JP5431699B2 - 二次電池電極用バインダー、それを用いてなる電極及び二次電池 - Google Patents
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Description
リチウムイオン電池の電極は、活物質と、必要に応じて主に炭素材料からなる導電材とが、バインダーを用いてアルミニウム箔や銅箔などの金属集電体上に層形成されたものである。正極用活物質としては、コバルト酸リチウムなどの遷移金属を含むリチウム複合酸化物などが用いられ、負極用活物質としては、炭素材料などが用いられる。通常、このようなリチウムイオン電池の電極は、活物質に導電材およびバインダーを添加し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶媒の存在下で混練・調製した電極ペーストを、金属集電体上にドクターブレードなどによりに塗布し、乾燥することによって得られる。ここでバインダーは、活物質と導電材、さらにこれらと金属集電体とを接着するために用いられる。
また、リチウムイオン電池の電解液には、エチレンカーボネートやジエチルカーボネートのような非水溶媒が用いられ、通常、支持電解塩が添加される。
リチウムイオン電池は上記のような構成であるため、電極形成のためのバインダーには、(1)活物質間、および必要に応じて添加する導電材の接着性に優れること、(2)活物質、導電材と金属集電体との接着性に優れること、(3)電解液に対する耐食性、耐膨潤性に優れること、(4)電池内で電圧を受ける過酷な環境下で安定であること、(5)電極とした際に内部抵抗が小さく高い導電性を維持できることなどが要求される。
しかしながら、PVDFなどのフッ素系樹脂は、活物質と導電材および集電体との接着性が劣るために、電池製造工程時や電池の充放電の繰り返しによって活物質層が剥離し、電池性能の低下を招くという問題があり、電極として実用に耐えうるだけの接着性を得るためにはバインダーの含有量を多くする必要があった。また、絶縁物質であるバインダーの含有量が増加するために電池特性の向上に限界を生じていた。
また、PVDFは電解液に対する耐膨潤性に劣るため、バインダーが電解液中で膨潤し、活物質と導電材の間や集電体との接触抵抗が増大したり、活物質層が剥離したりすることがあり、電池特性や安全上の問題となっていた。
さらに、PVDFを溶解させる溶媒として用いられているNMPは、電極ペーストを集電体上に塗布・乾燥する際に蒸発するため、これを安全に回収する必要がある。また昨今の環境関連の法規制によって、加工場によっては環境に影響を及ぼす可能性のある有機溶媒を使用できないところも多くなっている。
すなわち、特許文献1には、界面活性剤を含まない自己乳化性ポリオレフィンエマルジョンを電極用バインダーとして使用する方法が開示されている。ここで開示されている自己乳化性ポリオレフィンエマルジョンは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン骨格にカルボキシル基を導入し、アンモニア、アルカノールアミン、苛性ソーダ等のアルカリで水溶化すると共に高度分散してエマルジョン化した水溶液である。しかし、カルボキシル基の導入量や導入方法についての具体的な記載はなく、実施例で使用されているエチレン/アクリル酸共重合体は、カルボキシル基の導入量が多いため大きな酸価を示し、ポリエチレンそのものの特性が損なわれているとみられる。また実施例によると、活物質100質量部に対して、ポリオレフィン樹脂の添加量は10質量部であり、バインダーをそれ以上に減らすことは困難であるとみられる。
しかしながら、バインダーを固体として用いる方法では、バインダー樹脂と活物質との混合が不十分であり、また混錬、押出しにより薄膜化することが困難である。また、バインダーを有機溶剤に溶解して用いる方法では、溶剤の回収が必要であり、環境への影響が懸念される。また溶液と活物質等を混合すると、溶液が活物質全体を均一に覆ってしまうため、接着に必要とするバインダーの量が多くなり、その結果、内部抵抗が上昇し電池性能が劣る。これらの方法に対し、乳化物としたバインダーは、電極用バインダーとして適していると考えられる。しかしながら、特許文献3では、乳化剤や分散剤はできるだけ少ないものが好ましいとしながらも、不揮発性の界面活性剤を水性化助剤として使用する方法のみが記載され、また、実施例には樹脂を混練した方法のみが開示されているだけであり、乳化物を用いた場合の特性などは明らかにされていない。
(1)ポリオレフィン樹脂(A)と、塩基性化合物(B)と、水性媒体とを含有する水性分散体であって、ポリオレフィン樹脂(A)が無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂であり、ポリオレフィン樹脂(A)の酸価が5〜70mgKOH/g、重量平均分子量が10,000〜100,000であることを特徴とする二次電池電極用バインダー。
(2)水性分散体が不揮発性水性分散化助剤を含有せず、水性分散体中でのポリオレフィン樹脂(A)の数平均粒子径が0.01〜1μmであることを特徴とする(1)記載の二次電池電極用バインダー。
(3)ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸成分(A1)をオレフィン成分(A2)の重合体にグラフトすることによって得られるものであることを特徴とする(1)または(2)記載の二次電池電極用バインダー。
(4)ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分(A1)が、無水マレイン酸であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の二次電池電極用バインダー。
(5)ポリオレフィン樹脂(A)におけるオレフィン成分(A2)が、プロピレンであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の二次電池電極用バインダー。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の二次電池電極用バインダーを用いて形成された二次電池電極。
(7)上記(6)記載の二次電池電極を用いて形成された二次電池。
本発明の二次電池電極用バインダーは、ポリオレフィン樹脂(A)と、塩基性化合物(B)と、水性媒体とを含有する水性分散体であり、前記ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸成分(A1)とオレフィン成分(A2)とを含有する。
グラフト法としては、公知の方法を採用することが可能であり、例えば、オレフィン成分(A2)の重合体と不飽和カルボン酸成分(A1)を、有機過酸化物などのラジカル発生剤の存在下で加熱混合し、反応させる方法などがある。また、オレフィン成分(A2)の重合体を熱分解などによって低分子量化してから、不飽和カルボン酸成分(A1)と反応させることも可能である。
塩基性化合物(B)としては、特に限定されず、具体例としては、アンモニア、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、n−ブチルアミン、2−メトキシエチルアミン、3−メトキシプロピルアミン、2,2−ジメトキシエチルア
ミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ピロール、ピリジン等を挙げることができる。
本発明において、不揮発性水性分散化助剤とは、水性分散化において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物を指す。不揮発性水性分散化助剤は、塗膜形成後にも残存し、塗膜を可塑化することにより、樹脂の特性、例えば耐水性等を悪化させる。不揮発性とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
また、ポリオレフィン樹脂(A)の体積平均粒子径は、バインダーの分散性、低抵抗性、保存安定性や低温造膜性の点から、2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。
数平均粒子径、体積平均粒子径の好ましい下限としては0.01μmである。粒子径が0.01μm未満のときには、水性分散体の固形分濃度を上げると粘度が高くなりゲル化する場合があり、導電材や活物質と混合した際に安定したペーストが得られなくなる場合がある。ポリオレフィン樹脂(A)の数平均粒子径および重量平均粒子径は、微粒物質の粒子径を測定するために一般的に使用されている動的光散乱法によって測定される。
正極用活物質としては、リチウムイオンを可逆的に放出、吸蔵でき、電子伝導度が高い材料が好ましく、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの遷移金属酸化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
負極用活物質としては、例えばグラファイトなどの炭素材が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
導電材としては、炭素材または金属もしくはその化合物を用いることができる。炭素材としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維等を挙げることができ、金属もしくはその化合物としては、ニッケル、コバルト、チタン、酸化コバルト、酸化チタン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
ペーストを集電体上に塗布する方法としては、例えばドクターブレードを用いる方法が挙げられ、水性媒体を除去する方法としては、例えば60〜150℃、好ましくは70〜130℃で5〜120分間乾燥し、さらに例えば120℃で12時間減圧乾燥する方法が挙げられる。塗布、乾燥後の電極の厚みは30〜150μmが好ましい。電極の厚みや密度を制御するために、例えばロールプレス機によってプレスすることが好ましい。
また、セパレーターに代えて固体電解質あるいはゲル電解質を用いてもよい。電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、イオン性液体、硫酸水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。電解質を溶解させる溶媒(電解液溶媒)も、一般的に電解液溶媒として用いられるものであれば特に限定されない。具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;スルホラン類;アセトニトリルなどのニトリル類;イオン性液体などが挙げられ、これらは単独または二種以上の混合溶媒として使用することができる。
なお、後述する各種の特性は、以下の方法によって測定または評価した。
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径を求めた。なお、樹脂の屈折率は1.50とした。
二次電池電極用バインダーの水性分散体をテフロン(登録商標)製の皿に入れた後、65℃で2時間乾燥し、さらに75℃減圧下で15時間乾燥した。固化した樹脂を約1.5g計り取り、正確な重量を測定したのち、電解液(四フッ化ホウ酸リチウムをエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶媒(質量比1/1)に1モル/リットルの濃度で溶解させたもの)に50℃雰囲気下で24時間浸漬した。その後、樹脂の表面に付着した電解液をキムワイプで拭き取り、電解液浸漬後の樹脂の重量を測定し、その増分を電解液膨張率とした。電解液膨潤性の評価は、電解液膨張率が10%以下のものを◎、10〜15%を○、15〜25%を△、25%以上を×とした。
銅箔上に形成した電極を幅2.5cm、長さ10cmにカットしたものを試験サンプルとし、銅箔側を十分な厚みを有する鋼板に両面テープで貼り合わせた。試験サンプルの活物質層にセロハンテープ(ニチバン社製、CT−18、18mm幅)を貼り付け、その一辺から180°の方向に50mm/分の速度で引き剥がしたときの応力を測定した。なお測定は各サンプル3回実施し、その平均値を剥離強度とした。
撹拌機とヒーターを備えた密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、ポリオレフィン樹脂(A)として、三洋化成社製ユーメックス1010(無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、酸価52mgKOH/g、重量平均分子量30,000)を120g、塩基性化合物(B)としてN,N−ジメチルエタノールアミンを12.6g、有機溶剤イソプロパノールを120g、蒸留水を347g仕込み、密閉した後、300rpmで撹拌翼しながら160℃(内温)まで加熱した。撹拌下、160℃で1時間保持した後、ヒーターの電源を切り室温まで撹拌下で自然冷却し、やや黄色で半透明の均一な分散体(固形分濃度20質量%)を得た。
前記分散体295g、蒸留水50gを1Lのナスフラスコに入れ、エバポレーターに設置し、60℃で減圧することにより水性媒体を留去した。約100gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、常圧に戻して室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、やや黄色で半透明の均一な水性分散体「E−1」(固形分濃度25質量%)からなる二次電池電極用バインダーを得た。水性分散体中のポリオレフィン樹脂(A)粒子の数平均粒子径は74nmであった。得られた二次電池電極用バインダーについて、これを構成する樹脂の電解液膨潤性を評価した結果を表1に示した。
撹拌機とヒーターを備えた密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、ポリオレフィン樹脂(A)として、三洋化成社製ユーメックス1001(無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、酸価26mgKOH/g、重量平均分子量40,000)を90g、塩基性化合物(B)としてN,N−ジメチルエタノールアミンを8g、有機溶剤テトラヒドロフランを240g、蒸留水を260g仕込み、密閉した後、300rpmで撹拌翼しながら130℃(内温)まで加熱した。撹拌下、130℃で1時間保持した後、ヒーターの電源を切り60℃まで自然冷却し、乳白色の均一な分散体(固形分濃度15質量%)を得た。
前記分散体290g、蒸留水40gを1Lのナスフラスコに入れ、エバポレーターに設置し、60℃で減圧することにより水性媒体を留去した。約160gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、常圧に戻して室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な水性分散体「E−2」(固形分濃度25質量%)からなる二次電池電極用バインダーを得た。水性分散体中のポリオレフィン樹脂(A)粒子の数平均粒子径は99nmであった。得られた二次電池電極用バインダーについて、これを構成する樹脂の電解液膨潤性を評価した結果を表1に示した。
活物質として黒鉛粉末(日本黒鉛工業社製、CGC−20)と、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)と、二次電池電極用バインダーとして実施例1で調製した水性分散体「E−1」と、カルボキシメチルセルロース(CMC)(第一工業製薬社製、セロゲンBSH−6)水溶液とを、それぞれの固形分の質量が表2に記載の質量部になるように配合し、十分に混練することにより二次電池電極用ペーストを調製した。
得られたペーストを厚さ18μmの銅箔の片面に、乾燥後の厚さが約50μmになるようフィルムアプリケーターを用いて塗布し、80℃で30分熱風乾燥させた後、さらに水分を除去するために120℃で12時間真空乾燥して、銅箔上に活物質層を形成して二次電池電極を調製した。得られた電極について剥離強度を測定した結果を表2に示した。
それぞれの固形分の質量が表2に記載の質量部になるように、二次電池電極用バインダーとして実施例1で調製した水性分散体「E−1」以外に、実施例2で調製した「E−2」を用いた以外は、実施例3と同様にして、二次電池電極用ペーストと二次電池電極を調製した。得られた電極について剥離強度を測定した結果を表3に示した。
Claims (7)
- ポリオレフィン樹脂(A)と、塩基性化合物(B)と、水性媒体とを含有する水性分散体であって、ポリオレフィン樹脂(A)が無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂であり、ポリオレフィン樹脂(A)の酸価が5〜70mgKOH/g、重量平均分子量が10,000〜100,000であることを特徴とする二次電池電極用バインダー。
- 水性分散体が不揮発性水性分散化助剤を含有せず、水性分散体中でのポリオレフィン樹脂(A)の数平均粒子径が0.01〜1μmであることを特徴とする請求項1記載の二次電池電極用バインダー。
- ポリオレフィン樹脂(A)が、不飽和カルボン酸成分(A1)をオレフィン成分(A2)の重合体にグラフトすることによって得られるものであることを特徴とする請求項1または2記載の二次電池電極用バインダー。
- ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分(A1)が、無水マレイン酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池電極用バインダー。
- ポリオレフィン樹脂(A)におけるオレフィン成分(A2)が、プロピレンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池電極用バインダー。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の二次電池電極用バインダーを用いて形成された二次電池電極。
- 請求項6記載の二次電池電極を用いて形成された二次電池。
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