JP5398043B1 - 抗菌性真鍮の作製法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】亜鉛イオンを含有した水溶液中で真鍮を水熱処理する工程を含み、この際、水熱処理は、0.03〜0.07 Mの濃度の亜鉛イオン含有水溶液を用いて、120〜135℃、50分〜5時間の処理条件下にてオートクレーブ中で行われ、特に、0.05 Mの亜鉛イオン含有水溶液を用いて130℃、1時間の条件下で水熱処理を行うことが好ましい。使用される亜鉛イオン含有水溶液としては、硝酸亜鉛Zn(NO3)2水溶液が好ましい。
【選択図】なし
Description
本発明者等は、真鍮に遮光下でも抗菌特性を付与することを可能とする新たな熱処理法について種々検討を行った結果、真鍮を適当な濃度の亜鉛イオンを含有する水溶液中で、最適な温度時間条件下で水熱処理した場合に、真鍮の構成成分である亜鉛が、真鍮の表面から部分的に酸化されて酸化亜鉛となり、大気中で抗菌特性を示す活性酸素種を持続的に生成し、これにより真鍮に抗菌性を付与できることを見い出して、本発明を完成した。
本発明では、真鍮を水熱処理する際に使用される亜鉛イオンを含有した水溶液が特に限定されるものではなく、例えば硝酸亜鉛を含有した水溶液や、塩化亜鉛を含有した水溶液や、酢酸亜鉛を含有した水溶液等がいずれも使用できるが、遮光下における抗菌特性がさらに向上した抗菌性真鍮が作製できる点で、硝酸亜鉛を含有した水溶液を使用することが好ましい。亜鉛イオン含有水溶液の濃度が上記の範囲に限定されるのは、0.03 M未満である場合には、水熱処理によって真鍮表面に十分な量の酸化亜鉛が生成しないために、暗所において優れた抗菌性能を付与することができなくなり、逆に濃度が0.07 Mを超える濃度の場合には、生成した酸化亜鉛が硝酸亜鉛水溶液に溶け易くためであり、特に好ましい亜鉛イオン含有水溶液の濃度範囲は0.04〜0.06 M で、0.05 Mが最も好ましい。
又、本発明の水熱処理において、水熱処理温度が上記範囲に限定されるのは、120℃未満である場合には水熱処理を十分に行うことができず、十分な抗菌性能が得られなくなり、135℃を越えると、生成した酸化亜鉛が溶解する恐れがあるからであり、本発明の好ましい水熱処理温度範囲は125〜135℃で、130℃が最も好ましい。又、本発明における水熱処理時間が50分〜5時間に限定されるのは、50分未満の場合には、真鍮が十分に水熱処理されずに生成する酸化亜鉛の量が少なくなって十分な抗菌性能が発揮されなくなり、5時間を越えると、生成した酸化亜鉛が溶解されるからであり、1〜4時間が特に好ましい。
図2に示されるように、本発明では、上記条件下での水熱処理によって、真鍮の表面に六方晶酸化亜鉛結晶のc面が露出し、このc面の最表面のZnO結晶の格子間位置へのZn原子の拡散浸透が起こる。そして、この格子間位置のZn(Zni)は、不安定なために直ちにZni- + 2e- に分解する。前者のZni- は、大気中に含まれる水分H2Oと反応して、Zni- + 2H2O → 2・OH + 2H+ + Zni に分解し、活性酸素の一種であるヒドロキシラジカル・OH を生成する。一方、後者のe- は、大気中の酸素O2 と反応して活性酸素のスーパーオキシド・O2 - を生成する。
このような抗菌性のメカニズムは、抗菌性を示すのに太陽光を必要とする酸化チタンの場合とは異なり、本発明の水熱処理により得られる真鍮は、遮光下においても抗菌特性を発揮する。
1)水熱処理温度及び処理時間を変化させた際の真鍮の結晶構造及び表面状態への影響(その1)
i)X線回折装置を用いた結晶構造の観察
真鍮として、市販の真鍮板(Cu:65%, Zn:35%、大きさ5 mm×5 mm、厚さ1 mm)を準備し、硝酸亜鉛水溶液の濃度を0.05 Mとし、この硝酸亜鉛水溶液に上記真鍮板を浸漬させた状態でオートクレーブ(内径47.0 mm, 高さ85.0 mm)中において水熱処理した。この際、処理温度及び処理時間は、110℃-3時間、120℃-1,3,5時間、130℃-3時間とし、オートクレーブ内の圧力はそれぞれ110℃(143 kPa)、120℃(199 kPa)、および130℃(270 kPa)とした。このようにして得られた各試料はそれぞれ、X線回折装置(XRD: 株式会社リガク製、RINT 2200)を用いて回折ピークを計測した。
図3には、このようにして測定された各試料(水熱処理された真鍮板)のXRDパターンが、原料の真鍮(未処理品)のXRDパターンと共に示されている。図3のXRDパターンから、120℃-3時間と5時間、110℃-3時間、130℃-3時間の試料について、原料の真鍮のXRDパターンとは異なるXRDパターンに変化していることが確認されたが、文献値と一致するものはなかった。
上記i)で得られた各試料について、走査型電子顕微鏡(FE-SEM: 日本電子株式会社製,JSM-7001FD)を用いて表面状態を観察した。
図4には、上記の水熱処理にて得られた各真鍮板試料の表面のSEM写真が、原料の真鍮(未処理品)のSEM写真と共に示されている。この図4のSEM写真から、120℃-3時間と5時間では表面に多くの粒子を確認することができ、110℃-3時間、130℃-3時間の試料の場合にも表面に粒子が確認できた。
i)X線回折装置を用いた結晶構造の観察
水熱処理温度及び時間を120℃-3時間一定とし、水熱処理に使用する硝酸亜鉛水溶液の濃度を0.01, 0.03, 0.04, 0.05, 0.07, 0.1 M に変化させて、得られた各試料について、前記のX線回折装置を用いて回折ピークを計測した。
図5には、0.01, 0.03, 0.05, 0.1 Mの硝酸亜鉛水溶液を用いて水熱処理(120℃-3時間)された真鍮の各XRDパターンが、原料である真鍮のXRDパターンと共に示されており、この図5のXRDパターンから、硝酸亜鉛水溶液濃度0.01, 0.03, 0.05, 0.1 Mの全てにおいてZnOのピークが確認され、特に0.03 Mの硝酸亜鉛水溶液を用いた場合に強いZnOのピークが確認された。そして、0.03, 0.05, 0.1 Mの硝酸亜鉛水溶液を用いた場合には、ZnOの他にCu2Oも生成することがわかった。
又、図6には、0.04, 0.05, 0.07, 0.1 Mの硝酸亜鉛水溶液を用いて水熱処理(120℃-3時間)された真鍮の各XRDパターンが、原料である真鍮のXRDパターンと共に示されている。図6のXRDパターンは、硝酸亜鉛水溶液濃度が0.04 Mの場合に特に強いZnOのピークとなることを示している。
上記i)で得られた各試料について、前記の走査型電子顕微鏡を用いて表面状態を観察した。
図7には、0.01, 0.03, 0.05, 0.1 Mの硝酸亜鉛水溶液を用いて水熱処理(120℃-3時間)された真鍮の各SEM写真が、原料である真鍮のSEM写真と共に示されており、この図7のSEM写真から、硝酸亜鉛水溶液濃度0.01, 0.03, 0.05, 0.1 Mの全ての条件において真鍮表面にZnO粒子の生成が確認された。そして、硝酸亜鉛水溶液の濃度が低い側の方が、真鍮表面に万遍なく粒子が生成した。又、図8には、0.04, 0.05, 0.07, 0.1 Mの硝酸亜鉛水溶液を用いて水熱処理(120℃-3時間)された真鍮の各SEM写真が、原料である真鍮のSEM写真と共に示されている。
ケミルミネッセンスディテクター(東北電子産業株式会社製, CLD-100FC)を用いてルミノール(ナカライテスク株式会社製,化学発光分析用特級試薬)の発光を検出することによって、暗所条件下における前記各試料(水熱処理後の真鍮板)から発生する活性酸素(スーパーオキシド)の発生の状況を調べた。ところで、本測定に用いたルミノールは、酸化されるとアミノフタル酸ジアニオン(励起状態)を生じ、これが基底状態に遷移する過程で発光するので、この発光を検出することにより真鍮板からのスーパーオキシドの発生状況を調べることができる。
まずNaOHとNaHCO3を用いてpH 10.8に調整した炭酸緩衝液を調製し、この炭酸緩衝液中に前記試料を入れる一方、化学発光試薬として、炭酸緩衝液を用いて500μMのルミノール溶液を調製した。そして、試料の入れられた炭酸緩衝液中に、遮光条件下にて一定時間後、上記ルミノール溶液0.5 mlを滴下して反応させ、発光強度を光電子増倍管(PMT)により検出した。全ての条件の発光プロファイルにおいて、単位時間当たりの発光強度(count・s-1)は反応開始と同時に急激に立ち上がり、その後漸次減衰していく曲線となった。そこで、反応開始から一定時間までの間のピーク面積(総発光量(counts))を求め、この値によりCL特性を評価した。
又、図10には、反応温度及び反応時間を120℃-3時間一定とし、硝酸亜鉛水溶液濃度を変化させて水熱処理を行うことにより得られた真鍮板の化学発光(CL)検出結果がグラフにより示されており、化学発光検出の際に用いた実験装置の構成図も示されている。この図10のグラフから、硝酸亜鉛水溶液濃度0.05, 0.07, 0.1 Mの中で、単位時間当たりの発光強度が最も強くなるのは、0.05 Mの場合であることがわかった。
上記の実験より、単位時間当たりの発光強度が最も強くなる硝酸亜鉛水溶液の濃度は0.05 Mであることがわかったので、この濃度において水熱処理時間を3時間とし、熱水処理温度を110、120、130℃に変化させて水熱処理を行い、得られた各試料について、前記のX線回折装置を用いて回折ピークを計測した。
図11には、このようにして得られた真鍮板のXRDパターンが、水熱処理前の真鍮のXRDパターンと共に示されており、このXRDパターンから、熱水処理温度130℃の場合において最も強いZnOの回折ピークが観察されることがわかった。
又、濃度0.05 Mの硝酸亜鉛水溶液を用い、処理温度110, 130℃、処理時間 1, 3, 5時間にて水熱処理を行い、得られた各試料について、前記の走査型電子顕微鏡を用いて表面状態を観察した。
図12には、このような水熱処理を行うことにより得られた真鍮板試料の表面のSEM写真が示されており、処理温度110、130℃共に、処理時間3及び5時間において多くの粒子の生成が見られた。
前記2)のiii)に記載される方法により、水熱処理温度及び時間を変化させて得られた各真鍮板について化学発光量を測定した。
図13は、硝酸亜鉛水溶液濃度を0.05 M 一定とし、処理温度(110, 120, 130℃)と処理時間(1, 3, 5時間)を変化させて水熱処理を行うことにより得られた真鍮板の化学発光検出結果を示すグラフであり、測定開始150秒の時点でルミノールが添加された後、更にこの時点から150秒後(測定開始後300秒後)までの化学発光強度の変化(減衰)の様子が示されている。尚、右下のグラフは、水熱処理時間3時間についての処理温度の違いによる化学発光強度の変化を示したものである。
このグラフから、0.05 Mの硝酸亜鉛水溶液を使用した場合に化学発光強度が最も強く立ち上がるのは、水熱処理温度が130℃で、処理時間が3時間の場合であることがわかった。
次に、各水熱処理温度(110, 120, 130℃)における処理時間と化学発光強度の積算総数との関係を調べた。図14は、硝酸亜鉛水溶液濃度を0.05 M一定とし、反応温度及び反応時間を変化させて水熱処理を行うことにより得られた真鍮板の積算化学発光(CL)強度の値を示すグラフであり、化学発光強度の積算総数から最適な水熱処理条件は、130℃-1時間であることがわかった。又、上記の作製法により得られた抗菌性真鍮の発光強度を、単位面積当たりの発光強度に換算すると、0.6×106 cpsの場合では8.6×103 cps/mm2に相当し、0.8×106 cpsの場合では1.1×102 cps/mm2に相当し、1.0×106 cpsの場合では1.4×102 cps/mm2に相当し、1.2×106 cpsの場合では1.7×102 cps/mm2に相当する。
硝酸亜鉛水溶液濃度0.05 M、処理温度130℃、処理時間1時間の条件にて水熱処理された真鍮板を準備し、これを前記2)のiii)に記載される炭酸緩衝液中に入れ、更に抗酸化剤として、DMSO(ジメチルスルフォキシド)、NBT(ニトロブルーテトラゾリウム)、NDGA(ノルジヒドログアイヤレチン酸)を溶解させて同様に実験を行い、ルミノール添加後の化学発光強度を測定することによって活性酸素種の特定を行なった。
図15は、本発明の作製法を用いて得られた真鍮に各種抗酸化剤(DMSO, NBT, NDGA)を添加した際の化学発光強度の変化を示すグラフである。その結果、抗酸化剤としてDMSOを添加した場合には化学発光強度がほとんど低下しないが、抗酸化剤としてNBTとNDGAを添加した場合に、化学発光強度が低下したことから、水熱処理した真鍮から生成する活性酸素は、スーパーオキシド・O2 - とヒドロキシラジカル・OH であることが判明した。
Claims (2)
- 遮光下においても抗菌特性を有する真鍮を作製するための方法であって、当該方法が、亜鉛イオンを含有した水溶液中で真鍮を水熱処理し、当該真鍮の表面に酸化亜鉛を生成させる工程を含み、
上記水熱処理が、0.03〜0.07 Mの濃度の亜鉛イオン含有水溶液を用いて、120〜135℃、50分〜5時間の処理条件下にてオートクレーブ中で行なわれることを特徴とする抗菌性真鍮の作製法。 - 上記の亜鉛イオン含有水溶液が硝酸亜鉛Zn(NO 3 ) 2 水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性真鍮の作製法。
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