。滴下終了後2.5時間後に、酢酸エチル1.8部で希釈した「ABN−R」0.2部を添加した。添加後、さらに79℃で3.5時間熟成し、その後、酢酸エチル80部を添加して反応を終了した。得られた比較用の粘着剤ポリマー8の溶液の不揮発分濃度は44.7%、Mwは22.1万であった。
参考例
マクロモノマー合成の際に、フラスコへ初期仕込みする2-メルカプトエタノールを1.79部に、滴下モノマー中の2-メルカプトエタノールを2.69部に変更したこと以外は、合成例1と同様にしてマクロモノマー(E3)用枝ポリマーを合成した。
次に、「カレンズAOI(登録商標)」を7.28部に変更したこと以外は、合成例1と同様にして、マクロモノマー(E3)を合成した。このマクロモノマー(E3)の溶液の不揮発分濃度は48.9%、Mwは1万であった。
マクロモノマー(E1)に変えて、上記マクロモノマー(E3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、粘着剤ポリマー9を合成した。得られた粘着剤ポリマー9の溶液の不揮発分濃度は46.8%、Mwは23.1万であった。
[特性評価]
各例におけるモノマー組成とポリマー特性、粘着剤ポリマー溶液を用いて特性評価を行った結果を、表1に併記した。なお、特性評価方法は以下の通りである。
[Tg]
前記計算式で計算したTgである。なお、各モノマーのホモポリマーのTgは、以下の値を用いた。
ポリメチルアクリレート:10.0℃
MTG−A:−50.0℃
ポリ2−ヒドロキシエチルアクリレート:−15.0℃
ポリ4−ヒドロキシブチルアクリレート:−32.0℃、
ポリ2−エチルヘキシルアクリレート:−70.0℃
ポリn−ブチルアクリレート:−54.2℃
[質量平均分子量(Mw)]
GPC測定装置として東ソー社製の「HLC−8220GPC」を用い、下記条件で測定し、ポリスチレン標準試料換算値をMwとした。
カラム:東ソー社製「TSKgel Super HZM−H」×3本
溶媒:テトラヒドロフラン
流量:0.35ml/分
注入量:10μl/回
試料濃度:0.2%
[粘着剤組成物の調製および粘着製品(試験テープ)の作製]
各合成例で得られた粘着剤ポリマー溶液について、酢酸エチルで不揮発分を34%に調製した。ポリマー100部当たり、架橋促進剤としてジブチル錫ジラウレート250ppm(質量基準)と、架橋剤として「デュラネート(登録商標)D−201」(ヘキサメチレンジイソシアネート系;2官能;旭化成社製)を表1に示した当量となるように加えてよく撹拌し、粘着剤組成物を得た。
支持基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製;厚さ38μm)を用い、粘着剤組成物を乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布した後、100℃で2分間乾燥させることにより、粘着フィルムを作成した。粘着剤表面に離型処理を施したPETフィルムを貼着して保護した後、23℃の雰囲気下で1週間養生した。養生後の粘着フィルムは、23℃、相対湿度65%の雰囲気で24時間調湿した後、25mm幅で適当な長さに切断して、試験テープを作製した。なお、離型フィルムは試験を実施する際に引き剥がした。
[剥離粘着力]
厚さ3mmのアクリル板(日本テストパネル株式会社製の標準試験板)に、23℃、相対湿度65%の雰囲気下で、上記試験テープを2kgのゴムローラで1往復させて圧着する。圧着後25分放置した後、剥離速度を、低速剥離では0.3m/min、高速剥離では30m/minとし、23℃の雰囲気下で、JIS K 6854に準じて180゜剥離粘着力を測定した。表1には、低速剥離粘着力、高速剥離粘着力、および、高速剥離粘着力を低速剥離粘着力で除した値(「高速/低速」として示した)を併記した。
[なじみ性]
上記試験テープから、4cm×4cmのサイズの試験片を切り出す。凹凸高低差が5.7μm(レーザー顕微鏡:キーエンス社製「VK−9710」での測定値)である市販のアンチグレアタイプの液晶保護フィルム(BUFFALO社製;BOF−H141S)の粗面を被着体として用い、粗面が上に来るようにアンチグレアフィルムを平らな面の上に水平に置く。23℃、65%の相対湿度の雰囲気下で、試験片の一辺を端部から1〜2mm程度アンチグレアフィルムに貼り合わせてから、試験片をアンチグレアフィルムの上に静かに置く。試験片がフィルムに濡れ始めてから、試験片全体がフィルムに完全になじむまでの時間を測定する。表1には、なじむまでの時間(なじみ時間)を示した。
本発明の実施例は、いずれも、低速剥離時の粘着力が0.14N/25mm以上、高速剥離時の粘着力が1.6N/25mm以下、高速/低速が10以下、なじみ時間45秒以内であり、3つの特性がバランスよく優れていることが確認できた。
比較例1は、モノマー(B)としての「MTG−A」を共重合しなかったため、なじみ性に劣っている。比較例2は、高Tgポリマーを枝ポリマーとして有するマクロモノマーが共重合されていないため、高速剥離時の粘着力が大きく、高速/低速が10を超えてしまった。なお、参考例は、マクロモノマーにおける高Tgポリマーの分子量が小さいため、マクロモノマーを用いたことによる高速剥離時の粘着力低減効果が不充分であった。