JP4978070B2 - 拡管性に優れる油井用ステンレス鋼管 - Google Patents
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通常の焼入れ焼戻処理を施された13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼菅は、高強度であり、深層油田開発用として要求されるような、十分な拡管性を具備していないという問題があった。このため、油井中の拡管という新技術を適用するためには、耐CO2腐食性、拡管性がともに優れた油井用ステンレス鋼管が強く望まれていた。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0005〜0.01%を含有することを特徴とする油井用ステンレス鋼管。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:3.5%以下を含有することを特徴とする油井用ステンレス鋼管。
C:0.05%以下
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼の強度に関係する重要な元素であり、所望の強度を確保するために、0.005%以上含有することが望ましいが、0.05%を超えて多量に含有すると、Niの含有によって焼戻し時、鋭敏化が起こりやすくなる。このため、Cは0.05%以下に限定した。なお、耐食性の観点からCは少ないほうが望ましいため、好ましくは0.01〜0.03%の範囲である。
Siは、通常の製鋼過程において脱酸剤として有用な元素である。このような効果を得るために0.05%以上含有することが望ましいが、0.50%を超える含有は、耐CO2腐食性を低下させるとともに、熱間加工性をも低下させる。このため、Siは0.50%以下に限定した。
Mn:0.10〜1.80%
Mnは、固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、油井用マルテンサイト系ステンレス鋼管として所望の強度を確保するために0.10%以上の含有を必要とする。一方、1.50%を超える多量の含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.10〜1.80%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.20%〜1.00%である。
Pは、耐CO2腐食性、耐CO2応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性をともに劣化させる元素であり、本発明ではその含有量は可及的に少ないことが望ましいが、極端な低減は製造コストの高騰を招く。そのため、本発明ではPは、工業的に比較的安価に実施可能でかつ耐CO2腐食性、耐CO2応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性を低下させない範囲である、0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.02%以下である。
Sは、パイプ造管過程における熱間加工性を著しく劣化させる元素であり、本発明ではその含有量は可及的に少ないことが望ましいが、極端な低減は製造コストの高騰を招く。そのため、本発明ではSは、通常の工程でのパイプ製造が可能な範囲である0.005%以下に限定した。なお、好ましくは0.003%以下である。
Crは、所望の耐CO2腐食性、耐CO2応力腐食割れ性を保持するために重要な元素であり、本発明が対象としている環境下における耐食性確保の観点からは、14.5%以上の含有を必要とする。一方、18.0%を超える含有は、熱間加工性を低下させる。このため、Crは14.5〜18.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは15.0〜17.5%である。
Niは、保護皮膜を強固にして、耐CO2腐食性、耐CO2応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる作用を有するとともに、鋼の強度を増加させる作用を有する。このような効果を得るためには、2.0%以上の含有を必要とする。一方、7.0%を超える含有は、強度低下を引き起こす。このため、Niは2.0〜7.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは2.5〜4.5%である。
Moは、Cl-による孔食を抑制する作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.5%以上の含有を必要とするが、3.5%を超える含有は、材料コストの高騰を招くとともに、δ−フェライトが発生しやすくなり、耐CO2腐食性、耐CO2応力腐食割れ性および熱間加工性を低下させる。このため、Moは0.5〜3.5%に限定した。なお好ましくは、材料コストの観点から3.0%以下である。
Vは、鋼の強度を増加させるとともに、耐応力腐食割れ性を改善する作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.02%以上含有することが望ましいが、0.20%を超える含有は、靱性を低下させる。このため、Vは0.20%以下に限定した。なお、好ましくは0.03〜0.08%である。
Nは、耐孔食性を著しく向上させる作用を有する元素であり、このような効果を得るためには、0.005%以上含有することが望ましい。一方、0.15%を超える含有は、種々の窒化物を形成して靭性を低下させる。このため、Nは0.15%以下に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.08%である。
Oは、鋼中では各種の酸化物を形成し、熱間加工性、耐CO2応力腐食割れ性、耐孔食性、耐硫化物応力腐食割れ性を著しく低下させるため、本発明鋼の性能を十分に発揮させるために、Oは可及的に低減することが極めて重要となる。しかし、極端なOの低減は精錬コストの高騰を招く。このため本発明ではOは、熱間加工性、耐CO2応力腐食割れ性、耐孔食性、耐硫化物応力腐食割れ性の低下が許容できる範囲である、0.008%以下に限定した。なお、好ましくは0.005%以下である。
Al:0.05%以下
Alは、強力な脱酸剤として作用するとともに、Nと結合し結晶粒を微細化する作用を有する元素である。このような効果を安定して確保するために0.005%以上含有することが望ましいが、0.05%を超える含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Alは0.05%以下に限定した。
Nbは、鋼の強度増加、靱性向上に有効に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果は0.02%以上の含有で顕著となるが、0.20%を超える含有は、靱性を低下させる。このため、Nbは0.20%以下とすることが好ましい。
Ca:0.0005〜0.01%
Caは、SをCaSとして固定しS系介在物を球状化する作用により、介在物の周囲のマトリックスの格子歪を小さくして、水素のトラップ能を下げる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果は0.0005%以上の含有で顕著となるが、0.01%を超える含有は、CaOの増加を招き、耐CO2腐食性、耐孔食性を低下させる。このため、Caは0.0005〜0.01%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.001〜0.005%である。
Cuは、保護皮膜を強固にして鋼中への水素の侵入を抑制し、耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果は0.2%以上の含有で顕著となるが、3.5%を超える含有は、高温で粒界にCuSが析出し、熱間加工性を低下させる。このため、Cuは3.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.5〜2.5%である。
Ti、Zr、B、Wはいずれも、強度を増加させ、耐応力腐食割れ性を改善する作用を有する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上含有できる。このような効果は、Ti:0.01%以上、Zr:0.01%以上、B:0.0005%以上、W:0.1%以上の含有で顕著となる。一方、Ti:0.3%、Zr:0.2%、B:0.01%、W:3.0%、をそれぞれ超える含有は、靱性を劣化させる。このため、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.01%以下、W:3.0%以下にそれぞれ限定することが好ましい。
本発明鋼管は、上記した組成を有し、かつ、焼戻マルテンサイト相とオーステナイト相を主体とし、さらに10体積%以上50体積%未満のフェライト相からなる組織を有する。そして、本発明鋼管では、オーステナイト相を、体積率でオーステナイト相含有量と焼戻マルテンサイト相含有量との比、(オーステナイト相含有量)/(焼戻マルテンサイト相含有量)が1/4以上となるように含む。このような組織とすることにより、拡管性を安定して確保できる。
このようなことから、本発明鋼管の組織を、焼戻マルテンサイト相とオーステナイト相を主体とし、さらに10体積%以上50体積%未満のフェライト相を含み、かつオーステナイト相を、体積率でオーステナイト相含有量と焼戻マルテンサイト相含有量との比が1/4以上となるように含む組織に限定した。
つぎに、本発明鋼管の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の通常の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊−分塊圧延法等の通常の方法でビレット等の鋼管素材とすることが好ましい。ついで、これら鋼管素材を加熱し、通常のマンネスマン−プラグミル方式、あるいはマンネスマン−マンドレルミル方式の製造工程を用いて熱間加工し造管して、所望の寸法の継目無鋼管とする。造管後、継目無鋼管は、通常工程と同様に、空冷程度の冷却速度で150℃以下の温度まで冷却することが好ましい。
さらに、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
次いで各鋼管から試験片素材(長さ300mm)を切り出し、表2に示す条件で、熱処理(焼入れ処理および焼戻処理)を施した。
また、上記した熱処理を施された試験片素材から、APIの規定に準拠して、引張試験片(弧状試験片)を切り出し、APIの規定に準拠して、引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
限界拡管率=[{(亀裂が発生したときのプラグ外径)−(試験片素材内径)}/(試験片素材内径)]×100(%)
なお、使用したプラグの外径は、拡管率が5%刻みとなるように配慮した。
Claims (5)
- mass%で、
C:0.05%以下、 Si:0.50%以下、
Mn:0.10〜1.80%、 P:0.03%以下、
S:0.005%以下、 Cr:14.5〜18.0%、
Ni:2.0〜7.0%、 Mo:0.5〜3.5%、
V:0.20%以下、 N:0.040〜0.15%、
O:0.008%以下、 Al:0.05%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成と、焼戻マルテンサイト相とオーステナイト相を主体とし、かつ該オーステナイト相を、体積率でオーステナイト相含有量と焼戻マルテンサイト相含有量との比、(オーステナイト相含有量)/(焼戻マルテンサイト相含有量)が1/4以上となるように含み、さらに10体積%以上50体積%未満のフェライトを含む組織を有し、降伏強さが654MPa未満であることを特徴とする拡管性に優れた油井用ステンレス鋼管。 - 前記組成に加えてさらに、mass%で、Nb:0.20%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の油井用ステンレス鋼管。
- 前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0005〜0.01%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の油井用ステンレス鋼管。
- 前記組成に加えてさらに、mass%で、Cu:3.5%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の油井用ステンレス鋼管。
- 前記組成に加えてさらに、mass%で、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.01%以下、W:3.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の油井用ステンレス鋼管。
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