JP6331126B2 - Cr蒸発試験方法 - Google Patents
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例えば、非特許文献1においては、850℃に加熱した管状炉に加湿空気を一定流量で流し続け、管状炉内に設置した試験片を高温加湿空気中に一定時間曝した状態でCr種を試験片から蒸発させ、管状炉の外側に設置したNa2CO3に蒸着したCrを定量分析するという方法が開示されている。
本発明の目的は、Crを含有する金属材料から蒸発するCrを簡易的に評価するためのCr蒸発試験方法を提供することである。
すなわち本発明は、Crを含有する金属材料を加熱して、加熱した前記金属材料から蒸発するCrを評価するCr蒸発試験方法であって、前記Crを含有する金属材料でなる板材の試験片を650℃以上に加熱して、前記試験片から蒸発するCrをランタンストロンチウムマンガナイト(Lanthanum-strontium-manganite:以下LSMと記す)でなる吸収体に蒸着させた後、前記吸収体に蒸着したCrを誘導結合プラズマ(Inductively_Coupled_Plasma:以下ICPと記す)分析装置で検出して定量分析を行うCr蒸発試験方法である。
更に好ましくは、前記吸収体は、LSMで成るセラミックス粉体もしくはセラミックス多孔質体もしくはセラミックス板材であるCr蒸発試験方法である。
更に好ましくは、前記加熱時には、前記試験片と前記吸収体が接触するように配置されるCr蒸発試験方法である。
また、本発明のCr蒸発試験方法にて加速試験を行う場合には、前記加熱時の温度を850℃以上、加熱時間を30時間以上とし、湿度を絶対湿度4〜20%の範囲の一定湿度とすることが好ましい。
本発明者らが金属材料から蒸発するCrを定性/定量的に調査するにあたり、金属材料の試験片上面にLSMで成るセラミックス粉体を吸収体として用いて配置して加熱を行って、セラミックスへCrを蒸着させる検討を行った。
セラミックスにLSMを用いた場合、蒸発したCr種が高温で反応し、SrとCrの複合酸化物を形成(代表的にはSrCrO4)してセラミックス内に効果的にCrをトラップすることができる。そのため、蒸発したCrの有無や量の測定にはLSMは好適である。また、LSMはCrを含有しないため、化学分析によりCrのみを分析することで、金属材料から蒸発したCr量をICP等の化学分析により定量的な分析を行うことが可能となる。そのため、本発明では金属材料から蒸発するCrをLSMに蒸着させることとした。
また、本発明で用いるCrを含有する金属材料からなる試験片の形状も板材とするのが好ましい。これは、上記のように試験片を板材とすることで、LSMでなる吸収体を試験片の上に対向させて搭載することが容易となるだけでなく、両者の接触面積を一定に保ち易くなる。その結果、Cr蒸発評価試験の条件を一定条件とし易くなり、データの対比が容易となる。
また、試験の後に、ICP等の化学分析装置で定量分析を行うため、単位重量当たりの試験片とLSMでなる吸収体の接触面積は広い方が好ましい。試験片とLSMでなる吸収体の接触面に近い深さでのCrのトラップ量が多くなるため、厚さは小さく、面積は大きい方が効率よくトラップできるからである。但し、過度に広すぎても加熱装置の容積の制限などで一度に評価できる数量が減少するため、現実的には20〜250mm2の面積を確保すると良い。加熱装置等の制約がないのであればさらに面積を大きくすることは差し支えない。
なお、本発明で用いる試験片の材質は、Cr蒸発を評価するものであるため、例えば、ステンレス鋼等のCrを含有する金属材料のCr蒸発試験方法として利用できる。
なお、LSMでなる吸収体としてセラミックス粉体を利用する場合は、図2に示すように、枠4を試料上に配置し、その中にLSMを充填するようにしても良い。試験片上にセラミックス粉体を搭載することが容易となると同時に、試験中にセラミックス粉体が試験片上から落下することを防止することができる。
なお、試験片設置用基板3及び枠4は表裏面が平行研磨などにより、形状を調整したものを用いると良い。また、試験片設置用基板3及び枠4の材質は、Cr蒸着試験方法に影響を及ぼさない材質であって、試験温度までの昇温により変形等を生じないように、例えば、石英、アルミナ、マグネシア等のセラミックスの板材で製作すると良い。
図2に示している枠4はリング形状としているが、筒状のセラミックス素材は安価に流通しているため、それをスライスすることで製造コストが抑えられるためである。
試験片形状に合わせ角型とするなど形状を変更することは差し支えない。
この場合の試験片の加熱は、加熱炉内で行うのが容易である。加熱の温度は、余りにも低温であると蒸発するCrが少なくなり検出しづらいため、650℃以上に加熱する。加熱温度を高くすればするほどCrが蒸発し易くなり、Crの蒸着が顕著に確認できる。Cr蒸発を加速させるためには、加熱温度を850℃以上とすると良い。なお、例えば、固体酸化物形燃料電池用部材用の金属材料を評価対象とするのであれば、温度の上限は、作動温度の上限とされている1000℃で十分である。
また、Cr蒸発量は空気中の湿度の影響を受けるため、加熱時の雰囲気を、加湿器を用いて湿度を一定に制御した空気とすることが好ましい。湿度を一定条件とすると、異なる日時に行った評価結果同士を比較する場合にデータの信頼性を高めることができる。これは、湿度を管理しない空気中でのCr蒸発評価では、季節や天候により湿度が変動するため、蒸発するCr量がばらつく場合があるためである。これを防止するには、絶対湿度0%のドライエアをボンベから供給し、例えば、バブラー等の加湿器を通して加湿することで、湿度を一定とすると良い。露点計等を用いて湿度を測定し管理するとさらに良い。
なお、厳密には、湿度を一定とすることは困難なため、狙いの湿度±1%以内に調整すると良い。本発明では、狙いの湿度±1%以内を一定と定義する。但し、絶対湿度0%〜4%加湿の範囲は、僅かな湿度の違いで試験結果がばらつく場合があるため、好ましくは狙いの湿度±0.5%以内に制御すると良い。
また、本発明では、加熱炉の均熱帯に図1及び図2に示した状態の試験片1、LSMでなる吸収体2、試験片設置用基板3、枠4一式を複数式配置することが可能である。この場合、複数式配置する加熱炉の均熱帯を予め確認しておくことが重要である。
ただし、例えば金属材料に表面処理を実施した試験片など、Cr蒸発が極めて少なくなることを想定した評価をする場合は、加熱時間を1000時間としてもよい。何れにせよ、一般的なCr蒸発試験は数千時間を超える時間を行っていることからすると、本発明のCr蒸発試験時間は極めて短時間である。
LSMは各試験片に個別に搭載して試験を実施するため、加熱炉内に複数の試験片を並べて配置することで、一度の試験で複数の試験片のCr蒸発量を評価することができる。また、組成や表面処理条件の異なる試験片を同時に試験することも可能である。
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に記載された方法に限定されるものではない。
Crを含有する金属材料として、質量%でC:0.02%、Al:0.05%、Si:0.07%、Mn:0.5%、Cr:22%、Ni:0.3%、La:0.07%、Zr:0.25%残部はFe及び不純物からなるステンレス鋼Aと、質量%でC:0.02%、Al:0.05%、Si:0.07%、Mn:0.3%、Cr:24%、Ni:0.3%、La:0.07%、Zr:0.25%、W:2%残部はFe及び不純物からなるステンレス鋼Bを用意した。
これらのステンレス鋼から10mm(w)×10mm(l)×3mm(t)の板状試験片を採取し、平行研磨により厚さを均等にして図2に示す試験片1とした。
LSMでなる吸収体には、平均粒度約30μmのLSM粉体でなるセラミックス粉体を用いた。なお、LSMでなる粉体は、ランタンオキサイドを58質量%、マンガンオキサイドを33質量%、ストロンチウムオキサイドを9質量%含有しており、Crは含有していないことも確認した。
前記試験片1及びLSMでなる吸収体を、アルミナ製の試験片設置用基板3に載せ、加熱温度を850℃、加熱時間を30時間とし、雰囲気は空気中としてCr蒸発評価試験を実施した。
Cr蒸発評価試験後、LSMをICP化学分析装置を用いて定量分析した。その結果を表1に示す。なお、No.11は、使用したLSMそのままをICP化学分析した結果であり、Cr分析量は0.01%未満を示した。これはICP化学分析の検出限界以下であることを示している。
さらに、ステンレス鋼Aとステンレス鋼Bでは、組成が異なるためにCr蒸発量が異なるものであり、Cr分析量の結果からもステンレス鋼Aに比べて、ステンレス鋼Bの方がCr蒸発量が少ないことが分かった。これにより、Cr蒸発量を定量的に分析することも可能であることが確認できた。
また、No.1とNo.4については、LSMの主成分であるLa,Sr,Mnの分析はせず、Crのみの定量分析を行ったものである。主成分の分析も行ったNo.2、No.3、及びNo5、No6のCr量と、No.1とNo.4のCr量の数値には大きなばらつきもなく、ほぼ同様な値となっている。このことから、LSMでなる吸収体を用いれば、Crのみの分析でその定量的なCr蒸発量が確認できることが分かる。このことから、分析元素を少なくすることで迅速、安価な分析が可能である。
続いて、試験片の素材の組成が、質量%でC:0.03%、Al:0.04%、Si:0.06%、Mn:0.5%、Cr:22%、Ni:0.4%、La:0.07%、Zr:0.28%残部はFe及び不純物からなるステンレス鋼Cを用意した。加熱温度、加熱時間、及び雰囲気を変えたCr蒸発試験を実施した。各条件での試験は、ばらつきの有無を確認するため、それぞれ2個づつ試験を行い、試料1及び2とした。No.41〜43は比較例であり、No.21〜38は本発明例である。本発明例の内訳は、No.21〜25が加熱温度を変化させ、加熱時間及び雰囲気を固定した結果である。No.26〜32が加熱時間を変化させ、加熱温度及び雰囲気を固定した結果である。No.33〜38が雰囲気を変化させ、加熱温度お及び加熱時間を固定した結果である。
なお、試験片のサイズ・形状、LSMの保持方法、及びCr量の分析方法は実施例1と同一である。加湿については、絶対湿度0%のドライエアをボンベから供給し、バブラー加湿により湿度を一定に調整した。表2には検出されたCrのみを示し、La、Sr及びMnの分析結果は割愛した。
また、No.21〜25の結果から、加熱(試験)温度が高いほどCr蒸発量が大きいことが分かり、試験温度が600℃以下のNo.41〜43はCr蒸発量が測定できなかった。この結果より加熱温度を650℃以上とすることで、Cr蒸発の検出が可能であることが確認できた。
また、No.25〜32の結果から、加熱時間が長いほどCr蒸発量が大きいこと、No.25及びNo.33〜38のCr蒸発量の結果から、加湿量が大きいほどCr蒸発量が大きいことが分かる。
また、No.25及びNo.33〜38のCr蒸発量の結果において、No.33では、0%加湿空気(加湿なし)のため、Cr蒸発量の測定結果が低いのに対し、4%以上の加湿空気とすることで安定して0.05%を超えるCr蒸発量の検出が可能となることが分かる。また、20%を超える加湿を実施したNo.38では、CrとLSMの反応が飽和しているためか、No.37(20%加湿空気)の測定結果と殆ど同じであった。
更に、No.25〜32の結果から、加熱温度を850℃、湿度を絶対湿度10%とした場合、1時間の加熱時間でCr蒸発の検出は可能であるが、15時間以上の加熱時間とすることで安定して0.05%以上のCr蒸発量の検出が可能となり、更に好適であることが確認できた。
2 吸収体(LSM)
3 試験片設置用基板
4 枠
Claims (4)
- Crを含有する金属材料を加熱して、加熱した前記金属材料から蒸発するCrを評価するCr蒸発試験方法であって、
前記Crを含有する金属材料でなる板材の試験片を650℃以上に加熱して、前記試験片から蒸発するCrをランタンストロンチウムマンガナイトでなる吸収体に蒸着させた後、前記吸収体に蒸着したCrを誘導結合プラズマ分析装置で検出して定量分析を行うことを特徴とするCr蒸発試験方法。 - 前記吸収体は、ランタンストロンチウムマンガナイトで成るセラミックス粉体もしくはセラミックス多孔質体もしくはセラミックス板材であることを特徴とする請求項1に記載のCr蒸発試験方法。
- 前記加熱時には、前記試験片と前記吸収体が接触するように配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のCr蒸発試験方法。
- 前記加熱時の温度を850℃以上、加熱時間を15時間以上とし、湿度を絶対湿度4〜20%の範囲の一定湿度とすることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のCr蒸発試験方法。
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