以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
本発明は、沈水植物の再生に関する技術である。沈水植物の再生を効率的に行うことができる技術である。かかる技術を採用することで、沈水植物の群落の再生を効率的に行い、その結果閉鎖性水域の水質浄化等も効率的に行うことができる。すなわち、本発明の沈水植物の再生方法では、沈水植物の植えられた植栽基盤を、最初に設置した場所から別の場所に移す、所謂移設を行うことで、沈水植物の再生領域を効率的に拡大するものである。
かかる移設は、一度とは限らず、複数回行っても構わない。さらには、移設に使用する植栽基盤は、1個とは限らず、複数個使用しても構わない。また、このようにして移設することで再生領域を拡大した後は、植栽基盤を回収して撤去すればよい。勿論、植栽基盤が生分解性のもの等の環境に負荷をかけない部材で作られている場合には、撤去せずに移設した最終移設場所にそのまま設置しておいても構わない。
さらに、移設に際しては、植栽基盤を1個ずつ移設しても構わない。あるいは、複数個まとめて移設しても構わない。さらには、移設に際しては、人力で行っても構わないし、あるいは機械等を利用して自動的に行っても構わない。
湖沼や池沼等の淡水の沈水植物は、他の植物と大きく異なる点がある。すなわち、淡水性の沈水植物は種子をつけて種子で繁殖するものもあるが、かかる場合は非常に乏しく、実際は旺盛な栄養繁殖で増える点である。栄養繁殖とは、胚・種子を経由せずに根・茎・葉等の栄養器官をもとに繁殖する無性生殖である。沈水植物は葉と茎の一部分を切り離し、その切れ藻が水底に定着し、繁殖するのである。かかる繁殖方法が旺盛であり、また根茎や越冬芽(殖芽)で増えることも特徴としている。このため、植栽基盤に種子を撒く方法を用いて沈水植物を再生することは非常に効率が悪く、困難である。上記のように、栄養繁殖を用いて再生することの方が、効率的に好ましいことが確認された。
また、湖沼や池沼等の閉鎖性水域の特徴としては、アオコ等の植物プランクトンの発生により、河川や海洋等と比較して著しく透明度が低い場合が多い。そのため十分な光が水底にまで届かず、沈水植物の苗や越冬芽、あるいは種子の投込みや苗を基盤へ植栽したものをただ沈めても、光合成ができないため生育が良好に行われない。そのため、かかる方法では、再生が効率的に進まないことも確認された。さらに、閉鎖性水域の中には、水底が泥質であることが多く、このような場所では風波等で沈水植物の苗や越冬芽、種子等はすぐに泥を被り生育することが困難となる。
本願発明は、かかる沈水植物に特有の問題点等を踏まえた上で、如何に効率的に、沈水植物の群落を再生させるかという観点からなされたものである。以下、実施の形態に沿って詳しく説明する。
(実施の形態1)
本発明の沈水植物の再生方法の一例を、図1にフロー図で示した。すなわち、本発明の沈水植物の再生方法では、ステップS10で、沈水植物が植栽された植栽基盤を準備する。ステップS20で、ステップS10で準備した植栽基盤を、沈水植物の所望の再生領域の水域内に設置する。植栽基盤の設置に際しては、再生領域の水域内の水底に設置する。水中に浮かした状態での設置は行わない。水底に設置した状態で、植栽基盤を所定期間設置し続ける。所定期間設置する間に、沈水植物が植栽基盤の周辺に根を広げて拡大する。
このようにして所定期間設置後、ステップS30で一旦設置した植栽基盤を移設する。すなわち、所定期間設置して植栽基盤の周辺に根を広げて沈水植物が広がった時点で、植栽基盤を設置した水底から離す。離した植栽基盤を、再生領域の水域内の別の未再生の場所に移設する。必要に応じて、植栽基盤を移設するステップS30を複数回繰り返し、沈水植物の再生範囲を拡大する。勿論、移設を1回行うことで再生領域に沈水植物の再生を行うようにしても構わない。このようにして、再生領域の水域内に沈水植物を再生する。本発明の再生方法における特徴点の一つは、一旦設置した植栽基盤を移設するステップS30を有することである。
ステップS20で使用する植栽基盤に植栽された沈水植物は、例えば、再生領域の水域内の水底に設置した場合に、その水域の水面直下まで草丈が伸張した状態のものを使用する。ここで水面直下とは、図2に示すように、本明細書では水面下0cm以上〜10cm以内の水深の範囲内を言うものとする。また、沈水植物の草丈の長さを規定する場合には、例えば、複数本の茎の平均の草丈で判断すればよい。しかし、草丈の見極め方は、それ以外の方法で規定しても一向に構わない。例えば、1本でも草丈が規定の長さに伸びていればいいと判断することもできる。
上記説明では、例示として、草丈が水面直下まで伸張した状態の沈水植物の植栽基盤を設置した場合を示した。しかし、水面直下まで草丈が伸張していない沈水植物であっても、勿論、植栽基盤への周囲への拡散が行われるのであれば構わない。植栽基盤を再生領域の水域内の水底に設置している間に、沈水植物の周囲への拡大が行える状態であれば構わないのである。すなわち、上記の如く、周囲への拡散が植栽基盤の設置後に確実に行える状態であれば、草丈は水面直下より低い状態でも一向に構わない。
例えば、上記規定の水面下0cm以上〜10cm以内の範囲から外れる草丈の場合が挙げられる。かかる場合とは、例えば、成育に必要な光が届く水面直下かから外れる水深を基準として、その水深まで伸びていればよいとするものである。すなわち、沈水植物の草丈として、沈水植物の上端の葉面に生育可能な光があたる水深まで伸ばしていればよいのである。水面直下まで伸びていなくても成育するのである。沈水植物の成育後、設置した植栽基盤の周囲へ根を張って拡大することができるのである。
かかる場合の光条件としては、水面下の光強度として10%以上の光強度であればよい。かかる光強度が得られる水深まで草丈を生育させておけばよい。光強度がこの値以上であれば、沈水植物が育つことができる。また、光強度の測定方法は、光量子計、照度計等を用いるとよい。またこのような装置がない場合は、30cmの白色円板を水中に沈め、それが目視できなくなる水深が水面下に対する光強度が約15%に相当するので、かかる水深を目安として草丈を設定することもできる。
このように、草丈が所謂水面直下にまで伸張していない場合でも、植栽基盤に植栽した沈水植物の根付きが行われれば、沈水植物の再生はできる。草丈が十分に成長していなくても、例えば、根付いた沈水植物の成長に合わせて草丈が水面直下に至るまで、再生領域の水域内に設置して待てばよいのである。
しかし、沈水植物の再生期間の短縮という観点からは、上記の例に示すように、草丈が水面直下にまで伸張した沈水植物を、再生領域の水域内の水底に植栽基盤を介して設置する方が好ましい。一般に沈水植物は、個体を維持し得る根を張ったら、先ずは、光を求めて草丈を伸ばす性質がある。草丈が上方に十分に伸び、あるいは伸びきった状態で、今度は、根を周囲に張って根付き、周囲で沈水植物が生えて成長し再生するという性質がある。そのため、水面直下まで沈水植物の草丈を十分に伸ばした状態で水底に設置した方が、その後の植栽基盤の周辺への沈水植物の根付きの期間を早めることができるのである。
このように、沈水植物に特有の性質を専ら利用して、水面直下まで草丈が伸びた状態のものを設置することで、原則、植栽基盤の周囲への根付きに要する期間を短縮しているのである。結果、植栽基盤の周辺での沈水植物の再生期間を短くすることにつながる。草丈が水面直下まで生育していない場合には、先ず、草丈を伸ばすのに要する期間が必要となり、その分、周囲への根付きの期間が遅くなり、畢竟再生が遅れるのである。
また、水面直下まで生育していない沈水植物は、水面直下まで生育した沈水植物よりもボリューム的に、すなわち量的に少なく、群落自体が小さい。さらには、光が弱く生育速度が遅い等の条件が重なると、水草を食べる魚等により食べられてその食害の影響を大きく受けやすくなる。そのため、群落の周囲への拡大がさらに遅くなることが懸念される。
しかし、このように草丈を水面直下まで成育した状態で再生領域に設置する方法であれば、再生領域の水の透明度が悪い湖沼等の閉鎖性水域であっても、予め水域の透明度を改善せずに沈水植物群落を再生することができる。これまでは、先ず再生領域の水域の透明度を改善した後で、沈水植物の再生を行うとの発想であった。上記の如く、予め草丈を水面直下まで伸張させた状態のものを設置する手法を用いることで、これまでの発想とは異なり、再生領域の透明度の改善を行うことなく、沈水植物の再生を行うこともできるのである。
勿論、水面直下まで伸張していない場合でも、再生領域の光が届く水深まで、すなわち、沈水植物の草丈先端の葉面に光があたる水深まで伸張させた状態のものを設置することでも、当然に再生は行えるのである。
上記の如く、例えば、水面直下まで草丈が伸張した沈水植物を水底に設置する本発明の再生方法は、沈水植物は光を求めて上方に伸び、その後、地下茎、根等により周囲に拡大する性質を利用したものである。水面まで沈水植物の草丈を伸ばしたものを移設していくことで、効果的に沈水植物の群落の再生を効率よく行うものである。
かかる沈水植物とは、水面下に根・茎・葉の全てが存在している植物である。このような沈水植物としては、例えば、クロモ等のトチカガミ科、ササバモ等のヒルムシロ科、イトクズモ科、トリゲモ等のイバラモ科、バイカモ等のキンポウゲ科、ハゴロモモ等のスイレン科、ホザキノフサモ等のアリノトウグサ科、キクモ等のゴマノハグサ科、マツモ等のマツモ科、タヌキモ等のタヌキモ科の沈水植物を挙げることができる。尚、かかる上記の科には、沈水植物ばかりではなく、浮葉植物や抽水植物、湿性植物等沈水植物以外の植物も含まれている。
本実施の形態の沈水植物の再生方法では、前記の如く、例えば、沈水植物を再生領域の水域の水面直下まで伸張させた状態の植栽基盤を用いる。かかる状態の植栽基盤は、例えば、再生領域の水域内に比べて、太陽光が得られやすい環境で、沈水植物を育てることで形成することができる。かかる沈水植物の栽培には、沈水植物の一部を切り出したものや、切れ藻となって浮かんでいる植物の葉と茎を採取し、挿し芽をすればよい。前述の栄養繁殖を利用したものである。土壌に眠る埋土種子(殖芽)を用いても悪くはないが、しかし、これらは土壌中に低密度でしか存在しない。そのため、発芽させるのに時間と面積が必要となり非常に効率が悪い。自生あるいは栽培している沈水植物の一部を切り出して挿し芽をすると、沈水植物は栄養繁殖が盛んなため茎の部分から根が出てすぐに植栽基盤に定着し、草丈が伸張するので効率的にはこの方法が望ましい。
かかる方法で沈水植物を植栽基盤に成育すれば、再生領域の水面直下までの長さに相当するまで草丈が伸張した植栽基盤の準備段階を含めて、再生時間のトータルの短縮が図れる。すなわち、挿し芽等を用いて沈水植物を栽培する方が、トータルの沈水植物の再生に要する期間を短くすることができるのである。かかる栽培方法は、例えば、特願2006−90891「植栽基盤および植栽方法」に開示されている。
上記の如く、草丈を再生領域の水面直下まで伸ばした状態の沈水植物を植栽した植栽基盤は、ステップS20で、再生領域内の水域の水底に設置する。設置に際しては、植栽基盤を水中に降ろして、水底に設置すればよい。
再生領域内の水域環境は、水深が深かったり、水温が低かったり、透明度が悪かったり等で、必ずしも水中作業に適していない場合が十分に想定される。かかる場合には、簡単に潜水して作業を行うこと等はできない。そこで、本発明者は、水中に潜水することなく、水底への設置、移設が簡単に行えるような構成を新たに発案して、設置、移設の作業を行い易くした。すなわち、沈水植物が所定の草丈に成長した植栽基盤を利用して、再生領域の水域内に、設置、移設を行いやすくする工夫をした。
例えば、草丈が所定長さに成長した段階で、沈水植物が根付いた植栽基盤を水中から引きあげる。引き上げた植栽基盤を用いて、再生領域に移設する植物再生基盤を別途作成する。かかる植物再生基盤を用いることで、植栽基盤の再生領域での設置、移設等を行い易くするのである。すなわち、設置、移設等が行い易いように、植物再生基盤を作成するのである。設置、移設等の効率化は、結局、沈水植物の再生処理を設置等の作業も含めたトータルでみた場合、沈水植物の再生に要する時間の短縮にもつながるのである。
因みに、植栽基盤には、例えば、沈水植物が根付くマット等の植物定着基盤が使用できる。例えば、三次元網目構造を有する合成繊維マットやヤシマットを、植物定着基盤として用いることができる。かかる植物定着基盤は、マット等のように、軽量なものの方が好ましい。合繊繊維マットは、耐久性があり、何年も繰返し利用するのに適している。使用期間が短く、繰り返しの使用回数も少ない場合には、ヤシマット等の自然素材でできたマットを用いればよい。ヤシマット等の自然素材を用いることで、容易に自然界で分解され、最終的に植栽基盤を回収する手間を省くこともできる。勿論、水底に設置後、一度だけ移設する場合にも、生分解性のヤシマット等の自然素材を用いた植栽基盤を使用することができる。
かかる植物再生基盤は、例えば、図3に示すような構成を有している。すなわち、植物再生基盤100は、植栽基盤10と、沈設手段20と、回収手段30と、表示手段40とを有している。植栽基盤10は、前記記載のように、例えば、ヤシマットあるいは合繊マット等のマット10aに構成されている。かかる植栽基盤10に、草丈が所定の長さにまで伸びた沈水植物200が植栽されている。
かかる植栽基盤10は、水底に沈ませ易いように構成されている。すなわち、植栽基盤10に、植栽基盤10を再生領域の水域内の水底に沈ませて設置しやすくする沈設手段20が設けられている。かかる沈設手段20は、設置した植栽基盤10が、容易に移動等しないように設置範囲に留める働きをも有している。かかる沈設手段20として、本発明者は、例えば、錘部材20aを植栽基盤10に設ける構成を発案した。
かかる錘部材20aとしては、沈水植物200が植栽された植栽基盤10を水底に沈ませ、設置できるものであれば、どのようなものでも構わない。例えば、石を詰めた袋や、金属製のアングル等でも構わない。沈設手段20としての錘部材20aは、例えば、鉄棒等の棒状部材であってもよい。図3に示す場合は、棒状の錘部材20aを設けた場合である。かかる棒状の錘部材20aは、植栽基盤10のマット10aの底面側に設けられている。植栽基盤10の底面側に錘部材20aを設けるに際しては、棒状の錘部材20aを、所定間隔離して相対して設けておけばよい。
上記の如く、本実施の形態の植物再生基盤100は、沈設手段20を設けた植栽基盤10を有するが、さらには植栽基盤10の回収を容易にするための回収手段30が設けられている。かかる回収手段30としては、植栽基盤10を水底から引き揚げることができる部材が使用できる。簡単には、ロープ、ワイヤ等の紐状部材30aが使用できる。かかる紐状部材30aを、植栽基盤10に設けておけば、紐状部材30aをたぐって引き揚げることで、植栽基盤10を水底から離すことができる。さらには、植栽基盤10を、例えば、船上に回収することもできる。
ロープ等の紐状部材30aを植栽基盤10に設けるについては、例えば、植栽基盤10の内部に結束バンドや針金等を通して、それにロープ等の紐状部材30aを結んでも構わない。このように回収手段30として、ロープ等の紐状部材30aを使用する場合には、沈水植物200がしっかりと根を張っても、回収する際に紐状部材30aが切れたりすることがないように注意するのは勿論である。
本実施の形態では、沈設手段20としての錘部材20aには、図3に示如く、棒状の構成を採用した。かかる棒状の錘部材20aは、少なくとも一端側が、植栽基盤10のマット10aの端から突き出ている。かかる突出部に、回収手段30としてのロープ等の紐状部材30aを結びつける等して設けておけばよい。棒状部材に構成しておけば、棒状部にロープ等の紐状部材30aを簡単に結び付けられて好ましい。尚、図3では、かかる棒状部材への紐状部材30aの結び目を、模式的に球形で示した。
また、植栽基盤自体が水草の浮力より重いものであれば、沈設手段を設けなくても構わない。あるいは、植栽基盤の植栽マットの中に砕石等を詰めて、沈設手段を構成しても構わない。回収手段を設け易いという点では上記の如く棒状部材が好ましいが、植栽基盤に使用する植栽マットが丈夫なものであれば、植栽マットにロープ等の回収手段を直接設けても構わない。かかる場合には、沈設手段は、上記の如く、植栽基盤に砕石等を詰めるだけでよい。
また、本実施の形態の植物再生基盤100には、上記沈設手段20、回収手段30に加えて、表示手段40を設けても構わない。かかる表示手段40とは、少なくとも、回収手段30の存在位置を明確に表示できるものであればよい。植物再生基盤100は、沈水植物の再生領域内の水底に設置されるが、かかる植物再生基盤100の回収等は基本的には船等を使用して行われる。そのため、表示手段40としては、船上から容易に、水面上での位置が目視確認できる構成が好ましい。
かかる船上から容易に目視確認できる表示手段40としては、例えば、浮子40aが考えられる。浮子40aをロープ等の紐状部材30aに設けておけばよい。通常のロープは、水に沈むものが多いが、かかる浮子40aを設けておけば、ロープを水面に保持させる役目も有している。かかる構成を採用することで、回収手段30を目視で船上から見つけることができ、水底に設置した植物再生基盤100の速やかな回収、移設に役立つ。かかる表示手段40としての浮子40aの形状は、図3に示すような球状、あるいは棒状、あるいは舟形等、種々の形状が採用できる。
このようにして本実施の形態の植物再生基盤100は、植栽基盤10と、沈設手段20と、回収手段30と、表示手段40とを有している。上記沈設手段20、回収手段30、表示手段40は、それぞれ単一の沈設機能、回収機能、表示機能を有している。しかし、沈設機能、回収機能、表示機能の二つ、あるいは三つの機能を併せ持つように、沈設手段20、回収手段30、表示手段40を構成しても構わない。例えば、水に浮くロープを植栽基盤10に設けて回収手段30とした場合には、ロープ自体が水に浮くため容易に回収手段30の存在が明確になる。かかる場合には、回収手段30が表示手段40を兼ねていると見做せる。このように、沈設手段20、回収手段30、表示手段40が、それぞれ互いに他の手段を兼ねていても一向に構わない。
上記の如く、水に浮くロープであれば、浮子で支える必要がないため、浮子なしの構成が考えられる。しかし、水位が変動するような場所では、場合によっては水位が上昇したときにロープの先端が水没してしまい、そのロープが船上等からは見つけにくくなる場合も想定される。予め、ロープを水位の上昇に見合った分長めに設定することも考えられはするが、これは見た目が悪くなる。そこで、図3に示すような浮子をロープの端に設けておけば、多少透明度が低い中で水没しても、比較的に船上からその存在箇所が分かるので好ましい。
また、前記記載では、沈設手段20としての錘部材20aを、植栽基盤10の底面側に設けた場合を示したが、可能であるなら、植栽基盤10のマット内を貫通させるようにしても構わない。あるいはマット表面に設けても構わない。かかる構成を敢えて採用することにより、底面に錘部材を設けるよりも、錘部材への根の絡みつきを抑制することができる。そのため、折角周辺に拡大した沈水植物の根を、植栽基盤の引き揚げにより根底から覆すのを防止することができるためである。
尚、上記説明では植物再生基盤を用いて行う場合を説明したが、勿論、水域の透明度が十分に確保される等水環境が良好な場合には、植物再生基盤を作成することなく、植栽基盤の設置作業を人が潜水して行っても構わない。また、本発明では、前記の如く、ステップS30で一度設置した植栽基盤を、移設する工程がある。移設に際しても、人が潜水して、水底に設置した植栽基盤を、手で運ぶ等して別の場所に移設しても構わない。
本実施の形態の沈水植物の再生方法では、例えば、上記に説明した構成の植物再生基盤100を用いて行う場合を説明する。図4に示すように、ステップ20で、沈水植物200の植栽基盤10を用いた植物再生基盤100を、再生領域内の水域の水底に設置する。すなわち、枠線で囲った再生領域300の水域内の水底310に、植栽基盤10から構成される植物再生基盤100を沈設して設置するのである。図4に示す場合には、植物再生基盤100を複数設置した場合を示した。水底310に設置するに際しては、例えば、上記の如く、沈設手段20が設けられているため所定箇所の水底310に設置することができる。
また、沈設するに際しては、植物再生基盤同士を離しておけばよい。複数個の植栽基盤を設置する場合には、複数個のそれぞれの植栽基盤同士を所定の間隔分を離して設置するのである。効率的には、このように隣接設置する植栽基盤同士を所定間隔離しておくことが好ましい。しかし、隣接する植栽基盤同士の間隔を空けずに設け、移設方向に沿って順次移設することも考えられる。尚、植栽基盤10の周囲への矢印は、沈設して所定期間設置し続ける場合の沈水植物の周囲への拡大を示している。
上記の如く沈水植物200が植栽された植栽基盤10を有する植物再生基盤100は、水底310に所定期間設置しておく。かかる所定期間設置するのは、前記の如く、植栽基盤10の沈水植物200が、植栽基盤10の周囲に根を張って、沈水植物200を再生させるためである。再生したと判断した時点で、ステップS30に示すように移設すればよい。
ステップS30の植物再生基盤100の移設は、対象水域の再生目標期間、費用等によって左右される。しかし、一つの目安として、例えば、少なくとも植栽基盤の基盤周囲から外側に15cm沈水植物が拡大したら植物再生基盤100を移設すると判断してもよい。沈水植物の根は水底の泥の中で繋がっているため、これ未満の大きさで植栽基盤10を引き上げると、周囲に根を広げて拡大した沈水植物群落も一緒に回収されてしまうからである。わずかに拡大した沈水植物群落の根茎を痛めるため、少なくとも拡大範囲で15cm未満の場合には好ましくない。
尚、上記植栽基盤の周囲への15cmの拡大とは、例えば次のように規定しておけばよい。植栽基盤の周囲への拡大範囲を測定する外縁箇所が、例えば直線で示される場合は、その外縁の直線に対して、植栽基盤の外側に向けて直交する方向15cmと規定すればよい。あるいは、測定箇所の外縁が曲線である場合には、測定点の接線に対して直交方向に外側に向けて15cmと規定すればよい。
かかる所定の設置期間では、基本的には、沈水植物200が植栽基盤10の周辺に根付いて、草丈を伸ばすことができる期間である。かかる根付きと草丈の伸びる期間は、沈水植物200の種、再生領域の成育環境等で変動するものである。そこで、設置する所定期間を、単に時間で規定する場合よりも、厳密には、沈水植物の成育状態を見ながら判断すべきである。所定期間は、上記の如く、再生したと判断できる期間と定めればよい。例えば、設置した植栽基盤10の周囲15cm以上の範囲に沈水植物が広がり、かかる沈水植物の草丈が水面直下まで成育した時期で判断して決めればよい。
かかる所定期間は、実験規模で実際の沈水植物を成育して、その判断を行ってもよい。あるいは、再生領域の水域内の水底に植栽基盤を最初に設置してから移設するまでの間、沈水植物の成育状況を観察し、かかるデータに基づき所定の設置期間を決め、それ以降の移設の繰り返しに際しての設置期間の算定の基準に使用してもよい。かかる場合には、実際の再生領域で実際の沈水植物の植栽基盤を使用して得られたデータに基づいているため、極めて適用性が高い期間となる。
再生したとの判断基準は、例えば、上述の如く、沈水植物が植栽基盤の周囲へ拡大した状態で水面直下まで草丈が伸びた状態で判断した。しかし、それ以外の方法で判断しても勿論構わない。例えば、植栽基盤の周囲15cm以上の範囲での沈水植物は、草丈が、沈水植物の上端の葉面に生育可能な光があたる水深まで成育していればよいと判断してもかまわない。すなわち、草丈が水面直下までなくても構わない。かかる場合には、光条件として、水面直下の光強度に対し10%以上の光強度となる水深まで草丈が生育した状態と判断しても構わない。これ以上の光があたる水深まで、例えば水面直下まで沈水植物が成育していれば、植栽基盤の回収後もすみやかに群落が拡大する。かかる判断ができない場合には、図1に示すフロー図のステップS30の移設は行わない。
さらに、かかる沈水植物が植栽基盤の周囲に根付いたとの判断は、透明度の高い水域においては、植栽基盤の少なくとも周辺15cmでの沈水植物の成育状況は目視確認で行うことでチェックできる。勿論、潜水して、その状況の確認を行ってもよい。かかるチェックは、複数の植栽基盤がある場合には、その中から、抽出したサンプルとしての植栽基盤で行い、再生領域に設置した植栽基盤全体の状況を判断すればよい。
上記再生の判断が行えた時点で、図5に模式的に示すように、ステップS30に移行して移設できることとなる。かかる移設は、設置した植栽基盤10を、設置場所から移すことで行う。例えば、船上から、表示手段40である浮子40aを見つけ、その場所に移動する。浮子40aについている回収手段30である紐状部材30aの例えばロープを、船上から引き揚げる。ロープを引き揚げることで、ロープが結ばれていた沈設手段20としての棒状の錘部材20aが上方に引っ張られる。そのため、植栽基盤10は、設置されていた水底310から上方に引き離される。
かかる植栽基盤10の水底310からの引き離しに際しては、植栽基盤10の周辺には、植栽基盤10に植栽された沈水植物200の根が伸びて根付いている。したがって、植栽基盤10は、単に水底310から上方に引き離すのではなく、正確には、上方に引き離すことにより、植栽基盤10の沈水植物200から周辺に伸びていた根を切断する意味もある。このようにして、植栽基盤10に植栽した沈水植物200からの周辺への根の切断も含めて、植物再生基盤100を上方に引き揚げる。例えば、引き揚げて、植物再生基盤100を船上に回収してもよい。
その後、船で沈水植物200の水底310の未再生場所の上方に移動して、再度回収していた植物再生基盤100を、水底310に降ろして設置することで移設を完了する。このようにして移設したら、再度、植栽基盤10の周辺に沈水植物200の再生の拡大が確認できるまで設置しておく。所定の期間設置して、植生基盤10の周辺への再生拡大が図れたら、再度、植栽基盤10を回収して、他の未再生場所への移設を行えばよい。
このようにして、例えば、複数回の移設を繰り返すことで、再生領域300での沈水植物200の再生を達成することができる。特に、本発明の如く、移設を行うことで、沈水植物200の再生効率は格段にその向上が図れるのである。その後、別の再生領域300aへ、再度移設を行うことで沈水植物の再生範囲を拡大して行くことができる。かかる様子を、図6に模式的に示した。図7(a)〜(c)には、図4〜6に述べた一連の沈水植物の植栽基盤の移設手順をまとめて示した。図8には、水面直下まで草丈を伸ばした沈水植物を設置、移設する状況を模式的に示した。
また、移設を行うに際しては、図4、5に示す場合には、ランダムに植物再生基盤100を設置、移設を行っている場合を示した。ランダムに設置、移設を行っても、最終的には、再生領域での沈水植物の再生は図れる。しかし、植栽基盤の移設は、ランダムに行う場合よりも、例えば直近の隣接場所に行う等、システマティックに行うようにするのが好ましい。
例えば、設置してから移設するまでの一定の所定期間内に、設置した植物再生基盤100の植栽基盤10から、植栽基盤10の周囲aの範囲内での沈水植物200の草丈の上記による伸張が確認されるとする。その場合には、移設に際しては、移設直前の設置位置の植栽基盤10から、少なくとも3倍の3a離して未再生場所に沈水植物の移設を行えばよい。このようにして、隣接箇所への設置、移設を繰り返せば、当初設置箇所と移設箇所との間の未再生箇所が、移設箇所で植栽基盤10を所定期間設置する間に周辺への沈水植物200の根付きで埋められる筈である。かかる様子を、図9に示す。
図9に示す場合は、植栽基盤10が四角形に形成されている場合を示している。正確には、植栽基盤10の四隅に該当する四隅部分10bは、植栽基盤10の辺部分10cとは異なり、沈水植物200の周辺への根付き状況は異なる。しかし、かかる四隅部分10bも辺部分10cに比べて若干遅くはなるが、沈水植物200の根付きが行われて再生に至る。
先ず最初に設置した場所で所定期間経過させることで、沈水植物は周囲へa拡大したとする。その時点で、最初の植栽基盤の設置場所から、3a離れた隣接場所に植栽基盤10を移設する。移設した場所で、最初に設置したと同様の所定期間経過することで、周囲へa沈水植物が拡大する。かかる移設場所での周囲への拡大と共に、移設前に拡大していた範囲がさらに移設後の所定期間で周囲へa拡大する。このようにして、最初に設置した場所と、移設した場所との間隔が離されていても、間が沈水植物により埋められることとなる。
図10に示す場合は、移設方向を規定することで、ランダムに行う場合よりも再生効率をよくする方法である。すなわち、図1に示すように、例えば再生領域300を等分な水域301に縦横それぞれ5分割した。かかる再生領域300の一辺に沿った複数の水域301に、例えば、それぞれ植物再生基盤100(101、102、103、104、105)を複数個設置する。複数個の植物再生基盤101、102、103、104、105は、それぞれ植栽基盤10(11、12、13、14、15)を有している。
かかる植栽基盤11、12、13、14、15の所定範囲の周囲へ沈水植物の根付きが行われるまで、所定期間設置しておく。その後、根付きが確認されたら、順次矢印で示すように隣接の未再生箇所に移設する。移設に際しては、図5に示す如くランダムに行うのではなく、当初設置した場所の隣接箇所に移設するのである。このようにして、図10に示す場合には、4回の移設を行うことで再生領域の沈水植物の再生が完了する。
かかる移設に際しても、説明が分かりやすいように図示は省略するが、隣接する植栽基盤11、12、植栽基盤12、13、植栽基盤13、14、植栽基盤14、15との間は、例えば、上記の如く所定期間の沈水植物200が根付く範囲の間隔をあけて設けられている。尚、図10では、植物再生基盤100(101、102、103、104、105)、植栽基盤10(11、12、13、14、15)を、簡単に丸で表示した。
あるいは、例えば、図11に示すように、矩形の再生領域300を複数に分割して両対辺側に水域301を複数形成する。かかる水域301の互いに対角状の隅位置に、植物再生基盤100(106、107)を沈設設置する。その後、植物再生基盤106、107のそれぞれの植栽基盤10(16、17)を所定期間設置した後、隣接箇所の水域301に移設する。移設するルートは、図11に示すように、互いに直線的に移設するようにする。
一方、植栽基盤16、17を移設する二つの直線ルートの間は、植栽基盤16、17の移設は行わない中間再生領域302としての水域を設けておく。かかる中間再生領域302内では、設置した植栽基盤16、17の周囲へ根付いた沈水植物が、移設した後でも、さらに拡大する。植栽基盤16、17の移設ルートが進む間に、移設前の設置場所では、順次根付き範囲が片矢印で示すように周囲へ拡大して、植栽基盤16、17が最終地点に到達した段階で、中間再生領域302での沈水植物200の再生が完成されることになる。
このように図10、11に示す場合には、複数の植物再生基盤を用いて、植栽基盤の複数回の移設を繰り返し、再生領域の水域内等に沈水植物の再生を行うものであった。しかし、図には示さないが、沈水植物が植栽された1個の植栽基盤を有する植物再生基盤を、1回移設することで、沈水植物の再生を図っても一向に構わない。あるいは、複数の植物再生基盤を用いて、1回の移設を行うことで、沈水植物の再生を行っても構わない。あるいは、1個の植物再生基盤を用いて、複数回の移設を行うことで、沈水植物の再生を図っても構わない。
また、上記説明では、複数の植栽基盤が同じ大きさのものを用いた場合を例に示したが、例えば、図12に示すように、異なる大きさの植栽基盤を用いても構わない。図12に示す場合には、小さい植栽基盤18aと、大きな植栽基盤18bとは、移設する再生領域を異ならせている。再生領域300aは小さい植栽基盤18aで、大きな再生領域300bは大きな植栽基盤18bをそれぞれ移設して、沈水植物の再生を図る場合である。
さらには、例えば、図13に示すように、複数の植栽基盤を用いるに際して、植栽基盤毎に異なる沈水植物を植栽して、かかる異なる沈水植物の再生を図ることもできる。図13に示す場合には、植栽基盤18では沈水植物201を、植栽基盤19では沈水植物202をそれぞれ植栽しておく。かかる植栽基盤18、19の移設を行うことで、再生領域300cには沈水植物201の群落を、再生領域300dには沈水植物202の群落を、それぞれ同時期に並行して再生させることができる。
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、植栽基盤を利用して植物再生基盤を形成した。かかる植物再生基盤は、前記実施の形態1では、植栽基盤の周辺への沈水植物の根付きが、すなわち所定長の草丈が確認された時点で、水底から離すことで移設を行っていた。しかし、根付きがしっかりしたものであれば、植物再生基盤の植栽基盤を水底から離す際に、周辺に伸びた根付きの状態が覆される場合もあり得る。特に、水底の底土の層が薄い等の場合は、植栽基盤の引き揚げに際して、沈水植物の根付きが容易に覆り易い場合も想定されるのである。
前記実施の形態1の記載では、植栽基盤を有する植物再生基盤を引き揚げることで、引き揚げる際に沈水植物の周辺へ張り出した根を切る構成を示した。しかし、かかる植栽基盤の水底からの離しに際しては、折角張った根付きをできる限り覆さないようにしたい。そこで、本発明者は、植栽基盤の周囲に根を切り易いようなエッジ部材を設けておく構成を発案した。例えば、植物再生基盤を構成する植栽基盤を、板厚の薄い金属製、あるいは錆びない軽いプラスチック製のエッジに構成した板で囲っておく。
沈水植物の根は、かかるエッジに構成した薄い板を乗り越えて周囲に根を張る。そこで、植栽基盤自体を引き揚げる際に、薄いエッジに構成した板部分に乗り上げている根を、乗り上げている部分で切断することができる。勿論、板状部材に、根の切断が容易な刃を付けておいても構わない。
かかる植物再生基盤100の構成を、例えば、図14に模式的に示した。植物再生基盤100には、前記実施の形態1で説明した植栽基盤10、沈設手段20、回収手段30、及び表示手段40が設けられている。このように構成された植物再生基盤100では、図に示すように、植栽基盤10の周囲が板状部材50で囲われている。例えば、ステンレス等のさびが発生しない金属板50aで薄く形成されている。かかる金属板50aには、上方の縁に、刃等が設けられたエッジ部51が形成されている。かかるエッジ部51を乗り越えた沈水植物の根は、植栽基盤10を引き揚げる際にエッジ部51で切断することができる。
図14に示す構成では、植栽基盤10の周囲を囲う板状部材50が、植栽基盤10の側面よりも少し高い場合を示している。しかし、板状部材50の高さは植栽基盤10の側面よりも低く構成しても構わない。かかる板状部材50の上方の縁にエッジ部51を設けても構わない。
さらには、設置後周辺範囲への沈水植物の根付きが堅固なものとなった段階では、次のステップS30での移設に際しては、より作業の困難性が発生する虞がある。沈水植物の根が根付いてはいるが、しかし、それ程堅固には根付いていなという状態で、植栽基盤を上方に引き揚げる場合には、比較的容易に植栽基盤から伸びた根を切断することができる。しかし、草丈が十分に伸びた状態では、場合によっては、植栽基盤を引き揚げて沈水植物の周辺に張り出した根を切断するのが難しくなる場合も十分に想定される。かかる場合に、無理に植物再生基盤を引き揚げて植栽基盤を水底から離すようにすると、沈水植物の根付き部分が覆される虞が大である。根付きが外れて、さらに草丈が伸びているため、沈水植物の全体が水面上に浮く場合も想定される。勿論、潜水して周囲へ伸ばした根をはさみ等で切断する場合には、かかる心配は必要ない。
かかる場合に、周囲へ伸ばした根付きをさらに切断し易くする構成が必要である。例えば、図示はしないが、植栽基盤の周囲の四隅に前記エッジ部51より高い支柱を設けて、この支柱に、エッジ部51の外周側に二重筒状になるように一回り大きな上方エッジ部を、上下移動可能に設けておく。沈設しているときは、上方エッジ部は、植栽基盤の周面の上方に離して固定しておく。その状態で放置しておき、沈水植物からの根を、エッジ部51と上方エッジとの間から周辺に張らせる。所定期間経過後、植栽基盤の周辺への沈水植物の再生が確認できた段階で、周囲に設けた上方エッジ部を、下方に降ろして、エッジ部51と上方エッジ部とで根を挟んで切断してもよい。切断後、植栽基盤を上方に引き揚げて回収すればよい。すなわち、植栽基盤の周囲に、沈水植物の張った根を切る挟み部材を設けた構成である。
さらには、例えば円筒形の下部をエッジ加工した、エッジ部材52を、植栽基盤10とは別途構成しておいても構わない。かかるエッジ部材52を使用すれば、船上より、植栽基盤10を囲うように周囲へ落とし、根を切りながら植栽基盤10を回収するということもできる。かかる構成を、図15に模式的に示した。かかるエッジ部材52を使用すれば、植物再生基盤100自体を加工する必要がないため対応が簡単に行える。また、一つ一つの植物再生基盤100に根を切る構成を設けることなく、一つのエッジ部材52で、設置した複数の植栽基盤10の処理が行えるので、コスト的にも安価に行える。
また、透明度が低い水域での上記構成のエッジ部材52の使用が可能なように、植栽基盤10の周縁が水面上から分かるようにしてくとよい。例えば、植栽基盤の四隅に水に浮くロープや、水に浮くように浮子をつけておけばよい。例えばテグスを植栽基盤に固定し、浮きをつけると軽量かつ邪魔にならないので好ましい。さらに、エッジ部材52を植栽基盤より大きめに作成しておき、植栽基盤10の真ん中にテグスやロープ、浮きをつける構成としておいてもよい。かかる構成を採用すれば、エッジ部材52のおおよそ真ん中を、植栽基盤10の真ん中に位置合わせしながら、植栽基盤10の周囲を囲うように落とすことができ、透明度が低い水域でもエッジ部材52の使用が確保される。
本実施の形態で説明した構成は、上記実施の形態1で説明した移設ステップを有する沈水植物の再生方法で有効に使用することができる。しかし、かかる構成は、植栽基盤の周囲に根を伸ばした状態で、その根を切断して植栽基盤を他の場所に移す移設を行う場合には、沈水植物の再生を目的としない場合でも、有効に利用することができる。植栽基盤の移設時に、根付きを切断する場合に有効に適用できるものであり、沈水植物の再生方法に利用を限定する必要はない。
さらには、勿論、かかる再生方法に使用するばかりでなく、移設を行わない場合にも有効に適用できる。沈水植物の根付きを、適宜カットする場合等にも使用することができる。沈水植物を、ある範囲内にのみ再生したい場合等に、植栽基盤を所定範囲に設置して、周辺に張る沈水植物の根を適宜に切断してやれば、周辺域への沈水植物の広がりを防止することができる。
そこで、本実施の形態で説明した発明は、特許請求の範囲に記載する場合は、次のように記載することができる。例えば、請求項1の記載としては、植栽基盤に植栽した植物の周辺に張り出す根を切断する部材を、前記植栽基盤の周囲に、前記周囲と一体にあるいは別体に設けることを特徴とする植栽基盤と記載することができる。請求項2としては、例えば、請求項1記載の植栽基盤において、前記切断する部材には、刃が設けられていることを特徴とする植栽基盤と記載することができる。請求項3としては、例えば請求項1または2記載の構成において、前記植栽基盤に植栽される植物は、沈水植物であることを特徴とする植栽基盤と記載することができる。請求項4としては、例えば、前記植栽基盤には、沈設手段と、回収手段、表示手段の少なくともいずれかの手段が設けられていることを特徴とする植栽基盤と記載することができる。かかる発明の目的としては、例えば、植栽基盤から周囲へ伸張した根を切断することにあると記載することもできる。かかる目的は、沈水植物の再生の効率化にも資するものであることは言うまでもない。
(実施の形態3)
本実施の形態では、前記実施の形態1で使用する沈水植物を植栽した植栽基盤の形状について説明する。前記実施の形態では、沈水植物の再生方法で使用する植物再生基盤は、植栽基盤を利用したものであることを説明した。上記の如く、本発明は、植栽基盤を移設していくことで沈水植物の再生領域を拡大することを特徴としている。かかる構成を有する本願発明で、より再生効率の良い植栽基盤の形状を考えた。
植栽基盤の形状を適切なものとすることで、再生の効率がよくなることを見出した。勿論、かかる構成の植栽基盤は、本発明にのみ使用できるものではなく、その他の方法等で行う通常の沈水植物の再生等にも使用することができるものである。しかし、本発明に適用すると、本実施の形態に説明する構成の効果が、顕著に感得されるのである。かかる構成の植栽基盤の一例を、例えば、図16に模式的に示した。
沈水植物の植栽基盤を再生領域の水底に設置した場合、植栽基盤の大きさで、再生領域の拡大効率が異なることに本発明者は気づいた。小さい植栽基盤と、それよりも大きな植栽基盤とでは、植栽基盤に植栽された沈水植物群落の周囲への拡大率が異なるのである。勿論、沈水植物の周囲への根を張る速度は一定と見做せるが、植栽基盤を核とした周囲への拡大率は異なるのである。すなわち、核となる植栽基盤の面積に対しての沈水植物の周囲への拡大割合が、異なることに思いが至ったのである。
すなわち、沈水植物群落の拡大効率を調査した結果、群落のサイズが小さいときはその拡大率は大きかった。しかし、群落面積が大きくなるにつれて、拡大率は小さくなった。すなわち、植栽基盤に当初植えられた沈水植物の群落の面積が、小さい程、周辺への沈水植物の群落の拡大効率がいいことに気づいたのである。
沈水植物群落の拡大速度については、本発明者が調査した結果では、四角形の群落を形成している場合、群落のサイズが小さいときは一月で一辺が約2倍に拡大することが確認された。これに対して群落サイズが大きくなると、一月あたりの一辺の拡大量は平均で0.8m程度となった。つまり、小さな植栽基盤を投入すると、一辺の長さが0.8mとなるまで植物群落一辺の長さは毎月2倍と拡大していく。しかし、植栽基盤の植物群落一辺の長さが0.8mを超えると、毎月0.8mずつ拡大していくということである。これは、大きい基盤を少量設置するよりも小さい基盤を多量に水域に設置し、その回収、再設置を繰り返すことが群落を再生させるには、効率が良く望ましいということを示している。
尚、この0.8mという値は、植物種や水域の水深、水質等の条件によって異なるので以降「植物群落拡大速度の閾値」と記載する。
植栽基盤の設置間隔は、再生期間に拡大が予想される群落サイズ以上となるように、再生領域内の対象水域に均等に配置するのが望ましい。例えば、最終的に植栽基盤を中心に群落の一辺が5mと拡大する場合には、植栽基盤と植栽基盤の間隔は5mもしくはそれ以上として配置していくことで効率的な再生を図ることができるのである。
かかる植栽基盤の設置間隔は、沈水植物の群落の拡大速度から求めることができる。基盤一辺のサイズ(m)をL0、再生期間(月)をnとすると植物の生育期間(月)はn/2(一年で植物が良く育つのは春から秋までの5月〜10月の6ヶ月であるため)、植物群落拡大速度の閾値をd、基盤設置期間(月)(設置場所での栽培期間)をpとすると、基盤の設置間隔(拡大する沈水植物群落1辺の長さに相当する)LXは設置場所の移設回数x(移設無の場合はx=0、1回目の移設場所ではx=1)より求めることができる。xの最大値は(n/2p)−1で計算する。計算結果は、表1に示すようになる。
尚、cは、設置場所において拡大する沈水植物群落の一辺の長さが、沈水植物群落拡大速度の閾値を越えるn/2−pxの境界値を示している。
表1に示すように、かかるケースでの好ましい基盤の設置間隔は、初期の設置場所では10.6m、移設1回目の場所においては8.2m、2回目の場所では5.8m、3回目の場所では3.4m程度とすることで無駄なく再生を進めることができることが分かる。
また、表2に示す沈水植物群落面積から、植栽基盤を小さく分割することの有利性、植栽基盤を繰返し移設することで再生が加速化できることが分かる。すなわち、例えば、同じ植栽基盤面積4m2を用いて、2年間(n=24)に再生を図ることができる面積を以下の条件で試算した。なお、植物群落拡大速度d=0.8と仮定した。移設しない場合はn/2=pとなる。計算結果を図17に示す。
図17に示すように、(1)ケースI:2m×2mの植栽基盤1個で移設無しの場合には、L1=2.0、b=1、n=24、p=12となる。(2)ケースII:0.5m×0.5mの植栽基盤16個(4m2)、移設無しの場合には、L1=0.5、b=16、n=24、p=12である。(3)ケースIII:0.2m×0.2mの植栽基盤100個(4m2)、移設無しの場合には、L1=0.2、b=100、n=24、p=12である。(4)ケースIV:0.2m×0.2mの植栽基盤100(4m2)、6生育期間(1年)ごとに移設の場合には、L1=0.2、b=100、n=24、p=6である。(5)ケースV:0.2m×0.2mの植栽基盤100個(4m2)、3生育期間(半年)ごとに移設の場合には、L1=0.2、b=100、n=24、p=3である。
実際は成長した沈水植物群落自身より発生する切れ藻が周囲に根付くことがあるため、計算値よりも大きな面積とはなるが、切れ藻を見込まないとケースIではほとんど群落は拡大しない。しかし、同じ植栽基盤面積でも植栽基盤をより小さく分割するほうが拡大速度は大きくなる(ケースII、III)。また、移設を繰り返すことによって、より早く効率的に拡大することができる(ケースIV、V)。
尚、上記説明における拡大速度は植物種によって異なるので、その値は現地で計測したものを用いることとする。式上ではd=0.8としている。実測できない場合は便宜的に0.8mを使用すればよい。
一方で、沈水植物群落が繁茂すると、内部に光があたらなくなる箇所ができる。植物は新しい葉の生産と古い葉の枯死が繰返し行われており、ところどころ、水底では植物群落が生えない場所が生まれてくる。このため、植栽基盤の面積をあまり小さくすると、移設する際に回収した植栽基盤に植物が根付いていない現象が起きる。植物種によって異なるが、発明者らが栽培した結果、四角形の場合、一辺のサイズが15cmより小さいと植物がついていない植栽基盤がみられることが多かった。このことから、植栽基盤の一辺は、図16に示すように、15cm以上、好ましくは20cm以上に小さく分割して栽培することが望ましいことが確認された。
また、かかる植栽基盤の寸法の上限については、特段規定することはないが、例えば、トラック等で運搬する際の扱い易さを考慮するという観点からは、例えば60cm以下であればよいと規定することもできる。さらには、現状の規模としては、トラックでの運搬では、2m四方の大きさが最大であることから、一辺を2mと規定することもできる。
また、基本的には、上記説明の四角形以外でも、例えば、円形の場合も同様な計算が成立する。しかし、円形の場合は、栽培する際に四角形だと隙間無く並べて栽培できるが、円形の場合には並べた状態で隙間ができてしまう。さらに、植栽基盤の製造に際して、円形に切るのは資材のロスもあり、費用もかさむため実用的ではない。
さらには、植栽基盤を15cm四方の四角形に形成した場合には、かかる小さな植栽基盤毎に沈水植物を栽培して、初期の沈水植物の栽培が終了した時点で、かかる植栽基盤を用いて植物再生基盤を形成することとなる。かかる場合には、植物再生基盤を作成する前の段階の沈水植物の初期の栽培時に、15cm四方等の小さい植栽基盤を複数個一括して支持枠等に収容して、一括栽培すればよい。かかる一括栽培で、沈水植物が所定の長さまで到達したのち、栽培部を引き揚げ、支持枠から植物の根付いた植栽基盤を取出し、前記沈水植物再生基盤の構造とし、対象水域に沈設する。
かかる支持枠に複数個の植栽基盤を収容するに際しては、仕切りはあった方が好ましいが、しかし、なくても構わない。本発明者の実験では、ぎっしり詰めても、沈水植物の根は非常に細く切れやすいため容易に分割可能であるため、かかる仕切必須ではない。すなわち、仕切を設けなくても、隣接する植栽基盤にまたがって根が生えても、容易に植栽基盤同士を切り離すことができる。
以上のように一辺の長さが規定された植栽基盤に沈水植物が植栽されたものを使用して、前記実施の形態で述べたように、植物再生基盤を形成する。このようにして形成した植物再生基盤を、沈水植物の再生領域の水域内の水底に沈設する。沈設に際しては、例えば、前記実施の形態で説明した沈設手段を用いて行えばよい。沈設後は、所定期間放置して、植栽基盤から周辺の所定範囲に根付き等を待つ。根付き、あるいは草丈の伸張等が確認された時点で、前記実施の形態1で示したように、移設ステップを行う。移設ステップでは、例えば船上から表示手段を目視で見つけて、回収手段により植栽基盤を水底から離して、未再生領域に移設すればよい。かかる移設に際しては、ランダムに行ってもよいが、前記実施の形態で説明したようにシステマティックに行っても構わないことは、勿論である。
そこで、本実施の形態で説明した発明は、特許請求の範囲に記載する場合は、次のように記載することができる。例えば、請求項1の記載としては、植栽基盤は一辺が15cm以上の形状を有していることを特徴とする植栽基盤と記載することができる。上限は、分割しない場合の通常基盤の大きさは2m四方の四角形であるため、かかる寸法を上限としておけばよい。トラック等での輸送上の制限等を上限としても構わない。また、例えば、請求項2としては、請求項1記載の構成において、前記形状とは、四角形であることを特徴とする植栽基盤と記載することができる。例えば、請求項3としては、植栽基盤の形状の周長が、四角形の場合には60cm、円形の場合には66.6cm以上であることを特徴とする植栽基盤と記載することができる。これは、植栽基盤が四角形の場合、その最小基盤サイズは上記の如く少なくとも一辺15cm以上の正方形があることか好ましいからである。また、円形の場合には、最小サイズは一辺15cmの正方形の外接円と見做すことができるので、その外接円の周長が66.6cmであるからである。すなわち、四角形でも、円形でも、植栽基盤の形状としては、周長が60cm以上あればよいことが確認できる。かかる周長寸法の上限は、上述と同様にトラック等での輸送上の制限等を上限としても構わない。例えば、請求項4としては、沈水植物の植栽基盤の作成方法であって、前記植栽基盤は、前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の植栽基盤であり、前記植栽基盤は、前記植栽基盤を複数個合わせて形成した大型植栽基盤で沈水植物を栽培し、その後に前記大型植栽基盤を前記植栽基盤の形状に分割して作成することを特徴とする植栽基盤の作成方法と記載することができる。かかる発明の目的としては、例えば、周囲への拡大が効率的に図れる植栽基盤の形状を提供することにあると記載することもできる。かかる目的は、沈水植物の再生の効率化にも資するものであることは言うまでもない。
(実施の形態4)
本実施の形態では、前記実施の形態1で使用する再生方法で、再生領域の水域内に設置する前の段階の沈水植物の栽培方法について説明する。沈水植物を所定の草丈まで栽培する栽培方法としては、再生目的の対象水域にて栽培する方法と、水槽を用いて栽培する方法とがある。本実施の形態では、対象水域での水深の浅い場所で栽培する栽培方法について説明する。
尚、本実施の形態の栽培方法は、本発明の沈水植物の再生方法にのみ使用できるものではなく、他の方法で使用しても一向に構わない。しかし、本発明に適用するとより効果が顕著に感得されるのである。
沈水植物は、成育環境の水質に適応した形態をとる性質がある。例えば、光環境に応じて葉の大きさや、葉の間隔を変えることが知られている。そこで、沈水植物の群落再生目的のためには、沈水植物の再生領域の水域で栽培するのが好ましい。かかる対象水域にて栽培する方法では、沈水植物は水質に適応した形態をとるので、植栽基盤を沈設した際に沈水植物が対象水域の水質等の環境になじみやすいというメリットがある。
また、沈水植物の葉はクチクラ層が発達しないため、空気中では水分を保持できずに枯死する。このため、沈水植物の運搬をする際にはシートで覆う等、乾燥しないように細心の注意を払う必要がある。栽培した沈水植物を再生領域の水域内で移動させることで、移動に際しての乾燥への注意を払う必要も少なく、植物体へ与えるダメージを小さくすることができる。さらには、再生領域が大きく、多量の植栽基盤が必要なケースにおいては、水域外で栽培するには植栽基盤の数に見合った栽培用水槽の確保、栽培用水槽を設置する栽培場所の確保等が問題となるが、水域内で栽培する場合はその点が問題にならない利点もある。
しかし、一方では、再生領域の水域内で栽培するため、再生領域における自然の栽培環境が大きく影響し、沈水植物の成育に悪影響を与える場合も想定される。そのため、栽培に際して十分な沈水植物の保護対策がとりにくい。台風や大雨等の天候災害や、水域の水質、鳥や魚等の捕食被害等の影響を受けやすいというデメリットがある。勿論、再生領域の環境自体が、人工的に管理が行えるところであればそれ程に問題は発生しない。しかし、通常、再生領域は人為的に環境コントロールがしにくい自然環境の中にあるため、かかる問題点にも注意する必要がある。
他方、水槽で栽培する方法では、人工的に管理された系で栽培するため、例えば透明度の高い(光が十分にあたる)きれいな水で確実に栽培することができる。しかし、栽培場所と再生領域とは、基本的には異なるため、栽培場所から再生領域まで運搬する必要がある。かかる植栽基盤の運搬には、植栽基盤を含めた沈水植物が乾かないように、湿度の管理や物理的に植物体へのダメージを与えない等気を配る必要がある。また、栽培に際して、植栽基盤の数が多量になると、前述の如く、栽培面積が大きくなり、人工の水槽ではその確保が難しい等、種々のデメリットが考えられる。
そこで、本実施の形態では、対象水域内の再生領域に設置する前の沈水植物を栽培する方法として、つぎのような構成を考えた。すなわち、水域の沿岸等の水深が浅く水底に十分な光のあたる場所で栽培するのである。さらには、浮島により基盤を水中に浮かせて栽培する方法、あるいは栽培基盤となる植栽基盤を吊り下げて栽培する方法等も考えた。
本実施の形態では、上記栽培方法の内、水域の沿岸等の水深が浅い水底を利用して栽培する場合について説明する。例えば、その方法を、図18に模式的に示した。すなわち、現地の沿岸等、浅い場所で植物の生育に必要な光をあてて沈水植物を栽培する方法である。そのため、ダム湖や直立護岸のように急に水深が深くなるような場所は、栽培場所として望ましくない。
また、沿岸等現地の水底での栽培方法では、魚類やウシガエルのおたまじゃくし等の食害、またはザリガニやテナガエビ等沈水植物を切断する等の生育阻害を最小限にするため、水中からの侵入を防止できる遮水シート等のシート、あるいは魚類侵入防止ネット、あるいは鋼矢板等を水底から水面までを覆うように設けておけばよい。鳥からの捕食を防止するためには水面上部に、防鳥ネット等のネットまたは光透過性のシート等を設けておけばよい。かかる場合を、例えば、図19、20、21に示した。
図19、20に示すように、沿岸400の水深の浅い場所の水中側が、周囲を遮水シート410で囲われている。かかるい遮水シート410で囲った上方側を、図19に示すように鳥除けネット420aで囲っている。上方からの鳥の侵入を阻止するためである。かかる遮水シート410は、図20(a)、(b)に示すように、例えば、単管等で構成した支柱430を水底に立て、かかる支柱430を介して固定されている。
このようにして水中側に設けられた遮水シート410の上端側は、フロート421で支持されている。フロート421の上方側は、支柱430の上端側を利用して魚類進入防止ネット420bが周囲を囲むように設けられている。すなわち、水中側を遮水シート410で囲った範囲の上方側は、さらに魚類進入防止ネット420bで周囲が囲われているのである。かかる魚類進入防止ネット420bを設けるのは、産卵期等に鯉や鮒等が水面をジャンプして遮水シート410で囲われた水域内に入れないようにするためである。
また、フロート420の下方の水中内には、遮水シート410のシート本体422が垂れ下がるようにして設けられている。シート本体422の下方側は、シートアンカー423、チェーンアンカー424が設けられ、シート本体422が水流等で流されないようになっている。このようにして、周囲の水域から隔離された状態で沈水植物を栽培する。
隔離した栽培水域内の透明度が著しく低い場合は、抽水植物を植栽した浮島やアオコ除去装置などで透明度を改善するとよい。もしくは、沿岸域のため、はじめは岸側の浅い場所で栽培し、草丈の成長に伴い深い場所へ移設しながら所定の草丈まで栽培しても構わない。もしくは櫓状のものを設置し、その上部で、つまり浅い水深で栽培し、草丈が伸張したら櫓から降ろして、深い場所で栽培しても構わない。
図21は、鋼矢板等の遮水壁440により水域の確保を行って栽培する方法を説明した図である。図21(a)に示すように、鋼矢板等で構成された遮水壁440を、水底深く打ち込み、完全に遮水する。かかる状態で、隔離した水域内の水位を、光が十分に当たる水深まで下げる。水深を下げるには、例えば、ポンプ441を用いて隔離水域内の水を排出すればよい。また、植栽基盤は、図21(a)に示すように、支柱430に係留した水底に沈められている。このようにして沈水植物を光が当たる状況で栽培し、図21(b)に示すように、徐々に成長に従って、ポンプ441等で周囲から水を引いて水位を上げてゆく。沈水植物の成長に従って水位を上昇させるため、周囲の水が濁っていても効果的に再生することができる。汚濁が著しい水の場合は、ポンプで取水後に砂ろ過等により浄化水を導入しても構わないが大規模な施設となる。
また、図21(a)、(b)に示す場合には、紙面左側で傾斜した護岸を利用した構成を示している。すなわち、護岸を背景にして前面側を遮水壁440で囲うようにして、隔離水域を設定した場合を示している。しかし、護岸を利用することなく、遮水壁440で全面を囲うようにして、隔離水域を設けても構わない。
沈水植物の植栽初期の挿芽は根がついていない葉と茎であったり、根がついているものでも植栽基盤へ根付いていない。植栽初期の沈水植物は植栽基盤へ根を張るためにエネルギーを使用しており、また植栽初期にはその沈水植物のボリューム、すなわち量自体が非常に少ないため、捕食等の影響を受けると成育できずにすぐに消えてしまう。このような動物による捕食や生育阻害の影響を最小限にするべく、上述のように、栽培場所の周囲を隔離しておく。
上記した図20に示す遮水シート410による隔離水界と、図21に示す鋼矢板等の遮水壁440による隔離水界とは、その効果に違いがある。すなわち、遮水シート410による隔離水界の構成では、周囲との水の交換は殆どされない。つまり、水の交換が殆どないため、基本的には透明度が一度改善されれば、透明なままを保つ効果がある。また、鳥除け、魚除けネット等を使用して捕食防止を施すことができる。かかる遮水シートで隔離された水界内では、水位変動は行えない。これは、水底側での遮水機能が完全では無いため、水位は隔離水界以外の水界と同じレベルになるのである。従って、著しく透明度が低い場合は、浅い場所で栽培(岸側、底上げ)するか、透明度を改善する必要がある。透明度の改善の仕方は、隔離水域内の水を浮島やアオコ除去装置等で直接浄化する。一度浄化すると汚くならない。もしくは、清浄な水にいれかえる。但し、アオコ等の植物プランクトンはポンプ内で除去できず、砂ろ過装置等が必要となってしまう。
一方、鋼矢板等の遮水壁を使用して隔離する場合には、完全遮水ができる。そのため、周囲との水の交換は一切行われず、ポンプ等を使用して隔離水界内での水位変動ができる。隔離された水界は、水界外とは完全に遮断されているためである。かかる構成でも、鳥除け、魚除けネット等で捕食防止は勿論図れる。尚、浮島やアオコ除去装置等の水質浄化装置をいれてもよいが、水位変動ができるのでその水位を調節することで沈水植物が光を十分に享受できるようにする方が簡便であり、しかもコスト的に有利である。
このように隔離水界といっても、その隔離の仕方によりその効果は違う。そのため、状況に応じて使い分けることが必要である。また、同じ水域の沿岸部であっても、その沿岸部の位置する環境で、遮水シート、遮水壁を用いた隔離水界の方法を使い分けることも必要である。
このようにして沈水植物の植栽初期には、隔離水域内の水位を下げ、成長に従って水位を上げる。かかる水位を下げておく植栽初期とは、例えば挿芽となる苗株の葉の上部への光が大気中の10%以上届く水深となるように水位を下げればよい。便宜的に透明度は大気中の光が15%となる水深であるため、その水深に植物の草丈を設定すれば簡単である。例えば、水深2mで透明度が30cm、苗株が30cmであれば、水位を60cmとすればよい。
水面直下まで沈水植物が成育したら、再び苗株の葉の上部への光が大気中の10%以上届く水深となるように水位を上げればよい。これを繰り返すことで沈水植物を所定の草丈まで生育させることができる。透明度が30cmであれば、栽培初期は水深30cmで開始し、水面直下まで草丈が成育した後、30cmずつ所定の草丈まで水位を上げていけばよい。
また、再生領域の植栽基盤を設置する場所の水深が深く、栽培する沈水植物の成長に必要な光が十分にあたらない場合も当然に想定される。かかる場合には、再生領域の中でも、栽培場所には再生領域より水深の浅い場所を選ぶ。光が沈水植物の成育に必要な程度以上あたるようにすることが必要となる。かかる状態の栽培場所で、沈水植物の草丈を伸ばして、再生領域の水域内の水底に設置した場合に、成育に必要な十分な光があたる水深に届くまで草丈を栽培で伸ばしておく。
通常は、沈水植物の草丈は、最大で水面直下となる程度に設定して、再生領域に設置すればよい。しかし、上記のような事情がある場合には、水深の浅い栽培場所では、水底から草丈の先端までの長さが、再生水域の水深より上にくるように栽培しなければならない。例えば、浅い沿岸で栽培している場所の水深が1mで、再生領域内に植栽基盤を設置する再生場所が1.5mの場合であったとする。かかる再生領域に設置する場所では、例えば濁っていて、水深1mでは沈水植物に必要な光が十分ではないものとする。
かかる場合には、水深の浅い1mの栽培場所で、1mを超える草丈の栽培を行う必要がある。当初、発明者は、かかる解決策に当惑した。沈水植物は、水面上に真っ直ぐに茎を突き出して成長する植物ではない。そこで、どのようにして、水深以上の草丈を有する沈水植物を成育させるか、その解決策に頭を悩ました。しかし、ある事実に気がついた。すなわち、沈水植物には、草丈が水面より上に伸びる必要がある場合には、水面下まで伸びた草丈が、水面上に葉を浮かべながら水面に沿って展開して今度は草丈を伸ばすという性質があることに気づいた。
そこで、草丈の長さLは、水底から水面までの長さL1と、水面に沿って展開した長さL2との総和(L1+L2)で規定することができることを見出したのである。このようにして、水深より長い草丈の沈水植物の栽培ができることになる。例えば、1mの水深では、水面の真下まではL1=1mの草丈が成長する。その後、水面に沿って展開することで草丈は伸びるので、例えばL=0.5mだけ草丈を伸ばすことも可能である。このようにして、L1+L2=1.5mとなった時点で、栽培を止めて、かかる1.5mに伸びた沈水植物を、水深1.5mの再生領域の水域内に設置して、沈水植物の再生を図ることができる。水面上に沈水植物を展開させ、植物長が1.5mになってから設置すれば、再生が確実に行えるのである。かかる様子を、図22に示した。
すなわち、沈水植物の草丈の測り方は、水底部分から水面までの長さと、水面上に展開した草丈の先端までの長さで、判定すればよい。一株から数本の分岐をだすのが特徴であり、判定に際しては、前記実施の形態でも述べたように、一株である分岐した草の丈から判断してもよいし、あるいは複数の株で判断しても構わない。一本でも光が十分にあたればなんとか成育すると考えられるので、判断に際しては、一本の草丈で判断すればよい。沈水植物は、一株から数本の分岐をだすのが特徴である。
また、以上の構成を有する本実施の形態の構成では、沈水植物の植栽基盤は、水位の変化に関わらず、水底に置かれた状態で行われる。そのために、沈水植物に必要な栄養物が多く含まれている底泥に接した状態での初期栽培が可能となる。すなわち、成育に必要な栄養という観点からは、極めて良好な成育環境で沈水植物の栽培が行える方法である。
そこで、本実施の形態で説明した発明は、特許請求の範囲に記載する場合は、次のように記載することができる。例えば、請求項1の記載としては、栽培水域の水深よりも長い草丈の沈水植物を栽培することを特徴とする沈水植物の栽培方法と記載することができる。例えば、請求項2としては、請求項1記載の構成において、前記水深よりも長い草丈とは、前記栽培水域の水底から水面までの草丈と、水面上に展開した草丈との、総和であることを特徴とする沈水植物の栽培方法と記載することができる。また、請求項3としては、沈水植物の成育に必要な光が水面下所定水深以内である水域に沈水植物を植栽するために、前記所定水深に満たない水深で、前記所定水深以上の草丈にまで沈水植物を成育させることを特徴とする沈水植物の栽培方法と記載できる。例えば、請求項4としては、請求項3に記載の構成において、前記所定水深に満たない水深で、前記所定水深以上の草丈にまで沈水植物を成育させるとは、水面までの草丈長さと、水面上に展開した草丈長さとの総和である草丈長さまで前記所定水深に満たない水深で成育させることを特徴とする沈水植物の栽培方法と記載することができる。かかる発明の目的としては、例えば、草丈未満の水深水域で、水深より長い草丈に成長させる方法を提供することにあると記載することもできる。かかる目的は、沈水植物の再生の効率化にも資するものであることは言うまでもない。
(実施の形態5)
本実施の形態では、前記実施の形態1で使用する再生方法で、再生領域の水域内に設置する前の段階の沈水植物の栽培方法について説明する。本実施の形態で説明する方法は、前記実施の形態で説明した再生領域の水域内の沿岸等の水深が浅い水底を利用して栽培する方法とは異なる。再生領域の水域内で、浮島を用いて沈水植物の栽培を行う栽培方法で、フロートが分離可能、あるいはフロート機能の消失可能に構成された浮島を利用するものである。特に、再生領域の水深が深く、前記実施の形態に述べたような水深の浅い場所での沈水植物の初期栽培の方法が適用できない場合に有効である。
かかる浮島は、例えば、フロート部と植栽部とが分離できるように構成されていることが特徴である。かかる特徴的構成を有した浮島では、所定水深に植栽基盤を沈めて沈水植物を栽培する。かかる所定水深とは、水底まで届かない水深である。かかる水深で、栽培を続けるうちに、沈水植物が成長して、草丈が水面直下にまで達したとする。かかる状態で、全てのフロート部を、沈水植物が植栽されている植栽基盤から分離する。このようにして分離することで、植栽基盤を水中に保持していたフロート部が無くなり、植栽基盤は水中に沈む。このようにして沈水植物の植栽基盤は水底に設置され、水底の豊富な栄養素に基づき必要な草丈に栽培することができる。
上記方法を、例えば、図23に示した。図23に示す場合には、浮島500は、植栽部支持枠510内に設けられた植栽基盤10を有し、かかる植栽基盤10内で沈水植物200が栽培される。かかる植栽部支持枠510は、その支柱部分510aとフロート支持枠520とが、連結部521を介して接合されている。フロート支持枠520には、図23に示すように、フロート522が設けられている。かかるフロート522で、浮島500全体を水に浮かせている。浮島500は、支持体511にワイヤー等の係留部材512で係留され、水等に流されず移動しないように構成されている。係留部材512は、例えばターンパックル等を用いて適宜に長さ調整ができるように構成されている。かかる支持体511は、単管等で構成され、水底に下端側が差し込まれて設けられている。
上記説明で浮島500を支持体511に係留する場合を説明した。かかる構成は、土嚢袋等を浮島につけてアンカーとし用いることで、支持体511を省いても構わない。しかし、支持体511を設ける構成は、次のようなメリットがある。すなわち、沈設後は、所定の草丈まで植物が成長した後、上記アンカーの構成では、重い植栽基盤を引っ張りあげなければならなくなる。さらには、水から引き揚げた植栽基盤を用いて植物再生基盤を作成する際に、単管等の支持体511に結ぶことが必要となる。沈水植物は乾燥に弱いため、水面ぎりぎりの沈水植物が水に浸かっている状態で一旦係留し、植栽基盤を取り出して植物再生基盤を作成するときが必要となり、支持体511があった方が好ましいのである。
かかる浮島500では、適宜に連結部521を解除することで、フロート支持枠520を植栽部支持枠510から外すことができるようになっている。すなわち、植栽部支持枠510に設けた植栽基盤10は、フロート支持枠520を分離することでフロート522と切り離され、水底に沈設させられるのである。沈設した状態の植栽部支持枠510の植栽基盤10には、水中に浮かせていた状態よりも沈水植物200が成育して、草丈が大きくなっている。かかる様子も、図23では併せて示している。
植栽部支持枠510は、より詳細には、図24に示すようになっている。すなわち、植栽基盤10の上方を囲むように、食害防止ネット513が設けられている。食害防止ネット513は、水中に浮かせた状態で沈水植物200を初期の成育をする際に、魚等の餌等とならないように、魚類の侵入を防止するものである。前記実施の形態で述べた魚類進入防止ネットに相当するものである。かかる食害防止ネット513は、例えば、沈水植物200が成育させられている植栽基盤10の上面をほぼすっぽり覆うように構成されている。
植栽部支持枠510の底面側には、ネット支持体514に支持されてマット支持ネット515が設けられている。マット支持ネット515の上に、遮水シート516が敷かれている。遮水シート516の上に、植栽基盤10が設けられている。そのため、植栽基盤10を構成する3次元網目構造等の植栽マット517に塗り込めた沈水植物用栄養物を含む栽培用の土壌518が水に洗われて無くなることがない。また、植栽部支持枠510の底面側には、植栽基盤10を沈設して必要な草丈が伸びた状態で引き揚げることができるように、引揚用部材取付部519が設けられ、例えば、ワイヤロープ等の引揚用部材が取り付けられるようになっている。図24では、図の説明が分かりやすいように、沈水植物の図示を省いている。
尚、上記遮水シート516は、引き揚げた植栽基盤10から再生目的で使用する植物再生基盤を作る際には、面倒でも、植栽基盤10の周囲から除く必要がある。除かないと、水底に沈設した植物再生基盤の周囲への沈水植物の根が張りにくいからである。
また、植栽基盤に沈水植物を定着、栽培する段階で、植栽部支持枠が土壌流出防止を兼ねるのであれば、流出防止シートや遮水シート等は必要ない。アングルのようなもので枠を作成するときは、流出防止シートが必要である。充填土壌は、市販されている植物園芸用の培養土や川砂等で構わないが、対象水域の水底の底泥が沈水植物の生育に適しているので、それを充填することが好ましい。
植栽基盤全てに土壌を充填しても構わないが、基盤サイズによっては非常に重くなる。そのため、粘性を持たせて表面に塗りこむことで、流出し難く、かつ軽量な植栽基盤とすることができる。例えば、底泥にケト土(ヨシやマコモ等が腐食して粘土のようになったもの)を混ぜることで、粘性をもった充填土壌とすることができる。
図25に示す構成では、植栽部支持枠510に直接フロート522を着脱自在に設けた場合を示す。植栽部支持枠510の支柱部分510aは、図23に示す場合よりも長く形成されている。長く形成された支柱部分510aに、フロート522がU字ボルト530a等の固定具530で設けられている。例えば、固定具530がU字ボルト530aの場合には、図25(b)に示すように、フロート522を間に挟むU字ボルト530aを少し緩めに締めて設けておく。フロート522を、図25(c)の説明のように、強く引っ張ると抜ける程度に締めつけておけばよい。このようにしておけば、フロート522を植栽部支持枠510から分離するときに、極めて簡単に外すことができる。かかる構成では、普段は、フロート522には浮力が作用していて、U字ボルト530aの側に押しつけられているため、自然に外れることはない。
このような構成のフロート522は、ある程度沈水植物200が育って来たら、フロート522を分離して水底に沈ませた状態で必要な草丈に育てればよい。植栽部支持枠510を沈設した状態を、図25(a)には、示している。かかる状態では、フロート522が、支柱部分510aから取り外されている。かかるフロート522を支柱部分510aに設ける固定具530としては、例えば、結束バンド、針金、ロープ等の結束線を使用することもできる。また、フロート522は、分離して回収するために軽いものが望ましく、例えば、中空管に構成しておけばよい。さらには、発泡プラスチック、塩化ビニール製、PE、PP、PS製等の種々の軽い構成が使用できる。
図26(a)には、フロートの分離構成の変形例を示す。かかる変形例の構成では、フロート522が中空フロート522a、すなわち中空管に構成されている。中空フロート522aを構成する中空管内には、例えば、空気が入れられている。勿論、空気以外の軽い気体を入れておいても構わない。かかる中空フロート522aは、端部にキヤップ523が設けられ、中空管内の空気等の気体が抜けて水が中に入らないように構成されている。このようにして、図26(a)に示すように、中空フロート522a内に空気等の気体をいれて浮力を作用させることで、浮島500を水中に浮かしておく。水中に浮かせている間に、沈水植物の初期の栽培を行う。
尚、中空管の構成には、例えば、塩化ビニール製の管、あるいは鉄管、あるいは竹製の管等が使用できる。
その後、沈水植物が成育してきたら、中空フロート522aのキャップ523を外して、中空フロート内に水を入れ、そのまま沈設させればよい。すなわち、中空フロート522aを分離することなく、中空フロート522aのフロート機能を消失させることで、フロート分離と同様の役目を果たさせることができるのである。
また、図26(b)には、図23、24に示す植栽部支持枠510とフロート支持枠520を接続する連結部521の変形例を示した。すなわち、植栽部支持枠510の支柱部分510aの上方先端側にリング541を設けておく。一方フロート支持枠520の支柱部分520aの下端側にもリング542を設けておく。両方のリング541、542を、少なくとも何れかのリングにリング差し込み口を切っておき、両方のリング541、542をそのリング差し込み口を介して連結すればよい。分離する場合には、リング差し込み口を介して、リング541、542同士を分離することができる。
あるいは、図26(c)に示すように、二つのリング541、542を、S字フック543a等のフック543でつないでも構わない。かかる場合には、例えばS字フック543aの両端をそれぞれのリング541、542内に通すだけで、連結が行えるので極めて簡単である。また、リング541、542内からS字フック543aの両端を抜くだけで、取り外しも簡単に行える。
上記説明の如く、植栽基盤と連結したフロートを分離可能、あるいはフロート機能を消失させる構成を採用することで、遮水壁等で囲って隔離水域を設けて水位を変化させて沈水植物の初期栽培を行う場合に比べて、格段にその手間とコストを低減させることができる。
上記説明では、水中に浮かした状態で沈水植物の初期の栽培を行い、その後に植栽基盤を水底に沈めて成育を行う場合を説明した。かかる説明では、初期には浮島を浮かせていたフロートを分離して、植栽基盤を沈ませる構成を説明した。かかる場合には、前掲の図26(a)に示す場合を除いて、原則フロートを植栽基盤から完全に分離していた。かかるフロートの分離の構成は、あくまで水中の透明度が少なくともある程度確保されている場合に有効に使用することができるものである。透明度が確保されている水深に植栽基盤を浮かせて沈水植物を成育し、その後フロートを分離することで植栽基盤を水底に沈設させてその後の成育を行う構成であった。
しかし、透明度が確保されている水深が、水底までの水深より短い場合には、水中に浮かせた状態で水底に沈設しても光が沈水植物の葉にあたる程度まで草丈を伸ばしておかなければならない。そのために、水中に浮かした状態での植栽を複数回水深を変化させて行い、水底に沈設させた状態でも光が葉面にあたる程度まで草丈を伸張させる必要がある。しかし、植栽基盤を水中に浮かせた状態で水深を何回かにわたり調節しなければならず、基本的には手間がかかる。そこで、かかる場合に、透明度が確保されている水深に維持した状態でフロートを一部分離することで、草丈を必要な長さに伸張できる構成が好ましい。
すなわち、かかるフロート分離の構成では、フロートを植栽基盤から一部分離することで、水面上にはフロートが無くなる。そのため、水面直下まで延びた草丈を、フロートで阻止することなく、水面に沿って展開させて、より長い草丈に生育させることができる。フロートが、植栽基盤の上方の水面に、水面下の植栽基盤を囲むように設けられていると、水面下まで草丈が伸びた沈水植物が、さらに水面に沿って展開するのを妨げることになる。本実施の形態の構成では、かかる沈水植物の水面に沿った展開を阻むフロートの分離が行えるのである。
あるいは、当初より、フロートを相対にして平行に設ける等、浮島を囲むフロートを、浮島の周囲に間隔を空けて設ける構成を採用しておいても構わない。かかる構成では、例えば、相対したフロートと平行な方向は、フロートが当初よりないために、沈水植物が水面に沿って展開して草丈を伸ばすことができる。厳密には、沈水植物の葉は水面上に浮いて、草丈が水面に沿って展開することとなる。このように相対してフロートを設ける構成であれば、図26(a)に示したように、フロートを分離するのではなくフロート機能を消失させる構成の浮島でも、使用できることとなる。すなわち、浮島に設けるフロートを、沈水植物が水面に沿って展開することができるように、間隔を空けて設けるのである。
かかる方法は、水深が浅い状態で、草丈を伸ばすことができるメリットがある。水深が浅いために光が十分に当り、水面上に展開した葉にも光が当たるため成育環境としては、深く沈めて成育させる場合に比べて、極めて効率的な成育が行えるのである。さらには、ザリガニ等は沈水植物を切断または捕食する等植物活着初期の生育に大きなダメージを与えるが、生育初期を水中に浮かべて栽培することでこのような生育阻害を抑制することもできる。
例えば水深1.5mで、透明度80cmであれば、浮島の植栽基盤の設定水深を80cmとし、水面直下の草丈となるように植物を栽培した後、フロートと基盤を分割し沈設するという一回の処理で、沈水植物を栽培することができる。透明度が50cmであれば、植栽基盤の設定水深を50cmとし、水面上に沿って葉を1mまで展開させた後、フロートを植栽基盤から分離して、分離した植栽基盤を沈設することで沈水植物を栽培することができる。勿論、フロートの分離方法は、図25、26等に示したいずれの方法を用いても構わないのは言うまでもないが、分離方式はその他本実施の形態に記載しない方法でも確実に分離できるものであれば採用することができる。
このようにして所定の水深より草丈を長く成育させた状態で、植栽基盤を引き揚げて植物再生基盤を作成し、その後に再度沈設させて再生を図ればよい。すなわち、沈水植物の所定の草丈の成育と、所定草丈に成育した沈水植物の再生植栽とを、ほぼ同一の箇所で行えるのである。そのため、沈水植物の初期の栽培と、成長後の沈水植物の設置とが、同一の成育環境となるので、沈水植物の再生には好ましい。例えば、水の流れ、風の影響、光の当り具合等、全てが略同一の環境で行われることとなる。再生領域は、自然の湖沼等を対象として設定されるため、通常は、湖沼全域において、沈水植物の成育環境が同一とは言えない場合が多い。
例えば、南側に面した湖沼内の水域と、北側に面した湖沼内の水域とは、光の照射条件が異なる。また、周辺に湖沼内に大きな陰を作る木立がある場合と、ない場合とでは、また異なる。このように、同一の湖沼等を再生領域に設定しても、再生領域内は沈水植物にとっては均一の成育環境とは言えない場合が往々にしてある。かかる成育環境の差を、上記再生領域の上方の水中で沈水植物の初期の栽培を行えば、より解消できる筈である。
また、同一の箇所で栽培を行うということは、栽培している植栽基盤の移動が少なくて済むというメリットもある。すなわち、前述の如く、沈水植物はその特性上、非常に乾燥に弱く、その上物理的な力によりすぐに茎の節から切れてしまう。このため、植物の移動に際しては、水中では非常にゆっくりと移動しなくてはならない。再生領域が別の場所等のように設置場所まで距離があるときには、一度水面上まで揚げて、乾燥しないように、ラップや袋で基盤を覆う必要がある。あるいは、常に散水しながら運搬しなくてはならない。極めて細心の注意と手間のかかる処理が必要となる。さらには、その処理をするのに結構な時間を要することとなる。しかし、本実施の形態で説明した如く、再生領域とほぼ同一の箇所で栽培を行えれば、これらの手間や植物体を弱めてしまうリスクを大きく減らすことができるのである。
かかる浮島は、移設する植栽基盤の大きさが比較的に大きな場合、もしくは再生領域面積が小さく、浮島の数量が少ない場合に有効な構成である。
例えば、再生に際して沈水植物再生基盤が100m2必要な場合、一辺20cmの正方形基盤では約2500基必要となる。これら全てで浮島を構成するには、前記説明の如く、2500基の植栽基盤毎に、基盤支持枠、栄養物の流出を防止するシート、鳥及び魚等からの食害防止用ネット等々種々の構成が必要となる。さらには、沈水植物が水底に設置できるまで草丈が伸張した後は、植栽基盤とフロートの分割、所定の草丈まで生育した後にはそれぞれを引き揚げ、沈水植物再生基盤を作成しなくてはならない。そのために、このように植栽基盤の数が増えると多大な手間とコストがかかることとなる。そのため、上記の如く、移設する植栽基盤の大きさが比較的に大きな場合、あるいは再生領域面積が小さく、浮島の数量が少ない場合に有効な構成である。
このように植栽基盤毎にフロートの分離構成を行うのは、植栽基盤の数が多い場合には、手間等が膨大となる。そこで、本発明者は、小さい植栽基盤を複数一緒にした状態で浮島を構成して、その後にフロートを分離する構成を行うことを着想した。このようにして沈水植物の初期栽培を行い、沈水植物が所定の草丈に成長した段階で、複数の植栽基盤を個々にばらして、植物再生基盤を形成して再生を行えばよいのである。
複数個の植栽基盤を一緒に設ける場合の例を、図27に示した。すなわち、図27に示す構成は、分割した植栽基盤を一つの基盤支持枠にいれて栽培し、所定の草丈に達した後、植栽基盤を取出し、植物再生基盤を作成する構成である。例えば、2m×2mの植栽基盤の支持枠に、一辺が20cmの正方形の植栽基盤をいっぱいに入れると、浮島1基で栽培基盤を100個充填することができる。浮島のサイズは大きくはなるが、これにより浮島の数は2500基から25基と大幅に減らして、沈水植物の栽培が再生領域と同一の領域で行うことができるのである。かかる25基に減らした数の植栽基盤であれば、フロートを分離可能に構成した浮島も、2500基の浮島を構成する場合に比べて遥かに手間がかからず、大きなコスト及び能率改善となる筈である。
図27に示す場合には、図26等に示す構成の植栽基盤10を複数個、基盤支持枠550内に入れた構成を示している。複数個の植栽基盤10は、正方形の植栽基盤10が縦横に整列して収容されている。複数個の植栽基盤10は、例えば、図中に示す破線円形の中に示すように、個々の植栽基盤10に沈水植物200が栽培されている。また、個々の植栽基盤を複数個収容するに際して、仕切を間に介しても構わない。しかし、かかる仕切を設けなくても構わない。仕切を設けなくても、前述の如く、沈水植物が複数の植栽基盤間に根を張っても、根は容易に切り易いので、植栽基盤をその後に分離するのに問題は生じない。
前述のように、これまでの浮島の構成では、フロートが分離可能には構成されていなかった。そのため、植栽基盤を載せた植栽部支持枠のようなフレームを稼動させることで設定水深を可変にして、除々に植栽基盤の水深を水底近くまで下げ、対応することとなる。このようにすれば、所定長さまで沈水植物を栽培することができるが、所望の草丈に相当した水深が確保できない水域では、かかる浮島は使用することができない。
しかし、上記の如く、所望の草丈に相当する水深が得られない比較的浅い場所においては、フロートと植栽基盤の連結を簡単に分離する構造としておくことで、かかる場合の対処が容易にできる。手間もかけずに、構造的にもコストが安く、沈水植物を所定の長さまで栽培することができる。かかる方法で栽培することで、水底に沈水植物を再生することができる。
かかるフロートを植栽基盤と分離できる構成は、本発明の沈水植物の再生方法以外の方法でも、勿論適用できるものである。前記説明の如く、植栽基盤を浮かせるフロートを全部取り外すことで、植栽基盤をそのまま沈設することができる。かかる構成で。一旦沈設した植栽基盤を移設しない構成としても構わないのは、勿論である。
そこで、本実施の形態で説明した発明は、特許請求の範囲に記載する場合は、次のように記載することができる。例えば、請求項1の記載としては、植栽基盤とフロートとを備えた浮島で、フロート機能を除去することができることを特徴とする浮島と記載することができる。例えば、請求項2として、請求項1の構成において、前記フロート機能を除去するとは、前記フロートを前記植栽基盤から物理的に分離することを特徴とすると記載することができる。また、例えば、請求項3としては、請求項1の構成において、前記フロートを前記植栽基盤から物理的に分離することなく、前記フロート機能を消失させることを特徴とすると浮島と記載することができる。また、例えば、請求項4としては、浮島を使用して植栽する植栽方法であって、前記浮島は植栽基盤から前記植栽基盤を浮かせるフロート機能の除去可能に設けられ、前記フロート機能を活かした状態で、植栽する水底の上方の水中に植栽基盤を維持した状態で沈水植物を栽培し、その後、前記フロート機能を除去して前記植栽基盤から前記水底に沈めることを特徴とする植栽方法と記載することができる。例えば、請求項5としては、請求項4の構成において、前記フロート機能を除去して前記植栽基盤を水底に沈める前に、前記フロートの一部を植栽基盤から分離して、前記沈水植物の草丈を水面に沿って展開させることを特徴とする植栽方法と記載することができる。かかる発明の目的としては、例えば、水中に保持した植栽基盤を、その後水底に沈める方法を提供することにあると記載することもできる。かかる目的は、沈水植物の再生の効率化にも資するものであることは言うまでもない。
(実施の形態6)
本実施の形態では、前記実施の形態1で使用する再生方法で、再生領域の水域内に設置する前の段階の沈水植物の栽培方法について説明する。また、前記実施の形態とは異なり、フロート機能の除去可能に構成した浮島を用いなくても実施できるものである。すなわち、現地で浮島を用いることなく、基盤を吊下げて行う栽培方法である。
現地で植栽基盤を吊下げるに際しては、支持体を別途構築する。現地の再生領域の水域内に、植栽基盤の支持体を仮設等して構築する。勿論、常設でも構わないが、必要がなくなった時点で撤去できるようにしておくのが、自然景観等の観点からも、あるいは水上交通等の観点からも好ましい。
浮島で植栽基盤を水中に支持するかわりに、単管等を組み立てて構成した支持体を、植栽基盤の支持に使用するのである。建築現場の足場組に使用する部材等を適宜使用して、組立てればよい。栽培領域の周囲に単管組立で支持体を設け、ワイヤーまたはロープ等の係留部材で、植栽基盤を支持体に結びつける。このようにして、植栽基盤を所定水深の水中に位置させておくことができる。かかる水中内に維持した植栽基盤で、沈水植物を栽培するのである。
植栽基盤を支持体に結ぶ係留部材であるロープの結び目の位置を変えることで、簡単に植栽基盤の水深調節が行える。例えば、支持体を構成する柱等単管に、高さ方向に沿って、段階的に結び目の高さ位置を下方にずらすことで、植栽基盤の設置水深を深くすることができる。
あるいは、支持体に滑車をつけ、滑車を介して支持体と植栽基盤とをワイヤー等の係留部材で結んでも構わない。係留部材のロープを伸ばしたり、あるいはたぐり寄せたりして、植栽基盤の設置水深を変更することができる。かかる際に、滑車を介しているので、ロープの伸ばし、たぐり寄せが楽に行える。かかる係留部材の長さを調節することで、楽に、簡単に植栽基盤の設定水深を変更することができる。係留部材のロープやワイヤー等の長さを変えるだけの簡単な作業のため、植物の成長に応じて植栽基盤の設置水深を簡単に下げていくことができる。
かかる構成を、例えば、図28に示した。図28に示す場合には、前記実施の形態5で述べた場合と比べて、植栽基盤10を含めて植栽部支持枠510、フロート522を含めたフロート支持枠520が設けられていない点が異なる。特段、本実施の形態で説明を行わない箇所は、前記実施の形態5で述べた状態と同様に構成されているものである。
本実施の形態では、植栽基盤10が設けられた植栽部支持枠510は、足場パイプ等の単管を用いた支持体511に係留部材512で係留されている。かかる支持体511は、図23に示すように構成しておけばよい。植栽部支持枠510内の植栽基盤10には、沈水植物200が栽培されている。かかる沈水植物200が成育した段階で、植栽部支持枠510を支持体511に係留していた結び目等の係留位置を変更して、水底に沈設させて設置する。結び目の変更は、例えば、単管の場合はクランプ等を用いて、結び目の滑り止めを行えばよい。
かかる方法を採用すれば、沈水植物の栽培を再生領域の同じ水域内で行うことができる。すなわち、栽培終了後、支持体511に係留している係留部材512は、図28に示すように植栽部支持枠510の底面側の引揚用部材取付部519に設けられているので、かかる係留部材512で引き揚げればよい。その後に、引き揚げた植栽基盤を利用して、植物再生基盤を作成して、その後に設置すればよい。また、設置後、植物再生基盤の移設を行って、沈水植物の再生が行える。
図29(a)では、長さ調節機構を有する結束調整具610を用いて、係留部材512の長さを調整可能に構成した場合を示している。かかる係留部材512は、植栽部支持枠510に設けたリング状の引揚用部材取付部519に通して、ループ状に設けられている。かかるループ状に構成した係留部材512が、支持体511に係留されている。沈水植物200が成育した状態で、図29(b)に示すように、結束調整具610を調整して係留部材512の長さを長くして、植栽基盤10を植栽部支持枠510ごと沈設してさらに成育させればよい。
図30(a)に示す構成は、図29(a)、(b)に示す構成の結束調整具610を用いない構成である。結束調整具610を設ける代りに、係留部材512の一端側512aを支持体511に巻き付け、ループ状に引揚用部材取付部519に通して、他端側512bを少し長めにして支持体512を巻き付ける等して固定する。必要に応じて、図30(b)に示すように、長めにして巻き付けた他端側512bの巻き付けを解除して、沈設させればよい。
図31(a)に示す構成では、食害防止ネット513が栽培初期の植栽基盤には設けられている。その後、沈設した状態では、食害の影響は殆どないので、食害防止ネット513が撤去されている様子を示した。
また、図31(b)に示す場合には、当初から、食害防止ネット513を、支持体511間に張っておく例である。すなわち、植栽基盤10を沈水植物の成長に従って、沈潜させる領域を囲うように、食害防止ネット513を支持体511間に張っておくのである。このようにしておけば、かかる食害防止ネット513内で、植栽基盤10の沈潜を行えばよい。そのため、植栽部支持枠510に食害防止ネット513を着けたり、外したりする手間を省くことができる。
因みに、図31(a)、(b)では、滑車620を用いて支持体511に係留部材512の長さ調節可能に係留した場合を示す。滑車620には、滑車固定部材621が設けられ、適度に係留部材512を調節した状態で滑車620の停止が行えるようになっている。
図32に示す構成では、係留部材512に所定間隔で、予め係留位置が決められた結び目等のように構成した水位調整部材630が設けられている。かかる水位調整部材630毎に、係留部材512の係留位置を支持体511に止めることで、植栽部支持枠510の水深調整が行える。
このようにして、最終的に栽培基盤を水底に沈設することができる。沈水植物が所定の長さ、すなわち設置する場所の水深まで到達したのち、栽培部を引揚げ、支持枠から沈水植物が根付いた植栽基盤を取出し、前記植栽基盤を用いて植物再生基盤を構成し、かかる植物再生基盤を対象水域に設置する。所定期間設置後、かかる植物再生基盤を移設することで、沈水植物の再生が行える。
勿論、前記実施の形態と同様に、本実施の形態で説明した発明は、移設等を前提とした沈水植物の再生方法以外にも適用できるものである。すなわち、再生領域に仮設する支持体に結びつける植栽基盤を、移設することなく設置する構成とすることができる。かかる植栽基盤に沈水植物を根付かせ、その後に水底に、仮設した支持体を利用して楽に水底に沈設して設置することもできる。
また、栽培場所が、食害の影響を受けやすい環境の場合には、支持体の周囲をネットで囲えばよい。あるいは、植栽基盤の上部に網目状の籠を設けても構わない。かかる食害影響防止手段を設けることにより、動物による捕食の影響を防止する構造とすることができる。さらには、前記実施の形態で説明した如く、基盤支持枠550を支持体511に係留するようにして、複数の植栽基盤で一括して沈水植物の初期栽培を行っても構わない。図28〜32では、複数の植栽基盤を一括栽培に使用している例を図示している。
かかる方法は、水深が浅い状態で、草丈を伸ばすことができるメリットがある。水深が浅いために光が十分に当り、水面上に展開した葉にも光が当たるため成育環境としては、深く沈めて成育させる場合に比べて、極めて効率的な成育が行えるのである。さらには、ザリガニ等は沈水植物を切断または捕食する等植物活着初期の生育に大きなダメージを与えるが、生育初期を水中に浮かべて栽培することでこのような生育阻害を抑制することもできる。また、フロートが必要ないため、軽量かつ経済的になり、フロート分離という作業も発生しないので効率的である。ただし、水位の変動が大きな湖沼等では、栽培水深が変動とともに変化してしまう。例えば、30cmに設定しても50cmとなり光が不足することや、逆に浅い水深に設定したら干上がってしまう恐れもある。このため、浮島型にするか、吊り下げ型にするかは湖沼の水理条件に応じて選択すれば良い。
そこで、本実施の形態で説明した発明は、特許請求の範囲に記載する場合は、次のように記載することができる。例えば、請求項1の記載としては、水域内に設けた植栽基盤係留用の支持体に、前記植栽基盤を水深の変化可能に係留し、係留した前記植栽基盤で沈水植物を栽培することを特徴とする沈水植物の栽培方法と記載することができる。例えば、請求項2としては、請求項1記載の構成において、前記支持体には、ネットが設けられていることを特徴とする沈水植物の栽培方法。例えば、請求項3として、請求項1または2に記載の構成において、前記支持体は仮設により設けられ、前記沈水植物の栽培が終了したら、前記支持体の設置水域から撤去されることを特徴とする沈水植物の栽培方法。かかる発明の目的としては、例えば、設置水深を可変に植栽基盤を支持する方法を提供することにあると記載することもできる。かかる目的は、沈水植物の再生の効率化にも資するものであることは言うまでもない。
(実施の形態7)
本実施の形態では、前記実施の形態1で使用する再生方法で、再生領域の水域内に設置する前の段階の沈水植物の栽培方法について説明する。また、前記実施の形態とは異なり、沈水植物の栽培を再生領域内で行うのではなく、水槽を用いて沈水植物を栽培する方法である。かかる方法を、例えば、図33、34に模式的に示した。
沈水植物の栽培に使用する水槽としては、水槽の高さが、沈水植物を所定の草丈以上に育てることができるサイズであればよい。あるいは、水槽の水深が草丈が必要とする所定長さが取れない場合は、水槽の平面域を広くとって、水面に沿って草丈が所定長さ伸ばせるようなサイズにしても構わない。かかる水槽は、ビニールハウス内に設置したり、あるいは水槽を設置したビニールハウス内にヒーター等の熱源を入れる等して、冬季でも沈水植物の栽培ができるようにしておけばよい。場合によっては、直接水槽内に、水温の調節可能な熱源を設置しても一向に構わない。
図33(a)に示す場合は、例えば、清浄水を水槽700内に入れて栽培する場合を示している。すなわち、透明度が高く、水槽700の底まで十分に光が届く場合を想定している。水槽700内には、図33(a)に示すように、温度調節が可能な温調付パイプヒーター710が設けられている。さらに、攪拌して水温の均一化が図れるように水中ポンプ720が設けられている。
かかる構成の水槽700の底には、栽培土壌730が所定層厚で設けられている。かかる栽培土壌730の上に、植栽基盤10が設けられ挿し芽等をして沈水植物200が栽培されている。また、水槽700内には、清浄水740が入れられている。かかる状態で、図33(a)に示すように、沈水植物200が栽培されている。かかる沈水植物200は、図33(b)に示すように、水槽700内に張った水の水面直下まで、成育させられている。かかる状態で、沈水植物200を採取して、その後に植物再生基盤を構成して、再生領域内に設置、移設すればよい。あるいは、図33(b)に示すように、沈水植物200の草丈を水面に沿って所定長さ展開させて伸ばし、かかる沈水植物から植物再生基盤を作成しても構わない。
図34では、例えば、透明でない水を使用した場合を示している。例えば、湖沼等の濁った水を水槽700内に引き入れて沈水植物200を栽培する場合を示している。かかる場合には、図34(a)に示すように、透明度が低いため、当初入れる不透明水750は、水槽700の底に光が届く範囲内の水深とする。その状態で、水槽700の底に所定層厚で栽培土壌730を設ける。かかる栽培土壌730上に、植栽基盤10を置いて挿し芽等を用いて沈水植物200を成育させる。
その後、水槽700内の水面まで育ったら、再度不透明水750を水槽700内に継ぎ足す。沈水植物の先端の葉に必要な光があたる程度までの水深が維持できるように水槽700内に不透明水750を入れる。その状態で、沈水植物200を成育する。さらに沈水植物200が成育して水面下まで成長したら、再度水槽700内に不透明水750を入れて、水面直下まで、あるいは水面に沿って草丈が展開するまで成長させる。このように水槽700内で栽培した沈水植物200を使用して、その後に植物再生基盤を作成し、再生領域内の水域に設置、移設すればよい。
栽培土壌730を設ける代わりに、植栽基盤に充填する栄養物である土壌や泥を、植栽基盤に塗りこんでもよい。使用する植栽基盤は、前記実施の形態でも述べたように、3次元の網目構造を有するマットに構成されている。そのため、かかるマットの網目に塗り込んでおけばよい。あるいは、水槽の底に敷設し、植栽基盤をそこに押し込むように設置しても構わない。かかる植栽基盤に充填する栄養物である土壌や泥、すなわち栽培土壌には、再生する水域の水底の底泥を採取し、敷設するのが好ましいが、大量に必要となる場合は、市販される植物の培養土を用いても構わない。あるいは、川砂を用いても構わない。但し、川砂のように栄養がほとんど含まれていない場合は、栄養に富む土壌や水域の底泥と混ぜて使用すればよい。
このように人工的に設けた水槽内の植栽基盤は、水域内で栽培するのとは異なり、波や流れ等の影響を受けず、かつ水槽の底に植栽基盤を設置するため、底泥流出防止用のシートやそれを支持する部材も必要としない。
かかる水槽の設置場所は、再生対象の水域の護岸等の近くでもよい。あるいは、離れた場所でもよい。特に、対象水域の護岸近くに設置した場合には、対象水域の水を水槽内に導くことができる。当初から再生領域と同様の水質環境で栽培することができ、再生領域に移設した場合の沈水植物の水質環境の変動等の影響のダメージを受けにくくすることができる。
水槽内で使用する水は水道水等の清浄水でも構わないが、上記のように再生領域の水域の近くに設ける場合には、再生領域内の水を引いて利用することができる。しかし、かかる場合には、再生領域の水域内の水質の影響を受ける虞がある。例えば、水域の水の透明度が低い場合等が該当する。かかる透明度が低い濁った水を利用する場合は、水槽内での植栽初期には水深を浅くして、沈水植物に必要な光が十分に得られるようにすればよい。その後、沈水植物の成長とともに、水槽内の植栽基盤の水深を徐々に深くすればよい。沈水植物が所定の長さ(設置する場所の水深)まで到達したのちは、植栽基盤を取出し、前記実施の形態で説明した植物再生基盤の構造とし、対象水域に沈設すればよい。そのため、水槽内の底を上下可変に構成しておいても構わない。
あるいは、再生領域の水を導入する際の供給路に、必要に応じてフィルター等のろ過装置を設けておき、場合によってはそのろ過装置を通すことにより、再生領域の水の透明度等を水槽内では確保できるようにしても構わない。
図35には、かかる水槽を用いて沈水植物を栽培し、その後に植物再生基盤を作成して、再生領域に設置、移設を行って、沈水植物の再生を図る場合を、まとめて図示した。すなわち、図35(a)では、沈水植物を上記説明の如く水槽内で栽培する。沈水植物を、図35(b)に示すように、所定の草丈に成長させる。所定草丈にまで成長した沈水植物は、図35(c)に示すように、植栽基盤毎取り分ける。かかる植栽基盤を用いて、図35(d)に示すように、前記実施の形態で示した植物再生基盤を作成する。その後に、図35(e)に示すように、植物再生基盤を再生領域内の水底に沈設して設置すればよい。設置後、所定期間過ぎて沈水植物が設置した植栽基盤の周囲に拡大したら、移設すればよい。
そこで、本実施の形態で説明した発明は、特許請求の範囲に記載する場合は、次のように記載することができる。例えば、請求項1の記載としては、所定草丈の沈水植物の水槽内での栽培方法であって、前記水槽は前記所定草丈の長さに満たない深さを有し、前記水槽内の水面上の大きさは、前記所定長さから前記水槽の水深の長さを差し引いた長さの大きさを有する水槽で、前記沈水植物を栽培することを特徴とする沈水植物の栽培方法と記載することができる。例えば、請求項2としては、請求項1に記載の構成において、前記水槽内には、前記沈水植物を再生する領域を有する水域内の水が導入されることを特徴とする沈水植物の栽培方法と記載することができる。例えば、請求項3としては、請求項2記載の構成において、前記沈水植物を再生する領域を有する水域内の水とは、再生領域内から採取した水であることを特徴とする沈水植物の栽培方法と記載することができる。かかる発明の目的としては、例えば、水槽内で栽培する方法を提供することにあると記載することもできる。かかる目的は、沈水植物の再生の効率化にも資するものであることは言うまでもない。
(実施の形態8)
本実施の形態では、前記実施の形態で述べた植栽基盤で、かかる植栽基盤に設けた沈水植物用の栄養物の水中への流失を防止するために生分解性の流出防止部材を用いた構成について述べる。例えば、前記実施の形態5では、図24に示すように、植栽基盤をネット支持体上のマット支持ネットの上に遮水シートを介して設ける構成を示した。
このように浮島を用いた栽培方法、吊下げ型基盤を用いた栽培方法では、植栽基盤に泥や土壌等沈水植物用の栄養物を設ける場合、かかる栄養物の植栽基盤からの漏出を防止するためにシート等の流出防止部材が必要となる。かかる流出防止部材としては、例えば前記実施の形態5で述べた遮水シートでもよいし、あるいは栄養物を含む泥が流出しないブルーシートや不織布等を用いてもよい。
しかし、本発明者は、栄養物の上記流出防止部材として、生分解性シートを用いた方がさらに好ましいことに気がついた。栄養物の流出防止部材として、生分解性のシート(またはマット)を用いることで、沈水植物の生育及び拡大が促進されるのである。これは、植栽初期の水中部で、植栽基盤の周囲に栄養物である泥が流出するのを防止することで沈水植物の生育を高め、草丈が伸張し水底に設置する際には、すみやかに流出防止シートが生物的分解をうけることで、植栽基盤下部の栄養の豊富な底質へ根を伸張することが可能となるためである。また、流出防止部材としてのシートが生分解されることで、周囲への根の伸張が妨げられなくなるので、効果的に植栽基盤周囲への拡大を促進することができる。
かかる構成は、例えば、前記実施の形態5で説明した植栽基盤を分割して栽培するときにも有効であるが、植栽基盤を分割せずに栽培する場合にも、シートを取り外す必要がないため、そのまま沈水植物再生基盤として利用することができて極めて有効である。
かかる流出防止部材としては、上記の如くポリ乳酸や澱粉樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート等を主成分とした生分解性のシートに構成しておけばよいが、シートより少し厚手のものでヤシマット等のような植物繊維を用いてマット状に形成したものでも勿論構わない。例えば、本実施の形態で使用する流出防止部材として用いるヤシマットは、前記実施の形態1で生分解性の植栽基盤に使用するヤシマットとは、密度等が異なるものである。そこで、前記実施の形態1で説明した植栽基盤として使用できるヤシマットと区別するために、本実施の形態で使用するものは流出防止用ヤシマットと、以下呼ぶことにする。
前記実施の形態1で説明したヤシマットは、繊維が絡まるようにして3次元の空隙構造が形成され、かかる3次元の空隙構造内に沈水植物の根が入りこめるように構成されていた。すなわち、3次元の空隙構造は、根が入り込める程度の空隙構造を有していた。しかし、本実施の形態で使用する流出防止用ヤシマットは、植栽基盤に使用するヤシマットよりもその空隙構造が密に詰まっていて、栄養物を含む泥等を通過させない密な空隙構造を有しているものである。
かかる生分解性の流出防止部材を用いた植栽基盤は、例えば、図36に示すように構成されている。図36は、植栽基盤10を上面から見た様子を示すものである。植栽基盤10は、基盤本体の上面側に栄養物70が設けられている。かかる栄養物70を表面側に設けた植栽基盤10は、例えば図37(a)、(b)に示すように、その側面が流出防止部材71で囲まれている。かかる流出防止部材71は、流出防止用ヤシマット、生分解性シート等で構成された生分解性流出防止部材71aに構成されている。
かかる生分解性流出防止部材71aの外側が、基盤支持ネット72で囲まれている。基盤支持ネット72で囲まれた全体が、支持枠73内に入れられている。支持枠73の四隅側には、植栽基盤10を引き揚げる際の回収手段30として引揚用ロープ、ワイヤー等を設ける引揚用部材取付部519が設けられている。さらに、基盤支持ネット72は、底面側を図37(b)に示すように、ネット支持体514で支持されている。しかし、基盤が50cm角より小さい基盤の場合は、基盤支持ネットが硬性のポリエチレンネット等、ある程度の剛性があるものであれば、ネット支持体は必要ない。尚、図37(a)は植栽基盤10の側面から見た様子を示すため、生分解性流出防止部71aを内側にして外側の基盤支持ネット72(網目で表示)が見えている。
図38(a)には、栄養物の流出を防止する流出防止部材71を設けた植栽基盤10が水中に設けられている様子を示した。かかる構成で、例えば、流出防止部材71が生分解性でないブルーシート、遮水シート等の非生分解性流出防止部材71bで形成されている場合を、図38(b)に示した。かかる場合には、植栽基盤10をその後に水底に設置しても、沈水植物200は周囲に根を張りめぐらすことができない、すなわち、周囲への拡大が行えない。そのため、流出防止部材71に非生分解性流出防止部材70bを用いた場合には、水底に沈設する際に非生分解性流出防止部材71bを除かなければならず、その手間がかかることとなる。
一方、流出防止部材71に生分解性流出防止部材71aを用いた場合には、図38(c)に示すように、水底に植栽基盤10を沈設しても、特段生分解性流出防止部材71aを取り除く必要がない。生分解性流出防止部材71aをそのまま設けた状態でも、分解されるため、植栽基盤の沈水植物は周囲へ根を伸張して、周囲への拡大により再生促進を図ることができる。すなわち、生分解性流出防止部材71aを改めて植栽基盤10から取り除く手間がかからない。
図39(a)、(b)には、上記構成の植栽基盤10を用いて、植物再生基盤100を構成した場合を示した。すなわち、図39(a)、(b)に示すように、栄養物70が上面に設けられた植栽基盤10は、その底面及び側面側が、例えば流出防止用ヤシマット、生分解性シート等から構成された生分解性流出防止部材71aで囲われている。さらに、その生分解性流出防止部材71aの側面及び底面側が、基盤支持ネット72で囲われている。このようにして基盤支持ネット72で囲われた全体が、支持枠73内に設けられている。かかる構成では、支持枠73は、沈設に必要な重さを有する材料で形成されていて、錘部材を兼ねている。
かかる構成では、図39(a)に示すように、沈水植物200は栄養物70にしっかりと根づいている。また、支持枠73には、引き揚げる際の回収手段30としての引揚用ロープ、ワイヤー等の紐状部材30aが、引揚用部材取付部519を介して設けられている。さらには、かかる紐状部材30aには、例えば、表示手段40としての浮子40aが設けられている。
そこで、本実施の形態で説明した発明は、特許請求の範囲に記載する場合は、次のように記載することができる。例えば、請求項1の記載としては、例えば、植栽基盤であって、前記植栽基盤に設けた栽培用植物の栄養物の水中への流失を防止するために、前記植栽基盤には生分解性の流出防止部材が設けられていることを特徴とすると記載できる。請求項2としては、例えば、請求項1記載の構成において、前記流出防止部材は、シート状あるいはマット状に形成されていることを特徴とすると記載できる。請求項3としては、例えば、請求項1または2に記載の構成において、前記栽培植物用とは、沈水植物用であることを特徴とする。かかる発明の目的としては、例えば、自然消滅する栄養物確保手段を用いて水中の植栽基盤で栽培する方法を提供することにあると記載することもできる。かかる目的は、沈水植物の再生の効率化にも資するものであることは言うまでもない。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。