JP5458607B2 - 耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼の製造方法 - Google Patents

耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、湿潤硫化水素腐食環境下で使用される耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼の製造方法に関するものである。
一般に、湿潤硫化水素腐食環境下で使用される鋼材には、耐HIC(水素誘起割れ)性能及び耐SSC(硫化物応力腐食割れ)性能、つまり、優れた耐硫化物腐食割れ性が要求されている。鋼中に含有される硫黄(S)は、凝固過程でMnSを生成し、しかも、凝固時の硫黄の偏析により、MnSの濃化した部位が鋳片に形成される。このMnSは圧延時に圧延方向に長く伸び、水素の集積を促進させ、耐HIC性能を低下させる。そこで、この水素誘起割れの発生を抑制する手段として、鋼成分の極低硫化とともに、カルシウム(Ca)添加による硫化物の形態制御が一般的に行われている。ここで、硫化物の形態制御とは、Caを添加することによって硫化物の形態をMnSからCaSに改質することを差す。
ところで、Caは溶鋼温度域での蒸気圧が高く、溶鋼中への溶解度が低い。そのため、鋳造時の溶鋼中に所定量のCaを残留させるために、Caの添加は、取鍋精錬処理の最終段階或いは連続鋳造設備のタンディッシュ内で行われることが一般的であった。
しかし、Caは硫黄のみならず酸素との親和力も強く、溶鋼中に添加されたCaは最初に酸素と反応し、CaO系酸化物としてCaO−Al23の脱酸生成物を形成する。つまり、CaはAlで脱酸された溶鋼に添加されても、脱酸生成物であるAl23をCaO−Al23系介在物に改質する。その後、硫黄と反応してCaSを生成し、添加したCaの一部が溶鋼中に溶解した形態で残留する。
従って、Caの添加歩留まり(残留したCaと添加したCaとの比)は、溶鋼中の酸素濃度や硫黄濃度に左右され、Caの添加量が同一であっても、溶鋼中に溶解して存在するCaの濃度は変化し、前述した従来の添加方法では、溶鋼中の酸素量及び硫黄量によってCa歩留まりが左右され、耐HIC性能の劣化を招くことがあった。
また、溶鋼中のCaO−Al23系介在物は、Ca添加後の放置時間が長いほど、溶鋼中から浮上・分離しやすくなる。しかし、上述のように、Caの特性上から、精錬工程の最終段階或いは連続鋳造設備のタンディッシュ内でのCa添加を余儀なくされ、十分な浮上・分離の時間を確保できず、Al23をCaO−Al23系介在物に形態制御しても、溶鋼からの除去が進まず、溶鋼中に残留していた。尚、Al23はクラスター状となり、溶鋼からの浮上・分離性が悪いが、CaO−Al23系介在物は、低融点であり、一般的にはクラスターを形成せず、Al23に比較して浮上・分離性が良く、Al23をCaO−Al23系介在物に形態制御することは、溶鋼の清浄度向上に寄与する。
生成したCaO−Al23系介在物の浮上・分離を促進させるために、酸化物系介在物の形態制御のためのCa添加と、硫化物の形態制御のためのCa添加とを、2段階に分けて添加する方法が多数提案されている。
例えば、特許文献1には、転炉から取鍋へ出鋼された溶鋼をAlで脱酸し、成分を調整した溶鋼にCa−Si合金を添加してCaO−Al23系介在物を生成させ、次いで、RH真空脱ガス装置にて精錬してCaO−Al23系介在物を除去し、脱ガス精錬終了後に、取鍋内にCa−Si合金を添加して硫化物の形態制御を行うことを特徴とする、清浄鋼の製造方法が提案されている。
特許文献2には、転炉出鋼時若しくは出鋼後にAlなどの還元剤を所定量添加してキルド化した取鍋内溶鋼に、Ca含有合金を添加し、且つ、このCa含有合金の添加の前または後に、該溶鋼を所定温度まで昇温しCaOを含有するフラックスを用いた脱硫処理を施し、次いで、真空脱ガス処理を施し、続いて該溶鋼をタンディッシュを経て連続鋳造する工程でのタンディッシュ内の溶鋼に、連続的若しくは間欠的にCa合金を添加することを特徴とする、Ca添加鋼の製造方法が提案されている。
また、特許文献3には、真空脱ガス設備において、真空槽を減圧するとともに取鍋底部に配置したインジェクションランスから、脱硫剤としてのCaO−CaF2フラックスと、Ca合金としてのCa−Siとの事前混合品を溶鋼中に吹き込んで脱硫処理及び脱水素処理を行い、その後、真空槽を大気圧に戻してから、前記ランスを介して溶鋼中にCa合金またはCa化合物を吹き込むことを特徴とする精錬方法が提案されている。
特開昭61−179811号公報 特開平8−3620号公報 特開平5−287356号公報
特許文献1〜3などに開示されるCaの2段添加により、Caの1段添加の場合に比較して溶鋼の清浄性は大幅に向上し、耐硫化物腐食割れ性に優れる鋼材の製造が格段に安定化した。しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。
即ち、特許文献1及び特許文献2では、転炉出鋼後の溶鋼に先ず脱硫処理を施し、その後、1段目のCa添加を実施するという点である。つまり、真空脱ガス設備における脱ガス精錬までに脱硫処理とCa添加との2回の処理が必要であり、生産性が低いのみならず、処理時間が長くなり溶鋼温度の降下量が大きくなるという問題点がある。特許文献2では、1段目のCa添加の後に脱硫処理を施すことも提案するが、この場合には、溶鋼の硫黄濃度が高い状態でCaを添加することになり、Caは脱硫剤としても機能するので、Caの歩留まりが低下するという問題点も招く。
また、特許文献2では、連続鋳造設備のタンディッシュで2段目のCa添加を実施しており、タンディッシュ内の溶鋼は連続的に入れ替わっており、溶鋼中のCa含有量が鋳造方向で変動するという問題点がある。また、タンディッシュ内での添加は添加深さが確保できないために、Ca歩留りが悪く、またばらつきもも大きい。
特許文献3では、真空脱ガス設備で1段目のCa添加及び脱硫処理を行っており、生産性は優れるが、1段目のCa添加により生成されるCaO−Al23系介在物の浮上・分離の時間が短く、溶鋼中にCaO−Al23系介在物が残留するという問題点がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、高い生産性で効率良く、しかも、CaO−Al23系介在物の含有量が少なく、耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼を、2段階のCa添加によって製造する方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するべく、試験・検討を行った。
その結果、転炉からの出鋼後に取鍋内の溶鋼に対して行う脱硫処理において、1段目のCa添加を脱硫処理と同時に実施することで、工程が短縮されることによって生産性が向上するのみならず、脱硫処理後の溶鋼中硫黄濃度が従来に比較して低下するとの知見が得られた。これは、Caは酸素との親和力が極めて強く、Caを添加することにより、脱硫処理時の溶鋼の酸素ポテンシャルが低下し、還元反応である脱硫反応が促進されるためと考えられる。このCa添加を伴う脱硫処理後に、真空脱ガス処理、真空脱ガス処理後に更に2段目のCa添加を実施することで、硫黄濃度が極めて低く、且つ、酸化物系介在物及び硫化物系介在物が極めて少ない、耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼を高い生産性で製造できるとの知見を得た。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼の製造方法は、転炉から取鍋への出鋼時または出鋼後に溶鋼にAlを添加して溶鋼を脱酸し、先ず、この取鍋内の溶鋼にCaOを含有するフラックスを添加して脱硫処理を施すとともに、この脱硫処理時にCa含有金属を添加し、次いで、取鍋内の溶鋼に真空脱ガス処理を施し、更に、真空脱ガス処理後の取鍋内の溶鋼にCa含有金属を添加し、その後、該溶鋼を鋳造することを特徴とするものである。
第2の発明に係る耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼の製造方法は、第1の発明において、前記脱硫処理時におけるCa含有金属のCa純分の添加量を、Caの添加歩留まりを100%としたときに溶鋼中のCa濃度が下記の(1)式の範囲内となるように、溶鋼中のAl濃度及びトータル酸素濃度に応じて調整することを特徴とするものである。
[%Ca]≧0.01×[%Al]2/3+0.9×[%T.O]…(1)
但し(1)式において、[%Ca]は溶鋼中のCa濃度(質量%)、[%Al]は溶鋼中のAl濃度(質量%)、[%T.O]は溶鋼中のトータル酸素濃度(質量%)である。
本発明によれば、1段目のCa添加を脱硫処理と同時に実施するので、製造工程が短縮されることによって生産性が向上するのみならず、脱硫処理後の溶鋼中硫黄濃度が従来に比較して低下し、その結果、硫黄濃度が極めて低く、且つ、酸化物系介在物及び硫化物系介在物が極めて少ない、耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼を高い生産性で製造することが実現される。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼の製造方法は、転炉から取鍋への出鋼時または出鋼後に溶鋼にAlを添加して溶鋼を脱酸し、先ず、この取鍋内の溶鋼にCaOを含有するフラックスを添加して脱硫処理を施すとともに、この脱硫処理時にCa含有金属を添加し、次いで、取鍋内の溶鋼に真空脱ガス処理を施し、更に、真空脱ガス処理後の取鍋内の溶鋼にCa含有金属を添加し、その後、該溶鋼を鋳造することを特徴とする。
耐HIC鋼に必要な特性としては、(a)硫黄含有量が低いこと、(b)酸化物系介在物が少ないこと、及び、(c)CaSが残留しないことが重要である。これらを全て兼ね備えるためには、(1)高効率な溶鋼の脱硫処理により極低硫化すること、(2)酸化物系介在物の組成を浮上・分離しやすい形態に制御して浮上・分離を促進すること、(3)最適なCa添加量によりMnSの生成を防止するとともに、Caの硫化物と酸化物との化合物(「オキシ−サルファイド系介在物」と称す)の生成を抑制することが重要である。
これらを満足するために、本発明においては、溶鋼に脱硫処理を施して極低硫化を図るとともに、Ca添加を、1段目の酸化物系介在物の形態制御のための添加と、2段目の硫化物形態制御のための添加との2段に分けて添加し、且つ、1段目のCa添加の後に真空脱ガス精錬による強攪拌を溶鋼に施し、酸化物系介在物の浮上・分離を促進させる。また、2段目のCa添加は、溶鋼中のCa濃度を均一化させるためには、取鍋内溶鋼に添加する必要があり、また、凝固過程において溶鋼中にCaを残留させるためには、2段目のCa添加は鋳造開始時期に近い段階が望ましく、従って、2段目のCa添加は真空脱ガス精錬終了後の取鍋内で行うこととした。尚、真空脱ガス精錬中つまり減圧下の溶鋼にCaを添加しても、Caは蒸気圧が高く、溶鋼中に留まるCaは少量であり、効率的ではない。
溶鋼の脱硫処理は還元反応であるので、溶鋼の酸素ポテンシャルは低いほど望ましく、従って、本発明においては、転炉から取鍋への出鋼時または出鋼直後、溶鋼に金属Alを添加して予め溶鋼を脱酸する。この脱酸処理により形成される脱酸生成物はAl23(アルミナ)であり、溶鋼からの浮上・分離性は良くない。本発明ではこのAl23の浮上・分離を促進させるために、出鋼時または出鋼直後にAlで脱酸し、1段目のCa添加までの時間、つまりAl23の浮上・分離のための時間をできるだけ長く確保する。
本発明における溶鋼の脱硫処理は、CaO系の安価な脱硫剤であっても極低硫鋼が得られることから、CaOを含有するフラックスを脱硫剤として添加し、この脱硫剤と溶鋼とをインジェクションランスなどから吹き込む希ガスにより強攪拌して脱硫処理する。脱硫剤としてのCaOを含有するフラックスとしては、生石灰(CaO)単独、或いは、生石灰と、CaOの滓化促進剤であるAl23またはSiO2との混合物などを用いることができる。
溶鋼を効率的に脱硫するには、(1)溶鋼と脱硫剤との攪拌力を強めること、及び、(2)溶鋼の酸素ポテンシャルを低下させることが効果的である。本発明においては、脱硫処理時にCaを添加するので、上記の両者を同時に満足させることができる。
即ち、本発明においては、溶鋼の脱硫処理はインジェクションランス或いは取鍋底部のポーラス煉瓦などからの攪拌用ガス(Arガスなどの希ガス)の吹き込みによって脱硫剤と溶鋼とを強攪拌して行うが、インジェクションランスからの攪拌用ガスを搬送用ガスとして攪拌用ガスの吹き込みとともにCa合金の粉末を吹き込むか、或いは、その内部にCa合金を充填した鉄被覆ワイヤーを溶鋼中に添加することで、添加されるCaが溶鋼中の酸素と反応して溶鋼が脱酸され、溶鋼の酸素ポテンシャルが低下すると同時、吹き込まれるCaの一部は蒸気となり、これによって溶鋼の攪拌力が強化される。この2つの現象により、溶鋼の脱硫反応が促進される。また、Ca添加により生成するCaOは、溶鋼中のAl23と反応して、低融点のCaO−Al23系介在物を形成する。
このCa添加を伴う溶鋼の脱硫処理後、取鍋に収容された溶鋼をRH真空脱ガス装置などの真空脱ガス設備に搬送し、真空脱ガス設備で溶鋼に真空脱ガス精錬を施す。この真空脱ガス精錬による溶鋼の強攪拌によって、CaO−Al23系介在物の浮上分離が促進される。
つまり、このようにして溶鋼を処理することで、上記の耐HIC鋼に必要な特性のうちの(a)の「硫黄含有量が低いこと」、及び(b)の「酸化物系介在物の個数が少ないこと」の両者を満足することができる。尚、溶鋼に真空脱ガス精錬を施すことで、溶鋼中に溶解していたCaの大部分は気化・蒸発してしまい、そのままでは硫化物の形態制御は期待できない。
ここで、1段目のCa添加は、溶鋼中のAl23をCaO−Al23系介在物に形態制御することを目的としており、従って、溶鋼中に懸濁しているAl23の量に応じてCaの添加量を決定することが好ましい。但し、溶鋼中に懸濁しているAl23の量をリアルタイムで測定することは困難である。本発明者らは、溶鋼中に懸濁しているAl23の量をリアルタイムで推定することのできる要素を検討した結果、溶鋼中に懸濁しているAl23の量はトータル酸素濃度と強い相関があることを確認した。尚、トータル酸素濃度とは、溶鋼中に溶解している酸素と、酸化物として溶鋼中に存在する酸素との合計の酸素濃度である。
即ち、溶鋼中のトータル酸素濃度からCaの添加量を設定できることが分かった。また、溶鋼中に溶存するCaの量は、溶鋼中のAlとの平衡によって定まる。これらから、1段目のCa添加量は、化学量論的な検討及び実際の反応効率を詳細に検討した結果、Caの添加歩留まりを100%としたときに溶鋼中のCa濃度が下記の(1)式の範囲内となるように、溶鋼中のAl濃度及びトータル酸素濃度に応じて調整することが好ましいことが確認できた。
[%Ca]≧0.01×[%Al]2/3+0.9×[%T.O]…(1)
但し(1)式において、[%Ca]は溶鋼中のCa濃度(質量%)、[%Al]は溶鋼中のAl濃度(質量%)、[%T.O]は溶鋼中のトータル酸素濃度(質量%)である。
また、溶鋼の脱硫処理と同時に1段目のCa添加を実施することで、上記のように効率的に溶鋼を脱硫処理することが可能になるとともに、従来のようにそれぞれを独立して実施していた場合に比較して、脱硫処理及び1段目のCa添加に費やす合計の処理時間を大幅に短縮することができ、高い生産性を確保することができる。
2段目の硫化物の形態制御のためのCa添加は、真空脱ガス精錬後の取鍋内の溶鋼に対して実施する。2段目のCa添加は、インジェクションランスを介して搬送用ガスとともにCa合金の粉末を吹き込むか、或いは、その内部にCa合金を充填した鉄被覆ワイヤーを溶鋼中に添加して実施する。2段目のCa添加は、添加対象の溶鋼の硫黄濃度が低く且つ酸化物系介在物も少ないので、溶鋼中にCaが0.0010〜0.0030質量%程度残留するように、Ca純分の添加量を設定すればよい。これにより、耐HIC鋼に必要な特性である(c)の「CaSが残留しないこと」が達成される。
以上説明したように、上記構成の本発明によれば、1段目のCa添加を脱硫処理と同時に実施するので、製造工程が短縮されることによって生産性が向上するのみならず、脱硫処理後の溶鋼中硫黄濃度が従来に比較して低下し、硫黄濃度が極めて低く、且つ、酸化物系介在物及び硫化物系介在物が極めて少ない、耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼を高い生産性で製造することが実現される。
転炉から出鋼された、C:0.02〜0.1質量%、Mn:0.5〜1.2質量%、P:0.01質量%以下、S:0.0025〜0.005質量%、Al:0.02〜0.04質量%を含有する200〜260トンの取鍋内溶鋼に対し、本発明による製造方法(本発明例)及び従来法による製造方法(比較例1〜4)を適用して耐HIC鋼を製造した。
本発明例及び比較例1〜4の何れの場合も、転炉出鋼直後に金属Alを添加して溶鋼を脱酸し、脱硫処理工程においては、CaO−Al23−SiO2系のフラックスを脱硫剤として用い、黒鉛電極からのアーク加熱により溶鋼を昇温し、前記脱硫剤を滓化させ、溶鋼に浸漬させたインジェクションランスから100〜150Nm3/hrのArガスを攪拌用ガスとして吹き込み、溶鋼及び脱硫剤を攪拌して脱硫した。この脱硫処理の後に、RH真空脱ガス装置を用いて、脱ガス処理、溶鋼成分の調整、攪拌による介在物の浮上・分離を行った。真空脱ガス精錬の処理時間は20分間とし、何れの場合も同一とした。溶鋼へのCaの添加方法はそれぞれ異なるので、以下に、本発明例及び比較例1〜4の各製造方法を説明する。
本発明例では、脱硫処理時、インジェクションランスからのArガスとともにCa−Si合金粉末(Ca:30質量%、Si:70質量%)を1分間あたり20〜30kgで吹き込み、その吹き込み量は1チャージあたり150〜250kgとした。脱硫処理後、RH真空脱ガス装置で20分間の脱ガス精錬を実施した後、取鍋をRH真空脱ガス装置から払い出し、ワイヤーフィーダー装置を用い、Ca−Si合金(Ca:30質量%、Si:70質量%)を、その内部に充填した鉄被覆ワイヤーを1分間あたり20〜30kgの添加速度で溶鋼の硫黄濃度に応じて1チャージあたり30〜70kg添加した。その後、この溶鋼を連続鋳造設備に搬送し、連続鋳造した。
比較例1では、真空脱ガス精錬後、取鍋をRH真空脱ガス装置から払い出し、ワイヤーフィーダー装置を用い、前述の鉄被覆ワイヤーを1分間あたり20〜30kgの添加速度で溶鋼の硫黄濃度に応じて1チャージあたり70〜110kg添加した。その後、この溶鋼を連続鋳造設備に搬送し、連続鋳造した。
比較例2では、脱硫処理終了後に、取鍋内溶鋼に浸漬させたインジェクションランスからArガスを搬送用ガスとして前述のCa−Si合金粉末を1分間あたり20〜30kgで、1チャージあたり150〜250kg、溶鋼中へ吹き込んだ。その後、RH真空脱ガス装置で20分間の脱ガス精錬を実施した後、取鍋を連続鋳造設備に搬送し、連続鋳造中、連続鋳造設備のタンディッシュ内の溶鋼に、ワイヤーフィーダー装置を用いて前述の鉄被覆ワイヤーを1分間あたり0.7〜1.0kgの添加速度で溶鋼の硫黄濃度に応じて1チャージあたり70〜110kg添加した。
比較例3では、真空脱ガス精錬後、取鍋内溶鋼に浸漬させたインジェクションランスからArガスを搬送用ガスとして前述のCa−Si合金粉末を1分間あたり20〜30kgで、1チャージあたり150〜250kg、溶鋼中へ吹き込んだ。その後、取鍋を連続鋳造設備に搬送し、連続鋳造中、連続鋳造設備のタンディッシュ内の溶鋼に、ワイヤーフィーダー装置を用いて前述の鉄被覆ワイヤーを1分間あたり0.7〜1.0kgの添加速度で溶鋼の硫黄濃度に応じて1チャージあたり70〜110kg添加した。
比較例4では、減圧下での真空脱ガス精錬時、取鍋内溶鋼に浸漬させたインジェクションランスからArガスを搬送用ガスとして前述のCa−Si合金粉末を1分間あたり20〜30kgで、1チャージあたり150〜250kg、溶鋼中へ吹き込んだ。更に、RH真空脱ガス装置の真空槽を大気圧に戻した後、取鍋内溶鋼に浸漬させたインジェクションランスからArガスを搬送用ガスとして前述のCa−Si合金粉末を1分間あたり20〜30kgで、1チャージあたり70〜110kg、溶鋼中へ吹き込んだ。その後、この溶鋼を連続鋳造設備に搬送し、連続鋳造した。
それぞれの製造方法において、各製造工程での溶鋼の成分を調査した。また、連続鋳造により得られた鋳片の幅中央で厚み方向1/4の位置から採取した試験片について、S及びCaの含有量を調査するとともに、介在物の個数判定並びにCaO−Al23系介在物におけるCaO/Al23の質量比率を調査した。
それらの結果を表1に示す。表1では、脱硫処理工程の処理時間を併せて示している。尚、脱硫処理時間は、従来の脱硫処理方法である比較例1〜4の処理時間を1.0として指数化して表示し、また、鋳片の介在物個数は、Caの1段添加である比較例1を基準として指数化して表示している。
Figure 0005458607
表1から明らかなように、本発明例では、脱硫処理時間を2割程度短縮することができた。更に、脱硫処理後の溶鋼中硫黄濃度は比較例1〜4に比べて低く、極低硫鋼が得られることが分かった。また、鋳片のCa濃度を比較すると、一段のCa添加である比較例1では、10〜35ppmとばらつきが大きいのに対し、Caを2段添加した比較例2〜4では、鋳片のCa濃度のばらつき幅は15〜19ppmと低下していた。なかでも、2段目のCaを取鍋で添加した比較例4では、Ca濃度のばらつき幅が小さくなっていた。
本発明例では、鋳片のCa濃度のばらつき幅は10ppmであり、比較例4よりも更に鋳片のCa濃度のばらつき幅が低下した。
また、指数化した鋳片の介在物個数は、2段のCa添加である比較例2〜4では0.75〜0.98であるのに対し、本発明例では0.66〜0.72であり、同じ2段のCa添加でありながら、本発明例の優位性が確認できた。これは、本発明例においては介在物の浮上時間が長くなることに基づいている。
上記の調査結果に基づき、脱硫処理時間、低硫化度合い、工程数、酸化物系介在物組成制御の精度、酸化物系介在物浮上効率、酸化物系介在物浮上時間、Ca歩留りの7つの項目について、本発明例及び比較例1〜4の各製造方法の優位性を比較・評価した結果を表2に示す。尚、表2の◎印は極めて良好、○は良好、△はやや不良、×は不良を表している。
Figure 0005458607
本発明例では、脱硫処理と同時にCaを添加するので、それによる強攪拌及び脱酸効果により、脱硫処理時間及び低硫化度合いが比較例1〜4に比べて優れている。
また、本発明例では、脱硫処理と同時に1段目のCa添加を実施するので、1段目のCa添加のための工程を必要とせず、1段添加の比較例1と同等の工程で処理することができる。これに対して、比較例2は、1段目のCa添加の工程が別途必要であり、更に、タンディッシュにおいてもCaを添加する必要があり、比較例3は、タンディッシュにおいてもCaを添加する必要がある。比較例4は、工程的には本発明例と同等である。
また、Ca添加が1段のみである比較例1に比べて、Ca添加が2段である本発明例及び比較例2〜4では、酸化物系介在物組成の形態制御と、硫化物の形態制御のためのCaを分割し、2段に分けて添加したことで、酸化物系介在物組成制御の精度が向上する。その中でも特に、本発明例では1段目のCa添加量を最適に制御できるので、溶鋼中のAl23のほとんどを形態制御することが可能であり、酸化物系介在物組成制御の精度がより高い。
また、各処理工程に要する時間及び処理間の所要時間を同じとした場合、酸化物系介在物の浮上時間を、酸化物系介在物形態制御のためのCa添加から鋳造までの時間と定義すると、本発明例が最も浮上時間が長く、これは、本発明例において酸化物系介在物が少ないことと一致する。
また更に、鋳片のCa濃度のばらつき幅は、Caを2段に分けて添加することで少なくなるが、特に、2段目のCaを取鍋内の溶鋼に添加することで、Ca濃度が均一化されることが分かる。
このように、本発明方法は、脱硫処理時間、低硫化度合い、工程数、酸化物系介在物組成制御の精度、酸化物系介在物浮上効率、酸化物系介在物浮上時間、Ca歩留りの7つの全ての項目から見て、優れた製造方法であることが確認できた。
実施例1に記載した本発明例において、1段目のCa添加のCa−Si合金の添加量を溶鋼中のAl濃度及びトータル酸素濃度に対して変更し、鋳片の酸化物系介在物に及ぼす影響を調査した。鋳片の酸化物系介在物の調査方法は実施例1と同様の方法で実施した。
調査結果を表3に示す。尚、表3において、鋳片の酸化物系介在物の個数は、実施例1と同様に、Caを1段で添加した、実施例1の比較例1を基準として、指数化して示している。
Figure 0005458607
表3に示すように、(1)式で定まる範囲内のCaを添加した試験1〜4は、Ca添加量が(1)式で定まる範囲よりも少ない試験5〜8に比べて、鋳片のCa濃度が高く、且つ、鋳片の酸化物系介在物個数が少なくなっており、酸化物系介在物の低減効果が顕著であることが分かった。

Claims (1)

  1. 転炉から取鍋への出鋼時または出鋼後に溶鋼にAlを添加して溶鋼を脱酸し、先ず、この取鍋内の溶鋼にCaOを含有するフラックスを添加して脱硫処理を施すとともに、この脱硫処理時にCa含有金属を添加し、次いで、取鍋内の溶鋼に真空脱ガス処理を施し、更に、真空脱ガス処理後の取鍋内の溶鋼にCa含有金属を添加し、その後、該溶鋼を鋳造する、耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼の製造方法であって、前記脱硫処理時におけるCa含有金属のCa純分の添加量を、Caの添加歩留まりを100%としたときに溶鋼中のCa濃度が下記の(1)式の範囲内となるように、溶鋼中のAl濃度及びトータル酸素濃度に応じて調整することを特徴とする、耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼の製造方法。
    [%Ca]≧0.01×[%Al] 2/3 +0.9×[%T.O]…(1)
    但し(1)式において、[%Ca]は溶鋼中のCa濃度(質量%)、[%Al]は溶鋼中のAl濃度(質量%)、[%T.O]は溶鋼中のトータル酸素濃度(質量%)である。
JP2009054333A 2009-03-09 2009-03-09 耐硫化物腐食割れ性に優れた清浄鋼の製造方法 Expired - Fee Related JP5458607B2 (ja)

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