JP5483173B2 - エビ類検出用プライマーセット - Google Patents

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Description

本発明は、食物アレルギーの原因となるエビ類を直接的に、確実かつ特異的に検出することが可能なPCR法などの遺伝子増幅法によるエビ類の検出方法及びそのための検出用プライマーセット、特に、飲食品製造原料として多用されるエビ類とカニ類を区別可能なPCR法によるエビ類の検出方法及びそのための検出用プライマーセットに関する。
近年、日本においてアレルギーを持つ人は非常に多いと言われている。アレルギーは抗原及び症状の違い等により様々な種類が存在するが、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎及びアレルギー性鼻炎はアレルギー症状の中でも特に症例数が多い疾患である。中でも食物アレルギーはその発症件数の多さや症状の重篤度から大きな社会問題となっている。食物アレルギーを引き起こす原因食品としては、小麦、卵、乳・乳製品、そば及び落花生の主要5品目の他に果物や肉類及び魚介類など様々な食品が挙げられる。その割合は高い方から、鶏卵、乳製品、小麦、甲殻類、果物類、ソバ、魚類、大豆、木の実類、肉類、野菜類および軟体類である。その中でもアレルギーを引き起こすとされる魚介類は、アワビ、イカ、エビ、カニ、サケ、サバが挙げられるが、特に甲殻類は鶏卵、乳製品、小麦に次いで発症件数が多い食品である。
我が国におけるアレルギー表示制度の動向は、平成14年4月から食品衛生法によって加工食品中の特定原材料5品目のアレルギー表示が義務付けられ、特定原材料に準ずるものとしては20品目が表示推奨の対象となった。特定原材料としては、卵、乳・乳製品、小麦、そば、落花生が、特定原材料に準ずるものとしては、エビ、カニ、アワビ、イクラ、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、クルミ、サケ、サバ、大豆、鶏肉、豚肉、マツタケ、モモ、ヤマイモ、リンゴ、ゼラチン、バナナが挙げられている。平成16年7月に開かれた「第18回食品の表示に関する共同会議」(厚生労働省;薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品表示調査会と農林水産省;農林物資規格調会小委員会の共催)ではアレルギー物質を含む食品に関する表示についての議論が行われ、実態調査により「エビ」についてアレルギー原因食品としての重要性が確認され、その後、甲殻類(エビ・カニ)における臨床的エビデンスの蓄積、アレルギー物質の検査方法開発などの技術的検討から平成20年度6月から、エビ及びカニは表示推奨の対象から表示義務化の対象とされることとなった。
これまで、甲殻類の検出法としては、エビやカニの主要アレルゲンであるトロポミオシンをELISA法により検出する方法が知られている(J Allergy Clin Immunol. 100, 229-34 ,1997)。また、エビコラーゲン又はそのポリペプチド断片からなるエビアレルゲンに対する抗エビアレルゲン抗体を取得し、試料中のエビアレルゲンの混入を検出する方法も開示されている(特開2008−255054号公報)。ELISA法は定量性に優れているが、患者の血清が必要な上、検出標的としているトロポミオシンが甲殻類の種間でも類似性が高く、エビとカニに共通して存在し、エビだけを特異的に検出することはできない。そのため、エビのみにアレルギーを持つ患者のニーズに対応することは困難である。
一方、近年DNA解析技術の発展に伴って、PCR法(ポリメラーゼ連鎖反応;Polymerase Chain Reaction)など遺伝子増幅法に基づいたミトコンドリアDNA (mtDNA)をターゲットとする検出技術が検討されている。PCR法は、鋳型DNA、耐熱性のDNA(Taq ポリメラーゼなど)、目的DNAの両末端部分の配列をもつオリゴヌクレオチド(DNA合成反応のプライマー)及び基質ヌクレオチドを混合し、反応系に供すことで目的のDNA断片のみを選択的に増幅させる方法のことである。このPCR法を用いて、食品中のエビやカニ等の検出を行う方法が開示され、そのPCR増幅のためのプライマーは数多く開示されている。
例えば、ハウス食品(株)のホームページには「食品中に含まれるアレルギー物質の検査法開発」(2009.2.5)について、食品衛生法が定めるアレルギー物質のうち、エビ、カニ、キウイ、モモ、リンゴのPCR検出技術の開発について報告されている。また、日本食品衛生学会学術講演会講演要旨集(2008)には、「PCRを用いた食品中のエビ及びカニの識別検出法」について掲載されている。更に、“J FOOD prot vol68 P1866(2005)”には、“Detection of crustacean DNA and species identification using a PCR-restriction fragment length polymorphism method”と題して、エビを0.1%含んでいても検出可能な、PCR−restriction fragmentについて報告されている。
また一方、特開2006−280281号公報には、サバ、サケ、アワビ、イカや、カニ、エビの検出に好適なPCRプライマーセットが開示されている。かかるPCRプライマーセットにおいて、カニ、エビの検出に好適なPCRプライマーセットは、何れも、カニ、エビに共通するPCRプライマーセットであって、エビ又はカニを区別して検出することはできない。特開2008−128号公報には、カニ及びその他の甲殻類とを区別してエビを高感度で検出するためのエビ検出用プライマーセットが開示されている。
このプライマーセットは、エビの16S rRNA遺伝子の塩基配列において、エビに共通する塩基と、エビに共通し、かつカニ及びその他の甲殻類と区別できる塩基とを含む領域の塩基配列又はそれに相補的な塩基配列を有する核酸分子にアニーリングし得るオリゴヌクレオチドから構成される、エビ検出用プライマーセットからなる。このプライマーセットとして、エビとカニの判別用のプライマーと、エビ・カニとその他の甲殻類を判別するプライマーの3種のプライマーを用いることにより、エビ類を特定する方法が開示されている。すなわち、具体的には、エビ23種、カニ、シャコ、オキアミ、アミの16S rRNAの塩基配列を基に、試料が加工品であっても検出できるように、100〜200bpのプライマーを3種設計されているが、エビとカニを直接区別できるプライマーは開示されておらず、設計されたエビとカニを区別するプライマーは、一部のカニでは区別ができないので、該プライマーと一緒に、エビ、カニを区別できるプライマーとして機能し得るオリゴヌクレオチドを用いて、シャコ、オキアミ、アミなどの他の甲殻類を除く方法が開示されている。また、えびの検出についても、すべてのえび類を検出できるプライマーセットにはなっていない。
一方、特開2009−207486号公報には、カニをエビ及びアミ、オキアミ等のその他の甲殻類と区別するカニ検出用プライマーセットが開示されている。該開示のプライマーセットは、カニの16S rRNA遺伝子の塩基配列から設計したプライマーとなり得るオリゴヌクレオチドの3’末端から2番目の塩基に標的配列に対してミスマッチ塩基を導入したオリゴヌクレオチドから構成されるカニ検出用プライマーセットからなる。かかる開示のものは、カニをエビと区別して検出するものであるが、カニの検出方法であるので、エビ類を直接検出することはできない。
上記のように、エビ類、カニ類を、プライマーを用いたPCR法により検出する方法が開示されているが、今までに、エビ類全体を区別でき、かつ、カニ類を区別して直接的にエビ類を検出し、他の甲殻類とも判別できるPCRプライマーセットは開示されていない。エビは、食物アレルギー表示義務対象であり、エビに対してアレルギー反応を起こすエビアレルギー患者に対する適切な対応のためには、飲食物等において原料や素材として用いられるエビ類を特異的かつ確実に検出できるエビ類の検出方法の開発が望まれるところである。
特開2006−280281号公報 特開2008−128号公報 特開2008−255054号公報 特開2009−207486号公報
J Allergy Clin Immunol. 100, 229-34 ,1997 ハウス食品(株)のホームページ「食品中に含まれるアレルギー物質の検査法開発」 日本食品衛生学会学術講演会講演要旨集(2008) J FOOD prot vol68 P1866(2005)
本発明は、食物アレルギーの原因となるエビ類を直接的に、確実かつ特異的に検出することが可能なPCR法による検出方法及びそのためのプライマーセットを提供すること、特に、飲食品製造原料として多用されるエビ類とカニ類を峻別可能なPCR法による検出方法及びそのためのプライマーセットを提供することにある。
本発明者は、食物アレルギーの原因となるエビ類をカニ類と区別し、直接的に、確実かつ特異的に検出することが可能なPCR法による検出方法及びそのためのプライマーセットの開発について鋭意検討する中で、ミトコンドリアDNA(mtDNA)内においても保存性の高い配列をもつ領域の一つである16S rRNAをターゲットとし、該領域が特異プライマー設計によく用いられていることや多くの生物にわたって保存された箇所が存在することを考慮して、エビのミトコンドリアDNA16S rRNA領域をエビ類12種類につき解析した結果、クルマエビ科[クルマエビ、ブラックタイガー]と、タラバエビ科[アキアミ(アミエビ:オキエビ)、サクラエビ、アカエビ、ホッコクアカエビ(アマエビ)、ホッカイエビ、イセエビ、オーストラリアンロブスター、ウチワエビ、ボタンエビ、バナメイエビ]で保存されている特異配列を見い出し、カニ類には反応しない、クルマエビ科とタラバエビ科を区別できるPCRプライマーを設計することに成功し、該PCRプライマーセットによる、カニ類と区別し、エビ類を全体を特異的かつ効果的に検出できる本発明のエビ類の検出方法の発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、EBI-SP1-F1:5’-TTT AAG TGA AAA GGC TTA AAT-3’(配列表の配列番号1)、EBI-SP2-F1:5’-TTA GAA CAT AAG ACG AGA AG-3’(配列番号2)、EBI-SP2-R1:5’-GTG GCT CTT GTT TTT GAA AGA-3’(配列番号3)、及びEBI-SP1-R1:5’-CTG TTA TCC CTA AAG TAA CTT-3’(配列番号4)に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成される、PCR法によるエビ類検出用プライマーセット、該プライマーセットを用いたPCR法によるエビ類の検出方法及び、プライマーセットを具備したPCR法によるエビ類検出用キットからなる。本発明において、PCR法によるエビ類の検出には、マルチプレックスPCRにより行うことができる。
すなわち、具体的には本発明は、(1)配列表の配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成される、PCR法によるエビ類検出用プライマーセットや、(2)プライマーセットが、カニ類と区別してエビ類を判別するプライマーセットであることを特徴とする上記(1)記載のPCR法によるエビ類検出用プライマーセットや、(3)PCR法が、マルチプレックスPCRであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のPCR法によるエビ類検出用プライマーセットや、(4)試料より抽出したDNAを鋳型として、上記(1)記載のプライマーセットを用いてPCR増幅を行い、増幅産物の有無を指標として判別することを特徴とするPCR法によるエビ類の検出方法からなる。
また、本発明は、(5)PCR増幅を、マルチプレックスPCR法を用いて行うことを特徴とする上記(4)記載のPCR法によるエビ類の検出方法や、(6)エビ類の検出が、飲食品中に含まれるエビ類由来の飲食品素材の検出であることを特徴とする上記(4)又は(5)記載のPCR法によるエビ類の検出方法や、(7)配列表の配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを具備することを特徴とするPCR法によるエビ類検出用キットや、(8)PCR法によるエビ類検出用キットが、マルチプレックスPCR法による検出用キットであることを特徴とする上記(7)記載のPCR法によるエビ類検出用キットからなる。
本発明のPCR法によるエビ類検出用プライマーセットは、市場に流通するエビ類をはじめとして、各種のエビ類全体に対する検出を可能とし、しかも、カニ類に対しては、反応しないことから、食物アレルギーの原因となるエビ類をカニ類と区別し、直接的に、確実かつ特異的に検出することが可能なPCR法によるエビ類の検出方法及びそのためのPCRプライマーセットを提供する。
本発明のエビ類の検出方法において対象となる、市場に流通しているエビ類の写真である。 本発明の実施例におけるDNAの精製度の確認と定量の実験において、16SAR−L/16SBR−Hプライマーセットにおける16S rRNA増幅領域について示す図である。 本発明の実施例において、16SAR−L及び16SBR−Hのプライマーセットを用いて12種のエビ類をPCR増幅させ、電気泳動に供した結果を示した図である。 本発明の実施例において4種のエビ類(ボタンエビ、ホッコクアカエビ、ホッカイエビ、アカエビ)に関して設計し直した、EBI−16S−F1及びEBI−16S−R1の増幅領域及びプライマー配列を示す図である。 本発明の実施例において、EBI−16S−F1及びEBI−16S−R1のプライマーセットを用いてボタンエビ、ホッコクアカエビ、ホッカイエビ及びアカエビをPCR増幅させ、電気泳動に供した結果を示す写真である。 本発明の実施例において、EBI−F1−16S/EBI−R1−16Sプライマーペアーを用いたクルマエビ、ブラックタイガー、アキアミ、サクラエビ、及びバナメイエビのPCR増幅結果を示す写真である。 本発明の実施例において、16S rRNA部分領域における12種のエビ類の塩基配列比較図を示す図である。 本発明の実施例において、16S rRNA部分領域における12種のエビ類の塩基配列比較図を示す図の続きである。 本発明の実施例において、16S rRNA部分領域における12種のエビ類の塩基配列比較図を示す図の続きである。 本発明の実施例において、16S rRNA部分領域における12種のエビ類の塩基配列比較図を示す図の続きである。 本発明の実施例における12種のエビ類と魚類との塩基配列比較試験において、16S rRNA部分領域におけるカツオとのエビ類の塩基配列比較について示す図である。 本発明の実施例における実用性の検証の試験において、EBI−SP1−F1/EBI−SP1−R1及びEBI−SP2−F1/EBI−SP2−R1のミックスプライマーセットを用いて市場で流通するエビ類の加工品及び他の魚介類を用いて実用性の検証を行った結果の電気泳動図(プライマーミックスを用いたエビ類の加工品及び他の魚介類の検出−1)を示す図である。 本発明の実施例における実用性の検証の試験において、EBI−SP1−F1/EBI−SP1−R1及びEBI−SP2−F1/EBI−SP2−R1のミックスプライマーセットを用いて市場で流通するエビ類の加工品及び他の魚介類を用いて実用性の検証を行った結果の電気泳動図(プライマーミックスを用いたエビ類の加工品及び他の魚介類の検出−2)を示す図である。 本発明の実施例における実用性の検証の試験において、EBI−SP1−F1/EBI−SP1−R1及びEBI−SP2−F1/EBI−SP2−R1のミックスプライマーセットを用いて市場で流通するエビ類の加工品及び他の魚介類を用いて実用性の検証を行った結果の電気泳動図(プライマーミックスを用いたエビ類の加工品及び他の魚介類の検出−3)を示す図である。
本発明は、食物アレルギーの原因となるエビ類を直接的に、確実かつ特異的に検出することが可能なPCR法によるエビ類検出用プライマーセット、該プライマーセットを用いたPCR法によるエビ類の検出方法及び、プライマーセットを具備したPCR法によるエビ類検出用キットからなる。該PCR法によるエビ類検出用プライマーセットは、配列表の配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成される。
本発明で、検出の対象となるエビ類としては、現在、市場に流通しているエビ類12種類:クルマエビ科[クルマエビ、ブラックタイガー]と、タラバエビ科[アキアミ(アミエビ:オキエビ)、サクラエビ、アカエビ、ホッコクアカエビ(アマエビ)、ホッカイエビ、イセエビ、オーストラリアンロブスター、ウチワエビ、ボタンエビ、バナメイエビ](図1)を挙げることができるが(表1:12種のエビ類の名称、産地および製品名)、その他のエビ類も包含される。なお、カブトエビ、ホウネンエビ、カイエビ、ヨコエビ、シャコ、オキアミ、カブトガニは、名前に「エビ」とついていたり、姿形がエビと類似しているが、エビ類には含まれない。これらはカニ類とも異なるため、その他甲殻類とされている。本発明のエビ類の検出方法では、従来の方法(特開2008−128号公報)では検出されないアキエビ(アミエビ)も検出することができる。このアキエビが飲食品中に混入されると、エビアレルギーの原因となることから、その検出が要望されている所である。また、本発明のPCRエビ類検出用プライマーセットは、エビ等の甲殻類は陽性で、カニは陰性になることから、カニを区別してエビ類を特異的に検出することができるPCRプライマーセットとして、特に、メリットがある。
本発明のエビ類検出に用いられるPCRプライマーセットとしては、本発明において
エビのミトコンドリアDNA16S rRNA領域から設計された次の4つのオリゴヌクレオチドから構成されるPCRプライマーセットが用いられる:EBI-SP1-F1:5’-TTT AAG TGA AAA GGC TTA AAT-3’(配列番号1)、EBI-SP2-F1:5’-TTA GAA CAT AAG ACG AGA AG-3’(配列番号2)、EBI-SP2-R1:5’-GTG GCT CTT GTT TTT GAA AGA-3’(配列番号3)、及びEBI-SP1-R1:5’-CTG TTA TCC CTA AAG TAA CTT-3’(配列番号4)。該PCRプライマーセットにおけるプライマーは、プライマーとなるオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA自動合成装置を利用して合成することが可能である。
本発明におけるエビ類の検出は、上記のプライマーセットを用い、PCR法により、試料より抽出したDNAを鋳型とし、PCRを行い、該PCRにより得られた増幅産物の有無を検出することにより行なうことができる。試料としては、エビを含む可能性のある飲食品やその原料、或いは食品素材が対象となる。本発明の方法により得られた検出結果は、食品のアレルギー表示に利用できるほか、飲食品の製造原料、素材の確認や、製造ラインにおけるコンタミネーションの有無の確認に利用できる。
試料からのDNAの抽出は、核酸抽出法として当業者に公知のいかなる方法を用いてもよく、例えば、フェノール/クロロホルム法、界面活性剤による細胞溶解やプロテアーゼ酵素による細胞溶解、ガラスビーズによる物理的破壊方法、凍結溶融を繰り返す処理方法、などにより行うことができる。試薬メーカーより販売されている各種DNA抽出キットを用いても良い。試料の種類によっては、メンブランフィルターによる濾過やホモジナイズ他の精製方法を用いることができる。
本発明のPCRプライマーセットを用いてPCRを行うには、プライマーセットとして該本発明のプライマーセットを用いる以外は特に制限はなく、他の試薬、条件(温度条件、サイクルの回数等)は、当業者であれば適切に選択及び設定することができる。該PCRとしては、マルチプレックスPCR(M−PCR)を用いることができる。マルチプレックスPCRは、同時に複数個(十数個)の遺伝子を分析することが可能であり、本発明のPCRプライマーセットを用いてPCRを行うのに、特に有利に適用することができる。マルチプレックスPCRのキット自体は、市販のものを利用することができ(マキシムバイオ社M−PCR)、その使用条件等は当業者が適宜定めることができる。
本発明のPCRプライマーセットを用いてPCR増幅を行うと、試料にエビ類が含まれる場合は、該PCRプライマーで増幅されたエビに特異的な増幅産物が得られる。また、本発明のPCRプライマーセットは、カニ類は陰性になることから、カニ等を区別してエビ類を特異的に検出することができる。本発明のPCRプライマーセットを用いて、PCR増幅を行なうことによって、エビに特異的な増幅産物が得られることから、従来法のように、PCR増幅を行って得られた増幅産物が「エビ」か「カニ」かどうかを確認するために制限酵素処理や、シークエンス解析を行って、その確認を行なう必要はない。
PCRにより得られる増幅産物中に、目的の増幅断片が含まれるかどうかは、アガロースゲル電気泳動、DNAハイブリダイゼーション等の公知の方法を用いて確認することができる。目的の増幅断片のサイズは、検出しようとするエビの16S rRNA遺伝子領域において両プライマーに挟まれる領域の塩基数となる。本発明のPCRプライマーセットEBI-SP1-F1(配列番号1)/EBI-SP1-R1(配列番号4)及びEBI-SP2-F1(配列番号2)
/EBI-SP2-R1(配列番号3)を用いてPCRを行なった場合には、エビ類或いはエビの加
工品の場合は、増幅断片のサイズは約200bpの増幅断片を得る。
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[I.PCRプライマーセットの構築]
(1.12種類のエビ類のDNAデータベース(NCBI)における塩基配列登録状況の検索)
本発明のPCRプライマーセットの構築にあたり、特に市場に流通するエビ類を12種選定した。12種のエビ類の名称を表2[DNAデータベース(NCBI)における12種のエビ類の塩基配列登録状況]に示す。 選定した12種のエビ類のミトコンドリアDNA(mt DNA)において保存性の高い配列を探し出すために、どの領域をターゲットとするのかを決定する必要があり、そこで、DNAデータベース(NCBI)において12種のエビ類のミトコンドリアDNA塩基配列登録状況を調べた。表2に示したとおり、アキアミ、サクラエビ、ウチワエビ、ボタンエビは未だ塩基配列が登録されていないことが分かり、解析する必要があった。一方、イセエビは全塩基配列が登録済みであり、他のエビ類は16S rRNA及びC0I領域が登録されているものが多いことが分かった。しかしながら、これらの登録されている配列の多くは部分配列であり、それらの箇所も一致していないため、12種のエビ類間において保存性の高い配列を探し出すためには、改めてターゲット領域を定める必要性があった。
(2.保存性の高い配列探索のためのターゲット領域の決定)
エビ特異プライマーを設計するためには、12種のエビ類間において保存性の高い配列を探し出す必要がある。そこで、表2の結果を踏まえて、本研究ではミトコンドリアDNA内においても保存性の高い配列をもつ領域の一つである16S rRNAをターゲットとした。これは、16S rRNA領域が特異プライマー設計によく用いられていることや多くの生物にわたって保存された箇所が存在するため、それらの配列を用いてユニバーサルプライマーが設計されているためである。
(3.試料および実験方法)
(3−1.試料)
試料には、特に市場に流通する12種のエビ類を用いた。試料に用いた12種のエビ類の名称、学名及び産地を前記表1に示す。
(3−2.DNeasy(R) Blood & Tissue Kitを用いた全DNAの抽出)
全DNA抽出にはDNeasy(R) Blood & Tissue Kit (QIAGEN)を用い、操作は付属の説明書に従った。なおバッファーにはすべてキットに含まれているものを使用した。抽出は、各エビにつきそれぞれ5検体ずつ行った。サクラエビの場合は1個体が小さく1匹からDNAを抽出することは困難であったため、無作為に10匹を選び出し、それらを乳鉢と乳棒を用いてすりつぶしたものを1検体とした。その他のエビは1個体につき1検体とした。
まず、各エビからそれぞれ25mgを1.5mlエッペンドルフチューブに採取し、Buffer ATL 180μLとproteinase K solution (QIAGEN) 40μLを加えボルテックスミキサーでボルテックスし55℃で3時間インキュベートした。その後室温下で20,000×gで15分遠心分離を行い、上清を別の1.5mLエッペンドルフチューブに移した。上清を移したエッペンドルフチューブにRNase A(100mg/mL)4μLを加えボルテックス後室温に2分間放置した。その後、Buffer AL200μLを加えボルテックスした後、70℃で10分間インキュベートした。インキュベート後ボルテックスを行い、100%エタノールを200μL加え再度ボルテックスを行い、溶解液を得た。次に、2mL collecting tube に設置したDNeasy Mini Spin columnに溶解液全量を移し替え、室温、13,000×gで1分遠心分離を行い、溶出液を捨てた。
新たに用意した2mLcollecting tubeにDNeasy Mini Spin columnを移し、Buffer AW1を500μL加え、室温、13、000×gで1分間遠心分離を行い溶出液を捨てた。再び新たに用意した2mL collecting tubeにDNeasy Mini Spin columnを移し、Buffer AW2を500μL加え、室温、18、000×gで3分間遠心分離を行い、溶出液を捨てた。その後新たに用意した1.5mLエッペンドルフチューブにDNeasy Mini Spin columnを移し替え、AE Buffer 200μLを加え、室温で1分間放置した。放置後室温、20,000×gで1分遠心分離を行い、DNAを抽出した。これをDNA抽出液とし、PCR増幅の鋳型DNAとして用いるまで−20℃で冷凍保存した。
(3−3.DNAの精製度の確認と定量)
抽出精製したDNA試料原液を一定量取り、200−320nmの範囲で紫外線吸収スペクトルを測定した。この際、230、260及び280nmの吸光度(O.D.230、260及び280)を記録した。次いで260nmの吸光度の値1を50ng/μLとしてDNA濃度を算出した。また、O.D.260/280を計算し、この比が1.2−2.5であることを確認した。
(3−4.PCR増幅)
エビ類ミトコンドリアDNAの16S rRNA 領域のPCR増幅には、ユニバーサルプライマーである16SAR−L及び16SBR−Hのプライマーセットを用いた。このプライマーによる16S rRNA内の増幅領域およびプライマー配列を図2(16SAR−L/16SBR−Hプライマーセットにおける16S rRNA 増幅)及び表3(16SAR−L/16SBR−Hプライマーセットの配列)に示した。
1検体あたりのPCR反応液は0.2mLPCRチューブ中に精製した5ng/μL鋳型DNA2.5μL、10×緩衝液(TaKaRa)2.5μL、2.5mM each dNTP mix2.0μL、20μM各プライマー0.75μL、ExTaq DNA ポリメラーゼ(TaKaRa)0.2μL、及び滅菌水16.3μLを加え、全体で25μLとなるようにした。PCRの温度条件は、98℃で10秒、53℃で30秒、72℃で60秒のサイクルを30回行った。PCR終了後、得られた反応液10μLをSYBR SafeTM(10μL/100mL)入り1.5%アガロースゲル電気泳動に供した。通電は100Vで30分とし、増幅断片の検出はトランスイルミネーターで目的とするバンドを観察した。
なお、PCR反応では、鋳型DNAがごく僅かでも存在していれば目的塩基配列領域が増幅され得る。したがって、実際の操作ならびに日ごろの実験環境の保全にあたり、DNA(特にPCR増幅産物)の混入に充分注意を払う必要がある。また、DNAは人間の皮膚表面から分泌されているDNA分解酵素により分解されるため、本酵素の混入を防止させなければならない。これらの点を考慮し、意図せざるDNAの混入防止するため、使用するチューブ、チップに関しては、滅菌済みフィルター付きチップを使い捨てで使用することとした。
(3−5.Exo-SAP ITを用いたPCR産物の精製)
PCR増幅産物の塩基配列決定においては、今回得られたPCR増幅の精製、プラスミド化は行わず、得られたPCR産物をそのままシークエンス反応に供すダイレクトシーケンス法を採用した。しかしながら、PCR反応液中にはPCR反応の際、余剰の未反応プライマー及びdNTPが存在する。これらの除去を行わないとシーケンス反応におけるコンタミネーションの原因になってしまう。そこで、PCR反応液中の過剰なプライマー及びdNTPを除去することを目的として、PCR反応液のExo-SAP IT (Amersham Biosciences) 処理を行った。PCR反応液に対して5:22となるようにExo-SAP ITを添し、斎藤および服部の方法(「タンパク質核酸酵素」41,522-530,1996)に従い37℃で60分間インキュベートした。この操作によって、エキソヌクレアーゼ(ExoI)による過剰なプライマーの分解及びシュリンプアルカリフォスファターゼ(SAP)による余分なdNTPの脱リン化を行った。その反応後85℃で15分間加熱することにより、酵素を失活させた。反応後は、ラベリング反応に使用するまで4℃で冷蔵保存した。
(3−6.シーケンス反応)
Exo-SAP IT処理後のPCR反応液をラベリング反応に供した。ラベリング反応にはBigDye TerminatorTM v1.1 Cycle Sequencing kit (Applied Biosystems)を用い、DNAシーケンサーとして1キャピラリーのABI PRISM(R)310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems)及び16キャピラリーのABI PRISM(R)3100 Genetic Analyzer (Applied Biosystems)を使い塩基配列の決定を行った。
シーケンス反応は0.2mL PCRチューブ中でExo-SAP IT処理を行ったPCR反応液を3.5μL、20μMプライマーを1.0μL、上記のキットに含まれるBigDye TerminatorTM v1.1 Ready reaction mixを1.0μL加え、全量が10μLになるように滅菌水を加えた。その後サーマルサイクラーによりインキュベートしシーケンス反応を行った。温度条件は、96℃で1分間加熱した後、96℃で10秒、50℃で5秒、60℃で4分のサイクルを1サイクルとし、25サイクル行った。次にシーケンス反応後のPCR産物10μLを1.5mLエッペンドルフチューブ中に移し、12mM EDTA (pH8.0)2.5μL、99.5%エタノール30μLを加え室温に15分間放置した後、室温若しくは4℃、20,000×gで20分間遠心分離し、上清を除去した。
続いて、70%エタノールを30μL加え室温若しくは4℃、20,000×gで10分間遠心分離を行い、再び上清を除去し、得られた沈殿を真空中で乾燥させてエタノール沈殿処理を完了した。乾燥後、Hi-Di Formamide (Applied Biosystems)15μLを加え溶解させ、ボルテックス後95℃で3分間熱変性を行い、最後に1分間氷冷しこれをシーケンスサンプルとした。このサンプルをABI PRISM(R)310 Genetic Analyzer又はABI PRISM(R)3100 Genetic Analyzerに供し塩基配列を決定した。データの解析には、解析ソフトSeqEd Version 1.0.3 (Perkin Elmer社)を用いた。
(4.結果)
(4−1.12種のエビ類のPCR増幅)
16SAR−L及び16SBR−Hのプライマーセットを用いて12種のエビ類をPCR増幅させ、電気泳動に供した結果を図3に示した(写真中、1:クルマエビ;2:ブラックタイガー;3:アキアミ;4:サクラエビ;5:ウチワエビ;6:イセエビ;7:オーストラリアンロブスター;8:バナメイエビ;9:ボタンエビ;10:ホッコクアカエビ;11:ホッカイエビ;12:アカエビを示す。PCR増幅の結果、12種すべてにおいて500−600bpの間にバンドが確認された。そのため、PCR産物をそのままシーケンス反応に供すダイレクトシーケンス法を採用し配列の決定を試みた。その結果、アキアミ、サクラエビ、クルマエビ、ブラックタイガー、ウチワエビ、バナメイエビ、イセエビ及びオーストラリアンロブスターの10種のエビ類に関しては配列の決定を行うことが可能であった。
しかし、ボタンエビ、ホッコクアカエビ、ホッカイエビおよびアカエビに関してはフォワード側は解析が可能な結果が得られていたものの、リバース側は解析が可能な結果を得られていなかったため、配列決定を行うことができなかった。これは、4種のエビ類の塩基配列において、16SBR−Hのプライマー配列が保存されていなかったためと考えられる。本実施例で用いた16SAR−L及び16SBR−Hのプライマーセットは広く動物DNAを検知することを目的として設計されているため、標的遺伝子には動物界に広く分布し、高度に保存されている遺伝子を選定している。しかし、上記4種のエビ類においては、フォワードプライマーである16SAR−Lは保存されているものの、リバースプライマーである16SBR−Hの塩基配列が最低でも2ヵ所存在しており、PCR増幅によって、見かけ上、一本と思われたバンドが複数個存在していたために、ダイレクトシーケンス法では解析できなかったと思われる。或いは、ラベリング反応条件が上記4種のエビ類では必ずしもベストと言えなかったことも原因の一つとして挙げられる。
そこで、これら4種のエビ類に関しては改めてプライマーを設計し直すこととした。新たにプライマーを設計するために、すでにDNAデータベース(NCBI)上にミトコンドリアDNAの全塩基配列が解析済みであったエビ類の塩基配列を比較し、保存性の高い配列を探し出し、16S rRNA部分領域より外側の位置にEBI−F1−16S(配列番号5)及びEBI−R1−16S(配列番号6)を設計した。EBI−F1−16S及びEBI−R1−16Sの増幅領域及びプライマー配列を図4(EBI−F1−16S/EBI−R1−16Sプライマーセットの位置)に示す。
新たに設計したプライマーEBI−F1−16S及びEBI−R1−16Sを用いて16SAR−L及び16SBR−Hと同様にPCR増幅させた。また、PCR増幅させる際のアニーリング温度は51℃とした。EBI−F1−16S及びEBI−R1−16Sのプライマーセットを用いてボタンエビ、ホッコクアカエビ、ホッカイエビ及びアカエビをPCR増幅させ、電気泳動に供した結果を図5に示す(図中、1:ボタンエビ;2:ホッコクアカエビ;3:ホッカイエビ;4:アカエビ、を示す)。その結果、ボタンエビ、ホッコクアカエビ、ホッカイエビおよびアカエビにおいて単一のバンドが確認された。その後、得られたPCR産物をダイレクトシーケンス法によってシーケンス反応に供した結果、塩基配列の決定を行った。
更に、このプライマーセットの実用性を検証するため、クルマエビ、ブラックタイガー、アキアミ、サクラエビ及びバナメイエビについても同様にそれぞれ3検体ずつPCR増幅させ、電気泳動に供した結果を図6に示す(図中、1〜3:クルマエビ1〜3;4〜6:ブラックタイガー1〜3;7〜9:アキアミ1〜3;10〜12サクラエビ1〜3;13〜15:バナメイエビ、を示す。
その結果、ボタンエビ、ホッコクアカエビ、ホッカイエビ及びアカエビは単一のバンドが確認され、目的のDNA断片を得ることができた。また、1〜3番のクルマエビ、4〜6番のブラックタイガー及び10〜12番のサクラエビについても全ての検体で単一のバンドを確認することができた。また、アキアミについては7番の1検体のみバンドが確認され、バナメイエビについては13、14番の2検体においてスメアなバンドが確認された。そのため、EBI−F1−16S及びEBI−R1−16Sのプライマーセットはバナメイエビのようにスメアなバンドが得られた例があったものの、数種のエビ類において単一のバンドが得られたことから、エビ類の16S rRNA部分領域を増幅させるプライマーセットとして適していると考えられる。またこの配列は、カニ類やシャコ等にも存在するため、甲殻類全般を検出することが可能であると考えられる。
(4−2.16S rRNA部分領域における12種のエビ類の塩基配列比較)
16S rRNA部分領域における12種のエビ類の塩基配列比較図を図7に示す。図中、一段目から、クルマエビ、ブラックタイガー、アキアミ、サクラエビ、ウチワエビ、イセエビ、オーストラリアンロブスター、バナメイエビ、ボタンエビ、ホッコクアカエビ、ホッカイエビおよびアカエビの配列を表す。また、当該領域を増幅させるために用いた16SAR−L及び16SAR−Lの配列は四角で囲み示した。図7より、当該領域の塩基数は、クルマエビが613bp、ブラックタイガーが612bp、アキアミが569bp、サクラエビが569bp、ウチワエビが558bp、イセエビが566bp、オーストラリアンロブスターが564bp、バナメイエビが565bp、ボタンエビが551bp、ホッコクアカエビが552bp、ホッカイエビが553bp及びアカエビが556bpであった。また、12種のエビ類の塩基配列を比較したところ、12種のエビ類はクルマエビおよびブラックタイガーのグループとその他の10種のエビ類の2つに大きく分けられることが分かった。そのため、12種のエビ類間において保存性の高い配列を見つけ出すことは困難であったことから、各グループからそれぞれプライマーを設計することとした。
[II.エビ特異プライマーセットの設計と実用性の検証]
(1.エビ類特異プライマーセットの設計)
12種のエビ類の塩基配列が大きく2つのグループに分けられたことから、エビ検出用プライマーとして、クルマエビとブラックタイガーを検出するためのEBI−SP2−F1及びEBI−SP2−R1、その他10種のエビ類のグループを検出するためのEBI−SP1−F1及びEBI−SP1−R1の異なる2つのプライマーセットを設計した。これらのプライマーの増幅領域を図7(16S rRNA部分領域における12種のエビ類の塩基配列比較)において四角く囲み、配列を表4(エビ特異プライマーセットの配列)に示した。それぞれのプライマーセットによる増幅産物は、EBI−SP2−F1及びEBI−SP2−R1が194bp、EBI−SP1−F1及びEBI−SP1−R1が237bpとした。これは、ミトコンドリアDNAが高温・高圧下で断片化する恐れがあることを踏まえて、様々な加工食品に対応させるために、200bp程度の増幅バンドが得られるようにプライマーを設計したためである。
(2.12種のエビ類と魚類との塩基配列比較)
設計したプライマーセットEBI−SP1−F1/EBI−SP1−R1及びEBI−SP2−F1/EBI−SP2−R1がエビ類のみに特異的であるかどうかを確認するため、他の魚介類の中からカツオの配列との比較を行った結果を図8(16S rRNA部分領域におけるカツオとのエビ類の塩基配列比較)に示す。図8には順にカツオ、クルマエビ、ブラックタイガー、サクラエビ及びボタンエビの塩基配列を示した。その結果、EBI−SP1−F1の配列とカツオの配列を比較すると、相同性は非常に低いことが確認された。また、同様にEBI−SP1−R1についてもエビ類に欠損部分が見受けられる個所であったことから相同性は低いことが分かった。一方、EBI−SP2−F1はカツオの配列との相同性が高いことが分かったが、5塩基の差があることから、このプライマーではカツオは検出されないと判断した。また、EBI−SP2−R1については、9塩基の差があったことから同様に問題はないと考えられた。そこで、設計したプライマーを用いて実際に様々な食品でスクリーニングを行い、実用性の検証を行うこととした。
[市販生鮮品および加工製品における実用性の検証]
(1.試料)
試料には本実施例で対象とした12種のエビ類の他、他の魚介類として、タコ、ゴマサバ、サーモン、サンマ、ヤリイカ、メカジキ、アンコウ、サワラ、アユ、メバチマグロ、キングサーモン、ニジマス、マダイ、シロサバフグ、さば味噌煮(大西洋サバ)、シログチ冷凍すり身、マサバ(燻製)、アサヒガニ、エガニおよびシャンハイガニを用い、エビ類の加工品として、カップヌードル中のフリーズドライされたピンクエビを用いた。
(2.方法)
まず、それぞれのサンプルから、実施例1,「I、3−2」と同様の方法でDNA抽出を行った。その後、それらの鋳型DNAを設計したエビ特異プライマーセットによりPCR増幅させた。今回はプライマーが2セットであるため、各プライマーを等量ずつミックスさせるマルチプレックス法を用いることとした。マルチプレックスPCRには、「Multiplex PCR Assay Kit(TaKaRa)」を用いた。すなわち、1検体あたりのPCR反応液は、0.2mL PCRチューブ中に精製した鋳型DNAを2.5μL、Muliplex PCR Mix1を0.25μL、Muliplex PCR Mix2を12.5μL、各プライマーを0.5μL、合計で25μLになるように滅菌水を加えた。PCRは、94℃で60秒、その後94℃で30秒、50℃で90秒、72℃で90秒を30サイクル行い、その後72℃で10分行い、最後に4℃で保存した。
PCR反応後、各サンプル10μLをSYBR SafeTM入り2%アガロースゲル電気泳動に供した。通電は100Vで30分とし、増幅断片の検出はトランスイルミネーターで目的とするバンドを観察し、エビ類及びエビの加工品にのみ特異的であるかどうかの検証を行った。
また、各サンプルのDNA精製度を確認するため、動物DNA検出用プライマーセットを用いてPCR増幅させた。動物DNA検出用プライマーセットの配列および増幅バンド長を表5(動物DNA検出用プライマーの配列)に示す。
1検体あたりのPCR反応液は0.2mL PCRチューブ中に精製した5ng/μL鋳型DNA2.5μL、10×緩衝液(TaKaRa)2.5μL、2.5mM each dNTP mix 2.0μL、25mM MgCl2 Mg3.0μL、25μM各プライマー0.2μL、xTaq(TaKaRa) 0.125μL、合計で25μLとなるように滅菌水を加えた。PCRは、95℃で10秒、その後95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で30秒を30サイクル行い、その後72℃で7分行い、最後に4℃で保存した。PCR反応後、各サンプル10μLをSYBR SafeTM入り2%アガロースゲル電気泳動に供した。通電は100Vで30分とし、増幅断片の検出はトランスイルミネーターで目的とするバンドを観察した。
(3.結果)
EBI−SP1−F1/EBI−SP1−R1及びEBI−SP2−F1/EBI−SP2−R1のミックスプライマーセットを用いて市場で流通するエビ類の加工品及び他の魚介類を用いて実用性の検証を行った結果を表6(エビ特異プライマーセットの市販生鮮品及び加工製品における実用性の検証)に示し、電気泳動図を図9(EBI−SP1−F1/EBI−SP1−R1/EBI−SP2−F1/EBI−SP2−R1のプライマーミックスを用いたエビ類の加工品及び他の魚介類の検出−1)、図10(EBI−SP1−F1/EBI−SP1−R1/EBI−SP2−F1/EBI−SP2−R1のプライマーミックスを用いたエビ類の加工品及び他の魚介類の検出−2)、及び、図11(EBI−SP1−F1/EBI−SP1−R1/EBI−SP2−F1/EBI−SP2−R1のプライマーミックスを用いたエビ類の加工品及び他の魚介類の検出−3)に示す。
その結果、エビ類及びエビの加工品のみ200bp付近に単一のバンドを確認することができ、エビ以外の魚介類からは増幅が認められないかまたは異なるサイズの位置にバンドが確認された。すなわち、ゴマサバでは約300bp付近に、サーモンでは約700bp付近に、キングサーモンおよびニジマスでは約700bp付近に、シロサバフグでは約100bp付近に、サバ味噌煮およびシログチ冷凍すり身では約300bp付近に増幅が認められたが、いずれもエビ類とは異なる位置での増幅であった。また、カニ類であるアサヒガニ、エガニ、シャンハイガニでは増幅が認められなかった。よって、これらの検証結果から、今回設計したプライマーセットはマルチプレックスPCR法を用いることで、エビ類を特異的に検出することが可能であることが明らかとなった。
本発明のPCR法によるエビ類検出用プライマーセットは、市場に流通するエビ類をはじめとして、各種のエビ類全体に対する検出を可能とし、しかも、カニ類に対しては、反応しないことから、食物アレルギーの原因となるエビ類をカニ類と区別し、直接的に、確実かつ特異的に検出することが可能なPCR法によるエビ類の検出方法及びそのためのPCRプライマーセットを提供する。

Claims (8)

  1. 配列表の配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成される、PCR法によるエビ類検出用プライマーセット。
  2. プライマーセットが、カニ類と区別してエビ類を判別するプライマーセットであることを特徴とする請求項1記載のPCR法によるエビ類検出用プライマーセット。
  3. PCR法が、マルチプレックスPCRであることを特徴とする請求項1又は2記載のPCR法によるエビ類検出用プライマーセット。
  4. 試料より抽出したDNAを鋳型として、請求項1記載のプライマーセットを用いてPCR増幅を行い、増幅産物の有無を指標として判別することを特徴とするPCR法によるエビ類の検出方法。
  5. PCR増幅を、マルチプレックスPCR法を用いて行うことを特徴とする請求項4記載のPCR法によるエビ類の検出方法。
  6. エビ類の検出が、飲食品中に含まれるエビ類由来の飲食品素材の検出であることを特徴とする請求項4又は5記載のPCR法によるエビ類の検出方法。
  7. 配列表の配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドから構成されるプライマーセットを具備することを特徴とするPCR法によるエビ類検出用キット。
  8. PCR法によるエビ類検出用キットが、マルチプレックスPCR法による検出用キットであることを特徴とする請求項7記載のPCR法によるエビ類検出用キット。

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