図1は、本発明が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」と表す)を説明するための骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」と表す)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図6参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
差動部11は、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、その動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2とを備えている。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1は、反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備える。そして、駆動輪34に動力伝達可能に連結された第2電動機M2は、走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
動力分配機構16は、エンジン8と駆動輪34との間に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体として構成されている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び/又は第2電動機M2の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
自動変速部20は、差動部11から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
このように、自動変速部20内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間の動力伝達経路すなわち差動部11(伝達部材18)から駆動輪34への動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行されて各ギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、自動変速部20では、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された動力伝達装置10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで全体として無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度N18(以下、「伝達部材回転速度N18」と表す)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。
例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、動力伝達装置10全体としての総合変速比γTが無段階に得られる。
図3は、差動部11と自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、その差動部11または自動変速部20に含まれる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度Neを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、エンジン回転速度Neを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転速度すなわち第1電動機M1の回転速度が上昇或いは下降させられる。
また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転がエンジン回転速度Neと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度Neと同じ回転で差動部リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転が零とされると、エンジン回転速度Neよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
自動変速部20では、差動部11において出力回転部材である伝達部材18(第3回転要素RE3)の回転が第1クラッチC1が係合されることで第8回転要素RE8に入力されると、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図5参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表すシフトポジションセンサ51からの信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度Neを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード、マニュアルシフトモード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度(以下、出力軸回転速度)NOUTに対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」と表す)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」と表す)を表す信号、蓄電装置56(図6参照)の充電残量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
また、上記電子制御装置80からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置58(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられた電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図6参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる動力伝達装置10の変速可能な総合変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または、前進走行において総合変速比γTを段階的に変化させる仮想的な有段変速制御であるマニュアルシフト(マニュアルシフト制御)を実行するマニュアルシフトモードを成立させるための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。「M」ポジションでは、シフトレバー52を「+」位置または「−」位置へ操作可能となっており、シフトレバー52は、そのシフトレバー52に対する操作力が解除されるとバネ等の付勢力により上記「+」位置と「−」位置との間の中間位置に戻るようになっている。「M」ポジションで成立する前記マニュアルシフトモードでは、総合変速比γTは、動力伝達装置10の変速可能な総合変速比γTの変化範囲内でシフトレバー52が「+」位置に操作される毎に段階的に小さくされる一方で、「−」位置に操作される毎に段階的に大きくされる。
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における自動変速部20の各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
図6は、電子制御装置80に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。図6に示すように、電子制御装置80は、有段変速制御部である有段変速制御手段82と、ハイブリッド制御部であるハイブリッド制御手段84と、仮想有段変速制御部である仮想有段変速制御手段90とを備えている。有段変速制御手段82は、図7に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断しすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。例えば、有段変速制御手段82は、前進走行においてシフトポジションPSHがDポジションである場合に図7の変速線図に従って上記自動変速部20の自動変速制御を実行する。一方、有段変速制御手段82は、シフトポジションPSHがMポジションである場合には、後述する仮想有段変速制御手段90からの指令に従って自動変速部20を変速するので、図7の変速線図に従っては変速しない。
自動変速部20の自動変速制御において、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NeとエンジントルクTeとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
例えば、ハイブリッド制御手段84は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度Neと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度Neとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)Teとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められた図8の破線に示すようなエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTeとエンジン回転速度Neとなるように、動力伝達装置10の総合変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、総合変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。例えば、ハイブリッド制御手段84は、前進走行においてシフトポジションPSHがDポジションである場合に、差動部11の変速比γ0を制御することにより動力伝達装置10の総合変速比γTを無段階に変化させる。なお、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度Ne及びエンジントルクTeなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。また、本実施例で例えば、燃費とは単位燃料消費量当たりの走行距離等であり、燃費の向上とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が長くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)が小さくなることである。逆に、燃費の低下とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が短くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率が大きくなることである。
このとき、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度Neを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度Neを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84は車両走行中にエンジン回転速度Neを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。また、ハイブリッド制御手段84は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度Neを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度Neを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
また、ハイブリッド制御手段84は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。
例えば、ハイブリッド制御手段84は、基本的には、アクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段84による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行をさせることができる。例えば、ハイブリッド制御手段84は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTe域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域において、モータ走行を実行する。また、ハイブリッド制御手段84は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度Neを零乃至略零に維持する。
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
また、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
また、ハイブリッド制御手段84は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置56の充電残量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
本実施例では、前述したように、前進走行においてシフトポジションPSHがDポジションである場合には、自動変速部20が図7の変速線図に従って変速されると共に、差動部11の変速比γ0が制御されることにより動力伝達装置10の総合変速比γTが無段階に変化させられる。一方で、シフトポジションPSHがMポジションである場合には、前記マニュアルシフトモードが成立させられ、図5のシフトレバー52が「+」位置または「−」位置に操作されることにより総合変速比γTが段階的に変化させられる。以下、上記マニュアルシフトモードについて詳述する。
図9は、動力伝達装置10の総合変速比γTを段階的に変更するために予め設定された複数の仮想ギヤ段(本発明の仮想変速段に相当)とその複数の仮想ギヤ段の各々を成立させるときの自動変速部20のギヤ段である仮想変速時有段ギヤ段(本発明の仮想変速時有段変速段に相当)との関係を示したギヤ段マップである。この図9のギヤ段マップは上記仮想ギヤ段と上記仮想変速時有段ギヤ段との対応表であって予め設定されてROM等に記憶されており、この対応表の設定方法については後述する。なお、以下の説明では、自動変速部20のギヤ段をATギヤ段またはAT変速段と表す。
前記仮想ギヤ段の設定数は幾つであっても構わないが、本実施例では図9に示すように、第1速(1st)〜第8速(8th)の仮想ギヤ段が予め設定されている。その第1速が最も低速側の仮想ギヤ段であり、第8速が最も高速側の仮想ギヤ段である。図9において、上記仮想ギヤ段の第1速〜第8速に対応する前記仮想変速時有段ギヤ段は全て第2速(2nd)であると設定されているが、これは本実施例における例示であって全ての仮想ギヤ段に対応する仮想変速時有段ギヤ段が同一である必要はなく、図9のギヤ段マップは動力伝達装置10の構成等が変われば変わるものである。
図6に戻り、仮想有段変速制御手段90は、前記マニュアルシフトモードにおいて前記マニュアルシフトを実行する。そのために、仮想有段変速制御手段90は、シフトポジションPSHが「M」ポジションであるか否かを判断し、シフトポジションPSHが「M」ポジションである場合には、車両の走行モードが前記マニュアルシフトモードであると判断する。仮想有段変速制御手段90は、そのマニュアルシフトモードでは、先ず、第1速〜第8速の前記仮想ギヤ段の中から運転者のシフト操作により選択された仮想ギヤ段を上記マニュアルシフトで達成すべき仮想ギヤ段として決定する。例えば、運転者によりシフトポジションPSHが「D」から「M」ポジションへ切り替えられた時には、仮想有段変速制御手段90は、その切替時のアクセル開度Acc、車速V及び総合変速比γT等に基づき予め定められた関係から上記達成すべき仮想ギヤ段を決定する。また、仮想有段変速制御手段90は、「M」ポジションにおいてシフトレバー52が「+」位置(図5参照)へ操作される毎に上記仮想ギヤ段を順次高速側に切り替える一方で、「−」位置(図5参照)へ操作される毎に上記仮想ギヤ段を順次低速側に切り替える。
次に、仮想有段変速制御手段90は、前記マニュアルシフトモードにおいて運転者により選択された仮想ギヤ段すなわち上記達成すべき仮想ギヤ段を決定すると、図9に示す予め定められた関係であるギヤ段マップから、その運転者により選択された仮想ギヤ段に基づいて前記仮想変速時有段ギヤ段を決定する。言い換えれば、運転者により選択された仮想ギヤ段に図9のギヤ段マップにて対応した上記仮想変速時有段ギヤ段を決定する。
次に、仮想有段変速制御手段90は、上記仮想変速時有段ギヤ段を決定すると、自動変速部20をその決定した仮想変速時有段ギヤ段に変速する。具体的には、仮想有段変速制御手段90は、有段変速制御手段82に自動変速部20を上記決定した仮想変速時有段ギヤ段に変速するように指令し、有段変速制御手段82がその指令に従って自動変速部20を変速する。
また、仮想有段変速制御手段90は、運転者により選択された仮想ギヤ段を成立させるために、上記自動変速部20の仮想変速時有段ギヤ段への変速と共に、
予め定められた関係からアクセル開度Acc及び車速V等に基づいて、その成立させる仮想ギヤ段に応じたエンジン回転速度Neとなるようにエンジン8と差動部11の変速比γ0とを制御する。具体的には、ハイブリッド制御手段84に、上記仮想ギヤ段に応じたエンジン回転速度Neとなるようにエンジン8及び変速比γ0を制御するように指令し、ハイブリッド制御手段84がその指令に従ってエンジン8及び変速比γ0を制御する。例えば、仮想有段変速制御手段90は、同一車速かつ同一アクセル開度で比較すれば、上記成立させる仮想ギヤ段が低速側であるほど段階的にエンジン回転速度Neを高くする。すなわち、その仮想ギヤ段が低速側であるほど動力伝達装置10の総合変速比γTを段階的に大きくする。そして、仮想有段変速制御手段90は、仮想ギヤ段が切り替えられずに一定でありアクセル開度Accも一定であれば、ATギヤ段が切り替えられることがあっても、総合変速比γTを一定に維持すると共に、車速Vが上昇するほどエンジン回転速度Neを上昇させる。また、仮想有段変速制御手段90は、仮想ギヤ段が切り替えられずに一定である場合には、アクセル開度Accが大きくなるほどエンジン回転速度Neを高くする。
図10は、車速Vとエンジン回転速度Neとを座標軸とする2次元座標に、エンジン8の作動状態を制限するためのエンジン作動許容領域と前記マニュアルシフトモードでの予め設定されたエンジン回転速度Neの制御下限値NLe(以下、エンジン回転速度制御下限値NLeと表す)とを表した図である。そのエンジン回転速度制御下限値NLeは仮想ギヤ段毎に車速Vに応じて予め設定されており、図10では、エンジン回転速度制御下限値NLeと車速Vとの関係を示す例として、第7速の仮想ギヤ段に対応して設定されたものが表示されている。図10では、自動変速部20をAT部またはATというように略して表示している。図11は、図10と同じ2次元座標に、エンジン回転速度制御下限値NLeと車速Vとの関係を第1速〜第8速の仮想ギヤ段のそれぞれについて示した図である。
上記エンジン回転速度制御下限値NLeは、前記マニュアルシフトモードにおいて制御されるエンジン回転速度Neの下限値であり、すなわちアクセルペダルが踏まれていないアクセル開度Accが零であるときのエンジン回転速度Neであって、例えば車速Vと運転者に選択された仮想ギヤ段とに応じて適切なエンジンブレーキ力を発揮するように実験的に設定されている。そのため、図11に示すように、エンジン回転速度制御下限値NLeは、車速Vが高くなるほど高くなるように設定されており、同一車速で比較すれば前記仮想ギヤ段が低速側であるほど高くなるように設定されている。また、エンジン回転速度制御下限値NLeの車速Vに対する上昇勾配は、前記仮想ギヤ段が低速側であるほど大きくなる。例えば図10において、上記仮想ギヤ段が第7速とされた前記マニュアルシフトモードにおいてアクセル開度Accが零である場合に、下り坂などで車両が加速していけば、エンジン回転速度Neは、図10のエンジン回転速度制御下限値NLeと車速Vとの関係を示す実線NLE07に沿って、エンジン回転速度制御下限値NLeとされて車速Vの上昇に伴い上昇していくことになる。
また、図10に示す車速許容範囲は、車両の耐久性を損なわないようにすること等を目的として実験的に予め設定された車速Vの変化が許容される範囲であって、下限値は0km/h、上限値は200km/h程度である。例えば、車速Vが上記車速許容範囲の上限値に達するとエンジン8や第2電動機などの走行用駆動力源の出力が電子制御装置80によって抑えられ、車速Vが上記車速許容範囲から外れないように制御される。
また、図10に示すように、エンジン回転速度Neに対して、エンジン作動許容領域がATギヤ段毎に予め設定されている。このエンジン作動許容領域は、エンジン8と連動して回転するエンジン回転連動部材の回転速度が所定の許容回転速度範囲から外れないようにエンジン8の作動状態を制限するために設定されている。本実施例の動力伝達装置10では、上記エンジン回転連動部材として第1電動機M1や差動部遊星歯車装置24の各回転要素RE1,RE2,RE3などが例示されるが、そのエンジン回転連動部材の中で第1電動機M1の高回転化を最も抑制すべきであるので、上記許容回転速度範囲は第1電動機M1が耐久性を損なうほど高回転化しないように予め定められており、上記エンジン作動許容領域は、第1電動機回転速度NM1がその許容回転速度範囲から外れないようにエンジン8の作動状態例えばエンジン回転速度Neを制限するために設定されている。このエンジン作動許容領域は、前記マニュアルシフトモードだけでなく、「D」ポジションで成立する前記自動変速モードでもエンジン8の作動状態を制限するものである。図10には、ATギヤ段毎に存在する上記エンジン作動許容領域のうち、第2速のATギヤ段に対応するエンジン作動許容領域でのエンジン回転速度Neの領域上限値が破線LTU2で示され、第3速のATギヤ段に対応するエンジン作動許容領域でのエンジン回転速度Neの領域上限値が二点鎖線LTU3で示され、第3速のATギヤ段に対応するエンジン作動許容領域でのエンジン回転速度Neの領域下限値が実線LTD3で示され、第4速のATギヤ段に対応するエンジン作動許容領域でのエンジン回転速度Neの領域上限値が一点鎖線LTU4で示されている。例えば図10の破線LTU2、二点鎖線LTU3、及び一点鎖線LTU4を相互に比較すれば判るように、前記エンジン作動許容領域におけるエンジン回転速度Neの領域上限値は、同一車速で比較すればATギヤ段が低速側であるほど高くなるように設定されている。その理由としては、図3の共線図から判るように、同一車速かつ同一エンジン回転速度で比較して、ATギヤ段が低速側であるほど第2電動機回転速度NM2が高くなり、それによって第1電動機回転速度NM1が低くなるからである。また、前記エンジン作動許容領域にエンジン回転速度Neの領域上限値だけでなく領域下限値も存在する理由としては、図3の共線図において第2電動機回転速度NM2がエンジン回転速度Neよりも高く且つそれらの回転速度差が非常に大きい場合には第1電動機M1が負方向(図3で下向き)に高回転化するからである。また、図10に示すように、前記エンジン作動許容領域におけるエンジン回転速度Neの領域上限値および領域下限値は基本的には車速Vが高いほど高くなるが、上記領域上限値はエンジン8自体の耐久性等から6000rpm程度が最大値とされており、上記領域下限値はエンジン8が負方向には回転しないので0rpmが最小値とされている。
ここで、前記マニュアルシフトモードにおいて前記仮想ギヤ段の各々で達成されるATギヤ段が前記エンジン作動許容領域によって制約されることがあり、これについて図12を用いて説明する。図12は、上記仮想ギヤ段のダウンシフトに伴い上記エンジン作動許容領域の制約によりATギヤ段をダウンシフトする必要性が生じる場合を説明するための共線図である。図12の縦線Y1〜Y8はそれぞれ、図3の縦線Y1〜Y8と同じである。図12は、上記仮想ギヤ段が第3速から第2速へとダウンシフトされる場合の例を示すものであるが、図9のギヤ段マップでは第3速の仮想ギヤ段に対応する仮想変速時有段ギヤ段は第2速(2nd)に設定されているところこのギヤ段マップから離れて、仮に第3速の仮想ギヤ段に対応する仮想変速時有段ギヤ段が第3速(3rd)であるものとした図である。
図12に示すように、第1電動機回転速度NM1に対して予め設定された前記許容回転速度範囲の上限値である第1電動機最高回転速度NM1MAXが存在する。図12において、前記仮想ギヤ段が第3速である場合のエンジン回転速度Neは点PTNEAで示され、そのときの第1電動機回転速度NM1は第1電動機最高回転速度NM1MAX以下である。上記仮想ギヤ段が第3速から第2速へとダウンシフトされると、予め定められた関係から総合変速比γTが段階的に大きくされエンジン回転速度Neは点PTNEBが示す回転速度に引き上げられる。このとき、仮に第2速の仮想ギヤ段でATギヤ段が第3速(3rd)のままであったとすると差動部11の差動状態は二点鎖線L11B1で示すようになるため第1電動機回転速度NM1が第1電動機最高回転速度NM1MAXを超えることになる。従って、第1電動機回転速度NM1を第1電動機最高回転速度NM1MAX以下に抑えるため、上記仮想ギヤ段の第3速から第2速へのダウンシフト時にATギヤ段が第3速(3rd)から第2速(2nd)にダウンシフトされ、差動部11の差動状態は実線L11B2で示すように切り替えられる。そして、前記エンジン作動許容領域でのエンジン回転速度Neの領域上限値は第1電動機最高回転速度NM1MAXに対応して定められており、例えば、第1電動機回転速度NM1が第1電動機最高回転速度NM1MAXであるときのエンジン回転速度Ne又はそれを僅かに下回る回転速度Neである。以上のように、図12の車両状態では、第2速の仮想ギヤ段で達成されるATギヤ段を第2速にはできるが第3速にはできないので、各仮想ギヤ段で達成されるATギヤ段が第1電動機最高回転速度NM1MAXによる制約すなわち上記エンジン作動許容領域による制約を受けると言える。
上記エンジン作動許容領域による制約から、仮想有段変速制御手段90は、前記マニュアルシフトモードにおいて、車速V、アクセル開度Accまたは前記仮想ギヤ段に応じてエンジン回転速度Neを現在のATギヤ段に対応する前記エンジン作動許容領域から外れるように変化させる場合には、そのエンジン回転速度Neの変化を維持したままそのエンジン回転速度Neが上記エンジン作動許容領域内となるATギヤ段に自動変速部20を変速させる。つまり、仮想有段変速制御手段90は、基本的には図9のギヤ段マップから運転者により選択された仮想ギヤ段に基づき成立させたATギヤ段を維持するが、そのATギヤ段から、上記エンジン作動許容領域による制約に起因して自動変速部20を変速させることがある。図10の例で説明すれば、図9のギヤ段マップから離れて前記マニュアルシフトモードにおいてATギヤ段が仮に第4速(4th)であったとした場合、仮想有段変速制御手段90は、エンジン回転速度Neを矢印AR01のように一点鎖線LTU4を超えて上昇させる際には、そのエンジン回転速度Neの上昇(矢印AR01)を継続するため、エンジン回転速度Neが第4速のATギヤ段に対応する前記領域上限値(一点鎖線LTU4)に達した時またはその領域上限値よりも僅かに低い回転速度に達した時に、自動変速部20を第4速から第3速へとダウンシフトさせ、それにより上記領域上限値をより高エンジン回転速度側へずらす。また別の例として、図9のギヤ段マップから離れて前記マニュアルシフトモードにおいてATギヤ段が仮に第3速(3rd)であったとした場合、仮想有段変速制御手段90は、エンジン回転速度Neを矢印AR02のように二点鎖線LTU3を超えて上昇させる際には、そのエンジン回転速度Neの上昇(矢印AR02)を継続するため、エンジン回転速度Neが第3速のATギヤ段に対応する前記領域上限値(二点鎖線LTU3)に達した時またはその領域上限値よりも僅かに低い回転速度に達した時に、自動変速部20を第3速から第2速へとダウンシフトさせ、それにより上記領域上限値をより高エンジン回転速度側へずらす。これら2つの例からすると、ATギヤ段が当初から第2速であれば、エンジン回転速度Neが矢印AR01または矢印AR02のように上昇しても、自動変速部20を変速させる必要が生じないということが判る。上記2例の自動変速部20のダウンシフトは、車両に関する必要性から実行されるものであり、運転者が意図しない自動変速部20の変速である。このような点を加味して、図9のギヤ段マップは、運転者が意図しない自動変速部20の変速が実行される可能性をできるだけ低くするように設定されている。
図13は、電子制御装置80の制御作動の要部、すなわち、前記マニュアルシフトモードにおいて複数の前記仮想ギヤ段を互いに切り替える制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。図13のフローチャートの全ステップは仮想有段変速制御手段90に対応する。
先ず、ステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、車両の走行モードが前記マニュアルシフトモードであるか否かが判断される。具体的には、シフトポジションPSHが「M」ポジションであれば上記マニュアルシフトモードであると判断される。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、上記走行モードがマニュアルシフトモードである場合には、SA2に移る。一方、このSA1の判断が否定された場合には、図13のフローチャートは終了する。
SA2においては、第1速〜第8速の前記仮想ギヤ段の中から運転者のシフト操作により選択された仮想ギヤ段が、達成すべき仮想ギヤ段として決定される。SA2の次はSA3に移る。
SA3においては、自動変速部20が有する第1速〜第4速のATギヤ段の中から前記仮想変速時有段ギヤ段が、図9のギヤ段マップから、前記SA2で決定された仮想ギヤ段に基づいて決定される。
SA4においては、自動変速部20が、前記SA3で決定された前記仮想変速時有段ギヤ段に変速される。それと共に、エンジン8と差動部11の変速比γ0とが、予め定められた関係からアクセル開度Acc及び車速V等に基づいて、前記SA2で決定された仮想ギヤ段に応じたエンジン回転速度Neとなるように制御される。
図14は、図9に示すギヤ段マップを設定するための自動変速部20の変速段設定方法、すなわち、前記マニュアルシフトモードでの動力伝達装置10の変速制御のために仮想ギヤ段毎に前記仮想変速時有段ギヤ段を予め設定しておく変速段設定方法を説明するためのフローチャートである。
図14の仮想ギヤ段選択工程P01においては、対応する前記仮想変速時有段ギヤ段を設定すべき仮想ギヤ段が、予め設定されている全ての仮想ギヤ段具体的には第1速〜第8速の仮想ギヤ段の中から選択される。以下の図14についての説明では、この仮想ギヤ段選択工程P01で第7速の仮想ギヤ段が選択された場合を例として説明する。仮想ギヤ段選択工程P01の次は設定可能ATギヤ段選択工程P02に移る。
設定可能ATギヤ段選択工程P02においては、上記仮想ギヤ段選択工程P01で選択された仮想ギヤ段(以下、「被設定仮想ギヤ段」と表す)に対応する前記仮想変速時有段ギヤ段の候補としてのATギヤ段、すなわち、その仮想変速時有段ギヤ段として設定可能なATギヤ段(設定可能ATギヤ段)が、第1速〜第4速のATギヤ段の中から選択される。具体的に、ATギヤ段をその仮想変速時有段ギヤ段として設定可能であると判断する条件は、その判断対象のATギヤ段に対応する前記エンジン作動許容領域内に、上記被設定仮想ギヤ段に対応する前記エンジン回転速度制御下限値NLeが前記車速許容範囲の全体にわたって入ることである。すなわち、上記被設定仮想ギヤ段に対応するエンジン回転速度制御下限値NLeが前記車速許容範囲の全体にわたって前記エンジン作動許容領域内に入るATギヤ段が、上記設定可能ATギヤ段として選択される。例えば、図10に示すように、第7速の仮想ギヤ段に対応するエンジン回転速度制御下限値NLe(実線NLE07)は前記車速許容範囲の全体にわたって、第2速〜第4速のATギヤ段の各々で前記エンジン作動許容領域内に入るので、前記被設定仮想ギヤ段が第7速であれば、上記設定可能ATギヤ段としては第2速〜第4速のATギヤ段が選択される。なお、図10において、第1速のATギヤ段に対応する上記エンジン作動許容領域は、第7速の仮想ギヤ段に対応するエンジン回転速度制御下限値NLe(実線NLE07)を前記車速許容範囲の全体にわたっては含まないので、図示されていない。
更に、上記設定可能ATギヤ段として選択されないATギヤ段の例について図15を用いて説明する。仮に、図15に示すように、あるATギヤ段に対応するエンジン作動許容領域でのエンジン回転速度Neの領域上限値と車速Vとの関係が破線LTUXで示されるとする。その場合、その破線LTUXと実線NLE07(図10の実線NLE07と同じ)とは交点PTXで交差する。従って、その交点PTXが示す車速Vよりも高車速側では、実線NLE07が示すエンジン回転速度制御下限値NLeは、破線LTUXで上記領域上限値を示すエンジン作動許容領域から外れるので、そのエンジン作動許容領域に対応するATギヤ段は、前記被設定仮想ギヤ段が第7速であるときの前記設定可能ATギヤ段として選択されない。設定可能ATギヤ段選択工程P02の次は設定可能ATギヤ段数判断工程P03に移る。
設定可能ATギヤ段数判断工程P03においては、複数のATギヤ段を前記仮想変速時有段ギヤ段として設定可能か否か、すなわち、設定可能ATギヤ段選択工程P02で複数のATギヤ段が前記設定可能ATギヤ段として選択されたか否かが判断される。例えば、前記被設定仮想ギヤ段が第7速である場合には、上記設定可能ATギヤ段としては第2速〜第4速のATギヤ段が選択されるので、複数のATギヤ段を仮想変速時有段ギヤ段として設定可能であると判断される。この設定可能ATギヤ段数判断工程P03の判断が肯定された場合、すなわち、複数のATギヤ段を仮想変速時有段ギヤ段として設定可能な場合には、第1仮想変速時有段ギヤ段設定工程P04に移る。一方、この設定可能ATギヤ段数判断工程P03の判断が否定された場合には、第2仮想変速時有段ギヤ段設定工程P05に移る。
第1仮想変速時有段ギヤ段設定工程P04においては、設定可能ATギヤ段選択工程P02で選択された複数の前記設定可能ATギヤ段のうち最も低速側のATギヤ段が、仮想ギヤ段選択工程P01で選択された前記被設定仮想ギヤ段に対応する前記仮想変速時有段ギヤ段として設定される。例えば、前記被設定仮想ギヤ段が第7速である場合には、上記設定可能ATギヤ段としては第2速〜第4速のATギヤ段が選択されるので、それらの中で最も低速側の第2速のATギヤ段が、第7速の仮想ギヤ段に対応する前記仮想変速時有段ギヤ段として設定される。なお、上記のように、複数の設定可能ATギヤ段のうち最も低速側のATギヤ段が前記仮想変速時有段ギヤ段として設定されるのが好ましいが、その設定可能ATギヤ段のうち、その最も低速側のATギヤ段以外のATギヤ段が上記仮想変速時有段ギヤ段として設定されても差し支えない。
第2仮想変速時有段ギヤ段設定工程P05においては、設定可能ATギヤ段選択工程P02で選択された前記設定可能ATギヤ段は1つであるので、その設定可能ATギヤ段が、仮想ギヤ段選択工程P01で選択された前記被設定仮想ギヤ段に対応する前記仮想変速時有段ギヤ段として設定される。
以上のような図14のフローチャートは、前記マニュアルシフトモードにおける全ての仮想ギヤ段(1st〜8th)の各々に対してその仮想ギヤ段を前記被設定仮想ギヤ段として実施される。その結果、図9に示すギヤ段マップが完成する。
本実施例によれば、図14のフローチャートの設定可能ATギヤ段選択工程P02において、前記被設定仮想ギヤ段に対応するエンジン回転速度制御下限値NLeが前記車速許容範囲の全体にわたって前記エンジン作動許容領域内に入るATギヤ段が、前記設定可能ATギヤ段として選択され、更に、第1仮想変速時有段ギヤ段設定工程P04または第2仮想変速時有段ギヤ段設定工程P05で、その設定可能ATギヤ段が上記被設定仮想ギヤ段に対応する前記仮想変速時有段ギヤ段として設定される。すなわち、仮想ギヤ段毎に車速Vに応じて予め設定されたエンジン回転速度制御下限値NLeが前記車速許容範囲の全体にわたって前記エンジン作動許容領域内に入るように、全ての仮想ギヤ段の各々に対応する前記仮想変速時有段ギヤ段がそれぞれ設定される。従って、前記マニュアルシフトモードではアクセル開度Accが零であればエンジン回転速度Neは車速Vに応じたエンジン回転速度制御下限値NLeに維持されるところ、例えば下り坂などで車速Vが上昇してもアクセル開度Accが零である場合にはエンジン回転速度Neが前記エンジン作動許容領域から外れることはないので、少なくともアクセル開度Accが零である限り、エンジン回転速度Neが前記エンジン作動許容領域から外れることを防止するために自動変速部20を変速させる必要性が無くなる。すなわち、前記マニュアルシフトモードにおいて、運転者が意図しない自動変速部20の変速が発生する可能性を低くすることが可能であり、その結果として、運転者が上記自動変速部20の変速により違和感を覚える可能性を低減し、上記自動変速部20の変速に起因した変速ショックが発生する可能性を低減できる。
例えば、前記マニュアルシフトモードでアクセル開度Accが零とされて車速Vが上昇したときに自動変速部20が変速される例としては、図15に示すような前記エンジン作動許容領域におけるエンジン回転速度Neの領域上限値とエンジン回転速度制御下限値NLeとの関係が考えられる。図15では、エンジン回転速度Neは、エンジン回転速度制御下限値NLeを示す実線NLE07に沿って車速Vの上昇に従って上昇していき、交点PTXが示す車速Vよりも高車速側ではエンジン回転速度Neは上記領域上限値を超えることになるので、それを回避するため、交点PTXが示すエンジン回転速度Neに達した時又はそれよりも僅かに低い回転速度に達した時に、自動変速部20のダウンシフトが実行される。本実施例では、このような自動変速部20のダウンシフトが運転者の変速意思とは無関係に発生する可能性を低減できる。
また、本実施例によれば、前記エンジン作動許容領域におけるエンジン回転速度Neの領域上限値は、同一車速で比較すればATギヤ段が低速側であるほど高く設定されている。また、前記仮想ギヤ段の各々において、複数のATギヤ段を前記仮想変速時有段ギヤ段として設定可能な場合には、その複数の設定可能なATギヤ段(設定可能ATギヤ段)のうち最も低速側のATギヤ段が前記仮想変速時有段ギヤ段として設定される。従って、前記仮想変速時有段ギヤ段は、エンジン回転速度Neがエンジン回転速度制御下限値NLeから上昇して前記エンジン作動許容領域から外れるまでの余裕が最も大きくなるように設定されるので、上記設定可能ATギヤ段に含まれる他のATギヤ段を上記仮想変速時有段ギヤ段として設定する場合と比較して、前記マニュアルシフトモードにおいて、運転者が意図しない自動変速部20の変速が発生する可能性を低くすることが可能である。
また、本実施例によれば、前記エンジン作動許容領域は、エンジン8と連動して回転するエンジン回転連動部材の回転速度が所定の許容回転速度範囲から外れないようにエンジン8の作動状態を制限するために設定されている。従って、エンジン8の回転速度Ne等の作動状態を上記エンジン作動許容領域によって制限することにより、上記エンジン回転連動部材の回転速度を上記許容回転速度範囲内に維持することができ、例えば、第1電動機M1等である上記エンジン回転連動部材の耐久性等を損なわないようにすることが可能である。
また、本実施例によれば、前記マニュアルシフトモードでは、図14のフローチャートに示す自動変速部20の変速段設定方法により前記仮想変速時有段ギヤ段が複数の仮想ギヤ段(1st〜8th)のそれぞれに対応して予め設定された関係から、すなわち、図9のギヤ段マップから、前記仮想変速時有段ギヤ段が、運転者により上記複数の仮想ギヤ段(1st〜8th)の中から選択された仮想ギヤ段に基づいて決定される。そして、自動変速部20がその決定された仮想変速時有段ギヤ段に変速される。従って、前記マニュアルシフトモードにおいて、運転者が意図しない自動変速部20の変速が発生する可能性を低くすることが可能な電子制御装置80を提供できる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
例えば、前述の実施例において、エンジン作動許容領域は、前記エンジン回転連動部材の回転速度が所定の許容回転速度範囲から外れないようにエンジン8の作動状態を制限するために設定されているが、他の目的でエンジン8の作動状態を制限するために設定されていても差し支えない。
また、前述の実施例において、図9のギヤ段マップが予め設定されているが、そのギヤ段マップは、マニュアルシフトモードが成立させられる前に設定されていれば、いつの時点で設定されても構わない。
また、前述の実施例では、第2電動機M2は、伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪34までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。また、動力伝達装置10が第2電動機M2を備えていない構成も考え得る。
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、たとえばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されていてもよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
また、前述の実施例において、エンジン8側から順に、差動部11、自動変速部20と直列に連結されているが、その差動部11および自動変速部20の連結順序は逆であっても差し支えない。要するに、差動部11および自動変速部20の配設順序は特に限定されない。
また、前述の実施例において、差動部11と自動変速部20とが直列接続されたような構成となっているが、特にこのような構成に限定されず、例えば、動力伝達装置10全体として電気式差動を行う機能と、動力伝達装置10全体として電気式差動による変速とは異なる原理で有段変速を行う機能とを備えた構成であって、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していない構成であっても差し支えない。
また、前述の実施例のシフト操作装置50は、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えているが、そのシフトレバー52に替えて、たとえば押しボタン式のスイッチやスライド式スイッチ等の複数種類のシフトポジションPSHを選択可能なスイッチ、或いは手動操作に因らず運転者の音声に反応して複数種類のシフトポジションPSHを切り換えられる装置や足の操作により複数種類のシフトポジションPSHが切り換えられる装置等であってもよい。
また前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とは別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。