JP5466136B2 - 燃料電池用セパレータとその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、燃料電池セルを構成するセパレータとその製造方法に関するものである。
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の各電極触媒層(電極触媒)とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を成し、各電極触媒層の外側にガス流れの促進と集電効率を高めるためのガス拡散層(GDL)が設けられて電極体(MEGA:MEAとGDLの接合体)を成し、このガス拡散層の外側にセパレータが配されて燃料電池セルが形成されている。このセパレータは、各燃料電池セルを画成するとともにその溝流路にてガスや冷却媒体を流す作用を奏するものであるが、このガス流路層をセパレータから分離してなる、いわゆるフラットタイプのセパレータも開発途上にある。燃料電池スタックは、所要電力に応じた基数の燃料電池セルをスタックすることによって形成されている。
上記する燃料電池では、アノード電極に燃料ガスとして水素ガス等が提供され、カソード電極には酸化剤ガスとして酸素や空気が提供され、各電極では、固有のガス流路層(エキスパンドメタルや金属発泡焼結体等)もしくはセパレータを介して面内方向にガスが流れ、次いでガス拡散層にて拡散されたガスが電極触媒層に導かれて電気化学反応がおこなわれるものである。
セパレータに関してより詳細に説明すれば、その一方側にガスを流す溝流路が直線形状や蛇行形状で形成され、その他方側には冷却媒体を流す溝流路が形成されており、たとえば膜電極接合体側(ガス拡散層側)に対向するセパレータ側面の溝流路を面内方向に酸化剤ガスや燃料ガスが流れ、その面内方向流れの過程でガス拡散層へガスが提供され、ガス拡散層を介して膜電極接合体にガスが拡散供給されるようになっている。
また、上記するフラットタイプのセパレータに関しては、2枚のプレート(カソード側プレートとアノード側プレート)の間に流路が形成されたプレート(中間層、中間プレート)が介層された3層構造のものや、中間層をメタル製や樹脂製の枠材とし、2枚のプレートの一方から多数のディンプルや流路を画成するリブを突出させて冷却媒体流路を形成するものなどがあり(このような構造も3層構造のセパレータに含めることができる)、当該セル自体のアノード側もしくはカソード側のいずれか一方のセパレータであると同時に、燃料電池セルの積層姿勢において隣接するセルのアノード側もしくはカソード側の他方のセパレータとなるものである。
このように、セパレータには溝流路が形成された形態のものや3層構造の形態のものなどが存在しているが、いずれの形態であっても、燃料電池スタックを構成する各燃料電池セルのセパレータにはセルモニタの端子(セルモニタ端子)がその周縁の端子取り付け部に取り付けられている。このセルモニタ端子は、運転中の燃料電池セルの発電状況を監視し、その出力制御をおこなうだけでなく、異常な燃料電池セルの監視をおこなうことで車両乗員の安全確保とメンテナンスが必要であることを知らせるという極めて重要な役割を担っている。
この端子取り付け部においては、セルモニタ端子へ発電電気を良好に、かつ長期に亘って通電させる必要があることから、優れた導電性と高い耐久性が要求されており、これまでは一般に、これらの作用を奏し得る金メッキ処理がセパレータの端子取り付け部に施されている。
しかし、金メッキ処理されてできた被膜は端子取り付け部の良好な導電性を担保することはできるものの、被膜自体は比較的柔らかいものであることから、経年劣化しても所望の厚みを確保できるように予め大き目にその厚みが設定されているのが現状であり、たとえば数μm程度もの厚みの金メッキ処理層がセパレータの端子取り付け部に形成されている。
したがって、導電性を有し、かつ経年劣化し難いものであって、しかも現状の金メッキ処理層のように厚みが厚くならない素材からなる被膜を端子取り付け部に形成できる技術の開発が望まれている。なお、端子取り付け部を対象とするものではないが、燃料電池用セパレータの溝流路の凸部に上記する金メッキ処理が施された技術が特許文献1に開示されている。
ところで、セパレータには、電気化学反応によって生じた電気を集電するとともに積層姿勢で隣接する燃料電池セル同士の電気コネクターとしての良好な導電性やガスに対する気密性のほか、強酸性を示す電解質に対する耐食性などが要求されている。
このような性能を保証するべく、セパレータの形成素材としてグラファイトが用いられることが多い。しかし、グラファイトプレートは比較的割れ易いことから、たとえばグラファイトプレートに曲げ加工やプレス加工等を施して溝流路を形成する場合に様々な加工時の調整を要し、製造効率性や製造歩留まりに課題を有していることは否定できない。このグラファイトに代わり、チタンやステンレス、アルミニウム、マグネシウムといったメタル材料は、導電性に加えて加工性にも優れていることからセパレータ形成用の素材として適用可能であるものの、これらメタル材料は不働態化し易いために燃料電池の内部抵抗を増大させて電圧降下を引き起こし得るといった別の課題を有している。そこで、メタル材料の有する上記メリットを享受しながらこれが有する上記課題を解消するべく、メタル製のセパレータの表面に、導電性を有する非晶質炭素被膜を形成してなるセパレータが現在開発されている。
炭素材料には、ダイヤモンドやダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラファイト、カーボンナノチューブといった多様な種類のものが知られているが、その中でも、非晶質(アモルファス状)な炭素材料(非晶質炭素であるダイヤモンドライクカーボン等)は、高い機械強度と優れた化学安定性を有する素材である。
この非晶質炭素からなる被膜をメタル製のセパレータの両側面に形成することにより、より具体的には、メタル製のセパレータの両側面であって燃料電池セルの発電部に対応する発電領域に形成することにより、加工性に優れ、良好な導電性を備え、さらには、内部抵抗の増大が抑制されたセパレータを得ることができる。なお、このようにセパレータの表面に非晶質炭素被膜を形成する技術が特許文献2に開示されている。この特許文献においては、非晶質炭素被膜の膜厚に関する記載もあり、1nm〜20μmの範囲(好ましくは10nm〜10μm)の膜厚を適用するのがよいとの記載がある。
特開2001−345109号公報 特開2008−4540号公報
特許文献2に開示される燃料電池用セパレータによれば、当該セパレータの表面に非晶質炭素被膜が形成されていることから、優れた加工性と良好な導電性、さらには内部抵抗の増大が抑制されたセパレータを得ることができる。しかし、特許文献2には、セパレータの端子取り付け部における金メッキ処理に代わる新規な技術思想の開示がなく、したがって、数μm程度にも及ぶ金メッキ被膜の厚み低減を図ることは難しい。
また、当該文献で規定する非晶質炭素被膜の膜厚の範囲(1nm〜20μm)に関し、本発明者等の検証によれば、ここで規定される膜厚範囲は極めて厚過ぎる範囲を包含しているとの指摘がなされており、被膜の形成可能性や耐久性等の観点からより最適な膜厚範囲を特定する必要がある。
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、セパレータの端子取り付け部に形成されている従来の金メッキ処理層に比して格段に薄い導電性被膜を備えることに加えて、導電性被膜の形成そのものを担保しつつ耐久性の高い導電性被膜をその表面の適所に備えているメタル製のセパレータと、このセパレータを効率的に製造することのできる製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明による燃料電池用セパレータは、燃料電池に適用されるメタル製のセパレータであって、前記セパレータは、燃料電池セルの発電部に対応する発電領域と、発電部の周囲の非発電部に対応する非発電領域を有し、発電領域に第1の非晶質炭素被膜が形成され、非発電領域においてセルモニタ端子が取り付けられる端子取り付け部に第2の非晶質炭素被膜が形成されており、前記第1、第2の非晶質炭素被膜が同じ素材からなり、かつ同じ厚みを有しているものである。
本発明の燃料電池用セパレータは、チタンやステンレス、アルミニウム、マグネシウムといったメタル製のセパレータであり、かつ、燃料電池セルの発電部に対応する発電領域に非晶質炭素被膜を有し、さらに、発電部の周囲の非発電部に対応する非発電領域においてセルモニタ端子が取り付けられる端子取り付け部にも同様に同素材の非晶質炭素被膜を有するものであり、これら2つの非晶質炭素被膜が同じ厚みを有しているセパレータである。
ここで、第1の非晶質炭素被膜はセパレータの両側面の各発電領域に形成されるものであり、セパレータの両側面に形成されることにより、当該セパレータが構成部材となっている燃料電池セルで生じた電気を集電しながら、これを隣接する燃料電池セルのセパレータに通電することが可能となる。
一方、セルモニタ端子が取り付けられる端子取り付け部に形成される第2の非晶質炭素被膜は、セパレータの両側面に形成されるものであってもよいし、一側面にのみ形成されるものであってもよい。たとえばセルモニタ端子がクリップ状の形態でセパレータの端に設けられた端子取り付け部を挟み込む場合では、セパレータの両側面に第2の非晶質炭素被膜が形成されているのがよいし、セパレータの一側面に貼着される形態のセルモニタ端子の場合にはセパレータの一側面にのみ第2の非晶質炭素被膜が形成されていればよい。
端子取り付け部が導電性を有し、かつ金に比して格段に硬質な非晶質炭素被膜(第2の非晶質炭素被膜)から形成されていることにより、被膜の厚みを格段に薄くできることに加えて、材料コストの低減を図ることもできる。
また、メタル製のセパレータの発電領域において同素材の非晶質炭素被膜(第1の非晶質炭素被膜)が形成されていることから、良好な導電性と優れた加工性を備えたセパレータとなる。
さらに、第1、第2の非晶質炭素被膜の厚みが同じであることから、その製造効率性も高い。ここで、双方の非晶質炭素被膜の厚みはともに1nm〜230nmの範囲で規定されるのが好ましく、膜厚をこの数値範囲に規定することにより、被膜の形成そのものを担保しつつ耐久性の高い非晶質炭素被膜となる。
本発明者等によれば、1nm未満の厚みの非晶質炭素被膜は製造が極めて困難であり、形成された被膜が層状の膜を形成し難いことに加えて、その強度も著しく低くなってしまうとの知見が得られており、この知見に基づいて当該下限値が規定されている。
一方、セパレータの発電領域においては被膜の厚みと耐久性に相関があることが本発明者等によって見出されており、230nmを超えると剥離が生じ易くなって耐久性が低下するとの知見が得られており、この知見に基づいて当該上限値が規定されている。
なお、本発明のセパレータは既述するように、メタルプレートに溝流路が加工されたセパレータといわゆる3層構造のフラットタイプのセパレータの双方をその対象とするものであり、3層構造のセパレータの場合には、その両側2枚のメタルプレートがともに両側面の発電領域に第1の非晶質炭素被膜を有し、そのいずれか一方のメタルプレートがその端子取り付け部に第2の非晶質炭素被膜を有するものである。
また、本発明による燃料電池用セパレータの好ましい実施の形態において、前記非晶質炭素被膜は、sp混成軌道を有する炭素が70at%以上で100at%未満であり、水素が30at%以下で0at%より大きな範囲の炭素および水素の組成を有するものである。
炭素原子においては、化学結合における原子軌道の違いによってsp混成軌道をもつ炭素、sp混成軌道をもつ炭素およびsp混成軌道をもつ炭素の3種類が存在する。このうち、グラファイトはsp混成軌道をもつ炭素のみから形成されており、σ結合とπ結合を形成して高い導電性を示すものである。
ここで、「sp混成軌道を有する炭素が70at%以上」は、良好な導電性を保証できる炭素量の下限値であり、本発明者等の検証によるものである。さらに、水素元素は少なくてよいものの少なからず存在していることを要し、したがって水素元素を「0at%より大きな範囲」としたことに連関して「sp混成軌道を有する炭素が100at%未満」となっている。
さらに、本発明は燃料電池用セパレータの製造方法にも及ぶものであり、燃料電池に適用されるメタル製のセパレータの製造方法であって、燃料電池セルの発電部に対応する発電領域と、発電部の周囲の非発電部に対応する非発電領域を有し、非発電領域においてセルモニタ端子が取り付けられる端子取り付け部を備えたセパレータを用意する第1の工程、前記発電領域と前記端子取り付け部に対応する箇所に開口を備えたマスクをセパレータの側面に配し、ドライプロセスにて同じ厚みの非晶質炭素被膜をそれぞれの開口内に一度に形成して燃料電池用セパレータを製造する第2の工程からなるものである。
本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、既述する本発明の燃料電池用のセパレータを製造する方法に関するものであり、セパレータの発電領域に形成される第1の非晶質炭素被膜と端子取り付け部に形成される第2の非晶質炭素被膜を一度に(一気に)形成することにより、双方を別々に形成する製造方法に比して工程削減と製造効率の向上を図ることのできるものである。
具体的には、セパレータ表面における第1、第2の非晶質炭素被膜形成箇所に開口を有するマスクを配した状態でドライプロセスを経ることにより、双方とも同じ厚みの非晶質炭素被膜を形成することができる。なお、セパレータの両側面に少なくとも第1の非晶質炭素被膜を形成する必要があることから、第1、第2の非晶質炭素被膜をセパレータの両側面に形成する場合においては、セパレータの両側面にマスキングをおこない、ドライプロセスを経て第1、第2の非晶質炭素被膜をその両側面に一気に形成したり、一方面にマスキングをおこなってドライプロセスを経て第1、第2の非晶質炭素被膜を形成した後に、裏返して、セパレータの他方面に同様の方法で第1、第2の非晶質炭素被膜を形成することになる。また、本製造方法においても、第2の工程において、発電領域と端子取り付け部に対応する箇所に1nm〜230nmの範囲の厚みの非晶質炭素被膜を形成するのが好ましい。
ここで、「ドライプロセス」とは、電解メッキ法や塗装、ゾルゲル法といったウェットプロセス以外の、ドライ(乾式)メッキ法の全般を示称するものであり、より具体的には、PVD法、CVD法、溶射法、ライニング法などを包含するものである。このうち、PVD法には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビーム法などがあり、CVD法には、プラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法などがあり、これらのいずれを適用してもよい。
上記する本発明の燃料電池用セパレータの製造方法によれば、メタル製のセパレータの側面に対して、その発電領域と端子取り付け部に同じ厚みの第1、第2の非晶質炭素被膜をドライプロセスを経て一度に形成することから、導電性の高いセパレータを高い製造効率のもとで製造することができる。
以上の説明から理解できるように、本発明の燃料電池用セパレータによれば、メタル製セパレータの端子取り付け部において、金メッキ処理の場合に比して格段に薄い導電性被膜を有することに加えて、導電性被膜の形成そのものを担保しながら高耐久な導電性被膜をその表面の適所に有するセパレータを提供することができる。また、本発明の燃料電池用セパレータの製造方法によれば、セパレータの側面に対して、その発電領域と端子取り付け部に同じ厚みの第1、第2の非晶質炭素被膜をドライプロセスを経て一度に形成することができ、セパレータの製造効率の向上を図ることができる。また、このことと、金メッキ処理の場合に比して材料コストを低減できることが相俟って、従来の製造方法に比して製造コストを大幅に削減することができる。
本発明のセパレータを備えた燃料電池セルの一実施の形態の縦断面図である。 セパレータを構成するメタルプレートであって、非晶質炭素被膜が形成される前の面材の平面図である。 (a)は非晶質炭素被膜が形成されたセパレータの平面図であり、(b)は(a)のb−b矢視図であり、(c)は(a)のc−c矢視図である。 (a)はメタルプレートの表面にマスキングをおこなう前の状態を説明した斜視図であり、(b)はメタルプレートがマスキングされた状態を説明した斜視図である。 ドライプロセスとしてプラズマCVD法にてメタルプレートの適所に非晶質炭素被膜を形成している状態を説明した図である。 非晶質炭素被膜の膜厚と接触抵抗の関係を示すグラフである。 非晶質炭素被膜中のsp混成軌道を有する炭素の含有率と非晶質炭素被膜の体積抵抗の関係を示すグラフである。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は、3層構造のフラットタイプセパレータを構成する1枚のメタルプレートの両側面に第1、第2の非晶質炭素被膜を形成するセパレータの製造方法と、この製造方法によって得られるセパレータを示すものであるが、溝流路が加工された一般のセパレータの両側面に第1、第2の非晶質炭素被膜を形成するセパレータの製造方法やこれによってできるセパレータであってもよいことは勿論のことである。
本発明のセパレータとその製造方法を説明するに当たり、図1を参照して本発明のセパレータを備えた燃料電池セルの一実施の形態の構造を概説する。
図示する燃料電池セル100は、イオン交換膜である電解質膜とカソード側およびアノード側の電極触媒層とからなる膜電極接合体1と、これを挟持するカソード側およびアノード側のガス拡散層2,2と(膜電極接合体1とガス拡散層2,2とから電極体3が構成される)、この電極体3を挟持するカソード側およびアノード側のガス流路層4,4と、このガス流路層4,4を挟持する3層構造のセパレータ7,7と、からなり、その周縁にたとえばゴム等の樹脂製のガスケット5が一体に形成されてその全体が大略構成されている。なお、3層構造のセパレータでなく、溝流路を備えたセパレータを適用する場合にはガス流路層は不要となる。
膜電極接合体1を構成する電解質膜は、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどからなり、電極触媒層は白金やその合金からなる触媒をカーボン等に担持させた多孔質素材からなる。ガス拡散層2は、カーボンペーパーやカーボンクロスなどのガス透過性の素材から形成され、ガス流路層4は、その集電部が多孔質のエキスパンドメタルや金属発泡焼結体からなり、ガスケット5は、膜電極接合体3を成形型内に収容し、所望の樹脂を成形型内に射出するインサート成形にて形成することができる。
3層構造のセパレータ7は、積層姿勢で不図示の隣接する燃料電池セルとの間でセル間を画成するメタルプレート73と、これに対向する電極体3側のメタルプレート71と、これらメタルプレート71,73間に介層され、メタルプレート71,73の外周輪郭に沿う枠状(無端状)で枠内に冷却媒体流通用の溝条が形成されたメタル製のスペーサ72と、から構成されている。
ここで、図2、図3を参照して、3層構造のセパレータ7を構成し、非晶質炭素被膜を具備するメタルプレート71の構成を概説する。なお、メタルプレート73も同様の構造を呈しており、スペーサ72は枠状を呈し、その中央に冷却媒体流通用の溝が形成されているが、これ以外の構造であってもよいことは勿論のことである。
メタルプレート71は、チタンやステンレス、アルミニウム、マグネシウムのいずれか一種から形成されている。セパレータには、メタルセパレータ以外にもカーボンセパレータが存在するが、本実施の形態では、加工性に優れたメタルセパレータを適用している。そして、メタルセパレータを適用したことにより、その導電性を高めるべく、後述するように、その発電領域とセルモニタ端子が取り付けられる端子取り付け部に非晶質炭素被膜を形成するものである。
メタルプレート71では、その中央が燃料電池セル100の発電部である電極体3に対応する発電領域A1となっており、この発電領域A1の周囲が非発電領域A2となっていて、この非発電領域A2に各種マニホールド用の開口が開設されている。
具体的には、71b1が冷却水供給用マニホールドを形成する開口であり、71b2が冷却水排水用マニホールドを形成する開口であり、71a1が酸化剤ガス供給用マニホールドを形成する開口であり、71a2が酸化剤ガス排出用マニホールドを形成する開口であり、71c1が燃料ガス供給用マニホールドを形成する開口であり、71c2が燃料ガス排出用マニホールドを形成する開口であり、3層構造に一体とされた際に、燃料電池セル100の各種マニホールド6(図1参照)が形成されるようになっている。なお、ガスケット5のリブ51がセパレータ7と密着することで流体シール性が担保されている。
また、非発電領域A2には、その一部に不図示のセルモニタ端子が取り付けられる端子取り付け部A2’があり、ここにクリップ形態のセルモニタ端子が取り付けられるようになっている。
ここで、セルモニタ端子は、運転中の燃料電池セルの発電状況を監視し、その出力制御をおこない、さらには、異常な燃料電池セルの監視をおこなうことによって車両乗員の安全確保とメンテナンスが必要であることを知らせるといった作用を奏するものである。そのため、燃料電池セル100で発電された発電電気はセルモニタ端子に良好に導電されることを要し、端子取り付け部A2’には導電性に優れた非晶質炭素被膜(第2の非晶質炭素被膜8B)が図3a、図3cで示すようにメタルプレート71の両側面に形成されている。
また、メタルプレート71の両側面の発電領域A1にも、同様に導電性に優れた非晶質炭素被膜(第1の非晶質炭素被膜8A)が形成されている。これは、不図示のメタルプレート73の両側面の発電領域にも同様に形成され、これらメタルプレート71、73で挟持されるスペーサ72の発電領域にある溝流路の端面にも同様に形成されて、発電電気がセパレータ7を介して集電されるとともに、燃料電池セル100,…が積層した姿勢において隣接する燃料電池セル100,100同士の電気コネクターとして作用することができる。
ここで、図示する第1の非晶質炭素被膜8A、第2の非晶質炭素被膜8Bはともに同じ厚みを有しており、この厚みが好ましくは1nm〜230nmの範囲に調整されている。
また、第1、第2の非晶質炭素被膜8A,8Bは、sp混成軌道を有する炭素が70at%以上で100at%未満であり、水素が30at%以下で0at%より大きな範囲の炭素および水素の組成を有する被膜であるのが好ましい。
次に、図4,5を参照してセパレータ7(を構成するメタルプレート71)の製造方法を説明する。
まず、図4aで示すように、発電領域A1と非発電領域A2を有し、非発電領域A2においてセルモニタ端子が取り付けられる端子取り付け部A2’を備えた3層構造セパレータ7を構成するメタルプレート71を用意する。
このメタルプレート71に対し、図4bで示すように、発電領域A1と端子取り付け部A2’に対応する箇所に開口K1、K2を備えたマスクMをメタルプレート71の両側面に配して固定する。なお、同図は一側面にマスクMを配した状態を図示しているが、さらに、反対側の側面にも同様にマスクMが配されることになる。ここで、第1、第2の非晶質炭素被膜8A,8Bの厚みは、製膜時間やガス濃度等の製膜条件によって所望の厚みに調整される。
次に、図5で示すように、マスクMがその両面に固定されたメタルプレート71をプラズマCVD装置を構成するボックスYの内部に収容する。ここで、このボックスY内には、対向する高周波電極間(メタルプレート71側の電極と、これに対向する容器側の電極の間)にプラズマ領域P,Pが形成されるようになっており、その内部を真空引きしながら(X2方向)、原料ガスとキャリアガスがともにガス供給ノズルを介して容器Y内に提供される(X1方向)。この提供される原料ガスに関しては、所望する膜質であってかつ被膜の低抵抗化を図るべく、原料ガス中に含まれる水素成分よりも被膜中に導入される水素成分量を減らす必要がある。そこで、そのためのプロセスとして、炭化水素ガスをプラズマ中に供給し、プラズマ中で炭化水素ガスを分解させてプラズマ状態もしくはラジカル状態とし、この過程で水素原子がラジカルもしくはプラズマとして炭化水素から分離され、水素原子が離脱した炭化水素をメタルプレート上に成膜する。さらに、この水素原子の離脱量の制御方法としては、バイアス電圧を変化させたり、磁場等を利用してプラズマ密度を変化させたり、温度を変化させるといった制御方法がある。
メタルプレート71は不図示のヒータにて加熱されながら、電極間の放電中における反応によってその表面に配されたマスクMの開口K1,K2に対応する位置に第1、第2の非晶質炭素被膜8A,8Bが一度に、同じ厚みをもって形成される。
なお、このドライプロセスによる成膜方法は図示するプラズマCVD法に限定されるものではなく、それ以外のドライプロセスである熱CVD法、光CVD法のほか、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビーム法といったPVD法や、溶射法、ライニング法などを適用してもよい。
図5では、メタルプレート71の両側面に一度に第1、第2の非晶質炭素被膜8A,8Bを形成する方法を示したが、メタルプレート71の一方の側面に第1、第2の非晶質炭素被膜8A,8Bを形成し、次いで、他方の側面にも同様に第1、第2の非晶質炭素被膜8A,8Bを形成する方法であってもよい。
メタルプレート71の両側面に第1、第2の非晶質炭素被膜8A,8Bが形成されたら、メタルプレート73にも同様の方法で第1、第2の非晶質炭素被膜8A,8Bをその両側に形成し、メタルプレート71、73とスペーサ72を組み付けることによって3層構造のセパレータ7が形成される。
なお、1枚のメタルプレートから構成され、その一方面に溝流路を有する他の形態のセパレータの場合には、1枚のメタルプレートに溝流路を機械加工し、各種ガスや冷却媒体用のマニホールド開口を開設した後に、その両側面の発電領域と端子取り付け部に対応する箇所に、第1、第2の非晶質炭素被膜を図示例と同様の方法で形成すればよい。
[実施例]
本発明者等は、1枚のステンレスからなるメタルプレートに溝流路を加工してセパレータを製作し、図4,5で示す本発明の製造方法(プラズマCVD法を適用)にて、厚みが100nm程度で、水素が10atm%以下、sp混成軌道を有する炭素が90atm%以上に調整された第1、第2の非晶質炭素被膜をその発電領域と端子取り付け部に対応する箇所に成膜した。製作されたセパレータの端子取り付け部の接触抵抗は0.5mΩcmであった。
端子取り付け部に実際にセルモニタを取り付け、発電評価を実施した結果、良好に作動したことが確認されている。また、セルモニタの取り付け、取り外しを数十回おこなっても、非晶質炭素被膜に傷ができたり、非晶質炭素被膜が摩耗したり、あるいは剥がれたりするといった不具合がなかったことも確認されている。
これに対し、端子取り付けに金メッキ処理層が形成された従来構造のセパレータにおいて同様にセルモニタの取り付け、取り外しを数十回おこなった結果、金メッキ処理層に傷が入ることが確認されている。
[非晶質炭素被膜の膜厚および成分組成と導電性に関する実験とその結果]
本発明者等は、非晶質炭素被膜の膜厚を種々変化させ、それぞれの膜厚の際の接触抵抗(この接触抵抗は同部材同士で測定)を測定した。この測定結果を図6に示している。さらに、非晶質炭素被膜の成分組成に関し、sp混成軌道を有する炭素(Csp)の含有率を種々変化させ、それぞれの含有率の際の体積抵抗を測定した。この測定結果を図7に示している。
図6より、非晶質炭素被膜の膜厚の増加にともなって接触抵抗は上昇することが実証されている。また、図7より、Cspの含有率は、65〜70atm%で体積抵抗が1以下となり、それ以上の含有率では体積抵抗が低下する傾向にあることから、Cspの含有率を70atm%以上に調整することで良好な導電性が得られることが実証されている。
ここで、非晶質炭素被膜の膜厚に関し、本発明者等はさらに詳細な実験を試みている。この実験は、セパレータの発電領域と端子取り付け部のそれぞれにおいて、非晶質炭素被膜の膜厚を種々変化させてテストピースを作成し、発電領域と端子取り付け部それぞれの部位において、非晶質炭素被膜の剥離の有無を検証したものである。
以下、表1に端子取り付け部の非晶質炭素被膜の結果を、表2に発電領域の非晶質炭素被膜の結果をそれぞれ示している。
Figure 0005466136
(注記)目視による剥離状況評価である。
Figure 0005466136
表1より、非晶質炭素被膜は膜厚が厚くなるにしたがって残留応力が増加し、密着性が低下する傾向にあり、810nmまでの膜厚にて剥離が生じないことが実証されている。
また、表2より、セパレータの発電領域において、非晶質炭素被膜の膜厚と耐久性に相関が見られ、表1の傾向と同様に非晶質炭素被膜の膜厚が厚くなるにしたがって剥離し易い傾向となり、238nmまでの膜厚にて剥離が生じないことが実証されている。
これらの非晶質炭素被膜は、既述するようにドライプロセスにて一度に同じ厚みで成膜されることに鑑み、双方ともに剥離が生じない上限として230nm(238nm以下)を規定することができる。
一方、1nm未満の厚みの非晶質炭素被膜は製造が極めて困難であり、形成された被膜が層状の膜を形成し難いことに加えて、その強度も著しく低くなってしまうことが本発明者等によって特定されており、この知見に基づいて非晶質炭素被膜の膜厚の下限値は1nmに規定することができる。
このように、セパレータの発電領域と端子取り付け部の双方において、1nm〜230nmの範囲の極薄の非晶質炭素被膜が形成されることから、端子取り付け部に数μmもの厚みの金メッキ層が形成されている従来のセパレータに比して、導電性被膜の厚みを格段に薄くできることに加え、材料コストも削減することができる。
また、セパレータの発電領域と端子取り付け部の双方に一度に非晶質炭素被膜を形成することから、双方に別々に成膜をおこなう製造方法に比して製造効率を向上させることができ、上記する材料コスト削減と相俟って、従来のセパレータの製造方法の場合に比してセパレータの製造コストを格段に低減することができるものである。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
1…膜電極接合体、2…ガス拡散層、3…電極体、4,4A…ガス流路層、5…ガスケット、51…リブ、6…マニホールド、7…セパレータ、71,73…メタルプレート、72…スペーサ、8A…第1の非晶質炭素被膜、8B…第2の非晶質炭素被膜、100…燃料電池セル、A1…発電領域、A2…非発電領域、A2’… 端子取り付け部、M…マスク、K1…発電領域用開口、K2…端子取り付け部用開口、Y…ボックス、D1,D2…高周波電極、P…プラズマ領域

Claims (3)

  1. 燃料電池に適用されるメタル製のセパレータであって、
    前記セパレータは、燃料電池セルの発電部に対応する発電領域と、発電部の周囲の非発電部に対応する非発電領域を有し、発電領域に第1の非晶質炭素被膜が形成され、非発電領域においてセルモニタ端子が取り付けられる端子取り付け部に第2の非晶質炭素被膜が形成されており、
    前記第1、第2の非晶質炭素被膜が同じ素材からなり、かつ同じ厚みを有していて、該厚みが1nm〜230nmの範囲である燃料電池用セパレータ。
  2. 前記非晶質炭素被膜は、sp混成軌道を有する炭素が70at%以上で100at%未満であり、水素が30at%以下で0at%より大きな範囲の炭素および水素の組成を有する請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
  3. 燃料電池に適用されるメタル製のセパレータの製造方法であって、
    燃料電池セルの発電部に対応する発電領域と、発電部の周囲の非発電部に対応する非発電領域を有し、非発電領域においてセルモニタ端子が取り付けられる端子取り付け部を備えたセパレータを用意する第1の工程、
    前記発電領域と前記端子取り付け部に対応する箇所に開口を備えたマスクをセパレータの側面に配し、ドライプロセスにて同じ厚みで該厚みが1nm〜230nmの範囲である非晶質炭素被膜をそれぞれの開口内に一度に形成して燃料電池用セパレータを製造する第2の工程からなる燃料電池用セパレータの製造方法。
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