JP5394259B2 - スナゴケ及び種子植物の生育促進方法及び生育促進菌 - Google Patents

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Description

本発明は,スナゴケ及び特定の種子植物の生育促進に関し,より詳しくはスナゴケ及びそれら種子植物の生育を促進する性質を有する細菌,スナゴケと該細菌を含む組成物,スナゴケと該細菌とを共生させることによる,スナゴケの生育促進方法,並びにそれらの種子植物の種子を該細菌に曝露することによる,それらの種子植物の生育促進方法に関する。
コケ植物〔センタイ類(蘚苔類 Bryophyta)〕は他の植物同様,炭酸同化作用によりCO2を固定して酸素を放出するが(特許文献1),落葉植物の落ち葉が容易に微生物分解されてCO2を放出するのに対し,枯れても腐食が極めて遅く,そのためCO2の放出が起こりにくいことから,長期的にみると落葉植物に比してCO2の固定能が高い。従来,コケ植物の栽培は,自然において放置に近い状態で行われてきた。しかしながらこの方法では,生育速度が天候に大きく左右されるという問題があり,しかも生育が非常に遅く,植えつけたコケ植物がその場所に群落を形成するまでに1年以上を要するという難点がある。特に,コケ植物のうちスナゴケ(Racomitrium canescens)は,乾燥に強く,日の当たる場所でも育ち,基盤として土を必要とせず,メンテナンスの必要がない等の点から,緑化資材として注目されている(特許文献2,特許文献3,特許文献4,特許文献5)が,その生育が取り分け遅いことが,緑化への幅広い利用におけるボトルネックになっている。このことから,スナゴケの生育を促進する技術に対する潜在的な需要がある。
またコケ植物以外の植物についても,例えば農業用の,すなわち食物や飼料用作物の生産に用いられる植物の生育促進は,収穫の短期化や収穫量の増大につながる。従って,そのような生育促進技術があれば有用であり,そのような技術に対する潜在的な需要がある。タバコの1種であるNicotiana tabacumについて,Methylobacterium extorquens が生育促進効果を有することが知られており(非特許文献1),オオムギについてM. extorquensが生育促進効果を有することが知られており(特許文献6),またダイズについてもM. extorquensが生育促進効果を有することが知られているが(特許文献6〜11),促進効果は必ずしも十分とはいえず,促進効果を有する他の細菌が入手できることが望ましい。
特開2006−254900公報 特開2006−006292公報 特開2004−236518公報 特開2002−360060公報 特開平07−227142公報 米国特許出願公開20030211082 米国特許5512069 米国特許5961687 米国特許6174837 米国特許出願公開20010001095 米国特許出願公開20060228797 Journal of Experimental Botany, 57(15), p.4025-4032 (2006)
上記背景のもとで,本発明は,スナゴケ及びタバコやオオムギ等の種子植物の生育を促進する手段を提供することを目的とする。
本発明者は,スナゴケと他の微生物との共生関係の存在を想定し,そのような微生物を求めて検討を行った。採取したスナゴケからの菌の分離を試みたところ,メタノール資化性細菌が存在することを見出した。スナゴケとメタノール資化性細菌との共存はこれまで知られていない。本発明者は,メタノール資化性細菌がスナゴケに対して優先種として存在するものと想定して,それがスナゴケに対し如何なる機能を有するかにつき更に検討したところ,Methylobacterium aquaticum又はMethylobacterium extorquensに属する細菌の内に,スナゴケのプロトネマの生育を促進する作用を有するものが含まれているのを見出し,それらの菌株を単離し特定した。これら2種の細菌にスナゴケのプロトネマの生育を促進するものがあることは,これまで知られていなかった。更に本発明者は,種子植物の幾つかにおいて,発芽前の種子をこれらの細菌にある期間接触させることにより,発芽率の向上や茎及び根の成長の促進をもたらすことを見出した。更に本発明者は,それらの細菌のうちに種子植物の生育をも促進するものが含まれることを見出した。本発明は,これの知見に基づき,更に検討を重ねて完成させたものである。すなわち本発明は,以下を提供する。
1.受託番号FERM BP−11078,FERM BP−11079,FERM BP−11080,及びFERM BP−11071としてそれぞれ寄託されたMethylobacterium属のメタノール資化性細菌より選ばれるものである,細菌。
2.上記1の細菌とスナゴケのプロトネマとを含んでなる,組成物。
3.該細菌と該プロトネマとを培地中に含んでなるものである,上記2の組成物。
4.スナゴケのプロトネマの生育促進方法であって,
FERM BP−11078,FERM BP−11079,FERM BP−11080,及びFERM BP−11071としてそれぞれ寄託されたMethylobacterium属のメタノール資化性細菌の少なくとも何れかを準備するステップと,
スナゴケのプロトネマを,該準備した細菌と共に培養するステップと,
を含んでなるものである方法。
5.タバコ,オオムギ及びダイズよりなる群より選ばれる種子植物の生育促進方法であって,
受託番号FERM BP−11078として寄託されたメタノール資化性細菌Methylobacterium aquaticumを準備するステップと,
該選ばれた種子植物の種子に該細菌を接触させて該種子の培養を行うステップと
を含んでなるものである,方法。
6.該種子と該細菌との接触が,該種子を該細菌の培養液に曝露することによるものである,上記5の方法。
本発明によれば,スナゴケのプロトネマの生育を促進することができる。従って,本発明によれば,生育の遅さというスナゴケの難点を克服しプロトネマを早期生育することが可能となる。また本発明は,タバコ及びオオムギの種子からの発芽や茎,根の成長を促すことにより,それらの種子植物の生育を促進することができる。従って,農業にこれを用いることにより,作物の収穫の短期化や収穫量の増大を図ることが可能となる。
DGGEの結果を示す図面代用写真 細菌の接種の有無及びその種類による,プロトネマの生育比較結果を示す図面代用写真 細菌の接種の有無及びその種類による,プロトネマの生育比較結果を示すグラフ MA−22Aによるカビの生育阻害を示す図面代用写真 プラントボックス上方から見たタバコの生育状況を示す図面代用写真 種子からのタバコの生育状態を示すグラフ 種子からのオオムギの生育状態を示すグラフ 種子からのダイズの生育状態を示すグラフ 種子からのダイズの生育状態を示すグラフ
本発明のMethylobacterium属のメタノール資化性細菌のうち,菌株名がMA−22A,MC−21B,及びMC−21Cのものは,2007年11月28日付けで,日本国茨城県つくば市東1−1−1つくばセンター中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(IPOD)に国内寄託され,それぞれ受託番号FERM P−21449,FERM P−21450,及びFERM P−21451が付与され,その後2008年12月16日付で同じくIPODにおいてブタペスト条約に基く国際寄託に移管されて,それぞれ受託番号FERM BP−11078,FERM BP−11079,及びFERM BP−11080が付与されたものである。
また,菌株名がMC−11Aのものは,2008年12月10日付けで同じくIPODに国際寄託され,受託番号FERM BP−11071が付与されたものである。
MA−22A,MC−21B,MC−21C,及びMC−11Aの性質を次の表1a及び表1bに示す。
上記の各細菌は,天然のスナゴケから単離されたものである。これらの細菌をスナゴケのプロトネマ生育促進に用いるには,例えば,スナゴケのプロトネマの培養に際して,培養液に当該菌の少なくとも何れか一種を準備し,これを接種するだけでよい。その場合培養は例えば,実施例の部に記載のY培地(寒天0.8%含有)を用いて,明所(例えば蛍光灯下)にて,高湿度(例えば100%),20℃で行えばよいが,これに限定されず,適宜の条件で行ってよい。スナゴケのプロトネマに対する当該細菌の接種量は適宜であり,特に限定はない。例えば,プロトネマ1つあたり,菌のコロニー(約1mm径)の菌量の1/30の接種により発育促進が得られるが,これらの菌はスナゴケのプロトネマ付近では増殖し易く,そのため接種する量は,その後の菌の増殖が確認できる限り,これより少ない量でもよい。上記の各細菌はピンク色を呈し,その増殖は,プロトネマを取り囲むピンク色の領域として肉眼で明瞭に確認することができる。接種した菌の増殖が培養を通して確認できる限り,菌の接種は最初の1回のみで十分であるが,所望により適宜追加摂取しても問題はない。こうしてプロトネマを速やかに生育させることで,配偶体へと分化させるための多量のプロトネマを,短い期間で得ることができる。
種子植物(タバコ又はオオムギ)の生育促進のためには,それらの種子を各々に適した通常の発芽条件下にて発芽させるに際し,上記各細菌のうちMA−22A(生菌そのもの又はその培養液)を準備し,これを種子に接触させて通常と同様に培養すればよく,種子の培養過程でその細菌が増殖するから,これを培養物に後から追加で接種する必要は,通常ない。ある程度の期間(例えば5日以上)細菌を種子と共に存在させる限り,発芽率の増加その他の生育促進を得ることができる。
以下,本発明を実施例に基づき詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
〔実施例1〕 スナゴケの生育促進(1)
〔スナゴケの無菌化〕
天然のスナゴケ(Racomitrium canescens,山形県産)を入手した。胞子嚢を,十分量の水(胞子嚢1個当たり1mL以上)で2回洗浄し,70%エタノールで1分間処理した。胞子嚢を,更に1%の過塩素酸ナトリウム及び0.5%のTween20を含有する水溶液に20分間浸漬した後,滅菌水で5回洗浄した。滅菌水中で胞子嚢を壊し,流出した胞子をピペットで採取した。得られた無菌胞子を,寒天培地(ハイポネックスTM*を水で1000倍希釈した液+寒天0.8%)に蒔き,20℃にて蛍光灯下で培養した。培養開始後約2週間でプロトネマ(原糸体)の生育が肉眼で確認された。
・注:ハイポネックス〔(株)ハイポネックスジャパン製,窒素全量6%(うちアンモニア性窒素2.90%,硝酸性窒素1.05%),水溶性リン酸10.0%,水溶性カリ5.0%,水溶性苦土0.05%,水溶性マンガン0.001%,水溶性硼素0.005%を含有〕
下記のY培地(寒天0.8%含有)にても同様に培養を行い,プロトネマの生育が肉眼で同様に確認された。この無菌のプロトネマを,微生物による生育促進実験において用いた。
〔スナゴケからの微生物の探索〕
上記天然のスナゴケ(無菌化前のもの)を滅菌水に懸濁させ,液体培地1L(ハイポネックスTM を水で1000倍希釈したもの)に加え,蛍光灯下(距離30cm,16時間/日)を当てつつ,約18℃にて7週間まで撹拌した。撹拌前,撹拌開始4週後,及び撹拌開始7週後の培養液サンプルを採取した。得られたサンプルの各々につき,1/3LB寒天培地(ポリペプトン3.3g/L,酵母エキス1.6g/L,塩化トリウム10g/L,寒天15g/L),及びハイポネックス1000倍希釈液を寒天(1.5%)で固めたもののプレートを用いて培養を行い,多数の様々なコロニーを単離し,各々について菌を同定して性質を調べたが,スナゴケの生育を促進するものは見出されなかった。
次に,上記天然のスナゴケ(無菌化前のもの)を滅菌水に懸濁させ,上記の各培養条件で培養し,培養開始4週後及び7週後に無作為にサンププリングしてDGGE(denaturing gradient gel electrophoresis)解析に付した。すなわち,各培養液の5mLを遠心分離(10,000×g, 10分)により沈殿と上清に分離した。沈殿を採取して0.85%塩化ナトリウム溶液で洗浄した後,BL緩衝液〔40mM Tris−HCl,1%Tween20,0.5%Nonidet P-40(ナカライテスク製),1mM EDTA2Na,pH8.0〕1mLに懸濁させた。懸濁液を−20℃にて凍結させ,次いで60℃にて融解させた。これにプロテイナーゼK溶液(10mg/mL)を10mL加え,37℃で10分間放置し,これをDNA鋳型として,以下の要領でPCR反応を行った。
・注:プライマーF:CGCCCGCCGCGCGCGGCGGGCGGGGCGGGGGCACGGGGGGACTCCTACGGGAGGCAGCAG(配列番号1)
・注:プライマーR:ATTACCGCGGCTGCTG(配列番号2)
<温度条件>
(1)95℃,2分
(2)次の35サイクル
95℃,1分
55℃,30秒
72℃,30秒
(3)72℃,5分
<DGGE条件>
Dcodeユニバーサルミューテーション検出システム(Bio-Rad製)のマニュアルに従って,次の通りに行った。
ゲル:9%アクリルアミドゲル
変性剤グラジエント:40〜65%
電圧:60V
泳動時間:17時間
電気泳動の結果を図1に,得られたDNA断片の配列に基くデータベースサーチによる検索結果を表4に,それぞれ示す。
その結果,上記培養では認められなかったMethylobacterium, Methylocella, Methylocapsa等,メタノールを資化する細菌が多数含まれていることが見出された。これらのメタノール資化性細菌は,本発明者の知る限りにおいてこれまでスナゴケから検出されたという報告はないが,メタノール資化性細菌は富栄養の培地には生育しにくく,しかも生育が他の菌に比べて遅いことによるものと思われる。メタノール資化性細菌が本DGGE法によってスナゴケから検出されたことは,それらが優先的にスナゴケと共に存在していることを示唆するものである。
上記の結果に従い,スナゴケと共に存在しているメタノール資化性細菌を採取するため,上記スナゴケの各サンプルを滅菌水に懸濁し,メタノールを単一炭素源とする培地(表5。本明細書において,「メタノール培地」ともいう。)に蒔いて微生物コロニーの単離を試みた。
上記培養の結果,メタノール資化性細菌として合計7株を単離することができた。それら各菌株の16S rDNAを分析し,データベース上に公開されている菌株と比較した。各菌株の帰属及び16Sr DNA配列を示す(但し,21A及び41Aについては前半の数百塩基までを決定)。
(1)MC−11A:Methylobacterium extorquens,16S rDNA配列:配列番号3
(2)MC−11B:Methylobacterium extorquens,16S rDNA配列:配列番号4
(3)21A:Spirosoma属細菌に近縁,16Sr DNA配列:配列番号5
(4)MC−21B:Methylobacterium extorquens,16S rDNA配列:配列番号6
(5)MC−21C:Methylobacterium extorquens,16S rDNA配列:配列番号7
(6)MA−22A:Methylobacterium aquaticum,16S rDNA配列:配列番号8
(7)41A:Mesorhizobium属細菌に近縁,16S rDNA配列:配列番号9
〔スナゴケの生育に対する分離菌の作用の検討〕
予めY培地(寒天0.8%含有)で生育させておいたプロトネマをピンセットで1つずつ摘み,新しいY培地(寒天0.8%含有)中の2点に移した。メタノール寒天培地に生育させておいた上記細菌のコロニー(直径約1mm)を,滅菌した白金耳で1つ掻き取り,300μLの滅菌水に懸濁させ,植えつけたプロトネマに10μL接種し,20℃にて蛍光灯下で培養した。比較として,カルチャーコレクションより入手したMethylobacterium extorquens AM1株(ATCC14718)細菌を同様にしてプロトネマに接種した。また,対照として,細菌を接種しないプロトネマを同様に培養。試験開始40日後の結果を図2に示す。同図に見られるように,対照に比して,MA−22A,MC−21B又はMC−21Cを接種したスナゴケに生育の明らかな促進が認められ,特にMA−22Aを接種したものにおいて顕著であった。これに対し,Methylobacterium extorquensのこれまで知られている菌株の1つであるAM1株を接種したプロトネマには,生育促進は見られなかった。更に,MC−11A,MC−11B,MC−21B,MC−21C及びMA−22Aを接種した各プロトネマ及び細菌を接種しないプロトネマ(対照)について,試験開始3,5及び9週間後の時点における,各プロトネマを囲む楕円の面積として生育の程度を数値化した(図3)(エラーバーは標準偏差を表す。他のグラフにおいても同じ。)。その結果,MA−22Aを接種したプロトネマの生育が特に際立って優れていることが再確認されると共に,他の細菌のうち,MC−21B及びMC−21Cはもとより,MC−11A及びMC−11Bにも,生育促進効果のあることが判明した。
〔分離菌の特性の検討〕
植物との相互作用において重要と思われる性質について,分離菌を検討した。すなわち,分離菌について,窒素固定能,シデロフォア(Siderophore:鉄イオンキレート化物質)分泌,トリプトファン(Trp)からのインドール酢酸合成能,不溶性リン酸カルシウムの溶解能,β−グルカナーゼ分泌能,HCN(カビに対する生育抑制効果を有する)分泌能の有無,及びカビに対する生育阻害作用の有無につき,下記のとおり検討した。
<試験方法>
(1)窒素固定能:
窒素源を含まない次の組成の寒天培地に菌を画線し,28℃,暗所にて生育を観察した。生育が認められれば窒素固定能があると判定した。
(2)シデロフォア分泌:
Anal. Biochem, 160, 47-56, 1987に準じて以下とおりに試験を行った。すなわち,まず次の溶液(A)〜(C)を準備した。
(A)60.5mgのCAS(クロムアズロールS:chrome azurol S)を50mLの水に溶解させ,10mM塩酸中の1mM FeCl3溶液10mLと混合した。これに72.9mgのHDTMA(臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム)を40mLの水に溶かしたものをゆっくり加えた。
(B)750mLの水,100mLの10×MM9塩類(KH2PO4:3g/L, NH4Cl:10g/L,NaCl:5g/L,MgSO4:2mM,CaCl2:1mM), 15gの寒天,30.24gのPIPES〔ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)〕を混ぜ,水酸化ナトリウム水溶液でpH 6.8とした。
(C)10%カザミノ酸水溶液30mL。
上記溶液(A)〜(C)を別々にオートクレーブ滅菌した後,約50℃に冷却し,混合した。これにメタノールを終濃度1%となるよう加え,シャーレにて固めた。得られたプレートは青色を呈した。これに試験菌を画線し生育を観察した(28℃,暗所)。この培地において,シデロフォア陽性の菌ではコロニーの形成が認められ,その周りに青色が抜け,ピンク色〜透明を呈する。シデロフォア陰性の菌はこの培地には生育しない。
(3)トリプトファンからのインドール酢酸合成能:
Applied environmental microbiology, 1995, 61, 793-796に準じて次のとおりに試験を行った。すなわち,試験菌をKing's B液体培地(Difco proteose peptone No.3:20g/L, K2HPO4:1.15g/L,MgSO4:1.5g/L,メタノール:1%,トリプトファン:2.5mM)に植菌した。これを28℃,暗所にてしんとう培養し,生育が認められたら培養液を遠心分離し,上清をサンプルとした。サンプル1mLに,1mLの溶液R1(7.9MのH2SO4中FeCl3:12g/L)を加えた。室温にて30分間放置した後,530nmにおける吸光度を測定した。ブランクには菌を植えていない培地を用い,それに比べ呈色が起こればインドール酢酸合成能が陽性と判定した。
(4)不溶性リン酸カルシウムの溶解能:
FEMS Microbiol, Lett, 170, 265, 1999に準じて次のとおりに試験を行った。すなわち,NBRIP 培地〔National Botanical Research Institute's phosphate growth medium:グルコース10g/L,Ca3(PO4)2:5g/L,MgCl2:5g/L,MgSO4:0.25g/L,KCl:0.2g/L,(NH4)2SO4:0.1g/L,pH7,寒天1.5%〕を用い,試験菌を寒天培地に画線し,生育を観察した。培地は白濁しており(リン酸カルシウム),菌にリン酸カルシウムの溶解能があれば生育と培地の色の抜けが認められる。
(5)β−グルカナーゼ分泌能:
市販のR2A寒天培地に,アズリン染色架橋β−グルカン(Beta-glucan, azurin-dyed, cross-linked)を0.2%加え,オートクレーブ後固めた。培地は青色を呈するが基質は溶解しない。試験菌を画線し,コロニーの周りに溶解した基質の分散が認められれば陽性と判定した。
(6)HCN分泌能:
MPMI vol 16, 2003, 525-535に準じて次のとおりに試験を実施した。すなわち,試験菌をCastric's 培地(Can J. Microbiol. 21, 613-618, 1975,L−グルタミン酸:40mM,グリシン:10mM,L−メチオニン:10mM,MgSO4:2mM,NaH2PO4:5mM,K2HPO4:5mM,FeCl3:20μM,pH7.0)に植菌し,28℃,暗所にてしんとう培養した。試験管はキャップができるものを用いた。菌の生育が認められたら培養液を遠心分離し,上清を水で10倍希釈し,そのうち50μLを250μLの0.1MNaOHと混合した。これに,2−メトキシエタノール中の0.1M o−ジニトロベンゼン溶液0.5mLを加え,15秒後2−メトキシエタノール中の0.2M 4−ニトロベンズアルデヒド0.5mLを加え,更に30分後578nmにおける吸光度を測定した。同時に,1〜16μMのKCN溶液を同様に処理し,スタンダードとした。
<結果>
結果を以下の表に示す。
(7)カビに対する生育阻害作用:
スナゴケの表面に白い糸状のカビが生えたものを分離し,常法により18S rRNA遺伝子の配列を読むことにより,Fusarium oxysporumと同定した。このカビをR2A寒天培地(Beckton-Dickinson社)プレートの中程に植え,その周りに分離菌MA−22A,MC−21B及びMC−21Cをそれぞれ画線し,28℃で5日程度培養した。カビの菌糸が寒天培地上を広がるのを,MA−22A菌が強く阻害していることが判明した。この様子を図4に示す。
〔実施例2〕 タバコの生育促進
タバコ(Nicotiana tabacum 及びNicotiana benthamiana:日本たばこ産業(株)葉タバコ研究所より供与。)の種子を70%エタノールで1分処理した後,2%次亜塩素酸溶液(Tween20を約1%含有)で20分処理した。種子を滅菌水で4〜5回洗浄した。プラントボックス(プラスチック製,5.5cm四方,高さ9cm)に5.5cm四方に切り取った濾紙を4枚敷き,オートクレーブ滅菌した後,これに滅菌した1/2 Murashige-skoog培地(寒天0.8%を含有する1/2 MS培地)を5mLずつ加えた。Murashige-skoog液体培地は表10〜14に示した組成で構成されるものであり,1/2 MS培地はこれを1/2希釈したものである。
種子を上記濾紙上に並べた(30個/プラントボックス)。次いで,メタノール培地(表5)(メタノール1%含有)5mlで培養(28°C,2〜3日)したMC−21,MC−21C及びMA−22A株の培養液の何れかをそれらの種子にかけた(500μL/プラントボックス)。対照として,細菌培養液の代わりに水のみ又はメタノール培地のみを種にかけた群を設けた。4℃,暗所にて4日間静置して種子に吸水させた後,25℃,蛍光灯下で1日12時間を明,12時間を暗として15日間培養し,種から子葉まで(茎)の長さ,根の長さ,苗の重量を測定した。また測定に先立ち,プラントボックスの上方から生育状況を写真撮影した。
プラントボックス上方から見たタバコ(Nicotiana tabacum 及びNicotiana benthamiana)の生育状況の典型例を図5に示す。同図より,MA−22A菌を摂取したタバコにおいて,対照に比して生育が顕著に促進されていることが分かる。
また,N. tabacumでの茎の長さ,根の長さ,及び苗の重量の測定結果を,図6(A)にグラフで示す。図において,「茎の長さ」は種子表面から子葉に至るまでの植物体部分の長さを示す。N. tabacumの種子では,メタノール培地(菌株不含)をかけた群では発芽しなかったが,MA−22Aの培養液をかけた群では,対照(水)に比して茎の著しい伸長を伴った顕著な生育の促進が認められ,その効果はMC−21やMC−22Bには見られないものであった。また全体重量についても,MA−22Aの培養液をかけた群で顕著に増加し,その程度は,MC−21やMC−22Bをかけた群に匹敵した。
またN. benthamianaの種子での結果を図6(B) に示す。N. benthamianaでは,MC−21やMC−22Bをかけた群では,重量が対照(水)の半分程度にしかならず,生育が著しく抑制されていたのに対し,MA−22Aの培養液をかけた群で逆に,顕著な重量増加が見られた。
〔実施例3〕 オオムギの生育促進
オオムギの種子(Hordeum vulgare, subsp. vulgare cultivar Akashinriki:岡山大学資源生物科学研究所大麦・野生植物資源研究センターより提供を受けた)を70%エタノールで1分処理した後,2%次亜塩素酸溶液(Tween20を約1%含有)で30分処理し,次いで滅菌水で4〜5回洗浄した。滅菌したプラントボックスに別途滅菌した40mLの0.8%寒天を流し込んで固めておいたものに,上記の種子を20個ずつ並べた(各群につき種子40個)。上記の方法で培養したMC−21C,MA−22Aの培養液を,対応する群の各種子に5μLずつ落とし,対照群の種子には,水又はメタノール培地のみを滴下した。種子を25℃,蛍光灯下,1日12時間を明,12時間を暗として,8日間培養した後,根の長さ,地上部(葉)の長さ,苗の重量を計測した。
結果を図7に示す。MA−22Aの培養液を接触させた種子において,対照(水)及びMC−21Cをかけた群に比して,茎の長さ及び重量が増加するのが認められた。
〔実施例4〕 ダイズの生育促進
滅菌したプラントボックスに0.8%寒天,1/2MS培地を50mLずつ加えて固めた。ダイズ(Glycine max,エンレイ種)の種子を下記の方法で滅菌し,これを上記の固めた培地に植えた(7粒/ボックス)。1サンプルに2ポットを用いた。各ボックスに,MA−22A又はMC−21C菌懸濁液(何れも,メタノール液体培地5mLで28℃,5日間,振とう培養したものを13000rpm,5分間遠心し,滅菌水で2回洗い,最終的に5mLの滅菌水に懸濁させたもの)をダイズ1粒につき20μL接種した。対照として,菌懸濁液の代わりに水のみをかけた2ボックスを用意した。これらの種子を4℃で2日間静置して種子に吸水させた。次いで,植物栽培用インキュベーター中で種子を25℃にて培養し,13日後に植物体(苗)の根と葉の長さ,及び重量を測定した。
<ダイズの種子の滅菌方法>
50mLのチューブに種子を入れ,水でよく洗浄した後,70%エタノールで3分処理した。次いで,エタノールを除き,3%次亜塩素酸ナトリウムを含有する0.1% Tween 20水溶液に種子を30分間浸した後,クリーンベンチ内にて滅菌水で4回洗浄した。
培養の結果を図8及び9に示す。これらの図に示すように,MA−22Aを接種したダイズにおいて茎の長さ,葉の長さ及び苗の重量に,何れも顕著な増加が観察された。
〔実施例5〕 スナゴケの生育促進(2)
下記のKnop+B5ビタミン培地にショ糖10g/Lを加え,pHを5.8に調整し,寒天1.0w/v%を加えてスナゴケ用培地を調製した。
上記スナゴケ用培地100mLを入れた300mL容三角フラスコ中で,スナゴケのプロトネマを,23℃,24時間日長下で約1.5ヶ月間培養することにより,スナゴケが培地表面を覆った状態とした。スナゴケを培地上から回収し水道水で軽く洗浄し,そのフラスコ2本分を45mLの純水を入れたブレンダー(ワーリング社製)に入れ,毎分10000回転で60秒間破砕した。バーミキュライトをセルロース繊維で成型した培土(フロリアライト:株式会社サンエイ)に対しこのスナゴケ破砕液1mLを撒いた。フロリアライトは使用前にオートクレーブ滅菌しておいた。スナゴケ破砕液を撒いた後,希釈した市販の液肥(商品名ハイポネクス)でフロリアライトを飽和させた。R2A寒天培地を含むシャーレ一面に培養したメチロトローフ細菌MA−22A,MC−11A及びMC−21Cを接種源とし,薬匙でかきとった菌体を500μLの滅菌水に懸濁し,スナゴケ破砕液を撒いた各フロリアライトにその50μLを種接した。細菌を接種しなかったものを対照区1,3mg/Lのカイネチンを含む液肥を使用し菌を接種しなかったものを対照区2とした。移植後,乾燥させないよう加湿しつつ照明装置付の順化室内で同一条件下にすべてのスナゴケを順化させた。
順化開始2週間後において,これらのメチロトローフ細菌を接種したものは,対照区1,2のいずれと比較しても鮮やかな緑色を保っていた。対照区1では,コケの生存率が低く,ガメトフォア形成もごく限られていたのに対し,カイネチンのみ処理した対照区2では,対照区1に比べてコケの生存率が高く,ガメトフォアもよく誘導された。またメチロトローフ細菌を接種したものでも,対照区1に比べ生存率が高く,また,対照区2と同様にガメトフォアがよく誘導され,特にMC−11A株を接種したものは,最も良好な生育とガメトフォア分化とを示した。このようにメチロトローフ細菌を接種することによって,順化時の生存率とガメトフォア形成率を高めることができた。
本発明は,スナゴケのプロトネマの早期生育を可能にすることから,スナゴケの効率的な増産の道をひらき,緑化資材としてのスナゴケの広範な利用を可能にする。また本発明は,タバコ,オオムギ及びダイズの生育を促進することから,それらの作物の短期収穫や収穫量の増大に寄与する。

Claims (6)

  1. 受託番号FERM BP−11078,FERM BP−11079,FERM BP−11080,及びFERM BP−11071としてそれぞれ寄託されたMethylobacterium属のメタノール資化性細菌より選ばれるものである,細菌。
  2. 請求項1の細菌とスナゴケのプロトネマとを含んでなる,組成物。
  3. 該細菌と該プロトネマとを培地中に含んでなるものである,請求項2の組成物。
  4. スナゴケのプロトネマの生育促進方法であって,
    FERM BP−11078,FERM BP−11079,FERM BP−11080,及びFERM BP−11071としてそれぞれ寄託されたMethylobacterium属のメタノール資化性細菌の少なくとも何れかを準備するステップと,
    スナゴケのプロトネマを,該準備した細菌と共に培養するステップと,
    を含んでなるものである方法。
  5. タバコ,オオムギ及びダイズよりなる群より選ばれる種子植物の生育促進方法であって,
    受託番号FERM BP−11078として寄託されたメタノール資化性細菌Methylobacterium aquaticumを準備するステップと,
    該選ばれた種子植物の種子に該細菌を接触させて該種子の培養を行うステップと
    を含んでなるものである,方法。
  6. 該種子と該細菌との接触が,該種子を該細菌の培養液に曝露することによるものである,請求項5の方法。
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