(多孔フィルム)
図1(A)に示すように、本発明により得られる多孔フィルム10は、表面に孔11を有する。孔11は、ハチの巣状、いわゆるハニカム構造となるように多孔フィルム10に密に配列する。そして、図1(B)及び(C)に示すように、孔11は、多孔フィルム10の両表面を突き抜けるように形成される。なお、図1(D)のように、孔11の代わりに、窪み13が片方の表面側に形成される多孔フィルム14や、隣り合う孔11が連通しないような多孔フィルムも本発明の多孔フィルムに含まれる。
そして、この孔11の寸法や形成密度は、後述する製造条件によって異なる。本発明により製造される多孔フィルム10の形態は特に限定されるものではないが、本発明は、例えば、図1に示すように、多孔フィルム10の厚みTH1が0.05μm以上、孔11の径D1が0.05μm以上、孔11の形成ピッチP1が0.1μm以上120μm以下であるような多孔フィルム10を製造する場合に特に効果がある。
なお、本明細書において、ハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定サイズの孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や六方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。なお、同一平面上において、1つの孔の周囲に形成される孔の数は、6個に限らず、3〜5個或いは7個以上でも良い。
(多孔フィルムの製造方法)
図2に示すように、多孔フィルム製造工程20によれば、溶液21から、膜22を経て、多孔フィルム10を製造することができる。多孔フィルム製造工程20は、ポリマーと溶剤とを含む溶液21の液面に水滴を形成し、成長させる水滴形成成長工程25と、成長した水滴を表面に有し、溶液21からなる膜22を形成する膜形成工程26と、膜22から溶剤を蒸発させる溶剤蒸発工程27と、水滴を蒸発させる水滴蒸発工程28とを有する。
(多孔フィルムの製造設備)
図3に示すように、多孔フィルム製造設備30は、各工程25〜28(図2参照)を行う、第1ゾーン35〜第4ゾーン38に区画されている。多孔フィルム製造設備30には、ローラ40a〜40eが設けられる。ローラ40a〜40eには、ポリマーフィルム45が掛け渡される。ローラ40a、40bは第1ゾーン35に設けられ、ローラ40c、40dは第2ゾーン36に、ローラ40eは第4ゾーン38に、それぞれ設けられる。図示しない駆動部の制御の下、ローラ40eが回転すると、ポリマーフィルム45は、第1ゾーン35〜第4ゾーン38を順次通過するように走行する。なお、ローラ40eの代わりに、ローラ40a〜40dのうち少なくともいずれか一つを駆動回転してもよい。
第1ゾーン35から第2ゾーン36にかけて液槽50が配される。液槽50には、ポリマーと溶剤とを含む溶液21が貯留する。ローラ40a〜40dは、ポリマーフィルム45の走行方向に順次設けられ、ローラ40a、40dは液槽50の外に、ローラ40b、40cは、液槽50内の溶液21に浸漬するように配される。また、温調機51を多孔フィルム製造設備30に設けることが好ましい。温調機51は、液槽50に貯留する溶液21の温度を所定の範囲で略一定に維持する。
更に、第1ゾーン35には湿潤空気供給機60が設けられる。湿潤空気供給機60は、湿潤空気400を送り出す送風口61と、湿潤空気400を吸引する吸引口62と、図示しない送風コントローラとを有する。送風口61及び吸引口62は、第1ゾーン35における液槽50内の溶液21の液面64と対向するように、湿潤空気供給機60に設けられる。送風コントローラは、送風口61から送り出される湿潤空気400の温度TA1、露点TD1、溶剤の凝縮点TR1などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。
溶剤の凝縮点とは、溶剤を含む気体を冷却していったときに、気体に含まれる溶剤の凝縮が開始する温度をいう。
第2ゾーン36には、湿潤空気供給機65が設けられる。湿潤空気供給機65は、低露点湿潤空気401を送り出す送風口66と、低露点湿潤空気401を吸引する吸引口67と、図示しない送風コントローラとを有する。低露点湿潤空気401の露点TD2は、湿潤空気400の露点TD1よりも低い。送風口66及び吸引口67は、第2ゾーン36における液槽50内の溶液21の液面64と対向するように、湿潤空気供給機65に設けられる。送風コントローラは、送風口66から送り出される低露点湿潤空気401の温度TA2、露点TD2、溶剤の凝縮点TR2などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。なお、湿潤空気供給機65は省略してもよい。
また、第2ゾーン36には、ブレード68が設けられる。ブレード68は、液面64から引き出されたポリマーフィルム45の表面に当接する先端68a(図4参照)を有する。先端68aは、ポリマーフィルム45の表面に形成される溶液21の液膜のうち、膜22として用いない液膜を取り除くように設けられる。
第3ゾーン37及び第4ゾーン38には、乾燥空気供給機70が設けられる。乾燥空気供給機70は、乾燥空気402を送り出す送風口71と、乾燥空気402を吸引する吸引口72と、図示しない送風コントローラとを有する。送風口71及び吸引口72は、ポリマーフィルム45上に形成した膜22の表面と対向するように、乾燥空気供給機70に設けられる。送風コントローラは、送風口71から送り出される乾燥空気402の温度、露点、溶剤の凝縮点などが所望の範囲内で略一定となるように調節する。こうして、第3ゾーン37及び第4ゾーン38における乾燥空気402の各条件を、それぞれ独立して調節することができる。
なお、第4ゾーン38の下流側にカット部75を設けても良い。カット部75は、多孔フィルム10を所定のサイズに切断し、切断フィルムとする。その後、切断フィルムに、各種加工を施したものを最終製品としてもよい。
次に、多孔フィルム製造設備30における多孔フィルム製造工程10(図2参照)の詳細について説明する。
図3に示すように、液槽50には溶液21が貯留する。図示しない駆動部の制御の下、ローラ40eが回転駆動すると、ポリマーフィルム45は、ローラ40a〜40eに従い、第1ゾーン35〜第4ゾーン38を順次通過するように走行する。
(水滴形成成長工程)
図3及び図4に示すように、第1ゾーン35では、ローラ40aの案内により走行するポリマーフィルム45が、ローラ40bの案内により、液槽50に貯留する溶液21に浸漬する。温調機51は、第1ゾーン35における溶液21の液面64、少なくとも液面64の範囲A1、A2の温度TSが所定の範囲内で略一定となるように、液槽50に貯留する溶液21の温度を調節する。ここで、範囲A1とは液面64のうち湿潤空気400と接触する範囲であり、範囲A2とは液面64のうち低露点湿潤空気401と接触する範囲である。湿潤空気供給機60は、送風コントローラによって所定の条件に調節された湿潤空気400を、送風口61から溶液21の液面64にあてて、吸引口62により湿潤空気400を吸引する。こうして、図5に示すように、範囲A1の液面64には、湿潤空気400との接触により液面64に結露が生じ、液面64上に形成した水滴406は、所望の寸法になるまで成長する。液面64上の水滴406は、水滴406間にはたらく横毛細管力、液槽50における溶液21の流れ、及び後述する移流集積の効果等により、第2ゾーン36に向かって移動する。
なお、範囲A1の設定位置は、第1ゾーン35の液面64であることが好ましい。また、範囲A2の設定位置は、第2ゾーン36の液面64のうち、ポリマーフィルム45が引き出される部分よりも第1ゾーン35側であることが好ましい。加えて、範囲A2の設定位置を、範囲A2ポリマーフィルム45が引き出される部分の近傍にすることがより好ましい。
(膜形成工程)
図3に示すように、第2ゾーン36では、ローラ40c及び40dの案内により、溶液21に浸漬したポリマーフィルム45が液面64を介して溶液21から引き出される。図4及び図6に示すように、液面64の範囲A2では、所望の寸法まで成長した水滴406が、水滴406間にはたらく横毛細管力、液槽50における溶液21の流れ、及び後述する移流集積の効果等により、液面64から引き出されるポリマーフィルム45に集まるように移動する。また、範囲A2では、低露点湿潤空気401との接触により水滴の406の蒸発及び水滴406の成長が抑えられるため、範囲A2における水滴406の寸法は略一定値で維持される。したがって、溶液21から引き出されたポリマーフィルム45の表面45a、45bには溶液21からなる膜22が形成するとともに、所望の寸法の水滴406が膜22の表面22a上に並ぶように集められる。このとき、当該液面64とポリマーフィルム45の表面45aとが交差するようにして、ポリマーフィルム45を溶液21から引き出すことが好ましい。図4及び図6に示すように、ブレード68は、溶液21から引き出されたポリマーフィルム45の表面45bに形成した溶液21からなる膜を、その先端68aにより取り除く。水滴406を表面22aに有する膜22は、ポリマーフィルム45の走行により、第3ゾーン37、第4ゾーン38に順次送られる。なお、溶液21からポリマーフィルム45を引き出し、表面45a、45bに膜22を形成した後に、水滴406を膜22の表面22a上に集めてもよい。
(溶剤蒸発工程)
図3及び図7に示すように、第3ゾーン37では、乾燥空気供給機70が、膜22の表面22aに乾燥空気402をあてる。これにより、膜22に含まれる溶剤408が蒸発し、表面22a上の水滴406は膜22中に潜る。なお、溶剤蒸発工程27(図2参照)における溶剤408の蒸発は、膜22において溶液21の流動性が失われる程度まで行うことが好ましい。
なお、上記実施形態では、水滴406が膜22中に潜るタイミングが溶剤蒸発工程27であったが、本発明はこれに限られず、水滴406が膜22中に潜るタイミングは、膜形成工程26でもよい。また、水滴形成成長工程25において、水滴406が溶液21に潜ってもよい。
(水滴蒸発工程)
図3及び図8に示すように、第4ゾーン38では、乾燥空気供給機70が、膜22の表面22aに乾燥空気402をあてる。これにより、膜22から水滴406が蒸発し、水滴406の跡が孔11となる多孔フィルム10(図1参照)を得ることができる。最後に、図3に示すように、カット部75は、多孔フィルム10を所定のサイズに切断し、切断フィルムとする。
本発明では、図2及び図6に示すように、膜形成工程26にて、膜22をポリマーフィルム45の表面45a上に形成しながら、目標とする孔の寸法(以下、目標寸法と称する)となるまで予め成長させた水滴406を膜22の表面22a上に集めるため、膜22における水滴406の配列条件を適宜調節することにより、所望の寸法の水滴406を所望の形成密度で膜22の表面22a上に並べることができる。したがって、本発明によれば、孔11(図1参照)の寸法や形成密度が所望の範囲の多孔フィルム10を容易に製造することが出来る。なお、水滴406の配列条件の詳細は後述する。
また、本発明では、図2及び図5に示すように、ポリマーフィルム45のような支持体に比べて、十分に広い領域の液面64にて水滴形成成長工程25を行うため、水滴形成成長工程25において、液面64上で水滴406の核形成が過剰に起こったとしても、膜形成工程26における水滴406の配列条件の調節により、膜22上における水滴406の過剰形成を確実に回避することができる。したがって、本発明によれば、塗布膜上で水滴形成成長工程25を行う方法で問題となっていた、水滴406の過剰形成に起因する多孔フィルムのシワの発生、又は孔の形状や寸法にバラツキの発生を確実に抑えることが出来る。
また、水滴406の目標寸法がCCDなどの画像センサや目視で観察できる程度の大きさの場合には、図9に示すように、第2ゾーン36に画像センサ90を設け、画像センサ90と接続する制御部91を設けてもよい。制御部91は、画像センサ90が検出した画像データから、表面22aにおける水滴406の形成密度を算出し、算出結果に基づいてローラ40eの駆動、後述するローラ40c、40dの移動、温調機51、湿潤空気供給機60、65に設けられた各送風コントローラ、及び後述する送液装置などを制御する。このようにして、膜形成工程26にて、膜22の表面22aにおける水滴406を観察し、水滴406の形成密度を算出しながら、表面22aにおける水滴406の配列条件を調節することも可能となる。したがって、本発明によれば、孔11(図1参照)の寸法や形成密度が所望の範囲の多孔フィルム10を容易に製造することが出来る。
図2及び図3に示すように、水滴形成成長工程25において、溶液21から溶剤408が蒸発すると、溶剤408の蒸発潜熱に起因して液面64の温度TSが低下する。したがって、この水滴形成成長工程25を塗布膜上で行うと、塗布膜の露出面の温度TSが低下する結果、露出面近傍の空気の露点TDから露出面の温度TSをひいた値であるパラメータΔTが大きくなってしまい、水滴406の核形成や核成長の調節を精度良く行うことができない。本発明では、水滴形成成長工程25を、塗布膜に比べて十分な量の溶液21の液面64上で行うため、溶剤の蒸発潜熱に起因する温度TSの低下の影響を抑えることも可能である。
従来の方法では、孔の寸法及び形成密度を調節するために、塗布膜の露出面全体において、水滴の核形成、核成長の進行の度合いが均一となるように各パラメータを調節しながら、水滴形成成長工程25を行う必要があったが、本発明によれば、予め目標寸法となるまで成長した水滴を膜22に集めるため、目標とする多孔フィルムの寸法と独立して、孔の寸法及び形成密度を調節することが可能である。したがって、多孔フィルムの目標寸法が変更となっても、水滴形成成長工程25における各条件を変更せずに、目標とする多孔フィルムの寸法に応じた支持体に変更するのみで、孔の寸法及び形成密度が同一の多孔フィルムを容易に製造することが出来る。更に、目標とする多孔フィルムの寸法、すなわち水滴形成成長工程における露出面の面積が広大になると、従来の方法では、各パラメータを高精度で調節しながら水滴形成成長工程25を行う必要があったが、本発明によれば、水滴形成成長工程25にて各パラメータの調節を高精度で行わずに済む。したがって、本発明によれば、寸法の大きな多孔フィルムを容易に製造することが出来る。本発明により、従来の製法で製造が困難であった大判の多孔フィルム(一辺が0.5m以上)を製造することができる。また、本発明による製造可能な多孔フィルムの寸法の上限は、支持体の寸法によって決まるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、10m以下であることが好ましく、5m以下であることがより好ましい。
以下、各工程における好ましい実施態様及び条件などについて説明する。
水滴形成成長工程25では、図2及び図5に示すように、液面64上にて水滴406の核形成及び核成長を行う。液面64上に形成する水滴406の寸法は、湿潤空気400の露点TD1と液面64の温度TSとの差ΔT(=TD1−TS)により調節することができる。ΔTは0℃以上30℃以下であることが好ましく、1℃以上10℃以下であることがより好ましい。また、溶剤の蒸発は、蒸発潜熱により温度TSが低下する結果、ΔTが変動してしまうため、水滴形成成長工程25では、溶剤をできるだけ蒸発させないことが好ましい。このため、溶剤の凝縮点TR1と液面64の温度TSとの差ΔP(=TR1−TS)は、0℃以上であることが好ましい。一方、ΔPが小さくなるにつれて、溶液表面における溶剤の凝縮が起こりやすくなる結果、多孔フィルムの表面の状態が悪くなる。したがって、ΔPはできるだけ大きいほうがよい。液面64の温度TSは−10℃以上25℃以下であることが好ましい。湿潤空気400の露点TD1は10℃以上30℃以下であることが好ましい。湿潤空気400の温度TA1は10℃以上30℃以下であることが好ましい。なお、ポリマーフィルム45が浸漬するときの溶液21の液面64には、水滴406が形成されていても良いし、水滴406が形成されていなくても良い。
膜形成工程26では、図2及び図6に示すように、水滴406の蒸発を抑えつつ、水滴406の核形成及び核成長を抑えるため、ΔTは0℃以上20℃以下であることが好ましく、0℃以上10℃以下であることがより好ましい。ここで、膜形成工程26におけるパラメータΔTは、液面64の温度TSと低露点湿潤空気401の露点TA2との差(=TA2−TS)、及び膜22の表面22aの温度TMと低露点湿潤空気401の露点TA2との差(=TA2−TM)の両者を表す。また、溶剤の蒸発潜熱により温度TSが低下する結果、ΔTが変動してしまうため、膜形成工程26では、溶剤をできるだけ蒸発させないことが好ましい。したがって、ΔP(=TR1−TS)は0℃以上であることが好ましい。一方、ΔPが小さくなるにつれて、溶液表面における溶剤の凝縮が起こりやすくなる結果、多孔フィルムの表面の状態が悪くなる。したがって、ΔPはできるだけ大きいほうがよい。膜形成工程26におけるパラメータΔPは、液面64の温度TSと低露点湿潤空気401の凝縮点TR2との差(=TR2−TS)、及び、膜22の表面22aの温度TMと低露点湿潤空気401の凝縮点TR2との差(=TR2−TM)の両者を表す。表面22aの温度は−5℃以上20℃以下であることが好ましい。表面22aの近傍の雰囲気露点は−20℃以上20℃以下であることが好ましい。表面22aの近傍の雰囲気温度は0℃以上15℃以下であることが好ましい。
膜22における水滴406の配列条件は、パラメータΔT、ΔPの他、引き出し速度V1、引き出し角度θ1や液槽50における溶液21の流れの速さ等によって適宜調節することが可能である。図10に示すように、引き出し速度V1は、溶液21からポリマーフィルム45を長手方向LDへ時間t1の間引き上げ続けたときに、時間t1の間に溶液21から露呈したポリマーフィルム45の長手方向LDの長さをL1とすると、L1/t1で表される。ここで、長手方向LDはポリマーフィルム45の長手方向を表す。また、引き出し角度θ1は、液面64と当該液面64を通過するポリマーフィルム45の表面45aとがなす角の角度であり、制御部91(図9参照)の制御の下、ローラ40c、40dを、水平方向、鉛直方向、又は鉛直方向に交差する方向に移動することが好ましい。また、ポリマーフィルム45を案内するローラを、ローラ40cとローラ40dとの間に、水平方向、鉛直方向、又は鉛直方向に交差する方向に移動自在に設け、制御部91(図9参照)の制御の下、このローラを移動させてもよい。
膜形成工程26における引き出し速度V1が大きくなるほど、膜22における水滴406の形成密度は小さくなり、引き出し速度V1が小さくなるほど、膜22における水滴406の形成密度は大きくなる。引き出し速度V1は、1μm/秒以上1m/秒以下であることが好ましく、100μm/秒以上1cm/秒以下であることがより好ましい。1μm/秒未満では、水滴406の充填が過密となるため好ましくなく、1m/秒を超えると、水滴406の充填が疎となるため好ましくない。
また、膜形成工程26における引き出し角度θ1が大きくなるほど、水滴406の充填が疎となりやすくなり、引き出し角度θ1が小さくなるほど、水滴406の充填が蜜となる。引き出し角度θ1は、0°より大きく180°未満であればよく、120°以上160°以下であることがより好ましい。加えて、ポリマーフィルム45及び溶液21における界面エネルギーや、溶液21及び水滴406における界面エネルギー等を考慮して、上記配列条件を調節することが好ましい。
ポリマーフィルム45の形成材料としては、使用する溶剤に対する十分な化学的安定性や、多孔フィルム製造工程20における耐熱性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等の不織布のプラスチックフィルムが挙げられる。
なお、膜22を形成する表面45aは、溶液21が濡れやすいように加工されていることが好ましい。溶液21の濡れ性の指標としては、例えば、接触角θsや液膜厚などを用いることができる。接触角θsは、溶液21からなる液滴を表面45aに形成し、この液滴の形状から算出することができる。液膜厚とは、水平となるように設けられた表面45aに一定量(3mL以上10mL以下)の溶液21をたらしたときに、表面45a上に形成される液膜の厚さである。そして、表面45aの接触角θsは、0°以上90°以下であることが好ましく、0°以上50°以下であることがより好ましい。液膜厚は、100μm以上3mm以下であることが好ましく、100μm以上1mm以下であることがより好ましい。なお、表面45aとともに表面45b上に膜22を形成する場合には、表面45a、45bそれぞれにおける接触角θsや液膜厚等を適宜調節すればよい。
また、図3及び図4に示すように、第2ゾーン36において、低露点湿潤空気401の接触により、膜22から溶剤を蒸発させてもよい。後述するように調節された低露点湿潤空気401を膜22の一の領域にあてると、当該一の領域から溶剤が蒸発し、この溶剤の蒸発により液槽50に貯留する溶液21が当該一の領域へ流れ込む移流集積の効果により、溶液21の液面64にある水滴406を、積極的に表面22aに集めることができる。この移流集積の効果が発現できる程度であれば、膜22のいずれの部分に低露点湿潤空気401をあててもよい。更に、溶剤の蒸発に起因する移流集積の効果により、第1ゾーン35にある溶液21が第2ゾーン36に流れやすくなるため、第1ゾーン35の水滴406が第2ゾーン36に流れやすくなる。第2ゾーン36において膜22から溶剤を蒸発させるためには、低露点湿潤空気401のΔP(=TR1−TS)を0℃以上35℃以下の範囲内にすればよい。ただし、溶剤の蒸発潜熱に起因するΔTの変動により、水滴406の核形成、核成長が起こらないように、低露点湿潤空気401の各条件を調節することが好ましい。
移流集積により、水滴406の形成密度εを調節することができる。形成密度εは、単位面積当たりの表面22a上に存在する水滴406の数であり、(式1)(式2)のように表される。
(式1) ε=K/h
(式2) K=β・l・(je/νc)・φ/(φ−1)
ここで、hは、ポリマーフィルム45の引き出し時に形成される膜22の厚さであり、βは、溶液21の液面上の水滴406の流れの速さVLと液槽50における溶液21の流れの速さVWとの比VL/VWであり、Lは、ポリマーフィルム45の幅方向における当該一の領域の長さであり(図4参照)、jeは当該一の領域における溶剤の蒸発速度であり、νcはメニスカスにおける水滴406の移動速度であり、φはメニスカス近傍の溶液21に対する水滴406の体積分率である。ここで、メニスカスとは、溶液21からポリマーフィルム45を引き出す領域、及びその領域の近傍における液面64や膜22の表面22aを指す。なお、νcを引き上げ速度V1としてもよい。また、体積分率φは、水滴406の半径や濃度によって調節することができる。したがって、引き上げ速度V1や水滴406の半径や濃度の調節より、水滴406の形成密度εを調節することができる。
なお、膜22に向けて送った低露点湿潤空気401が、液面64や液面64上の水滴406にあたることを遮る遮風部材を、液面64の一部または全体を覆うように設けることが好ましい。遮風部材は、少なくとも目標寸法になるまで成長した水滴406が存在する液面64を覆うように設けられることが好ましい。また、遮風部材が液面64全体を覆うように設けられる場合には、遮風部材に、液面64が露呈する第1開口部、第2開口部を設けても良い。第1開口部に露呈する液面64に湿潤空気400をあてることにより、水滴形成成長工程25(図2参照)を行うことが可能となり、液面64上に形成した水滴を第2開口部から露呈する液面64に向けて送り、第2開口部からポリマーフィルム45を引き出すことにより、膜形成工程26(図2参照)を行うことが可能となる。第1開口部や第2開口部は、幅方向WDに長く伸びるスリット状に設けられることが好ましい。なお、図11に示すように、遮風部材100に2つの第1及び第2開口部及を設ける代わりに、1つの開口部102を設け、この開口部102に露呈する液面64に湿潤空気400をあてつつ、開口部102からポリマーフィルム45を引き出しても良い。これにより、液槽50に貯留する溶液21の温度の変動を抑えることや液面64における結露を抑えることができる。
膜22の膜厚h(図10参照)は、引き出し速度V1や引き出し角度θ1のほか、ポリマーフィルム45及び溶液21における界面エネルギー等に基づいて適宜調節することが可能である。例えば、形成直後の膜22の膜厚は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
図2及び図7に示すように、溶剤蒸発工程27では、膜22の表面22a上における水滴406の蒸発、核形成及び核成長を抑えるため、ΔTは−1℃以上10℃以下であることが好ましく、0℃以上5℃以下であることがより好ましい。ここで、溶剤蒸発工程27におけるパラメータΔTは、表面22aの温度TMとこの表面22a近傍の空気の露点TA3との差(=TA3−TM)を表す。ΔPは、膜22に残留する溶剤や水滴406を蒸発させる程度の範囲内であればよい。
なお、溶剤蒸発工程27は、水平に位置する膜22に行ってもよいし、図7に示すように、水平方向と交差するように位置する膜22に行ってもよい。また、溶剤蒸発工程27は、搬送される膜22に行っても良いし、静止する膜22に行ってもよい。
図2及び図8に示すように、水滴蒸発工程28では、膜22に残留する溶剤や水滴406を蒸発させるため、ΔT及びΔPは、できるだけ小さくすることが好ましい。
なお、上記実施形態では、湿潤空気供給機60を2つ並べたが、本発明はこれに限られず、湿潤空気供給機60を1つ設けても良いし、3つ以上の湿潤空気供給機60を並べても良い。また、第1ゾーン35を、水滴の核形成ゾーン、核成長ゾーンに分け、それぞれのゾーンに湿潤空気供給機60を設け、それぞれのゾーンごとに湿潤空気400の条件を適宜調節してもよい。同様にして、湿潤空気供給機65、乾燥空気供給機70を各ゾーン36〜38に複数並べても良い。更に、各ゾーン36〜38を複数のゾーンに分け、それぞれのゾーンに乾燥空気供給機70を設け、それぞれのゾーンごとに乾燥空気402の条件を適宜調節してもよい。
上記実施形態では、図10に示すように、ポリマーフィルム45を溶液21から引き出すときに、ポリマーフィルム45の長手方向LDにポリマーフィルム45を引き出したが、本発明はこれに限られず、液面64と表面45aとが交差する状態を維持していれば、長手方向LDと交差角度θ2で交差する方向ADに、ポリマーフィルム45の引き出しても良い。交差角度θ2は0°以上90°以下であることが好ましい。
上記実施形態では、図4に示すように、液面64に湿潤空気400をあてて水滴形成成長工程25(図2参照)をおこなったが、本発明はこれに限られず、図12に示すように、インクジェットユニット110を用いて水滴を液面64に吐出してもよい。インクジェットユニット110から吐出される水滴の寸法は、目標寸法でもよいし、この目標寸法よりも小さなものでもよい。また、吐出された水滴の寸法が目標寸法よりも小さい場合には、インクジェットユニット110によって吐出された水滴に湿潤空気400をあてて、目標寸法となるまで水滴を成長させてもよい。水滴に湿潤空気400をあてる方法としては、液面64に着地する前の水滴と、着地後の水滴とのいずれに湿潤空気400にあてもよい。更に、ポリマーフィルム45が引き出される液面64に向かう横毛細管力が液面64上の水滴406に働くように、インクジェットユニット110を用いて、水滴を液面64上に吐出してもよい。この場合には、形成直後の膜22と、ターゲットとなる水滴406との間の液面64上に水滴を吐出することが好ましい。
インクジェットユニット110は、インクジェットヘッド、ヘッド駆動部、コントローラを備え、一般的なインクジェットプリンタと同様な構造となっている。但し、インクの代わりに、多孔フィルムにおける孔の鋳型となる水滴を形成するため水が用いられる点で、一般的なインクジェットプリンタとは異なっている。インクジェットユニット110における吐出方式は、ライン吐出方式、シリアル吐出方式の何れでもよい。
ライン吐出方式では、ポリマーフィルム45の幅方向WDに多数のインク吐出口が並べて形成されたインクジェットヘッドを用い、ポリマーフィルム45の走行に同期させてインク吐出口から水滴を吐出し、液面64に水滴406を形成する。ライン吐出方式によれば、ポリマーフィルム45の幅方向WDにおいて一括して水滴406を形成すること、及びポリマーフィルム45の連続送りが可能になる。
インクジェットヘッドは、吐出ラインを有する。吐出ラインには、ポリマーフィルム45の幅方向WDにライン状に複数のインク吐出口が設けられる。インクジェットヘッドには、少なくとも1本の吐出ラインが設けられればよく、複数の吐出ラインがポリマーフィルム45の走行方向に並ぶように設けられてもよい。吐出ラインを複数設けた場合には、一の吐出ラインからの水滴の吐出により液面64に水滴406を形成し、他の吐出ラインから当該水滴406が形成する位置に、水滴406を1回或いは複数回吐出することにより、水滴406を成長させることもできる。また、隣接する吐出口から同時に水滴406を吐出することで、液面64上で水滴を結合させ、結果的に水滴406を成長させることもできる。また、各吐出口からの吐出量を変化させることで、吐出口から吐出される水滴406の寸法を変更してもよく、さらには、これらの組み合わせによって、水滴406の寸法を変更してもよい。
一方、シリアル吐出方式では、ライン吐出方式に比べて、インクジェットヘッドが小型で済む利点があるものの、ポリマーフィルム45の幅方向WDにインクジェットヘッドを移動させるキャリッジ及びキャリッジ駆動部、ヘッド駆動部、及びコントローラが必要になる。インクジェットヘッドには、ポリマーフィルム45の走行方向にインク吐出口が形成されている。そして、キャリッジ及びキャリッジ駆動部によって、インクジェットヘッドをポリマーフィルム45の幅方向WDに移動させる。これにより、液面64上に、1回のキャリッジ移動によって吐出口1ライン分の水滴406が形成される。このため、ポリマーフィルム45の搬送はインクジェットヘッドのキャリッジ移動後に行われる間欠送りとなり、吐出中はポリマーフィルム45が停止している。
水滴形成成長工程25(図2参照)では、図13及び図14に示すように、液面64上の水滴406が液面64から引き出されるポリマーフィルム45に向かうように、湿潤空気400を液面64または液面64上の水滴406にあててもよい。この場合には、膜22の表面22a上に並んだ水滴406に湿潤空気400が接触しないよう、湿潤空気供給機60と膜22との間に膜遮風部材を設けても良い。膜遮風部材は、表面22aを囲むように、表面22a近傍に設けられることが好ましい。なお、膜遮風部材とともに遮風部材100(図11参照)を設けても良い。同様にして、液面64上の水滴406が、液面64から引き出されるポリマーフィルム45に向かうように、低露点湿潤空気401を液面64または液面64上の水滴406にあててもよい。
上記実施形態では、膜形成工程26(図2参照)にて、図6に示すように、ポリマーフィルム45の一方の表面45a上に膜22を形成したが、本発明はこれに限られず、図15に示すように、ブレード68(図3参照)を省略し、ポリマーフィルム45の一方の表面45a上に膜122aを形成しつつ、他方の表面45bにも膜122bを形成してもよい。なお、図15では、液面64と表面45aとがなす角θ1a、及び液面64と表面45bとがなす角θ1bが共に直角となるように、ポリマーフィルム45を溶液21から引き出したが、本発明はこれに限られず、角θ1a、θ1bの少なくとも一方が鋭角または鈍角になるように、ポリマーフィルム45を溶液21から引き出せばよい。なお、膜22、122a、122bを形成する支持体として、両方の表面45a、45bが略平行であるポリマーフィルム45を用いたが、本発明はこれに限られず、互いに交差する複数の表面を有する支持体を用いても良い。このような支持体を溶液21から引き出すことにより、複数の表面において異なる配列条件の膜形成工程26(図2参照)を同時に行うことが出来る。
上記実施形態では、第1ゾーン35にてポリマーフィルム45を溶液21中に浸漬したが、本発明はこれに限られず、例えば、図16に示すように、第2ゾーン36にて、ポリマーフィルム45を溶液21中に浸漬し、そのままポリマーフィルム45を溶液21から引き出しても良い。
上記実施形態では、支持体としてポリマーフィルム45を用いたが、本発明はこれに限られず、図17に示すように、ポリマーフィルム45に代えて、ローラ40a〜40eに掛け渡され、第1ゾーン35〜第4ゾーン38を順次無端走行するエンドレスベルト120を用いても良い。なお、エンドレスベルト120の形成材料として、上述したポリマーフィルムの形成材料の他、ステンレスやガラス等の無機材料を用いることも可能である。エンドレスベルト120を設ける場合には、カット部75に代えて、巻取りローラを設けても良い。そして、エンドレスベルト120上の多孔フィルム10を、ローラ40eを用いてエンドレスベルト120から剥ぎ取り、巻取りローラで巻き取ってもよい。
なお、上記実施形態では、図3に示すように、各ゾーン35〜38を順次走行するポリマーフィルム45を支持体として用いたが、送り出し機に巻き取られたバンドを巻取り機によって巻取り、送り出し機と巻取り機との間を走行するバンドを支持体として用いても良い。そして、ローラ40a〜40eを用いて、このバンドを第1ゾーン35〜第4ゾーン38を順次走行させてもよい。
また、図17に示すように、多孔フィルム製造設備30に送液装置124を設けても良い。送液装置124は、供給部125と回収部126と配管127とポンプ128とを備える。供給部125及び回収部126は、液槽50中における支持体の走行方向に順次設けられる。供給部125は液槽50に溶液21を供給する。回収部126は液槽50から溢れた溶液21を回収する。配管127は、供給部125と回収部126とを連通する。ポンプ128は、配管127に設けられ、回収部126に回収された溶液21を、配管127を介して供給部125へ送液する。ポンプ128の作動により、液槽50内の溶液21を、第1ゾーン35から第2ゾーン36へ流すことができる。
上記実施形態では、図2及び図3に示すように、各工程25〜28を連続的に行う多孔フィルム製造設備30を用いて多孔フィルム10を製造したが、本発明はこれに限られず、図18及び図19に示すように、各工程25〜28をバッチ式で行う製造方法に適用することも可能である。各工程25〜28をバッチ式で行う場合には、支持体として、ポリマーフィルム45の代わりに、所定の寸法の支持板130を用いてもよい。
以下、各工程25〜28をバッチ式で行う場合の概要について説明する。液槽131中にて、支持板130を溶液21に浸漬する(図18(A))。そして、溶液21の液面64に湿潤空気400をあてる(図18(B)。湿潤空気400との接触により、結露が生じ液面64に水滴406が形成し、所望の寸法になるまで水滴406が成長する(図18(C))。これにより、水滴形成成長工程25(図2参照)が行われる。次に、所定の低露点湿潤空気を液面64にあてて水滴406の成長及び蒸発を抑えながら、溶液21から支持板130を引き出す。このとき、支持板130の表面には、溶液21からなる液膜135が形成され、液面64上の水滴406は液膜135の表面に並ぶ(図19(D)、(E))。これにより、膜形成工程26(図2参照)が行われる。そして、溶液21から引き出した支持板130を乾燥室に配置する。乾燥室では、表面に水滴406が並ぶ液膜135に乾燥空気をあてる。これにより、溶剤蒸発工程27、水滴蒸発工程28(図2参照)が行われる。こうして、各工程25〜28(図2参照)をバッチ式で行うことにより、多孔フィルム10(図1参照)を製造することができる。
なお、第2ゾーン36に、液面64の水滴406を膜22の所望の位置にガイドするガイド部材を設けても良い。これにより、膜22上における水滴406の配列を正方格子等の所望の規則的配列にすること、または膜22上の特定の部分のみに水滴を並べることも可能となる。また、第2ゾーン36において、液槽50中の溶液21の流動、すなわち、攪拌、対流、波動、振動により、水滴406の配列条件を調節することも可能である。
なお、ポリマーフィルム45の表面45a、45bに凹部を設けても良い。表面45a、45b上の所定の位置に凹部を設けることにより、凹部は、表面45a、45bにおいて島状に設けてられても良い。凹部を、線状に形成しても良いし、表面45a、45b上の一定範囲を占めるように面状に形成しても良い。これにより、凹部の形成位置に基づき、膜22の表面22a、22bに水滴を並べることも可能となる。
更に、ポリマーフィルム45に代えて、筒状の支持体や螺旋状の支持体を用いても良い。筒状の支持体を用いた場合には、当該筒状支持体の外周面及び内周面に、水滴が並んだ液膜を設けることも可能となる。また、螺旋状の支持体を用いた場合には、当該螺旋状の支持体の表面に、水滴が並んだ液膜を設けることも可能となる。したがって、本発明により、孔11を有する多孔フィルム10のほか、表面に孔11を有する多孔体を製造することも可能である。多孔体としては、筒状の多孔体や螺旋状の多孔体などが含まれる。
多孔フィルムの原料としては、非水溶性溶剤に溶解するポリマー(以下、「疎水性ポリマー」と称する)を用いることが好ましい。また、前記疎水性ポリマーだけでも多孔フィルムを形成することができるが、両親媒性ポリマーを共に用いることが好ましい。
(溶剤)
前記ポリマーを溶解させて溶液21を調製するための溶剤としては、有機溶剤など、ポリマーを溶解させることができる溶剤であれば特に制限はなく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン,四塩化炭素、シクロヘキサン、酢酸メチルなどが挙げられる。
また、溶液21におけるポリマーの濃度は、引き出されるポリマーフィルム45の表面45aに膜22が形成できる濃度であれば良く、例えば、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。前記高分子化合物の濃度が0.01質量%未満であると、フィルムの生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、前記高分子化合物の濃度が30質量%を超える濃度であると、溶液21の粘性が増大するため、ポリマーフィルム45の引き出しによる膜22の形成が困難となるため、好ましくない。また、液面上の水滴406の流れの速さVL(図10参照)を増大するために、溶液21の粘性はできるだけ低いほうが好ましく、例えば、100mPa・s以下の範囲であることが好ましい。また、溶液21の粘性の下限値としては、特に限定されないが、0.3mPa・s以上とすることが好ましい。
(疎水性ポリマー)
前記疎水性ポリマーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。なお、これらのポリマーは必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
前記両親媒性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
前記疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。該疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。前記親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
前記疎水性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶剤の疎水性の強さなどに応じて異なり一概には規定できないが、ユニット比(疎水性側鎖/親水性側鎖)は3/1〜1/3が好ましい。また、コポリマーの場合、疎水性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶剤への溶解性に影響しない範囲で疎水性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
前記疎水性ポリマーだけでも、多孔フィルムを製造することができるが、両親媒性ポリマーと共に用いることが好ましい。
前記疎水性ポリマーと前記両親媒性ポリマーとの組成比率(質量比率)は、99:1〜50:50が好ましく、98:2〜70:30がより好ましい。前記両親媒性ポリマーの比率が1質量%未満であると、均一な多孔フィルムが得られなくなることがある。一方、前記両親媒性ポリマーの比率が50質量%を超えると、塗布膜の安定性、特に力学的な安定性が十分に得られなくなることがある。
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーであることも好ましい。また、前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーとともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施すことも好ましい。
前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーと併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
前記エチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
前記光ラジカル開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
前記光ラジカル開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。
前記光ラジカル開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。
なお、前記光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。外光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
前記熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。
具体的には、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。