以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。
本発明でいう酸化亜鉛薄膜とは、主成分が亜鉛Znと酸素Oとからなる無機化合物薄膜であり、それ以外に複数の元素を添加元素として含有することができる。そのような添加元素としては、例えばホウ素B,アルミニウムAl,ガリウムGa,インジウムIn,炭素C,シリコンSi,ゲルマニウムGe,スズSn,窒素N,フッ素F,スカンジウムSc,チタンTi,バナジルV,ニッケルNi等の元素を亜鉛Zn及び酸素O以外の添加元素として含むことができる。また、本発明ではそれら酸化亜鉛薄膜の中で透明導電性の高いものを対象としているが、そのためのZnとO以外の添加元素としてはAl,Ga,In,Ti,Ni,Si,Zr,Vの中から少なくとも一つを含むことが望ましい。
また、本発明でいう下地層とは、基板と酸化亜鉛薄膜との間にあって、酸化亜鉛薄膜に接触している薄膜層のことを示す。また、本発明でいう結晶性向上処理とは、酸化亜鉛薄膜を形成する下地層が、何らかの作用によって薄膜成長初期の酸化亜鉛薄膜層の結晶配向性を向上させることができる状態に保たれていることをいう。ここでいう薄膜成長初期の酸化亜鉛薄膜層とは、膜厚が100nm以下までの酸化亜鉛薄膜を指し、望ましくは50nm以下の酸化亜鉛薄膜層を指す。また、ここでいう酸化亜鉛薄膜層の結晶配向性とは、六方晶系の酸化亜鉛薄膜のc軸方向がどの程度基板に垂直な方向に揃っているかで判断することが可能であり、例えば広角X線回折法によって膜厚方向の結晶構造解析を行った時に、酸化亜鉛のc軸に由来する(002)面の回折ピーク(回折角2θ=34度)またはその高次の(00n)面の回折ピーク(n=2,3,…)以外のピークが現れないことや、同じの(002)面の回折ピークの半値全幅がより狭くなっていることや回折ピーク角度の変化量から面間隔を求め、それから結晶格子の歪みの大小を比較する等によって、調べることが可能である。また、その比較の基準となる酸化亜鉛薄膜層の結晶状態は、特に表面処理を施されていない無アルカリガラス基板上に形成された場合の酸化亜鉛薄膜層の結晶状態を指す。もし、酸化亜鉛薄膜の膜厚が100nmよりも厚い場合、薄膜成長初期の酸化亜鉛薄膜層の部分の結晶性を解析するためには、例えば酸化亜鉛薄膜を最上層からエッチングによって膜厚100nm以下に薄くした後、通常の構造解析手法を施すことによって評価できる。
また、本発明でいう配向処理とは、その処理を施された対象表面に幾何学的形状を形成する処理であって、その幾何学的形状は表面を構成する原子及び隣接する原子同士が化学的に結合した距離の少なくとも10倍以上の長さ(ここでは配向処理形状単位長と呼ぶことにする)を持つ。
また、本発明でいうラビング処理とは、その処理を施される対象表面を、別の部材(ラビング部材と呼ぶことにする)と擦り合わせる処理であって、ラビング部材の硬度はその処理を施される対象物の硬度よりも柔らかいものであることを特徴としている。
また、本発明でいう配向膜とは、前記基板の最表面に形成され、前記透明導電膜とは異なる物質からなり、かつ上記配向処理とは異なる方法で結晶性向上処理状態に保たれている薄膜層のことをいう。
また、下地層を保持した状態の透明導電膜の比抵抗が、下地層を保持しない状態の透明導電膜の比抵抗よりも低抵抗であるとは、同じ膜厚の酸化亜鉛薄膜の比抵抗を比較した場合に下地層を保持しない状態の透明導電膜よりも下地層を保持した状態の透明導電膜の方がより低抵抗であることを指し、具体的には抵抗の減少度が20%以上ある場合に、低抵抗な状態にあるという。
また、本発明でいう高分子鎖がその形成過程で面内に結晶性向上処理された状態とは、該下地層が高分子物質からなり、該配向処理状態に保つために、下地層中または下地層表面の高分子鎖を何らかの手段を用いて下地層膜面内にその高分子主鎖を配列させた状態に置かれていることをいう。高分子鎖がこのような膜面内の配列状態にあるかどうかは、通常の構造分析手段、例えばFT−IRや偏光光学吸収測定,X線回折法等の手段によって解析することが可能である。
本発明の酸化亜鉛ターゲット材料を用いた薄膜形成する手法には、所謂物理的作製方法のスパッタ法が主に用いることが可能であり、具体的にはDCスパッタ法,DCマグネトロンスパッタ法,RFスパッタ法,RFマグネトロンスパッタ法,対向ターゲットスパッタ法,ECRスパッタ法,デュアルマグネトロンスパッタ法、等を用いることができる。
また、本発明の酸化亜鉛薄膜は、スパッタ法によって、適当な基板上に薄膜化される。基板としては、コーニング1737等の一般的な硼珪ガラスや溶融石英等のガラス基板、或いはシリコンや石英等の単結晶基板,SUSや銅,アルミニウム等の金属基板,ポリカーボネート(Polycarbonate)やポリアクリレート(Polyacrylate)等のプラスチック基板、或いはこれらを組み合わせた多層基板を用いることができる。或いは、基板はその母材からの切り出し研磨,射出成形,サンドブラスト法,ダイシング法等の手法によって形成することができる。別の形態として、既に下地に薄膜トランジスタや配線パターニングされたものの上に本発明の酸化亜鉛薄膜を形成したり、或いは別途そのような加工が施された基板と本発明の酸化亜鉛薄膜を形成した別の基板とを貼り合わせたりすることが可能である。
また、本発明に係る酸化亜鉛薄膜は、その薄膜または素子形成の過程で、必要とする薄膜または素子構造を作製するために、各種精密加工技術を用いることができる。例えば、精密ダイヤモンド切断加工,レーザ加工,エッチング加工,フォトリソグラフィ,反応性イオンエッチング,集束イオンビームエッチング等が挙げられる。また、あらかじめ加工された薄膜または素子を複数個配列させたり、多層化したり、またはその間を光導波路で結合したり、またはその状態で封止したりすることもできる。
また、本発明に係る酸化亜鉛薄膜は、素子を不活性ガスまたは不活性液体を充填させた容器に保存することも可能である。更に、その動作環境を調整するための冷却または加熱機構を共存させることもできる。容器に用いることができる素材としては銅,銀,ステンレス,アルミニウム,真鍮,鉄,クロム等の各種金属やその合金、或いはポリエチレンやポリスチレン等の高分子材料等にこれら金属を分散させた複合材料、セラミック材料等を用いることができる。また、断熱層には発泡スチロール,多孔質セラミックス,ガラス繊維シート,紙等を用いることができる。特に、結露を防止するためのコーティングを行うことも可能である。また、内部に充填する不活性液体としては、水,重水,アルコール,低融点ワックス,水銀、等の液体やその混合物を用いることができる。また、内部に充填する不活性ガスとしては、ヘリウム,アルゴン,窒素等を挙げることができる。また、容器内部の湿度低減のために、乾燥剤を入れることも可能である。
また、本発明に係る酸化亜鉛薄膜は、製品の形成後に、外観,特性の向上や長寿命化のための処理を行ってもよい。こうした後処理としては、熱アニーリング,放射線照射,電子線照射,光照射,電波照射,磁力線照射,超音波照射等が挙げられる。更に、有機電界発光素子を各種の複合化、例えば接着,融着,電着,蒸着,圧着,染着,溶融成形,混練,プレス成形,塗工等、その用途または目的に応じた手段を用いて複合化させることができる。また、本発明に係る酸化亜鉛薄膜を透明導電膜として用いた素子、特に表示素子においては、駆動させるための電子回路と近接させて高密度実装させることも可能であり、外部との信号の授受のインターフェースやアンテナ等と一体化することもできる。
また、本発明が開示した酸化亜鉛薄膜は、主に透明導電膜への適用方法を示しているが、本発明の中で示した酸化亜鉛薄膜の高品質は薄膜形成手法によって、透明導電膜でない酸化亜鉛薄膜の形成、例えば半導体性や絶縁性の酸化亜鉛薄膜を形成することも可能である。また、本発明が開示した酸化亜鉛薄膜の作製方法は、もっぱら薄膜が形成される基板表面への形態加工を主としているため、場合によっては酸化亜鉛以外の薄膜をその上に形成することに適用することも可能である。
本発明の酸化亜鉛薄膜の基本的な構造を、図1を用いて説明する。
図1(a)には、本発明の透明導電膜付き基板の断面構造を模式的に示した。酸化亜鉛薄膜1は基板3の上に形成されており、酸化亜鉛薄膜1と基板3との間には、結晶性向上処理が施された下地層2が形成されている。ここでは、基板の面内方向をx方向、基板の表面に垂直な方向をz方向とし、酸化亜鉛薄膜1の膜厚をDz、結晶性向上処理が施された下地層2の厚みをLzとした。このような下地層2が存在することによって、酸化亜鉛薄膜1の結晶性が向上するが、その効果が最も現れやすい酸化亜鉛薄膜1の初期層4(膜厚DIz)とそれよりも膜厚が厚い領域に存在する酸化亜鉛薄膜1のバルク層5(膜厚DBz)に便宜的に分類して図1(b)には示した。酸化亜鉛薄膜1の総膜厚が初期層の厚みよりも薄い場合は、バルク層は存在しない。また、図1(c)には下地層2が存在しない場合の透明導電膜付き基板の構造も模式的に示したが、この中にも初期層4とバルク層5は存在する。両者の違いは、下地層2が介在することにより、初期層4の結晶性が向上するかどうかであり、同じ膜厚での酸化亜鉛層の結晶性をX線回折法等の手法で構造解析することで、調べることが可能である。異なる膜厚の酸化亜鉛層であれば、最上部から化学的エッチングや逆スパッタによって、薄膜表面から膜を少しずつ削り、同等の膜厚にした後に、残された膜の構造を調べることによって、その効果を知ることができる。このような効果を与えうる下地層の具体的な構造については、実施例の中で詳細に説明する。
このような結晶性向上処理が可能な下地層と同様の効果を示すように、基板そのものの表面に配向処理をすることも可能である。その具体的な方法について説明する。
図2(a)には、配向処理を施した透明導電膜付き基板の断面構造を模式的に示した。
本発明の酸化亜鉛薄膜1は基板3の上に形成されており、その基板3の表面は、配向処理が施された基板表面6となっている。ここでは、基板の面内方向をx方向、基板の表面に垂直な方向をz方向とし、酸化亜鉛薄膜1の膜厚をDz、配向処理が施された基板表面6の厚みをL′zとした。どのような形状が本発明の配向処理が施された基板表面6に該当するかについては、その一例を図2(b)に示している。すなわち、z方向に矩形に上下した形状がx方向に伸びた形状である。ここで、矩形のz方向の高さを、z方向の配向処理形状単位長Uz、x方向の長さをx方向の配向処理形状単位長Uxとした。例えば、このような基板が酸化ケイ素SiO2を主成分とするガラスの場合、その微細な構造は、図2(c)のようなシリコン原子Siと酸素原子Oとが交互に化学的に結合した化合物によって形成されている。その結合長をBLとすると、原子レベルでの基板表面凹凸自然に形成されるものであり、そのような自然に形成される凹凸は本発明の配向処理の対象ではない。その配向処理形状単位長Ux及びUzは、原子レベル結合長BLの10倍以上の大きさを持つ。
図3には、本発明の配向処理形状を立体的に理解するためのモデルを示した。図3(a)は、図2(b)と同じ配向処理が施された基板表面6の断面形状であり、紙面内にx,z方向がある。その紙面に垂直な方向にy軸があることを示しているが、その定義からy軸もまた基板の面内方向をなす。図3(b)及び図3(c)は、図3(a)を立体的なイメージで示したものである。ここでは、x軸方向の配向処理形状単位長Uxとy軸方向の配向処理形状単位長Uyとがほぼ同じ場合の図3(b)と、Uyの方がUxよりも充分長い場合の図3(c)とが示されている。このように面内の配向処理形状単位長はその方向によって様々な場合が考えられるが、基板に垂直な方向の配向処理形状単位長Uzよりは長いことが望ましい。すなわち、Uz≦UxまたはUz≦Uyである。
図4には、本発明の配向処理形状の個々の面内間隔を説明するためのモデルを示した。本発明の配向処理形状の各々は、先に説明したような形状,寸法を有する構造であることが望ましいが、個々の配向処理形状同士がどの程度の面内間隔で形成されているかもまた、酸化亜鉛薄膜を基板近傍から高結晶な薄膜とする上で重要であることが判明した。即ち、配向処理単位長Uzを有する配向処理形状は、面内に隣接して形成しているとは限らず、図4のように、配向処理単位長Uz以下の表面凹凸を介して、面内間隔Pxの距離離れた位置にある場合もある。実際には、非常にたくさんの配向処理形状のすべての位置を測定することができないので、AFMによって表面凹凸の面内分布を計測し、その測定結果を所定の深さ以上のものが、どの程度分布しているかを平均的に測定することで、その面内間隔の統計的な値を求める。具体的には、以下に説明するように、この統計的面内間隔が余り小さすぎても、或いは大きすぎても、高結晶化の効果は少ないことがわかった。
図5(a)〜(c)には、本発明の配向処理形状を複数の基板面内方向に形成する場合のモデルを示した。図5(a)は、基板8の表面に、複数の平行な配向処理形状7を形成した場合の基板面内(x−y面)モデルである。簡便のため、配向処理形状7は、ほぼ同等の間隔で形成されたように記載しているが、実際にはある程度の分布をもって形成されている場合も考えられる。これに対して、図5(b)は、図5(a)の処理形状に加えて、別の配向処理形状7′が重畳されている場合を示した。配向処理形状7と配向処理形状7′とは、ほぼ60°をためす場合を示したが、その方向は適宜選ぶことができる。また、その両者の角度も、例えば、60°を中心に±5°の範囲に収まるように分布を持たせることも可能である。図5(c)は、図5(b)の処理形状に加えて、別の配向処理形状7″が重畳されている場合を示した。配向処理形状7″は7及び7′のいずれに対しても、ほぼ60°をためす場合を示したが、その角度の選択や分布は、図5(b)の場合と同様である。このように、複数の面内方向を持つ配向処理形状を形成させることが可能であるが、余り面内方向の数が多いとその上に形成される酸化亜鉛薄膜の結晶性が低下することから、多くとも、3つの方向までに制御されることが望ましい。また、酸化亜鉛薄膜を、c軸を基板に対して垂直に成長させる場合には、基板面にはa軸面が形成される。六方晶系である酸化亜鉛のa軸面はその面を構成する原子面(Zn面またはO面)は六角形に配置されており、その配置に最も近い60°ごとの、2つまたは3つの配向処理形状が酸化亜鉛の場合には適している。
このような結晶性向上処理を用いることにより、酸化亜鉛の結晶性が向上する原因については、現時点では詳細にはわかっていない。可能性として、配向膜表面の処理形状(幾何学的、または化学的)に沿って、酸化亜鉛結晶の特定面が成長すること、或いは、配向処理形状が初期の結晶成長核を、その形状に沿って形成すること等が考えられる。また、基板と透明導電膜との間に、導電性の酸化亜鉛とは異なるが結晶系が同じ六方晶系の他の化合物、例えば非導電性の酸化亜鉛や、窒化ガリウム,窒化アルミニウム等を成長させた後、その上に目的の導電性酸化亜鉛層を形成することも可能である。このように基板との間に同じ結晶系でありながら、別の材料を薄く形成することにより、配向処理形状によって誘起された面内の配向性を維持しつつ、膜厚方向の凹凸を緩和した平坦性の高い(導電性酸化亜鉛層に対する)下地層となすことができる。
ここで、非導電性とは、電気伝導性の乏しい状態にあることを示し、その差異は材料の比抵抗(或いは電気伝導度,電気伝導率,導電率ともいう)により区別される。一般に導電体は比抵抗10-4Ωcm以下、半導体は10-3〜107Ωcm、絶縁体は108Ωcm以上の範囲にあるものを指し、非導電性とは半導体または絶縁体同等の比抵抗を示す状態である。
また、本発明は、各種光電子素子、例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ,有機発光ダイオード素子,太陽電池、等に用いることができる。
本発明に係る酸化亜鉛薄膜を透明電極として使用した表示素子または太陽電池の一例を図6から図9に示す。なお、図6から図9に示した表示素子または太陽電池は、本発明の適用例であり具体的な構造はこれらに限定されるものではない。
図6には、表示素子として液晶ディスプレイに本発明を適用した場合のデバイス構造を示している。このデバイスの中では、上下に対向した透明電極付の基板に液晶が挟まれたタイプの液晶ディスプレイについて示している。透明電極9及び透明電極9′は、上下に対向した基板14及び基板14′上に形成されている。基板14表面には、RGBカラーフィルタ13,ブラックマトリクス11,透明電極9及び配向膜10等が形成されており、その面が液晶12に接している。基板14の液晶12側とは反対側の表面には偏光板15が貼り付けられている。また、基板14′表面には、透明電極9′及び配向膜10′が形成されており、その面が液晶12に接している。基板14′の液晶12側とは反対側の表面には、偏光板15′が貼り付けられており、その更に下部には蛍光灯17が設けられている。基板14及び基板14′は、接着材16及び接着材16′を介して一定間隔に保たれており、その間に液晶12が充填されている。接着材16及び接着材16′の外部には、駆動回路18及び駆動回路18′が設けられている。
図7には、表示素子としてプラズマディスプレイに本発明を適用した場合のデバイス構造を示している。このデバイスの中では、前面ガラス基板20上に、表示電極として透明電極19が設けられており、更に電圧降下を抑制するためのバス電極21,上部誘電体層22,保護層23が形成されている。その下には、RGB蛍光体27を含む背面ガラス基板28上の構造体が形成されており、その構造体は表示電極26,下部誘電体層25,隔壁24等を更に含んでいる。
図8には、表示素子として有機発光ダイオードディスプレイに本発明を適用した場合のデバイス構造を示している。このデバイス中では、ガラス基板32上に形成された電極29があり、その上部には、RGB発光層を含む有機層30が形成されている。それらは、隔壁33により区切られており、それら全体を覆うように電極31が形成されている。素子全体は封止缶34で覆われており(簡略して示している)、外気に触れることがないように保護されている。
図9には、太陽電池に本発明を適用した場合のデバイス構造を示している。ここに例示した太陽電池は、可視光と近赤外光の両方を電気エネルギーに変換可能な二層型薄膜シリコン太陽電池の構造であり、このデバイス中では、ガラス基板35上に形成された透明電極36があり、その上部にはアモルファスシリコン薄膜37が形成され、更にその上部には多結晶シリコン薄膜38が形成され、最上部には背面電極39が形成されている。ここで、太陽電池の場合、外部から取り込まれた太陽光を素子内部に閉じ込めて有効にエネルギー変換するために、透明電極36の表面に凹凸を形成することも可能である。
以上のように構成された各種表示素子においては、ITOに代わる透明電極として上述したような酸化亜鉛薄膜を使用している。この酸化亜鉛薄膜は、酸化亜鉛薄膜全体の導電性や透過率の安定性が向上しており、薄膜,軽量,高精細にして高効率かつ長寿命なものとなる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
最初に、ガラス基板表面に特異な表面研磨によって一方向に配向処理形状を作製し、その上に酸化亜鉛透明導電膜を形成した例を、図表を用いて説明する。
最初のガラス(マザーガラス)には、旭ガラス製無アルカリガラスAN−100(無研磨品)を用いた。このガラスはフロート法で製造されており、溶解したガラスを溶融金属の上に浮かべ、厳密な温度操作で厚み・板幅の均一な板ガラスに成型されている。通常は、このガラスを固体化搬送する際にジルコニアのローラ上を搬送されるため、搬送面側にはローラ物質が異物として付着する場合があるが、その反対の空気面側は特に何物にも触れることなくガラス化されているため、ミクロな傷等は形成されていない。この無傷な面を上面、その反対側を下面として取り扱った。ガラス基板厚は0.7mmである。
このガラス基板は実験用に100×100mmに切断され、サイド部分は研磨し、更に精密洗浄装置(日立製作所製,型式CD−1002J)にて、切断くずの除去,表面汚染物の除去を行った後、紫外線照射装置(アイグラフィック製,PL1−406C)にて表面をUV/O3洗浄した。しかる後、図10に示すような専用の配向処理形状加工装置を用いて、所望の形状を基板表面に形成した。即ち、基板40を下面が吸着されるように基板固定台41に固定した。基板固定台41の上方にはアルミドラム製の配向ローラ42が設けられており、この配向ローラ42には配向シート43が取り付けられている。配向シート43は代表的にはレーヨン製ラビング布(フィラメント密度20000〜40000本/cm2)からなる。配向ローラ42は配向ローラ固定アーム44で固定され、基板固定台41の上方から、わずかな隙間を残して、基板40の上面に配向シート43が接する位の高さに固定される。この状態で、配向ローラ42を連続的に回転させながら、配向ローラ42の上部から研磨剤滴下機構45を通じて、所定の分散濃度を有する研磨剤分散液を滴下させつつ、基板固定台41ごと基板40を図中左から右に水平に一定速度で移動させる。この基板を移動させた方向をy方向とし、基板面内でy方向に垂直な方向をx方向、基板厚み方向をz方向とした。研磨剤分散液には、ダイヤモンドスラリー(メディア研究所製,基準溶剤純水系,平均粒径60μm,濃度0.1〜10wt%)を用いた。研磨剤分散液によって十分に湿らされた配向シート43が回転しつつ、基板表面を擦る際に、基板表面に微細な溝が基板送り方向に形成される。基板40に形成される溝の深さや密度は、研磨剤分散液の濃度や基板送り速度,配向ローラの押し付け高さ等によって調整できる。ローラ部分を通過した基板40は、洗浄液噴射機構46のノズルから噴射されるジェット洗浄液水流によって残留する研磨剤分散液を吹き飛ばした後、基板表面が乾燥しないようにしつつ、特に図示はしないが、別の配向処理形状加工済み基板の洗浄層に浸され、超音波洗浄,蒸気洗浄等によって表面洗浄された後、乾燥後、最後にUV/O3洗浄される。
基板40に形成された配向処理形状は、原子間力顕微鏡(セイコー電子工業,SPI3800)を用いて、コンタクトモードにて観察した(観察領域1μm×1μm)。基板表面の処理前の平均面粗さRa=5nm凹凸で、特にパターン形成等はない。これに対して、配向処理形状を加工された基板表面には、加工装置の基板送り方向(y方向)に沿った加工溝が形成されている。図11には、そのような加工溝のイメージを(a)x−z方向、(b)y−x方向で示した。例えば図11(a)のように、基板送り方向(y方向)のある位置で、それに垂直な方向の基板面内で、その表面形態をプロファイリングすると、ほぼ平坦な高さ(z方向位置=0)に比べて、何点かの深い谷のような溝の位置がある。ここでは、それをv1,v2,v3,v4と名づけることにし、その平均深さの位置をz=dとする。ここで、元々の基板表面に形成されていた表面粗さRa=5nmと同じ深さよりも深いものだけを選択して、集計することにする。このようにして選択された谷の位置をy方向の位置を何点か変えて、その谷位置を連続的に線分で結んだx−y面内の図が、図11(b)である。
このようにして加工された溝形状に関して、例えば、観察領域内に数Nvの加工溝がある場合、i番目の加工溝viは観察領域に見られた両端からy方向に50等分に区分し、各位置での深さd,加工溝幅w(深さの1/2における溝幅を各y位置での加工溝幅とする)を求め、平均深さをd(vi)、加工溝幅の平均値をw(vi)とした。また、50等分された各yの位置でのvi位置を直線で近似し、その直線のy軸とのなす角をθi、その直線の中点をMiとした。
観察領域全体の平均値については、各i番目の加工溝の深さd(vi),加工溝幅w(vi),加工溝近似直線とy軸とのなす角θiを単純平均化したものをそれぞれ観察領域の平均加工溝深さd,平均加工溝幅w,平均加工ぶれ角θとした。また、加工溝が形成されていない部分の加工溝間の距離の平均値をkとした。このようにして、1つの観察領域から、その加工溝形状を特徴づけるパラメータd,w,θ,kを求めることができる。同様の観察を10個の観察領域で行い、それらのパラメータを平均化したものを、所定の配向処理形状加工でのパラメータとした。
このような加工処理を施した後の基板は、中性洗剤超音波洗浄,純水流水洗浄,純水超音波洗浄,アセトン超音波洗浄,エタノール超音波洗浄,純水超音波洗浄を経た後、次の工程となる酸化亜鉛薄膜形成の直前に、先に説明した精密洗浄装置による洗浄,紫外線照射装置によるUV/O3洗浄を施した。
次に、この基板上に酸化亜鉛スパッタターゲットを用いて、酸化亜鉛薄膜を形成した結果について説明する。酸化亜鉛のスパッタ成膜には、透明導電膜形成装置(日立製model KR−104)を用いた。装置や成膜の主な仕様は、ロードロック式で、ベース圧力1×10-6Torr、スパッタガスはAr(純度6N,流量50.0sccm,流入時圧力5.0×10-3Torr)、スパッタ電力は300〜500Wである。ターゲットには2%アルミニウム添加酸化亜鉛ターゲットを用い、ターゲットサイズは12.7×38.1cm、ターゲット〜基板間距離は70mmである。基板は専用の基板ホルダ(最大300mm角基板まで対応可能)上に載せられ、ターゲット上を水平に一方向に移動し、基板全面に成膜することができる。基板温度は200℃とした。目標膜厚は200nmとし、得られた薄膜の面内のシート抵抗(抵抗率測定器,共和理研製,K−705RM),膜厚(表面形状測定装置サーフェスプロファイラ,ケーエルエー・テンコール製,P−10)を複数位置(面内40点平均)で測定した。抵抗、及び膜厚のばらつきは最大でもそれぞれ5%,10%であった。比抵抗はシート抵抗×膜厚によって決定した。
図12には、このようにして作製された配向処理形状及びその上に形成された酸化亜鉛透明導電膜の特徴の一例を示した。また、表1には図12に用いた測定データをまとめた。基板表面に配向処理形状を作製するにあたっては、図10に示した配向処理加工装置の基板固定台の送り速度や配向ローラの回転速度、配向ローラ固定アームの押し付け圧力、或いは配向シートの種類や研磨剤種類や濃度等、製造プロセス条件の最適化を図る必要がある。例えば、配向処理形状の加工溝の平均深さdと、押し付け圧力、回転速度との関係を示したものが図12(a)である。ここで、研磨剤には平均粒径60nmのものを用い、基板固定台の送り速度は60mm/sに固定した。平均深さdを決める最大のプロセス因子は押し付け圧力であり、これを0.1〜1MPaの範囲で変えると、dを5〜30nmの範囲で変えることができた。一方、配向ローラの回転速度を200〜1400rpmの範囲で変えても、平均深さはほとんど同じであった。また、特に図示はしないが、平均溝幅wは、dとほぼ同じであった。この場合の平均加工ぶれ角θは0.0°(標準偏差0.5°)で、この配向処理形状加工時の機械的プロセス条件を変えてもほとんど変化せず、配向シートの種類を変えるとぶれ角が増大するものがあった。また、図12(b)には、平均的加工溝間距離kと、押し付け圧力、回転速度との関係を示した。この場合は、押し付け圧力や回転速度を変えることでkをほぼ0から140nmまで適宜変えることができた。加工プロセスの詳細条件はノウハウに属するが、形成された表面形態を観察することにより、本発明の処理適用の有無を確認することができる。
図12(c)及び図12(d)には、このような配向処理形状を加工された基板上の酸化亜鉛透明導電膜の比抵抗と、平均深さdとの関係を図12(c)に、平均溝間距離kとの関係を図12(d)に示した。このような配向処理を施さない基板上の酸化亜鉛透明導電膜の比抵抗は7.0×10-4Ωcmとなった(その水準をこれら図中では点線で示した)。プロセス条件によって、無処理の比抵抗よりも低抵抗となる条件が、d=5〜20nm,k=20〜70nmの範囲にあることがわかる。これらの中で、最小の比抵抗は5.1×10-4Ωcmであった。
以上のように、一方向に配向処理形状が加工された基板上に酸化亜鉛透明導電膜を形成することにより、低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜を得ることが確認された。
次に、実施例1に示したものと同様の加工手段を用いて、基板面内に二方向に配向処理形状を形成し、その上に酸化亜鉛透明導電膜を形成した場合について、図表を用いて説明する。
図13には、実施例1と同様に一方向に配向処理を施した後、基板を基板固定台に送り方向に対して面内反時計周りに+60°回転させて固定し、再度同条件で基板を配向処理した場合の、得られた酸化亜鉛透明導電膜の比抵抗と、平均深さdとの関係を(a)に、平均溝間距離kとの関係を(b)に示した。また、表2には図13に用いた測定データをまとめた。プロセス条件によって、無処理の比抵抗よりも低抵抗となる条件が、d=6〜30nm,k=15〜132nmの範囲にあることがわかる。これらの中で、最小の比抵抗は4.6×10-4Ωcmであった。特に、d=6.03〜6.13nmでは4〜6×10-4Ωcm台の低抵抗で、同時にk=42〜138nmの場合には4×10-4Ωcm台となった。この最小値を与える実施例1の一方向の配向処理と比べると、低抵抗となるプロセス範囲が広がっており、実際の量産時の製造タクトタイムやその管理の許容度が上がっている。また、一方向の処理に比べて、わずかながらより低抵抗化されている。また、詳細には記載していないが、同じ基板固定台の送り速度で、回転速度を変えることにより、加工形状の数密度を調整することが可能であり、例えば光散乱性が求められる太陽電池用途等では、低抵抗条件を保ちつつ、光透過特性の最適化を同時に図ることも可能である。
以上のように、二方向に配向処理形状が加工された基板上に酸化亜鉛透明導電膜を形成することにより、低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜を得ることが確認された。
次に、実施例1に示したものと同様の加工手段を用いて、基板面内に三方向に配向処理形状を形成し、その上に酸化亜鉛透明導電膜を形成した場合について、図表を用いて説明する。
図14には、実施例1と同様に一方向に配向処理を施した後、基板を基板固定台に送り方向に対して面内反時計周りに+60°回転させて固定し、再度同条件で基板を配向処理し、更に基板を基板固定台に送り方向に対して面内反時計周りに−60°回転させて固定し、再度同条件で基板を配向処理した場合の、得られた酸化亜鉛透明導電膜の比抵抗と、平均深さdとの関係を(a)に、平均溝間距離kとの関係を(b)に示した。また、表3には14に用いた測定データをまとめた。プロセス条件によって、無処理の比抵抗よりも低抵抗となる条件が、d=6〜30nm,k=18〜132nmの範囲にあることがわかる。これらの中で、最小の比抵抗は4.1×10-4Ωcmであった。実施例1の一方向の配向処理と比べると、低抵抗となるプロセス範囲が広がっており、実際の量産時の製造タクトタイムやその管理の許容度が上がっている。また、一方向の処理に比べて、わずかながらより低抵抗化されている。ただ、実施例2の二方向の配向処理と比べると、やや特性は良いが、適用可能プロセス範囲等は余り変わっていない。また、詳細には記載していないが、同じ基板固定台の送り速度で、回転速度を変えることにより、加工形状の数密度を調整することが可能であり、例えば光散乱性が求められる太陽電池用途等では、低抵抗条件を保ちつつ、光透過特性の最適化を同時に図ることも可能である。
以上のように、三方向に配向処理形状が加工された基板上に酸化亜鉛透明導電膜を形成することにより、低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜を得ることが確認された。
次に、実施例1に示したものと同様の加工手段を用いて、使用した研磨剤の平均粒径を変えた場合について、図表を用いて説明する。
図15には、研磨剤平均粒径を60nmから120nmに変えて、実施例1と同様に一方向に配向処理を施した場合の、得られた酸化亜鉛透明導電膜の比抵抗と、平均深さdとの関係を(a)に、平均溝間距離kとの関係を(b)に示した。また、表4には図15に用いた測定データをまとめた。プロセス条件によって、無処理の比抵抗よりも低抵抗となる条件が、d=12〜21nm,k=35〜60nmの範囲にあることがわかる。これらの中で、最小の比抵抗は5.8×10-4Ωcmであった。実施例1の一方向の配向処理と比べると、低抵抗となるプロセス範囲が狭くなっており、実際の量産時の製造タクトタイムやその管理の許容度が下がっている。
以上のように、一方向に配向処理形状が加工された基板上に酸化亜鉛透明導電膜を形成する場合には、平均粒径がより小さな研磨剤を用いた方が、加工許容範囲が広がることが確認された。
次に、実施例1に示したものと同様の加工手段を用いて、使用した配向シートを変えた場合について、図表を用いて説明する。
図16には、配向シートに変えて、実施例1と同様に一方向に配向処理を施した場合の、得られた酸化亜鉛透明導電膜の比抵抗と、平均深さdとの関係を(a)に、平均溝間距離kとの関係を(b)に示した。また、表5には図16に用いた測定データをまとめた。配向シートのフィラメント密度やフィラメント硬さを変えると、同じ条件でも加工状態が異なるが、特に異なる特徴は平均加工ぶれ角θである。実施例1では0.0°(標準偏差0.5°)となる場合を示しているが、フィラメント硬さを落とすと、ぶれ角θが増大し、中心値の0°に対して標準偏差5°以上に増加する。図16には、このぶれ角θの標準偏差が5.2°の場合の比抵抗の結果を示した。プロセス条件によって、無処理の比抵抗よりも低抵抗となる条件が、d=6〜18nm,k=15〜42nmの範囲にあることがわかる。これらの中で、最小の比抵抗は5.5×10-4Ωcmであった。実施例1の一方向の配向処理と比べると、低抵抗となるプロセス範囲が狭くなっており、実際の量産時の製造タクトタイムやその管理の許容度が下がっている。このように配向処理の角度は精度良く加工されていることが望ましく、例えば実施例2や実施例3のような複数の方向に配向処理を施す場合においては、この角度のぶれ角が仕上がった加工溝の形状を左右する。例えば、実施例2や実施例3のように基板固定台の送り方向に対して±60°を狙って加工しても、実施例5のようなぶれ角の平均が5.2°あると、仕上がりは60±5.2=54.8〜65.2°の間となる。ここまでぶれ角が広がった場合には、本発明の効果が低減するため、望ましくはそれよりも狭い範囲、例えば55°〜65°程度に収まることが適当である。
以上のように、配向処理形状加工のぶれ角θのばらつきが小さい方が、加工許容範囲が広がることが確認された。
次に、実施例1に示したものと同様の加工手段を用いて、より薄い酸化亜鉛透明導電膜を形成する場合について、図表を用いて説明する。
図17には、いくつかの配向処理の有無による酸化亜鉛透明導電膜の比抵抗と膜厚の関係を示した。また、表6には図17に用いた測定データをまとめた。酸化亜鉛透明導電膜の一つの課題は、膜厚が100nm以上ではITO同等の低抵抗なものが得られるが、100nm以下では膜厚が薄くなるにつれ、急速に高抵抗化することである(図17の○印)。これは酸化亜鉛が薄膜成長初期の結晶核生成から成長に至る段階で、基板の影響を受けやすいことに由来する。例えば、本発明の実施例1に示したような配向処理形状の利用によって、面内の結晶核生成やその配置、面内結晶成長方位や結晶成長速度が改善できるが、膜厚方向に対しては著しい効果があるとは言い難い(実施例1のプロセス条件で配向処理加工を基板に施し、その上に所定の膜厚の酸化亜鉛導電膜を形成したもの。各プロセスの中で最小の比抵抗を与えたもののみをプロットした(図17の△印)。そこで、いくつかの手法で該基板上に該酸化亜鉛透明導電膜とは異なる薄膜を形成し、その上に目的の条件で該酸化亜鉛透明導電膜を形成したもので、膜厚依存性の特性改善が図られないかどうかを検討した。即ち、このような目的の層をここでは下地層と呼ぶこととし、同じスパッタターゲットで、スパッタガスを純アルゴンから、純アルゴンに酸素、または水素を添加してスパッタ成膜したもの(添加濃度3%)を下地層とした。下地層膜厚は10,20,30,40,50nmと変えた。比較のため、純アルゴンでも同様の下地層を形成した場合も検討した。結果を見ると、スパッタガスが純アルゴンまたは水素添加アルゴンの場合は、下地層を設けずに成膜した場合と同じ比抵抗を示した。ところが、酸素添加アルゴンを用いた場合、比抵抗の膜厚依存性が極めて小さい酸化亜鉛透明導電膜となった(図17の□)。最小比抵抗は膜厚200nmで3.6×10-4Ωcmとなった。これらの特徴は、今回検討した下地層膜厚を変えても変化が無かった。また、酸素添加アルゴンで酸化亜鉛の単独膜を形成し、その比抵抗を測定したところ1×10-2Ωcm以上の高抵抗を示し、この下地層が非導電性の酸化亜鉛であることがわかった。同様に、実施例2,実施例3に示したものと同様に基板表面に配向処理形状を加工後、酸素添加アルゴンガスで酸化亜鉛を同じ膜厚で下地層として成膜後、導電性の酸化亜鉛層を純アルゴンガスでスパッタ成膜したものも検討したところ、いずれも膜厚依存性のほとんどない比抵抗を示し、最小比抵抗は膜厚200nmでそれぞれ3.2×10-4Ωcm,3.1×10-4Ωcmとなった。これら下地層膜厚の比抵抗への影響は表7にまとめた。
以上のように、非導電性の酸化亜鉛層を下地層に設けることにより、100nm以下の膜厚でも低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、本発明の酸化亜鉛透明導電膜の電気特性を一層向上させるために、スパッタ装置の構造上に工夫を行った場合について、図表を用いて説明する。
図18には、酸化亜鉛透明薄膜の結晶配向性を向上させるために、ターゲットに対して法線方向に開口部を有するシャドーマスク49及び49′を用いた場合の装置断面概要図である。スパッタ装置の概要は実施例1の中で説明した。図16(a)では、基板47は、基板ホルダ48及び48′(一つの部材であるが、中央に開口部があるために、便宜上図のように左右に分けて記載した)上に積載されており、スパッタ中、ターゲット50上を一方向(図では左から右へ)基板搬送される。これまでの実施例で説明した成膜時はこのような状態でスパッタされているが、ここでは更に、スパッタターゲット50を取り囲むシャドーマスク49及び49′(一つの部材であるが、中央に開口部があるために、便宜上図のように左右に分けて記載した)を設けた。このシャドーマスク49及び49′には、ターゲットに対して法線方向の中央部に10×34cmのスリット状開口部が設けられており、その部分を横切るように基板は水平に移動する。(特に詳細には説明しないが、このシャドーマスク49及び49′は、スパッタガスがターゲットに噴射されるのを妨げない配置となっている。)この状態で、実施例6に説明したアルゴン,アルゴン+酸素,アルゴン+水素の3種のスパッタガスで、膜厚10〜50nmの範囲で酸化亜鉛下地層を形成後、一旦薄膜を別チャンバに真空を破らずに保管し、その状態でシャドーマスク49及び49′を取り外してから、再度酸化亜鉛透明導電膜をスパッタガス=アルゴンで200nm成膜したものは、いずれの場合も、シャドーマスク49及び49′を用いなかった場合に比べて、10〜15%程低抵抗になった。その結果を、表8(a)にまとめて示した。
図18の(b)では、基板がターゲットに近づく方向にのみ設けられた場合を示した。基板47′,基板ホルダ48″及び48′′′(一つの部材であるが、中央に開口部があるために、便宜上図のように左右に分けて記載した)、スパッタターゲット50′は、図18の(a)と同じであるが、ここでは、シャドーマスク49″は基板がターゲットに近づく方向にのみ設けられており、ちょうど図18の(a)の開口部に相当する位置からターゲットからの成膜物質が到達できるようになっている。このようなシャドーマスクを用いて、実施例6に説明したアルゴン、アルゴン+酸素、アルゴン+水素の3種のスパッタガスで、膜厚10〜50nmの範囲で酸化亜鉛下地層を形成し、再度酸化亜鉛透明導電膜をスパッタガス=アルゴンで200nm成膜したものは、いずれの場合も、シャドーマスクを用いなかった場合に比べて、10〜15%程低抵抗になった。その結果を、表8(b)にまとめて示した。
以上のように、ターゲットに対して法線方向に開口部を有するシャドーマスクを設けて成膜することにより、低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、本発明の酸化亜鉛透明導電膜作成の別の形態として、基板材料よりも硬度の小さい粉末を擬似的に研磨剤として用いた場合について説明する。
実施例1では、研磨剤としてダイヤモンドスラリーを用いた。ダイヤモンドは基板のガラスよりも硬い硬度を持つため、その表面に表面凹凸の形状を加工することができた。一方、比較のために、柔らかい硬度の粉末を擬似的な研磨剤として用いたところ、一部の擬似的研磨剤によっても、低抵抗化の効果が確認された。ガラスの硬度は5.5〜6.5程度、ダイヤモンドの硬度は10であるが、炭酸カルシウム(和光純薬製,特級)を純水に分散させたスラリーを作製し、押し付け圧力1MPa、配向ローラ回転速度400rpmで、ガラス基板を擬似的に研磨し、その上に酸化亜鉛透明導電膜を膜厚200nm形成したところ、比抵抗6.0×10-4Ωcmの膜が得られた。この研磨されたガラスの表面をAFMによって観察したところ、実施例1のようなガラス表面の溝は形成されていなかったが、部分的に線状に並んだ島状粒(粒径10〜100nm)が認められ、組成分析によって、擬似的研磨剤として用いた炭酸カルシウムが残留していることがわかった。
以上のように、基板材料よりも小さい硬度の粉末を擬似的に研磨剤として用いた場合にも、低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、本発明における酸化亜鉛透明導電膜作成の別の形態として、ガラスよりも柔らかい表面状態の基板の場合について説明する。
実施例1と同じガラス基板を同様の手順で洗浄し、表面を配向処理加工することなく、その上にポリイミド(日立化成製PIQシリーズ)を約0.4μmの膜厚で、スピンコートした。これを大気中300℃オーブンで加熱硬化させた後、実施例1の配向処理形状加工装置を用いて、但し研磨剤を滴下や洗浄液噴射をすることなく、ラビング処理を施した。また、実施例2と実施例3と同様に二方向、及び三方向にもラビングした。これらの上に酸化亜鉛透明導電膜を膜厚200nm形成させたところ、一方向,二方向,三方向でそれぞれ比抵抗6.5×10-4Ωcm,6.2×10-4Ωcm,6.3×10-4Ωcmの膜が得られた。更に、実施例6同様に、アルゴン+酸素添加混合ガスをスパッタガスとして、下地層を形成した後に、酸化亜鉛透明導電膜を200nm形成した場合には、一方向,二方向,三方向でそれぞれ比抵抗6.2×10-4Ωcm,5.7×10-4Ωcm,5.7×10-4Ωcmの膜が得られた。また、これらラビング処理を施したポリイミド表面をAFM観察したが、実施例1のような配向処理形状は観察されなかった。
以上のように、ガラスよりも柔らかい表面状態の基板をラビングした場合にも、低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、本発明における酸化亜鉛透明導電膜作成の別の形態として、ガラスよりも柔らかい表面状態の基板に配向処理形状を転写した場合について説明する。
実施例1と同じガラス基板を同様の手順で洗浄し、表面を配向処理加工することなく、その上にポリイミド(日立化成製PIQシリーズ)を約0.4μmの膜厚で、スピンコートした。これを大気中300℃オーブンで加熱硬化させた。一方、実施例1で作製した表面に配向処理形状を加工されたガラス基板を準備し、ポリイミド付の基板と配向処理形状付の基板とを貼り合せて、1MPaで加圧しながら、250℃で加熱を1時間施した後、両者を引き離した。AFMでポリイミド表面を観察したところ、配向処理形状加工された基板の凹凸が転写されて、一方向の筋状の凹凸形態が認められた。また、実施例2と実施例3と同様に二方向、及び三方向に配向処理形状加工されたガラス基板とポリイミド基板を貼り合せた場合にも、同様にそれぞれの形態が転写されていることがわかった。これらの上に酸化亜鉛透明導電膜を膜厚200nm形成させたところ、一方向,二方向,三方向でそれぞれ比抵抗6.6×10-4Ωcm,6.2×10-4Ωcm,6.4×10-4Ωcmの膜が得られた。更に、実施例6同様に、アルゴン+酸素添加混合ガスをスパッタガスとして、下地層を形成した後に、酸化亜鉛透明導電膜を200nm形成した場合には、一方向,二方向,三方向でそれぞれ比抵抗6.3×10-4Ωcm,5.9×10-4Ωcm,6.0×10-4Ωcmの膜が得られた。
以上のように、配向処理形状が転写された基板上に酸化亜鉛透明導電膜を形成した場合にも、低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、ポリイミドを配向膜としてガラス板上に形成したものを基板として用いて、その上に酸化亜鉛透明導電膜を形成した例を、図表を用いて説明する。
土台となるガラス基板には、旭ガラス製無アルカリガラスAN−100(無研磨品)を用いた。このガラスはフロート法で製造されており、溶解したガラスを溶融金属の上に浮かべ、厳密な温度操作で厚み・板幅の均一な板ガラスに成型されている。通常は、このガラスを固体化搬送する際にジルコニアのローラ上を搬送されるため、搬送面側にはローラ物質が異物として付着する場合があるが、その反対の空気面側は特に何物にも触れることなくガラス化されているため、ミクロな傷等は形成されていない。この無傷な面を上面、その反対側を下面として取り扱った。ガラス基板厚は0.7mmである。
このガラス基板は実験用に100×100mmに切断され、サイド部分は研磨し、更に精密洗浄装置(日立製作所製,型式CD−1002J)にて、切断くずの除去,表面汚染物の除去を行った後、紫外線照射装置(アイグラフィック製,PL1−406C)にて表面をUV/O3洗浄した。
このガラス基板に、スピンコーター(アクティブACT−300D)を用い、3000rpmで、その上にポリイミド(日立化成製PIQシリーズ)を塗布し、これを窒素雰囲気中350℃オーブンで加熱硬化させた。この時の膜厚は1.2μmであった。
また、得られたポリイミド膜の物性を評価したところ、Young弾性率は9.2GPaであり、ガラス転移温度は360℃であった。また、ポリイミド薄膜の高分子鎖がその形成過程で面内に配向処理された状態にあるかどうかは、膜面方向と膜厚方向の赤外吸収スペクトルを偏光ATRFT−IR(Attenuated Total Reflection Fourier Transform InfraRed spectroscopy,全反射フーリエ変換赤外分光)法によって解析した。この手法は、高分子膜に高屈折率プリズムを押し付けて、赤外線をプリズムを介して照射し、試料表面で赤外光が全反射する際に膜中ににじみ込む光(エバネッセント波)の吸収スペクトルを計測するものであり、入射光を膜面に水平な方向とそれに垂直な方向の2つの偏光状態で測定することにより、膜面方向と膜厚方向の複屈折率が測定し、膜面方向と垂直方向の高分子鎖の配向度を測定する手法である。ポリイミド骨格由来のIR吸収の偏光度をその複屈折度から評価し、完全なランダム状態を複屈折0、完全配向状態を複屈折1として、高分子主鎖の膜断面内の配向の有無を評価した。このポリイミド薄膜の複屈折度は0.12であった。
次に、このようにして作製された配向膜の上に、酸化亜鉛スパッタターゲットを用いて、酸化亜鉛薄膜を形成した結果について説明する。酸化亜鉛のスパッタ成膜には、透明導電膜形成装置(日立製model KR−104)を用いた。装置や成膜の主な仕様は、ロードロック式で、ベース圧力1×10-6Torr、スパッタガスはAr(純度6N,流量50.0sccm,流入時圧力5.0×10-3Torr)、スパッタ電力は300〜500Wである。ターゲットには1.8%アルミニウム添加酸化亜鉛ターゲットを用い、ターゲットサイズは12.7×38.1cm、ターゲット〜基板間距離は70mmである。基板は専用の基板ホルダ(最大300mm角基板まで対応可能)上に載せられ、ターゲット上を水平に一方向に移動し、基板全面に成膜することができる。基板温度は200℃とした。目標膜厚は30nmから210nmとし、得られた薄膜の面内のシート抵抗(抵抗率測定器,共和理研製,K−705RM),膜厚(表面形状測定装置サーフェスプロファイラ,ケーエルエー・テンコール製,P−10)を複数位置(面内40点平均)で測定した。抵抗、及び膜厚のばらつきは最大でもそれぞれ5%,10%であった。比抵抗はシート抵抗×膜厚によって決定した。また、得られた酸化亜鉛薄膜の結晶性は広角X線回折法により測定した。図19には代表的な酸化亜鉛薄膜のX線回折パターンを示した。膜厚方向の回折パターン(a)では、酸化亜鉛結晶のc軸方向の回折、(002)と(004)が見られる。また、膜面内方向の回折パターン(b)では、酸化亜鉛結晶のa軸方向の回折(100),(110),(200)の3つのピークが見られる。この内、最も回折角の小さな(002)と(100)ピークの回折角から、酸化亜鉛結晶のc軸及びa軸の面間隔を見積り、格子定数の歪みの大小を比較した。(ちなみに、JCPDSデータベースでの単結晶の酸化亜鉛のc軸及びa軸の値はそれぞれ0.5207nm,0.3250nmである。)また、得られた試料の可視光域の透過率は波長400〜750nmで75%以上であった。
表9(a)及び表9(b)には、今回作製した酸化亜鉛薄膜の比抵抗とX線回折から決定されたc軸方向(002)とa軸方向(100)の面間隔の、膜厚依存性を示した。膜厚が薄い程抵抗が高くなる傾向はあるが、膜厚120nm以上では比抵抗10-4Ωcm台の低抵抗を示し、導電体の領域に入ることがわかった。また、酸化亜鉛薄膜中の面間隔の大きさは、c軸は0.52209〜0.52265nm、a軸は0.32404〜0.32410nmの範囲にあり、単結晶酸化亜鉛の面間隔と比べてc軸は0.27〜0.37%、a軸は−0.30%変化しているが、その変化量はわずかである。
以上のように、ポリイミドを配向膜にした場合に、低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
〔比較例1〕
次に、比較として、結晶性向上処理を一切施さないガラス基板表面に酸化亜鉛薄膜を形成した結果について説明する。
実施例1で説明したガラス基板を用い、同様の表面洗浄を行った後、配向膜を塗布することなく、そのまま酸化亜鉛薄膜をスパッタ法で形成した。
表10(a)及び表10(b)には、得られた酸化亜鉛薄膜の比抵抗とX線回折から決定されたc軸方向(002)とa軸方向(100)の面間隔の、膜厚依存性を示した。実施例11と同様に、膜厚が薄くなる程、比抵抗は上昇する傾向があるが、その比抵抗の値はいずれの膜厚においても実施例11よりも大きい。また、酸化亜鉛薄膜中の面間隔の大きさは、c軸は0.52315〜0.52396nm、a軸は0.32403〜0.32412nmの範囲にあり、a軸はほとんど変わらないが、c軸はやや大きな値となり、単結晶酸化亜鉛の面間隔と比べて0.47〜0.63%と、変化量が大きくなっている。また、得られた試料の可視光域の透過率は波長400〜750nmで75%以上であった。
以上のように、結晶性向上処理を一切施さない場合には、抵抗が高めで結晶の歪みの大きな酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
また、比較として、実施例1で示したガラス基板表面に配向処理を施した場合の、得られた酸化亜鉛薄膜の比抵抗とX線回折から決定されたc軸方向(002)とa軸方向(100)の面間隔の、膜厚依存性を表11(a)及び表11(b)に示した。表10と比較して、この場合はいずれの膜厚に対して低抵抗であり、その薄膜構造はc軸が小さくなり、歪みが小さくなっている。また、得られた試料の可視光域の透過率は波長400〜750nmで75%以上であった。
次に、実施例11で説明した配向膜に対して、スピンコートして熱硬化後に、更にラビング処理を施したものを基板に用いた場合の結果について説明する。
実施例11と同様にして、ガラス基板上にポリイミド配向膜を、スピンコートして熱硬化後に、その表面をラビング処理(レーヨン製ラビング布,回転数1500rpm,送り速度32.5mm/min,切り込み0.4mm)を室温大気中で施した。これを基板として、以下実施例11と同様にして、酸化亜鉛薄膜を形成した。
また、得られたポリイミド膜の物性を評価したところ、Young弾性率は9.2GPaであり、ガラス転移温度は360℃であり、複屈折度は0.12であった。
表12(a)及び表12(b)には、得られた酸化亜鉛薄膜の比抵抗とX線回折から決定されたc軸方向(002)とa軸方向(100)の面間隔の、膜厚依存性を示した。実施例11と同様に、膜厚が薄くなる程、比抵抗は上昇する傾向があるが、その比抵抗の値はいずれの膜厚においても実施例11とほぼ同等かやや小さい。また、酸化亜鉛薄膜中の面間隔の大きさは、c軸は0.52208〜0.52268nm、a軸は0.32400〜0.32410nmの範囲にあり、c軸,a軸共にほとんど変わらない。これらの値は、実施例11と比較例1の場合同様に、配向膜を用いない比較例1よりも低抵抗で、結晶性が高い。また、得られた試料の可視光域の透過率は波長400〜750nmで75%以上であった。
以上のように、ポリイミドスピンコート膜に更にラビング処理を施したものを基板に用いた場合には、高結晶で低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、光配向性のポリイミドを配向膜として塗布したものを基板に用いた場合の結果について説明する。
光配向性のポリイミドとは、光反応性のポリイミドを用い、その前駆体薄膜に偏光した紫外線を照射して硬化させると、その偏光方向の反応置換基のみが活性となって硬化するために、特定方向にのみ化学結合で結ばれた配向性のポリイミド膜となるものである。光反応性のポリイミド原料を用い、実施例11と同条件にてスピンコート膜を形成後、偏光紫外線照射装置にて、試料温度200℃、照射エネルギー5Jにて光配向させた。このようにして形成された薄膜付きガラスを基板として、実施例11と同様に酸化亜鉛薄膜を形成した。
また、得られたポリイミド膜の物性を評価したところ、Young弾性率は8.7GPaであり、ガラス転移温度は350℃であり、複屈折度は0.15であった。
表13(a)及び表13(b)には、得られた酸化亜鉛薄膜の比抵抗とX線回折から決定されたc軸方向(002)とa軸方向(100)の面間隔の、膜厚依存性を示した。実施例1と同様に、膜厚が薄くなる程、比抵抗は上昇する傾向があるが、その比抵抗の値はいずれの膜厚においても実施例11とほぼ同等かやや小さい。また、酸化亜鉛薄膜中の面間隔の大きさは、c軸は0.52212〜0.52266nm、a軸は0.32404〜0.32412nmの範囲にあり、c軸,a軸共にほとんど変わらない。これらの値は、実施例11と比較例1の場合同様に、配向膜を用いない比較例1よりも低抵抗で、結晶性が高い。また、得られた試料の可視光域の透過率は波長400〜750nmで75%以上であった。
以上のように、光配向性のポリイミドスピンコート膜を基板に用いた場合には、高結晶で低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、配向膜を膜延伸によって形成したものを基板に用いた場合の結果について説明する。
実施例11のポリイミドを加熱硬化させる前の前駆体溶液から、あらかじめ離形剤を塗布したガラス基板をおいたトレイを用いて、キャスト法で薄膜を作製した。前駆体キャスト膜をトレイから取り出し、100℃,1時間加熱して、残留する溶媒を蒸発させた後、前駆体キャスト膜をガラス基板から剥離した。5cm×3cmに切り出し、引張り試験機を用いて長手方向に1cm延伸し、その状態のまま専用ホルダで前駆体膜を固定し、実施例1と同様にして加熱硬化させた。この時点での膜厚は2.3μmとなった。これを専用ホルダごとスパッタ装置にセットし、基板として、以下実施例11と同様にして、酸化亜鉛薄膜を形成した。
また、得られたポリイミド膜の物性を評価したところ、Young弾性率は9.3GPaであり、ガラス転移温度は360℃であり、延伸方向に垂直な断面から見た膜面方向と膜厚方向の複屈折度は0.33であった。
表14(a)及び表14(b)には、得られた酸化亜鉛薄膜の比抵抗とX線回折から決定されたc軸方向(002)とa軸方向(100)の面間隔の、膜厚依存性を示した。実施例11と同様に、膜厚が薄くなる程、比抵抗は上昇する傾向があるが、その比抵抗の値はいずれの膜厚においても実施例1よりもはるかに小さく、最小値は4.04×10-4Ωcmと、実施例11の54%、比較例1の48%となった。また、酸化亜鉛薄膜中の面間隔の大きさは、c軸は0.52073〜0.52099nm、a軸は0.32401〜0.32412nmの範囲にあり、a軸はほとんど変わらないが、c軸は更に歪みの小さい膜となっている。これらの値は、実施例11や比較例1よりも低抵抗で、結晶性が高い。また、得られた試料の可視光域の透過率は波長400〜750nmで75%以上であった。
以上のように、延伸されたポリイミド膜を基板に用いた場合には、高結晶で低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、配向膜を前駆体のジェット塗布によって形成したものを基板に用いた場合の結果について説明する。
実施例11のポリイミドを加熱硬化させる前の前駆体溶液を用い、図20に示す専用のジェット塗布装置を用いて、ポリイミドを基板に付着硬化させた。この装置は、ガラス基板3が基板ホルダ52及び52′にセットされ、基板ホルダごと固定架台51に取り付けられる。固定架台51の基板に接する部分にはヒートブロック54が設けられており、その中にはヒータ線55と熱電対56が組み込まれ、所定の温度にヒートブロック54を加熱することができる。この基板53に対して、斜め下からポリイミド前駆体溶液を噴射ノズル57を通じて吹き付ける。これら装置の下には噴射後余ったポリイミド前駆体溶液を回収する残液受け皿58が置かれている。特に図示はしていないが、噴射された前駆体のミストを吸引する排気装置やその他安全装置も取り付けられている。ヒートブロック54の温度は実施例11のポリイミド加熱硬化温度よりもやや低めの330℃にセットし、基板表面に前駆体溶液を吹き付けた後、前駆体溶液の溶媒であるNMP溶液を吹き付ける。しかる後、基板温度を350℃にして、加熱硬化を完成させる。この時点での膜厚は0.9μmとなった。これを専用ホルダごとスパッタ装置にセットし、基板として、以下実施例1と同様にして、酸化亜鉛薄膜を形成した。
また、得られたポリイミド膜の物性を評価したところ、Young弾性率は9.1GPaであり、ガラス転移温度は360℃であり、ジェット噴射方向に垂直な断面から見た膜面方向と膜厚方向の複屈折度は0.27であった。
表15(a)及び表15(b)には、得られた酸化亜鉛薄膜の比抵抗とX線回折から決定されたc軸方向(002)とa軸方向(100)の面間隔の、膜厚依存性を示した。実施例11と同様に、膜厚が薄くなる程、比抵抗は上昇する傾向があるが、その比抵抗の値はいずれの膜厚においても実施例1や比較例1よりも小さく、最小値は6.21×10-4Ωcmとなった。また、酸化亜鉛薄膜中の面間隔の大きさは、c軸は0.52153〜0.52197nm、a軸は0.32401〜0.32412nmの範囲にあり、a軸はほとんど変わらないが、c軸は歪みの小さい膜となっている。これらの値は、実施例11や比較例1よりも低抵抗で、結晶性が高い。また、得られた試料の可視光域の透過率は波長400〜750nmで75%以上であった。
以上のように、配向膜を前駆体のジェット塗布によって形成ポリイミド膜を基板に用いた場合には、高結晶で低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、膜の強度の異なるポリイミドを配向膜として基板に用いた場合の結果について説明する。
実施例11ではYoung弾性率9.2GPaのものを用いたが、グレードの異なるポリイミドを用い、Young弾性率0.7〜10.7GPaの配向膜を実施例11と同様の手法で形成した。ここでは簡易的に膜厚210nmの酸化亜鉛薄膜を形成し、その比抵抗を比較した。その結果を表16に示す。その結果、Young率が2.0GPaまでは10-4Ωcm台の低抵抗であったが、1.2GPa以下では急速に抵抗が高くなった。得られた酸化亜鉛薄膜を別途顕微鏡観察すると、抵抗が悪化した酸化亜鉛薄膜では部分的にクラックが入っており、このために膜の均一性が低下し、高抵抗になったものと思われる。
以上のように、配向膜のヤング弾性率が2以上11GPa以下の場合には、高結晶で低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、ポリイミドの代わりに、膜の強度の異なるポリベンズオキサゾールを配向膜として基板に用いた場合の結果について説明する。
実施例11と同じく、日立化成製のグレードの異なるポリベンズオキサゾールを用い、Young弾性率1.0〜8.0Paの配向膜を実施例11と同様の手法で形成した。ここでは簡易的に膜厚210nmの酸化亜鉛薄膜を形成し、その比抵抗を比較した。その結果を表17に示す。その結果、Young率が3.5、8.0GPaでは10-4Ωcm台の低抵抗であったが、1.0GPa以下では急速に抵抗が高くなった。得られた酸化亜鉛薄膜を別途顕微鏡観察すると、抵抗が悪化した酸化亜鉛薄膜では部分的にクラックが入っており、このために膜の均一性が低下し、高抵抗になったものと思われる。
以上のように、ポリベンズオキサゾールを配向膜として基板に用いた場合には、高結晶で低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、無機高分子化合物を配向膜として基板に用いた場合の結果について説明する。
実施例11のポリイミドの前駆体溶液とポリシラン溶液(大阪ガスケミカル製,20wt%NMP溶液)を、6:1の割合で混合し、これを混合前駆体溶液として、実施例1と同様に配向膜とし、その上に酸化亜鉛薄膜を形成した。得られた配向膜の膜厚は1.0μm、ガラス転移温度は275℃、Young弾性率5.6Paであり、複屈折率は0.10であった。この酸化亜鉛薄膜の膜厚210nmでの比抵抗は7.60×10-4Ωcmと低抵抗であり、可視光域の透過率は波長400〜750nmで80%以上に向上した。
以上のように、無機高分子化合物を配向膜として基板に用いた場合には、高結晶で低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、熱伝導率を変えた配向膜を基板に用いた場合の結果について説明する。
実施例11のポリイミド前駆体に、以下の3つの処理を施して熱伝導率を変えた配向膜を作製した。その1つ目は、実施例11のポリイミド前駆体をホモジナイザーを用いて微細な気泡を充満させ、これを原溶液としてスピンコートして、加熱硬化させたもの(試料A)。2番目は、実施例11と全く同様の試料(試料B)。3番目は、実施例11のポリイミド前駆体に疎水性処理銀ナノ粒子(イーアンドティー社製、平均粒径6〜7nm)をNMP中に分散させたものと50:1の割合で混合し、これを原溶液としてスピンコートして、加熱硬化させたもの(試料C)。3番目は、実施例11のポリイミド前駆体に疎水性処理銀ナノ粒子をNMP中に分散させたものと20:1の割合で混合し、これを原溶液としてスピンコートして、加熱硬化させたもの(試料D)。これら4種の配向膜の熱伝導率は、それぞれ4.8,9,15,18Wm-1K-1であった。これらを実施例1と同様に配向膜とし、その上に酸化亜鉛薄膜を形成した。得られた配向膜の膜厚は1.2μm、ガラス転移温度はそれぞれ320,360,345,340℃であり、Young弾性率はそれぞれ4.3,9.2,8.8,8.9Paであり、複屈折率はそれぞれ0.10,0.12,0.11,0.11であった。この酸化亜鉛薄膜の膜厚210nmでの比抵抗はそれぞれ1.30×10-3,7.52×10-4,7.13×10-4,6.99×10-4Ωcmと低抵抗であった。
次に、金ナノ粒子(平均粒径10nm),銅ナノ粒子(平均粒径50nm)をポリイミド前駆体に分散させて、同様に酸化亜鉛薄膜を形成した。金ナノ粒子で配向膜の熱伝導率は13,25,34,49Wm-1K-1のものを作製したところ、比抵抗は6.5×10-4から7.5×10-4Ωcmと低抵抗であった。但し、これら金属ナノ粒子分散の場合、可視光の透過率が最低60%まで低下した。銅ナノ粒子で配向膜の熱伝導率は11,22,39Wm-1K-1のものを作製したところ、比抵抗は6.5×10-4から7.5×10-4Ωcmと低抵抗であった。但し、これら金属ナノ粒子分散の場合、可視光の透過率が最低60%まで低下した。
次に、前段のような金属微粒子による光透過性の低減を抑止可能なナノ粒子として、透明酸化物系で熱伝導率の高いナノ粒子を分散させた一例として、酸化亜鉛ナノ粒子(平均粒径15nm)をポリイミド前駆体に分散させて、同様に酸化亜鉛薄膜を形成した。その配向膜の熱伝導率は10,16,24,40,60Wm-1K-1のものを作製したところ、比抵抗は6.5×10-4から7.5×10-4Ωcmと低抵抗であった。この場合は、熱伝導率が10Wm-1K-1以上40Wm-1K-1以下では可視光の透過率低下は認められなかった。
以上のように、熱伝導率が9Wm-1K-1以上60Wm-1K-1以下の配向膜として基板に用いた場合には、高結晶で低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。特に、高い光透過率を維持する上では酸化亜鉛が有効であった。
次に、基板厚みがより薄い場合についての検討結果を説明する。
より軽量で携帯にしやすい、かつ種々の折り曲げ可能な薄膜デバイス、例えばシート状液晶ディスプレイや電子ペーパー、或いは有機エレクトロルミネセンス照明やディスプレイ、或いは有機太陽電池等にも透明電極が用いられる。この場合、基板にも透明性が求められるが、同時に基板自身が折り曲げ可能となるように、その厚みが0.5mm以下の薄いガラス基板やポリマーシート等が用いられる。このような薄型基板上に形成された透明電極は、これまでの実施例に示したような剛直なガラス基板上での特性だけではなく、折り曲げられた場合にもその特性が維持できることが望ましい。酸化亜鉛透明導電膜はいわばセラミックスの一種であり、必ずしも柔軟性に富む材料とは言えない。このような酸化亜鉛透明導電膜付き薄膜基板の折り曲げ動作に対する安定性を以下の方法で評価した。
薄型の基板には、100mm角,膜厚0.1mmのガラス,ポリエーテルスルホンフィルムの2種類を用いた。これを、図21(a)及び(b)に示すようなスピンコート用のテフロン(登録商標)製台59の上に載せて、実施例16と同様に各種Young率の弾性率を持つポリイミド前駆体を塗布した。図21(a)は上面、図21(b)は断面の模式図である。この台には図21に示すように、メッシュ状の凹凸が設けられており、その中心に吸引穴60が形成され、薄型の基板を置いた状態で排気ポンプで吸着させて固定する。
このようにしてポリイミドの前駆体を塗布した薄型のガラス基板は、図22(a)及び(b)に示すような専用の基板ホルダ61及び61′に固定した。図22(a)は上面、図22(b)は断面の模式図である。基板ホルダ下部61及び61′には薄型基板64が入る枠と膜がスパッタされるための穴が開いている。薄型基板64が置かれた状態で、基板留め枠65及び65′を置き、更にその端部を留めネジ63及び63′で固定している。特に図示はしていないが、留めネジ63及び63と薄型基板64との間にはガラスを傷つけないように小さなポリイミドシートを置いている。次に基板ホルダ上蓋62を被せ、更にその端部を上蓋留めネジ66及び66′で固定している。ポリエーテルスルホンフィルムの場合も同様のホルダを用いるが、基板上蓋の薄型基板に接する部分の高さをわずかに変え、心持ちフィルムを下に押し出すようにして、フィルムのたわみを無くしている。
この基板ホルダ61及び61を用いて、実施例16同様に酸化亜鉛透明導電膜を形成した。得られた薄膜の比抵抗は実施例16の値と±10%内で同じ値となった。
次に、この薄型基板の両端を図23(a)及び(b)のようなホルダで左右両端を固定した。即ち、基板ホルダ下部67及び67′と基板留め枠69及び69′との間に薄型基板68をはさみ、基板留めネジ70及び70′で固定している。特に図示はしていないが、基板を傷つけないように、小さなポリイミドシートを置いている。このようなホルダを介して、専用の引っ張り試験機のホルダに基板を垂直に固定する。このような状態で、基板を左右に振動させたり(振動角度θ)、或いはねじれさせたりして(ねじれ角度φ)、力学的履歴を一定周期で与える。しかる後、透明導電膜の比抵抗を再度測定し、初期からの上昇率を評価した。
表18にはその評価結果を示した。ここで、初期と変化しなかった場合を100%とした。表18の(a)は振動角度θ=5°、周期1Hzで1時間試験した結果を示した。Young率3.5から9.2GPaの範囲では99から103%の変化で、ほとんど初期と抵抗は変化していない。しかし、それ以外では比抵抗は著しく上昇してしまった。表18の(b)は振動角度θ=10°、周期1Hzで1時間試験した結果を示した。Young率5.3から9.2GPaの範囲では99から105%の変化で、ほとんど初期と抵抗は変化していない。しかし、それ以外では比抵抗は著しく上昇してしまった。
以上のように、3.5GPa以上9.2GPa以下、さらには、5.3GPa以上9.2GPa以下の場合には、高結晶で低抵抗な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。
次に、本発明の透明導電膜が様々な温度環境で使用されることを想定した場合の特性変化の有無を検討した結果について説明する。
液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネセンス照明等は、様々な環境で使用され、通常は−20℃から80℃の温度範囲でデバイスを保持して、その信頼性試験が行われることが多い。また、太陽電池ではそれが設置される環境温度に加えて、太陽光の変換効率が高々20%である場合、残り80%は熱として素子内部で蓄熱され、変換効率を低下させる。液晶ディスプレイ内部にもLEDバックライトや駆動LSI等の内部発熱が素子内部の発熱源となる。有機エレクトロルミネセンスでも種々の発熱源が存在する。そこで、今回得られた透明導電膜が、様々な熱履歴を与えられた場合に、特性変化を生じないかを検討した。
試料には、実施例19で作製した酸化インジウムスズ(ITO)ナノ粒子を配向膜に分散させたものを、実施例20に示した方法で、薄型基板に用いた場合について説明する。ここでは、実施例19と同様に、配向膜の熱伝導率は10,16,24,40,60Wm-1K-1となるものを作製した。比較のため、実施例19で作製した熱伝導率は4.8Wm-1K-1のものも加えた。基板には実施例20で使用した薄型基板を用いた。作製された膜の比抵抗は±10%で、実施例19と同じであった。
次に、得られた透明導電膜付き薄膜基板を実施例19でスパッタ成膜時に使用した基板ホルダにセットした。これを、ヒータとペルチエ素子を内蔵した専用温調器に、透明導電膜面を熱ブロックに接触させて固定した。この状態で室温の乾燥窒素で常時パージされたアクリルケースに温調器ごと設置した。パージ開始30分後から、一定の熱サイクル(即ち、室温(20℃)から80℃まで30分で上昇、80℃で1時間保持、80℃から20℃まで30分で冷却)を30回連続繰り返した。
試験後の比抵抗を測定したところ、熱伝導率4.8,10,16Wm-1K-1のものは抵抗が200%以上上昇していた。その一方で、60Wm-1K-1のものは膜が白濁し、透過率が10%以下となってしまった。
以上のように、熱配向膜の熱伝導率が16Wm-1K-1以上49Wm-1K-1以下、さらには、24Wm-1K-1以上40Wm-1K-1以下であれば良好な酸化亜鉛透明導電膜が得られることが確認された。