JP5360174B2 - 溶銑の脱りん方法 - Google Patents

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Description

本発明は、上底吹き転炉で蛍石を用いずに少ないCaO原単位で低りん銑を溶製する方法に関する。
近年、鋼材に対する要求が高度化し、低りん鋼に対する需要が増加している。現在、溶銑の脱りん処理は、熱力学的に有利な溶銑段階の低温条件において処理する方法によって、広く一般に行われている。溶銑脱りん装置としては上底吹き転炉が適している。それは、脱りんに必要な酸化剤として、固体酸化剤に比べて熱ロスの少ない気体酸素を、上吹きランスから高速で溶銑に吹き付けることが可能なためである。
溶銑脱りんは、溶銑段階の低温条件において行われるため、脱りん剤として使用されるCaOの滓化を促進させることが重要である。CaOの滓化には蛍石(CaF)の使用が効果的であるが、蛍石を使用した場合にはCaOの滓化により発生したスラグがフッ素(F)を含有するため、スラグの再利用先が大幅に制限されるなどの弊害が大きい。そのため、蛍石を用いないCaO滓化促進方法が開発されてきた。
その方法として、例えば、脱りん処理後のスラグの実塩基度(CaO質量濃度/SiO質量濃度)が1.8以上2.6以下となるようにし、精錬剤の少なくとも一部をカルシウムフェライトとする方法が開示されている(特許文献1参照)。
特開2010−1536号公報
特許文献1により開示された方法では、処理後スラグの実塩基度が1.8未満であると脱りん処理に有効なCaOの存在量が少ないので脱りん処理の能力が低く、処理後P濃度が目標値(0.025質量%以下)を達成できない場合が生じる(特許文献1の段落0019〜0020参照)。
しかしながら、処理後スラグの塩基度を1.8以上に高めようとすると、CaO原単位が増加し、しかもその増加分をカルシウムフェライトで補う場合は、処理コストが顕著に増加してしまう。それは、生石灰に比べてカルシウムフェライトの単価が非常に高いからである。
そこで、特許文献1により開示された方法では、装入塩基度が1.5程度の場合は粒径が5mm以下の生石灰を添加することにより対応し、装入塩基度がそれ以上に高い場合は融点の低いカルシウムフェライトで補うこととしている。その方法において、装入塩基度とは、(使用する生石灰に含まれているCaOの質量)/(使用する溶銑とスクラップに含有されているSi質量×2.14+使用する副原料に含まれるSiOの質量)をいう。
しかしながら、装入塩基度は1.5程度であっても、カルシウムフェライトを吹錬途中で添加するより前のスラグの実塩基度がある程度以上に高くなると、スラグの流動性が低下して添加したカルシウムフェライトとスラグの接触・伝熱が不十分となり、カルシウムフェライトの温度上昇速度が低下するため、カルシウムフェライトの速やかな溶解・脱りん反応への寄与を享受し切れない場合が生じる。
特許文献1の図3では、装入塩基度が1.5程度ならば、添加した生石灰は完全溶融するとしているが、それは吹錬末期でのことであり、吹錬途中のカルシウムフェライトを添加する時点でのことではない。
したがって、上述したように、吹錬途中のカルシウムフェライトを添加する時点でのスラグの実塩基度もしくは流動状態を考慮することで、カルシウムフェライトの脱りん反応への利用効率を高めることができ、これにより、処理後スラグ塩基度が1.8以下であっても処理後[P]質量%を0.020%以下に低減できる可能性がある。
また、粒径が5mm以下の生石灰を上底吹き転炉の上方から単に炉内に投入(上置き添加)する場合、飛散ロス量が増えてしまうという問題もある。
本発明は、以下に列記の内容を実現することを目的とする。
(1)処理後溶銑中[P]濃度を0.020質量%以下とすること。
(2)できるだけ少ないCaO原単位で溶銑脱りんすること(処理後スラグ塩基度を1.8以下とすること)。および
(3)カルシウムフェライト原単位をできるだけ低減すること。
本発明は、下記の通りである。
(1)上底吹き転炉を用いて、生石灰、酸化鉄、およびカルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤を炉内に添加して溶銑脱りんする方法において、
生石灰の添加は、粒径5〜30mmのものを転炉の上方から炉内に投入する方法、および粒径3mm以下のものを上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付ける方法のいずれか一方または両方により、その添加量を、上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点における装入塩基度が0.3以上1.0以下となるように調整して、行い、かつ、
カルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤の添加は、粒径5〜50mmのものを転炉の上方から炉内に投入する方法により、その添加量を、上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点より後であって、その80%が経過するまでの間に、実塩基度が1.5以上1.8以下となるように調整して、行うこと
を特徴とする溶銑の脱りん方法。
ただし、「上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点における装入塩基度」とは、(上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過する時点までに添加した生石灰中のCaO質量)/(使用した溶銑とスクラップ中のSi質量×2.14+上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過する時点までに添加した副原料中のSiO質量)であり、
「実塩基度」とは、(脱燐吹錬終了後のスラグを分析して得るCaO質量濃度)/(同スラグを分析して得るSiO質量濃度)である。
(2)前記カルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤の添加量のうち、その中に含まれるCaO質量の10〜80%の質量を粒径3mm以下の生石灰中CaOの質量に置換して、
上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点より後であって、その80%が経過するまでの間に、上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付けること
を特徴とする上記(1)項に記載の溶銑の脱りん方法。
本発明において「カルシウムフェライト」とは、CaOとFeとの化合物であって、CaOとFeとの割合は質量比で4:6〜3:7のものをいい、この「カルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤」とは、前記カルシウムフェライトを90質量%以上含んでいるプリメルト精錬剤である。不純物として、前記カルシウムフェライト以外の形態で含まれるCaOやAl、MgOなどを含んでいる。
また、「装入塩基度」とは、特記してない限り、(使用する生石灰中のCaO質量)/(使用する溶銑とスクラップ中のSi質量×2.14+使用する副原料中のSiO質量)で計算される値である。したがって、「上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点における装入塩基度」とは、(上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過する時点までに添加した生石灰中のCaO質量)/(使用した溶銑とスクラップ中のSi質量×2.14+上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過する時点までに添加した副原料中のSiO質量)で計算される値を意味する。
この「装入塩基度」の計算対象となる生石灰および副原料には、当該脱燐処理に係る上吹き酸素の供給開始前に炉内へ添加したものと、その上吹き酸素の供給開始後1分間以内に炉内へ添加したものとが基本的に含まれ、ほかに、粒径3mm以下のものを上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付ける方法で添加された生石灰は、上吹き酸素の全吹付け時間中に溶銑に吹き付けたものが含まれている。したがって、「上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点における装入塩基度」の場合には、その吹き付けられた生石灰のうち、上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過する時点までに添加した生石灰が、装入塩基度の計算対象に含まれる。
また、「副原料」には、転炉スラグや取鍋スラグなどのCaOとSiOの両方を含むものもあるが、それらによって供給されるCaO質量は生石灰によって供給される質量に比べて少ないために、本発明における装入塩基度の計算対象から除外して考える。
なお、本発明において、「カルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤の添加量を置換した粒径3mm以下の生石灰中CaOの質量」は、上記の「上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点における装入塩基度」の計算対象とした生石灰中CaOの質量とは、当然に無関係である。
また、「実塩基度」とは、脱燐吹錬終了後のスラグを分析して得る値であって、(そのスラグのCaO質量濃度)/(そのスラグのSiO質量濃度)で計算される値である。
本発明によれば、蛍石を用いずに、カルシウムフェライト添加前のスラグの塩基度を適切に調整することによって、カルシウムフェライトの使用原単位を抑制しつつ、生石灰の原単位も脱燐処理後のスラグ塩基度が1.8以下という少ない量で、脱燐処理後の溶銑中[P]濃度を0.020質量%以下にすることができる。
さらに、カルシウムフェライト中のCaO質量の10〜80%の質量を粒径3mm以下の生石灰のCaOで置換することにより、脱りん処理コストをさらに低減することができる。
以下、本発明を説明する。
本発明者らは、処理後溶銑中[P]濃度を0.020質量%以下にまで低減するために必要なCaOの原単位を減らすために、脱りん能力の極めて高いカルシウムフェライトの使用法を工夫出来ないかと考えた。
(1)カルシウムフェライトの添加時期
上底吹き転炉へ溶銑([Si]は約0.4質量%、[P]は約0.10質量%)を装入し、ランスから酸素ガスを上吹きし、底吹き羽口からNガスを溶銑へ吹き込んで攪拌する条件下で、他のCaO源は使用せずに、カルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤を添加して溶銑脱りん挙動を検討した。この検討では、装入塩基度の分子には「生石灰中のCaO質量」でなく、それに代えて「カルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤に含まれているCaO質量」を充当し、その計算値を1.8としている。
先ずは、カルシウムフェライトの適正な添加時期について検討した。なお、カルシウムフェライトは極めて強力な冷剤なので、添加後周囲から熱を吸収して速やかに溶解するには、分割もしくは連続添加が望ましい。
そこで、カルシウムフェライト添加開始時期と添加完了時期のセットで検討した。
(i)酸素ガスを上吹きし始める前から全吹錬時間の35%が経過するまでの間に、カルシウムフェライト添加を完了してしまう。
(ii)全吹錬時間の35%が経過した以降にカルシウムフェライトを添加し始め、全吹錬時間の80%が経過するまでに添加を完了する。
(iii)全吹錬時間の75%が経過した以降にカルシウムフェライトを添加し始め、全吹錬時間の100%が経過するまでに添加を完了する。
なお、吹錬時間は10分間程度とし、処理後の温度は約1300℃とした。
その結果、上記(ii)項の場合に処理後[P]質量%が最も低くなった。
これに対し、上記(i)項の場合は、カルシウムフェライトは溶銑中の[Si]と反応してしまい、カルシウムフェライトによる脱りん効率が低下してしまった。また、上記(iii)項の場合には、カルシウムフェライトが十分に溶解して脱りん反応に寄与する前に吹錬が終了したために、カルシウムフェライトによる脱りん効率が低下してしまった。
以上のように、カルシウムフェライトは上記(ii)項の時期に添加することが有効であるが、脱りん剤の全量を高価なカルシウムフェライトとすると処理コストが嵩む。
そこで、カルシウムフェライト添加時期を上記(ii)項の時期として、吹錬開始前もしくは直後(吹錬開始後1分間以内)に生石灰と酸化鉄を添加することとした。
(2)カルシウムフェライト添加前に必要な生石灰添加量
次に、カルシウムフェライト添加時期を、吹錬開始後35%時点で添加開始し、80%時点で添加終了することに統一して、その添加に先立って添加する生石灰の必要量を検討した。
なお、処理後スラグの塩基度を変化させないために、生石灰として添加したCaO分だけカルシウムフェライトで添加するCaO分を減らした。この検討では、装入塩基度の分子に「生石灰中のCaO質量」だけでなく、それに「カルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤に含まれているCaO質量」を加えて、その計算値を1.8に統一している。この方法でカルシウムフェライト添加量を削減できれば、コスト削減を図ることができる。ただし、処理後の[P]質量%が目標値0.020質量%以下でなければならい。
ここで、添加する生石灰は、上吹き酸素と溶銑中[Si]が反応して生成したSiOや上吹き酸素によって生成するFeO等と反応して、ある程度流動性の高いスラグを形成しなければならないものである。スラグの流動性が低いと溶銑中[P]とスラグとの反応速度が低くなってしまうからである。
そこで、本発明者らは、通常用いている粒径5〜30mmの生石灰の添加量と、処理後スラグ中[P]質量%との関係を検討した。その結果、生石灰添加量が、本発明に係る「生石灰による装入塩基度」が0.3以上1.0以下となる場合に、処理後[P]質量%が目標値0.020質量%以下となることがわかった。
言うまでも無いが、上記「生石灰による装入塩基度」では、カルシウムフェライト中のCaO量はその添加時期の影響で計算対象外となっている。
生石灰による装入塩基度が0.3未満であると、カルシウムフェライト添加前に生成するスラグの量が少なく、またスラグの実塩基度が低すぎて粘性が高いので流動性が低くなり、添加したカルシウムフェライトとスラグの接触・伝熱が不十分となる。そのため、カルシウムフェライトの温度上昇速度が低下して、カルシウムフェライト溶解およびそれによる脱りん反応の速度が低下して、処理後[P]質量%が目標値0.020質量%よりも高くなってしまったと考えられる。
一方、生石灰による装入塩基度が1.0を超えると、カルシウムフェライト添加前に生成するスラグの流動性が低くなり、添加したカルシウムフェライトとスラグの接触・伝熱が不十分となる。そのため、カルシウムフェライトの温度上昇速度が低下して、カルシウムフェライト溶解およびそれによる脱りん反応の速度が低下して、処理後[P]質量%が目標値0.020質量%よりも高くなってしまったと考えられる。
なお、最初に添加したカルシウムフェライトが上記条件によって溶融すれば、酸化鉄濃度が高く流動性の高いスラグが形成されるため、その後に添加するカルシウムフェライトは容易に溶解できると考える。
(3)最終的な生石灰とカルシウムフェライトの必要量
最後に、カルシウムフェライトの添加時期とカルシウムフェライト添加前に必要な生石灰添加量とを適切にした上で、処理後スラグの実塩基度1.37〜1.76において、処理後スラグ実塩基度と処理後[P]質量%の関係を検討した。その結果、後記する表1に示すように、処理後スラグ実塩基度が1.5未満では、処理後[P]質量%が目標値0.020質量%より高くなってしまうことが分かった。
処理後スラグ実塩基度が高いほど脱りん率が向上することは明らかであるが、処理後スラグ実塩基度を高めるためにはCaO添加原単位を増やさねばならず、処理コストが増加してしまう。
したがって、上記した諸対策を採ることで、処理後スラグ実塩基度を1.8以下としても脱りん率を向上できることが分かったが、処理後スラグ実塩基度1.5未満では処理後[P]を目標値0.020質量%以下にまで低減することは困難であることが分かった。
(4)カルシウムフェライト添加量の削減
さらなるコスト削減策として、カルシウムフェライト中のCaOの一部を、粒径3mm以下の生石灰として上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付ける方法を検討した。
その結果、カルシウムフェライト中のCaO分の80質量%以下を粒径3mm以下の生石灰中のCaO質量として上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付けることにより、処理後[P]質量%を目標値0.020質量%以下に低減できることがわかった。
酸素とともに溶銑へ吹き付けた生石灰は火点でCaO−FeO系溶融スラグを形成して脱りんに寄与するため、ある程度はカルシウムフェライト中のCaOを代替できるが、火点で生成したCaO−FeO系溶融スラグは高温であるため、カルシウムフェライトが溶融して生成した比較的低温のCaO−FeO系溶融スラグよりは脱りん能が劣るのである。それは、脱りん反応が発熱反応なため、低温ほど脱りん率が向上することによる。
なお、粒径が3mm以下の生石灰を上吹きランスから酸素ガスとともに溶銑へ吹き付ける場合、カルシウムフェライト添加開始に好適な全吹錬時間の35%経過時の生石灰による装入塩基度が0.3以上1.0以下となる条件となるようにしなければならない。
また、カルシウムフェライト中のCaO分の80質量%までは粒径3mm以下の生石灰中のCaO質量に置換できるので、この生石灰への置換比率を高くする方が脱燐剤コストは低下する。ただし、カルシウムフェライトを使用する方が生石灰粉を上吹きランスから吹き付ける方法より一般的に操業自由度が高いと考えられるので、この生石灰への置換比率は10〜80%が一般に適当と言え、脱燐剤コストを重視する場合には50〜80%が好ましいと言える。
なお、カルシウムフェライト添加開始に好適な吹錬の35%時の装入塩基度を0.3以上1.0以下とできるのであれば、前記した吹錬前に添加する粒径5〜30mmの生石灰をランスから上吹きする粒径3mm以下の生石灰で代替しても構わない。
ここで用いる生石灰にはCaOが一般に92〜98質量%含まれており、他の成分は、COの他、微量の不純物としてAl、MgO等が含まれている。しかしながら、本発明の実施においては、操業管理上は生石灰を「CaOを95質量%含むもの」として扱えば十分である。
溶銑(組成(いずれも質量%):[C]約4.5%、[Si]約0.42%、[P]約0.10%)230トンを転炉へ装入した。上吹きランスから酸素ガスを溶銑へ吹き付け、送酸速度は20000Nm/h〜30000Nm/hで変化させた。底吹きは、4本羽口からNガスを5400Nm/hで供給することにより行った。
酸化鉄および粒径5〜30mmの生石灰(CaOは95質量%)は、上吹き酸素の供給直前またはその供給開始後1分間以内に炉上から溶銑へ上置き添加し、カルシウムフェライト(組成:CaOは35質量%、Feは65質量%)を90質量%以上含む精錬剤は、粒径5〜50mmのものを、基本的には上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点より後であって、その80%が経過するまでの間に、炉上から溶銑へ上置き添加した。ただし、一部の比較例では、20〜40%や50〜90%の期間に添加した。粒径3mm以下の生石灰(CaOは95質量%)は、上吹きランスから酸素ガスとともに溶銑へ吹き付けて添加した。
本発明例1〜14および比較例1〜8それぞれの条件および結果を表1にまとめて示す。
Figure 0005360174
処理後の[C]は約3.7質量%とし、処理後の温度は約1300℃とし、処理後のスラグ実塩基度は本発明例4と比較例3とを除き、約1.7とした。吹錬時間は8〜10分間であった。
処理後[P]質量%が0.020質量%以下を目標とし、目標を満足した場合に評価を○とした。
(I)表1の本発明例1〜3および比較例1〜2について
カルシウムフェライト添加開始に好適な吹錬時間の35%時の装入塩基度の適正な範囲を検討した。
吹錬開始前に粒径5〜30mmの生石灰を添加して、吹錬時間の35%時点での装入塩基度を変化させて、その後にカルシウムフェライトを添加し、処理後[P]質量%を調査した。
生石灰添加量が、生石灰による装入塩基度が0.3以上1.0以下となる場合に、処理後[P]質量%が目標値0.020質量%以下となることがわかった。
生石灰による装入塩基度が0.3未満であると、カルシウムフェライト添加前に生成するスラグの量が少なく、またスラグの実塩基度が低過ぎて粘性が高いので流動性が低くなり、添加したカルシウムフェライトとスラグの接触・伝熱が不十分となる。そのため、カルシウムフェライトの温度上昇速度が低下して、カルシウムフェライト溶解およびそれによる脱りん反応の速度が低下して、処理後[P]質量%が目標値0.020質量%よりも高くなってしまった。
一方、生石灰による装入塩基度が1.0を超えると、カルシウムフェライト添加前に生成するスラグの流動性が低くなり、添加したカルシウムフェライトとスラグの接触・伝熱が不十分となる。そのため、カルシウムフェライトの温度上昇速度が低下して、カルシウムフェライト溶解およびそれによる脱りん反応の速度が低下して、処理後[P]質量%が目標値0.020質量%よりも高くなってしまった。
なお、最初に添加したカルシウムフェライトが上記条件によって溶融すれば、酸化鉄濃度が高く流動性の高いスラグが形成されるため、その後に添加するカルシウムフェライトは容易に溶解できるのである。
(II)表1の本発明例2,4および比較例3について
処理後スラグの実塩基度1.37〜1.75において、処理後スラグ実塩基度と処理後[P]質量%の関係を検討した。
吹錬開始前に粒径5〜30mmの生石灰を添加して、吹錬時間の35%時点での装入塩基度を約0.5として、吹錬時間の35%〜65%の間にカルシウムフェライトを添加して、処理後[P]質量%を調査した。
その結果、処理後スラグ実塩基度が1.5未満では、処理後[P]質量%が目標値0.020質量%より高くなってしまった。
処理後スラグ実塩基度が高いほど脱りん率が向上することは明らかであるが、処理後スラグ実塩基度を高めるためにはCaO原単位を増やさねばならず、処理コストが増加してしまう。
本発明により、処理後スラグ実塩基度を1.8以下としても脱りん率を向上できることが分かったが、処理後スラグ実塩基度1.5未満では処理後[P]を目標値0.020%以下にまで低減することは困難だった。
(III)表1の本発明例5〜8および比較例4〜5について
カルシウムフェライト添加に適正な時期を検討した。
吹錬開始前に粒径5〜30mmの生石灰を添加して、吹錬時間の35%時点での装入塩基度を約0.5として、その後にカルシウムフェライト添加時期を変更して、処理後[P]質量%を調査した。
吹錬時間の35%から80%までの間にカルシウムフェライトを添加すると、処理後[P]が目標値0.020質量%以下となった。
吹錬時間の35%未満でカルシウムフェライトを添加し始めると、カルシウムフェライトは溶銑中の[Si]と反応してしまい、カルシウムフェライトによる脱りん効率が低下してしまったのである。
吹錬時間の80%以内にカルシウムフェライト添加が終了しないと、カルシウムフェライトが十分に溶解して脱りん反応に寄与する前に吹錬が終了したために、カルシウムフェライトによる脱りん効率が低下してしまったのである。
(IV)表1の本発明例9〜12および比較例6について
カルシウムフェライト中のCaOの一部を、粒径3mm以下の生石灰として上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付ける方法によって、カルシウムフェライト中のCaO分をどの程度まで粒径3mm以下の生石灰中のCaOで代替できるかを検討した。
なお、粒径が3mm以下の生石灰は吹錬時間の35%以降に、上吹きランスから酸素ガスと共に溶銑へ吹き付けて添加した。
吹錬開始前に粒径5〜30mmの生石灰を添加して、吹錬時間の35%時点での装入塩基度を約0.5として、吹錬時間の35〜65%の間にカルシウムフェライトを添加し、カルシウムフェライト中のCaOの一部を、粒径3mm以下の生石灰として上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付けて、処理後[P]質量%を調査した。
その結果、カルシウムフェライト中のCaO分の80質量%以下を粒径3mm以下の生石灰粉体として上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付けることにより、処理後[P]質量%を目標値0.020質量%以下に低減できることがわかった。
酸素とともに溶銑へ吹き付けた生石灰は火点でCaO−FeO系溶融スラグを形成して脱りんに寄与するため、ある程度はカルシウムフェライト中のCaOを代替できるが、火点で生成したCaO−FeO系溶融スラグは高温であるため、カルシウムフェライトが溶融して生成した比較的低温のCaO−FeO系溶融スラグよりは脱りん能が劣るのである。それは、脱りん反応が発熱反応なため、低温ほど脱りん率が向上することによる。
そのため、カルシウムフェライト中のCaO分の80質量%超を粒径3mm以下の生石灰粉体として上吹きランスから酸素と共に溶銑へ吹き付た場合には、処理後[P]質量%が目標値0.020質量%より高くなってしまった。
(V)表1の本発明例13〜14および比較例7〜8について
粒径が3mm以下の生石灰を上吹きランスから酸素ガスとともに溶銑へ吹き付ける場合についても、カルシウムフェライト添加開始に好適な吹錬の35%時の生石灰による装入塩基度が0.3以上1.0以下となる条件となるようにしなければならないかどうかを検討した。
ここで、前記「カルシウムフェライト添加開始に好適な吹錬の35%時の生石灰による装入塩基度」とは、(カルシウムフェライト添加開始に好適な吹錬の35%時までに添加した、粒径5〜30mmの生石灰および粒径3mm以下の生石灰中のCaOの質量)/(使用した溶銑とスクラップに含有されているSi質量×2.14+吹錬の35%時までに添加した副原料に含まれるSiOの質量)をいう。
その結果、カルシウムフェライト添加開始に好適な吹錬の35%時の生石灰による装入塩基度が0.3以上1.0以下となる条件となるようにしなければ、処理後[P]を目標値0.020質量%以下にできないことがわかった。その理由は前述した通りである。
なお、カルシウムフェライト添加開始に好適な吹錬の35%時の装入塩基度を0.3以上1.0以下とできるのであれば、前記した吹錬前に添加する粒径5〜30mmの生石灰をランスから上吹きする粒径3mm以下の生石灰で代替しても構わないこともわかった。

Claims (2)

  1. 上底吹き転炉を用いて、生石灰、酸化鉄、およびカルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤を炉内に添加して溶銑脱りんする方法において、
    生石灰の添加は、粒径5〜30mmのものを転炉の上方から炉内に投入する方法、および粒径3mm以下のものを上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付ける方法のいずれか一方または両方により、その添加量を、上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点における装入塩基度が0.3以上1.0以下となるように調整して、行い、かつ、
    カルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤の添加は、粒径5〜50mmのものを転炉の上方から炉内に投入する方法により、その添加量を、上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点より後であって、その80%が経過するまでの間に、実塩基度が1.5以上1.8以下となるように調整して、行うこと
    を特徴とする溶銑の脱りん方法。
    ただし、「上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点における装入塩基度」とは、(上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過する時点までに添加した生石灰中のCaO質量)/(使用した溶銑とスクラップ中のSi質量×2.14+上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過する時点までに添加した副原料中のSiO質量)であり、
    「実塩基度」とは、(脱燐吹錬終了後のスラグを分析して得るCaO質量濃度)/(同スラグを分析して得るSiO質量濃度)である。
  2. 前記カルシウムフェライトを90質量%以上含む精錬剤の添加量のうち、その中に含まれるCaO質量の10〜80%の質量を粒径3mm以下の生石灰中CaOの質量に置換して、
    上吹き酸素の全吹付け時間の35%が経過した時点より後であって、その80%が経過するまでの間に、上吹きランスから酸素とともに溶銑へ吹き付けること
    を特徴とする請求項1に記載の溶銑の脱りん方法。
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