JP5919620B2 - 鋼管矢板式係船岸およびその設計方法 - Google Patents
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Description
このような係船岸に関しては、「港湾の施設の技術上の基準・同解説」((社)日本港湾協会)に即して設計される。
矢板式係船岸は、当初は鋼矢板(U型、Z型など)を用いて構築されていたが、係船岸の大水深化に伴い鋼矢板では設計として成り立たない場合が出てきて、それを克服するために、鋼管杭の両サイドに継ぎ手構造を溶接した鋼管矢板が用いられるようになってきた。
鋼管矢板を用いた鋼管矢板式係船岸は、工場で製造される鋼管矢板(JIS A 5530)であるSKY400(降伏点または耐力(以下、「鋼材降伏強度」と表記する)は235N/mm2以上)、SKY490(鋼材降伏強度は315N/mm2以上)を用いて構築される。
フリーアースサポート法とは、タイロッド取り付け点を中心として、主働土圧と受働土圧によるモーメントが釣り合うように根入れ長さを決定する方法である。
また、仮想ばり法とはタイロッド取り付け点と、海底面を支点として、地表面から海底面までの主働土圧を作用させて、発生する曲げ応力に対応できる矢板断面を決める方法である。
この問題を解決するため、非特許文献1に示されるように、高橋らは、矢板壁の剛性を考慮し、矢板壁の根入れ部分に関して弾性床上の梁として取り扱うRoweの方法に着目し、Roweの方法と、従来の設計法を比較検討した(非特許文献1参照)。
Roweの方法は解析的に解く必要があるため、設計実務としては利便性に欠けるものである。そこで、高橋らは、Roweの方法と従来の設計法を比較し、Roweの方法による必要根入れ長の簡易的に求める式((1)式)、や仮想ばり法で求めた最大曲げモーメントを、Roweの方法を満足する最大曲げモーメントに補正する方法((2)式)を提案した。
(1)式や(2)式は、現在実務で用いられている(以下、この方法をRoweの修正法という場合あり)。以下、(1)式、(2)式を説明する。
このωを用いて矢板の根入れ長は(1)式、最大発生モーメントは(2)式で求める。
DF/HT=5.0916ω-0.2-0.259 ・・・(1)
ここにDF:Roweの方法による必要根入れ長
HT:タイ材とりつけ地点から海底面までの高さ(m)
MF/MT=4.5647ω-0.2+0.1319 ・・・(2)
ここに、MF:Roweの方法を満足する最大曲げモーメント
MT:仮想ばり法で求めた最大曲げモーメント
鋼管矢板式係船岸は、図1に示すように、鋼管矢板の下端側を海底地盤に根入れすると共に、上端側をタイ材によって控え工で支持してなるものである。
試計算の条件は次に示すとおりである。
水深は-12m、-15mの2種類で係船岸天端は+3m、タイ材取り付け点は+1.5mで固定した。また、残留水位は無いものとした。
海底地盤は、緩い、中位、堅い、の3種類とした。せん断抵抗角と地盤反力係数lhは、「緩い」では、30°と24MN/m 3 、「中位」では、35°と38MN/m 3 、「堅い」では40°と58MN/m 3 とした。
鋼管矢板式係船岸の背後には裏込石を配置することにし、せん断抵抗角は40°とした。
地盤の単位体積重量は、海底地盤、裏込石とも共通で水中単位体積重量は10kN/m3、気中では18kN/m3とした。
設計震度は、レベル1地震を対象として、地域ごとの設計地震動を用いて検討地点の地盤の1次元地震応答解析結果から設計震度を求めることになっているが、本検討では0.20と0.25を対象とした。
鋼管矢板に関しては、L-T継ぎ手(L-75×75×9、T-125×9)を対象として、φ500t9〜φ1400t16(φは直径(mm)、tは板厚(mm))まで100mmピッチの断面を対象とした。なお、板厚は各サイズに対する最小板厚とその次に厚い板厚を用いた。
鋼材降伏強度の特性値は、SKY400は235N/mm2、SKY490は315N/mm2とした。それ以上の高強度材料については、400N/mm2、450N/mm2、500N/mm2、550N/mm2、600N/mm2、650N/mm2、700N/mm2、750N/mm2とした。仮想ばり法とRoweの修正法で求めた発生応力に構造解析係数γa=1.12をかけた値が、鋼材降伏強度の特性値以下になるように断面を決定した。
図2中に示す破線は(2)式のωに、それぞれlh=24MN/m 3 、38MN/m 3 、58MN/m 3 を代入してρとMF/MTとして曲線を引いたものである。
図2に示すように、SKY400(降伏強度235N/mm2)では、ρは26から56、MF/MTは1.04〜1.40に分布し、SKY490(降伏強度315N/mm2)では、ρは49〜96、MF/MTは1.04〜1.40に分布することがわかる。どちらも、MF/MTが1を大きく上回るケースが多く、鋼管矢板壁の剛度が高いため、鋼管矢板壁に発生する曲げモーメントが大きくなってしまうことになる。
また、破線で示した曲線の傾きの絶対値が大きく、少々の条件の変更で、発生する曲げモーメントが大きく変化し、設計が非常に敏感であることがわかる。
現在一般に使用されている鋼管矢板の鋼種であるSKY400とSKY490を用いる限り、上記のようにMF/MTが1を大きく上回り、その結果、前述したように、根入れ深さを深くしなければならず、鋼重が増えると共に建設コストが増大し、さらに設計が難しいという課題から逃れることはできない。
したがって、鋼材降伏強度の特性値が315N/mm2より大きい鋼管矢板(ここでは、例として450N/mm2と550N/mm2)を用いることでMF/MTが従来材に比べて大幅に小さくなり、鋼重を減らすことができ、建設コストが増大を抑制できる。また、図2のグラフから分かるように、破線で示した曲線の傾きの絶対値が小さく、少々の条件変更では、発生する曲げモーメントの変化が小さく、設計に対して鈍感であることがわかる。
こように、鋼材降伏強度の特性値が、少なくとも315N/mm2よりも大きい鋼管矢板を用いることが有効であるとの知見を得た。
図2において、lh=24MN/m 3 の曲線上にあり、水深-15mで鋼材降伏強度の特性値が315N/mm2の場合における図中最も右にある▲のρの値はρ=82であり、lh=58MN/m 3 の曲線上にあり、水深-15mで鋼材降伏強度の特性値が315N/mm2の場合における図中最も右にある▲のρの値はρ=96である。
これらからρをlhの1次関数として(lh,ρ)が(24,82)と(58,96)の2点を通る線として設定した。つまり、直線の傾きは、(96-82)/(58-24)=7/17=0.412となり、ρ切片は、82-7/17×24=72.1176=72.118となる。
したがって、鋼材降伏強度の特性値が、315N/mm2よりも大きい鋼管矢板を用いることは、下記の(3)式で表現することができる。
ρ(=HT 4/EI)>0.412lh+72.118 ・・・(3)式
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成を備えてなるものである。
ρ(=HT 4/EI)>0.412lh+72.118
但し、HT:海底面からタイ材取り付け位置までの高さ(m)
E:鋼管矢板のヤング率(MPa)
I:単位幅あたりの鋼管矢板壁の断面2次モーメント(m4/m)
lh:地盤反力係数(MN/m 3 )
(3)本発明に係る鋼管矢板式係船岸の設計方法は、下端側を地盤に根入れすると共に上端側をタイ材によって控え工で支持する鋼管矢板式係船岸の設計方法であって、
鋼管矢板壁の剛度を表すパラメータρ(=HT 4/EI)が下式を満たすように設定することを特徴とするものである。
ρ(=HT 4/EI)>0.412lh+72.118
但し、HT:海底面からタイ材取り付け位置までの高さ(m)
E:鋼管矢板のヤング率(MPa)
I:単位幅あたりの鋼管矢板壁の断面2次モーメント(m4/m)
lh:地盤反力係数(MN/m 3 )
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記鋼管矢板の設計で用いることができる鋼材降伏強度の特性値を400〜700N/mm2とすることを特徴とするものである。
好適な鋼材降伏強度の特性値の範囲を求めるに際して、前述した図1に示す鋼管矢板式係船岸について、前述したのと同様に、さまざまな条件における鋼管矢板式係船岸の試計算を行った。
試計算の条件を再掲すると以下の通りである。
海底地盤は、緩い、中位、堅い、の3種類とした。せん断抵抗角と地盤反力係数lhは、「緩い」では、30°と24MN/m 3 、「中位」では、35°と38MN/m 3 、「堅い」では40°と58MN/m 3 とした。
鋼管矢板式係船岸の背後には裏込石を配置することにし、せん断抵抗角は40°とした。
地盤の単位体積重量は、海底地盤、裏込石とも共通で水中単位体積重量は10kN/m3、気中では18kN/m3とした。
設計震度は、レベル1地震を対象として、地域ごとの設計地震動を用いて検討地点の地盤の1次元地震応答解析結果から設計震度を求めることになっているが、本検討では0.20と0.25を対象とした。
鋼管矢板に関しては、L-T継ぎ手(L-75×75×9、T-125×9)を対象として、φ500t9〜φ1400t16(φは直径(mm)、tは板厚(mm))まで100mmピッチの断面を対象とした。
鋼材降伏強度の特性値は、SKY400は235N/mm2、SKY490は315N/mm2とした。それ以上の高強度材料については、400N/mm2、450N/mm2、500N/mm2、550N/mm2、600N/mm2、650N/mm2、700N/mm2、750N/mm2とした。仮想ばり法とRoweの修正法で求めた発生応力に構造解析係数γa=1.12をかけた値が、鋼材降伏強度の特性値以下になるように断面を決定した。
これらに対して、鋼材降伏強度の特性値を400N/mm2とした場合には、鋼管矢板断面、MF/MTおよび鋼重は、それぞれφ800t12、0.938、7.33(t/m)となる。
使用鋼材重量についてみると、SKY400を1.0とすると、SKY490では0.81、鋼材降伏強度の特性値を400N/mm2とすると0.64となる。
このように、鋼材降伏強度の特性値を400N/mm2とすると大幅に使用鋼材重量を低減することがでる。
図3は整理の結果を示すグラフであり、-12m水深の係船岸について、縦軸がSKY400に対する使用鋼材重量の鋼重比を示し、横軸が鋼材降伏強度の特性値を示している。また、図4は、-15m水深の係船岸について、縦軸がSKY400に対する使用鋼材重量の低減率を示し、横軸が鋼材降伏強度の特性値を示している。
図3、図4にグラフにおいては、各降伏強度について6ケース(表1、2における「Case1」,「Case1M」,「Case1D」,「Case1-25」,「Case1M-25」,「Case1D-25」)の計算を行いその平均値をプロットしたものである。
一方、-15m水深では、700N/mm2まで鋼材降伏強度の特性値を上げていく効果が現れている。したがって、両者の結果から、好適な鋼材降伏強度の特性値は400N/mm2〜700N/mm2の間にあることがわかる。
3 鋼管矢板
5 地盤
7 タイ材
9 控え工
Claims (4)
- 下端側を地盤に根入れすると共に上端側をタイ材によって控え工で支持する鋼管矢板式係船岸であって、
鋼管矢板壁の剛度を表すパラメータρ(=HT 4/EI)が下式を満たすことを特徴とする鋼管矢板式係船岸。
ρ(=HT 4/EI)>0.412lh+72.118
但し、HT:海底面からタイ材取り付け位置までの高さ(m)
E:鋼管矢板のヤング率(MPa)
I:単位幅あたりの鋼管矢板壁の断面2次モーメント(m4/m)
lh:地盤反力係数(MN/m 3 ) - 前記鋼管矢板の設計で用いることができる鋼材降伏強度の特性値を400〜700N/mm2とすることを特徴とする請求項1記載の鋼管矢板式係船岸。
- 下端側を地盤に根入れすると共に上端側をタイ材によって控え工で支持する鋼管矢板式係船岸の設計方法であって、
鋼管矢板壁の剛度を表すパラメータρ(=HT 4/EI)が下式を満たすように設定することを特徴とする鋼管矢板式係船岸の設計方法。
ρ(=HT 4/EI)>0.412lh+72.118
但し、HT:海底面からタイ材取り付け位置までの高さ(m)
E:鋼管矢板のヤング率(MPa)
I:単位幅あたりの鋼管矢板壁の断面2次モーメント(m4/m)
lh:地盤反力係数(MN/m 3 ) - 前記鋼管矢板の設計で用いることができる鋼材降伏強度の特性値を400〜700N/mm2とすることを特徴とする請求項3記載の鋼管矢板式係船岸の設計方法。
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