JP5470614B2 - 弱酸性条件で増殖・油脂分解可能なリパーゼ分泌微生物による油脂含有排水の処理方法とグリーストラップ浄化方法及び油脂分解剤 - Google Patents
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しかしながら、外食産業の厨房排水は通常1g/L以上、高いときは10g/L以上もの高濃度の油脂を含んでいるだけでなく、多くのグリーストラップ内の排水の滞留時間は10分程度と極めて短い。そのため、グリーストラップ内だけで油を処理することは困難であり、これまでのところ、多くの自治体が設定している排出目標であるノルマルヘキサン値30mg/Lを、グリーストラップ内の処理だけで常時達成できる油脂分解微生物は報告されていない。
実際に先に例示した特許文献3から5は、フラスコまたは水槽を用いた実証例しか示していない。また、特許文献2および6では、グリーストラップの外に油脂分解槽を設けており、その中で分解処理している。さらにこれらの実施例においては、30から300mg/Lという、通常の排水よりずっと低濃度の油脂を分解した実施例しか示されていない。特許文献1では、グリーストラップ内で処理した実施例が示されているが、連続運転の結果が示されておらず、また、前述の排出目標値よりも一桁高い値までしか処理されていない結果が示されている。したがって、グリーストラップ内だけで油を処理するには、微生物による分解効率をさらに向上させる必要がある。
また、市販微生物製剤の多くは、実験室レベルの培養では油脂分解に効果的であるが、グリーストラップ槽内に投入しても期待した油脂分解効果を示さない。よって、実際のグリーストラップ内においても高い増殖能力と油脂分解能力を示す微生物を開発する必要がある。
そのために、本発明は、弱酸性の条件でも油脂を分解して増殖可能なリパーゼ分泌微生物により油脂を分解する油脂含有排水処理方法を特徴とする(請求項1)。さらに、請求項1に記載の油脂含有排水処理方法において、リパーゼ分泌微生物がバークホルデリア アルボリス(Burkholderia arboris)であることを特徴とする(請求項2)。さらに、バークホルデリアアルボリス(Burkholderia arboris)SL1B1株(受託番号NITE P-724)により油脂を分解する油脂含有排水処理方法を特徴とする(請求項3)。また、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の油脂含有排水の処理方法により、グリーストラップに蓄積した油分をトラップ槽内で除去し、グリーストラップを浄化する方法を特徴とする(請求項4)。
また、弱酸性の条件でも油脂を分解して増殖可能なリパーゼ分泌微生物を含む油脂分解剤を特徴とする(請求項5)。さらに、請求項5に記載の油脂分解剤において、リパーゼ分泌微生物がバークホルデリア アルボリスであることを特徴とする(請求項6)。さらに、バークホルデリアアルボリス(Burkholderia arboris)SL1B1株(受託番号NITE P-724)を含む油脂分解剤を特徴とする(請求項7)。
本発明による上記の方法と油脂除去剤を利用すれば、高濃度の油脂を含む厨房排水を処理する施設であるグリーストラップ内で油を分解処理して浄化することも可能である。
本発明で用いる微生物は、弱酸性の条件でも増殖・油脂分解可能なリパーゼ分泌微生物である。そのような微生物は、油脂を唯一の炭素源として含みかつpHを6に調整した無機塩寒天培地上で単離可能である。また、リパーゼ分泌微生物は、上記寒天培地上に生じたコロニー周辺にクリアゾーン(ハロー)を形成するので判別可能である。実際にこれらの方法により、弱酸性の条件下でもリパーゼを分泌して油脂を分解し増殖する能力が高い微生物としてSL1B1株を単離した。16SリボゾームDNAの塩基配列の決定及び系統解析によって、この微生物はバークホルデリア アルボリスと同定され、平成21年3月17日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領された。受領番号はNITE AP-724である。
弱酸性の条件でもリパーゼを分泌して油脂を分解し増殖する微生物としては、真性細菌、酵母、糸状真菌類が例示される。これらのうち好ましくは真性細菌と酵母、さらに好ましくはグラム陽性細菌、プロテオバクテリアがよい。またグラム陽性細菌の中ではバチルス属細菌が特によい。プロテオバクテリアの中ではアルファバクテリア、ベータバクテリア、ガンマバクテリアがさらに好ましい。さらにこの中でも、バークホルデリア属細菌、アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、アルカリゲネス(Alcaligenes)属細菌、ロドバクター(Rhodobacter)属細菌、ラルストニア(Ralstonia)属細菌、アシドボラックス(Acidovorax)属細菌は、前述のグラム陽性細菌に属するバチルス属細菌と並んで、特に好ましい。さらにこれら真性細菌の属の中ではバークホルデリア属細菌が最も好ましい。バークホルデリア属細菌の中では、バークホルデリア アルボリスが最も好ましい。その実例として、前述のバークホルデリア アルボリスSL1B1株を挙げることができる。
微生物のリパーゼ分泌能力については、微生物培養液の遠心分離によって得られる培養上清のリパーゼ活性を測定することにより評価することができる。リパーゼ活性は、パルミチン酸と4−ニトロフェノールとのエステルである4−ニトロフェニルパルミテート(4−NPP)を基質として用いて酵素反応を行い、エステルの加水分解により生じたp−ニトロフェノールの量を410nmの吸光度を測定することによって決定できる。まず、4−NPP(18.9mg)を3%(v/v)トリトンX―100(12ml)に加え、70℃で溶解して基質溶液とする。基質溶液1mL、イオン交換水0.9mLおよび150mM GTA緩衝液(150mM 3,3−dimethylglutaric acid,150mM Tris,および150mM 2−amino−2−methyl−1,3−propanediolにNaOHまたはHClを加えてpH6に調製)1mLをセルに入れ、28℃で5分間保温する。これに培養上清を0.1mL添加して、攪拌しながら410nmの値を測定する。リパーゼ活性は、1μモルの4−ニトロフェノールを生産する酵素量を1ユニット(U)と定義して活性測定を行い、培養上清1mL当たりのユニットを算出する。
微生物の油脂と脂肪酸の分解・消費能力は、培地中に残存する油脂に含まれる脂肪酸および加水分解により生じた遊離脂肪酸をガスクロマトグラフィーで定量することにより評価できる。具体的な定量手順を示すと、まず、培養上清1mLを塩酸により酸性にし、2mLのクロロホルムを加える。2分間攪拌後遠心し、クロロホルム層1mLを別容器に移して溶媒を蒸発させて濃縮する。メタノリシス溶液(メタノール:硫酸=17:3)を2mL加えて100℃で2時間加熱し、油脂および遊離脂肪酸をメチルエステル化させる。その後、クロロホルム2mL、純水1mLを加えて攪拌の後、クロロホルム層をガスクロマトグラフィーで分析し、脂肪酸のメチルエステルを定量する。
微生物の増殖能力を調べる方法としては、菌体の光学密度として660nmの吸光度(濁度)(OD660)を測定する方法や、コロニーフォーミングユニット(CFU)を測定する方法などがある。後者では、寒天培地上に培養液の原液および希釈液を一定量塗り拡げ、静置培養により形成されたコロニーを計数する。
微生物および油脂分解剤としては、液体の形状でも固体の形状でもよい。液体形状のものとしては、微生物の培養液そのもの、微生物を遠心分離などにより集菌したものを水などに再度分散させたものなどが例示される。固体形状のものは、例えば培養菌体を凍結乾燥することによって得ることができ、粉末、顆粒、錠剤などにできる。また、微生物を各種担体に固定化してもよい。
油脂分解剤は、例えばバークホルデリア アルボリスSL1B1株のような弱酸性条件で増殖・油脂分解可能なリパーゼ分泌微生物を少なくとも一種類含んでいれば、それ以上の種類の微生物や、微生物の活性を高めたり、長期間維持したりするための物質を含んでいても構わない。
本発明による油脂の分解技術および油脂分解剤は、グリーストラップはもちろん、油脂を含有するあらゆる排水の処理に適用可能である。また、グリーストラップに適用する際は、別に分解処理槽を設けてもよいが、油脂分解剤や微生物を直接グリーストラップに投入してグリーストラップ内で分解処理することもできる。
OD660の測定結果を、図1(比較例1)および図2(実施例1)に記載した。比較例1の市販微生物は、pH7では増殖できるがpH6では増殖できないことがわかる。それに対し、実施例1に示したバークホルデリア アルボリスSL1B1株は、pH7ではもちろんpH6でも良好に増殖できることが明らかである。
実施例2として、5Lファーメンターを用いて、10g/Lのキャノーラ油を含む無機塩培地(3L)にリパーゼ分泌細菌バークホルデリア アルボリスSL1B1株を植菌し、28℃、pH6に制御して攪拌培養した。経時的に培地を採取し、CFU、油脂に含まれる脂肪酸と遊離の脂肪酸を合わせた全脂肪酸量、アンモニウムイオン濃度、およびリパーゼ活性を測定した。その結果を図3に示す。pH6の条件でもバークホルデリア アルボリスSL1B1株は窒素源であるアンモニウムイオン(三角印)を消費し、CFU(ダイヤモンド印)の増加に示されるとおり、盛んに増殖することが改めて示された。また、pH6でもリパーゼを分泌することがリパーゼ活性(白丸印)の測定によって明確に示され、実際に全脂肪酸量(黒丸印)は低下し、40時間以内に完全に分解された。すなわち、10g/L分の油が完全に除去された。
バークホルデリア アルボリスSL1B1株を含む油脂除去剤を実際にグリーストラップに投与する実験を実施した。グリーストラップは大学生協の設備を使用し、その構成については従来公知のものと同様なので詳しい説明は省略するが、概略を述べると、板で仕切った3槽から成り、各槽間は下部でつながっている。排水は第1槽へ流入し、下部の開放部を通じて第2槽、さらには第3槽へと流れ、最終的に第3槽から流出する。内容量は200Lであり、排水の平均滞留時間は12分である。油脂除去剤の投与は、生協食堂厨房からの排水の流入・流出が夜間に止まった直後に実施し、ノルマルヘキサン値測定のための採水は、油脂除去剤の添加前と、翌朝に排水の流入・流出が再び始まる直前に行った。400mLの油脂除去剤を毎晩、第1槽に投入した。
Claims (3)
- バークホルデリアアルボリス(Burkholderia arboris)SL1B1株(受託番号NITE P-724)により油脂を分解することを特徴とする油脂含有排水処理方法。
- 請求項1に記載の油脂含有排水の処理方法により、グリーストラップに蓄積した油分をトラップ槽内で除去することを特徴とするグリーストラップ浄化方法。
- バークホルデリアアルボリス(Burkholderia arboris)SL1B1株(受託番号NITE P-724)を含む油脂分解剤。
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