JP5371329B2 - 圧電素子、および液体吐出装置 - Google Patents

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Description

本発明は、積層体、圧電素子、および液体吐出装置に関し、詳しくは、基板と低抵抗金属層とを含む積層体、これを用いた圧電素子、この圧電素子を備えた液体吐出装置に関するものである。
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電膜と、圧電膜に対して電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載されるアクチュエータ等として使用されている。インクジェット式記録ヘッドの具体的な構成としては、例えば、インク供給室に連通した圧力室とその圧力室に連通したインク吐出口とを備え、その圧力室に圧電素子が接合された振動板が設けられて構成されている。このような構成において、圧電素子に所定の電圧を印加して圧電素子を伸縮させることにより、たわみ振動を起こさせて圧力室内のインクを圧縮することによりインク吐出口からインク液滴を吐出させる。
このようなインクジェット式記録ヘッドに使用される圧電素子は、通常、圧電体層と圧電体層を挟持する上部電極層と下部電極層との2つの電極層とで構成されている。下部電極層としては、低抵抗性や耐熱性が求められている。例えば、特許文献1に記載の圧電振動素子においては、この下部電極層材料として白金、金、銀、ロジウム、レニウム、オスミウム、イリジウムの何れか1つを主成分とすることが提案されている。また、特許文献2に記載の薄膜圧電素子においては、下部電極層に白金、イリジウム、パラジウム、ロジウムおよび金の少なくとも1つを含有させることが提案されている。これらの材料のなかでも、耐熱性などの観点から、金を主成分とすることが提案されている。
特開2003−158309号公報 特表2002−164586号公報
しかしながら、本発明者らが金からなる金層を含む金属層を下部電極層として使用し、検討を行ったところ、この金属層上に形成されるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電体層の結晶配向性が影響を受け、所望の結晶相(ペロブスカイト結晶など)が得られず、かつ、圧電体層の表面形状が粗くなる場合があることを見出した。そのため、結果として、圧電素子としての性能のバラツキや、歩留まりの低下を招くという問題が生じる。引いては、表面凹凸によって電界集中が起こり圧電素子の耐久性の悪化をもたらし、これら圧電素子などのデバイスを用いるインクジェットヘッドなどの性能低下を招くことになる。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みて、低抵抗性で耐熱性に優れた低抵抗金属層と、この低抵抗金属層上に形成され、結晶配向性および均質性に優れ、かつ、表面粗さの小さい高品質な圧電体層とを備える積層体、この積層体を用いて得られる圧電素子、およびこの圧電素子を用いて高密度に配置でき、微少量の液滴であっても、正確かつ確実に安定して吐出することができる液体吐出装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、金(Au)からなる金層と圧電体層の間の厚みを制御することにより、表面粗さの小さい高品質な圧電体層が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、基板と、前記基板上に形成される積層構造の低抵抗金属層と、前記低抵抗金属層上に形成される圧電体層とを有する積層体であって、前記低抵抗金属層は、前記基板上に形成され、金からなる金層と、前記金層上に形成され、前記低抵抗金属層の最表層に配置される金属層とを備え、前記金層と前記圧電体層との間の厚みが、200nmより大きいことを特徴とする積層体を提供するものである。
また、さらに、前記金属層は、イリジウムまたは白金からなる金属層であることが好ましい。
また、前記低抵抗金属層は、さらに、前記金層と前記金属層との間に密着金属層を備えることが好ましい。
また、前記低抵抗金属層は、さらに、前記基板の側に前記金層と前記基板との間を密着させる密着金属層を備えることが好ましい。
また、前記密着金属層は、チタンタングステン合金であることが好ましい。
また、前記基板は、シリコン基板、または前記低抵抗金属層が形成される側に熱酸化膜を持つシリコン基板であることが好ましい。
また、前記低抵抗金属層のシート抵抗が、1Ω/□以下であることが好ましい。
また、前記圧電体層の上表面の平均表面粗さRaが、40nm以下であることが好ましい。
また、前記低抵抗金属層の厚みが、200〜2000nmであることが好ましい。
また、上記他の目的を達成するために、本発明の第2の態様は、上記第1の態様の積層体と、この積層体上に形成される上部電極層とを備え、前記低抵抗金属層が下部電極層として機能することを特徴とする圧電素子を提供するものである。
また、前記圧電体層は、前記下部電極層を400℃以上加熱して、その上に気相成長法を用いて形成された圧電体材料からなることが好ましい。
また、前記圧電体層は、ペロブスカイト型酸化物膜であることが好ましい。
また、前記圧電体層の上表面の平均表面粗さRaが、前記圧電体層の厚みの1.0%以下であることが好ましい。
また、上記他の目的を達成するために、本発明の第3の態様は、上記第2の態様の圧電素子と、液体が貯留される液体貯留室と、前記圧電素子に電圧を印加することにより、前記液体貯留室から外部に前記液体を吐出させる液体吐出口とを有することを特徴とする液体吐出装置を提供するものである。
本発明によれば、低抵抗性で耐熱性に優れた低抵抗金属層と、この低抵抗金属層上に形成され、結晶配向性および均質性に優れ、かつ、表面粗さの小さい高品質な圧電体層とを備える積層体、この積層体を用いて得られる圧電素子、およびこの圧電素子を用いて高密度に配置でき、微少量の液滴であっても、正確かつ確実に安定して吐出することができる液体吐出装置を提供することができる。
以下に、本発明に係る積層体、このような積層体を備える圧電素子、およびこの圧電素子を用いた液体吐出装置について、図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の圧電素子の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す圧電素子10は、本発明に係る積層体を用いるもので、基板12、熱酸化膜14、密着金属層16、金層18、密着金属層20、金属層22、圧電体層24、上部電極層26をこの順で積層した積層構造を有する。
なお、密着金属層16、金層18、密着金属層20および金属層22は、電極層、特に、下部電極層として用いられる低抵抗金属層28を構成し、基板12、熱酸化膜14、低抵抗金属層28および圧電体層24は、本発明の積層体30を構成する。
まず、低抵抗金属層28、本発明の積層体30、本発明の圧電素子10を構成する各層について説明する。
基板12は、低抵抗金属層28、本発明の積層体30、本発明の圧電素子10の各層を積層し、かつ支持するためのものであり、低抵抗金属層28を積層することができるものであれば、特に制限されず、半導体基板(シリコン基板、シリコンカーバイド基板など)、ガラス基板、ステンレス(SUS)基板、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)基板、アルミナ基板、サファイア基板等の基板を挙げることができる。なかでも、耐熱性や加工性に優れる点から、シリコン基板、ステンレス基板などがより好ましく挙げられる。
熱酸化膜14は、基板12を酸化雰囲気中で加熱した場合に形成されるもので、例えば基板12として主にシリコン基板が用いられた際に、低抵抗金属層28が形成される側のシリコン基板の表面に形成される二酸化珪素(SiO)膜である。この熱酸化膜の膜厚は、特に制限されないが、10〜3000nmが好ましく、100〜500nmがより好ましい。
なお、熱酸化膜14は、本発明の圧電素子10および積層体30においては、含まれていなくてもよい。
密着金属層16は、基板12、特に熱酸化膜14が形成された基板12と、その上層に形成される低抵抗金属層28の金層18との密着性を向上させるためのもので、基板12、特に熱酸化膜14とも金層18とも密着性の良いものであれば、特に限定されず、例えば、チタン(Ti)、タングステン(W)、チタン−タングステン(Ti−W)合金、ニッケル−クロム(Ni−Cr)合金やそれらの酸化物、窒化物などが好ましく挙げられる。密着金属層の厚みとしては、10〜600nmが好ましく、20〜200nmがより好ましい。密着金属層16を設けることにより、熱酸化膜14と金層18との密着性がより向上する。
なお、本発明の圧電素子10および積層体30においては、基板12と金層18との密着性がよければ、密着金属層16は、設けられていなくてもよい。
金層18は、基板12上に熱酸化膜14および密着金属層16を介して形成されるもので、低抵抗金属層28の主要部をなす低抵抗に寄与する部分であり、金(Au)からなる層である。金層の膜厚は、100〜500nmが好ましく、200〜400nmがより好ましい。上記範囲内であれば、シート抵抗の点で好ましい。
密着金属層20は、金層18と、その上層に形成される金属層22との密着性を向上させるためのもので、金層18とも金属層22とも密着性の良いものであれば、特に限定されず、例えば、密着金属層16と同様のものを用いることができる。なお、密着金属層20の厚みとしては、密着金属層16と同様の厚みとすることができる。このように、密着金属層20を設けることにより、金層18と金属層22との密着性をより向上させることができる。
なお、本発明の圧電素子10および積層体30においては、金層18と金属層22との密着性がよければ、密着金属層20は、密着金属層16と同様に、設けられていなくてもよい。
金属層22は、金層18の上に密着金属層20を介して形成され、基板10と逆の側における低抵抗金属層28の最表層に配置される。金属層22は、低抵抗金属層28が電極、特に下部電極として用いられる場合に、その上に積層される層の状態を、図示例では圧電体層24の配向を好適に制御するために設けられるものである。
この金属層22を構成する主成分金属としては、特に限定されず、低抵抗金属層28上に形成される圧電体層24の配向制御がより優れるという点で、イリジウム、白金が好ましく挙げられる。
金属層22の厚みは、50〜300nmが好ましく、100〜200nmがより好ましい。上記範囲内であれば、配向を好適に制御可能な点で好ましい。
圧電体層24は、本発明の圧電素子10を構成する際に、本発明の積層体30の低抵抗金属層28が下部電極として用いられる場合に、低抵抗金属層28上、詳しくは、金属層22上に積層されるものである。
圧電体層24としては、特に制限なく、1種または複数種のペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜(ペロブスカイト型酸化物膜)が好ましく挙げられる。ペロブスカイト型酸化物は、常誘電性を有するものでも、強誘電性を有するものでもよい。強誘電性を有するものは、圧電素子や強誘電メモリ等の強誘電素子等に好ましく利用できる。
ペロブスカイト型酸化物としてより具体的には、下記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物が好ましく挙げられる。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Mg,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni,Hf,及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、O:酸素原子。a=1.0かつb=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、および、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム等の非鉛含有化合物が挙げられる。圧電体層は、これら上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物の混晶系であってもよい。
圧電体層24としては、下記一般式(P−1)で表されるPZTまたはそのBサイト置換系、およびこれらの混晶系を好ましく適用できる。
Pb(Zrb1Tib2b3)O・・・(P−1)
(式(P−1)中、XはV族およびVI族の元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素である。a>0、b1>0、b2>0、b3≧0。a=1.0であり、かつb1+b2+b3=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
上記一般式(P−1)で表されるペロブスカイト型酸化物は、d=0のときチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)であり、d>0のとき、PZTのBサイトの一部をV族およびVI族の元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素であるXで置換した酸化物である。
Xは、VA族、VB族、VIA族、およびVIB族のいずれの金属元素でもよく、V,Nb,Ta,Cr,Mo,およびWからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
後述するインクジェット式記録装置等の液体吐出装置への応用の観点から、圧電体層24の上表面の平均表面粗さRaが、40nm以下であることが好ましく、20nm以下がより好ましく、特に10nm以下が好ましい。
また、圧電体層の厚みとの関係においては、圧電体層24の上表面の平均表面粗さRaが、圧電体層の厚みの1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下がより好ましく、特に0.5%以下が好ましい。なお、平均表面粗さRaの下限は、小さければ小さいほどよく、0が好ましい。上記範囲内であれば、圧電素子としての利用の際に、表面凹凸による電界集中が抑制され、耐久性がより向上する点で好ましい。
なお、平均表面粗さRa(算術平均表面粗さRa)は、JIS B0601−1994によりRaの略号で表される値であり、表面粗さの値の平均線から絶対値偏差の平均値を表す。測定方法は、表面段差計により測定することができ、任意の点を3ヵ所以上を測定して求めた値である。
圧電体層24の厚みは、特に制限なく、1〜10μmであることが好ましく、さらに2〜7μmが好ましく、特に3〜5μmが好ましい。上記範囲内であれば、後述する液体吐出装置での吐出力と吐出量の設計が容易であり好ましい。
なお、圧電体層24は、後述するように成膜温度として400℃以上で、金属層22上に気相成長法を用いて形成された圧電体材料であることが好ましい。
上部電極層26は、圧電体層24上に積層され、下部電極層として機能する低抵抗金属層28と共に、圧電体層24を挟持し、圧電体層24に通電するためのものである。
上部電極層26の主成分としては、特に制限なく、例えば、Al,Ta,Cr,およびCu等の一般的な半導体プロセスで用いられている電極材料、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
上部電極層26の厚みは、特に制限なく、50〜500nmであることが好ましく、100〜200nmがより好ましい。
以上のような各層から構成される低抵抗金属層28、本発明の積層体30および圧電素子10について説明する。
<低抵抗金属層>
低抵抗金属層28は、図示例においては、密着金属層16、金層18、密着金属層20および金属層22から構成されるが、本発明はこれに限定されず、金からなる金層18と、この金層18上に形成され、低抵抗金属層28の最表層に配置される金属層22とを備えていればよい。低抵抗金属層28の膜厚は、200〜4000nmが好ましく、300〜3000nmがより好ましい。上記範囲内であれば、適切なシート抵抗が得られる点で好ましい。
低抵抗金属層28のシート抵抗は、後述する圧電素子への応用の観点から、1Ω/□以下が好ましく、0.5Ω/□以下がより好ましい。シート抵抗の測定方法としては四端子法を用いて行い、より詳しくはJIS K7194に準拠した方法で実施される。
圧電素子10の駆動時の耐久性向上の点から、低抵抗金属層28の上表面の平均表面粗さRaが、50nm以下であることが好ましく、20nm以下がより好ましく、特に10nm以下が好ましい。
なお、平均表面粗さRaの下限は、小さければ小さいほどよく、0が好ましい。なお、平均表面粗さRa(算術平均表面粗さRa)は、JIS B0601−1944によりRaの略号で表される値であり、表面粗さの値の平均線から絶対値偏差の平均値を表す。測定方法は、表面段差計などにより測定することができ、任意の点を3ヵ所以上測定して求めた値である。
<積層体>
積層体30は、図示例においては、基板12、熱酸化膜14、密着金属層16、金層18、密着金属層20、金属層22および圧電体層24から構成されるが、本発明はこれに限定されず、基板と、この基板上に形成される積層構造の低抵抗金属層と、この低抵抗金属層上に形成される圧電体層とを備え、さらに、低抵抗金属層が金からなる金層と、金層上に形成され、低抵抗金属層の再表層に配置される金属層とを備え、金層と圧電体層との間の厚みが200nmより大きければよい。
積層体30においては、金層18と圧電体層24との間の厚みが200nmより大きく、より好ましくは250nmより大きく、さらに好ましくは300nmより大きい。金層18と圧電体層24との間の厚みが200nmより大きいと、圧電体層24の結晶配向性や均質性などが向上すると共に、平均表面粗さRaが小さくなり、この積層体を用いたデバイスの耐久性が向上する。
なお、図1においては、金層18と圧電体層24との間に密着金属層20と金属層22とが配置されているが、本発明の積層体30ではこれに限定されず、金層18と圧電体層24との間の厚みが200nmより大きければ、さらに複数の金属層が配置されていてもよい。
積層体30は、種々のデバイスの部材として使用することができる。例えば、インクジェット式記録ヘッド、強誘電体メモリ(FRAM)、および圧力センサ、マイクロポンプ等に用いられる圧電素子に好ましく適用できる。
<圧電素子>
図1に示す圧電素子10は、積層体30中の低抵抗金属層28が下部電極層として機能する電極基板と、この積層体30中の低抵抗金属層28上に形成される圧電体層24と、この圧電体層24上に形成される上部電極層26とを有する。
本発明の圧電素子は、振動や圧力などの力が加わると電圧が発生し、また逆に下部電極層と上部電極層間に電圧が加えられると伸縮する素子である。圧電素子は、電圧の制御によって微妙に伸縮変化させることが可能であるため、インクジェットプリンタのインク射出機構や、アクチュエータなどのような制御機構において採用される。さらには、アナログ電子回路で発振回路の発振素子としても用いられる。
<積層体および圧電素子の製造方法>
本発明に係る積層体および圧電素子の各層は、気相成長法において成膜されたものが好ましく、その成膜方法としては、具体的には、スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、イオンプレーティング法、およびプラズマCVD法などが挙げられる。
次に、本発明の積層体および圧電素子の各層を気相成長法によって成膜するために用いられるプラズマを用いる成膜装置の構成例について、図2に基づいて、スパッタリング法を実施するスパッタリング装置を代表例として説明する。図2は、RFスパッタリング装置の一実施例の概略断面図である。
図2に示すように、本発明のスパッタ装置40は、低抵抗金属層28、圧電体層24、上部電極層26などを成膜するための、すなわち基板SB上にプラズマを用いた気相成長法(スパッタリング)により、低抵抗金属層28、圧電体層24、上部電極層26などの薄膜を成膜し、圧電素子などの薄膜デバイスを製造するRFスパッタ装置であって、ガス導入管42aおよびガス排出管42bを備える真空容器42と、この真空容器42内に設けられ、スパッタリング用のターゲット材TGを保持し、プラズマを発生させるスパッタ電極(カソード電極)44と、このスパッタ電極44に接続され、スパッタ電極44に高周波を印加する高周波電源46と、真空容器42内の、スパッタ電極44と対向する位置に配置され、ターゲット材TGの成分による薄膜が成膜される基板SBを保持する基板ホルダ48とを有する。
真空容器42は、スパッタリングを行うために所定の真空度を維持する、鉄、ステンレス、アルミニウム等で形成される気密性の高い容器であって、図示例においては、接地され、その内部に成膜に必要なガスを導入するガス導入管42aおよび真空容器42内のガスの排気を行うガス排出管42bが取り付けられている。ガス導入管42aから真空容器42内に導入されるガスとしては、アルゴン(Ar)、または、アルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガス等を用いることができる。ガス導入管42aは、これらのガスの供給源(図示せず)に接続されている。一方、ガス排出管42bは、真空容器42内を所定の真空度にすると共に、成膜中にこの所定の真空度に維持するために、真空容器42内のガスを排気するため、真空ポンプ等の排気手段に接続されている。
なお、真空容器42としては、スパッタ装置で利用される真空チャンバ、ベルジャー、真空槽などの種々の真空容器を用いることができる。
スパッタ電極44は、真空容器42の内部の上方に配置され、その表面上に成膜する圧電膜などの薄膜の組成に応じた組成のターゲット材TGを装着し、保持するようになっており、高周波電源46に接続されている。
高周波電源46は、真空容器42内に導入されたArなどのガスをプラズマ化させるための高周波電力(負の高周波)をスパッタ電極44に供給するためのものであり、その一方の端部がスパッタ電極44に接続され、他方の端部が接地されている。なお、高周波電源46がスパッタ電極44に印加する高周波電力は、特に制限的ではなく、例えば13.65MHz、最大5kW、あるいは、最大1kWの高周波電力などを挙げることができるが、例えば50kHz〜2MHz、27.12MHz、40.68MHz、60MHz、1kW〜10kWの高周波電力を用いるのが好ましい。
スパッタ電極44は、高周波電源46からの高周波電力(負の高周波)の印加により放電して、真空容器42内に導入されたArなどのガスをプラズマ化し、Arイオン等のプラスイオンを生成させる。したがって、スパッタ電極44は、カソード電極またはプラズマ電極と呼ぶこともできる。
こうして生成されたプラスイオンは、スパッタ電極44に保持されたターゲット材TGをスパッタする。このようにして、プラスイオンにスパッタされたターゲット材TGの構成元素は、ターゲット材TGから放出され、中性あるいはイオン化された状態で、対向離間配置された基板ホルダ48に保持された基板SB上に蒸着される。
こうして、図2に点線で示すように、真空容器42の内部にArイオン等のプラスイオンやターゲット材TGの構成元素やそのイオンなどを含むプラズマ空間Pが形成される。
基板ホルダ48は、真空容器42の内部の下方に、スパッタ電極44と対向する位置に離間して配置され、スパッタ電極44に保持されたターゲット材TGの構成元素(成分)が蒸着され、圧電膜などの薄膜が成膜される基板SBを保持、すなわち図中下面から支持するためのものである。なお、基板ホルダ48は、図示しないが、基板SBの成膜中に、基板SBを所定温度に、加熱しかつ維持するためのヒータ(図示せず)を備えている。
ここで、本発明のスパッタ装置40においては、その前提条件として、基板SBが接地電位になっていないことが必須条件であり、基板ホルダ48に保持される基板SBが、接地電位になっていない構造である必要がある。すなわち、スパッタ装置40では、基板SB、したがって、基板ホルダ48の電位がフローティング電位となる構造である必要がある。
なお、基板ホルダ48に装着される基板SBのサイズは、特に制限的ではなく、通常の6インチサイズの基板であっても、5インチや、8インチのサイズの基板であってもよいし、5cm角のサイズの基板であってもよい。
また、スパッタ電極44に保持されたターゲット材TGと基板ホルダ48に保持される基板SBとの間の距離(ターゲット基板間距離)は、10cm(100mm)以下であるのが好ましく、より好ましくは8cm(80mm)から6cm(60mm)の間であることが良い。
なお、ターゲット材TGと基板SBとの距離の下限は、プラズマを発生させる放電が起これば、特に制限的ではないが、この距離があまり近いと放電が起こらなくなるので、2cm以上であるのが好ましい。
なお、このターゲット材TGと基板SBとの距離は、ターゲット材TGおよび基板SBの厚みが薄い場合には、スパッタ電極44と基板ホルダ48との間の距離で代表させることもできる。
本発明のスパッタ装置は、基本的に以上のように構成されるものであり、以下に、その作用および本発明のスパッタ方法について説明する。
図3は、本発明のスパッタ方法の一例を示すフローチャートである。
まず、図3に示すように、ステップS10で、図2に示すスパッタ装置40において、真空容器42内に設けられたスパッタ電極44にスパッタリング用のターゲット材TGを装着して保持させるとともに、真空容器内において、スパッタ電極44と対向する位置に離間して配置された基板ホルダ48に圧電膜などの薄膜を成膜する基板を装着して保持させる。
この後、ステップS12において、真空容器42内が所定に真空度になるまでガス排出管42bから排気し、所定の真空度を維持するように排気し続けながら、ガス導入管42aからアルゴンガス(Ar)などのプラズマ用ガスを所定量づつ供給し続ける。これと同時に、ステップS14において、高周波電源46からスパッタ電極44に高周波(負の高周波電力)を印加して、スパッタ電極44を放電させて、真空容器42内に導入されたArなどのガスをプラズマ化し、Arイオン等のプラスイオンを生成させ、プラズマ空間Pが形成される。
次いで、ステップS16において、こうして形成されたプラズマ空間P内のプラスイオンは、スパッタ電極14に保持されたターゲット材TGをスパッタし、スパッタされたターゲット材TGの構成元素は、ターゲット材TGから放出され、中性あるいはイオン化された状態で、対向離間配置された基板ホルダ48に保持された基板SB上に蒸着され、成膜が開始される。その結果、低抵抗金属層や圧電体層などの薄膜を成膜することができる(ステップS18)。
次に、本発明のスパッタ方法による成膜方法において、好ましい成膜条件について説明する。
本発明のスパッタリングによる成膜方法における成膜条件は、成膜温度Ts(℃)と、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)と基板のフローティング電位Vf(V)との差であるVs−Vf(V)と、成膜される前記膜の特性との関係に基づいて決定されるのが好ましい。
ここで、前記関係が求められる前記膜の特性としては、膜の結晶構造および/または膜組成が挙げられる。
図4は、図2に示すスパッタ装置における成膜中の様子を模式的に示す図である。
図4に模式的に示すように、スパッタ電極44の放電により真空容器42内に導入されたガスがプラズマ化され、Arイオン等のプラスイオンIpが生成し、スパッタ電極44と基板ホルダ48との間、すなわち、スパッタ電極44に保持されたターゲット材TGと基板ホルダ48に保持された基板SBとの間にプラズマ空間Pが生成される。生成したプラスイオンIpはターゲット材TGをスパッタする。プラスイオンIpにスパッタされたターゲット材TGの構成元素Tpは、ターゲット材TGから放出され中性あるいはイオン化された状態で基板SBに蒸着される。
プラズマ空間Pの電位は、プラズマ電位Vs(V)となる。本発明では、通常、基板SBは、絶縁体であり、かつ、電気的にアースから絶縁されている。したがって、基板SBはフローティング状態にあり、その電位はフローティング電位Vf(V)となる。ターゲット材TGと基板SBとの間にあるターゲット材TGの構成元素Tpは、プラズマ空間Pの電位と基板SBの電位との電位差Vs−Vfの加速電圧分の運動エネルギーを持って、成膜中の基板SBに衝突すると考えられる。
プラズマ電位Vsおよびフローティング電位Vfは、ラングミュアプローブを用いて測定することができる。プラズマP中にラングミュアプローブの先端を挿入し、プローブに印加する電圧を変化させると、例えば、図5に示すような電流電圧特性が得られる(小沼光晴著、「プラズマと成膜の基礎」p.90、日刊工業新聞社発行)。この図5では、電流が0となるプローブ電位がフローティング電位Vfである。この状態は、プローブ表面へのイオン電流と電子電流の流入量が等しくなる点である。絶縁状態にある金属の表面や基板表面はこの電位になっている。プローブ電圧をフローティング電位Vfより高くしていくと、イオン電流は次第に減少し、プローブに到達するのは電子電流だけとなる。この境界の電圧がプラズマ電位Vsである。
プラズマ空間Pと基板SBとの電位差Vs−Vfは、基板SBとターゲット材TGとの間にアースを設置するなどして変えることもできる。
プラズマを用いるスパッタリングにおいて、成膜される膜の特性を左右するファクタとしては、成膜温度、基板の種類、基板に先に成膜された膜があれば下地の組成、基板の表面エネルギー、成膜圧力、雰囲気ガス中の酸素量、投入電極、基板/ターゲット間距離、プラズマ中の電子温度および電子密度、プラズマ中の活性種密度および活性種の寿命等が考えられる。
本発明者等は、圧電体層の作製に関して、多々ある成膜ファクタの中で、成膜される膜の特性は、成膜温度Tsと電位差Vs−Vfとの2つのファクタに大きく依存することを見出し、これらファクタを好適化することにより、良質な膜を成膜できることを見出している。すなわち、成膜温度Tsを横軸にし、電位差Vs−Vfを縦軸にして、膜の特性をプロットすると、ある範囲内において良質な膜を成膜できることを見出している(図6参照)。
電位差Vs−Vfが基板SBに衝突するターゲット材TGの構成元素Tpの運動エネルギーに相関することを述べた。下記式に示すように、一般に運動エネルギーEは温度Tの関数で表されるので、基板SBに対して、電位差Vs−Vfは温度と同様の効果を持つと考えられる。
E=1/2mv=3/2kT
(式中、mは質量、vは速度、kは定数、Tは絶対温度である。)
電位差Vs−Vfは、温度と同様の効果以外にも、表面マイグレーションの促進効果、弱結合部分のエッチング効果などの効果を持つと考えられる。
特開2004−119703号公報には、スパッタリング法により圧電膜を成膜する際に、圧電膜にかかる引張応力を緩和するために、基板にバイアスを印加することが提案されている。基板にバイアスを印加することは、基板に突入するターゲットの構成元素のエネルギー量を変えていることになる。しかしながら、特開2004−119703号公報には、プラズマ電位Vs、およびプラズマ電位Vsとフローティング電位Vfとの差である電位差Vs−Vfについて記載されていない。
通常、従来のスパッタ装置などの成膜装置では、プラズマ空間Pと基板SBとの電位差Vs−Vfは、装置の構造によってほぼ決まり、大きく変えることができないので、従来は、電位差Vs−Vfを変えるという発想自体がほとんどなかった。スパッタ方法ではないが、特開平10−60653号公報に、アモルファスシリコン膜等を高周波プラズマCVD法により成膜する成膜方法において、電位差Vs−Vfを特定の範囲内に制御する成膜方法が開示されている。この発明では、電位差Vs−Vfが基板面上で不均一になることを解消するために、電位差Vs−Vfを特定の範囲内に制御するようにしている。しかしながら、説く開平10−60653号公報には、成膜温度TsとVs−Vfと成膜される膜の特性との関係に基づいて、成膜条件を決定することについては記載されていない。
この成膜方法は、スパッタ方法を始めとして、プラズマを用いる気相成長法により成膜することが可能なものであれば、いかなる膜にも適用することができる。
本発明に係る積層体中の低抵抗金属層、圧電体層は、上記のスパッタ方法などによる成膜方法によって作製することができる。例えば、金層の場合は、ターゲット材として金を用いることにより所望の金層を得ることができる。
なお、低抵抗金属層に含まれる密着金属層や金属層なども、所望のターゲット材を用いて上記のスパッタ方法により作製することができる。
また、圧電体層の上に形成される上部電極層も、上記のスパッタ方法による成膜方法などによって作製することができる。
上記のスパッタ方法による成膜方法は、圧電体層の成膜にも好ましく適用することができる。特に、上記一般式(P)で表される1種または複数種のペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜に適用する場合、下記式(1)および(2)を充足する範囲で成膜条件を決定することが好ましいことを見出している(図6参照)。
一般式A・・・(P)
(式中、A:Aサイト元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素、B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Mg,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,Ni,Hf,及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、O:酸素原子。a=1.0かつb=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)、
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)
本発明者等は、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合、上記式(1)を充足しないTs(℃)<400の成膜条件では、成膜温度が低すぎてペロブスカイト結晶が良好に成長せず、パイロクロア相がメインの膜が成膜されることを見出している(図6参照)。
本発明者等は、さらに、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合、上記式(1)を充足するTs(℃)≧400の条件では、成膜温度Tsと電位差Vs−Vfが上記式(2)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかも、Pb抜けを安定的に抑制することができ、結晶構造および膜組成が良好な良質な圧電膜を安定的に成膜することができることを見出している(図6参照)。
PZTのスパッタ成膜において、高温成膜するとPb抜けが起こりやすくなることが知られている(特開平6−49638号公報の図2等参照)。本発明者等は、Pb抜けが、成膜温度以外に電位差Vs−Vfにも依存することを見出している。PZTの構成元素であるPb,Zr,およびTiの中で、Pbが最もスパッタ率が大きく、スパッタされやすい。例えば、「真空ハンドブック」((株)アルバック編、オーム社発行)の表8.1.7には、Arイオン300evの条件におけるスパッタ率は、Pb=0.75、Zr=0.48,Ti=0.65であることが記載されている。スパッタされやすいということは、スパッタされた原子が基板面に付着した後に、再スパッタされやすいということである。プラズマ電位と基板の電位との差が大きい程、すなわち、Vs−Vfの差が大きい程、再スパッタの率が高くなり、Pb抜けが生じやすくなると考えられる。このことは、PZT以外のPb含有ペロブスカイト型酸化物でも、同様である。また、スパッタリング法以外のプラズマを用いる気相成長法でも同様である。
成膜温度Tsと電位差Vs−Vfがいずれも過小の条件では、ペロブスカイト結晶を良好に成長させることができない傾向にある。また、成膜温度Tsと電位差Vs−Vfのうち少なくとも一方が過大の条件では、Pb抜けが生じやすくなる傾向にある。
すなわち、上記式(1)を充足するTs(℃)≧400の条件では、成膜温度Tsが相対的に低い条件のときには、ペロブスカイト結晶を良好に成長させるために電位差Vs−Vfを相対的に高くする必要があり、成膜温度Tsが相対的に高い条件のときには、Pb抜けを抑制するために、電位差Vs−Vfを相対的に低くする必要がある。これを表したのが、上記式(2)である。
本発明者等は、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合、下記式(1)〜(3)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、圧電定数の高い圧電膜が得られることを見出している。
Ts(℃)≧400・・・(1)、
−0.2Ts+100<Vs−Vf(V)<−0.2Ts+130・・・(2)、
10≦Vs−Vf(V)≦35・・・(3)
本発明者等は、上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜を成膜する場合、成膜温度Ts(℃)=約420の条件では、電位差Vs−Vf(V)=約42Vとすることで、Pb抜けのないペロブスカイト結晶を成長させることができるが、得られる膜の圧電定数d31は、100pm/V程度と低いことを見出している。この条件では、電位差Vs−Vf、すなわち基板に衝突するターゲット材TGの構成元素Tpのエネルギーが高すぎるために、膜に欠陥が生じやすく、圧電定数が低下すると考えられる。本発明者等は、上記式(1)〜(3)を充足する範囲で成膜条件を決定することで、圧電定数d31≧130pm/Vの圧電膜を成膜できることを見出している。
上記のスパッタ方法等のプラズマを用いる気相成長法において、膜特性に対して影響を与えるファクタが、成膜温度Ts(℃)、および、成膜時のプラズマ中のプラズマ電位Vs(V)とフローティング電位Vf(V)との差である電位差Vs−Vf(V)である。
上記の成膜方法によれば、膜特性に対して影響を与える上記2つのファクタと成膜される膜の特性との関係に基づいて、成膜条件を決定する構成としているので、スパッタ方法等のプラズマを用いる気相成長法により良質な膜を安定的に成膜することができる。
本発明の成膜方法を採用することで、装置条件が変わっても良質な膜を成膜できる条件を容易に見出すことができ、良質な膜を安定的に成膜することができる。
上記のスパッタ方法による成膜方法は、上述のように圧電体層の成膜等に好ましく適用することができる。特に、ペロブスカイト型酸化物からなる圧電体層の成膜において、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることが可能となる。さらに、PZT等のPb含有ペロブスカイト型酸化物からなる圧電体層の成膜において、パイロクロア相の少ないペロブスカイト結晶を安定的に成長させることができ、しかもPb抜けを安定的に抑制することが可能となる。
<圧電素子およびこれを備えた液体吐出装置>
次に、本発明に係る圧電素子およびこれを備えた液体吐出装置の構造について説明する。以下に、本発明の液体吐出装置の一実施形態であるインクジェットヘッドについて説明する。図7は、本発明の圧電素子の一実施形態を用いたインクジェットヘッドの一実施形態の要部断面図(圧電素子の厚み方向の断面図)である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は、実際のものとは適宜異ならせてある。
図7に示すように、本発明のインクジェットヘッド50は、本発明の圧電素子52と、インク貯留吐出部材54と、圧電素子52とインク貯留吐出部材54との間に設けられる振動板56を有する。
まず、本発明の圧電素子について説明する。同図に示すように、圧電素子52は、基板58と、基板58上に順次積層された下部電極層60、圧電体層62および上部電極層64とからなる素子であり、圧電体層62に対して、下部電極層60と上部電極層64とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。
また、下部電極層60は、基板58の略全面に形成されており、この上に図中手前側から奥側に延びるライン状の凸部62aがストライプ状に配列したパターンの圧電体層62が形成され、各凸部62aの上に上部電極層64が形成されている。
圧電体層62のパターンは、図示するものに限定されず、適宜設計される。なお、圧電体層62は、連続膜でも構わないが、圧電体層62を、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部62aからなるパターンで形成することで、個々の凸部62aの伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
図7に示すインクジェットヘッド50は、概略、上記構成の圧電素子52の基板58の下面に、振動板56を介して、インクが貯留されるインク室(インク貯留室)68およびインク室68から外部にインクが吐出されるインク吐出口(ノズル)70を有するインク貯留吐出部材54が取り付けられたものである。インク室68は、圧電体層62の凸部62aの数およびパターンに対応して、複数設けられている。すなわち、インクジェットヘッド50は、複数の吐出部を有し、圧電体層62、上部電極層64、インク室68およびインクノズル70は、各吐出部毎に設けられている。一方、下部電極層60、基板58および振動板56は、複数の吐出部に共通に設けられているが、これに制限されず、個々に、または幾かずつまとめて設けられていても良い。
インクジェットヘッド50では、後述する好ましい駆動方法により、または従来公知の駆動方法により、圧電素子52の凸部62aに印加する電界強度を凸部62a毎に増減させてこれを伸縮させ、これによってインク室68からのインクの吐出や吐出量の制御が行われる。
本発明の実施形態の圧電素子およびこれを用いるインクジェットヘッドは、基本的に以上のように構成されている。
次に、図8〜図11を参照して、本発明のインクジェットヘッドに適用される駆動方法について説明する。なお、本発明のインクジェットヘッドは、以下に説明する駆動方法により駆動するのが好ましいが、本発明はこれに限定されず、従来公知の駆動方法により駆動されても良いのはもちろんである。
ここで、図8は、インクジェットヘッドを駆動するための両極性波形の一例を示すグラフである。図9は、インクジェットヘッドを駆動するための単極性波形の一例を示すグラフである。図10は、多数の多パルス波形を含むドライブシグナルの電圧と時間との関係の一例を示すグラフである。図11(A)〜(E)は、多パルス波形に応じた吐出部のオリフィスからのインクの吐出状態の一例を示す概略図である。
本発明に適用される駆動方法は、従来のように、1つの駆動パルスで、所定サイズのオリフィスから所望の体積の1つの液滴を吐出するのではなく、複数の駆動パルスでより小さいサイズのオリフィスから同様の体積の液滴を吐出することを可能にするものである。
すなわち、このインクジェットヘッドの駆動方法は、2以上のドライブパルスを含む多パルス波形を圧電素子に与えて、インクジェットヘッドの1つの吐出部から、一つ、すなわち単一のインク液滴を吐出させるもので、ドライブパルスの周波数としてインクジェットヘッド(吐出部)の固有周波数fjより大きい周波数を用いるものである。
本駆動方法で用いられる多パルス波形の一例を図8に示す。図8は、多パルス波形を4つのドライブパルスから構成した例であるが、2つまたは3つのドライブパルスから構成しても良いし、5つ以上のドライブパルスから構成しても良い。なお、図8は、各ドライブパルスが正規化電圧(V/Vmax)と正規化時間とで表される両極性波形からなる例である。
ここで、ドライブパルスの周波数は、吐出部の固有周波数fjより高い方が良いが、例えば、好ましくは、1.3 fj 以上、より好ましくは、1.5 fj 以上、さらに好ましくは、1.5 fj以上、2.5 fj以下、さらにより好ましくは、1.8 fj 以上、2.2の fj 以下であるのが良い。
また、これらの複数のドライブパルスは、同一のパルス周期をパルスでも良いし、異なるパルス周期を持つパルスであっても良い。
さらに、これらの複数のドライブパルスは、図8に示すように、マイナス(−)側成分Spおよびプラス(+)側成分Smからなる双極性パルスからなるものでも良いし、図9に示すように、プラス(+)側成分だけからなる単極性パルスからなるものでも良いし、マイナス(−)側成分だけからなる単極性パルス、あるいは両単極性パルス、あるいはさらに双極性パルスを含む混合パルスからなるものでも良い。なお、ドライブパルスの周期tpは、同一であっても、異なっていても良い。
また、各ドライブパルスの振幅は、吐出部に印加される最大または最小の電圧に相当する振幅を持つが、実質的に同一であっても、異なっていても良いが、次のドライブパルスの振幅は、より前のドライブパルスの振幅より大きいことが好ましい。
また、好ましい駆動方法においては、複数パルスに応じて液滴吐出装置に単一液滴を吐出させるために、それぞれが20μ秒以下の周期を持つ1以上のパルスを有する波形を用いるのが良い。ここで、1以上のパルスは、それぞれが12μ秒以下の周期を持つのが好ましく、より好ましくは、10μ秒以下の周期を持つのが良い。
また、2以上のパルスに応じて液滴吐出装置に流体の単一液滴を吐出させるために、それぞれが約25μ秒以下の周期を持つ2以上のパルスを有する多パルス波形を用いても良い。ここで、2以上のパルスは、それぞれが12μ秒以下の周期を持つのが好ましく、より好ましくは8μ秒以下の周期、さらに好ましくは、5μ秒以下の周期を持つのが良い。
また、液滴は、1ピコリットルと100 ピコリットルの間の量を持つのが好ましい。
上記駆動方法において、吐出部の固有周波数fj における複数のドライブパルスの高調波成分は、最大成分の周波数fmaxにおける複数のドライブパルスの高調波成分の50%以下であるのが好ましく、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは10%以下であるのが良い。
上記駆動方法において、液滴の量の少なくとも60%は、rが下記式で与えられる、完全に球形の液滴の半径に相当し、mdが液滴の質量であり、ρが流体の密度であるとき、液滴における点の半径r内に含まれるのが良い。
Figure 0005371329

ここで、液滴は、少なくとも4ms−1の速度を持つのが好ましく、より好ましくは少なくとも6ms−1の速度、さらに好ましくは8ms−1の速度を持つのが良く、液滴の量の少なくとも80%は液滴の上述した球内に含まれるのが好ましく、より好ましくは、液滴の質量の少なくとも90%が含まれるのが良い。
また、この駆動方法においては、多パルス波形を連続パルスから構成しても良いが、不連続なパルスを含んでいても良い。
また、インクジェットヘッドを使ってプリントしている間に、多数の液滴が、多数の多パルス波形で吐出部を駆動することによって、各吐出部から吐出される。図9に示されるように、多パルス波形210および220には、それぞれ遅延期間212および222が続き、多パルス波形210および220が分離される。1つの液滴が、多パルス波形210に応じて吐出され、もう1つの液滴が、多パルス波形220に応じて吐出される。ここで、多パルス波形210および220は、図8に示すような4つのドライブパルスからなるものであるが、3以下のドライブパルスからなるものでも5以上のドライブパルスからなるものでも良いが、遅延期間212および222は、多パルス波形210および220の各全期間(4つの全ドライブパルスの合計の時間)より長く、1つの多パルス波形の全期間の2倍以上であるのが好ましく、特に、2以上の整数倍とするのが良い。
本駆動方法における複数のドライブパルスからなる多パルス波形による単一のインク液滴の成長および吐出について説明する。
図11(A)〜(E)は、多パルス波形による単一のインク液滴の成長および吐出を示す模式図である。
これらの図に示すように、複数のドライブパルスからなる多パルス波形に応じて吐出部から吐出されるべき単一のインク液滴の体積は、順次の次のドライブパルスで増加してゆき、最後に、分離されて、単一のインク液滴として吐出される。
まず、初めに、すなわち、最初のドライブパルスの印加前に、インク室68(図7参照)内のインクは、内部圧力によりノズル70のオリフィス72からわずかに後退して曲がっているメニスカス74を形成する(図11(A)参照)。
オリフィス72が円形である場合には、Dは、オリフィス直径である。 ここで、直径Dは、インクジェットデザインと液滴サイズの必要条件に応じて決めることができる。例えば、直径Dは、およそ10μmと200μmの間、好ましくはおよそ20μmと50μmの間とすることができる。 最初のパルスは、オリフィス72から最初の所定体積のインクを押し出し、インク表面80をノズル70から少し突き出させる(図11(B)参照)。
最初の吐出液滴部分が分離するか、または収縮する前に、第2番目のパルスが、所定体積のインクをノズル70から押し出し、ノズル70から突き出ているインクに付加する。こうして、ノズル70から突き出ているインクの体積が増加し、インク液滴が成長する。第2番目および第3番目のパルスからのインクは、図11(C)および(D)に示されるように、それぞれ、インク液滴の体積を増やし、かつモーメントを付加する。このようにして、連続したドライブパルスによるインクの体積は増加し、図11(C)および図11(D)に示されるように、オリフィス72に形成されつつある液滴に膨らみを持たせる。
最終的には、ノズル70は、第4番目のドライブパルスによって一つ、すなわち単一のインク液滴84を吐出し、メニスカス74は、その初期位置(図11(E)および(A)参照)に戻る。図11(E)は、また、ノズル70にインク液滴の頭部に接続する非常に薄いテール(尾引き)を示している。 このテールのサイズは、従来の公知の単一のパルスおよびより大きいノズルを使って形成された液滴に対するテールより実質的に小さい。
すなわち、この駆動方法を適用することにより、同一の単一のインク液滴を吐出される場合、従来公知の単一のパルスによりインク液滴を吐出するためのノズルのサイズ、例えば、オリフィスの直径を実質的に小さくできる。例えば、4ドライブパルスからなる多パルス波形を用いる場合には、ノズルのサイズを従来の1/4程度にすることができる。そして、この駆動方法では、吐出インク液滴のテールを極めて小さくすることができる。こうして、この駆動方法では、インク液滴の「テール(尾引き)」に起因するサテライトやスプラッシュなどの微小分離液滴の発生を防止することができる。
本発明のインクジェットヘッドに適用される駆動方法は、基本的に以上のように構成される。
次に、本発明に係るインクジェットヘッドを備えるインクジェット式記録装置の構造について説明する。図12は、本発明のインクジェットヘッドを備えるインクジェット式記録装置の一実施形態の全体構成を示す装置全体図であり、図13は、その部分上面図である。
図示例のインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」という)50K,50C,50M,50Yを有する印字部102と、各ヘッド50K,50C,50M,50Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
印字部102をなすヘッド50K,50C,50M,50Yが、各々上記実施形態のインクジェットヘッド50(図7参照)である。
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
ロール紙を使用する装置では、図12に示すように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、この固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面および印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面および印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示せず)の動力が伝達されることにより、ベルト133は、図12において時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は、図12において左から右へと搬送される。
なお、縁無しプリント等を印字すると、ベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
また、吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを、紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図13参照)。各印字ヘッド50K,50C,50M,50Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド50K,50C,50M,50Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ、各ヘッド50K,50C,50M,50Yから、それぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けた方が好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
本実施形態のインクジェット記記録装置は、基本的に以上のように構成されている。
以上、本発明に係る積層体、ならびにこの積層体を用いた圧電素子などの薄膜デバイス、インクジェットヘッドおよびインクジェット式記録装置について種々の実施形態および実施例を挙げて詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や設計の変更を行ってもよいのは、もちろんである。
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
<実施例1>
図2に示すスパッタ装置40として、神港精機社製STV4320型スパッタ装置を用いた。本スパッタ装置40では、基板ホルダ48は、接地あるいはフローティング状態ともに選択できるものであった。高周波電源46は、最大1kWの高周波電力を印加できるものを用いた。なお、後述するターゲット材は、株式会社豊島製作所のものを用いた。
基板SBには、予め、Siウエハ上に、熱酸化膜(SiO膜)100nmを形成した、基板サイズ5cm角の基板を用いた。
ターゲット材TGと基板SBとの間の距離は、60mmとした。以後、同じ距離で成膜を実施した。
ターゲット材TGには、TiW合金(W:10モル%)を用い、基板温度を350℃として、Ar(100%)のガスを導入し、0.9PaにてTiW層(密着金属層)(厚み:20nm)の成膜を行った。
次に、ターゲット材TGとしてAu金属を用い、TiW層を有するSiウエハ上に金層(厚み:300nm)を形成した。スパッタ条件としては、基板温度を350℃として、Ar(100%)のガスを導入し、0.1Paにて実施した。
さらに、得られた金層の上に、上記と同様の条件で、TiW層(密着金属層)(厚み:20nm)の成膜を行った。
さらに、ターゲットTGとしてIr金属を用いて、密着金属層の上にイリジウム層(厚み:200nm)を形成した。スパッタ条件としては、基板温度を350℃として、Ar(100%)のガスを導入し、0.1Paにて実施した。
Siウエハ上に形成された密着金属層と、金層と、密着金属層と、イリジウム層からなる低抵抗金属層のシート抵抗を測定したところ、0.18Ω/□であった。測定方法としては、四端子法である。以後、同様の方法により測定を行った。
また、最表層がイリジウム層である低抵抗金属層の平均表面粗さRaは、13nmであった。なお、測定方法としては、表面段差計による測定である。以後、同様の方法により測定を行った。
上記の低抵抗金属層上に、ターゲットTGとしてPb1.3Zr0.52Ti0.48を用いて、PZTからなる圧電体層(厚み:4μm)を形成した。スパッタ条件としては、基板温度を475℃として、Ar(体積分率97.5%)+O(体積分率2.5%)のガスを導入し、0.5Paにて実施した。圧電体層のX線回折(XRD)測定を実施したところ、結晶配向性を有するペロブスカイト結晶の形成が示された(図14)。
圧電体層を作製後、低抵抗金属層のシート抵抗を測定したところ、0.5Ω/□であった。
また、圧電体層の平均表面粗さRaは38nmであった。圧電体層の平均表面粗さRaの値は、圧電体層の厚みに対して、0.95%であった。
<実施例2>
実施例1と同様の方法で、熱酸化膜(SiO膜、厚み:100nm)を備えるSiウエハ上に、TiW層(厚み:100nm)、金層(厚み:300nm)、TiW層(厚み:100nm)、イリジウム層(厚み:150nm)をこの順番で積層させた。
Siウエハ上に形成された、密着金属層と、金層と、密着金属層と、イリジウム層とからなる低抵抗金属層のシート抵抗を測定したところ、0.17Ω/□であった。
また、最表層がイリジウム層である低抵抗金属層の平均表面粗さRaは、11nmであった。
上記の低抵抗金属層上に、ターゲットTGとしてPb1.3Zr0.52Ti0.48を用いて、PZTからなる圧電体層(厚み:4μm)を形成した。スパッタ条件としては、基板温度を475℃として、Ar(体積分率97.5%)+O(体積分率2.5%)のガスを導入し、0.5Paにて実施した。圧電体層のX線回折(XRD)測定を実施したところ、結晶配向性を有するペロブスカイト結晶の形成が示された(図15)。
圧電体層を作製後、低抵抗金属層のシート抵抗を測定したところ、0.55Ω/□であった。
また、圧電体層の平均表面粗さRaは20nmであった。圧電体層の平均表面粗さRaの値は、圧電体層の厚みに対して、0.5%であった。
<実施例3>
実施例1と同様の方法で、熱酸化膜(SiO膜、厚み:100nm)を備えたSiウエハ上に、TiW層(厚み:20nm)、金層(厚み:300nm)、TiW層(厚み:20nm)、イリジウム層(厚み:300nm)をこの順番で積層させた。
Siウエハ上に形成された、密着金属層と、金層と、密着金属層と、イリジウム層とからなる低抵抗金属層のシート抵抗を測定したところ、0.14Ω/□であった。
また、最表層がイリジウム層である低抵抗金属層の平均表面粗さRaは、20nmであった。
上記の低抵抗金属層上に、ターゲットTGとしてPb1.3Zr0.52Ti0.48を用いて、PZTからなる圧電体層(厚み:4μm)を形成した。スパッタ条件としては、基板温度を475℃として、Ar(体積分率97.5%)+O(体積分率2.5%)のガスを導入し、0.5Paにて実施した。圧電体層のX線回折(XRD)測定を実施したところ、結晶配向性を有するペロブスカイト結晶の形成が示された(図16)。
圧電体層を作製後、低抵抗金属層のシート抵抗を測定したところ、0.5Ω/□であった。
また、圧電体層の平均表面粗さRaは25nmであった。圧電体層の平均表面粗さRaの値は、圧電体層の厚みに対して、0.625%であった。
<比較例1>
実施例1と同様の方法により、熱酸化膜(SiO膜、厚み:100nm)を備えたSiウエハ上に、TiW層(厚み:20nm)、金層(厚み:300nm)、TiW層(厚み:20nm)をこの順番で積層させた。
Siウエハ上に形成された、密着金属層と、金層と、密着金属層と、イリジウム層からなる低抵抗金属層のシート抵抗を測定したところ、0.2Ω/□であった。
さらに、実施例1と同様の条件で、低抵抗金属層の上に圧電体層を形成した(厚み:4μm)。圧電体層のX線回折(XRD)測定を実施したところ、パイロクロア相の形成が示された(図17)。
圧電体層を作製後、低抵抗金属層のシート抵抗を測定したところ、0.7Ω/□であった。
また、圧電体層の平均表面粗さRaは48nmであり、実施例1と比較して表面凹凸が激しく、クラックが発生していた。なお、圧電体層の平均表面粗さRaは、圧電体層の厚みに対して、1.2%であった。
本発明に係る積層体は、インクジェット式記録ヘッド、強誘電体メモリ(FRAM)、および圧力センサ等に用いられる圧電素子などに好ましく適用できる。
本発明に係る圧電素子の一実施形態の模式的断面図である。 スパッタ方法を実施するスパッタ装置の装置構を示す概略断面図である。 スパッタ方法の一例を示すフローチャートである。 図2に示すスパッタ装置における成膜中の様子を模式的に示す模式図である。 スパッタ装置におけるプラズマ電位Vsおよびフローティング電位Vfの測定方法を示す説明図である。 任意の条件で成膜したサンプルについて、成膜温度Tsを横軸にし、Vsを縦軸にして、XRD測定結果をプロットした図である。 本発明の圧電素子およびこれを用いるインクジェットヘッドの一実施形態の構造を示す断面図である。 図7に示すインクジェットヘッドを駆動するための両極性波形の一例を示すグラフである。 図7に示すインクジェットヘッドを駆動するための単極性波形の一例を示すグラフである。 多数の多パルス波形を含むドライブシグナルの電圧と時間との関係の一例を示すグラフである。 (A)〜(E)は、多パルス波形に応じた吐出部のオリフィスからのインクの吐出状態の一例を示す概略図である。 図7に示すインクジェットヘッドを備えるインクジェット式記録装置の一実施形態の構成を示す構成図である。 図12に示すインクジェット式記録装置の部分上面図である。 実施例1で得られた主な圧電体層のXRDパターンである。 実施例2で得られた主な圧電体層のXRDパターンである。 実施例3で得られた主な圧電体層のXRDパターンである。 比較例1で得られた主な圧電体層のXRDパターンである。
符号の説明
10 圧電素子
12 基板
14 熱酸化膜
16 密着金属層
18 金層
20 密着金属層
22 金属層
24 圧電体層
26 上部電極層
28 低抵抗金属層
30 積層体
40 スパッタ装置
42 真空容器
42a ガス導入管
42b ガス排出管
44 スパッタ電極(カソード電極)
46 高周波電源
48 基板ホルダ
50、50K,50C,50M,50Y インクジェットヘッド
52 圧電素子
54 インク貯留吐出部材
56 振動板
58 基板(支持基板)
60、64 電極
62 圧電体層
68 インク室
70 インク吐出口
100 インクジェット式記録装置
IP プラスイオン
P プラズマ空間
SB 基板(成膜基板)
TG ターゲット材
Tp ターゲット材の構成元素

Claims (10)

  1. 基板と、前記基板上に形成される積層構造の低抵抗金属層と、前記低抵抗金属層上に形成される圧電体層とを有する積層体であり、
    前記低抵抗金属層は、前記基板上に形成され、金からなる金層と、前記金層上に形成され、前記低抵抗金属層の最表層に配置される金属層とを備え、
    前記金層と前記圧電体層との間の厚みが、200nmより大きく、
    前記金属層は、イリジウムからなる金属層であり、
    前記低抵抗金属層は、さらに、前記基板の側に前記金層と前記基板との間を密着させる密着金属層を備え、
    前記低抵抗金属層の上表面の平均表面粗さRaが50nm以下である、積層体と、
    前記積層体上に形成される上部電極層とを備え、
    前記圧電体層は、ペロブスカイト型酸化物膜であり、
    前記低抵抗金属層が下部電極層として機能することを特徴とする圧電素子。
  2. 前記低抵抗金属層は、さらに、前記金層と前記金属層との間に密着金属層を備える請求項1に記載の圧電素子
  3. 前記密着金属層は、チタンタングステン合金である請求項1または2に記載の圧電素子
  4. 前記基板は、シリコン基板、または前記低抵抗金属層が形成される側に熱酸化膜を持つシリコン基板である請求項1〜3のいずれかに記載の圧電素子
  5. 前記低抵抗金属層のシート抵抗が、1Ω/□以下である請求項1〜4のいずれかに記載の圧電素子
  6. 前記圧電体層の上表面の平均表面粗さRaが、40nm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の圧電素子
  7. 前記低抵抗金属層の厚みが、200〜2000nmである請求項1〜6のいずれかに記載の圧電素子
  8. 前記圧電体層は、前記下部電極層を400℃以上加熱して、その上に気相成長法を用いて形成された圧電体材料からなる請求項1〜7のいずれかに記載の圧電素子。
  9. 前記圧電体層の上表面の平均表面粗さRaが、前記圧電体層の厚みの1.0%以下である請求項1〜8のいずれかに記載の圧電素子。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の圧電素子と、
    液体が貯留される液体貯留室と、
    前記圧電素子に電圧を印加することにより、前記液体貯留室から外部に前記液体を吐出させる液体吐出口とを有することを特徴とする液体吐出装置。
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