JP5418838B2 - 鋼管矢板壁 - Google Patents

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Description

本発明は、土留め壁等として利用される鋼管矢板壁に関するものである。
土留め壁には、土圧等により、この土留め壁の土留め部材を曲げようとする力が作用し、この結果、壁はその作用方向に変形する。土留め壁を設計する場合、壁の変形量を許容される値以下に抑える必要があり、許容値を超える変形が予想される場合には、壁の断面を大きくするなどの対策が取られる。一般的に、壁高さを大きく確保したい場合や自立した壁を構築したい場合などには、土留め壁の構成材料として、鋼矢板よりも断面性能が大きい鋼管矢板が用いられることが多い(例えば、特許文献1参照)。
鋼管矢板壁の概要図を図14、平面図を図15、連結した継手部材からなる継手構造の一例を平面図として図16に示す。
図14から図16に示すように、鋼管(鋼管矢板本体2)の両側に継手部材3,4を設けた鋼管矢板5を、この継手部材3,4を介して連結することにより鋼管矢板壁1(壁構造)が構築される。
なお、継手部材3,4は、一方の継手部材3がT字状で、他方の継手部材4がスリットを有する円環状となっており、一方の継手部材3の基端部を他方の継手部材4のスリットに上下方向に挿入することで、鋼管矢板5どうしが連結される。鋼管矢板の継手構造は、図16に示すもの以外にも様々なものが提案、開発されている。
特開2009−138472号公報
従来の鋼管矢板壁1は、壁の変形量が許容値を超えることが予想される場合、鋼管矢板本体2として、径の大きいものや鋼管厚(鋼管の板厚)の厚いものを使用して対応している。しかし、用いる鋼管の径や板厚を大きくすることは、材料費が増加し、経済性の面で問題がある。
本発明は、材料費のコストアップを抑えながら、土留め壁の変形量を許容値以内にすることが可能な鋼管矢板壁を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、請求項1に記載の鋼管矢板壁は、鋼管矢板本体と当該鋼管矢板本体の両側にそれぞれ設けた継手部材とからなる複数の鋼管矢板を、前記継手部材により連結してなる鋼管矢板壁において、前記鋼管矢板本体は、当該鋼管矢板本体の軸方向に沿って、連結された前記鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが相対的に他の部分より大きくなる高さ位置を含む第1の範囲の曲げ剛性が、前記第1の範囲以外の部分となる第2の範囲の曲げ剛性より高く、
前記鋼管矢板本体の第1の範囲に形鋼材が固定されていることを特徴とする。
請求項1に記載の発明においては、鋼管矢板壁を構成する各鋼管矢板本体の全体の曲げ剛性を一様に高くするのではなく、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが相対的に他の部分より高くなる高さ位置、例えば、曲げモーメントが最大や極大となる高さ位置を含む第1の範囲の曲げ剛性を高くすることにより、鋼管矢板壁の変形量を抑制している。そのため各鋼管矢板本体の全体の曲げ剛性を高くする場合よりもコストの低減を図ることができる。すなわち、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲の曲げ剛性を他の部分に対して部分的に高くすることにより、材料コストの増加を抑制しながら、鋼管矢板壁の変形を効率良く抑えることができる。
また、鋼管矢板本体の第1の範囲に形鋼材を固定することにより、大きな曲げモーメントが生じる第1の範囲の曲げ剛性を高め、鋼管矢板壁の変形量を許容値内に収めることができる。
請求項に記載の鋼管矢板壁は、請求項に記載の発明において、前記形鋼材がH形鋼であることを特徴とする。
請求項に記載の発明においては、建設資材として一般的に広く流通しているH形鋼を用いることで、所望の形状(サイズ、板厚等)および強度のものを容易に調達可能である。また、H形鋼のフランジを鋼管矢板本体の表面に当接させた状態で、フランジと鋼管矢板本体の外周面との間の隙間を利用してこれらを溶接することが可能であり、溶接のための開先加工等を必要とせず、溶接に係る手間とコストの削減を図ることができる。
本発明によれば、鋼管矢板壁を構成する各鋼管矢板本体の全体の曲げ剛性を高めるのではなく、部分的に曲げ剛性を高めることで、コストアップを抑制しながら、曲げモーメントによる鋼管矢板壁の変形量を減少させることができる。
本発明の第1実施形態に係る鋼管矢板壁を示す概略断面図である。 本発明の第2実施形態に係る鋼管矢板壁を示す概略断面図である。 本発明の第3実施形態に係る鋼管矢板壁で用いられる外殻鋼管付きコンクリート杭を示し、(a)は一部を破断した側面図であり、(b)は平面図である。 本発明の第4実施形態に係る鋼管矢板壁を示す概略断面図である。 第4実施形態に係る鋼管矢板壁を示す概略平面図である。 本発明の各実施形態の効果を検証するために実施したシミュレーションにおける鋼管矢板壁の設計条件を説明するためのものであり、(a)は設計条件を説明するための図であり、(b)は構造条件を示す図表であり、(c)は地盤条件を示す図表であり、(d)は鋼管矢板壁に作用する土圧強度を示す図表である。 前記シミュレーションにおける鋼管矢板壁に生じる曲げモーメント分布を示すグラフである。 前記シミュレーションにおける鋼管矢板壁上端に生じる変位量を算定したグラフである。 前記シミュレーションにおける鋼管矢板壁上端の変位抑制率を算定したグラフである。 前記シミュレーションにおける鋼管矢板全長を増厚した場合(比較例)の鋼管矢板壁上端に生じる変位量を算定したグラフである。 前記シミュレーションにおける他の設計条件での鋼管矢板壁上端に生じる変位量を算定したグラフである。 他の設計条件での鋼管矢板壁上端の変位抑制率を算定したグラフである。 他の設計条件での鋼管矢板全長を増厚した場合(比較例)の鋼管矢板壁上端に生じる変位量を算定したグラフである。 従来の鋼管矢板壁を示す概要図である。 従来の鋼管矢板壁を示す平面図である。 従来の鋼管矢板壁を構築する際の継手構造の一例を示す平面図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示す図である。なお、作用効果については、第1実施形態から第4実施形態までの鋼管矢板壁の構造を説明した後に説明する。
図1に示すように、地盤中に下部が埋設されて設置される鋼管矢板壁10は、従来と同様に、複数の鋼管矢板20を図示しない接合部材どうしを接合することで、一列に連結することにより構成されるものである。鋼管矢板20は、鋼管矢板本体30の両側部にそれぞれ、図示しない周知の接合部材(例として図16の継手部材をあげることができる)を設けたものである。また、鋼管矢板本体30は、基本的に鋼管からなるものである。
また、鋼管矢板壁10で二つに区切られる地盤のうちの一方の地盤の地盤面42に対して、他方の地盤の地盤面41が低くなっており、鋼管矢板壁10は、地盤面42の高い方の地盤の土砂を留める土留め壁として機能している。図1においては、鋼管矢板壁10で区切られた地盤のうち向って左側の地盤面41より右側の地盤面42の方が高くなっている。この例では、鋼管矢板壁10の低い方の地盤面41より露出する部分の高さ、すなわち、低い方の地盤面から鋼管矢板壁10の上端までの高さを、鋼管矢板壁10の高さ(H)とする。なお、鋼管矢板壁10の上端の高さに対して、高い方の地盤面42が明らかに低い場合に、鋼管矢板壁10の高さとして、低い方の地盤面41から高いほうの地盤面42までの高さを用いるものとしてもよい。
なお、鋼管矢板壁10の下部は、低い方の地盤面41より下で埋設された状態となっており、鋼管矢板壁10は、前記高さ(H)よりも、上下方向の長さが長いものとなっている。鋼管矢板壁10は、前記高さ(H)より、低い方の地盤面から鋼管矢板壁10の下端までの深さの方が長くなっていることが多く、一般的に鋼管矢板壁10の下端から上端までの長さは、鋼管矢板壁10の前記高さ(H)の2倍以上となっている。
図1の例において、鋼管矢板本体30は、その軸方向に沿って、土圧等による曲げモーメントが最大となる鋼管矢板壁10の高さ位置(曲げモーメント最大位置)を含む第1の範囲51と、それ以外の第2の範囲52,53とに分けられている。第1の範囲51が鋼管矢板本体30の中央側にあるので、第2の範囲52,53は、第1の範囲より上側の部分と、下側の部分とに分けられた状態となっている。また、第1の範囲51は、上述のように曲げモーメント最大位置を上下の略中心として、鋼管矢板壁10の前記高さ(H)とほぼ同等の長さ(H×1)の範囲となっている。鋼管矢板本体の第1の範囲51と第2の範囲52,53とで、外径が等しくなっているが、板厚が第2の範囲52,53より、第1の範囲51の方が厚くなっている。すなわち、第1の範囲51の方が第2の範囲52,53より内径が小さくなっている。
これらの鋼管矢板本体30は、複数の鋼管を軸方向に連接した状態となっており、鋼管矢板本体30において上側の第2の範囲52と、中側の第1の範囲51と、下側の第2の範囲53とでそれぞれ使われる鋼管が上下に連接された状態となる。なお、鋼管矢板本体30の各範囲51,52,53内のいずれかもしくは全てにおいて、複数の鋼管を上下に溶接により連接した構成となっていてもよい。
これらの鋼管矢板本体30の第2の範囲52,53で用いられる鋼管と、第1の範囲51で用いられる鋼管とでは、板厚の異なる鋼管が用いられるようになっており、第1の範囲51で用いられる鋼管の板厚が、第2の範囲52,53で用いられる鋼管の板厚より厚くなっている。これにより、上述のように鋼管矢板本体30において、第1の範囲51の方が第2の範囲52,53より板厚が厚くなっている。
これらの鋼管矢板本体30においては、第1の範囲51の板厚が第2の範囲52,53の板厚より厚くなることで、第1の範囲51の方が第2の範囲52,53より曲げ剛性が高くなっており、鋼管矢板本体30において、第1の範囲51の剛性が第2の範囲52,53より高い状態となっている。
なお、鋼管矢板本体30の第1の範囲51で用いられる鋼管と、第2の範囲52,53で用いられる鋼管とでは、板厚が異なるので、第1の範囲51と第2の範囲52,53との境界部分では、外径が同じで板厚(内径)が異なる鋼管どうしを溶接により接合する必要があるが、一般的に工場等においては、板厚が異なる鋼管どうしの溶接が行われており、周知の方法で板厚の異なる鋼管どうしの溶接を行うことができる。
なお、この例では、第1の範囲51の上下長さを鋼管矢板壁10の高さ(H)と等しいものとしたが、第1の範囲51は、後述のように鋼管矢板壁10の高さ(H)の0.5倍から1.5倍の範囲であるのが好ましい。但し、第1の範囲51が鋼管矢板壁10の高さ(H)の1.5倍より長くなっていても、鋼管矢板壁10の変形量を抑制することは可能である。また、第1の範囲51が鋼管矢板壁10の高さ(H)の0.5倍より少し短くても、例えば、第1の範囲51の曲げ剛性をより高くすることで、鋼管矢板壁10の土圧による変形量を抑制できる。すなわち、鋼管矢板本体30の全体の曲げ剛性を高めた場合よりも、コストを低減しつつ十分な鋼管矢板壁10の変形量の抑制が見込めれば、第1の範囲の長さが、鋼管矢板壁10の高さ(H)の0.5倍から1.5倍の範囲より短くても長くてもよい。
次に、図2を参照して本発明の第2実施形態の鋼管矢板壁11を説明する。
第2実施形態の鋼管矢板壁11においては、第1の範囲54となる部分の中空部にコンクリートを充填することで、充填コンクリート層59を設け、この充填コンクリート層59により、第1の範囲54の曲げ剛性を第2の範囲55,56より高くしている。なお、充填コンクリート層59内には、鉄筋を配筋するものとしてもよい。
第2実施形態の鋼管矢板壁11では、上述の曲げ剛性を高める方法が異なる以外は、第1の実施形態の鋼管矢板壁11と同様の構成を有するものとなっている。すなわち、鋼管矢板壁11を構成する鋼管矢板21から接合部材を除いた鋼管矢板本体31は、その軸方向に沿って、土圧による曲げモーメントが最大となる鋼管矢板壁11の高さ位置(曲げモーメント最大位置)を含む第1の範囲54と、第1の範囲54の上側および下側の第2の範囲55,56とに分けられている。また、第1の範囲54は、上述のように曲げモーメント最大位置を上下の略中心として、鋼管矢板壁10の前記高さ(H)の0.5倍となる長さ(H×0.5)の範囲となっている。なお、第1の範囲54の上下長さは、第1実施形態と同様に、例えば、鋼管矢板壁11の高さ(H)の0.5倍から1.5倍となっていれば好ましいが、第1実施形態と同様に、鋼管矢板本体31の全体の曲げ剛性を高めた場合よりも、コストを低減しつつ十分な鋼管矢板壁11の変形量の抑制が見込めれば、第1の範囲54の長さが、鋼管矢板壁11の高さ(H)の0.5倍から1.5倍の範囲より短くても長くてもよい。
このような第2実施形態においては、鋼管矢板本体31の第1の範囲54となる部分の鋼管内にコンクリートが充填されている。なお、コンクリートの充填は、例えば、鋼管矢板施工後、鋼管内の土砂を第1の範囲54の下端となる位置までグラブハンマー等により取り除き、この土砂が取り除かれた部分にバケットやポンプ車を利用してコンクリートを打設することで行われる。
例えば、鋼管矢板21を地盤中に埋設する際に、内部に入り込んだ土砂を第1の範囲54の下端となる位置まで取り除いた後に、鋼管矢板本体31の内部に第1の範囲54の上端となる位置までコンクリートを打設して硬化させることにより、第1の範囲54の曲げ剛性を高くすることができる。
したがって、コンクリートを打設する前の鋼管矢板壁11は、基本的に従来と同様に、同じ板厚で同径の鋼管を連接したものを鋼管矢板本体31としており、従来の鋼管矢板壁と同様に施工した後に、上述のように第1の範囲54にだけ、コンクリートを打設すればよい。
次に、本発明の第3実施形態の鋼管矢板壁を説明する。
第3実施形態の鋼管矢板壁は、基本的に図1に示す第1実施形態の鋼管矢板本体30の第1の範囲51を構成する板厚の厚い鋼管に代えて、図3に示す外殻鋼管付きコンクリート杭60(以下、SC杭60と省略する)を用いたものであり、それ以外の構成は、図1に示す第1実施形態の鋼管矢板壁10と同様となっている。
SC杭60は、外殻となる鋼管61と、その内周側にこの鋼管61の内周面に接して成形された円筒状のコンクリート層62とからなるものである。このSC杭60では、例えば、工場等でコンクリート層62が鋼管61内に遠心成形されている。
このSC杭60は、既製品として流通しており、容易に調達可能なものとなっている。
また、SC杭60は、鋼管61の内周面に予め円筒状のコンクリート層62が固定されたものであり、コンクリート層62を内周側に固定することで、曲げ剛性が高められた鋼管61である。
図1に示す鋼管矢板本体30の第1の範囲51に、第2の範囲52,53に用いられる鋼管より曲げ剛性が高いSC杭60を用いることで、第2の範囲52,53より第1の範囲51の曲げ剛性を高めることができる。
このSC杭60としては、例えば、鋼管矢板本体30の第2の範囲52,53に用いられる鋼管と同様の外径を有するものが用いられる。また、SC杭60の鋼管61の板厚は、第2の範囲52,53で用いられる鋼管と同様の板厚であってもよいし、それより厚いものであってもよい。また、曲げ剛性が第2の範囲52,53で用いられる鋼管よりも高ければ、第2の範囲52,53の鋼管より、SC杭60の鋼管61の板厚が薄くてもよい。
また、第2の範囲52,53の鋼管と、第1の範囲51のSC杭60の鋼管61とは、溶接や機械式継手等により接合される。なお、第1の範囲51の上下長さは、第1実施形態と同様に、例えば、鋼管矢板壁10の高さ(H)の0.5倍から1.5倍が好ましいが、第1実施形態と同様に、鋼管矢板本体30の全体の曲げ剛性を高めた場合よりも、コストを低減しつつ十分な鋼管矢板壁10の変形量の抑制が見込めれば、第1の範囲51の長さが、鋼管矢板壁10の高さ(H)の0.5倍から1.5倍の範囲より短くても長くてもよい。
次に、図4および図5を参照して本発明の第4実施形態の鋼管矢板壁13を説明する。
第4実施形態では、第1の範囲54となる部分にだけ鋼管矢板本体31の外周面に上下に沿って(鋼管矢板本体31の軸方向に沿って)形鋼材64を溶接することにより、第1の範囲54の曲げ剛性を高める構成となっている。図4の鋼管矢板壁13は、第1の範囲54にコンクリートが打設されず、代わりに形鋼材64が溶接される以外の構成は、図2の鋼管矢板壁11と同様となっている。また、鋼管矢板21の鋼管矢板本体31の第1の範囲54に形鋼材64が溶接されている構成以外は、従来の鋼管矢板壁と同様の構成とすることができる。
第4実施形態においては、第2実施形態と同様に、第1の範囲54が、上述のように曲げモーメント最大位置を上下の略中心として、鋼管矢板壁13の前記高さ(H)の0.5倍となる長さ(H×0.5)の範囲となっている。なお、第1の範囲54の上下長さは、第1実施形態と同様に、例えば、鋼管矢板壁13の高さ(H)の0.5倍から1.5倍となっていれば好ましいが、第1実施形態と同様に、鋼管矢板本体31の全体の曲げ剛性を高めた場合よりも、コストを低減しつつ十分な鋼管矢板壁13の変形量の抑制が見込めれば、第1の範囲54の長さが、鋼管矢板壁13の高さ(H)の0.5倍から1.5倍の範囲より短くても長くてもよい。
この例において、図5に示すように形鋼材64として二つのフランジ65と一つのウェブ66を有するH形鋼が用いられている。形鋼材64は、その一方のフランジ65の幅方向の中心部分が鋼管矢板本体31の第1の範囲54の外周面に当接された状態で、このフランジ65が鋼管矢板本体31に溶接されている。円筒状の鋼管矢板本体31の湾曲する外周面に対して平面状のフランジ65を当接することにより、鋼管矢板本体31とフランジ65の幅方向の中心より左右にずれた位置には、隙間が生じており、この隙間を用いて鋼管矢板本体31に、形鋼材64としてのH形鋼のフランジ65が溶接されている。
なお、鋼管矢板本体31の軸方向と、形鋼材64の軸方向とが平行とされるとともに、H形鋼である形鋼材64のウェブ66は、円筒状の鋼管矢板本体31の直径の延長線上に配置される。
また、この例において、形鋼材64は、鋼管矢板本体31の鋼管矢板壁13の二つの側面にそれぞれ対応する二つの側面のうちの上述の他方の高い方の地盤面42側となる側面に取り付けられている。この地盤面42の高い方の側面側では、鋼管矢板壁13の側面が地盤を構成する土砂に接した状態でなっているとともに、地盤面42が鋼管矢板壁13の略上端に達している。したがって、鋼管矢板本体31の第1の範囲54に取り付けられた形鋼材64は、地盤面42が高い側の地盤に埋設された状態となっており、地盤から露出しない状態となっている。なお、鋼管矢板本体31の逆側となる側面に形鋼材64を取り付けて、形鋼材64の一部が地盤から露出する構成としてもよい。
鋼管矢板本体31の第1の範囲54に形鋼材64を固定することにより、第1の範囲54の曲げ剛性を高くすることができる。なお、図5に示すように、鋼管矢板21は、鋼管矢板本体31の両側部にそれぞれ接合部材35,36が設けられ、この接合部材35,36により鋼管矢板21どうしが接合されて鋼管矢板壁13が形成されている。なお、第1実施形態から第3実施形態においても同様の構成となっている。但し、本発明の実施形態すべてにおいて、鋼管矢板の両側に設けられる継手部材による継手構造はいかなる形状のものでも適用可能であり、制限は受けない。
次に、第1実施形態から第4実施形態の鋼管矢板本体30,31の第1の範囲51,54の曲げ剛性が高くなるようにすること(以下、「補剛」ということがある。)の作用効果を、計算に基づくシミュレーションにより説明する。
シミュレーションにおける鋼管矢板壁71の設計条件を図6に示す。
図6(a)、(b)に示すように、シミュレーションにおける鋼管矢板壁71は、低い方の地盤面41から上端までの高さである鋼管矢板壁71の高さ(H)を8000mmとし、鋼管矢板72の直径を1200mmとし、鋼管矢板72を構成する鋼管(鋼管矢板本体73)の板厚を15mmとした。
また、図6(c)、(d)に示すように、地盤条件および壁に作用する土圧強度は、一般的なモデルである数値を仮定して採用した。また、地盤N値(標準貫入試験(JIS A 1219)によって求められる地盤の強度等を求める試験結果(数値)であるが、たとえば、スウェーデン式サウンディング調査による換算N値を用いるものとしてもよい)は、10または15とした。
このような設計条件で設計された鋼管矢板壁71においては、図7に示すように、計算によるシミュレーションにおいて、低い方の地盤面41の高さを0mとした場合に、鋼管矢板壁71に生じる曲げモーメントが低い方の地盤面41から下側に略2m(−2m)となる位置で最大となった。すなわち、深度−2mの地点で曲げモーメントはピークを示し、その上下方向ではピーク位置から離れるにしたがって曲げモーメントが大きく減少している。
また、曲げモーメントのピーク位置などの分布形状は、地盤N値が10と15とでほとんど変わらなかったので、地盤条件にほとんど影響されないことが分かった。
図8は、鋼管矢板壁71の上述の曲げモーメントが最大となる位置を略中心とする第1の範囲51,54の長さを0〜14mとし、第2の範囲52,53,55,56における曲げ剛性EI(E:ヤング係数、I:断面2次モーメント)に対して、第1の範囲51,54の曲げ剛性EIを1.5倍または2.0倍と、地盤N値を上述のように10または15とした場合の鋼管矢板壁71の上端(天端)の変形量を示している。なお、図8のグラフ上においては、地盤N値が15で曲げ剛性EIの倍率が1.5の場合と、地盤N値が10で曲げ剛性EIの倍率が1.5の場合と、地盤N値が15で曲げ剛性EIの倍率が2.0の場合と、地盤N値が10で曲げ剛性EIの倍率が2.0の場合とのケースに分けている。なお、曲げ剛性EIを1.5倍とする補剛は、概ね鋼管内にコンクリートを充填する場合に相当する。
ここで、第1の範囲の長さが0mの場合が、曲げ剛性を高めた部分としての第1の範囲51,54がない比較例としての鋼管矢板壁71となる。図8に示すように、地盤N値が高い方が、鋼管矢板壁71の上端の変形量が少なくなる。また、曲げ剛性EIの倍率が高い方が第1の範囲51,54の長さを長くした場合に、鋼管矢板壁71の変形量が少なくなる。ここで、鋼管矢板壁71の高さ(H)は、8000mm、すなわち8mなので、第1の範囲51,54の長さが4mの場合に前記高さ(H)の0.5倍の長さとなり、第1の範囲51,54の長さが8mの場合に前記高さ(H)の1.0倍の長さとなり、第1の範囲51,54の長さが12mの場合に、前記高さ(H)の1.5倍の長さとなる。
上述のいずれのケースも、第1の範囲51,54を部分補剛する前の変形量(すなわち補剛区間長としての第1の範囲51,54の長さが0m)に比べて第1の範囲51,54を部分補剛することで鋼管矢板壁71の上端の変位が抑えられる。前記高さ(H)の0.5倍の長さの第1の範囲51,54を補剛することで、鋼管矢板壁71の上端の変位を補剛しないものから約1〜2割減少させることができる。曲げ剛性EIが補剛しないものの1.5倍のものは、地盤N値が10の場合(図中白丸印)に、鋼管矢板壁71の上端の変位が64mmから57mmとなり、地盤N値が15の場合(図中黒丸印)に、鋼管矢板壁71の上端の変位が54mmから47mmとなる。補剛される第1の範囲を前記高さ(H)の1.0倍の長さとすると補剛前のものから約2〜3割減少させることができる。第1の範囲を前記高さ(H)の1.5倍の長さとすれば、鋼管矢板本体73の全長を補剛した場合とほぼ同等の変位量となることが判る。
図8の結果をさらに「変位抑制率α」と「第1の範囲の長さ/鋼管矢板壁高さ(H)」との関係で整理した結果を図9に示す。「変位抑制率α」は、下式により与えられる。
Figure 0005418838
ここで、前記式において、
部分補剛壁は、第1の範囲51,54が部分的に補剛された鋼管矢板72を用いた鋼管矢板壁71であり、
全長補剛壁は、全長が補剛された鋼管矢板72を用いた鋼管矢板壁71であり、
通常壁(無対策)は補剛されていない鋼管矢板72を用いた鋼管矢板壁71である。
図9から、補剛区間としての第1の範囲51,54の長さを壁高さ(H)の0.5倍の長さとすれば、α値が0.5程度を示し(すなわち全長補剛した場合の半分程度の変位となる)、第1の範囲51,54の長さを壁高さ(H)の1.5倍の長さとすれば、α値は0.9を超え、全長補剛した場合と略同等の変位になることが示されている。また、この挙動は、地盤条件や補剛区間となる第1の範囲51,54の曲げ剛性によらず、ほとんど変化しない。
図10は、鋼管矢板72の全長の板厚が一様の場合の鋼管矢板壁71の上端の変位と鋼管矢板72の板厚との関係を示したものである。設計条件は図8の計算例と同様に、図6に示した通りである(但し鋼管矢板72の板厚(t)の値を除く)。
図8で計算された鋼管矢板壁71の高さ(H)の0.5倍の長さを第1の範囲51,54として補剛した場合の変位と同程度の変位となる鋼管矢板72の厚さは、図10に示されるように、地盤N値が10、15のいずれであっても、概ね19mm以上が必要となる。
すなわち、鋼管矢板壁71の高さ(H)の0.5倍の長さの第1の範囲51,54を補剛することで、鋼管矢板72の重量を減少させ、鋼材費用として約2割低下させることができる。補剛のための費用は、その内容にもよるが、これらの費用は元々の材料費の1割程度と想定されるので、前記の鋼材費用の低減は補剛費用を吸収してさらにメリットがあるといえる。
なお、これらの検証結果は、図6に示した壁高さ(H)が8m、鋼管矢板径(φ)が1200mm、板厚(t)が15mmの場合であり、他のケースでも同様のことがいえるのかを検討した。壁高さ(H)が6m、鋼管矢板径(φ)が600mm、板厚(t)が9mmの場合について、鋼管矢板壁71の上端の変位と補剛区間としての第1の範囲51,54との関係を図11に、変位抑制率αと第1の範囲51,54の長さ/鋼管矢板壁71の高さ(H)との関係を図12に、鋼管矢板72の全長の板厚を増加させた場合(比較例)の鋼管矢板壁71の上端変位と鋼管矢板72の板厚との関係を図13に示す。
この結果、図11より、いずれのケースも、補剛しないものの変形量(補剛区間としての第1の範囲51,54の長さが0mの場合)に比べて補剛することで鋼管矢板壁71の上端の変位が抑えられる。鋼管矢板壁71の高さ(H)の0.5倍の長さ(第1の範囲51,54の長さが3m)を補剛することで、変形量が補剛前の約1〜1.5割減少し、第1の範囲の長さを鋼管矢板壁71の高さ(H)の1.0倍の長さ(6m)とすることで補剛前の約2〜2.5割の減少となり、さらに、第1の範囲51,54の長さを鋼管矢板壁71の高さ(H)の1.5倍の長さ(9m)とすれば、鋼管矢板本体73の全長を補剛した場合とほぼ同等の変位量となる。
また、変位抑制率αで整理した図12の結果からは、第1の範囲51,54の長さを鋼管矢板壁71の高さ(H)の0.5倍の長さとすることで、α値が0.5程度を示し、第1の範囲51,54の長さを鋼管矢板壁71の高さ(H)の1.5倍の長さとすることで、α値は0.9を超え、全長補剛した場合のα値1と略同等になった。
以上の結果は、先に述べた壁高さ(H)が8m、鋼管矢板径(φ)が1200mm、板厚(t)が15mmの場合(図8、9に示す結果)と同様である。
また、図11において、第1の範囲の長さを鋼管矢板壁71の高さ(H)の0.5倍とし、曲げ剛性EIを補剛前の1.5倍とした鋼管矢板壁では、地盤N値10の場合(図中白丸印)に、鋼管矢板壁71の上端の変位が77mmから69mmに低減され、地盤N値15の場合(図中黒丸印)に65mmから58mmに低減される。一方、厚さが全長一定の鋼管矢板72を使用すると、前記の部分補剛壁における変位と同程度とするには、図13より、地盤N値が10の場合に鋼管矢板本体73の板厚(t)を11.0mmを以上とし、地盤N値が15の場合に板厚(t)を11.2mmを以上とする必要がある。すなわち、第1の範囲を補剛することにより厚さが約2割薄い鋼管矢板を用いても、同程度の変位に抑えることができる。この結果も、先に述べた壁高さ(H)が8m、鋼管矢板径(φ)が1200mm、板厚(t)が15mmの場合(図8、10)と同様である。
以上の結果をまとめると、鋼管矢板72を全長補剛しなくても、曲げモーメント最大点を中心とし、その上下方向に壁高さの0.5倍以上の長さを有する第1の範囲51,54の曲げ剛性を高めることで、鋼管矢板72の全長の板厚を上げる従来技術と同等の鋼管矢板壁71の上端変位抑制効果を維持し、かつ、コスト的にメリットがある構造が提供できる。一方、第1の範囲51,54の長さを鋼管矢板壁71の高さ(H)の1.5倍以上としても変形量の抑制に対する効果はほとんど飽和しており、逆に材料のコストが高くなる分だけ、コストの面での効果が減少する。これは、壁高さや地盤条件、補剛方法が変わっても同様の傾向であり、本発明が幅広く適用可能なものであることを示している。
なお、鋼管矢板壁71の第1の範囲51,54を補剛する形態としては、第1実施形態から第4実施形態に示したように、鋼管の板厚を厚くする方法、鋼管内部にコンクリートを充填する方法、鋼管をSC杭で置き換える方法、鋼管を形鋼材(例えばH形鋼)で補剛する方法などが考えられるが、鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高めることができる方法ならば、その他の方法を用いてもよい。
10 鋼管矢板壁
11 鋼管矢板壁
13 鋼管矢板壁
20 鋼管矢板
21 鋼管矢板
30 鋼管矢板本体
31 鋼管矢板本体
35 継手部材
36 継手部材
41 低い方の地盤面
42 高い方の地盤面
51 第1の範囲
52 第2の範囲
53 第2の範囲
54 第1の範囲
55 第2の範囲
56 第2の範囲
59 充填コンクリート層
60 外殻鋼管付きコンクリート杭(SC杭)
64 形鋼材(H形鋼)

Claims (2)

  1. 鋼管矢板本体と当該鋼管矢板本体の両側にそれぞれ設けた継手部材とからなる複数の鋼管矢板を、前記継手部材により連結してなる鋼管矢板壁において、
    前記鋼管矢板本体は、当該鋼管矢板本体の軸方向に沿って、連結された前記鋼管矢板に生じる曲げモーメントが相対的に他の部分より大きくなる高さ位置を含む第1の範囲の曲げ剛性が、前記第1の範囲以外の部分となる第2の範囲の曲げ剛性より高く、
    前記鋼管矢板本体の第1の範囲に形鋼材が固定されていることを特徴とする鋼管矢板壁。
  2. 前記形鋼材がH形鋼であることを特徴とする請求項1に記載の鋼管矢板壁。
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