JP2010272490A - 燃料電池構成部品用表面処理部材ならびにその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】金属からなる基材層とその表面に配置された導電性炭素層とを有する燃料電池構成部品用表面処理部材において、その優れた導電性を十分に確保しつつ、耐食性をより一層向上させうる手段を提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材は、基材金属とその上に形成された1層以上の中間層上に形成された炭素表面処理層とを有し、該炭素表面処理層には、(a)該炭素表面処理層を構成する炭素のラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iの強度比R(以下、単に単にR、又はI/Iとも称記する)値が1.3以上であり、且つ、ラマン散乱分光分析による回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す導電性炭素層と、(b)硬さがHv1000以上もしくはI/I≦1.0に設定された構造を有する硬質炭素層が前記導電性炭素層表面上に配置されていることを特徴とする。
【選択図】図3A

Description

本発明は、燃料電池構成部品用表面処理部材、その製造方法、並びにこれを用いた燃料電池用セパレータおよび固体高分子形燃料電池に関する。
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、発電機能を発揮する複数の単セルが積層された構造を有する。当該単セルはそれぞれ、(1)高分子電解質膜(例えば、Nafion(登録商標)膜)、(2)これを挟持する一対(アノード、カソード)の触媒層(「電極触媒層」とも称される)、(3)さらにこれらを挟持する、供給ガスを分散させるための一対(アノード、カソード)のガス拡散層(GDL)、を含む膜電極接合体(MEA)を有する。そして、個々の単セルが有するMEAは、セパレータを介して隣接する単セルのMEAと電気的に接続される。このようにして単セルが積層・接続されることにより、燃料電池スタックが構成される。そして、この燃料電池スタックは、種々の用途に使用可能な発電手段として機能しうる。かような燃料電池スタックにおいて、セパレータは、上述したように、隣接する単セルどうしを電気的に接続する機能を発揮する。これに加えて、セパレータのMEAと対向する表面にはガス流路が設けられるのが通常である。当該ガス流路は、アノードおよびカソードに燃料ガスおよび酸化剤ガスをそれぞれ供給するためのガス供給手段として機能する。
PEFCの発電メカニズムを簡単に説明すると、PEFCの運転時には、単セルのアノード側に燃料ガス(例えば水素ガス)が供給され、カソード側に酸化剤ガス(例えば大気、酸素)が供給される。その結果、アノードおよびカソードのそれぞれにおいて、下記反応式で表される電気化学反応が進行し、電気が生み出される。
Figure 2010272490
導電性が要求される燃料電池用セパレータの構成材料としては、従来、金属、カーボン、または導電性樹脂などが知られている。これらのうち、カーボンセパレータや導電性樹脂セパレータでは、ガス流路形成後の強度をある程度確保すべく、厚さを比較的大きく設定する必要がある。その結果、これらのセパレータを用いた燃料電池スタックの全体の厚さも大きくなってしまう。かようなスタックの大型化は、特に小型化が求められている車載用PEFCなどにおいては、好ましくない。
一方、金属セパレータは強度が比較的大きいため、厚さを比較的小さくすることが可能である。また、導電性にも優れることから、金属セパレータを用いるとMEAとの接触抵抗を低減させうるという利点もある。その反面、金属材料では腐食(例えば、生成水や運転時に生じる電位差などに起因するもの)による導電性の低下や、これに伴うスタックの出力の低下という問題が生じる場合がある。よって、金属セパレータでは、その優れた導電性を確保しつつ、耐食性をも向上させることが求められている。
ここで、金属セパレータの基材金属の少なくとも一方の面に、グラファイト化された炭素からなる炭素層(導電性炭素膜)を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。当該文献では、不活性ガス雰囲気下において、セパレータ基板に負高電圧を印加しつつ、当該基板表面に乾式成膜法により金属材料や炭素系材料を用いて金属層やその炭化物層、更には炭素層を形成している。これにより、不活性ガスのプラスイオンがセパレータ基板に衝突しつつ炭素層が形成されることから、炭素層の内部まで確実にグラファイト化することができる、としている。また、中間層として金属層やその炭化物層を形成することで、セパレータ基板と炭素層との密着性が向上できる、としている。そしてその結果、耐食性および導電性に優れる燃料電池用セパレータが提供されうる、としている。
また、特許文献2には、金属セパレータの基材と導電性薄膜との間に基材の酸化皮膜を形成し、金属元素や半金属元素からなる中間層を形成する技術が開示されている。これにより、導電性を確保するとともに基材を構成する金属の溶解が抑制される、としている。また、中間層を形成することで、基板自身の酸化皮膜と導電性薄膜との密着性が向上できる、としている。そしてその結果、導電性および耐久性に優れた燃料電池用セパレータが提供されうる、としている。
特開2006−286457号公報 特開2004−185998号公報
従来の技術により提供される、炭素層を有する燃料電池セパレータにおいて、当該炭素層の有する結晶構造は様々である。炭素層の結晶構造が異なると、これに起因してセパレータ自体の耐食性や導電性も変動しうる。ただしいずれにしても、従来の技術により提供される燃料電池セパレータは、たとえ炭素層の配置のような表面処理が施されたものであっても、未だ十分な耐食性・導電性が確保されているとはいえない。また、特許文献2に記載の技術において、基材表面に配置される酸化皮膜はそれ自身が絶縁性の高い層である。このため、セパレータの厚さ方向の導電性が低下してしまう。
そこで本発明は、金属からなる基材層とその表面に配置された導電性炭素層とを有する燃料電池構成部品用表面処理部材において、その優れた導電性を十分に確保しつつ、耐食性をより一層向上させうる手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、基材ないし中間層上に炭素表面処理層を形成し、炭素表面処理層として導電性確保の為の導電性炭素層を形成しつつ、それとはトレードオフな硬さの確保を行う手段を設ける(硬質炭素層を形成する)ことで上記課題が解決されうることを見出した。かかる知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
かような本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材は、基材金属とその上に形成された1層以上の中間層上に形成された炭素表面処理層とを有し、該炭素表面処理層には、(a)該炭素表面処理層を構成する炭素のラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iの強度比R(以下、単に単にR、又はI/Iとも称記する)値が1.3以上であり、且つ、ラマン散乱分光分析による回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す導電性炭素層と、(b)硬さがHv1000以上もしくはI/I≦1.0に設定された構造を有する硬質炭素層が前記導電性炭素層表面上に配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、導電性炭素層(主に導電性DLC層が代表的であり、以下、導電性C層とも称記する)によって接触抵抗の確保を行う。加えて本発明では、非導電性である硬質炭素層(主に硬いDLC層が代表的であり、以下、硬質C層とも称記する)によって、比較的柔らかい導電性C層にキズが付くのを防止する。ここで、DLCとは、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond like Carbon)の略である。
本発明に係る燃料電池構成部品用表面処理部材を適用した金属セパレータを用いてなる固体高分子形燃料電池(PEFC)のセルユニットの基本構成を示す断面概略図である。 図1の固体高分子形燃料電池(PEFC)のセルユニットに用いた金属セパレータの基材金属と該基材金属上に形成された処理層の構成を模式的に示す断面概略図である。 図3Aは、図1、2の本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材の実施形態である金属セパレータの基材金属表面に形成される表面処理のための各層の構成・配置を示す部分断面図であって、表面処理のための各層に求められる機能を解説するための簡略図である。図3Aでは、最表層に適当な大きさの硬質C層34を複数適当な間隔をあけて形成し、該硬質C層34の被覆率を制御した状態(様子)を模式的に表した断面図である。 図3Bは、図1、2の本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材の実施形態である金属セパレータの基材金属表面に形成される表面処理のための各層の構成・配置を示す部分断面図であって、表面処理のための各層に求められる機能を解説するための簡略図である。図3Bでは、最表層に小面積の硬質C層34を多数(複数)適当な間隔をあけて形成し、該硬質C層34の被覆率を高めた様子を模式的に表した断面図である。 図3Cは、図1、2の本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材の実施形態である金属セパレータの基材金属表面に形成される表面処理のための各層の構成・配置を示す部分断面図であって、表面処理のための各層に求められる機能を解説するための簡略図である。図3Cでは、最表層に面積の大きな硬質C層34を形成して、該硬質C層34の被覆率を高めた様子を模式的に表した断面図である。 従来の表面処理部材の形態である金属セパレータの基材金属表面に形成される表面処理のための炭素表面処理層が単層で構成された各層の構成・配置を示す部分断面図である。図3Cでは、最表層の硬質C層34を設けることなく、導電性C層33を最表層とする構成(様子)を模式的に表した断面図である。 本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材を適用した一実施形態の燃料電池セルの集電板を含めた燃料電池(スタック)を示す概略図である。 図4の燃料電池(スタック)の斜視図である。 本発明の一実施形態の燃料電池スタックを搭載した車両の概念図である。 本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材、特に中間層、導電性C層、硬質C層の各層のいずれか少なくとも1層、好ましくはこれら各層を順にスパッタリング法(例えば、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法)を用いて成膜(形成)するための製造装置(但し、凹凸プレス前の平板型の金属セパレータに替えて、既存の円盤状のウエハをセットした例を示している)の平面概略図である。 本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材、特に中間層、導電性C層、硬質C層の各層のいずれか少なくとも1層、好ましくはこれら各層を順にアークイオンプレーティング(AIP)法を用いて成膜(形成)するための製造装置(但し、凹凸プレス前の平板型の金属セパレータに替えて、既存の円盤状のウエハをセットした例を示している)の平面概略図である。 本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材、特に基材金属上に形成した中間層上に種々の割合で導電性C層のみを配置した場合(図3D参照)の接触抵抗の変化を示す図面(グラフ)である。 本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材、特に種々の割合で導電性C層上に硬質C層を配置した場合(図の横軸は、硬質C/導電性Cと表記する)の接触抵抗の変化を示す。 本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材、特にアミル(Al)基材金属31、Cr中間層32、(導電性C層及び硬質C層=共にカーボン(C)製からなる)炭素表面処理層35の各層の厚さ方向の各構成元素濃度(mol%)を表す図面である。それと共に、図11は、各層の厚さ(表面=0nmからの深さ)を判定するためのクロスポイントを示してなる図面である。 本発明の表面処理部材(金属セパレータ5)を構成する基材金属31、中間層32、導電性C層33及び硬質C層34からなる炭素表面処理層35において、硬質C層34の被覆率(%)に厚さ(nm)の関係を示す図面である。 本発明の表面処理部材(金属セパレータ5)を構成する基材金属31、中間層32、導電性C層33及び硬質C層34からなる炭素表面処理層35において、導電性C層33の被覆率(%)と硬質C層34の成膜厚さ(nm)を変化させた図面(グラフ)を示す。 本発明の表面処理部材(金属セパレータ5)を構成する基材金属31、中間層32導電性C層33及び硬質C層34からなる炭素表面処理層35において、硬質C層の厚さ(nm)(平均値)と接触抵抗(mΩcm)の関係を示す図面である。 本発明の表面処理部材(金属セパレータ5)を構成する基材金属31、中間層32、導電性C層33及び硬質C層34からなる炭素表面処理層35において、導電性C層33及び硬質C層34などそれぞれの密着性試験結果を表す図面である。 R=1.0〜1.2の導電性C層を有する導電部材(導電部材A)の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した写真(倍率:40万倍)である。 R=1.6の導電性C層を有する導電部材(導電部材B)の断面をTEMにより観察した写真(倍率:40万倍)である。 ラマン散乱分光分析の回転異方性測定における、平均ピークの3回対称パターンを示す模式図である。 ラマン散乱分光分析の回転異方性測定における、平均ピークの2回対称パターンを示す模式図である。 ラマン散乱分光分析の回転異方性測定において、平均ピークの対称性を示さないパターンを示す模式図である。 導電部材Bを測定サンプルとして用い、当該サンプルの回転角をそれぞれ0°、60°、および180°としたときのラマンスペクトルを示すグラフである。 導電部材Bについての回転異方性測定の平均ピークを示すグラフである。 スパッタリング法で、バイアス電圧および成膜方式を変化させることにより導電性C層のビッカース硬度を異ならせたいくつかの導電部材における、導電性C層のビッカース硬度と導電性C層におけるsp3比の値との関係を示す図である。 R値が1.3以上であるものの、水素原子の含有量が異なる導電性C層を有するいくつかの導電部材について、接触抵抗を測定した結果を示すグラフである。 実施例において接触抵抗を測定するのに用いた測定装置の概要を示す模式図である。
(燃料電池構成部品用表面処理部材)
本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材(以下、単に表面処理部材ともいう)は、基材金属と、該基材金属上に形成された1層以上の中間層と、該中間層上に形成された炭素表面処理層と、を有する表面処理部材である。
更に、前記炭素表面処理層には、
(a)該炭素表面処理層を構成する炭素のラマン散乱分光分析より測定された強度比RがI/I≧1.3であり、且つ、ラマン散乱分光分析による回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す導電性DLC層と、
(b)硬さがHv1000以上もしくはI/I≦1.0に設定された構造を有する硬質C層が前記導電性C層表面上に配置されていることを特徴とするものである。
本発明の上記構成では、許容される最低限の導電性C層と、硬さを優先させた非導電性の硬質C層とが、最表面で混在するセパレータを構成し得るものである。その結果、導電性DLC層によって、接触抵抗の確保を行うと共に、非導電性である硬いDLC層によって、比較的柔らかい導電性DLC層にキズが付くのを防止することもできる。即ち基材ないし中間層上に炭素表面処理層として導電性確保の為の導電性C層を形成しつつ、それとはトレードオフな硬さの確保を行う為の硬質C層を形成することで耐食性・導電性の双方の特性を同時に満足した表面処理部材を提供し得るものである。
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1は、本発明に係る燃料電池構成部品用表面処理部材(表面処理部材)の代表的な一実施形態であるPEFCの金属セパレータを用いてなる燃料電池の基本構成、詳しくはPEFCのセルユニットの基本構成のみを模式的に示す断面概略図である。図2は、本発明に係る表面処理部材の代表的な一実施形態である、図1のPEFCも金属セパレータの基材表面に形成される表面処理のための層の概要を示す部分断面図である。図1に示す燃料電池、特に固体高分子形燃料電池では、基板金属と中間層と表面処理層(導電性炭素層と硬質炭素層)間の相互の密着性が向上でき、導電性および耐久性に優れた固体高分子形燃料電池が提供されうる。特に、基板金属との防食効果を高めることができ、アルミニウムのような腐食しやすい金属の場合でも、セパレータの基材として適用できる固体高分子形燃料電池が提供されうる。
図1に示すPEFCのセルユニット1では、固体高分子電解質膜2の両面に触媒層3(アノード用3a及びカソード用3b)を配置されている。そして、それら固体高分子電解質膜2と触媒層3(3a、3b)との積層体は、さらにこれらを挟持するように、ガス拡散層4(アノード用4a及びカソード用4b)を配置させて、膜電極接合体(MEA)9が形成されている。MEA(Membrane Electrode Assembly)9は最終的に、導電性を有する一対の金属セパレータ5(アノード用5aおよびカソード用5b)により挟持されて、PEFCの単セルユニット1を構成する。図1において、金属セパレータ(アノード用5a及びカソード用5b)は、MEA9の両面(両側)に位置するように図示されている。ただし、MEA9が複数積層されてなる燃料電池スタックでは、金属セパレータ5は、隣接するPEFC(図11、12参照)のためのセパレータ5としても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEA9は、セパレータ5を介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5b)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する(図11、12参照)。
セパレータ5(5a、5b)のMEA側から見た凸部はMEA9と接触している。これにより、MEA9との電気的な接続が確保される。また、セパレータ5(5a、5b)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路5aaには燃料ガス(例えば、水素や水素含有ガスなど)5agを流通させ、カソードセパレータ5bのガス流路5bbには酸化剤ガス(例えば、空気やO含有ガスなど)5bgを流通させる。
一方、セパレータ5(5a、5b)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)8wを流通させるための冷媒流路8とされる。さらに、セパレータ5(5a、5b)には通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
実際のPEFCでは、金属セパレータ5と固体高分子電解質膜2の端部の周囲(周縁部)の間、並びにPEFCのセルユニット1と隣り合う別のセルユニット1との間でガスシールを配置するが、本概略図では省略する。PEFCの金属セパレータ5は、本発明に係る表面処理部材の一実施形態であるPEFCの金属セパレータでも、例えば厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで、図1、2に示すような凹凸状の形状(波型)に成形し、そこに燃料ガス(水素含有ガスや空気)5ag、5bgや冷却水8wを流す。
以上のように、PEFCの金属セパレータ5は、各MEA9を直列に電気的に接続する機能に加えて、燃料ガス5agおよび酸化剤ガス5bg並びに冷媒8wといった異なる流体を流すガス流路(5aa、5bb、8)やマニホールドを備え、さらにはスタックの機械的強度を保つといった機能も有する。また、固体高分子電解質膜2には、通常、パーフルオロスルホン酸型の膜を使用することから、膜から溶出する種々の酸性イオンと電池に加湿ガスを投入することから、電池内は湿潤の弱酸性腐食環境下にある。
このため、図2に示すように、PEFCの金属セパレータ5の表面処理は、導電性だけでなく耐食性の両方が必要になる。金属セパレータ5の基材金属6上に配置される表面処理のための層7(反応面7a、冷却面7b)は、腐食条件の厳しい反応面7aに実施されることは必須であるが、反応面7aとは裏の冷却面7bにおいても冷却媒体8wの種類や環境によっても同様の処理が必要となる。
図3A〜図3Cは、図1、2の本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材の実施形態である金属セパレータの基材金属表面に形成される表面処理のための各層の構成・配置を示す部分断面図であって、表面処理のための各層に求められる機能を解説するための簡略図である。なお、図3Dは、従来の表面処理部材の形態である金属セパレータの基材金属表面に形成される表面処理のための炭素表面処理層が単層で構成された各層の構成・配置を示す部分断面図である。
本実施形態において、図3A〜図3D示すように、金属セパレータ5を構成する表面処理部材は、基材金属31(図2の符号6)と、炭素表面処理層35(図2の符号7の一部:外側部)とを有する。そして、これらの間には、中間層32(図2の符号7の一部:内側部)が介在している。ここで、図3A〜図3Dでは、基材金属31として、本実施形態ではアルミ(A1050)を用いた例を示す(図1〜図15等も同様である)。但し、基材金属31としてはステンレス(図16、図17等)、チタンなどを用いることが出来ることはいうまでもない。表面処理層35は、基材金属31の上にクロム中間層32を配置し、その上に導電性C層33として比較的柔らかい導電性のカーボン薄膜を成膜、形成する。中間層32上には導電性C層33が形成され、最表面に硬い硬質C層(硬質DLC層)34形成される。図3A〜図3Cに示すように、硬質C層(硬質DLC層)34の被覆率が小さく、導電性のカーボン薄膜(導電性C層33)が適度に(十分に)露出しているため、硬質C層(硬質DLC層)34は、非導電性であってもよい。
また本発明の表面処理部材では、(a)炭素表面処理層35を構成する炭素のラマン散乱分光分析より測定されたI/I≧1.3であり、且つ、ラマン散乱分光分析による回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す導電性C層33が中間層32表面上に配置されている。なお、導電性C層33は、中間層32の基材金属31への被覆率が100%でない場合には露出する基材金属31表面上にも配置され得る場合もある(図3A〜図3Cには図示せず)。
更に本発明の表面処理部材では、(b)硬さがHv1000以上もしくは前記I/I≦1.0に設定された構造を有する硬質C層34が前記導電性C層33の表面上に配置されていることを特徴とする。なお、硬質C層34は、導電性C層33の中間層32(若しくは基材金属31)への被覆率が100%でない場合には露出する中間層32(若しくは基材金属31)表面上にも配置され得る場合もある(図3A〜図3Cには図示せず)。なお、PEFC1において、金属セパレータ5は、導電性C層33(炭素表面処理層35)がMEA9側に位置するように、配置される(図1〜5参照)。
図3A〜図3Cに示すように、本発明に係る表面処理部材の代表的な一実施形態である燃料電池(PEFC)の金属セパレータ5の断面構成としては、セパレータ5の基材金属31の両主面(表面)に中間層32と、導電性C層(導電性DLC層)33及び硬質C層(硬いDLC層)34から構成される炭素表面処理層35が配置されている。
ここで、基材金属31に例えばSUS316Lのような耐食性に優れたステンレスを用いた場合、基材金属31自体が燃料電池内の腐食環境下に耐えられるため、防食を目的とした中間層32や炭素表面処理層35の要求はそれほど厳しくない。しかしながら、我々の試験結果から、薄肉化、低コスト化をより強く推し進めるべく、ステンレスよりも薄肉軽量化に優れるアルミニウムを基材金属31とする場合、アルミニウム自体が耐食性に乏しいため中間層31や炭素表面処理層35、なかでも炭素表面処理層35の構成(積層構造)を制御することで、上記課題(防食手段等)が解決されうることを見出したものである。
金属セパレータ5の基材金属31材料の腐食は、電池内の弱酸(酸性度)と金属セパレータ5表面電位に左右される。このためアルミニウムを金属セパレータ5の基材金属31とした場合、酸性度や電位に対する防食が必要となる。しかしながら、腐食自体は水の存在によって始めて発生するため、基材金属31のアルミニウムが水とできるだけ接することの無いような表面処理が腐食の根本を対策することとなり、その効果は非常に大きい。このため、上記中間層32や炭素表面処理層35、特に炭素表面処理層35の構成(各層構造の組み合わせ)を制御すること、即ち、中間層32表面に形成した導電性DLC層33によって、接触抵抗の確保を行う。更に該導電性DLC層33表面に形成した非導電性である硬いDLC層によって、比較的柔らかい導電性DLC層33にキズが付くのを防止することができるものである。このように許容される最低限の導電性DLC層33と、硬さを優先させた非導電性の硬いDLC層34とが、最表面で混在するセパレータ5構造とするのが、上記課題(防食手段等)を解決する上で極めて有効な手段(構成)となり得る。
以下、本発明に係る燃料電池構成部品用表面処理部材(表面処理部材)の代表的な一実施形態である燃料電池(PEFC)の金属セパレータ5の各構成要素について詳説する。
[基材金属31]
図1〜3に示すように、基材金属31は、金属セパレータ5を構成する表面処理部材の主層であり、導電性および機械的強度の確保に寄与する。
基材金属31を構成する金属について特に制限はなく、従来、金属セパレータの構成材料として用いられているものが適宜用いられうる。基材金属31の構成材料としては、例えば、鉄、チタン、およびアルミニウム並びにこれらの合金が挙げられる。これらの材料は、機械的強度、汎用性、コストパフォーマンスまたは加工容易性などの観点から好ましく用いられうる。ここで、鉄合金にはステンレスが含まれる。なかでも、基材金属31はステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されることが好ましい。ステンレスを基材金属31として用いると、ガス拡散層(GDL)4の構成材料であるガス拡散基材との接触面の導電性が十分に確保されうる。その結果、たとえリブ肩部の膜の隙間などに水分が浸入したとしても、ステンレスから構成される基材金属31自体に生じる酸化皮膜の有する耐食性により、耐久性が維持されうる。ここでGDL4は、GDL4(4a、4b)に面圧が直接かかる部分(図1、4等参照;GDL4とセパレータ5との接触部分;リブ部分)と、直接はかからない部分(図1、4等参照;GDL4とセパレータ5とが接触していない部分;流路部分)とからなる。上記リブ肩部は、上記GDL4とセパレータ5との接触部分;リブ部分の肩部(コーナー部)をさす。
なお、製造上、特定部位(リブ)だけに、または優先的に硬質C層34を形成する方法としては、(i)マスキングによる選択成膜がある。この場合、黒色マジック(油性)や油性塗料でマスキングすればよい。(ii)ターゲットとサンプルとの間にマスキング材を配置する、若しくはリブ以外の部位のセパレータ5表面に直接塗料を塗ることもできる。(III)また、スリットをおいたりするだけでもよい。
ステンレスとしては、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系などが挙げられる。オーステナイト系としては、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316(L)、SUS317、SUS310Sが挙げられる。オーステナイト・フェライト系としては、SUS329J1が挙げられる。マルテンサイト系としては、SUS403、SUS420が挙げられる。フェライト系としては、SUS405、SUS430、SUS430LXが挙げられる。析出硬化系としては、SUS630が挙げられる。なかでも、SUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレスを用いることがより好ましい。また、ステンレス中の鉄(Fe)の含有率は、好ましくは60〜84質量%であり、より好ましくは65〜72質量%である。さらに、ステンレス中のクロム(Cr)の含有率は、好ましくは16〜20質量%であり、より好ましくは16〜18質量%である。
一方、アルミニウム合金としては、純アルミニウム系、およびアルミニウム・マンガン系、アルミニウム・マグネシウム系などが挙げられる。アルミニウム合金中におけるアルミニウム以外の元素については、アルミニウム合金として一般に使用可能なものであれば特に制限されることはない。例えば、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛およびニッケルなどがアルミニウム合金に含まれうる。アルミニウム合金の具体例として、純アルミニウム系としてはA1050、A1050Pが挙げられ、アルミニウム・マンガン系としてはA3003P、A3004Pが挙げられ、アルミニウム・マグネシウム系としてはA5052P、A5083Pが挙げられる。一方で、金属セパレータ5には機械的な強度や成形性も求められるため、上記の合金種に加えて、合金の調質も適宜選択されうる。なお、基材金属31がチタンやアルミニウムの単体から構成される場合、当該チタンやアルミニウムの純度は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは97質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上である。
基材金属31の厚さは、特に限定されない。加工容易性および機械的強度、並びに金属セパレータ5自体を薄膜化することによる電池のエネルギー密度の向上等の観点より、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは80〜300μmであり、さらに好ましくは80〜200μmである。特に、構成材料としてステンレスを用いた場合の基材金属31の厚さは、好ましくは80〜150μmである。一方、構成材料としてアルミニウムを用いた場合の基材金属31の厚さは、好ましくは100〜300μmである。上記した範囲内の場合、金属セパレータ5として十分な強度を有しながらも、加工容易性に優れ、好適な薄さを達成可能である。
なお、例えば、燃料電池構成部品用表面処理部材の代表的な一実施形態であるPEFCの金属セパレータ5等の構成材料として十分な強度を提供するという観点からは、基材金属31は、ガス遮断性が高い材料から構成されることが好ましい。PEFCの金属セパレータ5はセル同士を仕切る役割を担っているため、金属セパレータ5を挟んで両側で異なるガスが流れる構成となる(図11参照)。したがって、それぞれのセルの隣り合うガスの混合やガス流量の変動をなくすという観点から、基材金属31はガス遮断性が高いほど好ましいのである。
[中間層32]
図3A〜図3Cに示すように、本実施形態において、PEFCの金属セパレータ5を構成する燃料電池構成部品用表面処理部材は、中間層32を有する。この中間層32は、基材金属31と炭素表面処理層35(特に導電性C層33)との密着性を向上させるという機能や、基材金属31からのイオンの溶出を防止するという機能を有する。特に、炭素表面処理層を構成する炭素のラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iの強度比R値が上述した好ましい範囲(I/I≧1.3)の場合に、中間層32を設けることによる効果は顕著に発現する。一方、硬質C層34では、強度比R値が上述した好ましい範囲(I/I≦1.0)の場合に、導電性C層33を設けることによる効果は顕著に発現する。ただし、導電性C層33や硬質C層34の上記強度比R(I/I)値が上述した好ましい範囲に含まれる場合であっても中間層32や導電性C層33が設けられうることは当然である。
特に優れた点は、中間層32の設置による上述した作用効果は、基材金属31がアルミニウムまたはその合金等(以下、単にアルミという)のように軽量で密着性はあるが腐蝕に弱い金属材料から構成される場合により一層顕著に発現する。なお、本発明において、1層以上の中間層32は必須であり、必ず1層の中間層32は存在する。以下、表面処理部材に1層中間層32が設けられた場合の好ましい形態について説明する(図3A〜図3C参照のこと)。
中間層32を構成する材料としては、上記の密着性を付与するものであれば特に制限はない。例えば、周期律表の第4族の金属(Ti、Zr、Nf)、第5族の金属(V、Nb、Ta)、第6族の金属(Cr、Mo、W)、並びにこれらの炭化物、窒化物および炭窒化物などが挙げられる。なかでも好ましくは、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)もしくはハフニウム(Hf)といったイオン溶出の少ない金属、またはこれらの窒化物、炭化物もしくは炭窒化物が用いられる。より好ましくは、CrもしくはTi、またはこれらの炭化物もしくは窒化物が用いられる。特に、CrもしくはTi、またはこれらの炭化物もしくは窒化物が用いる場合、中間層32の役割として、上側の導電性C層33(炭素表面処理層35)との密着性確保と、下地の基材金属31の防食効果がある。特にアルミ基材の場合、界面付近に到達した水分により腐食が進行しアルミの酸化皮膜の形成が生じる。その結果、基材金属31全体の膜厚方向の導電性が悪化する。クロム、及びチタンは不動態皮膜の形成により、露出部が存在していたとしても、それ自体の溶出はほとんど見られない点において特に有用である。なかでも、上述したイオン溶出の少ない金属(特にCrもしくはTi)、またはその炭化物もしくは窒化物を用いた場合、金属セパレータ5の耐食性を有意に向上させることができる点でも優れている。これにより、金属セパレータ5の耐食性を維持できる。以上の各金属材料の特徴を十分考慮し、必要があれば中間層32を2以上に多層化し、上側には導電性C層33との密着性に優れた基材金属31用の材料を用い、下地側には基材金属31の防食効果がある材料を組み合わせるなどして最適化を図るのが望ましい。
また、中間層32は、図3A〜図3Cに模式的に表したように、柱状結晶構造を有するのが望ましい。とりわけ中間層32の断面における柱状結晶の柱の太さ(W;図3A参照)の平均値が、200〜500nm、好ましくは300〜500nm、より好ましくは400〜500nmであることが望ましい。中間層32の断面における柱状結晶の柱の太さの平均値が、かかる範囲の太さの柱状結晶を持つことにより、柱状結晶間の隙間量が減少し、基材金属31に到達する水分の浸入を抑制することができる。これは、上側の導電性C層33と基材金属31との間に中間層32を設ける際、中間層32の柱状結晶構造を制御し、中間層32の柱状結晶の柱径(柱状径)を導電性C層33との界面まで太く(大きく)する構成とする。このことで、その上に形成される導電性C層33における隙間や欠陥を格段に低減することができるものである。
導電性C層33において200〜500nmの径を持つ突起状粒子(図示せず)が存在する場合、中間層32の柱径(W)の発達(上記に規定の範囲の大きさの柱状結晶の柱径)に起因するものである。その結果、導電性C層33に被覆されることなく最表面に露出する導電性C層33の隙間の数が減少し、水の侵入を抑制する機能を付与することができるものである。これにより、基材金属31の防食効果を高めることができ、アルミニウムのような腐食しやすい基材金属31の場合でも、金属セパレータ5の基材金属31として適用できる。
前記中間層32おいて、その断面における柱状結晶の柱の太さ(W)が、200〜500nmその太さを持つ柱状結晶が中間層32全体のうち、導電性C層33側に中間層32膜厚全体の5%以上、好ましくは5〜95%、より好ましくは20〜90%、特に好ましくは50〜90%存在しているのが望ましい。これは、中間層32の最表面における柱状結晶の太さ(W)が、出来る限り基材金属31と中間層32の界面まで維持されているのが望ましいためである。しかしながら、基材金属31上に最初に中間層32を形成する際、最初から柱(柱状結晶)を太くするためには表面に加わるエネルギーが高くなるため、密着不良をおこす場合がある。したがって、中間層32膜厚のうち基材金属31側は(柱状結晶の)柱径の太さが導電性C層33側(の柱状結晶の柱径)に比べ細い方が好ましい。これにより、基材金属31と導電性C層33の双方の密着性を確保しつつ、基材金属31の防食効果をより一層安定に維持できる。よって上記中間層32の導電性C層33側における、その断面における柱状結晶の柱の太さ(W)が、200〜500nm、好ましくは200〜400nm、より好ましくは200〜300nmであるのが望ましいといえる。また、上記太さを持つ柱状結晶構造が中間層32全体のうち、導電性C層33側に中間層32膜厚全体の5〜95%、好ましくは20〜90%、より好ましくは50〜90%存在しているのが望ましい。
次に図11は、本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材、特に基材金属31、中間層32、(導電性C層及び硬質C層からなる)炭素表面処理層35の各層の厚さ方向の各構成元素濃度(mol%)を表すと共に、各層の厚さ(表面=0nmからの深さ)を判定するためのクロスポイントを示してなる図面である。
図11より、各層の厚さを図中のクロスポイントで判定することができる。図11に示すように、中間層32の膜厚さは、特に制限されない。ただし、金属セパレータ5をより薄膜化することにより、燃料電池のスタックのサイズをできるだけ小さくするという観点からは、中間層32の膜厚さは、好ましくは0.01〜10μmであり、より好ましくは0.05〜5μmであり、さらに好ましくは0.02〜5μmであり、特に0.1〜1μmである。中間層32の厚さが0.01μm以上であれば、均一な層が形成され、基材金属31の耐食性を効果的に向上させることが可能となる。一方、中間層32の厚さが10μm以下であれば、中間層32の膜応力の上昇が抑えられ、基材金属31に対する皮膜追従性の低下やこれに伴う剥離・クラックの発生が防止されうる。
とりわけ、中間層32の膜厚が0.02〜5μmであるのが望ましい。前記中間層32が上記範囲内の膜厚を有する場合、以下の構成を有するのが更に望ましい。前記中間層の即ち、中間層32の導電性C層33側の最表面(最表層)における200〜500nmの太さを持つ柱状結晶構造の柱が、該導電性C層33側の最表面から基材金属31方向に対して、中間層32膜厚全体の5%以上の範囲で維持されているのが望ましい。ここで、中間層32の導電性C層33側の最表面における柱状結晶構造の柱は、200〜500nm、好ましきは300〜500nm、より好ましくは400〜500nmの太さを持つ柱状結晶構造の柱が望ましい。また、中間層32の導電性C層33側の最表面から基材金属31方向に対して、中間層32膜厚全体の5%以上、好ましくは20〜90%、より好ましくは50〜90%の範囲で維持されているのが望ましい。
これは、中間層32の膜厚が0.02μm(20nm)未満の場合、中間層32の柱状結晶構造が未発達であり、緻密性の維持が難しい。一方、中間層32の膜厚が5μm(好ましくは500nm)を超える場合、膜応力が増加し、基材金属31との密着性が悪化することで、クラックや剥離が生じることがある。ただし、上記したように、本発明の所期の効果を損なうことがなければ、中間層32の膜厚が10μm程度まで厚くても良い。さらに、中間層32の最表面における柱状結晶構造の柱の太さが、出来る限り基材金属31と中間層32の界面まで維持されているのが望ましい。しかしながら、基材金属31上に最初に中間層32を形成する際、最初から柱状結晶構造の柱を太くするためには表面に加わるエネルギーが高くなるため、密着不良をおこす場合がある。したがって、中間層32の膜厚のうち基材金属31は柱状結晶構造の柱径の太さが導電性C層33側の柱状結晶構造の柱径の太さに比べ細い方が好ましい。中間層32がかかる構成(立体的構造)を有することにより、基材金属31、導電性C層33との相互の密着性を強固に確保しつつ、基材金属31の防食効果をより一層安定に維持できる。
また、中間層32の、導電性C層33側の表面は、ナノレベルで粗れていることが好ましい。かような形態によれば、中間層32上に成膜される導電性C層33の、中間層32に対する密着性をより一層向上させうる。かかる要求をも満足する構成が、本発明の基材金属31と、前記基材金属31上に中間層32とが設けられ、前記中間層32上に導電性C層33及び硬質C層34からなる炭素表面処理層34が形成(被覆)されている表面処理部材であって、中間層32が柱状結晶構造を有しており、導電性C層33の最表面に突起状粒子(図示せず)が存在している構成といえる。より好ましくは基材金属31、中間層32、導電性C層33のより好適な構成(構造)などについて上記した構成を有しているものと言える。
さらに、中間層32の熱膨張率が、基材金属31を構成する金属の熱膨張率と近い値であると、中間層32と基材金属31との密着性は向上する。ただし、かような形態では中間層32と導電性C層33との密着性が低下する場合がある。同様に、中間層32の熱膨張率が導電性C層33の熱膨張率と近い値であると、中間層32と基材金属31との密着性が低下する場合がある。これらを考慮して、中間層32の熱膨張率(αmid)、基材金属31の熱膨張率(αsub)、および導電性C層33の熱膨張率を(α)は、αsub>αmid>αの関係を満足することが好ましい。
なお、中間層32は、基材金属31の両表面に存在することが望ましいが、本発明の所期の効果を損なわない適用箇所などへの利用の場合には、いずれか一方の表面上にのみ存在するようにしてもよい。ただし、導電性C層33及び硬質C層34が配置される炭素表面処理層35が基材金属31の一方の主表面にのみ存在する場合には、中間層32は、基材金属31と導電性C層33との間に存在する。また、導電性C層33は、上述したように基材金属31の両面に存在する場合もある。かような場合には、中間層32は、基材金属31と双方の導電性C層33との間にそれぞれ介在することが好ましい。基材金属31といずれか一方の導電性C層33との間にのみ中間層32が存在する場合には、当該中間層32は、PEFC1においてMEA9側に配置されることとなる導電性C層33と基材金属31との間に存在することが好ましい(図1〜5等参照)。
[炭素表面処理層35]
炭素表面処理層35は、(a)該炭素表面処理層35を構成する炭素のラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iの強度比R(I/I)が1.3以上であり、
且つ、ラマン散乱分光分析による回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す導電性C層34と、
(b)硬さがHv1000以上もしくは強度比R(I/I)≦1.0に設定された構造を有する硬質C層35が前記導電性C層34表面上に配置されていることを特徴とするものである。以下、導電性C層34と硬質C層35とに分けて詳しく説明する。
<導電性C層33>
炭素表面処理層35には、(a)該炭素表面処理層35を構成する炭素のラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iの強度比R(I/I)が1.3以上であり(強度比R(I/I)≧1.3とも略記する。)、
且つ、ラマン散乱分光分析による回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す導電性C層34が配置されていることを特徴とするものである。
具体的には、図3A〜図3Cに示すように、導電性C層34が中間層32表面上(ないし一部露出し得る基材金属31表面上を含み得る。図示せず。)に配置されていることを特徴とするものである。
ここで、導電性C層33は、導電性炭素を含む層である。この層33の存在によって、金属セパレータ5を構成する表面処理部材の導電性を確保しつつ、基材金属31のみの場合と比較して耐食性が改善されうる。
本実施形態において、導電性C層33は、ラマン散乱分光分析により測定される、Dバンドピーク強度(I)とGバンドピーク強度(I)との強度比R(I/I)により規定される。具体的には、強度比R(I/I)が1.3以上、即ち、R(I/I)≧1.3である。以下、当該構成要件について、より詳細に説明する。
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近および1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常、「Gバンド」と称される。一方、結晶性が低くなる(結晶構造欠陥が増す)につれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常、「Dバンド」と称される(なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1であり、上記Dバンドとは区別される)。Dバンドピーク強度(I)とGバンドピーク強度(I)との強度比R(I/I)は、炭素材料のグラファイトクラスターサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、sp2結合比率などの指標として用いられる。すなわち、本発明においては、導電性C層33の接触抵抗の指標とすることができ、導電性C層33の導電性を制御する膜質パラメータとして用いることができる。
R(I/I)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(I)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(I)との相対的強度比(ピーク面積比(I/I))を算出することにより求められる。かかる測定方法は、硬いDLC層構造を有する硬質C層35の強度比R(I/I)≦1.0を測定する場合にも適用される。
上述したように、本実施形態において、導電性C層33のR(I/I)値は1.3以上である。また、好ましい実施形態において、当該RR(I/I)値は、好ましくは1.4〜2.0であり、より好ましくは1.4〜1.9であり、さらに好ましくは1.5〜1.8である。この導電性C層33のR(I/I)値が1.3以上であれば、積層方向の導電性(低接触抵抗)が十分に確保された導電性C層33が得られる。また、導電性C層33のR(I/I)値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、導電性C層33自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である基材金属31、とりわけ中間層32との密着性を一層向上させることができる。
なお、本実施形態のように導電性C層33のR(I/I)値を1.3以上とすることにより上述の作用効果が得られるメカニズムは、以下のように推定されている。ただし、以下の推定メカニズムは本発明の技術的範囲をいかようにも限定することはない。
上述したように、Dバンドピーク強度が大きくなる(すなわち、R値が大きくなる)ことは、グラファイト構造における結晶構造欠陥の増加を意味する。換言すれば、ほぼsp2炭素のみからなる高結晶性グラファイトにおいてsp3炭素が増加することを意味する。ここで、表面処理部材(導電部材Aとする)において、R=1.0〜1.2の導電性C層33の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した写真(倍率:40万倍)を図16Aに示す。同様に、表面処理部材(導電部材Bとする)のR=1.6の導電性C層33断面をTEMにより観察した写真(倍率:40万倍)を図16Bに示す。なお、これらの導電部材Aおよび導電部材Bは、基材金属31としてはアルミ基材ではなく、SUS316Lを用いた。この表面上にCrからなる中間層32、詳しくは柱状結晶構造を有しており、導電性C層33の最表面に突起状粒子(図示せず)が存在している中間層32(厚さ:200nm)および導電性C層(厚さ:200nm)33をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。また、導電部材Aにおける導電性C層33の作製時において基材金属31に対して印加したバイアス電圧は0Vであり、導電部材Bにおける導電性C層33の作製時において基材金属31に対して印加したバイアス電圧は−140Vであった。なお、導電部材A、Bのいずれも、導電性C層33の断面の観察目的であることから、硬質C層(硬いDLC層)34もスパッタリング法によって順次形成することは可能であるが、当該観察実験では形成せずに、導電性C層33の形成までにとどめた。
図16Bに示すように、導電部材Bの導電性C層33は、多結晶グラファイトの構造を有することがわかる。一方で、図16Aに示す導電部材Aの導電性C層33においては、かような多結晶グラファイトの構造は確認できない。
ここで、「多結晶グラファイト」とは、微視的にはグラフェン面(六角網面)が積層した異方性のグラファイト結晶構造(グラファイトクラスター)を有するが、巨視的には多数の当該グラファイト構造が集合した等方性結晶体である。したがって、多結晶グラファイトは、ダイヤモンドライクカーボン(DLC;Diamond−Like Carbon)の1種であるということもできる。通常、単結晶グラファイトは、HOPG(高配向熱分解黒鉛)に代表されるような、巨視的にみてもグラフェン面が積層された乱れのない構造を示す。一方、多結晶グラファイトにおいては、個々のクラスターとしてグラファイト構造が存在しており、乱層構造を有している。導電性C層33のR(I/I)値を1.3以上に制御することで、この乱れ具合(グラファイトクラスター量、サイズ)が適度に確保され、導電性C層33の一方の面から他方の面への導電パスが確保されうる。その結果、基材金属31に加えて、中間層32、導電性C層33を別途設けたことによる導電性の低下が防止されうる(低接触抵抗の確保が行える)と考えられる。
多結晶グラファイトにおいては、グラファイトクラスターを構成するsp2炭素原子の結合によりグラフェン面が形成されていることから、当該グラフェン面の面方向に導電性が確保される。また、多結晶グラファイトは実質的に炭素原子のみから構成され、比表面積が小さく、結合した官能基の量も少ない。このため、多結晶グラファイトは酸性水等による腐食に対して優れた耐性を有する。なお、カーボンブラック等の粉末においても、1次粒子を形成しているのはグラファイトクラスターの集合体である場合が多く、これにより導電性が発揮される。しかしながら、個々の粒子が分離しているため、表面に形成されている官能基が多く、酸性水等による腐食が生じやすい。また、カーボンブラックにより導電性C層33を成膜しても、保護膜としての緻密性に欠けるという問題もある。
ここで、本実施形態の導電性C層33が多結晶グラファイトから構成される場合、多結晶グラファイトを構成するグラファイトクラスターのサイズは特に制限されない。一例を挙げると、グラファイトクラスターの平均直径は、好ましくは1〜50nm程度であり、より好ましくは2〜10nmである。グラファイトクラスターの平均直径がかような範囲内の値であると、多結晶グラファイトの結晶構造を維持しつつ、導電性C層33の厚膜化を防止することが可能である。ここで、グラファイトクラスターの「直径」とは、当該クラスターの輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、グラファイトクラスターの平均直径の値は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察されるクラスターの直径の平均値として算出されうる。
本発明では、導電性C層33の最表面において、200〜500nmの径を持つ突起状粒子を持つのが望ましい。より好ましくは導電性C層33の最表面において、200〜500nmの径を持つ突起状粒子と、50〜100nmの微小粒子が混在していることが特に望ましい。導電性C層33と基材金属31との間に中間層32を設け、その中間層32の結晶構造を制御し柱状結晶の柱径を導電性C層31との界面まで太く(大きく)し、その上に形成される導電性C層33における隙間や欠陥を低減することができるものである。具体的には導電性C層33の最表面において200〜500nm、好ましくは300〜500nm、より好ましくは400〜500nmの径を持つ突起状粒子が存在する場合、中間層32の柱径(柱状径)の発達に起因するものであり、導電性C層33の最表面の隙間の数が減少し、水の侵入を抑制する機能を付与することができる。また、200〜500nmの径を持つ突起状粒子以外の周辺部(いわゆる凹凸変化量の小さい平坦部)は50〜100nmの微小粒子が存在(混在)しているのが、その上に形成される導電性C層33や硬質C層34における隙間や欠陥を低減する上で特に効果的である。こうした構造により、基材金属31への中間層32の防食機能を高めつつ、導電性C層33及び硬質C層34での防食機能を向上することができ、被覆率を落とさずに薄膜化することが可能となる。とりわけ、基材金属31の防食効果を高めることができ、アルミニウムのような腐食しやすい金属の場合でも、セパレータ5の基材として適用できる。ここでいう、導電性C層33の最表面の突起状粒子の径(200〜500nm)は、粒度分布の範囲をいう。導電性C層33の最表面の突起状粒子の径の測定方法は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察されるクラスターの直径の平均値として算出されうる。同様に、導電性C層33の最表面(非突起状態の微小粒子の大きさ(径:50〜100nm)の粒度分布の範囲をいう。導電性C層33の最表面の微小粒子子の大きさ(径)の測定方法もSEMやTEMなどの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察されるクラスターの直径の平均値として算出されうる。突起状粒子の測定方法の詳細説明としては、試料表面のSEMによる観察結果から、コントラストの薄い(白い)粒子形状について、粒径が200〜500nmのもの(粒度分布の範囲)を選ぶことにより求めることができる。
導電性C層33の最表面において、突起状粒子が100μm当たりに少なくとも30個以上、好ましく30〜100個、より好ましくは50〜80個の範囲内で存在しているのが望ましい。これは、前記突起状粒子が100μm当たりに30個未満の場合、中間層32の柱状結晶径の発達が減少するため、導電性C層33の最表面における柱状結晶同士の間(単に柱状間ともいう)の隙間数が多くなり、接触抵抗の増加を招くためである。前記突起状粒子の100μm当たりの個数が30個未満であっても、本発明の所期の効果を損なわない範囲内であれば、1個以上のものであっても本発明に含まれる。
導電性C層33の最表面の突起状粒子どうしがの近接距離が、1μm以内であることが望ましい。かかる構成により、最表面の突起状粒子どうしがの距離が1μm以内の範囲で分散しているとき、面内に均一に突起状粒子が形成されるため、基材金属31の防錆能が向上するためである。その結果、基材金属31への中間層32の防食機能を高めつつ、導電性C層33や硬質C層34での防食機能を向上することができ、被覆率を落とさずに薄膜化することが可能となる。
導電性C層33の最表面において、突起状粒子がその周辺部に対して高さ(平均値)が100〜500nm、好ましくは200〜500nm、より好ましくは300〜400nmで突起しているのが望ましい。これは、導電性C層33の最表面において突起状粒子高さ(平均値)が上記範囲内の場合、形成される中間層32の柱状結晶が成長し、中該間層の径が太くなり、中間層32中の隙間が更に減少し、基材金属31の防食機能が一層向上することができる。また、導電性C層33の最表面に突起状粒子が存在する突起状形状(凸形状)を有している場合、比表面積が向上し、親水性を示す場合、より親水度が増すため、表面のぬれ性が向上する効果もある。この点をより詳しく説明すれば、一般的に親水性を示す場合、試料表面上の水滴の静的接触角が90°以下の場合を親水性表面が微細な凹凸形状している場合、親水度が向上することが知られている。表面の親水性が向上すると、排水性が向上するため、フラッディング現象によるガス拡散性低下を抑制することができる。
ここで、導電性C層33の突起状粒子のその周辺部に対する高さ(平均値)は、下記測定方法による平均値を用いるものとする。併せて、本発明で用いる用語や測定法につき、以下にできるだけまとめて説明する(一部、実施例や明細書の別の箇所で用語や測定法につき説明している場合もある)。
(A)中間層32について
(a)柱状結晶構造は、中間層を構成している結晶が、膜厚方向に柱状に成長している構造をいう。
(b)中間層の断面における柱状結晶の柱の太さの平均値の測定方法については、TEMによる断面観察結果から基材に対して垂直方向に成長している柱状結晶について、コントラストによって確認される柱の界面から1本の柱を特定し、その基材と平行方向の界面から界面の距離を算出することにより求めることができる。
(c)該中間層32の断面における柱状結晶の柱の太さが200〜500nmであり、当該太さを持つ柱状結晶が該中間層32全体のうち、導電性C層33側に中間層32膜厚(平均値)全体の何%存在するかを測定する方法については、上記の太さ測定方法を用いて、中間層膜厚の50%より表面側における突起形状が出現する手前の深さにおける柱の太さを計測することにより求めることができる。
(d)中間層32全体のうち、導電性C層32側とは、中間層膜厚の導電性炭素側50%に存在する領域をいう。
(e)中間層32の膜厚(平均値)の測定方法は、SEM断面、もしくはTEMによる断面観察結果から読取ことができる。
(B)導電性C層33の最表面について
(a)最表面の200〜500nmの径を持つ突起状粒子とは、表面が導電性炭素層で被覆されており、中間層から継承された柱状結晶の柱径200〜500nmを持つ柱が最表面にて粒子状に観察されるものをいう。
(b)50〜100nmの径の微小粒子とは、表面が導電性炭素層で被覆されており、中間層から継承された柱状結晶の柱径200〜500nmを持つ柱が最表面にて粒子状に観察されるものであり、これについては、上記突起状粒子のような表面における起伏は小さいものをいう。
(c)200〜500nmの径を持つ突起状粒子の高さ(平均値)とは、表面が導電性炭素層で被覆されており、中間層の柱状構造が最表面にて角錐状(剣山状)になり始めている部分から、その先端部までの高さをいう。
(d)突起状粒子の径の測定方法については、SEMによる表面観察から確認されるコントラストから1つの粒子を拾い、その粒子の平均径により求めることができる。
(e)突起状粒子の高さ(平均値)の測定方法については、TEMによる断面観察から、中間層の柱状構造が最表面にて角錐状(剣山状)になり始めている部分から、その先端部までの高さにより求めることができる、
(f)突起高さの基準面(最表面の突起状粒子の周辺部)の特定の仕方については、中間層の柱状構造が最表面にて角錐状(剣山状)になり始めている部分とする。
(g)100μm当たりの200〜500nmの径を持つ突起状粒子の個数の測定方法については、SEMによる表面観察により、コントラストとして白く確認される粒子状のものを突起状粒子として捉え、100μm中に存在する粒子の個数を測定することにより求めることができる、
(i)50〜100nmの径の微小粒子の測定方法については、SEMによる表面観察により、1粒子の最大径により求めることができる。
なお、本実施形態では導電性C層33は多結晶グラファイトのみから構成されてもよいが、導電性C層33は多結晶グラファイト以外の材料をも含みうる。導電性C層33に含まれうる多結晶グラファイト以外の炭素材料としては、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。また、カーボンブラックの具体例として、以下に制限されることはないが、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラックもしくはサーマルブラックなどが挙げられる。なお、カーボンブラックは、グラファイト化処理が施されていてもよい。また、導電性C層33に含まれうる炭素材料以外の材料としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)等の貴金属;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性物質;導電性酸化物などが挙げられる。多結晶グラファイト以外の材料は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
導電性C層33の厚さ(平均値)は、特に制限されない。ただし、好ましくは1〜500nmであり、より好ましくは3〜200nmであり、さらに好ましくは5〜20nmである。導電性C層33の厚さがかような範囲内の値であれば、ガス拡散基材と表面処理部材(金属セパレータ5)との間に十分な導電性を確保することができる。また、基材金属31に対して高い耐食機能を持たせることができるという有利な効果を奏しうる。なお、本実施形態では、導電性C層33は表面処理部材(金属セパレータ5)の一方の面にのみ存在させてもよいが、好ましくは図1〜15などに示すように、表面処理部材(金属セパレータ5)の他の面にも導電性C層33が存在した構成とするのが望ましい。これは、炭素表面処理層35(導電性C層33及び硬質C層34)の両表面において、中間層32を介して基材金属31と、炭素表面処理層35(特に導電性C層33)との密着性を確保しつつ、基材金属3の防食効果をより一層維持できるためである。
以下、本実施形態の導電性C層33におけるより好ましい実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。
まず、導電性C層33のラマン散乱分光分析について、他の観点からは、ラマン散乱分光分析の回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示すことが好ましい。以下、回転異方性測定の測定原理について、簡単に説明する。
ラマン散乱分光分析の回転異方性測定は、測定サンプルを水平方向に360度回転させながら、ラマン散乱分光測定を実施することにより行なわれる。具体的には、測定サンプルの表面に対してレーザー光を照射し、通常のラマンスペクトルを測定する。次いで、測定サンプルを10°回転させて、同様にラマンスペクトルを測定する。この操作を、測定サンプルが360°回転するまで行なう。そして、それぞれの角度での測定において得られたピーク強度の平均値を算出し、中心がピーク強度ゼロとなる、1周360°の極座標表示とすることにより、平均ピークが得られる。そして、例えば、グラフェン面がサンプルの面方向と平行となるように、グラファイト層がサンプル表面に存在する場合には、図17Aに示すような3回対称パターンが見られる。一方、グラフェン面がサンプルの面方向と垂直となるように、グラファイト層がサンプル表面に存在する場合には、図17Bに示すような2回対称パターンが見られる。なお、明確な結晶構造が存在しない非晶質(アモルファス)状のC層がサンプル表面に存在する場合には、図17Cに示すような対称性を示さないパターンが見られる。したがって、回転異方性測定により測定された平均ピークガ2回対称パターンを示すということは、導電性C層33を構成するグラフェン面の面方向が、導電性C層33の積層方向とほぼ一致していることを意味する。かような形態によれば、導電性C層33における導電性が最短のパスによって確保されることとなるため、好ましいのである。
ここで、上述した当該回転異方性測定を行なった結果を図18Aおよび図18Bに示す。図18Aは、上述した導電部材B(図16B参照。以下同様。)を測定サンプルとして用い、当該サンプルの回転角をそれぞれ0°、60°、および180°としたときのラマンスペクトルを示す。また、図18Bは、上述した手法により得られた、導電部材Bについての回転異方性測定の平均ピークを示す。図18Bに示すように、導電部材Bの回転異方性測定においては、0°および180°の位置にピークが見られた。これは、図17Bに示す2回対称パターンに相当する。なお、本明細書において、ラマン散乱分光分析の回転異方性測定により測定された平均ピークが「2回対称パターンを示す」とは、図17Bおよび図18Bに示すように、平均ピークにおいて、ピーク強度が0である点を基準として180°対向する2つのピークが存在することを意味する。3回対称パターンで見られるピーク強度と2回対称パターンで見られるピーク強度とは原理的には同程度の値を示すとされているため、かような定義が可能となる。
好ましい実施形態では、導電性C層33のビッカース硬度が規定される。「ビッカース硬度(Hv)」とは、物質の硬さを規定する値であり、物質に固有の値である。本明細書において、ビッカース硬度は、ナノインデンテーション法により測定された値を意味する。ナノインデンテーション法とは、サンプル表面に対して超微小な荷重でダイヤモンド圧子を連続的に負荷および除荷し、得られた荷重−変位曲線から硬さを測定するという手法であり、Hvが大きいほどその物質は硬いことを意味する。好ましい実施形態において、具体的には、導電性C層33のビッカース硬度(Hv)の上限値は、好ましくは1000Hv未満であり、より好ましくは800Hv以下であり、特に好ましくは400Hv以下である。ビッカース硬度がかような範囲内の値であれば、導電性を有しないsp3炭素の過剰な混入が抑制され、導電性C層33の導電性の低下が防止されうる。
一方、導電性C層33のビッカース硬度(Hv)の下限値について特に制限はないが、ビッカース硬度が50Hv以上であれば、導電性C層33の硬度が十分に確保される。その結果、外部からの接触や摩擦等の衝撃にも耐えることができ、下地である基材金属31や中間層32とのより一層強固な密着性に優れた表面処理部材(金属セパレータ5)が提供されうる。かような観点から、導電性C層33のビッカース硬度は、より好ましくは80Hv以上であり、さらに好ましくは100Hv以上であり、特に好ましくは200Hv以上である。
ここで、表面処理部材の基材金属31としてSUS316Lを準備する。この表面にCrからなる中間層32(厚さ:200nm、柱状結晶構造を有しているもの)および導電性C層33(厚さ:200nm、突起状粒子が存在している方がよいが、存在していなくてもよい)をスパッタリング法によって順次形成することにより作製した。ここでの中間層32には、該中間層32の断面における柱状結晶の柱の太さの平均値が、200〜500nmであり、当該太さを持つ柱状結晶が該中間層32全体のうち、導電性C層33側に中間層32膜厚全体の60%存在しているものを用いた。また、ここでの導電性C層33には、最表面において、200〜500nmの径(粒度分布)を持つ突起状粒子と、50〜100nmの微小粒子が混在しており、前記突起状粒子が100μm当たりに、60個(平均値)存在しているものを用いた。この際、バイアス電圧および成膜方式を制御することにより、中間層32の結晶構造を制御し所期の柱径や個数を持つ柱状結晶径を作成(成長)した後、導電性C層33のビッカース硬度を変化させた。これにより得られた導電部材における導電性C層33のビッカース硬度と導電性C層33におけるsp3比の値との関係を図19に示す。なお、図19では、ダイヤモンドはsp3比=100%であり、Hv10000となる。図19に示す結果から、導電性C層33のビッカース硬度が1500Hv以下であると、sp3比の値が大きく低下することがわかる。また、sp3比の値が低下することで、表面処理部材の接触抵抗の値もこれに伴って低下することが推測される。
さらに他の観点からは、導電性C層33に含まれる水素原子の量もまた、考慮することが好ましい。すなわち、導電性C層33に水素原子が含まれる場合、当該水素原子は炭素原子と結合する。そうすると、水素原子が結合した炭素原子の混成軌道はsp2からsp3へと変化して導電性を喪失し、導電性C層33の導電性が低下することとなる。また、多結晶グラファイトにおけるC−H結合が増加すると、結合の連続性が失われ、導電性C層33の硬度が低下し、最終的には表面処理部材の機械的強度や耐食性が低下してしまう。かような観点から、導電性C層33における水素原子の含有量は、導電性C層33を構成する全原子に対して、好ましくは30原子%以下であり、より好ましくは20原子%以下であり、さらに好ましくは10原子%以下である。ここで、導電性C層33における水素原子の含有量の値としては、弾性反跳散乱分析法(ERDA)により得られる値を採用するものとする。この方法では、測定サンプルを傾け、ヘリウムイオンビームを浅く入射することによって、前方に弾き出された元素を検出する。水素原子の原子核は、入射されるヘリウムイオンよりも軽いため、水素原子が存在するとその原子核は前方に弾き出される。かような散乱は弾性散乱であることから、弾き出された原子のエネルギースペクトルはその原子核の質量を反映することになります。したがって、弾き出された水素原子の原子核の数を固体検出器によって測定することにより、測定サンプルにおける水素原子の含有量が測定されうる。
ここで、図20は、上述したR(I/I)値が1.3以上であるものの、水素原子の含有量が異なる導電性C層33を有するいくつかの表面処理部材について、接触抵抗を測定した結果を示すグラフである。図20に示すように、導電性C層33における水素原子の含有量が30原子%以下であると、表面処理部材の接触抵抗の値は顕著に低下する。
本実施形態においては、図3A〜図3Cに示すように、中間層32を介して基材金属31の全て(全面)が、導電性C層33により被覆されている。換言すれば、本実施形態では、導電性C層33により基材金属31ないし中間層21が被覆された面積の割合(被覆率)は100%である。ただし、かような形態のみには限定されず、被覆率は100%未満であってもよい。
図9は、中間層32上に種々の割合で導電性C層33(単に、導電性C、または導電性C層とも略記する)のみを配置した場合の接触抵抗の変化を示す図面(グラフ)である。図9でも、基材金属31として、アルミ(A1050)を用いた(図1〜15参照)。表面処理層35は基材金属31の上に中間層32を配置し、その上に導電性C層33としてカーボン薄膜を成膜し、中間層32上には導電性C層33が形成される。なお、図9では、図3A〜図3Cに示すような硬質C層34を最表面に形成することなく、図3Dの状態での接触抵抗の変化を示す図面(グラフ)である。
図9に示すように、ほぼ100%の導電性Cの被覆では低接触抵抗が確保されるが、被覆率が低下するにしたがって抵抗値の増加が確認される。およそ、60%以下の導電性Cの被覆率から急激な抵抗の増加が見られる。導電性C層は70%以上の被覆が必要である。
以上のことから、導電性C層33の中間層21に対する被覆率は、50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上であり、なかでも好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%である。かような構成とすることにより、導電性C層33により被覆されていない、中間層21の露出部への酸化皮膜の形成に伴う導電性・耐食性の低下が効果的に抑制されうる。なお、本実施形態のように、中間層32が基材金属31と導電性C層33との間に介在する場合、上記被覆率は、表面処理部材(金属セパレータ5)を積層方向から見た場合に導電性C層33と重複する中間層32の面積の割合を意味するものとする。これは、基材金属31に対する中間層32自体の被覆率も100%未満の場合があり、その場合には、導電性C層33の中間層21に対する被覆率とするのがよいためである。
<硬質C層34>
炭素表面処理層35にが、硬さがHv1000以上もしくはI/I≦1.0に設定された構造を有する硬質C層34が前記導電性C層33表面上に配置されていることを特徴とするものである。
(硬質C層34のHv)
本実施形態では、硬い硬質C層34のビッカース硬度(Hv)が規定される。「ビッカース硬度(Hv)」とは、物質の硬さを規定する値であり、物質に固有の値である。ビッカース硬度は、ナノインデンテーション法により測定された値を意味する。ナノインデンテーション法とは、サンプル表面に対して超微小な荷重でダイヤモンド圧子を連続的に負荷および除荷し、得られた荷重−変位曲線から硬さを測定するという手法であり、Hvが大きいほどその物質は硬いことを意味する。
実施形態において、比較的柔らかい導電性C層33表面へのキズ付き防止の観点からは、硬質C層34の硬さHvは1000以上、好ましくは1500Hv以上であり、より好ましくは2000Hv以上であり、さらに好ましくは2200Hv以上である。特に好ましくは2400以上である。Hvがかような範囲内の値であれば、炭素表面処理層35として、導電性確保の為の比較的柔らかい導電性C層33を形成しつつ、それとはトレードオフな硬さの確保を行うことができる。即ち、導電性C層33によって、接触抵抗の確保を行いつつ、非導電性である硬い硬質C層34によって、比較的柔らかい導電性C層33にキズが付くのも同時に防止することができるものである。一方、Hvの上限値について特に制限はないが、理想的にはダイヤモンドと同等のHvを有するのが望ましい。硬質C層34のHvが1000以上あれば、特に実施例程度の2400以上とすることで、搬送中、外部からの接触や摩擦等の衝撃にも十分耐えることができる。また、電池組立中の接触や摩擦、更には電池稼動中の熱膨脹収縮による電池部材同士の応力加重下での摩擦や接触を長期間繰り返して行っても十分耐えることができる。これにより、下地である基材金属31や中間層32とのより一層強固な密着性に優れた表面処理部材(金属セパレータ5)が提供されうる。かような観点から、硬質C層34のHvは、より好ましくは2000Hv以上であり、さらに好ましくは2200Hv以上であり、特に好ましくは2400Hv以上である。
なお、実験結果から、1.0<R<1.3では、十分な硬さが得られず、硬質C層34として利用困難である。
(硬質C層34のR(I/I))
本実施形態において、(i)硬質C層34の硬さHvは1000以上、若しくは(ii)R(I/I)≦1.0に設定された構造を有する。当然のことながら、いずれか一方の要件(i)または(ii)を有するものであれば、本発明の技術的範囲に含まれるものであるが、双方の要件(i)及び(ii)を有するものであってもよいことは言うまでもない。
上記(ii)の要件では、硬質C層34は、ラマン散乱分光分析により測定される、Dバンドピーク強度(I)とGバンドピーク強度(I)との強度比R(I/I)により規定される。具体的には、強度比R(I/I)が1.0以下、即ち、R(I/I)≦1.0である。以下、当該構成要件について、より詳細に説明する。
上述したように、本実施形態において硬質C層34のR(I/I)値は1.0以下である。即ち、硬質C層34のR(I/I)値は理論的にはダイヤモンドのR(I/I)値はと同等であるのがよいといえる。この硬質C層34のR(I/I)値が1.0以上であれば、積層方向の導電性(低接触抵抗)が十分に確保された比較的柔らかい導電性C層33にキズが付くのを確実かつ堅固に防止することができる。また、硬質C層34のダイヤモンドのR(I/I)値と同程度までが硬くできれば、より一層安定かつ長期間高品質な製品を提供するのに大いに貢献し得るものである。さらに、導電性C層33や硬質C層34の内部応力の増大をも抑制でき、下地である基材金属31、中間層32との密着性を一層向上させることができる。
なお、硬質C層34の強度比R(I/I)の測定方法は、上記に詳しく説明した導電性C層33の強度比R(I/I)の測定方法と同様にして行うことができる。
(硬質C層34の被覆率と接触抵抗の関係)
図10は、種々の割合で導電性C上に硬質C層を配置した場合(図横軸では、硬質C/導電性Cと表記する)の接触抵抗の変化を示す。
図10に示すように、導電性C層33上に、硬質C層34を配置した場合、硬質C層34が絶縁材(非導電性)であるため、硬質C層34の量の増加に対して、急激な抵抗の増加が確認される。上記結果から、低接触抵抗を確保するには、導電性C層33の面積に対して、30%以下、好ましくは3〜30%、より好ましくは5〜30%で硬質C層34を配置しなければならない。なお、下限値については、オージェ分析で信頼できる下限値の厚さが3mmであることから、製品の信頼性を勘案して、下限値の好ましい値を3%と規定している。
以上のことから、本実施形態では、前記導電性C層33の中間層32もしくは基材金属31に対する被覆率が60〜100%、好ましくは80%〜100%であり、且つ、前記硬質C層34の表面比が導電性C層33上に30%以下で配置されているのが望ましいと言える(図3A〜図3参照のこと)。このように、本発明の導電性C層33と硬質C層34の面積比を好適に規定することにより、表面におけるそれぞれ導電性C層33と硬質C層34の面積比を確保することができ、低接触抵抗の確保と、キズのつきにくい炭素表面処理層35を確保できる。なお、本実施形態のように、導電性C層33が中間層32と導硬質C層34との間に介在する場合、上記表面比は、表面処理部材(金属セパレータ5)を積層方向から見た場合に硬質C層34と重複する導電性C層33の面積の割合を意味するものとする。ここで、導電性C層33に対する硬質C層34の表面比としたのは、基材金属31に対する中間層32自体の被覆率も100%未満の場合があり、更には中間層32に対する導電性C層33自体の被覆率も100%未満の場合があり、その場合には、硬質C層34の導電性C層33に対する表面比(被覆率と称する場合もある)とするのがよいためである。硬質C層34は導電性C層33の上に存在してのみ、その存在の有効性が発揮される。従って、硬質C層34は導電性C層33のキズ感度を少なくするものであり、硬いCr中間層32の上にある硬質C層34はその効果が小さいからである。
なお、プレート上の導電性C層33と硬質C層34の被覆率を同時に計測するのは困難である。このため、あらかじめ、基材金属31もしくは中間層32上に、それぞれの導電性C層33ないし硬質C層34のみを成膜させた場合の、成膜時間と被覆率の関係を把握する必要がある。導電性C層33と硬質C層34それぞれの被覆率を、成膜時間を代用して制御するのが好ましい。
本発明では、硬さHv≧1000もしくはI/I≦1.0に設定された構造を有する硬質C層34を導電性C層33上に配置することによって、比較的柔らかい導電性C層33にキズが付くのを防止することができる。特に、硬い硬質C層34は全面ではなく散在的ないし部分的に配置することで(図3A〜図3C参照)、比較的柔らかい導電性C層33のキズが付くのを防止する効果を十分に発揮することができる。かかる構成は同時に、硬い硬質C層34から露出する導電性C層33表面が柔らかく微小な形状変化に十分に追従し得ることから極めて高い導電性をも十分に確保(保持)することもできる極めて優れた構成となり得るものである。
次に、硬質C層34の厚さは、1〜20nm、好ましくは3〜5nmであり、それより深い部位では導電性C層33であるのが望ましい。これは、硬質C層34の厚さを規定するものであり、図3A〜図3Cに示すように、キズの防止のための硬質C層34は、表面処理部材(金属セパレータ5)の最表層だけに比較的薄く配置することで、硬質C層34自体の貫通抵抗増加を防止することが出来る。硬質C層34の厚さが1nm以上では被覆率が十分確保できる。一方、硬質C層34の厚さが20nm以下では、被覆率が大きくなり過ぎないことと、絶縁性の硬質C層34自体の貫通抵抗が上乗せされ難く、抵抗があがるのを効果的に抑制することができる。(図12でが、硬質C層34の厚さが1nm以上では被覆率5%と十分な大きさ確保できている点を参照のこと。)、また分析下限域として信頼のおける厚さが3nmであるため、製品の安定性・信頼性の観点からも、当該硬質C層34の厚さ(下限側)は、好ましくは3nmである。また、硬質C層34の厚さは、上記範囲内で薄い方が良い。これは導電性C層33上に散在的に厚さ(高さ)のある硬質C層34が存在すると、外部との摩擦や接触、電池内部での熱応力による膨脹収縮の際に、当該硬質C層34が磨耗しやすく、導電性C層33から剥離しやすいなど不利があり、電池部位によっては他の電池部材を摩擦や接触によりいためる恐れがあるためである。かかる観点からも硬質C層34の厚さは3〜5nmと薄いのが望ましい。但し、1〜20nmの範囲を外れる場合であっても、本発明の初期の目的を達成することができる場合には、本発明の技術的範囲に含まれることはいうまでもない。例えば、図3Aに示すように、硬質C層34の1部では、導電性C層33の窪みに(凹部)に形成される場合、当該硬質C層34の目的を達成するには、硬質C層34の表面平滑性が保たれている方がよく、他の硬質C層34よりも厚く形成されているのが望ましい(図3A〜図3C参照)。
本実施形態では、硬質部位である硬質C層34は、少なくとも表面処理部材(金属セパレータ5)のリブ上で形成されているのが望ましい。これは、腐食環境の厳しいリブ上にて、最低限の硬質C層34(硬質DLC層)が形成されているのが望ましい為である。これにより、キズが付きやすいリブ上に少なくとも硬質C層34(硬質DLC層)が形成されていることになり、長期間安定に極めて効果的に耐食効果を有効に発現することができる。
(硬質C層34の被覆率と厚さの関係)
図12は、本発明の表面処理部材(金属セパレータ5)を構成する基材金属31、中間層32導電性C層33及び硬質C層34からなる炭素表面処理層35において、硬質C層34の被覆率(%)と厚さ(nm)(平均値)の関係を示す図面である。
本実施形態では、厚さ200μmのアルミ基材金属31上に、図7又は図8に示す装置を用いて順々に、厚さ200nm(以上、各層の厚さはAESのクロスポイント法で判別)のCr中間層32を配置(成膜)し、その上に、カーボン(C)製の導電性C層33と硬質C層34からなる炭素表面処理層35を配置している(成膜している)(図1〜15参照)。図12では、硬質C層34の被覆率と成膜厚さを変化させた図面(グラフ)を示す。なお、中間層32には、厚さ200nm(厚さは図11のAESのクロスポイント法で判別)のクロムを配置(成膜)した。導電性C層33には、厚さ50nm(平均値)、R=1.3、Hv=564、被覆率>99%、回転異方性=180°対称のものを使用した。また、硬質C層34では、被覆率(%)と厚さ(nm)の関係を変化させて、その関係を調べた。
本発明では、図12に示すように、低抵抗の確保のために、硬質C層34(硬質DLC層)の最適な被覆面積の設定が必要であるが、被覆率と成膜厚さとは、ある厚さまではほぼ直線関係である。このため、必要な被覆率(上記に規定するように30%以下)での硬質C層33の形成のための厚さ確保が必要になる。なお、硬質C層34の厚さ(nm)や被覆率(表面比)(%)は上記に既に規定したとおりである。
ここで、硬質C層34の被覆率(%)と厚さ(nm)は、それぞれオージェ分光分析による面マッピングと画像解析から被覆率を、厚さは深さ方向のプロファイルから算出により測定した。
(導電性C層33の被覆率と導電性C層34の厚さの関係)
図13は、本発明の表面処理部材(金属セパレータ5)を構成する基材金属31、中間層32、導電性C層33及び硬質C層34からなる炭素表面処理層35において、導電性C層33の被覆率(%)と導電性C層34の厚さ(nm)の関係を示す図面である。
本実施形態でも、図12と同様に、厚さ200μmのアルミ基材金属31上に、図7又は図8に示す装置を用いて順々に、厚さ200nm(以上は、クロスポイント法で判別)のCr中間層32を配置(成膜)し、その上に、カーボン(C)製の導電性C層33と硬質C層34からなる炭素表面処理層35を配置している(成膜している)(図1〜15参照)。図13では、導電性C層33の被覆率と成膜厚さを変化させた図面(グラフ)を示す。なお、中間層32には、厚さ200nm(図11のクロスポイント法で判別)のクロムを配置(成膜)した。導電性C層33及び硬質C層34では、導電性C層33の被覆率(%)と厚さ(nm)を変化の様子(関係)を調べた。
図9〜12、14、15等の結果から、図13でもプレート(セパレータ5)上の導電性C層33と硬質C層34の被覆率を同時に計測するのは困難である。このため、あらかじめ、基材金属31もしくは中間層32上に、それぞれのC層33、34のみを成膜させた場合の、成膜時間と被覆率の関係を把握する必要がある。導電性C層33と硬質C層34それぞれの被覆率を、成膜時間を代用して制御するのが好ましい。本発明では、低抵抗の確保のために、導電性C層33の最適な被覆面積の設定が必要であるが、被覆率と成膜厚さとは、ある厚さまではほぼ直線関係であり、その後急速に増加する。このため、必要な被覆率(60%以上)での導電性C層の形成のための厚さ確保が必要になる。また、導電性C層の厚さが増加すると、GDLとの接触抵抗が低下する(図2)。このため、必要な被覆率(60%以上)を形成し得る厚さで実施することが、表面処理層の貫通抵抗増加を抑制できる。導電性C層は、厚さ5nm以上とすることで、必要な被覆率を確保するのが望ましい。」としてよければ、上記導電性C層の上限厚さ及びその理由を補充願います(例えば、「上限値としては特に制限されないが、成膜法などによるが、概ね20nm程度で被覆率100%を達成しており、更に厚膜化してもより一層の接触抵抗低減効果が得られず、20nm以下とするのがコスト低減可能な点で優れている。
図13に示すように、硬質C層34の厚さが増加すると、GDL4との接触抵抗が増加する(図1、4参照)。このため、必要な被覆率を形成するための最低限の厚さで実施することが、硬質C層34によるキズ抑制の効果と、表面処理層35の貫通抵抗増加を抑制できる(図14、15参照)。硬質C層34の厚さや被覆率は(表面比)は上記に既に規定したとおりである。なお、導電性C層33及び硬質C層34の厚さ(nm)や被覆率(表面比)(%)は上記に既に規定したとおりである。
ここで、硬質C層34の表面比(被覆率)(%)と厚さ(nm)は、図12と同様であり、導電性C層33の被覆率(%)と厚さ(nm)はそれぞれオージェ分光分析による面マッピングと画像解析から被覆率を、厚さは深さ方向のプロファイルから算出により測定した。
(硬質C層34の厚さと接触抵抗の関係)
図14は、本発明の表面処理部材(金属セパレータ5)を構成する基材金属31、中間層32導電性C層33及び硬質C層34からなる炭素表面処理層35において、硬質C層の厚さ(nm)(平均値)と接触抵抗(mΩcm)の関係を示す図面である。
本実施形態では、厚さ200μmのアルミ基材金属31上に、図7又は図8に示す装置を用いて順々に、厚さ200nm(以上は、クロスポイント法で判別)のCr中間層32を配置(成膜)し、その上に、カーボン(C)製の導電性C層33と硬質C層34からなる炭素表面処理層35を配置している(成膜している)(図1〜15参照)。図14では、硬質C層34の厚さ(nm)を変化さながら接触抵抗の変化の様子を調べた図面(グラフ)を示す。なお、中間層32には、厚さ200nm(図11のクロスポイント法で判別)のクロムを配置(成膜)した。導電性C層33には、厚さ50nm(平均値)、R=1.3、Hv=564、被覆率>99%、回転異方性=180°対称のものを使用した。また、硬質C層34では、厚さ(nm)と(平均値)と接触抵抗(mΩcm)の関係を調べた。
図14に示すように、硬質C層34は、好ましくは数nmで必要な被覆率を確保するのが望ましい。同一の被覆率(%)を有していても、硬質C層34が厚いと導電性C層33とガス拡散層(GDL)4を構成する繊維との接点を確保しにくくなる。これは、接触抵抗自体が、導電性C層33と硬質C層34それぞれの接触抵抗の並行回路で構成されるが、抵抗値の大きな硬質C層34の高さが増すと、この層34自体の貫通方向の抵抗が加算されることと、硬質C層34とその下に配置される導電性C層33との段差が大きくなることによるGDL4との接触面積の低下が寄与していると考えられる。
図14は、硬質C層34の被覆率(5)を変えた場合の厚さ(nm)とGDL4との接触抵抗の変化を示したものである。抵抗値は20nm以上で急激に増加することがわかる。言い換えれば、硬質C層34の厚さは、上記の観点からも20nm以下が望ましいことがわかる。
(導電性C層、硬質C層の密着性)
図15は、本発明の表面処理部材(金属セパレータ5)を構成する基材金属31、中間層32、導電性C層33及び硬質C層34からなる炭素表面処理層35において、導電性C層33及び硬質C層34などそれぞれの密着性試験結果を表す図面である。
本実施形態では、厚さ200μmのアルミ基材金属31上に、図7又は図8に示す装置を用いて順々に、厚さ200nm(以上は、クロスポイント法で判別)のCr中間層32を配置(成膜)し、その上に、カーボン(C)製の導電性C層33と硬質C層34からなる炭素表面処理層35を配置している(成膜している)(図1〜15参照)。図12では、硬質C層34の被覆率と成膜厚さを変化させた図面(グラフ)を示す。なお、中間層32には、厚さ200nm(図11のクロスポイント法で判別)のクロムを配置(成膜)した。導電性C層33には、厚さ50nm(平均値)、R=1.3、Hv=564、被覆率>99%、回転異方性=180°対称のものを使用した。また、硬質C層34では、被覆率(%)と厚さ(nm)の関係を変化させて、その関係を調べた。また、硬質C層34には、厚さ15nm(平均値)、R=0.8、Hv=2498、被覆率=18%のものを使用した。
図15では、測定したサンプルは、導電性C層33/Cr中間層32間、並びに硬質C層34/導電性C層33間の密着性(平均接触圧力(MPa)と平均摩擦係数(μ)の確認を行った。
まず、サンプル1)は、Cr中間層32上へ厚さ50nmの導電性C層33を成膜したサンプルである(図中、右側の実線カーブである)。
サンプル2)は、導電性C層33表面上に硬質C層34を厚さ20nmでは位置したサンプルである(図中、右側の破線カーブである)。
これらのサンプル1)、2)を作成し、左のような構成で、マイクロスクラッチ試験を実施した。即ち、密着性試験装置として、Hysitron Inc.製 Tribo Indenterを用い、プローブはダイヤモンド製、先端径84.5μm、定変位引掻き測定により、マイクロスクラッチ試験を実施した。
比較の為、従来知られている燃料電池構成部品の中で、もっとも密着性が弱いと思われるガス拡散層(GDL)上に配置されるマイクロポーラス層(MPL)との密着性を確認した結果も図15に併記する(図中、左側の実線カーブである)。
図15から読み取れるように、MPLの破壊点は5MPa、Cr中間層32上の導電性C層33は250MPa、導電性C層33上の硬質C層34は290MPa(いずれも平均値である)である。
(燃料電池構成部品用表面処理部材の製造方法)
上述した実施形態の表面処理部材を製造する方法について特に制限はなく、従来公知の手法を適宜参照することにより製造することが可能である。以下、表面処理部材を製造するための好ましい実施形態を記載するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。また、セパレータ5を構成する表面処理部材の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
まず、基材金属31の構成材料として、所望の厚さのアルミニウム板、チタン板、ステンレス板などを準備する。次いで、適当な溶媒(例えば、エタノール、エーテル、アセトン、イソプロピルアルコール、トリクロロエチレンおよび苛性アルカリ剤など)を用いて、準備した基材金属31の構成材料の表面の脱脂および洗浄処理を行う。該処理としては、超音波洗浄などが挙げられる。超音波洗浄の条件としては、処理時間が1〜10分間程度、周波数が30〜50kHz程度、および電力が30〜50W程度である。
続いて、基材金属31の構成材料の表面(両面)に形成されている酸化皮膜の除去を行なう。酸化皮膜を除去するための手法としては、酸による洗浄処理、電位印加による溶解処理、またはイオンボンバード処理などが挙げられる。
次に、本発明では、図3A〜3Cに示す形態の表面処理部材(セパレータ5)を製造するには、上述した導電性C層33の成膜工程の前に、基材金属31の少なくとも一方の主表面、好ましくは両表面に中間層32を成膜する工程を行なう。この際、中間層32を成膜する手法としては、導電性C層33の成膜について後述するのと同様の手法(図7、8参照)が採用されうる。ただし、ターゲットを中間層32の構成材料に変更する必要がある。
特に本発明では、中間層32成膜時における負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させる手法が好適である。具体的には、中間層32成膜時の初期では、基材31との界面の粗さを悪くしないように低いバイアス電圧(0V超であればよ、0V超〜50V)で成膜を開始する。その後バイアス電圧を高い値(通常50〜500V、好ましくはに100〜250V)に移行させ柱状結晶構造を太く成長させればよく、予備実験等を通じて最適な中間層32の柱状結晶構造を制御することができる。なお、上記したように、中間層32成膜時の初期では、基材金属31との界面の粗さを悪くしないように低いバイアス電圧(0V超であればよい)で成膜を開始すればよく、例えば、最初0V超〜50Vとし、その後、例えば、120V⇒90V⇒200Vのように高い値から低い値に変化する領域があっても何ら問題ない。これは、バイアス電圧が低い値のとき、柱状晶の柱径は小さくなり、高い値のとき柱径は大きくなる。中間層32成膜時の初期では、基材金属31との界面の粗さを悪くしないように低いバイアス電圧で成膜を開始し、その後バイアス電圧を高い値に移行させ柱状結晶構造を太く成長させるためである。そして、導電性C層33は、中間層32の太い柱状結晶構造のまま成長する。製造方法として、図7や図8に示す装置の設定値を変えるだけの簡便な方法により中間層32が柱状結晶構造を有しており、導電性C層33の最表面に突起状粒子が存在している構造を得ることができる。特に中間層32は、基材金属31上に最初に中間層32を形成する際、最初から柱を太くするためには表面に加わるエネルギーが高くなるため、密着不良をおこす場合がある。したがって、中間層32膜厚のうち基材金属31側は柱状結晶構造の柱径の太さが導電性C層33側に比べ細い方が好ましい。そのため、中間層32成膜時の初期では、基材金属31との界面の粗さを悪くしないように低いバイアス電圧で成膜を開始するのがよい。しかしながら、その後の中間層32の柱状結晶の柱径の太さは、導電性C層33側の最表面まで、出来る限り太い柱状結晶構造が、導電性C層33と中間層32の界面まで維持されているのが望ましい。そのため、その後バイアス電圧を高い値に移行させ柱状結晶の柱径を太く成長させるものである。そして、導電性C層33は、中間層32の柱状結晶の柱径のまま成長する。かかる製造方法により、中間層32の柱状結晶の柱径(柱状径)を導電性C層33との界面まで太くし、その上に形成される導電性C層33における隙間や欠陥を低減することができる。導電性C層33の最表層において200〜500nmの径を持つ突起状粒子は、中間層32の柱状結晶の柱径の発達に起因するものであり、導電性C層33の最表層の隙間の数が減少し、水の侵入を抑制する機能を付与することができる。よって、基材金属31の防食効果を高めることができ、アルミニウムのような腐食しやすい金属の場合でも、表面処理部材(セパレータ5)の基材金属31として適用できる製造方法を確立することができる。
上記した負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させる手法を用いる中間層32を成膜する工程では、前記中間層32は、スパッタリング法により形成する手法がよい。例えば、基材金属31上に中間層32が設けられ、その上に導電性C層33及び硬質C層34を有する炭素表面処理層35が被覆されている表面処理部材の場合、中間層32、導電性C層33及び硬質C層34は、スパッタリング法が好適とされる。プロセス上、その前に行う中間層32の成膜についても、同様なドライプロセス、特にスパッタリング法にて行うことが望ましいためである。中間層32により、導電性C層33及び硬質C層34はを密着不良なく成膜することが可能となるため、高い導電性と耐食性を得ることができる。また導電性C層33及び硬質C層34と同方式にて成膜できるため、製造プロセス費を低コストにすることが可能となる。
また、上記した負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させる手法を用いる中間層32を成膜する工程では、基材金属31の表面に研磨処理等の前処理を施した後、基材金属31の表面にスパッタリング法により皮膜を形成するコーティング処理を行うのが望ましい。これは、研磨処理により基材粗さが小さくなると、柱状晶の核生成サイトの数が少なくなり、個々の柱状晶の柱径は大きくなるためである。ここで、前処理としては、研磨処理の他にも、一般的に実施されている項目が広く採用できる。例えば、電解研磨、ラップ処理、マイクロショット処理などが適用可能である。
上記の処理を施した基材金属31の構成材料の表面に、中間層32、導電性C層33、硬質C層34を順に成膜する。例えば、上述した中間層32の構成材料(例えば、クロム)、導電性C層33及び硬質C層34の構成材料(例えば、グラファイト)を順にターゲットとして、基材金属31の両表面上に、まず上記したバイアス変化により、中間層32の結晶構造を制御し柱状結晶の柱径を太くすることで、クロム中間層32、更に導電性C層33、硬質C層34を原子レベルで積層(成膜)することにより、中間層32、導電性C層33を硬質C層34を順次形成することができる。これにより、直接付着した硬質C層34と導電性C層33と中間層32と基材金属31との界面およびその近傍は、分子間力や僅かな炭素原子の進入によって、長期間にわたって密着性が保持されうる。
中間層32、導電性C層33及び硬質C層34を積層(成膜)するのに好適に用いられる手法としては、例えば、スパッタリング法もしくはイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法、またはフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法などが挙げられる。スパッタリング法としては、マグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法、デュアルマグネトロンスパッタ法、ECRスパッタリング法などが挙げられる。また、イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。なかでも、スパッタリング法およびイオンプレーティング法を用いることが好ましく、スパッタリング法を用いることが特に好ましい。かような手法によれば、水素含有量の少ないC層を形成することができる。その結果、炭素原子同士の結合(sp2混成炭素)の割合を増加させることができ、優れた導電性が達成されうる。これに加えて、比較的低温で成膜が可能であり、基材金属31へのダメージを最小限に抑えることができるという利点もある。さらに、スパッタリング法によれば、バイアス電圧等を制御することで、上記したように中間層32を本発明の構成のように制御された太さを持つ柱状結晶構造の柱径を有するように、成膜される各層の膜質をコントロールできるという利点もある。とりわけ非導電性(絶縁性)の硬質C層34(硬いDLC層)の厚さ、被覆率(表面比)、強度比R、硬度Hv等の膜質を任意にコントロールできるという極めて優れた利点もある。
ここで、中間層32、導電性C層33及び硬質C層34の成膜をスパッタリング法により行なう場合には、スパッタリング時に基材金属31に対して負のバイアス電圧を印加するとよい。かような形態によれば、イオン照射効果によって、クロムが上記したように制御された太さを持つ柱状結晶構造を有する構造やグラファイトクラスターが緻密に集合した構造の中間層32や導電性C層33及び硬質C層34が成膜されうる。このような中間層32は基材金属31の防食効果を高めることができ、アルミニウムのような腐食しやすい金属の場合でも、セパレータ5の基材金属31として適用でき、導電性C層33は優れた導電性を発揮し、接触抵抗の確保を行い、非導電性である硬い硬質C層34が、比較的柔らかい導電性C層33にキズが付くのを効果的に防止することができる。このことから、他の部材(例えば、MEA9)との接触抵抗の小さい表面処理部材(セパレータ5)が提供されうる。当該形態において、印加される負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)は特に制限されず、導電性C層33及び硬い硬質C層34を成膜可能な電圧がそれぞれ採用されうる。一例として、導電性C層33の成膜に印加される電圧の大きさは、50V以上、好ましくは50〜500Vであり、より好ましくは100〜300V(絶対値)である。本実施形態でのテストピース形状では、R≧1.3の場合、バイアス電圧50Vであり、バイアス電圧が50Vより大きければ、R≧1.3を満足する。硬い硬質C層34は、導電性C層33の形成時に設定するバイアス電圧値以下に設定するとともに、スパッタもしくはプラズマ照射時間によって硬質C層34の被覆率を設定するのが望ましい。これは、バイアス変更による炭素膜33、34の効果的な特性制御と被覆率コントロールを成すためであり、バイアス電圧の変更で、炭素質を効果的に変えることが出来、成膜時間によって被覆率をコントロールすることができる(図9〜15参照のこと)。また、バイアス、温度、真空度、供給ガス量(分圧)の少なくとも1つ以上を変える場合、例えば、バイアス100Vを90Vに変化させた場合、当該バイアスの変更(減少)分に見合う運動エネルギーロスだけ温度を上げるとか、供給ガス量(Ar等)の分圧を上げたり、真空度を変化させるなど、適宜調整すればよい。このことは、バイアス以外を用いて成膜する場合に応用(適用)できるものであり、当該バイアスで用いていた運動エネルギーに見合う(同等の)エネルギー量分だけ温度を高めるとか、供給ガス量(Ar等)の分圧を高めるとか、真空度を変化させるなど、適宜調整すればよい。例えば、バイアス電圧が与えられた場合と等価のエネルギーでカーボン(C)がセパレータ5表面に蒸着されればよく、その為には、温度を上げる、ターゲットとの距離を小さくする、Ar分圧を上げるなどがあるが、スパッタの場合、バイアス電圧を適宜調整するのが最もコントロール容易である。
硬い硬質C層34の成膜に印加される負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)は、具体的には、好ましくは0〜50V(絶対値)である。本実施形態でのテストピース形状では、R≦1.0の場合、バイアス電圧0Vで行っており、形状によらず、R≦1.0では0〜50Vであれば、R≦1.0を満足する。
一方、中間層32では、上記の通り、中間層32成膜時における負のバイアス電圧を低い値から高い値へ変化させる手法が好適である。具体的には、後述する実施例のように中間層32成膜時の初期では、基材31との界面の粗さを悪くしないように低いバイアス電圧(0V超であればよ、0V超〜50V)で成膜を開始し、その後バイアス電圧を高い値(通常50〜500V、好ましくは100〜250V)に移行させ柱状結晶構造を太く成長させればよく、予備実験等を通じて最適な中間層32の柱状結晶構造を制御することができる。なお、上記したように、中間層32成膜時の初期では、基材31との界面の粗さを悪くしないように低いバイアス電圧(0V超であればよい)で成膜を開始すればよく、例えば、最初0V超〜50Vとし、その後、例えば、120V⇒90V⇒200Vのように高い値から低い値に変化する領域があっても何ら問題ない。これは、バイアス電圧が低い値のとき、柱状晶の柱径は小さくなり、高い値のとき柱径は大きくなる。中間層32成膜時の初期では、基材との界面の粗さを悪くしないように低いバイアス電圧で成膜を開始し、その後バイアス電圧を高い値に移行させ柱状結晶構造を太く成長させるためである。そして、導電性C層33及び硬質C層34は、中間層32の太い柱状結晶構造のまま成長させることが可能となるものである。
なお、中間層32、導電性C層33及び硬質C層34の成膜時のその他の条件等の具体的な形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、UBMS法により導電性C層33及び硬質C層34を成膜する場合には、予め同様の装置及び製法で中間層32を形成しておき、その上に導電性C層33及び硬質C層34を形成することが好ましい。これにより、下地層との密着性に優れる中間層32、導電性C層33及び硬質C層34が形成されうる。ただし、他の手法によって中間層32を形成し、異なる装置や製法にて導電性C層33や硬質C層34をそれぞれ成膜するようにしても良い。この場合であっても、基材金属31との密着性に優れる中間層32、更には導電性C層33及び硬質C層34が形成されうる。
上述した手法によれば、基材金属31の両表面に中間層32、更には導電性C層33及び硬質C層34が形成された表面処理部材が製造されうる。基材金属31の両面に中間層32、更には導電性C層33及び硬質C層34が形成されてなる表面処理部材を製造するには、市販の適用な成膜装置(両面同時スパッタ成膜装置およびこれを用いたスパッタ成膜方法やイオンプラズマ成膜法など)を用いてもよいし、別途、基材金属31の両表面に中間層32、更には導電性C層33及び硬質C層34が成膜可能なスパッタリング装置やイオンプラズマ装置を用いて成膜を施してもよいなど特に制限されるものではない。
また、コスト的には、有利とはいえないが、基材金属31の一方の主表面に中間層32、更には導電性C層33及び硬質C層34を成膜し、ついで基材金属31の他方の主表面に対して、上述したのと同様の手法によって、中間層32、導電性C層33、硬質C層34を順次形成してもよい。あるいは、まず、クロムをターゲットとした装置内で、基材金属31の一方の主表面に中間層32を成膜し、続いて、上記工程により成膜された中間層32と対向する主表面とは異なる主表面に中間層32を成膜する工程を行なう。続いて、ターゲットをカーボンに切り替えて、同じ装置内部で、基材金属31の一方の主表面に形成された中間層32上に導電性C層33を成膜し、続いて、上記工程により成膜された導電性C層33と対向する主表面とは異なる主表面にと対向する主表面とは異なる主表面に、導電性C層33を成膜する工程を行なえばよい。最後に、装置をAIPに切り替えて、ターゲットをカーボンとし、AIP装置内部で、基材金属31の一方の主表面に形成された中間層32上の導電性C層33表面に硬質C層34を成膜し、続いて、上記工程により成膜された硬質C層34と対向する主表面とは異なる主表面にと対向する主表面とは異なる主表面に、硬質C層34を成膜する工程を行なえばよい。このように、基材金属31の両表面への中間層32の成膜や、該中間層32表面に導電性C層33や硬質C層34を成膜する手法としても、基材金属31の一表面への中間層32や導電性C層33や硬質C層34の成膜について上述したのと同様の手法(但し、工数は半減可能である)が採用されうるなど、特に制限されるものではない。
本発明の中間層32、導電性C層33、硬質C層34の各層のスパッタによる成膜は、公知で市販されている装置を用いて形成することが出来る。
図7は、本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材、特に中間層、導電性C層、硬質C層の各層のいずれか少なくとも1層、好ましくはこれら各層を順にスパッタリング法を用いて成膜(形成)するための製造装置の平面概略図である。ここでは、スパッタリング装置として、実施例でも用いたアンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法に適用し得る装置を示している。
図8は、本発明の燃料電池構成部品用表面処理部材、特に中間層、導電性C層、硬質C層の各層のいずれか少なくとも1層、好ましくはこれら各層を順にアークイオンプレーティング(AIP)法を用いて成膜(形成)するための製造装置の平面概略図である。但し、図7及び図8中には、凹凸プレス前の平板型の金属セパレータに替えて、既存の円盤状のウエハをセットした例を示している。
図7及び図8に示す装置300、400を用いてそれぞれスパッタリングする場合、セパレータ5が回転するテーブル301、401に1枚ないし複数枚配置され、各セパレータ5の表裏に成膜するために、各セパレータ5自身も回転する。回転するテーブル301、401とセパレータ5それぞれの矢印方法は、回転の方向を示す。
真空チャンバー303、403内は10−1〜10−2Torrレベルで保持され、必要に応じて。給気口305、405より、N、Ar等のガス(図示せず)を導入することが出来る。不要な雰囲気ガスや余分なガスソースは、真空チャンバー303、403内の所定の圧力(真空圧等)を制御すべく、排気口307、407より適宜排気される。
真空チャンバー303、403並びに各セパレータ5を保持するテーブル301、401自体には温調設備が接続され、温度調節もすることが出来る。
まず、各セパレータ5表面をArイオンボンバード(逆スパッタ)にてセパレータ5表層に存在する酸化皮膜を取り除く。酸化皮膜は数オングストロームの厚さで形成されるため、除去時間は数秒〜数分で良い。本実施形態では導電性C層33の成膜前に中間層32としてCrを配置する。このため、チャンバー301、401内にはCrターゲット(スパッタリングターゲット(Cr))309、409を配置する。Crによる中間層32形成後、続けて同一チャンバー301、401内に配置したカーボン)ターゲット(スパッタリングターゲット(C))311、411を用いて導電性C層33を形成する。
硬質C層34をスパッタリングで形成する場合、ターゲットは導電性C層33で使用したターゲット(スパッタリングターゲット(C))311、411を使用することが出来、導電性C層33の形成に続いて、各セパレータ5のバイアス電圧や温度、真空度等を変更して続けて形成することが出来る。
導電性C層34は、層を形成する炭素分子内に水素が存在することで、導電性が落ちる傾向があることから、固体(例えば、カーボングラファイトなど)をターゲットとするスパッタが好ましい。
硬質C膜34を図8に示す装置を用いて、アークイオンプレーティング(AIP)やで形成する場合、ターゲットは導電性C層33で使用したターゲット(スパッタリングターゲット(C))411と同一の炭素を使用することが出来るが、アーク放電向けの別の蒸着源413を配置することで、同一チャンバ401内で真空度を落とすことなしに成膜することが可能である。図8に示す装置を用いてAIP法による硬質C層34の形成においても、所定の特性を有する炭素層34を得るために、アーク電源415の条件(電圧・電流)や真空度、温度、バイアス電圧等を、導電性C層33から変更することで得ることが可能である。また装置は図示していないがイオン化蒸着法による硬質C層34の形成においても、所定の特性を有する炭素層34を得るために、イオン化条件、電源条件(電圧・電流)や蒸着条件(真空度、温度、バイアス電圧)等を、導電性C層33から変更することで得ることが可能である。
硬質C層34の形成は、例えば、図7又は図8の装置を用いて、導電性C層33の蒸着後に、バイアス(電圧)、温度、真空度、供給ガス量(分圧)の少なくとも1つ以上を変えて、同一バッチもしくは工程上で形成するのが望ましい。これは、硬質C層34は、導電性C層33成膜後に連続的に形成することができるためであり、同一の成膜プロセス上で形成できるため、低コストになる点で優れている。
本発明では、導電性C層33並びに硬質C層34は、図7に示す装置を用いてスパッタリングにて形成し、前記硬質C層34は、図7に示す装置を用いてスパッタリングで形成するかもしくは、図8に示す装置を用いてAIP法もしくはイオン化蒸着法にて形成するのが望ましい。これは、導電性C層33をスパッタリングで成膜し、硬質C層34をスパッタリングもしくはAIP法やイオン化蒸着法にて成膜する形態である。これにより、AIP法やイオン化蒸着法を使うことで、より硬質な炭素部位を作ることが出来る点で優れている。
スパッタリングとともに、固体ソース(例えば、グラファイトカーボン)による炭素層34の成膜が好ましい。ガスソースの成膜でも、例えばCVD法により硬質炭素層34を形成することが出来るが、導電性C層33の形成から連続的に行うにあたっては、これとどうような固体ソースの成膜が好ましい。なお、ガスソースとしては、例えば、C、CH、Cなどの炭素含有ガスが挙げられるが、これらに制限されるものではない。但し、ガスソースの場合は、ガス種によっては、H(水素)濃度が高いため、抵抗が高くなる恐れがある。特に、硬質C層34の成膜では、固体ソース、ガスソースのどちらでも好適に利用できる。この場合、同一ソースを用いるのが、低コストで有利である。一方、導電性C層33の成膜では、固体ソースが望ましい。ガスソースでは、現在用いられているガス種ではいいものができにくい。これは水素が膜内に入るためである(その結果、導電性が低下する)。
なお、ターゲット309、311、409、411、413のサイズ並びに個数はセパレータ5のサイズや処理量等によって適宜調整できる。
本発明では、セパレータ5だけでなく、導電性と耐食性が必要とされる構成部品の表面であれば、何処にでも適応が可能である。例えば、複数のセルを積層したスタックの両端に配置する集電板30、40(図4参照)や、ガス拡散層(GDL)4、電圧をモニタリングする際の端子接続部(図示せず。図4の出力端子37、47参照)などが挙げられる。
本実施形態の表面処理部材は、種々の用途に用いられうる。その代表例が図1〜4に示すPEFCのセパレータ5である。ただし、本実施形態の表面処理部材の用途はこれに限られることはない。例えば、PEFC以外にも、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)またはアルカリ形燃料電池(AFC)などの各種の燃料電池用セパレータとしても使用可能である。また、燃料電池用セパレータ以外にも、導電性・耐食性の両立が求められている各種の用途に用いられうる。本実施形態の表面処理部材が用いられうる燃料電池用セパレータ以外の用途としては、例えば、他の燃料電池部品(集電板、バスバー、ガス拡散基材、MEA)、電子部品の接点などが挙げられる。他の好ましい形態において、本実施形態の表面処理部材は、湿潤環境および通電環境の下で使用される。かような環境下で用いると、導電性および耐食性の両立を図るという本発明の作用効果が顕著に発現しうる。
以下、図1〜5等を参照しつつ、本実施形態の導電部材から構成されるセパレータ5を用いたPEFCの構成要素について説明する。ただし、本発明はセパレータ5を構成する表面処理部材に特徴を有するものである。よって、PEFCにおけるセパレータ5の形状等の具体的な形態や、燃料電池を構成するセパレータ5以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施されうる。図4は、図1の燃料電池のユニットセル構成を複数積層してなる燃料電池スタック構成の一例を説明するための断面概略図であり、図5は、図4の燃料電池スタック構成の斜視図である。
[電解質層]
電解質層は、例えば、図1、4に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3bへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
電解質層2の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層2の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層2の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
[触媒層3]
図1、11に示す触媒層3(アノード触媒層3a、カソード触媒層3b)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3bでは酸素の還元反応が進行する。
触媒層3は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
アノード触媒層3aに用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層3bに用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層3aに用いられる触媒成分およびカソード触媒層3bに用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3bの触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過形電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m/g、より好ましくは80〜1200m/gである。触媒担体の比表面積がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
触媒担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm程度、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
触媒担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、電極触媒における触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定されうる。
触媒層3には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上述した電解質層2を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層3に添加されうる。
[ガス拡散層(GDL)4]
図1、4に示すガス拡散層4(ガス拡散層4a、カソードガス拡散層4b)は、金属セパレータ5(アノードセパレータ5a、カソードセパレータ5b)のガス流路(燃料ガス流路5a’、酸化剤ガス流路5b’)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3b)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(4a、4b)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層4は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層4は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MLP、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層4との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは50〜500μmとするのがよい。
[セパレータ5]
図1〜15等に示す金属セパレータ5(表面処理部材)については、後述する実施例にて説明したとおりである。
本実施形態の表面処理部材は、種々の用途に用いられうる。その代表例が図1に示すPEFCの金属セパレータ5である。ただし、本実施形態の表面処理部材の用途はこれに限られることはない。例えば、PEFC以外にも、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)またはアルカリ形燃料電池(AFC)などの各種の燃料電池用セパレータとしても使用可能である。また、燃料電池用セパレータ以外にも、導電性・耐食性の両立が求められている各種の用途に用いられうる。本実施形態の表面処理部材が用いられうる燃料電池用セパレータ以外の用途としては、例えば、他の燃料電池部品(集電板、バスバー、ガス拡散基材、MEA)、電子部品の接点などが挙げられる。他の好ましい形態において、本実施形態の表面処理部材は、湿潤環境および通電環境の下で使用される。かような環境下で用いると、導電性および耐食性の両立を図るという本発明の作用効果が顕著に発現しうる。
[セルユニットの基本的な構成]
図1、4において、固体高分子型燃料電池の単セル(セルユニット)1の基本的な構成は、固体高分子電解質膜2の両側に、燃料極側電極触媒層3aおよび燃料極側ガス拡散層4aからなる燃料極と、酸素極側電極触媒層3bおよび酸素極側ガス拡散層4bからなる酸素極とが、それぞれ対向して配置されてなるMEA9を有しており、さらにMEA9を、燃料極側セパレータ5aおよび酸素極側セパレータ5bで挟持されてなるものである。また、MEAに供給される燃料ガス(水素含有ガス)および酸化剤ガス(空気)は、燃料極側セパレータ5aおよび酸素極側セパレータ5bに、燃料極側電極触媒層3aおよび酸素極側電極触媒層3bと対向する面にそれぞれ複数箇所形成された燃料ガス流路5a’および酸化剤ガス流路5b’などを介して供給される。
前記セルユニット(単セル)1を燃料電池(スタック)20に用いるには、前記単セル1を単独または2以上積層したスタック(積層スタック)を、さらに前記単セル1ないし積層スタックの厚さ方向の両側(両端)から一対のエンドプレート、すなわち燃料極側エンドプレート70および酸素極側エンドプレート80で締結することにより用いられる(図5参照のこと)。
燃料電池スタック20の構成(集電板で挟持された部分とする)として、より詳しくは、図4に示すように、複数の燃料電池の単セル(セルユニット)1が積層されたスタック部20を有しており、電源として利用される。電源の用途は、例えば、定置用、携帯電話などの民生用携帯機器用、非常用、レジャーや工事用電源などの屋外用、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用である。特に、移動体用電源は、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求されるため、適用が好ましい。また、本発明の燃料電池を搭載してなる車両では、燃料電池セパレータ、集電板等の構成部品(導電部材)を通じて薄肉化、低コスト化が図れ、燃料電池の出力密度の向上に寄与し得る。そのため、車両重量の軽減や車両コストの低減が図れ、また同じ体積の燃料電池を搭載した際に、より長い走行距離を走ることができ、また加速性能のなどの向上にもつながる。
本発明の燃料電池単セル(セルユニット)1では、燃料電池セパレータ、集電板等の構成部品(導電部材)を通じて薄肉化、低コスト化が図れ、スタックを形成した際に、燃料電池スタック20の出力密度の向上に寄与し得るものである。加えて、燃料電池セパレータ、集電板等の構成部品(導電部材)の耐食性にも優れ、燃料電池スタック20の耐久性(長寿命化)も図れる。
スタック部20の両側には、集電板30、40、絶縁板50、60およびエンドプレート70、80が配置される。集電板30、40は、緻密質カーボンや銅板やアルミ板などガス不透過な導電性部材から形成され、また、スタック部20で生じた起電力を出力するための出力端子37、47が設けられている。絶縁板50、60は、ゴムや樹脂等の絶縁性部材から形成される。
ここで、上記集電板30、40として、上記したカーボン等に変えて、薄肉化、低コスト化の観点から、ステンレスよりも薄肉軽量化に優れる反面、耐食性に乏しい銅板やアルミ板等を集電板30、40に用いる場合には、本発明の構成を採用することができる。かかる構成とすることで、中間層32、導電性C層33及び硬質C層34で液滴の浸入による基材31の腐食を防止しつつ、導電性C層33及び硬質C層34の最表面で抵抗低減を図った表面処理部材を形成できる。その結果、金属製集電板30、40の導電性を維持したまま酸性雰囲気下に曝されても化学的安定性を維持することが出来る。詳しくは、電気抵抗(ここでは、図4に示すように、セパレータ5との接触抵抗)の増加を発生させることなく、ピンホール等の欠陥に対するイオン溶出性の抑制も効果的に行える表面処理を施した集電板30、40を提供することができる。
また、図5に示すように、エンドプレート70、80は、剛性を備えた材料、例えば鋼などの金属材料から形成される。エンドプレート70、80は、燃料ガス(例えば、水素)、酸化剤ガス(例えば、酸素)および冷却水を流通させるために、燃料ガス導入口71、燃料ガス排出口72、酸化剤ガス導入口74、酸化剤ガス排出口75、冷却水導入口77、および冷却水排出口78を有する。
スタック部20、集電板30、40、絶縁板50、60およびエンドプレート70、80の四隅には、タイロッド90が挿通される貫通孔が配置される。タイロッド90は、その端部に形成される雄ねじ部に、ナット(図示せず)が螺合され、燃料電池スタック200の内部(スタック部20)をエンドプレート70、80により締結する。スタック形成のための荷重は、燃料電池単セル(セルユニット)1(MEA9)の積層方向に作用し、燃料電池単セル(セルユニット)1を押し圧状態に保持する。
タイロッド90は、剛性を備えた材料、例えば、鋼などの金属材料から形成され、また、燃料電池単セル201同士の電気的短絡を防止するため、絶縁処理された表面部を有する。タイロッド90の設置本数は、4本(四隅)に限定されない。タイロッド90の締結機構は、螺合に限定されず、他の手段を適用することも可能である
燃料電池単セル(セルユニット)1は、上述したように、MEA9、セパレータ5a、5bを有し、更にガスケット(図示せず)を有してなる構成が望ましい。MEA9は、電解質膜2と、電解質膜2を挟んで配置される燃料極側電極(触媒層3a及びガス拡散層4a)及び酸素極側電極(触媒層3b及びガス拡散層4b)を有する。セパレータ5a、5bは、MEA9の外面に配置される。セパレータ5aは、燃料ガスを流通させるための流路5a’を有し、エンドプレート70に配置される燃料ガス導入口71および燃料ガス排出口72に接続されている。セパレータ5bは、酸化剤ガスを流通させるための流路5b’を有し、エンドプレート80に配置される酸化剤ガス導入口74および酸化剤ガス排出口75に接続されている。
なお、セパレータ5a、5bは、冷却水を流通させるための流路8を有しており、エンドプレート70、80に配置される冷却水導入口77および冷却水排出口78に接続されている。
次に、ガスケットは、MEA9の表面に位置する電極の外周を、取り囲むように配置されるシール部材であり、接着層(図示せず)を介して、MEA9の電解質膜2の外面に固定される構成を有していてもよい。ガスケットは、セパレータ5とMEA9とのシール性を確保する機能を有している。なお、必要に応じて用いられる接着層は、接着性を確保することを考慮すると、ガスケットの形状に対応し、電解質膜2の全周縁部に、額縁状に配置されることが好ましい。
又、本発明の表面処理部材を用いてなる燃料電池スタック200では、集電板30、40に貫通した状態で形成されるマニホールド(アノード、カソードならびに冷却水それぞれの入り口出口1箇所ずつ計6箇所)の貫通部内壁にも、本発明で見出された表面処理部材の構成を形成するのが望ましい実施形態である。即ち、マニホールドの貫通部内壁では、導電性が不要であるため、金メッキのような表面処理層を設けることなく、PTFE粒などの撥水性を有するフィラー41を含有した中間層(Ni層)を形成するのが望ましい。これにより、マニホールドの貫通部の基材の腐食を効果的に防止できる点で極めて有効である。
以上が、本発明の表面処理部材を用いてなる燃料電池スタック200の構成の概要であり、セパレータ及び集電板以外にも、導電性と耐食性を必要とする燃料電池の構成部品(表面処理部材)については、本発明の構成を採用し得るものである。これにより、当該燃料電池の構成部品(表面処理部材材)、ひいては燃料電池スタックの薄肉・軽量化を図ることができ、出力密度を向上させることに貢献し得るものである。更に、低コスト化にもつながる為、価格低減が強く求められている燃料電池車に搭載する電池要素技術としても有用である。
本発明の燃料電池の製造方法は、セパレータ(特に上記した製造方法を除いては)特に制限されず、燃料電池の分野において従来公知の知見を適宜参照することにより製造可能である。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料ガス(水素含有ガス)の種類としては、上記した説明中では水素を例に挙げて説明したが、特に限定されない。水素以外にも、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2級ブタノール、3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールを用いることができる。なかでも高出力化が可能である点で、水素とメタノールが好ましく挙げられる。
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい(図4、5参照)。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
本発明の燃料電池の用途としては特に制限されないが、発電性能に優れることから、自動車などの車両における駆動用電源として用いられることが好ましい。
上述したPEFC1や燃料電池スタックは、導電性・耐食性に優れる表面処理部材から構成されるセパレータ5を用いている。したがって、当該PEFC1や燃料電池スタックは出力特性・耐久性に優れ、長期間にわたって良好な発電性能を維持することができる。なお、図1に示す形態のPEFC1において、セパレータ5は、平板状の表面処理部材(に対してプレス処理を施すことで凹凸状に成形されている。ただし、かような形態のみには制限されない。例えば、平板状の金属板(基材金属21)に対して切削処理を施すことによりガス流路や冷媒流路を構成する凹凸形状を予め形成し、その表面に、上述した手法によって中間層32、導電性C層33及び硬質C層34を形成することで、セパレータ5としてもよい。
本実施形態のPEFC1やこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
図6は、上述した実施形態の燃料電池スタックを搭載した車両の概念図である。図6に示すように、燃料電池スタック200を燃料電池車210のような車両に搭載するには、例えば、燃料電池車210の車体中央部の座席下に搭載すればよい。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができる。場合によっては、燃料電池スタック200を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームであってもよい。このように、上述した形態のPEFC1や燃料電池スタック200を搭載した車両もまた、本発明の技術的範囲に包含される。上述したPEFC1や燃料電池スタック200は出力特性・耐久性に優れる。したがって、長期間にわたって信頼性の高い燃料電池搭載車両が提供されうる。
以下、本発明による効果を、実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されない。
[実施例1〜3及び比較例1、2]
<成膜>
基材金属31には、厚さ0.5mmのアルミA1050(30×30mmの平板を用い、凹凸プレスしていないもの)を用い、前処理としてエタノール液中で基材金属31両面を3分間超音波洗浄した。その後、図7に示すスパッタリング装置300の真空チャンバー301にセパレータ5の基材金属31をセットし、チャンバー301内を排気口307より排気して10−3Pa程度の真空度にするとともに、給気口305よりArガス(0.1〜1Pa)を用いて、アルミ(基材金属31)両表面に形成された酸化皮膜の除去を実施した。
続いて、図7の装置を用いて、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法により、Crをスパッタリングターゲット(Cr)309として使用して、セパレータ5の基材金属31の両表面にCr中間層32を配置した。この際、セパレータ5の基材金属31には50Vの負のバイアス電圧を印加しながら、成膜時間によってCr中間層32の厚さを制御し、全ての実施例、比較例とも基材金属31両面にそれぞれ厚さ200nm配置した。
続けて導電性C層33は、図7に示す装置にセッットしたままの状態で、UBMS法により、固体グラファイトをスパッタリングターゲット(C)311として使用し、セパレータ5(中間層32形成後の基材金属31)に140Vの負のバイアス電圧を印加しながら、中間層32の両表面上にそれぞれ厚さ50nmに成膜した。
硬質C層34は、同じく図7に示す装置を用い、スパッタ法によって、セパレータ5自体(中間層32、導電性C層33を順次形成後の基材金属31)に負のバイアス電圧を変化させて、硬質C層34が導電性C層33の両表面上に配置されている炭素表面処理層35を形成した。
実施例1では、セパレータ5(中間層32、導電性C層33を順次形成後の基材金属31)自体にバイアス電圧0Vの印加(=無印加な状態で成膜)を行って配置し、厚さ5nm、表面比(被覆率)10%の硬質C層34が導電性C層33の両表面上に配置されている炭素表面処理層35を形成した。
実施例2では、セパレータ5自体(中間層32、導電性C層33を順次形成後の基材金属31)に負のバイアス電圧50Vの印加を行って配置し、厚さ15nm、表面比(被覆率)18%の硬質C層34が導電性C層33の両表面上に配置されている炭素表面処理層35を形成した。
実施例3では、セパレータ5自体(中間層32、導電性C層33を順次形成後の基材金属31)に負のバイアス電圧50Vの印加を行って配置し、厚さ20nm、表面比(被覆率)91%の硬質C層34が導電性C層33の両表面上に配置されている炭素表面処理層35を形成した。
比較例1では、セパレータ5自体(中間層32、導電性C層33を順次形成後の基材金属31)に負のバイアス電圧を印加せず、成膜することもなく、硬質C層34のない導電性C層33からなる炭素表面処理層35を形成した。
比較例2では、セパレータ5自体(中間層32、導電性C層33を順次形成後の基材金属31)に負のバイアス電圧50Vの印加を行って配置し、厚さ30nm、表面比(被覆率)95%の硬質C層34が導電性C層33の両表面上に配置されている炭素表面処理層35を形成した。
上記実施例及び比較例では、導電性C層32までは全て同一バッチで成膜しているため、特性が全て一緒であるが、硬質C層34については、別途後処理によって追加している。得られた実験結果を下記表1に示す。
<硬質炭素層の厚さ(平均値)>
実施例1〜3では、硬質C層の厚さ(平均値)が1〜20nmを全て満足することが確認できた。そのため、キズの防止のため硬質C層は最表層だけに配置することで、炭素層自体の貫通抵抗増加を防止することが出来る。硬質C層の厚さ(平均値)が1nm以上である各実施例では被覆率が十分であり、尚且つ硬質C層の厚さ(平均値)が20nm以下である各実施例では、被覆率が大きすぎることもなく適度であり、絶縁性の硬質C層自体の貫通抵抗が上乗せされることもなく、抵抗があがってしまう現象も確認さえれなかった。
<導電性C層33と硬質C層34の被覆率>
上記実施例及び比較例の導電性C層33と硬質C層34の被覆率は、あらかじめ取得した成膜時間と膜厚さもしくは被覆率との関係から、成膜時間からコントロールしている。結果を表1に示す。
なお、表1より、導電性C層33の被覆率は、いずれも99%>であり、60%以上を満足する。導電性C層33の被覆率が「99%>」とは、オージェの面分析では画像比は100%として処理(計算)される。但し、キズに対する感度;Al溶出の測定試験(TP浸漬実験)の結果から、測定限界未満の微小なピンホールなどが存在する為、敢えて「100%」とせずに、極僅かではあるがAlがppbレベルで溶出し得る微小なピンホール等の存在を考慮し「99%>」との表記とした。これは被覆率が少なくとも99%以上ではあるが100%ではないという意味内容ともいえる。
<接触抵抗評価結果>
実施例1〜3及び比較例1、2の接触抵抗評価結果を表1に示す。
この結果、比較例1として、実施例1の硬質C層34のない導電性C層33からなる炭素表面処理層35を形成したセパレータ5では、接触抵抗は5mΩcmで低い値を示した。硬質C層34を配置すると抵抗は増加する傾向を示し、例えば、硬質C層34の膜厚5nm、被覆率10%では5.5mΩと抵抗増加が非常に低く抑えられていた(実施例1参照)。硬質C層34の膜厚が増加し、硬質C層34の膜厚15nm、被覆率18%までは8.2mΩまでの抵抗増加で収まり(実施例2参照)、硬質C層34の膜厚20nm、被覆率91%でも8.9mΩまでの抵抗増加で収まっていた(実施例3参照)。しかしながら、硬質C層34の膜厚30nm、被覆率95%では830mΩと非常に顕著な抵抗増加が確認された(比較例2参照)。
また、実施例1、2では、硬質C層の表面比(被覆率)が、導電性C層上に30%以下を満足することが確認できた。実施例3では、硬質C層の表面比(被覆率)が、導電性C層上に91%と高く、当該要件を満足することがはできていなかった。そのため、接触抵抗が8.9mΩcm程度と僅かながら高い値を示すことが考えられるが、本発明の作用効果を十分に達成し得るものであり、十分金属セパレータ5としての利用が可能である。
<キズに対する感度;Al溶出の測定>
実施例1〜3及び比較例1、2のキズに対する感度試験としてのAl溶出の測定結果を表1に示す。
ここで、キズに対する感度は、図15に示すスクラッチ試験により、導電性C層33/中間層32間=250MPa、導電性C層33/硬質C層3=290MPaの密着性である。そこで、試作した実施例1〜3・比較例1、2に対して、所定量の範囲で面圧250MPaでスクラッチを行った(マイクロスクラッチ試験を鑑みて)。
キズによってイオン溶出が異なると考えられるため、下記条件で浸漬試験を実施した。Al溶出の測定でのTP浸漬試験では、硫酸pH4、100時間、80℃の水溶液70ccに、試作した実施例1〜3・比較例1、2のテストピース(TP)=30×30mmを自然浸漬後、溶液をICP−MSにて定量してAl溶出量を求めた。結果を図1に示す。
その結果、硬質C層34の被覆率に反比例して、基材金属31の金属溶出の減少が確認された。詳しくは、実施例1では、硬質C層34の膜厚5nm、被覆率10%、硬さHv1150であり、Al溶出量も28ppbと低く抑えられていた。実施例2では、硬質C層34の膜厚15nm、被覆率18%、硬さHv1100であり、Al溶出量も18ppbと、とても低く抑えられていた。実施例3では、硬質C層34の膜厚20nm、被覆率91%、硬さHv1105であり、Al溶出量も18ppbと、とても低く抑えられていた。
なお比較例2でも、硬質C層34の膜厚30nm、被覆率95%、硬さHv1120であるため、Al溶出量に関しては11ppbと、とても低く抑えられることがわかった(比較例2参照)。
一方、比較例1では、硬い硬質C層34を持たない構成上、硬質C層34の膜厚0nm、被覆率0%、硬さHv−(測定できず)であり、最表面に比較的柔らかい導電性C層33が露出する構成(図3D参照)となるため、Al溶出量が42ppbと大きくなり、十分な抑制効果が得られないことがわかった。
上記の結果から、導電性を保持しつつ、イオン溶出を抑制するには、本発明の実施が効果的であることが分かる。
[参考例1]
燃料電池構成部品用表面処理部材を構成する基材金属31の構成材料として、ステンレス(SUS316L)板(厚さ:100μm)を準備した。このステンレス板を、前処理としてエタノール水溶液中で3分間超音波洗浄した。次いで、洗浄したステンレス板を真空チャンバ内に設置し、Arガスによるイオンボンバード処理を行なって、表面の酸化皮膜を除去した。なお、上述した前処理(洗浄)およびイオンボンバード処理は、いずれもステンレス板の両面に対して行った。
続いて、図7の装置を用いて、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法により、Crをターゲットとして、ステンレス板に対して50Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、ステンレス板の両面にそれぞれ0.2μmの厚さのCrからなる中間層32を形成した。
さらに、UBMS法により、固体グラファイトをターゲットとして、ステンレス板に対して100Vの大きさの負のバイアス電圧を印加しながら、ステンレス板の両面の中間層32の上に、それぞれ0.2μmの厚さの導電性C層33を形成した。これにより、本参考例1の表面処理部材を作製した(図3D参照)。
[参考例2]
導電性C層33を形成する際に印加する負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)を140Vとしたこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、本参考例2の表面処理部材を作製した(図3D参照)。
[参考例3]
導電性C層33を形成する際に印加する負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)を300Vとしたこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、本参考例3の表面処理部材を作製した(図3D参照)。
[参考例4]
導電性C層33を形成する際に印加する負のバイアス電圧の大きさ(絶対値)を450Vとしたこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、本参考例4の表面処理部材を作製した(図3D参照)。
[参考例5]
基材金属31を構成する材料をアルミニウムとしたこと以外は、上述した参考例2と同様の手法により、本参考例5の表面処理部材を作製した(図3D参照)。
[参考例6]
中間層32および導電性C層33を形成する手法を、図8の装置を用いて、アークイオンプレーティング(AIP)法としたこと以外は、上述した参考例2と同様の手法により、本参考例6の表面処理部材を作製した(図3D参照)。
[参考例7]
中間層32を形成せず、ステンレス板(基材金属31)上にECRスパッタリング法により直接導電性C層33を形成したこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、本参考例7の表面処理部材を作製した。
[比較例3]
中間層32を形成せず、ステンレス板(基材金属31)上に直接導電性C層33を形成したこと、およびその形成時に負のバイアス電圧を印加しなかったこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、本比較例3の表面処理部材を作製した。
[比較例4]
導電性C層33の形成時に負のバイアス電圧を印加しなかったこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、本比較例4の導表面処理部材を作製した。
[比較例5]
中間層32および導電性C層33を形成する手法をプラズマ化学気相蒸着(CVD)法としたこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、本比較例5の表面処理部材を作製した。
[比較例6]
中間層32および導電性C層33を形成する手法をイオン化蒸着法としたこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、本比較例6の表面処理部材を作製した。
[比較例7]
中間層32を形成せず、導電性C層33を形成する手法を熱化学気相蒸着(CVD)法とし、導電性C層33の厚さを0.08μmとしたこと以外は、上述した参考例1と同様の手法により、本比較例7の表面処理部材を作製した。なお、熱CVDを実施する際の成膜温度は850℃に設定した。
[接触抵抗の測定]
上記の各参考例および比較例3〜7において作製した表面処理部材について、表面処理部材の積層方向の接触抵抗の測定を行なった。具体的には、図21に示すように、上記の各参考例および比較例3〜7において成膜した表面処理部材(セパレータ5)の両側を1対のガス拡散基材(アノードGDL4a及びカソードGDL4b)で挟持し、得られた積層体の両側をさらに1対の電極(アノード触媒層3a及びカソード触媒層3b)で挟持し、その両端に電源を接続し、電極(アノード触媒層3a及びカソード触媒層3b)を含む積層体に1MPaの荷重で保持して、測定装置を構成した。この測定装置に1Aの定電流を流し、1MPaの荷重をかけた時の通電量及び電圧値から積層体(セパレータ5、アノードGDL4a及びカソードGDL4b、アノード触媒層3a及びカソード触媒層3bを含む)の接触抵抗値を算出した。
上記で接触抵抗値を測定した後、酸性水に対する浸漬試験を行ない、同様に接触抵抗値を測定した。なお、浸漬試験として、具体的には、各参考例および比較例3〜7にて成膜されたセパレータ5の基材金属31(各表面処理部材)を30mm×30mmサイズに切り出し、80℃の温度の酸性水(各参考例および比較例3〜7共にpH4以下)に100時間浸漬し、浸漬試験前後の接触抵抗値を測定した。得られた結果を下記の2に示す。
表2に示すように、実施例1、2において作製した表面処理部材の場合には、基材金属31に腐食しやすいアルミニウムを用いているにも関わらず、基材金属31にステンレスを用いている各参考例や比較例の場合とは異なり、浸漬試験後であっても、接触抵抗が極めて小さい値に抑えられる。
上記の実施例1〜3、各参考例および各比較例において作製した表面処理部材について、導電性C層33のR値の測定を行なった。具体的には、まず、顕微ラマン分光器を用いて、導電性C層33のラマンスペクトルを計測した。そして、1300〜1400cm−1に位置するバンド(Dバンド)のピーク強度(I)と、1500〜1600cm−1に位置するバンド(Gバンド)のピーク強度(I)とのピーク面積比(I/I)を算出して、R値とした。得られた結果を下記の表1、2に示す。
表1に示すように、実施例1〜3及び比較例1、2の導電性C層33のR値はいずれも同じ条件で作製しており、R値(表1ではD/Gで表記した)は全て1.3であった。
次に表2に示すように、参考例1〜7において作製した表面処理部材における導電性C層33のR値は、いずれも1.3以上であった。一方、比較例3、5、6および7において作製した表面処理部材における導電性C層33のR値は、いずれも1.3未満であった。
[導電性C層33における水素原子の含有量の測定]
上記の各参考例および比較例3〜7において作製した表面処理部材について、弾性反跳散乱分析法(ERDA)により、導電性C層33における水素原子の含有量を測定した。得られた結果を下記の表2に示す。
[導電性C層33のビッカース硬度Hvの測定]
上記の実施例1〜3、各参考例および各比較例において作製した面処理部材について、ナノインデンテーション法により、導電性C層のビッカース硬度の測定を行なった。得られた結果を下記の表1、表2に示す。
表1に示すように、実施例1、2及び比較例1、2の導電性C層33の硬さ(Hv)ははいずれも同じ条件で作製しており、硬さ(Hv)は564であった。
また、導電性C層33の硬さ(Hv)は、実施例1で硬さ(Hv)は1150であり、実施例2で硬さ(Hv)は1100であり、実施例3で硬さ(Hv)は1105であり、比較例2で硬さ(Hv)は1120であった。なお、比較例1は、導電性C層33を持たない構成であるため、硬さ(Hv)は「−」(測定できず)であった。実施例1〜3では、本発明の要件である硬さHvが1000以上を満足することが確認できた。
表2に示すように、参考例1〜7において作製した表面処理部材における導電性C層33のビッカース硬度(Hv)は、いずれも1500Hv以下であった。
Figure 2010272490
注)表中のAl基材金属には、アルミA1050を用いた。また、表中のR1)は、「R(I/I)」を略記したものである。
Figure 2010272490
注)表2注の成膜方法において、UBM1)は「UBMスパッタリング」の略記であり、ECR3)は「ECRスパッタリング」の略記であり、イオン2)は「イオンプレーティング」の略記であり、プラズマ4)は「プラズマCVD」の略記である。
1、201 固体高分子形燃料電池(PEFC)の単セル(ユニットセル)、
2 電解質膜(固体高分子電解質膜)、
3 触媒層、
3a アノード触媒層(燃料極側電極触媒層)、
3b カソード触媒層(酸素極側電極触媒層)、
4 ガス拡散層(GDL)、
4a アノードガス拡散層(燃料極側ガス拡散層)、
4b カソードガス拡散層(酸素極側ガス拡散層)、
5 セパレータ(金属セパレータ)、
5a アノードセパレータ(燃料極側セパレータ)、
5b カソードセパレータ(酸素極側セパレータ)、
5aa 燃料ガス流路(水素含有ガス流路)、
5ag 燃料ガス(水素ガス、水素含有ガスなど)、
5bb 酸化剤ガス流路(酸素ガス流路)、
5bg 酸化剤ガス(空気、酸素ガスなど)、
6 基材金属、
7 表面処理のための層、
7a 反応面、
7b 冷却面、
8 冷却水流路(冷媒流路)、
8w 冷却水(冷媒)
9 膜−電極接合体(MEA)、
10 燃料電池スタック、
20 スタック部(積層スタック)、
30、40 集電板、
31 基材金属、
32 中間層、
33 導電性炭素層(導電性C層)、
34 硬質炭素層(硬質C層)、
35 炭素表面処理層、
37、47 出力端子、
41 撥水性を有するフィラー、
42 ピンホール、
43 マトリックス、
50、60 絶縁板、
70 燃料極側エンドプレート、
80 酸素極側エンドプレート、
71 燃料ガス導入口、
72 燃料ガス排出口、
74 酸化剤ガス導入口、
75 酸化剤ガス排出口、
77 冷却水導入口、
78 冷却水排出口、
90 タイロッド、
200 燃料電池(スタック)、
210 車両、
300、400 スパッタ装置(UBMS装置、AIP装置含む)、
301、401 回転テーブル、
303、403 チャンバー、
305、405 給気口、
307、407 排気口、
309、409 スパッタリングターゲット(Cr)、
311、411 スパッタリングターゲット(C)、
413 AIPの蒸着源(ターゲット(C))
415 アーク電源、
W 中間層の太さ(幅、柱径)。

Claims (9)

  1. 基材金属と、該基材金属上に形成された1層以上の中間層と、該中間層上に形成された炭素表面処理層と、を有する燃料電池構成部品用表面処理部材であって、
    該炭素表面処理層には、
    (a)該炭素表面処理層を構成する炭素のラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iの強度比R(I/I)が1.3以上であり、
    且つ、ラマン散乱分光分析による回転異方性測定により測定された平均ピークが、2回対称パターンを示す導電性炭素層と、
    (b)硬さがHv1000以上もしくはI/I≦1.0に設定された構造を有する硬質炭素層が前記導電性炭素層表面上に配置されていることを特徴とする燃料電池構成部品用表面処理部材。
  2. 前記導電性炭素層の中間層に対する被覆率が60%以上であり、且つ、前記硬質炭素層の表面比が導電性炭素層上に30%以下で配置されている請求項1記載の燃料電池構成部品用表面処理部材。
  3. 硬質を示す前記硬質炭素層の厚さ(平均値)は1〜20nmであり、それより深い部位では導電性炭素層である請求項1および2記載の燃料電池構成部品用表面処理部材。
  4. 硬質炭素層の形成は、導電性炭素層の蒸着後に、バイアス、温度、真空度、供給ガス量(分圧)の少なくとも1つ以上を変えて、同一バッチもしくは工程上で形成する請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池構成部品用表面処理部材の製造方法。
  5. 前記導電性炭素層ならびに硬質炭素層は、スパッタリングにて形成し、前記硬質炭素層はスパッタリングで形成するかもしくは、アークイオンプレーティング(AIP)法もしくはイオン化蒸着法にて形成することを特徴とする請求項5記載の燃料電池構成部品用表面処理部材の製造方法。
  6. 前記硬質炭素層は、導電性炭素層の形成時に設定するバイアス電圧値以下に設定するとともに、スパッタもしくはプラズマ照射時間によって硬質炭素膜の被覆率を設定している請求項4または5記載の燃料電池構成部品用表面処理部材の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池構成部品用表面処理部材から構成される、燃料電池用セパレータ。
  8. 高分子電解質膜、これを挟持する一対のアノード触媒層およびカソード触媒層、並びにこれらを挟持する一対のアノードガス拡散層およびカソードガス拡散層を含む膜電極接合体と、
    前記膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータと、
    を有する固体高分子形燃料電池であって、
    前記アノードセパレータまたは前記カソードセパレータの少なくとも一方が、請求項7に記載の燃料電池用セパレータであり、
    この際、前記燃料電池用セパレータが凹凸状に形成されてなり、当該凸部が前記膜電極接合体と接触し、当該凹部が燃料ガスまたは酸化剤ガスを流通するためのガス流路とされてなることを特徴とする、固体高分子形燃料電池。
  9. 請求項8に記載の固体高分子形燃料電池を搭載した車両。
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