JP5582307B2 - 油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管 - Google Patents

油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管 Download PDF

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本発明は、原油あるいは天然ガスの油井、ガス井で使用される油井管用として好適な継目無鋼管に係り、とくに、YSが655MPa以上の高強度を有し、かつ耐炭酸ガス腐食性と耐硫化物応力腐食割れ性とを兼備する油井用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管に関する。
近年、原油価格の高騰や、近い将来に予想される石油資源の枯渇という観点から、従来、省みられなかったような深度が深い油田や、炭酸ガス、塩素イオン等を含む厳しい腐食環境の油田やガス田等の開発が盛んになっている。このような油田、ガス田は一般に深度が極めて深く、またその雰囲気は高温でかつ炭酸ガス、塩素イオン、硫化水素等を含む厳しい環境となっており、このような環境下で使用される油井用鋼管等には、高強度で、かつ優れた耐食性を兼ね備えた材質を有することが要求される。
従来から、炭酸ガスCO、塩素イオンCl等を含む環境の油田、ガス田では、採掘に使用する油井管として13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管が多く使用されている。さらに、最近では13Crマルテンサイト系ステンレス鋼のCを低減し,Ni,Mo等を増加させた成分系の改良型13Crマルテンサイト系ステンレス鋼の使用も拡大している。
例えば、特許文献1〜特許文献5には、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼 (鋼管)の耐食性を改善した、改良型マルテンサイト系ステンレス鋼 (鋼管)が提案されている。
例えば、特許文献1に記載された技術は、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管の組成で、Cを0.005 〜0.05%と制限し、Ni:2.4〜6%とCu:0.2〜4%とを複合添加し、さらにMoを0.5〜3%添加し、さらにNieqを10.5以上に調整した組成とし、熱間加工後に空冷以上の速度で冷却したのち、あるいはさらに(Ac変態点+10℃)〜(Ac変態点+200 ℃)の温度に加熱し、あるいはさらにAc変態点〜Ac変態点の温度に加熱し、続いて室温まで空冷以上の冷却速度で冷却し、焼戻しする、耐食性に優れたマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法である。特許文献1に記載された技術によれば、API−C95級以上の高強度と、180 ℃以上のCOを含む環境における耐食性と、耐SCC性とを兼ね備えたマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管となるとしている。
また、特許文献2に記載された技術は、C:0.005〜0.05%、N:0.005〜0.1%を含み、Ni:3.0〜6.0%、Cu:0.5〜3%、Mo:0.5〜3%に調整した組成の13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼を熱間加工し室温まで自然放冷したのち、(Ac点+10℃)〜(Ac点+40℃)に加熱し30〜60分間保持しMs点以下の温度まで冷却し、Ac点以下の温度で焼戻し、組織を焼戻しマルテンサイトと20体積%以上のγ相とが混在した組織とする耐硫化物応力腐食割れ性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法である。特許文献2に記載された技術によれば、γ相を20体積%以上含む焼戻しマルテンサイト組織とすることにより耐硫化物応力腐食割れ性が顕著に向上するとしている。
また、特許文献3に記載された技術は、10〜15%Crを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼の組成で、Cを0.005〜0.05%と制限し、Ni:4.0%以上、Cu:0.5〜3%を複合添加し、さらにMoを1.0〜3.0%添加し、さらにNieqを−10以上に調整した組成とし、 組織を焼戻しマルテンサイト相、マルテンサイト相、残留オーステナイト相からなり、焼戻しマルテンサイト相、マルテンサイト相の合計の分率が60〜90%である、耐食性、耐硫化物応力腐食割れ性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼である。これにより、湿潤炭酸ガス環境および湿潤硫化水素環境における耐食性と耐硫化物応力腐食割れ性が向上するとしている。
また、特許文献4に記載された技術は、15%超19%以下のCrを含有し、C:0.05%以下、N:0.1%以下、Ni:3.5〜8.0%を含み、さらにMo:0.1〜4.0%を含有し、30Cr+36Mo+14Si−28Ni≦455(%)、21Cr+25Mo+17Si+35Ni≦731(%)を同時に満足する鋼組成とする硫化物応力割れ性に優れた油井用マルテンサイト系ステンレス鋼材であり、これにより、塩化物イオン、炭酸ガスと微量の硫化水素ガスが存在する苛酷な油井環境中でも優れた耐食性を有する鋼材となるとしている。
また、特許文献5に記載された技術は、10.0〜17%のCrを含有し、C:0.08%以下、N:0.015%以下、Ni:6.0〜10.0%、Cu:0.5〜2.0%を含み、さらにMo:0.5〜3.0%を含有する鋼組成とし、35%以上の冷間加工と焼鈍により、平均結晶粒径が25μm以下、マトリックスに析出した粒径5×10−2μm以上の析出物を6×10個/mm以下に抑えられた組織を有する強度および靭性に優れた析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼であり、微細な結晶粒と析出物の少ない組織とすることにより、高強度で靭性低下を引き起こさない析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼を提供できるとしている。
特開平8-120345号公報 特開平9-268349号公報 特開平10-1755 号公報 特許第2814528 号公報 特許第3251648 号公報
しかしながら、特許文献1〜特許文献5に記載された各技術で製造された改良型13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管は、CO、Cl等を含み、180℃を超える高温の苛酷な腐食環境下では、安定して所望の耐食性を示さないという問題があった。改良型13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼の使用可能温度は、高圧炭酸ガスを含む環境では、高々165℃程度までであり、それ以上の温度では十分な耐食性を示さない。さらに、硫化水素HSを含む環境下においては、硫化物応力腐食割れを起こしやすいという問題があった。
本発明は、かかる従来技術の問題を有利に解決し、降伏強さ655MPa以上の高強度を有し、かつ、炭酸ガスCO、塩素イオンCl等を含み、さらに硫化水素HSを含む、170℃以上の苛酷な環境下においても、安定して優れた耐食性(耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力腐食割れ性)を兼備する油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、代表的なマルテンサイト系ステンレス鋼である13Cr鋼をベースとして、CO、Cl等を含み、さらにHSを含む、170℃以上の苛酷な環境下における耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力腐食割れ性に及ぼす各種合金元素の影響について調査した。その結果、Cを0.01%以下に低減し、Cr、Ni、Moを適正範囲に調整したうえで、さらに、適正量のCu、V、あるいはさらに適正量のWを含有させることにより、所望の降伏強さYS:655MPa以上の高強度を有しながら、耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力腐食割れ性が顕著に向上することを知見した。とくに、Cを0.01%以下に低減することにより、降伏強さYS:655MPa以上の所望の高強度を確保しながら、降伏比を90%以上と引張強さの増加(硬さの増加)を少なくすることにより、所望の耐食性を確保できることを知見した。また、Wの含有は、pHの低い苛酷な環境下においても、安定して耐食性を顕著に向上させることができることを知見した。また、Wは、Mo等にくらべても大きな耐食性向上効果を有することも知見した。
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:14.0〜15.5%、Ni:5.5〜7.0%、Mo:2.0〜3.5%、Cu:0.3〜3.5%、V:0.20%以下、Al:0.05%以下、N:0.06%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、降伏強さ:655〜862MPaの強度と降伏比:0.90以上を有し、耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力腐食割れ性に優れることを特徴とする油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.25〜2.0%を含有する組成とすることを特徴とする油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.20%以下を含有する組成とすることを特徴とする油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.0005〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.01%を含有する組成とすることを特徴とする油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
本発明によれば、降伏強さYS:655MPa以上の高強度を有し、かつCO、Cl等を含み、さらにHSを含む、170℃以上の苛酷な環境下においても、優れた耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力腐食割れ性を有する、油井管用として好適な、高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管を安価に、しかも安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。
まず、本発明の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の組成限定の理由について説明する。なお、以下、とくに断らないかぎり質量%は単に%と記す。
C:0.01%以下
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼の強度に関係する重要な元素であり、所望の高強度を確保するためには、0.003%以上含有することが望ましいが、0.01%を超える含有は、Cr炭化物を形成しやすくなり、耐食性が低下しやすくなる。このため、本発明では、Cは0.01%以下に限定した。なお、好ましくは、所望の高強度を確保するという観点から0.005〜0.01%の範囲である。
Si:0.5%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素であるとともに、固溶して鋼の強度を増加させる。このような効果を得るためには、0.05%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、Siは0.5%以下に限定した。なお、好ましくは0.15〜0.4%である。
Mn:0.1〜2.0%
Mnは、固溶強化あるいは焼入れ性向上を介して、鋼管の強度を増加させる元素であり、所望の鋼管強度を確保するために0.1%以上の含有を必要とするが、2.0%を超える多量の含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.1〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.3〜0.8%である。
P:0.03%以下
Pは、熱間加工性、耐硫化物応力腐食割れ性をともに劣化させる元素であり、本発明では可及的に低減することが望ましいが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。工業的に比較的安価に実施可能でかつ熱間加工性、耐硫化物応力腐食割れ性をともに劣化させない範囲として、Pは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.01%以下である。
S:0.005%以下
Sは、パイプ製造過程において熱間加工性を著しく劣化させる元素であり、可及的に少ないことが望ましいが、0.005%以下に低減すれば通常工程によるパイプ製造が可能となることから、Sは0.005%以下に限定した。なお、好ましくは0.003%以下である。
Cr:14.0〜15.5%
Crは、保護被膜を形成して耐食性を向上させる元素で、とくに所望の耐炭酸ガス腐食性、耐硫化物応力腐食割れ性の保持に有効に寄与する元素である。とくに、高温において所望の優れた耐食性を維持するために、Crは14.0%以上含有することにした。一方、15.5%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、Crは14.0〜15.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは、耐食性向上という観点から14.5〜15.0%である。
Ni:5.5〜7.0%
Niは、保護被膜を強固にする作用を有し、耐炭酸ガス腐食性、耐硫化物応力腐食割れ性等の耐食性を高める元素である。本発明が対象としている厳しい腐食環境下でこのような効果を得るためには、5.5%以上の含有が必要になる。一方、7.0%を超えて含有しても、耐食性向上効果が飽和するとともに、強度が低下する場合もあり、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。このため、Niは5.5〜7.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは5.5〜6.5%である。
Mo:2.0〜3.5%
Moは、不動態皮膜を安定化させるとともに、Clによる孔食に対する抵抗性を増加させる作用を有し、耐炭酸ガス腐食性、耐硫化物応力腐食割れ性の両方の向上に寄与する元素である。このような効果を得るためには、2.0%以上の含有を必要とするが、3.5%を超える含有は、熱間加工性を低下させるとともに、材料コストを高騰させる。このため、Moは2.0〜3.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは2.0〜3.0%である。
Cu:0.3〜3.5%
Cuは、保護皮膜を強固にして、耐炭酸ガス腐食性、耐硫化物応力腐食割れ性の向上に寄与するとともに、耐孔食性を向上させる作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.3%以上の含有を必要とする。一方、3.5%を超えて含有すると、CuSが高温で粒界析出し、熱間加工性が低下する。このため、Cuは、0.3〜3.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.7〜1.5%である。
V:0.20%以下
Vは、炭化物(析出物)を形成し、析出強化を介して、強度の増加に寄与するとともに、耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、靭性を低下させる。このため、Vは0.20%以下に限定した。なお、好ましくは0.03〜0.08%である。
Al:0.05%以下
Alは、強力な脱酸作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが望ましいが、0.05%を超える含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Alは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは0.03%以下である。
N:0.06%以下
Nは、耐孔食性を著しく向上させる元素であり、このような効果は、0.01%以上の含有で顕著となる。一方、0.06%を超える含有は、種々の窒化物を形成して靭性を低下させる。このため、Nは0.06%以下に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.03%である。
上記した成分が基本の成分であるが、本発明では、このような基本の組成に加えてさらに、選択元素として、W:0.25〜2.0%、および/または、Nb:0.20%以下、および/または、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.0005〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0005〜0.01%、を必要に応じて、選択して含有してもよい。
W:0.25〜2.0%
Wは、Moと同様に、不動態皮膜を安定化させるとともに、Clによる孔食に対する抵抗性を増加させる作用を有し、耐炭酸ガス腐食性、耐硫化物応力腐食割れ性の両方の向上に寄与する元素である。とくに、Wは、腐食環境下で溶け出し、W酸化物を形成して、腐食の進行を安定して遅延させる。このような効果を得るためには、0.25%以上含有する必要があるが、2.0%を超える多量の含有は、熱間加工性を低下させる。このため、含有する場合には、Wは0.25〜2.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.5〜1.5%である。
Nb:0.20%以下、
Nbは、析出物として析出し、強度増加に寄与するとともに、γ未再結晶温度域を拡大して、熱間圧延による結晶粒の微細化を促進し靭性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.20%を超える含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、含有する場合には、Nbは0.20%以下に限定することが好ましい。より好ましくは0.15%以下である。
Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.0005〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種以上
Ti、Zr、Bはいずれも、強度を増加させるとともに、耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上含有できる。このような効果を得るためには、Ti:0.01%、Zr:0.01%、B:0.0005%以上、それぞれ含有することが望ましいが、Ti:0.3%、Zr:0.2%、B:0.01%をそれぞれ超える含有は、靭性が低下する。このため、含有する場合には、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.0005〜0.01%にそれぞれ限定することが好ましい。なお、より好ましくはTi:0.2%以下、Zr:0.1%以下、B:0.005%以下である。
Ca:0.0005〜0.01%
Ca は、SをCaS として固定し、硫化物系介在物を球状化する作用を有し、これにより介在物周囲のマトリックスの格子歪を小さくして、介在物の水素トラップ能を低下させる効果を有する。このような効果は、0.0005%以上の含有で顕著となるが、0.01%を超える含有は、CaO の増加を招き、耐炭酸ガス腐食性、耐孔食性が低下する。このため、Caは0.0005〜0.01%の範囲に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、O:0.006%以下が許容できる。
つぎに、本発明の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の好ましい組織について説明する。
本発明の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管は、焼戻マルテンサイト相を主体とする。ここでいう「主体」とは、当該相が、面積率で50%以上を有する場合をいうものとする。主体となる相以外の第二相として、面積率で40%以下の残留オーステナイト(γ)と10%以下のフェライト(α)を含んでもよい。フェライト(α)は、不可避的に存在する相で5%以下程度に限定することが好ましい。また、残留γは、面積率で25%以下と、できるだけ低減することが好ましい。残留γの存在は、降伏強さを低下させるため、所望強度の確保を困難とする。
つぎに、本発明の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の好ましい製造方法について説明する。上記した組成を有するステンレス継目無鋼管を出発素材として、焼入れ処理と焼戻処理とを施す。さらに、必要に応じて、鋼管形状の不良を矯正するために矯正処理を施しても良い。
なお、本発明では、上記した組成を有する出発素材の製造方法はとくに限定する必要はないが、上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊−分塊圧延法等、通常の方法でビレット等の鋼管素材とすることが好ましい。ついで、これら鋼管素材を加熱し、通常のマンネスマン−プラグミル方式、あるいはマンネスマン−マンドレルミル方式の製造工程を用いて熱間加工により造管して、所望寸法の継目無鋼管とし、出発素材とすることが好ましい。なお、プレス方式による熱間押出で継目無鋼管を製造してもよい。また、造管後、継目無鋼管は、空冷以上の冷却速度で室温まで冷却することが好ましい。
出発素材(継目無鋼管)は、まず、焼入れ処理を施される。
本発明における焼入れ処理は、Ac3変態点以上の焼入れ温度に再加熱したのち、該焼入れ温度から空冷以上の冷却速度で100℃以下の温度域まで冷却する処理とする。これにより、微細なマルテンサイト組織とすることができる。焼入れ加熱温度が、Ac3変態点未満では、オーステナイト単相域に加熱することができず、その後の冷却で十分なマルテンサイト組織とすることができないため、所望の強度を確保できなくなる。このため、焼入れ処理の加熱温度はAc3変態点以上に限定した。なお、好ましくは950℃以下である。
また、焼入れ加熱温度からの冷却は、空冷またはそれ以上の冷却速度で100℃以下の温度域まで行う。本発明における出発素材は焼入れ性が高いため、空冷程度の冷却速度で100℃以下の温度域まで冷却すれば、十分な焼入れ組織(マルテンサイト組織)を得ることができる。また、焼入れ温度における保持時間は、10min以上とすることが均熱の観点から好ましい。
焼入れ処理を施された継目無鋼管は、引続き、焼戻処理あるいはさらに矯正処理を施される。
本発明では焼戻処理は、優れた低温靭性を確保するうえで重要な処理である。本発明における焼戻処理は、520℃以上好ましくはAc1変態点以下の焼戻温度に加熱し、好ましくは30min以上保持したのち、好ましくは空冷以上の冷却速度で、好ましくは室温まで冷却する処理とする。これにより、YS:655MPa以上862MPa以下の高強度と降伏比:0.90以上の引張特性を有する継目無鋼管となる。
なお、焼戻温度が520℃未満では、その後の矯正温度を焼戻温度以下に低くせざるを得ないため、降伏強さYSのばらつきが生じやすい。一方、焼戻温度がAc1変態点超えでは、オーステナイト相が生成し、冷却時に焼入れマルテンサイトに変態する。焼入れマルテンサイトは多くの可動転を有しているため、焼入れマルテンサイトが生成すると、降伏強さYSが低下する。また、焼戻温度からの冷却は、空冷またはそれ以上の冷却速度とすることが、十分なマルテンサイトを得る観点から好ましい。
また、本発明では、必要に応じて、焼戻処理に引続き、鋼管形状の不良を矯正するために矯正処理を施しても良い。矯正処理は、450℃以上の温度域で行うことが好ましい。矯正処理の温度が450℃未満では、矯正処理時に鋼管に局所的に加工歪が付加され、機械的特性、とくに降伏強さYSのばらつき、が生じやすい。このため、矯正処理を行う場合には、450℃以上の温度域で行うことが好ましい。
上記した製造方法で製造される、継目無鋼管は、上記した組成と好ましくは上記した組織を有し、降伏強さYS:655MPa以上862MPa以下の高強度と降伏比:0.90以上を有する高強度と、さらに油井管として十分な耐食性をも兼備するマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管となる。なお、上記した降伏強さを有して、降伏比が0.90未満では、引張強さが高くなり、耐硫化物応力腐食割れ性が低下するため、所望の耐硫化物応力腐食割れ性を確保するためには、所望の範囲の引張特性を確保することが重要となる。YSが655MPa未満では、油井管用として所望の強度を満足できなくなり、一方、YSが862MPaを超えると、耐硫化物応力腐食割れ性が低下する。
表1に示す組成の溶鋼を十分に脱ガス後、100キロ鋼塊とし、鋼管素材とした。これら鋼管素材を加熱し、研究用モデルシームレス圧延機により、造管したのち、空冷して、継目無鋼管(外径3.3”(83.8mm)φ×肉厚0.5”(12.7mm))とした。
得られた継目無鋼管から、試験材(鋼管)を採取し、該試験材(鋼管)に表2に示す条件で焼入れ処理、焼戻処理を施した。
焼入れ処理および焼戻処理を施された試験材(鋼管)から、API弧状引張試験片を採取し、引張試験を実施し引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
また、焼入れ処理および焼戻処理を施された試験材から、厚さ3mm×幅30mm×長さ40mmの腐食試験片を機械加工によって作製し、炭酸ガス応力腐食試験を、また試験材から、NACE-TM0177のMethod Aの規定に準拠して丸棒引張試験片を採取し、硫化物応力腐食割れ試験を実施した。
炭酸ガス応力腐食試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:20%NaCl水溶液(液温:200℃、COガス分圧:3MPaのCOガス雰囲気)中に、腐食試験片を浸漬して実施した。浸漬期間は2週間(336 hr)とした。腐食試験後の試験片について、重量を測定し、腐食試験前後の重量減から、腐食速度を算出した。また、腐食試験後の試験片について、10倍のルーペで孔食の有無を観察し、孔食なしを○、孔食ありを×とした。さらに、腐食速度:0.1mm/y以下で、かつ孔食なしの場合を、耐炭酸ガス応力腐食性に優れるとして○と評価した。それ以外を、耐炭酸ガス応力腐食性が劣るとして、×と評価した。
硫化物応力腐食割れ試験は、オートクレーブ中に保持された試験液中に丸棒引張試験片を浸漬し、NACE-TM0177のMethod Aの規定に準拠して、YSの90%の応力を負荷し、720hr間保持する試験とした。720hr経過後に破断していない場合を、耐硫化物応力腐食割れ性に優れるとして○と評価した。それ以外は×とした。なお、使用した試験液(液温:75℃)は、20%NaCl水溶液を用い、0.3%の酢酸(CHCOOH)と酢酸ナトリウム(CHCOONa)を添加して、pH:3.5に調整した。なお、試験は、質量%で、10%HSを含み90%COのガスを流す環境下(圧力:1気圧)で行った。
得られた結果を表3に示す。
Figure 0005582307
Figure 0005582307
Figure 0005582307
本発明例はいずれも、油井管として十分な、強度と、優れた耐食性を有している。一方、本発明の範囲から外れる比較例は、強度が不足するか、所望の優れた耐食性を確保できていない。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.01%以下、 Si:0.5%以下、
    Mn:0.1〜2.0%、 P:0.03%以下、
    S:0.005%以下、 Cr:14.0〜15.5%、
    Ni:5.5〜7.0%、 Mo:2.0〜3.5%、
    Cu:0.3〜3.5%、 V:0.20%以下、
    Al:0.05%以下、 N:0.06%以下
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、降伏強さ:655〜862MPaの強度と降伏比:0.90以上を有し、耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力腐食割れ性に優れることを特徴とする油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、W:0.25〜2.0%を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.20%以下を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.0005〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
  5. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.01%を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管。
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