JP5365831B2 - 車輪用転がり軸受装置の熱処理方法と内軸の冷却装置 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車等の懸架装置に車輪を回転自在に支持するための、車輪用転がり軸受装置の、軌道面に対する熱処理方法と、前記熱処理方法に用いる内軸の冷却装置に関するものである。
図1は、近年普及しつつある車輪用転がり軸受装置1の一例を示す断面図である。図1を参照して、この例の車輪用転がり軸受装置1は、筒状の外輪2と、前記筒に挿通されて外輪2と同軸に配置された内軸3と、前記外輪2と内軸3との間に介在された複数個の転動体4とを備えている。
外輪2の筒の内周には、転動体4を転動可能に支持する複列(図では2列)の軌道面5、6が形成されている。また筒の外周には、その周方向の複数箇所(図では1箇所のみ記載している)から筒の径方向外方へ向けて突設された、懸架装置への取り付けのための複数個の突出部7を有するフランジ8が、前記筒と一体に形成されている。
内軸3の外周面には、軌道面5と対向し、前記軌道面5との間に転動体4を転動可能に支持する軌道面13が形成されている。内軸3の外周の、軌道面6と対向する位置には軌道輪14が嵌め合わされており、前記軌道輪14の外周に、軌道面6と対向し、前記軌道面6との間に転動体4を転動可能に支持する軌道面15が形成されている。
内軸3には、前記内軸3の径方向外方へ向けて突設された、車輪やブレーキディスク等を取り付けるためのフランジ19が一体に形成されている。またフランジ19の、軌道面13が形成された側と反対側の側面には、前記側面から内軸3の軸方向に突設させて、ブレーキディスクを嵌め合わせるための筒状のいんろう部21が一体に形成されている。
記内軸3は、鋼材を熱間鍛造加工等してそのもとになるワークを形成し、前記ワークの軌道面13を熱処理して、前記軌道面13を含む領域に所定の厚みを有する硬化層を形成した後、必要に応じて表面を研磨して製造される。熱処理としては、やはり高周波焼入れが広く採用される。
前記内軸3には、いんろう部21をブレーキディスクに嵌め合わせた状態で、フランジ19の、図において左側の側面に、前記ブレーキディスクと車輪とが取り付けられるため、前記側面ができる限り平面であると共に、いんろう部21に歪みがないことが求められる。ところが、前記軌道面13を熱処理すると、フランジ19に歪みを生じて、前記側面の平面性が低下したり、いんろう部21が歪んだりするおそれがある。
すなわち熱処理の熱は、フランジ19の、軌道面13に近い基部から周縁部へ向けて徐々に伝達されるため、前記基部側と周縁部側とで不均一な膨張を生じて内部応力が発生し、水をシャワー状に吹き付けて冷却をした際に異状変形して歪みを生じると共に、側面の平面性が低下するおそれがある。また、フランジ19が歪むことで、前記フランジ19と一体に形成されたいんろう部21も歪みを生じる。
そこで従来は、内軸3のフランジ19の、側面の平面性を向上したり、いんろう部21の歪みを是正したりするために、熱処理後、研磨前のワークを旋削して歪みを修正することが行われる。しかしこの方法では、前記旋削工程を必要とする分、工程数が増加するため、内軸3の、ひいては車輪用転がり軸受装置1の生産性が低下するという問題がある。また熱処理後の旋削分を考慮すると共に、熱処理によって歪みが発生するのをできるだけ抑制するために、ワークを厚めに形成する必要があり、内軸3の製造に要する鋼材の量、輸送に要するエネルギー、保管に要するスペース等が嵩むという問題もある。
また、熱処理の熱がワークの非加熱領域に不均一に伝導されたり、ワークが不均一に冷却されたりすると、焼入れのムラが発生するおそれもある。すなわち、熱処理によって形成される硬化層の、深さ方向の厚みや面方向の拡がりがばらついたりする場合がある。
外輪の筒の開口に嵌め合わされる嵌め合い部を有するコンセントリングを2つ用意し、それぞれのコンセントリングの嵌め合い部を、外輪の筒の両側の開口に嵌め合わせた状態で熱処理をして、ワークの歪みを抑制することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
しかし、コンセントリングによる変形防止の効果は未だ十分でなく、依然としてワークは、熱処理によって変形を生じやすいため、前記ワークを旋削して歪みを是正する工程を全く省略してしまうまでには至っていない。また冷却は、従来同様にワークに水を噴きつける等して行われるため、焼入れのムラが発生するのを抑制することもできない。しかも内軸のフランジの歪みを防止することは、前記特許文献1では一切考慮されていない。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、熱処理後のワークをさらに旋削加工等したり、焼入れのムラを生じさせたりせずに、要求される寸法精度を有する内軸を形成できる車輪用転がり軸受装置の熱処理方法を提供することを目的とする。また本発明は、前記熱処理方法に用いる内軸の冷却装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明は、筒状をし、その内周に軌道面が形成された外輪と、
軌道面(13)を有する外周面および車輪を取り付けるフランジ(19)が一体に形成され、前記外輪と同軸に配置される内軸(3)とを備える車輪用転がり軸受装置の、前記内軸の軌道面に対する熱処理方法であって、
前記軌道面を加熱して硬化層を形成するべく、誘導加熱のための高周波コイル(41)を前記内軸の軌道面に対向させ、前記内軸をその軸を中心として前記高周波コイルに対して周方向に相対回転させると共に、前記内軸のフランジを水と接触させて冷却しながら、前記高周波コイルに通電して前記軌道面を加熱し、加熱終了後も前記水によって一定時間冷却を行うことを特徴とする車輪用転がり軸受装置の熱処理方法を提供するものである(請求項1)。なお、カッコ内の英数字は、後述の実施の形態における対応構成要素等を表す。
本発明によれば、内軸のフランジを水と接触させて冷却しながら軌道面を加熱すると共に、加熱終了後も前記水によって一定時間冷却を行うことによって、前記フランジを均一に冷却して、内部応力によるフランジの歪みと、それに伴ういんろう部の歪みとが発生するのを抑制できる。そのため、熱処理後のフランジの側面やいんろう部をさらに旋削して歪みを是正する工程を省略しても、前記側面に要求される平面性を出すと共に、いんろう部の寸法精度を出すことが可能となる。
したがって、旋削の工程を省略できる分、内軸の、ひいては車輪用転がり軸受装置の生産性を向上できる。また内軸のもとになるワークを、熱処理後の旋削分等を考慮して少し大きめに形成する必要もなくなるため、前記内軸の製造に要する鋼材の量、輸送に要するエネルギー、保管に要するスペース等を、いずれも低減できる。
しかも焼入れのムラが発生するのを抑制して、前記熱処理によって形成される硬化層の厚みや拡がりを均一にできる。
本発明は、軌道面を有する外周面および車輪を取り付けるフランジが一体に形成された車輪用転がり軸受装置の内軸を、軌道面を有する外周面を上、フランジを下にした状態で保持すると共に、保持した内軸の軸を中心として周方向に回転可能な保持部(32)を含み、前記保持部は、保持したフランジの下方の側面に水を供給し、前記側面に接触させてフランジを冷却した後、外部に流出させる水の流路を有することを特徴とする内軸の冷却装置(31)を提供するものである(請求項2)。
本発明によれば、保持部に内軸を保持させて、前記保持部を、保持した内軸の軸を中心として回転させると共に、前記流路に水を循環させてフランジを冷却しならが、軌道面を、例えば誘導加熱によって加熱したのち冷却することで、前記フランジやいんろう部の変形を抑制しながら軌道面を熱処理することができる。
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、先に説明したように車輪用転がり軸受装置1の一例を示す断面図である。図1を参照して、この例の車輪用転がり軸受装置1は、筒状の外輪2と、前記筒に挿通されて外輪2と軸Aを中心として同軸に配置された内軸3と、前記外輪2と内軸3との間に介在された複数個の転動体4とを備えている。
外輪2の筒の内周には、転動体4を転動可能に支持する複列(図では2列)の軌道面5、6が形成されている。また筒の外周には、その周方向の複数箇所(図では1箇所のみ記載している)から筒の径方向外方へ向けて突設された、懸架装置への取り付けのための複数個の突出部7を有するフランジ8が、前記筒と一体に形成されている。フランジ8には、前記懸架装置への取り付けのための図示しないボルトが螺合されるネジ穴9が、筒の軸方向に貫通させて形成されている。
内軸3は、軸A方向の一端側(図において左側)から他端側(右側)に向けて順に同軸となるように一体に形成された外径の大きい大径部10、前記大径部10より外径の小さい中径部11、および前記中径部11より外径の小さい小径部12を備えており、前記大径部10と中径部11との段差部分に、軌道面5に対向する軌道面13が形成されている。また小径部12には軌道輪14が嵌め合わされており、前記軌道輪14の外周に、軌道面6に対向する軌道面15が形成されている。
軌道輪14は、内径が小径部12の外径と一致する筒状で、かつ軸A方向の一端側から他端側に向けて順に同軸となるように一体に形成された外径の小さい小径部16、および前記小径部16より外径の大きい大径部17を備えており、前記小径部16と大径部17との段差部分に、前記軌道面13と向かい合わせて軌道面15が形成されている。
内軸3の小径部12の端部18は、車輪用転がり軸受装置1の組み立て前には、図中に破線で示すように小径部12と同径の筒状に形成されている。
車輪用転がり軸受装置1を組み立てるには、軌道面5と軌道面13との間、および軌道面6と軌道面15との間に、それぞれ所定個の転動体4を保持させた状態で、小径部12に軌道輪14を嵌め合わせて、その一端側を中径部11と小径部12との段差に当接させる。
次いで図中に実線で示すように端部18をかしめることで、軌道輪14を内軸3に固定して車輪用転がり軸受装置1を組み立てると、前記転動体4、軌道面5、6および軌道面13、15によって複列スラストアンギュラ玉軸受が構成されて、内軸3が外輪2に対して、軸Aを中心として回転自在に支持される。
内軸3の、大径部10の一端側の外周には、前記外周から径方向外方へ向けて突設させて、車輪やブレーキディスク等を固定するためのフランジ19が一体に形成されている。フランジ19の、周方向の複数箇所(図では1箇所のみ記載している)には、図示しない車輪やブレーキディスクを取り付けるボルト20が設けられている。またフランジ19の一端側の側面には、前記側面から一端側に突設させて、ブレーキディスクを嵌め合わせるための筒状のいんろう部21が一体に形成されている。
前記各部のうち外輪2は、従来同様に、例えば軸受鋼、機械構造用炭素鋼等の鋼材を熱間鍛造加工等して図1に示す形状に形成し、次いで軌道面5、6を熱処理して、前記軌道面5、6を含む領域に所定の厚みを有する硬化層を形成した後、必要に応じて表面を研磨して製造される。
また内軸3は、やはり従来同様に、前記鋼材を熱間鍛造加工等して図1に示す形状に形成し、次いで軌道面13を熱処理して、前記軌道面13を含む領域に所定の厚みを有する硬化層を形成した後、必要に応じて表面を研磨して製造される。
この際、本発明の車輪用転がり軸受装置の熱処理方法では、前記内軸3の熱処理に際し、加熱している軌道面13の近傍領域を、加熱中から加熱後までの所定時間に亘って水で冷却し続ける点が、従来と相違している
図2は、本発明の車輪用転がり軸受装置の熱処理方法により、本発明の冷却装置の一例を用いて、内軸3を熱処理する工程の一例を示す断面図である。図2を参照して、この例で用いる冷却装置31は、内軸3の、軌道面13を有する外周面を上、フランジ19を下にした状態で保持すると共に、保持した内軸3の軸Aを中心として周方向に回転可能な保持部32を含んでいる。
保持部32は、底板33と、前記底板33の上面から上方に突設され、フランジ19の、図において下側の側面に当接して、前記フランジ19を、底板33との間に隙間をあけて支持する筒状の受部34を備えている。前記受部34は、筒の内径がいんろう部21の外径より大径とされ、底板33の上面からの突出高さが、いんろう部21の軸A方向の高さより高く設定されている。そのため受部34によってフランジ19を支持した状態では、いんろう部21は、受部34の筒内に内挿されて、底板33との間に隙間を設けた状態で支持される。
また保持部32は、前記底板33の周縁に一体に形成され、受部34によって支持されたフランジ19の外周に当接されて、前記フランジ19と底板33との間の隙間を外部から仕切る筒状の突出部35と、前記底板33の下面に取り付けられた回転軸36とを備えている。
突出部35および回転軸36は、前記突出部35をフランジ19の外周に当接させた状態で、内軸3の軸Aが回転軸36の中心軸と一致するように同軸に設けられている。また受部34の基部には筒の内外を繋ぐ通孔37が形成され、回転軸36内には、図示しない水の供給手段と、底板33の上面との間を繋ぐ通孔38が形成されている。これにより、図中に破線の矢印で示すように通孔38、受部34の筒内、いんろう部21と底板33との隙間、通孔37、および受部34の筒外を通して、フランジ19の、ボルト20が取り付けられるスプライン孔39に達する水27の流路が構成されている。
前記保持部32によって保持した内軸3の、上方に突出した端部18に、前記端部18に嵌め合わされた状態で軸Aを中心として回転する軸振れ防止のための受具40を装着すると共に、内軸3に誘導加熱のための高周波コイル41を外挿する。高周波コイル41としては、巻き径が、内軸3に外挿可能で、かつ軌道面13にできるだけ近接可能な径に設定されていると共に、軸A方向の巻き数が、軌道面13の列数(1列)に合わせて1重巻きとされたものを用いる。前記高周波コイル41は、図示しない高周波電源に接続される。
次に、高周波コイル41が軸Aを中心として回転したり、上下方向に移動したりしないように固定した状態で、図示しない供給手段から水27を、前記流路を通して連続的に供給してフランジ19を冷却し、スプライン孔39を通して外部にオーバーフローさせると共に、保持部32を、図中に実線の矢印で示すように一方向に回転させながら、高周波コイル41に高周波電流を入力する。そうすると、保持部32上に保持された内軸3のうち、高周波コイル41が対向する軌道面13とその近傍の領域が誘導加熱される。
誘導加熱の温度は、内軸3の前記領域を形成する鋼材がオーステナイト相を呈する温度に設定し、前記温度に達して一定時間経過した後に冷却すると、前記領域を形成する鋼材がマルテンサイト変態して焼入れされる。
この際、図の例では、内軸3のフランジ19といんろう部21とを、共に流路を通して連続的に供給される水27によって継続的に冷却しているため、内部応力によるフランジ19の歪みと、それに伴ういんろう部21の歪みとが発生するのを抑制できる。そのため、熱処理後のフランジ19の側面やいんろう部21をさらに旋削して歪みを是正する工程を省略しても、前記側面に要求される平面性を出すと共に、いんろう部21の寸法精度を出すことが可能となる。
したがって、前記工程を省略できる分、内軸3の、ひいては車輪用転がり軸受装置1の生産性を向上できる。また内軸3のもとになるワークを、熱処理後の旋削分等を考慮して少し大きめに形成する必要もなくなるため、前記内軸3の製造に要する鋼材の量、輸送に要するエネルギー、保管に要するスペース等を、いずれも低減できる。しかも焼入れのムラが発生するのを抑制して、前記熱処理によって形成される硬化層の厚みや拡がりを均一にすることもできる。
熱処理後は内軸3を必要に応じて乾燥させた後、先に説明した手順で転動体4、外輪2、および軌道輪14と組み合わせて組み立てると、図1に示す車輪用転がり軸受装置1が製造される。この際、同様の熱処理をした外輪2と、図2の熱処理をした内軸3とを組み合わせてもよい。その場合には、車輪用転がり軸受装置1の生産性をさらに向上できる。
本発明は、以上の実施の形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。例えば図2では、高周波コイル41を固定し、内軸3を回転させて熱処理をしていたが、逆に内軸3を固定し、高周波コイル41を回転させて熱処理をしてもよいし、内軸3と高周波コイル41を共に回転させて熱処理をしてもよい。
また、本発明によって製造される車輪用転がり軸受装置は、図1のものには限定されず、従来の、2列の軌道面が共に、内軸3とは別体の軌道輪に形成されたものであってもよいし、現在、開発が進められている、2列の軌道面が共に、内軸3の外周面に直接に形成されたものであってもよい。前記軌道面の配置に合わせて軌道面を任意の配置とした外輪を水に浸漬した状態で、前記軌道面を熱処理することができる。
本発明の熱処理方法を経て製造される車輪用転がり軸受装置の一例を示す断面図である。 本発明の熱処理方法による内軸の熱処理の工程の一例を示す断面図である。
符号の説明
1:軸受装置、2:外輪、3:内軸、5、6:軌道面、13:軌道面、19:フランジ、27:水、41:高周波コイル、31:冷却装置、32:保持部、A:軸

Claims (2)

  1. 筒状をし、その内周に軌道面が形成された外輪と、
    軌道面を有する外周面および車輪を取り付けるフランジが一体に形成され、前記外輪と同軸に配置される内軸とを備える車輪用転がり軸受装置の、前記内軸の軌道面に対する熱処理方法であって、
    前記軌道面を加熱して硬化層を形成するべく、誘導加熱のための高周波コイルを前記内軸の軌道面に対向させ、前記内軸をその軸を中心として前記高周波コイルに対して周方向に相対回転させると共に、前記内軸のフランジを水と接触させて冷却しながら、前記高周波コイルに通電して前記軌道面を加熱し、加熱終了後も前記水によって一定時間冷却を行うことを特徴とする車輪用転がり軸受装置の熱処理方法。
  2. 軌道面を有する外周面および車輪を取り付けるフランジが一体に形成された車輪用転がり軸受装置の内軸を、軌道面を有する外周面を上、フランジを下にした状態で保持すると共に、保持した内軸の軸を中心として周方向に回転可能な保持部を含み、前記保持部は、保持したフランジの下方の側面に水を供給し、前記側面に接触させてフランジを冷却した後、外部に流出させる水の流路を有することを特徴とする内軸の冷却装置。
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