JP5471362B2 - トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法 - Google Patents

トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法 Download PDF

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Description

本発明はトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの新規な製造法に関するものであり、更には、ポリウレタン樹脂やポリアミド樹脂のモノマー、その原材料、医農薬原料の中間体としての有用性が期待されるトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの新規な製造法を提供するものである。
近年、環状構造の脂肪族炭化水素を骨格に持つ環状脂肪族ジイソシアネートを原料とするポリウレタン樹脂は、無黄変性、耐候性及び剛直性を有し、塗料や接着剤用途として注目されている。環状脂肪族ジイソシアネートのイソシアネート基の立体構造はポリウレタン樹脂の物性に影響を及ぼすことから、トランス体の構造を持つことが期待されている。一般に、ジイソシアネート基の立体構造は、原料となるジアミンのアミノ基の立体性が保持されることから、環状脂肪族ジイソシアネートの原料となる環状脂肪族ジアミンはトランス体の構造を持つことが望まれている。
このようなトランス体の構造を持つ環状脂肪族ジアミンは、例えばトランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンが知られており、その製造法としてはフタロニトリルのニトリル基を水素化することによりo−キシリレンジアミンを製造し、このo−キシリレンジアミンをさらに核水素化することで製造する方法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
また、シス体を異性化してトランス体に変換することで選択的にトランス体を製造する方法が提案されている(例えば特許文献2参照。)。
特開平06−279368号公報(特許請求の範囲) 特開平10−259167号公報(特許請求の範囲)
しかし、特許文献1に提案の方法においては、核水素化によって生成する1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンはシス−トランス構造異性体の混合物であるため、トランス体のみを選択的に得ることはできないという課題があった。
また、特許文献2に提案の方法においては、高価なフタロニトリルを用いる必要があること、芳香族環の核水素化には厳しい反応条件が必要であること、および、異性化を経るという煩雑な工程になる等の課題があった。
そこで、本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は容易に入手可能なトランス体とシス体が混合した原料を用い、煩雑かつ特殊な工程を経ることなく、ポリウレタン樹脂やポリアミド樹脂のモノマー、その原材料、医農薬原料の中間体としての有用性が期待されるトランス体の構造を有する環状脂肪族ジアミンを選択的に製造する新規な製造法を提供することである。
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの新規な製造法を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示されるトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物を、イミド化合物でイミド化し、次いで分解反応する下記一般式(2)で表されるトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法であって、イミド化時にシス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対して塩基性化合物1〜5モルを用いることを特徴とする一般式(2)で表されるトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法に関するものである。
Figure 0005471362
(式中、点線は単結合又は二重結合を示し、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
Figure 0005471362
(式中、点線は単結合又は二重結合を表す。)
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は上記一般式(2)で表されるトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの新規な製造法に関するものであり、上記一般式(1)で示されるトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物を、イミド化合物でイミド化する際にシス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対して塩基性化合物1〜5モルを用いイミド化を行い、次いで分解反応を行う、該トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法である。
本発明の製造法により製造される該トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンとしては、例えばトランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−4−シクロヘキセンがあげられ、この中でも、環状脂肪族ジアミン自体の安定性が高いことから、トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンであることが好ましい。
本発明の製造法に用いられる上記一般式(1)で表されるトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物としては、例えば1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサン、1,2−ビス(ブロモメチル)−シクロヘキサン、1,2−ビス(ヨードメチル)−シクロヘキサン、1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン、1,2−ビス(ブロモメチル)−4−シクロヘキセン、1,2−ビス(ヨードメチル)−4−シクロヘキセン等のトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物があげられる。ここで、これらのうち、原料入手が容易で、簡便に効率よく製造できることから、上記一般式(1)におけるXが共に塩素原子である1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサン、1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセンのトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物が好ましく、特に安定性が高いことから、1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサンのトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物がさらに好ましい。
また、本発明の製造法に用いられる上記一般式(1)で表されるトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物は、下記一般式(3)で表されるトランス体構造を有するジハロゲン化物と下記一般式(4)で表されるシス体構造を有するジハロゲン化物の混合物であってもよい。
Figure 0005471362
(式中、点線は単結合又は二重結合を示し、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
Figure 0005471362
(式中、点線は単結合又は二重結合を示し、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
ここで、上記一般式(3)で表されるトランス体構造を有するジハロゲン化物としては、例えばトランス−1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(ブロモメチル)−シクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(ヨードメチル)−シクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン、トランス−1,2−ビス(ブロモメチル)−4−シクロヘキセン、トランス−1,2−ビス(ヨードメチル)−4−シクロヘキセン等があげられる。ここで、上記一般式(3)で表されるトランス体構造を有するジハロゲン化物のハロゲン化メチル基、例えばクロロメチル基は互いに環構造が作る面の反対側に位置している。これらのうち、原料入手が容易で、簡便に効率よく製造できることから、上記一般式(3)におけるXがともに塩素原子であるトランス−1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサン、トランス−1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセンが好ましく、特に安定性が高いことから、トランス−1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサンがさらに好ましい。
また、上記一般式(4)で表されるシス体構造を有するジハロゲン化物としては、例えばシス−1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(ブロモメチル)−シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(ヨードメチル)−シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン、シス−1,2−ビス(ブロモメチル)−4−シクロヘキセン、シス−1,2−ビス(ヨードメチル)−4−シクロヘキセン等があげられる。ここで、上記一般式(4)で表されるシス体構造を有するジハロゲン化物のハロゲン化メチル基、例えばクロロメチル基は互いに環構造が作る面の同じ側に位置している。これらのうち、原料入手が容易で、簡便に効率よく製造できることから、上記一般式(4)におけるXが両方とも塩素原子であるシス−1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサン、シス−1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセンが好ましく、特に安定性が高いことから、シス−1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサンがさらに好ましい。
本発明の製造法に用いられる混合物中のトランス体構造を有するジハロゲン化物とシス体構造を有するジハロゲン化物の比率に制限はなく、その中でもトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンが収率よく製造できることから、99:1〜30:70であることが好ましく、特に99:1〜50:50であることが好ましい。
本発明の製造法においては、上記一般式(1)で示されるトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物を、イミド化合物でイミド化する際にシス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対して塩基性化合物1〜5モルを用いイミド化を行うものである。
該イミド化合物としては特に制限はなく、例えばフタルイミドナトリウム、フタルイミドカリウム、フタルイミドセシウム、テトラクロロフタルイミドナトリウム、テトラクロロフタルイミドカリウム、テトラクロロフタルイミドセシウム、ニトロフタルイミドナトリウム、ニトロフタルイミドカリウム、ニトロフタルイミドセシウム、アミノフタルイミドナトリウム、アミノフタルイミドカリウム、アミノフタルイミドセシウム、ブロモフタルイミドナトリウム、ブロモフタルイミドカリウム、ブロモフタルイミドセシウム、ナフタルイミドナトリウム、ナフタルイミドカリウム、ナフタルイミドセシウム、エトスクシミドナトリウム、エトスクシミドカリウム、エトスクシミドセシウム、こはく酸イミドナトリウム、こはく酸イミドカリウム、こはく酸イミドセシウム、マレイミドナトリウム、マレイミドカリウム、マレイミドセシウム、グルタルイミドナトリウム、グルタルイミドカリウム、グルタルイミドセシウム、ジメチルグルタルイミドナトリウム、ジメチルグルタルイミドカリウム、ジメチルグルタルイミドセシウム、テトラメチレングルタルイミドナトリウム、テトラメチレングルタルイミドカリウム、テトラメチレングルタルイミドセシウム等があげられる。
イミド化時における該イミド化合物の使用量に制限はなく、その中でも高価なイミド化合物の使用量を抑制できる他、イミド化合物に由来する廃棄物の量が抑えられ効率的にイミド化が進行することから、トランス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対してイミド化合物2〜5モルであることが好ましく、特に2〜3モルであることが好ましい。
また、本発明の製造法においては、このイミド化時にシス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対して塩基性化合物1〜5モルを用いるものである。該塩基性化合物の使用により、シス体構造を有するジハロゲン化物が選択的に脱ハロゲン化反応を起こし、副反応生成物として反応系から除去される。故に、トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンが選択的に製造されるものである。塩基性化合物が1モル未満の場合、イミド化合物がシス体構造を有するジハロゲン化物に消費されるため、トランス体構造を有するジハロゲン化物のイミド化がうまく進行せず、トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンを効率的に製造することが困難となる。一方、塩基性化合物が5モルを超える場合、トランス体構造を有するジハロゲン化物も脱ハロゲン化反応を起こし、トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンを効率的に製造することが困難となる。そして、トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンがより選択的に得られ、しかもイミド化合物の使用量をより抑制できることから、シス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対して塩基性化合物1.5〜5モルとすることが好ましく、特に2〜4モルとすることが好ましい。
該塩基性化合物としては、特に制限はなく、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩類;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−t−ブトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物類;メチルリチウム、ブチルリチウム等の有機アルカリ金属類;リチウムアミド、ナトリウムアミド等のアルカリ金属アミド類;ピリジン、ルチジン、トルイジン等の有機塩基類などが挙げられる。これらの塩基性化合物は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。これらのうち、トランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンがより選択的に得られることから、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物類であることが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
また、該イミド化は溶媒中でも行うことが可能であり、その際の溶媒としては、例えば水;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカヒドロナフタレン等の脂環族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等があげられる。これらの溶媒は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。そして、イミド化反応が進行しやすいことから、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類であることが好ましく、特にジメチルホルムアミドであることが好ましい。
イミド化の際の反応温度に制限はなく、例えば−50〜300℃であり、好ましくは0〜200℃である。反応圧力にも制限はなく、通常絶対圧で0.001〜30MPaであり、好ましくは0.1〜15MPaである。また、反応時間は温度や原料の基質濃度により適宜選択すればよく、通常1秒〜100時間である。イミド化反応中の雰囲気に制限はなく、その中でも空気を避けて行うことが望ましく、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気でイミド化反応を行うことが好ましい。
イミド化の際の方法に制限はなく、原料である上記一般式(1)で表されるトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物、更には上記一般式(3)で表されるトランス体構造を有するジハロゲン化物と上記一般式(4)で表されるシス体構造を有するジハロゲン化物の混合物、イミド化合物、塩基性化合物並びに溶媒を反応装置に仕込む回分式、原料である当該混合物、イミド化合物、塩基性化合物及び溶媒等を連続的に供給すると共に未反応原料、及び反応液を連続的に抜き出す連続式のいずれでも実施できる。また、原料の仕込み順序は特に制限はなく、原料である当該混合物、イミド化合物、塩基性化合物及び溶媒を一度に混合する方法、原料である当該混合物、塩基性化合物及び溶媒をあらかじめ接触してから、イミド化合物と混合する方法等が挙げられる。これらのうち、イミド化合物の使用量を抑えることができることから、原料である当該混合物、塩基性化合物及び必要であれば溶媒をあらかじめ接触してから、イミド化合物と混合する方法が好ましい。
反応終了後、公知の分離法で分離でき、例えば蒸留又は溶媒から析出させ、濾別する方法等により生成物を分離することができる。
本発明の製造法においては、イミド化合物でイミド化された生成物を、次いで分解反応に供することで、上記一般式(2)で表されるトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンが製造される。該分解反応で用いられる反応剤としては、特に制限はなく、例えば酸、塩基又はヒドラジン類等が挙げられる。
酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸等のカルボン酸;フェノール等があげられる。塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム等の無機塩基があげられる。ヒドラジン類としては、例えばヒドラジン、メチルヒドラジン、エチルヒドラジン、プロピルヒドラジン、フェニルヒドラジン、o−トリルヒドラジン、m−トリルヒドラジン、p−トリルヒドラジン等があげられる。これらのうち、分解反応が容易で、収率よく一般式(2)で表される環状脂肪族ジアミンを製造することが可能となることから、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等の無機塩基またはヒドラジン、メチルヒドラジン、エチルヒドラジン、プロピルヒドラジン、フェニルヒドラジン、o−トリルヒドラジン、m−トリルヒドラジン、p−トリルヒドラジン等のヒドラジン類が好ましく、特にヒドラジンが好ましい。
そして、イミド化生成物と分解反応で用いられる反応剤との仕込み比率に制限はなく、その中でも、効率的に分解反応が進行することから上記一般式(1)で表されるジハロゲン化物1モルに対して、該反応剤2〜100モルを用いることが好ましく、特に2〜50モルであることが好ましく、さらに2〜20モルであることが好ましい。
また、該反応剤による分解反応は溶媒中で行うことも可能であり、その際の溶媒としては、例えば水;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカヒドロナフタレン等の脂環族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等があげられる。これらの溶媒は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。そして、該分解反応が進行しやすいことから、水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類であることが好ましく、特にメタノール、エタノール、ジメチルホルムアミドであることが好ましい。
該分解反応における反応温度に制限はなく、例えば−50〜200℃であり、好ましくは0〜150℃である。反応圧力にも制限はなく、通常絶対圧で0.1〜30MPaであり、好ましくは0.1〜10MPaである。また、反応時間は温度や原料の基質濃度により適宜選択すればよく、通常1分〜100時間である。分解反応中の雰囲気にも制限なく、中でも空気を避けて行うことが望ましく、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気で反応を行うことが好ましい。
該分解反応の際の方法に制限はなく、例えばイミド化生成物、反応剤及び溶媒を一度に反応装置に仕込む回分式、イミド化生成物、反応剤及び溶媒等を連続的に供給すると共に未反応原料、及び反応液を連続的に抜出す連続式のいずれでも実施できる。また、反応状態にも制限はなく、液相または固液混合状態で行うことができる。
そして、本発明の製造法においては、公知の分離法、例えば蒸留等の方法により製造された上記一般式(2)で表されるトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンを回収することができる。
本発明の製造法で用いられる上記一般式(1)で示されるトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物、特に上記一般式(3)で表されるトランス体構造を有するジハロゲン化物と上記一般式(4)で表されるシス体構造を有するジハロゲン化物の混合物は、いかなる方法により製造されても差し支えなく、例えば1,3−ブタジエンを下記一般式(5)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと反応することにより、二重結合を有するジハロゲン化物として効率的に製造することができる。また、二重結合を有するジハロゲン化物を水素で水素化することにより、環構造がすべて単結合からなるジハロゲン化物を製造することができる。
Figure 0005471362
(式中、Yはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
ここで、トランス体構造を有するジハロゲン化物とシス体構造を有するジハロゲン化物の比を高めるためには、原料として用いる1,4−ジハロゲノ−2−ブテンの立体構造が重要で、トランス体がシス体よりも比率の高い1,4−ジハロゲノ−2−ブテンを用いることが好ましい。
本発明で製造されたトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンは、ポリウレタン樹脂やポリアミド樹脂のモノマー、その原材料、医農薬原料の中間体としてその有用性が期待されるものである。
本発明の製造法により得られるトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンは、ポリウレタンやポリアミド樹脂のモノマー、その原材料、医農薬原料の中間体として有用性が期待されるものであり、その効率的な製造法は工業的にも非常に有用なものとして期待されるものである。
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下に実施例に用いた測定方法を示す。
<ガスクロマトグラフ分析>
反応液に内標としてN−メチルピロリドンを加え、カラム(ジーエルサイエンス製、(商品名)TC−1)、FID検出器(水素化炎イオン化検出器)が備わったガスクロマトグラフ(島津製作所製、(商品名)GC−1700)に反応液0.4μlを注入し、気化室温度250℃、検出器温度320℃の条件で分析を行った。
<GC−MS測定>
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC部;ヒューレット・パッカード製、(商品名)HP6890、MS部;日本電子製、(商品名)JMS−700)を用い、気化室温度250℃、検出器温度320℃の条件で測定を行った。
合成例1
(環内に二重結合を有する環状脂肪族ジハライドの合成)
1,4−ジクロロ−2−ブテン(トランス体:シス体=90:10)150g(1.2mol)を500ミリリットルのオートクレーブに仕込んだ。内部を窒素置換した後、攪拌しながら180℃まで昇温し、1,3−ブタジエン39.6g(0.733mol)をポンプで8時間30分かけて供給した。供給終了後さらに6時間加熱攪拌し、Diels−Alder反応を行った。反応終了後、25℃まで温度を下げ、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液は褐色溶液であった。得られた褐色の溶液を0.4kPaの減圧下で蒸留し、65〜75℃の範囲の留出分を集めることにより、純度90重量%の1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン14g(1,3−ブタジエン基準の収率:10%)を無色溶液として得た。
(環構造がすべて単結合からなる環状脂肪族ジハライドの合成)
300mlのオートクレーブに上記で得られた1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン10g、エタノール100g及び水素化触媒として5wt%Pd/C(エヌ・イー・ケムキャット社製)0.1gを入れて、窒素置換した。その後、攪拌しながらオートクレーブ内の温度を50℃に上げ、水素を供給し1.0MPaに保ち2時間後、反応液を取り出した。得られた反応液をろ過後、0.4kPaの減圧下で蒸留し70〜79℃の範囲の留出分を集めガスクロマトグラフで分析した結果、1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセンは完全に転化し、1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサン(トランス体:シス体=81:19)を選択率95%で得た。
実施例1
200ミリリットルのガラス製セパラブルフラスコにジメチルホルムアミド50g、フタルイミドカリウム16g(89mmol)および8N水酸化ナトリウム水溶液2.7ml(22mmol、シス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対する量:2.3モル)を入れ、さらに合成例1で得られた1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサンを10g(55mmol、内訳:トランス体40mmol、シス体9.4mmol、その他5.5mol)加えて、攪拌しながらセパラブルフラスコ内の温度を150℃に上げて8時間加熱攪拌しイミド化反応を行った。反応終了後室温まで冷却し、水20gを添加し30分間攪拌した。攪拌後メンブレンフィルターを用いて、吸引ろ過し固形分を濾別した。
ろ別した固形分をセパラブルフラスコに移し、エタノール100gを添加後80℃で加熱攪拌し、エタノール還流状態でヒドラジン・1水和物25g(500mmol)を添加した。80℃で2時間加熱攪拌し分解反応を行った後、室温まで冷却しメンブレンフィルターで吸引ろ過した。このろ液をガスクロマトグラフで分析した結果、1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサンは完全に転化していた。生成物のGC−MSを測定した結果、単一成分でありm/e142に分子イオンピークが確認された。トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンの収率は74%であり、トランス体原料をベースとする収率は91%であった。
実施例2
8N水酸化ナトリウム水溶液を3.5ml(28mol、シス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対する量:3.0モル)用いたこと以外、実施例1と同様にイミド化および分解反応を行い、トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンを得た。トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンの収率は69%であった。なお、トランス体原料をベースとする収率は84%であった。シス体の生成は認められなかった。
実施例3
8N水酸化ナトリウム水溶液を4.1ml(33mmol、シス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対する量:3.5モル)用いたこと以外、実施例1と同様にイミド化および分解反応を行い、トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンを得た。トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンの収率は66%であった。なお、トランス体原料をベースとする収率は81%であった。シス体の生成は認められなかった。
実施例4
8N水酸化ナトリウム水溶液を1.4ml(11mmol、シス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対する量:1.2モル)用いたこと以外、実施例1と同様にイミド化および分解反応を行い、トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンを得た。トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンの収率は65%であった。なお、トランス体原料をベースとする収率は80%であった。シス体の生成は認められなかった。
比較例1
フタルイミドカリウムを32g(0.170mol)用い、水酸化ナトリウムを用いなかったこと以外、実施例1と同様にイミド化および分解反応を行い、トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンを得た。トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンの収率は70%であった。なお、トランス体原料をベースとする収率は86%であった。シス体の生成は認められなかった。高いトランス体収率が得られたが、実施例1と比較し、多量のフタルイミドカリウムを必要とした。
比較例2
8N水酸化ナトリウム水溶液を加えなかったこと以外、実施例1と同様にイミド化および分解反応を行い、トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンを得た。トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンの収率は49%であった。なお、トランス体原料をベースとする収率は60%であった。シス体の生成は認められなかった。
合成例2
(環内に二重結合を有する環状ジハライドの合成)
トランス体:シス体=95:5の1,4−ジクロロ−2−ブテンを用いたこと以外、合成例1と同様にDieles−Alder反応等を行い、純度92重量%の1,2−ビス(クロロメチル)4−シクロヘキセンを14gの無色溶液として得た。得られた1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセンは、トランス体:シス体=90:10であった。
(環構造がすべて単結合からなる環状脂肪族ジハライドの合成)
上記で得られた1,2−ビス(クロロメチル)4−シクロヘキセン14gを用い、合成例1と同様に水素化反応等を行った。1,2−ビス(クロロメチル)4−シクロヘキセンは完全に転化し、1,2−ビス(クロロメチル)シクロヘキサン(トランス体:シス体=90:10)の選択率は96%であった。
実施例5
合成例1により得られた1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサンの代わりに、合成例2により得られた1,2−ビス(クロロメチル)−4−シクロヘキセン10gを用いた以外は、実施例1と同様にイミド化および分解反応を行い、トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−4−シクロヘキセンを得た。トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−4−シクロヘキセンの収率は81%であった。なお。トランス体原料をベースとした収率は90%であった。シス体の生成は認められなかった。
実施例6
合成例1により得られた1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサンの代わりに、合成例2により得られた1,2−ビス(クロロメチル)−シクロヘキサン10gを用いた以外は、実施例1と同様にイミド化および分解反応を行い、トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンを得た。トランス−トランス−1,2−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサンの収率は82%であった。なお。トランス体原料をベースとした収率は91%であった。シス体の生成は認められなかった。

Claims (7)

  1. 下記一般式(1)で示されるトランス体構造及びシス体構造からなるジハロゲン化物を、イミド化合物でイミド化し、次いで分解反応する下記一般式(2)で表されるトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法であって、イミド化時にシス体構造を有するジハロゲン化物1モルに対して塩基性化合物1〜5モルを用いることを特徴とする一般式(2)で表されるトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法。
    Figure 0005471362
    (式中、点線は単結合又は二重結合を示し、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
    Figure 0005471362
    (式中、点線は単結合又は二重結合を表す。)
  2. 上記一般式(1)で示されるジハロゲン化物が、下記一般式(3)で示されるトランス体構造を有するジハロゲン化物と下記一般式(4)で表されるシス体構造を有するジハロゲン化物の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法。
    Figure 0005471362
    (式中、点線は単結合又は二重結合を示し、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
    Figure 0005471362
    (式中、点線は単結合又は二重結合を示し、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
  3. トランス体構造を有するジハロゲン化物とシス体構造を有するジハロゲン化物の比が99:1〜30:70であることを特徴とする請求項1又は2に記載のトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法。
  4. 上記一般式(1)におけるXがともに塩素原子であることを特徴とする請求項1又は3に記載のトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法。
  5. 上記一般式(3)、(4)におけるX、Xのそれぞれがともに塩素原子であることを特徴とする請求項2又は3に記載のトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法。
  6. 塩基性化合物が、アルカリ金属水酸化物類であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載のトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法。
  7. 分解反応が、ヒドラジンによる分解反応であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載のトランス体構造を有する環状脂肪族ジアミンの製造法。
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