JP5415799B2 - 電気電子部品用複合材料、該複合材料を用いた電気電子部品、及び電気電子部品用複合材料の製造方法 - Google Patents
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Description
金属基材と樹脂皮膜との間の密着性を高める方法として、例えば金属基材の表面にカップリング剤を塗布する方法(特許文献3、4)や、金属基材の表面にデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法(特許文献5)が開示されている。
特許文献1、及び特許文献2に開示された発明は、電気電子部品を製造する際に高温での熱処理工程を含むものではなく、リフロー工程等における高温での熱処理を行った場合に、電気電子部品における金属基材と絶縁性樹脂皮膜との層間の密着性が低下するのを抑制する手段については一切示されていない。
しかし、金属基材としては電磁鋼板に限定して記載されており、電磁鋼板以外のりん青銅等の基材を用いた場合の打抜性及び密着性の向上については一切記載されていない。
特許文献4には、電解銅箔を熱処理して高高温伸び銅箔を製造する際に、熱処理前あるいは熱処理後に電解銅箔の粗化面にシランカップリング剤を塗布すると、シランカップリング剤がバリア層となって酸や湿気による酸化層の破壊を防止することが記載されている。
しかし、シランカップリング剤により形成される層がバリア機能を発揮するのに必要な層の厚みについては一切記載されていない。
特許文献5に記載されたデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法では、形成されるめっき層の結晶状態を制御するためには限定されためっき条件でめっきを施す必要があり、管理に細心の注意をはらう必要がある。また、十分な密着性を得るためにはめっき厚さを1μm以上とする必要があるため、打ち抜き加工の際にめっき層に割れが発生するなどの問題点があるほか、経済的にも好ましくない。
本発明は、上記従来技術に鑑みて、シールドケース、コネクタ、端子等のように加工を前提とする電気電子部品用途に適する金属樹脂複合材料を得るにあたり、上記課題を解消するため、りん青銅からなる金属基材に厚みが一定以上の特定の表面処理層を設けることにより、リフロー等の熱処理を行っても金属基材と樹脂層との間の高い密着性を維持できる電気電子部品用の金属樹脂複合材料、該複合材料を用いた電気電子部品、及び電気電子部品用複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
(1)Sn含有量が3.5〜9.0質量%のりん青銅からなる金属基材(A)表面の少なくとも一部に、下記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は該シランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物を含む溶液で処理して、前記金属基材(A)表面に存在する水酸基と、前記一般式[1]で示すシランカップリング剤又は一般式[2]で示す化合物中の水酸基との脱アルコール反応又は脱水縮合反応を伴って形成された、膜厚が30nm以上の表面処理層(B)、及び該表面処理層(B)上の少なくとも一部に、熱硬化性の樹脂層(C)が積層された電気電子部品用複合材料(以下、第1の態様ということがある)。
X−R−Si−Y3 [1]
X−R−Si(OH)3 [2]
但し、式[1]及び[2]中、Xは窒素原子を有する基であり、Rは、Xとケイ素原子とを連結する炭素数1〜6からなるアルキレン基であり、式[1]中、Yはケイ素原子と結合する加水分解性を有する炭素数1〜3のアルコキシ基である。
(2)前記樹脂層(C)は、溶剤可溶型の樹脂層であることを特徴とする、前記(1)に記載の電気電子部品用複合材料。
(3)前記表面処理層(B)を形成する際に使用される、一般式[1]で示すシランカップリング剤中のYがメトキシ基、及び/又はエトキシ基である、前記(1)又は(2)に記載の電気電子部品用複合材料。
(4)前記表面処理層(B)を形成する際に使用される、一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は一般式[2]で示す化合物中のRがエチレン基(−(CH2)2−)、又はプロピレン基(−(CH2)3−)である、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の電気電子部品用複合材料。
(6)前記樹脂層(C)がポリイミド樹脂、又はポリアミドイミド樹脂である、前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の電気電子部品用複合材料。
(7)前記表面処理層(B)がりん青銅からなる金属基材(A)表面に存在する水酸基と、一般式[1]で示すシランカップリング剤が加水分解されて生じた水酸基又は一般式[2]で示す化合物中の水酸基との脱水縮合反応を伴って形成された層である、前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の電気電子部品用複合材料。
(8)前記(1)ないし(7)のいずれかに記載の電気電子部品用複合材料を用いたことを特徴とする電気電子部品(以下、第2の態様ということがある)。
(9)Sn含有量が3.5〜9.0質量%のりん青銅からなる金属基材(A)表面の少なくとも一部に、下記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は該シランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物を含む溶液を塗布・乾燥させて、前記金属基材(A)表面に存在する水酸基と、前記一般式[1]で示すシランカップリング剤又は一般式[2]で示す化合物中の水酸基との脱アルコール反応又は脱水縮合反応を伴って形成された、膜厚が30nm以上の表面処理層(B)を形成した後、該表面処理層(B)上の少なくとも一部に、熱硬化性の樹脂層(C)を積層することを特徴とする電気電子部品用複合材料の製造方法(以下、第3の態様ということがある)。
X−R−Si−Y3 [1]
X−R−Si(OH)3 [2]
但し、式[1]及び[2]中、Xは窒素原子を有する基であり、Rは、Xとケイ素原子とを連結する炭素数1〜6からなるアルキレン基であり、式[1]中、Yはケイ素原子と結合する加水分解性を有する炭素数1〜3のアルコキシ基である。
本発明の第1の態様である「電気電子部品用複合材料」は、例えば図1に示すように、Sn含有量が3.5〜9.0質量%のりん青銅からなる金属基材(A)表面1の少なくとも一部に、下記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は該シランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物を含む溶液で処理して、前記金属基材(A)表面に存在する水酸基と、前記一般式[1]で示すシランカップリング剤又は一般式[2]で示す化合物中の水酸基との脱アルコール反応又は脱水縮合反応を伴って形成された、膜厚が30nm以上の表面処理層(B)2、及び該表面処理層(B)2上の少なくとも一部に、熱硬化性の樹脂層(C)3が積層された電気電子部品用複合材料(以下、第1の態様ということがある)。
X−R−Si−Y3 [1]
X−R−Si(OH)3 [2]
但し、式[1]及び[2]中、Xは窒素原子を有する基であり、Rは、Xとケイ素原子とを連結する炭素数1〜6からなるアルキレン基であり、式[1]中、Yはケイ素原子と結合する加水分解性を有する炭素数1〜3のアルコキシ基である。
本発明において、金属基材(A)には、打抜加工や絞り成形などが可能な延性を有する材料、あるいはばね性を有する金属材料としてりん青銅(Cu−Sn−P系合金)が用いられる。りん青銅とは、JIS H 3110に規定されており、銅(Cu)を主成分として、すず(Sn)3.5〜9.0質量%、りん(P)0.03〜0.35質量%を含み、Cu、Sn、及びPの合計が99.5質量%以上のものが、板(P)と条(R)についてSnの濃度範囲ごとにそれぞれ、合金記号C5111、C5102、C5191、C5210、C5212として規定されている。金属基材(A)の厚みは、電気電子部品用複合材料の用途により異なるが、0.01〜1mmの範囲が好ましく、0.05〜0.5mmの範囲がより好ましい。
表面処理層(B)が形成される、金属基材(A)の表面は、予め電解脱脂、酸洗浄、水洗、及び乾燥処理をこの順に施しておくことが好ましい。
りん青銅は、一般に展延性・耐疲労性・耐食性がよく、電子・電気機器用ばね、スイッチ、リードフレーム、コネクタ、ダイヤフラム、ベロー、ヒューズグリップ、しゅう動片軸受等に広く使用可能であり、特にC5191とC5212はバネ材にも適している。
このようなりん青銅からなる金属基材表面に、例えば熱硬化性の樹脂等を積層し、はんだ接合等をするために例えば320℃で20分間程度の熱処理を行うと、密着性が急激に低下して樹脂が容易に剥離し易くなるという問題が存在していた。
(i)りん青銅表面には通常2nm以下の厚みの自然酸化膜が存在していて、該自然酸化膜上に樹脂が積層されている。
(ii)リフロー処理等のために、樹脂が積層されたりん青銅基材を熱処理すると、高温条件下で大気中の酸素ガスが樹脂層を透過していき、りん青銅中の銅原子が酸化を受け上記自然酸化膜層近傍で更に酸化銅層が成長していく。
(iii)上記酸化銅層が成長すると共に、該酸化銅層近傍のりん青銅基材側に、合金中に含まれていたすず濃度よりもすず(または酸化すず)濃度が高められた、すず濃化部が形成される。
(iv)すず濃化部が形成されると、酸化銅層と該すず濃化部間近傍における密着性が低下する現象が生じ、その結果、酸化銅層とすず濃化部間の近傍(密着性が低下した部分)で剥離し易くなる。
ところが、シランカップリング剤から形成される表面処理層の膜厚が20nm程度以下では前記条件下でリフロー処理を行うと、りん青銅基材と該樹脂層間の密着強度の向上効果は殆ど観察されず、リフロー処理後には密着性が低下して、酸化銅層と該すず濃化部間近傍で容易に剥離する現象が観察された。
しかし、シランカップリング剤から形成される表面処理層の膜厚が20nmを超えて、30nm以上である30nm、80nm、130nm程度では、りん青銅からなる金属基材と樹脂層間の密着強度の向上と、リフロー処理後においても樹脂層と該金属基材との間の密着性の顕著な向上が確認された。
このように一定の厚み以上の特定の表面処理層を設けることにより得られる、樹脂層と該金属基材との間の密着強度の向上効果は、金属基材として、Cu−Sn−P成分からなるりん青銅を使用した場合に生ずる特有の現象である。
表面処理層(B)は、下記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は該シランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物を含む溶液で処理して、該金属基材(A)表面に存在する水酸基と、前記一般式[1]で示すシランカップリング剤又は一般式[2]で示す化合物中の水酸基との脱アルコール反応又は脱水縮合反応を伴って形成された、膜厚が30nm以上の層である。
X−R−Si−Y3 [1]
X−R−Si(OH)3 [2]
但し、式[1]及び[2]中、Xは窒素原子を有する基であり、Rは、Xとケイ素原子とを連結する炭素数1〜6からなるアルキレン基であり、式[1]中、Yはケイ素原子と結合する加水分解性を有する炭素数1〜3のアルコキシ基である。
(i)一般式[1]のシランカップリング剤、及び一般式[2]の化合物
Xは窒素原子を有する基であり、この窒素原子を有する基は、表面処理層(B)上に熱硬化性の樹脂層(C)を形成する際に、該樹脂層(C)を形成すると熱硬化性の樹脂と親和性を有しているので、密着性を著しく向上する。このようなXとして、アミノ基、イミノ基、ウレイド基、イソシアネート基が例示できるが、これらの中でもXの末端近傍に窒素原子が存在する構造であるアミノ基(−NH2)、及びイミノ基(−NH−)が好ましい。
Rは、Xとケイ素原子とを連結する炭素数1〜6からなるアルキレン基であり、炭素数が2又は3が好ましい。Xと相対する位置にあるYはケイ素原子と結合する加水分解性を有する炭素数1〜3のアルコキシ基である。
Y又はOH基は、一般式[1]で表されるシランカップリング剤、又は一般式[2]で示す化合物を含む溶液が金属基材(A)上に塗布された後に、加熱処理等され、金属基材(A)表面に存在しているOH基と、脱アルコール縮合反応又は脱水縮合反応を起こすので、金属基材(A)と表面処理層(B)間の密着性が向上する。
尚、金属基材(A)表面のOH基との反応性を考慮すると、一般式[1]で表されるシランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物の使用が好ましい。
金属基材(A)表面上に表面処理層(B)を形成する方法については後述する。
表面処理層(B)は、厚みを30nm以上とする必要がある、表面処理層(B)の厚みが30nm未満の場合には、該表面処理層(B)の大気中の酸素ガスのバリア性が不十分であるので、リフロー等の熱処理を行う際に、大気中の酸素ガスが樹脂層(C)及び該表面処理層(B)を透過していき、りん青銅中の銅原子が酸化を受け上記自然酸化膜層近傍に更に酸化銅層が成長していく。その際、該酸化銅層近傍のりん青銅基材側に、合金中に含まれていたすず濃度よりもすず(及び酸化すず)濃度が高められた、すず濃化部が形成される。すず濃化部が形成されると、酸化銅層と該すず濃化部間近傍における密着性が低下する現象が生じ、その結果、酸化銅層とすず濃化部間の近傍(密着性が低下した部分)で剥離し易くなる。
また、表面処理層(B)の上限は、特に制限されるものではないが、300nm以下が好ましい。表面処理層(B)が300nm超の厚みのものを加工するには、一般式[1]で表されるシランカップリング剤、又は一般式[2]で示す化合物処理液を高濃度化する必要がある。しかしながら、一般式[1]で表されるシランカップリング剤、又は一般式[2]で示す化合物処理液を高濃度化するとゲル化してしまい、所定の反応が生じなくなる怖れがある。また、表面処理層(B)自身が脆弱な層となり、剥離の基点となってしまうことがある。したがって、表面処理層(B)を300nm超の厚さとすることは好ましくない。
また、表面処理層(B)の厚みは、例えば、リフロー等での熱処理が温度270℃で20分間行われる場合には30〜130nmが好ましく、該熱処理が温度320℃で20分間行われる場合には80〜130nmとすることが好ましい。
尚、表面処理層(B)の厚みは、面内である程度のバラツキも見込まれるため、ランダムに面内の3点を測定しその平均値とする。
表面処理層(B)の厚みは、オージェ電子分光分析法(Auger Electron Spectroscopy:AES)等によって測定することができる。また、同様にAES等により熱処理後に形成された酸化銅層の厚みの測定結果から、シランカップリング剤処理膜が金属基板の酸化に対し有効であるかの判断も行うことができる。
本発明の電気電子部品用複合材料は、りん青銅からなる金属基材(A)表面の少なくとも一部に膜厚が30nm以上の表面処理層(B)が設けられ、更に該表面処理層(B)上の少なくとも一部に、熱硬化性の樹脂層(C)が積層された複合材料である。
表面処理層(B)上の少なくとも一部に熱硬化性の樹脂層(C)を設ける方法については後述するが、表面処理層(B)を形成する際の一般式[1]又は一般式[2]を含む溶液の塗布精度から、樹脂層(C)の形成面積は表面処理層(B)の面積未満とすることが望ましい。
又、樹脂層(C)の厚みは、薄すぎると十分な絶縁性等の機能が十分に発揮されず、またピンホールが発生し易いので、2μm以上が望ましく、3μm以上が更に望ましい。一方、該厚みが大き過ぎると、打ち抜きや曲げ加工などのプレス加工性が低下するので50μm以下が望ましく、30μm以下が更に望ましい。
本発明において、前記表面処理層(B)と樹脂層(C)をこの順に金属基材(A)の片面に積層してもよく、また、金属基材(A)の両面に積層してもよく、最終製品である電気電子部品の要求特性に応じて、本発明の実施態様は適宜変更することができる。
金属基材(A)表面の少なくとも一部に膜厚が30nm以上の表面処理層(B)が設けられ、更に該表面処理層(B)上の少なくとも一部に、熱硬化性の樹脂層(C)が積層された本発明の電気電子部品用複合材料は、樹脂層(C)が絶縁性を要する箇所に設けられているので、複合材料としての機能が効果的に発揮される。
例えば、複合材料をシールドケース等の筐体部品としたとき、他部品との間の絶縁性が良好に保てるので、筐体の低背化に有利である。また、前記表面処理層(B)及び樹脂層(C)が設けられていない箇所を設けると、当該箇所において金属基材(A)が露出するので放熱性が高度に維持される。また、複合材料をコネクタや端子などの電気接続部品としたとき、隣接する部品との間の絶縁性が良好に保てるので、コネクタの狭ピッチ化などに有利である。また、前記表面処理層(B)及び樹脂層(C)が設けられていない箇所を設けると、当該箇所において金属基材(A)が露出するので、はんだ付けが可能である、放熱性が高度に維持されるなどの利点がある。
本発明の、第1の態様の電気電子部品用複合材料を用いた、第2の態様の電気電子部品はどのような電気電子部品にも用いることができ、その部品は特に限定されるものではないが、例えば、コネクタ、端子、シールドケース等があり、これらは携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオなどの電気電子機器に採用することができる。
本発明の、第3の態様である「電気電子部品用複合材料の製造方法」は、Sn含有量が3.5〜9.0質量%のりん青銅からなる金属基材(A)表面の少なくとも一部に、下記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は該シランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物を含む溶液を塗布・乾燥させて、前記金属基材(A)表面に存在する水酸基と、前記一般式[1]で示すシランカップリング剤又は一般式[2]で示す化合物中の水酸基との脱アルコール反応又は脱水縮合反応を伴って形成された、膜厚が30nm以上の表面処理層(B)を形成した後、該表面処理層(B)上の少なくとも一部に、熱硬化性の樹脂層(C)を積層することを特徴とする電気電子部品用複合材料の製造方法。
X−R−Si−Y3 [1]
X−R−Si(OH)3 [2]
但し、式[1]及び[2]中、Xは窒素原子を有する基であり、Rは、Xとケイ素原子とを連結する炭素数1〜6からなるアルキレン基であり、式[1]中、Yはケイ素原子と結合する加水分解性を有する炭素数1〜3のアルコキシ基である。
第3の態様で使用するりん青銅からなる金属基材(A)については、第1の態様に記載したのと同様である。通常、りん青銅にはOH基が存在するので、後述するように、下記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は一般式[2]で示す化合物と、加熱処理等で脱水縮合反応(又は、脱アルコール反応)を起こすことにより、金属基材(A)と表面処理層(B)間の密着性が向上する。
(2)表面処理層(B)の形成について
りん青銅からなる金属基材(A)表面の少なくとも一部に、下記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は該シランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物を含む溶液を塗布・乾燥させて厚さ30nm以上の表面処理層(B)を形成する。
X−R−Si−Y3 [1]
X−R−Si(OH)3 [2]
但し、式[1]及び[2]中、Xは窒素原子を有する基であり、Rは、Xとケイ素原子とを連結する炭素数1〜6からなるアルキレン基であり、式[1]中、Yはケイ素原子と結合する加水分解性を有する炭素数1〜3のアルコキシ基である。
(i)一般式[1]のシランカップリング剤、及び一般式[2]の化合物
第3の態様で使用する、一般式[1]のシランカップリング剤、及び一般式[2]の化合物については、第1の態様に記載したのと同様である。
表面処理層(B)は、金属基材(A)表面の少なくとも一部に、前記一般式[1]のシランラップリング剤、又は一般式[2]に示す化合物を0.01〜5質量%の水溶液として、塗布後、乾燥して、厚みが30nm以上となるように形成される。
表面処理層(B)を30nm以上の厚みとする手段は、水溶液中の一般式[1]のシランラップリング剤、又は一般式[2]に示す化合物の濃度、及び該水溶液の塗布プロセスにより容易に行うことができる。該水溶液を塗布後、加熱処理等により乾燥して金属基材(A)上に表面処理層(B)を形成するが、該加熱処理条件は例えば90〜150℃程度で30秒〜2分間程度が好ましい。
金属基材(A)であるりん青銅の表面に存在するOH基が、上記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は該シランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物と加熱処理等により、脱アルコール縮合反応、又は脱水縮合反応が進行して、金属基材(A)と表面処理層(B)間の密着性が向上する。
熱硬化性の樹脂層(C)は、表面処理層(B)上の少なくとも一部に熱硬化性の樹脂層(C)を形成する方法としては特に制限されるものではないが、例えば金属基材(A)の絶縁性を要する箇所に、熱硬化性の樹脂又は該樹脂前駆体を溶媒に溶解したワニスを塗布し、加熱処理により溶媒を揮発させて反応硬化接合する方法が挙げられる。
第3の態様において、樹脂層(C)の樹脂皮膜を形成する樹脂は、第1の態様に記載したのと同様である。
[実施例1]
以下に記載する方法により、りん青銅からなる金属基材表面に表面処理層を積層し、更に該表面処理層上に熱硬化性の樹脂層を積層して、電気電子部品用複合材料を形成した。
(1)金属基材表面への表面処理層の形成
金属基材として、JIS合金C5210R(りん青銅、古河電気工業(株)製、形状:厚み0.15mm、幅20mm、長さ120mm)の条を用い、電解脱脂、酸洗浄、水洗、及び乾燥処理をこの順に施した。
次に、純水100mlに対し3−アミノプロプルトリメトキシシラン(以下、APTMSという)を5ml添加して、シランカップリング剤処理液としてAPTMS水溶液を調製した。
ディップ法により、APTMS水溶液に金属基材を浸漬した後、引き上げて金属基材表面にAPTMS水溶液を塗布し、次に100℃で1分間、熱風乾燥を実施し、金属基材上に表面処理層を形成した。
ポリアミドイミド(日立化成(株)製、商品名:HPC5020)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶媒に固形分が30質量%となるように溶解してワニスを調製した。
前記金属基材表面の表面処理層上に、調製したワニスを、金属基材の幅方向中央部分に、幅が10mmであって、焼き付け後の厚みが10μm(±1μm)となるような塗布厚さで、Kコントロールコーター(RK Print Coat Instrument Ltd.(国籍:英国)製)にて図2に示すように塗工した。
次に、320℃の熱風乾燥炉内で、溶媒を蒸発させて、樹脂層を形成した。
(3)評価方法
得られた電気電子部品用複合材料について、以下の(i)〜(iii)に記載する膜厚の測定、熱処理前後の密着強度の測定、及び酸化銅含有割合とすず含有割合の測定を行った。
その結果をまとめて、表1に示す。
(i)表面処理層の膜厚の測定
オージェ電子分光分析法により、表面処理層の膜厚の測定を行った。
(ii)熱処理前後の密着強度の測定
初期密着強度と、270℃で20分間と、320℃で20分間熱処理後の密着強度(kN/m)の測定を行った。測定は、サイカス法測定器(ダイプラウィンテス(株)製、型式:サイカスDN型)を用いて行った。
(iii)酸化銅含有割合、すず含有割合
得られた電気電子部品用複合材料について、表面処理層の表面から500nm程度の位置まで、オージェ電子分光分析を行い、酸素が検出された領域において酸化を受けた銅が検出された割合の最大値(モル%;以下、酸化銅の割合という)と、酸素が検出された領域においてすず(及び酸化すず)が検出された割合の最大値(モル%;以下、すず含有割合という)を測定し、表1に記載した。
尚、後述する比較例1においてはスズ(及び酸化すず)濃度の高いすず濃化部が明確に観察されたが、実施例1において、オージェ電子分光分析による吸収スペクトルでは比較例1で観察されたような顕著なすず(及び酸化すず)濃化部は観察されなかった。
実施例2として3−アミノプロプルトリメトキシシラン(APTMS)水溶液濃度を([純水/APTMS])体積比で100/1とし、乾燥後の表面処理層の厚みを30nmとなるように金属基材表面に塗布した以外は実施例1に記載したと同様の方法により、電気電子部品用複合材料を作製した。
実施例3として3−アミノプロプルトリメトキシシラン(APTMS)水溶液濃度を([純水/APTMS])体積比で100/3とし、乾燥後の表面処理層の厚みを80nmとなるように金属基材表面に塗布した以外は実施例1に記載したと同様の方法により、電気電子部品用複合材料を作製した。
実施例4として3−アミノプロプルトリエトキシシラン(APTES)水溶液濃度を([純水/APTES])体積比で100/5とし、乾燥後の表面処理層の厚みを130nmとなるように金属基材表面に塗布した以外は実施例1に記載したと同様の方法により、電気電子部品用複合材料を作製した。
実施例2〜4で得られた電気電子部品用複合材料について、実施例1に記載したと同様の評価を行った。結果をまとめて、表1に示す。
実施例2、3において、オージェ電子分光分析による吸収スペクトルにおいても、実施例1と同様、比較例1で観察されたような顕著なすず(及び酸化すず)の濃化部は観察されなかった。
比較例1として、表面処理層を形成しなかった以外は、実施例1に記載したと同様の方法により、電気電子部品用複合材料を作製した。得られた電気電子部品用複合材料について、実施例1に記載したと同様の評価を行った。結果をまとめて、表1に示す。
[比較例2]
比較例2として、3−アミノプロプルトリエトキシシラン(APTES)水溶液濃度を([純水/APTES])体積比で100/0.8とし、乾燥後の表面処理層の厚みを20nmとなるように金属基材表面に塗布した以外は実施例1に記載したと同様の方法により、電気電子部品用複合材料を作製した。得られた電気電子部品用複合材料について、実施例1に記載したと同様の評価を行った。結果をまとめて、表1に示す。
[比較例3]
比較例3として、シランカップリング剤を3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下GPTMS)を用いて、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン水溶液濃度を([純水/GPTMS])体積比で100/5にしたものを、乾燥後の表面処理層の厚みを130nmとなるように金属基材表面に塗布した以外は実施例1に記載したと同様の方法により、電気電子部品用複合材料を作製した。
得られた電気電子部品用複合材料について、実施例1に記載したと同様の評価を行った。結果をまとめて、表1に示す。
シランカップリング剤処理層の膜厚が20nmである比較例2は表面処理による初期の密着性向上の効果はある程度認められるものの、リフロー温度(270℃)条件での密着性の改良効果は不充分であり、密着性が著しく低下していた。
比較例3において、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)水溶液による表面処理は、金属基板に対する濡れ性が悪く、製膜が不可能であり、評価できなかった。
また、表1から、表面処理層の厚みが130nmである実施例1の場合には、表面処理層を設けなかった比較例1の場合と比較して、酸化銅含有割合が40%減少し、すず含有割合が22%減少していることが分かる。このことからも、りん青銅からなる金属基材(A)表面に本発明の表面処理層を設けることにより、金属基材(A)表面近傍における銅の酸化と、すず濃化部の形成を抑制して、金属基材(A)と熱硬化性樹脂層間での耐熱密着強度の顕著に向上できることが確認された。
2 表面処理層(B)
3 樹脂層(C)
Claims (9)
- Sn含有量が3.5〜9.0質量%のりん青銅からなる金属基材(A)表面の少なくとも一部に、下記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は該シランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物を含む溶液で処理して、前記金属基材(A)表面に存在する水酸基と、前記一般式[1]で示すシランカップリング剤又は一般式[2]で示す化合物中の水酸基との脱アルコール反応又は脱水縮合反応を伴って形成された、膜厚が30nm以上の表面処理層(B)、及び該表面処理層(B)上の少なくとも一部に、熱硬化性の樹脂層(C)が積層された電気電子部品用複合材料。
X−R−Si−Y3 [1]
X−R−Si(OH)3 [2]
但し、式[1]及び[2]中、Xは窒素原子を有する基であり、Rは、Xとケイ素原子とを連結する炭素数1〜6からなるアルキレン基であり、式[1]中、Yはケイ素原子と結合する加水分解性を有する炭素数1〜3のアルコキシ基である。 - 前記樹脂層(C)は、溶剤可溶型の樹脂層であることを特徴とする請求項1に記載の電気電子部品用複合材料。
- 前記表面処理層(B)を形成する際に使用される、一般式[1]で示すシランカップリング剤中のYがメトキシ基、及び/又はエトキシ基である、請求項1または2に記載の電気電子部品用複合材料。
- 前記表面処理層(B)を形成する際に使用される、一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は一般式[2]で示す化合物中のRがエチレン基(−(CH2)2−)、又はプロピレン基(−(CH2)3−)である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料。
- 前記表面処理層(B)を形成する際に使用される、一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は一般式[2]で示す化合物中のXがアミノ基、又はイミノ基である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料。
- 前記樹脂層(C)がポリイミド樹脂、又はポリアミドイミド樹脂である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料。
- 前記表面処理層(B)がりん青銅からなる金属基材(A)表面に存在する水酸基と、一般式[1]で示すシランカップリング剤が加水分解されて生じた水酸基又は一般式[2]で示す化合物中の水酸基との脱水縮合反応を伴って形成された層である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料。
- 前記請求項1ないし7のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料を用いたことを特徴とする電気電子部品。
- Sn含有量が3.5〜9.0質量%のりん青銅からなる金属基材(A)表面の少なくとも一部に、下記一般式[1]で示すシランカップリング剤、又は該シランカップリング剤を加水分解して得られた一般式[2]で示す化合物を含む溶液を塗布・乾燥させて、前記金属基材(A)表面に存在する水酸基と、前記一般式[1]で示すシランカップリング剤又は一般式[2]で示す化合物中の水酸基との脱アルコール反応又は脱水縮合反応を伴って形成された、膜厚が30nm以上の表面処理層(B)を形成した後、該表面処理層(B)上の少なくとも一部に、熱硬化性の樹脂層(C)を積層することを特徴とする電気電子部品用複合材料の製造方法。
X−R−Si−Y3 [1]
X−R−Si(OH)3 [2]
但し、式[1]及び[2]中、Xは窒素原子を有する基であり、Rは、Xとケイ素原子とを連結する炭素数1〜6からなるアルキレン基であり、式[1]中、Yはケイ素原子と結合する加水分解性を有する炭素数1〜3のアルコキシ基である。
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