1.塗装金属板
本発明の第一の実施形態は、金属板の表面に下塗り塗膜および上塗り塗膜が形成された塗装金属板に関する。
1-1.金属板
上記金属板は、本実施の形態における効果が得られる範囲において、公知の金属板から選ぶことができる。上記金属板の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn-Al合金めっき鋼板、Zn-Al-Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板および銅板が含まれる。
上記金属板が鋼板であるとき、上記鋼板は、低炭素鋼、中炭素鋼および高炭素鋼などを含む炭素鋼でもよいし、Mn、Cr、Si、Niなどを含有する合金鋼でもよい。また、上記鋼板は、Alキルド鋼などを含むキルド鋼でもよいし、リムド鋼でもよい。良好なプレス成形性が必要とされる場合は、低炭素Ti添加鋼および低炭素Nb添加鋼などを含む深絞り用鋼板が好ましい。また、P、Si、Mnなどの量を特定の値に調整した高強度鋼板を用いてもよい。上記鋼板の板厚は、特に限定されないが、0.2~2.0mmの範囲内が好ましい。
上記金属板は、その表面にめっき層を有していてもよい。上記めっき層は、上記金属板を基材金属板として、公知のめっき処理により形成されためっき層であればよい。上記めっきは、溶融めっきでも蒸着めっきでもよい。めっきの種類は、特に限定されず、Zn系めっき(Znめっき、Zn-Alめっき、およびZn-Al-Mgめっきなど)、Al系めっき、ならびにNi系めっきなどを使用することができる。これらのうち、Zn系めっきおよびAl系めっきが好ましく、Zn系めっきがより好ましい。めっきの付着量は、特に限定されないが、90~190g/m2の範囲内が好ましい。
上記金属板は、化成処理層を有してもよい。上記化成処理層は、下塗り塗膜の密着性および塗装金属板の耐食性を向上させるために、上記金属板と下塗り層との間に配置される。化成処理層は、金属板の表面に接して形成された層であり、塗装前処理によって金属板の表面に付着した組成物で構成される。化成処理層の例には、非クロメート系皮膜およびクロメート系皮膜が含まれる。いずれも、防錆処理による皮膜である。
上記非クロメート系皮膜は、耐食性を高める観点および塗装金属板の製造および使用における環境への負荷を軽減する観点から好ましく、上記クロメート系皮膜は、耐食性を高める観点から好ましい。
上記非クロメート系皮膜の例には、Ti-Mo複合皮膜、フルオロアシッド系皮膜、リン酸塩皮膜、樹脂系皮膜、樹脂およびシランカップリング剤系皮膜、シリカ系皮膜、シリカおよびシランカップリング剤系皮膜、ジルコニウム系皮膜、ならびに、ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜などが含まれる。
上記非クロメート系皮膜の付着量は、その種類に応じて適宜に決めることができる。たとえば、上記Ti-Mo複合皮膜の付着量は、全TiおよびMo換算で10mg/m2以上500mg/m2以下であることが好ましく、上記フルオロアシッド系皮膜の付着量は、フッ素換算または総金属元素換算で3mg/m2以上100mg/m2以下であることが好ましく、上記リン酸塩皮膜の付着量は、リン元素換算で0.1mg/m2以上5g/m2以下であることが好ましく、上記樹脂系皮膜の付着量は、樹脂換算で1mg/m2以上500mg/m2以下であることが好ましく、上記樹脂およびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1mg/m2以上50mg/m2以下であることが好ましく、上記シリカ系皮膜の付着量は、Si換算で0.1mg/m2以上200mg/m2以下であることが好ましく、上記シリカおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Si換算で0.1mg/m2以上200mg/m2以下であることが好ましく、上記ジルコニウム系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1mg/m2以上100mg/m2以下であることが好ましく、上記ジルコニウムおよびシランカップリング剤系皮膜の付着量は、Zr換算で0.1mg/m2以上100mg/m2以下であることが好ましい。
上記クロメート系皮膜の例には、塗布型クロメート処理皮膜、およびリン酸-クロム酸系処理クロメート防錆処理皮膜などが含まれる。これらのクロメート系皮膜の付着量は、いずれも、クロム元素換算で20mg/m2以上80mg/m2以下であることが好ましい。
1-2.下塗り塗膜
上記下塗り塗膜は、上記金属板の表面に配置された、ウレタン系樹脂を含む塗膜である。上記下塗り塗膜は、上記金属板の表面に接して配置されてもよいし、上記金属板が有するめっき層の表面に接して配置されてもよいし、上記金属板が有する化成処理層の表面に接して配置されてもよい。
本実施形態において、上記下塗り塗膜は、200%モジュラスが1N/mm2以上10N/mm2以下である材料からなる。200%モジュラスが10N/mm2以下である材料は、下塗り塗膜の材料として従来用いられていた材料に比べて柔軟性が高い。そのため、このような材料からなる下塗り塗膜は、柔軟性に優れ、塗装金属板の表面に印加された応力を吸収して緩和する、緩衝材としても作用する。そのため、上記下塗り塗膜は、輸送時などに隣り合う塗装金属板同士の表面が摺動したときに、上記摺動による応力を緩和して、上記摺動による塗装金属板の表面への疵の発生を抑制することができる。一方で、下塗り塗膜の密着性を十分に高める観点からは、200%モジュラスはより高いことが好ましく、このような観点から、上記下塗り塗膜は、200%モジュラスが1N/mm2以上である材料からなるものとする。
また、上記下塗り塗膜は、上記緩衝作用により、塗装金属板の上塗り塗膜に大粒径の骨材を配合させたり、上塗り塗膜の硬度を高めさせたりすることなく、塗装金属板の表面への疵の発生を抑制することができる。そのため、上記下塗り塗膜は、上塗り塗膜に大粒径の骨材を配合することによる光沢の低下や、硬度が高い上塗り塗膜を形成する際の塗料の高粘度化などによる製造性の低下などを、生じにくくすることができる。
上記下塗り塗膜は、ウレタン系樹脂を含む。上記ウレタン系樹脂は、下塗り塗膜の柔軟性をより高め(上記下塗り塗膜を構成する材料の200%モジュラスをより低くし)、塗装金属板の摺動に対する耐疵付き性をより高める。
なお、本実施形態において、上記下塗り塗膜を構成する材料の200%モジュラスは、1N/mm2以上10N/mm2以下であり、2N/mm2以上7N/mm2以下であることが好ましく、2N/mm2以上5N/mm2以下であることがより好ましい。上記200%モジュラスが1N/mm2以上であると、加工時の経時応力緩和による下塗り塗膜の剥離を生じにくくすることができる。上記200%モジュラスが20N/mm2以下であると、上述した作用により摺動による塗装金属板の表面への疵の発生を抑制することができる。
なお、上記200%モジュラスは、20mm×100mm×200μmのサイズとした上記下塗り塗膜の材料を、公知のオートグラフを用い、引張試験時のチャック間距離を30mm、引張速度を5mm/min.として測定した、200%変位時の抗張力とすることができる。
上記下塗り塗膜を構成する材料の200%モジュラスは、上記下塗り塗膜中のウレタン系樹脂の種類および含有量や、他の添加物の種類およびその含有量などによって変化する。
上記下塗り塗膜を構成する材料の200%モジュラスをより低くする観点からは、上記ウレタン系樹脂は、水分散性のウレタン系樹脂であることが好ましく、親水性基としてアニオン性基を有するウレタン系樹脂、親水性基としてカチオン性基を有するウレタン系樹脂、または非イオン性の親水性基を有するウレタン樹脂であることがより好ましい。これらのウレタン系樹脂は、水性媒体中で、粒子状態で分散してエマルションを形成し得る樹脂である。
なお、上記アニオン性基を有するウレタン系樹脂は、アニオン性基よりも少ない量のカチオン性基をさらに有してもよく、上記カチオン性基を有するウレタン系樹脂は、カチオン性基よりも少ない量のアニオン性基をさらに有してもよい。ただし、アニオン性基とカチオン性基の両方を有するウレタン系樹脂は安定性が低い傾向があるため、アニオン性基を有するウレタン系樹脂はカチオン性基を有しないことが好ましく、カチオン性基を有するウレタン系樹脂はアニオン性基を有しないことが好ましい。
上記アニオン性基の例には、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基、およびリン酸基などが含まれる。上記カチオン性基の例には、3級アミノ基、3級アミノ基の一部または全部を酸性化合物(蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酒石酸、アジピン酸、およびリン酸など)で中和したもの、3級アミノ基の一部または全部を4級化剤(ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、メチルクロライド、およびエチルクロライドなど)で4級化したもの、ならびに第4級アンモニウム塩基などが含まれる。上記非イオン性の親水基の例には、水酸基などが含まれる。
上記アニオン性基またはカチオン性基を有するウレタン樹脂は、たとえばポリイソシアネート成分と、親水性基としてアニオン性基またはカチオン性基を有するポリオールを含むポリオ-ル成分と、を反応させて得られる重合体であり得る。
上記ポリイソシアネート成分の例には、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、およびイソホロンジイソシアネートなどの脂肪族環式構造を有するポリイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、およびトリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、ならびに、ヘキサメチレンジイソシアネート、およびリジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネートが含まれる。これらのポリイソシアネート成分は、一種類で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記アニオン性基を有するポリオールの例には、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、および2,2-ジメチロール吉草酸などのカルボキシル基を有するポリオール、ならびに、5-スルホイソフタル酸およびスルホテレフタル酸などのジカルボン酸と、エチレングリコーおよび、プロピレングリコールなどの低分子ポリオールと、を反応させて得られるスルホン酸基を有するポリエステルポリオールなどが含まれる。上記カチオン性基を有するポリオールの例には、3級アミノ基を有するポリオール、具体的には、N-メチル-ジエタノールアミン、およびエポキシを2つ有する化合物と2級アミンとを反応させて得られるポリオールなどが含まれる。上記ポリオ-ル成分は、上記アニオン性基を有するポリオールおよび上記カチオン性基を有するポリオール以外の他のポリオールをさらに含んでもよい。
アニオン性基を有するウレタン系樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が10mgKOH/g以上であると、親水性基としてのアニオン性基が一定以上含まれることから、水性塗料においてウレタン系樹脂の分散性を高めやすいだけでなく、金属板の表面との電気的な作用を生じやすい。酸価が50mgKOH/g以下であると、塗膜の耐水性が損なわれにくい。酸価は、JIS K 0070またはISO 3961に準じて測定することができる。具体的には、試料1gを中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のmg数として測定することができる。
カチオン性基を有するウレタン系樹脂のアミン価は、10mgKOH/g以上40mgKOH/g以下であることが好ましい。アミン価が10mgKOH/g以上であると、親水性基としてのカチオン性基が一定以上含まれることから、水性塗料においてウレタン系樹脂の分散性を高めやすいだけでなく、金属板の表面との電気的な作用を生じやすい。アミン価が40mgKOH/g以下であると、塗膜の耐水性が損なわれにくい。アミン価は、ASTM D2074に準じて測定することができる。具体的には、試料1gを中和するのに要する塩酸と当量の水酸化カリウム(KOH)のmg数として測定することができる。
上記ウレタン系樹脂の含有量は、より高いほど、下塗り塗膜の200%モジュラスをより低くすることができる。上記観点からは、下塗り塗膜中の上記ウレタン系樹脂の含有量は、ウレタン樹脂、リン酸変性エポキシ樹脂、およびメラミン化合物の合計100質量部に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
上記下塗り塗膜は、リン酸変性エポキシ樹脂を含むことが好ましい。リン酸変性エポキシ樹脂は、下塗り塗膜の密着性をより高めることができる。リン酸変性エポキシ樹脂は、原料としてのエポキシ樹脂を、リン酸基含有化合物で変性して得られる変性エポキシ樹脂であり得る。原料としてのエポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、およびビスフェノールAD型エポキシ樹脂などが含まれる。変性するためのリン酸化合物の例には、リン酸ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸(二リン酸)、三リン酸および四リン酸などが含まれる。
下塗り塗膜の密着性をより高めつつ、ウレタン系樹脂の含有量が相対的に低くなることによる200%モジュラスの上昇を抑制する観点からは、下塗り塗膜中の上記リン酸変性エポキシ樹脂の含有量は、ウレタン樹脂、リン酸変性エポキシ樹脂、およびメラミン化合物の合計100質量部に対して、2質量%以上45質量%以下であることが好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましい。
また、上記下塗り塗膜は、メラミン化合物を含むことが好ましい。メラミン化合物は、下塗り塗膜の耐湿性をより高めることができる。メラミン化合物の例には、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチルエーテル化メラミン樹脂が含まれる。なかでも、メチルエーテル化メラミン樹脂が好ましい。
下塗り塗膜の耐湿性をより高めつつ、ウレタン系樹脂の含有量が相対的に低くなることによる200%モジュラスの上昇を抑制する観点からは、下塗り塗膜中の上記メラミン化合物の含有量は、ウレタン樹脂、リン酸変性エポキシ樹脂、およびメラミン化合物の合計100質量部に対して、1質量%以上8質量%以下であることが好ましく、5質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。
また、上記下塗り塗膜は、防錆顔料粒子をさらに含有していてもよい。
上記防錆顔料粒子の例には、変性シリカ、バナジン酸塩、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、およびポリリン酸アルミニウムなどを含む非クロム系の防錆顔料の粒子、ならびに、クロム酸ストロンチウム、クロム酸亜鉛、クロム酸バリウム、クロム酸カルシウムなどを含むクロム系防錆顔料の粒子などが含まれる。
下塗り塗膜の耐食性および耐湿性をより高めつつ、ウレタン系樹脂の含有量が相対的に低くなることによる200%モジュラスの上昇を抑制する観点からは、下塗り塗膜中の上記防錆顔料の含有量は、下塗り塗膜の全質量に対して5質量%以上65質量%以下であることが好ましく、17質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。
また、上記下塗り塗膜は、着色顔料粒子、体質顔料粒子、および光沢調整剤粒子などの添加剤をさらに含有していてもよい。
上記防錆顔料粒子の例には、変性シリカ、バナジン酸塩、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、およびポリリン酸アルミニウムなどを含む非クロム系の防錆顔料の粒子、ならびに、クロム酸ストロンチウム、クロム酸亜鉛、クロム酸バリウム、クロム酸カルシウムなどを含むクロム系防錆顔料の粒子などが含まれる。
上記着色顔料粒子は、塗料用の着色顔料として一般に入手できる有機系着色顔料および無機系着色顔料の粒子のいずれであってもよい。着色顔料粒子は、非透明であり、フッ素樹脂層に色調を与えて着色塗膜とする。
上記無機系着色顔料の例には、酸化チタン、酸化クロム、カーボンブラック、鉄黒、酸化鉄イエロー、チタンイエロー、ベンガラ、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、コバルトグリーン、およびモリブデン赤などが含まれる。
上記有機系着色顔料の例には、キナクリドンレッド、リソールレッドB、ブリリアントスカーレットG、ピグメントスカーレット3B、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、パーマネントレッド4R、ボルドー10B、ファストイエローG、ファストイエロー10G、パラレッド、ウォッチングレッド、ベンジジンイエロー、ベンジジンオレンジ、ボンマルーンL、ボンマルーンM、ブリリアントファストスカーレット、バーミリオンレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ファストスカイブルー、およびアニリンブラックなどが含まれる。
上記着色顔料粒子は、金属成分を含む複合酸化物焼成顔料の粒子であってもよい。上記焼成顔料の例には、CoAl、CoCrAl、CoCrZnMgAl、CoNiZnTi、CoCrZnTi、NiSbTi、CrSbTi、FeCrZnNi、MnSbTi、FeCr、FeCrNi、FeNi、FeCrNiMn、FeZn、CoCr、MnCo、およびSnZnTiなどが含まれる。
また、上記着色顔料粒子は、メタリック顔料の粒子であってもよい。上記メタリック顔料粒子の例には、Alフレーク、樹脂被覆Alフレーク、金属酸化物被覆Alフレーク、Niフレーク、Cuフレーク、およびステンレス鋼フレークなどが含まれる。
また、上記着色顔料粒子は、パール顔料の粒子であってもよい。上記パール顔料粒子の例には、酸化チタン被覆雲母、酸化鉄被覆雲母、および酸化チタン-酸化鉄被覆雲母などが含まれる。
上記着色顔料粒子の個数平均粒径は、本実施の形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができるが、通常は3μm以下であり、0.01μm以上1.5μm以下であることが好ましい。
上記体質顔料粒子の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカおよび炭酸カルシウムなどの粒子が含まれる。
上記体質顔料粒子の個数平均粒径は、本実施の形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができるが、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
上記光沢調整剤粒子の例には、シリカおよび炭酸カルシウムなどの無機材料、ならびに、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾクアナミン樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、およびフッ素樹脂などの樹脂材料などが含まれる。
上記光沢調整剤粒子の個数平均粒径は、本実施の形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができるが、3μm以下であることが好ましい。
下塗り塗膜中の上記顔料の含有量は特に限定されないが、上記下塗り塗膜を構成する材料の200%モジュラスを上述した範囲内に調整する観点からは、ウレタン樹脂、リン酸変性エポキシ樹脂、およびメラミン化合物の合計100質量部に対して、2質量%以上45質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
また、上記下塗り塗膜は、シランカップリング剤をさらに含有していてもよい。
上記シランカップリング剤は、分子内に、加水分解でシラノール基(Si-OH)を与えるアルコキシ基などと、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基またはアルキル基などの有機基とを有する化合物をいう。
シランカップリング剤の例には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどの、分子内にエポキシ基を有するエポキシ系シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメトキシシランなどの、分子内にビニル基を有するビニル系シランカップリング剤;アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、アミノメチルトリプロポキシシラン、アミノメチルトリブトキシシラン、アミノメチルトリフェノキシシラン、アミノエチルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどの、分子内にアミノ基を有するアミン系シランカップリング剤;メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリプロポキシシラン、メルカプトメチルトリブトキシシラン、メルカプトメチルトリフェノキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどの、分子内にメルカプト基を有するメルカプト系シランカップリング剤などが含まれる。
シランカップリング剤の含有量は、ウレタン樹脂、リン酸変性エポキシ樹脂、およびメラミン化合物の合計100質量部に対して、0.3質量%以上5質量%以下であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.3質量%以上であると、塗膜の金属板との密着性や耐湿性、耐食性を高めやすく、5質量%以下であると、塗料組成物の保存安定性が損なわれにくい。シランカップリング剤の含有量は、同様の観点から、ウレタン樹脂、リン酸変性エポキシ樹脂、およびメラミン化合物の合計100質量部に対して、1質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。
上記下塗り塗膜の膜厚は、1μm以上10μm以下とすることができるが、3μm以上7μm以下であることが好ましい。上記膜厚が3μm以上であると、上記緩衝作用が十分に発揮され、塗装金属板の摺動に対する耐疵付き性をより高めることができる。上記膜厚が7μm以下であると、ワキの発生などの塗装不良が生じにくく、かつ低コストで塗装金属板を作製することができる。
1-3.上塗り塗膜
上記上塗り塗膜は、上記下塗り塗膜の表面に配置された、ウレタン系樹脂を含む塗膜である。上記下塗り塗膜は、上記下塗り塗膜の表面に接して配置されてもよいし、上記下塗り塗膜との間に配置された中塗り塗膜の表面に接して配置されてもよい。
上記上塗り塗膜は、60°鏡面光沢度が20以上である。上記60°鏡面光沢度は、JIS K 5600-4-7(1999)に準拠して測定することができる。
上記上塗り塗膜は、ベースとなるポリエステル樹脂と、光沢を調整するための光沢調整剤と、を含む。
上記ポリエステル樹脂は、上塗り塗膜のベースとなる樹脂である。上記ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合させた公知のポリエステル樹脂とすることができる。上記多価カルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、および2,7-ナフタレンジカルボン酸などを含む芳香族ジカルボン酸類およびこれらの無水物、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などを含む脂肪族ジカルボン酸類およびこれらの無水物、γ-ブチロラクトン、およびε-カプロラクトンなどを含むラクトン類、トリメリット酸、トリメジン酸、およびピロメリット酸などを含む3価以上の多価カルボン酸類などが含まれる。上記ポリエステル樹脂は、上記多価カルボン酸由来の構造を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
上記多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-ドデカンジオール、1,2-オクタデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、およびビスフェノールSアルキレンオキシド付加物等のグリコール類、ならびに、トリメチロールプロパン、グリセリン、およびペンタエリスリトールなどを含む3価以上の多価アルコール類などが含まれる。上記ポリエステル樹脂は、上記多価アルコール由来の構造を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
上記ポリエステル樹脂は、GPCで測定される数平均分子量(ポリスチレン換算)が3000以上7000以下であることが好ましい。上記数平均分子量が3000以上であると、上塗り塗膜に十分な延性が付与され、加工時の塗膜ワレを生じにくくすることができる。上記数平均分子量が7000以下であると、上記ポリエステル樹脂の架橋度を十分に高めて、塗装金属板の耐疵付き性および耐候性などをより高めることができる。また、上記数平均分子量が7000以下であると、上塗り塗膜を形成する際の塗料の高粘度化などによる製造性の低下などを生じにくくすることができる。上記観点からは、上記ポリエステル樹脂の数平均分子量は、4000以上7000以下であることが好ましく、4000以上6000以下であることがより好ましい。
上記光沢調整剤は、上塗り塗膜の表面を適度に粗面化して、光沢を伴う所期の外観を塗装金属板にもたらす。これにより、上記光沢調整剤は、上塗り塗膜の光沢を高めて、上塗り塗膜の60°鏡面光沢度を20以上とすることができる。
上塗り塗膜の60°鏡面光沢度を20以上としやすくする観点からは、上記光沢調整剤の個数平均粒径は、0.5μm以上7.0μm以下であることが好ましく、1μm以上6μm以下であることがより好ましく、1.5μm以上4μm以下であることがさらに好ましい。
上塗り塗膜の60°鏡面光沢度をより高めつつ、上塗り塗膜の加工部密着性も同時に高める観点からは、上塗り塗膜中の上記光沢調整剤の含有量は、上塗り塗膜の全質量に対して0.01体積質量%以上15体積%以下であることが好ましく、0.05体積%以上13体積%以下であることがより好ましく、0.1体積%以上10体積%以下であることがさらに好ましい。
上記上塗り塗膜は、上記下塗り塗膜と同様の、防錆顔料粒子着色顔料粒子、メタリック顔料粒子、パール顔料粒子、体質顔料粒子、および光沢調整剤粒子などをさらに含有してもよい。
ただし、上塗り塗膜の表面からこれらの粒子が露出することによる、意匠性の低下を抑制する観点からは、これらの粒子の個数平均粒径は、上塗り塗膜の膜厚より小さいことが好ましい。これらの粒子が、個数平均粒径が異なる複数種の粒子を含むときは、すべての種類の粒子の個数平均粒径が、上塗り塗膜の膜厚より小さいことが好ましい。
上記上塗り塗膜の膜厚は、10μm以上20μm以下であることが好ましい。上記膜厚が10μm以上であると、上塗り塗膜による塗装金属板の長期耐久性を十分に高めることができる。上記膜厚が20μm以下であると、ワキの発生などの塗装不良が生じにくく、かつ低コストで塗装金属板を作製することができる。
2.塗装金属板の製造方法
上記塗装金属板は、公知の方法に基づいて作製することが可能である。たとえば、上記塗装金属板は、上記金属板を用意する工程と、上記金属板上に上記下塗り塗膜を作製する工程と、上記下塗り塗膜上に上記上塗り塗膜を作製する工程と、を含む方法によって作製することができる。
上記下塗り塗膜および上記上塗り塗膜は、いずれも公知の方法で上述した成分を含む塗料を調製し、塗布して硬化させる方法で、作製することができる。
上記塗料は、たとえば、上述したそれぞれの塗膜の材料を溶剤中に分散することによって調製される。上記溶剤は、水または水と水溶性有機溶剤との混合物である。上記水溶性有機溶剤の例には、メタノール、エタノール、n-プロパノールおよびイソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、アルキルエーテル類、ならびにN-メチル-2-ピロリドンなどのラクタム類などが含まれる。
なお、下塗り塗料中で、上記ウレタン系樹脂はエマルションとなっている。
上記塗料の塗布は、ロールコート、カーテンフローコート、スプレーコート、浸漬コートなどの公知の方法によって行うことができる。上記塗料の塗布量は、上述した各塗膜の所望の厚さに応じて適宜に調整される。なお、直接重なる二つの塗膜のうちの少なくとも上の塗膜の塗料の塗布を、カーテンフローコートやスプレーコートなどの非接触な塗装方法(被塗装物への接触がない、いわゆるウェットオンウェット塗装が可能な塗装方法)で行う場合には、下の塗料の膜の硬化を上の塗料の膜の硬化と一度に同時に行うことが可能であるので、上の層のための塗料を塗布する前に下の塗料の膜を硬化させる工程を省略することが可能である。
上記塗料の硬化は、上記塗料を加熱によって焼き付ける公知の方法によって行うことが可能である。たとえば、上記塗料が塗布された金属板は、その到達温度が200~260℃となるように加熱される。
焼き付け後の塗膜の冷却は、空冷、水冷、放冷、冷却部材へ接触およびこれらの組み合わせなどの公知の方法によって行うことが可能である。
上記塗装金属板の製造方法は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、上述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。当該他の工程の例には、化成処理皮膜を形成する化成処理工程、および中塗り塗膜を形成する工程が含まれる。
上記化成処理工程は、化成処理皮膜を形成するための水性の化成処理液を、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの公知の方法で上記金属板の表面に塗布し、塗布後に上記金属板を水洗せずに乾燥させることによって行うことが可能である。当該金属板の乾燥温度および乾燥時間は、生産性の観点から、例えば、金属板の到達温度で60~150℃、2~10秒間であることが好ましい。
上記中塗り塗膜を形成する工程も、下塗り塗膜および上塗り塗膜を形成する工程と同様に、中塗り塗膜用の塗料(中塗り塗料)の塗布およびそれによる膜の硬化によって行うことができる。当該中塗り塗料も、中塗り塗膜の材料以外に、必要に応じて上記溶剤および各種添加剤を含んでいてもよい。中塗り塗料は、例えば上記の公知の方法で3~20μm(好ましくは5~15μm)となる塗布量で塗布され、金属板の到達温度が180~260℃の温度となるように金属板を加熱することにより焼き付けられ、作製される。
1.塗装金属板の作製
1-1.塗装原板の作製
両面めっき付着量150g/m2のアルミ亜鉛合金めっき鋼板(ガルバリウム鋼板(「ガルバリウム鋼板」は登録商標))を用意し、アルカリ脱脂した。
上記アルカリ脱脂しためっき鋼板の表面に、日本パーカライジング株式会社製、パルコートCT-E200クロムフリー化成処理液用いて、化成処理した。
1-2.下塗り塗膜の形成
1-2-1.下塗り塗料の調製
水系ウレタン系樹脂の水分散体として、樹脂A(株式会社ADEKA製、HUX-895、固形分54%)、樹脂B(株式会社ADEKA製、HUX-380、固形分38%)、または樹脂C(第一工業製薬株式会社製、スーパーフレックスE-2000、固形分50%)を用いた。
160gのオルトリン酸、および280gのプロピレングリコールモノメチルエーテルを仕込んだ反応容器に、850gのビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、jER 1055)を徐々に添加し、その後、80℃で2時間反応させた。反応終了後、120gのトリエチルアミンおよび1950mlの水を加え、固形分量が30質量%であるリン酸変性エポキシ樹脂の水分散体を得た。
メラミン化合物として、ヘキサメチル化メチロールメラミン(三井サイテック株式会社製、サイメル303)を用いた。
防錆顔料として、マグネシウムイオン交換シリカ(富士シリシア化学株式会社製、サイロマスク 52M)を用いた。
上記水系ウレタン系樹脂の水分散体、リン酸変性エポキシ樹脂の水分散体、メラミン化合物および防錆顔料を、表1に示す配合比で混合して、下塗り塗料1~下塗り塗料6を得た。
1-2-2.200%モジュラスの測定
ETFEラミネート板に、下塗り塗料1~下塗り塗料6のそれぞれを、乾燥膜厚が200μmとなるようにブレードコーターで塗布し、室温で24時間の乾燥、その後、150℃で2分の乾燥を行い、遊離塗膜を作成した。作製した遊離塗膜を20mm×100mmサイズに切り取り、オートグラフにセットした。引張試験時のチャック間距離は30mm、引張速度は5mm/min.に設定して、200%変位時の抗張力を測定した。
上記水系ウレタン系樹脂の水分散体、リン酸変性エポキシ樹脂の水分散体、メラミン化合物および防錆顔料の配合比(ウレタン樹脂、リン酸変性エポキシ樹脂、およびメラミン化合物の合計を100質量%としたときの、それぞれの固形分の配合量の割合を示す)、およびそれぞれの下塗り塗料により得られる塗膜の200%モジュラスを、表1に示す。
1-2-3.下塗り塗膜の形成
塗装原板の片側の面に、下塗り塗料1~下塗り塗料6のそれぞれを、乾燥時の膜厚が2μm、3μm、5μm、7μmとなるようにバーコーターで塗布し、到達板温200℃、乾燥時間20秒で乾燥して、下塗り塗膜を形成した。
1-3.上塗り塗膜の形成
1-3-1.上塗り塗料の調製
ポリエステル樹脂として、数平均分子量が3000のポリエステル樹脂(日本合成化学工業株式会社製、TP-219)、数平均分子量が7000のポリエステル樹脂(東洋紡株式会社、バイロンGK130)または数平均分子量が10000のポリエステル樹脂(東洋紡株式会社、バイロンGK250)を用意した。
100質量部の上記いずれかのポリエステル樹脂に、溶媒としての75質量部のキシレン、光沢調整剤としての8質量部のシリカ(富士シリシア株式会社製、サイリシア436、平均粒径:4.0μm)、顔料としての70質量部の酸化チタン(テイカ株式会社製 JR-603)、および5質量部の硫酸バリウム(堺化学工業株式会社、BF-20)を添加して、予備混合を行って顔料分散ペーストを得た。
100質量部の上記得られた顔料分散ペーストに、硬化剤としての0.1質量部のヘキサメチル化メチロールメラミン(三井サイテック株式会社製、サイメル303)および触媒(三井サイテック株式会社製、キャタリスト6000)を添加して、上塗り塗膜を得た。
1-3-2.上塗り塗膜の形成
上記下塗り塗膜を形成した塗装原板に、上記調製した上塗り塗料のいずれかを、乾燥時の膜厚が18μmとなるようにバーコーターで塗布し、到達板温220℃、乾燥時間30秒で乾燥して、上塗り塗膜を形成し、60°鏡面光沢度が20の塗装鋼板1~塗装鋼板20を得た。
1-4.裏面塗膜
1-4-1.裏面塗料の調製
ポリエステル樹脂(東洋紡株式会社、バイロンGK130)100質量部に、溶媒としてキシレン75質量部、顔料として酸化チタン(テイカ株式会社製 JR-603)20質量部、硫酸バリウム(堺化学工業株式会社、BF-20)18質量部およびカーボンブラック(MA-100;三菱化学株式会社)1質量部を加え予備混合を行った。その後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で1時間混合分散し、不揮発分60質量%の顔料分散ペーストを得た。
上記顔料分散ペースト100質量部に、硬化剤としてメチルメラミン樹脂(サイメル303、三井サイテック株式会社)、滑剤としてポリエチレンワックス(リオフラットW-7768;融点104℃;東洋インキ株式会社)および触媒(キャタリスト6000;三井サイテック株式会社)を添加して、裏面塗料を得た。
1-4-2.裏面塗膜の形成
上記調製した裏面塗料を、乾燥時の膜厚が5μmとなるように、鋼板のうち上記上塗り塗膜を形成した面とは反対側の面にバーコーターで塗布し、到達板温220℃、乾燥時間30秒で乾燥して、裏面塗膜を形成した。
2.評価
2-1.耐摺動疵付き性
塗装鋼板1~塗装鋼板20のそれぞれを2枚用意して、そのうち1枚を、裏面が表側となるように、Rが5mmとなるように180度折り曲げて曲げ部を形成した。
図1に示すように、折り曲げた塗装鋼板110の、折り曲げ部の裏面115を、折り曲げていない塗装鋼板120の表面125に荷重20kgfで押し当て、押し当てたまま、折り曲げ部が延在する方向と垂直な方向(図中A方向)に、往復の移動距離5cmとなるように、50回摺動させた。
摺動後に、折り曲げていない塗装鋼板の表面を観察し、折り曲げた塗装鋼板が摺動した領域のうち中央部を含むように設定した評価領域の面積に対する、下塗り塗膜が露出している部位の面積を測定して、以下の基準で評価した。
◎ 下塗り塗膜が露出している部位の面積は5%未満だった
○ 下塗り塗膜が露出している部位の面積は5%以上10%未満だった
△ 下塗り塗膜が露出している部位の面積は10%以上20%未満だった
× 下塗り塗膜が露出している部位の面積は20%以上だった
2-2.加工性
塗装鋼板1~塗装鋼板20のそれぞれを、試験板と同一厚さの板をはさんで、23℃で180°に折り曲げた。このとき、塗膜にクラックが生じない最少の板はさみ枚数Tを記録して、以下の基準で評価した。
◎ 4T以下
○ 5T以上8T以下
× 9T以上
2-3.塗膜密着性
各化成処理鋼板の30mm×250mmの試験片に対してドロービード試験(ビード高さ:1mm、圧力:1.0kN)を行った後、金型が摺動した部分についてセロハンテープ剥離試験を行い、以下の基準で評価した。
◎ めっき露出面積が5%未満
○ めっき露出面積が5%以上10%未満
△ めっき露出面積が10%以上20%未満
× めっき露出面積が20%以上
塗装鋼板1~塗装鋼板20の作製に用いた下塗り塗料の種類および当該下塗り塗料から得られる膜の200%モジュラス、下塗り塗膜の膜厚、上塗り塗膜に含まれるポリエステル樹脂の数平均分子量および上塗り塗膜の膜厚、ならびに上記評価結果を、表2および表3に示す。
表2および表3から明らかなように、鋼板と、ウレタン系樹脂を含む下塗り塗膜と、60°鏡面光沢度が20以上である上塗り塗膜と、がこの順に積層された塗装鋼板であって、上記下塗り塗膜が、200%モジュラスが1N/mm2以上10N/mm2以下である材料からなる、塗装鋼板1~塗装鋼板14は、擦動に対する耐疵付き性に優れていた。
また、下塗り塗膜がリン酸変性エポキシ樹脂を含む塗装鋼板3~塗装鋼板7、および塗装鋼板10~塗装鋼板14は、曲げ密着性がより優れていた。
また、上塗り塗膜が分子量のより高いポリエステルを含む塗装鋼板8~塗装鋼板14は、加工性がより優れていた。
これに対し、下塗り塗膜が、200%モジュラスが10N/mm2よりも大きい材料からなる、塗装鋼板15~塗装鋼板18は、擦動に対する耐疵付き性がさほど高まっていなかった。