JP6512577B2 - 燃料電池構成部品用表面処理部材 - Google Patents

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Description

本発明は、燃料電池構成部品用表面処理部材に関する。
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、発電機能を発揮する複数の単セルが積層された構造を有する。当該単セルは、それぞれ、高分子電解質膜、これを挟持する一対(アノード、カソード)の触媒層、およびこれらを挟持する、供給ガスを分散させるための一対(アノード、カソード)のガス拡散層、を含む膜電極接合体(MEA)を有する。そして、個々の単セルが有するMEAは、セパレータを介して隣接するする単セルのMEAと電気的に接続される。このようにして、単セルが積層・接続されることにより、燃料電池スタックが構成される。そして、この燃料電池スタックは、種々の用途に使用可能な発電手段として機能しうる。燃料電池スタックにおいて、セパレータは、上述したように、隣接する単セル同士を電気的に接続する機能を発揮する。これに加えて、セパレータのMEAと対向する表面にはガス流路が設けられるのが通常である。当該ガス流路は、アノードおよびカソードに燃料ガスおよび酸化剤ガスをそれぞれ供給するためのガス供給手段として機能する。
PEFCの発電メカニズムを簡単に説明すると、PEFCの運転時には、単セルのアノード側に燃料ガス(例えば、水素ガス)が供給され、カソード側に酸化剤ガス(例えば、大気、酸素)が供給される。その結果、アノードおよびカソードのそれぞれにおいて、下記反応式で表される電気化学反応が進行し、電気が生み出される。
導電性が要求される燃料電池用セパレータとしては、従来のカーボンセパレータや導電性樹脂セパレータから金属セパレータへの代替が進みつつある。これは、金属セパレータが優れた強度および導電性を有することによりスタックの小型化が図れるためである。近年、金属セパレータの課題である腐食による導電性の低下や、これに伴うスタックの出力の低下を防止するため、金属基材上に耐腐食性を有する層を積層したセパレータが開発されている。例えば、特許文献1では、金属基材上に中間層を形成し、その中間層上に炭素表面処理層を有する燃料電池構成部品用表面処理部材が提案されている。該炭素表面処理層は、以下のような構成を有する。すなわち、炭素のラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iとの強度比R(I/I)が1.3以上である導電性炭素層が配置される。そして、該導電性炭素層上にI/I≦1.0である硬質炭素層が配置される。
特開2010−272490号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載の燃料電池構成部品用表面処理部材は、積層方向の抵抗が比較的高いため、燃料電池用セパレータに使用すると接触抵抗が高くなってしまうという問題がある。また、耐食性も十分ではないという問題があった。
そこで本発明は、積層方向の接触抵抗を低減させ、耐食性を向上させる手段を提供することを目的とする。
上記課題は、基材と、前記基材上に形成された1層以上の中間層と、前記中間層上に形成され少なくとも2層からなる導電性炭素層と、を有する燃料電池構成部品用表面処理部材により解決される。前記導電性炭素層は、中間層に最も近い層Aよりも中間層から最も離れた層Bの方が、ラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iとの強度比R(I/I)が大きいという構成を有する。
強度比Rが大きい層Bを中間層から最も離れた側に配置し、強度比Rが小さい層Aを中間層に最も近い側に配置することにより、他の部材と層Bとがオーミック接触し、また中間層と導電性炭素層との密着性が向上する。これにより、積層方向の接触抵抗が低減し、耐食性が向上する。
一実施形態による燃料電池構成部品用表面処理部材の基本構成を示す断面概略図である。 層Aを形成するために用いられる成膜装置の一例を示す概略図である。 負パルス電圧の波形を示す模式図である。 固体高分子形燃料電池の基本構成を示す断面概略図である。 腐食試験前後の試験片の外観写真である。 腐食試験(定電位印加)における相対電流密度値を表すグラフである。 腐食試験開始から0.5時間後、9時間後、18時間後のそれぞれの時点での相対電流密度値を示すグラフである。 接触抵抗を測定するための測定装置を示す概略図である。
以下、添付した図面を参照しながら、好ましい実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態の燃料電池構成部品用表面処理部材(以下、単に表面処理部材とも称する)を示す断面概略図である。図1に示す燃料電池構成部品用表面処理部材20は、基材21と、基材21の両面に形成された中間層22と、中間層22上に成膜された導電性炭素層23である層A24および層B25とを有する。本実施形態においては、中間層に最も近い層Aよりも中間層から最も離れた層Bの方が、ラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iとの強度比R(I/I)が大きい。このような構成とすることにより、積層方向の接触抵抗が低減され、かつ耐食性に優れた表面処理部材となる。
本実施形態の表面処理部材により上記効果が得られる理由について、詳細は不明であるが、以下のように考えられる。
本実施形態に係る導電性炭素層23においては、中間層に最も近い層A24よりも中間層から最も離れた層B25の方が、ラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IとG−バンドピーク強度Iとの強度比R(I/I)が大きい。層Aは、sp炭素が多く残った導電性炭素層となり、中間層の凹凸への付回りがよく、緻密になる。このような柔軟なsp炭素を多く含む層A24を、中間層22の最も近い側に設けることで、中間層22と導電性炭素層23との密着性が向上し、中間層22と導電性炭素層23との間に形成される隙間や欠陥を低減することができる。さらに、導電性炭素層23の中間層22からの剥離や隙間の発生を抑制することにより、水の侵入を抑制する機能を付与することができる。その結果、耐食性を向上させることができる。このような性能を有することにより、本実施形態に係る表面処理部材20は、軽量で安価な反面、腐食されやすい金属を基材21として使用した場合でも、例えば燃料電池用のセパレータとして長期間安定して使用できる。すなわち、中間層22と導電性炭素層23の表層部(層B25)との間に層A24を設けることで、表層部の高い導電性を有しつつ、中間層22と導電性炭素層23との高い密着性を得ることができる。さらには中間層22と導電性炭素層23との間の隙間や欠陥の生成を抑制することにより水の進入を防止し、各部材の酸化を抑制し、接触抵抗の増加を抑制し耐食性を向上させることができる。
また、本実施形態の表面処理部材20は、層A24よりも強度比R(I/I)が大きい層B25が中間層22から最も離れた側に配置される。層B25は、通常高い電圧をかけて成膜されるため、ダングリングボンドを多く有することになり、自由に移動できる電子が多くなる。よって、層B25は、ガス拡散層等の他の部材とオーミック接触することになり、積層方向の接触抵抗が低減される。なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本実施形態の表面処理部材がこれに制限されるものではない。
以下、本実施形態の表面処理部材の構成要素について説明する。
[導電性炭素層]
導電性炭素層23は導電性炭素を含む層である。導電性炭素の例としては、多結晶グラファイトが挙げられる。ここで「多結晶グラファイト」とは、微視的にはグラフェン面(六角網面)が積層した異方性のグラファイト結晶構造(グラファイトクラスター)を有するが、巨視的には多数の当該グラファイト構造が集合した等方性結晶体である。したがって、多結晶グラファイトは、ダイヤモンドライクカーボン(DLC;Diamond−Like Carbon)の1種であるということもできる。通常、単結晶グラファイトは、HOPG(高配向熱分解黒鉛)に代表されるような、巨視的にみてもグラフェン面が積層された乱れのない構造を示す。一方、多結晶グラファイトにおいては、個々のクラスターとしてグラファイト構造が存在しており、乱層構造を有している。
本実施形態では導電性炭素層23は多結晶グラファイトのみから構成されてもよいが、導電性炭素層23は多結晶グラファイト以外の材料をも含みうる。導電性炭素層23に含まれうる多結晶グラファイト以外の炭素材料としては、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。また、カーボンブラックの具体例として、以下に制限されることはないが、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラックもしくはサーマルブラックなどが挙げられる。なお、カーボンブラックは、グラファイト化処理が施されていてもよい。また、導電性炭素層23に含まれうる炭素材料以外の材料としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)等の貴金属;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性物質;導電性酸化物などが挙げられる。多結晶グラファイト以外の材料は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近および1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常、「Gバンド」と称される。一方、結晶性が低くなる(結晶構造欠陥が増す)につれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常、「Dバンド」と称される(なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1であり、上記Dバンドとは区別される)。Dバンドピーク強度(I)とGバンドピーク強度(I)との強度比R(I/I)は、炭素材料のグラファイトクラスターサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、sp結合比率などの指標として用いられる。
強度比R(I/I)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(I)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(I)との相対的強度比(ピーク面積比(I/I))を算出することにより求められる。
層Bの強度比R(IDB/IGB)と、層Aの強度比R(IDA/IGA)との比率(R/R)は、1.2以上2.0以下であることが好ましく、1.5以上2.0以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、上記の作用効果をより一層発揮することができる。このR/Rの値は、下記に示すような方法を用いて層Aおよび層Bを形成することにより制御することができる。
<層A>
層Aの強度比R(IDA/IGA)は、1.3以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましく、1.1以下であることがさらに好ましい。Rが、このような範囲であれば、グラファイト構造の形成による中間層との密着性の阻害を十分に抑えられる観点から好ましい。Rの下限値は特に制限されないが、0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。
かような層Aの形成方法としては、大電力パルススパッタリング法(以下、HiPIMS法と称する)が好ましい。HiPIMS法を採用することにより、上記のような特性を有する層Aを高い成膜レートで成膜することができる。以下では、このHiPIMS法について説明する。
図2は、HiPIMS法で用いられる成膜装置の一例を模式的に示した概略図である。成膜装置100は、真空チャンバー11と、真空チャンバー11内に設置された炭素原料電極14と間隔を隔てて対向配置された基材21とを備えている。基材21上には、中間層22が配置されている。炭素原料電極14には、パルス電圧(負電圧)を印加するための、基板原料電極用パルス電源(HiPIMS電源)17が接続されている。基材21には、DC電源18が接続されている。真空チャンバー11は、接地されている。また、真空チャンバー11には、外部から、スパッタ用雰囲気ガスであるアルゴンガスを導入するためのアルゴンガス管15が、アルゴンガス導入ポート16を経て導入されている。
スパッタリングにおいては、真空チャンバー11内にアルゴンガスが導入され、炭素原料電極(ターゲット)14に、スパッタリング用パルス電源17からパルス電圧が印加される。これにより、アルゴンガスが電離し、炭素原料電極(ターゲット)14近傍にプラズマが発生する。このプラズマにより、炭素原料の炭素原子がスパッタされる。高いパルス電圧を印加するため、HiPIMS法ではプラズマの密度が高くなり、スパッタされた炭素原子もイオン化され得る。基材21に負バイアス電圧をかけることにより、このような炭素イオンを引き付け、炭素膜として堆積させる。これにより、高速の成膜レートが実現でき、得られた炭素膜は緻密で接触抵抗の低いものとなる。さらに、中間層22に負バイアス電圧が印加されていることにより、中間層22近傍の水分が蒸発し、堆積する炭素被膜中に水分が含まれなくなる。これによっても、炭素被膜の接触抵抗が低下すると考えられる。
中間層22に負バイアス電圧を印加する基材用電源としては、DC電源、RF電源、パルス電源等のいずれを用いてもよいが、DC電源18が好ましい。すなわち、中間層22に直流電圧を印加することが好ましい。DC電源18により、一定の負バイアス電圧をかけることにより、基板が一定して炭素イオンを引き付けることができ、接触抵抗をはじめとする膜質の制御が可能となるためである。パルス電源を用いる場合には、炭素イオンを効率的に引き付けるため、炭素原料電極用のパルス電源17のパルス電圧と同期させることが好ましいと考えられる。RF電源は使用可能ではあるが、炭素のイオン化を阻害する場合がある。
炭素原料電極14に印加する負パルス電圧E1は、中間層22の負バイアス電圧よりも大きいことが好ましい。負バイアス電圧が負パルス電圧E1未満であれば、炭素被膜を成膜するために充分な電圧である。さらに、負パルス電圧E1が負バイアス電圧よりも大きいことで、密着性の良い炭素被膜を製造することができる。
また、炭素原料電極14に印加する負パルス電圧E1および中間層22に印加する負バイアス電圧は、共に800V以上の負電圧であることが好ましい。パルス電圧E1が800V以上の負電圧であると、プラズマの密度が高くなり、スパッタリングされた炭素原子もイオン化される。さらに、負バイアス電圧が800V以上の負電圧であると、発生した炭素原子イオンを引き付けるため、成膜レートが高速となり、炭素被膜も緻密化され、接触抵抗の低い炭素被膜とできる。また、パルス電圧E1が800V以上であると、堆積した炭素被膜の膜剥がれを防ぐ効果もある。負パルス電圧E1と負バイアス電圧との差は、100V以上であることが好ましい。
パルス電源17は、炭素原料電極14に負電圧を印加してから基板電圧をかけるまでのディレイタイミングを0μs〜200μs、負パルス電圧E1を500V〜1400Vの範囲で制御することができる。負パルス電圧E1が500V以上であると、アルゴンガスの放電が確実に生じプラズマ化するため、高速の成膜レートで緻密で接触抵抗の低い炭素被膜を形成することができる。負パルス電圧E1は、上記したように、より好ましくは800V以上、さらに好ましくは900V以上である。一方、現在使用可能な電源によって1400Vが上限値となるが、負パルス電圧E1の上限には特に制限はない。
炭素原料電極14に印加する負パルス電圧E1は、周波数(パルス周波数)が500Hz〜2000Hzであり、パルス幅が50μs〜400μsであることが好ましい。図3は、炭素原料電極14に印加する電圧の波形を模式的に示した図である。図3に示す波形において、負電圧Aの絶対値がE1である。図3中、パルス電源の周波数は500Hz〜2000Hzが好ましい。周波数は高いほど成膜レートが向上する傾向があるため、十分な成膜レートで炭素被膜を堆積するためには、500Hz以上が好ましい。一方、現在使用可能な電源によって2000Hzが上限値となっているが、周波数の上限には特に制限はない。パルス電源の周波数は、より好ましくは500〜1500Hzである。
図3において、パルス幅Cは、50μs〜400μsであることが好ましい。炭素原料電極14に電圧を印加してからアルゴンガスの放電(イオン化)までにはある程度の時間が必要なため、50μs以上であれば、十分な速度で成膜ができる。一方、電源容量上の制限からは400μsが上限値となるが、パルス幅Cは大きいほど成膜レートが向上する傾向があるため、成膜の観点からはパルス幅Cの上限には特に制限はない。また、パルスの周期Bとパルス幅Cとの比であるduty(C/B)は、0<duty<100%であれば、十分な速度で成膜ができる。パルス幅Cは、より好ましくは50〜200μsである。
パルス電源17より炭素原料電極14に出力される電流密度は、単位面積当たり0.1kA/m〜6kA/mが好ましく、1kA/m〜6kA/mがより好ましい。これにより、炭素原料電極14周辺におけるプラズマの密度を適切な値に調整することが可能となり、均一で高品位な炭素被膜を形成することができる。
パルス電源17より炭素原料電極14へ印加される電力は単位面積当たり0.5kW/m〜3000kW/mの間に制御されることが好ましい。これにより炭素原料電極14周辺におけるプラズマの密度を適切な値に調整することが可能となり、中間層22の表面に均一で高品位な炭素被膜を形成することができる。
また、炭素原料電極14には温度を計測する測定子と温度を調整するための機構が備えつけられていることが好ましい。これにより、炭素原料電極14の表面温度が1000℃以上になるまで加熱し、炭素原料電極14から蒸発する原材料の蒸気圧が0.001Pa〜130Paとなるように制御することが好ましい。これによって、従来のプラズマによるスパッタリングに加え、炭素原料電極14の蒸気圧による成分により成膜速度をさらに増加させることができる。
また、インピーダンス整合用抵抗により、炭素原料電極14に出力される電圧、電流値を調整することができる。これにより、調整回路に対する装置内部のインピーダンスを20%〜70%となるように制御する好ましい。
真空チャンバー11に導入されるスパッタ用雰囲気ガスとしては、アルゴン、クリプトン、酸素、炭化水素系ガスまたはこれらの混合ガスのいずれかである。このうち、特にアルゴンガスを好ましく用いることができる。
また、基材21は、中間層22を備え、炭素被膜を形成させるための基板としても機能する。基材21の構成材料は、後述する金属材料が好ましい。基材の構成材料が金属の場合には、中間層22を形成する前に、基材21の表面をイオンボンバード処理することが好ましい。イオンボンバード処理とは、イオン化したアルゴンガス等を金属表面にたたき付けて洗浄する方法である。これにより、金属材料表面に形成された酸化膜や水酸化膜などの不動態被膜を破壊することができる。表面をイオンボンバード処理することにより、基材21表面への中間層22の密着性を向上させることができる。
層Aは、中間層に最も近い層であるが、好ましくは中間層と層Aとが接している形態である。
<層B>
本実施形態において、層Bの強度比R(IDB/IGB)は1.7以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、1.9以上であることがさらに好ましい。また、強度比Rの上限値は特に制限されないが、2.0以下であることがより好ましい。Rがこのような範囲であれば、積層方向の接触抵抗が低減され、積層方向の導電性が十分に確保された層Bとなり、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、層B自体の内部応力の増大をも抑制することができ、導電性炭素層23全体と中間層22との密着性をより一層向上させることができる。
かような層Bの形成方法としては、直流マグネトロンスパッタリング法(DCMS)、アークイオンプレーティング法、HiPIMS法等が挙げられる。なかでも、層Aに接するように層Bを形成した場合の層Aおよび層Bの密着性の観点から、HiPIMS法が好ましい。HiPIMS法で層Bを成膜する場合の成膜条件の一例として、印加する負のバイアス電圧は、700〜1200Vであることが好ましい。このような範囲の負のバイアス電圧を印加することにより、Arイオンが炭素被膜(層B)の表面により衝突するようになり、炭素被膜(層B)の表面がダングリングボンドを有しやすくなる。したがって、自由に移動できる電子が多くなるため、形成された層Bと他の部材とはオーミック接触するようになり、積層方向の接触抵抗が低減する。
層Aおよび層Bの膜厚は特に制限されないが、好ましくは20〜80nm、より好ましくは20〜50nmである。層Aおよび層Bの膜厚がかような範囲であれば、上記の作用効果を十分に発揮し得る。
なお、本実施形態においては、導電性炭素層23は表面処理部材20の一方の主表面にのみ存在させてもよい。しかしながら、好ましくは図1などに示すように、表面処理部材20の他の主表面にも(即ち、基材21の両表面に)導電性炭素層23が存在した構成とするのが好ましい。これは、基材21の両表面において、中間層22を介して基材21と、導電性炭素層23との密着性を確保しつつ、基材21の防食効果をより一層維持できるためである。
本実施形態においては、中間層22を介して基材21のすべてが、導電性炭素層23により被覆されている。換言すれば、本実施形態では、導電性炭素層23により基材21が被覆された面積の割合(被覆率)は100%である。ただし、かような形態のみには限定されず、被覆率は100%未満であってもよい。導電性炭素層23による基材21の被覆率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、最も好ましくは100%である。かような構成とすることにより、導電性炭素層23により被覆されていない、基材21の露出部への酸化皮膜の形成に伴う導電性・耐食性の低下が効果的に抑制されうる。なお、本実施形態のように、中間層22が基材21と導電性炭素層23との間に介在する場合、上記被覆率は、表面処理部材20を積層方向から見た場合に、導電性炭素層23と重複する基材21の面積の割合を意味するものとする。
また、図1に示す導電性炭素層は、層Aおよび層Bがそれぞれ1層ずつ積層された2層構造であるが、本実施形態の表面処理部材はこの形態には限定されず、3層以上の積層構造である導電性炭素層を有していてもよい。層Aと層Bとの間に配置されるその他の導電性炭素層の例としては、層Aと同様の膜質を有する層や層Bと同様の膜質を有する層が挙げられる。中間層に最も近い層Aと中間層から最も離れた層Bとを有していれば、その他の導電性炭素層の層順や層数は特に制限されない。
[基材]
本実施形態の表面処理部材20において、基材21を構成する材料は、特に制限されず、従来、金属セパレータの構成材料として用いられている金属などが適宜採用される。具体的には、例えば、鉄、チタン、およびアルミニウム、ならびにこれらの合金が挙げられる。これらの材料は、機械的強度、汎用性、コストパフォーマンスまたは加工容易性などの観点から好ましく用いられうる。ここで、鉄合金にはステンレス鋼が含まれる。なかでも、基材21はステンレス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されることが好ましい。特に、ステンレス鋼を基材21として用いると、表面処理部材をセパレータに適用した場合に、ガス拡散層(GDL)の構成材料であるガス拡散基材との接触面の導電性が十分に確保されうる。
ステンレス鋼としては、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系、析出硬化系などが挙げられる。オーステナイト系としては、SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316(L)、SUS317が挙げられる。オーステナイト・フェライト系としては、SUS329J1が挙げられる。マルテンサイト系としては、SUS403、SUS420が挙げられる。フェライト系としては、SUS405、SUS430、SUS430LXが挙げられる。析出硬化系としては、SUS630が挙げられる。なかでも、SUS304、SUS316等のオーステナイト系ステンレス鋼を用いることがより好ましい。また、ステンレス鋼中の鉄(Fe)の含有率は、好ましくは60〜84質量%であり、より好ましくは65〜72質量%である。さらに、ステンレス鋼中のクロム(Cr)の含有率は、好ましくは16〜20質量%であり、より好ましくは16〜18質量%である。
一方、アルミニウム合金としては、純アルミニウム系、およびアルミニウム・マンガン系、アルミニウム・マグネシウム系などが挙げられる。アルミニウム合金中におけるアルミニウム以外の元素については、アルミニウム合金として一般に使用可能なものであれば特に制限されることはない。例えば、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛およびニッケルなどがアルミニウム合金に含まれうる。アルミニウム合金の具体例として、純アルミニウム系としてはA1050Pが挙げられ、アルミニウム・マンガン系としてはA3003P、A3004Pが挙げられ、アルミニウム・マグネシウム系としてはA5052P、A5083Pが挙げられる。表面処理部材をセパレータに適用する場合には機械的な強度や成形性も求められるため、上記の合金種に加えて、合金の調質も適宜選択されうる。なお、基材21がチタンやアルミニウムの単体から構成される場合、当該チタンやアルミニウムの純度は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは97質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上である。
基材21の厚さは、特に限定されない。加工容易性、機械的強度や、表面処理部材をセパレータに適用する場合の電池のエネルギー密度の向上等の観点より、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは80〜300μmであり、さらに好ましくは80〜200μmである。特に、構成材料としてステンレス鋼を用いた場合の基材21の厚さは、好ましくは80〜150μmである。一方、構成材料としてアルミニウムを用いた場合の基材21の厚さは、好ましくは100〜300μmである。上記した範囲内の場合、十分な強度を有しながらも、加工容易性に優れ、好適な薄さを達成することができる。
基材21を用いる際は、材料の表面の脱脂および洗浄処理を行うことが好ましい。具体的には、所望の厚さのこれらの材料を準備し、適当な溶媒(例えば、エタノール、エーテル、アセトン、イソプロピルアルコール、トリクロロエチレンおよび苛性アルカリ剤など)を用いて、材料の表面の脱脂および洗浄処理を行う。洗浄処理としては、超音波洗浄等が挙げられる。超音波洗浄の条件としては、処理時間が1〜10分程度、周波数が30〜50kHz程度、および電力が30〜50W程度である。続いて、基材21の構成材料の表面(両面)に形成されている酸化被膜の除去を行うことが好ましい。酸化被膜を除去するための手法としては、酸による洗浄処理、電位印加による溶解処理、または上述のイオンボンバード処理等が挙げられる。
[中間層]
本実施形態において、表面処理部材20は、1層以上の中間層22を有する。この中間層22は、基材21と導電性炭素層(層A)24との密着性を向上させるという機能や、基材からのイオンの溶出を防止するという機能を有する。中間層の好ましい層数は、1〜5層である。
中間層22を構成する材料としては、上記の密着性の付与やイオンの溶出防止の機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、長周期型周期表の第4族の金属(Ti、Zr、Nf)、第5族の金属(V、Nb、Ta)、第6族の金属(Cr、Mo、W)、ならびにこれらの炭化物、窒化物および炭窒化物などが挙げられる。なかでも好ましくは、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)もしくはハフニウム(Hf)といったイオン溶出の少ない金属、またはこれらの窒化物、炭化物もしくは炭窒化物が用いられる。より好ましくは、CrもしくはTi、またはこれらの炭化物もしくは窒化物が用いられる。特に、CrもしくはTi、またはこれらの炭化物もしくは窒化物が用いる場合、中間層の役割として、上側の導電性炭素層(層A)24との密着性確保と、下側の基材21の防食効果がある。特にCrおよびTiの場合、不動態皮膜の形成により、露出部が存在していたとしても、それ自体の溶出がほとんど見られないという観点から、特に有用である。
中間層22の形成方法としては、乾式成膜法が好ましい。乾式成膜法の具体例としては、例えば、スパッタリング法やイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法が挙げられる。また、フィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法などのイオンビーム蒸着法なども挙げられる。スパッタリング法としては、直流マグネトロンスパッタリング(DCMS)法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法、電子サイクロトロン共鳴スパッタリング(ECRスパッタリング)法などが挙げられる。イオンプレーティング法としては、アークイオンプレーティング法などが挙げられる。なかでもスパッタリング法またはイオンプレーティング法を用いることが好ましい。かような方法であれば、比較的低温で成膜が可能であり、基材21へのダメージを最小限に抑えることができる。さらにスパッタリング法によれば、バイアス電圧等を制御することで、中間層22の結晶構造を制御したり、膜質をコントロールしたりできるという利点もある。
中間層22は1層以上であれば、その層数は特に制限されない。また、中間層22の膜厚も特に制限されない。ただし、表面処理部材20をより薄膜化することにより、燃料電池のスタックのサイズをできるだけ小さくするという観点から、中間層22の膜厚(2層以上の場合はその総厚)は、好ましくは0.01〜10μmであり、より好ましくは0.015〜5μmである。また、さらに好ましくは0.02〜5μmであり、特に好ましくは0.1〜2μmである。中間層22の膜厚が0.01μm以上であれば、均一な層が形成され、基材の耐食性を効果的に向上させることが可能となる。一方、中間層22の膜厚が10μm以下であれば、中間層22の膜応力の上昇が抑えられ、基材21に対する被膜追従性の低下やこれに伴う剥離・クラックの発生が防止されうる。
[表面処理部材の製造方法]
表面処理部材の製造方法としては、基材21の表面に、中間層22、導電性炭素層23を順に成膜する方法が挙げられる。各層の形成方法は上記で説明した通りであるため、ここでは詳細な説明は省略する。
上述した手法によれば、基材21の両表面に中間層22および導電性炭素層23が形成された表面処理部材が製造されうる。また、コスト的には有利とはいえないが、基材21の一方の主表面に中間層22および導電性炭素層23を成膜し、次いで基材21の他方の主表面に対して、同様の手法によって、中間層22および導電性炭素層23を順次形成してもよい。
また、本実施形態では、中間層22および導電性炭素層23は、基材21の一方の主表面にのみ存在させてもよいが、好ましくは図1などに示すように、基材21の他の主表面にも(すなわち、基材21の両表面に)中間層22および導電性炭素層23が存在した構成とするのが好ましい。これは、表面処理部材20の両表面において、中間層22を介して基材21と、導電性炭素層23との密着性を確保しつつ、基材21の耐食性をより一層維持できるためである。
[燃料電池用セパレータ、固体高分子形燃料電池]
上述の表面処理部材は、積層方向の接触抵抗が低く、特に電位が印加された条件下においても腐食されにくいという特性を有しているため、燃料電池用(特に固体高分子形燃料電池用)のセパレータとして好適に使用される。すなわち、他の一実施形態によると、上記表面処理部材から構成される、燃料電池用セパレータが提供される。また、さらに他の一実施形態によると、膜電極接合体と、膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータと、を有する固体高分子形燃料電池が提供される。ここで、アノードセパレータまたはカソードセパレータの少なくとも一方に、上記燃料電池用セパレータが適用される。膜電極接合体は、高分子電解質膜、これを挟持する一対のアノード触媒層およびカソード触媒層、ならびにこれらを挟持する一対のアノードガス拡散層およびカソードガス拡散層を含む。さらに、燃料電池用セパレータが凹凸状に形成されてなり、当該凸部が前記膜電極接合体と接触し、当該凹部が燃料ガスまたは酸化剤ガスを流通するためのガス流路とされてなる。本実施形態の燃料電池用セパレータおよび固体高分子形燃料電池は、セパレータ材料として上述の表面処理部材を用いることにより、運転時の電位によっても腐食が起こりにくく、接触抵抗を低く抑えることができる。そのため、長期間にわたって、優れた電池性能を発揮させることが可能となる。
図4は、一実施形態による固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を模式的に表す断面図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体は、さらに一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で電解質膜−電極接合体(MEA)10を構成する。
PEFC1において、MEA10は、さらに一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図4において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図4ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、上述の表面処理部材にプレス処理を施すことで図4に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ5(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFC1を冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
上述の表面処理部材が、図4に示すような燃料電池用セパレータとして使用される場合、導電性炭素層(好ましくは層B)が、ガス拡散層と接するよう配置されることが好ましい。
なお、図4に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路7の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。以下、固体高分子形燃料電池を構成する各部材について説明する。
<電解質層>
電解質膜は、固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜2は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質膜と炭化水素系高分子電解質膜とに大別される。フッ素系高分子電解質膜を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能を向上させるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、成膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
<触媒層>
触媒層(アノード触媒層3a、カソード触媒層3c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3cでは酸素の還元反応が進行する。
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
アノード触媒層3aに用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層3cに用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層3aに用いられる触媒成分およびカソード触媒層3cに用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義である。よって、一括して「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3cの触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。ただし、触媒成分の形状は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本明細書における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過形電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
触媒担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m/g、より好ましくは80〜1200m/gである。触媒担体の比表面積がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
触媒担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を好ましくは5〜200nm程度、より好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
触媒担体に触媒成分が担持されてなる電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、電極触媒における触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定されうる。
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。当該高分子電解質は特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上述した電解質層2を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層にも添加されうる。
<ガス拡散層(GDL)>
ガス拡散層は、セパレータのガス流路を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。ガス拡散層の基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。ガス拡散層の基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MLP、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒子径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは50〜500μmとするのがよい。
<セパレータ>
セパレータ(アノードセパレータ5a、カソードセパレータ5c)は、固体高分子形燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。
本形態のセパレータは、上述の表面処理部材から構成される。なお、セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
本形態の固体高分子形燃料電池の製造方法は、特に制限されず、本技術分野において従来公知の知見を適宜参照することにより製造可能である。
固体高分子形燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
なお、本実施形態の燃料電池用セパレータは、優れた耐食性および導電性を有するため、上述の固体高分子形燃料電池以外の燃料電池にも適用可能である。他の燃料電池の種類としては、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体電解質形燃料電池(SOFC)またはアルカリ形燃料電池(AFC)などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、固体高分子形燃料電池(PEFC)が好ましい。上記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
以下、本実施形態の表面処理部材を、さらに実施例を通して具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例には限定されない。
(実施例1)
SUS316からなる板厚100μmの金属板を基材として用いた。この金属板を、前処理としてエタノール液中で3分間超音波洗浄した。その後、真空チャンバーに金属板を設置し、アルゴンガスによるイオンボンバード処理を行い、表面の酸化被膜を除去した。前処理およびイオンボンバード処理は、いずれも金属板の両面について行った。
次に、直流マグネトロンスパッタリング法(DCMS)法により、クロム(Cr)のターゲット基板を使用し、膜厚200nmのクロム被膜からなる中間層を金属板の両面に形成した。
その次に、中間層上に、HiPIMS法により、固体グラファイトを炭素原料基板(ターゲット)として使用し、膜厚30nmの層Aを形成した。層Aの形成条件は以下の通りである。この際、印加した負パルス電圧は、1200Vであり、パルス幅は160μsであり、基板バイアス電圧は1000Vであった。
さらに層A上に、HiPIMS法により、膜厚20nmの層Bを形成した。この際、印加した負パルス電圧は、1100Vであり、パルス幅は200μsであった。
(比較例1)
層Bを形成せず、層Aを50nmの膜厚で形成したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理部材を作製した。
(比較例2)
層Aを形成せず、層Bを50nmの膜厚で形成したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理部材を作製した。
<R値の測定>
上記の実施例1および比較例1〜2において作製した表面処理部材について、導電性炭素層(層A、層B)のR値の測定を行なった。具体的には、まず、顕微ラマン分光器を用いて、層Aおよび層Bのラマンスペクトルを計測した。そして、1300〜1400cm−1に位置するバンド(Dバンド)のピーク強度(I)と、1500〜1600cm−1に位置するバンド(Gバンド)のピーク強度(I)とのピーク面積比(I/I)を算出して、R値とした。得られた結果を下記の表1に示す。
<腐食試験>
上記実施例および比較例で作製した表面処理部材を、3cm×3cmの正方形に切り出し、切断面にシリコンゴムを用いてマスキング処理を施し、試験片とした。そして、試験片を試験溶液(pH3の希硫酸水溶液、80℃)に浸漬し、試験片に1.2V超の定電位を印加し、18時間にわたって試験片の外観を観察するとともに、定電位における電流特性を測定した。なお、測定には、電気化学測定システムとして、ポテンショスタットを用いた。
なお、燃料電池の化学反応の起電力は一般に1.2V程度であり、寒冷地など0℃以下の温度下で起動する場合は1.2V超となることがある。したがって、表面処理部材を燃料電池のセパレータ材料として適用するためには、このような電位がかかった状況でも、十分な耐食性を有することが必要であると考えられる。
結果を図5〜7に示す。図5の試験片の外観写真によると、比較例1および2の表面処理部材は、表面が変色しており、腐食が進行していたのに対し、実施例1の表面処理部材は、表面の変色が極僅かであり、腐食がほとんど起こっていないことが確認された。
図6に定電位における電流特性を表すグラフを示す。グラフの縦軸は、観測された電流密度値のうち最も大きな値を1とした場合の相対電流密度値を示し、横軸は腐食試験開始からの経過時間を示す。腐食により表面処理部材からイオンが溶出すると電流が流れるため、当該値が大きいほど、より腐食が進行したことを意味する。グラフより、比較例1および2の表面処理部材では、試験期間の全体にわたって電流が観測され、継続的に腐食が進行したことが確認された。一方、実施例1の表面処理部材は、試験期間の相対電流密度値がほぼ0であり、比較例1および2に比べて腐食がほとんど起こっていないことが確認された。なお、図7に、腐食試験開始から0.5時間後、9時間後、18時間後のそれぞれの時点での相対電流密度値(比較例2の値を1とする)を示す。
<接触抵抗の測定>
上記腐食試験前後の表面処理部材について、積層方向の接触抵抗を以下の方法で測定した。具体的には、図8に示すように、各表面処理部材(セパレータ5)の両側を1対のガス拡散基材(ガス拡散層4a、4c)で挟持し、得られた積層体の両側をさらに1対の電極26で挟持した。そして、その両端に電源を接続し、電極を含む積層体全体を1MPaの荷重で保持して、測定装置を構成した。この測定装置に1Aの定電流を流し、1MPaの荷重をかけた時の通電量および電圧値から当該積層体の接触抵抗値を算出した。結果を下記表1に示す。表1の接触抵抗の各数値は、比較例1の腐食試験前の値を1とした相対値である。また、表1には、実施例および比較例の導電性炭素層の成膜時間も示す。
上記表1から分かるように、実施例1の表面処理部材は、接触抵抗が低く、耐食性に優れることが分かる。また、実施例1の導電性炭素層は、比較例2の導電性炭素層よりも成膜時間を短縮することができる。
1 固体高分子形燃料電池(PEFC)、
2 固体高分子電解質膜、
3 触媒層、
3a アノード触媒層、
3c カソード触媒層、
4a アノードガス拡散層、
4c カソードガス拡散層、
5 セパレータ、
5a アノードセパレータ、
5c カソードセパレータ、
6a アノードガス流路、
6c カソードガス流路、
7 冷媒流路、
10 膜電極接合体(MEA)、
11 真空チャンバー、
14 炭素原料電極、
15 アルゴンガス管、
16 アルゴンガス導入ポート、
17 パルス電源、
18 DC電源、
20 表面処理部材、
21 基材、
22 中間層、
23 導電性炭素層、
24 層A、
25 層B
26 電極、
100 成膜装置。

Claims (7)

  1. 基材と、前記基材上に形成された1層以上の中間層と、前記中間層上に形成され、少なくとも2層からなる導電性炭素層と、を有する燃料電池構成部品用表面処理部材であって、
    前記中間層は、長周期型周期表の第4族の金属、第5族の金属、および第6族の金属からなる群より選択される少なくとも1種の材料から構成され、
    前記導電性炭素層は、前記中間層に最も近い層Aよりも前記中間層から最も離れた層Bの方が、ラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IDとG−バンドピーク強度IGとの強度比R(I/I)が大きく、
    前記層Aの強度比R (I DA /I GA )が1.2以下である、燃料電池構成部品用表面処理部材。
  2. 前記層Bにおけるラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IDBとG−バンドピーク強度IGBとの強度比R(IDB/IGB)と、前記層Aにおけるラマン散乱分光分析より測定されたD−バンドピーク強度IDAとG−バンドピーク強度IGAとの強度比R(IDA/IGA)との比率(R/R)が1.2以上2.0以下である、請求項1に記載の燃料電池構成部品用表面処理部材。
  3. 前記層Bの強度比R(IDB/IGB)が1.7以上である、請求項1または2に記載の燃料電池構成部品用表面処理部材。
  4. 前記層Aを大電力パルススパッタリング法により形成することを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の燃料電池構成部品用表面処理部材の製造方法。
  5. 前記層Bを大電力パルススパッタリング法により形成することを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の燃料電池構成部品用表面処理部材の製造方法。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載の燃料電池構成部品用表面処理部材または請求項4もしくは5に記載の製造方法により製造された燃料電池構成部品用表面処理部材から構成される、燃料電池用セパレータ。
  7. 高分子電解質膜、これを挟持する一対のアノード触媒層およびカソード触媒層、ならびにこれらを挟持する一対のアノードガス拡散層およびカソードガス拡散層を含む膜電極接合体と、
    前記膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータと、を有する固体高分子形燃料電池であって、
    前記アノードセパレータまたは前記カソードセパレータの少なくとも一方が、請求項に記載の燃料電池用セパレータであり、
    この際、前記燃料電池用セパレータが凹凸状に形成されてなり、当該凸部が前記膜電極接合体と接触し、当該凹部が燃料ガスまたは酸化剤ガスを流通するためのガス流路とされてなる、固体高分子形燃料電池。
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