JP5404493B2 - 転がり軸受 - Google Patents

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Description

この発明は、転がり軸受に関し、転がり疲労寿命とグリース寿命を犠牲にすることなく、軸受運転時の低トルク化を図ることができる技術に関する。
玉軸受の多くは潤滑剤としてグリースを封入し、シールやシールドで密封した状態で使用される。グリースを用いた軸受は、油による潤滑と比較して、給油設備が不要・メンテナンスフリー等の利点が挙げられる。
軸受には、回転に対する抵抗つまり回転トルクがあり、転動体と内外輪間の摩擦や、転動体と保持器の摩擦、潤滑剤の攪拌や粘性の影響がある。グリース潤滑の場合、玉や保持器がグリースを撹拌する撹拌抵抗や、保持器とシール等との間でグリースをせん断するせん断抵抗が軸受のトルクとなる。
グリース潤滑の軸受において、回転トルクの低下を図った従来技術として、例えば、グリースの組成によって、低温時においても軸受の回転トルクが低くなるものが開示されている(特許文献1)。
保持器形状により、軸受の低トルク化を図った従来技術として、例えば、保持器ポケットの内周面と玉の転動面との間に必要最小限の潤滑剤を取り込むようにして、保持器音および回転トルクの低減を図ったものが開示されている(特許文献2)。
その他の保持器による低トルク化の従来技術として、例えば、転動体がポケットに衝突した際に、緩衝作用がある溝を保持器ポケット間に設けたものが開示されている(特許文献3)。
その他の軸受の低トルク化を図った従来技術として、軸受シール部の組成や形状を変更したものが開示されている(特許文献4)。
特許第3875108号公報 特開平10−238543号公報 特開2009−19766号公報 特許第3772688号公報
ルンドベルグ−パルムグレン(Lundberg- Palmgren)の理論:T.Harris and M.Kotzalas, Rolling Bearing Analysis, Fifth Edition, Essential Conceptsof Bearing Technology, CRC Press(2007), p.221.)
軸受の用途によっては、グリースやシール等を変更できないものがあるため、グリースやシール等によるトルク低減方法では、その使用が限定される。
前述の保持器ポケットの内周面と玉の転動面との間に必要最小限の潤滑剤を取り込む保持器では、軸受空間内に多くのグリースを封入した場合、トルク低減の効果は得られない。その他前記保持器では、転動体を保持するための面積が低下するため、保持器の振れ回りやガタが生じる可能性がある。
前述の緩衝作用がある溝を保持器ポケット間に設けた保持器では、起動時やミスアライメント発生時のトルク低減は期待できるが、回転が安定している状態では、従来の保持器と変わらないトルクとなる。
本件出願人は、転がり軸受の内部設計諸元である軌道輪と玉の形状や玉数に間するパラメータを抽出し、それらの間の関数関係を規定することで低トルク化を図る発明を示した(特願2009−99705)。一般に、低トルクとなるようこれらのパラメータを設定すると、基本動定格荷重が低下して転がり疲労寿命も低下するが、前記発明では低トルク化と基本動定格荷重の両立を図っている。前記「基本動定格荷重」とは、内輪を回転させ外輪を静止させた条件で、一群の同じ軸受を個々に運転したとき、基本定格寿命が100万回転になるような、方向と大きさが変動しない荷重をいう。
また、本件出願人は、基油と増ちょう剤から成るベースグリースに対して、植物由来のポリフェノール化合物およびその分解化合物から選ばれた少なくとも一つの化合物を酸化防止剤として添加することで、水素脆性による剥離防止効果に優れ、高温または高速条件下で長時間使用可能なグリースを提供できることを示している(特願2009−45709)。
この発明の目的は、グリース潤滑で用いられる転がり軸受において、軸受の用途に限定されず、転がり疲労寿命とグリース寿命を犠牲にすることなく、軸受運転時の低トルク化を図ることができる転がり軸受を提供することである。
この発明における第1の発明の転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持されグリース潤滑される転がり軸受において、前記内輪および外輪の溝肩高さが各々玉の直径の0.2倍であり、内外輪の軌道溝、溝肩高さ、玉の直径、玉数、および玉のピッチ円直径を次式の範囲に設定し、
且つ0.8d<d<dとし、
前記保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、前記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状であり、前記環状体のうち円周方向に隣接するポケット間にグリースを溜めるグリース収容凹部を設け、このグリース収容凹部と前記ポケットとに連通し、前記玉に付着したグリースを、玉と保持器との相対動作により前記グリース収容凹部へ移動させる連通口を設けたことを特徴とする。
この構成によると、軸受をアキシアル平面に沿って切断して見た半径方向断面における、内輪の軌道溝と玉とのすきまをなす面積、および、前記半径方向断面における、外輪の軌道溝と玉とのすきまをなす面積を、設計パラメータとする。これら面積を設計パラメータとすれば、同面積が大きい程低トルクとなる。
したがって、(Si+So)/dpDa Zが大のとき、低トルクとなる。この関数は、軸受の寸法や直径系列に依存し、このままでは扱いにくい。そこで、次のように各設計パラメータを無次元化する。前記直径系列とは、それぞれ標準の軸受内径に対して軸受外径を持っている軸受外径の段階的な系列をいう。
上記 f がトルクを考慮したある値より大きく、かつ基本動定格荷重を考慮した適切な値より小さくなるように、内外輪の軌道溝、溝肩高さ、玉の直径、玉数、および玉のピッチ円直径を設計すれば、十分な基本動定格荷重を有しつつ低トルクの転がり軸受を実現できる。
前記内輪および外輪の溝肩高さが各々玉の直径の0.2倍であり、かつa=1,b=1.1としている。この溝肩高さにすると、軸受に所定のアキシアル荷重が作用したときに、玉と軌道輪の接触楕円が軌道溝からはみ出さないようにでき、且つ、軸受を組み立てることが可能となる。内外輪の軌道溝曲率比が変化すれば、基本動定格荷重が変化する。ここでは、この規格の基となったルンドベルグ−パルムグレン(Lundberg- Palmgren)の理論(非特許文献1)により、基本動定格荷重を求める。同理論により求めた基本動定格荷重に対し0.9倍以上の基本動定格荷重を確保しようとすると、上記関数 f は「1.1」以下でなければならない。つまりa=1,b=1.1とし1< f <1.1を満足することによって、十分な基本動定格荷重を確保しつつ、低トルクの設計が可能となる。
さらに、冠形状保持器にグリース収容凹部を設け、このグリース収容凹部と、玉を保持するポケットとに連通する連通口を設けたため、軸受運転時、玉に付着したグリースを連通口によりグリース収容凹部に移動させる。つまり玉がポケット内で回転すると、玉に付着したグリースの一部が連通口に到達し、さらに玉がポケット内で回転することで、前記グリースの一部が、例えば、連通口の縁による掻き取りや玉の圧力等により連通口を通してグリース収容凹部側に押圧されて移動する。前記グリースがグリース収容凹部に格納され保持器と共に回転するため、前述の撹拌抵抗やせん断抵抗を軽減することができる。
グリースによる潤滑では、グリースの基油が潤滑に作用する。グリース収容凹部内に保持されたグリースから分離した基油は、連通口を通って玉へ供給されるため、潤滑に必要な基油を利用することができる。
この発明における第2の発明の転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、グリース潤滑される転がり軸受において、前記保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、前記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状であり、前記環状体のうち円周方向に隣接するポケット間にグリースを溜めるグリース収容凹部を設け、このグリース収容凹部と前記ポケットとに連通し、前記玉に付着したグリースを、玉と保持器との相対動作により前記グリース収容凹部へ移動させる連通口を設け、前記グリースは、基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなるグリース組成物であって、前記添加剤は、植物由来のポリフェノール化合物およびその分解化合物から選ばれた少なくとも一つの化合物を含有し、この化合物の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05重量部以上10 重量部以下であり、前記植物由来のポリフェノール化合物は、クルクミンまたはその誘導体、およびケルセチンまたはその誘導体のいずれか一方または両方であることを特徴とする。
この構成によると、玉がポケット内で回転すると、玉に付着したグリースの一部が連通口に到達し、さらに玉がポケット内で回転することで、前記グリースの一部が、例えば、連通口の縁による掻き取りや玉の圧力等により連通口を通してグリース収容凹部側に押圧されて移動する。前記グリースがグリース収容凹部に格納され保持器と共に回転するため、前述の撹拌抵抗やせん断抵抗を軽減することができる。
グリースによる潤滑では、グリースの基油が潤滑に作用する。グリース収容凹部内に保持されたグリースから分離した基油は、連通口を通って玉へ供給されるため、潤滑に必要な基油を利用することができる。
このような保持器を組み込んだ軸受に、前記グリース組成物を封入することで、水素脆性による特異な剥離の発生を抑制することができる。また、従来の酸化防止剤等を配合したグリース組成物よりも耐酸化劣化性を向上させることができ、高温高速下での軸受の長寿命化が図れる。
第1の発明において、前記グリースは、基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなるグリース組成物であって、前記添加剤は、植物由来のポリフェノール化合物およびその分解化合物から選ばれた少なくとも一つの化合物を含有し、この化合物の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05重量部以上10 重量部以下であり、前記植物由来のポリフェノール化合物は、クルクミンまたはその誘導体、およびケルセチンまたはその誘導体のいずれか一方または両方であっても良い。
この場合、水素脆性による特異な剥離の発生を抑制することができる。また、従来の酸化防止剤等を配合したグリース組成物よりも耐酸化劣化性を向上させることができ、高温高速下での軸受の長寿命化が図れる。
前記連通口は、前記グリース収容凹部と前記ポケットとを連通させ、且つ環状体の内径側に開口する切欠きであっても良い。この場合、切欠きの縁でグリースを掻き取る効果を高め、グリース収容凹部へグリースを移動させ易くできる。また、保持器形状を複雑化することなく連通口を設けることができる。
前記環状体の軸心に垂直な平面であり前記ポケットの中心を通る前記平面に対する、前記連通口の中央部の角度を20度以上50度以下の範囲としても良い。保持器を射出成形で製作する場合、前記平面に対する連通口の中央部の角度が20度未満と小さいと金型から保持器を抜くことが困難となる。また、玉と内外輪との接触部つまり軌道面は、グリースの付着量が少ないため、前記角度が小さいとグリースをグリース収容凹部へ掻き入れる効果が小さい。前記角度を20度以上50度以下の範囲とすることで、製作容易となるうえ、グリースをグリース収容凹部へ掻き入れる効果を高めトルク低減を図れる。
前記連通口における、前記ポケットの保持器円周方向に沿った最大幅寸法を、前記ポケットの内径の10%以上40%以下の範囲としても良い。前記連通口の前記最大幅寸法が前記ポケットの内径の10%より小さいと、連通口を通してグリースを移動させることが困難となる。連通口の前記最大幅寸法が前記ポケットの内径の40%より大きいと、ポケットが玉を保持することが難しくなる。
前記環状体のうちグリース収容凹部が設けられた箇所を、同環状体の軸心を含む平面で切断して見た断面形状について、前記環状体の内壁部および円周方向に隣接するポケットを繋ぐ連結部が、前記グリース収容凹部を成し、前記内壁部が前記軸心に対し傾斜する傾斜面を有するもの、および、前記連結部が前記軸心に垂直な平面に対し傾斜する傾斜面を有するもののいずれか一方または両方を含むものとしても良い。
前記内壁部が前記軸心に対し傾斜する傾斜面を有する場合に、内壁部の肉厚が反ポケット側に向かうに従って薄肉となる傾斜面であると、軸受運転時、グリース収容凹部内に溜めたグリースを、回転による遠心力により前記傾斜面から軸受空間内に円滑に排出させることができる。
逆に前記内壁部の肉厚が反ポケット側に向かうに従って厚肉となる傾斜面であると、軸受運転時、グリース収容凹部内に溜めたグリースを漏出させないように保持することができる。
前記連結部が前記軸心に垂直な平面に対し傾斜する傾斜面を有する場合に、連結部の肉厚が内径側に向かうに従って薄肉となる傾斜面であると、保持器剛性を高め、高速回転させる場合に保持器の強度を確保し得る。さらに軸受運転時、グリース収容凹部内に溜めたグリースを回転による遠心力により前記傾斜面から内壁部を介して軸受空間内に円滑に排出させることができる。
逆に前記連結部の肉厚が内径側に向かうに従って厚肉となる傾斜面であると、グリース収容凹部内に溜めたグリースを漏出させないように保持し得る。
前記グリース収容凹部内に仕切り板を設けても良い。この仕切り板によって、グリース収容凹部にグリースを保持し易くできる。
前記環状体のうち、グリース収容凹部の反ポケット側の他側面を覆う覆い部を設けても良い。高速回転の場合、覆い部によりグリース収容凹部に保持されたグリースが漏出することを防止し得る。
前記ポケットの内面における環状体外径側のポケット開口縁に、凹み部を設けても良い。凹み部からポケット内に進入したグリースは、内輪側に移動し、玉配列ピッチ円付近で均される。このため、軸受内のグリースをより多くグリース収容凹部に引き込むことが可能となる。
前記ポケットの内面の底部に、凹み部を設けても良い。この場合、グリースから分離した基油の一部が凹み部に進入するため、玉とポケット間の基油による粘性せん断抵抗を減らすことができる。それ故、より低トルク化に寄与し得る。
前記保持器は射出成形で製作されたものであり、前記連通口を環状体の軸心に平行、またはポケット側からグリース収容凹部側に向かうに従って広がるように設けても良い。この場合、射出成形金型から保持器を抜き易くすることができる。また、金型に高精度な加工が要求されるポケット側でなく、比較的加工の容易なグリース収容凹部側の金型に、連通口を形成する金型を適用することができる。したがって、金型の製作費の低減を図れる。
前記保持器が合成樹脂材料または植物由来の樹脂材料を含むものであっても良い。量産性に優れる射出成形により保持器を製作する場合、合成樹脂材料としてナイロン等のポリアミド系樹脂を用いることで、加工・組立が容易で低コスト化を図ることができる。保持器の合成樹脂材料としてポリエーテルエーテルケトン,略称PEEKを用いることで、高強度、耐熱性、耐摩耗性、耐加水分解性に優れたものとできる。保持器の合成樹脂材料としてポリフェニレンサルサイド,略称PPSを用いることで、高温性、耐薬品性に優れ、難燃性、寸法安定性が高い保持器とすることができる。
近年工業製品に対して強く要求される低環境負荷の観点から、保持器材料として植物由来の樹脂材料が用いられる。すなわちCO収支がゼロとなる(カーボンニュートラル)バイオプラスチックの利用であり、この範疇には例えば、サトウキビやとうもろこしといった糖質類から合成されるポリ乳酸やポリブチレンサクシネート、またはひまし油等から合成されるポリアミド等が含まれる。
前記グリース収容凹部に初期にグリースを封入したものであっても良い。
前記「初期」とは、軸受組立時におけるグリース封入段階を意味する。グリースが極めて短時間でグリース収容凹部に移動することで、低トルクとなるが、例えば、軸受空間に封入するグリース封入量自体は変えずに、グリース収容凹部に初期にグリースを封入しておくことで、起動時のトルクを低減することができる。
前記転がり軸受が深溝玉軸受またはアンギュラ玉軸受であっても良い。
前記転がり軸受に、内外輪間の軸受空間を塞ぐ密封装置を外輪に設けても良い。
この発明における第1の発明の転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持されグリース潤滑される転がり軸受において、前記内輪および外輪の溝肩高さが各々玉の直径の0.2倍であり、内外輪の軌道溝、溝肩高さ、玉の直径、玉数、および玉のピッチ円直径を次式の範囲に設定し、
且つ0.8d<d<dとし、前記保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、前記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状であり、前記環状体のうち円周方向に隣接するポケット間にグリースを溜めるグリース収容凹部を設け、このグリース収容凹部と前記ポケットとに連通し、前記玉に付着したグリースを、玉と保持器との相対動作により前記グリース収容凹部へ移動させる連通口を設けたため、グリース潤滑で用いられる転がり軸受において、軸受の用途に限定されず、転がり疲労寿命とグリース寿命を犠牲にすることなく、軸受運転時の低トルク化を図ることができる。
この発明における第2の発明の転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、グリース潤滑される転がり軸受において、前記保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、前記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状であり、前記環状体のうち円周方向に隣接するポケット間にグリースを溜めるグリース収容凹部を設け、このグリース収容凹部と前記ポケットとに連通し、前記玉に付着したグリースを、玉と保持器との相対動作により前記グリース収容凹部へ移動させる連通口を設け、前記グリースは、基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなるグリース組成物であって、前記添加剤は、植物由来のポリフェノール化合物およびその分解化合物から選ばれた少なくとも一つの化合物を含有し、この化合物の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05重量部以上10 重量部以下であり、前記植物由来のポリフェノール化合物は、クルクミンまたはその誘導体、およびケルセチンまたはその誘導体のいずれか一方または両方であるため、グリース潤滑で用いられる転がり軸受において、軸受の用途に限定されず、転がり疲労寿命とグリース寿命を犠牲にすることなく、軸受運転時の低トルク化を図ることができる。
この発明の一実施形態に係る転がり軸受の断面図である。 (A)は同転がり軸受の保持器をポケット側から見た斜視図、(B)は同保持器を反ポケット側から見た斜視図である。 同保持器を、ピッチ円を含む円筒面で切断して展開した要部の断面図である。 同保持器の環状体のうちグリース収容凹部が設けられた箇所を、同環状体の軸心を含む平面で切断して見た断面図である。 同保持器を、ピッチ円を含む円筒面で切断して展開した要部の断面図であり、切欠きの位置を説明する断面図である。 同保持器を、ピッチ円を含む円筒面で切断して展開した要部の断面図であり、切欠きの大きさを説明する断面図である。 (A)は、同転がり軸受を運転後、保持器の反ポケット側から見た側面図、(B)は、同転がり軸受を運転後、保持器のポケット側から見た側面図である。 (A)は、比較例として従来の転がり軸受を運転後、保持器の反ポケット側から見た側面図、(B)は、同転がり軸受を運転後、保持器のポケット側から見た側面図である。 同転がり軸受の詳細構成を説明するための断面図である。 玉径とトルクとの関係を表す図である。 玉数とトルクとの関係を表す図である。 玉のピッチ円直径とトルクとの関係を表す図である。 内輪溝曲率比とトルクとの関係を表す図である。 外輪溝曲率比とトルクとの関係を表す図である。 深溝玉軸受品番と f との関係を表す図である。 この発明の他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。 クルクミン添加品および無添加品のグリース封入量と、寿命との関係を示す図である。 この発明のさらに他の実施形態に係る保持器におけるグリース収容凹部の断面形状の複数例を示す断面図である。 この発明のさらに他の実施形態に係る保持器の斜視図である。 この発明のさらに他の実施形態に係る保持器の要部の断面図である。 この発明のさらに他の実施形態に係る保持器の斜視図である。 この発明のさらに他の実施形態に係る保持器の斜視図である。 この発明のさらに他の実施形態に係る保持器のグリース収容凹部内に仕切り板を設けた要部の断面図である。 従来例の冠形保持器の斜視図である。 同冠形保持器の要部の断面図である。
この発明の一実施形態を図1ないし図15と共に説明する。図1に示すように、この実施形態に係る転がり軸受1は、密閉型の深溝玉軸受であり、内輪2と、外輪3と、複数の玉4と、保持器5と、内外輪2,3間の軸受空間を塞ぐ密封装置6,6とを有する。外輪3の各シール溝3bに密封装置6が嵌め込まれて固定されている。なお、深溝玉軸受において、いずれか一方または両方の密封装置6を省略することも可能である。図1では密封装置6として接触シールが示されているが、非接触シールであっても良い。密封装置6として金属板からなるシールドを設けても良い。外輪3は内周に軌道溝3aを有し、内輪2はこの軌道溝3aに対向する軌道溝2aを有する。これら軌道溝2a,3a間に複数の玉4を介在させ、保持器5が複数の玉4を保持している。前記軸受空間にグリースが封入される。前記軌道溝を、転走面または軌道面という場合がある。玉4は例えば鋼球から成る。
保持器5について説明する。
図2(A),(B)に示すように、保持器5は、環状体7の一側面7aに一部が開放されて内部に玉4を保持するポケットPtを、前記環状体7の円周方向複数箇所に有する冠形状である。この保持器5は、例えば、合成樹脂材料を射出成形または機械加工して形成されている。合成樹脂材料として、例えば、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン,略称PEEK、ポリフェニレンサルサイド,略称PPS等を用いる。
保持器5は各ポケットPtの内面を同一曲率から成る球面とし、各ポケットPtに玉4がはめ込まれることにより、軸方向、径方向、および円周方向への拘束がなされる転動体案内形式に構成されている。
環状体7のポケットPtの開放側の側面におけるポケットPtの円周方向の両端からそれぞれ軸方向に突出する一対の爪8,8を、各ポケットPtに対して設けている。これら一対の爪8,8は、円周方向に対向し、互いの間で前記ポケットPtの一部を構成する。換言すれば、一対の爪8,8の内面は、ポケット底面をなす球面と同一の曲率中心位置で且つ同一曲率半径の球面に沿って形成されている。
図3に示すように、環状体7のうち円周方向に隣接するポケットPt,Pt間に、グリースを溜めるグリースポケットとしてグリース収容凹部GPを設けている。図2(B)に示すように、環状体7のうちグリース収容凹部GPの反ポケット側が開放されている。図4に示すように、環状体7のうちグリース収容凹部GPが設けられた箇所を、同環状体7の軸心L1を含む平面で切断して見た断面形状について、環状体7の内壁部9および円周方向に隣接するポケットPt,Ptを繋ぐ連結部10が、グリース収容凹部GPを成す。図3に示すように、グリース収容凹部GPは、環状体7における内壁部9と、隣接するポケットPt,Ptの球面状の外壁部Paと、連結部10とで囲まれてグリースを収容可能に設けられる。
図3に示すように、環状体7において、グリース収容凹部GPとポケットPtとに連通する連通口Rhが設けられている。連通口Rhは、グリース収容凹部GP内に溜めたグリースの基油を、ポケットPt内の玉4(図1)に供給する機能を有する。また、軸受運転時、玉4に付着したグリースを、玉4と保持器5との相対動作により連通口Rhを通してグリース収容凹部GPに移動させるようになっている。
図2(A),(B)に示すように、連通口Rhは、グリース収容凹部GPとポケットPtとに連通し、且つ環状体7の内径側に開口する切欠きである。ここで図5に示すように、環状体7の軸心L1に垂直な平面S1であってポケットPtの中心C1を通る前記平面S1を基準とする。この平面S1に対する連通口Rhの中央部の角度α1を20度以上50度以下の範囲とすることが好ましい。保持器5を射出成形で製作する場合、前記平面S1に対する連通口Rhの中央部の角度α1が20度未満と小さいと金型から保持器を抜くことが困難となる。また、玉4と内外輪2,3との接触部つまり軌道面2a,3aは、グリースの付着量が少ないため、前記角度α1が小さいとグリースをグリース収容凹部GPへ掻き入れる効果が小さい。前記角度α1を20度以上50度以下の範囲とすることで、製作容易となるうえ、グリースをグリース収容凹部GPへ掻き入れる効果を高めトルク低減を図れる。
図6に示すように、連通口Rhの大きさつまりポケットPtの保持器円周方向に沿った最大幅寸法Hは、ポケットPtの内径d1の10%以上40%以下とすることが好ましい。連通口Rhの最大幅寸法HがポケットPtの内径d1の10%より小さいと、連通口Rhを通してグリースを移動させることが困難となる。連通口Rhの最大幅寸法HがポケットPtの内径d1の40%より大きいと、ポケットPtが玉4を保持することが難しくなる。
比較試験について説明する。
この発明の実施形態に係る保持器を組み込んだ軸受と、従来の冠形保持器を組み込んだ軸受とを比較した。図7(A),(B)は実施形態に係る保持器を組み込んだ軸受、図8(A),(B)は従来の冠形保持器50を組み込んだ軸受であり、それぞれ下記の運転条件で運転させた後の写真を示したものである。
なお、図24は従来例の冠形保持器50の斜視図であり、図25は同冠形保持器50の要部の断面図である。
運転条件は、深溝玉軸受の軸受型番「6206」、回転速度1800min−1、運転時間約30secである。
比較試験によると、本発明の保持器5では、軸受に対するグリース封入位置にかかわらず、グリースが連通口Rhを通ってグリース収容凹部GPに入り、従来の保持器50と比較してポケットPt側のグリースが少ない。グリースは極めて短時間で前記グリース収容凹部GPに移動して低トルクとなる。グリース収容凹部GPに初期にグリースを封入しておけば、起動時のトルクを低減することができる。
本発明の実施形態に係る深溝玉軸受の設計方法について説明する。
深溝玉軸受の主要寸法つまり内径、外径、幅、および面取寸法は、国際標準化機構、略称ISOで標準化されている。日本工業規格のJIS B 1512に規定される転がり軸受の主要寸法もこのISOに準拠して定められている。
図9に示すように、深溝玉軸受の軌道部の形状は、玉4の直径Da、ピッチ円直径dp、軌道溝2a,3aの直径d2a,d3a(溝径と称す)、溝肩高さH2a,H3a、玉数Zによって決定できる。内輪2における前記溝肩高さH2aとは、内輪2の軌道溝2aのうち最小径を成す軌道溝底から内輪外径までの径方向寸法をいう。外輪3における前記溝肩高さH3aとは、外輪3の軌道溝3aのうち最大径を成す軌道溝底から外輪内径までの径方向寸法をいう。なお、図9では、内外輪のシール溝を省略し、密封装置6を簡略表示している。
ここで、深溝玉軸受の玉4と軌道輪間の摩擦トルクが、潤滑油のトラクションと転がり粘性抵抗によって発生していると考える。内径30mm、外径62mm、幅16mmの軸受品番「6206」の深溝玉軸受について検討すると、玉4と軌道輪の設計の変更によって、摩擦トルクは図10〜図14のように変化する。この傾向は、玉4と軌道輪間に潤滑油が介在しない固体接触の場合でも変わらない。
すなわち、定性的には、玉4の直径Da小、玉数Z小、ピッチ円直径dp小、内輪2の軌道溝曲率比大、外輪3の軌道溝曲率比大とすれば、低トルクになることがわかる。前記内輪2の軌道溝曲率比は、内輪2の外周面に形成した断面円弧状の軌道溝2aの曲率半径を、玉4の直径Daの1/2で除した値、つまり内輪2の軌道溝曲率比=(2×軌道溝2aの曲率半径/玉4の直径Da)で求められる値である。前記外輪3の軌道溝曲率比は、外輪3の内周面に形成した断面円弧状の軌道溝3aの曲率半径を、玉4の半径Da/2で除した値である。
溝肩高さH2a,H3aは、軸受に所定のアキシアル荷重が作用したときに、玉4と軌道輪の接触楕円が軌道溝2a,3aからはみ出さないように定める。ただし、溝肩高さH2a,H3aが過大であると、軸受を組み立てることができなくなる。溝肩高さH2a,H3aの玉直径Daに対する比は0.2程度である。軌道溝2a,3aの大きさについては、半径方向断面における軌道溝2a,3aと玉4とのすきまに着目する。図9に示すように、半径方向断面における、内外輪2,3の軌道溝2a,3aと玉4とのすきまをなす面積Si, Soを、設計パラメータとすれば、これら面積Si, Soが大きい程低トルクとなる。したがって、(Si+So)/dpDa Zが大のとき、低トルクとなる。この関数は、軸受の寸法や直径系列に依存し、このままでは扱いにくい。そこで、次のように各設計パラメータを無次元化する。前記半径方向断面は、内外輪2,3の軌道溝2a,3aに玉4を接触させた部分をアキシアル平面に沿って切断して見た断面としている。
上記 f がトルクを考慮したある値より大きく、かつ基本動定格荷重を考慮した適切な値より小さくなるように、内外輪2,3の軌道溝2a,3a、溝肩高さH2a,H3a、玉4の直径Da、玉数Z、および玉4のピッチ円直径dpを設計すれば、十分な基本動定格荷重を有しつつ低トルクの深溝玉軸受を実現できる。

について、溝肩高さH2a,H3aの玉4の直径Daに対する比を「0.2」、軌道溝曲率比を内外輪2,3共に「1.04」、ピッチ円直径dpを軸受の内外径の平均径つまり内輪内径に外輪外径を加えて2で除した値とする。上記 f について、さらに玉4の直径Da、玉数Zを一般的な市販されている軸受の値とすると、上記 f は図15のように求められる。軌道溝曲率比は、メーカーや品番によってまちまちであるが、一般化して議論するために、本実施形態では、日本工業規格のJIS B 1518に規定される基本動定格荷重の計算に用いられてる値とした。この場合、ごく一般的な設計では概ね
0.9< f <1
が成り立つ。上記 f は大きい程低トルクになるのであるが、同時に基本動定格荷重が減少し、短寿命となる。
ところで、転がり軸受の基本動定格荷重の計算方法は、日本工業規格のJIS B 1518に規定されているが、これは、内外輪の軌道溝曲率比がともに「1.04」であることを前提として構成されている。しかし、内外輪の軌道溝曲率比が変化すれば、基本動定格荷重が変化するため、ここでは、この規格の基となったルンドベルグ−パルムグレン(Lundberg- Palmgren)の理論(非特許文献1)により、基本動定格荷重を求める。すなわち、玉4の直径Daが25.4mm以下の深溝玉軸受の場合、基本動定格荷重Crは次の式で求めることができる。
上記の内外輪2,3の軌道溝曲率比mi,moの変化を考慮した設計条件で得られる基本動定格荷重に対し、0.9倍以上の基本定格荷重を確保しようとすると、関数 f は「1.1」以下でなければならない。すなわち、
1< f <1.1
とすることによって、十分な基本動定格荷重を確保しつつ、低トルクの深溝玉軸受を設計することが可能となる。前記設計は、関数 f のいずれの変数を変更して実現しても良く、二以上の変数を同時に変更しても良い。例えば、玉のピッチ円直径dpのみを変更して低トルク化を実現しようとすると、0.8d<d<dとすれば、1< f <1.1を満足する。よって、低トルクを実現すると共に、十分な基本動定格荷重を確保することが可能な深溝玉軸受を設計することができる。1< f <1.1を満足する深溝玉軸受とすると、内外輪2,3の軌道溝曲率比mi,moを種々変化させたときであっても、十分な基本動定格荷重を確保すると共に、低トルク化を図った深溝玉軸受を得ることが可能となる。
以上説明した転がり軸受1によると、内外輪2,3の軌道溝2a,3a、溝肩高さH2a,H3a、玉4の直径Da、玉数Z、および玉4のピッチ円直径dp等を前記のように設定したため、十分な基本動定格荷重を確保すると共に、低トルク化を図れる。
さらに、保持器5にグリース収容凹部GPを設け、このグリース収容凹部GPと、玉4を保持するポケットPtとを連通する連通口Rhを設けたため、軸受運転時、玉4に付着したグリースを連通口Rhによりグリース収容凹部GPに移動させる。つまり玉4がポケットPt内で回転すると、玉4に付着したグリースの一部が連通口Rhに到達し、さらに玉4がポケットPt内で回転(つまり相対動作)することで、前記グリースの一部が連通口Rhで掻き取られると共に玉4の圧力により連通口Rhを通してグリース収容凹部GP側に押圧されて移動する。前記グリースがグリース収容凹部GPに格納され保持器5と共に回転するため、前述の攪拌抵抗やせん断抵抗を軽減することができる。
グリースによる潤滑では、グリースの基油が潤滑に作用する。グリース収容凹部GP内に保持されたグリースから分離した基油は、連通口Rhを通って玉4へ供給されるため、潤滑に必要な基油を利用することができる。
このように、軸受の用途に限定されず、転がり疲労寿命とグリース寿命を犠牲にすることなく、軸受運転時の低トルク化を図ることができるうえ、グリース収容凹部GP内に保持されたグリースから分離した基油を潤滑に利用することができる。
連通口Rhを孔ではなく切欠きとしたため、この切欠きの縁(エッジ部)でグリースを掻き取る効果を高め、グリース収容凹部GPへ掻き入れる効果を高めることができる。この場合、この保持器5を射出成形で製作する際の金型構造を簡単化することができる。したがって、保持器5の製作コストの低減を図れる。
量産性に優れる射出成形により保持器5を製作する場合、合成樹脂材料としてナイロン等のポリアミド系樹脂を用いることで、加工・組立が容易で低コスト化を図ることができる。保持器5の合成樹脂材料としてポリエーテルエーテルケトン,略称PEEKを用いることで、高強度、耐熱性、耐摩耗性、耐加水分解性に優れたものとできる。保持器5の合成樹脂材料としてポリフェニレンサルサイド,略称PPSを用いることで、高温性、耐薬品性に優れ、難燃性、寸法安定性が高い保持器5とすることができる。
近年工業製品に対して強く要求される低環境負荷の観点から、保持器材料として植物由来の樹脂材料を用いても良い。すなわちCO収支がゼロとなる(カーボンニュートラル)バイオプラスチックの利用であり、この範疇には例えば、サトウキビやとうもろこしといった糖質類から合成されるポリ乳酸やポリブチレンサクシネート、またはひまし油等から合成されるポリアミド等が含まれる。
これら合成樹脂材料、植物由来の樹脂材料を保持器5に適用するには、ガラス繊維やカーボン繊維で強度を増すことが一般に必要となる。
この発明の他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
図16の転がり軸受1Aは、前述のグリース収容凹部GP、連通口Rhを設けた保持器5が組み込まれ、さらに内外輪2,3間の軸受空間に以下のグリースが封入されている。
前記グリースは、基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなるグリース組成物であって、前記添加剤は、植物由来のポリフェノール化合物およびその分解化合物から選ばれた少なくとも一つの化合物を含有し、この化合物の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05重量部以上10 重量部以下である。
本件出願人は、転がり軸受について、(1)植物由来のポリフェノール化合物、および(2)植物由来のポリフェノール化合物の分解化合物、から選ばれた少なくとも一つの化合物を含有するグリース組成物を封入し、急加減速試験および高温耐久性試験を行なったところ軸受寿命を延長できることがわかった。これは、上記化合物が、(A)極性基の作用により軸受転走面の金属表面に容易に付着し、摩擦摩耗面または摩耗により露出した金属新生面において該物質が反応し、酸化被膜を軸受転走面に形成することで、グリース組成物の分解による水素の発生が抑制され、軸受転走面における水素脆性に起因する特異な剥離を防止できること、(B)上記化合物がグリース組成物の酸化防止剤として働き酸化劣化が抑制できること、によるためであると考えられる。本発明はこれらの知見に基づくものである。
本発明において使用できるポリフェノール化合物は、芳香族炭化水素環の水素原子を水酸基(ヒドロキシ基)で置換した、1分子内に複数の水酸基を有する芳香族ヒドロキシ化合物であり、植物由来のものである。
また、上記植物由来のポリフェノール化合物の分解化合物は、該ポリフェノール化合物の加水分解などで生成する芳香族または脂環族ヒドロキシ化合物などである。ポリフェノール化合物と同様の作用効果を得るため、該分解化合物においても、1分子内に複数の水酸基を有することが好ましい。
本発明において使用できる植物由来のポリフェノール化合物またはその分解化合物としては、例えば、タンニン、没食子酸、エラグ酸、クロロゲン酸、コーヒー酸、キナ酸、クルクミン、ケルセチン、ピロガロール、テアフラビン、アントシアニン、ルチン、リグナン、カテキン等が挙げられる。また、植物由来のセサミン、イソフラボン、クマリンなどから得られるポリフェノール化合物も使用できる。以上のようなポリフェノール化合物またはその分解化合物は、単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中で、より長期間、酸化劣化を抑制できることから、タンニン、没食子酸またはその誘導体、エラグ酸またはその誘導体、クロロゲン酸またはその誘導体、コーヒー酸またはその誘導体、キナ酸またはその誘導体、クルクミンまたはその誘導体、ケルセチンまたはその誘導体を用いることが好ましい。
本発明に用いるタンニンは、分子内に多くのフェノール性水酸基を含み、酸性有機物質として分子量が比較的大きなポリフェノール化合物である。該タンニンは、カシの皮、フシ(没食)、柿などに存在する収斂性の植物成分であり、化学構造の相違により、加水分解性タンニンと縮合型タンニンとに大別される。
加水分解性タンニンは、酸、アルカリ、酵素で多価フェノール酸と、多価アルコールとに加水分解される。得られる多価フェノール酸としては、主に没食子酸およびその二量体(遊離状態では脱水環化して4環性のエラグ酸となる)の二つのタイプがある。また、得られる多価アルコールとして、ピロガロールなどがある。縮合型タンニンは複数分子のカテキンが炭素−炭素結合で縮合したものである。本発明においては、没食子酸、エラグ酸、ピロガロールなどの分解物を得られる加水分解性タンニンを用いることが好ましい。
本発明に用いる没食子酸およびエラグ酸は、上記のように加水分解性タンニンを加水分解して得られる多価フェノール酸(ポリフェノール化合物)である。没食子酸は下記式(1)に、エラグ酸は下記式(2)に、それぞれ示す構造を有する。

本発明に用いる没食子酸の誘導体としては、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸ブチル、没食子酸ペンチル、没食子酸ヘキシル、没食子酸ヘプチル、没食子酸オクチル等の没食子酸エステルや没食子酸ビスマス等の没食子酸塩が挙げられる。これらの中で潤滑油への溶解性に優れることから、没食子酸エチルを用いることがさらに好ましい。また、エラグ酸についても、同様の誘導体を用いることができる。
本発明に用いるクロロゲン酸は、コーヒー豆などに含まれるポリフェノール化合物であり、下記式(3)に示す構造を有する。

本発明に用いるコーヒー酸は、クロロゲン酸の加水分解物であり、芳香族炭化水素環の水素原子を水酸基で置換した分子内に3個の水酸基を有する芳香族ヒドロキシ化合物であり、下記式(4)に示す構造を有する。
本発明に用いるキナ酸は、クロロゲン酸の加水分解物であり、脂環族炭化水素環の水素原子を水酸基で置換した分子内に5個の水酸基を有する脂環族ヒドロキシ化合物であり、下記式(5)に示す構造を有する。
本発明に用いるクルクミンは、ウコンなどに含まれるポリフェノール化合物であり、下記式(6)に示す構造を有する。

本発明に用いるケルセチンは、柑橘類などに含まれるポリフェノール化合物であり、下記式(7)に示す構造を有する。
植物由来のポリフェノール化合物およびその分解化合物から選ばれた少なくとも一つの化合物の配合割合は、ベースグリース 100 重量部に対して 0.05〜10 重量部である。さらに、好ましくは 0.1〜5 重量部である。上記化合物の配合割合が 0.05 重量部未満であると、水素脆性による転走面での剥離を効果的に防止できない。また、グリースの酸化劣化を効果的に防止できない。上記化合物の配合割合が 10 重量部をこえても剥離防止効果および潤滑剤の酸化劣化を防止する効果がそれ以上に向上しにくい。
本発明に使用できる基油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、高度精製鉱油、流動パラフィン油、ポリブテン油、フィッシャー・トロプシュ法により合成されたGTL油、PAO油、アルキルナフタレン油、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂、ポリオールエステル油、りん酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油等のエステル油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルベンゼン油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等を使用できる。これらを単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
PAO油は、通常、α-オレフィンまたは異性化されたα-オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ドコセン、1-テトラコセン等を挙げることができ、通常はこれらの混合物が使用される。
本発明のグリース組成物の基油としては、上記基油の中で耐熱性と潤滑性に優れることから、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油およびPAO油から選ばれた少なくと
も一つの油を用いることが好ましい。アルキルジフェニルエーテル油およびエステル油は
、PAO油と併用することがより好ましい。
また、上記基油の 40℃における動粘度が 10〜100 mm/sec であることが好ましい。より好ましくは、10〜70 mm/sec である。動粘度が、10 mm/sec 未満である場合には、短時間で基油が劣化し、生成した劣化物が基油全体の劣化を促進するため、軸受の耐久性を低下させ短寿命となる。また、100 mm/sec をこえると回転トルクの増加による軸受の温度上昇が大きくなり、特に高速回転下では温度上昇が大きく、上記ポリフェノール化合物等を配合してもグリースの酸化劣化を十分に防止できなくなる。
本発明のグリース組成物の増ちょう剤としては、ベントン、シリカゲル、フッ素化合物、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、力ルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。これらの中で、耐熱性、コスト等を考慮するとウレア系化合物が望ましい。
ウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
基油にウレア系化合物等の増ちょう剤を配合して、上記ポリフェノール化合物等を配合するためのベースグリースが得られる。ウレア系化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中でイソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させて作製する。
ベースグリース 100 重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、1〜40 重量部、好ましくは 3〜25 重量部配合される。増ちょう剤の含有量が 1 重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、40 重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
また、植物由来のポリフェノール化合物とともに、必要に応じて公知のグリース用添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系化合物等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、金属スルホネート、ポリアルコールエステルなどの防錆剤、有機モリブデンなどの摩擦低減剤、エステル、アルコールなどの油性剤、りん系化合物などの摩耗防止剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加できる。
本発明のグリース組成物は、水素脆性による特異な剥離の発生の抑制、および、高温高速下におけるグリースの耐酸化劣化性の向上により、グリース封入軸受の寿命を向上させることができる。
以下に示す各実施例および各比較例において、基油として用いたPAO油は 40℃における動粘度 30 mm2/sec の新日鉄化学社製の商品名シンフルード601を、アルキルジフェニルエーテル油は 40℃における動粘度 97 mm2/sec の松村石油社製の商品名モレスコハイルーブLB100を、エステル油は 40℃における動粘度 72 mm2/sec の新日鉄化学社製の商品名ハトコールH2362(ポリオールエステル油)を、それぞれ用いた。また、各ポリフェノール化合物は、東京化成社製試薬を用いた。
実施例1〜実施例10
表1に示した基油の半量に、4,4−ジフェニルメタンジイソシアナート(日本ポリウレタン工業社製商品名のミリオネートMT、以下、MDIと記す)を表1に示す割合で溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるモノアミンを溶解した。それぞれの配合割合および種類は表1のとおりである。MDIを溶解した溶液を撹拌しながらモノアミンを溶解した溶液を加えた後、100℃〜120℃で 30 分間撹拌を続けて反応させて、ジウレア化合物を基油中に生成させた。これに、植物由来のポリフェノール化合物等および酸化防止剤を表1に示す配合割合で加えて、さらに 100℃〜120℃で 10 分間撹拌した。その後冷却し、三本ロールで均質化し、グリース組成物を得た。得られたグリース組成物の急加減速試験を行なった。試験方法および試験条件を以下に示す。また、結果を表1に示す。
<急加減速試験>
電装補機の一例であるオルタネータを模擬し、回転軸を支持する内輪回転の転がり軸受に上記グリース組成物を封入し、急加減速試験を行なった。急加減速試験条件は、回転軸先端に取り付けたプーリに対する負荷荷重を 1960 N 、回転速度は 0 rpm〜18000 rpm で運転条件を設定し、さらに、試験軸受内に 0.1 A の電流が流れる状態で試験を実施した。そして、軸受内に異常剥離が発生し、振動検出器の振動が設定値以上になって発電機が停止する時間(剥離発生寿命時間、h)を計測した。なお、試験は、500 時間で打ち切った。
比較例1〜比較例3
実施例1に準じる方法で、表1に示す配合割合で、増ちょう剤、基油を選択してベースグリースを調製し、さらに添加剤を配合してグリース組成物を得た。得られたグリース組成物を実施例1と同様の試験を行なって評価した。結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1〜実施例10の急加減速試験は全て 400 時間以上を示した。これはグリース組成物の添加剤として配合された植物由来のポリフェノール化合物の作用により、軸受転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を防止できたことによると考えられる。これに対して、酸化防止剤(ヒンダードフェノール)のみを添加剤として配合した比較例1では、実施例1〜実施例10と比較して、剥離発生寿命が大幅に短かい結果となった。
実施例11〜実施例17
表2に示した基油の半量に、MDIを表2に示す割合で溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるモノアミンを溶解した。それぞれの配合割合および種類は表2のとおりである。MDIを溶解した溶液を撹拌しながらモノアミンを溶解した溶液を加えた後、100℃〜120℃で 30 分間撹拌を続けて反応させて、ジウレア化合物を基油中に生成させた。これに、植物由来のポリフェノール化合物等を表2に示す配合割合で加えて、さらに100℃〜120℃で 10 分間撹拌した。その後冷却し、三本ロールで均質化し、グリース組成物を得た。得られたグリース組成物の高温耐久性試験を行なった。試験方法および試験条件を以下に示す。また、結果を表2に併記する。
<高温耐久性試験>
転がり軸受(軸受寸法:内径 20 mm、外径 47 mm、幅 14 mm)に潤滑組成物を 0.7 g封入し、軸受外輪外径部温度 150℃、ラジアル荷重 67 N 、アキシアル荷重 67 N の下で10000 rpm の回転数で回転させ、焼き付きに至るまでの時間を測定した。結果を表2に併記する。
比較例4および比較例5
実施例11に準じる方法で、表2に示す配合割合で、増ちょう剤、基油を選択してベースグリースを調整し、さらに添加剤を配合してグリース組成物を得た。得られたグリース組成物を実施例11と同様の試験を行なって評価した。結果を表2に併記する。
表2に示すように、実施例11〜実施例17は、高温耐久性試験において寿命が全て1400 時間以上の優れた高温耐久性を示した。これは、グリース組成物の添加剤として配合された植物由来のポリフェノール化合物が、グリース組成物の酸化劣化を抑制できたことによると考えられる。一方、比較例4では、実施例11〜実施例17と同じ基油を用い2種類の酸化防止剤を併用したが、実施例11〜実施例17と比較して寿命が大幅に短い結果となった。
ここで、植物由来のポリフェノール化合物として、クルクミンを添加したクルクミン添加グリースの寿命(高温耐久性)を、内径20mm、外径47mm、幅14mmの軸受型番「6204」の深溝玉軸受で試験した結果を図17に示す。内輪回転速度は10000min−1、外輪外径部の温度は150℃である。同図において、横軸に軸受内部の全空間体積に対するグリース封入量の割合、縦軸にグリース寿命、つまり焼き付きに至る時間を示す。
試験結果によると、同図中丸印で表記するクルクミン無添加でグリース38%封入の場合のグリース寿命よりも、四角印で表記するクルクミン添加でグリース25%封入の場合の方が若干寿命が長い。クルクミン添加でグリース22%封入であれば、クルクミン無添加でグリース38%封入の場合と略同等の寿命であることがわかる。一般に、グリース封入量が少ないほど、保持器によるグリースの攪拌・せん断による抵抗が少ないため、低トルク化が期待できる。すなわち、クルクミンを添加すると、グリース寿命を維持したままトルクを低減することが可能となる。
以上説明した図16の転がり軸受1Aによると、グリースがグリース収容凹部GP(図2)に格納され保持器5と共に回転するため、攪拌抵抗やせん断抵抗を軽減することができる。グリース収容凹部GP内に保持されたグリースから分離した基油は、連通口Rh(図2)を通って玉4へ供給されるため、潤滑に必要な基油を利用することができる。
このような保持器5を組み込んだ軸受に、前記グリース組成物を封入することで、水素脆性による特異な剥離の発生を抑制することができる。また、従来の酸化防止剤等を配合したグリース組成物よりも耐酸化劣化性を向上させることができ、高温高速下での軸受の長寿命化が図れる。
トルク測定結果について説明する。
図9の内部諸元を設定した深溝玉軸受を「A」とし、冠形保持器に前記グリース収容凹部GP、連通口Rhを設けた深溝玉軸受を「B」とした。標準のマルテンプSRLグリースにクルクミンをベースグリース100重量部に対して2重量部添加したグリースを、25%封入した深溝玉軸受を「C」とした。
トルク試験対象とした深溝玉軸受は、内径30mm、外径62mm、幅16mmの軸受型番「6206」である。試験は、ラジアル荷重とアキシアル荷重を同時に支持できる静圧気体軸受に試験軸受を固定し、試験軸受の内輪に嵌合した軸にラジアル荷重を、または静圧気体軸受にアキシアル荷重を与えることで試験軸受に負荷を与え、軸を外部モータで回転させたときの外輪回転トルクを測定した。トルク測定は以下の条件で実施した。
トルク測定条件
回転速度:3000〜5000min−1、ラジアル荷重:0〜250N、アキシアル荷重:0〜150N
上記トルク測定条件で外輪回転トルクを測定した結果を概算的に表3に示す。
標準軸受を、軸受型番「6206」、標準ナイロン製冠形保持器、マルテンプSRLグリース38%封入したものとし、表3において「標準」と表記する。同表3において、図9の内部諸元を設定した深溝玉軸受に、グリース収容凹部GP、連通口Rhを設けた冠形保持器を組込み、さらに標準のマルテンプSRLグリースにクルクミンをベースグリース100重量部に対して2重量部添加したグリースを25%封入したものを、「A*B*C」と表記する。また表3においてA,B,C,A*B*C各軸受のトルクは、標準軸受のトルク値を100とした場合の相対値で示している。これら軸受のうち、「C」と「A*B*C」の軸受は、標準のマルテンプSRLグリースにクルクミンをベースグリース100重量部に対して2重量部添加したグリースを25%封入した。「A」と「B」の軸受は、グリースに関しては添加剤、封入量共に標準軸受と同じである。
表3を見ると、標準軸受に対してA,B,Cそれぞれ単独の軸受でトルク低減効果が認められるが、A*B*Cの軸受には単純な組合せ効果(A+B+C)より大きな相乗効果が発生し、標準軸受に対してトルク値は略半減している。
A,B,Cの各軸受はそれぞれ技術的に異なったトルク低減方法であるが、相互干渉によりトルク低減効果を抑制する方向に働かないことは上記結果からも判断できる。図9の内部諸元を設定した深溝玉軸受に、グリース収容凹部GP、連通口Rhを設けた冠形保持器を組み込んだものを「A*B」とする。標準の深溝玉軸受に、グリース収容凹部GP、連通口Rhを設けた冠形保持器を組み込み、さらに標準のマルテンプSRLグリースにクルクミンをベースグリース100重量部に対して2重量部添加したグリースを、25%封入したものを「B*C」とする。また、図9の内部諸元を設定した深溝玉軸受に、標準のマルテンプSRLグリースにクルクミンをベースグリース100重量部に対して2重量部添加したグリースを、25%封入したものを「C*A」とする。これら「A*B」、「B*C」、「C*A」の各軸受でも、単純な加算効果以上の相乗効果が期待できる。
なお、軸受「C」に関しては、添加剤としてクルクミンだけでなくクルクミンの誘導体、およびケルセチンまたはその誘導体のいずれか一方または両方であっても良い。これらの場合であっても前述の効果が認められる。
保持器の他の実施形態について説明する。
図18(A),(B)に示すように、保持器5の環状体7のうちグリース収容凹部GPが設けられた箇所を、同環状体7の軸心L1を含む平面で切断して見た断面形状について、環状体7の連結部10が、前記軸心L1に垂直な平面S1に対し傾斜する傾斜面10aを有するものとしても良い。
図18(A)に示す保持器5は、連結部10の肉厚が矢符A1で示す内径側に向かうに従って薄肉となる傾斜面10aを有する。この場合、図4の保持器よりも保持器剛性を高め、高速回転させる場合に保持器5の強度を確保し得る。さらに軸受運転時、グリース収容凹部GP内に溜めたグリースを、回転による遠心力により傾斜面10aから内壁部9を介して軸受空間内に円滑に排出させることができる。
図18(B)に示す保持器5は、連結部10の肉厚が矢符A1で示す内径側に向かうに従って厚肉となる傾斜面10aを有する。この場合、グリース収容凹部GPに溜めたグリースを、軸受運転時漏出させないように保持することができる。
図18(C)に示す保持器5は、内壁部9の肉厚が矢符A2で示す反ポケット側に向かうに従って薄肉となる傾斜面9aを有する。この場合、軸受運転時、グリース収容凹部GP内に溜めたグリースを、回転による遠心力により前記傾斜面9aから軸受空間内に円滑に排出させることができる。
図18(D)に示す保持器5は、内壁部9の肉厚が反ポケット側に向かうに従って厚肉となる傾斜面9aを有する。この場合、軸受運転時、グリース収容凹部GP内に溜めたグリースを漏出させないように保持することができる。
図19の保持器5Aは、環状体7のうち、グリース収容凹部GPの反ポケット側の他側面7bを覆う覆い部11を設けている。例えば、マシニングセンタ等を用いた機械加工により、前記覆い部11を有する形状を製作し易い。この保持器5Aによると、高速回転の場合、覆い部11によりグリース収容凹部GPに保持されたグリースが漏出することを防止し得る。
図20の保持器5Bは、射出成形で製作されたものであり、連通口RhをポケットPt側からグリース収容凹部GP側に向かうに従って広がるように設けている。連通口Rhのうち特に反ポケット側部分Rhaは、環状体7の軸心L1に平行に形成されている。この場合、射出成形金型から保持器5Bを抜き易くすることができる。また、金型に高精度な加工が要求されるポケットPt側でなく、比較的加工の容易なグリース収容凹部GP側の金型に、連通口Rhを形成する金型を適用することができる。したがって、金型の製作費の低減を図れる。
図21の保持器5Cは、ポケットPtの内面における環状体外径側のポケット開口縁12に、凹み部13を設けている。この例では、凹み部13はポケット開口縁12に2箇所設けられる。これら凹み部13は、それぞれ前記ポケット開口縁12から玉配列ピッチ円付近まで環状体内径側へ延びる。前記2箇所の凹み部13は、ポケットPtのポケット開口縁12における保持器円周方向の中心L2の両側に位置する。各凹み部13の内面形状は、保持器円周方向に沿う断面形状が、ポケットPtの内面となる凹球面の曲率半径よりも小さい曲率半径の円弧状である。前記断面形状とは、凹み部13を環状体7の軸心L1に垂直な平面で切断して見た断面形状と同義である。各凹み部13は、保持器半径方向につき、環状体外径側から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。
前記凹み部13を設けた冠形保持器5Cを組み込んだ軸受では、凹み部13により環状体外径側のポケット開口縁12でのグリースの掻き取りが低減される。凹み部13からポケットPt内に進入したグリースは、内輪2(図1)側に移動し、玉配列ピッチ円付近で均される。このため、軸受内のグリースをより多くグリース収容凹部GPに引き込むことが可能となる。なお、凹み部13を1箇所以上設けても良い。
図22の保持器5Dは、ポケットPtの内面の底部に凹み部14を設けている。この凹み部14は、ポケット内面における底面の玉配列ピッチ円に沿って形成された一条の溝から成る。グリース収容凹部GPには、増ちょう剤および基油を含むグリースを溜め、このグリースから分離した潤滑に必要な基油を、前記連通口Rhを通してポケットPtに移動させることで潤滑に寄与する。図22に示す凹み部14に、グリースから分離した基油の一部が進入するため、玉4(図1)とポケットPt間の基油による粘性せん断抵抗を減らすことができる。それ故、より低トルク化に寄与し得る。
図23に示す保持器5Eのように、グリース収容凹部GP内に仕切り板15を設けても良い。この例の仕切り板15は、グリース収容凹部GPを二分割するものであり、軸心L1に平行に配設される。このような仕切り板15によって、グリース収容凹部GP内のグリースの移動が規制され、グリース収容凹部GPの内壁部9にグリースが付着し易くなる。したがって、グリース収容凹部GPにグリースを保持し易くできる。なお、仕切り板15は、グリース収容凹部GP内を完全に仕切らない形態のものや、軸心L1に平行でない形態のものを適用することも可能である。
グリース収容凹部GPに初期にグリースを封入しておき、ポケットPt側のグリースを予め少なくしておいても良い。この場合、グリースの一部が連通口Rhで掻き取られる効果は前記各実施形態のものより低くなるが、ポケットPt側のグリースが少ない分、起動時のトルク低減を図ることができる。また、グリース収容凹部GP内に封入されたグリースから分離した基油は、連通口Rhを通って玉4へ供給されるため、潤滑に必要な基油を利用することができる。
転がり軸受としてアンギュラ玉軸受を適用しても良い。荷重負荷の小さいアンギュラ玉軸受の場合、軸受全体の玉数を減らし、回転トルクを低減させると共に本実施形態のいずれかの保持器を用いることで、さらにトルク低減を図ることが可能となる。
各実施形態では、環状体のポケット間全てにグリース収容凹部を設けているが、この形態に限定されるものではない。任意のポケット間にグリース収容凹部を少なくとも1つ設ければ足りる。
1,1A…転がり軸受
2…内輪
3…外輪
4…玉
5〜5E…保持器
6…密封装置
7…環状体
8…爪
9…内壁部
10…連結部
11…覆い部
12…ポケット開口縁
13,14…凹み部
15…仕切り板
GP…グリース収容凹部
Pt…ポケット
Rh…連通口

Claims (16)

  1. 内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持されグリース潤滑される転がり軸受において、
    前記内輪および外輪の溝肩高さが各々玉の直径の0.2倍であり、内外輪の軌道溝、溝肩高さ、玉の直径、玉数、および玉のピッチ円直径を次式の範囲に設定し、
    且つ0.8d<d<dとし、
    前記保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、前記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状であり、前記環状体のうち円周方向に隣接するポケット間にグリースを溜めるグリース収容凹部を設け、このグリース収容凹部と前記ポケットとに連通し、前記玉に付着したグリースを、玉と保持器との相対動作により前記グリース収容凹部へ移動させる連通口を設けたことを特徴とする転がり軸受。
  2. 内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、グリース潤滑される転がり軸受において、
    前記保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、前記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状であり、前記環状体のうち円周方向に隣接するポケット間にグリースを溜めるグリース収容凹部を設け、このグリース収容凹部と前記ポケットとに連通し、前記玉に付着したグリースを、玉と保持器との相対動作により前記グリース収容凹部へ移動させる連通口を設け、
    前記グリースは、基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなるグリース組成物であって、
    前記添加剤は、植物由来のポリフェノール化合物およびその分解化合物から選ばれた少なくとも一つの化合物を含有し、この化合物の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05重量部以上10 重量部以下であり、
    前記植物由来のポリフェノール化合物は、クルクミンまたはその誘導体、およびケルセチンまたはその誘導体のいずれか一方または両方であることを特徴とする転がり軸受。
  3. 請求項1において、前記グリースは、基油と、増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなるグリース組成物であって、
    前記添加剤は、植物由来のポリフェノール化合物およびその分解化合物から選ばれた少なくとも一つの化合物を含有し、この化合物の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05重量部以上10 重量部以下であり、
    前記植物由来のポリフェノール化合物は、クルクミンまたはその誘導体、およびケルセチンまたはその誘導体のいずれか一方または両方である転がり軸受。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記連通口は、前記グリース収容凹部と前記ポケットとを連通させ、且つ環状体の内径側に開口する切欠きである転がり軸受。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記環状体の軸心に垂直な平面であり前記ポケットの中心を通る前記平面に対する、前記連通口の中央部の角度を20度以上50度以下の範囲とした転がり軸受。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記連通口における、前記ポケットの保持器円周方向に沿った最大幅寸法を、前記ポケットの内径の10%以上40%以下の範囲とした転がり軸受。
  7. 請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記環状体のうちグリース収容凹部が設けられた箇所を、同環状体の軸心を含む平面で切断して見た断面形状について、
    前記環状体の内壁部および円周方向に隣接するポケットを繋ぐ連結部が、前記グリース収容凹部を成し、
    前記内壁部が前記軸心に対し傾斜する傾斜面を有するもの、および、前記連結部が前記軸心に垂直な平面に対し傾斜する傾斜面を有するもののいずれか一方または両方を含む転がり軸受。
  8. 請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記グリース収容凹部内に仕切り板を設けた転がり軸受。
  9. 請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記環状体のうち、グリース収容凹部の反ポケット側の他側面を覆う覆い部を設けた転がり軸受。
  10. 請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記ポケットの内面における環状体外径側のポケット開口縁に、凹み部を設けた転がり軸受。
  11. 請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記ポケットの内面の底部に、凹み部を設けた転がり軸受。
  12. 請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記保持器は射出成形で製作されたものであり、前記連通口を環状体の軸心に平行、またはポケット側からグリース収容凹部側に向かうに従って広がるように設けた転がり軸受。
  13. 請求項1ないし請求項12のいずれか1項において、前記保持器が合成樹脂材料または植物由来の樹脂材料を含む転がり軸受。
  14. 請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記グリース収容凹部に初期にグリースを封入した転がり軸受。
  15. 請求項1ないし請求項14のいずれか1項において、前記転がり軸受が深溝玉軸受またはアンギュラ玉軸受である転がり軸受。
  16. 請求項15において、前記転がり軸受が深溝玉軸受である場合に、内外輪間の軸受空間を塞ぐ密封装置を外輪に設けた転がり軸受。
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