以下、本発明の一実施形態を図1〜図26に基づいて説明する。図1には、一実施形態に係るカラープリンタ2000の概略構成が示されている。
このカラープリンタ2000は、4色(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)を重ね合わせてフルカラーの画像を形成するタンデム方式の多色カラープリンタであり、光走査装置2010、4つの感光体ドラム(2030a、2030b、2030c、2030d)、4つのクリーニングユニット(2031a、2031b、2031c、2031d)、4つの帯電チャージャ(2032a、2032b、2032c、2032d)、4つの現像ローラ(2033a、2033b、2033c、2033d)、4つのトナーカートリッジ(2034a、2034b、2034c、2034d)、転写ベルト2040、定着ローラ2050、給紙コロ2054、レジストローラ対2056、排紙ローラ2058、給紙トレイ2060、排紙トレイ2070、通信制御装置2080、及び上記各部を統括的に制御するプリンタ制御装置2090などを備えている。
なお、ここでは、XYZ3次元直交座標系において、各感光体ドラムの長手方向に沿った方向をY軸方向、4つの感光体ドラムの配列方向に沿った方向をX軸方向として説明する。
通信制御装置2080は、ネットワークなどを介した上位装置(例えばパソコン)との双方向の通信を制御する。
各感光体ドラムはいずれも、その表面に感光層が形成されている。すなわち、各感光体ドラムの表面がそれぞれ被走査面である。なお、各感光体ドラムは、不図示の回転機構により、図1における面内で矢印方向に回転するものとする。
感光体ドラム2030aの表面近傍には、感光体ドラム2030aの回転方向に沿って、帯電チャージャ2032a、現像ローラ2033a、クリーニングユニット2031aが配置されている。
感光体ドラム2030a、帯電チャージャ2032a、現像ローラ2033a、トナーカートリッジ2034a、及びクリーニングユニット2031aは、組として使用され、ブラックの画像を形成する画像形成ステーション(以下では、便宜上「Kステーション」ともいう)を構成する。
感光体ドラム2030bの表面近傍には、感光体ドラム2030bの回転方向に沿って、帯電チャージャ2032b、現像ローラ2033b、クリーニングユニット2031bが配置されている。
感光体ドラム2030b、帯電チャージャ2032b、現像ローラ2033b、トナーカートリッジ2034b、及びクリーニングユニット2031bは、組として使用され、シアンの画像を形成する画像形成ステーション(以下では、便宜上「Cステーション」ともいう)を構成する。
感光体ドラム2030cの表面近傍には、感光体ドラム2030cの回転方向に沿って、帯電チャージャ2032c、現像ローラ2033c、クリーニングユニット2031cが配置されている。
感光体ドラム2030c、帯電チャージャ2032c、現像ローラ2033c、トナーカートリッジ2034c、及びクリーニングユニット2031cは、組として使用され、マゼンタの画像を形成する画像形成ステーション(以下では、便宜上「Mステーション」ともいう)を構成する。
感光体ドラム2030dの表面近傍には、感光体ドラム2030dの回転方向に沿って、帯電チャージャ2032d、現像ローラ2033d、クリーニングユニット2031dが配置されている。
感光体ドラム2030d、帯電チャージャ2032d、現像ローラ2033d、トナーカートリッジ2034d、及びクリーニングユニット2031dは、組として使用され、イエローの画像を形成する画像形成ステーション(以下では、便宜上「Yステーション」ともいう)を構成する。
各帯電チャージャは、対応する感光体ドラムの表面をそれぞれ均一に帯電させる。
光走査装置2010は、上位装置からの多色の画像情報(ブラック画像情報、シアン画像情報、マゼンタ画像情報、イエロー画像情報)に基づいて、各色毎に変調された光束を、対応する帯電された感光体ドラムの表面にそれぞれ照射する。これにより、各感光体ドラムの表面では、光が照射された部分だけ電荷が消失し、画像情報に対応した潜像が各感光体ドラムの表面にそれぞれ形成される。ここで形成された潜像は、感光体ドラムの回転に伴って対応する現像ローラの方向に移動する。なお、この光走査装置2010の構成については後述する。
トナーカートリッジ2034aにはブラックトナーが格納されており、該トナーは現像ローラ2033aに供給される。トナーカートリッジ2034bにはシアントナーが格納されており、該トナーは現像ローラ2033bに供給される。トナーカートリッジ2034cにはマゼンタトナーが格納されており、該トナーは現像ローラ2033cに供給される。トナーカートリッジ2034dにはイエロートナーが格納されており、該トナーは現像ローラ2033dに供給される。
各現像ローラは、回転に伴って、対応するトナーカートリッジからのトナーが、その表面に薄く均一に塗布される。そして、各現像ローラの表面のトナーは、対応する感光体ドラムの表面に接すると、該表面における光が照射された部分にだけ移行し、そこに付着する。すなわち、各現像ローラは、対応する感光体ドラムの表面に形成された潜像にトナーを付着させて顕像化させる。ここでトナーが付着した像(以下、便宜上「トナー画像」という)は、感光体ドラムの回転に伴って転写ベルト2040の方向に移動する。
イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各トナー画像は、所定のタイミングで転写ベルト2040上に順次転写され、重ね合わされてカラー画像が形成される。
給紙トレイ2060には記録紙が格納されている。この給紙トレイ2060の近傍には給紙コロ2054が配置されており、該給紙コロ2054は、記録紙を給紙トレイ2060から1枚づつ取り出し、レジストローラ対2056に搬送する。該レジストローラ対2056は、所定のタイミングで記録紙を転写ベルト2040に向けて送り出す。これにより、転写ベルト2040上のカラー画像が記録紙に転写される。ここで転写された記録紙は、定着ローラ2050に送られる。
定着ローラ2050では、熱と圧力とが記録紙に加えられ、これによってトナーが記録紙上に定着される。ここで定着された記録紙は、排紙ローラ2058を介して排紙トレイ2070に送られ、排紙トレイ2070上に順次スタックされる。
各クリーニングユニットは、対応する感光体ドラムの表面に残ったトナー(残留トナー)を除去する。残留トナーが除去された感光体ドラムの表面は、再度対応する帯電チャージャに対向する位置に戻る。
次に、前記光走査装置2010の構成について説明する。
この光走査装置2010は、一例として図2及び図3に示されるように、2つの光源ユニット(LU1、LU2)、2つのシリンドリカルレンズ(121、122)、ポリゴンミラー14、2つのfθレンズ(151、152)、2つの偏光分離素子(161、162)、2つの回折素子(171、172)、複数の折り返しミラー(18a、18b1、18b2、18c1、18c2、18d)、4つのアナモフィックレンズ(19a、19b、19c、19d)及び不図示の走査制御装置を有している。なお、以下では、便宜上、主走査方向に対応する方向を「主走査対応方向」と略述し、副走査方向に対応する方向を「副走査対応方向」と略述する。
光源ユニットLU1は、一例として図4に示されるように、2つの光源(10a、10b)、及び2つのコリメートレンズ(11a、11b)を有している。
光源10a及び光源10bは、同等の光源である。そして、光源10a及び光源10bは、それらの出力光の偏光方向が互いに直交するように回路基板上に配置されている。すなわち、一例として図5に示されるように、各光源は、一方の光源に対して他方の光源が90°回転した姿勢で基板に実装されている。ここでは、光源10aからP偏光が出力され、光源10bからS偏光が出力されるものとする。なお、P偏光は主走査対応方向と直交する方向に電界ベクトル(振動面)がある直線偏光である。
コリメートレンズ11aは、光源10aからの光束(LBa)の光路上に配置され、該光束LBaを略平行光とする。
コリメートレンズ11bは、光源10bからの光束(LBb)の光路上に配置され、該光束LBbを略平行光とする。
光源ユニットLU2は、一例として図6に示されるように、2つの光源(10c、10d)、及び2つのコリメートレンズ(11c、11d)を有している。
光源10c及び光源10dは、同等の光源である。そして、光源10c及び光源10dは、それらの出力光の偏光方向が互いに直交するように回路基板上に配置されている。すなわち、一例として図7に示されるように、各光源は、一方の光源に対して他方の光源が90°回転した姿勢で基板に実装されている。ここでは、光源10cからS偏光が出力され、光源10dからP偏光が出力されるものとする。
コリメートレンズ11cは、光源10cからの光束(LBc)の光路上に配置され、該光束LBcを略平行光とする。
コリメートレンズ11dは、光源10dからの光束(LBd)の光路上に配置され、該光束LBdを略平行光とする。
図2に戻り、シリンドリカルレンズ121は、光源ユニットLU1からの光束を、ポリゴンミラー14の偏向反射面近傍にZ軸方向に関して結像する。
シリンドリカルレンズ122は、光源ユニットLU2からの光束を、ポリゴンミラー14の偏向反射面近傍にZ軸方向に関して結像する。
ポリゴンミラー14は、一例として4面鏡を有し、各鏡がそれぞれ偏向反射面となる。このポリゴンミラー14は、Z軸方向に平行な軸の周りに等速回転し、各シリンドリカルレンズからの光束をXY平面に平行な面内で等角速度的に偏向する。ここでは、シリンドリカルレンズ121からの光束はポリゴンミラー14の−X側に偏向され、シリンドリカルレンズ122からの光束はポリゴンミラー14の+X側に偏向される。なお、ポリゴンミラー14の偏向反射面で偏向された光束が経時的に形成する光線束面は、「偏向面」と呼ばれている(特開平11−202252号公報参照)。ここでは、偏向面はXY面に平行である。
fθレンズ151は、ポリゴンミラー14の−X側であって、ポリゴンミラー14で偏向されたシリンドリカルレンズ121からの光束の光路上に配置されている。
偏光分離素子161は、fθレンズ151の−X側であって、fθレンズ151を介した光束(ここでは、光束LBaと光束LBb)の光路上に配置されている。また、偏光分離素子161は、P偏光に対して0次光のみ発生させ、S偏光に対しては+1次回折光のみ発生させる。
そこで、fθレンズ151を介した光束LBaは、P偏光であるため、図8に示されるように、偏光分離素子161を直進する。なお、以下では、便宜上、0次光を「非回折光」ともいう。
また、fθレンズ151を介した光束LBbは、S偏光であるため、図8に示されるように、X軸に対して傾斜した方向に向かって偏光分離素子161から射出される。なお、以下では、便宜上、+1次回折光を単に「回折光」ともいう。また、ここでの回折次数は、0次以外であれば特に+1次である必要はなく、最も高い回折効率が得られる条件に設定すればよい。
回折素子171は、偏光分離素子161で回折された光束LBbの光路上に配置されている。ここでは、回折素子171を介した光束LBbの光路は、偏光分離素子161を透過した光束LBaの光路と平行である。
図3に戻り、偏光分離素子161を透過した光束(ここでは、光束LBa)は、折り返しミラー18aとアナモフィックレンズ19aを介して感光体ドラム2030aの表面に照射され、光スポットが形成される。この光スポットは、ポリゴンミラー14の回転に伴って感光体ドラム2030aの長手方向に移動する。すなわち、感光体ドラム2030a上を走査する。このときの光スポットの移動方向が、感光体ドラム2030aでの「主走査方向」であり、感光体ドラム2030aの回転方向が、感光体ドラム2030aでの「副走査方向」である。
このように、fθレンズ151と偏光分離素子161と折り返しミラー18aとアナモフィックレンズ19aは、「Kステーション」の走査光学系である。
一方、偏光分離素子161で回折され、回折素子171を通過した光束(ここでは、光束LBb)は、折り返しミラー18b1と折り返しミラー18b2とアナモフィックレンズ19bを介して感光体ドラム2030bの表面に照射され、光スポットが形成される。この光スポットは、ポリゴンミラー14の回転に伴って感光体ドラム2030bの長手方向に移動する。すなわち、感光体ドラム2030b上を走査する。このときの光スポットの移動方向が、感光体ドラム2030bでの「主走査方向」であり、感光体ドラム2030bの回転方向が、感光体ドラム2030bでの「副走査方向」である。
このように、fθレンズ151と偏光分離素子161と回折素子171と折り返しミラー18b1と折り返しミラー18b2とアナモフィックレンズ19bは、「Cステーション」の走査光学系である。
すなわち、fθレンズ151と偏光分離素子161は、2つの画像形成ステーションで共有されている。
図2に戻り、fθレンズ152は、ポリゴンミラー14の+X側であって、ポリゴンミラー14で偏向されたシリンドリカルレンズ122からの光束の光路上に配置されている。
偏光分離素子162は、前記偏光分離素子161と同様な偏光分離素子である。
偏光分離素子162は、fθレンズ152の+X側であって、fθレンズ152を介した光束(ここでは、光束LBcと光束LBd)の光路上に配置されている。また、偏光分離素子162は、P偏光に対して0次光のみ発生させ、S偏光に対しては+1次回折光のみ発生させる。
そこで、fθレンズ152を介した光束LBdは、P偏光であるため、図9に示されるように、偏光分離素子162を直進する。
また、fθレンズ152を介した光束LBcは、S偏光であるため、図9に示されるように、X軸に対して傾斜した方向に向かって偏光分離素子162から射出される。
回折素子172は、偏光分離素子162で回折された光束LBcの光路上に配置されている。ここでは、回折素子172を介した光束LBcの光路は、偏光分離素子162を透過した光束LBdの光路と平行である。
なお、偏光分離素子及び回折素子の詳細については後述する。
図3に戻り、偏光分離素子162で回折され、回折素子172を通過した光束(ここでは、光束LBc)は、折り返しミラー18c1と折り返しミラー18c2とアナモフィックレンズ19cを介して感光体ドラム2030cの表面に照射され、光スポットが形成される。この光スポットは、ポリゴンミラー14の回転に伴って感光体ドラム2030cの長手方向に移動する。すなわち、感光体ドラム2030c上を走査する。このときの光スポットの移動方向が、感光体ドラム2030cでの「主走査方向」であり、感光体ドラム2030cの回転方向が、感光体ドラム2030cでの「副走査方向」である。
このように、fθレンズ152と偏光分離素子162と回折素子172と折り返しミラー18c1と折り返しミラー18c2とアナモフィックレンズ19cは、「Mステーション」の走査光学系である。
一方、偏光分離素子162を透過した光束(ここでは、光束LBd)は、折り返しミラー18dとアナモフィックレンズ19dを介して感光体ドラム2030dの表面に照射され、光スポットが形成される。この光スポットは、ポリゴンミラー14の回転に伴って感光体ドラム2030dの長手方向に移動する。すなわち、感光体ドラム2030d上を走査する。このときの光スポットの移動方向が、感光体ドラム2030dでの「主走査方向」であり、感光体ドラム2030dの回転方向が、感光体ドラム2030dでの「副走査方向」である。
このように、fθレンズ152と偏光分離素子162と折り返しミラー18dとアナモフィックレンズ19dは、「Yステーション」の走査光学系である。
すなわち、fθレンズ152と偏光分離素子162は、2つの画像形成ステーションで共有されている。
本実施形態では、fθレンズは、ポリゴンミラーと偏光分離素子との間に設けられている。そして、P偏光の光路とS偏光の光路は、Z軸方向に関してほぼ重なっているため、fθレンズを薄くすることができる。
走査制御装置は、各光源に対応した光源制御回路を有している。そして、光源10a及び光源10bに対応した光源制御回路は、光源ユニットLU1の回路基板上に実装されている。また、光源10c及び光源10dに対応した光源制御回路は、光源ユニットLU2の回路基板上に実装されている。
ここで、前記偏光分離素子(161、162)の構造及び機能について詳述する。なお、以下では、代表として、偏光分離素子161について説明する。
偏光分離素子161は、一例として図10に示されるように、Y軸方向を長手方向とする板状の部材である。そして、図10の拡大図である図11(A)、及び該図11(A)のA−A断面図である図11(B)に示されるように、Z軸方向に沿って第1の領域p1と第2の領域p2とが周期的に配列されている周期構造体を有している。第1の領域p1及び第2の領域p2のZ軸方向の幅は、数μm程度である。なお、図11(B)において、周期構造がX軸方向に対して傾斜しているのは、後述する干渉露光における2つの光源位置の関係による。
周期構造体は、一例として非重合性液晶とポリマーとから形成されている。そして、第1の領域p1は、主に非重合性液晶からなり、第2の領域p2は、主にポリマーからなる。
非重合性液晶としては、例えば、ネマティック液晶を用いることができる。ネマティック液晶は一軸光学異方性を有し、液晶分子の短軸方向が常光屈折率noに、液晶分子の長軸方向が異常光屈折率neに対応している。一般的には、ne>noの関係にある。
そこで、液晶の常光屈折率noとポリマーの屈折率npとがほぼ一致するように、液晶の種類とポリマーの種類の組合せを設定することで、電界ベクトルの方向がZ軸に平行なP偏光(第1の光)に対して、屈折率を一様とすることができる。
一方、電界ベクトルの方向がXY面内にあるS偏光(第2の光)は、液晶の異常光屈折率neとポリマーの屈折率npの屈折率差から回折を受けることになる。この場合、第1の領域p1が高屈折率領域となり、第2の領域p2が低屈折率領域となる。
すなわち、周期構造体は、S偏光に対して体積型の回折光学素子として機能する。
回折光学素子の回折効率は、例えば、周期構造体の周期が入射光の波長に比べて十分大きく、薄いと見なせる場合には、フラウンホーファー回折理論及びスカラー回折理論を適用して求めることができる。一方、周期構造体の周期が入射光の波長程度に小さい場合には、電磁界解析であるベクトル回折理論を適用して求めることができる。
例えば、厚いと見なせる屈折率変調型素子(厚いホログラム)の回折効率は、Kogelnikの結合波理論(BellSyst.Tech.J.,48,1969,p2909−2947参照)を適用して求めることができる。これは、周期構造を形成する各領域にある波長の光が入射した場合、各領域で散乱された光は、その波長、入射角度及び各領域の周期構造ピッチによって決定される特定方向に、散乱成分が強め合うブラッグの回折条件を満たす。
そして、回折素子の回折効率は、格子の周期構造から生成される屈折率差(又は屈折率変調量)Δnと周期構造の膜厚dに依存し、これらのパラメータを最適化することで、理想的な回折効率を得ることができる。
ところで、液晶を用いた従来の偏光分離素子における周期構造体の一般的構造が図12(A)及び図12(B)に示されている。図12(B)は、図12(A)のB−B断面図である。第1の領域p1における液晶分子の長軸方向は、Y軸方向に平行である。
この従来の偏光分離素子は、該偏光分離素子に入射する光の入射角が、入射位置によらず一様であれば、P偏光とS偏光を精度良く分離することができる。
しかしながら、ポリゴンミラーの後段に配置され、ポリゴンミラーで偏向された光が入射する場合には、一例として図13に示されるように、入射位置によって入射角が異なっている。なお、偏光分離素子は、偏光分離面が偏向面に直交するように配置されるため、偏向角は、偏光分離素子から見たときの入射角と等価である。また、入射位置が決まれば入射角は一意に決まる。
偏光分離素子に入射した光は、いずれの入射位置においても、光路長及び屈折率差がブラッグ条件を満たす場合に回折される。また、回折角は入射角によらず一定に設定されるため、周期構造体の周期ピッチは、いずれの入射位置においても同じである。従って、ある入射角(αとする)における屈折率差Δn(α)と光路長L(α)の積であらわされるリタデーションが一定であれば、回折効率が入射角によって変化することはない。
従来の偏光分離素子にS偏光を入射したときの、入射角αと屈折率n(α)の関係、及び入射角αと光路長L(α)の関係が図14に示されている。ここでは、no=1.50、ne=1.60、Z軸方向における第1の領域p1の厚さd=5.0μmとしている。屈折率n(α)は、入射角αの増加とともにneからnoに向かって減少している。光路長L(α)は、入射角αの増加とともにdからd/cosαにしたがって増加している。この場合の入射角αとリタデーション(=Δn(α)・L(α))の関係の計算結果が図15に示されている。ここでは、Δn(α)=(n(α)−no)としている。リタデーションは、入射角αの増加とともに減少している。すなわち、従来の偏光分離素子では、入射されたS偏光の回折効率は、その入射位置によって異なることを示している。
そこで、入射されたS偏光の回折効率を、その入射位置によらず一定とするには、光の入射角αによらずリタデーションが一定となるようにすれば良い。すなわち、リタデーションが、入射角αの増加とともに減少しないように、屈折率n(α)及び光路長L(α)の少なくとも一方を設定すれば良い。具体的には、(1)入射角αの増加によるn(α)の低下が小さくなるように屈折率を制御する、(2)入射角αの増加とともに光路長L(α)が増大するように第1の領域p1の厚さdを設定する、ことが考えられる。
(1)入射角αの増加によるn(α)の低下を小さくする場合:
この場合に適した第1の領域p1が、一例として図16に示されている。この第1の領域p1では、Y軸方向に関して、入射角の小さい位置から大きい位置に向かって、液晶分子の長軸方向のチルト角が連続的に大きくなっている。なお、チルト角とは、Y軸方向と液晶分子の長軸方向とのなす角である。
このようなチルト角の変化は、例えば、液晶の配向膜として酸化シリコンの斜方蒸着膜を用い、蒸着角をチルト角に対応させて変化させることで得ることができる。また、X軸方向に関する第1の領域p1の両端面付近に透明電極を設け、チルト角に対応させて液晶分子に印加する電圧値を変化させることでも得ることができる。
周期構造体における第1の領域p1として、図16に示されるような第1の領域p1を用いた偏光分離素子にS偏光を入射したときの、入射角αと屈折率n(α)の関係、及び入射角αと光路長L(α)の関係が図17に示されている。なお、ここでは、チルト角θの変化は、入射角αに対してθ=0.7×αとなるよう設定されている。そして、この場合の入射角αとリタデーション(=Δn(α)・L(α))の関係の計算結果が図18に示されている。このように、チルト角を変化させることで、入射角によらずほぼ均一なリタデーションを得ることができる。
ところで、偏光分離素子として、一例として図19(A)及び図19(B)に示されるように、S偏光を直進させP偏光を回折させる偏光分離素子を用いることが考えられる。しかしながら、この場合に、入射角αの変化に対して、S偏光の感じる屈折率は変化せず、P偏光の感じる屈折率のみが変化するように、液晶分子の配向方向を制御するのは困難である。
(2)入射角αの増加とともに光路長L(α)を増大させる場合:
この場合に適した第1の領域p1が、一例として図20に示されている。この第1の領域p1では、Y軸方向に関して、入射角の小さい位置から大きい位置に向かって、第1の領域p1の厚さdが連続的に大きくなっている。
周期構造体における第1の領域p1として、図20に示されるような第1の領域p1を用いた偏光分離素子にS偏光を入射したときの、入射角αと屈折率n(α)の関係、及び入射角αと光路長L(α)の関係が図21に示されている。なお、ここでは、入射角αの増加とともに、厚さdをcos1.15αに比例して増加させている。そして、この場合の入射角αとリタデーション(=Δn(α)・L(α))の関係の計算結果が図22に示されている。このように、厚さdを変化させることで、入射角によらずほぼ均一なリタデーションを得ることができる。
本実施形態の各偏光分離素子は、周期構造体における第1の領域p1として、図16に示されるような第1の領域p1、あるいは図20に示されるような第1の領域p1を用いている。これにより、入射位置によらず、入射されるP偏光とS偏光を精度良く分離することができる(図23参照)。
次に、本実施形態の偏光分離素子の製造方法について簡単に説明する(特開2006−189728号公報参照)。
図24には、出発点となる素子の断面が示されている。ここでは、非重合性液晶分子73と、重合性モノマー(あるいはプレポリマー)74と、光重合開始剤(図示省略)とが均一に混合された組成物75が、2枚の透明基板76の間に挟まれ、保持されている。なお、組成物75の厚みは、2枚の透明基板76の間隔を規定するスペーサ部材(図示省略)によって調整することができる。また、組成物75は感光性を有するため、組成物75が感度を有する波長域の光が遮断された環境下で、組成物75を取り扱うことが好ましい。
非重合性液晶分子73の非重合性液晶としては、誘電異方性、屈折率異方性を有する液晶ならば一般的なものを使用できる。液晶材料を選択する際は、あるオーダーパラメータの配向状態において、重合性モノマー(あるいはプレポリマー)74の硬化層の屈折率を基準として、これと等しい屈折率となる液晶材料を選択しても良い。また、液晶材料を選択してから、その液晶のあるオーダーパラメータの配向状態での屈折率を基準として、これと同じ屈折率になるように重合性モノマー(あるいはプレポリマー)74を選択しても良い。
重合性モノマー(あるいはプレポリマー)74としては、重合による硬化収縮が大きいものを用いることが好ましい。
光重合開始剤としては、公知の材料を用いることができる。光重合開始剤の添加量が少なすぎると、ポリマーと液晶の相分離が起こり難くなり、必要な露光時間が長くなってしまう。逆に、光重合開始剤が多すぎると、ポリマー部72のポリマーと液晶部71の液晶との相分離が不十分な状態で硬化してしまうため、ポリマー部72のポリマー中に多くの液晶分子が取り込まれ、偏光選択性が小さくなる。そこで、種々の実験からこれらの条件の適値を定め、光重合開始剤の添加量を設定する。
スペーサ部材としては、液晶表示装置に用いられるような球形スペーサ、ファイバースペーサ、フィルムなどを用いることができる。また、フォトリソグラフィーとエッチングあるいは成型技術などによって、基板表面に突起形状を加工しても良い。これは、液晶層の厚さを位置によって変化させる場合は都合が良い。スペーサ部材は有効領域外に形成することが好ましい。スペーサ部材の高さは数μmから数十μmの範囲が好ましく、回折光の波長とポリマー部と液晶部の屈折率差に応じて所望の厚さdとなるように適宜設定される。
透明基板76としては、液晶表示装置に用いられるようなガラス、プラスチックなどを用いることができる。
次に、相分離による偏光分離素子の形成過程について説明する。
一例として図25に示されるように、二光束干渉露光系を用いて所望の波長のレーザ光を組成物75に照射すると、組成物75中に干渉縞78が形成され、組成物75に、露光される領域と露光されない領域が形成される。この領域の一部77を抜き出して拡大したものが図26に示されている。図26における符号79は、図25における干渉縞78によって形成される明部と暗部の界面を示している。
この際、一方のレーザ光源はポリゴンミラーの反射面付近に配置し、他方のレーザ光源は偏光分離素子から一方のレーザ光源と等距離で、かつ回折光の射出方向を逆側に延長させた位置に配置するのが好適である。
図26に示されるように、干渉縞の明部においては、重合性モノマー(あるいはプレポリマー)74の光重合反応が始まる。光重合反応においては、硬化収縮が起こって密度差が生じ、隣接する重合性モノマー(あるいはプレポリマー)74が明部に移動し更に重合が進行する。それと同時に明部に存在していた非重合性液晶分子73によって構成される非重合性液晶が暗部に向かって追い出されることで相分離が起こり、主にポリマーを含む層であるポリマー部72と、主に不重合性液晶を含む層である液晶部71とが形成される。
最終的には、図25における干渉縞78の明暗のピッチに対応して、ポリマー部72からなるポリマー層と液晶部71からなる非重合性液晶層の周期構造が形成される。
次に、回折素子(171、172)の構造及び機能について詳述する。
偏光分離素子からの回折光を、同じピッチの回折素子でさらに回折させることで、偏光分離素子を直進した非回折光と平行な光路にすることができる。この場合、偏光分離素子は温度によって膨張・収縮したときに回折角が変動する問題があるが、回折素子を同等に構成することで、回折角の変動を補償し、非回折光と回折光を平行状態を保つメリットもある。但し、偏光分離素子におけるチルト角及び厚さdの変化に対しては、回折素子を透過する各光線が、偏光分離素子におけるチルト角及び厚さdと同様の構成の部分を通過するよう位置を設定する必要がある。なお、温度変動を考慮する必要がなければ、回折素子に代えて、プリズム、ミラー等を用いても良い。また回折素子、プリズムあるいはミラーを設けずとも、回折角度を調整することで偏光分離素子からの回折光を直接折り返しミラーに導いても良い。
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る光走査装置2010では、fθレンズ(151、152)と偏光分離素子(161、162)と回折素子(171、172)と折り返しミラー(18a、18b1、18b2、18c1、18c2、18d)とアナモフィックレンズ(19a、19b、19c、19d)とによって走査光学系が構成されている。
以上説明したように、本実施形態に係る光走査装置2010によると、P偏光の光束とS偏光の光束を出力する光源ユニット、該光源ユニットからの各光束を偏向面内で等角速度的に偏向するポリゴンミラー14、及び偏光分離素子(161、162)を含み、ポリゴンミラー14で偏向された各光束を対応する感光体ドラムの表面に個別に集光する走査光学系などを備えている。
そして、各偏光分離素子は、第1の領域p1と第2の領域p2とが周期的に配列され、P偏光(第1の偏光方向の光)に対しては、屈折率は一様であり、S偏光(第2の偏光方向の光)に対しては、第1の領域p1が第2の領域p2よりも高屈折率である周期構造部材を有している。
この周期構造部材は、入射角の大きさが大きいほど、S偏光に対する第1の領域p1と第2の領域p2の屈折率差が連続的に小さくなるように、あるいは、入射角の大きさが大きいほど、第1の領域p1の厚さdが連続的に大きくなるように設定されている。
この場合、各偏光分離素子は、P偏光及びS偏光が含まれる光束が入射角を変化させながら周期構造部材に入射しても、その入射位置によらず、入射光束に含まれるP偏光とS偏光を精度良く分離することができる。すなわち、高コスト化を招くことなく偏光方向が異なる光を精度良く分離することができる。
そこで、高コスト化及び大型化を招くことなく、ゴースト光の発生を安定的に抑制することが可能となる。
また、fθレンズと偏光分離素子は、2つの画像形成ステーションで共有されているため、更に小型化を図ることが可能である。
また、本実施形態に係るカラープリンタ2000によると、光走査装置2010を備えているため、その結果として、高コスト化を招くことなく、小型で、高品質の画像を形成することが可能である。
なお、上記実施形態において、一例として図27に示されるように、偏光分離素子161を直進した光(ここでは、LBa)の光路上に、偏光子1611を配置しても良い。ここでは、偏光子1611は、その透過軸方向がZ軸に平行となるように配置されている。そこで、偏光分離素子161を直進した光束LBaの大部分は、偏光子1611を透過する。一方、偏光分離素子161で回折されずに直進した光束LBbの成分は、偏光子1611で遮光される。従って、ゴースト光をさらに抑えることが可能となる。ここでは、偏光分離素子161と偏光子1611とによって、本発明の偏光分離デバイスが構成されている。
そして、偏光分離素子161で回折された光(ここでは、LBb)の光路上に、偏光子1612を配置しても良い。ここでは、偏光子1612は、その透過軸方向がY軸に平行となるように配置されている。そこで、偏光分離素子161で回折された光束LBbの大部分は、偏光子1612を透過する。一方、偏光分離素子161を直進せず回折された光束LBaの成分は、偏光子1612で遮光される。従って、ゴースト光をさらに抑えることが可能となる。ここでは、偏光分離素子161と偏光子1612とによって、本発明の偏光分離デバイスが構成されている。
また、上記実施形態において、一例として図28に示されるように、偏光分離素子162を直進した光(ここでは、LBd)の光路上に、偏光子1621を配置しても良い。ここでは、偏光子1621は、その透過軸方向がZ軸に平行となるように配置されている。そこで、偏光分離素子162を直進した光束LBdの大部分は、偏光子1621を透過する。一方、偏光分離素子162で回折されずに直進した光束LBcの成分は、偏光子1621で遮光される。従って、ゴースト光をさらに抑えることが可能となる。ここでは、偏光分離素子162と偏光子1621とによって、本発明の偏光分離デバイスが構成されている。
そして、偏光分離素子162で回折された光(ここでは、LBc)の光路上に、偏光子1622を配置しても良い。ここでは、偏光子1622は、その透過軸方向がY軸に平行となるように配置されている。そこで、偏光分離素子162で回折された光束LBcの大部分は、偏光子1622を透過する。一方、偏光分離素子162を直進せず回折された光束LBdの成分は、偏光子1622で遮光される。従って、ゴースト光をさらに抑えることが可能となる。ここでは、偏光分離素子162と偏光子1622とによって、本発明の偏光分離デバイスが構成されている。
偏光子としては、一対の透明板で偏光フィルムを挟み込んだ構造を好適に用いることができる。この偏光フィルムは、ポリビニールアルコール(PVA)等の偏光膜にヨウ素を加え、伸張させて高分子の方向を揃えたタイプである。透明板としてはガラスやトリアセチルセルロースなどの樹脂を利用することができる(図29参照)。最表面に耐久性向上のための保護フィルム、反射防止のための無反射コート層などを設けてもよい。より高い消光比が必要なときには、各偏光子として、ワイヤーグリッド偏光子、及び金属分散型偏光フィルム等を用いても良い。
また、上記実施形態において、S偏光に対する第1の領域p1と第2の領域p2の屈折率差がステップ状に変化しても良い。
また、上記実施形態において、第1の領域p1の厚さdがステップ状に変化しても良い。
また、上記実施形態において、一例として図30に示されるように、ポリゴンミラーとfθレンズとの間に偏光分離素子を配置しても良い。但し、光束LBa用のfθレンズ15aと、光束LBb用のfθレンズ15bと、光束LBc用のfθレンズ15cと、光束LBd用のfθレンズ15dが必要となる。この場合には、各fθレンズを光束の偏光状態、光路長、結像位置、走査長に適したレンズ形状とすることができる。
また、上記実施形態では、画像形成装置として4つの感光体ドラムを有するカラープリンタ2000について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、2つの感光体ドラムを有するプリンタであっても良い。この場合には、1つの光源ユニットが用いられることとなる。