JP4344112B2 - 生体組織様構造体、骨髄幹細胞の培養方法および培養用キット - Google Patents

生体組織様構造体、骨髄幹細胞の培養方法および培養用キット Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体組織や臓器の欠損部等の再生や、生体組織や臓器に対する薬理学、組織学、生理学または病理学的な検査をin−vitro培養系で行うために用いることのできる、生体組織様構造体に関する。また、本発明は、上述のような生体組織様構造体を得ることのできる培養方法であって、細胞の足場となる支持体上で骨髄幹細胞を増殖、分化させる骨髄幹細胞の培養方法、さらには、この培養方法に用いることのできる培養用キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ティシュエンジニアリング技術を基礎とした生体組織の欠損部の再生が熱心に試みられている。1つの試みとして、増殖分化ポテンシャルの高い幹細胞を用いることが考えられ、細胞培養技術を用いて種々の条件で幹細胞を増殖、分化させることは、現実にかなり可能となってきている。しかしながら、欠損部に細胞を与えるだけでは組織の再生は実現できず、これを可能とするためには、幹細胞を適当な足場材料とともに培養し、3次元の生体組織様構造体を得ることが必要となる。また、これらの構造体は、in−vitroにおける薬理学、組織学、生理学または病理学的な評価のための材料としても利用できる。なかでも、骨や軟骨といった骨系組織等の硬組織部分や、骨髄、皮膚、神経、脂肪および筋肉組織等の軟組織部分の欠損部を修復したり再生することを目的として、骨髄幹細胞を増殖、分化させ、利用する培養が注目されている。このような細胞培養、組織培養においては、使用する培養液や血清およびホルモン剤等の各種添加剤成分の種類を選択することは当然重要となるが、細胞の足場となる支持体材料としてどのような物性および機能を有するものを用いればよいかということが特に重要であるとして、様々な研究開発がなされている。
【0003】
上記細胞の足場となる支持体材料としては、1)細胞との親和性を有すること、2)組織再生に要する期間中十分な力学的強度が保持できること、3)生体分解吸収性を有し、組織再生の経過を妨げないようにその進行に応じて速やかに分解消失させうること、4)細胞が入り易くし、かつ入り込んだ細胞に対する酸素や栄養の供給を可能にするために多孔質であること、等が要求されると考えられている。そして、このような要求を満たす支持体材料を使用して骨髄幹細胞を培養すれば、培養中の足場の収縮がなく、細胞に対する酸素や栄養物の供給にも優れるため、より効率の良い細胞の増殖、分化が期待され、また、最終的に得られる細胞と足場材料との複合体も縮むことがないため、初期の設計どおりの移植用材料が得られるなどの優れた効果が期待できると考えられる。
【0004】
上記足場となる支持体材料としては、従来から、天然高分子であるコラーゲンを用いたスポンジ状成形体が知られているが、力学的強度が低いという欠点があり、実際に生体内に埋入した場合あるいは細胞接種のため細胞懸濁液に浸漬した場合、その形状が維持できないといった問題があった。一方、力学的強度の問題を解決する生体組織再生用材料として、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、あるいはこれらの共重合体、もしくはこれらとε−カプロラクトンとの共重合体等の生体分解性の合成高分子を用いたスポンジ状成形体や不織布等が提案されているが、生体分解性合成高分子のみからなる材料では、コラーゲンに比べて細胞との親和性に劣ると同時に、その分解消失に要する時間が長く、材料の残存が生体組織の再生の妨げになるといった問題があった。このように、コラーゲンもしくは生体分解性合成高分子を単独に用いた材料では、上記1)〜3)を同時に満足させることは難しかった。
【0005】
そこで、両者の短所を補う1つの方法として、近年、コラーゲンと生体分解性合成高分子との複合材料の開発がなされている。例えば、特開平7−236688号公報では、コラーゲンからなるスポンジ材料の少なくとも一部を生体分解性プラスチックで被覆した複合材料が提案されている。しかし、この複合材料は、その表面に合成高分子が存在するため、力学的強度には優れるものの、生体適合性については依然として低く、改良の余地があるものであった。他方、「人工臓器」29巻2号,463−467(2000年)には、乳酸/グリコール酸共重合体から作製したスポンジをコラーゲン溶液に浸漬した後、凍結乾燥して得られる複合材料が報告されている。しかし、このようにして得られた複合材料は、コラーゲンに対する合成高分子の比率が高く、細胞との親和性という点ではやはり十分に満足のいく性能は得られず、しかも材料が体内で分解吸収されるのに要する時間も組織再生の観点からは長すぎるといった問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の解決しようとする課題は、培養中の足場の収縮がなく、細胞に対する酸素や栄養物の供給にも優れるため、より効率の良い細胞の増殖、分化が期待され、また、最終的に得られる細胞と足場材料との複合体も縮むことがないため、初期の設計どおりの移植用材料が得られる等の優れた効果を得ることのできる骨髄幹細胞の培養方法、この培養方法に用いることのできる培養用キット、および、生体組織様構造物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、骨髄幹細胞の培養方法における支持体材料として、合成高分子の含有率が低く抑えられ且つ効果的に力学的強度を保持したものを用いればよいのではないかと考え、かかる知見に基づき試行錯誤および検討を繰り返したところ、コラーゲン等の天然高分子と生体分解吸収性合成高分子との複合材料であって、生体分解吸収性合成高分子を繊維状の形態で存在させるとともに天然高分子を架橋させてなる支持体材料を必須要素として用いれば、上記課題を一挙に解決し得ることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかる生体組織様構造体は、ポリグリコール酸および/またはその共重合体(ポリ乳酸および/またはポリ−ε−カプロラクトンとの共重合体)からなる生体分解性合成高分子が架橋した天然高分子からなるスポンジ中に繊維状の形態で存在してなる複合材料を必須材料として構成されたスポンジ状構造を有する支持体に、動物細胞培養液が含まれ、かつ、骨髄幹細胞、および/または、骨髄幹細胞から分化した生体組織細胞、および/または、前記分化過程における中間細胞が、前記スポンジ状構造を有する支持体の表面上および内部に支持されてなることを特徴とする。
発明にかかる骨髄幹細胞の培養方法は、ポリグリコール酸および/またはその共重合体(ポリ乳酸および/またはポリ−ε−カプロラクトンとの共重合体)からなる生体分解性合成高分子が架橋した天然高分子からなるスポンジ中に繊維状の形態で存在してなる複合材料を必須材料として構成されたスポンジ状構造を有する支持体と動物細胞培養液とを用い、前記スポンジ状構造を有する支持体の表面上および内部で骨髄幹細胞を増殖および/または分化させることを特徴とする。
【0009】
発明にかかる培養用キットは、ポリグリコール酸および/またはその共重合体(ポリ乳酸および/またはポリ−ε−カプロラクトンとの共重合体)からなる生体分解性合成高分子が架橋した天然高分子からなるスポンジ中に繊維状の形態で存在してなる複合材料を必須材料として構成されたスポンジ状構造を有する支持体、骨髄幹細胞、および/または、骨髄幹細胞から分化した生体組織細胞、および/または、前記分化過程における中間細胞、ならびに、動物細胞培養液をそれぞれ独立に構成要素として含むことを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜実施し得る。
本発明にかかる骨髄幹細胞の培養方法(以下、本発明の培養方法と称することがある。)は、架橋した天然高分子からなるスポンジ中に生体分解性合成高分子が繊維状の形態で存在してなる複合材料を必須材料として構成された支持体と動物細胞培養液とを用い、前記支持体上で骨髄幹細胞を増殖および/または分化させる培養方法である。
【0011】
本発明の培養方法においては、支持体は、生体組織再生用としても用いることのできる上記複合材料を必須要素とする。
上記複合材料は、特に限定はされないが、具体的には、天然高分子の溶液中に繊維状の生体分解吸収性合成高分子を含浸させた状態で凍結乾燥を行い、その後架橋処理を施して天然高分子を架橋することにより得ることができる。
天然高分子としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、グルテン、フィブロイン等のタンパク質およびこれらの誘導体;ポリアミノ酸およびこれらの誘導体;キチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、デンプン、デキストラン等の多糖およびこれらの誘導体;これらの2種以上からなる混合物および化学結合により作製された複合体;等が挙げられる。なお、天然高分子は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
天然高分子としては、上記列挙した中でもコラーゲンがより好ましい。コラーゲンとしては、特に限定はされるわけではなく、動物の骨や皮等を原料として得られる従来公知のコラーゲンであればよいが、具体的には、例えば、酸可溶化コラーゲン、酵素可溶化コラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン、酸素可溶性コラーゲン等の可溶性コラーゲン、または、該可溶化コラーゲンの化学修飾コラーゲンや、該可溶化コラーゲンからコラーゲン繊維を再生させた再生コラーゲン等を好ましく挙げることができる。上記可溶性コラーゲンとしては、I型コラーゲンがより好ましい。該I型コラーゲンは、骨、腱、象牙質などに認められるコラーゲンと一致するため、移植部位への置換性に優れており好ましい。さらに該I型コラーゲンのなかでも、アテロコラーゲンは、生体為害性の原因となる分子末端のテロペプタイドが酵素処理のより一部または全部除去されているので、生体に対して抗原性をほとんどまたは全く有しないため好ましい。より具体的には、例えば、豚皮由来I型コラーゲン、豚腱由来I型コラーゲン、牛鼻軟骨由来II型コラーゲン、魚から抽出したI型コラーゲン、遺伝子組換え型のコラーゲンあるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0013】
前述のように、上記複合材料を得る場合は、天然高分子は一旦溶液状にして取り扱うが、天然高分子としてコラーゲンを用いる場合、コラーゲン溶液の濃度としては、特に限定はされないが、具体的には、0.05〜10重量%とすることが好ましく、0.3〜2重量%とすることがより好ましい。コラーゲン溶液の濃度が、0.05重量%未満の場合は、コラーゲンの量が少なすぎて、スポンジ状の構造を十分に作製できないおそれがあり、10重量%を超える場合は、水溶液の粘度が高くなり、該スポンジを作製する際の取り扱いが困難となるおそれがある。
【0014】
また、天然高分子としてコラーゲンを用いる場合、前記コラーゲン溶液には、効果的に発泡させて得られるコラーゲンスポンジのポアサイズを最適な範囲にする目的で、水と相溶しない性質をもつ有機溶媒を添加することができる。このような有機溶媒としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、クロロホルム、四塩化炭素、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。これらは1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。なお、これら有機溶媒を添加する場合、その効果を十分に発揮させるためには、添加した後の有機溶媒濃度を2重量%以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは2〜20重量%、さらにより好ましくは2〜10重量%である。
【0015】
さらに、天然高分子としてコラーゲンを用いる場合、前記コラーゲン溶液には、コラーゲンスポンジの製造において従来から用いられている各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて添加しておいてもよい。具体的には、例えば、ムコ多糖類、細胞接着因子、細胞増殖因子、サイトカイン、ケモカイン等、あるいはこれらの物質の有する生理活性をもつタンパク質やペプチド等を添加しておくことにより、生体適合性をより向上させることができる。
生体分解性合成高分子としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ−ε―カプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリ−β−リンゴ酸、ポリオルソエステル、ポリジアミノホスファゼン、およびこれらの共重合体等が挙げられる。これらの中でも特に、一般的な組織再生の期間に適した生体分解性を有する点から、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ−ε―カプロラクトン、あるいはこれらの共重合体が好ましい。なお、生体分解性合成高分子は1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
生体分解性合成高分子は、繊維状になっていることが重要である。生体分解性合成高分子を繊維状の形態で存在させることにより、少ない含有量で十分な力学的強度を保持させることができる。詳しくは、該繊維は、長繊維であっても短繊維であってもよいが、例えば不織布をほぐした状態のように、十分に絡まりあっていることが好ましい。また、その繊維径も、特に限定されず、具体的には、1〜100μm径のものを好ましく用いることができる。
生体分解性合成高分子の含有量については、生体分解性合成高分子/天然高分子(乾燥重量比)=0.01〜5となるようにすることが好ましく、より好ましくは0.05〜3、さらにより好ましくは0.1〜1である。上記重量比が0.01未満であると、コラーゲンスポンジの体積を保つだけの力学的強度が得られないおそれがあり、5を超える場合は、生体分解性合成高分子がコラーゲンスポンジ内に多く露出し、該スポンジのみの場合よりも細胞親和性に劣るものとなるおそれがある。前述のように、生体分解性合成高分子は繊維状であるので、上記範囲のように生体分解性合成高分子の含有量が少なくても十分な力学的強度を保持させることができる。そして、生体分解性合成高分子の含有量が少ないことにより、優れた細胞との親和性を発現すると同時に、組織再生後に速やかに分解消失させることができる。天然高分子としてコラーゲンを用いる場合は、生体分解性合成高分子は、前記コラーゲンに対して(コラーゲン溶液(前記有機溶媒や各種添加剤を添加する前の状態)を用いる場合は含有コラーゲンの重量に対して)重量比(乾燥重量比)で、0.01〜5とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1である。
【0017】
凍結乾燥は、特に限定はされないが、具体的には、例えば、繊維状の生体分解性合成高分子を入れた容器内に天然高分子の溶液を加え、生体分解性合成高分子繊維を含浸させた状態にして行えばよい。このとき、容器に加える天然高分子の溶液は、通常のホモジナイザー等を用いて十分には発泡させておくことが好ましい。
凍結乾燥の方法については、常法に従って行えばよいが、具体的には、例えば、凍結の際の温度は−196〜−4℃とすることが好ましく、より好ましくは−100〜−4℃、さらにより好ましくは−90〜−10℃である。上記凍結乾燥の際の温度が、−196℃未満の場合は、得られたスポンジの孔径が小さく、細胞がスポンジ内に侵入して増殖、分化することができないおそれがあり、−4℃を超える場合は、スポンジの孔径が大きくなりすぎて細胞がスポンジ内に安定して存在できない、また、生体分解性高分子の繊維がスポンジ孔内に露出することで細胞親和性が損なわれるおそれがある。なお、スポンジ内へ細胞が侵入しやすく、また、細胞がスポンジ内で安定して存在し増殖や分化することができる点で、例えば、コラーゲンスポンジの孔径は、80〜300μmであることが好ましい。
【0018】
凍結乾燥により得られたスポンジには、続いて架橋処理を施すことが重要である。すなわち、この架橋処理によりコラーゲン等の天然高分子を架橋する。架橋した天然高分子とすることにより、スポンジの生体分解性をコントロールし、生体分解性合成高分子の含有量が少なくても十分な力学的強度を保持させることができる。
架橋処理の方法については、特に限定はされないが、具体的には、例えば、従来公知の化学架橋法、真空下での熱脱水架橋法、紫外線照射による架橋法等を採用すればよい。
【0019】
化学架橋を行う場合は、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、カルボニルイミダゾール、ジエポキシ化合物、ジ酸無水物、エピクロルヒドリン等の架橋剤を用いればよく、公知の架橋方法を用いて行えばよい。
真空下で熱脱水架橋させる場合は、特に限定はされないが、具体的には、架橋温度は100〜170℃であることが好ましく、より好ましくは110〜160℃、さらにより好ましくは120〜160℃であり、架橋に要する時間は2〜120時間であることが好ましく、より好ましくは3〜100時間、さらにより好ましくは6〜24時間である。架橋温度が100℃未満の場合は、熱脱水架橋が十分にできないおそれがあり、170℃を超える場合は、コラーゲンあるいは生体分解性合成高分子の熱分解や熱劣化を引き起こすおそれがある。また、架橋に要する時間が、2時間未満の場合は、温度にも依存するが、熱脱水架橋が十分にできないおそれがあり、120時間を越える場合は、コラーゲンあるいは生体分解性合成高分子の熱分解や熱劣化を引き起こすおそれがある。
【0020】
紫外線照射による場合は、特に限定はされないが、具体的には、紫外線の波長は、200〜400nmの紫外線を照射することが好ましく、より好ましくは200〜350nm、さらにより好ましくは200〜300nm、特に好ましくは254nmであり、紫外線の照射時間は、1分〜24時間であることが好ましく、より好ましくは3分〜18時間、さらにより好ましくは3分〜10時間である。紫外線の波長が、200nm未満の場合は、コラーゲンあるいは生体分解性合成高分子の分解や劣化を引き起こすおそれがあり、400nmを越える場合は、十分に架橋できないおそれがある。また、照射時間が、1分未満の場合は十分に架橋できないおそれがあり、24時間を越える場合は、コラーゲンあるいは生体分解性合成高分子の分解や劣化を引き起こすおそれがある。
【0021】
このようにして得られる生体組織再生用の複合材料は、架橋した天然高分子からなるミクロポーラスなスポンジの中に、繊維状の生体分解吸収性合成高分子がランダムに埋入され存在してなる形態を有する。よって、細胞との親和性に優れ、組織再生に要する期間には十分な力学的強度が保持でき、しかも組織再生後には速やかに分解消失させることができる適度な生体分解性を兼ね備えたものとなる。従って、例えば、皮膚、歯肉、歯髄、骨髄、筋肉および脂肪等の軟組織、神経組織、軟骨組織、骨組織、肝臓、膵臓、精巣、卵巣および腎臓等の内分泌組織、食道や胃腸等の消化管、気管、膀胱、尿管および尿道等の泌尿器器官、歯、目の周辺組織、血管、リンパ管、涙管などの管組織、唾液腺、汗腺、脂腺などの腺組織、歯周組織、腱、じん帯等の欠損部を再生させるための、細胞の増殖、分化を行う際の足場材料として有用であるが、本発明の培養方法では、上記複合材料は、骨髄幹細胞のin−vitroにおける増殖、分化のための培養の足場材料として有効に利用される。
【0022】
本発明の培養方法における支持体としては、上記複合材料のみではなく、他の材料を併用してもよい。
上記他の材料としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、ハイドロキシアパタイト(hydroxyapatite(HAP))、tri−calcium phosphate(TPC)、Poly(DL−lactic−co−glycolic acid(PLGA)多孔体、コラーゲンスポンジ(collagen sponge)などを挙げることができる。支持体全体中の、上記他の材料の含有割合は、上記複合材料の効果を極端に妨げない程度で用いるのが好ましい。
【0023】
本発明の骨髄幹細胞の培養方法において用いる動物細胞培養液としては、特に限定されるわけではなく、例えば、通常一般的に、骨髄幹細胞や各種生体組織細胞の培養に用いることのできる動物細胞培養用の培養液であればよいが、血清およびホルモン物質を含む動物細胞培養液であることが好ましい。
上記動物細胞培養液のベースメディウムとしては、天然培地であっても合成培地であってもよく、特に限定はされないが、動物由来物質からの細菌やウイルスなどの感染、供給の時期や場所による組成のばらつき等の点を考慮すれば、合成培地がより好ましい。合成培地としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、α−MEM(ALPHA−MINIMUM ESSENTIAL MEDIUM)、Eagle MEM、Dulbeco MEM、RPM±−1640、CMRC、HAM、DME/F12、199培地、MCDB培地、IMEMなどを挙げることができる。天然培地としては、通常公知の天然培地を挙げることができ、特に限定はされない。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
動物細胞培養液に含まれる血清としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、仔牛胎児血清、ヒト自己血清、市販のヒト血清、ウマ血清などを挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。血清は、細胞増殖因子などを含み細胞の増殖を促進させる、細胞接着因子などを含み細胞の細胞基質(支持体)への接着を促進させる等の役割を果たす成分であるため、上記動物細胞培養液の必須要素とする。また、ウマ血清は細胞の選別に使用できる。
また、同様に、動物細胞培養液に含まれるホルモン物質としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、インシュリン、トランスフェリン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、チロキシン、3,3’,5−トリヨードチロニン、β−メルカプトエタノール、ジメチルスルホキシド、1−メチル−3−ブチルキサンチン、プロゲステロン、ブチル化ヒドロキシアニソールなどを挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。このうち、デキサメタゾンは、骨系細胞への分化誘導に使用することができる。ホルモン物質は、細胞の生存、分化誘導、分化状態維持等の役割を果たす成分であるため、上記動物細胞培養液の必須要素とする。
【0025】
本発明の骨髄幹細胞の培養方法における動物細胞培養液には、上記血清およびホルモン物質以外の他の成分を添加してもよい。
他の成分としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、アスコルビン酸(特に、L−アスコルビン酸)、β−グリセロホスフェート、ビオチン、パントテン酸カルシウム、アスコルビン酸二リン酸、ビタミンD3、亜セレン酸ナトリウム、リノール酸、レチノイン酸、ピルビン酸、プトレッシン、モノチオグリセロール、グルタミンなどを挙げることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。該他の成分の、動物細胞培養液中の含有量については、上記血清およびホルモン物質の効果を極端に妨げない程度で用いるのが好ましい。
【0026】
本発明の培養方法は、骨髄幹細胞を増殖および/または分化させる培養方法であるが、ここで、骨髄幹細胞を分化させるとは、生体組織細胞まで最終分化させることのみではなく、生体組織細胞に至るまでの分化過程における各段階の分化状態の細胞、例えば、前駆細胞や芽細胞等の中間細胞への分化も含むとする。また、上記培養方法では、骨髄幹細胞そのものを増殖させることも、骨髄細胞を分化させるとともに増殖させることも含むとし、さらに、最終的に生体組織とするために形態形成させることも含んでいてよいとする。具体的には、例えば、骨髄幹細胞を所望の生体組織細胞にまで最終分化させることだけではなく、その生体組織細胞を増殖させることや、さらに形態形成させることも含んでいてよい。
【0027】
骨髄幹細胞としては、特に限定はされるわけではなく、骨髄間葉系幹細胞や造血幹細胞などを含むが、具体的には、例えば、動物の骨髄組織から無菌的に取り出した骨髄細胞;動物の歯髄組織から無菌的に取り出した歯髄細胞;動物から無菌的に取り出した各種血球細胞等を、コラーゲンゲル上で初代培養してコラーゲンゲルに付着した細胞を単離したものが好ましい。なお、コラーゲンがない状態でも通常の培養ディッシュに付着させ単離したものでもよい。より具体的には、無菌的に取り出された細胞を、細胞の成育に悪影響を与える交雑物を除くため(培養時のコンタミネーションを防ぐため)、上述の培養液で洗浄し、EGTA(エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)四酢酸)処理をした後、遠心分離などの操作で回収して、上記初代培養に供することにより得られたものが好ましい。また、上記初代培養は、特に限定はされないが、具体的には、例えば、5%CO2、37℃のインキュベーター内でコラーゲンゲル上で行われることが好ましい。初代培養された細胞は、コラーゲンを消化する酵素(例えば、コラゲナーゼ等)でコラーゲンゲルを消化することにより、コラーゲンゲルに付着している状態から単離して得られ、本発明の培養方法に用いられることが好ましい。
【0028】
なお、本発明の培養方法においては、骨髄幹細胞のみではなく、骨髄幹細胞から最終分化した生体組織細胞や、該分化過程における前駆細胞や芽細胞などの各種中間細胞等を用いて培養する(増殖させる、分化させる)こともできる。これら骨髄幹細胞、生体組織細胞、中間細胞は、必要に応じ、低温保存や凍結保存しておいて用いることが好ましい。
本発明の培養方法は、前述した支持体上で、上記骨髄幹細胞を培養するが、支持体上で培養するとは、具体的には、支持体の表面に上記骨髄幹細胞を通常の手法により播種して培養する、いわゆる二次元的培養であってもよいし、あるいは、支持体中に通常の手法(例えば、支持体表面に細胞を播種した後この細胞の上にさらに支持体材料を形成して覆う方法や、支持体内に細胞懸濁液を注入する方法、支持体表面に細胞懸濁液をのせて自然に細胞を支持体内に浸み込ませる方法、支持体を作製するための懸濁液に予め細胞も懸濁させておく方法など)により包埋するような形態で播種して培養する、いわゆる三次元的培養であってもよく、特に限定はされない。
【0029】
本発明の培養方法において、骨髄幹細胞を増殖させるために培養する場合、および/または、骨髄幹細胞を所望の生体組織細胞へ分化させる若しくは該分化過程の各種中間細胞へ分化させる場合やこれら生体組織細胞や中間細胞をさらに増殖させる場合は、例えば培養液中の血清およびホルモン物質の種類や添加量などの各種培養諸条件については、通常公知の条件等を適宜選択して行えばよい。また、骨髄幹細胞から最終分化させて得られる生体組織細胞としては、特に限定されるわけではなく、生体硬組織細胞や生体軟組織細胞など、どのような生体組織細胞を目的の細胞としてもよいが、具体的には、例えば、骨芽細胞、破骨細胞、軟骨芽細胞、歯根膜細胞、脂肪細胞、筋肉細胞、神経細胞等を挙げることができる。これら生体組織細胞は、1種のみであっても、2種以上が共存しているものであってもよい。
【0030】
本発明にかかる生体組織様構造体(以下、本発明の生体組織様構造体と称することがある。)は、架橋した天然高分子からなるスポンジ中に生体分解性合成高分子が繊維状の形態で存在してなる複合材料を必須材料として構成された支持体に、動物細胞培養液が含まれ、かつ、骨髄細胞、および/または、骨髄幹細胞から分化した生体組織細胞、および/または、骨髄細胞から生体組織細胞への分化過程における中間細胞が支持されてなる、生体組織様構造体である。
本発明の生体組織様構造体は、例えば、生体組織や臓器の欠損部への再生用の移植用材料として用いられたり、in−vitroでの細胞の薬理学、組織学、生理学的および病理学的検査を行うために用いられたりすることが好ましいが、特に用途は限定されない。
【0031】
本発明の生体組織様構造体は、上記本発明の培養方法により得られるものであることが好ましい。また、本発明の生体組織様構造体において、支持体、骨髄幹細胞、分化した生体組織細胞、分化過程における中幹細胞および動物細胞培養液等については、上記本発明の培養方法の説明で記載したものと同様であることが好ましい。具体的には、上記生体組織細胞とは、骨髄幹細胞から最終分化した生体組織細胞であり、上記中間細胞とは、骨髄幹細胞から上記生体組織細胞への分化過程における各段階の分化状態の細胞、例えば、前駆細胞や芽細胞などである。また、本発明の生体組織様構造体においては、支持体に生体組織細胞が支持されてなる場合は、最終的に生体組織として形態形成させた状態も含んでいてよいとする。
【0032】
本発明の生体組織様構造体においては、支持体に、骨髄幹細胞や上記生体組織細胞や上記中間細胞が支持されており、該生体組織細胞や中間細胞としては目的とする移植部分に好適な生体組織細胞または中間細胞として分化させているものや、前述したような各種検査の対象とする生体組織細胞や中間細胞として分化させているものが好ましいが、骨髄幹細胞やこれら生体組織細胞または中間細胞に限らず、別の組織や臓器に用い得る生体組織細胞などの他の細胞も共に支持されていてもよいとする。また、支持体に支持されている形態としては、特に限定はされないが、具体的には、支持体の表面上に接着し二次元的に支持されている形態であっても、スポンジ状構造を有する支持体の内部の任意の各所に接着し3次元的に支持されている形態であってもよく、さらに、これら両形態を合わせた形態であってもよいとするが、本発明の生体組織様構造体を移植に用いる上では、スポンジ状構造を有する支持体の内部に3次元的に支持されている形態が好ましい。また、2種類以上の細胞が入っている場合には、それらの細胞が別々に存在していても、混合されていてもよく、層状、海島状などある規則性をもって細胞あるいは細胞集合体が分布していてもよい。上記各種検査に用いる生体組織様構造物の場合には、あらゆる種類の細胞の組み合わせが考えられる。
【0033】
本発明の生体組織様構造体は、移植用材料として用いる場合は、歯周病治療、歯周組織再生療法、歯周病により吸収された歯槽骨や歯根膜の再生において、骨欠損部の修復材、歯根膜細胞複合化インプラント材などのハイブリッド型の修復材として、骨折や先天的な骨の欠陥および外科的に生じた骨の欠損等の骨欠損部や、補遺を必要とする骨の構造および歯周の欠陥(例えば、歯根膜細胞の欠損)等の、生体の硬組織の欠損部などに対して、整形外科や歯科などの医師によく知られた標準的な外科的手術(例えば、骨髄または骨片だけを供給する際に用いられる方法)を用いて移植され得る。また、筋肉、皮膚、脂肪等の他の生体の軟組織における欠損部などに対して、脳神経外科、形成外科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、小児科、一般外科、心臓血管科、胸部外科、腹部科、整形外科などの医師によく知られた標準的な外科的手術(例えば、皮膚だけを供給する際に用いられる方法)を用いて移植され得る。移植に先立って、組織適合性をチェックする必要があることおよびその方法も、従来の移植用材料に対する扱いと同様である。
【0034】
前述のように、本発明の生体組織様構造体においては、所望の動物細胞培養液を含んだ状態で生体に移植されたり各種検査に用いられたりするが、具体的には、上記生体組織細胞が支持されている支持体が該培養液を(スポンジが水分を含むように)含浸してなる形態であってもよいし、該培養液に上記生体組織細胞が支持されている支持体が浸されている形態(さらには浸された状態で包装されている形態)であっても、これらを合わせた形態であってもよく、特に限定はされない。
本発明にかかる培養用キット(以下、本発明の培養用キットと称することがある。)は、架橋した天然高分子からなるスポンジ中に生体分解性合成高分子が繊維状の形態で存在してなる複合材料を必須材料として構成された支持体、骨髄幹細胞、および/または、骨髄幹細胞から分化した生体組織細胞、および/または、前記分化過程における中間細胞、ならびに、動物細胞培養液をそれぞれ独立に構成要素として含む培養用キットであり、また、これら構成要素の中の少なくとも1つを含む培養用キットであってもよいが、いずれにおいてもこれら構成要素以外に他の構成要素を含んでいてもよい。
【0035】
本発明の培養用キットは、例えば、上記本発明の培養方法を行うために用いることができる。また、本発明の培養用キットにおいて、支持体、骨髄幹細胞、分化した生体組織細胞、分化過程における中幹細胞および動物細胞培養液等については、上記本発明の培養方法の説明で記載したものと同様であることが好ましい。具体的には、上記生体組織細胞とは、骨髄幹細胞から最終分化した生体組織細胞であり、上記中間細胞とは、骨髄幹細胞から上記生体組織細胞への分化過程における各段階の分化状態の細胞、例えば、前駆細胞や芽細胞などである。
本発明の培養用キットには、上述のように骨髄幹細胞や上記生体組織細胞や上記中間細胞を含むが、これら細胞は、本キットの構成要素として、例えば、通常、細胞の生活性を維持できる程度の条件化で保存された状態であって、本発明のキットを用いて培養を行う際に、細胞の増殖や分化または生体組織形態形成を行うことができる状態であればよい。また、上記生体組織細胞や中間細胞を含む場合は、予め所望の条件下で骨髄幹細胞から分化および/または増殖させたものを用いればよいとする。
【0036】
本発明の培養用キットにおいて、動物細胞培養液は、既に必要な成分や所望の成分が添加され培養液として調製されている状態であってもよいし、各成分が別々の状態で備えられていてもよく、また、本発明のキットを用いて培養を行う際に、使用者の方で培養液を調製できるよう例えば必要成分等を粉末などの状態にして備えられていてもよく、最終的に上記動物細胞培養液を調製できる状態で備えられていれば、特に限定はされない。
本発明の培養用キットにおいては、支持体についても同様に適宜所望の状態で備えておくことができる。具体的には、例えば、支持体そのものをそのままの状態で備えていても、何らかの保存液に浸漬させて備えておいてもよいとする。
【0037】
上記他の構成要素としては、特に限定はされないが、具体的には、例えば、培養容器などの通常足場材料となる支持体を用いて骨髄幹細胞等を培養する場合に用いる物品等や、抗生物質等の種々の添加剤を挙げることができる。これらは、1種のみ含んでいても2種以上含んでいてもよい。
【0038】
【実施例】
以下に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と記すことがある。また、「重量%」を単に「wt%」と記すことがある。
−実施例1−
〔PGA−コラーゲンスポンジの調製〕
ポリグリコール酸(PGA)からなる不織布3mg分を切り出し、ピンセットで均一にほぐし、シリコン(「シグマコート」SIGMA社製)でコーティングしたアルミキャップ(20mmφ、34mmH)の中に入れた。次に、0.3重量%の豚皮由来I型コラーゲン溶液1.5gに、クロロホルムをクロロホルム濃度が約5重量%となるように添加し、ジェネレーターシャフト付ホモジナイザーを用いて12000rpmで3分間攪拌した後、該溶液を前記アルミキャップに添加した。次いで、該アルミキャップを−80℃で12時間凍結した後、0.1トール未満の真空下で24時間凍結乾燥を行った。その後、140℃、0.1トール未満の真空下で12時間熱脱水架橋を行い、ポリグリコール酸/コラーゲン=0.67(重量比)であるPGA−コラーゲンスポンジ複合材料を得た。
〔骨髄間葉系幹細胞の調製〕
フィッシャー系ラット(F344、雄、7週齢)をエーテル麻酔下で屠殺後、左右の大腿骨を採取した。採取した大腿骨を氷上の滅菌済みのシャーレに静置、骨幹部の筋組織を除去した後、大腿骨の両端を切除した。注射筒(1.8G、2.5ml)に10%牛胎児血清含有α−MEM(GIBCO社製)を1ml入れ、大腿骨両端から0.5mlずつ注入して骨髄を採取した。得られた骨髄を50mlチューブに集めた後、直径10.0cmのディッシュを用い、10%牛胎児α−MEM(ペニシリン100unit/ml、ストレプトマイシン0.1g/ml)中で、37℃、5%CO2の条件下にて培養した。3日後に、浮遊細胞を除去し、ディッシュ表面に付着した接着細胞を骨髄間葉系幹細胞として回収した。回収した細胞をsubconfluent(増殖細胞がディッシュ表面の80%程度をカバーする状態)になるまで培養した後、2日間継代培養して、骨髄間葉系幹細胞を調製した。
〔三次元培養〕
調製した骨髄間葉系幹細胞をトリプシン処理し、α−MEM細胞浮遊液とした。直径1.8cm、高さ3mmのPGA−コラーゲンスポンジを培養支持体とし、これに調製した骨髄間葉系幹細胞を注射針(21G)を用いて5×106cells/スポンジとなるように播種し、b−FGF(2.5ng/ml、科研製薬社製)およびデキサメタゾン(10nM、和光純薬社製)を含有した10%牛胎児血清含有α−MEM(GIBCO社製)培養液中で、21日間培養した。
【0039】
培養期間中、PGA−コラーゲンスポンジを、肉眼的および組織学的に観察し、該スポンジに支持されてなる細胞のアルカリホスファターゼ活性の測定を行った。該観察および測定については、後で詳述する。
−比較例1−
〔コラーゲンスポンジの調製〕
0.3重量%の豚皮由来I型コラーゲン溶液1.5gに、クロロホルムをクロロホルム濃度が約5重量%となるように添加し、ジェネレーターシャフト付ホモジナイザーを用いて12000rpmで3分間攪拌した後、該溶液を、シリコン(「シグマコート」SIGMA社製)でコーティングしたアルミキャップ(20mmφ、34mmH)に添加した。次いで、該アルミキャップを−80℃で12時間凍結した後、0.1トール未満の真空下で24時間凍結乾燥を行った。その後、140℃、0.1トール未満の真空下で12時間熱脱水架橋を行い、比較用のコラーゲン単独材料を得た。
〔三次元培養〕
実施例1で調製した骨髄間葉系幹細胞をトリプシン処理し、α−MEM細胞浮遊液とした。直径1.8cm、高さ3mmのコラーゲンスポンジを培養支持体とし、これに調製した骨髄間葉系幹細胞を注射針(21G)を用いて5×106cells/スポンジとなるように播種し、b−FGF(2.5ng/ml、科研製薬社製)およびデキサメタゾン(10nM、和光純薬社製)を含有した10%牛胎児血清含有α−MEM(GIBCO社製)培養液中で、21日間培養した。
【0040】
実施例1と同様に、培養期間中、PGA−コラーゲンスポンジを、肉眼的および組織学的に観察し、該スポンジに支持されてなる細胞のアルカリホスファターゼ活性を行った。
≪肉眼的観察および組織学的観察≫
〔観察方法〕
肉眼的観察としては、裸眼で観察すればよく、必要に応じてルーペ等の拡大鏡等を用い、これによって細胞の足場材料となる支持体の形状変化等を確認することができる。
【0041】
また、組織学的観察の方法は、培養後のスポンジを12well(容器)へ移し、PBS(−)で10分間、3回洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド(in 0.1M PB)で固定した。通法に従い、薄切片を作成し、ヘマトキシリンエオジン染色を行った。これによって、細胞を染色することができ、細胞の形態と細胞の局在を確認することができる。
〔観察結果・考察〕
肉眼的観察では、比較例1で用いたコラーゲンスポンジは、培養1日目から収縮が始まり、培養9日目ではその直径が初めの1/3になっていたが、実施例1で用いたPGA−コラーゲンゲルスポンジは、培養21日目においても初めの形態を保っていた。
【0042】
組織学的観察では、比較例1では、培養後ほとんどの細胞がスポンジ表面に見られたが、実施例1では、スポンジ表面のみではなく、スポンジ内部にも多く見られた。
よって、PGA−コラーゲンスポンジは、コラーゲンスポンジよりも三次元培養の足場材料として有用なものであることが分かった。コラーゲンスポンジは、培養中、収縮したり変形したりするため、細胞がスポンジ内でも増殖しにくいのに対し、PGA−コラーゲンスポンジでは、そのような収縮や変形がほとんどなく、培養期間中、スポンジ内への細胞の進入増殖のための足場が最適に確保されるからである。
≪アルカリホスファターゼ活性測定≫
〔測定方法〕
培養後のスポンジを12well(容器)へ移し、PBS(−)で10分間、3回洗浄した。その後、−30℃で24時間凍結保存を行った。測定時、凍結、融解を繰り返した後、16mMのp−NPP(SIGMA社製)を各wellに加えて、室温において20分間振とうした。1NのNaOHを各wellに加えて反応を停止し、MICRO PLATE READER(TOSOH社製)を用いて、415〜600nmで測定した。これによって、溶液の吸光度を測定でき、予め作成しておいた吸光度とアルカリホスファターゼ活性との検量線から活性を求めることができる。
〔測定結果・考察〕
実施例1におけるアルカリホスファターゼ活性測定値は、比較例1のそれと比較すると明らかに高い値を示した。具体的には、実施例1の方が2.3倍高い値を示した。
【0043】
このようにPGA−コラーゲンスポンジを用いた場合の活性が高かったのは、上述と同様に、培養期間中のスポンジの収縮、変形がほとんど無かったためである。骨髄幹細胞の培養方法においては、PGA−コラーゲンスポンジは、in−vivoであってもex−vivoであっても取り扱いまで含めて優れた特性を有しており、生体組織再生等の移植用材料のscaffold(足場、支持体)として非常に有用である。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、培養中の足場の収縮がなく、細胞に対する酸素や栄養物の供給にも優れるため、より効率の良い細胞の増殖、分化が期待され、また、最終的に得られる細胞と足場材料との複合体も縮むことがないため、初期の設計どおりの移植用材料が得られる等の優れた効果を得ることのできる骨髄幹細胞の培養方法、この培養方法に用いることのできる培養用キット、および、生体組織様構造体を提供することができる。

Claims (3)

  1. ポリグリコール酸および/またはその共重合体(ポリ乳酸および/またはポリ−ε−カプロラクトンとの共重合体)からなる生体分解性合成高分子が架橋した天然高分子からなるスポンジ中に繊維状の形態で存在してなる複合材料を必須材料として構成されたスポンジ状構造を有する支持体に、動物細胞培養液が含まれ、かつ、骨髄幹細胞、および/または、骨髄幹細胞から分化した生体組織細胞、および/または、前記分化過程における中間細胞が、前記スポンジ状構造を有する支持体の表面上および内部に支持されてなる、生体組織様構造体。
  2. ポリグリコール酸および/またはその共重合体(ポリ乳酸および/またはポリ−ε−カプロラクトンとの共重合体)からなる生体分解性合成高分子が架橋した天然高分子からなるスポンジ中に繊維状の形態で存在してなる複合材料を必須材料として構成されたスポンジ状構造を有する支持体と動物細胞培養液とを用い、前記スポンジ状構造を有する支持体の表面上および内部で骨髄幹細胞を増殖および/または分化させる、骨髄幹細胞の培養方法。
  3. ポリグリコール酸および/またはその共重合体(ポリ乳酸および/またはポリ−ε−カプロラクトンとの共重合体)からなる生体分解性合成高分子が架橋した天然高分子からなるスポンジ中に繊維状の形態で存在してなる複合材料を必須材料として構成されたスポンジ状構造を有する支持体、骨髄幹細胞、および/または、骨髄幹細胞から分化した生体組織細胞、および/または、前記分化過程における中間細胞、ならびに、動物細胞培養液をそれぞれ独立に構成要素として含む、培養用キット。
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