JP5433710B2 - アクロレインの合成方法 - Google Patents
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Description
本発明は超臨界水を用いた有機物の合成方法であり、さらに詳しくはプロトン存在下においてグリセリンから1,3-プロパンジオールの原料であるアクロレインを合成する方法に関する。
1,3-プロパンジオール(1,3-PDO)はポリトリメチレンテレフタレート(PTT)をはじめとする高品質なポリエステル繊維の原料であるため、近年需要が増加している。1,3-プロパンジオールの合成方法の一つに非特許文献1に示すアクロレイン水和・水素添加法がある。これは、石油原料であるプロピレンを触媒存在下で空気酸化して得られたアクロレインを水和・水素添加反応させて製造するもので、工業的製造方法として確立している。しかしながら、近年の原油価格の高騰から、バイオ原料からの合成方法の開発が望まれている。
バイオ原料から1,3-プロパンジオールを化学合成により合成する方法は報告されていないが、前駆体であるアクロレインを合成する技術は存在し、その一つとして非特許文献2に記載されている。この方法は、バイオ原料であるグリセリンを出発物質として、アクロレインを400℃、35MPaの超臨界水を用いて合成する方法であり、超臨界水に微量添加した硫酸によるプロトンが、超臨界水中においてグリセリンの脱水反応を引き起こす活性な水素イオンの生成量を増大させる効果を持ち、反応進行を加速させる助触媒として機能する点に特徴がある。しかしながら、非特許文献2では、原料中のグリセリン濃度が1%前後と極めて低い一方、超臨界水の製造に伴う水の昇温・昇圧に多くのエネルギーが消費されるため、商用生産に向けてはエネルギーの利用効率が極めて悪い課題があった。
これに対して、非特許文献3では、反応時間および助触媒である硫酸濃度の最適条件を導出し、グリセリン濃度を15重量%まで増大した条件で反応実験を実施し、70%を超える反応収率を達成した。これにより、エネルギー効率は改善されるが、市場競争力のあるプロセスを構築するためには、さらにグリセリン濃度を限界まで増大させることによるランニングコストの低減が必要である。また、その一方、グリセリンの高濃度に伴い、タールや炭素粒子等の反応副生成物の発生量が増大する。これにより副生成物がバルブ弁体・弁座へ固着し、これにより弁体・弁座の磨耗等、弁体の稼動範囲が制限されることにより精密な圧力制御が困難になること可能性がある。さらに運転を継続すると、配管、バルブ、フィルタ等の狭隘部で閉塞し、プラントの運転が困難になる可能性がある。これは炭素粒子が、タールの付着性により凝集・成長するためである。非特許文献3では、そのような課題に対して検討がなされていない。
また、特許文献1は、(a)水性グリセリン相をアクロレイン反応領域に供給して少なくとも一部が超臨界領域にある水性アクロレイン反応相を得る工程と、(b)前記アクロレイン反応相からアクロレインを除去して、アクロレイン相と濃度低減後アクロレイン反応相を得る工程と、(c)前記濃度低減後アクロレイン反応相の少なくとも一部を前記アクロレイン反応領域に再供給する工程と、を少なくとも含むアクロレインの製造方法に関するものであり、アクロレイン反応領域が水以外に脱水触媒を含むことが好ましいこと、脱水触媒として、酸性を有する超臨界領域近く又は領域内では強酸としても作用する水以外の化合物であること、また、グリセリン相として、グリセリン相の総重量に対して10重量%未満、特に好ましくは8重量%未満、最も好ましくは6重量%未満のグリセリンを含み、グリセリン相内のグリセリンの最小量が、好ましくは0.01重量%、特に好ましくは0.1重量%、最も好ましくは1重量%であること等を、開示している。しかしながら、本文献にあるグリセリン濃度10重量%未満というのは、エネルギーの利用効率が必ずしも十分ではない値であり、さらにタールや炭素粒子の対策も未検討であるため、商用化は困難である。
特許文献2は、アクロレイン類を合成する方法において、高温高圧状態の超臨界流体又は亜臨界流体を反応溶媒として使用し、無触媒又は微量の触媒条件下、グリセリン類から一段階の合成反応でアクロレイン類を選択的に合成することを特徴とするアクロレイン類の製造方法に関するものであり、高温高圧状態の超臨界流体又は亜臨界流体を反応溶媒として使用すること、超臨界流体又は亜臨界流体として、超臨界又は亜臨界状態の水を用いること、微量触媒として無機酸を用いること、グリセリン類水溶液に微量触媒を添加した水溶液を原料として、反応を実施すること等を、開示している。しかしながら、本文献にある温度350℃以下、かつ圧力22MPa以下の無触媒条件下では、グリセリンに作用するべき活性な水素イオン(触媒作用を有する)の生成量が小さく、反応が極めて遅くなる。このため、副反応である熱分解により反応物のタール化、炭素粒子化の影響が大きくなり、原料収率の低下や配管閉塞等の課題が発生する。また、それに対する対策も検討されていない。
特許文献3は、グリセリン水溶液を揮発させ、固体触媒を用いた気相での脱水反応を利用することによりアクロレイン又はアクロレイン水溶液を製造するのに好適なアクロレイン製造用触媒及びそれを用いたアクロレイン製造方法に関するものであり、原料のグリセリンは、0〜95重量%の水等の不活性凝縮性物質を含んでもよく、反応に関与しない溶媒などが存在してもよいこと、原料のグリセリンの濃度は、5〜100重量%であることが好ましいことが記載されている。しかしながら、本方式では、タール、炭素粒子等の副生成物が発生し触媒界面を覆うと反応性が著しく低下する。このため、頻繁な触媒再生処理が必要となりプラント運転が複雑になる上、通常加熱処理である再生操作に伴い担持された貴金属粒子の凝集現象等に伴う触媒性能の低下が解決困難な課題となる。
1,3-PDO、PTTの製造 用途および経済性 (株)シーエムシープラネット事業部 2000年8月
Acrolein synthesis from glycerol in hot-compressed water., Bioresource Technology 98 (2007) 1285-1290
超臨界水を用いた高濃度グリセリンからのアクロレイン合成における反応収率向上、化学工学会第74年会(2009) J108
本発明の目的は、グリセリンに超臨界水と酸を作用させてアクロレインを合成する方法において、反応液中のグリセリンを高濃度化してエネルギー効率を改善した条件化で、副生成物の発生に伴う配管・機器の閉塞、磨耗を抑制し、高収率で安定に合成を進めることが可能な技術を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明の実施形態では、反応液中のグリセリン濃度が30重量%以下であるとともに、反応が停止する温度(300℃以下)であり、かつ反応液中に含まれるタールの粘度が十分低下した状態を維持できる温度(200℃以上)まで反応液を冷却した後、反応液から炭素粒子を分離除去し、次に反応液を水の沸点以下でありかつ反応液中のタール分が機器に固着しない温度まで冷却した後に減圧することを特徴としている。
本発明の効果を高めるための他の実施形態は、上記の合成方法において、反応液中のプロトン濃度[H+](重量%)がグリセリン濃度[G](mM)により[式1]で表される範囲であることを特徴としている。
本発明の効果を高めるための他の実施形態は、上記の合成方法において、グリセリンの濃度が15重量%以上であることを特徴としている。
本発明によれば、第1の冷却温度が、反応が停止する温度であるため、反応時間を精密に制御でき、副生成物の発生量を低減できる。さらに、第1の冷却温度が、反応液中のタール成分が低粘度を維持できる温度であるため、副生成物中の炭素粒子のみを適切な孔径のフィルタで効率的に分離して、タールのみを通過することができる。これによりタールの接着性に起因する炭素粒子の凝集・成長・フィルタへの強い付着を防止できるため、配管閉塞を防止することができるとともに、後段の減圧弁が炭素粒子により磨耗することを防止できる。
本発明の実施形態では、反応液中のグリセリン濃度を30重量%以下としている。これは図1の超臨界水を用いたグリセリンの脱水反応経路に示されている。30重量%以下であれば、グリセリンとクラスターを構成する配位水、及び超臨界状態において活性な水素イオンを発生させるための作用水の数(モル比)が充足し、適正な主反応が支配的に進行し(グリセリンの2級の水酸基にプロトンが付加して2回の脱水反応が進行)、目的物質であるアクロレインが合成されやすくなるので、反応収率が向上することができる。その一方、30重量%以上のグリセリン濃度であれば相対的に水の割合が低下し、徐々に配位水及び作用水が不足することになる。その場合、活性な水素イオンがグリセリン分子に作用する場所に変化が生じ(1級の水酸基での脱水反応が支配的になる)、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等、目標物質以外の物質が生成することで原料収率がかえって低下する(図8)。このことが、上記のグリセリン濃度を上限値と定めている理由である。
また、超臨界水とグリセリンを所定の温度(350〜450℃)、圧力(30〜40MPa)にて所定の時間(0.1〜10s)だけ反応させた後、反応液を冷却するが、その際の冷却温度として、主反応及びタールや炭素粒子を発生させる副反応(熱分解)を十分停止させることができる温度(300℃、望ましくは260℃)以下にする。これについては、図5に温度と副反応の反応速度定数の相関を示す。反応温度が50℃低下するごとに反応速度定数がおおよそ1桁低下するので、例えば反応温度400℃の場合には冷却温度を300℃以下とすることで副反応を2桁以上低減できることになる。さらに、その一方で、反応液中に含まれるタールの粘度が十分低下した状態を維持できる温度(200℃、望ましくは240℃)以下には冷却温度を低くしてはならない。これについても、図6に示すように、温度の低下に伴いタールの粘度が急激に上昇することに起因する。タールの粘度については水の粘度を考慮すると、10−2〜10−3Pa・sの範囲あるいはそれ以下に低減することが望ましい。
従って、反応後の冷却は200〜300℃、望ましくはその中央値の領域である240〜260℃となる。反応時間の短さを考えると、反応液の冷却は瞬時に行われる必要があり、冷却の方法としては反応管外部の冷却水ジャケットによる間接的なものでもよいが、直接冷却水を反応液と混和させる方式が望ましい。そして、反応液の冷却(第一の冷却)の後段にフィルタを設置し固形物を除去する。なお、上記の温度範囲は、配管閉塞が主に炭素粒子表面に存在するタール分が凝集効果を生み、大きな付着性の粒子を生成することに起因する。タールの粘度が低い状態に保たれれば、フィルタにて炭素粒子がトラップされる一方でタールはフィルタの後段に流れるので、上記の凝集効果により大きく付着性の強い粒子が生成することを抑制できる。
フィルタシステムについては、プラントの連続運転を妨げないよう、逆洗装置を設けたフィルタを複数段を並列設置し、これを切り替えながら運転できるものが望ましい(図2)。第一の冷却、及び反応液からの炭素粒子の分離除去の後、反応液を水の沸点以下でありかつ反応液中のタール分がフィルタより後段の減圧弁等の機器に固着しない温度まで冷却する(第二の冷却)。冷却温度は50〜200℃、望ましくは50〜100℃である。100℃以下とする場合、減圧弁の後段での急激な沸騰を回避でき、より望ましい。その後に減圧を行い、必要に応じてさらに反応液を冷却する。
本発明の効果を高めるための他の実施形態は、上記の合成方法において、酸(助触媒)添加に起因する反応液中のプロトン濃度[H+](重量%)がグリセリン濃度[G](mM)により[式1]で表される範囲であることを特徴としている。
なお、[式1]は、発明者が、グリセリン濃度及び酸濃度とその際の最大反応収率の相関を調べるために行った、実験の結果(図3)から得られたもので、あるグリセリン濃度条件にて得られる原料収率は、[H+]2/[G]が[式1]で表される範囲の中の酸濃度に調整することで、別のグリセリン濃度でも同様の最大反応収率が得られることを示す。
本発明の効果を高めるための他の実施形態は、上記の合成方法において、反応時間tが反応液中のグリセリン濃度[G](mM)により[式2]で表される範囲であることを特徴としている。
なお、[式2]は、発明者が最大の反応収率が得られる適切な反応時間とグリセリン濃度の相関を調べるために行った実験の結果(図4)から得られたもので、グリセリン濃度条件が決まれば、[式2]で表される範囲に含まれる反応時間により原料収率が最大となることを示す。
本発明の効果を高めるための他の実施形態は、上記の合成方法において、固体成分を分離除去するフィルタの孔径が40μm以下であることを特徴としている。これは図7に示すように、超臨界水とグリセリンの反応で発生する炭素粒子の粒径分布は分析の結果、主要な部分がほぼ40μm〜2mmの範囲に規定できるためである。ただし、フィルタの孔径を小さくしすぎると差圧上昇が著しくなるため、孔径は少なくとも図7の粒径分布が確認されていない4μm以上とすることが望ましい。
本発明の効果を高めるための他の実施形態は、上記の合成方法において、グリセリンの濃度が15重量%以上であることを特徴としている。これは、超臨界水を製造することにかかるコストを考慮すると、エネルギーの利用効率がグリセリン濃度15重量%以上に相当する値でないと経済的にできないことに起因する。
以下、図面を参照して、原料と超臨界水を混合して反応を開始し、副生成物を分離除去した後、反応液を回収するまでの流れを説明する。
図2は、本発明のアクロレインの合成装置の1例である。まず、水を超臨界水高圧ポンプ(110)により35MPaで送液し、超臨界水プレヒータ(120)で500℃に昇温する。また、グリセリンと希硫酸からなる原料を原料高圧ポンプ(210)で35MPaにて送液し、原料プレヒーター(220)で250℃に昇温し、両者を合流点(230)で混合し、瞬時に400℃、35MPaにして、反応を開始する。ここで、本実施の形態では合流直後のグリセリン濃度は30重量%以下としているため、グリセリン分子の周囲には少なくとも8つ以上の水分子が配位することになる。これにより、図1に示すように、グリセリンの2級の水酸基にプロトンが付加して主反応が進行するため、高い反応収率を維持しつつグリセリンを高濃度化できるためアクロレインの合成コストを低減することができる。同時に、主反応が支配的になるため、副生成物の発生量を抑制でき、配管閉塞を防止することができる。
なお、このグリセリン濃度の上限値である30重量%は、以下のようにして算出される。すなわち、分子量92のグリセリン分子には水酸基が3つあり、6つの水分子がこれらに配位結合してグリセリン分子を中心としたクラスターを形成すると予想される。したがって、反応には6つの配位水以外に、超臨界条件により反応活性を発現する水分子が2つ以上の必要である。これは、アクロレインが、プロトンを触媒とした2回の脱水反応により生じるためである。このことから、水とグリセリンのモル比Mが(6+2)/1=8以下になると超臨界水反応の効果が低下し、収率が予想と比べて低下する可能性があると考える。今、初期グリセリン濃度を[G] (重量%)とすると、グリセリンと水のモル濃度(mol/m3)はそれぞれ([G]/100)×1000/92、100-[G])/100×1000/18となるので、両者のモル比Mは次の式で表される。
(17)式にM=8を代入すると[G]0=38重量%となる。このことから、超臨界水が反応に100%有効に寄与した場合、主反応が支配的に進行するグリセリン濃度の上限値は38重量%となるが、実際は、有効に利用されない水が存在するため、グリセリン濃度は30重量%以下にする必要があると考えられる。
なお、石油原料からアクロレインを合成するプロセスに対してコスト競争力を持たせるためには、グリセリン濃度を15重量%以上にすることが望ましい。
また、反応液中のプロトン濃度は、[式2]の範囲にしているため、反応収率を向上することが可能である。反応収率を向上することは、副生成物の発生量低減につながるため、配管閉塞や機器の磨耗の防止にも極めて有効である。図4に発明者らが実施したグリセリン濃度と硫酸濃度をパラメータとした反応実験で得られた最大反応収率を[H+]2/[G]で整理した結果を示す。[H+]2/[G]が小さい条件、すなわちプロトンが不足している条件では反応収率が低いが、プロトンが十分に多い条件では70%以上の反応収率が得られていることが分かる。
次に、最適な反応時間が経過後に反応を停止するために、図2の冷却水高圧ポンプ(410)から用いて合流地点(420)に冷却水を送液し、冷却水の直接混合により反応を停止する。図6に反応速度の温度依存性を示す。反応を停止するためには、反応速度を2桁程度低下させる必要があるため、冷却水の直接混合により反応液温度を400℃から300℃以下に低下させる必要がある。なお、本反応の最適反応時間は秒オーダーであり、実機では反応配管の内径が10cm程度と太くなるため、二重管冷却器による間接冷却に比較して、冷却水の直接混合方式は反応時間の制御性が向上する。このため、
副生成物の発生量低減に極めて効果的である。
副生成物の発生量低減に極めて効果的である。
反応を停止した反応液は後段のフィルタ(520a、520b)でタールと炭素粒子を分離して、炭素粒子のみをフィルタで捕捉し、タールは高粘度を保ったまま通過させることにより、タールと炭素粒子の凝集による配管閉塞を防止する。図7に35MPaおけるタールの粘度の温度依存性を示す。この際、タールの粘度を0.1Pa・s以下にするとフィルタでタールによる目詰まりを起こすため、反応停止温度は100℃以上にする必要がある。以上の結果から、冷却水混合後の反応液温度は100℃〜300℃、望ましくは250℃にする必要がある。反応液を冷却後にろ過して不純物を除去する方法は、フィルタの腐食速度低減にも極めて有効である。図8に発明者らが実施した炭素粒子の粒径分布を示す。炭素粒子は40μmから2mmの範囲で分布しているため、フィルタの孔径は40μm以下にすることで、炭素粒子の分離除去性能を向上することができる。
なお、炭素粒子の分離除去フィルタは2系統以上用意することで、逆洗による炭素粒子ケーキの排出作業を交互に行うことができる。これにより、プラント全体を停止する必要がなくなるので連続運転性が向上し、プラントの起動に伴う熱損失を低減でき、運転コストを低減することが可能である。
炭素粒子を除去した反応液は第二の冷却器(620)で60〜100℃に冷却した後に、オリフィス(630)および圧力調節弁(640)により大気圧に降圧し、後段のアクロレインの蒸留装置に送液される。ここで、反応液を60〜100℃に冷却する理由は、二つある。一つは、圧力が大気圧に開放された際の水の体積膨張を防止し、プロセスの安定性、安全性を確保するためである。もう一つは、アクロレインの蒸留温度が60〜100℃であるため、蒸留工程の加熱効率を向上して運転コストを低減するためである。また、圧力調整は圧力調節弁(640)のみで行って問題ないが、弁体への負荷を軽減する目的で、オリフィス(630)を併用することが望ましい。
本実施の形態によれば、第1の冷却温度は、反応が停止する温度であるため、反応時間を精密に制御でき、副生成物の発生量を低減できる。さらに、第1の冷却温度が、反応液中のタール成分が低粘度を維持できる温度であるため、副生成物中の炭素粒子のみを適切な孔径のフィルタで効率的に分離して、タールのみを通過させることができる。これによりタールの接着性に起因する炭素粒子の凝集・成長・フィルタへの強い付着を防止できるため、配管閉塞を防止することができるとともに、後段の減圧弁が炭素粒子により磨耗することを防止できる。また、炭素粒子の捕捉を行いつつフィルタの差圧上昇速度を最低限に抑制できるので、フィルタの逆洗頻度が少なくなり、プラントの安定的な運転に資することができる。その際、[式1]、[式2]を用いて、適切なグリセリン濃度、酸濃度、反応時間でのプラント運転を実現することができるので、反応収率とエネルギー利用効率が高く工業的に実施可能なプラント運転が可能となる。
また、第2の冷却温度をタール分が機器に固着しない温度に冷却した後に減圧しているので、減圧弁での閉塞が防止できる。さらに第2の冷却温度が水の沸点以下の場合には、減圧後の水の体積膨張を防止することができ、プラントの安定運転が可能になる。その際、副生成物の発生量を低減できるので、配管での閉塞防止およびバルブの磨耗を抑制することができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
ケースA-1〜A-5は硫酸濃度を6mMに固定してグリセリン濃度をパラメータとした反応実験を行った。また、ケースB-1〜B-5は[式1]および[式2]に基づき、グリセリン濃度に応じて硫酸濃度と反応時間を最適化して反応実験を行った。その実験で得られた反応収率を図8に示す。試験条件を最適化していないケースAでは、グリセリン濃度が1.5重量%と低いケー図A-1を除いて反応収率が低い。一方、反応時間、硫酸濃度を最適化したケースBでは、グリセリン濃度が30重量%を超えるケースB-5を除いて、70%を越える高い反応収率が得られた。これは、グリセリン分子周囲の超臨界水の配位数に応じて反応経路が変化する結果と一致する。
以上の結果から、グリセリン濃度30重量%以下において反応時間と硫酸濃度を[式1]、[式2]に基づき最適化することで反応収率を向上できることを確認し、エネルギー利用効率と原料収率が高いプロセスを実現できた。
ろ過温度は10℃、200℃、250℃とし、フィルタ孔径は15μm、40μm、60μmとした。この試験においてフィルタ差圧が耐圧である6MPaに到達するまでの運転時間を図9に示す。フィルタ孔径60μmのケースでは、フィルタ差圧が耐圧に到達するまえに減圧弁で閉塞が生じたため、グラフにデータを記載していない。一方、フィルタ孔径が15、40μmのケースでは減圧弁で閉塞せず、安定して反応実験を行うことができた。また、フィルタ孔径を15μmから40μmにすることにより、フィルタ差圧が耐圧に到達する時間を3倍延長することができた。またろ過温度を200℃から250℃にすることで、連続運転時間を1桁向上できた。これはフィルタ温度が高いほどタール粘度が低下し、フィルタを通過しやすくなるため、炭素粒子中のタール含有量は低下すると予想する。タール含有量が低下すると、炭素粒子間を結びつける力が弱くなるので、フィルタの炭素粒子蓄積層が疎になり、フィルタ差圧上昇が著しく遅延される。図10にケーキ組成のろ過温度依存性を示すが、実際に、10℃で除去した炭素粒子のタール含有率は90重量%であるのに対し、200℃では70重量%、250℃では10重量%となっており、上記の仮説を裏付ける。このことから、超臨界水反応に伴い発生するタールや炭素粒子等の副生成物を分離して除去しつつ、長時間の安定運転を実現するプロセスが実現できた。
図11に、本発明の実施例1、2に記載される超臨界水反応プロセスを利用してグリセリンからアクロレインを合成し、さらにこれを水和反応、及び水素添加反応させることで1,3−プロパンジオールに変換すると共に、これとテレフタル酸を縮重合することで、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)を得るためのプロセスを示す。原料のグリセリンに有機酸(バイオディーゼル燃料の原料である油脂の加水分解物等)や金属塩(バイオディーゼル燃料製造のためのアルカリ触媒やその反応物)などの不純物が含まれている場合、これらは事前に分離・ろ過、イオン交換、蒸留などの方法により除去されているのが望ましい。これは、有機酸の存在が原料収率の低下の原因となること、塩類は常温常圧の水に可溶であっても、誘電率の小さい超臨界水中では析出し、配管付着等の可能性があるためである。もちろん、グリセリンの純度が高い場合には本工程を省略することができる。
精製されたグリセリンは本発明の実施例1、2に記載される超臨界水反応プロセスによりアクロレインに転換された。その際の原料収率は70.8%であった。アクロレインを含む反応液は、蒸留等により精製された後、強酸性陽イオン交換樹脂等の触媒存在下で水和反応させて3-ヒドロキシプロピオンアルデヒド(3-HPA)を得た後、さらに貴金属触媒存在下で水素添加反応させる。その際、非特許文献1を参考に、水和反応の条件として温度50℃、常圧、LHSV値0.5/h、また水素添加反応の条件として温度60℃、圧力15MPa、LHSV値1/hを選定した。その際の各工程における収率は水和反応が75%、水素添加反応が95%であったので、ここまでのトータルでの原料収率は50%程度であった。これを蒸留精製して1,3−プロパンジオールが得られた。
得られた1,3−プロパンジオールとテレフタル酸をチタンテトラブトキシド等の触媒共存下にて、エステル化反応、続いてエステル交換反応させることでPTTを重合した。その際、エステル化反応の条件として温度210℃、圧力1気圧、時間3h、1,3−プロパンジオールとテレフタル酸のモル比2.0、エステル交換反応の条件として、温度270℃、圧力1torr、時間4hを用いた。その結果、平均分子量2万、b値3のPTTが得られた。なお、本実施例はPTTを得るためのものであったが、化粧品等の添加物として1,3−プロパンジオールを得る場合には、エステル化反応以降の工程を省略することで対応可能である。また、アクロレイン及びその誘導体(アクリル酸等)を得る場合には、水和反応以降の工程を省略することで対応可能である。
100 … 水ヘッダー
110 … 超臨界水高圧ポンプ
120 … 超臨界水プレヒータ
200 … 原料ヘッダー
210 … 原料高圧ポンプ
220 … 原料プレヒータ
230 … 超臨界水と原料の合流点
310 … 反応管ヒータ
400 … 冷却水ヘッダー
410 … 冷却水高圧ポンプ
420 … 反応液と冷却水の合流点
500 … 逆洗流体ヘッダー
510 … ドレン
520 … フィルタ
521 … フィルタの反応液入口バルブ
522 … フィルタの反応液出口バルブ
523 … フィルタの逆洗流体入口バルブ
524 … フィルタのドレンバルブ
620 … 冷却器
630 … オリフィス
640 … 圧力調節弁
650 … 反応液出口
a … a系統
b … b系統
110 … 超臨界水高圧ポンプ
120 … 超臨界水プレヒータ
200 … 原料ヘッダー
210 … 原料高圧ポンプ
220 … 原料プレヒータ
230 … 超臨界水と原料の合流点
310 … 反応管ヒータ
400 … 冷却水ヘッダー
410 … 冷却水高圧ポンプ
420 … 反応液と冷却水の合流点
500 … 逆洗流体ヘッダー
510 … ドレン
520 … フィルタ
521 … フィルタの反応液入口バルブ
522 … フィルタの反応液出口バルブ
523 … フィルタの逆洗流体入口バルブ
524 … フィルタのドレンバルブ
620 … 冷却器
630 … オリフィス
640 … 圧力調節弁
650 … 反応液出口
a … a系統
b … b系統
Claims (5)
- グリセリンに超臨界水と酸を作用させてアクロレインを合成する方法において、反応液中のグリセリン濃度が30重量%以下であるとともに、反応液を第一の冷却にて200〜300℃に冷却した後、反応液中に含まれる固体成分を分離除去し、次に第二の冷却にて反応液を50〜100℃に冷却した後、減圧することを特徴とする合成方法。
- 請求項1記載の合成方法において、固体成分を分離除去するフィルタの孔径が40μm以下であることを特徴とする合成方法。
- 請求項1記載の合成方法において、グリセリン濃度が15重量%以上であることを特徴とする合成方法。
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