以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
(塗装亜鉛系めっき鋼板)
本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の少なくとも片面(めっき表面)に下層酸化ケイ素系皮膜(A)および上層の有機樹脂系皮膜(B)を有し、下層酸化ケイ素系皮膜(A)と上層有機樹脂系皮膜(B)との間に中間層皮膜(C)を有する塗装亜鉛系めっき鋼板である。上層の有機樹脂系皮膜(B)は、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、シラノール基のうちの少なくとも1種を構造中に有する、厚み0.5〜10μmの皮膜であり、中間層皮膜(C)は、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、シラノール基のうちの少なくとも1種を構造中に有する有機樹脂、シランカップリング剤、およびポリフェノール化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、厚み0.01〜2μmの皮膜である。酸化ケイ素系皮膜の900〜1000cm-1におけるSi−OH由来の赤外吸収スペクトル強度ISiOHと1000〜1250cm-1におけるSi−O−Si結合由来の赤外吸収スペクトル強度ISiOSiとの比ISiOH/ISiOSiは、少なくとも0.1である。
鋭意検討の結果、本発明者らは、900〜1000cm-1におけるSi−OH結合由来の赤外吸収スペクトル強度ISiOHと1000〜1250cm-1におけるSi−O−Si結合由来の赤外吸収スペクトル強度ISiOSiとの比ISiOH/ISiOSiが少なくとも0.1である酸化ケイ素系皮膜が、高い塗装密着性と高い耐食性とをもたらすことを見出した。ここで、酸化ケイ素系皮膜とは、皮膜構成成分のうち、酸化ケイ素及び/又は水酸化ケイ素が、金属元素質量比換算で皮膜中に最も高い比率で存在する皮膜、もしくは金属換算でケイ素を30質量%以上含有する皮膜のことを示す。
この塗装密着性と耐食性の特性が向上する機構については、本発明者は、次のように推定している。
酸化ケイ素系皮膜の900〜1000cm-1におけるSi−OH結合由来の赤外吸収スペクトル強度ISiOHと1000〜1250cm-1におけるSi−O−Si結合由来の赤外吸収スペクトル強度ISiOSiとの比ISiOH/ISiOSiが少なくとも0.1である、即ち、水酸化ケイ素をある一定量以上含む酸化ケイ素系皮膜は、その上に形成される皮膜と化学結合や水素結合等で強固な結合を形成できるために、優れた塗装密着性を示す。本発明においては、その酸化ケイ素系皮膜と酸化ケイ素系皮膜と、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、シラノール基を構造(すなわち、主鎖および/又は側鎖)中に有する有機樹脂系皮膜の中間層皮膜とが高い密着性を有することを見出した。中間層皮膜がシランカップリング剤を含む皮膜またはポリフェノール化合物を含む皮膜の場合も、シランカップリング剤のシラノール基またはポリフェノール化合物中の水酸基の存在により、酸化ケイ素系皮膜中のSi−OHとの強固な結合が形成されて、酸化ケイ素系皮膜と中間層皮膜との高い密着性が発現されることを見出した。これは、ある一定量以上のSi−OH基と樹脂の特定の官能基とが化学結合することにより、強い密着力が発揮できることによると、本発明者は推定している。また、酸化ケイ素も含むため、バリヤ性が高く、耐食性の向上にも寄与している。
この酸化ケイ素系皮膜の平均厚さは、1nm〜1μmであることが好ましい。より好ましくは1nm〜300nmである。
Si−OH基を有する比(ISiOH/ISiOSi)が、0.1〜5(更には、0.1〜2)であることが好ましい。この比が0.1未満では密着性が不足する傾向がある。他方、この比が5超ではSiO2比率が少なくなることによるバリヤ性低下起因による耐食性低下がみられる場合がある。
後述するように、酸化ケイ素系皮膜に更にTi化合物、Zr化合物、V化合物、Nb化合物、P化合物のうち少なくとも一種を含有させることにより、塗装亜鉛系めっき鋼板の耐食性を更に高めることができる。
Ti化合物、Zr化合物:バリヤ性向上による耐食性向上効果
V化合物、Nb化合物:インヒビター作用による耐食性向上効果
P化合物:バリヤ性、インヒビター性双方の作用による耐食性向上効果
本発明においては、酸化ケイ素系皮膜をフッ化物フリーの膜とした態様においては、材料起因の発錆が、より効果的に抑制される。なお、ISiOH/ISiOSiが5を超えると、酸化ケイ素が少ないことによるバリヤ性低下起因と思われる耐食性低下が見られる場合がある。
ここで、赤外吸収スペクトル強度は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光分析)の高感度反射法により得た。図1は、この方法で測定された酸化ケイ素系皮膜の赤外吸収スペクトルの一例である。
図1に示すように、Si−O−Si結合及びSi−OH結合は、それぞれ1000〜1250cm-1、900〜1000cm-1に吸収ピークが得られる。1000〜1250cm-1のSi−O−Si結合由来のピークは、環状、直鎖状などのシロキサン結合に帰属されるものである。
図1において、850cm-1近傍の吸収ピーク底部、1330cm-1近傍の吸収ピーク底部を接線で結び、これをバックグラウンドのベースラインとしてそのベースラインからの各ピークの吸光度ピーク高さを測定し、それをピーク強度とした。
測定条件としては、例えばFT−IR(商品名「FT/IR−4100」、日本分光(株)製)に高感度反射用測定器具(商品名「RAS PRO410−H」、日本分光(株)製)を取り付け、入射角85℃、分解能4cm-1、積算回数50回で測定することができる。
また、KBr錠剤法又はATR法(Attenuated Total Reflectance:全反射吸収分光法)を用いた方法でも可能である。その場合、測定方法、機器の違いにより、ピーク位置のシフトが生じる場合があるが、その場合は他にX線光電子分光法などを併用してピーク位置を特定し、ピーク位置を補正してピーク強度を測定すればよい。
(IR測定用サンプルの調製)
本発明において、「酸化ケイ素系膜」のFT−IR用試料は、その上に位置する「中間層皮膜(C)」を形成する前の酸化ケイ素系皮膜(ないしは、「中間層皮膜(C)」も「有機樹脂系皮膜(B)」も形成しない箇所の酸化ケイ素系皮膜)について行う。例えば、亜鉛系めっき鋼板の上に、第1層→第2層→第3層・・・と各上層を形成する態様においては、該亜鉛系めっき鋼板の端部に、第1層のみ形成した部分、(第1層+第2層)のみ形成した部分、(第1層+第2層+第3層)を形成した部分というように、実際の亜鉛系めっき鋼板上に、いわば段々畑のような物性測定部分を形成しておく。このような物性測定部分について、必要な各物性測定を行うことができる。
(酸化ケイ素系皮膜の平均厚さ)
酸化ケイ素系皮膜の平均厚さは、1nm以上1μm以下が好ましい。酸化ケイ素系皮膜の平均厚さは、より好ましくは1nm以上300nm以下である。1nm未満では、被覆率が100%未満の場合があり、耐食性、塗装密着性が不充分となることがある。また、300nm超の場合、塗装密着性が飽和するため、耐食性の要求が厳しくない用途には充分使用可能である。また、1μm超の場合は、塗装密着性及び耐食性が飽和するため経済的ではなく、また、応力集中により剥離する場合があり、不具合を生じる場合がある。
ここで、平均厚さとは、酸化ケイ素系皮膜の1000倍〜20万倍程度(好ましくは、1〜3万倍程度)の断面SEM(走査型電子顕微鏡)観察又は断面TEM(透過型電子顕微鏡)観察において、任意の10視野で測定された膜厚の平均値を意味する。なお、塗装密着性とは、塗装やラミネート等により形成された有機樹脂層との密着性を意味する。
次に、本発明において亜鉛系めっき鋼板表面に酸化ケイ素系皮膜を形成するのに用いる金属表面処理剤について述べる。
(金属表面処理剤)
酸化ケイ素系皮膜のケイ素源となるケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等を用いることができ、これらに関して特に制約はない。濃度範囲は、1mM〜1M(mol/L)が好ましい。1mM未満では、成膜速度が小さいため経済的ではなく、また、カソード電解時に所謂「やけ」を生じる場合がある。1M超では、成膜速度が飽和しており高濃度化の効果がなく、水洗水等の廃液処理費が上昇するため経済的ではない。ケイ酸塩の濃度範囲は、より好ましくは5mM〜500mMであり、更に好ましくは10mM〜100mMである。
酸素酸アニオンとしては、例えば、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン等を用いることができる。特に、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオンを用いることが好ましく、具体的にはリン酸、硝酸、硫酸である。
浸漬により成膜する場合、濃度範囲はケイ酸塩濃度以上に相当する規定であることが好ましい。1倍未満ではISiOH/ISiOSiが5を超える場合があり、10倍超では水素発生反応が活発に起こり、成膜量が安定しない場合がある。酸素酸アニオンの濃度範囲は、好ましくは1倍超であり、より好ましくは1.5倍以上6倍以下であり、更に好ましくは2倍以上4倍以下である。
カソード電解により成膜する場合、濃度範囲はケイ酸塩濃度と同等以上に相当する規定が好ましい。1倍未満では、処理水溶液のpHが塩基性を示す場合があり、成膜挙動が不安定な場合がある。また、10倍超では、水素発生反応が活発に起こり、成膜量が安定しない場合がある。酸素酸アニオンの濃度範囲は、より好ましくは1倍以上3倍以下であり、更に好ましくは1倍以上2倍以下である。
金属表面処理剤のpHは、1以上4以下が好ましい。処理液pHが1未満では、水素発生反応が活発に起こり、低密度の皮膜となる場合がある。一方、処理液pHが4より大きい場合は、溶液が不安定で凝集したものが析出する場合がある。pH調整は、前記の酸素酸アニオン、アンモニウム水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いればよく、特に制約はない。
また、金属表面処理剤の調製には工業薬品が使用でき、これにより不純物としてケイ素以外の不可避金属元素が混入しても、皮膜形成には何ら影響を与えない。更に、得られた皮膜に不純物としてケイ素以外の不可避金属元素が混入しても、特性には何ら影響を与えない。
(フッ素イオンフリーの態様)
本発明においては、材料起因の発錆をより効果的に抑制する点から、フッ素イオンフリーの態様の酸化ケイ素系皮膜を形成することが好ましい。このようなフッ素イオンフリーの態様の酸化ケイ素系皮膜は、種々の環境上の観点からも好ましい。ここに、「フッ素イオンフリーの酸化ケイ素系皮膜」とは、形成された皮膜の単位面積当たりの総重量に対し、フッ素原子としての重量%が0.0001%未満であることとする。
(化成処理による酸化ケイ素系皮膜の形成)
本発明においては、亜鉛系めっき表面と中間層皮膜との密着性を確保するの点から、化成処理(すなわち、LPD(Liquid Phase Deposition)処理)により、前記酸化ケイ素系皮膜を形成することが好ましい。
(LPD処理)
本発明において、酸化ケイ素系皮膜の形成にLPD処理を用いる態様においては、該酸化ケイ素系皮膜は、Siと、Ti、Zr、V、Nb、Taから選ばれる1〜4種の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともSiと、Ti、Zrのうち1種以上の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含む金属(水)酸化物皮膜層を有することが好ましい。このような場合に、本発明において、更に優れた裸耐食性が得られるとともに、上層に形成する有機樹脂系皮膜層との密着性にも優れ、クロメート皮膜と同等以上の性能が得られる。
(LPD処理による酸化ケイ素系皮膜の好適な態様)
(1)下記c群を含有しかつa〜b群から選ばれる1種以上の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともc群から選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方(金属(水)酸化物)を含む酸化ケイ素系皮膜。
a群:Ti、Zr
b群:V、Nb、Ta
c群:Si
(2)前記皮膜がc群を含有し、かつa〜b群から選ばれる3種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともc群から選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含む前記(1)記載の酸化ケイ素系皮膜。
(3)前記皮膜がc群を含有し、かつa〜b群の各群から各々1種ずつ選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなる前記(2)記載の酸化ケイ素系皮膜。
(4)前記皮膜がc群を含有し、かつa〜b群から選ばれる2種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともc群から1種以上選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含む前記(1)記載の酸化ケイ素系皮膜。
(5)前記皮膜がc群を含有し、かつa〜b群から選ばれる2種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、c群から1種選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物と、a群またはb群から1種選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含む皮膜を有する前記(4)記載の酸化ケイ素系皮膜。
(6)該皮膜の金属換算量が5〜200mg/m2である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の酸化ケイ素系皮膜。
(7)c群から選ばれる元素の割合が該皮膜の金属換算量の30mol%以上である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の酸化ケイ素系皮膜。
(8)前記表面処理金属材料が亜鉛めっき鋼材または亜鉛合金めっき鋼材である前記(1)〜(7)のいずれかに記載の酸化ケイ素系皮膜。
(LPD処理を用いる酸化ケイ素系皮膜の効果)
本発明のLPD処理を用いる酸化ケイ素系皮膜の態様によれば、6価クロムを含有しないため環境負荷が小さく、しかも高耐食性で上層に有機樹脂系皮膜層を形成する場合に該有機皮膜層と高密着性である被覆層を有する金属材料が得られる。
この態様の酸化ケイ素系皮膜は、Siと特定の金属元素の酸化物又は水酸化物の一方又は両方から成る金属(水)酸化物皮膜層を有するものである。本件の発明者らが鋭意検討した結果、6価クロムを含有しない皮膜であっても6価クロムを含有する皮膜いわゆるクロメート皮膜と同等以上の特性を発現することを見い出した。すなわち、クロメート皮膜の特性はバリヤ性による裸耐食性と溶解析出による自己補修能による加工部耐食性及び上層に形成される有機樹脂層中の極性基との結合による優れた上層皮膜との密着性である。これらの機能(バリア性、自己補修能、極性基との反応性)に着眼してクロムを除く種々金属の酸化物、水酸化物の種々組合せにより得られる性能について試行、検討した結果、これらの性能を発現する皮膜を構成する金属元素の金属(水)酸化物に想到した。より詳しくは、Siと、Ti、Zr、V、Nb、Ta、から選ばれる1〜4種の金属元素の金属(水)酸化物からなり、かつ、前記(水)酸化物に少なくともTi、Zrのうち1種以上の金属(水)酸化物が含まれる皮膜を有することにより優れた裸耐食性を有するとともに、その上層に有機樹脂系皮膜層を形成する場合には該有機皮膜層との高い密着性を持つことを見出した。
また、Siと、Ti、Zr、V、Nb、Taを、その作用効果からa,b,cの3つの群に分類し、各々の特性を踏まえ、各群の金属元素を適正に組み合わせる事で、優れた皮膜特性が得られることを見出した。
(a群の金属元素)
まずa群にはTi、Zrの2元素が分類される。a群の(水)酸化物が皮膜に含まれる場合は、特に平板耐食性が優れるという特性を有することを見出した。これは皮膜の疎水性による高バリヤ性が起因していると考えている。a群の中でも他元素に比し耐食性能に優れるZrを用いることがより好適である。
(b群の金属元素)
b群にはV、Nb、Taの3元素が分類される。b群の(水)酸化物が皮膜に含まれる場合は特に加工部耐食性が優れるという特性を有することを見出した。これは湿潤腐食環境下で(水)酸化物が溶解し、加工等により生じた皮膜欠陥部や腐食部を覆う自己修復能によるともの推定している。b群の中でも他元素に比し加工部耐食性に優れるVを用いる事がより好適である。
(c群の金属元素)
c群にはSiが分類される。c群の(水)酸化物が皮膜に含まれる場合は上層の有機樹脂系皮膜層との密着性が特に高いことを見出した。これは、その上に形成される有機樹脂系皮膜層と強固な化学結合を形成するためと推定している。
従って、c群のSiの(水)酸化物にa,b群の金属の(水)酸化物を適時組み合わせる事で、平板耐食性、加工部耐食性、上層皮膜との密着性について、任意に制御する事が可能となる。
例えば、c群の元素Siとa群から選ばれる元素Zrを組み合わせる事で、耐食性と上塗塗膜との密着性に優れる皮膜の形成が可能で有り、c群の元素Siとa群から選ばれる元素Zrとb群から選ばれる元素Vを組み合わせる事で、平板耐食性にも加工部耐食性にも優れる皮膜の形成が可能である。そして、c群の元素Siとa群から選ばれる元素Zrとb群から選ばれる元素V、を組み合わせる事で、平板耐食性、加工部耐食性、上層皮膜との密着性に優れる性能を得ることが出来る。
さらに、同群同士の組み合わせにおいても2種以上の元素で構成される皮膜の方が1種の元素で構成される皮膜に比して優れた皮膜特性が得られることも見出している。例えばa群から選ばれる1種の元素で構成される皮膜よりもa群から選ばれる2種以上の元素で構成される皮膜の方が優れた加工部耐食性を有する。同一の群から選ばれる元素同士を組み合わせる事での性能向上メカニズムは定かではないが、同群の元素であっても特性発現する条件や範囲が異なるため、単一元素で構成される皮膜よりも2種以上の組み合わせで構成される皮膜の方が、特性発現条件及び範囲が拡大し、さらには複合的な作用も働くことにより、必ずしも群が得意とする特性に限定されることなく、特性の発現や向上が見られるのではないかと推定している。
従って、c群の元素Siとa群から選ばれる元素をZrとTiの2元素とb群から選ばれる元素Vを組み合わせたり、c群の元素Siとa群から選ばれるTi,Zrの2元素とb群の元素を組み合わせたり、c群の元素Siとa群から選ばれる元素Zrとb群から選ばれる2種類の元素の組み合わせ、或いはc群の元素Siとa群から選ばれる元素Zrとb群から選ばれる3元素を組み合わせる事などによって、より優れた皮膜性能が発現する。但し、5元素以上の組み合わせでは、元素組み合わせによる性能向上効果は飽和するため、4元素以下の組み合わせにより条件の最適化を検討することで、効率的にかつ必要な皮膜性状を得ることが出来る。
これらの金属(水)酸化物を含む皮膜は片面あたりの金属換算量で5〜200mg/m2が好ましい。5mg/m2未満の場合、上記特性が不充分な場合がある。200mg/m2超の場合、上記特性が飽和もしくは低下すると共に経済的ではない。
a群の皮膜中金属濃度比、すなわち皮膜を構成する(水)酸化物の金属元素全体に占めるa群の(水)酸化物の金属元素の質量比は10%以上50%以下が好ましい。10%未満では加工部耐食性が不十分な場合があり、50%以上では加工後の密着性が低下する場合がある。
またb群の金属元素の質量比は10%以上50%以下が好ましい。10%未満では加工部耐食性が不充分な場合がある。また、50%超の場合は腐食環境下で皮膜が健全な状態で維持されない場合がある。
c群の金属元素Siの質量比は30%以上が好ましい。30%未満では上層皮膜との密着性が不充分な場合がある。さらに好ましくは50%以上である。
酸化ケイ素系皮膜は、場合により、フッ素化合物を含むものであってもよい。フッ素化合物を含む酸化ケイ素系皮膜の形成方法は、特に制限されない。例えば、液相析出法により、フッ素化合物を含む金属(水)酸化物の皮膜として形成すればよい(フッ素化合物を含む酸化ケイ素系皮膜形成方法の詳細に関しては、例えば特開2009−299145号公報を参照することができる)。
フッ素化合物を含む酸化ケイ素系皮膜を形成する処理液としては、例えば、ケイ素源であるヘキサケイ酸アンモニウムと、ヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム、硝酸ジルコニル、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、硫酸バナジル、ヘキサニオブ酸アンモニウム、フッ化タンタル酸カリウム、のうちの少なくとも1種とをフッ化水素酸に溶かしアンモニア水でpH調整し、必要な濃度調整した溶液を好適に使用することができる。
フッ素イオンを含まず酸化ケイ素系皮膜を形成する処理液としては、例えばケイ素源であるケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等と酸素酸アニオンとしては、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン等を用いることができる。酸素酸アニオンとして特に好ましくは、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオンである。また、複合化合物として硝酸ジルコニル、硫酸チタン、硫酸バナジル、ヘキサニオブ酸アンモニウム、酸化ニオブゾル、リン酸のうちの少なくとも1種を好適に使用することができる。
上記の液相析出法においては、例えば、脱脂処理まで行った亜鉛系めっき鋼板を、処理液へ浸漬して、または浸漬後に電解処理して、亜鉛系めっき鋼板表面にフッ素を含む酸化ケイ素系皮膜を成膜することができる。
電解による酸化ケイ素系皮膜の成膜においては、例えば、亜鉛系めっき鋼板を浸漬した処理液中で電流密度を10〜200mA/cm2に制御して常温でカソード電解を0.1〜10秒間行い、成膜後に水洗し乾燥することができる。電解を用いない浸漬だけによる酸化ケイ素系皮膜の成膜の場合には、亜鉛系めっき鋼板を処理液に常温で1〜10分間浸漬し、成膜後に水洗し乾燥すれば良い。
このようにして得られた皮膜は、例えば、X線光電子分光法と蛍光X線法により、酸化ケイ素系皮膜の構成物質である酸化ケイ素及び/又は水酸化ケイ素の生成及び成膜量を確認することができる。また、FT−IRにより、酸化ケイ素系皮膜の赤外吸収スペクトル比を測定することができる。
(中間層皮膜(C))
次に、前記酸化ケイ素系皮膜(A)の上に配置される「中間層皮膜(C)」について述べる。
「中間層皮膜(C)」は、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、シラノール基のうちの少なくとも1種を構造中に有する有機樹脂、シランカップリング剤、およびポリフェノール化合物から選ばれる少なくとも1種を含む。中間層皮膜(C)は、下層の酸化ケイ素系皮膜(A)と、上層の有機樹脂系皮膜(B)との密着性を向上させ、且つ塗膜全体のバリヤ性を向上させる中間層として機能する。中間層皮膜(C)が、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、シラノール基のうちの少なくとも1種の官能基を構造中に有する有機樹脂を含む場合は、その官能基が、下層の酸化ケイ素系皮膜中のSi−OH基と化学結合することにより酸化ケイ素系皮膜との高い密着性を発現する。中間層皮膜(C)がシランカップリング剤を含む皮膜またはポリフェノール化合物を含む皮膜の場合も、シランカップリング剤のシラノール基またはポリフェノール化合物中の水酸基が、酸化ケイ素系皮膜中のSi−OHと化学結合することにより酸化ケイ素系皮膜との高い密着性を発現する。さらに、中間層皮膜(C)は、上層の有機樹脂系皮膜(B)に対しても高い密着性を発揮し、塗膜全体の亜鉛系めっき鋼板に対する優れた密着性の発現に寄与する(上記官能基を構造中に有する有機樹脂を含む中間層皮膜の場合は、その官能基と上層有機樹脂系皮膜(B)中の同様の官能基との結合により、シランカップリング剤を含む中間層皮膜の場合は、シラノール基を含有する上層有機樹脂系皮膜(B)との同様の効果により、また、ポリフェノール化合物を含む中間層皮膜の場合は、水酸基を含有する上層有機樹脂系皮膜(B)との同様の効果により)。その上、中間層皮膜(C)が存在することにより、表層となる有機樹脂系皮膜(B)を酸化ケイ素系皮膜の上に直接形成した場合に比べ、塗膜全体のバリヤ性が向上する。その結果として、本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板は非常に優れた塗装密着性、耐食性を示し、また、有形樹脂系皮膜(B)を酸化ケイ素系皮膜(A)の上に直接形成した場合に比べ、塗膜全体の厚さを低減することも可能となる。
中間層皮膜(C)の厚みは、0.01〜2μmが好ましい。0.01μm未満では所期の効果が少なく、2μm超では、皮膜の種類によっては凝集破壊しやすくなり、密着性が低下することがあり。中間層皮膜(C)のより好ましい厚みは0.02〜1μmである。
中間層皮膜(C)は、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。中間層皮膜(C)は、下層の酸化ケイ素系皮膜(A)との密着性を更に高めるためには、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂の少なくとも1種を使用することが好ましく、上層の有機樹脂系皮膜(B)との相容性を高め、密着性を高める意味では、中間層皮膜(C)にポリエステル樹脂を含有することが特に好ましい。
中間層皮膜(C)に含まれるシランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、信越化学工業、日本ユニカー、チッソ、東芝シリコーン等から販売されているビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカブトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。前記シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
中間層皮膜(C)に含まれるポリフェノール化合物は、ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物、またはその縮合物のことを指す。前記ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物としては、例えば、没食子酸、ピロガロール、カテコール等を挙げることができる。ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2以上有する化合物の縮合物としては特に限定されず、例えば、通常タンニン酸と呼ばれる植物界に広く分布するポリフェノール化合物等を挙げることができる。
タンニン酸は、広く植物界に分布する多数のフェノール性水酸基を有する複雑な構造の芳香族化合物の総称である。前記タンニン酸は、加水分解性タンニン酸でも縮合型タンニン酸でもよい。前記タンニン酸としては特に限定されず、例えば、ハマメリタンニン、カキタンニン、チャタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランタンニン、ジビジビタンニン、アルガロビラタンニン、バロニアタンニン、カテキンタンニン等を挙げることができる。前記タンニン酸としては、市販のもの、例えば、「タンニン酸エキスA」、「Bタンニン酸」、「Nタンニン酸」、「工用タンニン酸」、「精製タンニン酸」、「Hiタンニン酸」、「Fタンニン酸」、「局タンニン酸」(いずれも大日本製薬株式会社製)、「タンニン酸:AL」(富士化学工業株式会社製)等を使用することもできる。
前記ポリフェノール化合物は1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
中間層皮膜(C)がシランカップリング剤およびポリフェノール化合物の少なくとも一方を含む場合、それは有機樹脂系皮膜中に5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%存在することができる。
中間層皮膜(C)の形成方法に特に制限はないが、中間層皮膜(C)を形成するためのコーティング剤を金属板の少なくとも片面に塗布し、加熱乾燥することで形成される。前記コーティング剤の塗布方法に特に制限はないが、公知のロールコート、スプレー塗布、バーコート、浸漬、静電塗布等を適宜使用することができる。焼付乾燥方法に特に制限はなく、あらかじめ金属板を加熱しておくか、塗布後に金属板を加熱するか、或いはこれらを組み合わせて乾燥を行ってもよい。加熱方法に特に制限はなく、熱風、誘導加熱、近赤外線、直火等を単独もしくは組み合わせて使用することができる。焼付乾燥温度については、到達温度で60℃〜150℃であることが好ましく、70℃〜130℃であることが更に好ましい。到達温度が60℃未満であると、乾燥が不十分で、基材との密着性や耐食性が低下する場合があり、150℃超であると、基材との密着性が低下する場合がある。
(有機樹脂系皮膜(B))
次に、前記中間層皮膜(C)の上に配置される「有機樹脂系皮膜(B)」について述べる。本発明において好適に使用可能な有機樹脂系皮膜(B)を例示すれば、以下の通りである。
(1)有機樹脂系皮膜(B)が、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂と硬化剤としてメラミン樹脂を含有する皮膜であって、更に、該皮膜がカーボンブラックを含有すること。
(2)有機樹脂系皮膜(B)が、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂、シラノール基を含有するポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂のうちの少なくとも1種と、架橋剤として水溶性イソシアネート化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、有機チタネート化合物から選ばれる一種以上を含有する樹脂皮膜であって、更に酸化ケイ素、リン酸系化合物を含有すること。
有機樹脂系皮膜(B)の厚みは、0.5〜10μmであるのが好ましい。0.5μmでは、耐食性を十分に発現できない。10μmを超えると、効果が飽和し、経済的に有利でなくなる。有機樹脂系皮膜(B)のより好ましい厚みは1〜5μmである。
(有機樹脂系皮膜(B)の着色)
上記の有機樹脂系皮膜(B)は、必要に応じて、着色されていても良い。この場合の着色剤としては特に制限されず、公知の着色剤(例えば、公知の染料および/又は顔料)から、1種以上を適宜選択して使用することができる。有機樹脂系皮膜(B)が着色されている態様においては、該着色剤の含有量は、有機樹脂系皮膜の全体の質量を基準として、3〜40質量%程度(更には、5〜20質量%程度)であることが好ましい。下層酸化ケイ素系皮膜と上層着色系皮膜、及び中間層を組み合わせる本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板においては、下層酸化ケイ素系皮膜は無色透明ではなく若干着色されているため、塗装亜鉛系めっき鋼板の最上層に着色皮膜を施すことで色の深みが増し高級感が発生する、また、亜鉛めっき表面に比べ、酸化ケイ素系皮膜の存在により微細な凹凸が形成されるため、中間層皮膜を形成しさらに黒色皮膜を上層に施す本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板では、両皮膜の塗装時の外観の均一化が図りやすく、また上層黒色皮膜の光沢制御がしやすく、好ましい。
(カーボンブラック)
着色された態様の有機樹脂系皮膜(B)においては、該皮膜の隠蔽性および/又は意匠性の点からは、上記着色剤はカーボンブラックであることが好ましい。
(カーボンブラックを含有する態様)
有機樹脂系皮膜(B)がカーボンブラックを含有する態様においては、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)と硬化剤(D)とカーボンブラック(E)とを含む着色組成物(例えば、水系黒色塗料)を、金属板の少なくとも片面に塗布し、2〜10μmの厚みの黒色塗膜(α)を形成させることが、特に好ましい。このような態様においては、環境負荷性の高い6価クロムを含まなくても、意匠性(加工部を含む着色性、隠蔽性)、耐湿性、耐食性、加工性、耐傷付き性、耐薬品性等に極めて優れた安価なクロメートフリー黒色塗装金属板が得られるからである。
(好ましい態様の例示)
本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板において好適な有機樹脂系皮膜(B)を例示すれば、以下の通りである。
(1)硬化剤(D)で硬化されたスルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)とカーボンブラック(E)とを含む、2〜10μmの厚みの黒色皮膜。
(2)前記ポリエステル樹脂(B1)の水酸基価が2〜30mgKOH/gである、(1)に記載の黒色皮膜。
(3)前記ポリエステル樹脂(B1)に含有されたスルホン酸基が、アルカリ金属によって中和されたスルホン酸金属塩基である、(1)または(2)に記載の黒色皮膜。
(4)前記ポリエステル樹脂(B1)のガラス転移温度が5〜50℃である、(1)〜(3)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(5)前記ポリエステル樹脂(B1)のガラス転移温度が5〜25℃である、(1)〜(3)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(6)前記ポリエステル樹脂(B1)の数平均分子量が8000〜25000である、(1)〜(5)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(7)前記ポリエステル樹脂(B1)構造中にウレタン結合を含有する、(1)〜(6)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(8)アクリル樹脂(B2)を更に含有する、(1)〜(7)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(9)カルボキシル基を含有するポリウレタン樹脂(B3)を更に含有する、(1)〜(8)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(10)前記ポリウレタン樹脂(B3)がウレア基を含有する、(8)に記載の黒色皮膜。
(11)前記硬化剤(D)が、メラミン樹脂(D1)を含有する、(1)〜(10)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(12)前記カーボンブラック(E)の当該黒色皮膜中の含有量をX質量%、当該黒色皮膜の厚みをYμmとしたとき、X×Y≧20、且つ、X≦15を満足する、(1)〜(11)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(13)前記カーボンブラック(E)が数平均粒子径20〜300nmの粒子で分散されている、(1)〜(12)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(14)シリカ(F)を更に含有する、(1)〜(13)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(15)前記シリカ(F)が数平均粒子径5〜50nmの粒子で分散されている、(14)に記載の黒色皮膜。
(16)潤滑剤(G)を更に含有する、(1)〜(15)のいずれかに記載の黒色皮膜。
(17)前記潤滑剤(G)がポリエチレン樹脂粒子である、(16)に記載の黒色皮膜。
(18)前記ポリエチレン樹脂粒子が数平均粒子径0.5〜2μmの粒子で分散されている、(17)に記載の黒色皮膜。
本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板の上層皮膜の一態様としての黒色皮膜は、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)と硬化剤(D)とカーボンブラック(E)とを含み、クロムを含有しない水系黒色塗料を金属板の少なくとも片面に塗布し、焼付乾燥することで形成されることが好ましい。ポリエステル樹脂自身は疎水性であるが、その樹脂に含有するスルホン酸基が高い親水性を示すため、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)は水中に安定して溶解、もしくは分散することができる。
加えて、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)は疎水性表面を有しているカーボンブラック(E)と水との相溶性を向上させ、カーボンブラック(E)を塗料中に均一に安定して分散させる重要な役割を担っている。これは、疎水性を示すポリエステル樹脂主構造がカーボンブラック(E)に配向することで得られる効果によるものであり、ポリエステル樹脂(B1)が水中に安定して溶解、もしくは分散することによって、カーボンブラック(E)も同様に均一に分散することができる。このすぐれた分散能が発現するのは、極めて高い親水性を示すスルホン酸基が疎水性のポリエステル樹脂中に含有していることが好ましい。
このように、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)によりカーボンブラック(E)が均一に安定して分散した水系塗料から形成される黒色皮膜は、皮膜中においてもカーボンブラック(E)は均一に分散しており、薄膜でも極めて優れる意匠性(着色性、隠蔽性)を発現することができる。また、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)によりカーボンブラック(E)が均一に安定して分散した水系塗料は、カーボンブラック(E)の分散性を高めるための表面親水化処理や界面活性剤の添加が不要であるため、形成される黒色皮膜の耐湿性や耐食性を低下させる懸念もない。
すなわち、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)を用いることで、黒色皮膜のバインダー成分としての役割とカーボンブラック(E)の分散性を高める役割を同時に担うことができるため、優れた意匠性と耐湿性、耐食性とのバランスを得ることができる。
黒色皮膜の耐湿性、耐食性、加工性、耐傷付き性、耐薬品性等の諸性能をバランス良く担保するためにはポリエステル樹脂をベースとし、それを硬化剤(D)で焼付硬化させた塗膜が好適である。すなわち、延性が高く加工性の優れるポリエステル樹脂を硬化剤(D)で焼付硬化させることで、耐湿性、耐食性、耐傷付き性、耐薬品性も兼備した黒色皮膜を得ることができる。カーボンブラック(E)の添加による造膜性の低下も、硬化剤(D)で焼付硬化させることで、それを補うことが可能であり、緻密で延性と硬度のバランスに優れた黒色皮膜を得ることができる。加えて、ポリエステル樹脂(B1)に含まれるスルホン酸基は基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)との密着性を向上させる効果を有すため、得られる黒色皮膜は中間層皮膜との密着性に極めて優れる。
このように、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)と硬化剤(D)とカーボンブラック(E)とを含む水系黒色塗料を金属板の少なくとも片面に塗布し、焼付乾燥することで形成された黒色皮膜は、意匠性(加工部を含む着色性、隠蔽性)、耐湿性、耐食性、加工性、耐傷付き性、耐薬品性等に極めて優れる。
黒色に着色した有機樹脂系皮膜(B)の厚みは、2〜10μmが好ましい。2μm未満であると、充分な意匠性(着色性、隠蔽性)や耐食性が得られない。10μm超であると、経済的に不利であるばかりか、ワキ等の塗膜欠陥が発生することがあり、工業製品として必要な外観を安定して得る事ができない。
前記ポリエステル樹脂(B1)の種類はスルホン酸基を含有していれば特に制限はないが、例えば、ポリカルボン酸成分およびポリオール成分からなるポリエステル原料を縮重合して得られたものを、水に溶解もしくは分散することで得られる。
前記ポリカルボン酸成分としては特に制限はないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、アゼライン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。これらは1種または2種以上任意に使用できる。
前記ポリオール成分としては特に制限はないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、トリエチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−3−メチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノール−A、ダイマージオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらは1種または2種以上任意に使用できる。
スルホン酸基を導入する方法としては特に制限はないが、例えば、5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2、7−ジカルボン酸、5(4−スルホフェノキシ)イソフタル酸等のジカルボン酸類、または2−スルホ−1,4−ブタンジオール、2,5−ジメチル−3−スルホ−2,5−ヘキシルジオール等のグリコール類をポリエステル原料として使用する方法が挙げられる。
これらスルホン酸基を含有するジカルボン酸またはグリコールの使用量は、全ポリカルボン酸成分または全ポリオール成分に対し、0.1〜10モル%含有することが好ましい。0.1モル%未満であると、水に対する溶解性または分散性が低下する場合や前記カーボンブラック(E)の分散性が低下し、前記黒色皮膜の薄膜での意匠性(着色性、隠蔽性)が得られない場合がある。10モル%超であると、耐湿性や耐食性が低下する場合がある。薄膜での意匠性(着色性、隠蔽性)と耐湿性、耐食性とのバランスの観点からは、0.5〜5モル%の範囲にあるのがより好ましい。
前記ポリエステル樹脂(B1)に含有するスルホン酸基は−SO3Hで表される官能基を指し、それがアルカリ金属類、アンモニアを含むアミン類等で中和されたものであっても構わない。中和する場合は、すでに中和されたスルホン酸基を樹脂中に組み込んでもよいし、スルホン酸基を樹脂中に組み込んだ後に中和してもよい。特にLi、Na、Kなどのアルカリ金属類で中和されたスルホン酸金属塩基が、より高い親水性を示すため、カーボンブラック(E)の分散性を高め、高い意匠性を得る上で好適である。また、黒色皮膜の中間層皮膜(C)との密着性を高める上でも、スルホン酸基はアルカリ金属で中和されたスルホン酸金属塩基であることがより好ましく、スルホン酸Na塩基が最も好ましい。
前記ポリエステル樹脂(B1)の水酸基価は2〜30mgKOH/gであることが好ましい。2mgKOH/g未満であると、硬化剤(D)との焼付硬化が不充分で、耐湿性、耐食性、耐傷付き性、耐薬品性が低下する場合があり、30mgKOH/g超であると、焼付硬化が過剰になり、耐食性、加工性が低下する場合がある。前記水酸基価は、ポリエステル樹脂を溶剤に溶かして無水酢酸と反応させ、次いで過剰の無水酢酸を水酸化カリウムで逆滴定する方法によって測定することができる。
前記ポリエステル樹脂(B1)のガラス転移温度は5〜50℃であることが好ましく、耐薬品性と加工性の両立の観点からは5〜25℃であることが更に好ましい。5℃未満であると、耐傷付き性、耐薬品性が低下する場合があり、50℃超であると、加工性が低下する場合がある。前記ガラス転移温度は、示差走査熱量計の測定によって測定することができる。
前記ポリエステル樹脂(B1)の数平均分子量は8000〜25000であることが好ましい。8000未満であると、加工性、耐薬品性が低下する場合があり、25000を超えると、塗料の貯蔵安定性が低下する(塗料が経時で固形化したり、沈殿物を生じたりする)場合がある。前記数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によりポリスチレン換算値として測定することができる。
前記ポリエステル樹脂(B1)構造中にウレタン結合を含有することが好ましい。ウレタン結合を含有することで、有機樹脂系皮膜(B)の中間層皮膜(C)との密着性や耐湿性、耐食性を向上させることができる。前記有機樹脂系皮膜(B)にウレタン結合を導入する方法としては、後述するようにポリウレタン樹脂を有機樹脂系皮膜(B)に含有させる方法も考えられるが、異なる樹脂をブレンドさせた場合、それらの樹脂の相溶性が悪いと、却って密着性や耐食性が低下する場合がある。前記ポリエステル樹脂(B1)構造中にウレタン結合を含有させる手法でウレタン結合を導入すれば、上述するような不具合は生じにくいという利点もある。前記ポリエステル樹脂(B1)構造中へのウレタン結合の導入方法については特に制限はないが、例えば、ポリエステル樹脂に含まれる水酸基とヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物を反応させること等によって得ることができる。
前記有機樹脂系皮膜(B)にはアクリル樹脂(B2)を更に含有することが好ましい。アクリル樹脂(B2)を更に含有することで、黒色の有機樹脂系皮膜(B)を形成するための水系黒色塗料中におけるカーボンブラック(E)の分散性を更に高めることができ、薄膜における意匠性(着色性、隠蔽性)を更に高めることができる。アクリル樹脂(B2)の種類は特に制限はないが、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、アルコキシシラン(メタ)アクリレート類等の不飽和単量体を、水溶液中で重合開始剤を用いてラジカル重合することによって得られるものを挙げることができる。前記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
前記アクリル樹脂(B2)の含有量は、前記ポリエステル樹脂(B1)100質量%に対し、0.5〜10質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、意匠性(着色性、隠蔽性)が低下する場合があり、10質量%超であると、耐食性や加工性が低下する場合がある。
前記有機樹脂系皮膜(B)にはカルボキシル基を含有するポリウレタン樹脂(B3)を更に含有することが好ましい。カルボキシル基を含有するポリウレタン樹脂(B3)を更に含有することで、有機樹脂系皮膜(B)の中間層皮膜(C)との密着性や耐湿性、耐食性を向上させることができる。ポリウレタン樹脂(B3)の種類はカルボキシル基を含有していれば、特に制限はないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類と、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とを反応させ、さらにジアミン等で鎖延長し、水分散化させて得られるもの等を挙げることができる。ジアミンによる鎖延長は、樹脂の分子量を高められる上に、イソシアネート基とアミノ基との反応からウレア基を生成する。凝集エネルギーの高いウレア基を樹脂中に含むことで、塗膜の凝集力を更に高めることができ、耐食性や耐傷付き性を更に高めることができる。
前記ポリウレタン樹脂(B3)の含有量は、前記ポリエステル樹脂(B1)100質量%に対し、5〜100質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、基材との密着性や耐食性が低下する場合があり、100質量%超であると、加工性が低下する場合がある。
前記硬化剤(D)は、前記ポリエステル樹脂(B1)を硬化させるものであれば特に制限はないが、例えば、メラミン樹脂やポリイソシアネート化合物を挙げることができる。メラミン樹脂はメラミンとホルムアルデヒドとを縮合して得られる生成物のメチロール基の一部またはすべてをメタノール、エタノール、ブタノールなどの低級アルコールでエーテル化した樹脂である。ポリイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等を挙げることができる。また、そのブロック化物は、前記ポリイソシアネート化合物のブロック化物であるヘキサメチレンジイソシアネートのブロック化物、イソホロンジイソシアネートのブロック化物、キシリレンジイソシアネートのブロック化物、トリレンジイソシアネートのブロック化物等を挙げることができる。これらの硬化剤は1種で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記硬化剤(D)の含有量は、有機樹脂系皮膜(B)の全有機樹脂(有機樹脂系皮膜(B)が前記ポリエステル樹脂(B1)以外の有機樹脂を含む場合は、その有機樹脂も含めた全有機樹脂を指す)100質量%に対し、5〜35質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、焼付硬化が不充分で、耐湿性、耐食性、耐傷付き性、耐薬品性が低下する場合があり、35質量%超であると、焼付硬化が過剰になり、耐食性、加工性が低下する場合がある。
耐傷付き性、耐薬品性の観点から、前記硬化剤(D)にはメラミン樹脂を含有することが好ましい。メラミン樹脂の含有量は、前記硬化剤(D)中に30〜100質量%であることが好ましい。30質量%未満であると、耐傷付き性、耐薬品性が低下する場合がある。
前記有機樹脂系皮膜(B)には更にシリカ(F)を含有することが好ましい。シリカ(E)を含有させることで、耐食性、耐傷付き性が向上する。シリカ(F)としては特に制限されないが、一次粒子径が5〜50nmのコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等のシリカ微粒子であることが好ましい。市販品としては、例えば、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスC、スノーテックスIPA−ST(日産化学工業)、アデライトAT−20N、AT−20A(旭電化工業)、アエロジル200(日本アエロジル)等を挙げることができる。これらのシリカ微粒子は前記黒色塗膜(α)でも一次粒子径(数平均粒子径)5〜50nmのままで分散されていることが、耐食性や加工性の観点で好ましい。
前記シリカ(F)の含有量は、前記有機樹脂系皮膜(B)中に5〜30質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、耐食性、耐傷付き性が低下する場合があり、30質量%超であると、耐湿性、耐食性、加工性が低下する場合がある。
前記有機樹脂系皮膜(B)には更に潤滑剤(G)を含有することが好ましい。潤滑剤(G)を含有させることで、耐傷付き性が向上する。潤滑剤(G)としては特に制限されず、公知の潤滑剤が使用できるが、フッ素樹脂系、ポリオレフィン樹脂系から選ばれる少なくとも一種を使用することが好ましい。フッ素樹脂系としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが使用可能である。これらのうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用しても良い。
前記ポリオレフィン樹脂系としては特に限定されず、パラフィン、マイクロクリスタリン、ポリエチレン等の炭化水素系のワックス、及びこれらの誘導体等を挙げることができるが、ポリエチレン樹脂であることが好ましい。前記誘導体としては特に限定されず、例えば、カルボキシル化ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン等を挙げることができる。これらのうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用しても良い。前記ポリエチレン樹脂を使用する場合、前記有機樹脂系皮膜(B)中に数平均粒子径0.5〜2μmの粒子で分散されていることが、耐食性や耐傷付き性の観点から好ましい。
前記潤滑剤(G)の含有量は、前記有機樹脂系皮膜(B)中に0.5〜10質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、耐傷付き性が低下する場合があり、10質量%超であると、耐食性、加工性が低下する場合がある。
前記カーボンブラック(E)は、特に制限はないが、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等、公知のカーボンブラックを使用することができる。また、公知のオゾン処理、プラズマ処理、液相酸化処理されたカーボンブラックも使用することができる。使用するカーボンブラックの粒子径は塗料中での分散性や塗膜品質、塗装性に問題が無い範囲であれば特に制約は無く、具体的には一次粒子径で10〜120nmのものの使用が可能である。薄膜での意匠性(着色性、隠蔽性)や耐食性を考慮すると、一次粒子径が10〜50nmの微粒子カーボンブラックを使用することが好ましい。これらのカーボンブラックは塗料中に分散する過程で凝集が起こるため、一次粒子径のまま分散することは一般的に難しい。すなわち、実際には一次粒子径よりも大きな粒子径を持った二次粒子の形態で塗料中では存在し、該塗料から形成する黒色の有機樹脂系皮膜(B)中でも同様の形態で存在する。薄膜での意匠性(着色性、隠蔽性)や耐食性を担保するためには、塗膜中に分散する前記カーボンブラック(E)の粒子径が重要であり、その数平均粒子径が20〜300nmにあることが好ましい。
前記カーボンブラック(E)の前記有機樹脂系皮膜(B)中の含有量をX質量%、前記皮膜(B)の厚みをYμmとしたとき、X×Y≧20、且つ、X≦15を満足することが好ましい。意匠性(着色性、隠蔽性)を担保するためには、前記皮膜(B)中に含まれるカーボンブラックの絶対量を一定量以上確保することも肝要である。カーボンブラックの絶対量は、皮膜(B)中に含まれるカーボンブラックの含有量(X質量%)と皮膜厚み(Yμm)の積によって表すことができる。すなわち、X×Yが20未満であると、意匠性(着色性、隠蔽性)が低下する場合がある。また、Xが15超であると、皮膜の造膜性が低下し、耐食性や加工性が低下する場合がある。
上層の有機樹脂皮膜(B)は、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂、シラノール基を含有するポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂のうちの少なくとも1種と、架橋剤として水溶性イソシアネート化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、有機チタネート化合物から選ばれる一種以上を含有し、更に酸化ケイ素又はリン酸系化合物を含有する皮膜であってもよい。
有機樹脂皮膜(B)に含有されるシラノール基を含有するポリウレタン樹脂は、例えば、分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物とポリウレタンプレポリマーを反応させ、その後、水に分散もしくは溶解し、加水分解することにより形成することができる。加水分解性ケイ素基とは、水分により加水分解を受ける加水分解性基がケイ素原子に結合している基を言い、前記加水分解性基の具体例としては、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基等が挙げられる。これらの内、加水分解性が比較的小さく取扱いが容易であることから、アルコキシ基が好ましい。前記加水分解性基は、通常、1個のケイ素原子に1〜3個の範囲で結合しているが、塗布後の加水分解性シリル基の反応性、耐水性、耐溶剤性といった点から2〜3個結合しているものが好ましい。
前記分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物としては、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジエトキシシラン等が挙げられるが、皮膜形成により寄与するという点で、ポリウレタン樹脂を構成する分子の間にシラノール基を導入するのが望ましく、2個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物が好ましい。
シラノール基もしくはSi−O結合の含有量は、ポリウレタン樹脂に優れた架橋反応性と性能を与えるため、ポリウレタン樹脂の全固形分に対し、ケイ素量で0.1〜10質量%とする。0.1質量%未満だと適切に架橋反応に寄与しないため効果が低く、10質量%超では効果が飽和すると共に処理液の安定性が低下する。好ましくは0.5〜5質量%である。
また、前記ポリウレタンプレポリマーとしては、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、又はそれらの混合物が挙げられる。この中で、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが、加工性を確保し、かつ高い弾性率を確保する上で好ましい。
ポリウレタンプレポリマーは、1分子当たり2個の活性水素基を有する化合物と、1分子当たり2個のイソシアネートを有するポリイソシアネート化合物を反応させ、水に溶解または分散させることによって得ることができる。
ポリウレタンプレポリマーを構成する1分子当たり少なくとも2個の活性水素基を有する化合物としては、例えば、活性水素基を有する化合物として、アミノ基、水酸基、メルカプト基を有する化合物が挙げられるが、イソシアネート基との反応性を考慮すると、水酸基を有する化合物が、反応速度が速く好ましい。1分子当たり少なくとも2個の活性水素基を有する化合物としては、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、又はそれらの混合物が挙げられる。
また、1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート等の脂肪族イソシアネートや、例えば、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネートや、例えば、m−キシレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、例えば、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネートや、例えば、トリフェニルメタン−4,4’−4’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、2,4,6−トリイソシアネートトルエン等のトリイソシアネートや、例えば、4,4’−ジフェニルジメチルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネート等のテトライソシアネート等のポリイソシアネート単量体や、上記ポリイソシアネート単量体から誘導されたダイマー、トリマー、ビュウレット、アロファネート、カルボジイミドと、上記ポリイソシアネート単量体とから得られるポリイソシアネート誘導体や、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等分子量200未満の低分子量ポリオールの上記ポリイソシアネート単量体への付加体や、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール等の上記ポリイソシアネート単量体への付加体等が挙げられる。
また、ポリウレタン樹脂を水中に分散させるために、ポリウレタンプレポリマー中に親水性基を導入する。親水性基を導入するには、例えば、分子内に少なくとも1個以上の活性水素基を有し、かつ、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホネート基、ポリオキシエチレン基等の親水性基を含有する化合物を、少なくとも1種以上前記ポリウレタンプレポリマー製造時に共重合させればよい。前記親水性基含有化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6−ジオキシ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸等のカルボキシル基含有化合物もしくはこれらの誘導体、又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリオール、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等無水基を有する化合物と活性水素基を有する化合物を反応させてなるカルボキシル基含有化合物もしくはこれらの誘導体、例えば、2−オキシエタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホコハク酸、5−スルホイソフタル酸、スルファニル酸等のスルホン酸含有化合物及びこれらの誘導体、又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。
前記ポリウレタン樹脂において、水中に良好に溶解又は分散させるために、中和剤が使用される。中和において使用できる中和剤としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリメチルアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物等の塩基性物質が挙げられるが、溶接性、耐溶剤性、溶接時の臭気から、沸点120℃以上の3級アミンを使用するのが好ましい。これら中和剤は、単独で、又は2種以上の混合物で使用してもよい。中和剤の添加方法としては、前記ポリウレタンプレポリマーに直接添加してもよいし、水中に溶解、又は分散させる時に水中に添加しても良い。中和剤の添加量は、カルボキシル基に対して0.1〜2.0当量、より好ましくは0.3〜1.3当量である。
また、前記カルボキシル基を含有するポリウレタンプレポリマーの水溶解又は分散性を更に良くするため、界面活性剤を使用してもよい。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合物の様なノニオン系界面活性剤、又は、ラウリル硫酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダの様なアニオン系界面活性剤が用いられるが、耐水性、耐溶剤性等の性能から、界面活性剤を含まないソープフリー型が好ましい。
また、前記ポリウレタンプレポリマーを合成する際には、有機溶剤を使用することも可能である。有機溶剤を使用する場合、比較的水への溶解度の高いものが好ましく、前記有機溶剤の具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
また、本発明のポリウレタン樹脂が有するシラノール基のシロキサン結合形成促進のために、硬化触媒を添加しても良い。本発明に係るポリウレタン樹脂においては、強塩基性第3級アミンが、このポリウレタン樹脂を塗膜化した際に、耐水性、耐溶剤性を悪化させることなく特異的にシロキサン結合の形成触媒として働くことにより、効率よく架橋構造を導入することが可能となる。この強塩基性第3級アミンは、pKaが11以上であることを特徴とし、特に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)又は1,6−ジアザビシクロ[3.4.0]ノネン−5が好適に用いられる。この硬化触媒である強塩基性第3級アミンは、ポリウレタンプレポリマー合成時、ポリウレタンプレポリマー合成後、あるいはポリウレタンプレポリマーを水に分散、又は溶解した後添加してもよい。
上層の有機樹脂皮膜(B)に含有されるポリオレフィン樹脂は、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアルカリ金属中和物であることが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂がエチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアルカリ金属中和物であるとは、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体に含有されるカルボキシル基の一部が、KOH、NaOH、LiOH等の金属化合物により供給されるアルカリ金属によって中和されたものであることを意味するものである。
上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のアルカリ金属中和物は、中和率が下限30%、上限90%であることが好ましい。中和率が下限30%、上限90%とは、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体に含有されるカルボキシル基の30〜90%が中和されていることを意味するものである。30%未満であると、得られた皮膜の中間層皮膜(C)に対する密着性が充分でなく、90%を超えると、皮膜と中間層(C)との密着性を損なうおそれがある。上記下限は、40%であることがより好ましく、上記上限は、80%であることがより好ましい。
上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンとメタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸とを加圧下でラジカル重合させて得られるコポリマーである。
上記オレフィン樹脂は、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体をアミン(例えば、トリエチルアミン、エタノールアミン等の水溶性アミン等)、アンモニア等で中和したものであってもよい。上記アミンは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記オレフィン樹脂は、上記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の中和においてアルカリ金属とともにアンモニア、アミンを併用してもよい。
有機樹脂皮膜(B)に含有されるフェノール樹脂としては、水溶性を付与したフェノール樹脂組成物が挙げられ、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、ビスフェノールA、パラキシリレンジメチルエーテル等の芳香族類とホルムアルデヒドとを反応触媒の存在下で付加反応させたメチロール化フェノール樹脂等のフェノール樹脂をジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物類と反応させ、有機酸又は無機酸で中和することによって得られるもの等を挙げることができる。
有機樹脂皮膜(B)に含有される架橋剤は、架橋反応をさらに低い焼付け温度で効率よく行うとともに、架橋剤自身の有する特性を皮膜に付加するための手段として用いられる。架橋剤は水溶性あるいは水分散性であればいずれも使用可能であるが、その中でも水溶性イソシアネート化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、有機チタネート化合物から選ばれる一種以上が用いられることが好ましい。
水溶性イソシアネート化合物としては、水分散性を付与したポリイソシアネート化合物が挙げられ、主にシラノール基の水酸基と反応して架橋構造を形成する。例えばバーノック5000(大日本インキ社製)などが例示される。
カルボジイミド基含有化合物としては、芳香族カルボジイミド化合物、脂肪族カルボジイミド化合物などが挙げられ、主にカルボキシル基、水酸基などの活性水素基と架橋構造を形成する。例えばカルボジライトV−02、同V−02−L2、同E−01、同E−02、同E−03A、同E−04(以上日清紡社製)が例示される。
オキサゾリン基含有化合物としては、例えばエポクロスK−2010E、同K−2020E、同K−2030E、同WS−500、同WS−700(以上、日本触媒社製)が例示される。オキサゾリン基含有化合物は、主にカルボキシル基と反応して架橋構造を形成する。
有機チタネート化合物としては、例えばオルガチックスTC−300(ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、松本製薬工業社製)、TC−400(ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、松本製薬工業社製)、などが例示される。有機チタネート化合物は、主にカルボキシル基、水酸基などの活性水素基と架橋構造を形成する。
これらの架橋剤の好ましい添加量は、樹脂の酸価の値にもよるが、皮膜の硬化性と伸び、硬さ等物性上のバランスから、主樹脂に対する架橋剤全量の固形分比で5質量%以上50質量%以下が好ましい。
有機樹脂皮膜(B)に含有されるリン酸系化合物は、例えば、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム等が挙げられる。その中で、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムのリン酸アンモニウム系化合物、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムのリン酸ナトリウム系化合物、リン酸二水素カルシウム等のリン酸カルシウム系化合物、リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム等のリン酸マグネシウム系化合物の内、少なくとも1種の化合物を使用した場合に、耐溶剤性、耐食性向上効果が顕著に現れるため好ましい。これらは、水溶性あるいは酸もしくはアルカリに可溶であれば、処理浴のpHに応じて使用することが可能であり、純粋な化合物もしくは水和物等いずれも使用可能である。
リン酸系化合物の含有量は、皮膜の固形分に対し、リン量で0.1質量%以上10質量%以下とする。0.1質量%未満では効果が乏しく、10質量%超では皮膜への水和性が増大し、耐食性が低下する。
有機樹脂皮膜(B)に含有される酸化ケイ素は、例えば、二酸化ケイ素等が挙げられる。酸化ケイ素は水中に安定に分散し沈降が生じない化合物であれば良く、中でも、コロイダルシリカを使用した場合に、耐溶剤性、耐食性向上効果が顕著に現れるため好ましい。例えば「スノーテックスO」「スノーテックスOS」「スノーテックスOXS」「スノーテックスN」「スノーテックスNS」「スノーテックスNXS」(いずれも日産化学工業社製)等の市販のコロイダルシリカ粒子、「スノーテックスUP」「スノーテックスPS」(日産化学工業社製)のような繊維状コロイダルシリカ等を、処理液のpHに応じて用いることができる。
酸化ケイ素の含有量は、皮膜の固形分に対し、ケイ素量で2質量%以上20質量%以下とする。2質量%未満では効果が乏しく、20質量%超では効果が飽和して不経済であると共に加工性、耐食性が低下する。
また、耐食性を向上させるため、さらにニオブ化合物やジルコニウム化合物などの無機防錆剤、グアニジノ基含有化合物、ビグアニジノ基含有化合物及びチオカルボニル基含有化合物などの有機防錆剤を適宜添加することが好ましい。含有量は、皮膜の固形分100%に対し、無機防錆剤総量で1質量%以上15質量%以下、有機防錆剤総量で0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。それぞれ下限値未満では効果が乏しく、上限値超では効果が飽和して不経済であると共に加工性、耐食性が低下する。
本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板における上層の有機樹脂系皮膜(B)は、必要な成分を含む水系塗料を、下層の酸化ケイ素系皮膜と中間層皮膜(C)を予め形成した鋼板の少なくとも片面に塗布し、焼付乾燥することで形成される。例えば、本発明の一態様たる黒色塗装亜鉛系めっき鋼板の黒色の有機樹脂系皮膜(B)は、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂(B1)と硬化剤(D)とカーボンブラック(E)とを含む水系黒色塗料を金属板の少なくとも片面に塗布し、焼付乾燥することで形成される。前記水系黒色塗料の塗布方法に特に制限はないが、公知のロールコート、スプレー塗布、バーコート、浸漬、静電塗布等を適宜使用することができる。
前記水系塗料の製造方法は特に限定されないが、例えば、有機樹脂系皮膜(B)の形成成分を水中に添加し、ディスパーで攪拌し、溶解もしくは分散する方法が挙げられる。各々の形成成分の溶解性、もしくは分散性を向上させるために、必要に応じて、公知の親水性溶剤等を添加してもよい。
焼付乾燥方法は特に制限はなく、あらかじめ金属板を加熱しておくか、塗布後に金属板を加熱するか、或いはこれらを組み合わせて乾燥を行ってもよい。加熱方法に特に制限はなく、熱風、誘導加熱、近赤外線、直火等を単独もしくは組み合わせて使用することができる。焼付乾燥温度については、到達温度で150℃〜250℃であることが好ましく、160℃〜230℃であることが更に好ましく、180℃〜220℃であることが最も好ましい。到達温度が150℃未満であると、焼付硬化が不充分で、耐湿性、耐食性、耐傷付き性、耐薬品性が低下する場合があり、250℃超であると、焼付硬化が過剰になり、耐食性、加工性が低下する場合がある。焼付乾燥時間は1〜60秒であることが好ましく、3〜20秒であることが更に好ましい。1秒未満であると、焼付硬化が不充分で、耐湿性、耐食性、耐傷付き性、耐薬品性が低下する場合があり、60秒超であると、生産性が低下する場合がある。
本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板の中間層皮膜(C)と有機樹脂系皮膜(B)の厚みは、各皮膜の断面観察や電磁膜厚計等の利用により測定できる。その他に、単位面積当りに付着した皮膜の質量を、皮膜の比重又は塗料の乾燥後比重で除算して算出してもよい。皮膜の付着質量は、塗装前後の質量差、塗装後の皮膜を剥離した前後の質量差、または、皮膜を蛍光X線分析して予め皮膜中の含有量が分かっている元素の存在量を測定する等、既存の手法から適切に選択すればよい。皮膜の比重又は塗料の乾燥後比重は、単離した皮膜の容積と質量を測定する、適量の塗料を容器に取り乾燥させた後の容積と質量を測定する、または、皮膜構成成分の配合量と各成分の既知の比重から計算する等、既存の手法から適切に選択すればよい。
(水系着色組成物)
本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板における中間層皮膜(C)と有機樹脂系皮膜(B)は、塗料としての水系着色組成物から形成するのが好ましい。ここで言う「水系着色組成物」とは、中間層皮膜(C)または有機樹脂系皮膜(B)の形成成分を含み、水系溶媒を用いて構成された組成物を言うものとする。この組成物は、一般には、使用する水系溶媒に不溶性の成分が分散した分散体の形をしている。「水系溶媒」とは、水が主成分(50質量%以上)である溶媒を言う。水系溶媒を用いることによって、有機溶剤系着色組成物を使用するための塗装専用ラインを余分に通板する必要がなくなるために、製造コストを大幅に削減することが可能である上に、揮発性有機化合物(VOC)の排出も大幅に抑制できる等の環境面におけるメリットも有している。
必要に応じて、上記の「水系溶媒」に有機溶媒を加えることもできる。しかしながら、労働衛生上の観点からは、「水系着色組成物」は労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則で定義される有機溶剤含有物(労働安全衛生法施行令の別表第六の二に掲げられた有機溶剤を重量の5%を超えて含有するもの)には該当しないものであることが好ましい。
次に、上記構成を有する本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板の好適な製造方法について述べる。
本発明の実施形態に適用できる金属板は、亜鉛系めっき鋼板であれば特に限定されない。なお、ここで、亜鉛系めっき鋼板とは、めっき皮膜を構成する元素のうち、亜鉛が質量比で30%以上のものを意味する。かかる亜鉛系めっき鋼板として、例えば、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛合金めっき鋼板等が挙げられる。
本発明の塗装亜鉛系めっき鋼板を製造するには、まず、上記金属表面処理剤に亜鉛系めっき鋼板を浸漬し、カソード電解することで、亜鉛系めっき鋼板の少なくとも片面に酸化ケイ素系皮膜を形成する。
前記カソード電解の電流密度は、10〜200mA/cm2が好ましい。カソード電解の電流密度は、更に好ましくは10〜100mA/cm2である。とは言え、電流密度は、処理液の流れ、連続処理の場合は通板速度の影響を大きく受けるため、適宜設定すればよい。
酸化ケイ素系皮膜の成膜機構は、本発明者の推定によれば、次の通りである。
酸素酸アニオンを含むpH1〜4のケイ酸塩水溶液中では、ケイ酸イオンと(水)酸化ケイ素とは平衡反応を形成し、その平衡をずらすことにより、基材上に(水)酸化ケイ素が析出すると推定している。その際、酸素酸アニオンがpH等の反応場形成剤として働いていると推定している。なお、亜鉛系めっき鋼板を浸漬あるいはカソード電解時の水素発生反応と鋼板表面近傍でのpH上昇により、平衡をずらすことができる。
電解処理温度は、20〜60℃程度が好ましい。電解処理時間は、目的とする成膜量に応じて設定すれば良いが、生産性を考慮すると1秒〜60分間程度が好ましい。また、亜鉛系めっき鋼板の前処理等については特に制約はないが、脱脂した表面、スケールが除去された表面とすることが好ましい。
本発明においては、上記の酸化ケイ素系皮膜上に、中間層皮膜(C)と上層の有機樹脂系皮膜(B)を順次形成する。中間層皮膜(C)は、酸化ケイ素系皮膜の形成後30分以内に形成するのが、事前に形成した酸化ケイ素系皮膜の自然酸化などによる変質を防ぐ上で好ましい。中間層皮膜(C)と有機樹脂系皮膜(B)の皮膜の形成方法は、先に説明したとおりである。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
金属材料としては、EG(電気亜鉛めっき鋼板、付着量:20g/m2)、GI(溶融亜鉛めっき鋼板、付着量:60g/m2)、AS(合金化溶融亜鉛めっき鋼板、付着量:60g/m2)、SD(溶融亜鉛合金めっき鋼板(Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Si)、付着量:60g/m2)、ZL(電気亜鉛ニッケルめっき系合金鋼板、付着量:20g/m2)を使用した。これらに対して、アセトン中で超音波脱脂処理を施した後、実験に供した。
この脱脂処理まで行った基材を処理液へ浸漬又は浸漬後電解して酸化ケイ素系皮膜を形成した後、その上層にカルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、シラノール基の少なくとも1種を有する有機樹脂系皮膜を施し供試材とした。
(1)酸化ケイ素系皮膜
表1に示した各種濃度のケイ酸塩及び酸素酸、ケイフッ化アンモニウム及び各種化合物を混合し、所定のpHより低い場合は水酸化ナトリウムを添加し、所定のpHより高い場合で酸素酸が硝酸、リン酸の場合は硫酸を添加し、所定のpHより高い場合で酸素酸が硫酸の場合は硝酸を添加して、所定のpHに調整した処理液を用意した。
電解による酸化ケイ素系皮膜の成膜は、処理液中で電流密度を10〜100mA/cm2に制御して20℃でカソード電解を0.1〜10秒間行い、所定の付着量を成膜後、水洗し乾燥した。浸漬による酸化ケイ素系皮膜の成膜は、60℃で1〜10分間浸漬し、所定の付着量を成膜後、水洗し乾燥した。
得られた皮膜は、X線光電子分光法及び蛍光X線法により、酸化ケイ素系皮膜形成及びその成膜量を確認した。さらに、フーリエ変換赤外分光分析法により、酸化ケイ素系皮膜の900〜1000cm-1におけるSi−OH結合由来の赤外吸収スペクトル強度ISiOHと1000〜1250cm-1におけるSi−O−Si結合由来の赤外吸収スペクトル強度ISiOSiとの比ISiOH/ISiOSiを測定した。
なお、赤外吸収スペクトルは、日本分光社製のFT/IR4100を使用して、高感度反射法で測定を行なった。
また、皮膜の厚みは、30000倍の断面SEM観察により、任意の10点を測定し平均膜厚として算出した。
(2)中間層
中間層は、有機樹脂(表2)、シランカップリング剤(表3)、その他添加剤(表4)を表5に示す配合量で配合し、塗料用分散機を用いて撹拌することで調整した。上記(1)で形成した下地処理層の表面に30分以内にコーティング剤を所定の付着量になるように塗装し、到達板温度70℃の条件で乾燥させることで中間層を形成させた。
(3)カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、シラノール基の少なくとも1種を有する有機樹脂系皮膜
カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、シラノール基の少なくとも1種を有する有機樹脂系皮膜を形成するための塗布溶液は、有機樹脂(F)(表6)、硬化剤(G)(表7)、顔料(H)(表8)、酸化ケイ素(J)(表9)、リン酸化合物(K)(表10)、潤滑剤(L)(表11)を表12に示す配合量で配合し、塗料用分散機を用いて攪拌することで調整した。(1)で形成した下地処理層の上層に、上記塗布溶液を所定の膜厚になるようにロールコーターで塗装し、所定の到達板焼付温度で加熱乾燥し、塗膜を形成し、塗装金属板(試験板)を作製した。
(4)評価試験
上記(3)で得られた塗装金属板(試験板)について、加工性(加工密着性)、耐食性、耐薬品性、耐アルカリ性を下記に示す評価方法および評価基準にて評価した。その評価結果を表13、14に示す。
(加工性(加工密着性))
試験板に180°折り曲げ加工を施した後、折り曲げ加工部外側のテープ剥離試験を実施した。テープ剥離部の外観を下記の評価基準で評価した。なお、折り曲げ加工は20℃雰囲気中で、0.5mmのスペーサーを間に挟んで実施した(一般に1T曲げと呼ばれる)。
5:塗膜に剥離は認められない。
4:極一部の塗膜に剥離が認められる(ルーペで観察して何とか分かる程度)。
3:一部の塗膜に剥離が認められる(ルーペで観察して分かる程度)。
2:部分的な塗膜に剥離が認められる(目視で容易に分かる程度)。
1:ほとんどの塗膜に剥離が認められる(目視で容易に分かる程度)。
(耐食性)
試験板の端面をテープシールした後、JIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験(SST)を72時間行い、錆発生状況を観察し、下記の評価基準で評価した。
5:錆発生なし。
4:錆発生面積が1%未満。
3:錆発生面積が1%以上、2.5%未満。
2:錆発生面積が2.5%以上、5%未満。
1:錆発生面積が5%以上。
(耐薬品性)
試験板をラビングテスターに設置後、エタノールを含浸させた脱脂綿を49.03kPa(0.5kgf/cm2)の荷重で10往復擦った後の皮膜状態を下記の評価基準で評価した。
5:擦り面に全く跡が付かない。
4:擦り面に極僅かに跡が付く(目を凝らして何とか擦り跡が判別できるレベル)。
3:擦り面に僅かに跡が付く(目を凝らすと容易に擦り跡が判別できるレベル)。
2:擦り面に明確な跡が付く(瞬時に擦り跡が判別できるレベル)。
1:擦り面で塗膜が溶解し、下地が露出する。
(耐アルカリ性)
試験板を55℃のアルカリ脱脂剤(サーフクリーナー53、日本ペイント製)2%水溶液に撹拌しながら30分間浸漬した後の皮膜状態を下記の評価基準で評価した。
4:剥離なし
3:僅かに剥離
2:部分剥離
1:完全剥離
本発明の実施例は、ISiOH/ISiOSiが0.1以上の下層酸化ケイ素系皮膜と、中間層と、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、シラノール基の少なくとも1種を有する上層有機樹脂系皮膜を有することで、いずれの評価試験においても評点3点以上の優れた加工密着性、耐食性、耐薬品性、耐アルカリ性を示した。特に、ISiOH/ISiOSiが0.1以上5以下の場合が良好な密着性、耐食性を示した(実施例1〜39、41〜65)。また、酸化ケイ素系皮膜にTi化合物、Zr化合物、V化合物、Nb化合物、P化合物を添加した系では、耐食性が良好な結果を示した(実施例51〜55、62〜65)。さらに下地皮膜のISiOH/ISiOSiが0.1以上5以下、厚みが10以上300nm以下の場合で、上層樹脂系皮膜として、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂と硬化剤としてメラミン樹脂を含有する皮膜(実施例1〜26)、スルホン酸基を含有するポリエステル樹脂、シラノール基を含有するポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂の少なくとも1種と、架橋剤として水溶性イソシアネート化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、有機チタネート化合物から選ばれる1種以上を含有する樹脂系皮膜(実施例27〜36)の場合、良好な加工後密着性、耐食性を示した。
一方、本発明の範囲を外れたISiOH/ISiOSiが0.1未満である比較例1は、加工密着性が劣っていた。また、中間層を有しない比較例2、3では耐アルカリ性が劣る結果であった。またケイ素系化合物を含まず、SiOH基を含有しない比較例4〜11は加工密着性に劣ることが確認された。