JP5376891B2 - フィラグリン産生促進剤 - Google Patents

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本発明は、皮膚の保湿機能の向上に関与するフィラグリンの前駆体であるプロフィラグリンのmRNA発現を促進するフィラグリン産生促進剤に関する。
天然保湿因子(Natural Moisturizing Factors;NMF)の主成分であるアミノ酸は、ケラトヒアリン顆粒に由来するフィラグリンが角質層内で分解されて産生される。このフィラグリンは、角質層直下の顆粒層に存在する表皮ケラチノサイトでプロフィラグリンとして発現する。その後、直ちにリン酸化し、ケラトヒアリン顆粒に蓄積され、脱リン酸、加水分解を経てフィラグリンへと分解され、角質層に移行して、ケラチンフィラメントの凝集効率を高め、角質細胞の内部構築に関与することが報告されている(非特許文献1参照)。
近年、このフィラグリンが皮膚の水分保持に非常に重要かつ必要不可欠であること、及び乾燥などの条件によってフィラグリンの合成力が低下し、角質層におけるアミノ酸量が低下することが報告されている(非特許文献2参照)。
従って、表皮ケラチノサイトにおけるプロフィラグリンmRNAの発現促進を通じて、フィラグリンの産生を促進することによって角質層内のアミノ酸量を増大させ、角質層の水分環境を本質的に改善できることが期待される。
このため、フィラグリン産生促進剤としては、例えば、カンゾウ抽出物(特許文献1参照)、天然植物中に含まれるフラバノン配糖体として知られるリクイリチン(特許文献2参照)、ワイルドタイム抽出物、チョウジ抽出物、サルビア抽出物及びローヤルゼリー抽出物等(特許文献3参照)、などが提案されている。しかしながら、高いプロフィラグリンmRNA発現促進作用を有し、安価であり、安全性の高いフィラグリン産生促進剤に対する消費者の要望は強く、更なる新しいフィラグリン産生促進剤の開発及びその提供が強く求められているのが現状である。
特開2002−363054公報 特開2003−146886公報 特開2006−16337公報 フレグランスジャーナル臨時増刊 Vol.17、p14−19、2000年発行 「Arch. Dermatol. Res.」Vol.288、p.442−446、1996年発行
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、皮膚の保湿機能の向上に関与するフィラグリンの前駆体であるプロフィラグリンのmRNA発現を促進するフィラグリン産生促進剤を提供することを目的とする。
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を行った結果、ロズマリン酸(Rosmarinic Acid)及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシド(Eriodictyol 7−O−rutinoside)が、優れたプロフィラグリンmRNA発現促進作用を有し、表皮細胞におけるプロフィラグリンmRNA発現促進作用を通じてフィラグリンの産生を促進させて、乾燥肌、しわ、肌荒れ、アトピー性皮膚炎の改善及び予防ができることを知見した。
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを有効成分として含有することを特徴とするフィラグリン産生促進剤である。
本発明によると、ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを含有してなるフィラグリン産生促進剤が、優れたプロフィラグリンmRNA発現促進作用を有し、皮膚の保湿効果を発揮することによって、乾燥肌、しわ、肌荒れ、アトピー性皮膚炎の改善及び予防を効果的に行うことができる。
(フィラグリン産生促進剤)
本発明のフィラグリン産生促進剤は、ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドは、当該ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することもできるし、合成により製造することもできる。なお、合成により製造する場合、その合成方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により合成することができる。
上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを含有する植物としては、例えば、シソ、マンネンロウ、ワイルドタイム等のシソ科(Labiatae)の植物が挙げられる。これらの中でも、抽出原料としてはワイルドタイムが好ましい。
シソは、学名Perilla frutescens Britton var.acuta Kuboである。 構成部位としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば葉、茎、花、果実、果皮、果核、地上部又はこれらの混合物が好適である。これらの中でも前記葉が好ましい。
マンネンロウは、学名Rosmarinus offcinalis L.である。 構成部位としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば葉、茎、花、果実、果皮、果核、地上部又はこれらの混合物が好適である。これらの中でも前記葉が好ましい。
ワイルドタイムは、学名Thymus serpyllum L.である。 構成部位としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば葉、茎、花、果実、果皮、果核、地上部又はこれらの混合物が好適である。これらの中でも前記地上部が好ましい。
なお、上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドは植物の抽出に一般に用いられている方法により抽出したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記抽出物には、抽出処理によって抽出原料から得られる抽出液、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。
上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを含有する植物抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90質量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40質量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して多価アルコール10〜90質量部を混合することが好ましい。
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物から上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、植物抽出物を濃縮し、液液分配抽出、イオン交換樹脂、多孔性樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーにかけることにより粗精製し、さらに、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、必要に応じて結晶化することにより、上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを単離・精製することができる。
以上のようにして得られる上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドは、プロフィラグリンmRNA発現促進作用を有しているため、この作用を利用してフィラグリン産生促進剤の有効成分として用いることができる。なお、抽出処理により得られた植物抽出物は上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを含有しており、そのままフィラグリン産生促進剤の有効成分として使用し得るが、精製して上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドの純度を高めたものを使用することが好ましい。上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドの純度を高めたものを有効成分として使用することによって、より一層使用効果に優れたフィラグリン産生促進剤を得ることができる。
本発明のフィラグリン産生促進剤は、上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを含有する植物抽出物のみからなるものでもよいし、上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを含有する植物抽出物を製剤化したものでもよい。
上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドは、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化して提供することができ、他の組成物に配合して使用できるほか軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。
なお、本発明のフィラグリン産生促進剤は、必要に応じてフィラグリン産生促進作用を有する他の天然抽出物等を、上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドを含有する植物抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
本発明のフィラグリン産生促進剤は、上記ロズマリン酸及び/又はエリオジクチオール 7−O−ルチノシドが有するプロフィラグリンmRNA発現促進作用を通じて、フィラグリンの産生を促進することができる。これにより、角層内のアミノ酸量を増加させ、保湿機能を高めて皮膚の老化症状を予防・改善することができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
〔製造例1〕ロズマリン酸及びエリオジクチオール 7−O−ルチノシドの製造
抽出原料としてワイルドタイムの地上部の粉砕物1000gを、メタノール5000mLに投入し、穏やかに攪拌しながら2時間、80℃に保った後、ろ過し、ワイルドタイムからのメタノール抽出液を得た。得られた抽出液を、減圧下溶媒留去し、ワイルドタイム抽出物160gを得た。
得られたワイルドタイム抽出物160gをダイヤイオンHP−20カラムクロマトグラフィーで分画した。溶出は水、60質量%含水メタノール、メタノール及びアセトンで行い、それぞれの溶出部を得た。ダイヤイオンHP−20カラムクロマトグラフィーで得た60質量%含水メタノール画分21.0gを、順相カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより分画及び精製を行い、ロズマリン酸174mg、エリオジクチオール 7−O−ルチノシド220mgを得た。
〔試験例1〕プロフィラグリンmRNA発現促進作用試験
本実施例ではロズマリン酸(シグマアルドリッチ社製)、エリオジクチオール 7−O−ルチノシド(フナコシ社製)を試料として用いた。
(1)一本鎖DNAの調製
ヒト正常新生児表皮角化細胞(NHEK)を35mm dishに播種し、37℃、5%CO−95%airの下にて24時間培養を行った。培養終了後、所定濃度の試料添加培地に交換し、更に48時間培養した。培養終了後、常法により総RNAを調製した。また、「被験試料無添加」で培養した細胞に関しても、同様に総RNAを調製した。総RNA調製は下記の方法を用いて行った。細胞を1mLのRNA抽出用試薬(ISOGEN:株式会社ニッポンジーン)で溶解し、クロロホルムを200μL添加後、遠心(12000回転、4℃、15分間)にて上層RNA層を単離し、さらにイソプロパノールで濃縮を行った。濃縮沈殿させた総RNAをTE溶液(10mM Tris−HCl/1mM EDTA, pH8.0)に溶解して総RNA標品とし、PCR装置(TaKaRa PCR Themal Cycler MP:タカラバイオ社)及びリアルタイムPCRキット(TaKaRa ExScript RT reagent Kit,RR035A:タカラバイオ社)を用いてプロフィラグリンmRNA発現量を測定するための鋳型に使用する一本鎖DNAを合成した。
(2)サイバーグリーン法を用いたリアルタイム−PCR反応
プロフィラグリン遺伝子増幅用プライマーとして下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを作製した(タカラバイオ社)。
センスプライマー 5’−GGCACTGAAAGGCAAAAAGG―3’
アンチセンスプライマー 5’−AGCTGCCATGTCTCCAAACTA―3’
また、内部標準としてのG3PDH遺伝子増幅用プライマーとして下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを作製した(タカラバイオ社)。
センスプライマー 5’−GCACCGTCAAGGCTGAGAAC−3’
アンチセンスプライマー 5’−ATGGTGGTGAAGACGCCAGT−3’
「被験試料無添加」、「被験試料添加」でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基に調製した一本鎖DNA及び検量線作成用一本鎖DNA溶液用いて、リアルタイムPCR装置(Real Time PCR System Smart Cycler II:Cepheid社)及びリアルタイムPCRキット(SYBR Premix Ex Taq,RR041A:タカラバイオ社)でリアルタイムPCR反応を行った。なお、検量線作成用一本鎖DNA溶液は、原液濃度の相対値を便宜的に「100000」とし、以降10倍希釈を繰り返して濃度値「100000」、「10000」、「1000」、「100」及び「10」の5段階の希釈系列とした。反応は、95℃で10秒間保温の後、95℃で5秒間、60℃で20秒間の反応を45サイクル繰り返し、1サイクル毎にサイバーグリーン色素の発光量を測定した。
(3)解析
各サイクルのサイバーグリーン色素の発光量からプロフィラグリン及びG3PDHのそれぞれをコードするDNA断片の増幅曲線を作成した。検量線作成用一本鎖DNA溶液の希釈系列の増幅曲線から横軸に濃度、縦軸に増幅曲線の2次導関数が最大となるサイクル数をとった検量線を作成した。各発現定量用サンプルについては増幅曲線の2次導関数が最大となるサイクル数を検量線上にプロットし、相対的な発現量を算出した。プロフィラグリンの発現量は、同一サンプルにおけるG3PDHの発現量の値で補正を行った後、さらに「被験試料無添加」の補正値を100とした時の「被験試料添加」の補正値を算出した。
プロフィラグリンmRNA発現促進率(%)は以下の式により求めた。
プロフィラグリンmRNA発現促進率(%) = A / B × 100
A : 「被験試料添加」の補正値
B : 「被験試料無添加(コントロール)」の補正値
〔表1〕ロズマリン酸添加時のプロフィラグリンmRNA発現促進率
試料添加濃度 プロフィラグリンmRNA発現促進率
1μM 138.6%
10μM 488.9%
100μM 491.9%
〔表2〕エリオジクチオール 7−O−ルチノシド添加時のプロフィラグリンmRNA発現促進率
試料添加濃度 プロフィラグリンmRNA発現促進率
1μM 131.3%
10μM 156.2%
100μM 192.7%
表1〜2に示すように、ロズマリン酸、エリオジクチオール 7−O−ルチノシドは、プロフィラグリンmRNAの発現を促進する作用を有することが確認された。
本発明のフィラグリン産生促進剤は、皮膚表皮層内部でフィラグリンの産生を活発化させることにより、皮膚の保湿効果を発揮し、乾燥肌、しわ、肌荒れ、アトピー性皮膚炎の改善及び予防に有効である。

Claims (1)

  1. エリオジクチオール 7−O−ルチノシドを有効成分として含有することを特徴とするフィラグリン産生促進剤。
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