以下に添付図面を参照して、この発明にかかる液吐出不良検出装置およびインクジェット記録装置の最良な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態にかかる液吐出不良検出装置を備えるインクジェットプリンタ(インクジェット記録装置)100の正面図を示す。また、図2は、インクジェットプリンタ100の一部を斜め上から観察した図を示す。
図1に示すように、インクジェットプリンタ100の筐体10の左右の側板11、12には、ガイドシャフト13とガイド板14とが平行に掛け渡して設けられている。ガイドシャフト13およびガイド板14は、キャリッジ15に摺動可能に貫通される。キャリッジ15には、不図示の無端ベルトが取り付けられる。無端ベルトは、筐体10内の左右に設けられる図示しない駆動プーリと従動プーリに掛けまわされる。そして、駆動プーリの回転とともに従動プーリが従動回転されて無端ベルトを走行する。これにより、キャリッジ15が、図1の矢印で示されるよう左右に移動される。
キャリッジ15には、イエロ、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のインクジェットヘッド16y、16c、16m、16b(以下、単にヘッド16という)が、キャリッジ15の移動方向に並列配置されている。各ヘッド16は、下向きのノズル面に複数のノズルを直線状に並べたノズル列を有する。図示しないが、直線状のノズル列は、キャリッジ15の移動方向と直交する方向に設けられる。
そして、キャリッジ15が図1のように右端のホームポジションに存在するときには、各ヘッド16は、筐体10内の底板17上に設置する単独回復装置18と対向する。単独回復装置18は、液吐出不良検出装置20でインク滴吐出不良を検出したノズルからインクを吸い出し、インクジェットプリンタ100自身で単独で液体吐出不良を回復する装置である。
液吐出不良検出装置20は、筐体10内の底板17上に、単独回復装置18に隣接配置される。液吐出不良検出装置20の詳細については後述する。
液吐出不良検出装置20に隣接する位置には、板状のプラテン22を設置する。プラテン22の背面側には、記録媒体である用紙23をプラテン22上に供給する給紙台24が斜めに立てて設けられる。また、図示を省略するが、給紙台24上の用紙23をプラテン22上に送り出す給紙ローラが備えられる。さらに、プラテン22上の用紙23を矢示方向に搬送して正面側に排出する搬送ローラ25が設けられる。
筐体10内の底板17上には、さらに左端に駆動装置26が設置される。駆動装置26は、不図示の給紙ローラや搬送ローラ25などを駆動するとともに、上述した駆動プーリを駆動することにより無端ベルトを走行してキャリッジ15を移動する。
そして、記録時は、駆動装置26で駆動されることにより用紙23がプラテン22上に移動され、所定位置に位置決めされる。また、キャリッジ15が移動されて用紙23上を走査され、左方向に移動しながら4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルからインク滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が図2の矢印の方向に所定量搬送される。
次いで、再びキャリッジ15が左方向に移動されながら往路で4色のヘッド16y、16c、16m、16bを用いて順にそれぞれのノズルからインク滴が吐出され、用紙23上に画像が記録される。そして、同様に画像記録後、キャリッジ15が右方向に戻されるとともに、用紙23が図2の矢印の方向に所定量搬送される。以下同様の動作が繰り返され、1枚の用紙23上に画像が記録される。
次に、本実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100の構成について説明する。図3は、本実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100の構成の一例を示すブロック図である。本実施の形態にかかるインクジェットプリンタ100は、ヘッド16と、吐出制御部101と、発光制御部102と、発光素子30と、受光ユニット103と、検出部104と、決定部105と、移動制御部106と、移動部107とを主に備えている。
本実施の形態のインクジェットプリンタ100は、ノズルnx(1≦x≦M、Mはノズルの個数)からインク滴が正常に吐出するか否かを検出する液吐出不良検出処理を行う。液吐出不良検出処理では、インク滴の飛行経路に対して発光素子30から光ビームを出射し、出射した光ビームにノズルnxからインク滴を吐出して、インク滴による散乱光を発生させる。この散乱光を受光素子33が受光し、受光して得られる出力電圧によって検出部104がインク滴が正常に吐出されたか否かを検出する。
なお、図3では、主に液吐出不良検出処理に関連する機能を備えた構成部を記載しており、画像の記録に関連する構成部は図示を省略している。また、液吐出不良検出装置20は、図3の構成部のうち、少なくとも発光素子30と、受光ユニット103と、検出部104と、決定部105と、移動制御部106と、移動部107とを備えている。
吐出制御部101は、ヘッド16の各ノズルからインク滴を吐出する吐出処理を制御する。例えば液吐出不良検出処理では、吐出制御部101は、ヘッド16のノズルnxから、発光素子30とノズルnxとの距離、または、受光素子33とノズルnxとの距離に応じて定められる大きさのインク滴を吐出するように制御する。
発光制御部102は、発光素子30を発光させる発光処理を制御する。例えば液吐出不良検出処理では、発光制御部102は、一定電圧値の発光制御信号を送出して、発光素子30を連続点灯させる。
発光素子30は、例えば、半導体レーザ等の発光素子であって、発光制御部102から送出される発光制御信号にしたがって点灯し、光ビームを発生する。ヘッド16が短尺である場合には、発光素子30としてレーザダイオードを用いてコスト低減を図ることもできる。
受光ユニット103は、図3に示すように、受光素子33と、I/V変換部111と、1段目増幅部112と、ハイパスフィルタ113と、2段目増幅部114と、を主に備えている。
受光素子33は、例えば、フォトダイオード等の光を受光する素子であって、受光する光の強度に比例して電流を発生させる。受光素子33は、図4に示すように、発光素子30が発生した光ビーム31の光軸35から角度θずれ、ノズル直下よりも発光素子30から離れた位置に配置される。受光素子33は、液吐出不良検出処理では、インク滴36が光ビーム31に照射されて散乱光S1〜S7が発生した場合に、光ビーム31の光軸方向に散乱された前方散乱光S1〜S3を受光し、受光した光の強度に応じた電流を発生させる。受光素子33は、他の態様として、発生させた電流を電圧に変換する電流電圧変換部を備え、電圧を出力するように構成してもよい。
I/V変換部111は、受光素子33で発生した電流を電流値の大きさに応じた電圧に変換する。
1段目増幅部112は、I/V変換部111で電流電圧変換された電圧を増幅する。液吐出不良検出処理では、1段目増幅部112により出力信号TP1が得られる。この出力信号TP1によりオフセット電圧を計測することができる。本実施の形態では、オフセット電圧を監視し、オフセット電圧に応じて反射板(後述)の位置を移動して受光素子33が受光する光量を調整する。これにより、正確に液吐出不良検出処理を実行可能となる。
ハイパスフィルタ113は、DC成分(ノイズ成分)を除去・低減する。
2段目増幅部114は、ハイパスフィルタ113で得られた電圧を増幅する。液吐出不良検出処理では、2段目増幅部114により散乱光に応じた出力電圧(散乱光出力値)を表す出力信号TP2が出力される。
なお、図3のような受光ユニット103の構成は一例であり、受光した光ビーム31に応じた出力電圧(出力信号TP1、TP2)を出力するものであれば、あらゆる構成を適用できる。
検出部104は、受光ユニット103から出力された出力信号TP2から、インク滴の吐出不良を検出する。例えば、検出部104は、出力信号TP2と、不良吐出を判定するための基準電圧として予め定められた閾値VSHとを比較し、出力信号TP2が閾値VSHより小さい場合に、インク滴に曲がりが発生したことを検出する。検出部104が、閾値VSHより小さい所定の閾値より出力信号TP2が小さい場合に、不吐出の状態であることを検出するように構成してもよい。また、検出部104が、散乱光のパルス波形と基準電圧(閾値VSH)とを比較するときに、ヒステリシスを掛けることにより、ノイズ成分による出力のばたつきをなくすように構成してもよい。
決定部105は、インク滴が吐出されていないときに出力されるオフセット電圧(出力信号TP1)に応じて、反射板を移動する移動量および移動方向を決定する。後述するように、オフセット電圧は、光ビーム31の外周のフレア光502を受光した受光素子33が出力する電圧値である。決定部105は、例えばオフセット電圧と予め定められた規定値とを比較し、オフセット電圧が規定値より大きいときは、両者の差分に応じて予め定められた移動量で、反射板を光軸35から遠ざける方向に移動することを決定する。同様に、決定部105は、オフセット電圧と規定値とを比較し、オフセット電圧が規定値より小さいときは、両者の差分に応じて予め定められた移動量で、反射板を光軸35に近づける方向に移動することを決定する。
後述するように、反射板は、受光素子33の受光面33aと一部重なる(オーバーラップする)位置に移動可能に配置される。このため、反射板を光軸35から遠ざけると、受光面33aと反射板とが重なる範囲が大きくなり、受光素子33が受光する光の光強度を低下させることができる。すなわち、オフセット電圧を低下させることができる。一方、反射板を光軸35に近づけると、受光面33aと反射板とが重なる範囲が小さくなり、受光素子33が受光する光の光強度を増加させることができる。すなわち、オフセット電圧を増加させることができる。
決定部105は、例えば、オフセット電圧と規定値との差分と、移動量とを対応づけて記憶部(図示せず)等に記憶したテーブル等を参照して、差分に応じた移動量を決定する。なお、差分に応じた移動量を決定方法はこれに限られず、例えば差分に対応する移動量を算出する関数を用いて決定するように構成してもよい。
移動部107は、反射板207aを移動する。移動部107の具体的な構成例については後述する。移動制御部106は、決定部105により決定された移動量で反射板207aが移動するように移動部107を制御する。
次に、図4〜図14を用いて、本実施の形態の液吐出不良検出装置20の動作原理について説明する。
図4は、本実施の形態の液吐出不良検出処理の概略を示す説明図である。図4のノズルn1、n2、・・・、nx、・・・、nMは、キャリッジ15に搭載する1つのヘッド16で、1つのノズル列を構成する各ノズルである。本実施の形態の液吐出不良検出装置20が備えられたインクジェットプリンタ100では、このノズル列のうち1つのノズルnxからインク滴36が吐出される。
発光素子30から発した光は、コリメートレンズ32で平行な光ビーム31にコリメートされる。光ビーム31の光軸35は、インク滴36の吐出方向と直行するように配置される。受光素子33は、その受光面33aが光ビーム31の径内に入らない位置に配置される。図4では、光ビーム31の下部に配置された例が示されている。このように、光ビーム径と受光素子33の受光面33aとが重ならない位置で、できるだけ光ビームの光軸35の中心に近づけて配設することにより、効率の良い検知が可能となる。
液吐出不良検出装置20は、受光素子33を光ビームの光軸35の近くに配置可能とするために、迷光部207と、反射板207aとを備えている。反射板207aは、受光素子33の受光面33aに光ビーム31が入り込まないように、受光素子33に向かって照射される光ビーム31を反射する。迷光部207は、反射された光ビーム31を迷光させる。このように迷光部207と受光素子33とを組み合わせることにより、より効率の良い検知ができる構成となっている。また、受光素子33と反射板207aとの位置決めを簡易的に実行するために、受光素子33の受光面33aが反射板207aの一方の端面にオーバーラップする構成としている。
このような構成で、ヘッド16のノズルnxからインク滴36を吐出すると、インク滴36が正常に吐出されている場合は、光ビーム31がインク滴36に照射されて散乱光S1〜S7が発生する。受光素子33は、この散乱光S1〜S7の中で、特に光強度が強い前方散乱光S1〜S3を受光することにより、その光出力を電圧値(散乱光出力値)として計測することができる。そして、この散乱光出力値により、インク滴36の吐出の有無および曲がりを検出することができる。
例えば、インク滴36が正常に吐出されていない場合には、光ビーム31がインク滴36に照射されず、従って散乱光も発生させずに、光ビーム31はそのまま直進するため、受光素子33は電流を発生させない。検出部104は、受光素子33から出力された出力信号TP2(散乱光出力値)により、インク滴36が吐出したか否かおよびインク滴36の曲がりを判定する。すなわち、検出部104は、受光素子33の受光光量の大小を判別し、受光光量が大きいことからインク滴36の正常吐出を確認する一方、受光光量が小さいことからインク滴36の吐出不良を検出する。
なお、本実施の形態の液吐出不良検出装置20は、ノズル列の複数のノズルから順次インク滴36を吐出させ、所定の基準電圧と、得られた出力信号TP2とを比較することにより、液吐出不良検出処理を各ノズルに対して行う。
図5は、光ビーム31の強度分布の一例を示す図である。図5は、発光素子側から観察した光ビーム31の断面を表している。
発光素子30として半導体レーザを用いた場合、垂直・水平方向にそれぞれ発散角度(一般的な例として、垂直方向に14°および水平方向に30°)を持つ拡散光が出射される。以下では、発光素子30として半導体レーザを使用した例について述べる。
このようにして発光された拡散光をコリメートレンズ32で平行光にした場合、縦横比が異なる楕円形状となる。図5は、楕円形状の長軸方向にX軸、短軸方向にY軸を取った例を示している。図5のX軸方向(水平方向)は、インク滴吐出方向に対して直角の方向である。また、図5のY軸方向(垂直方向)は、インク滴吐出方向である。f(X)およびf(Y)は、それぞれX軸方向およびY軸方向の光ビーム31の光強度分布を示す。図5から、光ビーム31の中心(光軸35)で最も光強度が強く、縁に行くにしたがい光強度は低下しており、ガウシャン分布となっていることがわかる。
図6は、光ビーム31と受光素子33との位置関係の一例を示す図である。図6は、発光素子側から観察した光ビーム31の断面および受光素子33を表している。
図6に示すように、光ビーム31の外側にはフレア光502が存在する。このフレア光502の光強度は、光ビーム31に比べ小さい。受光素子33は、散乱光強度が強い前方散乱光S1〜S3を受光できるように、受光面33aがフレア光502の中に入るように設置される。このため、インク滴を吐出していない時でも受光素子33の出力電圧(TP1)はある一定の値(VPD1)を持っている。以下では、この値(VPD1)をオフセット電圧と呼ぶ。液吐出不良検出装置20を組上げるとき、オフセット電圧が所定の範囲内になるように受光素子33の位置を調整して固定している。このときにはインク滴36は吐出しておらず、光ビーム31のみを照射している。
図7は、受光面33aから光ビームの光軸35までの距離(受光面−光軸距離)とオフセット電圧との関係を示す図である。図7に示すように、受光面33aが光軸35から離れると、オフセット電圧は低くなる。逆に、受光面33aが光軸35に近づくとオフセット電圧は高くなる。フレア光502にも図5と同様の光強度分布が存在し、光軸35からの距離に応じて光強度が変化するためである。
図8は、光ビーム31とノズルnxから吐出されたインク滴との位置関係を示す図である。図8は、ノズルnxから吐出されたインク滴36を吐出方向すなわち垂直下方向から観察した図である。図8では、光ビーム31内に、図面奥手に配置されたノズルnxから吐出された、正常吐出時のインク滴36aおよび吐出不良時のインク滴36bの一例が示されている。
ヘッド16のノズル列が光ビーム31の光軸35上に存在する場合、正常吐出したインク滴36aはそのまま鉛直方向に飛翔する。このため、インク滴36aは光ビーム31の中心を通過する。一方、曲がりが発生したインク滴36bは、光ビーム31の中心から外れた位置を通過する。また、不吐出のときはインク滴36が吐出しないため、光ビーム31を通過しない。
図9は、インク滴36が光ビーム31と交わった時に発生する散乱光を受光素子33で受光した場合に得られる出力電圧(散乱光出力値)である出力信号TP2を示す図である。正常吐出されたインク滴36aは、光強度が最も高い光ビーム31の中心を通過するため、散乱光強度も高くなる。図9では、実線で表される出力信号TP2の最大値V’が、この場合に出力される散乱光出力値に相当する。
これに対し、曲がりが発生したインク滴36bは、光ビーム31の中心から外れるため、散乱光強度が低くなる。図9では、破線で表される出力信号TP2の最大値V’’(<V’)が、この場合に出力される散乱光出力値を表している。
また、インク滴36が不吐出の場合、インク滴36が光ビーム31を通過しないため散乱光が発生せず、散乱光強度が計測されない。図9では、一点鎖線で表される出力信号TP2が、この場合に出力される散乱光出力値(V0=0)を表している。
ここで、不良吐出であるか否かを判定するための閾値をVSHとすると、インク滴36aに対する出力信号TP2=V’はVSH閾値より大きいため、インク滴36aは正常吐出されていると判断できる。一方、インク滴36bに対する出力信号TP2=V’’はVSH閾値より小さいため、例えばインク滴36bは曲がりが発生したと判断できる。上述のように、閾値VSHより低い閾値を用いれば、不吐出の状態を検出することができる。
図10は、液吐出不良検出時の各種電圧の関係の一例を示す図である。図10(a)のVLDは、発光素子30の駆動電圧(以下、LD駆動電圧VLDという)を表す。図10(b)のVHは、ヘッド16からインク滴を吐出するための駆動電圧(以下、インク滴駆動電圧VHという)を表す。このように、図10は、LD駆動電圧VLDおよびインク滴駆動電圧VHと、受光素子33が検出する出力信号TP1、TP2との関係を表している。なお、図10の横軸は時間を表す。また、以下の図12、図17〜20も図10と同様の電圧間の関係を表す図である。
以下、図10を用いて液吐出不良検出時のLD駆動電圧VLD、インク滴駆動電圧VH、および受光素子33の電圧(出力信号TP1、TP2)の変化を示す。
液吐出不良検出を開始する場合、まず時刻t1のときにLD駆動電圧VLDをVLD0からVLD1に変更し(図10(a)、発光素子30から光ビーム31を照射する。そのとき、受光素子33の出力電圧(TP1)はVPD0からVPD1に上昇する(図10(c)の時刻t1)。これは図6で説明した通り、光ビーム31の周りのフレア光502を受光素子33の受光面33aが受光するためである。
その後、時刻t2のときにヘッド16の1個目のノズルn1のインク滴駆動電圧VHをVH0からVH1に変更する(図10(b))。これにより、ノズルn1からインク滴36が吐出され、インク滴36が光ビーム31と交わり散乱光が発生する。
この散乱光を受光素子33の受光面33aで受光し、受光素子33の出力電圧(TP1)がVPD1からVPD’に上昇する(図10(c)の時刻t2付近)。その後、インク滴36が光ビーム31を通過すると、受光素子33の出力電圧(TP1)は、VPD’からVPD1に戻る。
このような電圧の変化を考慮し、本実施の形態の受光ユニット103では、ハイパスフィルタ113によりDC成分を除去した後、2段目増幅部114により、ハイパスフィルタ113で得られた電圧を増幅している。したがって、受光素子33の出力信号TP2は、VPD0からVPD’’に上昇する(図10(d)の時刻t2付近)。
続いて、時刻t3から時刻tNに、各ノズルのインク滴駆動電圧VHをVH0からVH1に変更すると(図10(b))、各ノズルに対応した電圧値VPD’’が計測できる(図10(d))。この電圧値VPD’’を散乱光出力値とし、閾値VSHとの比較により各ノズルでのインク滴36の吐出の有無や曲がりなどを検出することができる。
液吐出不良検出を終えたらLD駆動電圧VLDをVLD1からVLD0に変更し(図10(a))、発光素子30からの光ビーム31の照射を終了する。このとき、受光素子33の出力電圧(TP1)はVPD1からVPD0に下降する(図10(c))。
図11は、振動が発生したときの受光素子33で得られる出力信号TP1の一例を示す図である。長尺ヘッドなどで構成されるラインプリンタ等では、生産性を低下させないために用紙搬送中に吐出不良を検出するように構成されている場合がある。用紙搬送中は、ベルト搬送や用紙の吸引などのように駆動する部分が多数存在するため、振動が発生する。図11は、このような場合に生じる振動により変化する出力信号TP1の例を表している。
図11に示すように、振動が発生した場合、オフセット電圧(出力信号TP1)の変動が大きくなる。なお、図11の電圧値VPD1は、振動が発生していない場合のオフセット電圧の一定値を表す(図10(c)参照)。また、振動には長波長から短波長のものが入り乱れているため、ハイパスフィルタ113では振動に対応するノイズ成分をすべて除去することができない。
図12は、このような状態でインク滴36を吐出し、オフセット電圧の変動に応じた反射板207aの移動制御を実行せずに液吐出不良を検出すると仮定した場合の、各種電圧の関係の一例を示す図である。図12(c)および(d)の実線は、振動が発生したときの出力信号を表している。また、図12(c)および(d)の破線は、振動が発生していないときの出力信号を表している。
図12に示すように、インク滴駆動電圧VHをVH1に変更する時刻(t2、t3、・・・、tN)以外の時刻(例えば時刻t1と時刻t2との中間)で、閾値VSH以上の出力信号TP2が検出されるため、吐出不良が誤検出される。このように、振動が発生した場合、オフセット電圧が大きく変動するため、吐出不良の検知に及ぼす影響が大きい。
そこで、本実施の形態では、上述のように反射板207aを受光素子33に対して上下に移動させ、常に適正なオフセット電圧が得られるようにする。これにより、誤検出の発生を低減させることができる。
図13は、反射板207aと受光素子33との位置関係を説明するための図である。図13は、反射板207aと受光素子33の周辺を拡大した拡大図を表す。図13の左端の関係図1301は、振動等が発生せず、オフセット電圧が正常であるときの反射板207aと受光面33aとの位置関係を示している。上述のように、検知の効率化および位置調整の簡易化のために、反射板207aに対し、受光面33aをオーバーラップさせる構成としている。
図13の中央の関係図1302および右端の関係図1303は、例えば振動によって光軸35のずれが発生した場合の反射板207aと受光面33aとの位置関係を示している。なお、図13では、振動が発生する前の光ビーム31の光軸35aを一点鎖線で表し、振動が発生した後の光ビーム31の光軸35bを破線で表している。
上述のように、振動が発生すると光ビーム31が上下方向に移動し、フレア光502も上下方向に移動するため、オフセット電圧(VPD1)が変動する。光ビーム31が下方向に移動した場合(受光面33aに近づいた場合)、受光面33aに入光するフレア光502が大きくなるため、オフセット電圧が高くなる。この場合は反射板207aを下方向に下げ、適正なオフセット電圧値になるように調整する。
一方、光ビーム31が上方向に移動した場合(受光面33aから遠ざかった場合)、受光面33aに入光するフレア光502が小さくなるため、オフセット電圧が低くなる。この場合は反射板207aを上方向に上げ、適正なオフセット電圧値になるように調整する。
図14は、反射板207aを移動する移動部107の一例を示す図である。図14に示すように、移動部107は、モータ321と、ギア322と、軸323とを備えている。
受光素子33は、受光基板301に半田付けされる。受光基板301は、受光基板保持部302に固定される。受光素子33の受光面33aは、反射板207aの端面にオーバーラップするように配置される。反射板207aの下端部は、光ビーム31の光軸35からオフセット高さ311だけ離れている。
そして、オフセット電圧が変動した場合、モータ321に接続されたギア322が回転することにより、軸323が上下運動し、反射板207aの位置が変化する。これにより、適正なオフセット電圧を維持することが可能となる。
なお、オフセット電圧の監視を常時実行するように構成すると、インク滴36が光ビーム31を通過するときに発生する散乱光による出力を振動による変化として誤認識するおそれがある。そこで、本実施の形態では、例えばインク滴吐出後の一定時間以外の時刻で監視するように構成する。例えば、図12(c)の時刻t2’から時刻t3の間、および、時刻tN’から時刻t4の間などのように、あるノズルからインク滴が吐出された後、次のノズルからインク滴が吐出される前までの期間にオフセット電圧を監視する。
このようにオフセット電圧の値に応じて反射板207aを移動させることにより、図12のような誤検知を無くすことができる。また、特許文献1のように微小なインク滴とスリットとの位置合わせを高精度に行うための構成等が不要であるため、より簡易な構成で吐出状態を安定して検出可能となる。そして、このような液吐出不良検出装置20を備えることにより、印字性能が安定した低コストなインクジェットプリンタ100を提供することができる。
以下、本実施の形態による効果についてさらに説明する。図15は、反射板207aを移動させた時のオフセット電圧(TP1)の変化の一例を示す図である。図15に示すように、オフセット電圧(TP1)が規定値となるように反射板207aを移動することにより、オフセット電圧(TP1)の変動を最小限に抑えることができる。
図16は、振動が発生している状態での、液吐出不良検出時の各種電圧の関係の一例を示す図である。なお、図16(c)および(d)では、振動が発生し、反射板207aを移動させた場合の出力値を実線で表している。そして、比較のため、振動が発生していない状態での出力値を破線で表し、振動が発生しているが反射板207aを移動させない場合の出力値を点線で表している。
図16(d)の実線で示すように、反射板207aを移動させることにより、正常なとき(図16(d)の破線)には出力されない期間で、閾値(VSH)以上の出力値が出力されることを回避できている。すなわち、正常時の出力値(点線)と同様の時刻に、閾値(VSH)を超える出力値が出力されるように制御されている。これにより、誤検出をせずに吐出不良を検出することができる。
これまでは、印字中の振動などの突発的な変化の影響を回避する場合を例に説明した。これに対し、ミストや紙粉による汚れ、レーザの劣化、および振動以外の原因による受光素子33の位置の変化などの経時的な変化の影響を回避するために、印字開始前にオフセット電圧を検出し、反射板207aを移動させるように構成してもよい。例えば、光軸35のずれや光学系のミスト汚れなどにより受光能力が低下したとする。図17は、このような状態で液吐出不良を検出した時の各種電圧の関係の一例を示す図である。
このような場合、図17(c)に示すように、オフセット電圧(TP1)が小さくなる。これにより、インク滴36を吐出したときに不良吐出判定で用いられる出力信号TP2が、閾値(VSH)より小さくなる(図17(d))。このため、正常に吐出されているにもかかわらず吐出不良であると誤って判定される。
また、例えば、振動以外の原因により受光素子33の受光面33aが光ビーム31に対して過度に近づく場合も想定される。図18は、このような状態で液吐出不良を検出した時の各種電圧の関係の一例を示す図である。
このような場合、図18(c)に示すように、オフセット電圧(TP1)が飽和電圧近くに達するおそれがある。このため、インク滴36を吐出したときに不良吐出判定で用いられる出力信号TP2が、閾値(VSH)より小さくなる(図18(d))。このため、正常に吐出されているにもかかわらず吐出不良であると誤って判定される。
図17および図18のような経時的な変化による誤検出を回避するため、印字開始前にオフセット電圧を検出し、反射板207aを移動させるように構成することができる。
図19は、このように構成した場合の、液吐出不良検出処理の全体の流れを示すフローチャートである。なお、図19は、1つのヘッド16について実行される処理を表している。4色のインクジェットヘッド16y、16c、16m、16bを用いる場合は、各ヘッド16について図19のような処理が実行される。
まず、発光制御部102が、レーザダイオード(LD)などで構成される発光素子30から光ビーム31の照射を開始する(ステップS101)。これにより、光ビーム31のフレア光502が、受光素子33によって受光され、受光されたフレア光502の光強度に応じた電流が発生する。また、I/V変換部111は、発生した電流を電流値の大きさに応じた電圧に変換する。そして、1段目増幅部112が、I/V変換部111によって変換された電圧を増幅し、フレア光502の光強度に応じたオフセット電圧(出力信号TP1)を出力する(ステップS102)。
次に、決定部105が、出力信号TP1がオフセット電圧の規定値より大きいか否かを判断する(ステップS103)。出力信号TP1が規定値より大きい場合(ステップS103:Yes)、決定部105は、出力信号TP1と規定値との差分(TP1−規定値)に相当する反射板207aの移動量を決定する(ステップS104)。移動制御部106は、決定された移動量の分だけ反射板207aが移動するように移動部107の移動を制御する(ステップS105)。上述のように、出力信号TP1が規定値より大きい場合は、移動制御部106は、決定された移動量で、反射板207aを光軸35から遠ざける方向に移動するように制御する。
出力信号TP1が規定値より大きくない場合(ステップS103:No)、決定部105は、さらに、出力信号TP1が規定値より小さいか否かを判断する(ステップS106)。出力信号TP1が規定値より小さい場合(ステップS106:Yes)、決定部105は、出力信号TP1と規定値との差分(規定値−TP1)に相当する反射板207aの移動量を決定する(ステップS107)。移動制御部106は、決定された移動量の分だけ反射板207aが移動するように移動部107の移動を制御する(ステップS108)。上述のように、出力信号TP1が規定値より小さい場合は、移動制御部106は、決定された移動量で、反射板207aを光軸35に近づける方向に移動するように制御する。
ステップS105またはステップS108で反射板207aを移動させた後、再度オフセット電圧(TP1)を計測し、出力信号TP1が規定値と一致するまで処理が繰り返される。
出力信号TP1が規定値より小さくない場合は(ステップS106:No)、出力信号TP1が規定値と一致していることを意味するため、反射板207aは移動しない。なお、出力信号TP1と規定値とが厳密に一致する必要はなく、例えば両者の差分が所定の閾値より小さい場合に一致していると判断するように構成してもよい。
このようにして反射板207aが適正な位置に移動された後、ノズルn1からnMの順に順次インク滴を吐出して吐出不良が検出される(ステップS109〜ステップS114)。
まず、吐出制御部101が、未処理のノズルからインク滴を吐出する(ステップS109)。これにより、インク滴と光ビーム31とが衝突して散乱光が発生する。2段目増幅部114は、散乱光に応じた出力電圧(散乱光出力値)である出力信号TP2を出力する(ステップS110)。
次に、検出部104が、出力信号TP2が吐出不良を判定するための閾値(VSH)以上であるか否かを判断する(ステップS111)。出力信号TP2が閾値(VSH)以上でない場合(ステップS111:No)、検出部104は、吐出不良が生じていると判断する。そして、ノズルのクリーニングを制御する構成部等(図示せず)が、吐出不良と判定されたノズルのクリーニングを実行する(ステップS112)。なお、吐出不良と判定されたノズルを識別する番号を記憶部等(図示せず)に記憶し、液吐出不良検出処理の後に記憶された番号のノズルのクリーニングを実行するように構成してもよい。
出力信号TP2が閾値(VSH)以上の場合(ステップS111:Yes)、またはノズルのクリーニングを実行後(ステップS112)、吐出制御部101は、すべてのノズルを処理したか否かを判定する(ステップS113)。すべてのノズルを処理していない場合(ステップS113:No)、吐出制御部101は、次のノズルからインクを吐出して処理を繰り返す(ステップS109)。すべてのノズルを処理した場合(ステップS113:Yes)、発光制御部102が、発光素子30の発光を終了して(ステップS114)、液吐出不良検出処理を終了する。
このように、事前に受光素子33が出力する電圧(出力信号TP1)を監視することにより、インク滴36を吐出する前に、液吐出不良検出装置20の初期設定値からの変化を検出することができる。そして、変化に応じて受光素子33の出力が一定となるように反射板207aの位置を移動制御するため、誤検出を避けることができる。
図20は、このような手順により反射板207aを適正な位置に移動制御する場合の、液吐出不良検出時の各種電圧の関係の一例を示す図である。図20は、最初のノズルn1からインク滴を吐出する前の時刻t1から時刻t2の期間でオフセット電圧(TP1)の監視により反射板207aを移動した例を表す。すなわち、図20は、時刻t1経過直後に出力信号TP1が小さい値であったため、反射板207aが移動され、時刻t2までに出力信号TP1が適正値に調整された例を表している。
なお、印字中にオフセット電圧を監視して反射板207aの位置を制御する場合には、例えば、あるノズルからインク滴を吐出した後、一定期間経過後であって、次のノズルからインク滴を吐出する前に、上記ステップS102〜ステップS108までの処理を実行すればよい。
また、反射板207aの位置を制御するタイミングは印字中および吐出不良検出前に限られるものではない。例えば、複数のヘッド16それぞれに対する吐出不良を検出した後に行ってもよい。図21は、このように構成した場合の、液吐出不良検出処理の全体の流れを示すフローチャートである。なお、図21は、図19と異なり、複数のヘッド16(例えばインクジェットヘッド16y、16c、16m、16b)それぞれに対して実行される処理を含んでいる。
まず、発光制御部102が、レーザダイオード(LD)などで構成される発光素子30から光ビーム31の照射を開始する(ステップS201)。そして、ノズルn1からnMの順に順次インク滴を吐出して吐出不良が検出される(ステップS202〜ステップS205)。ステップS202〜ステップS206までの処理は、図19のステップS109〜ステップS113までと同様であるため説明を省略する。
インク滴の吐出が終了すると、散乱光は受光されないが、光ビーム31のフレア光502が受光素子33によって受光される。そこで、フレア光502に対応するオフセット電圧に応じた反射板207aの位置の調整処理が実行される(ステップS207〜ステップS213)。ステップS207〜ステップS213までの処理は、図19のステップS102〜ステップS108までと同様であるため説明を省略する。
この後、吐出制御部101は、すべてのヘッド16を処理したか否かを判定する(ステップS214)。すべてのヘッド16を処理していない場合(ステップS214:No)、吐出制御部101は、次のヘッド16に対する処理を開始し(ステップS215)、ステップS202に戻って処理が繰り返される。すべてのヘッド16を処理した場合(ステップS214:Yes)、発光制御部102が、発光素子30の発光を終了して(ステップS216)、液吐出不良検出処理を終了する。
このように、反射板207aの位置の制御を、吐出不良検出後に行うことにより、次のヘッド16に対する吐出不良検出をスムーズに行うことができる。
このように、本実施の形態によれば、光ビームのフレア光に対応するオフセット電圧を計測し、オフセット電圧が規定値となるように、受光素子の前方に配置された反射板の位置を移動するように制御できる。これにより、ミストや紙粉による汚れ、およびレーザの劣化などの経時的な変化、または、印字中の振動などの突発的な変化のいずれに対しても、これらの変化の影響を回避し、吐出不良を正常に検知することができる。