JP5445351B2 - 盛土の補強構造 - Google Patents
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なお、従来の盛土の補強構造の概略を示す図13および図14において、盛土1は、上述のように河川堤防であり、図中盛土1の左側が河川10となっている。また、盛土1が設置される地盤においては、地震時に液状化する虞がある液状化層8の下側が支持層9となっている。
非特許文献1には、液状化時対策としての根入れ長の計算方法として、「「フリーアースサポート法」による計算方法」と、「『鋼矢板2重式仮締切設計マニュアル』の参考資料1による方法」の2通りが示されている。
後者においても同様に受働側の抵抗としては、非液状化層のみを考慮する方法が示されている。これら二つの方法では、鋼矢板3は非液状化層(支持層9)にまで根入れされることが想定されている。
多くの盛土で地震等に対する対策を行う必要があり、盛土の補強にかかるコストの低減が求められている。
前記地中鋼製壁体は、支持層より浅い深さで、かつ、地震時や越水時に前記地中鋼製壁体が倒壊しない深さまで根入れされ、
前記盛土の連続方向に隣り合う前記鋼矢板および/または前記鋼管矢板の上端部またはこの上端部近傍が互いに溶接によって固定されることによって、隣り合う鋼矢板および/または前記鋼管矢板がばらばらに沈下するのが防止されていることを特徴とする。
このような深さまで根入れされた矢板は、支持層まで根入れされている矢板より長さが短くなる。また、上述のように、鋼矢板下端と支持層との間に存在する液状化層が免震効果を果たし、地中鋼製壁体に発生する曲げひずみが低減されるので、矢板の断面を低減することが可能である。これらのことから、地中鋼製壁体の構築にかかる鋼材費を低減することができる。
したがって、壁体が支持層まで根入れされていない構造では、地下水の流れを確保しながら盛土を補強することができる可能性が高い。よって、地下水の流れを確保するために、矢板に透水孔などを設けなくてもよく、開孔に係る加工コストが削減できる。
支持層まで根入れされていない地中鋼製壁体(又はそのうちの第1領域)は、地震が発生した場合に、壁体が倒壊することはないが、液状化層が液状化することにより沈下する可能性があり、そのとき矢板同士が固定されていないと矢板ごとに沈下量が異なってしまう虞がある。
請求項1の発明においては、各矢板の上端部もしくはその近傍で互いに溶接によって固定することによって、各矢板が個々に異なる深さに沈下せず、ほぼ一様に沈下する。
当該地中鋼製壁体は、当該地中鋼製壁体で仕切られた片側の盛土が無くなった状態を仮定した場合に、前記地中鋼製壁体の両側からそれぞれ作用する土圧および水圧による水平力が釣り合う深さ以下で、かつ、支持層より上の位置まで根入れされていることを特徴とする。
この状態で、地中鋼製壁体が倒壊しないように、地中鋼製壁体の両側からそれぞれ作用する土圧および水圧による水平力が釣り合う深さ以下まで地中鋼製壁体を構成する矢板を根入れする必要がある。
このような深さは、地盤調査と、それに基づくシミュレーションや実験により求めることができる。
前記深さまで地中鋼製壁体を根入れするものとしても、支持層より根入れ深さが上となっているので、上述のように鋼材費の低減を図ることができる。
前記地中鋼製壁体は、支持層より浅い深さで、かつ、地震時や越水時に前記地中鋼製壁体が倒壊しない深さまで根入れされている第1領域と、前記支持層まで根入れされている第2領域とが交互に形成され、
各第1領域の盛土の延長方向の長さが、各第2領域の盛土の延長方向の長さよりも長く、
前記盛土の連続方向に隣り合う前記鋼矢板および/または前記鋼管矢板の上端部またはこの上端部近傍が互いに溶接によって固定されることによって、隣り合う鋼矢板および/または前記鋼管矢板がばらばらに沈下するのが防止されていることを特徴とする。
各矢板の上端部もしくはその近傍で互いに溶接によって固定することによって、各矢板が個々に異なる深さに沈下せず、ほぼ一様に沈下する。また、支持層まで達している第2領域の矢板に固定されているので、ほとんど沈下しない。したがって、例えば、地震後の復旧作業時に盛土の天端を道路として使用することが容易である。
前記地中鋼製壁体が前記盛土の連続方向に沿って一列設けられ、
当該地中鋼製壁体の第1領域は、当該地中鋼製壁体で仕切られた片側の盛土が無くなった状態を仮定した場合に、前記地中鋼製壁体の両側からそれぞれ作用する土圧および水圧による水平力が釣り合う深さ以下で、かつ、支持層より上の位置まで根入れされていることを特徴とする。
図1に示すように、この実施形態の盛土の補強構造は、例えば、河川の堤防、道路・鉄道盛土等の盛土を補強するためのものであるが、河川の堤防を例に取って説明する。
盛土1の構造は、上述の従来の盛土の補強構造における盛土と同様であり、下端部が法尻2で上端部が法肩5である法面7を左右に有し、左右の法面7の間の上端部が天端6となっている。また、堤内側の盛土1の法尻2には浸透破壊を防止するためにドレーン材15が設けられていてもよい。
また、この実施の形態では、盛土1に一列に設けられた地中鋼製壁体14は、盛土1の幅方向(盛土1の長手方向に直交する水平な方向)の中央部、すなわち、天端6の幅方向の中央部に配置されている。
地中鋼製壁体14の頭部(上端部)は、盛土1の天端6と同じ高さもしくはそれより少し下に位置している。
この倒壊しない根入れ深さとは、例えば、盛土の基礎地盤の状態、すなわち、液状化層8の状態により変化するものであるが、例えば、地盤調査の結果に基づくシミュレーションや実験等に基づいて決定することができる。
1.実験模型
実験に用いた模型は、幅2800mm×高さ900mm×奥行き695mmの剛な土槽11(図2、図3に図示)に、模型地盤として、締固め層12(支持層9に相当する)、液状化層8、盛土層(盛土1)の3層を作製した。さらに、土槽11の側壁には所定位置に開閉調節が可能なバルブ付きの孔が設けられ、盛土1の左右それぞれで水位調節が可能となっている。
以下の3種類の実験を行った。
実験1;加振実験
地震時を想定し、盛土両側の水位を地表面に保った状態でレベル2地震動を想定した水平加振を行い、盛土の挙動を調査した。加振波形を図4に示す。この加振波形は、1995年兵庫県南部地震の際に神戸海洋気象台で観測された加速度記録(NS成分)を用いたが、実際よりも模型の寸法が小さいことを考慮して、卓越周波数が実際よりも高い5Hz程度になるように継続時間を調整した。
想定外の集中豪雨により河川水位が計画水位よりも上昇したケースを想定したもので、盛土1の片側の水位を上昇させて越流を生じさせたときの盛土1の挙動を調査した。さらに、越水後の高水状態で余震が生じる最も厳しい条件を想定し、越水実験後に水位を保ったまま上記の加振条件で加振実験を行い、盛土1の挙動を調査した。
まず、地震の影響を受けない高水状態を想定し、一方の水位を水平地盤部の地表面位置に保ちながら、反対側の水位を地表面から毎分10mmの速度で上昇させ、定常流の状態における浸透流量の計測を行った。次に、地震の影響を受けた直後に高水が生じた場合を想定し、前述の加振実験で堤防が損傷を受けた状態のまま、越流が生じない程度まで加振前の浸透実験と同様に、片側の水位を毎分10mmの速度で上昇させ、定常流の状態における浸透流量の計測を行った。
実験1;加振実験
Case2では、盛土1中央部の天端6は約50mm沈下する結果であった。一方、地中鋼製壁体14を模擬した鉄板18は、約10mm沈下したものの倒壊などの不安定現象が生じず、天端高さを概ね維持した。
次に、Case2において、盛土の片側の水位を上昇させて越水を生じさせた際には、越流水は、水位を上昇させた高水位側から低水位側に向かって(図3で左から右に向って)越水する。河川堤防を想定すれば、堤外側から堤内側に越水する。
加振時の状態は、両側で水位差があり偏荷重状態であることに加え、越水実験により堤内側の盛土1は崩壊していることから、盛土1部分での受働抵抗が期待できない状態となっている。よって、鉄板18にとって大変厳しい条件であったが、鉄板18の頭部は水平方向に100mm程度変位したものの鉄板18は倒壊に至らなかった。また、鉄板18の上端の高さが確保されることにより、堤外側に貯留する水が堤内側に流れ込むことは防止された。これは、加振により上昇した過剰間隙水圧が消散した後は、液状化層も地盤剛性が回復し矢板13を支持する層として機能したためと考えられる。
Case1およびCase2における、加振前および加振後の浸透流量の一覧を、表1に示す。
なお、Case2で加振後に浸透流量が減少した理由としては、加振により液状化層8で根入れを留めた鉄板18が約10mm沈下したためと考えられる。これは、加振前は鉄板18の下端と支持層9との間に30mmのクリアランスがあり、加振により約10mm沈下したことにより、鉄板18の下端を浸透する通水面積が初期の約2/3となっており、浸透流量が加振後に約2/3に減少したこととも整合している。
(壁体(矢板)の根入れ深さ)
本発明では、地中鋼製壁体14(矢板13)は、支持層9に到達しない範囲でかつ地震時や越水時にも倒壊しないような深さにまで根入れされる。根入れ深さの決定方法について以下に説明する。以下の説明での具体的な数値は、上記実験例におけるものである。
したがって、地中鋼製壁体14に用いられる矢板13の長さを短くできるとともに、断面を低減でき、地中鋼製壁体14に必要とされる鋼材費を低減することができる。
盛土の延長方向の第2領域14cを設けるピッチ(第1領域14bの長さ)および第2領域14cの長さは抑制したい沈下の程度や検討条件により決定すればよいが、鋼材コストおよび浸透水の流れを十分確保する面からは、第2領域14cが少ない方ほど好ましいのはいうまでもない。したがって、各第1領域は各第2領域よりも長くし、例えば、目安としては、盛土1の延長方向に沿って第1領域14bの10〜20mごとに第2領域14cを構成する長い矢板13aを1枚〜数枚設ける程度が適当と考えられる。
地中鋼製壁体14を一列とする場合、幅方向におおむね対称である多くの盛土1においては、盛土1の幅方向中央部に配置すれば、通常時に地中鋼製壁体14の左右で矢板13に生じる土圧を均衡させることができる。地中鋼製壁体14を盛土1の法肩5付近に設けてもよいが、地中鋼製壁体14片側からは盛土1の土圧が作用し、反対側は地中鋼製壁体14を支持する側方からの土圧が期待できないため、地震時に矢板13に水平変位が生じないように、必要な矢板13の断面が大きくなって必要コストが増加する恐れがある。
2 法尻
6 天端
8 液状化層
9 支持層
12 締固め層(支持層)
13 矢板(鋼矢板および/または鋼管矢板)
14,14a 地中鋼製壁体
14b 第1領域
14c 第2領域
Claims (6)
- 連続する盛土の略天端の範囲内に、鋼矢板および/または鋼管矢板からなる地中鋼製壁体が、前記盛土の連続方向に沿って一列以上設けられ、
前記地中鋼製壁体は、支持層より浅い深さで、かつ、地震時や越水時に前記地中鋼製壁体が倒壊しない深さまで根入れされ、
前記盛土の連続方向に隣り合う前記鋼矢板および/または前記鋼管矢板の上端部またはこの上端部近傍が互いに溶接によって固定されることによって、隣り合う鋼矢板および/または前記鋼管矢板がばらばらに沈下するのが防止されていることを特徴とする盛土の補強構造。 - 前記地中鋼製壁体が前記盛土の連続方向に沿って一列設けられ、
当該地中鋼製壁体は、当該地中鋼製壁体で仕切られた片側の盛土が無くなった状態を仮定した場合に、前記地中鋼製壁体の両側からそれぞれ作用する土圧および水圧による水平力が釣り合う深さ以下で、かつ、支持層より上の位置まで根入れされていることを特徴とする請求項1に記載の盛土の補強構造。 - 連続する盛土の略天端の範囲内に、鋼矢板および/または鋼管矢板からなる地中鋼製壁体が、前記盛土の連続方向に沿って一列以上設けられ、
前記地中鋼製壁体は、支持層より浅い深さで、かつ、地震時や越水時に前記地中鋼製壁体が倒壊しない深さまで根入れされている第1領域と、前記支持層まで根入れされている第2領域とが交互に形成され、
各第1領域の盛土の延長方向の長さが、各第2領域の盛土の延長方向の長さよりも長く、
前記盛土の連続方向に隣り合う前記鋼矢板および/または前記鋼管矢板の上端部またはこの上端部近傍が互いに溶接によって固定されることによって、隣り合う鋼矢板および/または前記鋼管矢板がばらばらに沈下するのが防止されていることを特徴とする盛土の補強構造。 - 前記地中鋼製壁体が前記盛土の連続方向に沿って一列設けられ、
当該地中鋼製壁体の第1領域は、当該地中鋼製壁体で仕切られた片側の盛土が無くなった状態を仮定した場合に、前記地中鋼製壁体の両側からそれぞれ作用する土圧および水圧による水平力が釣り合う深さ以下で、かつ、支持層より上の位置まで根入れされていることを特徴とする請求項3に記載の盛土の補強構造。 - 前記地中鋼製壁体は、盛土の幅方向の位置として、通常時にはこの地中鋼製壁体の両側にかかる土圧が均衡する位置に配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の盛土の補強構造。
- 盛土の少なくとも一方の法尻部分に、地中鋼製壁体が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の盛土の補強構造。
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