JP2021080573A - タンパク質フィラメントの開繊トウ及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】極太糸を容易に製造可能な、タンパク質フィラメントの開繊トウ及びその製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】本発明に係るタンパク質フィラメントの開繊トウにおいて、タンパク質フィラメントは、改変フィブロインを含み、かつ、捲縮を有する。【選択図】図6
Description
本発明は、タンパク質フィラメントの開繊トウ及びその製造方法に関する。
タンパク質繊維には、シルク等のフィラメント(長繊維)とウール等のステープル(短繊維)があり、前者はしなやかな風合いを有し、また後者はソフト感や保温性を有する等、それぞれが独自の特性を備えている。このようなタンパク質繊維は、いずれも合成繊維とは異なって、生分解性を有し、生産や加工のエネルギーが小さいこと等から、近年の環境保全意識の高まりに応じて、様々な分野への需要の増大が見込まれている。
ところで、近年、そのようなタンパク質繊維からなる編物の一種として、チャンキーニットセーターやチャンキーニットブラケット等、いわゆる極太毛糸の編成物が流行している。ところが、毛糸はウール等のステープルで構成されているため、チャンキーニットセーターやチャンキーニットブラケット等の編成に用いられる長尺で極太の毛糸を製造するには、例えば、フィラメントを用いて極太の糸を製造する場合に比して工数がかさむといった不具合があった。ここで、タンパク質フィラメントから極太糸を得るには、例えば、シルクの捲縮フィラメントの束を開繊した、いわゆる開繊トウを用いることが考えられる。引用文献1には、捲縮を有する天然シルクのフィラメントの束を開繊して、開繊トウよりも高度に開繊されたシルクわたを得る方法が開示されている。
しかしながら、天然のシルクは、1本の長さがせいぜい1500m程度であるため、編物を編成する際に、開繊トウを多数つなぎ合わせる作業が必要であった。それ故、極太毛糸の代替として、天然シルクの開繊トウを用いる場合にあっても、編み物編成用の極太糸の製造に余分な工数がかかるといった問題が内在していた。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、極太糸を容易に製造可能な、タンパク質フィラメントの開繊トウ及びその製造方法を提供する。
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
タンパク質フィラメントの開繊トウであって、上記タンパク質フィラメントは、改変フィブロインを含み、かつ、捲縮を有する、開繊トウ。
[2]
上記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、[1]に記載の開繊トウ。
[3]
上記改変フィブロインが、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列を有する、又は、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、[1]又は[2]に記載の開繊トウ。
[4]
タンパク質フィラメントの開繊トウを製造する方法であって、タンパク質フィラメントの束を捲縮させる工程と、捲縮された上記タンパク質フィラメントの上記束を開繊して、開繊トウを得る工程と、を備え、上記タンパク質フィラメントは改変フィブロインを含む、製造方法。
[5]
上記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、[4]に記載の製造方法。[6]
上記捲縮させる工程が、上記タンパク質フィラメントの上記束を機械的に捲縮させること、又は、上記タンパク質フィラメントの上記束を水性媒体に接触させることを含む、[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7]
上記捲縮させる工程が、上記タンパク質フィラメントの上記束を機械的に捲縮させ、次いで水性媒体に接触させることを含む、[6]に記載の製造方法。
[8]
上記水性媒体の温度が、10〜230℃である、[6]又は[7]に記載の製造方法。
[9]
上記改変フィブロインが、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列を有する、又は、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、[4]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[1]
タンパク質フィラメントの開繊トウであって、上記タンパク質フィラメントは、改変フィブロインを含み、かつ、捲縮を有する、開繊トウ。
[2]
上記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、[1]に記載の開繊トウ。
[3]
上記改変フィブロインが、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列を有する、又は、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、[1]又は[2]に記載の開繊トウ。
[4]
タンパク質フィラメントの開繊トウを製造する方法であって、タンパク質フィラメントの束を捲縮させる工程と、捲縮された上記タンパク質フィラメントの上記束を開繊して、開繊トウを得る工程と、を備え、上記タンパク質フィラメントは改変フィブロインを含む、製造方法。
[5]
上記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、[4]に記載の製造方法。[6]
上記捲縮させる工程が、上記タンパク質フィラメントの上記束を機械的に捲縮させること、又は、上記タンパク質フィラメントの上記束を水性媒体に接触させることを含む、[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7]
上記捲縮させる工程が、上記タンパク質フィラメントの上記束を機械的に捲縮させ、次いで水性媒体に接触させることを含む、[6]に記載の製造方法。
[8]
上記水性媒体の温度が、10〜230℃である、[6]又は[7]に記載の製造方法。
[9]
上記改変フィブロインが、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列を有する、又は、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、[4]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
本発明に係る方法により製造される開繊トウによれば、紡糸により任意の長さ(例えば、1500mを超える長尺)が得られるタンパク質フィラメントを含むため、極太糸を容易に製造することが可能となる。
本発明の一形態は、タンパク質フィラメントの開繊トウに関する。開繊トウとは、紡糸された糸を複数集めた繊維束を開繊したものである。タンパク質フィラメントは、改変フィブロインを主成分として含む。
<改変フィブロイン>
本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
本明細書において「改変フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
「改変フィブロイン」は、本実施形態で特定されるアミノ酸配列を有するものであれば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、nは2〜27である。nは、2〜20、4〜27、4〜20、8〜20、10〜20、4〜16、8〜16、又は10〜16の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2〜300の整数を示し、10〜300の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin−3(adf−3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin−4(adf−4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin−like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
改変フィブロインは、改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。それらのうちでも改変クモ糸フィブロインが、好適に用いられる。
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン、グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインが挙げられる。
クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロインとしては、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロインは、式1中、nは3〜20の整数が好ましく、4〜20の整数がより好ましく、8〜20の整数が更に好ましく、10〜20の整数が更により好ましく、4〜16の整数が更によりまた好ましく、8〜16の整数が特に好ましく、10〜16の整数が最も好ましい。クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10〜200残基であることが好ましく、10〜150残基であることがより好ましく、20〜100残基であることが更に好ましく、20〜75残基であることが更により好ましい。クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号14〜16のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号14〜16のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
配列番号14に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号15に示されるアミノ酸配列は、配列番号14に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号16に示されるアミノ酸配列は、配列番号14に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロインのより具体的な例として、(1−i)配列番号17で示されるアミノ酸配列、又は(1−ii)配列番号17で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
配列番号17で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号18)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1〜13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号17で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号16で示されるアミノ酸配列と同一である。
(1−i)の改変フィブロインは、配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。当該改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインのより具体的な例として、(2−i)配列番号3、配列番号4、配列番号10若しくは配列番号12で示されるアミノ酸配列、又は(2−ii)配列番号3、配列番号4、配列番号10若しくは配列番号12で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(2−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号1で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号10で示されるアミノ酸配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号4の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号12で示されるアミノ酸配列は、配列番号9で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
配列番号1で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号3で示されるアミノ酸配列、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号10で示されるアミノ酸配列、及び配列番号12で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号1、3、4、10及び12で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8〜11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.3%である。
(2−i)の改変フィブロインは、配列番号3、配列番号4、配列番号10又は配列番号12で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号3、配列番号4、配列番号10又は配列番号12で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号3、配列番号4、配列番号10又は配列番号12で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2−iii)配列番号8、配列番号9、配列番号11若しく配列番号13で示されるアミノ酸配列、又は(2−iv)配列番号8、配列番号9、配列番号11若しく配列番号13で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号6、7、8、9、11及び13で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2、3、4、10及び12で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(2−iii)の改変フィブロインは、配列番号8、配列番号9、配列番号11又は配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号8、配列番号9、配列番号11又は配列番号13で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号8、配列番号9、配列番号11又は配列番号13で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。当該改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)nモチーフを10〜40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
x/yの算出方法を図1を参照しながら更に詳細に説明する。図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)nモチーフ−第1のREP(50アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第2のREP(100アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第3のREP(10アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第4のREP(20アミノ酸残基)−(A)nモチーフ−第5のREP(30アミノ酸残基)−(A)nモチーフという配列を有する。
隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)nモチーフ−REP]ユニットが存在してもよい。図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる[(A)nモチーフ−REP]ユニットの組を実線で示した。以下このような比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)nモチーフ−REP]ユニットの組は破線で示した。
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9〜11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8〜3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインのより具体的な例として、(3−i)配列番号2、配列番号4、配列番号10若しくは配列番号12で示されるアミノ酸配列、又は(3−ii)配列番号2、配列番号4、配列番号10若しくは配列番号12で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(3−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号2で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号1で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号10で示されるアミノ酸配列は、配列番号4で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号4の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号12で示されるアミノ酸配列は、配列番号9で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
配列番号1で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8〜11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号2で示されるアミノ酸配列、及び配列番号4で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号10で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号12で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.3%である。配列番号1、2、4、10及び12で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
(3−i)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4、配列番号10又は配列番号12で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4、配列番号10又は配列番号12で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号4、配列番号10又は配列番号12で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3(ギザ比率が1:1.8〜11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3−iii)配列番号7、配列番号9、配列番号11若しく配列番号13で示されるアミノ酸配列、又は(2−iv)配列番号7、配列番号9、配列番号11若しく配列番号13で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号6、7、8、9、11及び13で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、2、3、4、10及び12で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(3−iii)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号9、配列番号11又は配列番号13で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号9、配列番号11又は配列番号13で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号7、配列番号9、配列番号11又は配列番号13で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。当該改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、上述したグリシン残基の含有量が低減された改変フィブロインと、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン、及び、(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインで説明したとおりである。
グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロインのより具体的な例として、(4−i)配列番号4、配列番号10若しくは配列番号12で示されるアミノ酸配列、(4−ii)配列番号4、配列番号10若しくは配列番号12で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号4、配列番号10若しくは配列番号12で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
他の実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2〜4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
本実施形態に係る改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
さらに他の実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105−132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1〜4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4−1=7。「−1」は重複分の控除である。)。例えば、図2に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、図2に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。図2の場合28/170=16.47%となる。
本実施形態に係る改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
改変フィブロインの別の具体的な例として、(5−i)配列番号20、配列番号22若しくは配列番号23で示されるアミノ酸配列、又は(5−ii)配列番号20、配列番号22若しくは配列番号23で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(5−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインの(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つになるよう欠失したものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号19で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、かつ配列番号19で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号19で示されるアミノ酸配列に対し、各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつ配列番号19で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号22で示されるアミノ酸配列は、配列番号21で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号23で示されるアミノ酸配列は、配列番号21で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
(5−i)の改変フィブロインは、配列番号20、配列番号22又は配列番号23で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号20、配列番号22又は配列番号23で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号20、配列番号22又は配列番号23で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5−iii)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列、又は(5−iv)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号24、25及び26で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号20、22及び23で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(5−iii)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
さらに他の実施形態に係る改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
本実施形態に係る改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
本実施形態に係る改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
図3は、改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図3を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図3に示した改変フィブロインのドメイン配列(「[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図1中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図3の改変フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
本実施形態に係る改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
本実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
本実施形態に係る改変フィブロインは、REPの疎水性度が、−0.8以上であることが好ましく、−0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図1の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図1の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
本実施形態に係る改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
本発明に係る改変フィブロインのより具体的な例として、(6−i)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号38若しくは配列番号39で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6−ii)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号38若しくは配列番号39で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(6−i)の改変フィブロインについて説明する。
配列番号4で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)は、天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つにする等の生産性を向上させるためのアミノ酸の改変を行ったものである。一方、Met−PRT410は、グルタミン残基(Q)の改変は行っていないため、グルタミン残基含有率は、天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率と同程度である。
配列番号27で示されるアミノ酸配列(M_PRT888)は、Met−PRT410(配列番号4)中のQQを全てVLに置換したものである。
配列番号28で示されるアミノ酸配列(M_PRT965)は、Met−PRT410(配列番号4)中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。
配列番号29で示されるアミノ酸配列(M_PRT889)は、Met−PRT410(配列番号4)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号30で示されるアミノ酸配列(M_PRT916)は、Met−PRT410(配列番号4)中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。
配列番号31で示されるアミノ酸配列(M_PRT918)は、Met−PRT410(配列番号4)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号37で示されるアミノ酸配列(M_PRT525)は、Met−PRT410(配列番号4)に対し、アラニン残基が連続する領域(A5)に2つのアラニン残基を挿入し、Met−PRT410の分子量とほぼ同じになるよう、C末端側のドメイン配列2つを欠失させ、かつグルタミン残基(Q)13箇所をセリン残基(S)又はプロリン残基(P)に置換したものである。
配列番号38で示されるアミノ酸配列(M_PRT699)は、M_PRT525(配列番号37)中のQQを全てVLに置換したものである。
配列番号39で示されるアミノ酸配列(M_PRT698)は、M_PRT525(配列番号37)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号38及び配列番号39で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
(6−i)の改変フィブロインは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16又は配列番号17で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−ii)の改変フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号38又は配列番号39で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
上述の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(6−iii)配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19若しくは配列番号20で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6−iv)配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号19若しくは配列番号20で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40及び配列番号41で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号38及び配列番号39で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40及び配列番号41で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
(6−iii)の改変フィブロインは、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40又は配列番号41で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−iv)の改変フィブロインは、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40又は配列番号41で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ−REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ−REP]m−(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
上述の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
<改変フィブロインの製造方法>
上記いずれの実施形態に係る改変フィブロイン(タンパク質)も、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
上記いずれの実施形態に係る改変フィブロイン(タンパク質)も、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
改変フィブロインをコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロインをコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したタンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、改変フィブロインの精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる改変フィブロインをコードする核酸を合成してもよい。
調節配列は、宿主における改変フィブロインの発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、改変フィブロインを発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、改変フィブロインをコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
原核生物を宿主とする場合、改変フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
真核生物を宿主とする場合、改変フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
改変フィブロインは、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
発現させた改変フィブロインの単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
また、改変フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として改変フィブロインの不溶体を回収する。回収した改変フィブロインの不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により改変フィブロインの精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
<タンパク質(改変フィブロイン)フィラメントの製造方法>
タンパク質フィラメントは、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、改変フィブロインを主成分として含むタンパク質フィラメントを製造する際には、まず、上述した方法に準じて製造した改変フィブロインをジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、又はヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)等の溶媒に、必要に応じて、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、タンパク質フィラメントを得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。
タンパク質フィラメントは、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、改変フィブロインを主成分として含むタンパク質フィラメントを製造する際には、まず、上述した方法に準じて製造した改変フィブロインをジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、又はヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)等の溶媒に、必要に応じて、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、タンパク質フィラメントを得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。
図4は、タンパク質フィラメントを製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図4に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、未延伸糸製造装置2と、湿熱延伸装置3と、乾燥装置4とを有している。
紡糸装置10を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽7に貯蔵されたドープ液6が、ギアポンプ8により口金9から押し出される。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て、凝固液槽20の凝固液11内に供給され、溶媒が除去されて、改変フィブロインが凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴槽21内の温水12中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ13と引き取りニップローラ14との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置4に供給され、糸道22内で乾燥されて、タンパク質フィラメント36が、巻糸体5として得られる。18a〜18gは糸ガイドである。
凝固液11としては、脱溶媒できる溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2−プロパノール等の炭素数1〜5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固液11の温度は、0〜30℃であることが好ましい。口金9として、直径0.1〜0.6mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押出し速度は1ホール当たり、0.2〜6.0mL/時間が好ましく、1.4〜4.0mL/時間であることがより好ましい。凝固した改変フィブロインが凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200〜500mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1〜20m/分であってよく、1〜3m/分であることが好ましい。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01〜3分であってよく、0.05〜0.15分であることが好ましい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。凝固液槽20は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
なお、タンパク質フィラメントを得る際に実施される延伸は、例えば、上記した凝固液槽20内で行う前延伸、及び延伸浴槽21内で行う湿熱延伸の他、乾熱延伸も採用される。
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50〜90℃であってよく、75〜85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1〜10倍延伸することができ、2〜8倍延伸することが好ましい。
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃〜270℃であってよく、160℃〜230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5〜8倍延伸することができ、1〜4倍延伸することが好ましい。
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。
以上の方法により得られるタンパク質フィラメントの長さは、紡糸の条件により適宜調節することができ、1500mを超えることが好ましく、10000m以上、15000m以上、又は20000m以上であってもよい。
タンパク質フィラメントは、後述する水性媒体と接触させた際の収縮率が、7%超、15%以上、25%以上、32%以上、40%以上、48%以上、56%以上、64%以上、又は72%以上となるものであってよい。収縮率は、通常、80%以下である。ここで、タンパク質フィラメントの収縮率は下式で定義される。
収縮率={1−(水性媒体に接触させた後のタンパク質フィラメントの長さ/水性媒体に接触させる前のタンパク質フィラメントの長さ)}×100(%)
収縮率={1−(水性媒体に接触させた後のタンパク質フィラメントの長さ/水性媒体に接触させる前のタンパク質フィラメントの長さ)}×100(%)
<開繊トウの製造方法>
本発明に係る開繊トウは、上述の方法により得たタンパク質フィラメントの束を捲縮させる工程(捲縮工程)と、捲縮されたタンパク質フィラメントの束を開繊して、開繊トウを得る工程(開繊工程)と、を備える方法により製造することができる。また、製造方法における任意の段階で、タンパク質フィラメントの束に油剤を付着させる工程(油剤付着工程)を実施してもよい。タンパク質フィラメントの束を構成するタンパク質フィラメントの本数は制限されず、1本以上であればよく、100本以上、192本以上、1000本以上、4800本以上、5000本以上、1万本以上、48000本以上、10万本以上、又は100万本以上であってよい。タンパク質フィラメントの束を構成するタンパク質フィラメントの本数に上限はないが、生産性の観点から、1千万本以下であることが好ましい。
本発明に係る開繊トウは、上述の方法により得たタンパク質フィラメントの束を捲縮させる工程(捲縮工程)と、捲縮されたタンパク質フィラメントの束を開繊して、開繊トウを得る工程(開繊工程)と、を備える方法により製造することができる。また、製造方法における任意の段階で、タンパク質フィラメントの束に油剤を付着させる工程(油剤付着工程)を実施してもよい。タンパク質フィラメントの束を構成するタンパク質フィラメントの本数は制限されず、1本以上であればよく、100本以上、192本以上、1000本以上、4800本以上、5000本以上、1万本以上、48000本以上、10万本以上、又は100万本以上であってよい。タンパク質フィラメントの束を構成するタンパク質フィラメントの本数に上限はないが、生産性の観点から、1千万本以下であることが好ましい。
(捲縮工程)
捲縮工程により、最終的に得られる開繊トウが、より良好なソフト感を有するものとなる。タンパク質フィラメントの束は、従来の機械的捲縮加工により捲縮されてもよいし、水性媒体に接触させることにより捲縮されてもよい。また、これらの加工方法を併用することもできる。例えば、タンパク質フィラメントの束を機械的に捲縮させ、次いで水性媒体に接触させることで、タンパク質フィラメントの束に捲縮(クリンプ)を付与してもよい。機械的捲縮加工方法としては、例えば、仮撚り法、押込み法、擦過法、空気噴射法(高圧エアジェット法)、及び、賦型法が挙げられる。例えば、押込み法では、高速回転するローラーでタンパク質フィラメントの束をスタッファ・ボックス内に押込むことにより、タンパク質フィラメントの束に捲縮を付与し、熱で捲縮を固定(熱セット)する。
捲縮工程により、最終的に得られる開繊トウが、より良好なソフト感を有するものとなる。タンパク質フィラメントの束は、従来の機械的捲縮加工により捲縮されてもよいし、水性媒体に接触させることにより捲縮されてもよい。また、これらの加工方法を併用することもできる。例えば、タンパク質フィラメントの束を機械的に捲縮させ、次いで水性媒体に接触させることで、タンパク質フィラメントの束に捲縮(クリンプ)を付与してもよい。機械的捲縮加工方法としては、例えば、仮撚り法、押込み法、擦過法、空気噴射法(高圧エアジェット法)、及び、賦型法が挙げられる。例えば、押込み法では、高速回転するローラーでタンパク質フィラメントの束をスタッファ・ボックス内に押込むことにより、タンパク質フィラメントの束に捲縮を付与し、熱で捲縮を固定(熱セット)する。
水性媒体に接触させる加工方法によれば、外力によらずに、タンパク質フィラメントの束を捲縮させることができる。水性媒体とは、水(水蒸気を含む。)を含む液体又は気体(スチーム)の媒体である。水性媒体は水であってもよいし、水と親水性溶媒との混合液であってもよい。また、親水性溶媒としては、例えば、エタノール及びメタノール等の揮発性溶媒又はその蒸気を用いることも可能である。水性媒体は、水とエタノールとの混合溶液であることが好ましい。揮発性溶媒又はその蒸気を含む水性媒体を使用することで、タンパク質フィラメントの束が早く乾燥し、よりソフト感のある仕上がりになる。水と揮発性溶媒又はその蒸気との比率は、特に限定されず、例えば、水:揮発性溶媒又はその蒸気は、質量比で10:90〜90:10であってもよい。水性媒体が液体である場合、水性媒体には、例えば、工程通過用(例えば帯電防止用等)又は仕上げ用の油剤等、公知の油剤を分散させてもよい。このような油剤を分散させた水性媒体を用いることによって、捲縮工程とフィラメントへの油剤付着工程とを同時に行うことができ、以って、目的とする開繊トウの製造工程数の削減が有利にはかられ得る。なお、油剤の量は、特に限定されず、例えば、水性媒体全量に対して1〜10質量%であってもよく、或いは2〜5質量%であってよい。
水性媒体の温度は、10℃以上、25℃以上、40℃以上、60℃以上、又は100℃以上であってよく、230℃以下、120℃以下、又は100℃以下であってよい。より具体的には、水性媒体が気体(スチーム)である場合、水性媒体の温度は100〜230℃が好ましく、100〜120℃がより好ましい。水性媒体のスチームが230℃以下であると、タンパク質フィラメントの熱変性を防ぐことができる。水性媒体が液体である場合、水性媒体の温度は、効率良く捲縮を付与する観点から、10℃以上、25℃以上、又は40℃以上が好ましく、タンパク質フィラメントの繊維強度を高く保つ観点から、60℃以下が好ましい。水性媒体をタンパク質フィラメントの束に接触させる時間は、特に制限されないが、30秒以上、1分以上、又は2分以上であってよく、生産性の観点から10分以下であることが好ましい。タンパク質フィラメントの束への水性媒体の接触は、常圧下で行ってもよく、減圧下(例えば、真空)で行ってもよい。
タンパク質フィラメントの束に水性媒体を接触させる方法としては、タンパク質フィラメントの束を水中に浸漬する方法、タンパク質フィラメントの束に対して水性媒体のスチームを噴霧する方法、水性媒体のスチームが充満した環境にタンパク質フィラメントの束を暴露する方法等が挙げられる。水性媒体がスチームである場合、タンパク質フィラメントの束への水性媒体の接触は、一般的なスチームセット装置を使用して行うことができる。スチームセット装置の具体例としては、製品名:FMSA型スチームセッター(福伸工業株式会社製)、製品名:EPS−400(辻井染機工業株式会社製)等の装置を挙げることができる。水性媒体のスチームによりタンパク質フィラメントの束を捲縮させる方法の具体例としては、所定の収容室内にタンパク質フィラメントの束を収容する一方、収容室内に水性媒体のスチームを導入して、収容室内の温度を上記所定温度(例えば、100℃〜230℃)に調整しつつ、タンパク質フィラメントの束にスチームを接触させることが挙げられる。
なお、水性媒体との接触によるタンパク質フィラメントの束の捲縮工程は好ましくはタンパク質フィラメントの束に対して引張力が何ら加えられない(繊維軸方向に何ら緊張されない)状態、若しくは所定の大きさだけ加えられた(繊維軸方向に所定量だけ緊張させられた)状態で実施される。その際にタンパク質フィラメントの束に加えられる引張力を調整することで、捲縮の程度をコントロールすることが可能となる。タンパク質フィラメントの束に加えられる引張力の調整方法としては、例えば、タンパク質フィラメントの束に様々な重さの重りを吊す等して、タンパク質フィラメントの束に対して負荷される荷重を調整する方法、タンパク質フィラメントの束を弛ませた状態で両末端を固定すると共に、その弛み量を種々変更する方法、タンパク質フィラメントの束を紙管又はボビン等の被巻回体に巻き付けると共に、その際の巻き付け力(紙管やボビンへの締付力)を適宜に変更する方法等が挙げられる。
タンパク質フィラメントの束に水性媒体を接触させた後、タンパク質フィラメントの束を乾燥してもよい。乾燥方法は、特に限定されず、自然乾燥でもよく、乾燥設備を使用して強制的にタンパク質フィラメントの束を乾燥させてもよい。水性媒体による捲縮とその後の乾燥は、連続的に行うことができる。具体的には、例えば、ボビンからタンパク質フィラメントの束を送り出しながら、水性媒体中に浸漬した後、熱風を吹き付けるか、又はホットローラー上に送り出すことで乾燥することができる。乾燥温度としては、特に限定されず、例えば、20〜150℃であってよく、40〜120℃であることが好ましく、60〜100℃であることがより好ましい。
以上の方法により捲縮されたタンパク質フィラメントの束は、捲縮(クリンプ)を有する。捲縮の度合いは制限されず、捲縮数は、例えば、10〜100個/40mmであってよく、20〜40個/40mmであってもよい。
(油剤付着工程)
油剤付着工程では、タンパク質フィラメントの束に油剤を付着させ、タンパク質フィラメントに種々の特性を付与することができる。油剤付着工程は、製造方法における任意の段階で実施することができる。例えば、捲縮工程の前、捲縮工程と同時、又は捲縮工程後であってかつ開繊工程前に油剤付着工程を実施してもよい。油剤は特に限定されず、タンパク質フィラメントの束に付与する特性に応じて、公知の油剤から選択することができる。油剤は、帯電防止性、潤滑性、収束性、耐熱性等、各工程を円滑に実施するための特性を付与するもの(すなわち、工程通過用)であってもよいし、最終的に得られる開繊トウに柔軟性、帯電防止性等の所望の特性を付与するもの(すなわち、仕上げ用)であってもよい。
油剤付着工程では、タンパク質フィラメントの束に油剤を付着させ、タンパク質フィラメントに種々の特性を付与することができる。油剤付着工程は、製造方法における任意の段階で実施することができる。例えば、捲縮工程の前、捲縮工程と同時、又は捲縮工程後であってかつ開繊工程前に油剤付着工程を実施してもよい。油剤は特に限定されず、タンパク質フィラメントの束に付与する特性に応じて、公知の油剤から選択することができる。油剤は、帯電防止性、潤滑性、収束性、耐熱性等、各工程を円滑に実施するための特性を付与するもの(すなわち、工程通過用)であってもよいし、最終的に得られる開繊トウに柔軟性、帯電防止性等の所望の特性を付与するもの(すなわち、仕上げ用)であってもよい。
(開繊工程)
開繊工程では、捲縮されたタンパク質フィラメントの束を開繊して、開繊トウを得る。開繊させる方法は特に限定されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、ハンドカードを用いてタンパク質フィラメントの束を繊維軸方向にひっかくことにより、又は、回転する開繊ローラーを使用することにより、タンパク質フィラメントの束を開繊してもよい。あるいは、タンパク質フィラメントの束の繊維軸方向に向かってエアジェットを噴射することにより、タンパク質フィラメントの束を開繊することもできる。
開繊工程では、捲縮されたタンパク質フィラメントの束を開繊して、開繊トウを得る。開繊させる方法は特に限定されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、ハンドカードを用いてタンパク質フィラメントの束を繊維軸方向にひっかくことにより、又は、回転する開繊ローラーを使用することにより、タンパク質フィラメントの束を開繊してもよい。あるいは、タンパク質フィラメントの束の繊維軸方向に向かってエアジェットを噴射することにより、タンパク質フィラメントの束を開繊することもできる。
以上の方法により製造される、本発明に係る開繊トウによれば、極太糸を製造するために多数の開繊トウをつなぎ合わせる必要がないため、極太糸を容易に製造することができる。また、多数の開繊トウをつなぎ合わせる必要がないため、つなぎ目のない、又はつなぎ目の少ない、見栄えの良い最終製品(チャンキーニットのセーター、ブランケット等)を得ることができる。さらに、本発明に係る開繊トウはフィラメントの束により構成され、その製造にあたってステープルを紡ぐ工程が不要であるため、高い生産性で製造することができる。さらに、本発明に係る開繊トウには、改変フィブロインの設計により、ウールに似た特性、天然シルク及び再生シルクでは得られない特性など、所望の特性をもたせることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<改変クモ糸フィブロインの製造>
(1)プラスミド発現株の作製
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(以下、「PRT799」ともいう。)を設計した。なお、配列番号13で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されている。
(1)プラスミド発現株の作製
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号13で示されるアミノ酸配列を有する改変フィブロイン(以下、「PRT799」ともいう。)を設計した。なお、配列番号13で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号5で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されている。
次に、PRT799をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
(2)タンパク質の発現
配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
配列番号13で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
当該シード培養液を500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、改変フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする改変フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする改変フィブロインの発現を確認した。
(3)タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mMNaCl、1mMTris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、改変クモ糸フィブロイン「PRT799」を得た。
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris−HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8Mグアニジン塩酸塩、10mMリン酸二水素ナトリウム、20mMNaCl、1mMTris−HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、改変クモ糸フィブロイン「PRT799」を得た。
<タンパク質フィラメントの製造>
(1)ドープ液の調製
DMSOに、上述の改変フィブロイン(PRT799)を濃度24質量%となるよう添加した後、溶解促進剤としてLiClを濃度4.0質量%となるように添加した。その後、シェーカーを使用して、改変フィブロインを3時間かけて溶解させ、DMSO溶液を得た。得られたDMSO溶液中のゴミと泡を取り除き、ドープ液とした。ドープ液の溶液粘度は90℃において5000cP(センチポアズ)であった。
(1)ドープ液の調製
DMSOに、上述の改変フィブロイン(PRT799)を濃度24質量%となるよう添加した後、溶解促進剤としてLiClを濃度4.0質量%となるように添加した。その後、シェーカーを使用して、改変フィブロインを3時間かけて溶解させ、DMSO溶液を得た。得られたDMSO溶液中のゴミと泡を取り除き、ドープ液とした。ドープ液の溶液粘度は90℃において5000cP(センチポアズ)であった。
(2)紡糸
上記のようにして得られたドープ液と図4に示される紡糸装置10を用いて公知の乾湿式紡糸を行って、ボビンに巻かれた繊度約400デニールのタンパク質フィラメントを得た。なお、ここでは、乾湿式紡糸を下記の条件で行った。
凝固液(メタノール)の温度:5〜10℃
延伸倍率:4.52倍
乾燥温度:80℃
上記のようにして得られたドープ液と図4に示される紡糸装置10を用いて公知の乾湿式紡糸を行って、ボビンに巻かれた繊度約400デニールのタンパク質フィラメントを得た。なお、ここでは、乾湿式紡糸を下記の条件で行った。
凝固液(メタノール)の温度:5〜10℃
延伸倍率:4.52倍
乾燥温度:80℃
<実施例1>
上記のようにして得られたタンパク質フィラメントを25ボビン分合糸して束にし、20℃の水に浸漬して縮ませることにより、タンパク質フィラメントの束を捲縮させた。次いで、タンパク質フィラメントの束を40℃で18時間乾燥させることで、図5に示す捲縮されたタンパク質フィラメントの束を得た。このとき、タンパク質フィラメントの収縮率は50質量%であった。タンパク質フィラメントの束を十分に乾かした後、ハンドカードでタンパク質フィラメントの束を繊維軸方向にひっかき、図6に示す開繊トウを得た。かかる開繊トウの繊度は約2万デニールであり、優れたソフト感を有していた。
上記のようにして得られたタンパク質フィラメントを25ボビン分合糸して束にし、20℃の水に浸漬して縮ませることにより、タンパク質フィラメントの束を捲縮させた。次いで、タンパク質フィラメントの束を40℃で18時間乾燥させることで、図5に示す捲縮されたタンパク質フィラメントの束を得た。このとき、タンパク質フィラメントの収縮率は50質量%であった。タンパク質フィラメントの束を十分に乾かした後、ハンドカードでタンパク質フィラメントの束を繊維軸方向にひっかき、図6に示す開繊トウを得た。かかる開繊トウの繊度は約2万デニールであり、優れたソフト感を有していた。
<実施例2>
実施例1同様、タンパク質フィラメントを25ボビン分合糸して束にした。これを押込み法により捲縮させた。次いで、帯電防止用の油剤を20質量%の濃度で分散させた20℃の水に1分間浸漬させることにより、タンパク質フィラメントの束を再度捲縮させた。次いで、タンパク質フィラメントの束を40℃で18時間乾燥させることで、捲縮されたタンパク質フィラメントの束を得た。タンパク質フィラメントの束を十分に乾かした後、ハンドカードでタンパク質フィラメントの束を繊維軸方向にひっかき、図7に示す開繊トウを得た。かかる開繊トウの繊度は約2万デニールであり、優れたソフト感を有していた。
実施例1同様、タンパク質フィラメントを25ボビン分合糸して束にした。これを押込み法により捲縮させた。次いで、帯電防止用の油剤を20質量%の濃度で分散させた20℃の水に1分間浸漬させることにより、タンパク質フィラメントの束を再度捲縮させた。次いで、タンパク質フィラメントの束を40℃で18時間乾燥させることで、捲縮されたタンパク質フィラメントの束を得た。タンパク質フィラメントの束を十分に乾かした後、ハンドカードでタンパク質フィラメントの束を繊維軸方向にひっかき、図7に示す開繊トウを得た。かかる開繊トウの繊度は約2万デニールであり、優れたソフト感を有していた。
1…押出し装置、2…未延伸糸製造装置、3…湿熱延伸装置、4…乾燥装置、6…ドープ液、10…紡糸装置、20…凝固液槽、21…延伸浴槽、36…タンパク質フィラメント。
Claims (9)
- タンパク質フィラメントの開繊トウであって、
前記タンパク質フィラメントは、改変フィブロインを含み、かつ、捲縮を有する、開繊トウ。 - 前記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、請求項1に記載の開繊トウ。
- 前記改変フィブロインが、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列を有する、又は、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載の開繊トウ。
- タンパク質フィラメントの開繊トウを製造する方法であって、
タンパク質フィラメントの束を捲縮させる工程と、
捲縮された前記タンパク質フィラメントの前記束を開繊して、開繊トウを得る工程と、を備え、
前記タンパク質フィラメントは改変フィブロインを含む、製造方法。 - 前記改変フィブロインが、改変クモ糸フィブロインである、請求項4に記載の製造方法。
- 前記捲縮させる工程が、前記タンパク質フィラメントの前記束を機械的に捲縮させること、又は、前記タンパク質フィラメントの前記束を水性媒体に接触させることを含む、請求項4又は5に記載の製造方法。
- 前記捲縮させる工程が、前記タンパク質フィラメントの前記束を機械的に捲縮させ、次いで水性媒体に接触させることを含む、請求項6に記載の製造方法。
- 前記水性媒体の温度が、10〜230℃である、請求項6又は7に記載の製造方法。
- 前記改変フィブロインが、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、若しくは配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列を有する、又は、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号24、配列番号25、若しくは配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号40、若しくは配列番号41で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項4〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
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