JP5472619B2 - 定着装置及び画像形成装置 - Google Patents
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そして、誘導加熱部によって電磁誘導加熱された金属部材によって定着ベルトが加熱されて、ニップ部に向けて搬送された記録媒体上のトナー像がニップ部にて熱と圧力とを受けて記録媒体上に定着されることになる。
図1〜図11にて、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1に示すように、本実施の形態1における画像形成装置1は、タンデム型カラープリンタである。画像形成装置本体1の上方にあるボトル収容部101には、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した4つのトナーボトル102Y、102M、102C、102Kが着脱自在(交換自在)に設置されている。
ボトル収容部101の下方には中間転写ユニット85が配設されている。その中間転写ユニット85の中間転写ベルト78に対向するように、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した作像部4Y、4M、4C、4Kが並設されている。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、露光部3から発せられたレーザ光Lの照射位置に達して、この位置での露光走査によって各色に対応した静電潜像が形成される(露光工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、中間転写ベルト78及び第1転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kとの対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上のトナー像が中間転写ベルト78上に転写される(1次転写工程である。)。このとき、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上には、僅かながら未転写トナーが残存する。
最後に、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、不図示の除電部との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の残留電位が除去される。
こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上でおこなわれる、一連の作像プロセスが終了する。
ここで、中間転写ユニット85は、中間転写ベルト78、4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79K、2次転写バックアップローラ82、クリーニングバックアップローラ83、テンションローラ84、中間転写クリーニング部80、等で構成される。中間転写ベルト78は、3つのローラ82〜84によって張架・支持されるとともに、1つのローラ82の回転駆動によって図1中の矢印方向に無端移動される。
そして、中間転写ベルト78は、矢印方向に走行して、各1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kの1次転写ニップを順次通過する。こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の各色のトナー像が、中間転写ベルト78上に重ねて1次転写される。
その後、中間転写ベルト78は、中間転写クリーニング部80の位置に達する。そして、この位置で、中間転写ベルト78上の未転写トナーが回収される。
こうして、中間転写ベルト78上でおこなわれる、一連の転写プロセスが終了する。
詳しくは、給紙部12には、転写紙等の記録媒体Pが複数枚重ねて収納されている。そして、給紙ローラ97が図1中の反時計方向に回転駆動されると、一番上の記録媒体Pがレジストローラ対98のローラ間に向けて給送される。
その後、記録媒体Pは、排紙ローラ対99のローラ間を経て、装置外へと排出される。排紙ローラ対99によって装置外に排出された被転写Pは、出力画像として、スタック部100上に順次スタックされる。
こうして、画像形成装置における、一連の画像形成プロセスが完了する。
図2〜図4に示すように、定着装置20は、定着部材としての定着ベルト21(ベルト部材)、固定部材26、金属部材22(金属熱伝導体)、補強部材23、加熱手段としての励磁部材25(コイル部)、加圧回転体としての加圧ローラ31、温度センサ40、断熱部材27、ステー部材28、等で構成される。
定着ベルト21の基材層21aは、層厚が30〜50μmであって、ニッケル、ステンレス等の金属材料やポリイミド等の樹脂材料で形成することができる。
基材層21a(発熱層)としては、励磁部材25により発生される交番磁界によって渦電流が発生しやすく電磁誘導加熱に適した電気伝導性の良い金属材料が好適である。電磁誘導加熱に適した金属材料としては、一般的に電気的抵抗が高いものが知られているが、低抵抗の金属材料であっても金属部材22を薄層化することにより発熱層21aの実質的な抵抗値を任意に設定して発熱層21aの発熱量を調整することができる。具体的に、基材層21a(発熱層)の材料としては、銀、アルミニウム、マグネシウム等や、磁性体であるニッケルや磁性ステンレス等を用いることもできる。
定着ベルト21の離型層は、層厚が10〜50μmであって、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)、等の材料で形成されている。離型層を設けることで、トナーT(トナー像)に対する離型性(剥離性)が担保される。
定着ベルト21の内部(内周面側)には、固定部材26、金属部材22、補強部材23、断熱部材27、ステー部材28、等が固設されている。また、定着ベルト21の外周面の一部と、金属部材22の内周面の一部と、にそれぞれ隙間を空けて対向するように、励磁部材25(コイル部)が配設されている(図5をも参照できる。)。また、図示は省略するが、定着ベルト21と金属部材22との間には、潤滑剤が介在(塗布)されている。
ここで、固定部材26は、定着ベルト21の内周面に摺接するように固定されている。そして、固定部材26が定着ベルト21を介して加圧ローラ31に圧接することで、記録媒体Pが搬送されるニップ部が形成される。図3を参照して、固定部材26は、その幅方向両端部が定着装置20の側板43に固定支持されている。
なお、励磁部材25や固定部材26の構成については、後でさらに詳しく説明する。
そして、略パイプ状に形成された金属部材22は、感温磁性体で形成されていて、励磁部材25(コイル部)により生成される交番磁界によって電磁誘導加熱されて定着ベルト21を加熱する(熱を伝える。)。すなわち、金属部材22が励磁部材25によって直接的に電磁誘導加熱されて、金属部材22を介して定着ベルト21が間接的に加熱されることになる。
ここで、本実施の形態1では、定着ベルト21にも発熱層21aを設けているため、定着ベルト21(発熱層21a)自体も、励磁部材25により生成される交番磁界によって直接的に電磁誘導加熱されることになる。したがって、定着ベルト21の加熱効率がさらに向上することになる。
本実施の形態1では、金属部材22の材料として、キュリー点が定着可能温度以上であって300度以下となる感温磁性体を用いている。具体的に、金属部材22の材料は、ニッケル、鉄、クロムの合金であって、各材料の添加量と加工条件とを調整することで所望のキュリー点(本実施の形態1では、250度に設定されている。)を得ることができる。また、本実施の形態1において、金属部材22の肉厚は0.5mmに設定されている。
このように、金属部材22のキュリー点を定着ベルト21の定着温度近傍に設定することで、励磁部材25による電磁誘導によって金属部材22や定着ベルト21が過昇温する不具合が抑止されることになる。
なお、励磁部材25の出力制御は、定着ベルト21表面に対向するサーミスタ等の温度センサ40によるベルト表面温度の検知結果に基いておこなわれる。また、このような励磁部材25の出力制御によって、定着ベルト21の温度(定着温度)を所望の温度に設定することができる。
ここで、励磁部材25は、定着ベルト21の表面(外周面)及び金属部材22の裏面(内周面)を挟むように配設されている。換言すると、定着ベルト21及び金属部材22の一部が、ループ状の励磁部材25のループ内に挟入されている。
励磁部材部25は、定着ベルト21及び金属部材22に対して平行に幅方向に延設されている。励磁部材25の幅方向の一端は内周面側と外周面側とを結ぶ折返し部になっていて、他端には高周波電源50が接続されている。そして、高周波電源50から、10k〜1MHz(好ましくは、10k〜300kHzである。)の交番電流が励磁部材25に印加される。
詳しくは、高周波電源50から励磁部材25に10kHz〜1MHzの高周波交番電流を流すことで、図6に示すように、励磁部材25のループ内に磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このように交番磁界が形成されることで、金属部材22の温度がキュリー点以下である場合に、定着ベルト21の発熱層21aと、金属部材22の表裏面と、に渦電流が生じて、定着ベルト21の発熱層21aと金属部材22とのそれぞれの電気抵抗によってジュール熱が発生して、誘導加熱される。また、定着ベルト21は、発熱した金属部材22からの伝熱によっても加熱される。
なお、本実施の形態1における励磁部材25は、図5に示すように、定着ベルト21及び金属部材22を1回だけ挟むように離間して巻回されたものとした。これに対して、励磁部材25を、定着ベルト21及び金属部材22を複数回挟むように離間して巻回されたものとすることもできる。
また、金属部材22と定着ベルト21とが摺接しても定着ベルト21の磨耗が軽減されるように、定着ベルト21の内周面には、双方の部材21、22の間にはフッ素グリスやシリコーンオイル等の潤滑剤が塗布されている。
なお、本実施の形態1では、金属部材22の断面形状が略円形になるように形成したが、金属部材22の断面形状が多角形になるように形成することもできる。
この補強部材23は、上述した機能を満足するために、ステンレスや鉄等の機械的強度が高い金属材料で形成することが好ましい。なお、本実施の形態1では、補強部材23の材料として、励磁コイル25による交番磁界を受けても加熱されにくい、非磁性ステンレス(SUS304)を用いている。
また、本実施の形態1では、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径とほぼ同等になるように形成したが、定着ベルト21の直径が加圧ローラ31の直径よりも小さくなるように形成することもできる。その場合、ニップ部における定着ベルト21の曲率が加圧ローラ31の曲率よりも小さくなるために、ニップ部から送出される記録媒体Pが定着ベルト21から分離され易くなる。
なお、本実施の形態1では、ニップ部を形成する固定部材26の形状を凹状に形成したが、ニップ部を形成する固定部材26の形状を平面状に形成することもできる。すなわち、固定部材26の摺接面(加圧ローラ31に対向する面である。)が平面形状になるように形成することができる。これにより、ニップ部の形状が記録媒体Pの画像面に対して略平行になって、定着ベルト21と記録媒体Pとの密着性が高まるために定着性が向上する。さらに、ニップ部の出口側における定着ベルト21の曲率が大きくなるために、ニップ部から送出された記録媒体Pを定着ベルト21から容易に分離することができる。
金属板を曲げ加工することにより形成する略パイプ状の金属部材22は、その肉厚を薄くすることができるために、ウォームアップ時間を短縮することができる。しかし、金属部材22自身の剛性は小さくなっているため、加圧ローラ31の加圧力に抗しきれずに、撓んだり、変形することがある。パイプ状の金属部材22が変形してしまうと所望のニップ幅が得られずに、定着性が低下するという問題が生じる。これに対して、本実施の形態1では、薄肉の金属部材22とは別に高剛性の固定部材26を設置してニップ部を形成しているために、そのような問題が生じるのを未然に防止することができる。
また、固定部材26の表面層26aに、予め潤滑剤を含浸させることもできる。これにより、固定部材26は、定着ベルト21に当接する面に潤滑剤が保持された状態になり、双方の部材21、26が磨耗する不具合がさらに軽減される。
本実施の形態1では、定着ベルト21と金属部材22とがほぼ全周にわたって近接しているため、加熱待機時(プリント動作待機時)においても定着ベルト21を周方向に温度ムラなく加熱できる。したがって、プリント要求を受けた後、速やかにプリント動作をおこなうことができる。このとき、従来のオンデマンド方式の定着装置(例えば、特許第2884714号公報参照。)では、ニップ部で加熱待機時に加圧ローラを変形させたまま熱を与えてしまうと、加圧ローラのゴムの材質によっては、熱劣化を起こして加圧ローラの寿命が短くなってしまったり、加圧ローラに圧縮永久ひずみが発生してしまったりする(ゴムの圧縮永久ひずみは、ゴムの変形に加熱が加わることにより増大する。)。そして、加圧ローラに圧縮永久ひずみが発生すると、加圧ローラの一部が凹んだ状態になり、所望のニップ幅が得られないため、定着不良が発生したり、回転時に異音が生じたりする。
これに対して、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27が設置されているために、加熱待機時に金属部材22の熱が固定部材26に達しにくくなる。したがって、加熱待機時に加圧ローラ31が変形した状態で高温加熱される不具合が軽減されて、上述の問題が生じるのを抑止することができる。
これに対して、本実施の形態1では、固定部材26と金属部材22との間に断熱部材27が設置されているために、金属部材22の熱がニップ部の潤滑剤に達しにくくなる。したがって、潤滑剤の高温による劣化が軽減されて、上述の問題が生じるのを抑止することができる。
略パイプ状の金属部材22は、0.1mm厚のステンレスからなる平板に曲げ加工を施して形成したものである。したがって、ステンレス板を曲げ加工によって所望のパイプ形状に加工しようとしても、そのままでは、スプリングバックによって径が大きくなる方向に開いてしまい所望のパイプ形状を形成することができない。そして、金属部材22がスプリングバックによって開いてしまうと、定着ベルト21の内周面に接触してしまい定着ベルト21を傷つけたり、定着ベルト21との接触ムラによる定着ベルト21の加熱ムラが生じたりしてしまう。本実施の形態1では、このような不具合が生じるのを抑止するために、金属部材22の開口部が形成された凹部22a(曲げ部)をステー部材28で固定することによって、金属部材22のスプリングバックによる変形を抑止している。具体的には、スプリングバック力に抗するように曲げ加工が施された金属部材22の形状を保持しながら、金属部材22の内周面側からステー部材28を凹部22aに圧入する。
装置本体1の電源スイッチが投入されると、高周波電源50から励磁部材25に交番電流が供給されるとともに、加圧ローラ31の図2中の矢印方向の回転駆動が開始される。これにより、加圧ローラ31との摩擦力によって、定着ベルト21も図2中の矢印方向に従動(回転)する。
その後、給紙部12から記録媒体Pが給送されて、2次転写ローラ89の位置で、記録媒体P上に未定着のカラー画像が担持(転写)される。未定着画像T(トナー像)が担持された記録媒体Pは、不図示のガイド板に案内されながら図2の矢印Y10方向に搬送されて、圧接状態にある定着ベルト21及び加圧ローラ31のニップ部に送入される。
そして、金属部材22(及び、発熱層21a)によって加熱された定着ベルト21による加熱と、補強部材23によって補強された固定部材26と加圧ローラ31との押圧力とによって、記録媒体Pの表面にトナー像Tが定着される。その後、ニップ部から送出された記録媒体Pは、矢印Y11方向に搬送される。
このような自己温度制御能力は、本実施の形態1のように定着ベルト21と金属部材22とに対して励磁部材25をループ状に配設した場合、金属部材22の片側(例えば、内周面側である。)に励磁部材を配設した場合に比べて、特に高くなる。
図6は励磁コイル25の近傍を示す断面図であって、図7及び図8は、金属部材22、定着ベルト21、励磁部材25を幅方向にみた断面模式図である。各図中の破線矢印は、励磁コイル25に交番電流が流れたときに発生する磁力線を示している。
図6に示すように、励磁部材25は、定着ベルト21の外周面と金属部材22の内周面とを挟むように配設されている。これにより、図7に示すように、定着ベルト21の外周面に対向する励磁部材25と、金属部材22の内周面に対向する励磁部材25と、には、互いに逆向きのコイル電流Hが常に流れることになる。したがって、定着ベルト21及び金属部材22を挟む双方の励磁部材25によって発生される磁力線B1、B2も互いに逆の方向に回転する。そして、金属部材22の表面と裏面とには、逆向きの渦電流A1、A2が流れて、表裏面の双方でジュール損による発熱が生じることになる。また、定着ベルト21の発熱層21aには、金属部材22の表面と同じ向きの渦電流A3が流れて、ジュール損による発熱が生じることになる。
また、渦電流が表面における電流密度の0.368倍に減少した位置における表面からの深さを電流の浸透深さδと呼ぶ。なお、浸透深さδは次式で求まる。
δ=503・〔ρ/(μf)〕1/2 …式(1)
上式(2)において、ρは金属部材22(又は、発熱層21a)の体積抵抗率(Ω・m)であり、μは金属部材22(又は、発熱層21a)の比透磁率であり、fは金属部材22(又は、発熱層21a)を励磁する交番電流の周波数(Hz)である。
浸透深さより金属部材22(又は、発熱層21a)の表面から遠い位置に流れる渦電流は、金属部材22(又は、発熱層21a)の表面近傍のものと比較して、非常に小さく誘導加熱にほとんど影響を与えない。金属部材22(又は、発熱層21a)の厚さが浸透深さ以上であれば、金属部材22(又は、発熱層21a)の表面から進入した磁束は金属部材22(又は、発熱層21a)の内部でエネルギーを消失して、金属部材22(又は、発熱層21a)をほとんど透過することができなくなる。
本実施の形態1では、金属部材22の厚さを0.5mmに設定している。そのため、交番電流の周波数が30kHzであって、金属部材22の温度がキュリー点以下であれば、図7に示すように、金属部材22の表面と裏面とに流れる渦電流はそれぞれ金属部材22の表面から0.06mm程度の位置に集中して、互いの渦電流が干渉することなく金属部材22は誘導加熱されることになる。
このように、定着ベルト21の外周面と金属部材22の内周面とを挟むように励磁部材25を配設することで、非常に高い自己温度制御能力と発熱効率とを得ることができる。
図9において、グラフQ1は金属部材22を感温磁性体で形成した場合(本実施の形態1における構成である。)の昇温特性を示し、グラフQ0は金属部材22をSUS430(磁性ステンレスであって、感温磁性体ではない材料である。)で形成した場合の昇温特性を示す。ウォームアップ時の昇温特性は、定着ベルト21がトナーを溶融するのに必要な温度(本実施の形態1では、160℃である。)に達する昇温時間が短いほど良く、ユーザーにとって使いやすい画像形成装置ということになる。
グラフQ0に示すように、自己温度制御能力のない金属部材を用いた場合には、励磁部材25に電力を供給しつづけると、定着ベルト21の温度が160℃(定着設定温度)を超えても昇温を続ける。これに対して、グラフQ1に示すように、自己温度制御能力のある金属部材22を用いた場合には、励磁部材25に電力を供給しつづけても、金属部材22(感温磁性体)の温度がキュリー(250℃)まで昇温すると、それ以上温度が上がらない。そのため、定着ベルト21の温度は、減少した金属部材22(感温磁性体)の発熱量と、定着ベルト21の放熱量と、がつりあう温度(本実施の形態1では、約230℃である。)で一定となる。このように、金属部材22自体の自己温度制御能力によって、温度制御をおこなうための制御装置を別に設けなくても、金属部材22や定着ベルト21の過昇温を防止することができる。
図10に関わる実験では、本実施の形態1における定着装置20において、感温磁性体からなる金属部材22の厚さを変化させて、周波数30kHzの一定電圧を励磁部材25に印加したときの、金属部材22及び発熱層21aの発熱量Qを測定している。図10において、横軸は金属部材22の厚さを浸透深さ(0.06mm)で割った倍率(金属部材の厚さ/浸透深さ)を示し、縦軸は金属部材22の厚さが0.06mmのときの金属部材22及び発熱層21aの発熱量Q1を基準とした発熱量の増減率((Q−Q1)/Q1×100)を示す。
本実施の形態1において、装置のウォームアップ時間やファーストプリント時間が短縮化するためには、金属部材22の温度がキュリー点以下であるときの加熱効率が重要になる。上述したように、周波数30kHzで誘導加熱をおこなうとき、金属部材22の厚さは浸透深さの3倍以上にすることで、装置の加熱効率を確実に向上させることができる。また、周波数が30kHzにおいて浸透深さが小さな金属部材22(例えば、浸透深さが0.15mm以下のもの)を用いることで、熱容量の小さな定着装置を提供することができる。すなわち、金属部材22の浸透深さが小さければ小さいほど、金属部材22の厚さを薄くすることができることになる。
図11において、グラフS1は定着ベルト21に発熱層21aを設けた場合(本実施の形態1における構成である。)の昇温特性を示し、グラフS0は定着ベルト21に発熱層21aを設けなかった場合(発熱層の代わりにポリイミドからなる基材層を設けている。)の昇温特性を示す。
図11に示す実験結果から、定着ベルト21に発熱層21aを設けることにより、昇温特性が向上していることがわかる。具体的に、定着ベルト21の表面温度が定着設定温度(160℃)まで昇温する時間は、発熱層21aを設けなかった場合が15秒であったのに対して、発熱層21aを設けた場合が10秒であった。
また、発熱層21aを設けた場合には定着ベルト21が230℃で一定となったのに対して、発熱層21aを設けなかった場合には定着ベルト21が220℃で一定となった。これは、定着ベルト21が発熱層21aを有さない場合には、定着ベルト21の加熱は金属部材22からの伝熱によるものだけであるのに対して、定着ベルト21に発熱層21aが形成されている場合には、定着ベルト21の加熱が金属部材22からの伝熱に加えて、誘導加熱による直接的なものがあるためである。特に、定着装置20を低温状態から昇温させる場合(例えば、室温状態から装置を立ち上げる場合である。)には、定着ベルト21(発熱層21a)を誘導加熱で直接的に加熱する効果が顕著になる。
図12〜図14にて、この発明の実施の形態2について詳細に説明する。
図12は、実施の形態2における定着装置の一部を示す構成図である。また、図13は、別の形態の定着装置の一部を示す図である。さらに、図14は、金属部材の22肉厚部の範囲が異なるときの、定着ベルト21の昇温特性を示すグラフである。
本実施の形態2における定着装置は、金属部材22において励磁部材25に対向する部分の厚さt1がそれ以外の部分の厚さt2よりも厚くなるように形成されている点が、金属部材22が周方向にわたって一定の肉厚で形成されている前記実施の形態1のものと相違する。
具体的に、励磁部材25に対向する部分(肉厚部)の厚さt1は0.5mmに設定され、励磁部材25に対向しない部分(薄肉部)の厚さt2は0.1mmに設定されている。また、図12に示すように、金属部材22における肉厚部の周方向の長さW0は、対向する内側の励磁部材25の周方向の長さにほぼ一致するように設定されている。なお、図12(又は、図13)において、肉厚部の厚さt1と、薄肉部の肉厚t2と、は、見易さのため比例尺で図示していない。
このように、励磁部材25による交番磁界が及ぶ範囲(肉厚部)は金属部材22の肉厚を浸透深さの3倍以上に設定することで自己温度制御性を確保し、励磁部材25による交番磁界が及ばない範囲(薄厚部)は金属部材22の肉厚をなるべく薄くして熱容量を小さく設定することで伝熱性を確保している。これにより、自己温度制御性と、全体の加熱効率と、の両者を良好化することができる。
前記実施の形態1の図10にて説明したように、感温磁性体である金属部材22の厚さを浸透深さの3倍以上に設定することで、金属部材22の温度がキュリー点以下のときの加熱効率を高くすることができる。しかし、金属部材22の厚さを厚くすると、金属部材22の熱容量が増加するため、ウォームアップ時の昇温特性が低下してしまう。
本願発明者は、金属部材22の厚さが誘導加熱の加熱効率に影響を与える範囲が、励磁部材25の近傍に限られるのではと推測した。そして、その推測に基いて、金属部材22の厚さを厚くする範囲を変化させて、発熱量Qを計測する実験をおこなった。
ここで、図13(A)に示す金属部材22は、肉厚部(t1=0.5mm)の範囲が、周方向全域となるように形成されている。また、図13(B)に示す金属部材22は、肉厚部(t1=0.5mm)の範囲W1が、対向する内側の励磁部材25の周方向の長さに対して充分に長くなるように形成されている。また、図13(C)に示す金属部材22は、肉厚部(t1=0.5mm)の範囲W2が、対向する内側の励磁部材25の周方向の長さに対して充分に短くなるように形成されている。なお、図13(B)及び図13(C)に示す金属部材22は、いずれも、図12のものと同様に薄肉部の肉厚t2が0.1mmに設定されている。
図14の実験結果から、図12に示す金属部材22を用いた場合が最も昇温特性が良好で、以下、図13(B)に示す金属部材22を用いた場合、図13(A)に示す金属部材22を用いた場合、図13(C)に示す金属部材22を用いた場合の順に昇温特性が低下していく。特に、図13(C)に示す金属部材22を用いた場合には、他のものに比べて昇温特性の低下の程度が大きくなってしまう。
具体的に、図12に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は6秒、図13(B)に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は8秒、図13(A)に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は10秒、図13(C)に示す金属部材22を用いた場合のウォームアップ時間は30秒であった。
図12、図13(A)、図13(B)の金属部材22のように、少なくとも、励磁部材25(内側の励磁部材25である。)に対向する金属部材22の部分の肉厚を厚く設定することで、上述した渦電流の相殺による加熱効率の低下は解消される。しかし、渦電流の相殺が起こらなければ、金属部材22全体の熱容量が小さいほど、金属熱部材22の昇温時間は短くなるため、図14に示すような実験結果となる。一方、図13(C)の金属部材22を用いた場合には、励磁部材25(内側の励磁部材25である。)に対向する金属部材22の部分の肉厚がすべて厚く設定されていないため、肉厚が充分に確保されていない部分で、渦電流の相殺が発生して加熱効率が低下してしまい、図14に示すような実験結果となる。
特に、本実施の形態2における定着装置20は、金属部材22の肉厚部の範囲W0が必要充分な範囲に設定され、それ以外の部分が低熱容量化のため薄肉部となっているため、上述した効果が最大限発揮されることになる。
なお、本実施の形態2における定着装置20において、肉厚部が形成された金属部材22は一体成型されたものである必要はなく、例えば、肉厚がt2の板状部材(円筒状部材)に肉厚が(t1−t2)の板状部材を重ね合わせて肉厚部を形成することもできる。
20 定着装置、
21 定着ベルト(定着部材)、
21a 発熱層、
22 金属部材(加熱部材)、
23 補強部材、
25 励磁部材(加熱手段)、
26 固定部材、
31 加圧ローラ(加圧回転体)、 P 記録媒体。
Claims (9)
- 所定方向に走行してトナー像を加熱して溶融するとともに、可撓性を有する無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトの内周面側に固設されて、当該定着ベルトを介して加圧回転体に圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する固定部材と、
前記ニップ部を除く位置で前記定着ベルトの内周面に対向するように固設されて前記定着ベルトを加熱するとともに、加熱手段によって電磁誘導加熱されるパイプ状の金属部材と、
を備え、
前記加熱手段は、前記金属部材の内周面の一部と前記定着ベルトの外周面の一部とにそれぞれ隙間を空けて対向するように配設されるとともに、交番電流が印加されて交番磁界を発生させる励磁部材であって、
前記金属部材は、その一部又は全部が感温磁性体で形成され、その内周面側において前記励磁部材に対向する部分の厚さが、それ以外の部分の厚さよりも厚くなるように形成されたことを特徴とする定着装置。 - 前記金属部材は、少なくとも前記励磁部材に対向する部分の厚さが、当該金属部材の温度が当該金属部材が有するキュリー点以下であるときの前記交番電流の周波数に対応した浸透深さに対して3倍以上の厚さとなるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
- 前記金属部材は、前記励磁部材に対向する部分の厚さが、それ以外の部分の厚さよりも厚くなるように、内周面側に板状部材が重ね合わされて形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
- 前記金属部材は、ニッケル、鉄、クロムの合金からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の定着装置。
- 前記定着ベルトは、前記励磁部材によって発生される前記交番磁界によって電磁誘導加熱される発熱層を具備したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の定着装置。
- 前記発熱層は、その層厚が前記交番電流の周波数が30kHzのときの浸透深さよりも小さくなる金属材料で形成されたことを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
- 前記励磁部材は、前記ニップ部に対して前記定着ベルトの走行方向上流側の位置で、前記定着ベルト及び前記金属部材を1回又は複数回挟むように離間して巻回されたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の定着装置。
- 前記金属部材の内周面側に固設されて前記固定部材に当接して当該固定部材を補強する補強部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の定着装置。
- 請求項1〜請求項8のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
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