JP5409488B2 - 水性離型剤組成物及びその付与方法 - Google Patents
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Description
ダイカスト鋳造においては、一般に、鋳物をダイカスト金型から型抜きし易くするために、ダイカスト金型の内面に離型剤が付与される。
油性離型剤は、離型性が優れるものの、引火性であり悪臭も発生するので、作業環境の面で問題がある。
近年、かかる作業環境の観点から、水性離型剤が注目されている。水性離型剤は、一般に、油と潤滑剤と水とを界面活性剤で乳化させた構造を有する。
また、油の中でも潤滑性が優れるシリコーンオイルを用いた水性離型剤が検討されている(例えば、特許文献2〜5参照)。
さらに、潤滑剤として、酸化アルミニウム等の金属酸化物を配合した水性離型剤が知られている(例えば、特許文献6及び7)。
さらにまた、これらを組み合わせた、シリコーンオイル、固体潤滑剤、有機バインダー、分散剤及び水を含む水性離型剤が知られている(例えば、特許文献8参照)。
また、金属酸化物等の粉末を配合させると、粉末の乳化安定性が不十分となり、沈殿が生じる恐れがある。
また、水性離型剤組成物においては、経時的に沈殿等が発生することを防止でき、乳化安定性が優れる。なお、本発明において「離型性」とは、鋳物のダイカスト金型からの離れ易さの度合いを意味する。
また、水の使用量がすくないため、上記水性離型剤組成物の付与方法は、ライデンフロスト現象の発生が抑制されるという利点を有する。
また、二硫化モリブデンとは異なり、有機モリブデン化合物を用いると、経時的に沈殿が発生することを防止できる。したがって、乳化安定性が優れるものとなる。
高粘度油である鉱油は、石油等の鉱物質の油から分留等して得られ、上述した動粘度を有するものであれば特に限定されない。例えば、シリンダー油等が挙げられる。
高粘度油である合成油は、化学合成して得られ、上述した動粘度を有するものであれば特に限定されない。例えば、合成エステル等が挙げられる。
なお、鉱油と合成油は、それぞれを単独で用いても、混合して用いてもよい。
40℃における動粘度が150mm2/S未満であると、ダイカスト金型への付着が不十分となる。
また、100℃における動粘度が14mm2/S以上である。
100℃における動粘度が14mm2/S未満であると、特にダイカスト鋳造を高温で行った場合、ダイカスト金型への付着が不十分となる。
低粘度油である鉱油は、石油等の鉱物質の油から分留等して得られ、上述した動粘度を有するものであれば特に限定されない。例えば、スピンドル油等が挙げられる。
低粘度油である合成油は、化学合成して得られ、上述した動粘度を有するものであれば特に限定されない。例えば、合成エステル等が挙げられる。
なお、鉱油と合成油は、それぞれを単独で用いても、混合して用いてもよい。
また、高粘度油と低粘度油とは、粘度がそれぞれ上記範囲内であれば、同じ材料であっても異なる材料であってもよい。
40℃における動粘度が10mm2/Sを超えると、特にダイカスト鋳造を高温で行った場合、ダイカスト金型への付着性向上の効果が十分に得られない。
また、100℃における動粘度が3mm2/S以下である。
100℃における動粘度が3mm2/Sを超えると、特にダイカスト鋳造を高温で行った場合、ダイカスト金型への付着性向上の効果が十分に得られない。
モリブデン原子の含有量が4.5質量%を超えると、含有量が上記範囲内にある場合と比較して、ダイカスト金型の表面に二硫化モリブデンの黒色皮膜を形成する恐れがあり、硫黄原子の含有量が5質量%を超えると、含有量が上記範囲内にある場合と比較して、悪臭がする恐れがある。
有機亜鉛化合物からなる潤滑補助剤は、有機モリブデン化合物の潤滑性を向上させる。このため、潤滑剤及び潤滑補助剤を含む水性離型剤組成物は、鋳物及びダイカスト金型間の潤滑剤に基づく潤滑性が更に向上し、離型性が極めて向上する。
この場合、ダイカスト金型への潤滑性が向上する。特に、ダイカスト金型の温度が350℃より低い状態でダイカスト鋳造する場合、離型性をより向上させることができる。
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも、ノニオン界面活性剤としては、乳化性の観点から、ポリエチレンアルキルエーテルであることが好ましく、ポリエチレンアルキルエーテルの中でも、アルキル基の炭素数は、12〜22であることがより好ましく、炭素数18であるポリオキシエチレンオレイルエーテルであることが更に好ましい。
HLBが7未満、又は、14を超えると、乳化しにくくなる。なお、HLBをかかる範囲とすることにより、有機モリブデン化合物だけでなく、高粘度油、低粘度油も水に乳化させることが可能となる。なお、複数のノニオン界面活性剤を混合させる場合は、混合したノニオン界面活性剤全体のHLBが上記範囲内になるように調整する。
また、ノニオン界面活性剤のトラウベ法に基づく界面張力は、ケロシン0.1%溶液に対して、15mN/m以上(25℃)であることが好ましい。
表面張力又は界面張力が低すぎると、噴霧装置で噴霧する場合に噴霧口から液ダレが生じ恐れがある。
高粘度油の配合割合が1質量%未満であると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、付着性が不十分であり、焼付きが生じ易くなる。また、配合割合が20質量%を超えると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、鋳物の表面が着色する恐れがある。
低粘度油の配合割合が1質量%未満であると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、ダイカスト金型の温度が350℃より高い状態でダイカスト鋳造する場合、ダイカスト金型への水性離型剤組成物の付着性が不十分となる。また、配合割合が10質量%を超えると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、ダイカスト鋳造時に多くの煙が発生する傾向にある。
潤滑剤の配合割合が0.1質量%未満であると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、十分な離型性を得ることができない。また、配合割合が1.0質量%を超えると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、ダイカスト金型において、有機モリブデン化合物が不溶性の二硫化モリブデンに変化し、ダイカスト金型の表面に黒色皮膜を形成するおそれがある。
潤滑補助剤の配合割合が0.01質量%未満であると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、有機モリブデン化合物の潤滑性の十分な向上が認められない。また、配合割合が0.05質量%を超えると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、有機モリブデン化合物の潤滑性が向上しなくなる。
シリコーン油の配合割合が1質量%未満であると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、潤滑性の向上が殆ど認められない。また、配合割合が15質量%を超えると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、潤滑性が向上しなくなる。
ノニオン界面活性剤の配合割合が3質量%未満であると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、乳化が不十分となる場合がある。また、配合割合が10質量%を超えると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、乳化性はかわらないが、泡が発生しやすくなる傾向にある。
水の配合割合が90質量%を超えると、配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、ライデンフロスト現象が生じやすくなる。
かかる添加剤としては、防カビ剤、油性剤、氷結防止剤、防腐剤、皮膜形成剤、極圧剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、防錆剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤等が挙げられる。
防カビ剤としては、o−フェニルフェノール、2,3,4,6−テトラクロロフェノール、o−ベンジル−p−クロロフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸メチル等が挙げられる。
防カビ剤を添加する場合、防カビ剤の配合割合は0.1〜1質量%であることが好ましい。
油性剤としては、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸や、ソルビタンモノオレート、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリンオレイン酸エステル等のピンタード脂肪酸エステル、その他、トリメリット酸エステル、アジピン酸系ポリエステル等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
油性剤を添加する場合、油性剤の配合割合は0.5〜15質量%であることが好ましい。
氷結防止剤としては、エタノール、エチルジグリコール、メチルジグリコール、イソプロピレングリコール等が挙げられる。
氷結防止剤を添加する場合、氷結防止剤の配合割合は2〜3質量%であることが好ましい。
防腐剤としては、アルコール、グリコール等が挙げられる。
防腐剤を添加する場合、防腐剤の配合割合は約0.2質量%であることが好ましい。
上記極圧剤としては、リン酸エステル等が挙げられる。
また、乳化は、公知のホモジナイザー、コロイドミル、プラネタリーミキサー等の乳化装置を用いて行われる。
水性離型剤組成物の付与方法としては、特に限定されないが、例えば、スプレー方式、シャワー方式、インクジェット方式等が挙げられる。
塗布量が0.3ml/m2未満であると、塗布量が上記範囲内にある場合と比較して、十分な離型性が得られない場合があり、塗布量が0.5ml/m2を超えても、塗布量が上記範囲内にある場合と比較して、離型性の向上が認められない。
また、水の使用量がすくないため、上記水性離型剤組成物の付与方法は、ライデンフロスト現象の発生が抑制されるという利点を有する。
40℃における動粘度が480mm2/Sであり、100℃における動粘度が32mm2/Sである高粘度油(鉱油)を9質量部と、40℃における動粘度が10mm2/Sであり、100℃における動粘度が3.0mm2/Sである低粘度油を5質量部と、モリブデンジチオフォスフェート(潤滑剤)を0.5質量部と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(潤滑補助剤)を0.03質量部と、シリコーン油を3質量部と、変性ポリエチレン樹脂(皮膜形成剤)を2質量部と、オレインピンタードエステル(油性剤)を2質量部と、防カビ剤0.3質量部と、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(ノニオン界面活性剤、HLB12)を5質量部と、を混合し、80℃で加熱溶解させた。これに80℃の温水に加えて、100質部とし、ホモジナイザーで乳化させることにより、水性離型剤組成物を得た。なお、モリブデンジチオフォスフェートのモリブデン原子の含有量は4.5質量%以下であり、硫黄原子の含有量は5質量%以下であった。
HLB12のポリオキシエチレンオレイルエーテルの代わりに、HLB7のポリオキシエチレンオレイルエーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性離型剤組成物を得た。
HLB12のポリオキシエチレンオレイルエーテルの代わりに、HLB9のポリオキシエチレンオレイルエーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性離型剤組成物を得た。
モリブデンジチオフォスフェートの代わりにモリブデンジチオカーバメイトを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性離型剤組成物を得た。なお、モリブデンジチオカーバメイトのモリブデン原子の含有量は4.5質量%以下であり、硫黄原子の含有量は5質量%以下であった。
シリコーン油を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、水性離型剤組成物を得た。
シリコーン油、変性ポリエチレン樹脂及びオレインピンタードエステルを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、水性離型剤組成物を得た。
モリブデンジチオフォスフェート及びジアルキルジチオリン酸亜鉛を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、水性離型剤組成物を得た。
HLB12のポリオキシエチレンオレイルエーテルの代わりに、HLB6のポリオキシエチレンオレイルエーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性離型剤組成物を得た。
HLB12のポリオキシエチレンオレイルエーテルの代わりに、HLB15のポリオキシエチレンオレイルエーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性離型剤組成物を得た。
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた水性離型剤組成物に対して、離型性試験を施した。
図1の(a)〜(c)は、離型性試験の概要を説明するための図である。
まず、縦150mm、横150mm、高さ15mmの鉄板1を準備し、所定の温度に加熱した後、実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた水性離型剤組成物をスプレーにて付与し、水性離型剤組成物による離型層2を形成した。
その後、図1の(a)に示すように、離型層2上に、直径9.5mm、高さ20mmのリング3を載置し、その中に加熱溶解した溶解アルミニウム120gを流し込んだ。なお、リング3は、ワイヤー4を介して図示しないモーターに接続されている。
水性離型剤組成物の吹き付け時の温度を300℃、350℃、400℃とし、実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた水性離型剤組成物を用いた場合において、焼付きの評価をした。焼付きの評価は、引っ張った後の固化アルミニウム5の離型層2との接触面に、焼付きがないものを「A」、やや焼付きが認められるものを「B」、焼付きが認められるものを「C」とした。
水性離型剤組成物の吹き付け時の温度を300℃、350℃、400℃とし、実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた水性離型剤組成物を用いた場合において、鋳肌の評価をした。鋳肌の評価は、引っ張った後の固化アルミニウム5の離型層2との接触面(鋳肌)が滑らかなものを「A」、やや滑らかなものを「B」、粗いものを「C」とした。
水性離型剤組成物の吹き付け時の温度を300℃、350℃、400℃とし、実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた水性離型剤組成物を用いた場合において、着色の評価をした。着色の評価は、引っ張った後の固化アルミニウム5の離型層2との接触面に着色が認められないものを「A」、やや着色が認められるものを「B」、着色しているものを「C」とした。
水性離型剤組成物の吹き付け時の温度を300℃、350℃、400℃とし、実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた水性離型剤組成物を用いた場合において、ワイヤー4で固化アルミニウム5及び錘6を引っ張ったときの力の量(kgf/cm2)を測定した。なお、離型抵抗の値が小さいほど、離型性が優れることを意味する。
以上より、本発明の水性離型剤組成物によれば、有機モリブデン化合物を有することにより、焼付きを防止でき、離型性を極めて向上させることができることがわかった。
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた水性離型剤組成物に対して、乳化性及び乳化安定性試験を施した。
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた水性離型剤組成物を手持屈折計(N3000E、株式会社アタゴ製)のプリズム面に投入し、接眼鏡を覗いて乳化性の評価をした。なお、手持屈折計においては、乳化性が悪い場合、境界線が現れず、乳化性が優れる場合、境界線が明確に現れる。乳化性の評価は、境界線がはっきりしており、乳化状態が良好なものを「A」、境界線が不鮮明であり、乳化状態が劣るものを「B」、境界線が全く現れず、乳化状態が悪いものを「C」とした。得られた結果を表2に示す。
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた水性離型剤組成物をガラス瓶に入れて密封し、20〜25℃の暗所にて1日、3日、10日、30日と放置した。乳化安定性の評価は、乳化の分離の有無、粘度変化の有無、変色の有無、浮遊物の有無、を目視にて行った。得られた結果を表3に示す。
以上より、本発明の水性離型剤組成物によれば、HLBを7〜14とすることにより、乳化性及び乳化安定性が極めて優れることが確認された。
2・・・離型層
3・・・リング
4・・・ワイヤー
5・・・固化アルミニウム
6・・・錘
Claims (6)
- ダイカスト鋳造に用いられる水性離型剤組成物であって、
40℃における動粘度が150mm2/S以上であり、100℃における動粘度が14mm2/S以上である高粘度油と、
40℃における動粘度が10mm2/S以下であり、100℃における動粘度が3mm2/S以下である低粘度油と、
有機モリブデン化合物からなる潤滑剤と、
前記高粘度油、前記低粘度油及び前記潤滑剤を乳化するノニオン界面活性剤と、
水と、
を有し、
前記ノニオン界面活性剤のHLBが7〜14であり、
前記高粘度油の配合割合が1〜20質量%であり、
前記低粘度油の配合割合が1〜10質量%であり、
前記潤滑剤の配合割合が0.1〜1質量%であり、
前記ノニオン界面活性剤の配合割合が3〜10質量%である水性離型剤組成物。 - 有機亜鉛化合物からなる潤滑補助剤を更に有し、
前記潤滑補助剤の配合割合が0.01〜0.05質量%である請求項1記載の水性離型剤組成物。 - 潤滑性を向上させるためのシリコーン油を更に有し、
前記シリコーン油の配合割合が1〜15質量%である請求項1又は2に記載の水性離型剤組成物。 - 前記有機モリブデン化合物が、モリブデンジチオカーバメイト、モリブデンジチオフォスフェート及びモリブデン−アミン錯体からなる群より選ばれる少なくとも一つである請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性離型剤組成物。
- 前記有機モリブデン化合物がモリブデン原子及び硫黄原子を含み、
前記モリブデン原子の含有量が4.5質量%以下であり、
前記硫黄原子の含有量が5質量%以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の水性離型剤組成物。 - 請求項1〜5のいずれか一項に記載の水性離型剤組成物の付与方法であって、
ダイカスト金型に対し、希釈せずに0.3〜0.5ml/m2付与する水性離型剤組成物の付与方法。
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