JP5392758B2 - 人工血管の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、管状構造物、特に小口径人工血管の製造方法に関する。
近年、動脈硬化症など血管疾患の増加に伴い人工血管の重要性は確実に高まっている。人工血管においては、(1)安全性(急性毒性、皮内反応試験、溶血性試験、発熱性物質試験、皮膚感作性試験、細胞毒性など)、(2)機能性(伸縮性、縫合し易さ、柔軟性、切断端のほつれ難さ、人工血管壁からの出血し難さ)、(3)耐久性などが要求される。
また、人工血管は、体内に移植する部位によって様々な種類が必要とされる。
人工血管のうち大口径のものは既に実用化され臨床使用に耐えられるものとなっている。しかしながら、口径5mm以下の小口径人工血管は、ポリエチレンテレフタレートやPTFEなど代表的な人工素材の生体不適合性による血管内膜の肥厚や血栓形成による閉塞が原因で、未だ実用化されるに至っていない。そのため、現行では、膝関節末梢などへのバイパス術は自家静脈移植が行われているが、患者への負担が大きいこと、適合する血管を持たず自家静脈移植を行うことができない患者が多数いるなど問題は多い。近年、患者の高齢化や糖尿病の増加に伴い、細小血管の再生治療は増加している。従って、特に末梢血管など小口径の血管に利用できる抗血栓性のある人工血管の開発が以前から強く望まれていた。
一方、絹糸は、高い生体親和性を有しており、細くて強く適度な弾性と柔軟性を持ち、糸の滑りがよく、結びやすくほつれ難い特性を持っていることから、手術用の縫合糸として用いられる天然繊維である。これまでに絹の高い生体適合性を利用した様々な再生絹材料が開発され、医療、生化学、食品、化粧料など幅広い分野での利用が期待されている。特に、再生医療のための材料として注目されている。
再生絹材料の絹を用いた人工血管作製の試みとしては、組紐作製原理により編み込む動作を組み合わせて巻かれ、且つ繭糸相互や混繊維相互が繭糸表面に保有されているセリシンにより膠着されてなる繭糸構造物が知られている(特許文献1)。この繭糸構造物は繭糸相互がセリリンで膠着されることで、実用に耐え得る引っ張り強度になっているが、セリシンはアレルギー反応を引き起こす可能性が高いため、そのリスクを低減する観点からセリシンを除去することが望ましい。また、前記繭糸構造物は柔軟性・弾力性が十分ではなく、切断端もほつれ易いため、生体適合性と術時の要求特性など絹本来の特性を保持しつつもより機能性に優れた人工血管が要望されていた。
特開2004−173772号公報
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、生体適合性など絹本来の特性を有し、末梢血管など小口径の血管へ利用できる管状構造物を提供することに関する。
本発明者は、絹の特性を活かした管状構造物について種々検討したところ、絹フィブロイン溶解液からエレクトロスピニング法により形成される絹ナノファイバーを用いれば、柔軟で弾力のある管状構造物が得られることを見出した。エレクトロスピニング法は電場内でナノファイバーを発生させて電極上に収集させる。この時、回転電極上の周囲にナノファイバーを収集させればナノファイバーの管状構成物が得られるが、絹フィブロイン溶解液から形成される絹ナノファイバーには粘性があり、金属への接着性が良いため回転電極上に強固に密着していまい、剥離し難いことが判明した。剥離時に破れ・解れ等が発生すると、特に小口径人工血管として使用する際、血液の漏出や血栓形成が懸念される。
そこで、本発明者は更に検討したところ、絹ナノファイバーを収集させる回転電極に樹脂製チューブを被せて用いれば、破れ・解れ等を生じることなく容易に剥離でき、且つ電場に影響を与えないことを見出した。
一方、本発明者は、繭糸や生糸などを精練して得られる絹フィブロイン繊維を用いた管状構造物はセリシンによるアレルギーリスクが低く、生体適合性に優れるものの、機能性、特に弾力性の点で十分ではないため、これを改善する方法について種々検討したところ、絹水溶液にポリグリコールを混合した水溶液から得られる絹フィブロインスポンジが、絹フィブロインからなる管状構造物の弾力性を向上させるのに好適であることを見出した。そして、当該絹フィブロインスポンジで管状構造物をコーティングすればより機能性に優れた管状構造物が得られることを見出した。
更に、本発明者は、当該絹フィブロインスポンジが、絹フィブロイン溶解液からエレクトロスピニング法により形成された絹ナノファイバーを用いた上記管状構造物のコーティング被膜としても好適であり、当該絹フィブロインスポンジで管状構造物をコーティングすれば、より優れた弾力性を付与できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、絹フィブロイン溶解液を用いてエレクトロスピニング法により形成された絹ナノファイバーを、樹脂製チューブを被せた回転支持棒の周囲に収集させて管状に構成することを特徴とする管状構造物の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、上記により得られた管状構造物を、絹フィブロインスポンジでコーティングすることを特徴とする、絹フィブロインスポンジコーティング管状構造物の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、絹フィブロインからなる管状構造物を、絹フィブロインスポンジでコーティングすることを特徴とする絹フィブロインスポンジコーティング管状構造物の製造方法を提供するものである。
本発明によれば、十分な弾力性を有し、柔軟で血管吻合し易く、切断端のほつれや血液の漏出が極めて少ない管状構造物を提供することができる。この管状構造物は、絹本来の特性、すなわち高い生体適合性を有し、抗血栓性に優れるため、特に直径5mm以下の小口径人工血管に好適である。
エレクトロスピニング法により絹フィブロイン溶解液から絹ナノファイバーを形成させ、樹脂製チューブを被せた回転支持棒の周囲に積層させる操作を行う装置の一例である。 孔を設けた樹脂製チューブを被せた回転支持棒を示す図である。 精練後の絹フィブロイン繊維の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 3mmφ家蚕絹人工血管の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 絹フィブロインスポンジでコーティングした人工血管の外壁表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 絹フィブロインスポンジでコーティングした人工血管の内壁表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
本発明の管状構造物は、先ず絹フィブロイン溶解液を用いてエレクトロスピニング法により形成された絹ナノファイバーを、樹脂製チューブを被せた回転支持棒の周囲に収集させることにより得られる。
本発明で用いる絹フィブロイン溶解液は、公知の方法により調製することができ、例えば、繭層や繭糸、生糸などを精練して絹フィブロインを得、これを有機溶媒に溶解して得られる。また、溶解性を高めるため、絹フィブロインを中性塩水溶液に溶解、加熱した後、得られた絹フィブロイン/塩水溶液を脱塩処理して絹水溶液とし、次いで該絹水溶液を有機溶媒に溶解してもよい。
ここで、中性塩水溶液としては、例えば臭化リチウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、チオシアン酸リチウムなどが挙げられる。また、脱塩処理の方法としては、公知の方法、例えば透析法、逆浸透法などを採用することができる。脱塩後、必要に応じて水溶液から水を除去し乾燥物としてもよい。この場合、通常は水溶液をプレートに展開し、水を蒸発させて絹フィブロインのフィルムを作製したり、スプレー乾燥などを行ったりして粉末状とする。また、蒸留水を加えて、例えば絹フィブロイン濃度2w/v%以下の水溶液を調製し、凍結乾燥を行ってスポンジ状(多孔質状)としてもよい。これらのうち、取扱性・保存性の点から、凍結乾燥するのが好ましい。
精練方法は、特に制限されず、公知の方法を使用できる。例えば100℃に加熱した12w/v%マルセル石鹸、8w/v%炭酸ナトリウム混合水溶液、及び上述した繭層や繭糸、生糸などを入れ、操糸後、撹拌しながら120分煮沸し、その後2w/v%炭酸ナトリウム水溶液で10分煮沸、更に100℃に加熱した蒸留水中で洗浄する操作を3回行った後、乾燥することでフィブロインを覆う蛋白質(セリシン)や、その他脂肪分などを除去できる。
有機溶媒としては、例えばヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフロロアセトン(HFA)が挙げられる。通常、HFAは水和物として安定に存在するため、HFA水和物を用いるのが好ましい。HFIPとHFAはそれぞれ単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
有機溶媒に溶解する絹フィブロイン濃度は、通常3〜20w/v%程度であり、好ましく
は4〜15w/v%である。
エレクトロスピニング法は、高い電圧(10〜30kV)を用いて紡糸を行う方法であり、この方法では高電圧によって絹フィブロイン溶解液表面に電荷が誘発・蓄積される。この電荷は互いに反発し、この反発力は表面張力に対抗する。電場力が臨界値を超えると、電荷の反発力が表面張力を超え、荷電した溶解液のジェットが噴射される。噴射されたジェットは体積対して表面積が大きいため、溶媒が効率良く蒸発し、また体積の減少により電荷密度が高くなるため、更に細いジェットへと分散する。この過程により、数十〜数百ナノメートルの均一な絹ナノファイバーが形成される。絹ナノファイバーの繊維径は好ましくは300〜2000nmであり、さらに好ましくは300〜1000nmである。
絹ナノファイバーを収集させる回転支持棒は、導電性のものであればよく、例えばステンレス、アルミニウムなどの金属棒などを用いることができる。また、目的とする管状構造物の大きさに応じて、外径1〜5mm、好ましくは2〜5mmのものを用いることができる。
回転支持棒に被せる樹脂製チューブは、当該樹脂製チューブからの管状構造物の剥離が容易なもので、電場に影響を与えないものであれば特に制限されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂;ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂の1種又は2種以上を用いて形成されたものが挙げられる。特に剥離性の点からフッ素樹脂製のチューブを用いるのが好ましい。
樹脂製チューブの外径は、目的とする管状構造物の大きさに応じて、外径1〜5mm、好ましくは2〜5mmのものを用いることができる。このとき、樹脂製チューブの内径を回転支持棒の外径に合わせるのが好ましい。また、樹脂製チューブの厚みは、収集効率の点から、300〜1500μm、好ましくは300〜1000μmとするのが好ましい。
また、樹脂製チューブには0.1〜5mmφの孔を設けるのが収集効率の点から好ましい。孔の大きさは好ましくは0.1〜3mmφ、より好ましくは0.5〜1.5mmφである。孔は樹脂製チューブにランダムに、或いは螺旋状に1〜5mmの間隔を開けて設けるのが好ましい。
絹ナノファイバーを回転支持棒に収集させる方向を適宜設定することで、絹ナノファイバーを任意の方向に概ね配向させた管状構造物を製造することができる。例えば、円周方向に配向させたい場合は、シリンジ液滴供給部から絹ナノファイバーが噴射する方向に対して直角方向に移動するシリンジの移動であるトラバースのスピードをゆっくりとし、かつ回転支持棒の回転を速くして円周方向に絹ナノファイバーを巻きつけ、長手方向に配向させたい場合は、その逆にトラバーススピードを上げ、かつ回転支持棒の回転スピードを落として製造する。
当該管状構造物は単層構造であってもよいが、引っ張り強度及び柔軟性の点から、好ましくは2〜4層、より好ましくは3〜4層の多層構造であることが好ましい。また、管状構造物の平均厚みは100〜300μm、好ましくは100〜150μmであることが好ましい。
本発明においては、回転支持棒に絹糸を巻き付けながら絹ナノファイバーを収集させるのが好ましい。絹糸を絹ナノファイバーと絡ませながら巻き付けることで、より引っ張り強度を向上させることができる。絹糸の割合は、管状構造物中の10〜20質量%、好ましくは10〜15質量%の範囲とするのが、柔軟性や弾力性、引っ張り強度の点から好ましい。
絹糸を用いる場合、例えば管状構造物を2層構造とする時は、先ず絹ナノファイバーのみを積層させて内層を形成し、次いで絹糸を巻き付けながら絹ナノファイバーを積層させて中層を形成するのが、細胞の透過性及び走性の確保、引っ張り強度の点から好ましい。また、管状構造物を3層構造とする時は、先ず絹ナノファイバーのみを積層させて内層を形成し、次いで絹糸を巻き付けながら絹ナノファイバーを積層させて中層を形成し、さらに絹ナノファイバーのみを積層させて外層を形成するのが、細胞の透過性及び走性の確保、柔軟性、弾力性並びに引っ張り強度の点から好ましい。
図1aに、絹フィブロイン溶解液からエレクトロスピニング法により絹ナノファイバーを形成させ、樹脂製チューブを被せた回転支持棒の周囲に収集させる操作を行う装置の一例を示す。当該装置は、シリンジ1、シリンジトラバース及びシリンジポンプ2、樹脂製チューブを被せた回転支持棒3、回転モーター4、可変電圧器5、絹フィブロイン溶解液6、液滴供給部7、電極8から構成されている。
先ず、シリンジ針などの液滴供給部7と絹フィブロイン溶解液6を充填したシリンジ1を接続し、シリンジトラバース及びシリンジポンプ2に取り付ける。樹脂製チューブを被せた回転支持棒3を回転モーター4に接続する。ここで、回転支持棒3とシリンジの間の距離は好ましくは5〜12cmである。一方、液滴供給部7を可変電圧器5の陽極に、電極8を可変電圧器5の陰極に接続する。
次いで、可変電圧器5により、液滴供給部7と電極8との間に電場を発生させ、液滴供給部7から絹フィブロイン溶解液6のジェットを電極8へ向けて噴射する。噴射されたジェットは更に細いジェットへと分散し、絹ナノファイバーが形成される。該絹ナノファイバーは、回転モーター4を回転させることでこれに接続した樹脂製チューブを被せた回転支持棒3の周囲に収集され、管状に構成されて管状構造物となる。
電圧は、好ましくは10〜30kVであり、絹フィブロイン溶解液の吐出速度は、0.03〜01mm/min、好ましくは0.04〜0.08mm/min、シリンジトラバース速度は、10〜20cm/min、好ましくは12〜16cm/minである。また、回転支持棒の回転速度は、5〜15m/min、好ましくは6〜10m/minである。
絹フィブロイン溶解液の吐出速度、回転支持棒の回転速度を変化させることで、管状構造物の密度や絹ナノファイバーの配向性を任意に設定できる。
このようにして得られた管状構造物を、樹脂製チューブに被せたまま回転支持棒から引き抜いた後、さらに絹フィブロイン溶解液に浸漬し、絹ナノファイバー相互あるいは混繊維相互を絹フィブロインにより膠着させるのが好ましい。溶解液中の絹フィブロイン濃度は、好ましくは0.1〜5w/v%程度であるが、低濃度の場合は浸漬と乾燥を繰返し行ってもよい。
あるいは、管状構造物をメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類へ浸漬してもよく、これにより絹ナノファイバーがゲル化し、管状構造物へ滅菌効果を付加することができる。また、水に不溶となる。
管状構造物は、樹脂製チューブから抜いて剥離させ、例えば80〜110℃の乾熱滅菌若しくは121℃20分間でのオートクレーブ滅菌をするのが好ましい。
さらに、得られた管状構造物を、絹フィブロインスポンジでコーティングすれば、より弾力性が向上した管状構造物が得られる。
ここで、絹フィブロインスポンジとは、絹フィブロインが不溶化し微細な多孔質構造となったものである。当該絹フィブロインスポンジで管状構造物をコーティングするには、絹水溶液とポリグリコールを含有する溶液に管状構造物を浸漬した後、凍結し、次いでポリグリコールを除去すればよい。当該溶液には、さらにヘパリンなどの抗血栓剤を含有させることもできる。
絹水溶液とは、前述したように絹フィブロインを中性塩水溶液に溶解、加熱した後、得られた絹フィブロイン/塩水溶液を脱塩処理したものである。水溶液中の絹フィブロイン濃度は、通常3〜15w/v%程度であり、塩濃度は、通常200w/v%〜250w/v%程度である。
また、ポリグリコールとしては、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのエーテル化物及びそれらの変性化合物等が挙げられる。
ここで、ポリアルキレングリコールとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシドを単独重合あるいは共重合したものが挙げられる。なお、ポリアルキレングリコールにおいて、構造の異なったアルキレンオキシドが共重合している場合、オキシアルキレン基の重合形式に特に制限はなく、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
また、ポリアルキレングリコールのエーテル化物としては、上記のポリアルキレングリコールの水酸基をエーテル化したものが挙げられる。なお、ポリアルキレングリコールのエーテル化物において、水酸基との間にエーテル結合を形成する末端基の種類は特に制限されず、また、全ての水酸基がエーテル化されていてもよく、一部が水酸基のまま存在していてもよいが、好ましい態様としては、モノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル、モノペンチルエーテル、モノヘキシルエーテル、モノヘプチルエーテル、モノオクチルエーテル、モノノニルエーテル、モノデシルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジデシルエーテル、ジデシルエーテル、ジグリシジルエーテル等が挙げられる。
また、ポリグリコールの変性化合物としては、ポリオールのアルキレンオキシド付加物、あるいはそのエーテル化物等が挙げられる。
より好ましいポリグリコールとしては、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル 、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
絹水溶液とポリグリコールの配合比(質量比)は、99:1〜1:9の範囲とすることが弾力性向上の点から好ましく、特に、50:1〜1:2が好ましい。
浸漬処理は、特に制限されないが、常温、常圧下或いは減圧下で行われる。浸漬時間は、30秒〜30分間程度が好ましい。浸漬後、−30℃〜−5℃で30分〜2時間凍結させる。これにより、コーティング用溶液中のポリグリコールは微細に凝固して均一に分散する。一方、絹水溶液中の絹フィブロインはβ化を起こし水に不溶となり、固化分散したポリグリコール又はその誘導体と絹フィブロインとが層分離する。
次いで、解凍後、純水中に浸漬又は純水で水流することによりポリグリコールが除去され、これにより、管状構造物の内部及び/又は外部が絹フィブロインスポンジによりコーティングされる。
また、本発明の管状構造物は、絹フィブロインからなる管状構造物を、絹フィブロインスポンジでコーティングすることにより得られる。これにより、絹フィブロインからなる管状構造物の弾力性を向上させることができる。
当該絹フィブロインスポンジによるコーティングは、前記と同様に行われる。すなわち、絹水溶液とポリグリコールを含有する溶液に管状構造物を浸漬した後、凍結し、次いでポリグリコールを除去することにより行われる。浸漬処理は前記と同じように行われる。
ここで、絹水溶液及びポリグリコールは前述したものを挙げることができる。
絹フィブロインからなる管状構造物としては、例えば絹フィブロイン繊維が編、組、織及び絡から選ばれる1又は2以上の方法により巻かれてなる管状構造物が挙げられる。絹フィブロイン繊維を管状に構成するには、公知の編法、組法、織法、絡法を用いることができる。また、絹フィブロイン繊維を用いて予め作製した編物や織物、その筒状物などを用いてもよい。繭糸、生糸を用いる場合は、管状に形成した後、セリシンを除去するのが好ましい。
例えば、絹フィブロイン繊維を編組する方法としては、特に制限されず、例えば八つ打ち、十二打ち、十六打ちなど公知の組紐技術を用いることができる。具体的には、煮繭から解いた繭糸又は精錬糸を熱可塑性樹脂製芯棒などに巻き付け、絹フィブロイン繊維を組むことにより行われる。ここで、熱可塑性樹脂製芯棒は、目的とする管状構造物の大きさに応じて、外径1〜5mm、好ましくは2〜5mmのものを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、例えばポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
また、絹フィブロイン繊維をニット編みして管状に形成すれば、弾力性に富み、且つ柔軟で、引っ張り強度に優れ、切断端のほつれ難い管状構造物とできる。ニット編みには、例えば、丸編(横編)、縦編、フルファッション、ラッシェル、トリコット等がある。ニット編み機は、特に制限されない。得られた絹布を前記熱可塑性樹脂製芯棒などに巻き付けて管状に形成すればよい。
また、管状構造物の内壁表面及び/又は外壁表面に起毛処理を施すのが、弾力性、柔軟性をより向上させる点から好ましい。ここで、起毛処理は、管状構造物表面の絹フィブロイン繊維を解繊し、繊維相互を絡ませられるものであればよく、繊維を管状構造物の表面に引き出すことで、表面を毛羽だった状態にする。起毛の程度は管状構造物の形状が保持されておれば特に制限されないが、起毛の長さを1〜3cm程度とするのが好ましい。処理は、例えば研磨剤による研磨、ブラシ状物でブラッシングすることができる。これらのうち、作業性の点から、金属、プラスチック、豚毛などの各種ブラシ状物を用いてブラッシングするのが好ましい。
本発明の管状構造物は、さらに元の60〜80%程度の長さになるまで長手方向に捻りを加えるのが好ましい。これにより、柔軟性や弾力性、伸縮性、耐久性を向上させることができる。捻り処理は、絹フィブロインスポンジでコーティングする前、コーティングした後のいずれでもよい。
また、管状構造物は、絹フィブロインスポンジでコーティングした後、さらに前記絹水溶液に浸漬してもよい。
本発明の管状構造物は、例えば人工血管、人工気管、ステントグラフト、その他生体の管状構造物の代用品として用いることができる。特に、絹の優れた生体適合性及び抗血栓性から、直径5mm以下、好ましくは1〜5mm以下の小口径人工血管に好適である。
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
参考例<家蚕絹フィブロイン溶解液の調製>
家蚕繭を鋏で細かく切断し(約2mm×10mm程度)、定法により精練して、フィブロインを覆うタンパク質(セリシン)やその他脂肪分などを除去した絹フィブロインを得た。セリシンの残留付着物の確認のため、走査型電子顕微鏡観察を行った。測定にはリアルサーフェイスビュー顕微鏡VE-7800(Keyence社製)を用い、カーボンテープでサンプルを固定し、非蒸着にて測定した。加速電圧は、1.3kV、Working distanceは7.3mmで測定した(以下、同じ)。得られた絹フィブロインを図2に示す。
次いで、この絹フィブロインを9M臭化リチウム水溶液に15w/v%となるように溶解した。この水溶液を、セルロース透析膜(VISKASESELES COAP社製 Seamless Cellulose Tubing 36/32)を用いて、3日間純水で透析を行い、塩化リチウムを取り除き、さらに遠心分離にて、溶け残りやゴミなどを除去して絹水溶液とした。この絹水溶液を、絹フィブロイン濃度が4.5w/v%となるようにヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、家蚕絹フィブロイン溶解液を得た。
実施例1
エレクトロスピニング装置はカトウテック社製のものを用いた。ポリテトラフルオロエチレン製チューブ(長さ12cm、内径2mmφ、外径3mmφ、サンプラテック社製)に5mm間隔で1mmφの孔を開け、ステンレス製の回転支持棒(14cm、外径2mmφ)に被せた(一例を図1bに示す)。これを図1aに示すように、エレクトロスピニング装置の回転部に装着した。
一方、上記参考例で得た家蚕絹フィブロイン溶解液をシリンジ(テルモ社製)へ充填し、回転支持棒との距離が9cmとなるように装置へ取り付けた。また、絹糸供給ノズル管口はシリンジ下1〜2cmに固定した。電圧は23kVとした。
回転支持棒を8mm /minの速度で回転させながら、シリンジトラバース速度14cm/min、家蚕絹フィブロイン溶解液吐出速度0.06mm/minで10分間噴射させた。
先ず、絹ナノファイバーのみを収集させて内層を形成した。次いで、絹糸をシリンジトラバース速度2cm/minの条件で同時に巻き付けながら積層させて中層を形成した後、更に絹ナノファイバーのみを積層させて外層を形成した。回転支持棒から分離することで、内径3mmφ家蚕絹人工血管を得た。この際、絹ナノファイバーの破れ・解れ等を生じることなく容易に剥離できた。
上記参考例で作製した絹フィブロイン溶解液中に3mmφ家蚕絹人工血管を浸漬し、-60mmHg圧力下にて5回の減圧浸透を行った後、110℃に設定した乾燥機中にて乾燥した。
乾燥後、50%エタノール水溶液に人工血管を浸漬し絹フィブロインを定着させた後、110℃に設定した乾燥機中にて再度乾燥した。
このようにして得られた3mmφ家蚕絹人工血管は、柔軟で弾力性に富み、任意な方向に切り込んでも切断端には解れが無いものであった。また、3mmφ家蚕絹人工血管の形態観察を走査型電子顕微鏡を用いて行った(図3)。絹ナノファイバーの繊維径は700〜1000μmであった。
実施例2
家蚕絹フィブロイン溶解液吐出速度0.06mm/minで1時間噴射させた以外は実施例1と同様にして、ポリテトラフルオロエチレン製チューブを被せた回転支持棒の周囲に絹ナノファイバーを収集させて管状に構成した。回転支持棒から分離することで、内径3mmφ家蚕絹人工血管を得た。この際、絹ナノファイバーの破れ・解れ等を生じることなく容易に剥離できた。
次いで、3mmφ家蚕絹人工血管を98%メタノール水溶液へ浸漬した後、110℃に設定した乾燥機中にて再度乾燥した。
このようにして得られた3mmφ家蚕絹人工血管は、柔軟で弾力性に富むものであった。
実施例3
家蚕絹フィブロイン溶解液吐出速度0.06mm/minで1時間噴射させた以外は実施例1と同様にして、ポリテトラフルオロエチレン製チューブを被せた回転支持棒の周囲に絹ナノファイバーを収集させて管状に構成した。
次いで、管状構造物をポリテトラフルオロエチレン製チューブに被せたまま、98%メタノール溶液へ浸漬した後、風乾した。これを、4w/v%絹水溶液にポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(アルドリッヒ社製、以下同じ)を3w/v%となるように混合したコーティング溶液に常圧下で1分間浸漬し、-20℃で1時間静置した。
室温で解凍した後、回転支持棒から分離することで、内径3mmφ家蚕絹人工血管を得た。得られた3mmφ家蚕絹人工血管を水中で3日間浸漬し、110℃に設定した乾燥機中にて乾燥した。
このようにして得られた内径3mmφ家蚕絹人工血管は、柔軟で、特に長軸方向に対し弾力性に富むものであった。
実施例4
熱可塑性樹脂製芯棒(塩化ビニル製芯棒)に家蚕絹製筒状トーションレース(二渡レース製)を被せて内径2mmφの人工血管を作製した。
次いで、内径2mmφ家蚕絹人工血管を98%メタノール水溶液へ浸漬した後、80℃に設定した乾燥機中にて乾燥した。これを、4w/v%絹水溶液にポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを3w/v%となるように混合したコーティング溶液に常圧下で1分間浸漬し、−20℃で1時間放置した。室温で解凍後、水中に3日間浸漬しポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを除去して、80℃に設定した乾燥機中にて乾燥した。
このようにして得られた内径2mmφ家蚕絹人工血管は、柔軟で、特に長軸方向に対し弾力性に富むものであった。
実施例5
ニット編み機は筒網機(KUNO社製)を用いた。21〜27デニールの太さで2〜6本縒り合わせた絹糸を用いて管状の絹布を作製した。熱可塑性樹脂製芯棒(塩化ビニル製芯棒)に絹布を被せて内径3mmφの人工血管を作製した。
次いで、上記参考例で作製した絹水溶液とポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを1:1となるように混合したコーティング溶液に、人工血管を-60mmHgの圧力下で1分間減圧浸漬した。浸漬を3回繰り返した後、上記参考例で作製した絹水溶液に浸漬した。絹水溶液中で−20℃で2時間放置した。蒸留水で解凍後、水中に3日間浸漬しポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを除去して、80℃に設定した乾燥機中にて乾燥した。
このようにして得られた内径3mmφ家蚕絹人工血管は、柔軟で、特に長軸方向に対し弾力性に富むものであった。
また、作製した人工血管をM05培地に一晩浸漬させ、その一部を加えた同じ培地でV79細胞を培養して細胞の増加を観察したところ、異常は見られず、よって毒性は認められなかった。
実施例6
実施例5と同様にして作製した絹布を熱可塑性樹脂製芯棒(塩化ビニル製芯棒)に被せて内径3mmφの人工血管を作製した。これをリョウビ社製電動ドリルに固定し、300rpmで回転させつつ金属製ブラシを外壁表面に接触させて起毛の長さが約2cmになるまで起毛させた。芯棒から人工血管を抜き取り、12w/v%マルセル石鹸で洗浄後、純水ですすいで乾燥させた。
次いで、上記参考例で作製した絹水溶液とポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを1:1〜3:2となるように混合したコーティング溶液に、人工血管を-60mmHgの圧力下で1分間減圧浸漬した。浸漬を3回繰り返した後、再度芯棒に被せ、元の70%の長さになるまで捻りを加えた。これを上記参考例で作製した絹水溶液に3回減圧浸漬した後、絹水溶液中で−20℃で2時間放置した。蒸留水で解凍後、水中に3日間浸漬しポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを除去して、80℃に設定した乾燥機中にて乾燥した。
得られた人工血管の形態観察を走査型電子顕微鏡を用いて行った(図4)。また、上記において捻り処理をしない人工血管を作製し、捻り処理をしたものと柔軟性を比較した。柔軟性は、長さLの作製した人工血管の片端を固定し、もう一方の端が垂直方向へ曲がったときの高さHとした場合、H/Lの値で求めた。結果を表1に示す。
表1に示すとおり、本発明の人工血管は、柔軟性に優れるものであった。また、捻りを長手方向加えることで、より柔軟性が向上することが確認された。
実施例7
実施例5と同様にして作製した絹布の両面を、金属製ブラシを接触させて起毛の長さが約2cmになるまで起毛させた。これを熱可塑性樹脂製芯棒(塩化ビニル製芯棒)に被せて内径3mmφの人工血管を作製した。次いで、片方を固定して元の約70%の長さになるまで捻りを加えた。
得られた人工血管を、実施例6と同様にしてコーティング溶液に浸漬した後、さらに絹水溶液に浸漬後−20℃で2時間放置した。蒸留水で解凍後、水中に3日間浸漬しポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを除去して、80℃に設定した乾燥機中にて乾燥した。
このようにして得られた内径3mmφ家蚕絹人工血管は、より柔軟で弾力性に富み、特に側面からの血液の漏洩が軽減した。
1 シリンジ
2 シリンジトラバース及びシリンジポンプ
3 樹脂製チューブを被せた回転支持棒
4 回転モーター
5 可変電圧器
6 絹フィブロイン溶解液
7 液滴供給部
8 電極
9 回転支持棒
10 樹脂製チューブ
11 樹脂製チューブに設けた孔

Claims (6)

  1. 絹フィブロイン溶解液を用いてエレクトロスピニング法により形成された絹ナノファイバーを、0.1〜5mmφの孔を設けた樹脂製チューブを被せた回転支持棒の周囲に収集させて管状に構成することを特徴とする管状構造物の製造方法。
  2. 回転支持棒に絹糸を巻き付けながら絹ナノファイバーを収集させる請求項1記載の管状構造物の製造方法。
  3. 樹脂製チューブが、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル及びフッ素系樹脂から選ばれる熱可塑性樹脂の1種又は2種以上を用いて形成されたものである請求項1又は2記載の管状構造物の製造方法。
  4. 管状構造物が小口径人工血管である請求項1〜のいずれか1項記載の管状構造物の製造方法。
  5. 請求項1〜のいずれか1項記載の製造方法によって得られた管状構造物を、絹フィブロインスポンジでコーティングすることを特徴とする、絹フィブロインスポンジコーティング管状構造物の製造方法。
  6. コーティングを、絹水溶液とポリグリコールを含有する溶液に管状構造物を浸漬した後、凍結し、次いでポリグリコールを除去することにより行う請求項記載の絹フィブロインスポンジコーティング管状構造物の製造方法。
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