従来から、互いに屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい2種類の誘電体薄膜を交互に積層した誘電体多層膜からなる光学フィルタが知られている。ここに、誘電体膜の材料としては、TiO2、SiO2、Ta2O5、Nb2O5、Al2O3、Si3N4、ZrO2、MgF2、CaF2などが挙げられる。
また、図10に示すように、入射光を選択的に透過させる複数種のフィルタ部21,22,23を有する光学フィルタ200を備えた固体撮像装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。ここにおいて、図10に示した構成の固体撮像装置は、n形半導体基板101の一表面側のp形半導体層102において、各フィルタ部21,22,23それぞれに対応する部位に、受光素子1031,1032,1033が形成されており、光学フィルタ200の各フィルタ部21,22,23は、互いに選択波長が異なっている。なお、各フィルタ部21,22,23は、各受光素子1031,1032,1033それぞれの受光面側(図10における上面側)に、光透過性の絶縁層104を介して形成されている。
上述の光学フィルタ200の各フィルタ部21,22,23は、互いに屈折率が異なる誘電体材料により形成され且つ光学膜厚が等しい2種類の薄膜21a,21bが交互に積層された第1のλ/4多層膜21と、第1のλ/4多層膜21におけるn形半導体基板101側とは反対側に形成され上記2種類の薄膜21a,21bが交互に積層された第2のλ/4多層膜22と、第1のλ/4多層膜21と第2のλ/4多層膜22との間に介在し所望の選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜21a,21bの光学膜厚とは異ならせた波長選択層231,232,233とで構成されている。なお、2種類の薄膜21a,21bの材料としては、相対的に屈折率の高い高屈折率材料として、TiO2が採用され、相対的に屈折率の低い低屈折率材料として、SiO2が採用されており、図10に示した例では、n形半導体基板101に最も近い薄膜21aが高屈折率材料により形成され、当該薄膜21a上の薄膜21bが低屈折率材料により形成されている。つまり、図10に示した例では、各フィルタ部21,22,23それぞれの最上層が、高屈折率材料により形成された薄膜21aとなっている。
ここで、フィルタ部21,22,23の透過スペクトルについて図11(a),(b)に基づいて説明する。
図11(a)の左側に示すように、屈折率の異なる2種類の薄膜21a,21bを周期的に積層した積層膜(厚み方向のみに屈折率周期構造を有する1次元フォトニック結晶)は、図11(a)の右側に示す透過スペクトルに示したように特定の波長帯の光のみを選択的に反射することが可能となるので、金属膜を利用した反射ミラーに比べて高反射率が要求される高反射ミラー(例えば、レーザ用の高反射ミラー)などに広く使用されている。この図11(a)の左側の構成では、各薄膜21a,21bの膜厚および積層数を適宜設定することにより、反射率と反射帯域幅とを調整することができ、反射帯域幅を広くするのは比較的容易であるが、特定の選択波長の光のみを透過させることは設計上難しい。
これに対して、上述のフィルタ部21,22,23は、図11(b)の左側に示すように、屈折率周期構造の中に光学膜厚の異なる波長選択層23(231,232,233)を設けて屈折率周期構造に局所的な乱れを導入することにより、図11(b)の右側に示す透過スペクトルのように反射帯域の中に反射帯域幅に比べてスペクトル幅の狭い透過帯域を局在させることができ、波長選択層23の光学膜厚を適宜変化させることによって、当該透過帯域の透過ピーク波長を変化させることができる。なお、図11(b)の左側では、波長選択層23を当該波長選択層23に接する薄膜21aの波長選択層23側とは反対側の薄膜21bと同じ材料により形成した例を示してあり、当該波長選択層23の膜厚(物理膜厚)tを変化させることにより、図11(b)の右側の透過スペクトル中に矢印で示したように透過ピーク波長を変化させることができる。
ここで、波長選択層23の光学膜厚を変調することによって透過ピーク波長の移動可能な範囲は、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の反射帯域幅に依存し、この反射帯域幅が広いほど透過ピーク波長の移動可能な範囲も広くなる。ここにおいて、上述の高屈折率材料の屈折率をnH、低屈折率材料の屈折率をnL、各薄膜21a、21bに共通する光学膜厚の4倍に相当する設定波長をλ0、反射帯域幅をΔλとすれば、反射帯域幅Δλは、下記の式(1)を用いて近似的に求められることが知られている(参考文献:小檜山光信著,「光学薄膜フィルター」,株式会社オプトロニクス社,p.102−106)。
この式(1)から、反射帯域幅Δλは、低屈折率材料および高屈折率材料それぞれの屈折率nH,nLに依存していることが分かり、当該反射帯域幅Δλを広くするには、屈折率比nH/nLの値を大きくすること、つまり、高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくすることが重要である。なお、反射帯域は、図12に示すように入射光の波長の逆数である波数を横軸、透過率を縦軸とした透過スペクトル図において、1/λ0を中心として対称となる。
ここで、図10に示した固体撮像装置における光学フィルタ200は、可視光用のフィルタであり、高屈折率材料と低屈折率材料との組み合わせとして、可視光域において吸収がなく透明性の極めて高い酸化物の組み合わせのうち、最も屈折率差を大きくすることができるTiO2とSiO2との組み合わせが代表例として例示されている。なお、図10に示した構成の光学フィルタ200の製造方法においては、各薄膜21a,21bおよび波長選択層231,232,233の成膜方法としてRFスパッタ装置を用いたスパッタ法を採用しており、波長選択層231,232のパターン形成方法としてエッチングやリフトオフを利用した形成方法が記載されている。
また、従来から、赤外線検出素子および赤外線光学フィルタを利用して各種ガスや炎のセンシングを行う技術が知られている(例えば、特許文献2〜6)。
ここにおいて、上記特許文献3には、面内の位置により異なる選択波長の赤外線を透過する赤外線光学フィルタとして、図13に示すように、赤外領域で透明な低屈折材料により形成された薄膜21bと赤外領域で透明な高屈折率材料により形成された薄膜21aとが交互に積層された積層構造の途中に、高屈折率材料により形成された波長選択層(スペーサ層)23’を有し、当該波長選択層23’の膜厚を面内方向(図13における左右方向)において連続的に変化させてある多波長選択フィルタが提案されている。なお、図13に示した構成の赤外線光学フィルタは、上記積層構造の下地となる基板1’としてSi基板を用い、対象ガスであるCO2の吸収波長である4.25μmの赤外線と、各種ガスによる吸収のない参照光の波長として設定した3.8μmの赤外線とを互いに異なる位置で透過できるように、波長選択層23’の膜厚を面内方向において連続的に変化させてある。
また、特許文献5,6には、Si基板などを用いて形成され所望の波長の赤外線を透過させる狭帯域のバンドパスフィルタと、サファイア基板を用いて形成され遠赤外線を遮光する遮光フィルタとを組み合わせて用いることが記載されており、当該遮光フィルタを設けることで、太陽光や照明光などの外乱光の遠赤外線を遮断することができる。
ところで、図13に示した構成の赤外線光学フィルタにおいて、遠赤外線を遮断するには、上記特許文献5,6と同様に、当該光学フィルタ200とは別途に遠赤外線を遮断するためのサファイア基板からなる遮光フィルタを設ける必要があり、コストが高くなってしまう。また、図13に示した構成の赤外線光学フィルタでは、波長選択層23’の膜厚を面内方向で連続的に変化させているが、製造時に再現性良く且つ安定性良く膜厚を変化させることが難しく、しかも、波長選択層23’の膜厚が連続的に変化していることにより、選択波長の赤外線に対する透過帯域の狭帯域化が難しく、フィルタ性能の低下の原因となってしまうので、赤外線検出素子を利用するガスセンサ、炎検知センサなどの高性能化および低コスト化が難しい。
また、図10に示した構成の光学フィルタ200を赤外線光学フィルタとして用いるために、高屈折率材料としてGe、低屈折率材料としてZnSを採用することが考えられる。しかしながら、この場合においても、遠赤外線を遮断するには、上記特許文献5,6と同様に、当該光学フィルタ200とは別途に遠赤外線を遮断するためのサファイア基板からなる遮光フィルタを設ける必要があり、コストが高くなってしまう。
また、図10に示した構成の光学フィルタ200を赤外線光学フィルタとして用いるために、高屈折率材料としてGe、低屈折率材料としてZnSを採用した場合、サファイア基板からなる遮光フィルタを用いずに遠赤外線遮断機能を発現させるためには、第1のλ/4多層膜21と第2のλ/4多層膜22とを合わせた薄膜21a,21bの積層数が70層以上となり、製造コストが高くなってしまうとともに、フィルタ部21,22,23にクラックが発生してしまう恐れがある。
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタおよびその製造方法を提供することにある。
請求項1の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、前記複数種類の薄膜のうち少なくとも1種類の薄膜が第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料により形成されてなり、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるSiにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなり、遠赤外線吸収材料は、Al2O3であり、フィルタ部を複数備え、各フィルタ部ごとに前記波長選択層の光学膜厚が異なり、複数のフィルタ部で反射帯域が同じであり且つ反射帯域が3.1μm〜5.5μmの赤外領域を含んでいることを特徴とする。
この発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を低コストで実現することが可能となるので、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを実現できる。また、この発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるSiにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなるので、高屈折率材料がZnSである場合に比べて、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜における高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくすることができ、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜の積層数を低減できる。また、この発明によれば、遠赤外線吸収材料は、Al2O3であるので、遠赤外線吸収材料がSiOxやSiNxである場合に比べて、遠赤外線の吸収性を向上させることができる。また、この発明によれば、フィルタ部を複数備え、各フィルタ部ごとに前記波長選択層の光学膜厚が異なるので、複数の前記選択波長の赤外線を選択的に透過させることができる。
本願の別の第1の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、前記複数種類の薄膜のうち少なくとも1種類の薄膜が第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料により形成されてなり、遠赤外線吸収材料は、酸化物もしくは窒化物であることを特徴とする。
上記別の第1の発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を低コストで実現することが可能となるので、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを実現できる。また、上記別の第1の発明によれば、遠赤外線吸収材料は、酸化物もしくは窒化物であるので、複数種類の薄膜のうち遠赤外線吸収材料からなる薄膜が酸化して光学特性が変化するのを防止することができ、また、遠赤外線吸収材料からなる薄膜を蒸着法やスパッタ法などの一般的な薄膜形成方法により成膜することができ、低コスト化を図れる。
本願の別の第2の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、前記複数種類の薄膜のうち少なくとも1種類の薄膜が第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料により形成されてなり、遠赤外線吸収材料は、Ta2O5であることを特徴とする。
上記別の第2の発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を低コストで実現することが可能となるので、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを実現できる。また、上記別の第2の発明によれば、遠赤外線吸収材料は、Ta 2 O 5 であるので、遠赤外線吸収材料がSiOxやSiNxである場合に比べて、遠赤外線の吸収性を向上させることができる。
本願の別の第3の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、前記複数種類の薄膜のうち少なくとも1種類の薄膜が第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料により形成されてなり、遠赤外線吸収材料は、SiNxであることを特徴とする。
上記別の第3の発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を低コストで実現することが可能となるので、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを実現できる。また、上記別の第3の発明によれば、遠赤外線吸収材料は、SiN x であるので、遠赤外線吸収材料により形成される薄膜の耐湿性を高めることができる。
本願の別の第4の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、前記複数種類の薄膜のうち少なくとも1種類の薄膜が第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料により形成されてなり、遠赤外線吸収材料は、SiOxであることを特徴とする。
上記別の第4の発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を低コストで実現することが可能となるので、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを実現できる。また、上記別の第4の発明によれば、遠赤外線吸収材料は、SiO x であるので、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜において、屈折率差を大きくすることができ、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜の積層数の低減を図れる。
本願の別の第5の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、前記複数種類の薄膜のうち少なくとも1種類の薄膜が第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料により形成されてなり、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるGeにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなることを特徴とする。
上記別の第5の発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を低コストで実現することが可能となるので、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを実現できる。また、上記別の第5の発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるGeにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなるので、高屈折率材料がZnSである場合に比べて、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜における高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくすることができ、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜の積層数を低減できる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記基板は、Si基板であることを特徴とする。
この発明によれば、前記基板がGe基板、ZnS基板、サファイア基板などである場合に比べて低コスト化を図れる。
請求項3の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜におけるSi基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収材料での遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるSiにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなり、遠赤外線吸収材料は、Al2O3であり、フィルタ部を複数備え、各フィルタ部ごとに前記波長選択層の光学膜厚が異なり、複数のフィルタ部で反射帯域が同じであり且つ反射帯域が3.1μm〜5.5μmの赤外領域を含んでいることを特徴とする。
この発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を低コストで実現することが可能となるので、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを実現できる。また、この発明によれば、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるSiにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなるので、高屈折率材料がZnSである場合に比べて、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜における高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくすることができ、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜の積層数を低減できる。また、この発明によれば、遠赤外線吸収材料は、Al2O3であるので、遠赤外線吸収材料がSiOxやSiNxである場合に比べて、遠赤外線の吸収性を向上させることができる。また、この発明によれば、フィルタ部を複数備え、各フィルタ部ごとに前記波長選択層の光学膜厚が異なるので、複数の前記選択波長の赤外線を選択的に透過させることができる。
本願の別の第6の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、前記複数種類の薄膜のうち少なくとも1種類の薄膜が第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料により形成されてなり、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるSiにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなり、遠赤外線吸収材料は、Al 2 O 3 である、赤外線光学フィルタの製造方法であって、前記遠赤外線吸収材料からなる前記薄膜の成膜にあたっては、イオンビームアシスト蒸着法により成膜することを特徴とする。
本願の別の第7の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜におけるSi基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収材料での遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるSiにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなり、遠赤外線吸収材料は、Al 2 O 3 である、赤外線光学フィルタの製造方法であって、前記遠赤外線吸収材料からなる前記薄膜の成膜にあたっては、イオンビームアシスト蒸着法により成膜することを特徴とする。
上記別の第6、7の発明によれば、前記遠赤外線吸収材料からなる前記薄膜の化学的組成を精密に制御できるとともに、前記薄膜の緻密性を高めることができ、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを提供できる。
本願の別の第8の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜におけるSi基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収材料での遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるSiにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなり、遠赤外線吸収材料は、Al 2 O 3 であり、フィルタ部を複数備え、各フィルタ部ごとに前記波長選択層の光学膜厚が異なる、赤外線光学フィルタの製造方法であって、基板の一表面側に前記複数種類の薄膜を積層する基本工程の途中で、当該途中における積層膜の上から2番目の層と同じ材料からなる薄膜であって各フィルタ部のうちの任意の1つのフィルタ部の選択波長に応じて光学膜厚を設定した薄膜を前記積層膜上に成膜し、前記積層膜上に成膜した薄膜のうち前記任意の1つのフィルタ部に対応する部分以外の部分をエッチングすることで少なくとも1つの波長選択層のパターンを形成することを特徴とする。
上記別の第8の発明によれば、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、複数の所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを提供できる。
本願の別の第9の発明は、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜におけるSi基板側とは反対側に形成され前記複数種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜を構成する薄膜の遠赤外線吸収材料での遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜は、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるSiにより形成された薄膜と遠赤外線吸収材料により形成された薄膜とが交互に積層されてなり、遠赤外線吸収材料は、Al 2 O 3 であり、フィルタ部を複数備え、各フィルタ部ごとに前記波長選択層の光学膜厚が異なる、赤外線光学フィルタの製造方法であって、基板の一表面側に第1のλ/4多層膜を形成する第1のλ/4多層膜形成工程と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に第2のλ/4多層膜を形成する第2のλ/4多層膜形成工程との間で、各フィルタ部に対応する各部位それぞれに互いに光学膜厚の異なる波長選択層をマスク蒸着により形成することを特徴とする。
上記別の第9の発明によれば、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、複数の所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを提供できる。
請求項4の発明は、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい2種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に形成され前記2種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、前記2種類の薄膜のうちの一方の薄膜が第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料であるSiOxもしくはSiNxにより形成され、前記2種類の薄膜のうちの他方の薄膜がSiにより形成されてなる赤外線光学フィルタの製造方法であって、Siを蒸発源とするイオンビームアシスト蒸着装置を用い、Siからなる薄膜を成膜するときは真空雰囲気とし、SiOxからなる薄膜を成膜するときは酸素イオンビームを照射し、SiNxからなる薄膜を成膜するときは窒素イオンビームを照射することを特徴とする。
この発明によれば、2種類の薄膜の蒸発源を共通化することができ、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、複数の所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを提供できる。
本願の別の第10の発明は、基板と、当該基板の一表面側に形成され所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させるフィルタ部とを備え、フィルタ部は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい2種類の薄膜が積層された第1のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜における基板側とは反対側に形成され前記2種類の薄膜が積層された第2のλ/4多層膜と、第1のλ/4多層膜と第2のλ/4多層膜との間に介在し前記選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜の光学膜厚とは異ならせた波長選択層とを備え、前記2種類の薄膜のうちの一方の薄膜が第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料であるSiOxもしくはSiNxにより形成され、前記2種類の薄膜のうちの他方の薄膜がSiにより形成されてなる赤外線光学フィルタの製造方法であって、Siをターゲットとするスパッタ装置を用い、Siからなる薄膜を成膜するときは真空雰囲気とし、SiOxからなる薄膜を成膜するときは酸素雰囲気とし、SiNxからなる薄膜を成膜するときは窒素雰囲気とすることを特徴とする。
上記別の第10の発明によれば、2種類の薄膜のターゲットを共通化でき、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、複数の所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを提供できる。
請求項1,3の発明は、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタという効果がある。
請求項4の発明は、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを提供できるという効果がある。
本実施形態の赤外線光学フィルタは、800nm〜20000nmの波長域の赤外線を制御する赤外線光学フィルタであって、図1に示すように、基板1と、基板1の一表面側で並設された複数(ここでは、2つ)のフィルタ部21,22とを備え、各フィルタ部21,22は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類(ここでは、2種類)の薄膜21b,21aが積層された第1のλ/4多層膜21と、第1のλ/4多層膜21における基板1側とは反対側に形成され上記複数種類の薄膜21a,21bが積層された第2のλ/4多層膜22と、第1のλ/4多層膜21と第2のλ/4多層膜22との間に介在し所望の選択波長に応じて光学膜厚を各薄膜21a,21bの光学膜厚とは異ならせた波長選択層231,232とを備えている。
基板1の材料としては、赤外線透過材料であるSiを採用している(つまり、基板1としてSi基板を用いている)が、赤外線透過材料は、Siに限らず、例えば、GeやZnSなどを採用してもよい。なお、本実施形態では、フィルタ部21,22の平面形状を数mm□の正方形状とし、基板1の平面形状を長方形状の形状としてあるが、これらの平面形状や寸法は特に限定するものではない。
ところで、本実施形態の赤外線光学フィルタは、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22における低屈折率層である薄膜21bの材料(低屈折率材料)として遠赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料の一種であるAl2O3を採用し、高屈折率層である薄膜21aの材料(高屈折率材料)としてGeを採用しており、波長選択層231,232の材料を当該波長選択層231,232直下の第1のλ/4多層膜21の上から2番目の薄膜21b,21aの材料と同じ材料とし、第2のλ/4多層膜22のうち基板1から最も遠い薄膜21b,21bが上述の低屈折率材料により形成されている。ここで、遠赤外線吸収材料としては、Al2O3に限らず、Al2O3以外の酸化物であるSiO2や、Ta2O5を採用してもよく、SiO2の方がAl2O3よりも屈折率が低いので、高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくできる。
ところで、例えば住宅内などで発生する可能性のある各種ガスや炎を検知(センシング)するための特定波長は、CH4(メタン)が3.3μm、SO3(三酸化硫黄)が4.0μm、CO2(二酸化炭素)が4.3μm、CO(一酸化炭素)が4.7μm、NO(一酸化窒素)が5.3μm、炎が4.3μmであり、ここに列挙した全ての特定波長を選択的に検知するためには、3.1μm〜5.5μm程度の赤外領域に反射帯域を有する必要があって、2.4μm以上の反射帯域幅Δλが必要不可欠である。
ここにおいて、本実施形態では、波長選択層231,232の各光学膜厚を適宜設定することによって上述の各種ガスおよび炎の検出が可能となるように、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の設定波長λ0を4.0μmとしている。また、各薄膜21a,21bの物理膜厚は、薄膜21aの材料である高屈折率材料の屈折率をnH、薄膜21bの材料である低屈折率材料の屈折率nLとすると、それぞれλ0/4nH、λ0/4nLとなるように設定してある。具体的には、高屈折率材料がGe、低屈折率材料がAl2O3の場合、nH=4.0、nL=1.7として、高屈折率材料により形成する薄膜21aの物理膜厚を250nmに設定し、低屈折率材料により形成する薄膜21bの物理膜厚を588nmに設定してある。
ここで、Si基板からなる基板1の一表面側に低屈折率材料からなる薄膜21bと高屈折率材料からなる薄膜21aとを交互に積層したλ/4多層膜の積層数を21とし、各薄膜21a,21bでの吸収がない(つまり、各薄膜21a,21bの消衰係数を0)と仮定して、設定波長λ0を4μmとした場合の透過スペクトルのシミュレーション結果を図2に示す。
図2は、横軸が入射光(赤外線)の波長、縦軸が透過率であり、同図中の「イ」は高屈折率材料をGe(nH=4.0)、低屈折率材料をAl2O3(nL=1.7)とした場合の透過スペクトルを、同図中の「ロ」は高屈折率材料をGe(nH=4.0)、低屈折率材料をSiO2(nL=1.5)とした場合の透過スペクトルを、同図中の「ハ」は高屈折率材料をGe(nH=4.0)、低屈折率材料をZnS(nL=2.3)とした場合の透過スペクトルを、それぞれ示している。
また、図3に、高屈折率材料をGeとして、低屈折率材料の屈折率を変化させた場合の反射帯域幅Δλをシミュレーションした結果を示す。なお、図3中の「イ」、「ロ」、「ハ」は、それぞれ図2中の「イ」、「ロ」、「ハ」の点に対応している。
図2および図3から、高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差が大きくなるにつれて反射帯域幅Δλが増大することが分かり、高屈折率材料がGeの場合には、低屈折率材料としてAl2O3もしくはSiO2を採用することにより、少なくとも3.1μm〜5.5μmの赤外領域の反射帯域を確保できるとともに、反射帯域幅Δλを2.4μm以上とできることが分かる。
次に、図4に示すように、第1のλ/4多層膜21の積層数を4、第2のλ/多層膜22の積層数を6として、薄膜21aの高屈折率材料をGe、薄膜21bの低屈折率材料をAl2O3、第1のλ/4多層膜21と第2のλ/4多層膜22との間に介在させる波長選択層23の材料を低屈折率材料であるAl2O3とし、当該波長選択層23の光学膜厚を0nm〜1600nmの範囲で種々変化させた場合の透過スペクトルについてシミュレーションした結果を図5および図6に示す。ここで、図4中の矢印A1は入射光、矢印A2は透過光、矢印A3は反射光をそれぞれ示している。また、波長選択層23の光学膜厚は、当該波長選択層23の材料の屈折率をn、当該波長選択層23の物理膜厚をdとすると、屈折率nと物理膜厚dとの積、つまり、ndで求められる。なお、このシミュレーションにおいても、各薄膜21a,21bでの吸収がない(つまり、各薄膜21a,21bの消衰係数を0)と仮定して、設定波長λ0を4μm、薄膜21aの物理膜厚を250nm、薄膜21bの物理膜厚を588nmとした。
図5および図6から、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22により、3μm〜6μmの赤外領域に反射帯域が形成されていることが分かるとともに、波長選択層23の光学膜厚ndを適宜設定することにより、3μm〜6μmの反射帯域の中に狭帯域の透過帯域が局在していることが分かる。具体的には、波長選択層23の光学膜厚ndを0nm〜1600nmの範囲で変化させることにより、透過ピーク波長を3.1μm〜5.5μmの範囲で連続的に変化させることが可能であることが分かる。より具体的には、波長選択層23の光学膜厚ndを、1390nm、0nm、95nm、235nm、495nmと変化させれば、透過ピーク波長がそれぞれ、3.3μm、4.0μm、4.3μm、4.7μm、5.3μmとなる。
したがって、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の設計を変えることなく波長選択層23の光学膜厚の設計のみを適宜変えることにより、特定波長が3.3μmのCH4、特定波長が4.0μmのSO3、特定波長が4.3μmのCO2、特定波長が4.7μmのCO、特定波長が5.3μmのNOなどの種々のガスや、特定波長が4.3μmの炎のセンシングが可能となる。なお、光学膜厚ndの0nm〜1600nmの範囲は、物理膜厚dの0nm〜941nmの範囲に相当する。また、波長選択層23の光学膜厚ndが0nmの場合、つまり、図5において波長選択層23がない場合の透過ピーク波長が4000nmとなるのは、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の設定波長λ0を4μm(4000nm)に設定しているからであり、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の設定波長λ0を適宜変化させることにより、波長選択層23がない場合の透過ピーク波長を変化させることができる。
ところで、薄膜21bの低屈折率材料として、第1のλ/4多層膜および第2のλ/4多層膜により設定される赤外線の反射帯域よりも長波長域の赤外線を吸収する遠赤外線吸収材料であるAl2O3を採用しているが、遠赤外線吸収材料としては、MgF2、Al2O3、SiOx、Ta2O5、SiNxの5種類について検討した。具体的には、MgF2膜、Al2O3膜、SiOx膜、Ta2O5膜、SiNx膜それぞれについて膜厚を1μmに設定してSi基板上に成膜する際の成膜条件を下記表1のように設定し、MgF2膜、Al2O3膜、SiOx膜、Ta2O5膜、SiNx膜それぞれの透過スペクトルを測定した結果を図7に示す。ここで、MgF2膜、Al2O3膜、SiOx膜、Ta2O5膜、SiNx膜の成膜装置としては、イオンビームアシスト蒸着装置を用いた。
ここにおいて、表1中の「IB条件」は、イオンビームアシスト蒸着装置で成膜する際のイオンビームアシストの条件であり、「IBなし」は、イオンビームの照射なし、「酸素IB」は、酸素イオンビームの照射あり、「ArIB」は、アルゴンイオンビームの照射あり、を意味している。また、図7は、横軸が波長、縦軸が透過率であり、同図中の「イ」がAl2O3膜、「ロ」がTa2O5膜、「ハ」がSiOx膜、「ニ」がSiNx膜、「ホ」がMgF2膜、それぞれの透過スペクトルを示している。
また、上述のMgF2膜、Al2O3膜、SiOx膜、Ta2O5膜、SiNx膜について、「光学特性:吸収」、「屈折率」、「成膜容易性」を評価項目として、検討した結果を下記表2に示す。
ここにおいて、「光学特性:吸収」の評価項目については、図7の透過スペクトルから算出した6μm以上の遠赤外線の吸収率により評価した。表2では、各評価項目それぞれについて、評価の高いランクから低いランクの順に「◎」、「○」、「△」、「×」を記載してある。ここで、「光学特性:吸収」の評価項目については、遠赤外線の吸収率が高い方が評価のランクを高く、遠赤外線の吸収率が低い方を評価のランクを低くしてある。また、「屈折率」の評価項目については、高屈折率材料との屈折率差を大きくする観点から、屈折率が低い方が評価のランクを高く、屈折率が高い方が評価のランクを低くしてある。また、「成膜容易性」の評価項目については、蒸着法もしくはスパッタ法により緻密な膜の得やすい方が評価のランクを高く、緻密な膜の得にくい方が評価のランクを低くしてある。ただし、各評価項目について、SiOxはSiO2として、SiNxはSi3N4として評価した結果である。
表2より、MgF2、Al2O3、SiOx、Ta2O5、SiNxの5種類に関して、「成膜容易性」の評価項目については大差がなく、「光学特性:吸収」および「屈折率」の評価項目に着目した結果、遠赤外線吸収材料としては、Al2O3、SiOx、Ta2O5、SiNxのいずれかを採用することが好ましいとの結論に至った。ここにおいて、遠赤外線吸収材料としてAl2O3もしくはT2O5を採用する場合には、遠赤外線吸収材料がSiOxやSiNxである場合に比べて、遠赤外線の吸収性を向上させることができる。ただし、高屈折率材料との屈折率差を大きくするという観点からは、T2O5よりもAl2O3の方が好ましい。また、遠赤外線吸収材料としてSiNxを採用する場合には、遠赤外線吸収材料により形成される薄膜21bの耐湿性を高めることができる。また、遠赤外線吸収材料としてSiOxを採用すれば、高屈折率材料との屈折率差を大きくすることができ、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の積層数の低減を図れる。
以下、本実施形態の赤外線光学フィルタの製造方法について図8を参照しながら説明する。
まず、Si基板からなる基板1の一表面側の全面に、低屈折率材料であるAl2O3からなる所定の物理膜厚(ここでは、588nm)の薄膜21bと高屈折率材料であるGeからなる所定の物理膜厚(ここでは、250nm)の薄膜21aとを交互に積層することで第1のλ/4多層膜21を形成する第1のλ/4多層膜形成工程を行い、続いて、基板1の上記一表面側(ここでは、第1のλ/4多層膜21の表面)側の全面に、第1のλ/4多層膜21の上から2番目に位置する薄膜21bと同じ材料(ここでは、低屈折率材料であるAl2O3)からなり1つのフィルタ部21の選択波長に応じて光学膜厚を設定した波長選択層231を成膜する波長選択層成膜工程を行うことによって、図8(a)に示す構造を得る。なお、各薄膜21b,21aおよび波長選択層231の成膜方法としては、例えば、蒸着法やスパッタ法などを採用すれば2種類の薄膜21b,21aを連続的に成膜することができるが、低屈折率材料が上述のようにAl2O3の場合には、イオンビームアシスト蒸着法を採用し、薄膜21bの成膜時に酸素イオンビームを照射するようにして薄膜21bの緻密性を高めることが好ましい。なお、低屈折率材料としては、Al2O3以外の遠赤外線吸収材料であるSiOx、T2O5、SiNxを採用してもよい。いずれにしても、遠赤外線吸収材料からなる薄膜21bの成膜にあたっては、イオンビームアシスト蒸着法により成膜することが望ましく、低屈折率材料からなる薄膜21bの化学的組成を精密に制御できるとともに、薄膜21bの緻密性を高めることができる。
上述の波長選択層成膜工程の後、フィルタ部21に対応する部位のみを覆うレジスト層31をフォトリソグラフィ技術を利用して形成するレジスト層形成工程を行うことによって、図8(b)に示す構造を得る。
その後、レジスト層31をマスクとし、第1のλ/4多層膜21の一番上の薄膜21aをエッチングストッパ層として波長選択層231の不要部分を選択的にエッチングする波長選択層パターニング工程を行うことによって、図8(c)に示す構造を得る。ここで、波長選択層パターニング工程では、上述のように低屈折率材料が酸化物(Al2O3)、高屈折率材料が半導体材料(Ge)であれば、エッチング液としてフッ酸系溶液を用いたウェットエッチングを採用することにより、ドライエッチングを採用する場合に比べて、エッチング選択比の高いエッチングが可能となる。これは、Al2O3やSiO2のような酸化物はフッ酸系溶液に溶解しやすいのに対して、Geはフッ酸系溶液に非常に溶けにくいためである。一例を挙げれば、フッ酸系溶液としてフッ酸(HF)と純水(H2O)との混合液からなる希フッ酸(例えば、フッ酸の濃度が2%の希フッ酸)を用いてウェットエッチングを行えば、Al2O3のエッチングレートが300nm/min程度で、Al2O3とGeとのエッチングレート比が500:1程度であり、エッチング選択比の高いエッチングを行うことができる。
上述の波長選択層パターニング工程の後、レジスト層31を除去するレジスト層除去工程を行うことによって、図8(d)に示す構造を得る。
上述のレジスト層除去工程の後、基板1の一表面側の全面に、高屈折率材料であるGeからなる所定の物理膜厚(250nm)の薄膜21aと低屈折率材料であるAl2O3からなる所定の物理膜厚(588nm)の薄膜21bとを交互に積層することで第2のλ/4多層膜22を形成する第2のλ/4多層膜形成工程を行うことによって、図8(e)に示す構造の赤外線光学フィルタを得る。ここにおいて、第2のλ/4多層膜形成工程を行うことによって、フィルタ部22に対応する領域では、第1のλ/4多層膜21の最上層の薄膜21a上に直接、第2のλ/4多層膜22の最下層の薄膜21aが積層されることとなり、当該最上層の薄膜21aと当該最下層の薄膜21aとでフィルタ部22の波長選択層232を構成している。ただし、このフィルタ部22の透過スペクトルは、図6のシミュレーション結果では、光学膜厚ndが0nmの場合に相当する。なお、各薄膜21a,21bの成膜方法としては、例えば、蒸着法やスパッタ法などを採用すれば2種類の薄膜21a,21bを連続的に成膜することができるが、低屈折率材料が上述のようにAl2O3の場合には、イオンビームアシスト蒸着法を採用し、薄膜21bの成膜時に酸素イオンビームを照射するようにして薄膜21bの緻密性を高めることが好ましい。
要するに、本実施形態の赤外線光学フィルタの製造方法にあたっては、基板1の上記一表面側に屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい複数種類(ここでは、2種類)の薄膜21b,21aを積層する基本工程の途中で、当該途中における積層膜(ここでは、第1のλ/4多層膜21)の上から2番目の層と同じ材料からなる波長選択層23i(ここでは、i=1)であって複数のフィルタ部21,・・・,2m(ここでは、m=2)のうちの任意の1つのフィルタ部2i(ここでは、i=1)の選択波長に応じて光学膜厚を設定した波長選択層23iを上記積層膜上に成膜する波長選択層成膜工程と、波長選択層成膜工程にて成膜した波長選択層23のうち上記任意の1つのフィルタ部2iに対応する部分以外の不要部分を上記積層膜の1番上の層をエッチングストッパ層としてエッチングする波長選択層パターニング工程とからなる波長選択層形成工程を1回行っており、複数のフィルタ部21,22が形成される。ここで、上述の基本工程の途中で、波長選択層形成工程を複数回行うようにすれば、より多くの選択波長を有する赤外線光学フィルタを製造することができ、上述の全てのガスをセンシングする赤外線光学フィルタを1チップで実現することもできる。
また、上述の製造方法においては、基板1の上記一表面側に複数種類の薄膜21a,21bを積層する基本工程の途中で、当該途中における積層膜(ここでは、第1のλ/4多層膜21)の上から2番目の層と同じ材料からなる薄膜であって各フィルタ部21,・・・,2m(ここでは、m=2)のうちの任意の1つのフィルタ部2i(ここでは、i=1)の選択波長に応じて光学膜厚を設定した薄膜を上記積層膜上に成膜し、上記積層膜上に成膜した薄膜のうち上記任意の1つのフィルタ部2i(ここでは、i=1)に対応する部分以外の部分をエッチングすることで少なくとも1つの波長選択層231のパターンを形成しているが、少なくとも1つの波長選択層231のパターンを形成すればよく、例えば、波長選択層232が、波長選択層231と同じ材料であり且つ波長選択層231よりも光学膜厚が小さく設定されている場合には、上記積層膜上の薄膜を途中までエッチングすることで2つの波長選択層231,232のパターンを形成するようにしてもよい。
また、上述の製造方法に限らず、基板1の上記一表面側に第1のλ/4多層膜21を形成する第1のλ/4多層膜形成工程と、第1のλ/4多層膜における基板1側とは反対側に第2のλ/4多層膜22を形成する第2のλ/4多層膜形成工程との間で、各フィルタ部21,・・・,2m(ここでは、m=2)に対応する各部位それぞれに互いに光学膜厚の異なる波長選択層231,・・・,23m(ここでは、m=2)をマスク蒸着により形成するようにしてもよい。
また、上述の製造方法において、上述の2種類の薄膜21a,21bのうち一方の薄膜21bの遠赤外線吸収材料がSiOxもしくはSiNxであり、他方の薄膜21aがSiである場合には、Siを蒸発源とするイオンビームアシスト蒸着装置を用い、Siからなる薄膜21aを成膜するときは真空雰囲気とし、酸化物であるSiOxからなる薄膜21bを成膜するときは酸素イオンビームを照射し、窒化物であるSiNxからなる薄膜21bを成膜するときは窒素イオンビームを照射するようにすれば、2種類の薄膜21a,21bの蒸発源を共通化することができるので、複数の蒸発源を備えたイオンビームアシスト蒸着装置を用意する必要がなく、製造コストの低コスト化を図れる。同様に、上述の製造方法において、上述の2種類の薄膜21a,21bのうち一方の薄膜21bの遠赤外線吸収材料がSiOxもしくはSiNxであり、他方の薄膜21aがSiである場合、Siをターゲットとするスパッタ装置を用い、Siからなる薄膜21aを成膜するときは真空雰囲気とし、SiOxからなる薄膜21bを成膜するときは酸素雰囲気とし、SiNxからなる薄膜21bを成膜するときは窒素雰囲気とするようにすれば、2種類の薄膜21a,21bのターゲットを共通化することができるので、複数のターゲットを備えたスパッタ装置を用意する必要がなく、製造コストの低コスト化を図れる。
以上説明した本実施形態の赤外線光学フィルタによれば、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22を構成する薄膜の遠赤外線吸収材料での遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有するから、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22による光の干渉効果と、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22を構成する薄膜21bの遠赤外線吸収効果とにより、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を低コストで実現することが可能となるので、近赤外線から遠赤外線までの広帯域における赤外線遮断機能を有し、且つ、所望の選択波長の赤外線を選択的に透過させることが可能な低コストの赤外線光学フィルタを実現できる。また、本実施形態の赤外線光学フィルタでは、薄膜21bの材料である遠赤外線吸収材料として、酸化物もしくは窒化物を採用しているので、複数種類の薄膜21a,21bのうち遠赤外線吸収材料からなる薄膜21bが酸化して光学特性が変化するのを防止することができ、また、遠赤外線吸収材料からなる薄膜21bを蒸着法やスパッタ法などの一般的な薄膜形成方法により成膜することができ、低コスト化を図れる。
また、本実施形態の赤外線光学フィルタでは、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22が、遠赤外線吸収材料よりも高屈折率材料であるGeにより形成された薄膜21aと遠赤外線吸収材料により形成された薄膜21bとが交互に積層されているので、高屈折率材料がSiやZnSである場合に比べて、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22における高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくすることができ、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の積層数を低減できる。また、高屈折率材料としてSiを採用した場合には、高屈折率材料がZnSである場合に比べて、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22における高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくすることができ、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の積層数を低減できる。また、本実施形態では、基板1としてSi基板を用いているので、基板1がGe基板、ZnS基板、サファイア基板などである場合に比べて低コスト化を図れる。
また、本実施形態の赤外線光学フィルタは、上述のように、複数のフィルタ部21,22を備え、各フィルタ部21,22ごとに波長選択層231,232の光学膜厚が異なるので、複数の選択波長の赤外線を選択的に透過させることができる。
また、本実施形態の赤外線光学フィルタによれば、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22の低屈折率材料としてAl2O3もしくはSiOxを採用し、高屈折率材料としてGeを採用していることにより、低屈折率材料と高屈折率材料との両方が半導体材料である場合に比べて、高屈折率材料と低屈折率材料との屈折率差を大きくすることが可能となって、反射帯域幅Δλを広くすることが可能となり、波長選択層231,232の膜厚の設定により選択できる選択波長の範囲が広くなるから、選択波長の設計の自由度が高くなる。また、本実施形態の赤外線光学フィルタでは、波長選択層231,232の材料を第1のλ/4多層膜21の上から2番目の2番目の薄膜21b,21aの材料と同じ材料としてあるので、波長選択層231をエッチングによりパターン形成する場合のエッチング選択比を大きくすることができ、当該パターン形成時に第1のλ/4多層膜21の最上層の薄膜21a(図8(c)参照)の光学膜厚が薄くなるのを防止でき、そのうえ、第2のλ/4多層膜22のうち基板1から最も遠い薄膜21b,21bが上述の低屈折率材料により形成されているので、空気中の水分や酸素などとの反応や不純物の吸着や付着などに起因して各フィルタ部において基板から最も遠い薄膜の物性が変化するのを防止できてフィルタ性能の安定性が高くなるとともに、各フィルタ部21,22の表面での反射を低減でき、フィルタ性能の向上を図れる。
また、本実施形態の赤外線光学フィルタでは、高屈折率材料としてGeを採用し、低屈折率材料としてAl2O3もしくはSiO2を採用しているので、基板1としてSi基板を用いながらも広帯域の赤外線を遮断することができ、上述の波長選択層231,232それぞれの光学膜厚ndを適宜設定することにより、図9に示すように、上述の3.8μmと4.3μmとに透過ピーク波長を有する赤外線光学フィルタを1チップで実現することができる。
なお、第1のλ/4多層膜21および第2のλ/4多層膜22は、屈折率周期構造を有していればよく、3種類以上の薄膜を積層したものでもよい。