ところで、ハイブリッド車両では、電動機の出力軸と変速機の入力軸との間で動力伝達系統が形成される接続状態(以下、「IN接続状態」と称呼する。)が採用される場合と、電動機の出力軸と変速機の出力軸(従って、駆動輪)との間で変速機を介することなく動力伝達系統が形成される接続状態(以下、「OUT接続状態」と称呼する。)が採用される場合と、がある。
IN接続状態では、変速機の変速段を変更することで、車両速度に対する電動機の出力軸の回転速度を変更することができる。従って、変速機の変速段を調整することで、電動機の出力軸の回転速度をエネルギ変換効率(より具体的には、駆動トルク、回生トルク等の発生効率)が良好となる範囲内に維持し易いというメリットがある。
一方、OUT接続状態では、動力伝達系統が複雑な機構を有する変速機を介さないことから、動力の伝達損失を小さくできるというメリットがある。また、変速機(特に、トルクコンバータを備えない形式の変速機)では、通常、変速作動中(変速段を切り替える作動中)において、変速機の入力軸から出力軸への動力の伝達が一時的に遮断される場合が多い。この結果、車両前後方向の加速度の急激な変化(所謂変速ショック)が発生し易い。このような変速作動中においても、OUT接続状態では、電動機の駆動トルクを変速機の出力軸(従って、駆動輪)へ連続して出力し続けることができ、変速ショックを低減できるというメリットもある。
以上のことに鑑み、本出願人は、特願2007−271556号において、電動機の出力軸の接続状態(以下、単に「電動機接続状態」とも称呼する。)をIN接続状態とOUT接続状態とに切り替え可能な切替機構について既に提案している。この切替機構では、電動機の出力軸と変速機の入力軸との間も電動機の出力軸と変速機の出力軸との間も動力伝達系統が形成されない接続状態(以下、「非接続状態」と称呼する。)も選択され得る。
この切替機構は、具体的には、変速機の入力軸及び出力軸のうちの1つ(第1軸)と連動して回転する第1噛合部材と、電動機の出力軸と連動して回転する第2噛合部材と、変速機の入力軸及び出力軸のうちの他の1つ(第2軸)と連動して回転する第3噛合部材とを備える。第1、第2、第3噛合部材は、第1、第3噛合部材が第2噛合部材を挟むように同軸的に配置されている。第1、第3噛合部材は軸方向に移動不能に、第2噛合部材は軸方向に移動可能に配置されている。この第2噛合部材の軸線方向の位置はアクチュエータにより調整される。
第2噛合部材の軸線方向の位置が、第1、第2噛合部材が軸線方向にて重なり合って互いに噛み合う第1接続位置に調整されることで、電動機の出力軸と変速機の第1軸との間で動力伝達系統が形成される第1接続状態(IN接続状態及びOUT接続状態の一方)が達成される。第2噛合部材の軸線方向の位置が、第2、第3噛合部材が軸線方向にて重なり合って互いに噛み合う第2接続位置に調整されることで、電動機の出力軸と変速機の第2軸との間で動力伝達系統が形成される第2接続状態(IN接続状態及びOUT接続状態の他方)が達成される。第2噛合部材の軸線方向の位置が、第1、第2噛合部材が軸線方向にて重なり合わずに互いに噛み合わず且つ第2、第3噛合部材が軸線方向にて重なり合わずに互いに噛み合わない非接続位置に調整されることで、電動機の出力軸と変速機の第1、第2軸との間で動力伝達系統が共に形成されない非接続状態が達成される。
以下、非接続状態から第1接続状態に切り替える場合を想定する。非接続状態で車両走行中(車速>0)では、変速機の第1軸が回転していることで第1噛合部材が回転している。なお、非接続状態に起因して電動機の出力軸については回転している場合と回転していない場合が存在し得る。従って、第2噛合部材については回転している場合と回転していない場合が存在し得る。一方、非接続状態で車両停止中(車速=0)では、通常、変速機の第1軸も電動機の出力軸も回転していない。従って、第1、第2噛合部材は共に回転していない。
本発明者は、非接続状態で車両走行中(車速>0)、及び非接続状態で車両停止中(車速=0)のそれぞれの場合について、非接続状態から第1接続状態への切り替えがスムーズに達成され得る制御手法を提案した。
本発明の目的は、動力源として少なくとも電動機を備えた車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、非接続状態で車両走行中、及び非接続状態で車両停止中のそれぞれの場合について、非接続状態から第1接続状態への切り替えがスムーズに達成され得るものを提供することにある。
本発明による車両の動力伝達制御装置は、変速機と、切替機構と、制御手段と、を備える。以下、順に説明していく。
前記変速機は、(内燃機関の出力軸との間で動力伝達系統が形成される)入力軸と、前記車両の駆動輪との間で動力伝達系統が形成される出力軸とを備えている。変速機は、変速機の出力軸の回転速度に対する変速機の入力軸の回転速度の割合(変速機減速比)を調整可能に構成されている。前記変速機は、前記変速機減速比として予め定められた異なる複数の減速比を設定可能な多段変速機であっても、前記変速機減速比として減速比を連続的に(無段階に)調整可能な無段変速機であってもよい。
また、前記変速機は、トルクコンバータを備えるとともに車両の走行状態に応じて変速作動が自動的に実行される多段変速機又は無段変速機(所謂オートマチックトランスミッション(AT))であっても、トルクコンバータを備えない多段変速機(所謂マニュアルトランスミッション(MT))であってもよい。MTの場合、運転者により操作されるシフトレバーの位置を示す信号に基づいてアクチュエータの駆動力により変速作動が実行される形式であっても、運転者によるシフトレバー操作によらず車両の走行状態に応じてアクチュエータの駆動力により変速作動が自動的に実行され得る形式(所謂、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション)であってもよい。
前記切替機構は、上述したものと同様、前記第1、第2噛合部材と、前記アクチュエータとを備える。前記第2噛合部材の軸線方向の位置が前記第1接続位置に調整されることで前記第1接続状態(IN接続状態及びOUT接続状態の一方)が達成され、前記第2噛合部材の軸線方向の位置が前記非接続位置に調整されることで前記非接続状態が達成される。なお、前記切替機構において、前記第3噛合部材が備えられていてもよい。この場合、上述したものと同様、前記第2噛合部材の軸線方向の位置が前記第2接続位置に調整されることで前記第2接続状態(IN接続状態及びOUT接続状態の他方)が達成される。
前記制御手段は、前記電動機(の出力、駆動トルク、回生トルク等)、及び、前記切替機構のアクチュエータを制御する。
以下、先ず、車両走行中であって前記第1噛合部材が回転中において前記切替機構が前記非接続状態から前記第1接続状態に切り替えられる場合を考える。この場合、前記制御手段は、先ず、前記電動機を制御して前記第2噛合部材の回転速度を、前記車両の速度に対応する前記第1噛合部材の回転速度である基準回転速度に対して所定値だけ大きい値まで増大する。その後、前記制御手段は、前記電動機を制御して又は前記電動機を制御することなく前記第2噛合部材の回転速度が減少していく間において前記アクチュエータを制御して前記第2噛合部材の軸線方向の位置を前記非接続位置から前記第1接続位置に向けて移動するように構成される。
ここにおいて、前記第2噛合部材の回転速度が前記基準回転速度に対して前記所定値だけ大きい値に達した時点にて、前記第2噛合部材が前記非接続位置から前記第1接続位置に向けて前記アクチュエータの駆動力により移動開始され得る。
第2噛合部材が非接続位置から第1接続位置に向けてアクチュエータの駆動力により移動していく過程において、第2噛合部材が、第1、第2噛合部材の互いの噛み合いが開始する位置(以下、「噛合開始位置」と呼ぶ。)を通過しようとする際、ロック状態が発生する場合がある。ロック状態とは、第1、第2噛合部材間の噛合に関する位相が合致しない状態で第1、第2噛合部材の歯部の向かい合う端面同士が互いに相対回転することなく当接する状態を指す。ロック状態では、アクチュエータが第2噛合部材を噛合開始位置から第1接続位置に向けて駆動しても、第2噛合部材が噛合開始位置から第1接続位置に向けて移動し得ない。
このロック状態が発生しない限りにおいて、第2噛合部材が非接続位置から第1接続位置までスムーズに移動し得る。従って、第2噛合部材が噛合開始位置を通過する段階にてロック状態が発生しないように、電動機、アクチュエータ等を制御することが望まれる。
上記構成によれば、第2噛合部材の回転速度が前記基準回転速度よりも大きい領域内で減少していく状態で、第2噛合部材が噛合開始位置を通過しようとする。即ち、前記基準回転速度で回転している第1噛合部材の歯部の端面に対して、第2噛合部材の歯部の端面が基準回転速度よりも大きい回転速度をもって接触開始し、その後、両端面が接触した状態で第2噛合部材の歯部の端面の回転速度が減少しながら前記基準回転速度に近づいていく。
そして、第2噛合部材の歯部の端面の回転速度が前記基準回転速度に近づいた段階(即ち、両端面の回転速度差が微小となった段階)において第1、第2噛合部材間の噛合に関する位相が合致した瞬間にアクチュエータの駆動力により第2噛合部材の歯部の端部が第1噛合部材の歯部の端部に食い込み開始し、第1、第2部材の噛合が開始される。即ち、ロック状態が発生することなく第2噛合部材が噛合開始位置をスムーズに通過し得る。この結果、第2噛合部材の回転速度を前記基準回転速度に正確に一致するように調整することなく、非接続状態から第1接続状態への切り替えがスムーズに達成され得る。
第2噛合部材の回転速度が前記基準回転速度に対して所定値だけ大きい値に達した後、第2噛合部材の回転速度が減少していく過程において、電動機を制御して(具体的には、電動機の出力軸の駆動トルク(電動機に供給される駆動電流)を積極的に制御して)第2噛合部材の回転速度の減少の推移を積極的に調整してもよい。或いは、電動機を制御することなく(具体的には、電動機の出力軸の駆動トルクをゼロにして(即ち、電動機に供給される駆動電流をゼロにして))第2噛合部材の回転速度の減少の推移を慣性(惰性)に従わせてもよい。
上述のように、電動機を制御して第2噛合部材の回転速度の減少の推移が積極的に調整される場合、前記第2噛合部材の回転速度が、前記基準回転速度に対して所定値だけ小さい目標値まで減少するようにフィードバック制御されてもよい。
また、上記動力伝達制御装置においては、前記制御手段は、前記第2噛合部材の回転速度が減少していく間において、前記アクチュエータを制御して前記第2噛合部材の軸線方向の移動速度を、前記第2噛合部材の軸線方向の位置が前記第1、第2噛合部材の互いの噛み合いが開始する噛合開始位置を含む所定範囲内にある期間では第1の値に、前記第2噛合部材の軸線方向の位置が前記所定範囲以外にある期間では前記第1の値よりも大きい値に調整するように構成されてもよい。
一般に、第2噛合部材が噛合開始位置を通過しようとする段階において第2噛合部材の移動速度が小さいほど、第1、第2噛合部材の歯部の向かい合う端面同士が相対回転しながら当接する状態が開始した後における両端面の押し付け力の増加速度が小さい。従って、第2噛合部材に作用する減速方向の摩擦トルクの増加速度が小さい。このことは、両端面同士が相対回転しながら当接する状態が開始してから、第2噛合部材の回転速度が減少して前記基準回転速度に一致するまでの時間が長いこと、ひいては、第2噛合部材の歯部の端部が第1噛合部材の歯部の端部に食い込み開始する機会が多いことを意味する。以上より、第2噛合部材が噛合開始位置を通過しようとする段階において第2噛合部材の移動速度が小さいほど、ロック状態が発生し難くなるということができる。
他方、第2噛合部材の移動速度を非接続位置から第1接続位置までの全範囲に亘って小さくすると、第2噛合部材が非接続位置から第1接続位置まで移動するのに要する時間が長くなる。これに対し、上記構成によれば、第2噛合部材が噛合開始位置を通過しようとする段階においてのみ第2噛合部材の移動速度が小さくされ、それ以外の段階では第2噛合部材の移動速度が大きくされ得る。この結果、ロック状態の発生が抑制されつつ、第2噛合部材が非接続位置から第1接続位置まで移動するのに要する時間を短くできる。
以上、車両走行中において前記切替機構が前記非接続状態から前記第1接続状態に切り替えられる場合について説明した。次に、車両の停止中であって第1、第2噛合部材が非回転中において前記切替機構が前記非接続状態から前記第1接続状態に切り替えられる場合について説明する。
この場合、前記制御手段は、前記アクチュエータを制御して前記第2噛合部材の軸線方向の位置を前記非接続位置から前記第1接続位置に向けて移動するとともに、前記第2噛合部材の移動開始後の所定の時点で、(前記ロック状態が発生しているか否かにかかわらず)前記電動機を制御して前記第2噛合部材を回転させて前記第2噛合部材の回転方向の位相を変更する位相変更処理を開始・実行するように構成される。
ここにおいて、前記位相変更処理とは、例えば、所定の周期的な駆動電流パターンを持って電動機を駆動する処理を指す。また、前記位相変更処理は、前記第2噛合部材が前記噛合開始位置に基づいて決定される位置(例えば、前記噛合開始位置そのもの、或いは、前記噛合開始位置から所定距離だけ前記非接続位置側にずれた位置)に達した時点で開始・実行され得る。
車両停止中では、第1、第2噛合部材間の噛合に関する位相が合致しない状態で第1、第2噛合部材が停止している場合が発生し得る。この状態にて、第1、第2噛合部材が回転することなく第2噛合部材が移動して噛合開始位置に達した場合(即ち、第1、第2噛合部材の歯部の向かい合う端面同士が接触した場合)、特に、上述したロック状態が発生し易い。上記構成によれば、第2噛合部材が噛合開始位置に達する時点、或いは、その前に位相変更処理が行われ得る。従って、位相が合致した状態で第2噛合部材が噛合開始位置を通過する可能性を高めることができ、この結果、ロック状態の発生を抑制することができる。
また、前記制御手段は、前記ロック状態を検出する検出手段を備え、前記ロック状態が検出された時点で前記位相変更処理を開始・実行するように構成されてもよい。この場合、前記位相変更処理実行中において前記第2噛合部材の軸線方向の位置が前記噛合開始位置から前記第1接続位置に向けて移動開始したこと(即ち、前記ロック状態が解除されたこと)に基づいて、前記位相変更処理が終了され得る。
ここにおいて、前記ロック状態は、例えば、前記第2噛合部材の移動速度が減少したこと(特に、ステップ的にゼロに減少した後に所定時間ゼロに維持されたこと)、前記第2噛合部材の軸線方向の位置の実際値が目標値と一致するようにフィードバック制御される場合において実際値が目標値から所定値以上乖離したこと、前記第2噛合部材の前記非接続位置からの移動開始から所定時間が経過しても前記第2噛合部材が前記第1接続位置に到達しないこと等を検出することで検出され得る。
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関とモータジェネレータとを備え、且つ、トルクコンバータを備えない多段変速機を使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッションを備えた車両に適用されている。
この車両は、エンジン(E/G)10と、変速機(T/M)20と、クラッチ(C/T)30と、モータジェネレータ(M/G)40と、切替機構50とを備えている。E/G10は、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/G10の出力軸A1は、C/T30を介してT/M20の入力軸A2と接続されている。
T/M20は、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の多段変速機の1つである。以下、前進用の変速段及び後進用の変速段を「走行用変速段」と称呼する。走行用変速段では、T/M20の入出力軸A2,A3の間で動力伝達系統が形成される。ニュートラル段では、T/M20の入出力軸A2,A3の間で動力伝達系統が形成されない。走行用変速段において、T/M20は、出力軸A3の回転速度に対する入力軸A2の回転速度の割合である変速機減速比Gtmを複数の段階の何れかに任意に設定可能となっている。T/M20では、変速段の切り替えは、T/Mアクチュエータ21を制御することでのみ実行される。
C/T30は、周知の構成の1つ(例えば、クラッチストロークの調整により2枚のクラッチ板が当接・離間する構成)を備えていて、E/G10の出力軸A1とT/M20の入力軸A2との間で動力が伝達されない遮断状態、及び動力が伝達される接合状態に調整可能となっている。以下、説明の便宜上、接合状態において、E/G10の出力軸A1とT/M20の入力軸A2との回転が一致している状態を「完全接合状態」と呼び、一致していない状態を「半接合状態」と呼ぶ。この車両では、クラッチペダルは設けられていない。C/T30の状態は、C/Tアクチュエータ31によりクラッチストロークを調整することで制御されるようになっている。
M/G40は、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)が出力軸A4と一体回転するようになっている。M/G40は、動力源としても発電機としても機能する。
切替機構50は、M/G40の出力軸A4の接続状態を切り替える機構である。切替機構50は、M/G40の出力軸A4と一体回転する円筒状の連結ピース51と、ギヤg1と一体回転する円筒状の連結ピース52と、ギヤg3と一体回転する円筒状の連結ピース53と、円筒状のスリーブ54と、切替アクチュエータ55とを備える。連結ピース51,52,53の円筒外面にはそれぞれ外スプラインが形成され、スリーブ54の円筒内面には内スプラインが形成されている。
スリーブ54は、連結ピース51と常時スプライン嵌合している。従って、スリーブ54は、M/G40の出力軸A4と連動して出力軸A4と同じ回転速度で回転する。ギヤg1は、T/M20の入力軸A2と一体回転するギヤg2と常時歯合し、ギヤg3は、T/M20の出力軸A3と一体回転するギヤg4と常時歯合している。従って、連結ピース52,53はそれぞれ、T/M20の入力軸A2、出力軸A3と連動して回転する。
連結ピース52,53、及びスリーブ54は、連結ピース52,53がスリーブ54を挟むように、M/G40の出力軸A4と同軸的に配置されている。連結ピース52,53は軸方向に移動不能に、スリーブ54は軸方向に移動可能に配置されている。スリーブ54の軸方向の位置は、切替アクチュエータ55により制御されるようになっている。また、スリーブ54は、スリーブ54の位置に応じて連結ピース52,53ともスプライン嵌合可能となっている。
スリーブ54が図2(a)に示すIN位置に制御される場合、スリーブ54は、連結ピース52と軸方向にて重なり合ってスプライン嵌合する(図3(a)を参照)。これにより、ギヤg1,g2を介してT/M20の入力軸A2とM/G40の出力軸A4との間で動力伝達系統が形成される。この状態を「IN接続状態」と呼ぶ。
IN接続状態において、T/M20の入力軸A2の回転速度に対するM/G40の出力軸A4の回転速度の割合を「第1減速比G1」と呼び、第1減速比G1と変速機減速比Gtmとの積(G1・Gtm)を「IN接続減速比Gin」と呼ぶ。本例では、G1=(g2の歯数)/(g1の歯数)であるから、Gin=(g2の歯数)/(g1の歯数)・Gtmとなる。即ち、Ginは、T/M20の変速段の変化に応じて変化する。
また、スリーブ54が図2(b)に示すOUT位置に制御される場合、スリーブ54は、連結ピース53と軸方向にて重なり合ってスプライン嵌合する(図3(b)を参照)。これにより、ギヤg3、g4を介してT/M20の出力軸A3とM/G40の出力軸A4との間でT/M20を介することなく動力伝達系統が形成される。この状態を「OUT接続状態」と呼ぶ。
OUT接続状態において、T/M20の出力軸A3の回転速度に対するM/G40の出力軸A4の回転速度の割合を「OUT接続減速比Gout」と呼ぶ。本例では、Goutは、(g4の歯数)/(g3の歯数)で一定となる。即ち、Goutは、T/M20の変速段の変化に応じて変化しない。
また、スリーブ54が図2(c)に示すニュートラル位置に制御される場合、スリーブ54は、連結ピース52,53の何れとも軸方向にて重なり合わずにスプライン嵌合しない(図3(c)を参照)。これにより、T/M20の出力軸A3とM/G40の出力軸A4との間でもT/M20の入力軸A2とM/G40の出力軸A4との間でも動力伝達系統が形成されない。この状態を「ニュートラル状態」と呼ぶ。
以上、切替機構50では、切替アクチュエータ55を制御する(従って、スリーブ54の位置を制御する)ことで、M/G40の出力軸A4の接続状態(以下、「M/G接続状態」とも称呼する。)を、「IN接続状態」、「OUT接続状態」、「ニュートラル状態」の何れかに選択的に切り替え可能となっている。
T/M20の出力軸A3は、作動機構D/Fと連結されていて、作動機構D/Fは、左右一対の駆動輪と連結されている。なお、T/M20の出力軸A3と作動機構D/Fとの間に、所謂最終減速機構が介装されていてもよい。
また、本装置は、駆動輪の車輪速度を検出する車輪速度センサ61と、アクセルペダルAPの操作量を検出するアクセル開度センサ62と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサ63と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサ64と、M/G10の出力軸A4の回転速度を検出する回転速度センサ65と、を備えている。
更に、本装置は、電子制御ユニットECU70を備えている。ECU70は、上述のセンサ61〜65、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータ21,31,55を制御することで、T/M20の変速段、C/T30の状態、及び切替機構50の状態を制御する。加えて、ECU70は、E/G10、及びM/G40のそれぞれの出力(出力軸の駆動トルク)を制御するようになっている。
T/M20の変速段は、車輪速度センサ61から得られる車速Vと、アクセル開度センサ62から得られる運転者によるアクセルペダルAPの操作量に基づいて算出される要求トルクTr(T/M20の出力軸A3についてのトルク)と、シフト位置センサ63から得られるシフトレバーSFの位置に基づいて制御される。シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、T/M20の変速段が、シフトレバーSFの操作により運転者により選択された変速段に原則的に設定される。一方、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、T/M20の変速段が、車速Vと要求トルクTrとの組み合わせに基づいて、シフトレバーSFが操作されることなく自動的に制御される。以下、T/M20の変速段が変更される際の作動を「変速作動」と称呼する。変速作動の開始は、変速段の変更に関連して移動する部材の移動の開始に対応し、変速作動の終了は、その部材の移動の終了に対応する。
C/T30は、通常、接合状態(特に、完全接合状態)に維持され、T/M20の変速作動中、及び、シフトレバーSFの位置が「ニュートラル」位置にある場合等において、遮断状態に維持される。また、C/T30は、接合状態(特に、半接合状態)において、C/Tアクチュエータ31により調整されるクラッチストロークに応じて、伝達し得るトルクの最大値(以下、「クラッチトルクTc」と称呼する。)を調整可能となっている。
E/G10の出力軸A1の駆動トルク(Te0)よりもクラッチトルクTcの方がより緻密に調整され得る。従って、E/G10の出力軸A1の駆動トルク(Te0)がクラッチトルクTcよりも大きい状態を維持しつつクラッチトルクTcを制御することで、E/G10の出力軸A1のトルクに基づくT/M20の入力軸A2(従って、出力軸A3)に伝達されるトルクをより緻密に調整できる。
M/G40は、E/G10と協働又は単独で、車両を駆動する駆動トルクを発生する動力源として、或いは、E/G10を始動するための動力源として使用される。また、M/G40は、車両を制動する回生トルクを発生する発電機として、或いは、車両のバッテリ(図示せず)に供給・貯留される電気エネルギを発生する発電機としても使用される。
切替機構50では、スリーブ54が移動することで、M/G接続状態が切り替えられる。以下、このスリーブ54の移動を「切り替え作動」と称呼する。切り替え作動の開始は、スリーブ54の移動の開始に対応し、切り替え作動の終了は、スリーブ54の移動の終了に対応する。M/G接続状態の切り替えは、例えば、車速Vと要求トルクTrとの組み合わせに基づいてなされ得る。
以下、E/G10の出力軸A1の駆動トルクを「E/GトルクTe0」と、M/G40の出力軸A4の駆動トルクを「M/GトルクTm0」と称呼する。E/G10の出力軸A1の回転速度を「E/G回転速度Ne」と、M/G40の出力軸A4の回転速度を「M/G回転速度Nm」と称呼する。M/G回転速度Nmはスリーブ54の回転速度と一致する。また、E/GトルクTe0に基づくT/M20の出力軸A3に伝達されるトルクを「E/G側駆動トルクTe」と称呼し、M/GトルクTm0に基づくT/M20の出力軸A3に伝達されるトルクを「M/G側駆動トルクTm」と称呼する。また、M/G40に供給されるM/GトルクTm0を制御するための電流(駆動電流)を「M/G電流Im」と称呼する。
E/G側駆動トルクTeは、(C/T30が完全接合状態にある場合において)E/GトルクTe0に変速機減速比Gtmを乗じた値である(Te=Te0・Gtm)。M/G側駆動トルクTmは、IN接続状態では、M/GトルクTm0にIN接続減速比Ginを乗じた値であり(Tm=Tm0・Gin)、OUT接続状態では、M/GトルクにOUT接続減速比Goutを乗じた値である(Tm=Tm0・Gout)。M/G側駆動トルクTmは、M/GトルクTm0の調整により調整され得、E/G側駆動トルクTeは、E/GトルクTe0、或いは(特に、半接合状態では)クラッチトルクTcの調整により調整され得る。また、TmとTeとの和を「合計トルクTs」と呼ぶ。
本装置では、通常、周知の手法の1つに従って、E/G側駆動トルクTeとM/G側駆動トルクTmの和が要求トルクTrと一致するように、E/GトルクTe0とM/GトルクTm0との配分が調整される。具体的には、例えば、TeとTmとは予め作製された定常マップに基づいて調整される。定常マップとは、要求トルクTr及び車速V等(の組み合わせ)と、要求トルクTr及び車速V等が(その組み合わせで)一定の場合において適合されたE/G側駆動トルクの定常適合値及びM/G側駆動トルクの定常適合値と、の関係を規定するマップ(テーブル)である。この定常マップは、要求トルクTr及び車速V(の組み合わせ)が一定に維持された定常状態で車両全体としての総合的なエネルギ効率(燃費)を最適とする等の観点に基づいてE/G側駆動トルクTe及びM/G側駆動トルクTmを適合する(定常適合値を決定する)実験を、要求トルクTr及び車速Vの組み合わせを種々変更しながら繰り返し行うことで得られる。
この定常マップと、要求トルクTrの現在値及び車速Vの現在値とから(即ち、定常マップの検索結果から)、現在の走行状態(即ち、要求トルクTrの現在値及び車速Vの現在値)に対応するE/G側駆動トルクの定常適合値(E/G側適合値)、及びM/G側駆動トルクの定常適合値(M/G側適合値)が得られる。E/G側駆動トルクTe及びM/G側駆動トルクTmはそれぞれ、E/G側適合値及びM/G側適合値に一致するように調整される。この結果、E/G側駆動トルクTe及びM/G側駆動トルクTmが、車両全体としての総合的なエネルギ効率(燃費)を最適とする等の所望の目的が達成されるように、且つ合計トルクTsが要求トルクTrと一致するように、調整・配分される。
(切替機構におけるスムーズな切り替え)
以下、車両走行中(車速>0)、及び車両停止中(車速=0)のそれぞれの場合について、ニュートラル状態からIN又はOUT接続状態への切り替えがスムーズに達成され得る制御手法について説明する。以下、説明の便宜上、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替えについてのみ説明する。ニュートラル状態からOUT接続状態への切り替えについても同様である。
ニュートラル状態からIN接続状態への切り替え作動は、スリーブ54が、ニュートラル位置(図3(c)を参照)からIN位置(図3(a)を参照)までアクチュエータ55の駆動力により移動することにより達成される。この切り替え作動の過程において、スリーブ54が、スリーブ54と連結ピース52の互いの噛み合いが開始する位置(図4を参照、以下、「IN側噛合開始位置」と呼ぶ。)を通過しようとする際、ロック状態が発生する場合がある。
ロック状態とは、図5に示すように、スリーブ54及び連結ピース52間の噛合に関する位相が合致しない状態で且つスリーブ54及び連結ピース52の歯部の向かい合う端面同士が互いに相対回転することなく当接する状態を指す。このロック状態では、アクチュエータ55がスリーブ54をIN側噛合開始位置(図4を参照)からIN位置(図3(a)を参照)に向けて駆動しても、スリーブ54がIN側噛合開始位置からIN位置に向けて移動し得ない。
逆に言えば、このロック状態の発生が抑制される限りにおいて、スリーブ54がニュートラル位置からIN位置までスムーズに移動し得る。即ち、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替えがスムーズに達成され得る。従って、スリーブ54がIN側噛合開始位置を通過する段階にてロック状態の発生が抑制されるように、M/G40、及びアクチュエータ55等を制御することが望まれる。
ここで、ニュートラル状態で車両走行中(車速>0)では、T/M20の変速段が走行用変速段となっていることで、T/M20の入力軸A2が回転している。この結果、連結ピース52も回転している(なお、M/G40の出力軸A4については回転している場合と回転していない場合が存在し得ることで、スリーブ54については回転している場合と回転していない場合が存在し得る)。一方、ニュートラル状態で車両停止中(車速=0)では、通常、T/M20の入力軸A2もM/G40の出力軸A4も回転していないことで、スリーブ54も連結ピース52も回転していない。
このように、車両走行中と車両停止中とでは、切替機構50内の部材の回転状態が異なる。従って、以下、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替えがスムーズに達成され得る制御手法を説明するにあたり、車両走行中の場合と車両停止中の場合とで分けて説明する。
<車両走行中におけるニュートラル状態からIN接続状態への切り替え>
図6は、M/G接続状態がOUT接続状態にあり、且つ、合計トルクTs(=Te+Tm)が要求トルクTrに一致するようにTe及びTmがE/G側適合値及びM/G側適合値にそれぞれ調整されて車両が走行中において、時刻t1にて、OUT接続状態からIN接続状態への切り替え条件が成立した場合の作動の一例を示す。OUT接続状態からIN接続状態への切り替えはニュートラル状態を経て達成される。従って、この場合、車両走行中においてニュートラル状態からIN接続状態への切り替え作動が含まれる。なお、時刻t1以前では、M/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)は、車速に対応する連結ピース53の回転速度Noutに一致する。
図6に示すように、切り替え条件が成立すると(時刻t1)、合計トルクTsが要求トルクTrに一致する状態を維持しながら、E/G側駆動トルクTeがE/G側適合値から要求トルクTrに向けて増大させられ、且つ、M/G側駆動トルクTmがM/G側適合値からゼロに向けて減少させられる(時刻t1〜t2)。ここで、時刻t1〜t2において、Teの調整は、クラッチトルクTcがE/GトルクTe0よりも大きい状態(従って、完全接合状態)を維持しつつE/GトルクTe0を徐々に増大させることで達成される。また、Tmの調整は、M/G電流Im(従って、M/GトルクTm0)をゼロまで徐々に減少させることで達成される。
Tmがゼロに達すると(及び、TeがTrに達すると)(時刻t2)、先ず、OUT接続状態からニュートラル状態への切り替え作動が開始される。具体的には、時刻t2にて、スリーブ54が、アクチュエータ55の駆動力により、OUT位置(図3(b)を参照)からニュートラル位置(図3(c)を参照)に向けて駆動開始される。これにより、時刻t2以降、スリーブ54がOUT位置からニュートラル位置に向けて移動していき、時刻t3にてニュートラル位置に達する。
即ち、時刻t3にて、OUT接続状態からニュートラル状態への切り替え作動が終了する。これに合わせて、スリーブ54のアクチュエータ55による駆動が一旦終了する。なお、M/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)は、OUT接続状態からニュートラル状態への切り替え作動が終了する時刻t3までNoutに維持される。
OUT接続状態からニュートラル状態への切り替え作動が終了すると(時刻t3)、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替え作動に向けた処理が開始される。具体的には、時刻t3以降、M/G電流Imが所定のパターンをもってゼロよりも大きい値で推移するように調整されて、M/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)がNoutから、車速に対応する連結ピース52の回転速度Ninに対して所定値αだけ大きい値(Nin+α)に向けて増大される。なお、本例では、IN接続減速比GinがOUT接続減速比Goutよりも大きい場合が想定されている。従って、NinはNoutよりも大きい。
M/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)が(Nin+α)に達すると(時刻t4)、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替え作動そのものが開始される。具体的には、時刻t4にて、スリーブ54が、アクチュエータ55の駆動力により、ニュートラル位置(図3(c)を参照)からIN位置(図3(a)を参照)に向けて駆動開始される。これにより、時刻t4以降、スリーブ54がニュートラル位置からIN位置に向けて移動していく。
また、時刻t4以降、M/G電流Imがゼロに維持される。これにより、時刻t4以降、M/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)が慣性(惰性)に従ってNin(=連結ピース52の回転速度)に向けて減少していく。なお、時刻t4以降、M/G電流Imを調整することでM/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)の減少の推移が積極的に調整されてもよい。この場合、M/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)が値Ninに対して所定値だけ小さい目標値まで減少するようにフィードバック制御されてもよい。
この例では、時刻t4以降にて減少していくM/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)が連結ピース52の回転速度Ninよりも大きい状態で、時刻t5にて、スリーブ54がIN側噛合開始位置(図4を参照)に達している。即ち、時刻t5にて、回転速度Ninで回転している連結ピース52の歯部の端面に対して、スリーブ54の歯部の端面がNinよりも大きい回転速度をもって接触開始する。時刻t5以降、両端面が相対回転しながら当接する状態が維持されながら、スリーブ54が連結ピース52から受ける減速方向の摩擦トルク等に起因して、スリーブ54の歯部の端面の回転速度(=Nm)が急激に減少しながら連結ピース52の歯部の端面の回転速度(=Nin)に近づいていく。
そして、スリーブ54の歯部の端面の回転速度(=Nm)が連結ピース52の歯部の端面の回転速度(=Nin)に近づいた段階(即ち、両端面の回転速度差が微小となった段階)において、スリーブ54及び連結ピース52間の噛合に関する位相が合致した瞬間に、アクチュエータ55の駆動力によりスリーブ54の歯部の端部が連結ピース52の歯部の端部に食い込み開始する。即ち、スリーブ54と連結ピース52との噛合(スプライン嵌合)が開始される。
これにより、ロック状態(即ち、位相が合致しない状態で両端面同士が相対回転せずに当接する状態、図5を参照)が発生することなく、スリーブ54がIN側噛合開始位置をスムーズに通過し得る。IN側噛合開始位置を通過したスリーブ54は、アクチュエータ55の駆動力によりIN位置に向けて移動していき、時刻t6にてIN位置(図3(a)を参照)に達する。
即ち、時刻t6にて、ニュートラル接続状態からIN接続状態への切り替え作動が終了する。これに合わせて、スリーブ54のアクチュエータ55による駆動が終了する。以降、M/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)は、連結ピース52の回転速度Ninに維持される。なお、OUT接続状態からニュートラル状態への切り替え作動が開始された時刻t2から、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替え作動が終了した時刻t6に亘って、E/G側駆動トルクTeは要求トルクTrに維持され、M/G側駆動トルクTmはゼロに維持される。従って、合計トルクTsは要求トルクTrに維持される。
ニュートラル接続状態からIN接続状態への切り替え作動が終了すると(時刻t6)、合計トルクTsが要求トルクTrに一致する状態を維持しながら、E/G側駆動トルクTeが要求トルクTrからE/G側適合値に向けて減少させられ、且つ、M/G側駆動トルクTmがゼロからM/G側適合値に向けて増大させられる(時刻t6〜t7)。ここで、時刻t6〜t7において、Teの調整は、クラッチトルクTcがE/GトルクTe0よりも大きい状態(従って、完全接合状態)を維持しつつE/GトルクTe0を徐々に減少させることで達成される。また、Tmの調整は、M/G電流Im(従って、M/GトルクTm0)をゼロから増大させることで達成される。
E/G側駆動トルクTeがE/G側適合値に達し、且つM/G側駆動トルクTmがM/G側適合値に達すると(時刻t7)、以降、時刻t1以前と同様、TeがE/G側適合値に一致するように調整され、且つ、TmがM/G側適合値に一致するように調整されていく。従って、時刻t7以降も、合計トルクTsが要求トルクTrと一致する状態が維持されていく。
以上、上記実施形態(図6に示す例)では、時刻t4以降において(Nin+α)から減少していくM/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)が連結ピース52の回転速度Ninよりも大きい状態でスリーブ54がIN側噛合開始位置(図4を参照)に達することで(時刻t5)、上述のように、ロック状態が発生することなく、スリーブ54がIN側噛合開始位置をスムーズに通過し得る。従って、スリーブ54の回転速度(=Nm)を連結ピース52の回転速度Ninに正確に一致するように調整することなく、車両走行中において、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替えがスムーズに達成され得る。
加えて、時刻t1〜t7において、合計トルクTsが要求トルクTrと一致する状態が維持される。即ち、OUT接続状態から(ニュートラル状態を経由して)IN接続状態への切り替え作動に伴う車両の加減速方向のショックの発生が抑制されて、ドライバビリティの悪化が抑制され得る。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態(図6に示す例)では、OUT接続状態にて車両走行中において、OUT接続状態から(ニュートラル状態を経由して)IN接続状態への切り替え作動がなされる場合が示されている。従って、図6の時刻t3〜t4において、M/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)がNout(>0)から(Nin+α)に向けて増大されている。これに対し、ニュートラル状態にて車両走行中において、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替え作動がなされる場合、通常、ニュートラル状態ではM/G回転速度Nmがゼロに維持される。従って、この場合、M/G回転速度Nm(=スリーブ54の回転速度)がゼロから(Nin+α)に向けて増大されることになる。
また、上記実施形態(図6に示す例)では、スリーブ54がニュートラル位置からIN位置まで移動する際の移動速度が一定に維持されている(時刻t5以降の極短期間を除く)。これに対し、図7に示すように、スリーブ54の移動速度が、IN側噛合開始位置を含む所定範囲内では小さい第1の値に、それ以外の範囲では前記第1の値よりも大きい値に調整されてもよい。以下、このことによる作用・効果について説明する。
スリーブ54がIN側噛合開始位置を通過しようとする段階を考える。この段階にて、スリーブ54の移動速度が小さいほど、スリーブ54及び連結ピース52の歯部の向かい合う端面同士が相対回転しながら当接する状態が開始した後における両端面の押し付け力の増加速度が小さくなる。従って、スリーブ54が連結ピース52から受ける減速方向の摩擦トルクの増加速度が小さくなる。このことは、両端面同士が相対回転しながら当接する状態が開始してから、スリーブ54の回転速度(=Nm)が減少して連結ピース52の回転速度Ninに一致するまでの時間が長いこと、ひいては、スリーブ54の歯部の端部が連結ピース52の歯部の端部に食い込み開始する機会が多いことを意味する。以上より、スリーブ54がIN側噛合開始位置を通過しようとする段階において、スリーブ54の移動速度が小さいほど、ロック状態が発生し難くなるということができる。
他方、スリーブ54の移動速度をニュートラル位置からIN位置までの全範囲に亘って小さくすると、スリーブ54がニュートラル位置からIN位置まで移動するのに要する時間が長くなる。上記構成は係る観点に基づく。これによれば、スリーブ54がIN側噛合開始位置を通過しようとする段階においてのみスリーブ54の移動速度が小さくされ、それ以外の段階ではスリーブ54の移動速度が大きくされる。この結果、ロック状態の発生が抑制されつつ、スリーブ54がニュートラル位置からIN位置まで移動するのに要する時間(図6では、時刻t4〜t6)を短くできる。以上、車両走行中におけるニュートラル状態からIN接続状態への切り替えについて説明した。
<車両停止中におけるニュートラル状態からIN接続状態への切り替え>
次に、車両停止中におけるニュートラル状態からIN接続状態への切り替えについて図8を参照しながら説明する。図8は、車両停止中であって、M/G接続状態がニュートラル状態にあり、且つ、T/M20の入力軸A2及びM/G40の出力軸A4の回転が停止している状態(即ち、スリーブ54の回転速度=連結ピース52の回転速度=0)において、時刻t1にて、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替え条件が成立した場合の作動の一例を示す。
なお、この例では、時刻t1以前にて、スリーブ54及び連結ピース52間の噛合に関する位相が合致しない状態でスリーブ54及び連結ピース52の回転が停止している場合が想定されている。従って、この状態にて、スリーブ54及び連結ピース52が回転することなく(即ち、M/G40の出力軸A4及びT/M20の入力軸A2が回転することなく)スリーブ54が移動してIN側噛合開始位置に達した場合、ロック状態が発生し得る。また、本装置では、ロック状態を検出する処理が実行されるものとする。
図8に示すように、切り替え条件が成立すると(時刻t1)、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替え作動が開始される。具体的には、時刻t1にて、スリーブ54が、アクチュエータ55の駆動力により、ニュートラル位置(図3(c)を参照)からIN位置(図3(a)を参照)に向けて駆動開始される。これにより、時刻t1以降、M/G40の出力軸A4及びT/M20の入力軸A2が回転することなく、スリーブ54がニュートラル位置からIN位置に向けて移動していく。なお、この段階では、M/G電流Im(従って、M/GトルクTm0)がゼロに維持され、且つ、M/G回転速度Nmもゼロに維持されている。
この例では、時刻t2の直前にて、スリーブ54がIN側噛合開始位置に達するとともに、ロック状態(図5を参照)が発生した場合が想定されている。このため、この時点以降、スリーブ54がアクチュエータ55により駆動されているにもかかわらず、スリーブ54の位置がIN側噛合開始位置にて固定されている。
これに伴い、本装置では、ロック状態が開始された時点の後の時刻t2にて、ロック状態の発生が検出されている。ロック状態の発生は、例えば、スリーブ54及び連結ピース52の回転速度が同じ(この例では、ゼロ)であることに加えて、スリーブ54の移動速度がステップ的にゼロに減少した後に所定時間だけゼロに維持されたこと、或いは、スリーブ54の位置の実際値が目標値と一致するようにフィードバック制御される場合において実際値が目標値から所定値以上乖離したこと等を検出することで検出され得る。スリーブ54の回転速度(従って、M/G回転速度Nm)は、回転速度センサ65から検出され得る。連結ピース52の回転速度は、T/M20の入力軸A2の回転速度を検出するセンサ(図示せず)の出力結果に基づいて演算され得る。スリーブ54の移動速度は、スリーブ54の位置を検出するセンサ(図示せず)の出力結果に基づいて演算され得る。
ロック状態の発生が検出されると(時刻t2)、位相変更処理が開始される。位相変更処理とは、所定の周期的な駆動電流パターンを持ってM/G40を駆動する処理である。この例では、位相変更処理として、M/G電流Imがパルス的に増減されている。位相変更処理として、M/G電流Imが一定値(>0)に維持されてもよい。この位相変更処理により、スリーブ54及び連結ピース52の歯部の向かい合う端面同士が当接した状態で、M/G40の出力軸A4(即ち、スリーブ54)のみがM/G電流Imの変化(従って、M/GトルクTm0)に基づいて回転する。
これにより、スリーブ54及び連結ピース52間の噛合に関する位相関係が変更される。この結果、両者の位相が合致した時点にてアクチュエータ55の駆動力によりスリーブ54の歯部の端部が連結ピース52の歯部の端部に食い込み開始する可能性が高められる。
この例では、時刻t3にて、アクチュエータ55の駆動力によりスリーブ54の歯部の端部が連結ピース52の歯部の端部に食い込み開始している。即ち、時刻t3にて、ロック状態が解消されて、スリーブ54と連結ピース52との噛合(スプライン嵌合)が開始されている。このロック状態の解消を受けて上述した位相変更処理が終了する。この結果、以降、M/G電流Im(従って、M/GトルクTm0)がゼロに維持される。ロック状態の解消は、例えば、スリーブ54の移動速度がゼロからゼロよりも大きい値に変更されたこと等を検出することで検出され得る。
ロック状態が解消されると(時刻t3)、スリーブ54は、アクチュエータ55の駆動力により、IN側噛合開始位置からIN位置に向けて再び移動していき、時刻t4にてIN位置(図3(a)を参照)に達する。即ち、時刻t4にて、ニュートラル接続状態からIN接続状態への切り替え作動が終了する。これに合わせて、スリーブ54のアクチュエータ55による駆動が終了する。
以上、上記実施形態(図8に示す例)では、ロック状態が検出された時刻t2以降、位相変更処理が開始・実行されることでロック状態が解消され得る。即ち、ロック状態が発生してもロック状態が速やかに解消され得る。この結果、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替えがスムーズに達成され得る。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態(図8に示す例)では、ロック状態の発生が検出された時点にて位相変更処理が開始・実行されているが、所定の時点にて、ロック状態が発生しているか否かにかかわらず位相変更処理が開始・実行されてもよい。
この場合、位相変更処理は、例えば、スリーブ54がIN側噛合開始位置に基づいて決定される位置(例えば、IN側噛合開始位置そのもの、或いは、IN側噛合開始位置から所定距離だけニュートラル位置側にずれた位置)に達した時点で開始・実行され得る。
また、上記実施形態では、切替機構50として、IN接続状態、OUT接続状態、及びニュートラル状態の何れにも切り替え可能なものが使用されているが、切替機構50として、IN接続状態、及びニュートラル状態のみに切り替え可能なものが使用されてもよい。
また、上記実施形態(図6,8に示す例)では、ニュートラル状態からIN接続状態への切り替え作動がなされる場合が示されているが、ニュートラル状態からOUT接続状態への切り替え作動がなされる場合についても同様である。この場合、切替機構50として、OUT接続状態、及びニュートラル状態のみに切り替え可能なものが使用されてもよい。
加えて、上記実施形態では、変速機としてトルクコンバータを備えない多段変速機を使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッションが使用されているが、変速機として、トルクコンバータを備えるとともに車両の走行状態に応じて変速作動が自動的に実行される多段変速機又は無段変速機(所謂オートマチックトランスミッション(AT))が使用されてもよい。この場合、C/T30が省略され得る。