JP5424958B2 - 二層構造紡績糸、織編物および織編物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、二層構造紡績糸に関する。特に織編物としたときに、吸湿発熱性、保温性に優れ、静電気の発生を防止でき、軽量性を有する二層構造紡績糸に関する。さらに、本発明は、前記二層構造紡績糸を用いた織編物の製造方法に関する。
衣料分野などにおいて、従来から、軽量で保温性の高い織編物が要望されている。このような要望に応えるため、種々の検討がなされている。例えば、特許文献1においては、中空繊維を用いた紡績糸を用いて織編物を製造することが提案されている。しかしながら、かかる場合は、紡績糸とするまでの工程で中空形状が破壊されやすく、性能が十分発揮されにくいという問題があった。
また、芯部にポリビニルアルコール系繊維等の溶解繊維を用いた多層構造撚糸や、その製造方法が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。かかる場合は、撚糸を製造する段階においてポリビニルアルコール系繊維等の溶解繊維が溶解され、中空部が形成される。そして、中空部を形成した後に、染色整理仕上げをしたり織編物に加工したりされるものであるが、このような加工段階で、芯部の中空形状が損なわれやすく、中空部を製品段階まで維持することは困難であった。そのため、中空部が形成されることにより付与される軽量性、保温性などの性能が十分に発揮されにくい場合があった。
さらに、芯層と鞘層の二層構造を有し、芯部分に溶解性繊維と熱収縮率10〜40%の収縮性繊維とがランダムに配された二層構造紡績糸が提案されている(例えば、特許文献5参照)。この場合は、収縮性繊維が有する性能により、加工段階で形成した中空部が製品段階まで維持でき、中空部の形成による軽量性、保温性などの性能が発揮されやすい。しかし、鞘部分に用いられる繊維の性能によっては、充分な軽量性、保温性などが発揮できない場合があった。
また、より保温性に優れる衣料を得ることを目的として、ポリエステル系やアクリル系の吸湿発熱性繊維を用いた衣料や、セルロースに水溶性ビニル重合化合物を導入した吸湿発熱性セルロース繊維を用いた衣料が提案されている(例えば、特許文献6、特許文献7参照)。しかしながら、特許文献6や特許文献7の場合は、吸湿発熱性には優れるものの、保温感が不足したり、一時的には保温能力を発揮したとしても、経時的に人体からの熱の放散を阻止する能力に欠けたりする場合があった。
また、吸湿発熱性繊維と疎水性合成繊維を含む紡績糸等が知られている(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、この場合は、吸湿発熱性には優れるものの、着用直後に接触冷感があったり、軽量性や保温性に劣ったりする場合があった。
また、芯部分に溶解性繊維が含有され、鞘部分に疎水性合成繊維および吸湿発熱性繊維を4:1〜1:4(質量比)の割合で複合してなる多層構造紡績糸からなる織編物が提案されている(例えば、特許文献9参照)。しかしながら、この場合は、芯部分に用いられる溶解性繊維の芯部全体に対する質量比が規定されておらず、また芯と鞘の質量比率にも限定がないものである。従って、芯部における溶解性繊維の質量比や芯と鞘の質量比率によっては、中空部を形成しにくく、たとえ形成されたとしても中空部につぶれなども生じ、十分な軽量性及び保温性等が発揮されない場合があった。
また、従来、秋冬衣料向けの衣料素材においては、静電気防止性が乏しいと着心地を大きく損なうという問題がある。しかしながら、上記いずれの特許文献にも、静電気防止性に対する課題については検討されていない。
特開平7−18535号公報 特開平9−31781号公報 特開平9−59839号公報 特開平9−302545号公報 特開2002−138336号公報 特公平7−59762号公報 特許第2898623号明細書 特開2003−227043号公報 特開2005−068596号公報
本発明は、上記状況に鑑みて行われたものであり、織編物としたときに、吸湿発熱性、保温性に優れ、静電気の発生を抑制でき、軽量性を有する二層構造紡績糸を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)下記の(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)を同時に満たすことを特徴とする二層構造紡績糸。
(I)芯部に水溶性ポリビニルアルコール系繊維と、溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維が配されており、かつ鞘部にアクリル系繊維が配されるか、またはアクリル系繊維および溶剤紡糸セルロース系繊維が配された芯鞘構造を有する。
(II)芯部全量に対する水溶性ポリビニルアルコール系繊維の含有割合が30〜70質量%であり、芯部全量に対する溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維の含有割合が70〜30質量%である。
(III)鞘部全量に対するアクリル系繊維の含有割合が50質量%以上である。
(IV)紡績糸全体に対する溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合が15〜30質量%である。
(V)芯部と鞘部の質量比が、芯部/鞘部=20/80〜50/50である。
(2)下記の(VI)、(VII)、(VIII)、(IX)および(X)を同時に満たすことを特徴とする紡績糸から構成される織編物。
(VI)芯部に中空部分が存在し、溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維が配されており、かつ鞘部にアクリル系繊維が配されるか、またはアクリル系繊維および溶剤紡糸セルロース系繊維が配された芯鞘構造を有する。
(VII)芯部全量に対する溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維の含有割合が70〜30質量%である。
(VIII)鞘部全量に対するアクリル系繊維の含有割合が50質量%以上である。
(IX)紡績糸全体に対する溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合が16〜46質量%である。
(X)芯部と鞘部の質量比が、芯部/鞘部=7/93〜41/59である。
(3)(1)に記載の二層構造紡績糸を用いた織編物の製造方法であって、織編物を作製した後、芯部の水溶性ポリビニルアルコール系繊維が溶解されることにより、該二層構造紡績糸の芯部に中空部分が形成された紡績糸となることを特徴とする織編物の製造方法。
本発明によれば、吸湿発熱性に優れ、静電気が生じにくく、軽量性及び保温性を有する衣料用等の織編物に好適な二層構造紡績糸を得ることができる。さらに、この二層構造紡績糸を用いて得られた織編物は、中空部のつぶれが生じにくく、軽量性や保温性により優れたものとなる。さらに、本発明にて得られた織編物は、縫製品として、例えば、肌着、パジャマ等の衣料、毛布、スカーフ、マフラー、帽子、手袋、靴下、座布団等に好適に使用されるものである。
本発明の二層構造紡績糸の横断面形状の一例を示す概略図である。 本発明の二層構造紡績糸の粗糸を製造するための粗紡機の一例を示す概略側面図である。 本発明の織編物を構成する、中空部を有した紡績糸の横断面形状の一例を示す概略図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の二層構造紡績糸は、図1に示すような横断面形状を有するものである。図1においては、1は溶剤紡糸セルロース系繊維を示し、2はアクリル系繊維を示し、3Aは水溶性ポリビニルアルコール系繊維を示すものである。図1に示されるように、芯部には、水溶性ポリビニルアルコール系繊維、かつ溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維が配された繊維群が形成されている。鞘部には、溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維が配された繊維群が形成されている。
本発明に用いられる水溶性ポリビニルアルコール系繊維は、ポリビニルアルコールを主成分とするものである。ポリビニルアルコールは、親水性を有しており、温水に可溶である。水溶性ポリビニルアルコール系繊維は、二層構造紡績糸を用いて織編物を製造した後、後述の溶解工程において除去されるものである。このような工程を経ることにより、中空部が形成された紡績糸となるため、織編物に優れた軽量性、保温性を付与することができる。なお、本発明において、「ポリビニルアルコールを主成分とする」とは、水溶性ポリビニルアルコール系繊維全体に対して、ポリビニルアルコールの含有量が95質量%以上であることを言う。
水溶性ポリビニルアルコール系繊維は、長繊維でも短繊維でもよいが、繊維長30〜60mmの短繊維であることが好ましい。繊維長をこのような範囲とすることにより、芯部と鞘部の境界付近において、それぞれの構成繊維が絡み合い、織編物が外力を受けてもズレや剥離などが生じ難くなるという効果が奏される。また、織編物の風合いを向上させ、繊維間の空隙を多くすることが可能であるため、保温性がより向上する。
本発明に用いられるアクリル系繊維は、アクリロニトリルを主成分とする合成繊維であり、疎水性を有するものである。ポリアクリル系繊維は、その他の疎水性合成繊維と比較して、収縮率が大きく、嵩高生に優れるため、保温性の向上に大きく寄与しうる。なお、本発明において、「アクリロニトリルを主成分とする」とは、アクリル系繊維全体に対して、アクリニトリルの含有量が95質量%以上であることを言う。
アクリル系繊維は、芯部および鞘部の何れに用いられる場合においても、単糸繊度が0.1〜1.6dtexであることが好ましく、0.4〜1.3dtexであることがさらに好ましい。単糸繊度が1.6dtex以下であると、単繊維間の空隙の径が小さくなるため、通気抵抗が高くなり、デッドエアーが多くなって、熱の放散を阻止する能力が向上すると共に、親水性繊維の吸湿発熱の効果を長期間持続させることができ、二層構造紡績糸の二層構造性が高くなる。すなわち、単糸繊度が1.6dtexを越えると、単繊維間の空隙の径が大きくなり過ぎて、熱を放散し易くなると共に、風合いも硬くなり、さらには、二層構造紡績糸の二層構造性が悪くなる場合がある。また、単糸繊度が0.1dtex未満であると、単繊維の曲げ剛性が低いために、着用中に着圧が付加されることにより実質的な単繊維間空隙量が減少するため、保温性が低下するという問題が起こる場合がある。
アクリル系繊維は、長繊維でも短繊維でもよいが、繊維長30〜60mmの短繊維であることが好ましい。繊維長をこのような範囲とすることにより、芯部と鞘部の境界付近において、それぞれの構成繊維が絡み合い、織編物が外力を受けてもズレや剥離などが生じ難くなるという効果が奏される。また、織編物の風合いを向上させ、繊維間の空隙を多くすることが可能であるため、保温性がより向上する。
アクリル系繊維の断面形状は、特に限定されるものではないが、紡糸性や紡糸口金の形状などを考慮すると、丸断面形状が好ましい。また、より優れた軽量性や保温性を付与することを目的として、アクリル系繊維としては中空繊維を用いることが好ましい。
アクリル系繊維には、本発明の効果を損なわない範囲において、アクリロニトリル以外の成分が含まれていてもよい。
本発明に用いられる溶剤紡糸セルロース系繊維は、セルロースそのものを溶剤に溶解させ、溶液紡糸して得られるものであり、優れた吸湿発熱性と静電気防止性を有する繊維である。加えて、誘導体化などのプロセスを経ないため、セルロース分子の重合度の低下が少なく、強度面において優れている。
溶剤紡糸セルロース系繊維の単糸繊度は、芯部および鞘部の何れに用いられる場合においても、0.6〜2.2dtexであることが好ましく、0.7〜1.6dtexであることがより好ましい。単糸繊度が2.2dtex以下であると、繊維の表面積が増すため、吸湿発熱のレスポンスが速くなると共に、実用に供する際に、吸湿発熱温度が高くなるため、吸湿発熱性が十分に発現するという利点がある。単糸繊度が2.2dtexを超えると、吸湿発熱性が低下するだけでなく、風合いも硬くなり、二層構造紡績糸の二層構造性が悪くなる傾向がある。また、単糸繊度が0.6dtex未満であると、単繊維の曲げ剛性が低いために、着用中に着圧が付加されることにより実質的な単繊維間空隙量が減少するため、保温性が低下するという問題がある場合がある。すなわち、単糸繊度が上記の範囲であると、肌触りが良好で、吸湿発熱性に優れ、紡績糸において二層構造を形成しやすいという利点がある。
溶剤紡糸セルロース系繊維は、長繊維でも短繊維でもよいが、芯部と鞘部のズレや剥離を防止し、得られる織編物の風合いを向上させる点や繊維間の空隙を多くさせる点から、繊維長が30〜60mmである短繊維が好ましい。
溶剤紡糸セルロース系繊維の断面形状は、特に限定されるものではないが、紡糸性や紡糸口金の形状などを考慮すると、丸断面形状が好ましい。また、より優れた軽量性や保温性を付与することを目的として、溶剤紡糸セルロース系繊維としては中空繊維を用いることが好ましい。
本発明の二層構造紡績糸においては、芯部と鞘部の質量比が、芯部/鞘部=20/80〜50/50であることが必要であり、芯部/鞘部=35/65〜45/55であることが好ましい。芯部/鞘部の比が20/80未満であると、芯部つぶれや中空つぶれが生じるという問題が起こる。また、芯部/鞘部の比が50/50を超えると、鞘部が芯部を包み込むカバーリング性が悪くなるという問題が起こる。
本発明の二層構造紡績糸においては、芯部全量に対する水溶性ポリビニルアルコール系繊維の割合が30〜70質量%であることが必要であり、45〜55質量%であることが好ましい。この含有割合が30質量%未満であると、中空率が低下し、保温性が悪くなるという問題がある。一方、含有割合が70質量%を超えると、染色加工時における中空つぶれが生じやすくなり、また、実用に耐えうる強力が得られにくいという問題がある。
本発明の二層構造紡績糸においては、芯部全量に対する溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維の含有割合が70〜30質量%であることが必要であり、55〜45質量%であることが好ましい。この含有割合が30質量%未満であると、染色加工時における中空つぶれが生じやすいという問題がある。一方、含有割合が70質量%を超えると、中空率が低下し、保温性が悪くなるという問題がある。なお、芯部に溶剤紡糸セルロース系繊維とアクリル系繊維の両方を用いた場合は、両者の合計含有量が上記の範囲を満たす必要がある。
本発明の二層構造紡績糸においては、鞘部全量に対するアクリル系繊維の含有割合が50質量%以上であることが必要であり、好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100%である。この含有割合が50質量%未満であると、織編物に所望の保温性を付与することができない。
また、本発明の二層構造紡績糸においては、紡績糸全体に対する溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合が15〜30質量%であることが必要であり、16〜26質量%であることが好ましい。この含有割合が15質量%未満であると、織編物の吸湿発熱性、静電気防止性が低減するという問題がある。一方、含有割合が30質量%を超えると、織編物の保温性が低減する。
なお、上記の芯部および鞘部を構成する繊維の各々の含有割合は、各構成繊維の質量を全体の質量で除することにより求めることができる。
本発明の二層構造紡績糸の製造方法は特に限定されないが、その一例について、図2を用いて説明する。
まず、通常の紡績手段により、水溶性ポリビニルアルコール系繊維、溶剤紡糸セルロース系繊維、アクリル系繊維を得る。得られた水溶性ポリビニルアルコール系繊維と、溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維からなる練条上りのスライバーS1と、アクリル系繊維、またはアクリル系繊維および溶剤紡糸セルロース系繊維からなる練条上りのスライバーS2とを粗紡機に並行に供給する。各々のスライバーは、バックローラー4を通過後、エプロン5およびセカンドローラー6を通過する過程で送り出され、次いで、別途設けられたフロントローラー7AへS1が、7BへS2がそれぞれ送り出される。ここで、フロントローラー7Aの表面速度をセカンドローラー6の表面速度と同一にし、フロントローラー7Bの表面速度をセカンドローラー6の表面速度より速くすることで、スライバーS2をスライバーS1より速い速度、すなわち低張力で走行させて、S1にS2を巻き付けながら繊維束8とする。この繊維束8をフライヤーヘッド9に巻き付けることにより、粗糸を得、これを精紡して二層構造紡績糸を得ることができる。
本発明においては、二層構造紡績糸を得た後、プレセットが施されていてもよい。このようにすることで、水溶性ポリビニルアルコール系繊維の形状が、プレセットの熱によって固定されるために、後述の溶解工程において、水溶性ポリビニルアルコール系繊維が除去され中空部が形成された場合に、該中空部により優れた形態安定性が付与されるため好ましい。その理由は、中空部の形態安定性が優れるほど、得られる織編物が衣服となった後、洗濯又はアイロン掛けなどによって中空部がつぶされ難くなるからである。
上記のプレセットは、中空部となる位置が確保された状態で行われるのが好ましい。すなわち、プレセットを水溶性ポリビニルアルコール系繊維の除去前に行うことで、アクリル系繊維の熱収縮に伴う応力をポリビニルアルコール系繊維に吸収させながら、アクリル系繊維の形状を固定することが可能となる。
プレセットの条件は、アクリル系繊維の種類を考慮して適宜設定すればよいが、例えば、温度160〜190℃で、処理時間30〜120秒間であることが好ましい。上記の温度が低すぎたり、処理時間が短すぎたりすると、熱量が不足するため、アクリル系繊維の層が十分に固定されない場合がある。一方、上記温度が高すぎたり処理時間が長すぎたりすると、熱量が多すぎて、アクリル系繊維や溶剤紡糸セルロース系繊維が黄変したり、織編物の風合いを硬化させたりする場合がある。
次に本発明の織編物の製造方法について、以下に説明する。
まず、本発明の二層構造紡績糸を予め作製する。該二層構造紡績糸を用いて、公知慣例の方法で織編物を製造する。その後、得られた織編物を精練することなどにより、水溶性ポリビニルアルコール系繊維を溶解させ(溶解工程)、図3に示されるような芯部に中空部が形成された紡績糸からなる織編物とすることができる。なお、図3においては、溶解工程は、標準的な染色加工工程の観点から、精練工程にて40℃×30分の条件で行うことが好ましい。図3においては、1は溶剤紡糸セルロース系繊維を示し、2はアクリル系繊維を示し、3Bは中空部を示す。
なお、中空紡績糸を用いて直接織編物を製造した場合は、芯部の中空形状が損なわれやすく中空部の形態安定性に劣り、軽量性、保温性などの性能が十分に発現できず、製造コストの面においても不利となるという問題がある。
紡績糸に中空部が形成されることで、織編物に優れた軽量性や保温性を付与することが可能となる。本発明においては、上記のように、織編物となした後、二層構造紡績糸中からポリビニルアルコール系繊維を溶解させる。その結果として、織編物中では、紡績糸全体に対する溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合が16〜46質量%になる。同様に、紡績糸における芯部と鞘部の質量比も、芯部/鞘部=7/93〜41/59になる。
また、該紡績糸の中空率は10〜25%であることが好ましく、12〜22%がより好ましい。なお、ここでいう中空率とは、中空部を含む紡績糸横断面における該中空部が占める面積比率を指す。中空率が10%未満になると、紡績糸内部に蓄えられる空気の総量が減って織編物の保温性が低下する傾向にあるので好ましくない。一方、中空率が25%を超えると外部圧力によって容易に中空部がつぶされる傾向にあるため好ましくない。
本発明の織編物は、本発明の効果を損なわない範囲において、通常の方法で染色されていてもよい。
本発明の織編物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、帯電防止性繊維などの他糸が用いられていてもよい。ただし、本発明の効果を十分に発現するには織編物中に占める中空紡績糸の質量比率が60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましい。なお、用いられる他糸の種類は特に限定されないが、さらに、織編物中における他糸の複合形態も、配列、交編織以外にも二層構造紡績糸との混繊、合撚など特に限定されるものではない。また、製織・製編される方法も特に限定されない。
本発明の織編物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、その他にも、綿、絹、毛、ポリエステル繊維、ナイロン繊維などが用いられていてもよい。
本発明の織編物の厚みは、特に限定されないが、保温性と軽量性とのバランスの観点から、0.4〜0.8mmであることが好ましい。
本発明の織編物の目付けは、特に限定されないが、保温性と軽量性とのバランスの観点から、100〜160g/mであることが好ましい。
このようにして得られた織編物は、吸湿発熱性に優れ、静電気が生じにくく、軽量性及び保温性能を有するため、各種衣料用途に好適に用いられる。
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、実施例における評価は以下の測定方法により行った。
(1)紡績糸の中空率
実施例および比較例で得られた織編物から中空紡績糸を採取し、該紡績糸の横断面形状を電子顕微鏡(日本電子データム社製、商品名「JSM−531型」)(倍率:500倍)で撮影し、写真をトレースして中空部を含む紡績糸全体に相当する部分を切り取り、その面積(A)を測定した。測定後さらに中空部に相当する部分を切り取ってその面積(B)を測定した。この作業を10本の紡績糸について行い、A、Bの平均値を算出し、それらの値を次式に代入して紡績糸の中空率とした。
中空率(%)=(B/A)×100
(2)織編物の保温率(保温性)
温度20℃、湿度65%RHに設定した恒温恒湿装置内において、30℃の一定温を保つ熱板(カトーテック社製、商品名「サーモラボII型:KES−F7」)が平衡状態に達した時の消費熱量をBlankとして測定した。次いで、試料(サイズ:17cm×17cm)を熱版の上に置き、平衡状態に達したときの消費熱量を測定した。次式により保温率を求めた。保温率が高いほど、該試料が熱を放散させ難いことを意味し、保温性が優れているといえる。
保温率(%)={[Blank測定値(w)−該試料消費熱量(w)]/Blank測定値(w)}×100
なお、上記式中、消費熱量は以下の式により求めた。
消費熱量[w/(m・℃)]=測定値(w)/[熱板面積(m)×温度差(10℃)]
(3)織編物の吸湿発熱性
温度20℃、湿度65%RHに設定した環境室内において、試料(サイズ:15cm×15cm)を発泡スチロール板に貼り付け、これを試料セットとして、70℃の乾燥機で12時間以上予備乾燥させた。次いで、この試料セットを、シリカゲルを入れたデシケーター内に入れ、該デシケーターを温度30℃、湿度90%RHの環境室内に4時間以上放置し、試料を絶乾状態にした。その後、試料セットをデシケーターから取り出し、温度30℃、湿度90%RHの環境室内にて、サーモグラフ(NEC三栄社製、商品名「サーモトレーサTH7102MX」)を用いて画像記録を開始し、試料セットを置いてから5分間、1秒毎に試料表面温度を測定し、最大発熱時の試料表面温度を抽出した。この試料表面温度が高いほど、吸湿発熱性が優れているといえる。
(4)織編物の摩擦耐電圧及び半減期(静電気防止性)
JIS−L−1094に従って測定した。
(5)織編物の生地の厚み及び目付
JIS−L−1018に従って測定した。
(6)軽量性
軽量性の評価として、次式より、単位厚み当たりの目付を求めた。
単位厚み当たりの目付け[(g/m)/mm]=[目付(g/m)/厚み(mm)]×100
(実施例1)
水溶性ポリビニルアルコール系繊維(クラレ社製、商品名「クラロンK−2」)(水溶解温度:40℃、単糸繊度:1.7dtex、繊維長:38mm)、アクリル系繊維(三菱レイヨン社製、商品名「ボンネル」)(単糸繊度:0.8dtex、繊維長:38mm)を、50:50(質量比)で混綿したスライバー(S1:芯部を構成する繊維のスライバー)を得た。さらに、アクリル系繊維(三菱レイヨン社製、商品名「ボンネル」)(単糸繊度:0.8dtex、繊維長:38mm)及び溶剤紡糸セルロース系繊維(ユニチカトレーディング社製、商品名「シルフ」)(単糸繊度:0.9dtex、繊維長:38mm)を73:27(質量比)で混綿したスライバー(S2:鞘部を構成する繊維のスライバー)を得た。なお、これら2種のスライバーの単位長さ当りの質量比率は、S1/S2=4/6であった。
次に、図2に示すような構造を有する粗紡機へ、S1が芯成分の繊維からなるスライバーとなりS2が鞘成分の繊維からなるスライバーとなるように、上記2種のスライバーを供給した。ここで、フロントローラー7Aの表面速度とセカンドローラー6の表面速度を、同一とした。また、フロントローラー7Bの表面速度をセカンドローラー6の表面速度の1.03倍とした。スライバーS1にスライバーS2を巻付けて繊維束8とした後、フライヤー9を介して粗糸木管に巻取り、粗糸質量180gr/30yd(1gr:0.065g、1yd:0.9144m)、撚数1.06T/2.54cmの粗糸として巻取った。この粗糸を精紡し、50番手(英式綿番手)、撚数27.0T/2.54cmの二層構造紡績糸を得た。
得られた紡績糸において、溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合は、紡績糸全体に対し16質量%であった。
この紡績糸を用いて釜径33in(1in=2.54cm)、28ゲージの両面編機でスムース組織を編成した。得られた生機に対し、40℃にて30分間精練させて、上記紡績糸の芯部に配された水溶性ポリビニルアルコール系繊維を除去した。その後、カチオン染料を用いて100℃にて30分間の染色工程を経て、ピンテンターにて160℃にて2分間のファイナルセットを行って、本発明の織編物を得た。なお、該織編物に含まれる紡績糸は芯部に中空部を有しており、図3に示すような横断面形状であった。
織編物中の紡績糸において、紡績糸全体に対する溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合は20質量%であり、芯部と鞘部の質量比は芯部/鞘部=25/75であった。また、中空率は20%であった。
(実施例2)
水溶性ポリビニルアルコール系繊維(クラレ社製、商品名「クラロンK−2」)(水溶解温度:40℃、単糸繊度:1.7dtex、繊維長:38mm)、溶剤紡糸セルロース系繊維(ユニチカトレーディング社製、商品名「シルフ」)(単糸繊度:0.9dtex、繊維長:38mm)を50:50(質量比)で混綿したスライバー(S1)を得た。次いで、アクリル系繊維(三菱レイヨン社製、商品名「ボンネル」)(単糸繊度:0.8dtex、繊維長:38mm)100%でスライバー(S2)を得た。なお、これら2種のスライバーの単位長さ当りの質量比率は、S1/S2=4/6であった。上記2種のスライバーを用いて、実施例1と同様の方法で、粗糸を得て精紡し、60番手(英式綿番手)、撚数30.39T/2.54cmの二層構造紡績糸を得た。
得られた紡績糸において、溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合は、紡績糸全体に対し20質量%であった。
次に、この紡績糸を用いて釜径17in、18ゲージのフライス編機で片袋組織を編成し、実施例1と同様にして、水溶性ポリビニルアルコールを除去し、染色加工を施して、実施例2の織編物を得た。
織編物中の紡績糸において、紡績糸全体に対する溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合は25質量%であり、芯部と鞘部の質量比は芯部/鞘部=25/75であった。また、中空率は20%であった。
(比較例1)
二層構造紡績糸の代わりに、通常のアクリル系繊維(東レ社製)(単糸繊度:1.0dtex、繊維長:38mm)50番手(英式綿番手)の紡績糸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の織編物を得た。
(比較例2)
二層構造紡績糸の代わりに、通常のアクリル系繊維(東レ社製)(単糸繊度:1.0dtex、繊維長:38mm)60番手(英式綿番手)の紡績糸を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例2の織編物を得た。
(比較例3)
通常のアクリル系繊維(東レ社製)(単糸繊度:1.0dtex、繊維長:38mm)と溶剤紡糸セルロース系繊維(ユニチカトレーディング社製、商品名「シルフ」)(0.9dtex、繊維長:38mm)を6:4の割合で混紡して、50番手(英式綿番手)の紡績糸を得て、実施例1と同様にして、比較例3の織編物を得た。
(比較例4)
通常のアクリル系繊維(東レ社製)(単糸繊度:1.0dtex、繊維長:38mm)と溶剤紡糸セルロース系繊維(ユニチカトレーディング社製、商品名「シルフ」)(0.9dtex、繊維長:38mm)を6:4の割合で混紡して、60番手(英式綿番手)の紡績糸を得て、実施例2と同様にして、比較例4の織編物を得た。
実施例及び比較例で得られた紡績糸および織編物の評価結果を表1に示す。
Figure 0005424958
表1から明らかなように、実施例1および実施例2で得られた織編物は、保温性及び吸湿発熱性、静電気防止性に優れ、軽量なものであった。なお、実施例1と実施例2とを対比すると、実施例1の織編物は、実施例2に比べ厚み、目付け共に高いので、保温性により優れる結果となった。
比較例1および比較例2で得られた織編物は、アクリル系繊維のみで構成されているため静電気防止性において劣っていた。
また、実施例1と比較例1とを比較すると、比較例1では溶剤紡糸セルロース系繊維が用いられていないため、吸湿発熱性に劣る結果となった。実施例2と比較例2とを比較しても同様のことがいえる。
さらに、実施例1と比較例3とを比較すると、比較例3では紡績糸に中空部分が存在しないため、保温性に劣る結果となった。実施例2と比較例4とを比較しても同様のことがいえる。
さらに、実施例1と、比較例1および比較例3を比較すると、実施例1は軽量性において優れていた。実施例2と、比較例2および比較例4とを比較しても同様のことがいえる。
本発明の二層構造紡績糸は、編物、織物等に好適に用いることができる。得られた織編物は、縫製品として、例えば、肌着、パジャマ等の衣料、毛布、スカーフ、マフラー、帽子、手袋、靴下、座布団等に使用することにより、人の体温を積極的に維持し、守るために有効である。
1 溶剤紡糸セルロース系繊維
2 アクリル系繊維
3A 水溶性ポリビニルアルコール系繊維
3B 中空部
4 バックローラー
5 エプロン
6 セカンドローラー
7A,7B フロントローラー
8 繊維束
9 フライヤーヘッド
S1 芯成分の繊維からなるスライバー
S2 鞘成分の繊維からなるスライバー

Claims (3)

  1. 下記の(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)を同時に満たすことを特徴とする二層構造紡績糸。
    (I)芯部に水溶性ポリビニルアルコール系繊維と、溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維が配されており、かつ鞘部にアクリル系繊維が配されるか、またはアクリル系繊維および溶剤紡糸セルロース系繊維が配された芯鞘構造を有する。
    (II)芯部全量に対する水溶性ポリビニルアルコール系繊維の含有割合が30〜70質量%であり、芯部全量に対する溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維の含有割合が70〜30質量%である。
    (III)鞘部全量に対するアクリル系繊維の含有割合が50質量%以上である。
    (IV)紡績糸全体に対する溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合が15〜30質量%である。
    (V)芯部と鞘部の質量比が、芯部/鞘部=20/80〜50/50である。
  2. 下記の(VI)、(VII)、(VIII)、(IX)および(X)を同時に満たすことを特徴とする紡績糸から構成される織編物。
    (VI)芯部に中空部分が存在し、溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維が配されており、かつ鞘部にアクリル系繊維が配されるか、またはアクリル系繊維および溶剤紡糸セルロース系繊維が配された芯鞘構造を有する。
    (VII)芯部全量に対する溶剤紡糸セルロース系繊維および/またはアクリル系繊維の含有割合が70〜30質量%である。
    (VIII)鞘部全量に対するアクリル系繊維の含有割合が50質量%以上である。
    (IX)紡績糸全体に対する溶剤紡糸セルロース系繊維の含有割合が16〜46質量%である。
    (X)芯部と鞘部の質量比が、芯部/鞘部=7/93〜41/59である。
  3. 請求項1に記載の二層構造紡績糸を用いた織編物の製造方法であって、織編物を作製した後、芯部の水溶性ポリビニルアルコール系繊維が溶解されることにより、該二層構造紡績糸の芯部に中空部分が形成された紡績糸となることを特徴とする織編物の製造方法。
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