近年、燃料の有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する固体酸化物形燃料電池が高効率でクリーンな発電装置として注目されている。この固体酸化形燃料電池は、固体電解質層の両面に燃料極層(アノード)と空気極層(カソード)を配置して成る発電セルの外側に燃料極集電体と空気極集電体を配置し、これらの集電体の外側にセパレータを配置した単セルを複数積層することによりスタック化されている。
上記固体酸化形燃料電池では、反応用ガスとして空気極層側に酸化剤ガスが供給され、燃料極層側に燃料ガスが供給されることにより発電反応が生じている。このため、空気極集電体と燃料極集電体は、反応ガスが空気極層と燃料極層との界面に到達することができるように、いずれも多孔質の層で形成されている。
そして、発電セル内において、空気極層側に供給された酸素は、空気極集電体内の気孔を通って空気極層との界面近傍に到達し、この部分で空気極層から電子を受け取って酸化物イオン(O2-)にイオン化される。この酸化物イオンは、燃料極層に向かって固体電解質層内を拡散移動し、燃料極層との界面近傍に到達した酸化物イオンはこの部分で燃料ガスと反応して反応生成物(H2O、CO2等)を生じ、燃料極層に電子を放出する。電極反応で生じた電子は、別ルートの外部負荷にて電力として取り出すことができる。
ここで、図4は、従来の平板積層型の固体酸化物形燃料電池を示しており、固体電解質層2の両面に燃料極層3と空気極層4を配した発電セル5と、燃料極層3の外側に配した燃料極集電体6と、空気極層4の外側に配した空気極集電体7と、各集電体6,7の外側に配したセパレータ8によって単セル10が構成されている。
そして、単セル10は、複数積層されるとともに、その上下端部にフランジ13を配して周縁部をボルト14にて締め付けられ、その締め付け荷重によって各構成要素が一体的に密着して構成されることにより燃料電池スタック1が形成されている。
ここで、固体電解質層2は、酸化物イオンの移動媒体であると同時に、燃料ガスと空気を直接接触させないための隔壁としても機能するので、ガス不透過性の緻密な構造となっている。この固体電解質層2は、酸化物イオン伝導性が高く、空気極層3側の酸化性雰囲気から燃料極層4側の還元性雰囲気までの条件下において化学的に安定で、熱衝撃に強い材料から構成する必要があり、かかる要件を満たす材料として、イットリアを添加した安定化ジルコニア(YSZ)で構成されている。
一方、電極である空気極(カソード)層3と燃料極(アノード)層4はいずれも電子伝導性の高い材料から構成する必要がある。空気極層3の材料は、700℃前後の高温の酸化性雰囲気中で化学的に安定でなければならないため、金属は不適当であり、電子伝導性を持つLaMnO3もしくはLaCoO3、または、これらのLaの一部をSr、Ca等に置換した固溶体(LSM、LSC,SSC等)で構成されている。また、燃料極層4の材料は、Ni、Coなどの金属、或いはNi−YSZ、Co−YSZなどのサーメットで構成されている。
また、燃料極集電体6は、Ni基合金等のスポンジ状の多孔質焼結金属板で構成され、空気極集電体7は、Ag基合金等の同じくスポンジ状の多孔質焼結金属板で構成されている。スポンジ状多孔質焼結金属板は、集電機能、ガス透過機能、均一ガス拡散機能、クッション機能、熱膨脹差吸収機能等を兼ね備えるので、多機能の集電体材料として適している。
そして、中温作動型の固体酸化物形燃料電池は、発電の際に、作動温度が650℃〜800℃程度になることが知られている。
そのため、セパレータ8は、伝導性を有するとともに、650℃〜800℃程度の温度で溶融することのないCrを18wt%の割合で含むSUS430ステンレス鋼等の金属材料により構成されている。
加えて、セパレータ8は、発電セル5間を電気接続すると共に、発電セル5に対してガスを供給する機能を有するもので、燃料ガスをセパレータ8外周面から導入して燃料ガス通路13を介してセパレータ8の燃料極層4に対向する面から吐出させる燃料ガス吐出孔9と、酸化剤ガスをセパレータ8外周面から導入して酸化剤ガス通路12を介してセパレータ8の空気極層3に対向する面から吐出させる酸化剤ガス吐出孔10とをそれぞれ有している。
このような平板型の固体酸化物形燃料電池の従来技術として特許文献1が開示されている。
しかしながら、SUS430ステンレス鋼により構成されたセパレータ8は、650℃〜800℃程度の高温になると、表面が酸化して酸化被膜を形成するために、セパレータ8の電気抵抗が増加して、セル電圧が低下するという欠点がある。
このため、特許文献2に示すように、セパレータ8の表面に、高温時に良好な導電性を有するとともに、耐酸化性を有するAgめっきを成膜することにより、セパレータ8の表面の酸化被膜の形成を防止し、セル電圧の低下を抑制するものが提案されている。
(第1実施形態)
以下、本発明に係わる固体酸化物形燃料電池の第1実施形態について図1〜図3に基づいて説明する。この固体酸化物形燃料電池は、セパレータ8がCrを20wt%〜24wt%の割合で含むフェライト系ステンレスにより構成されている点と、空気極層4側のセパレータ8と空気極集電体7との間に、金属板9を設置している点が従来技術と異なっている。なお、燃料電池スタック1の構成などの従来技術と同一構成部分については、同一符号を用いることにより説明を省略する。
まず、図1に示すように、この固体酸化物形燃料電池は、平板型のものであり、固体電解質層2の両面に燃料極層3と空気極層4を配した発電セル5と、燃料極層3の外側に配した燃料極集電体6と、空気極層4の外側に配した空気極集電体7と、空気極集電体7の外側に配した金属板9と、集電体6および金属板9の外側に配したセパレータ8によって単セル10が構成されている。
この際、セパレータ8は、発電セル5間が電気的に接続されるとともに、発電セル5に対してガスを供給する機能を有するもので、燃料ガスをセパレータ8の外周面から導入して、燃料ガス通路11を介して燃料極集電体6に対向する面の中央から吐出させる燃料ガス吐出孔17、及び酸化剤ガスをセパレータ8の外周面から導入して、酸化剤ガス通路12を介して空気極集電体7に対向する面の中央から吐出させる酸化剤ガス吐出孔18が形成されている。
また、図3に示すように単セル10は、複数積層(本実施形態では46層)されるとともに、その上下端部にフランジ13を配して周縁部をボルト14にて締め付けられ、その締め付け荷重によって各構成要素が一体的に密着して構成されることにより燃料電池スタック1が形成されている。
ここで、セパレータ8は、Crを20%〜24%の割合で含むフェライト系ステンレスで構成されており、発電セル5及び各集電体6,7の外形寸法より大きな矩形に形成されている。
一方、金属板9は、高温時に導電性を有するAgで構成されている。なお、金属板9は、フェライト系ステンレスの結晶構造と固溶し易いAuなどの金属を用いると、固溶した金属がフェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8と固溶して金属間化合物となり、セパレータ8の表面にCrを含む金属間化合物が露出した状態となるため、高温時にCrが蒸発して、Cr被毒が発生してしまう。このため、金属板9は、セパレータ8を構成しているフェライト系ステンレスと固溶し難い金属であるPt、Pd、Agで構成することが好ましい。また、Pt、Pdの電気伝導度に比べて、電気伝導度が非常に良好であり、且つ高温雰囲気下においても耐酸化性を有することから、高温雰囲気下における電気伝導度も非常に良好となることからAgで構成することが好ましい。さらに、金属板9は、Pt、Pd、Agの中でも、PtとPdに比べて安価であるAgで構成することがより好ましい。
また、図2に示すように、金属板9の中央には、酸化剤ガス吐出孔18と同径のガス供給孔19が形成されている。なお、ガス供給孔19を酸化剤ガス吐出孔18より大きく形成すると、酸化剤ガス突出孔18近傍にセパレータ8が露出するために、酸化皮膜を形成し、酸化皮膜からCrが蒸発して空気極層4に堆積してしまうので、Cr被毒が発生する。また、ガス供給孔19を酸化剤ガス吐出孔18より小さく形成すると、酸化剤ガスである酸素が十分に空気極層4の界面上に到達しないために、発電性能が低下する。このため、ガス供給孔19は、酸化剤ガス吐出孔18と同径であることが好ましい。
さらに、金属板9は、積層方向の厚さが、3μm以上の薄膜であれば良いが、ピンホール等の予防を考慮すると30μm以上が好ましく、さらにシートのハンドリングを考慮すると50μm以上であることが望ましい。
ここで、燃料電池スタック1の積層方向の中央部15に位置する26層の金属板9は、発電セル5の外形寸法と同じ寸法に形成されている。また、上記積層方向の両端部16に位置する各10層の金属板9は、セパレータ8の外形寸法と同じ寸法に形成されている。
以上の構成からなる固体酸化物形燃料電池においては、空気極集電体7の外側に配したセパレータ8に形成された酸化剤ガス通路12に酸素を供給する。そして、酸素を空気極集電体7の周辺部まで充分に行き渡らせるように、酸化剤ガス通路12を介して酸化剤ガス吐出孔18から供給する。
この酸化剤ガス吐出孔から供給された酸素は、金属板9のガス供給孔19を介して、空気極集電体7に吐出する。この空気極集電体7に供給された酸素は、Ag基合金の多孔質焼結金属板からなる空気極集電体7の気孔を通って空気極層4との界面近傍に到達する。そして、界面近傍に到達した酸素が、空気極層4との界面上で電子を受け取り、酸素イオンへ解離する際の反応が促進されて発電が行なわれる。
(第2実施形態)
次いで、本発明に係わる固体酸化物形燃料電池の第2実施形態について図5に基づいて説明する。本発明は、金属板9がステンレス材22にAgめっき23を被覆して形成されている点、およびセパレータ8に燃料ガス吐出孔17および酸化剤ガス供給孔18に代わり燃料ガス流路20および酸化剤ガス流路21が形成されている点が第1実施形態と異なっている。なお、図1〜図4に示した燃料電池スタックの構成などの第1実施形態と同一の構成については、同一符号を用いることにより説明を省略する。
まず、図5に示すように、この固体酸化物形燃料電池は、平板型のものであり、固体電解質層2の両面に燃料極層3と空気極層4を配した発電セル5と、空気極層4の外側に配した空気極集電体7と、空気極集電体7の外側に配した金属板9と、金属板9と燃料極層3の外側に配したセパレータ8によって単セル10が構成されている。
この際、セパレータ8は、発電セル5間が電気的に接続されるとともに、発電セル5に対してガスを供給する機能を有するもので、燃料ガスをセパレータ8の外周面から導入して燃料極層3に供給する燃料ガス流路20が形成され、酸化剤ガスをセパレータ8の外周面から導入して空気極層4に供給する酸化剤ガス流路21が形成されている。
そして、第1実施形態と同様に、単セル10が複数積層(第1実施形態と同様に46層)されるとともに、その上下端部にフランジ13を配して周縁部をボルト14にて締め付けられ、その締め付け荷重によって各構成要素が一体的に密着して構成されることにより燃料電池スタック1が形成されている。
ここで、セパレータ8は、Crを20wt%〜24wt%の割合で含むフェライト系ステンレスで構成されており、発電セル5及び各集電体6,7の外形寸法より大きな矩形に形成されている。
一方、図6に示すように、金属板9は、高温時に導電性を有するAgめっき23を表面に被覆したステンレス材22により構成され、このステンレス材22は、フェライト系ステンレスにより構成されている。
この際、ステンレス材22を構成するフェライト系ステンレスは、Crを22%の割合で含むCr22を使用すると、Agとの固着性が悪く、実際、固体酸化物形燃料電池を長時間運用した際に、次第にAgが剥離してCr22が露出し、Cr22の表面からCrが蒸発してCr被毒を発生させる可能性がある。また、フェライト系ステンレスとして、Crを13.5%の割合で含むSUS405を使用すると、Agとの固着性は良いものの、Crの含有量が少ないために、電気導電性が悪く、固体酸化物形燃料電池の電力が低下してしまう。このため、フェライト系ステンレスとしては、Crを18%の割合で含むSUS430を使用するのが好ましい。
さらに、ステンレス材22に被覆する金属として、フェライト系ステンレスの結晶構造と固溶し易いAuなどの金属を用いると、固溶した金属がフェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8およびステンレス材22と固溶して金属間化合物となり、セパレータ8およびステンレス材22の表面にCrを含む金属間化合物が露出した状態となるため、高温時にCrが蒸発して、Cr被毒が発生してしまう。このため、金属板9は、セパレータ8およびステンレス材22を構成しているフェライト系ステンレスと固溶することのない金属であるPt、Pd、Agで構成することが好ましい。また、金属板9は、Pt、Pdの電気伝導度に比べて、電気伝導度が非常に良好であり、且つ高温雰囲気下においても耐酸化性を有するとともに、高温雰囲気下における電気伝導度も非常に良好となることからも、Agで構成することが好ましい。さらに、金属板9は、Pt、Pd、Agの中でも、PtとPdに比べて安価であるAgで構成することがより好ましい。
また、金属板9は、積層方向の厚さが、3μm以上の薄膜であれば良いが、ピンホール等の予防を考慮すると30μm以上が好ましく、さらにシートのハンドリングを考慮すると50μm以上であることが望ましい。
ここで、燃料電池スタック1の積層方向の中央部15に位置する26層の金属板9は、発電セル5の外形寸法と同じ寸法に形成されている。また、上記積層方向の両端部16に位置する各10層の金属板9は、セパレータ8の外形寸法と同じ寸法に形成されている。
以上の構成からなる固体酸化物形燃料電池においては、空気極集電体7の外側に配したセパレータ8に形成された酸化剤ガス流路21に酸素を空気極集電体7の周辺部まで充分に行き渡らせるように供給する。
この酸化剤ガス流路21から供給された酸素は、空気極集電体7に吐出して、この空気極集電体7に供給された酸素は、Ag基合金の多孔質焼結金属板からなる空気極集電体7の気孔を通って空気極層4との界面近傍に到達する。そして、界面近傍に到達した酸素が、空気極層4との界面上で電子を受け取り、酸素イオンへ解離する際の反応が促進されて発電が行なわれる。
以上の構成からなる第1実施形態および第2実施形態に係る固体酸化物形燃料電池によれば、Crを20wt%〜24wt%の割合で含むフェライト系ステンレスによりセパレータ8を構成しているために、高温時、空気極層4側のセパレータ8の表面が酸素により酸化されて、CrO、Cr2O2が組み合わさった2価を含むCr3O4からなる酸化被膜が形成される。一般的にCrの酸化物は、導電性を有するために、セパレータ8の表面に酸化被膜が形成されても、電気抵抗が増加しないので、セル電圧の低下を防止することが可能である。
加えて、セパレータ8と空気極集電体7との間に、高温時に導電性及び耐酸化性を有するAgにより構成された金属板9またはAgめっき23を表面に被覆したステンレス材22により構成された金属板9を設けているために、セパレータ8と金属板9との間に、酸素が入り込まないので、高温時に、空気極層4側のセパレータ8の表面に酸化被膜が形成されなくなる。また、仮に隙間が生じる等により、酸素がセパレータ8の表面に到達し酸化被膜が形成されて、酸化被膜の表面よりCrが蒸発しても、金属板9により遮蔽されて、遮蔽されたCrが酸化剤ガスとともに単セル外に排出されるために、空気極層4にCrが堆積することが無くなり、空気極層4の抵抗過電圧の上昇を防止することができる。この結果、単セル10のセル電圧の低下を防ぐことができるために、発電性能を維持することが可能となる。
そして、金属板9を、フェライト系ステンレスの結晶構造と固溶し難いAg、またはAgめっき23被覆したステンレス材22を用いて構成しているために、金属板9とフェライト系ステンレスが固溶して金属間化合物を生成することがなくなる。この結果、セパレータ8の表面にCrを含む金属間化合物が露出した状態となることがないため、高温時に、Crが蒸発することがなくなり、Cr被毒の発生を一層確実に防止することができる。
また、燃料電池スタック1のセパレータ8の外形寸法を、発電セル5及び各集電体6,7より大きく形成し、且つ燃料電池スタック1の積層方向の中央部15に位置する少なくとも1層以上の金属板9を、発電セル5の外形寸法と同じ寸法に形成しているために、セパレータ8の発電セル5との非対向位置に黒色の酸化被膜が形成されて、ジュール熱がこの黒色の酸化被膜に吸収されて放熱されるので、熱輻射率が高くなり、中央部15の温度が低下させることが可能となる。
しかも、燃料電池スタック1の積層方向の両端部16に位置する少なくとも1層以上の金属板9を、セパレータ8の外形寸法と同じ寸法に形成しているために、金属板9を構成しているAgがジュール熱を反射して、ジュール熱が放熱し難くなるので、熱輻射率が低くなり、両端部16の温度の低下を維持することが可能となる。
このように、中央部15の温度を低下させるとともに、両端部16の温度の低下を維持することにより、燃料電池スタック1の積層方向の温度分布が均一となるために、燃料電池スタック1の発電性能が両端部16の温度低下により低下したセル電圧に制限されることが無くなるので、発電効率が向上する。
さらに、固体酸化物形燃料電池の作動温度が600℃〜800℃であり、発電セル5から燃料電池反応に使用されなかった燃料ガスおよび酸化剤ガスが発電セル5より単セル10より放出されるシールレス構造であるために、燃料電池スタック1の両端部16に位置する発電セル5の外周部に、未使用の燃料ガスおよび酸化剤ガスが他の発電セル5に比べて多量に放出され、単セル10近傍で燃焼されるため、この燃焼熱によって燃料電池スタック1の両端部16の発電セル5を昇温させることができる。これにより、昇温された発電セル5の内部抵抗は減少し、セル電圧が上昇するため、より効率的な発電が行えるようになる。
また、固体酸化物形燃料電池は、金属板9をセパレータ8と発電セル5との間に配置するだけで容易に取付け可能であるために、セパレータ8に導電性を有する金属をメッキや蒸着する固体酸化物形燃料電池に比べて、生産性および作業性が良い。
そして、第1実施形態に係わる固体酸化物形燃料電池によれば、さらに、金属板9にガス供給孔19を形成しているために、セパレータ8と空気極集電体7との間に金属板9を設けても酸化剤ガス吐出孔18から供給される酸素を空気極層4の界面まで確実に供給することができるので、発電効率が低下することがない。
また、ガス供給孔19を酸化剤ガス吐出孔18と同径に形成しているために、ガス供給孔19が酸化剤ガス吐出孔18より大きく形成することにより生じるCr被毒を防止できるとともに、ガス供給孔19が酸化剤ガス吐出孔18より小さく形成することにより生じる発電性能の低下を防止することができる。
なお、第1実施形態および第2実施形態に係わる固体酸化物形燃料電池において、それぞれAgにより構成された金属板9およびAgめっき23を被覆したステンレス材22により構成された金属板9を用いたが、Agめっき23とステンレス材22との間に、密着性を向上させるNiめっきを施したもの、もしくはステンレス材22の両側にAg板を配置して拡散結合したクラッド、またはステンレス材22とAg板との間にNi板を配置して拡散結合したクラッドなどを用いても対応可能である。
実施例に、φ120mm、厚さ220μmの自立膜式の円型平板形のランタンガレート固体電解質2(La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.15Co0.05O2.8)の一方の面に、数10μmのNiとCe0.8Sm0.2O2のコンポジットサーメットからなる燃料極層3を、他方の面に数10μmのSm0.5Sr0.5CoO2.75からなる空気極層4を焼結して発電セル5を構成し、この発電セル5の燃料極層3側の外側に多孔質のNi(ニッケル)の燃料極集電体6を配置し、空気極層4側の外側にAg(銀)の多孔質の空気極集電体7を配置し、各集電体6、7の外側にCr(クロム)量が異なるフェライト系ステンレス、またはオーステナイト系ステンレス、もしくはマルテンサイト系ステンレスにより構成したセパレータ8を配置して構成した単セル10を用いて、それぞれの条件により構成された単セル10の耐久試験を実施した。
この際、セパレータ8の燃料極層3との対向面には、Niめっきを施し、セパレータ8の空気極層4側には、構成の異なる金属板9をセパレータ8と空気極集電体7との間に配置した。
ここで、セパレータ8を構成するCr量が異なるフェライト系ステンレスとして、それぞれCrを13.5wt%(SUS405)、17wt%(SUS430)、20wt%(Cr20)、22wt%(Cr22)、24wt%(Cr24)、または26wt%(Cr26)の割合で含むものを使用し、オーステナイト系ステンレスとして、Niを12%およびCrを18wt%(SUS316)の割合で含むものを使用し、マルテンサイト系ステンレスとして、Crを13wt%(SUS420)の割合で含むものを使用した。
また、セパレータ8と空気極集電体7との間に配置する金属板9として、厚さ0.10mmのAg板を使用した。
さらに、Cr22フェライト系ステンレスからなるセパレータ8を配置した単セル10のセパレータ8と空気極集電体7との間に配置する金属板9として、Ag板の他に、厚さ0.10mmのPt板、Pd板、またはAu板をそれぞれ使用した。
そして、それぞれの単セル10を、電気炉内に設置し、3時間で750℃まで昇温し、燃料極層3側に水素570ml/min(0℃基準)、空気極層4側に空気2.8L/min(0℃基準)を供給し、単セル10のセパレータ8にケーブルを介して電子負荷装置を接続し、定電流モードで負荷電流60.8A、即ち電流密度0.54A/cm2に設定して、それぞれの単セル10の初期および1000hr後の出力密度を測定した。なお、この時の燃料利用率が75%であり、空気利用率が38%と、実際に使用する固体酸化物形燃料電池の運転条件と同条件で実施している。
また、耐久試験後に、それぞれの発電セル5を回収して、発電セル5の1/4を採取し、ICP発光分光装置により、発電セル5の空気極層4に付着したCrの量を測定した。
下記の表1は、以上の条件により測定したそれぞれの単セル10の初期の出力密度、1000hr後の出力密度および発電セル10の空気極層4に付着したCrの量である。
上記の表1からそれぞれの初期および1000hr後の出力密度を抽出すると、SUS405およびSUS430のようにCrを20wt%以下に含むフェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を配置した単セル10に、0.10mmのAg板を配置した場合、初期の出力密度が120mW/cm2および270mW/cm2と発電性能が低かった。また、1000hr後の出力密度が、SUS430により構成されたセパレータ8を配置した単セル10の場合、140mW/cm2と発電性能が低下しており、SUS405からなるセパレータ8を配置した単セル10の場合、低すぎて測定できなかった。これは、空気極層4に付着したCr量が全て10ppm以下であり、セパレータ8からのCrの蒸発をAg板が抑止していることが確認できることから、Cr被毒による電気抵抗の増加によるセル電圧の低下では無く、ステンレス中のCr量が少ないために、セパレータ8の表面に、良好な電気伝導成膜を生成することができずに絶縁性の酸化膜を生成してしまい、セパレータ8の表面での抵抗値が増加したことに起因している。
一方、Cr20〜24フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を配置した単セル10に、0.10mmのAg板を配置した場合、初期の出力密度が390〜420mW/cm2とそれぞれの発電性能が良好であることが確認できる。また、1000hr後の出力密度も370〜410mW/cm2と殆ど初期の出力密度と殆ど変わらなかった。これは、空気極層4に付着したCr量が全て10ppm以下であり、セパレータ8からのCrの蒸発をAg板が抑止していることが確認できることから、Cr被毒による電気抵抗の増加を防止し、出力密度を維持することができているとともに、Crがセパレータの表面に良好な電気伝導成膜を生成していることに起因している。
他方、Cr26フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータを配置した単セル10に0.10mmのAg板を配置した場合、初期の出力密度が420mW/cm2と良好であるものの、1000hr後の出力密度が300mW/cm2に低下してしまった。これは、ステンレス中のCr量が多すぎることにより、表面の酸化膜の安定性が維持できず、低下してしまったことに起因している。また、空気極層4へのCrの付着量が10ppm以下であり、セパレータ8からのCrの蒸発を抑止していることが確認できるものの、セパレータ8のCrの含有量が26wt%と多いことから、Cr20〜24フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を用いた単セル10に比べ、多少なりCrが空気極層4に付着し、電気抵抗が増加したことに起因しているとも考えられる。
次に、SUS420マルテンサイト系ステンレスおよびSUS316オーステナイト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を用いた単セル10に、厚さ0.10mmのAg板を配置した場合、初期の出力密度が50mW/cm2および90mW/cm2と非常に低く、1000hr後の出力密度にあっては、共に出力密度が測定できなかった。これは、フェライト系ステンレスで無いことに加え、Crの含有量が少ないために、表面に高抵抗の酸化膜を生成したことによるセル電圧の低下だと考えられる。
また、Cr22フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を配置した単セル10に、Au板、Pt板、Pd板をそれぞれ配置した場合、初期の出力密度は、Au板が320mW/cm2、Pt板が350mW/cm2、Pd板が360mW/cm2であり、全体的にAg板を用いた場合に比べて出力密度が低く、1000hr後の出力密度は、Au板が270mW/cm2、Pt板が330mW/cm2、Pd板が350mW/cm2であり、初期の出力密度と同様Ag板を用いた場合に比べて、出力密度が低かった。これは、Agの電気伝導度に比べてAu、Pt、Pdの電気伝導度が低いために、出力密度が僅かながら低下してしまうことに起因している。しかし、1000hr後のPt板およびPd板を配置した単セル10の出力密度においては、出力密度が10〜20mW/cm2しか下がっておらず、初期の出力密度が低いものの、出力密度を維持することが可能であることが実証できた。また、1000hr後のAu板を配置した単セル10の出力密度にあっては、初期の出力密度に比べて50mW/cm2低下している。これは、Auがフェライト系ステンレスと固溶し金属間化合物となるために、1000hr後において、まだ発電セル5へのCrの付着が10ppm以下であるものの、徐々にCrがAu板の表面に露出した状態になり、そのCrが蒸発し、発電セル5に僅かながらCrが付着し電気抵抗が増加したことに起因していると考えられる。
以上の実施例から、セパレータ8を、Cr20〜24フェライト系ステンレスにより構成することにより、高温雰囲気下において長時間運用してセパレータ8の表面に酸化被膜が形成されても、電気抵抗が増加せずに、出力密度の低下を防止することができ、セル電圧を維持することが可能であることが実証できた。また、セパレータ8と空気極集電体7との間にAg板、Pt板、Pd板を配置することにより、空気極層4にCrが付着することを防ぎ、Cr被毒を防止することができることが実証できた。
次に、実施例1と同一構成の単セル10に、Cr22フェライト系ステンレスからなるセパレータ8を配置し、セパレータ8と空気極集電体7との間に金属板9を配置してないもの、セパレータ8と空気極集電体7との間に、厚さ0.10mm、0.03mm及び0.05mmのAg板、厚さ0.10mmのAg98%−Cu2%からなるAg合金板、SUS430の両面にAgをめっきした金属板、SUS430の両面にNiとAgとを順にめっきした金属板、SUS430の両面にAg板を拡散結合したクラッド板、Agペースト、Ag97%−Pd3%ペーストを、それぞれ配置したもの、およびSUS430フェライト系ステンレスからなるセパレータを配置し、セパレータ8と空気極集電体7との間に、Agペースト、SUS430の両面にNiとAgとを順にめっきした金属板、SUS430の両面にAgを拡散結合したクラッド板を、それぞれ配置したものを用いて、実施例1と同一運転条件して、同測定方法により初期のおよび3000hr後の出力密度および発電セル5の空気極層4に付着したCr量を測定した。
下記の表2は、以上の条件により測定したそれぞれの単セル10の初期の出力密度、3000hr後の出力密度および発電セル5の空気極層4に付着したCrの量である。
上記の表2からそれぞれの初期および3000hr後の出力密度を抽出すると、Cr22フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を配置した単セル10に金属板9を配置していない場合、初期の出力密度が420mW/cm2と発電性能が良好である。これは、セパレータ8を、Cr22フェライト系ステンレスで構成することにより、セパレータ8の表面に薄膜で良好な電気導電性を有するCrO・Cr2O3を生成することに起因している。しかしながら、3000hr後の出力密度が100mW/cm2と極端に低下している。これは、発電セル5に付着したCr量が4200ppmであり、空気極層4の表面に多量のCrが堆積してしまい、Cr被毒が発生して空気極層4の電気抵抗が増加してしまうことに起因している。
また、Cr22フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8にAgペーストを塗布し、800℃の真空中で加熱固化した場合、およびCr22フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8にAgを97wt%、Pdを3wt%の割合で含むAg合金ペーストを塗布し、800℃の真空中で加熱固化した場合、共に初期の出力密度が420mW/cm2と発電性能が良好である。これは、金属板9を配置していない単セル10と同様に、セパレータ8を、Crフェライト系ステンレスで構成することにより、セパレータ8の表面に薄膜で良好な電気導電性を有するCrO・Cr2O3を生成することに起因している。しかしながら、3000hr後の出力密度が、金属板9を配置していない単セル10程ではないものの同様に、200mW/cm2および180mW/cm2と極端に低下している。これは、セパレータ8にAgまたはAg合金のペーストを塗布しているが、このペーストは緻密質ではなく、ポーラス構造であるために、セパレータ8から蒸発したCrがポーラスを介して空気極層4に到達し、結果、発電セル5にCrが1500ppmおよび1800ppm付着してしまい、空気極層4の電気抵抗が増加してしまったことに起因している。
一方、Crフェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を配置した単セル10に、0.03mm、0.05mmおよび0.10mmのAg板を配置した場合、初期の出力密度が420mW/cm2とそれぞれの発電性能が良好であることが確認できる。また、3000hr後の出力密度も400mW/cm2と殆ど初期の出力密度と変わらなかった。
また、Crフェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を配置した単セル10にAg98wt%とCu2wt%の割合からなるAg合金板を配置した場合、初期の出力密度が400mW/cm2であり、Ag板を配置した単セル10に比べて、出力密度が20mW/cm2低く、3000hr後の出力密度も360mW/cm2であり、Ag板を配置した単セル10と比べて、出力密度が40mW/cm2低くなっている。これは材料のCuが空気中の酸素により酸化し電気抵抗が僅かながら増加したことに起因している。
そして、Cr22フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を配置した単セル10に、SUS430にAgを厚さ5μmにめっきした金属板を配置した場合、初期の出力密度が420mW/cm2と発電性能が良好だが、3000hr後の出力密度が340mW/cm2であり、Ag板を配置した単セル10に比べて、出力密度が60mW/cm2低くなっている。これは、SUS430にAgめっきを施すことにより高温酸化雰囲気下において耐酸化性は向上しているが、耐熱性が不十分でありSUS430にAgめっきの表面から少しずつ透過した酸素によりSUS430が酸化し電気伝導性が低下したものと考えられる。
さらに、Cr22フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を配置した単セル10に、SUS430にNiとAgとを順にめっきした金属板を配置した場合、初期の出力密度が420mW/cm2であり、3000hr後の出力密度も410mW/cm2と発電性能が共に良好であった。これは、SUS430とAgめっきとの間にNiめっきを施すことにより耐熱性が向上したことに起因している。
また、Cr22フェライト系ステンレスにより構成されたセパレータ8を配置した単セル10に、厚さ0.1mmのSUS430の両面にそれぞれ厚さ0.1mmのAg板を拡散結合したクラッド板を配置した場合、初期の出力密度が410mW/cm2であり、3000hr後の出力密度が340mW/cm2であった。これは、SUS430にAgめっきを施した単セルと同様に、SUS430にAg板を拡散結合するより高温酸化雰囲気下において耐酸化性は向上しているが、耐熱性が不十分でありSUS430にAg板の表面から少しずつ透過した酸素によりSUS430が酸化し電気伝導性が低下したものと考えられる。
次に、SUS430により構成されたセパレータを配置した単セル10に、Agペースト、SUS430の両面にNiとAgとを順にめっきした金属板、SUS430の両面にAgを拡散結合したクラッド板を、それぞれ配置した場合、初期の出力密度が320mW/cm2、270mW/cm2および240mW/cm2と発電性能が低かった。これは、セパレータ8を構成しているフェライト系ステンレスのCrの含有量が17wt%と少なく、高温雰囲気下において、表面に生成される酸化膜が導電性を持たないことに起因している。3000hr後の出力密度も、100mW/cm2、130mW/cm2および70mW/cm2と極端に低下している。これは、セパレータ8の表面が酸化して絶縁性の酸化膜を生成し、セパレータの電気抵抗が増加することに起因している。
以上の実施例から金属板9を配置してない単セル10およびセパレータ8にAgペーストまたはAg合金ペーストを塗布した単セル10に比べて、厚さ0.10mm、0.03mm及び0.05mmのAg板、厚さ0.10mmのAg98%、Cu2%からなるAg合金板、SUS430の両面にAgをめっきした金属板、SUS430の両面にNiとAgとを順にめっきした金属板、SUS430の両面にAg板を拡散結合したクラッド板を配置した単セル10の方が、出力密度を維持することができていることから、高温雰囲気下において長時間運用を実施してもセル電圧を維持し続けることが可能であることが実証できた。加えて、SUS430により構成されたセパレータ8を配置した単セル10に比べて、Cr22フェライト系ステンレスにより構成したセパレータ8を配置した単セル10の方が、初期および3000hr後の出力密度が非常に良く、セル電圧を高い状態で維持することが可能であるということが実証できた。
加えて、厚さ0.10mm、0.03mm及び0.05mmのAg板、厚さ0.10mmのAg98%、Cu2%からなるAg合金板、SUS430の両面にAgをめっきした金属板、SUS430の両面にNiとAgとを順にめっきした金属板、SUS430の両面にAg板を拡散結合したクラッド板を配置した単セル10は、空気極層4に付着したCr量が全て10ppm以下であり、Ag板、Ag合金板、Agめっきが、高温雰囲気下におけるセパレータからのCrの蒸発を抑止し、クロム被毒を防止していることが実証できた。
次いで、φ120mm、厚さ220μmの自立膜式の円型平板形のランタンガレート固体電解質2(La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.15Co0.05O2.8)の一方の面に、数10μmのNiとCe0.8Sm0.2O2のコンポジットサーメットからなる燃料極層3を、他方の面に数10μmのSm0.5Sr0.5CoO2.75からなる空気極層4を焼結して発電セル5を構成し、この発電セル5の燃料極層3側の外側に多孔質のNiの燃料極集電体6を配置し、空気極層4側の外側にAgの多孔質の空極集電体7を配置して、空気極集電体7の外側にAgからなる金属板9を配置し、燃料極集電体6および金属板9の外側にCr22フェライト系ステンレスにより構成したセパレータ8を配置して構成した単セル10を用いて耐久試験を実施した。この際、運転条件および測定方法を実施例1と同一条件にして単セル10のセル電圧を測定した。
この際、上記実施形態の単セル10と比較するために、金属板9を配置していない単セル10を用いて運転条件を同条件に単セル10のセル電圧を測定した。
図7は、上記実施形態のAg板(金属板9)を配置した単セル10の運転時間に応じたセル電圧の変化と、Ag板を配置していない単セル10の運転時間に応じたセル電圧の変化とを対比して示す図であり、X軸が単セル10の運転時間を示し、Y軸が単セル10のセル電圧を示している。なお、図中の破線がAg板を配置した単セル10を示し、実線がAg板を配置していない単セル10を示している。
ここで、Ag板を配置していない単セル10の初期のセル電圧を抽出すると、780mVと発電性能が良好であった。しかしながら1200hr後を越えた辺りから徐々にセル電圧が下がっていき、2000hr後に急激にセル電圧が低下し始めた。そして、最終的に3000hr後にセル電圧が200mVまで下がってしまった。
次に、Ag板を配置した単セル10の初期のセル電圧を抽出すると、780mVであり、また3000hr後のセル電圧を抽出しても770mVと殆どセル電圧が低下していないことが確認できた。
この結果、単セル10にAg板を配置することにより、高温雰囲気下において長時間運用を実施しても単セル10のセル電圧を維持し続けることが可能であることが実証できた。