以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応部分を示すものである。図1は一実施形態に係るインクジェット記録装置の斜視図である。ここでは、記録媒体としてロール紙を使用するインクジェット記録装置を例示する。記録装置1は、ロール紙Pを引き出し可能に保持するロール紙ホルダ部と、ロール紙ホルダ部から送り出されたロール紙を案内保持しながら画像形成を行う画像形成部と、画像形成後のロール紙を切断して装置外へ排出するための排紙部と、を備えている。ロール紙ホルダ部10は、ロール紙Pをスプール軸11および一対のスプールフランジ12l、12Rで引き出し可能に巻回保持している。スプール軸11の両端部は装置本体の軸受13L、13Rで支持されている。
画像形成部は、LF(ラインフィード)ローラ2と、ピンチローラ3と、記録ヘッド4と、キャリッジ5と、プラテン20などで構成されている。LFローラ2は画像形成時に記録媒体(ロール紙)Pを搬送するためのローラであり、不図示のLFモータで駆動される。ピンチローラ3はLFローラに押圧されて従動回転することで搬送力を付与するローラである。記録ヘッド4はキャリッジ5に搭載されている。プラテン20は、記録ヘッド4と対向する位置で記録媒体Pを案内支持する。キャリッジ5が搬送方向(副走査方向)Yと交差するX方向に往復移動することで、プラテン20に支持された記録媒体に対する記録ヘッド4の主走査が行われる。プラテン20は、所定配列で形成された複数の吸引孔21に負圧吸引力を作用させて記録媒体を平面状に案内支持する吸引プラテンであり、本実施形態では後述するプラテン構成部80の一部として構成されている。
記録ヘッド4は、キャリッジ5の移動に同期して、画像データに基づいたヘッド駆動信号により吐出口から記録媒体へインクを吐出して画像を記録していく。記録媒体Pへの1ライン分の画像形成と記録媒体の所定量の搬送(バンド搬送)とを交互に繰り返すことで、所定領域(例えば1頁分)の画像が記録される。キャリッジ5には、カッタユニット6および記録媒体検出器7が装着されている。カッタユニット6は、搬送方向と交差する方向に走行しながら記録媒体Pを切断する。記録媒体検出器7は、記録媒体Pの有無を検出することで先端もしくは後端を検出するセンサである。本実施形態では、発光部(発光ダイオード(LED))により記録媒体の表面に光を照射し、その反射光を受光部(フォトダイオード)で検出する反射型光学式センサが使用されている。この記録媒体検出器7としては、記録媒体の有無を検出できるセンサであれば任意のセンサを使用可能である。なお、記録媒体検出器7では、後述するインク受け部60の位置および予備吐受け部(インク受け部)40の位置の検知も行っている。
記録装置には、CPU、メモリおよびI/O回路等を備えたコントローラからなる制御部100が設けられている。この制御部100は、内部メモリに予め格納された制御プログラムに従い、駆動モータや各種装置の動作を制御する。これにより、記録媒体Pの給送および搬送の動作を制御するとともに、画像データに基づいて記録ヘッド4を制御することにより、記録媒体に画像を記録していく。また、制御部100は、後述するインク受け駆動部30や予備吐受け駆動部78の駆動動作を制御する他、記録装置全体の動作やそのタイミングを制御するものである。
図2はプラテン20を有するプラテン構成部80の斜視図である。図3はプラテン構成部80の縦断面図である。図4はプラテン構成部80のプラテン20の一部を省いてインク受け部材23を示す斜視図である。プラテン20は、記録ヘッド4の吐出面(吐出口が形成されたフロント面)と記録媒体Pの記録面との間に所定量の隙間を形成するように、記録媒体を案内支持する。本実施形態では負圧吸引力により記録媒体を案内支持面に吸着させる吸引プラテンで構成されている。プラテン20は、中空構造のステイ8の上面に不図示のシール材を介して固定されている。ステイ8の内部は吸引ダクト8aとなっており、その一端部には吸引手段9が接続されている。吸引手段9は、吸引ファンで構成され、本実施形態では、少ない電圧で高い出力(静圧)が得られるシロッコファンが使用されている。プラテン20の上面には、吸引ダクト8aに連通する複数の吸引孔21と、各吸引孔21の間を接続する吸引溝22が形成されている。このようなプラテン構成部80により、記録媒体Pを吸着することで画像形成時の紙浮きやコックリング(波うち)等を抑制することができる。
プラテン構成部80のプラテン20の上面の複数位置に穴状のインク受け部60が形成されており、各インク受け部材の内部にはインク受け部材23が配されている。各インク受け部60は、使用される各種サイズの記録媒体に対応して、記録媒体の両側でそれぞれの端縁を跨ぐ領域に形成されている。これらのインク受け部60は、記録媒体Pに縁なし記録(余白なし記録)を行う際に記録媒体の端縁の外側に着弾するインクを受容するためのものである。従って、これらのインク受け部60は、使用される各種サイズの記録媒体の両側の端縁からはみ出す位置に吐出されたインクを受容できるように配されている。なお、インク受け部60は、記録される記録媒体の幅が比較的小さい場合には、吐出口内のインクをリフレッシュするための予備吐出(記録を目的としないインク吐出)の際の吐出インクを受容するためにも使用可能である。
プラテン構成部80(またはプラテン20)の記録領域を外れた位置に、記録を目的としない予備吐出により記録ヘッド4から吐出されるインクを受けるための穴状の予備吐受け部40が設けられている。予備吐受け部40の内部には予備吐出されるインクを受けるためのインク受け部材(予備吐受け部材)41が配されている。インクジェット記録装置では、一般に、記録ヘッドの吐出口から吐出されるインク中に水やアルコール等の揮発性の溶媒成分が含有されている。そして、これらの溶媒成分が蒸発して不揮発成分の濃度が相対的に高くなり、その結果としてインクの粘度が上昇し、記録ヘッドにおけるインク吐出不良の原因となる場合がある。上記の予備吐出は、このような不都合を回避するための回復処理であり、良好な画像記録を維持するために画像とは無関係なインクを予備的に吐出することで記録ヘッド内のインクをリフレッシュする処理動作である。予備吐受け部40は、記録ヘッドから吐出されるインクを受容する点では上述のインク受け部60と同じであり、従って、本実施形態ではインク受け部の一部を構成している。
図5は各インク受け部60のインク受け部材23を回動させるリンク部材31の斜視図である。図6は各インク受け部60のインク受け部材23を回動駆動するためのインク受け駆動部30の斜視図である。図7は各インク受け部60のインク受け部材23の動作を示す説明図である。図8は記録装置の制御部の構成を示すブロック図である。図9は各インク受け部の動作のフローチャートである。次に、インク受け部60の構成および動作について説明する。
図2〜図7において、プラテン20は、中空構造のステイ8の上面に締結されているプラテンベース24に対し、不図示のシール材を介して固定されている。プラテン20上の複数位置に配された穴状のインク受け部60のそれぞれには、インク受け面を有するインク受け部材23が設けられている。各インク受け部材23は、それぞれが回動軸66を有し、プラテンベース24に設けられた各インク受け部60の内部に回動自在に軸支されている。回動軸66のプラテンベース24から突出した端部にはアーム部61が設けられ、アーム部の先端部にはボス(突起)62が設けられている。インク受け部材23の材質は、表面にインク滴が着弾しても固着しにくいポリアセタール等の材質が好ましい。各インク受け部60の下部にはプラテンベース24内に開口する開口部64が設けられており、ステイ8の上面の複数箇所には連通口65が設けられている。各インク受け部60から滴下するインク滴は、それぞれの開口部64から連通口65を通して、ステイ8内部の吸引ダクト8a内へ滴下されて貯留される。
次に、図5および図6を用いてインク受け駆動部30の構成および各インク受け部材23の回動駆動機構について説明する。各インク受け部60内のインク受け部材23のアーム部61のボス62は、後述するインク受け駆動部30によって往復駆動されるバー状のリンク部材31の対応位置に形成された各長孔63と摺動自在に係合している。このリンク部材31は、プラテンベース24に沿って記録ヘッド4の走査方向(搬送方向と交差する方向)に延在するように配されている。リンク部材31は、その一端部に掛けられたバネ32の付勢力によって、その一端部に形成された摺接部31eを介して、リンクカム33と常時接触している。リンクカム33は、モータ36によりアイドラギア35を介して回転駆動可能であり、その回転位置をカムセンサ34で検知することにより位置制御される。
こうして、リンクカム33の回転でリンク部材31を矢印X方向(搬送方向と交差する方向)に往復移動可能とする構成により、リンク部材31に係合連結された各インク受け部60のインク受け部材23の回動位置を可変制御することができる。この構成は、プラテン構成部8に多数のインク受け部60が配置される場合でも、リンク部材31に係合孔(長孔63)を設けるだけで対処することができ、簡便で安価に構成することができる。また、本実施形態に係るインク受け駆動部30はリンクカム33を用いて制御する構成としたが、これは、後述する予備吐受け駆動部78で使用するラック・ピニオン方式の伝動機構を用いて制御する構成としても良い。
図8は記録装置の制御部100の構成を示すブロック図である。図8において、制御部100の中央演算処理装置CPUはI/Oポートを介して各駆動回路に接続され、各駆動回路によって記録装置の各動作部の駆動が制御される。すなわち、インク受け駆動回路によってインク受け駆動部30のモータ36を制御し、予備吐受け駆動回路によって予備吐受け駆動部78のモータ47を制御し、ヘッド高さ駆動回路によって図12に示すヘッド高さ制御機構50のリフトモータ55を制御する。また、LF(ラインフィード)駆動回路によってLFローラ2の駆動モータを制御し、キャリッジ駆動回路によってキャリッジ5の駆動モータを制御し、ヘッド駆動回路によって記録ヘッド4の駆動を制御する。
次に、インク受け部材23の回動位置(インク受け面の位置)と記録装置の動作との相関について、主として図7および図8を用いて説明する。まず、記録動作(画像形成動作)について説明する。記録装置の制御部100のCPUがホストPCより画像データを受信すると、画像データの画質に応じて走査速度や紙送りパス数が決定される。その際、画像記録が通常記録であるか、縁なし記録(余白なし記録)であるかの情報も画像データとともにPCから送信される。また、予備吐出動作は、予備吐受け部40において記録動作の前に行われる。ここで、予備吐受け部40が配される側をホームポジション(HP)側とし、その反対側をバックポジション(BP)側 とすると、画像形成の条件によっては、予備吐出動作をバックポジション側のインク受け部60で行うこともある。その場合の画像形成の条件としては、「キャリッジによるスキャン時間=キャリッジの片スキャン幅/キャリッジの走査速度」が所定時間より長いという条件が考えられ、記録媒体の範囲外のインク受け部60に対して予備吐出を行う。
インク受け部60のインク受け部材23の回動位置が可変になっている。本実施形態では、記録装置の動作に応じて可変であり、図7(a)の水平位置と、図7(b)の15度傾斜位置と、図7(c)の直立(90度)位置との3つの位置に切換え可能になっている。図7(a)は、記録の際にインク受け部60にインクを吐出しないときの状態を示す。図7(a)の位置では、インク受け部材23が水平となるとともに、プラテン20の裏面と接触することでインク受け部60における空気流路を遮断して記録媒体の吸着を止める状態になっている。この状態は、記録時にインクがインク受け部60に吐出されない通常記録(予備吐出なし)の状態であり、かかる状態によれば、空気流を無くすことにより記録媒体端縁部におけるインクの着弾乱れを防止することができる。同時に、インク受け部60での空気漏れを低減することで、プラテン20内の負圧を高くして吸引孔21における吸着力を高く維持することができる。
図7(b)は記録の際にインク受け部60にインクを吐出するときの状態を示す。図7(b)の位置では、インク受け部材23が傾斜(本実施形態では傾斜角度が15度)し、インク受け部材の上面とプラテン20の裏面との隙間から空気が吸引される状態になっている。この状態は、記録時にインク吐出部60にインクを吐出する縁なし記録や予備吐出を行うときの状態であり、かかる状態によって、傾斜面と空気吸引とによってインク受け部材23の表面におけるインク堆積を防止することができる。また、傾斜角を小さくすることで、記録ヘッド4とインク受け部材23との距離を小さくするとともに、空気流による吸引力を確保することにより、吐出インクの飛翔に起因するインクミストの飛散を防止することができる。また、インク受け部材23の回動動作をインク吐出動作と連動させることで、インク吐出のときだけ図7(b)の状態とし、インク吐出以外のときは図7(a)の状態とするように、回動位置を交互に切換えても良い。こうすることで、空気漏れによるプラテン20内の負圧低下を軽減し、吸引孔21における記録媒体の吸着性能を維持することができる。本実施形態においては、インク受け部60を開放する時間が1sec程度以下であれば、プラテン20内の負圧低下を軽減して吸着性能を維持できることが実験的に確認された。
図7(c)は、記録を行わないときのインク受け部材23の回動位置を示し、インク受け部材23が直立位置(垂直状態)になっている。この記録を行わないときとは、記録装置の待機時や保管時など種々の非記録時の状態を含む。図7(c)の状態によれば、インク受け部材23のインク受け面に付着したインクを流出させて回収する効果を高めることができる。
図9はインク受け部60の動作のフローチャートである。次に、主として図8および図9を用いて、記録装置の各種の動作とインク受け部材23の回動位置の切換え制御との相関について説明する。まず、記録動作に入る前の待機状態では、インク受け部材23の回動位置は図7(c)の直立状態になっている。画像データが転送されると、縁なし記録等ではない通常記録の場合は、インク受け部材23を図7(a)に示すようなプラテン20の裏面に接触する水平位置まで回動させ、記録を開始する。一方、縁なし記録の場合は、インク受け部材23を図7(b)の傾斜位置(本実施形態では15度の傾斜)まで回動させ、記録を開始する。
記録が終了すると、インク受け部材23を図7(c)の約90度の直立位置へ回動させ、記録待機状態となる。この際、キャリッジ5を走査方向に移動させ、記録媒体検出器7によりインク受け部材23の有無、すなわちインク受け部60の上からインク受け部材23の存在を確認できるか否かを検出している。検出できれば図7(a)または図7(b)の状態であり、検出できない場合は図7(c)の直立状態であると判別することができる。このような検出動作によれば、不測の不具合によりインク受け部材23が回動不能になったとしても、次の記録が開始される前にユーザに不具合をアナウンスすることができる。これにより、例えばインク受け部材23上のインク溢れなどの不具合の発生を未然に防ぐことができる。
以上説明したように、インク受け部60は、記録装置の各動作モードに応じてインク受け面の回動位置を可変にして切換え制御される。これにより、インクミストの発生を抑制するとともに、空気吸引に起因するインクの着弾乱れによる画質低下を防止しつつ、インク受け面上のインク堆積を低減することで、画像記録の信頼性を向上させることができる。
図10は予備吐出されるインクを受けるための予備吐受け部40、および予備吐受け部のインク受け部材41を回動駆動するための予備吐受け駆動部40を示す斜視図である。図11は予備吐受け部40のインク受け部材41の動作を示す説明図である。図12はキャリッジ5の往復移動を案内支持するためのガイドシャフト51を昇降することにより記録ヘッド4の高さ位置を制御するヘッド高さ制御機構の斜視図である。図13は予備吐受け部40の動作のフローチャートである。次に、図2、図3および図10〜図13を用いて、プラテン構成部80に設けられた予備吐受け部40の構成および動作について説明する。
予備吐受け部40は予備吐出されるインクを受けるためのインク受け部であり、その構成は前述のインク受け部60の構成と類似している。予備吐受け部40は、ステイ8の上面であってプラテン20を外れた位置(通紙領域外の位置)に設けられており、ステイ8上に固定された予備吐ホルダ42にインク受け部材41を回動可能に配した構造を有する。すなわち、画像形成される記録媒体の範囲外で記録を目的としない予備吐出インクを受けるための予備吐受け部40が配設されている。そして、この予備吐受け部40に、記録ヘッドから吐出される予備吐出インクを受けるためのインク受け面を有するインク受け部材41を、記録ヘッド4の走査方向と交差する方向の軸心を中心に回動可能に設ける構成となっている。
インク受け部材(予備吐受け部材)41は、その回動軸76を介して予備吐ホルダ42の内部に回動可能に軸支されている。回動軸76の予備吐出ホルダから突出した端部にはアーム部71が設けられ、アーム部71の先端部にはボス(突起)72が設けられている。このインク受け部材41も、表面にインク滴が着弾しても固着しにくいポリアセタール等の材質で形成することが好ましい。図2に示すように、予備吐受け部40は、その下部に設けられた開口部74およびステイ8の上面に形成されたの連通口75を通して、ステイ8内部の吸引ダクト8aに連通している。これにより、予備吐受け部40から滴下するインク滴は、開口部74および連通口75を通して吸引ダクト8a内へ滴下される。
予備吐受け部40内のインク受け部材41のアーム部71のボス72は、予備吐受け駆動部78によって往復駆動されるバー状のリンク部材43の対応位置に形成された長孔73と摺動自在に係合している。このリンク部材43は記録ヘッド4の走査方向(搬送方向と交差する方向)に配されている。リンク部材43にはラック(歯ざお)43bが形成されており、このラック43bはモータ47により駆動されるギア44と噛み合っている。つまり、予備吐受け駆動部78は、モータ47により回転駆動されるギア44を介してリンク部材43を往復駆動することにより、インク受け部材41の回動位置を所定位置に切換え可能(可変制御可能)になっている。図示の例では、ギア44の側面に取り付けられたコードフィルム45をエンコーダセンサ46で読み取るとともに、位置センサ48でリンク部材43の端部位置を読み取ることにより、インク受け部材41の回動位置を検知する。そして、駆動モータ47の回転により、リンク部材43を介して、予備吐受け部40のインク受け部材41の回動位置の可変制御している。
次に、予備吐出インクを受けるインク受け部材41の回動位置制御と記録装置の動作との相関について説明する。インク受け部材(予備吐受け部材)41の回動位置は可変(切換え可能)であり、図12に示すヘッド高さ制御機構50による記録ヘッド4の高さ変動に応じて切換えるように制御される。まず、記録ヘッド4の高さ変動について説明する。記録ヘッド4を搭載したキャリッジ5は、軸受5aを介してガイドシャフト51に沿って移動(走査)する。ガイドシャフト51の両端部は、フレームを構成する両側の側板52に設けられた縦長孔と嵌合しており、ガイドシャフト51の両端部には偏心カム53が設けられている。両側の側板52のそれぞれには、偏心カム53の下部に当接してガイドシャフト51の両端部を支持する支持面(例えば曲げ起こし部)が形成されている。
一方の偏心カム53にはギア部53aが設けられており、ギア部53aにはギアトレイン54の出力ギアが噛み合っている。リフトモータ55の駆動によりギアトレイン(歯車列)54を回転させることにより、ギア部53aを介して偏心カム53を回動させることができる。この偏心カム53の回動によりガイドシャフト51を昇降させることができる。ギア部53aに設けられたフラグ部53bをリフトセンサ56で読み取ることにより、偏心カム53の回動位置を検知することで、ガイドシャフト51の高さ位置を制御することができる。リフトモータ55の駆動でガイドシャフト51を回動させることにより、偏心カム53の偏心量に対応する距離だけガイドシャフト51を昇降させることで、キャリッジ5上の記録ヘッド4の高さ(プラテン20からの距離)を変えることができる。
記録ヘッド4の高さ変更は、記録媒体Pの厚さや記録画像等の種々の条件に応じて、ホストPCからの信号と予め記憶された設定値に基づいて自動制御されている。本実施形態では、記録ヘッド4の高さは、図11(a)に示す低い位置と、図11(b)に示す中間位置と、図11(c)に示す高い位置との3つのポジションに切り替え可能である。記録をするとき、すなわち予備吐出を行うときは、予備吐受け部材41の回動位置は、記録ヘッド4の高さに関わらず、記録ヘッド4の吐出面と予備吐受け部材41のインク受け面との距離Hが一定(例えば2mm)となるように可変制御される。すなわち、予備吐受け部材41の回動位置は、記録ヘッド4の高さ(低い、中間、高い)に応じて、吐出面とインク受け面との距離Hが一定となるように切換えられる。また、待機時など、記録を行わないとき、すなわち予備吐出を行わないときは、予備吐受け部材41の回動位置は図11(d)に示す直立方向(直立姿勢)となるように切換えられる。これにより、予備吐受け部材41上におけるインク滴の固着を防止することができる。
以上の予備吐受け部40によれば、記録ヘッド4の高さ変動に応じて、インク滴の飛翔距離が常に一定の最短距離になるように、インク受け部材41の回動位置を可変とすることで所定位置に切換えることができる。これにより、吸引手段9の空気吸引によりインクミストの飛散を抑制しつつ、インク受け部材41のインク受け面でのインク固着を防止することができ、画像記録の信頼性の向上を図ることができる。特に予備吐受け部40では、画像記録のときだけでなく、記録ヘッド4のクリーニング(吐出口の目詰まり解消のためのインク吸引など)の後に一度に多量(例えば記録時の10倍以上)の予備吐出を行うことがある。上記の予備吐受け部40の構成によれば、その際に発生するインクミストを抑制するうえで大きな効果を奏することができる。
次に、主として図8および図13を用いて、記録装置の記録動作と予備吐受け部材41の回動位置制御との相関について説明する。まず、記録動作に入る前の待機状態では、予備吐受け部材41の回動位置は図11(d)の直立状態になっている。画像データが転送されると、その記録モードにより、記録ヘッド4と記録媒体Pとの距離(紙間距離)を所定値に設定(紙間切換え)すべく、記録ヘッド4の高さが図11(a)〜図11(c)のいずれかに選定(切換)される。そして、選定された記録ヘッド高さに追従して、図11(a)〜図11(c)のように記録ヘッド4の吐出面と予備吐受け部材41のインク受け面との距離Hが一定に維持されるように、予備吐受け部材41の回動位置を切り換える。このように予備吐受け部材41を回動させた後、画像形成(記録)を開始する。記録しているときは、別途設定された予備吐出の動作モードに基づいて記録ヘッド4から予備吐受け部40に対して記録を目的としないインクを吐出する予備吐出が行われる。
記録が終了すると、予備吐受け部材41を図11(d)の位置に戻し、記録待機の状態となる。この際、キャリッジ5を走査方向に移動させ、記録媒体検出器7(図1)によりインク受け部材41の有無、すなわち予備吐受け部40の上からインク受け部材41の存在を確認できるか否かを検出している。検出できれば図11(a)、図11(b)もしくは図11(c)のいずれかの状態であり、検出できない場合は図11(d)の直立状態であると判別することができる。このような検出動作によれば、不測の不具合によりインク受け部材41が回動不能になったとしても、次の記録が開始される前にユーザに不具合をアナウンスすることができる。これにより、例えばインク受け部材41上のインク溢れなどの不具合の発生を未然に防ぐことができる。
なお、本実施形態の予備吐受け部40においては、インク受け部材41を複数の回動位置に切換えるために駆動方式としてラック43bとギア44を使用したが、これは前述のインク受け駆動部30におけるリンクカム33のようなカム機構を使用しても良い。また、インク受け部材41の回動位置を検知するためにエンコーダセンサ46および位置センサ48を使用したが、これは回動位置を検知できるセンサであれば他の方式のセンサであっても良い。
以上説明した予備吐受け部40によれば、記録装置の各動作モード(記録モード)に応じて予備吐受け部40のインク受け面の高さおよび開閉の切換え制御を行うことで、インクミストの飛散防止とインク固着の防止が可能となる。特に、一度に多量のインクを吐出する予備吐出を行う場合でも、予備吐受け部40におけるインクミストの飛散を効果的に低減することができる。
以上説明した実施形態においては、インク受け部材23のインク受け面の高さを、インク受けのときは記録ヘッドの吐出面に接近させ、インク受け以外のときはインク滴が流動可能な角度以上に可変(切換え可能)としている。これにより、インクミストの発生を低減しつつ、インク受け面上でのインクの堆積を防止することができる。また、紙間距離を可変にする場合は、記録ヘッドの吐出面の高さに応じて、予備吐受け部40のインク受け面の高さを追従させることで、紙間距離の変動に関わらずインク吐出面とインク受け面との間隔を一定に保つように構成した。これにより、予備吐出におけるインクミストの発生を抑制することができる。さらに、負圧吸引力で記録媒体を吸着するプラテン20を使用して縁なし記録を行う場合は、インク受け部60の開口部における空気流によりインクの着弾乱れに起因する画質低下を生じることがある。本実施形態では、縁なし記録を行わない通常記録の際にはインク受け部材23で縁なし用の開口部を遮断(閉鎖)することにより、空気流に起因するインクの着弾乱れを防止することができる。
なお、本発明は、インクジェット記録装置であれば、記録媒体の大小、記録媒体の幅の種類、記録ヘッドの数、使用するインクの種類や性状数などに関わらず、同様に適用可能である。また、本発明は、記録ヘッドで主走査するシリアルタイプ、あるいは記録媒体の搬送による副走査のみによるラインタイプなどの記録方式に関わらず、同様に適用可能である。また、本発明は、ロール紙等の長尺のシートあるいは一定寸法のカットシートなどの記録媒体の種類にも関係なく、同様に適用可能である。さらに、本発明は、紙、プラスチックフィルム、印画紙、不織布など、記録媒体の材質にも関わりなく、同様に適用可能である。