JP5401931B2 - 高圧炭酸ガスインジェクション用部材 - Google Patents

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本発明は、油井管用Cr含有鋼管に係り、とくに100℃以下の温度で、かつ10〜100MPa(100超〜1000気圧)という高い分圧の炭酸ガスを含む厳しい腐食環境下で使用して好適な、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れたCr含有鋼管に関する。
近年、大気中の炭酸ガスの増加が地球の温暖化に繋がるという考えから、地球環境の保全のために、炭酸ガス排出量の削減が叫ばれている。そして最近では、排出された炭酸ガスを海洋や、使用済みの油井、岩塩の廃坑等の地中に注入し、貯留(貯蔵)することが検討されている。炭酸ガスの地中への注入は、単なる貯留(貯蔵)以外にも、原油の回収率向上や、石灰層からのメタンガス回収など、石油や天然ガスの回収のために利用が検討されている。
例えば、特許文献1には、投棄二酸化炭素を熱源とする天然ガス採取方法が提案されている。特許文献1に記載された技術は、海底または永久凍土域に存在する天然ガスハイドレイト層に投棄二酸化炭素を圧入し、投棄二酸化炭素をガスハイドレイトとして固定するとともに、二酸化炭素の顕熱および潜熱により天然ガスハイドレイトから天然ガスを解離させて採取する方法である。
地中への炭酸ガスの注入は、いずれにしろ、その目的から少なくとも1000mを超える深い位置までの注入を必要とすることが多く、炭酸ガスを高圧にして注入することになる。単純に乾燥した炭酸ガスを注入するだけであれば、たとえ高圧であっても腐食の問題は生じないが、操業条件の変化等により結露が生じる場合がある。このような場合には、高圧の炭酸ガスの存在により、激しい炭酸ガス腐食が生じるという問題がある。
通常、原油や天然ガスを採掘する坑井では、油井管として13Cr系鋼管が主として使用されている。しかし、このような坑井では、含まれる炭酸ガスの量は不純物程度で、炭酸ガス分圧で高々5MPa程度である。
特開平5−25986号公報
しかしながら、炭酸ガスの地中への注入に際しては、10MPaを超える高圧の炭酸ガスの使用が考えられている。例えば現状で油井管として使用されている13Cr系鋼管を、炭酸ガス注入用の圧入管として利用すると、環境条件によっては高圧の炭酸ガスによる腐食が大きな問題となることが推察できる。このため、炭酸ガスの地中への注入を行うにあたっては、高圧の炭酸ガス雰囲気中でも耐腐食性を有する、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れた鋼管が熱望されていた。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、温度が100℃以下で、高い炭酸ガス分圧の雰囲気中でも使用可能な、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れた鋼管を使用してなる高圧炭酸ガスインジェクション用部材を提供することを目的とする。ここでいう「耐高圧炭酸ガス腐食性に優れた」とは、炭酸ガス分圧が10MPa以上、好ましくは50MPa以下である高い炭酸ガス分圧を有する高圧炭酸ガス雰囲気中での耐腐食性に優れることを意味する。なお、ここでいう「高圧炭酸ガス雰囲気」は、炭酸ガスに加えて、地中に岩塩等が存在することを考慮して、濃度:10〜120000mass ppm程度の塩素イオン[Cl]を含むものとする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、13Cr系鋼管の組成を基準として、高圧の炭酸ガスを含みかつ塩素イオンを含む雰囲気下での耐食性に及ぼす合金元素の種類およびその含有量について鋭意研究した。その結果、C,Cr,Ni,Cuの含有量を、使用雰囲気中の炭酸ガス分圧、塩素イオン濃度に応じて、特定の関係式を満足するように、調整することにより、耐高圧炭酸ガス腐食性が顕著に向上することを見出した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)mass%で、C:0.25%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.10〜1.80%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:10.0〜14.0%、Al:0.05%以下、V:0.20%以下、N:0.15%以下を含み、あるいはさらに、Ni:3.5%以下、Cu:1.5%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有し、かつCr、Ni、Cu、Cを、使用雰囲気に応じて次(1)式
Cr+Ni+0.5Cu−10C≧log[Cl]×(PCO2 )/8.5 ‥‥(1)
(ここで、Cr、Ni、Cu、C:各合金元素の含有量(mass%)、[Cl]:使用雰囲気中の塩素イオン濃度(mass ppm)、PCO2:使用雰囲気中の炭酸ガス分圧(MPa))
を満足するように調整して含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れるCr含有鋼管を使用してなる高圧炭酸ガスインジェクション用部材
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0005〜0.01%を含有する組成とすることを特徴とする高圧炭酸ガスインジェクション用部材。
本発明によれば、温度が100℃以下で、10MPa以上の高い炭酸ガス分圧と塩素イオン濃度が10〜120000mass ppm程度である高温の厳しい腐食雰囲気中でも使用可能な、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れたCr含有鋼管を、容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になるCr含有鋼管は、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れ、炭酸ガスインジェクション用部材として好適であり、また本発明によれば、熱間加工性にも優れ、通常の製造工程を変更することなく、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れた鋼管を製造できるという効果もある。
まず、本発明のCr含有鋼管の組成限定理由について説明する。なお、以下、mass%は、とくに断わらない限り単に%で記す。
C:0.25%以下
Cは、鋼の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するために本発明では、0.01%以上含有することが望ましいが、0.25%を超える含有は、焼入れ冷却時に割れを生じやすくなる。このため、本発明ではCは0.25%以下に限定した。なお、好ましくは、0.15〜0.25%である。
Si:0.50%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには0.1%以上含有することが望ましいが、0.50%を超える含有は、耐炭酸ガス腐食性を低下させるとともに、熱間加工性をも低下させる。このため、Siは0.50%以下に限定した。なお、好ましくは0.30%以下である。
Mn:0.10〜1.80%
Mnは、鋼の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するために本発明では、0.10%以上含有する。一方、1.80%を超える含有は、靭性を低下させる。このため、Mnは0.10〜1.80%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.30〜1.00%である。
P:0.03%以下
Pは、耐食性、とくに耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性をともに劣化させる元素であり、可能なかぎり低減することが望ましいが、極端な低減は製造コストの高騰を招く。このため、本発明では、工業的に実施可能な範囲でかつ安価で、しかも耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性、耐孔食性、耐硫化物応力腐食割れ性を劣化させない範囲である、0.03%をPの上限値とした。なお、好ましくは0.02%以下である。
S:0.005%以下
Sは、熱間加工性を著しく低下させる元素であり、可能なかぎり低減することが望ましいが、0.005%以下に低減すれば通常工程での鋼管の製造が可能であることから、0.005%をSの上限値とした。なお、好ましくは0.003%以下である。
Cr:10.0〜14.0%
Crは、耐食性を向上させる作用を有する元素であり、とくに所望の耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性を保持するために必要な元素である。このような効果を得るためには10.0%以上の含有を必要とする。一方、14.0%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、Crは10.0〜14.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは11.0〜13.5%である。
Al:0.05%以下
Alは、強力な脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには、Alを0.01%以上含有することが望ましいが、0.05%を超えて含有すると、靭性が低下する場合がある。このため、Alは0.05%以下に限定した。
V:0.20%以下
Vは、鋼の強度を増加させる作用、および耐応力腐食割れ性を改善させる作用を有する元素であり、このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、0.20%を超える含有は靭性を低下させる。このため、Vは0.20%以下に限定した。なお、好ましくは0.03〜0.08%である。
N:0.15%以下
Nは、耐孔食性を著しく向上させる作用を有する元素であり、本発明では0.01%以上含有することが望ましい。一方、0.15%を超えて含有すると、種々の窒化物を形成し、靭性を低下させる。このため、Nは0.15%以下に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.08%である。
上記した成分が基本の組成であるが、必要に応じて選択元素として、上記した基本組成に加えてさらに、Ni:3.5%以下、Cu:1.5%以下のうちから選ばれた1種または2種、および/または、Ca:0.0005〜0.01%を含有することができる。
Ni:3.5%以下、Cu:1.5%以下のうちから選ばれた1種または2種
Ni、Cuはいずれも、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて選択して、1種または2種を含有できる。
Niは、保護皮膜を強固にして、耐食性、とくに耐炭酸ガス腐食性、耐炭酸ガス応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。上記した効果を確保するためには、0.1%以上含有することが望ましいが、3.5%を超えて含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となる。このため、含有する場合には、Niは3.5%以下に限定することが好ましい。
Cuは、保護皮膜を強固にして、鋼中への水素の侵入を抑制し、耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。上記した効果を確保するためには、0.1%以上含有することが望ましいが、1.5%を超えて含有すると、高温でCuSが結晶粒界に析出し、熱間加工性が低下する。このため、含有する場合には、Cuは1.5%以下に限定することが好ましい。
Ca:0.0005〜0.01%
Caは、Sと結合して、SをCaSとして固定するとともに、硫化物系介在物の形態を球状化し、介在物の周辺のマトリックスの格子歪を減少させて、水素のトラップ能を低下させる作用を有する。このような効果を得るためには0.0005%以上含有することが望ましいが、一方、0.01%を超えて含有すると、CaOの増加を招き、耐炭酸ガス腐食性、耐孔食性が低下する。このため、含有する場合には、Caは0.0005〜0.01%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.0010〜0.0050%である。
本発明では、C、Cr、あるいはさらにNi、Cuの含有量を、上記した範囲でかつ、次(1)式
Cr+Ni+0.5Cu−10C≧log[Cl]×(PCO2 )/8.5 ‥‥(1)
(ここで、Cr、Ni、Cu、C:各合金元素の含有量(mass%)、[Cl]:使用雰囲気中の塩素イオン濃度(mass ppm)、PCO2:使用雰囲気中の炭酸ガス分圧(MPa))
を満足するように、調整する。なお、(1)式を計算するにあたり、選択元素であるNiおよび/またはCuを、含有しない場合には、(1)式中のNi含有量および/またはCu含有量を零として計算するものとする。また、使用雰囲気中の[Cl]が10ppm以下である場合には、[Cl]=10ppmとして(1)式を計算するものとする。
Cr、Ni、Cuは、耐高圧炭酸ガス腐食性の向上に有効な元素であるが、CはCr炭化物を形成して有効Cr量を低減させるため耐高圧炭酸ガス腐食性には悪影響を及ぼす。一方、使用雰囲気中のClは、不動態皮膜を破壊し孔食を発生させ、耐食性を劣化させる作用を有する。また、炭酸ガスは、pHを低下させて腐食を促進する作用がある。本発明では、耐高圧炭酸ガス腐食性に及ぼす上記した各元素、各要因の作用から、さらに鋭意研究して(1)式を見出した。
C、Cr、あるいはさらにNi、Cuの含有量を、使用雰囲気中の塩素イオン濃度、炭酸ガス分圧に対応して、(1)式を満足するように調整することにより、耐高圧炭酸ガス腐食性が向上し、炭酸ガスインジェクション用部材として好適な鋼管となる。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、O:0.008%以下が許容できる。
上記した組成を有するCr含有鋼管は、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れることから、高圧の炭酸ガスを注入する炭酸ガスインジェクション用部材として好適であり、炭酸ガスインジェクション用圧入管等に適用しても、激しい炭酸ガス腐食を生じることなく使用が可能となり、炭酸ガスインジェクション用部材の耐久性を大幅に向上させることができる。
本発明鋼管は、上記した組成を有すれば、継目無鋼管、溶接鋼管のいずれもが好適である。
つぎに、本発明鋼管の好ましい製造方法について説明する。
まず、上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊−分塊圧延等の常用の方法でスラブ、ビレット等の鋼素材とすることが好ましい。
ついで、鋼素材を加熱し、常用の製造工程を用いて熱間加工して、さらに造管して所望の寸法を有する鋼管とする。継目無鋼管であれば、加熱された鋼素材を、常用の、マンネスマン−プラグミル方式あるいはマンネスマン−マンドレルミル方式の製造工程を用いて、熱間加工、造管して所望寸法の継目無鋼管とする。
得られた鋼管は、造管ままでもよいが、さらに焼戻処理、あるいは焼入れ−焼戻処理を施すことが好ましい。焼入れ処理は、800℃以上の温度に再加熱し、該温度に好ましくは5min以上保持したのち、空冷以上の冷却速度で、200℃以下、好ましくは室温まで冷却することが好ましい。焼入れ処理の加熱温度が800℃未満では、十分な焼入れ組織(マルテンサイト組織)を確保することができないため、所望の強度を確保できない場合がある。
また、焼戻処理は、Ac1変態点を超える温度に加熱し、冷却する処理とすることが好ましい。焼戻処理の加熱温度を、Ac1変態点を超える温度とすることにより、オーステナイト、あるいは焼入れマルテンサイトが生成し、所望の強度を確保できる。
以下、さらに実施例に基づいて本発明について説明する。
表1に示す組成の溶鋼を真空溶解炉で溶製し、さらに脱ガス処理を施したのち、100キロ鋼塊とした。ついで、これら鋼塊を加熱し、研究用モデルシームレス圧延機により、外径3.3 in.×肉厚0.5in.の継目無鋼管とした。
得られた鋼管から、試験用素材を切り出し、該試験用素材に、焼入れ焼戻処理を施した。なお、焼入れ処理は、960℃×10min加熱・保持した後、水冷(水焼入れ)する処理とし、焼戻処理は、720℃×25min加熱・保持したのち空冷する処理とした。
得られた試験用素材から、試験片を採取し、腐食試験、引張試験を実施した。試験方法は次のとおりである。
(1)腐食試験
得られた試験用素材から、腐食試験片(大きさ:板厚3mm×25mm×50mm)を採取し、腐食試験を実施した。腐食試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:NaCl水溶液(液温:80〜100℃、塩素イオン濃度:30000〜50000ppm、炭酸ガス分圧:19〜24MPaのガス雰囲気) 中に、腐食試験片を浸漬し、浸漬期間を2週間として実施した。使用した腐食雰囲気中の塩素イオン濃度、炭酸ガス分圧を表2に示す。腐食試験後の試験片について、重量を測定し、腐食試験前後の重量減から計算した腐食速度を求めた。また、試験後の腐食試験片について倍率:10倍のルーペを用いて試験片表面の孔食発生の有無を観察した。なお、腐食速度が0.127mm/y以下の場合を耐高圧炭酸ガス腐食性に優れるとした。
(2)引張試験
得られた試験用素材から、API 弧状引張試験片を採取し、引張試験を実施し引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
得られた結果を表3に示す。
Figure 0005401931
Figure 0005401931
本発明例はいずれも、高い炭酸ガス分圧で塩素イオンを含む腐食環境下においても、耐食性(耐高圧炭酸ガス腐食性)に優れた鋼管であり、炭酸ガスインジェクション用として好適に使用しうることがわかる。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、腐食速度が大きくまた孔食も発生し耐食性が低下して、所望の耐高圧炭酸ガス腐食性を確保できていない。

Claims (2)

  1. mass%で、
    C:0.25%以下、 Si:0.50%以下、
    Mn:0.10〜1.80%、 P:0.03%以下、
    S:0.005%以下、 Cr:10.0〜14.0%、
    Al:0.05%以下、 V:0.20%以下、
    N:0.15%以下
    を含み、あるいはさらに、Ni:3.5%以下、Cu:1.5%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有し、かつCr、Ni、Cu、Cを、使用雰囲気に応じて下記(1)式を満足するように調整して含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、耐高圧炭酸ガス腐食性に優れるCr含有鋼管を使用してなる高圧炭酸ガスインジェクション用部材。

    Cr+Ni+0.5Cu−10C≧log[Cl]×(PCO2 )/8.5 ‥‥(1)
    ここで、Cr、Ni、Cu、C:各合金元素の含有量(mass%)、
    [Cl]:使用雰囲気中の塩素イオン濃度(mass ppm)、
    CO2:使用雰囲気中の炭酸ガス分圧(MPa)
  2. 前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0005〜0.01%を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の高圧炭酸ガスインジェクション用部材。
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